(営業しているガソリンスタンドで給油を待つ車列【10月13日 YAHOO!ニュース】)
【製油所労働者のストライキで深刻なガソリン不足に 仏政府は「徴用」も】
フランスではここ3週間ほどガソリン不足が問題になっています。原因は製油所労働者の賃上げ要求ストライキ。
****フランス、全土でガソリン不足 賃上げ要求で製油所閉鎖****
フランスで製油所従業員による賃金引き上げを求めるストライキが激しさを増し、全国の3割のガソリンスタンドで燃料が不足している。
長期化を深刻視した政府が介入し、一部の従業員に業務復帰を命じる事態に発展した。ロシアのウクライナ侵攻による影響に加え、ストライキがエネルギー供給不足に拍車をかけている。
仏紙ルモンドによると、フランス本土の7つの製油所のうち6カ所でストライキが起きている。全国のガソリンスタンドの3割でガソリンかディーゼル油のいずれかの燃料の在庫が足りず、燃料を求める長蛇の列ができている。
仏フランスアンフォは一部のスクールバスやゴミ収集車、救急車が燃料不足で動かせなくなったほか、カーレースやサッカーの試合など様々な活動が延期されていると報じた。
深刻な燃料不足は仏トタルエナジーズや米エクソンモービルの製油所の従業員が、9月下旬から賃上げを要求してストライキに踏み切ったことが原因だ。
トタルエナジーズの従業員が加盟するフランス労働総同盟(CGT)は記録的なインフレやエネルギー会社の好調な業績を賃金に反映すべきだとして、10%の賃上げを要求している。
事態を重く見たボルヌ首相は11日、「国(の経済活動)を止めたままにするわけにはいかない」と宣言。エクソンモービルが仏北部で運営する製油所の貯蔵庫の従業員を徴用し業務復帰を命じると表明した。CGTは「違法な要求だ」と反発している。
フランスでは2010年にも年金改革への反対をきっかけに製油所でストが広がったことがある。このときも政府は従業員に業務復帰を命じたが、行政裁判所の判断により停止された。【10月13日 日経】
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“徴用とは、国民の生活や活動に重大な問題が生じたり、公衆衛生や治安面での緊急事態が起きた場合に、物資を接収したり、人々を強制的に働かせること。”
****ガソリン不足拡大。政府、ついに製油貯蔵所に徴用令****
製油所の賃上げストでガソリン不足
製油所の賃上げストでガソリン不足
製油所のストライキのために全国の3割のガソリンスタンド(給油所)で車両燃料が供給できない問題で、ボルヌ首相は10月11日にエッソモービルの製油貯蔵所1ヵ所の従業員を徴用すると発表し、これを受けてノルマンディー地域圏知事は12日に4人の徴用令を発した。13日にはトタル・エネルジーのダンケルク貯蔵所に対しても徴用の手続きを開始した。
全国7ヵ所の製油所のうち、トタル・エネルジー3ヵ所とエッソモービル2ヵ所の労組の賃上げ要求ストが9月下旬から始まり、給油所への供給が滞っている。12日時点で全国30%の給油所に燃料が全くない状態で、北部やパリ首都圏ではその割合は4割以上に上り、ガソリンや軽油を売っているガソリンスタンドに長蛇の列ができる事態に。通勤はもとより、輸送業や救急車、医師・看護師の移動にも影響を及ぼしている。
エッソの労組は好業績の利益分配とインフレを理由に、賃上げ7.5%と6000€のボーナスを要求。一部の労組は10日に経営側と合意したが、製油所の従業員の多くが加盟する労組CGTはこれを不満として1ヵ所を除いてストを続行。
