(1月24日、タイ憲法裁判所は最大野党「前進党」のピター前党首(写真)は選挙関連法に違反していないとして、下院議員資格を認める判決を言い渡した。バンコクで同日撮影【1月24日 ロイター】)
【不敬罪で禁固50年】
それからまだ時間も経過していませんので、大きな動き・変化はありませんが、若干の追加・補足的な動きをピックアップします。
先ず、王室改革に関する議論を許さず、タイ社会改革の重しにもなっている「不敬罪」は相変わらず厳しく適用されており、既存体制を維持するための「装置」として機能しています。
****タイ国王を侮辱するコメント投稿…30歳男に禁錮50年の判決 “不敬罪”の量刑として最長****
タイの国王を侮辱するコメントをSNSに投稿したとして裁判所が18日、30歳のタイ人の男に禁錮50年の判決を言い渡しました。王室の批判を禁じる不敬罪の量刑としてはこれまでで最長だということです。
地元メディアによりますとモンコン・ティラコート被告は2021年、SNSに国王を侮辱するコメントを相次いで投稿し、一審で禁錮28年が言い渡されていました。
ティラコート被告は保釈金を支払い、保釈されていましたが、保釈中も王室批判を繰り返していました。
タイ・チェンライの裁判所で18日、控訴審が開かれ、裁判所はティラコート被告に一審に22年を追加した禁錮50年を言い渡しました。
追加された22年について裁判所は、被告の捜査当局への協力的な態度などを理由に3分の1に減刑したとしています。
これまで王室への不敬罪で最長だった禁錮43年6か月を抜き、一番重い刑期だということです。【1月19日 日テレNEWS】
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【親軍勢力と手を組んだタクシン元首相 国王恩赦の末、刑務所で一晩も過ごさず来月仮釈放の可能性も】
国王を頂点にした規制の政治秩序を維持したい王室周辺・軍部・司法などの既得権層と政治実権をめぐり激しく対立していたタクシン元首相及びその支持者のタイ貢献党ですが、あくまでも政治実権をめぐる争いであり、王室を頂点とする体制そのものを変更する考えはなく、その意味では大きく言えば既存体制維持ともなります。
そうしたこともあって、総選挙を受けた政治状況で政権獲得のために仇敵の親軍勢力と「大連立」を行い、首相の座を獲得したのは、それほど不思議でもないかも。
その「大連立」実現のひとつの見返りとして、海外亡命生活を余儀なくされていたタクシン元首相が帰国し、服役するも国王恩赦で減刑、更に体調不良ということで刑務所ではなく病院での生活・・・というのは、いかにも見え見えのシナリオで「なんだかな・・・」といった印象。
そのタクシン元首相は、年齢と健康状態に照らして来月に仮釈放される可能性があるとのこと。
****タイのタクシン元首相、来月に仮釈放も****
高血圧などのため病院で服役しているタイのタクシン元首相(74)は年齢と健康状態に照らして来月に仮釈放される可能性がある。矯正局当局者が17日に明らかにした。
タクシン氏は権力乱用の罪で禁錮8年の刑に服すため、昨年8月に15年間の海外逃亡生活を経て帰国。刑期はその後、王室の恩赦で1年に減刑された。
矯正局は先週、同氏の健康状態を観察する必要があるとして、警察病院での入院を延長した。
当局者はタクシン氏が2月に釈放される可能性について記者団から問われると、「規則に基づけばタクシン氏は特別仮釈放の資格がある」と回答。仮釈放の正式な申請はまだ受け取っていないという。【1月18日 ロイター】
タクシン氏は権力乱用の罪で禁錮8年の刑に服すため、昨年8月に15年間の海外逃亡生活を経て帰国。刑期はその後、王室の恩赦で1年に減刑された。
矯正局は先週、同氏の健康状態を観察する必要があるとして、警察病院での入院を延長した。
当局者はタクシン氏が2月に釈放される可能性について記者団から問われると、「規則に基づけばタクシン氏は特別仮釈放の資格がある」と回答。仮釈放の正式な申請はまだ受け取っていないという。【1月18日 ロイター】
