(【1月11日 日経】)
【中国 手のひら返しの出産奨励策でも続く人口減少 「強要」ではなく「奨励」とは言うものの・・・】
言うまでもなく「少子化」は日本をはじめ多くの国で深刻な問題であり、このブログでも度々取り上げています。
そうした中で、ここ数日、中国・フランス・韓国の少子化に関する記事を目にしましたので、それらについて取り上げます。
ちなみに、日本は“厚生労働省が(6月)2日発表した2022年の人口動態統計によりますと、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す「合計特殊出生率」は、1.26で2005年と並び過去最低でした。出生数は77万747人で、前の年を4万人ほど下回り、統計開始以来初めて80万人を割り込みました。厚労省は新型コロナウイルスの感染拡大により婚姻数が減少したことも影響したとみています。”【2023年6月2日 テレ東BIZ】といった状況です。
先ず中国。人口世界一の座をインドに明け渡した中国ですが、長年の人口抑制策「一人っ子政策」を止めて人口維持・増加政策に舵を切ったものの人口減少に歯止めがかかりません。
2023年の出生数は54万人減って902万人。一方、死亡数は69万人増え1110万人。その結果、総人口は208万人減り、14億967万人となりました。
中国で総人口が減少するのは2年連続で、減少幅は拡大しています。中国では長年続いた一人っ子政策を緩和し、現在、3人までは自由に子どもを産めますが、子どもの数は増えず、少子高齢化が進んでいます。【1月17日 テレ朝newsより】
****中国、止まらない少子化 出生数過去最少、雇用悪化で将来不安か****
中国国家統計局は17日、2023年末の総人口が22年末比208万人減の14億967万人だったと発表した。人口減少は2年連続で、減少幅は22年(85万人)より拡大した。教育費の増加や、若者の雇用環境の悪化などを背景にした少子化に歯止めがかからず、出生数が7年連続で減少したほか、死者数も増加した。
◇2年連続人口減、62年ぶり
2年連続の人口減少は毛沢東が主導した食料や鉄の大増産運動「大躍進」が失敗し、大量の餓死者を出した1960〜61年以来62年ぶりとなった。
23年の出生数は、前年比54万人減の902万人で49年の建国以来過去最少を更新した。
中国政府は79年から導入してきた「一人っ子政策」を見直し、21年からは3人目までの出産を容認。地方政府や企業も、複数の子供を育てる世帯を対象に補助金の支給や休暇の義務化を打ち出すなど対策を急ぐが、少子化を食い止められていない。
出生数低下の背景にあるのが、住宅価格や教育費など結婚・子育てにかかる費用の高騰だが、それに加えて若者の雇用環境の悪化による将来不安の影響も大きいようだ。
◇経済回復遅れ 若者失業率21%
新型コロナウイルス禍から経済の回復が遅れる中国では、23年6月には、都市部の若者(16〜24歳)の失業率が21・3%と過去最悪を更新。統計局は同8月、「統計の改善」を理由に公表を一時停止して物議を醸した。統計局は今回、公表を再開し、12月は14・9%に改善したとしたが、「学生を含まない」と調査対象を修正した影響などがあり、若者の雇用情勢は依然厳しい。
また65歳以上は2億1676万人と全人口の15・4%(前年比0・5ポイント増)となり高齢化がさらに進行した。中国政府が23年予算で計上した社会保障費(就業支出含む)は、3兆9192億元と、5年前の1・45倍に膨れ上がっており、今後さらにその割合が増加するとみられる。少子高齢化の加速は中長期的に中国の財政や経済成長に深刻な影響をもたらしそうだ。(後略)【1月17日 毎日】
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上記記事にもあるように、中央政府・党の指導のもとで地方政府や企業も対策(あるいは、出産を求める「圧力」)をとってはいますが、従来の強権的な「一人っ子政策」からの手のひら返しに中国女性たちの不信感は強いようです。
また、出産減少の背景には、女性の権利意識拡大があるようです。
****中国の出産圧力、女性が突きつける「ノー」****
政府は「もっと産め」 14億人の人口、2100年には約5億人に落ち込む可能性が高い
中国の女性たちは、もううんざりだと思っている。中国政府はもっと出産せよと要求するが、それに対する彼女たちの反応は「ノー」だ。