トタルの労組も同様の理由で10%の賃上げを求めているが、経営側の賃上げ6%とボーナス1ヵ月分の提案に満足せず、スト続行で交渉が継続中だ。
世界的な燃料価格の高騰により、エッソはグループ連結で今年第2四半期179億ドルの純益、トタルも上半期106億ドルという莫大な純益を計上している。
「徴用」で事態収拾したい政府、広がるストライキ。
今回のエッソのグラヴァンション製油貯蔵所(セーヌ・マリティーム県、ル・アーヴル近く)の徴用は、貯蔵所から給油所へのガソリン・軽油などの移送を可能にするために13日と14日に2人ずつを強制的に仕事に復帰させるもの。
徴用とは、国民の生活や活動に重大な問題が生じたり、公衆衛生や治安面での緊急事態が起きた場合に、物資を接収したり、人々を強制的に働かせること。
CGTは今回の徴用を違法とし、行政裁判に訴える構えだ。2010年の同様の事態の際には行政裁判所が徴用令を無効としたケースもあり、国務院は当時、徴用は必要最低限にすべきとの判断を下している。
CGTは徴用という強制手段に反発し、エネルギー部門やその他の部門にストを呼びかけており、仏電力会社(EDF)の一部の原発でもストが始まった。仏国鉄(SNCF)のCGTも18日のストを呼びかけており、インフレをカバーする賃上げ要求はほかの産業界にも波及しそうだ。
ルメール経済相は13日、トタルは利益を上げているのだから労組の賃上げ要求を飲むべきと発言し事態の鎮静化にあたった。交渉妥結となっても、燃料の供給が通常に戻るのには時間がかかるとされており、今後の交渉の行方が気になるところだ。【10月13日 OVNI】
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【比較的高い賃金の製油所労働者と価格高騰で莫大な利益を得ている会社側の争い】
製油所労働者の賃金は月平均約5000ユーロ(約705,000円)・・・日本的感覚からすれば結構なレベル
一方のトタル・エネルジーも、ウクライナ情勢の影響で燃料価格が高騰し、莫大な利益をあげています。
****フランス 賃上げ要求ストで深刻なガソリン不足 買いだめ禁止へ****
(中略)
北フランス、パリ市内および近郊、ガソリンスタンド「空っぽ」
特に影響が大きいオ=ドゥ=フランス地方、および パリを含むイル=ド=フランス経済圏では、その割合が50%に達しています。
パリ市内で10箇所のスタンドを回ったが給油できなかったというタクシードライバーは、自営業なので仕事をしないと収入がありません。何時間も並んだ末に「在庫がない」と言われ、クラクションを鳴らすドライバーなど利用者側の苛立ちも見られます。
パリ近郊の高速道路脇にあるガソリンスタンドでは、午前2時から車の行列ができています。一方、給油状況がわかるアプリを利用して、在庫のあるスタンドで給油できたという人もいます。
給油制限、ストック禁止、料金は値上がり
先週のスト開始直後にポリタンクでガソリンを買い溜めするドライバーが多数いましたが、不足が長期化し始めたことから、多くのスタンドではすでに一人あたりへの販売を30リットルに制限しています。
マクロン大統領は、会社側と組合側の両方に対し「国民への責任」を重く見て「ガソリンの供給を止める」という手段を使わずに交渉するよう要求しています。また、政府は本日、ポリタンク、携行缶へのストックを禁止すると発表しました。
不足からガソリンが1リットル当たり7セント(約10円/1ユーロ=約141円)、軽油が1セント(約1.4円)値上がりしています。
賃上げ要求の製油所技師、平均給与5,000ユーロは高いのか?
