(工場での作業を終えてトラックの荷台で帰宅する労働者 家まで2~3時間かかるとか “flickr”より By Anne Sophie S*l*mon https://www.flickr.com/photos/just1nickname/12500813164/in/photolist-jRDsVK-kkbZ8z-kkbY64-kkbkhr-kkc1gX-jYsPgK-jYrW2c-jYrRug-jYut2d-jYs4gT-jYrYaF-k3DWes-khf19B-jRDzaD-mzphDc-mbqas2-khf3KD)
【労働争議や政治の混乱で成長見通し下方修正】
カンボジアはここ数年7%を超える高い経済成長が続いています。
一人当たりGDPも2013年には1080ドル(推計)と、06年の534ドルから7年間で倍増しています。
ただ、こうした成長の一方で労働者の賃金水準は依然低く、昨年末には死傷者を出す激しい労働争議が頻発しました。この労働問題は、今後のカンボジアが成長軌道を維持できるかのカギとなっています。
また、強権的手法や腐敗・汚職への批判もあるフン・セン政権と野党カンボジア救国党の対立に見られる政治の混乱も、今後の不確定要素となっています。
****カンボジア14年成長率7% ADB、社会不安で予測下方修正****
カンボジアの経済成長が今年は減速する懸念が生じている。
アジア開発銀行(ADB)は、同国の今年の国内総生産(GDP)成長率見通しを昨年10月時点の7.5%から7%に下方修正。昨年実績の7.2%を下回るとの見通しを示した。
賃上げをめぐる労働争議や政治の混乱など、社会不安の高まりが要因だ。現地紙プノンペン・ポストなどが報じた。
同国は繊維縫製業で賃上げをめぐる労働争議が激化している。昨年のストライキ件数は147件にのぼり、前年から21.5%増加した。
繊維縫製品は、国の輸出総額の8割以上を占める主力品目で、13年の輸出額は前年比20%増の55億3000万ドル(約5687億円)だった。
昨年12月末には全国規模のストライキが1週間以上続き、数百の工場が操業停止に追い込まれた。同国政府によると、このストライキは死傷者も出るほど激しかったため、同産業は7200万ドルの経済損失を被った。
また、昨年7月に実施した総選挙後の政治的対立も収束の気配がない。
総選挙では野党カンボジア救国党が改選前の29議席を55議席に増やして躍進したが、同党は投開票に不正があったとして議会のボイコットを続けており、4月に始まった国会も欠席している。
ADBはこうした事情により社会不安が増大しつつあると分析。
国外投資家などの投資意欲が低下して様子見気分が広がり、繊維縫製業の生産も減少していることから、カンボジアの成長率予測を下方修正した。
今後、社会不安が解消に向かわない場合は観光や不動産など他の産業にも悪影響が及ぶ可能性があると指摘している。
その一方でADBの地域担当者は、今年のカンボジアのインフレ率予測が3.5%とベトナム(6.2%)やミャンマー(6.6%)などの近隣諸国と比較して低いと指摘し、「7%の成長は同国にとって十分に高い水準」との見解を示した。
ADBはこのほか、同国経済の課題として熟練工の育成や高付加価値分野の成長を挙げた。
今後、各国間の市場競争激化が予想される東南アジア地域でカンボジアが高成長を続けていくには、社会の安定を実現し、腰を据えて課題に取り組んでいけるかどうかが鍵となっていきそうだ。【4月9日 SankeiBiz】
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【低賃金の労働力を求めて進出したものの、思わぬ落とし穴】
労働争議による社会混乱については、1月9日ブログ「カンボジア 賃上げ要求デモへ治安部隊発砲 グローバル化の途上国・先進国への影響」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140109)でも取り上げました。
労働争議の問題と政治混乱は密接に関連しています。
****続く与野党対立、賃金デモで死者 カンボジア****
カンボジアで与野党の対立が続き、一部で武力衝突に発展している。
首都プノンペンでは3日、野党支持者が加わった工場労働者の賃上げ要求デモがあり、治安部隊が発砲して4人が死亡した。現地の日本企業にも不安が広がっている。
