孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カリブ海の島国ハイチ  災害・疫病・政治の機能マヒ・ギャングの跋扈 難民にもなれない絶望

2022-10-26 23:47:33 | ラテンアメリカ
(首都ポルトープランスで誘拐を主導しているギャング団「G9とその同盟」のリーダー【2021年10月27日 WSJ】
人種や階級で分断され、所得格差の激しいハイチだが、誘拐にそうした違いは関係ない。ギャング団は、所得や階級、年齢、社会的地位を問わず標的にしている。
「白人、黒人、褐色人種、金持ち、貧乏人、老人、若者など誰もがターゲットにされている」「彼らは子どもも商売人も道路清掃員も連れ去っている。標的にならない人は1人もいない」)

【地震・ハリケーン 政治は混迷】
今日取り上げるのは(多分、誰も興味ない)中米・ハイチ。 アメリカ・フロリダ半島の対岸にあるのがキューバで、その隣の島がハイチとドミニカ。

カリブ海の島国ハイチは短期間に2つの大きな災害に見舞われています。
2010年には未曾有の大地震が首都ポルトーフランスで起き、22万人以上が死亡したと報告されています。このときは、追い打ちをかけるようにコレラが大流行し、多数の死者が出ています。

そして2016年10月には地震からの復興が進まないハイチをハリケーン・マシューが襲いました。
インフラは破壊され、家々の屋根は吹き飛ばされ、農地は荒れ果てました。国連の推計によれば、90万人の子どもを含む200万人以上の人々が被害を受けました。

ちなみにハイチの人口は1100万人ぐらいですから、地震・ハリケーンの国民生活に与えた影響の大きさが推察されます。

更に2021年8月には再び地震が。度重なる災害で自力復興に手が付かないハイチは“支援依存”状態に陥るとの指摘も。

****ハイチ地震で負のスパイラル 支援依存でさらに弱体化する****
<コロナ、ギャング抗争、大統領暗殺──疲弊するハイチ貧困層を直撃した大地震の非情>

マグニチュード7.2の大地震が(2021年)8月14日に発生したハイチで、被災者のいら立ちが頂点に達している。
救援活動が遅れ、不満を募らせた民衆は建物の倒壊現場に集まって仮設シェルター建設用の防水シートを要求。被災地は大地震の翌々日に暴風雨に見舞われたため、防水シートは以前に増して必需品だ。

大地震の死者数は18日時点で約2200人。負傷者は1万2000人を超え、多くは猛暑の中、屋外で治療を待っている。当局によると、倒壊家屋は5万2000戸以上で、約8万世帯が自宅を失った。

多くの貧困層は大地震で、頼みの綱の食料源や収入源を奪われた。新型コロナウイルスやギャングの暴力、7月の大統領暗殺事件と困難続きのハイチに追い打ちをかける。

大地震の結果、外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化するだろうと、経済学者エツァー・エミルは語る。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」【2021年8月23日 Newsweek】
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そうした災害・疫病もあって、復興は進まず、国家は破綻状態です。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」のはわかりますが、さりとて自力で立ち上がる力もなさそう・・・。

ここ1年あまりの政治面で見ると、(上記地震の直前の)昨年7月には大統領が武装集団に暗殺され、殺害直前に大統領から指名されたばかりの首相が事件に関与しているとも・・・。

****ハイチ大統領暗殺、首相が関与か 検察が捜査要請****
カリブ海の島国ハイチで7月、ジョブネル・モイーズ大統領が暗殺された事件で、同国の検察当局は14日、アリエル・アンリ首相に対する捜査を判事に要請していることを明らかにした。

同国の検察幹部は、事件の捜査を担当する判事に宛てた書簡で、アンリ氏が事件発生直後に主犯格とみられる容疑者の一人と電話で話していたことから、同氏の事件への関与についての捜査を要請。移民管理局長に宛てた別の書簡では、アンリ氏の出国を禁じるよう求めた。

7月6日夜から7日未明にかけ起きた事件では、政界や国民から批判を浴びていたモイーズ大統領が、首都ポルトープランスにある私邸に押し入った武装集団により暗殺された。アンリ氏はその数時間後、事件に関連して指名手配されている元政府高官と電話で話していたとされ、事情聴取のための出頭をすでに求められていた。

