孤帆の遠影碧空に尽き

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イギリス  二大政党政治を揺るがす勢いのファラージ氏率いる反移民・右派政党「リフォームUK」

2025-01-18 23:23:06 | 欧州情勢

(トランプ次期米大統領の私邸「マール・ア・ラーゴ」で昨年12月に会談した、英野党「リフォームUK」のファラージ党首(右)とイーロン・マスク氏 【1月6日 BBC】)

【労働党・保守党の二大政党政治を揺るがす勢いのファラージ氏率いる反移民・右派政党「リフォームUK」】
何が起きるか将来のことはわからないもので、イギリスのEU離脱の旗振り役として脚光を浴びたものの、離脱後は目的を失い活動も停止したファラージ氏率いる右派政党「ブレグジット党」でしたが、コロナ禍にロックダウンに反対する「リフォームUK」として再建し、反移民などの保守化の流れにも乗って、昨年7月の総選挙では「反移民」で14.29%の票と初めての議席を獲得。

7月総選挙で議席倍層という地滑り大勝利で政権交代を果たした労働党スターマー政権でしたが、景気を改善することができず支持率は急降下、それに反比例して「リフォームUK」はいまや党員数で最大野党保守党を上回り、支持率では政権与党である労働党にせまる勢いで、労働党・保守党の二大政党政治を揺るがす存在になっています。

****反移民の右派政党「リフォームUK」、党員数で保守党上回る 英****
反移民を掲げる英国の新興右派政党「リフォームUK」は26日、中道右派の最大野党・保守党を初めて党員数で上回ったと発表した。

英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を主導したナイジェル・ファラージ党首は、「歴史的な瞬間」とたたえた。

保守党が14年ぶりに下野した7月の下院(650議席)総選挙では、移民問題が主要な争点となった。(中略)

7月の下院総選挙でリフォームUKは約14%の得票率を獲得したが、獲得議席は650議席中5議席にとどまった。
主要選挙区でかつての保守党支持層の票がリフォームUKに流れ、右派の票が割れたことで、保守党は最大限の打撃を受け、総選挙は労働党の圧勝に終わった。

しかし、キア・スターマー首相は就任後の5か月間で多くの困難に直面している。
世論調査会社イプソスが今月実施した調査では、英国人の53%が労働党政権のこれまでの成果に「失望している」と回答した。(後略)【12月27日 AFP】
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****英の右派政党「リフォームUK」の支持率、与党・労働党に肉薄 2大政党制終焉か****
英国で欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を主導した大衆迎合政治家、ナイジェル・ファラージ氏率いる右派政党「リフォームUK」の支持率が与党の労働党に肉薄したことが最新の世論調査で分かった。

景気対策で成果を出せないスターマー労働党政権の人気低下が主因とみられる。こうした傾向が続けば、伝統的な保守党と労働党による2大政党制が終焉(しゅうえん)に向かう可能性もある。

調査会社ユーガブが今週公表した世論調査によると、「明日総選挙が行われたらどの党に投票するか」との設問に、労働党と答えた有権者は26%、リフォームUKは25%だった。野党第一党の保守党は22%にとどまった。
ユーガブによる政党支持率調査は昨年7月の総選挙後初めて。

労働党は同総選挙で地滑り的勝利を収め、14年ぶりに保守党から政権を奪還したものの、最大懸案の景気回復では目立った成果を上げられないでいる。昨年10月にはリーブス財務相が初の財政演説で、財政赤字の緩和に向けて400億ポンド(約8兆円)の大規模増税を発表し、有権者の反発を浴びた。

経済状況は景気後退の中で物価上昇が続くスタグフレーションの様相を呈し、経済専門家の間では英経済の「メルトダウン」への懸念も広がっている。

ユーガブによれば、2029年に予定される次回の総選挙で労働党に投票するとの回答は、24年の総選挙で労働党に投票した有権者の54%にとどまった。

これに対し、24年にリフォームUKに投票した有権者は、87%が29年も同党に投票すると答えた。

保守党は、24年総選挙でリフォームUKに流れた票を取り戻すため、同年11月の党首選で強硬保守派のケミ・ベーデノック氏を選出した。しかし、世論調査では24年に保守党に投票した有権者の15%が29年にはリフォームUKに投票すると回答するなど、保守党の求心力が逆に下がっている実情が浮き彫りとなった。

リフォームUKは24年総選挙で得票率約14%、約411万票を獲得。下院(定数650)では5議席を占め、今後も躍進を果たすかどうかが注目される。(後略)【1月17日 産経】
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得票率が14%にもかかわらず5議席というのは、小選挙区制度によるものです。

【コアなEU離脱支持派から支持される「リフォームUK」】
リフォームUKが躍進している要因のひとつは、世論全体としてはブレグジットを失敗とみなす流れが強まる中で、コアな離脱支持派からの支持を獲得していることがあるようです。

****イギリス総選挙 政権交代しても、お先真っ暗な英国の未来****
(中略)(昨年7月総選挙で)保守党大敗と労働党の政権奪還は予想通りとは言え、改革英国(リフォームUK)が複数の議席を獲得したことには驚きを禁じ得ない。二大政党制の母国・英国政治の多極化はさらに進んだ。

ファラージ氏は2016年の国民投票でEU離脱に投票した選挙区を固め、信じられないパフォーマンスだと自賛した。

「これからは労働党の票をターゲットにする」
ファラージ氏はイングランド東部エセックス州クラクトンの選挙区で保守党候補に8000票以上の差をつけて初当選し、「皆さんを驚かせる第一歩だ。これは保守党の終わりの始まりだ。これからは労働党の票をターゲットにする」と不敵な笑みを浮かべた。

元保守党副幹事長のリー・アンダーソン下院議員は今年2月、サディク・カーン・ロンドン市長(労働党)を「イスラム主義者」と結びつけて党員資格を停止され、改革英国に鞍替え。19年のEU離脱総選挙で保守党から初当選したアンダーソン氏は今回、改革英国として議席を得た。

ファラージ、アンダーソン両氏の選挙区では70%以上の人がEU離脱に投票した。英世論調査の権威ジョン・カーティス氏は英BBC放送で「改革英国は保守党地盤での保守党票の大幅減から恩恵を受けた。国民投票で離脱に投票した地域で最も前進した」と分析する。

次期首相「英国がEUに再加盟することはない」
直近の世論調査では、国民投票でEU離脱を選択したのは誤りという声は英国全体で56%、正しかったという回答は44%。EUに再加盟すべきだという意見は47%、戻らない方がいいが35%。再加盟派が離脱派を10ポイント前後上回っている。

EU離脱派は英国が再加盟に方針転換するのを防ぐため、改革英国に投票した。保守党はEU離脱派と残留派の股裂きにあい、壊滅した。

ファラージ氏が次の照準を労働党に合わせるのは「レッドウォール」と呼ばれるイングランド北部・中部のEU離脱支持地域を取り込むためだ。

次の首相となる労働党のキア・スターマー党首が「私が生きている間に英国がEU、単一市場、関税同盟のいずれにも再加盟することはない」と断言するのも再加盟を匂わせたとたん、リシ・スナク首相と同じ悲惨な運命が待ち受けていることを熟知しているからだ。

「英国は破産の瀬戸際に立たされている」
(中略)強硬なEU離脱派は英国の桎梏である。労働党政権になっても何一つ変わらない。金融コラムニストのマシュー・リン氏は英紙デーリー・テレグラフ(7月4日)に「誰も認めようとしていないが、英国は破産の瀬戸際に立たされている」と書く。

英シンクタンク「レゾリューション財団」によれば、政府債務残高の対国内総生産(GDP)比は100%に迫り、この16年間で3倍に膨れ上がった。税負担は27年度にGDPの38%近くに上昇。これは歴史上最も高い水準だ。

スナク首相だけでなく、スターマー新首相も「不都合な真実」に口を閉ざして選挙戦を戦った。高齢化が進み、生産性が低迷する先進国の誰もこの問題からは逃れられない。日本はその先頭を走っている。【2024年07月05日 Newsweek】
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【根深い反移民感情 昨年8月にもデマ情報で反移民暴動】
リフォームUK躍進のもう一つの要因は反移民。これは多分にコアなEU離脱支持層とも重なるものでしょう。

イギリスは移民が多い国です。

****英人口、過去最大1%増の6830万人 移民が押し上げ****
英国立統計局は8日、2023年半ば時点で同国の人口は、前年比1%、66万2400人増の約6830万人になったと発表した。増加幅は過去最大。

ONSは、2023年半ばまでの1年間で、英国を構成するイングランドとウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4地域全てで人口が増加し、主要因は移民の転入による社会増だと指摘。(後略)【2024年10月9日 AFP】
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多くの移民を受け入れるなかで、反移民感情も根強く、これまでも1981年、1985年、1990年、2001年に反移民暴動が起きています。

そんな反移民感情が爆発したのが、総選挙直後の8月に起きた反移民暴動でした。この暴動はネットで拡散した偽情報に煽られたという点でも注目されました。

****「移民を追い出せ」イギリスで極右が扇動する“移民排斥デモ”拡大 きっかけは“偽情報”の拡散****
イギリス各地で過激な「移民排斥デモ」が広がっています。きっかけは、ある事件をめぐりインターネット上で拡散された“偽情報”でした。(中略)

3日、イギリス中部リバプールで、極右集団が主導する移民へのヘイトデモと、それに反対するデモの参加者数千人がにらみ合う事態になりました。

発端となったのは、先月、リバプール近郊の町で17歳の少年がダンス教室に押し入って参加者を次々と刺し、子ども3人が亡くなった事件です。

少年は、アフリカのルワンダ出身の両親のもとイギリスで生まれ育ったということですが、インターネット上では事件直後から、「イスラム教徒」であり「小型ボートで入国した移民だ」とする“偽情報”が拡散されたのです。

その後、“偽情報”を利用した極右集団が移民やイスラム教徒へのヘイトデモを煽り、各地で暴動に発展。建物や車などが放火される事態に…。

ロンドンでは100人以上が逮捕されたほか、リバプールでも警察官2人が骨を折るなどしました。

ヘイトデモ参加者 「子どもが刺されたり、車で轢き殺されたり、そんなのはもうたくさんだ。彼らを追い出せ」(中略)

現地メディアは、この週末に30以上のヘイトデモが計画されていると報じています。【2024年8月4日 TBS NEWS DIG】
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Xを所有するアメリカの実業家イーロン・マスク氏も暴動に絡んだ偽情報の拡散に加担しました。

“BBCによりますと、マスク氏は「イギリス政府が暴動の参加者を収容するための強制収容所を建設予定だ」とする虚偽のニュース記事を拡散したということです。投稿は170万回以上、閲覧されましたが、マスク氏はその後、説明なく投稿を削除したということです。”【2024年8月10日 TBS NEWS DIG】

このときの暴動にはファラージ氏率いる右派政党「リフォームUK」の支持者らも合流していました。

****英極右デモ沈静化せず 「反差別」対抗デモも 発足1カ月のスターマー政権に厳しい試練****
(中略)
背景に移民政策への不満か
X(旧ツイッター)を所有する実業家イーロン・マスク氏は暴動に関し「内戦は不可避だ」と投稿。これに対し首相府報道官は声明で「不当な発言だ。連中は少数派のならず者で、英国の意見を何ら代弁していない」と反発した。

暴動をめぐっては、極右団体「イングランド防衛同盟」を創設した著名な反イスラム活動家のトミー・ロビンソン氏がXで暴力を扇動する投稿を繰り返していることが騒乱拡大の要因の一つに挙げられている。同氏のフォロワー数は100万人に迫る勢いで急増中で、投稿を野放しにしているXへの批判も強まっている。

ただ、暴動の背景には、スターマー政権の移民政策への不満があるとも指摘されている。政権は発足直後、保守党のスナク前政権が打ち出した不法移民をルワンダに強制移送する計画を撤廃し、国境警備の強化や密航業者の摘発に重点を置くと表明した。だが、移民流入を防ぐ方策は現時点で明確に示されていない。

暴徒には反移民を旗印とする大衆迎合政治家のファラージ下院議員率いる右派政党「リフォームUK」の支持者らも合流しているとみられている。

同党は7月の総選挙(下院、定数650)で5年前の前回総選挙比12・3ポイント増の得票率14・3%を記録したが、獲得議席数は二大政党に有利な小選挙区制のため5議席にとどまった。自身らの主張が国政に反映されないとの不満が同党支持者を暴力デモに駆り立てた可能性も否定できない。【2024年8月6日 産経】
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こうした反移民感情の存在を受けて、最大野党保守党では党内右派でナイジェリア系黒人女性ベーデノック前ビジネス貿易相(44)が党首となり、今後の右傾化は必至と見られています。

労働党・スターマー首相も流入する移民数を削減すると表明しています。

****英首相、移民流入を制度改革で削減すると表明****
英国のスターマー首相は28日、前保守党政権が導入したポイント制の移民制度を改革する計画を策定して同国へ流入する移民数を削減すると表明した。

英国立統計局(ONS)が同日発表した2023年6月末までの1年間に同国へ流入した正味の移民数は90万6000人となり、当初発表の74万人から上方改定されて過去最高を更新した。

これを受けてスターマー氏は記者会見を開き、移民の流入を減らす決意を表明した。同氏は移民数の増加について、前保守党政権の政策が原因だと非難した。(中略)

高水準の移民は英国で大きな問題となっている。有権者は、逼迫している公共サービスでは大量に流入する移民を処理できないと懸念する一方、ヘルスケアといった業種は外国の労働者なしでは事業を運営できないと訴えている。【2024年11月29日 ロイター】
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【これまで「リフォームUK」を支持してきたマスク氏、ファラージ氏と意見の相違? 党首交代要求】
ところで、昨年8月の反移民暴動でも名前があがった米富豪イーロン・マスク氏ですが、スターマー首相を「犯罪の加担者」「無能なバカ」と批難する一方で、「リフォームUK」に多額の寄付をするという噂が広まるなど支援を強めています。

****「犯罪の加担者」「無能なバカ」 マスク氏が欧州首脳を口撃****
X(ツイッター)オーナーの米実業家で、右派的な言動で知られるイーロン・マスク氏が、政治的信条を異にするスターマー英首相らへの露骨な批判を続けている。マスク氏はトランプ次期米政権で政府外助言機関「政府効率化省」を率いる予定で、米欧関係への影響も懸念されている。

「スターマーは辞任しなければならない」。マスク氏は3日、Xへの投稿でそう訴えた。その理由としてマスク氏は、スターマー氏が検察官時代、パキスタン系容疑者らによる白人少女らへの性的暴行事件を十分に捜査しなかったと主張した。そのうえで、「英国史上最悪の集団犯罪に加担した罪で告発されなければならない」と続けた。

マスク氏はこのほか、スターマー政権の別の高官も「刑務所に入るべきだ」などと攻撃している。

英紙フィナンシャル・タイムズは9日、マスク氏の狙いはスターマー氏が率いる中道左派・労働党の弱体化で、自らが支持する右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の勢力拡大を画策していると伝えた。
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ただ、「リフォームUK」を率いるファラージ氏とは、昨年8月反移民暴動でも盛んに煽った反イスラム活動家のトミー・ロビンソン氏に関して意見の対立があり、マスク氏は党首交代を求めています。

****マスク氏、英野党「リフォームUK」の党首交代を要求 極右活動家支持でファラージ氏と意見相違か****
米富豪イーロン・マスク氏は5日、英野党「リフォームUK」の党首をナイジェル・ファラージ氏をから交代させるべきだと主張した。マスク氏は数週間前に、同党への寄付を検討していると報じられていた。

マスク氏は所有するソーシャルメディア「X」への投稿で、ファラージ氏には党を率いる資質がないと述べたが、その理由は明らかにしなかった。

ファラージ氏はこれについて、マスク氏がイギリスの極右活動家トミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)受刑者を支持していることについて、自分たちの意見が食い違っていることが原因だと示唆している。(中略)

服役中の極右政治家を支持、ファラージ氏は距離を取る
マスク氏はかねてファラージ氏とリフォームUKの熱心な支持者で、昨年12月には「X」に「イギリスにはリフォームUKが絶対に必要だ」と投稿していた。

しかし今週、マスク氏がロビンソン受刑者を支持していることをめぐぐり亀裂が生じた。ロビンソン氏は現在、法廷侮辱罪で禁錮18カ月の刑に服している。

ロビンソン受刑者は昨年10月の裁判で、2021年の名誉毀損訴訟で敗訴した後、シリア難民に関する偽の主張を禁じる裁判所命令に違反したことを認めた。

マスク氏のコメントに対し、ファラージ氏はSNSに「イーロンは素晴らしい人物だが、この点については残念ながら意見が異なる」と投稿した。

「私の見解は変わらない。トミー・ロビンソンはリフォームUKにふさわしくない。そして私は決して、自分の信念を曲げたりしない」

ファラージ氏がこの声明を発表した数分後、マスク氏は「トミー・ロビンソンを今すぐ釈放しろ」と「X」に投稿した。(後略)【1月6日 BBC】
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