孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  総選挙、ハシナ政権続く見込み 円借款で港湾開発、印と結ぶ物流ルートに

2024-01-02 23:21:35 | 南アジア(インド)

(ムハマド・ユヌス氏【ウィキペディア】)

【ノーベル平和賞ユヌス氏に禁錮刑】
かつてはアジア最貧国でもあったバングラデシュの経済学者のムハマド・ユヌス氏は、1983年にグラミン銀行を創設。地方の貧困地域の人々(特に家庭の主婦などの女性)が自ら小規模ビジネスを立ち上げる際に無担保小口融資を提供した功績で、2006年にノーベル平和賞を自身が創設したグラミン銀行と共に共同受賞しました。

ユヌス氏の草の根的な取組(マイクロクレジット)は貧困脱出の道筋として世界的にも注目されました。

しかし、ユヌス氏は一時政界入りして新党結成に動いた2007年以降、ハシナ首相と対立。2011年にグラミン銀行総裁を解任されたのも、ハシナ首相が背後で動いていたとみられています。
“ノーベル平和賞のユヌス氏、グラミン銀行総裁から解任”【2011年3月3日 AFP】

その後も政権からの執拗な追求とも思われる動きが報じられていました。(あるいは、同氏の“わきが甘い”のか・・・そこらはよく知りません)

グラミン銀行の総裁だった05〜11年、外国から得た講演料や印税などの収入について、政府の適正な手続きを経ずに公務員に適用される課税免除を受けていたとして
“バングラデシュ:平和賞のユヌス氏、脱税疑いで法的措置へ”【2013年99月11日 毎日】

ユヌス氏はが会長を務める情報技術会社の元従業員から、労働組合の設立を理由に解雇されたとして訴えられて
“グラミン銀行創設でノーベル賞受賞のユヌス氏に逮捕状、バングラデシュ”【2019年10月10日 AFP】

そして今度は・・・
****ノーベル平和賞ユヌス氏に禁錮刑、労働法違反 政治的な裁判か****
バングラデシュの裁判所は1日、労働法違反の罪で、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏(83)に禁錮6月の判決を言い渡した。検察当局が発表した。ユヌス氏は違法性を否定していた。

ユヌス氏は自身が創設したグラミン銀行と共に2006年にノーベル平和賞を受賞。無担保小口融資でバングラデシュの貧困層を支援する取り組みが評価された。

しかし、ハシナ首相はユヌス氏が貧困層を搾取していると非難。ユヌス氏の支持者によると、ユヌス氏がかつてハシナ首相率いる与党アワミ連盟に対抗する政党の設立を検討したことから、政府がユヌス氏の信用失墜を狙っている。

ユヌス氏と同氏が創設したグラミン・テレコムの幹部3人が労働者の福利厚生基金を設立しなかった罪で有罪判決を受けた。いずれも嘆願書に応じ、保釈が認められた。

検察当局によると、裁判所は保釈を認め、上訴する期間を1カ月与えるという。ユヌス氏の弁護士は上訴するとし、裁判は政治的な動機に基づいており、ユヌス氏への嫌がらせが目的だと述べた。【1月2日 ロイター】
*********************

ユヌス氏ももう83歳、長期政権を維持するハシナ首相が警戒するような影響力がまだあるのでしょうか?

もっとも、バングラデシュの政治は、かつてハシナ首相と対立政党のジア前首相の女性政治家同士の間で激しい政闘がくりひろげられたように、“怨念”で動くところはあります。
“怨念”の内容については、2013年12月14日ブログ“バングラデシュ 総選挙を控えて波乱含みの情勢”など。

【7日総選挙 野党ボイコット】
このハシナ首相・与党とジア前首相・野党の怨念の構図は今も解消されていないようですが、2009年以降、政権はハシナ首相が掌握しており、1月7日の総選挙でも揺るぎがないようです。

****野党不参加、与党「勝利」へ 総選挙まで1週間、対立激化も―バングラデシュ****
バングラデシュ議会(一院制、定数350)総選挙まで1日で1週間。主要野党がボイコットを表明する中、ハシナ首相率いる与党アワミ連盟(AL)の「勝利」が確実視されている。実施後に与野党の対立が一段と激化する恐れがある。