政府の嫌がらせに閉口し、子育てのさまざまな犠牲を警戒する若い女性の多くは、政府や家族の希望よりも自分自身を優先しようとする。彼女たちの拒絶によって中国共産党は危機に追い込まれている。高齢化する社会を若返らせるため、共産党は何としても赤ん坊を増やさなくてはならない。
中国では出生数が急減している。2012年に1600万人前後だった新生児の数は2022年に1000万人を割り込み、人口崩壊に向かっている。現在の人口は約14億人だが、複数の予測によると、2100年には5億人程度に落ち込む可能性が高い。女性たちがその責めを負わされている。
昨年10月、習近平国家主席は政府が支援する「中華全国婦女連合会(ACWF)」に対し、「女性分野のリスクを予防し、解決する」ことを促した。
「女性が直面しているリスクに言及したのではなく、女性のことを社会の安定性に対する大きな脅威と見なしているのは明らかだ」。中国政府のプロパガンダを研究するワシントン・アンド・リー大学のクライド・イチェン・ワン助教(政治学)はこう指摘した。(中略)
共産党がいくら「家庭の価値観」を説いてもほとんど効果がなく、それは中国の農村部でも同様だ。
東部・安徽省の全椒県にあるショッピングモールの前にいたヘー・ヤンジンさんは2児の母親だ。地元役人から3人目の出産を促す電話を何度も受けたと話す。だが3人目を産むつもりはない。彼女の息子が通う幼稚園では通園者が少なくなり、教室の数を半分に減らしたという。
中国の若者の多くは低迷する経済と高い失業率に失望し、両親とは異なる生き方の選択肢を求めている。多くの女性は結婚と出産という決まり切った形式を不当な取引だとみなしている。
縮小の一途
政府が35年間続いた一人っ子政策を2015年に廃止すると発表した際、当局者はベビーブームの到来を予想した。だが実際には出生率の落ち込みに見舞われた。(中略)
一人っ子政策は中国の人口動態に大きな影を落とすことになった。若者の数は過去に比べて少なく、出産適齢期の女性は毎年数百万人ずつ減り続ける。彼女たちは結婚や出産にますます消極的となり、人口減少に拍車をかけている。
中国では22年に680万組が婚姻届を出した。13年には1300万組が出していた。22年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均的な数)は1.09となり、女性1人が子ども1人を産む水準に近づいた。20年にはこれが1.30だった。人口を安定的に維持するのに必要な2.1を大きく下回っている。
「出産に優しい文化」キャンペーンは、緊急の国家課題の様相を呈し、政府主催のお見合いイベントや軍人家庭の出産を奨励するプログラムが設けられている。
西部・西安市の住民は8月、中国のバレンタインデーにあたる「七夕節」の期間に、政府の番号から自動音声メッセージを受け取ったという。「あなたに甘美な恋と適齢期の結婚が訪れますように。中国の血統をぜひ続けましょう」
このメッセージはソーシャルメディアで反発を巻き起こした。「私の義母は2人目の出産すら勧めない」との書き込みや「次はお見合い結婚が復活するんじゃないかと思う」とのコメントもあった。
政府は一人っ子政策の時代に特徴的だった「強要」ではなく、奨励策に力を入れる。地方政府は2人目・3人目を出産したカップルに現金を支給する。東部・浙江省のある県では25歳までに結婚したカップル全員に137ドル(約2万円)相当のボーナスを出す。
いたちごっこ
政府の方針転換により、子どもを多く産みすぎて処罰されるのを恐れていた女性が、もっと産めと迫られるケースが生じている。
チャンという姓の女性は10年前、2人目の子どもを産むことを決め、当局と追いつ追われつのゲームが始まった。彼女はファーストネームを記事に使わないよう求めた。
チャンさんは妊娠中、当局から人工妊娠中絶を求められるのを恐れ、仕事を辞めて人目に付かないようにしたという。出産後の2014年には親戚の家に1年間滞在した。故郷に戻ると、家族計画担当の役人が彼女とその夫に約1万ドル(約144万円)の罰金を科した。チャンさんによると、妊娠を防ぐために子宮内避妊具(IUD)の埋め込みを強要されたという。当局は彼女に3カ月ごとにIUDの検査を受けるよう義務付けた。
その数カ月後、中国政府は一人っ子政策を廃止すると発表。それでも当局はしばらくの間、チャンさんにIUD検査を要求した。
最近、当局者からはもっと子どもを産むようにと促すメールが届く。チャンさんは怒りに任せてそれを削除している。「私たちを振り回すのはやめてほしい」と彼女は言う。「庶民をそっとしておくべきだ」