事件ではこれまでにコロンビア人18人、ハイチ系米国人2人を含む44人が逮捕されている。襲撃により大統領警護隊にけが人は出なかった。

アンリ氏は事件の数日前にモイーズ氏から首相に指名され、7月20日に就任。国内で悪化している治安を改善し、長らく延期されていた選挙を実施すると約束していた。 【2021年9月15日 AFP】
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関与を疑われたアンリ首相は、検察当局トップの解任を命じたようですが、その後の顛末は知りません。首相は選管も解任し、選挙は無期限延期に。

***ハイチ選挙、無期限延期=首相が選管全員を解任***
カリブ海のハイチからの報道によると、同国のアンリ首相は27日、暫定選挙管理委員会(CEP)の全9委員を解任した。これに伴い、11月7日に予定されていた大統領選と議会選、憲法改正の国民投票が無期限で延期となった。

委員は昨年9月に当時のモイーズ大統領が人選して任命。野党からは「一方的編成だ」と批判が出ていた。今年7月7日にモイーズ氏が武装集団に暗殺され、8月14日には南西部でマグニチュード(M)7.2の大地震が発生。選挙は延期の公算が大きくなっていた。【2021年9月29日 時事】 
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今年に入ると、今度はアンリ首相が襲撃される事態に。

****武装集団、ハイチ首相を襲撃 北部で式典中に銃撃戦****
ハイチ北部ゴナイブの教会で1日、武装グループが独立記念の式典に出席していたアンリ首相を狙って襲撃、護衛らと銃撃戦になり1人が死亡し2人が負傷した。アンリ氏は無事だった。同国メディアなどが報じた。

ハイチでは昨年7月にモイーズ大統領が暗殺されており、アンリ氏が事実上の国家首脳。

ハイチは1日がフランスからの独立記念日。武装集団は教会の外から銃撃し、アンリ氏は護衛らと車に逃げ込んだ。首相府は襲撃が「テロリスト」によるものだとして激しく非難した。

ハイチではギャング団が各地で強い影響力を持ち、治安が極度に悪化している。【1月4日 共同】
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【「ギャングによる暴力が制御不能」 暴力に怯えて暮らす住民】
こうした“武装集団”が何者なのかは知りませんが、記事にもあるようにハイチではギャング団が各地で強い影響力を持ち、やりたい放題の状況。そうした組織と政治勢力が関係を持つというのは当然の成り行きのようにも。

“要求のまなければ人質殺害と脅迫、米国人ら17人誘拐のギャング団 ハイチ”【2021年10月22日 CNN】

****ハイチでギャング抗争、5日で234人死傷 国連報告****
国連は16日、カリブ海に浮かぶ島国ハイチの首都ポルトープランス郊外で、7月8〜12日に少なくとも234人がギャング団の抗争に巻き込まれるなどして死傷したと発表した。

首都郊外の貧困地区シテソレイユで二つのギャング団の抗争が勃発。装備も人員も不十分な警察は介入できず、住民は家から出られず食料や水の調達もできない状況となっている。

民家の多くはトタン板で覆われているだけのため、住民は流れ弾の犠牲になっている。救急車も現場に到達できていない。

国連人権高等弁務官事務所のジェレミー・ローレンス報道官は、「犠牲者の大半はギャングと直接関わりがないが、抗争の直接の標的になっている。性暴力に関する報告も新たに受けている」と述べた。

OHCHRによると、今年1〜6月に首都圏で亡くなった人は934人、負傷者は684人に上る。誘拐事件も680件発生している。 【7月17日 AFP】
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首都ポルトープランスの都市圏人口は約260万人。 そこで上半期に934人、年間では約2千人が殺害されるというのは想像を絶する事態です。

****ハイチで武装集団が病院に押し入り患者殺害 国境なき医師団****
ハイチの首都ポルトープランス郊外で、拳銃を持った男の集団が病院に押し入り、男性患者1人を拘束し、病院の外で撃ち殺す事件があった。国際医療援助団体「国境なき医師団」が18日、明らかにした。(後略)【8月19日 AFP】
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****ハイチのギャング、性暴力を利用して住民支配 国連****
国連ハイチ事務所と国連難民高等弁務官事務所は14日、カリブ海の島国ハイチのギャングが住民に恐怖を植え付け、縄張りを確立する手段として性暴力を利用しているとの報告書を合同で公表した。