地元警察によると、野党支持者と縫製工場労働者ら数千人が3日、最低賃金の引き上げを求めて抗議集会を行った。一部の参加者が規制に入った治安部隊に石や火炎瓶を投げて衝突。治安部隊が発砲して制圧にかかり、デモ参加者4人が死亡、計約40人が負傷する事態となった。
プノンペンの裁判所は5日までに、騒ぎに関わった疑いで野党救国党のサム・レンシー党首らに召喚状を送った。レンシー党首は地元メディアの取材に「私は何も間違っていない」と語り、14日に行われる裁判所での尋問に応じる構えだ。
カンボジアの縫製工場の最低賃金は現行月80ドルで、100ドル前後のベトナムなど周辺国と比べて低い。政府は2018年までに段階的に160ドルに上げる案を示しているが、労働者側は即時の引き上げを主張し、昨年末から大規模なストに入っていた。
労働者と政府が歩み寄れない背景には、昨年7月の下院選挙を巡る対立がある。公式には議席数68対55で与党人民党が勝利したが、野党救国党は「不正がなければ我々が勝っていた」と主張。国会への出席を拒否するなど対立が続いている。
救国党は最低賃金の倍増を選挙公約に掲げ、労働者団体と一体となって闘ってきた経緯があり、安易に妥協できない状況だ。
賃金問題は、安い労働力を求めて進出した外国企業にとっても深刻だ。日系の工場関係者は「最低賃金の倍増は当然経営に響く。移転を検討する会社も出てくるだろう」と話している。【1月6日 朝日】
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政治対立は依然として続いており、野党救国党のサム・ランシー党首が4月2日、シハモニ国王に書簡を送って、その中で「カンボジア第5期国会が不法であり、国民を代表するものではない」と指摘したのに対し、カンボジア国会は「救国党は自らの利益のために、国内で混乱を引き起こしている」と批判しています。【4月5日 VOV5より】
低い労働コストを求めて日本企業も多数カンボジアに進出していますが、日系企業の一部には従業員に読み書きや算数を始業前に教えているところもあり、「日本企業は、従業員に対するモラル教育も優れており、注目している」(カンボジア政府高官)との高い評価もあるようです。【JBS http://www.shinnihon.or.jp/shinnihon-library/publications/issue/info-sensor/pdf/info-sensor-2014-04-07.pdf】
ただ、日系企業も社会混乱の影響は避けられません。
****カンボジア、ストに悲鳴 日系企業、巻き添えで損失****
カンボジアに進出した日系の中小企業が、現地で相次ぐストライキの余波に見舞われている。
工場をまともに操業できず、業績も落ち込む。低賃金の労働力を求めて進出したものの、思わぬ落とし穴の登場に、頭を悩ます毎日だ。
工場から出て来て、道にあふれる労働者。工場には石が次々と投げ込まれ、窓が壊れ、柵は力ずくで倒された――。昨年12月中旬、ベトナムとの国境に近いカンボジア・バベットにある二つの工業団地で、こんな大規模ストが発生。日系企業にも影響が及んだ。
紳士服をつくるトーワ(名古屋市)の工場には、別の企業に雇われている労働者らから、石が次々と投げ入れられた。現地法人の河村博行社長は「警察はお金を払わないと動かないし、だれも操業停止による損失を補償してくれない」とこぼす。
手袋メーカーのヨークス(香川県東かがわ市)の工場では、約500人の従業員によるミシンの音が響く日常が一変。従業員が不安で仕事に集中できなくなり、全員を帰宅させた。現地法人の八代浩二社長は「12月後半でまともに操業できたのは、2日ぐらいだ」と打ち明ける。
数年前から、こんな過激なストが年に数回は起きている。フン・セン政権に不満を持つカンボジアの野党や、最低賃金の倍増などを求める一部の労働組合が背後にあるという。日系企業は、周辺のほかの工場で起きたストによる「とばっちり」を受ける形だ。
■進出計画の延期も
日系企業は自社が「火だね」にならないよう対策を進める。首都プノンペンの郊外で女性用下着をつくるエフティアパレル(福井市)は、リーダー格の社員らへの「研修」を始めた。あいさつや整理整頓といった仕事のイロハだが、社員の一人は「人間として見てくれていると感じてうれしかった」と話す。ただ、担当者は「とばっちりを防ぐ妙案はない」と認める。