「この15年間で(国は)変貌を遂げた。今日では貧困にあえぐわけでも経済的にもろいわけでもない。ALだけが国を新たな高みに導ける」。ハシナ氏は12月27日、選挙公約発表の場で経済成長に導いた連続3期の実績を強調。引き続き国のかじ取りを担う決意を示した。公約には、国のデジタル化推進などを掲げた。

一方、主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)は選挙への不参加を表明。地元報道によると党幹部は27日、「演出されたまがいものの選挙に抵抗を」と訴え、国民に投票に行かないよう求めた。

バングラデシュではかつてALとBNPの二大政党が激しく対立。交互に政権を担い、反対勢力を弾圧する時期が続いた。2009年にハシナ氏が首相に返り咲くと、高成長を背景に権力基盤を確立。野党幹部や政権に批判的な人権活動家らを拘束し、強権的な姿勢を強めた。【12月31日 時事】
*********************

野党BNPは、選挙実施に当たり政党に属さない中立的な選挙管理内閣の設立を訴えていたものの実現しなかったため、結果として候補者を出さず、選挙をボイコットしたかたちとなりました。
野党連合は本選挙は不正だとして、道路封鎖や大規模なゼネラルストライキ(ホルタル)を実施しています。【12月27日 JETROより】

【デング熱感染拡大 気候変動の影響も】
バングラデシュ関連のニュースはあまり多くないのですが、昨年目立ったのはデング熱流行に関するもの。気候変動の影響もあるようです。ロヒンギャ難民のキャンプでも多数の死者が出ています。

****デング熱 バングラで死者1000人超 前年の5倍****
南アジアのバングラデシュで、蚊が媒介する熱帯性の感染症「デング熱」による死者数が今年に入って急増している。

世界保健機関(WHO)によると、10月末までに1333人が死亡した。既に昨年1年間の死者数281人の5倍近くに上り、記録が残る2000年以降で最も死者数が多くなっている。気候変動に伴う気温の上昇やモンスーン(季節風)の長期化が背景にあるとみられている。

WHOによると、バングラでは今年1月〜10月29日に26万7680件(前年は6万2382件)のデング熱感染が報告された。感染例は国内の全64地区で確認され、うち首都ダッカが14万5465件と最も多かった。

デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによる感染症で、高熱や筋肉痛などの症状が特徴だ。まれに「デング出血熱」と呼ばれる重篤な状態に陥る恐れもある。バングラにおける今年の致死率は現状で0・5%となっている。

バングラでは例年、5〜9月ごろのモンスーンの時期にデング熱が流行するが、今年は10月半ばごろまで雨が続いたことでウイルスを媒介する蚊が増殖したとみられている。ウイルスの検査キットが不足し、治療の遅れと重症化につながっているとの現地報道もある。

地元メディアによると、隣国ミャンマーからバングラ南東部コックスバザールに逃れてきた少数派のイスラム教徒「ロヒンギャ」が暮らす難民キャンプでも感染が拡大している。同地では、1〜8月に感染した1万3737人のうち8割強がロヒンギャだったという。地元の当局者は、難民キャンプ内の住居が密集した環境によって蚊が増殖したとみている。【11月16日 毎日】
*******************

【円借款でマタバリ港開発 インドへの「一大物流ルート」に】
国際関係では、例によって中国の「一帯一路」事業の話もありましたが、親インド派のハシナ政権によって中止になり、かわって、日本からの円借款で港湾開発が行われています。

****バングラデシュで進む港湾開発、円借款でインドへの「一大物流ルート」に…中国「一帯一路」に先手***
ベンガル湾に面するバングラデシュ南部マタバリで、大型船が入港可能な深海港の開発が日本の円借款で進んでいる。日印がインド北東部で整備を進める道路と連動させる狙いだ。

インド洋への出口であるベンガル湾の開発で、インドと東南アジアのつながりが強化されることになる。インド洋進出をもくろむ中国に先手を打つ効果もありそうだ。

深さ16メートル
(中略)深さ16メートルの深海港は2027年に完成予定で、コンテナや一般貨物用のターミナルを備える。近くの臨海部では、24年夏までに完成予定の火力発電所も建設中で、燃料の石炭運搬用の港や防波堤は完成済みだ。