ハイチでは6団体以上のギャングが縄張り争いを繰り広げている。報告書によれば、ハイチ各地では過去1年間で「ギャングによる暴力が制御不能」になっている。

特に抗争が激しいのは首都ポルトープランスで、同市の60%がギャングの縄張りになり、150万人以上が支配下に置かれている恐れがある。市内の移動は危険を伴い、病院はほとんど機能していない。

ナダ・ナシフ国連人権副高等弁務官は「ギャングは恐怖心を植え付けるために性暴力を利用し、憂慮すべきことにその件数は日に日に増加している」と述べている。

報告書によれば、集団レイプはしばしば家族の目の前で行われ、老若男女を問わず標的とされている。拉致されて「数日間または数週間にわたって」暴行を受けた被害者もいるという。

報告書は、ギャングは対立する団体の縄張りに居住、またはその地域を通行した住民を処罰するためにレイプを利用し、暴行の場面を撮影した動画を家族に送りつけて身代金の支払いを迫ることもあると指摘している。

治安が悪化しているため、犯人が処罰されることはほとんどないとされる。
ギャングによる暴力は国連平和維持活動部隊が駐留していた2004〜2017年には減少していたが、撤退後に増加した。 【10月15日 AFP】AFPBB News
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【コレラ再拡大】
上記記事にあるように2004〜2017年には国連平和維持活動部隊(国際連合ハイチ安定化ミッション MINUSTAH)が駐留していました。2010年の巨大地震後には日本もPKO法に基づき約350人の自衛隊員を派遣しています。

ただ、この国連平和維持部隊の一つ、ネパール軍の宿営地からコレラ感染が拡大したと見られています。
その時のコレラ感染は2019年に収束したとされていますが、今再び・・・。

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ハイチでコレラ感染急拡大、数日間で倍に****
カリブ海の島国ハイチの保健・人口省は25日、国内でコレラの感染が急拡大し、23日時点で疑い症例が1972例、死亡例が41例となったと明らかにした。19日時点では疑い症例が964例、死亡例は33例だった。

今回のコレラ流行は10月に始まった。ハイチでは2010年に始まり、1万人以上が亡くなったコレラ流行が2019年に収束したばかり。

疑い症例の大多数は西県、首都ポルトープランス、スラムとして知られるシテソレイユで確認されている。

国連のステファン・ドゥジャリク報道官は、国連児童基金(ユニセフ)のデータを引用し、14歳未満の子どもが疑い症例の約半分を占めていると述べた。

また、ギャングが国内の主要な港や石油ターミナルを封鎖したことに伴う燃料不足でNGOの活動が妨げられ、コレラ対策に不可欠な清潔な水の供給にも支障が出ているとも述べた。

ハイチ政府は国際社会に対し、悪化し続ける健康・治安危機への支援を求めている。
国連安全保障理事会は、アントニオ・グテレス事務総長の要請を受け、治安回復のための国際部隊の派遣を検討している。

2010年にハイチにコレラ菌を持ち込んだのは、国連平和維持活動部隊だった。 【10月26日 AFP】
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【「壁」で難民流入を阻止する隣国ドミニカ アメリカもコロナ感染対策を理由に押し戻し】
度重なる地震・ハリケーン災害、仮設状態から抜け出せない暮らし、繰り返す疫病、政治は機能マヒ、わが物顔でやりたい放題のギャング団・・・当然の話として、「こんな所では暮らせない。どこか他の土地へ」ということにもなりますが、難民は来られる側にとっては“厄介者”というのが現実。

島の西側に位置するドミニカは「壁」建設で難民流入を阻止

****ドミニカ共和国が「国境の壁」=貧困国ハイチとの間****
カリブ海のドミニカ共和国は20日、隣国ハイチとの「国境の壁」の建設を開始した。北海道より一回り小さいイスパニョーラ島の東側3分の2を占めるドミニカは政治経済が安定。

しかし、西側3分の1のハイチは長年政情不安が続く「西半球最貧国」で、ドミニカは不法移民や麻薬などの流入に悩まされてきた。

壁が築かれるのは、全400キロ弱の国境のうち164キロ。強化コンクリートと金属の構造体を組み合わせた壁は、高さ3.9メートル、厚さ20センチとなる。

アビナデル大統領は「貿易やマフィアによる人身売買、麻薬や違法武器の売買などがより効率的にコントロールできる点で、両国にとって利益がある」と強調した。【2月22日 時事】
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陸続きのドミニカがダメなら、海を渡ってアメリカへ・・・しかし、アメリカも受入れを拒んでいます。