日本からカンボジアに進出する企業は、2010年の19社から13年には195社まで増えた。多いのは縫製業で、労働者の賃金が上がった中国に代わる進出先として注目を集めたからだが、最近では進出計画を延期した企業もあるという。
過激派の労組は3月にもストを計画しているとされる。現地に工場を構える日系企業の社長は「現地の日本大使館は逃げろと言うだけ。地元政府に掛け合うなど何とか対応してもらいたい」と、日本政府の無策ぶりにも不満を募らせる。【2月27日 朝日】
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【頻発する「集団失神」】
先述のように、労働争議は政治対立と絡んでいますが、根底にはやはり低い生活水準、劣悪な労働環境の問題があります。
カンボジアの衣料品工場で、100人以上が倒れる集団ヒステリーが頻発しているそうです。
****カンボジア労働者「集団失神」の謎****
衣料品工場で100人以上が倒れる集団ヒステリーが頻発。その引き金は何なのか。
それは、さぞ異様な光景だろう。100人を超える人々が、悪霊にでもとりつかれたかのように次々と気を失うのだから。
だがカンボジアの衣料品工場では近頃、こうした出来事が不気味なほど頻発している。
こうした工場では、おもにアメリカなどの先進国の衣料品店に並ぶ商品を製造している。
カンボジア政府が度重なる調査を行い、H&Mなどの大手アパレル企業も労働環境の問題点を探ると約束してきたが、この不思議な現象はなくならない。
今月は、スポーツ用品大手のプーマやアディダスの製品を作る工場で労働者の「集団失神」が起きた。他の多く例と同じく今回も、まず1人の労働者の具合が悪くなったのをきっかけに、最終的には100人以上が次々と床に倒れていった。
プーマとアディダスは当局と協力し、事態の解明に努めると発表。倒れた労働者たちは手当てを受けたという。
集団失神は今年はこれが初めてだが、これで最後とはならないだろう。
政府統計によれば、2011年以降、カンボジアの工場では毎年1500人から2000人が仕事中に倒れており、多く場合は100人以上が同時に昏倒している。また彼らの多くは、病院に連れて行かれた後、短期間で回復している。
カンボジアでの集団失神は以前から問題視されてきた。国連機関の国際労働機関は、すでに問題の原因について調査を開始。カンボジア政府も工場に職員を派遣し、労働者たちに失神を防ぐにはどうすればよいかをレクチャーしている。簡単に言えば、よく食べよく寝るということだ。
だが、具体的に何が集団失神の引き金を引くかはまだ分かっていない。
これまで候補に挙げられたのは栄養不足、高い気温、長時間労働、通気性の悪さ、有毒ガスなどなど......。一方で工場の経営者側は、前の晩に労働者たちが飲み過ぎるせいということで済ませたがる。
カンボジアの市民団体「カンボジア法律教育センター」は、労働者の栄養不良が最大の原因だとする研究結果を公表した。
研究によれば、カンボジアの衣料品工場で働く労働者の約3分の1(その多くが女性)は医学的にみて栄養不良の状態にあり、1日の摂取カロリーは1600カロリーしかないという。
この問題について詳細な調査報道を行ったカンボジアデイリー紙も、似たような見解を示した。
同紙によれば、「集団ヒステリー」という現象は労働者の栄養状況が悪く過重労働状態にあった18世紀のイギリスから1970年代のマレーシアまで、幅広い地域で見らるという。
ある心理学者は同紙に、カンボジアの集団失神は、労働環境の改善を求める「無意識の抗議」かもしれないと語った。【4月8日 Newsweek】
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集団で体調不良を訴えるというのは、日本の学校においてもしばしば見られるように心理的な要素があるとは思われますが、そういう現象を引き起こしやすい環境を構成している諸問題にも目を向ける必要があります。
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