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更に法務省矯正局は1月中旬、タクシン元首相について「病院にいるため、囚人と呼ばないで」とする異例の声明を出しています。
さすがにこうした「特別待遇」について、市民からは批判もあるようです。
****タイ当局、禁錮1年のタクシン元首相に「特別待遇」 市民ら反発****
汚職などの罪で禁錮1年の刑に服するタイのタクシン元首相(74)の処遇を巡り、国内で疑念の声が高まっている。
昨年8月、事実上の亡命生活を終えて15年ぶりに帰国したタクシン氏は、健康状態を理由に病院にとどまり、これまで刑務所で一晩も過ごしていない。
法務省矯正局は1月中旬、タクシン氏について「病院にいるため、囚人と呼ばないで」とする異例の声明も出し、市民団体などが「特別待遇だ」と批判している。
タクシン氏は2006年の軍事クーデターで失脚し、08年に、実刑判決を受けるのを前に国外逃亡した。昨年8月の帰国当日に改めて禁錮8年の判決が言い渡されて刑務所へ収監されたが、翌日未明に体調不良を訴えたため警察病院へ搬送。以来、警察病院で過ごしてきた。年齢や健康状態が考慮され、同9月には国王の恩赦で禁錮1年に減刑されたと発表された。
矯正局は今年1月、タクシン氏の病院内処遇の延長を正式に認めた上で、タクシン氏に「囚人」を意味する用語を使用すべきではないとする声明を出した。
一部の地元メディアはタイ語の「ナックトートチャーイ(男性囚人)」という呼称を用いてきたが、声明は「スムーズな社会復帰に影響する」などとして、使用を控えるよう呼びかけた。
タクシン氏に対する恩赦の決定では「これまでの国家への奉仕」も考慮したとされている。地元メディアは、こうした評価が矯正局の対応にも反映されていると指摘した。市民団体などは一連の対応を「特別待遇だ」と批判する。
タクシン氏については刑に服してから半年に当たる2月22日には仮釈放の許可が可能になるとみられる。地元メディアによると、一部の市民グループは矯正局の対応への調査を求める嘆願書を最高裁に提出することを目指すほか、政府官邸周辺でのデモ活動を強化するという。【1月24日 毎日】
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【既存秩序にとって脅威の前進党ピタ党首 今になって選挙違反疑惑は“違法性なし”と判断されたものの・・・】
一方で、不敬罪改正・徴兵制廃止など既存政治秩序の変革を掲げて若者らの大きな支持を集めた前進党ですが、総選挙で第1党に躍進したものの、ピタ党首(当時)がメディア企業株式を保有しているという理由で議員資格が一時停止となるなど、一連の抵抗勢力の反発を受けて政権掌握はでず、現在は野党の立場にあります。
そのピタ前党首の議員資格について、憲法裁判所は「違法性なし」の判断を下しました。しかし、今になって「違法性なし」と言われても、前進党はすでに政権から排除され、タクシン支持勢力と親軍勢力の大連立政権が出来上がっています。
****タイ憲法裁判所 革新系野党ピタ氏の選挙違反疑惑は“違法性なし”と判断****
タイの裁判所は24日、去年の総選挙で首相候補となった当時の野党トップが、選挙違反の疑いがあるとして議員資格を停止された問題について、違法性はないとして議員活動の継続を許可する判断を示しました。
タイの革新系野党「前進党」は、王室改革などを掲げて挑んだ去年の下院総選挙で第1党となり、当時、党首だったピタ氏が首相候補として注目されました。
しかし、保守派の上院議員らによる反発でピタ氏は首相指名を得られず、政権の樹立に失敗。さらに、メディア企業の株を保有したまま立候補した選挙違反の疑いも浮上し、議員資格が停止されていました。
この問題について、タイの憲法裁判所は24日、選挙違反にはあたらないとして議員活動の継続を認める判断を示しました。
ただ、憲法裁判所は31日にも、前進党が選挙公約として打ち出した「不敬罪」の改正案が刑法に抵触するかどうかを判断する予定で、仮に違法となれば、前進党は解党に追い込まれる可能性が高く、支持者らによる反発が広がるおそれもあります。【1月24日 TBS NEWS DIG】
タイの革新系野党「前進党」は、王室改革などを掲げて挑んだ去年の下院総選挙で第1党となり、当時、党首だったピタ氏が首相候補として注目されました。
しかし、保守派の上院議員らによる反発でピタ氏は首相指名を得られず、政権の樹立に失敗。さらに、メディア企業の株を保有したまま立候補した選挙違反の疑いも浮上し、議員資格が停止されていました。
この問題について、タイの憲法裁判所は24日、選挙違反にはあたらないとして議員活動の継続を認める判断を示しました。
ただ、憲法裁判所は31日にも、前進党が選挙公約として打ち出した「不敬罪」の改正案が刑法に抵触するかどうかを判断する予定で、仮に違法となれば、前進党は解党に追い込まれる可能性が高く、支持者らによる反発が広がるおそれもあります。【1月24日 TBS NEWS DIG】
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今回の憲法裁判所の判断は、“親軍派や保守派による妨害工作や司法クーデターを受けて民主派の間に不満が高まる動きがみられるなか、一定の配慮をみせることにより『ガス抜き』を図ったとの見方”もあるようです。【1月25日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所 より】
また記事最後にあるように、前進党が「不敬罪」の改正を掲げたこと自体が違法と判断されると「解党」処分にもなります。
その場合、“同党支持者は親軍派や保守派などに対する反発を強める一方、政府は様々な形で圧力を強めることにより、民主化の度合いが大きく後退することも予想される。”【前出 西濵 徹氏】と、政治混乱が予想されます。
【タイで大規模リチウム鉱床? 「誤解」と判明 東南アジアでのEVの生産工場集積地を目指すタイ】
政治面を離れて、最近タイの関連で話題になったのは「タイで大量のリチウム鉱床発見」との報道。
リチウムはスマートフォン、電気自動車バッテリーの核心素材で、米国投資銀行ゴールドマンサックスはリチウムを「白い石油」と呼んでいます。
****タイでリチウム鉱床発見 埋蔵量約1500万トン、世界3位規模****
タイ政府は19日、大規模なリチウム鉱床が見つかったと発表した。埋蔵量は約1500万トンで、ボリビアとアルゼンチンに次ぎ世界3位規模となる。
政府の副報道官はテレビ局ネーションに対し、鉱床は南部パンガー県内の2か所で見つかり、推定埋蔵量は1480万トンだと明らかにした。ただし、「発見した資源のうちどれだけ利用できるか調査中だ。判明には時間がかかる」と説明している。
リチウムは電気自動車(EV)の他、スマートフォンなどの電化製品に使われている電池の主原料となっている。
タイは従来型の車の組み立てで培った経験を生かし、東南アジアにおけるEV生産の中心地になることに意欲を示しており、今回のリチウム鉱床の発見は、その目標達成に向け弾みをつけるものとなる。【1月19日 AFP】
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しかし、すぐに「誤解」だったことがわかりました。
****タイで発見されたリチウム鉱床、埋蔵量世界第3位は誤解****
タイ工業省第一次産業・鉱山局は2024年1月21日、パンガー県の2つの主要なリチウム鉱床に1,480万トンのリチウムが含まれていることが判明した件で、タイがボリビアとアルゼンチンに次ぐ世界第3位のリチウム供給源となっているという誤解があるようだと説明しました。
第一次産業・鉱山局によると、実際はパンガー県のルアンキエットとバーンイートゥムの2つの鉱床のペグマタイトからは、リチウムではなくレピドライトが発見されました。
レピドライトには約0.45%のリチウムが含まれており、電気自動車 (EV) 用のリチウムイオン電池の製造に商業的な可能性があるほど豊富とのこと。
第一次産業・鉱山局はまた、さらなる調査が行われれば、タイでより多くのリチウム鉱床が発見される可能性があると明かしました。現在、パンガー県の3カ所でリチウム探査のためのコンセッションが許可されており、ラチャブリ県とヤラー県の他の場所でもいくつかの探査許可申請が保留されています。