深海港は大型船も接岸でき、国際協力機構(JICA)幹部は「現在はシンガポールやスリランカの港で実施している小さな船への積み替えが不要になる」と利点を強調する。

バングラデシュでは現在、チッタゴン港がコンテナ貨物の98%を扱うが、深海港が完成すればマタバリ港が4割に上昇する見通しだ。

物流の中核
川が入り組み、海抜が低いマタバリ周辺は高潮などの影響を受けやすく、社会基盤(インフラ)整備が遅れていた。主産業は漁業やエビの養殖、製塩で、低所得層が多い地域とされる。

14年の日バングラ首脳会談で、ベンガル湾臨海部の輸送網整備やインフラ開発で合意したことを受け、マタバリを物流や重化学工業、エネルギー供給の中核とする取り組みが始まった。道路を含む港湾設備の総事業費は約3000億円で、うち円借款で7割が賄われる。

約20年後には近くに計3400ヘクタールの工業団地を整備する構想もある。

中国の事業を中止
マタバリ港と、インド北東部トリプラ州の間では幹線道路の整備が日本の円借款で進んでいる。トリプラ州では、バングラ東部アカウラと結ぶ鉄道も完成し、今月1日に開通式が行われた。

道路や港が完成すればインドから同湾へ抜ける一大物流ルートとなり、周辺地域の経済発展も見込める。バングラのムハンマド・アラム国務大臣(外交担当)は「インドとの連結性向上を進めていく」と意気込む。

一方、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、ミャンマー経由で中国とベンガル湾を結ぶ経済回廊を整備している。

中国はマタバリの南約25キロのソナディアで深海港の建設を進めようとしたが、地元メディアによると、20年に中止された。親印派のシェイク・ハシナ政権が、印側に配慮したとされる。政権としては、ベンガル湾を巡る開発はインドとの協力を重視していく考えだ。

外交筋は「バングラはマタバリ港整備にプライドをかけている。政局によって事業の成否が左右される心配はないだろう」と話す。【11月6日 読売】
*********************

「インドとの連結性向上を進めていく」・・・・インドからすれば、インド本土と「インド北東地域」の間にバングラデシュが位置しており、インド本土からの物資はバングラデシュを大きく迂回する必要がありました。

(【2023年6月23日 日経】)

今後バングラデシュのマタバリ港が整備され、「インド北東地域」トリプラ州と鉄道・道路で連結され、インド本土からマタバリ港に海上輸送し、そこからバングラデシュを通過してトリプラ州へ輸送されることになると、インド・コルカタから「インド北東地域」トリプラ州への輸送距離は3分の1程度に短縮されることになります。

****バングラデシュとインド北東地域の連結性(1)****
バングラデシュは、インドの東に位置する国というイメージが強いかもしれない。しかし、実は、東西北の三方をインドに囲まれている。

そのバングラデシュを取り囲むように立地するインドの地域は、「7姉妹州(Seven Sisters))と呼ばれる(具体的には、(1)アルナーチャル・プラデシュ、(2)アッサム、(3)マニプール、(4)メガラヤ、(5)ミゾラム、(6)ナガランド、(7)トリプラの7州)。これに、(8)シッキムを加えた8州で「インド北東地域」(以下、北東地域)が構成される(図1参照)。

近年、その地政学的な位置づけから、この地域とバングラデシュとの連結性が注目を集めている。

この連結性への関心の高まりは現地だけにとどまらない。日本政府が打ち出す外交方針(「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」)の中でも、南アジア地域の連結性は重要テーマの1つになっている。

実際、今年4月のバングラデシュのシェイク・ハシナ首相来日時にも、岸田文雄首相が「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)構想の下、日本とバングラデシュ間の協力をインド北東部の開発と有機的に連結させていくことで、相乗効果を生み出していきたい」と首脳会談にて発言している。(後略)【2023年8月1日 JETRO】
*******************

現在、インドとバングラデシュの経済関係は意外と小さいものにとどまっています。

**********************
バングラデシュとインドとの間の貿易は、もともと活発とは言えない。世界銀行のレポートによると、バングラデシュの全貿易額に占めるインドの構成比は、10%にとどまる。インドの貿易に占めるバングラデシュに至っては、わずか1%だ。

東アジアやサブサハラアフリカでは、域内貿易の割合がそれぞれ50%、22%を占める。そうした地域と比較して、いかにも少ないと言わざるを得ない。【同上】
********************

上記のバングラデシュを通過するトランジット輸送は(クリアすべき問題は多々あるものの)こうした状況の突破口になると期待されます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする