(襲撃者に銃を突き付けられる生放送番組の司会者 【1月16日 Newsweek】)
【かつての安全な国・エクアドルで急速な治安悪化】
メキシコの麻薬戦争や大量の難民を生み出しているグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなど中米の北部三角地帯諸国など、中南米諸国は麻薬絡みのギャングが市民生活を圧迫し、信じがたいほどの殺人件数など治安状況が極度に悪化していますが、そうした中南米にあって比較的安全とされていたエクアドルでも急速に治安が悪化していることは、2023年8月24日ブログ“麻薬組織・ギャングに蝕まれる中南米諸国”でも取り上げたところです。
エクアドルでは、大統領選の候補で元議員のフェルナンド・ビジャビセンシオ氏が23年8月9日に銃で撃たれて死亡する事件も。
****狙われた港湾都市 コカイン密輸の拠点に****
これまでエクアドルは南米の中では安全な国とされてきたが、ここ数年、治安が急速に悪化している。殺人の発生率は2016年に比べて6倍になった。特に危険な都市とされるのは同国最大の港湾都市グアヤキルで、今年上半期の暴力事件による死亡者数は1390人となり、すでに昨年1年間の数字とほぼ同じ水準になった。
新型コロナの感染拡大以降、刑務所内を犯罪組織のメンバーが支配するようになり、刑務所で暴動事件が頻発し、数百人単位で受刑者が死亡している。
治安悪化の背景には麻薬密売組織のエクアドルへの進出がある。コカインなどの密輸のためにメキシコやコロンビアの密売組織が、エクアドルの港を利用し始めた。これまで平穏だったため取り締まりが甘かったという盲点をつかれた。
地元の専門家はグアヤキルなどエクアドルの太平洋側の都市は、需要が増え続ける欧州やアジア向けのコカインを送り出す重要拠点になっていると話している。グアヤキルなどでは大量のバナナが世界に向けて船積みされるが、積み荷のバナナがコカインなど麻薬の隠れ蓑になるケースも多い。(後略)【8月23日 テレ朝news】
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***南米のオアシス、4年間で殺人4倍に…「町全体がギャングにおびえて暮らしている」****
麻薬密売の一大拠点に
バナナの産地で「南米のオアシス」と呼ばれたエクアドルの治安が急速に悪化している。麻薬密売の一大拠点となり、殺人事件の発生件数は4年間で4倍以上に増えた。ギャングによる誘拐事件も後を絶たない。新政権が年内に発足するが、治安回復が最優先課題となっている。
大統領候補射殺
今年8月9日、大統領選に立候補していたジャーナリスト出身のフェルナンド・ビジャビセンシオ氏(59)が首都キトで演説を終え、車に乗り込もうとしたところを射殺された。
「麻薬王でも殺し屋でも来るがいい。私はここにいる」――。支持者らを前にそう語った数時間後のことだった。ビジャビセンシオ氏は選挙戦で組織犯罪の撲滅を訴え、メキシコの麻薬密売組織「シナロア・カルテル」とつながる地元ギャングから殺害予告を受けていた。実行犯として、コロンビア人ら13人が逮捕・起訴された。
それから2か月後の10月6日、逮捕されたうちの6人が最大都市グアヤキルの刑務所内で遺体で発見された。翌日にはキトの刑務所内でも1人が死亡した。捜査協力をしている米国務省はこの約1週間前、首謀者の逮捕につながる情報提供者に500万ドル(約7億5000万円)の報奨金を提供すると発表しており、口封じで殺害されたとの見方も出ている。
エクアドルの刑務所にはギャングの幹部が服役し、暗殺や誘拐、強盗などの司令塔になることもある。刑務所内では麻薬密売ルートを巡ってしのぎを削るギャングの抗争も起き、地元警察によると2020年以降の3年間で、526人が刑務所内で死亡。刑務所も無法地帯となっている。
エクアドルは世界最大のコカイン生産地のコロンビア、2番目に多いペルーと国境を接しながら、これまでは治安は安定し、「オアシス」とも呼ばれていた。しかし、19年頃から外国の麻薬カルテルが地元ギャングと結託して勢力を拡大。縄張り争いを繰り広げた。
地元警察によると、エクアドルの22年の殺人件数は4761件で、4年間で4倍以上に増えた。23年は人口10万人あたりの殺人発生率が40件に達する見通しで、ジャマイカ、南アフリカに次いで世界ワースト3の水準になる。
報復で拉致
「街全体がギャングにおびえながら暮らしている」
グアヤキル南部の主婦(53)はそう語る。夫(59)は4年前、小学校の校門前で三女(14)の帰りを待っていたところ、ギャングに拉致された。殴られ、背中を切られた後、ガソリンをかけられ、火を付けられた。なんとか逃れたが、今も両脚にやけどの痕が残る。一緒に拉致された保護者の男性2人は射殺された。
一帯で幅を利かせるギャング「ロス・チョネロス」のメンバーが学校内で児童を使って麻薬密売をさせたことに対し、夫らが抗議したことへの報復だった。
「誰かに話したら殺す」。事件後も、深夜に男が自宅に来て銃を乱射した。同居していた五男(22)は拉致されるおそれがあったため、女装させて田舎に逃がした。今も自宅周辺で尾行や脅迫が続き、「黒い車を見るだけで怖くてたまらない。心が安まることがない」という。
港に近い都市ドゥランも深刻だ。昨年2月、街の歩道橋から、手足を縛られてつるされた2人の男の遺体が見つかった。メキシコの麻薬組織が見せしめとして使う手口だ。地元メディアは、麻薬組織がこの街は自分たちの縄張りだと示す意図だと報じている。
ドゥランに住む販売員カルロス・パディジャさん(44)は「気がつけば殺人が日常生活の一部になってしまった」と語る。次男イカエルさん(14)が空き地でサッカーをしていたところ、ギャングの銃撃戦が始まり、近くにいた青年が殺害された。自宅から200メートルの路上では、フライドポテトを買いに行った若者がギャングの一味と間違えられて射殺された事件も起きた。いずれも今年9月の事件だ。
パディジャさんは「昔のように、強盗や誘拐におびえることなく、家族と歩ける街に戻ってほしい」と話す。
監視届かず
エクアドルでは現在、十数のギャングが暗躍する。グアヤキルがあるグアヤス県のマルセラ・アギニャガ知事は「政府内にまでギャングの影響力が及び、迅速に対処しなかったことが深刻な危機を招いた。刑務所を統制し、警察を改革する必要がある」と訴える。
治安悪化の背景には、反米左派のラファエル・コレア政権下の09年、エクアドルから米軍基地がなくなり、麻薬ルートの監視が行き届かなくなったことがある。16年には、エクアドルのコカイン密輸を支配していた左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が武装解除し、ギャングが幅を利かせるようになった。
以前は治安が安定していたため国境管理は甘く、エクアドル各地の港湾は密輸の拠点として使われるようになった。隣国のコロンビアやペルーから陸路で流入した麻薬や武器が、世界最大の輸出量を誇るバナナの海上輸送用コンテナを装って欧州などに密輸される。
国連によると、西欧と中欧の税関当局が21年に押収したコカインの約4分の1はエクアドルルート。スペインでは今年8月、バナナのコンテナから、同国で史上最多の約9・5トンのコカインが押収された。日本でも20年、横浜港でエクアドルのバナナを装ったコカインが摘発されている。(後略)【2023年11月9日 読売】
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【「バナナ王」の息子が新大統領へ 治安改善対策を公約に】
バナナを装ったコカイン・・・ということですが、昨年10月15日の大統領選では、「バナナ王」と呼ばれる実業家の長男で右派のダニエル・ノボア氏(35)が勝利しました。公約には、国境や港湾への軍隊駐留とレーダーなどハイテク機器の配備、凶悪な受刑者向けの船上刑務所の設置などが並んでいます。
****「バナナ王」の息子が勝利 エクアドル大統領選 35歳・ノボア氏****
南米エクアドルで15日、大統領選の決選投票があり、元国会議員の右派、ダニエル・ノボア氏(35)が同じく元国会議員で唯一の女性候補の左派、ルイサ・ゴンサレス氏(45)を破り、当選を確実にした。(中略)
ノボア氏は「バナナ王」と呼ばれるエクアドル有数の実業家、アルバロ・ノボア氏の息子。現職の中道右派ラソ大統領の経済開放路線を踏襲する見通しだ。(中略)
ノボア氏は、軍を配備して麻薬の密輸の拠点となる港湾などの管理を強化するほか、治安悪化の一因である貧困対策として、若者の雇用創出や外国直接投資の呼び込みなどを訴えていた。(後略)【2023年10月16日 毎日】
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【衝撃的な武装集団の生放送中TV局占拠事件 リアルタイムで国民へ放映】
「バナナ王」の息子でもある新大統領がどこまで治安改善を実現できるか注目・・・という中で起きたのが武装集団の生放送中TV局占拠事件。人気番組「ニュース、その後で」の放送中に乱入し、出演者たちを床に座らせる武装集団の手にはライフルや銃、さらには手榴弾・・・・その様子は放送され、リアルタイムで国民が知ることに。
****武装集団がテレビ局に侵入 生放送中のスタジオを一時占拠 エクアドル****
南米エクアドルで武装集団がテレビ局に侵入し、生放送中のスタジオを一時占拠しました。
9日、エクアドル西部グアヤキルにある地元テレビ局に銃を持った武装集団が侵入し、生放送中のスタジオを一時占拠しました。
地元当局によりますと、その後、警察などが武装集団を制圧しこれまでに13人を逮捕したということです。アメリカメディアはけが人はいないと報じています。
エクアドルでは7日、服役中の犯罪組織のリーダーが刑務所から逃亡し、少なくとも7人の警察官が誘拐される事件が発生していました。
これを受けてノボア大統領は8日、全土に60日間の非常事態を宣言していました。(ANNニュース)【1月10日 BEMA TIMES】
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事件のことは上記のようなニュースで知っていましたが、改めて冒頭で紹介しているような現場映像を見ると、その緊迫感に驚きます。
****エクアドル大統領、「武力衝突」状態を宣言 TV局乱入受け****
エクアドルのダニエル・ノボア大統領は9日、犯罪組織のリーダーが脱獄して以来、誘拐事件が相次ぐなど治安が極度に悪化している中、同日には武装集団がテレビ局に押し入ったのを受け、国内は「武力衝突」の状態にあるとし、犯罪組織の制圧を軍に命じた。
エクアドル最大の犯罪組織「ロス・チョネロス」のリーダー、ホセ・アドルフォ・マシアス容疑者が7日、南西部グアヤキルの刑務所から脱獄。
これを受けてノボア氏は8日、非常事態宣言と夜間外出禁止令を発令し、犯罪組織の徹底的な取り締まり方針を表明していた。
しかし、この日は各地で爆発などが相次いだほか、警官7人が誘拐された。SNSには、捕らえられた警官の1人が銃を突きつけられ、ノボア大統領に宛てた声明を読み上げさせられる動画が投稿された。声明は「われわれは警官、市民、兵士を戦争の獲物にする」と取り締まりへの報復を宣言、午後11時以降に外出している者は「処刑する」としている。
一方、グアヤキルでは武装集団がテレビ局「TCテレビシオン」のスタジオに乱入。その模様は生放送され、銃声や職員の悲鳴が聞かれた。結局、約30分後に警官が駆け付け、容疑者13人を逮捕。死傷者は出ていない。
36歳のノボア氏は昨年11月に大統領に就任。麻薬絡みの犯罪や暴力との闘いを公約に掲げている。 【1月10日 AFP
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影響は隣国ペルーにも。
ペルー政府は9日、隣国エクアドルで主にギャング組織による暴力行為が急増しているとして、同国と接する北側国境に非常事態宣言を発令しました。
【中米エルサルバドルでは批判もある強硬姿勢で治安回復】
一方、中南米諸国のなかでも、これまでギャングが横行していた中米エルサルバドルでは治安回復に成功したとか。
ただし、相当に強引な対応によるもののようです。
****エルサルバドル 治安改善****
麻薬密輸を資金源とするギャングが横行する中南米で、エルサルバドルが治安回復に成功し、注目を集めている。
エルサルバドルでは2019年に就任したナジブ・ブケレ大統領の下、非常事態宣言を発令し、ギャングのメンバー約6万1300人を逮捕。200以上の拠点を解体した。政府によると、15年は10万人あたりの殺人発生率は世界最悪水準の106・30件に達したが、22年には7・8件まで大幅に改善した。
ジャマイカやホンジュラスもエルサルバドルを参考にして、ギャング対策のため、非常事態宣言を発令した。
一方、ブケレ氏のギャングに対する強硬姿勢への批判もある。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は今年1月、適正な刑事手続きをとらずに未成年を含む数千人が大量に拘束され、刑務所が過密状態になっているとの報告書を発表し、「深刻な虐待」と指摘した。今年1月末には、米州最大とされる4万人を収容できる巨大刑務所が開所し、摘発はさらに進めていくとみられる。
エルサルバドルでは来年2月に大統領選を控える。大統領の連続再選は憲法で禁じられていたが、ブケレ氏は早々に立候補を表明。最高裁は認める判断を下し、今月3日、選挙当局も立候補を承認した。強権に対する批判はあるが、複数の世論調査でブケレ氏の支持率は9割を超えており、再選は確実視されている。【2023年11月9日 読売】
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フィリピンのドゥテルテ前大統領のもとでは、謎の組織が超法規的に麻薬関係者と考える者を「処刑」することが横行しましたが、エルサルバドルではそこまではない・・・・のでしょうか? よく知りませんん。