長引くストに企業側への非難の声が上がる中、トタルエナジーズは製油所の技師の平均給与を発表しました。
2022年の平均給与はボーナスを除いた場合、月額約4,300ユーロ(約606,000円)で、ボーナスを入れると月平均約5000ユーロ(約705,000円)になります。会社側はすでに昨年の業績をふまえた上で、今年の1月にフランスで3.5%のベースアップを行なっています。
また今年の3月には、フランス在住で自社のガスや電気を利用する社員に150ユーロの割引券を配り、7月には全社員に一人当たり200ユーロ(約28,200円)の「エネルギーボーナス」を支給しています。
トタルエナジーズ第一四半期利益106億ドル、組合は利益分配を要求
一方、トタルエナジーズの組合側(CGT:Confédération générale du travail)は、インフレにより低下した購買力を補うためとして7%を、さらに会社の好業績の配当分として3%、合計10%の昇給を要求しています。
理由として、同社が今年の第一四半期だけで実に106億ドル(1ドル=約145.75円/約1,545億円)もの利益を計上していることをあげています。【10月11日 マダム・カトウ氏「フランス 賃上げ要求ストで深刻なガソリン不足 買いだめ禁止へ」 フランス365】
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【権利意識の強いフランス 労働側はゼネストへの拡大を呼び掛け】
個人の権利意識が強いフランスではストライキは日常茶飯事の面も。
マクロン政権になってからも、労働市場や年金制度改革に抗議して労働者側が大規模ストライキを決行し、妥協しないマクロン大統領のもとで長期間社会生活に大きな影響がでたこともあります。
また2018年には、燃料税引き下げを求める要求から「黄色いベスト運動」が起こり、道路のバリケード封鎖などの抗議行動が長期間行われました。
国民もそうした権利要求のためのストライキを一定に容認する風土もあります。
もちろん、そのあたりは影響の大きさ、期間などとの兼ね合いにもなります。
労働者側・極左政党は、更に行動を拡大し、ゼネストを呼び掛けています。
****パリで物価上昇の抗議デモ、左派はゼネスト呼びかけ****
パリで16日、物価上昇に抗議して数千人がデモを展開した。フランスでは製油所で賃上げを求めて数週間にわたるストが実施されており、ゼネストを呼びかける声が高まっている。
極左政党「不服従のフランス」のメランション党首もデモに参加し、18日のゼネスト実施を呼びかけた。
主要労組のフランス民主労働同盟(CFDT)も賃上げのため18日のゼネスト実施と抗議行動を呼びかけている。同時に、製油所職員のスト実施権保護に向けた抗議行動も呼びかけた。【10月17日 ロイター】
極左政党「不服従のフランス」のメランション党首もデモに参加し、18日のゼネスト実施を呼びかけた。
主要労組のフランス民主労働同盟(CFDT)も賃上げのため18日のゼネスト実施と抗議行動を呼びかけている。同時に、製油所職員のスト実施権保護に向けた抗議行動も呼びかけた。【10月17日 ロイター】
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【社会的に「迷惑」をかけるストライキに否定的な日本】
一方、日本では、国民の間には、消費者・利用者に迷惑をかけるストライキに厳しい見方があるようにも。
そうした雰囲気の中で、労働組合の運動は大きく制約され、運動自体の衰退を招いているようにも見えます。
特に、1975年の国鉄労働者の「スト権スト」失敗以降は、そういう傾向が強まっています。
ただ、最近「日本の賃金が上がらない」ことによる「日本の衰退」が議論されていますが、そうした賃金が上がらない背景のひとつに、労働運動の「弱さ」があることも指摘されます。
いずれにしても、一般的な日本人感覚からすれば、通勤はもとより、輸送業や救急車、医師・看護師の移動にも影響を及ぼしている状況には否定的になることが多いのでは。
下記記事は、フランス在住の日本人女性によるもの。
****フランスのガソリン不足が炙り出す格差社会の悪循環****
フランスで「ガソリンスタンドにガソリンがない!」という異常事態が起こり始めてから、そろそろ3週間近くが経過しようとしています。
(中略)このガソリン切れの問題は、同社(フランス最大手の石油会社トータルエナジーズ)の製油所でのストライキが原因であることが明らかになりました。
テレビをつければ、毎日毎日、ガソリンスタンドにできる長蛇の列、給油のために1〜3時間待ちはあたりまえ、ガソリンスタンドをハシゴしながら夜中にガソリンを探し回る人々の様子が報道され、今やフランスではガソリンのあるガソリンスタンドを検索するアプリは必須アイテムなどと言われるほどで、もはや「ガソリンの価格が高いか安いか」という以前に、とにかく「給油ができるかできないか?」が問題という状況にまで達し、車がなければ仕事ができないタクシーや運送業の人々や車がなければ仕事に行けない人々などをパニックに陥れ、ガソリンの盗難事件まで起こり始め、ついには、警察、消防、救急車両が優先などというお達しがでるほどの混乱状態に陥っています。(中略)
庶民の必需品を人質にできる勝ち組と振り回される一般庶民と貧因層
ストライキ大国のフランスでのストライキは日常茶飯事で、SNCF(フランス国鉄)、RATP(パリ交通公団)、学校、病院などのストライキなどのストライキはかなり頻繁にあり、大変、迷惑な話ではありますが、「また〜〜?」と思いながらも、ある程度は、慣れてしまっているところもあって、いちいち腹をたてていては、やっていけないので、とりあえず、子供の学校はストライキのない私立の学校にするなど、それなりに対処してきました。
しかし、今回のような大規模な製油所のストライキというものは、20年以上フランスにいる私にとっても初めてのことで、日常はあまり意識することはないガソリンの有無がこれほどの大問題になる状況にはウンザリさせられます。
そもそも「ストライキの権利」と「権利の主張」は、フランス人が誇りとしているところでもあるのですが、今回のトータルエナジーズなどに関してみれば、同社の社員は、嫌な言い方をすれば、いわば「勝ち組」の人々で、平均年収が35,685ユーロ(約525万円)という優良企業。
今回の賃上げ要求にしても、庶民や貧因層にとってみれば、「何の不服があって?ここまでするのか?」と納得できない人が大部分であることは言うまでもありません。
このエネルギー危機の中、順調に業績を伸ばしているにもかかわらず、正当に社員に分配されないという不満はあるのでしょうが、この勝ち組の賃上げ要求のために行われている「庶民の必需品を人質にしてのストライキ」のために、影響を受けるのは、車なしには生活できない一般庶民や貧因層で、彼らが高いガソリンを使いながら、車でガソリンを探し回るという悪循環には、フランスの格差社会の悪循環が炙り出されているような気もするのです。
ストライキといえば、どちらかといえば弱い立場の人々が困窮してデモやストライキをおこすものというイメージもあるところ、今回の場合は、全く強いものが弱い者を苦しめることになっているのは、本当に腹立たしいことです。
政府は、いよいよこのガソリン不足による混乱と国の機能が止まりかねない事態に、製油所労働者を徴用(最低限社会生活に必要なガソリン供給のために働くことを強制し、従わない場合は懲役6ヶ月、罰金1万ユーロという罰則つき)する措置をとることを発表し、一部の製油所は再開し始めたものの、今度は、この措置自体が反発を呼び、「ストライキをする権利を主張するストライキ」という収集のつかない事態に陥り、この混乱がおさまるのには、まだまだ時間がかかりそうです。
フランスのガソリン価格は高騰しているとはいえ、他のヨーロッパ諸国と比較すれば、格段に高騰率は低く、これは何とか国民への負担を軽減するために政府がその差額を負担していることによるのですが、現状はこのストライキのために、価格以前に供給がままならなくなるという不測の事態に陥っているのです。
このストライキにより、トータルエナジーズのCGT(労働組合)は、賃上げ交渉に成功し、この11月から2023年に向けて7%プラス3,000ユーロ〜6,000ユーロのボーナスを勝ち取り、ますます高給を補償されることになりました。そのためにガソリン価格はさらに上昇して庶民を苦しめ続けるというこの悪循環が続くことになります。
ガソリン価格の高騰から国民を守るために多額の予算を割いている政府は、結局、ある程度は価格は上がっているにせよ、国民が変わりなくガソリンを消費できることで、このような会社の売上に貢献しているわけで、一体、どちらを援助しているのかと疑問にさえなります。そのうえ、このストライキですから、政府も国民もたまったものではありません。
また、このトータルエナジーズは、14日、「ウクライナを爆撃したロシア軍機への燃料供給に加担し、戦争犯罪での共謀行為に及んだ」として、フランスやウクライナの団体から仏国家テロ対策検察庁に同社の追訴を求める訴状を提出されています。
これまで経験したこともなかった大規模な製油所のストライキ。ストライキをする側からしたら、この戦禍でエネルギー危機の中、国民の不安を煽り、混乱を起こすタイミングとしては絶好のタイミングではあったかもしれませんが、ロシア軍機に燃料供給をしながら、国内ではストライキを起こしてガソリンの供給をストップして、一般市民を窮地に陥れているとしたら、とんでもない「勝ち組」会社だと嫌悪感しか湧いてきません。
一般庶民ができることは、せめてこの騒動がおさまっても、「トータルでは給油しない」という抵抗くらいかもしれません。【10月16日 RIKAママ Newsweek】
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