妊娠防止の医療処置を行うクリニックの認可は厳しくなっている。一人っ子政策最盛期の1991年には600万件の卵管結紮(けっさつ)術と200万件の精管切除術(パイプカット)が行われた。2020年には卵管結紮術が19万件、精管切除術が2600件になった。
また当局は一人っ子政策時の重要な手段だった人工妊娠中絶を抑制しようとしている。1991年には1400万件を超えたが、2020年には900万件弱へと3分の1以上減少した。それ以降、中国は精管切除術や卵管結紮術、中絶に関するデータ公表を中止している。
圧力を受ける民衆
カリフォルニア大学アーバイン校のワン・フェン教授(社会学)は、中国社会には二つの相反する変化が起きていると指摘する。女性の権利への認識が高まったことと、家父長制を推進する政策の拡大だ
共産党政治局トップ20人余りの中に、この四半世紀で初めて女性が入らなかった。習氏が2012年に権力を握って以降、世界経済フォーラムの「世界ジェンダーギャップ報告書」で中国は順位を38位下げ、2023年には146カ国中107位となっている。
中国政府はフェミニズムを外国勢力が後ろ盾となった邪悪なイデオロギーとみなす。女性の権利を唱える活動家を拘束し、そのソーシャルメディアのアカウントを削除するなど、何年にもわたって取り締まりを続けている。
それでも女性たちは人間関係や家族、仕事に関する自らの経験について、ネット上で以前より声高に発言している。彼女たちの投稿は個人的な形でフェミニズムを表しており、当局がそれを取り締まるのはより難しい。
シモーナ・ダイさん(31)は「オー!ママ」という出産と結婚に関するポッドキャストの配信を始めた。彼女の母親が1990年代初めに妊娠8カ月半で女児を中絶したことを知ったのがきっかけだ。
ダイさんは26歳で結婚したが、夫の男性優位主義的な考え方に耐えなければならず、特に新型コロナウイルス下では家事をめぐって言い争ったという。彼女は両家の家族から圧力は受けたものの、断固として出産したくないと考えるようになった。
それ以来、彼女は結婚生活に終止符を打ちたいと希望している。「離婚しなければ、子どもを産まなければならないかもしれない」と彼女は言う。【1月16日 WSJ】
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中央政府・党は「一人っ子政策」をやめれば人口増加に転じると単純に考えていたと推測されますが、現実はそう簡単ではないようです。
政府からの自動音声メッセージ「あなたに甘美な恋と適齢期の結婚が訪れますように。中国の血統をぜひ続けましょう」・・・・日本では考えられないことですが、中国は中国です。
「強要」ではなく、奨励策に力を入れる・・・とのことですが、この人口減少が続けば、「強制」の色合いが強まるのではないでしょうか。人工中絶なども禁止に近いレベルに規制されるのでは。避妊具購入にも制限がかかるかも。まったくの想像ですが。 なにせ中国ですから。
ただ、無理やり子供を持たせても、その後の生活が保証されなければ政府・党への不満が強まりますので、そこは政府・党としても考えどころです。
【フランス 一時は2を超える出生率 しかし、近年出生数減少で戦後最低に 政権も危機感】
総じて少子化、低出生率に悩む西側先進国にあって、フランスも日本と同様も1993年までは同じく出生率の低下に悩んでいましたが、その後の出産奨励政策が奏功し、2006年には合計特殊出生率がは「2」を超えるまでに回復しました。出生数増加のモデル国とも見なされていました。
しかし、そのフランも近年出生数減少が顕著になっています。
(【2022年11月9日 日経】)
****仏出生数、67万8000人 第2次大戦後最低****
フランスで昨年、出生数が第2次世界大戦以降で最低となった。国立統計経済研究所が16日、発表した。
INSEEによると、2023年の出生数は約67万8000人で、前年比で6.6%減となった。この数字は1946年以降で最も低い。
1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率は1.68で、前年の1.79から低下した。(後略)【1月17日 AFP】AFPBB News
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この事態にマクロン政権も危機感を強めています。