一方、チュラロンコン大学理学部のJessada Denduangboripant教授は、フェイスブック投稿で、政府副報道官が発表した約1480万トンというリチウム埋蔵量の数字について、記者らが誤解していた可能性があると述べました。
実際、この数字は 2 つの鉱床で見つかったペグマタイトの推定量であり、教授の推定によれば、6万から7万トンのリチウムが生産される可能性があると教授は述べました。【1月22日 タイランドニュース】
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発表者側、記者どちらの「誤解」だったのかはともかく、“白い石油”の“埋蔵量世界第3”は消えました。
しかし、タイが東南アジアにおけるEV生産の中心地になることを目指しているのは事実であり、上記パンガー県の鉱床から得られるリチウムも大きな弾みになるとか。
****タイ、26年にもリチウム産出 EV工場集積への弾み期待****
タイで2026年にも同国南部の鉱山からのリチウム産出を開始する構想が浮上している。政府や関連企業の関係者が明らかにした。タイは東南アジアでの電気自動車(EV)の生産工場の集積地を形成することを狙っており、その弾みになると期待されている。
リチウムはEVに欠かせないバッテリーの重要資源で、現在はオーストラリアやアルゼンチン、チリ、中国が主要な供給元になっている。
鉱山会社のパン・アジア・メタルズがパンガー県のプロジェクトに関し、鉱山2カ所の採掘許可取得に向けて3月に申請する準備をしている。同社幹部は26年初めにリチウムの産出を開始することを「楽観視している」と話した。
タイ当局は一つ目の鉱山について、EVのバッテリーとして利用できる炭酸リチウムが16万4500トン採掘できると試算し、100万台のEV向けの供給を賄える計算になると説明している。
パン・アジア・メタルズが開発するもう一つの鉱山では、さらに10─70%多いリチウムの埋蔵量を見込んでいる。
東南アジアで最大の自動車生産国で輸出国であるタイは、30年までに年間生産車の3割をEVにしたい考えだ。政府機関「タイ投資委員会」のナリト事務総長は、これまでに38件で合計236億バーツ(約970億円)のバッテリー生産に関する投資計画に対してタイ政府が支援していると明かし、「われわれの目標は、EVや省エネに役立つバッテリー生産の集積地にタイがなることだ」と話した。【1月25日 ロイター】
リチウムはEVに欠かせないバッテリーの重要資源で、現在はオーストラリアやアルゼンチン、チリ、中国が主要な供給元になっている。
鉱山会社のパン・アジア・メタルズがパンガー県のプロジェクトに関し、鉱山2カ所の採掘許可取得に向けて3月に申請する準備をしている。同社幹部は26年初めにリチウムの産出を開始することを「楽観視している」と話した。
タイ当局は一つ目の鉱山について、EVのバッテリーとして利用できる炭酸リチウムが16万4500トン採掘できると試算し、100万台のEV向けの供給を賄える計算になると説明している。
パン・アジア・メタルズが開発するもう一つの鉱山では、さらに10─70%多いリチウムの埋蔵量を見込んでいる。
東南アジアで最大の自動車生産国で輸出国であるタイは、30年までに年間生産車の3割をEVにしたい考えだ。政府機関「タイ投資委員会」のナリト事務総長は、これまでに38件で合計236億バーツ(約970億円)のバッテリー生産に関する投資計画に対してタイ政府が支援していると明かし、「われわれの目標は、EVや省エネに役立つバッテリー生産の集積地にタイがなることだ」と話した。【1月25日 ロイター】
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生産可能なリチウム量について、前出記事の大学教授の推計と異なりますが・・・・そのあたりの事情は知りません。
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