孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリアのガソリン補助金打ち切り、パキスタンの天然ガス不足による政情不安

2012-01-05 21:28:43 | アフリカ

(1月2日 パキスタン・イスラマバード 天然ガスの公定価格値上げと供給制限に反発するデモ “flickr”より By UJMi http://www.flickr.com/photos/ujmi/6622141727/ )

燃料補助金は、豊富な石油資源からの“唯一の恩恵”】
ナイジェリアと言えば、イスラム教徒が多数を占める北部とキリスト教徒を主とする南部とで宗教的な分断があり、これまでもたびたび南北間の住民紛争が起きている国です。
特に、最近ではイスラム武装勢力「ボコ・ハラム」によるテロが多発しており、昨年末のクリスマスのミサ中だったカトリック教会などで連続爆発が起きて40人以上が死亡した事件が記憶に新しいところです。

****テロ相次ぐナイジェリア、北東部4州に非常事態宣言****
ナイジェリアのジョナサン大統領は12月31日、イスラム武装勢力「ボコ・ハラム」によるテロが相次いでいる国内の4州に非常事態を宣言し、国境を一時閉鎖すると発表した。AFP通信などが伝えた。
非常事態を宣言したのは、ボコ・ハラムが拠点にしている北東部のボルノ州やヨベ州など。これらの州が接するチャド、ニジェール、カメルーンの国境を一時閉鎖し、武装勢力の逃亡を防ぐという

ナイジェリアでは、警察施設や教会を狙った爆弾テロが続いている。8月には国連施設が爆破されて25人が死亡。12月25日には、クリスマスのミサ中だったカトリック教会などで連続爆発が起きて40人以上が死亡し、ボコ・ハラムが犯行を表明している。【1月1日 朝日】
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ただ、ナイジェリアも、そうした南北間・宗教間の対立だけでなく、国内には様々な問題があるのは当然の話で、そのひとつとして、ガソリン補助金打ち切りに伴う激しい抗議デモが報じられています。

****ナイジェリア各地でデモ、燃料補助金打ち切りに抗議*****
ナイジェリアで政府が今年に入り、燃料補助金を打ち切ったことから、ガソリン価格が急騰し、各地で抗議デモが発生、警官隊との衝突から死者も出る事態に拡大している。

ナイジェリア政府が1日、燃料補助金を打ち切ったことからガソリン価格はそれまでの2倍の1リットル当たり140ナイラ(約73.6円)まで跳ね上がった。ナイジェリアは大半の人が1日2ドル(約150円)以下で暮らす国だ。

首都アブジャで2日に行われた抗議デモに対し、警察は催涙ガスを使用。3日には中西部の都市クワラで抗議に参加していた男性1人が死亡した。ナイジェリア最大の労働組合は、男性は警察に射殺されたと非難している。しかし警察側は、何かのきっかけで抗議していた群衆が男性を敵視し、鋭利な刃物で刺したため死亡したと反論している。
3日は経済の中心都市ラゴスや北部最大の都市カノでも抗議行動が相次いだ。(中略)

これまで、ナイジェリアで発生する抗議行動の多くは徐々に失速し、消えていくことが多かったが、燃料補助金問題は全国民が一致団結する数少ない問題のひとつで、今回も抗議行動が広範囲に拡大した。

ナイジェリア政府や経済学者は、痛ましいほど整っていないインフラへの投資を強化するために、燃料補助金の打ち切りが必要としている。政府によると2011年の燃料補助金による支出は80億ドル(約6130億円)だった。
しかしナイジェリア国民は、石油資源が豊富ながら国民の受ける恩恵が少ない同国で、燃料補助金は唯一の恩恵だと考えている。【1月5日 AFP】
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豊富な石油資源があるために、利権を巡る腐敗や争いが絶えないナイジェリアですが、石油による“唯一の恩恵”が安いガソリン・・・ということのようです。
国民の生活に直結する問題だけに、対応を誤ると政権基盤を揺るがすことになります。

政権の腐敗や運営能力不足が原因
似たような生活に直結するエネルギー関連で、パキスタンではガス不足が深刻化に対するデモが頻発しているとの報道がありました。

パキスタンと言えば、北西部を中心としたイスラム過激派の動向、対テロ戦争を進める“パートナー”アメリカとの軋轢、アフガニスタンのタリバンとパキスタン情報機関の関係、最近では「メモゲート」と称される事件による大統領と軍部の対立・・・などが国際的には頻繁に報じられていますが、ナイジェリア同様、国民生活に直結した問題で政権が揺らいでいるようです。
ただ、この問題の背後には、やはり現在の民政に不満を持つ軍部の意向も見え隠れしているようです。

****パキスタン、ガス不足深刻化 デモ頻発、政局混乱の様相****
パキスタンでガス不足が深刻化し、デモが頻発するなど政府への不満が高まっている。3月の上院選を控え、清廉さを売りにする小政党が支持を急速に拡大。現政権に不信を抱く軍の支援があるとささやかれており、政局が混乱する様相を見せつつある。

2、3の両日、天然ガスの公定価格値上げと供給制限に反発するデモが各地で相次ぎ、警官隊と衝突する騒ぎとなった。また、主要産業の繊維業界団体は4日、各工場へのガス供給が無期限停止になったと新聞広告で政府を批判、労働者らがデモ行進した。
同国では2008年の現政権発足後、電力やガスの供給不足が年々悪化。長時間の停電やガス供給停止が常態化している。政府の財政状況悪化に加え、政権の腐敗や運営能力不足が原因と指摘されている。【1月4日 朝日】
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なお、上記記事にある“清廉さを売りにする小政党”とは、クリケットのパキスタン代表の元主将で、国民的英雄のイムラン・カーン氏(59)=元下院議員=が率いる小政党、正義行動党(PTI)のことと思われます。
“政治家としては目立った実績を残していないカーン氏だが、汚職にまみれた政治に嫌気し、既存政党に失望した若い世代を中心とした有権者の支持を集め、同党は勢いを急速に増している”【12月27日 産経】とのことですが、“「米国との協力を見直し、支援は受け取らない」などと主張するカーン氏の政策には具体性が乏しい。イスラム原理主義勢力タリバンを批判することはほとんどなく、党勢拡大は軍が背後にいるから可能だったのではとの臆測も呼んでいる”【同上】とも。

イランから天然ガスを運ぶパイプライン計画
パキスタンの天然ガス不足については、イランとの間のパイプライン建設が合意調印されていますが、イラン包囲網を敷くアメリカの圧力、パキスタン側の計画の遅れなども指摘されています。

****2014年から天然ガス供給開始 イラン・パキスタン、パイプライン合意****
イラン国営プレスTV(電子版)によると、同国の天然ガスをパキスタンへ運ぶパイプライン建設計画で、両国政府は13日、2014年から天然ガスの供給を開始するとの契約に正式調印した。

国連安全保障理事会で追加制裁決議が採択され国際的な孤立が深まる中、イランとしては外貨収入源を確保する狙いがある。イランの核兵器開発を警戒する米国の反発が強まるのは必至だ。
計画は1990年代にイランが提案。当初はインドも加わったが、米国の圧力を受けて昨年、当面の参加を断念していた。計画ではパキスタン経由で周辺国への輸送も可能としており、資源獲得を進める中国が強い関心を示している。

供給される天然ガスは日量2150万立方メートル。パイプラインはイラン南部サウスパースガス田とパキスタン各都市を結ぶ全長約2100キロで、イラン側はすでに約900キロを完成、残りの約400キロについても近く着工する。ただ、パキスタン側では工事が十分に進んでいない上、契約調印後も1年間は建設予定地の調査に費やすなどとしており、計画が予定通りに進むかは不透明だ。【10年6月14日 産経】
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このパイプライン計画については、パキスタン側の資金難、イラン・パキスタン国境の武装組織によるテロも懸念されています。

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経済的に困窮するパキスタンにとって、12億ドル(約1150億円)といわれる建設費は重い負担となり、資金繰りの見通しもついていない。それだけではない。パキスタンの軍事アナリスト、タラト・マスード退役中将は「計画の実現には国内外の障害が立ちはだかる」と指摘する。

まずは、パイプラインが通過するバルチスタン情勢だ。イランと国境を接するパキスタン南西部バルチスタン州には、両政府に抵抗する武装組織が複数あり、既存の別のガスパイプラインや送電設備などへの攻撃を繰り返している。
武装組織のうち、パキスタンを拠点にイラン国内でテロ活動を行うイスラム武装組織「ジュンドュラ」(神の兵士)は、最近もイスラム教礼拝所で自爆テロを起こした。イランは、同組織のネットワークを一掃しなければパイプライン計画にも影響を及ぼすと、パキスタンに警告している。【09年7月1日 産経】
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イラン包囲網を敷くアメリカの圧力
アメリカの圧力については、パキスタンのギラニ首相は10年6月22日、アメリカの見直し要求を拒絶し計画を予定通り進める意向を表明しています。
ただ、ここにきてアメリカはランへの追加制裁措置として、関係国がイラン産原油の輸入を停止するように求めており、ただでさえ軋轢を増しているパキスタン・アメリカ関係ですが、イランからの天然ガス輸入パイプライン建設は再度問題化するかもしれません。

一見、国内経済問題のように見えるパキスタンのガス不足ですが、現政権と軍部の対立、アメリカとの関係なども絡んだ問題のようです。

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