****米国:ハイチ難民を暴力的に排除 根強い黒人差別****
米国当局はハイチ難民を恣意的に拘束し、人種に基づく差別的で屈辱的な虐待を加えている。アムネスティはこの状況を調査し、提言とともに報告書にまとめた。

米国は長年、庇護を求めるハイチ人の拘束や排除、入国を思いとどまらせる措置などを取ってきたが、最近の人権侵害もタイトル42(公衆衛生法の「伝染病の流入を阻止する緊急措置」条項)に基づく大規模な押し戻しも、ハイチ人を排除してきた歴史の延長線上にある。

1年前、テキサス州デル・リオで国境パトロール隊がハイチ難民を暴力的に押し戻し、バイデン政権がこの対応を非難したにもかかわらず、当局はハイチ人の庇護を求める権利を制限し続けてきた。

また当局は、空路で国外追放する際の機中でハイチ人に足枷と手錠をかけて奴隷扱いし、さらなる心身の苦痛を与えている。

アムネスティの調査によれば、米国政府は1970年代からさまざまな政策を適用し、近年ではタイトル42を根拠に庇護を求めるハイチ人の気をくじく対応を取ってきた。

ハイチ人への対応の告発で最前線に立つ団体ハイチ・ブリッジ・アライアンスのニコル・フィリップス法務責任者は、「去年9月、馬に乗ったパトロール隊員が難民を手綱で叩き、その様子を撮った写真が世界に拡散し衝撃が走ったが、この行為は、何十年にわたり行われてきた不当な扱いの一つに過ぎない」と話す。

アムネスティは、今回の提言をきっかけに、ハイチ人をはじめとする黒人系移民が米国でしばしば直面する人種的差別や暴力行為の排除に向けて、米国当局間の対話が始まることを望む。

アムネスティがハイチで聞き取りをした24人全員が、昨年9月から今年1月までの5カ月間にタイトル42のもとで国外退去させられたとみられる。

そのいずれもが、個別の難民審査を受ける機会を与えられなかった。新生児が拘束されたり、親から引き離されたりすることもあった。また、通訳者や法的代理人が付かなかったり、拘束施設の場所や拘束理由を告げられなかったりしたという。なぜ拘束するのかその説明がなければ恣意的拘束にあたる。

また聞き取りをしたハイチ人はいずれも、新型コロナウイルス感染症の検査を受ける機会は一度もなかったという。また多くの人がマスクを提供されず、人との適切な距離を取らせてもらえず、感染拡大防止というタイトル42目的とは裏腹な対応だった。

これまで母国でさまざまな人権侵害を受けてきたハイチ人にとって、米国の拘束施設での虐待はさらなる追いうちでしかない。24人全員が、奴隷や犯罪者であるかのように手錠と足枷をはめられてハイチに送還され、大変な心理的苦痛を受けた。

国際人権法は、民族や国籍に関係なく被拘束者へのいかなる拷問や虐待も禁止しているが、米国の対応は国際人権法の人種や移住資格に基づく拷問にあたると言える。

黒人への人種差別の歴史
当局のハイチ人対応の背景には、アフリカ系の人びとを奴隷にしてきた歴史と今も続く黒人への人種差別がある。
今回の聞き取り調査から、ハイチ人への虐待が日常化し、さまざまな場所と時間に発生してきたことが明らかになった。この事態は、ハイチ人の処罰と排除を目指す移民制度に組み込まれた長期的、制度的な人種差別を浮き彫りにしている。(後略)【9月27日 アムネスティインターナショナル国際事務局発表ニュース】
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この話は、アメリカの移民対策、南部州の共和党知事が不法移民をバスで、民主党が強く移民に寛容なワシントンやニューヨークに送り付けるという中間選挙前の“政争”、トランプ前大統領の施策に反対したバイデン政権が続ける“タイトル42”といった問題にもつながってきますが、そこは話が長くなるので別機会に。

いずれにせよ、日本でも昨今は「難民はよその国に押し寄せるのではなく、自分の国で、自分たちで何とかしろ」といった“自己責任論”が目立ちますが、ハイチの現状をみると、「自己責任で」と言われても個人ではどうにもならないのが現実。

復興が進まない仮設住宅で、ギャングの暴力に怯えて暮らすのか、自分がギャングとなって殺す側にまわるのか、どこかよその国に避難するのか・・・そうした選択しかなさそうです。
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