****仏大統領が育休拡充を約束、出生率急低下で危機感****
フランスでは出生率が第2次世界大戦後の最低水準に落ち込んだことを受け、マクロン大統領が16日、育児休暇制度の拡充を約束した。
欧州ではドイツ、イタリア、スペインなどの出生率が下がった中でも、フランスは長らく高い出生率を保ってきた。これは子育てや医療に関する寛大な税制や潤沢な公的給付の効果とされ、高齢化が社会に及ぼす悪影響を和らげ、長期的な成長期待をもたらしていた。
しかしフランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、2023年の合計特殊出生率は平均1.68と22年の1.79を下回り、過去30年で最低を記録した。21年の出生率は1.83と、チェコと並んで欧州連合(EU)で最も高かった。
23年の出生率は、先進諸国で人口を維持する上で必要とされる2.2よりずっと低いだけでなく、マクロン政権が打ち出して猛烈な反対運動が起きた年金改革の前提となっている1.8も下回った形。つまりこれが続けば、年金財政の赤字は予定通り解消されない恐れが出てくる。【1月17日 ロイター】
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仏メディアは出生率の低下の背景について、女性の社会進出に伴う出産の高齢化や経済情勢の悪化、教育費など子育てにかかる費用の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻を始めとする不安定な世界情勢や気候危機に関連する将来への不安などを挙げているようです。
政府の出産奨励策に対し、左派からは女性の選択を尊重すべきとの批判も出ています。
【韓国 多大な資金を投じても覆せない少子化】
最後に、「少子化」では世界最先端を行く韓国
(【2023年2月22日 日経】)
****韓国政党、選挙公約で人口減阻止対策 出生率低下止まらず****
韓国の主要政党は18日、4月の選挙を前に、人口減を食い止めるための取り組みとして公営住宅増設や融資を受けやすくするなどの対策を発表した。出生率が低下する中、「国家消滅」への懸念払拭を目指す。
各党が選挙公約で人口問題に焦点を当てたのは、2006年以来360兆ウォン(約2680億ドル)を超える支出を行っても、記録的な少子化を覆すことができなかったことへの警戒感を反映している。
韓国では25年に人口の5分の1以上が65歳を超える「超高齢化社会」に突入するとされており、政府は総人口が22年の5160万人から72年には3620万人にまで減少すると予測している。
野党「共に民主党」の李在明代表は「国家の消滅は遠い将来に起こることではなく、差し迫った課題だ」と述べた。
最新のデータによると、韓国の出生率(1人の女性が産む子どもの平均数)は24年には0.68に低下し、過去最低だった22年の0.78を超えて少子化がさらに進むと見込まれている。【1月19日 ロイター】
各党が選挙公約で人口問題に焦点を当てたのは、2006年以来360兆ウォン(約2680億ドル)を超える支出を行っても、記録的な少子化を覆すことができなかったことへの警戒感を反映している。
韓国では25年に人口の5分の1以上が65歳を超える「超高齢化社会」に突入するとされており、政府は総人口が22年の5160万人から72年には3620万人にまで減少すると予測している。
野党「共に民主党」の李在明代表は「国家の消滅は遠い将来に起こることではなく、差し迫った課題だ」と述べた。
最新のデータによると、韓国の出生率(1人の女性が産む子どもの平均数)は24年には0.68に低下し、過去最低だった22年の0.78を超えて少子化がさらに進むと見込まれている。【1月19日 ロイター】
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出生率0.68・・・「国家消滅」の現実味が増しています。
大金を投じても少子化を覆すことができない・・・女性の社会的役割とか出産・子育てに関して伝統的価値観・家族観から抜け出した発想の転換が求められているように思います。その点は日本も同じでしょう。
もっと言えば、女性の権利を考えると西側先進国ではもはや少子化は止まらず、このままではかつての人口・経済を維持するのは無理なのでは・・・一方で、人口が増大して貧困に苦しむ国も多い・・・となれば、従来の国家という枠組みを超えた発想も必要なのでは・・・・というのは個人的妄想。