(左から国民会議派ラフル・ガンジー副総裁 人民党モディ党首 一般人党ケジリワル党首 “flickr”より sahasipadyatri https://www.flickr.com/photos/34945175@N06/13733639974/in/photolist-mSGj3C-mWG5XL-mVyrxB-mVAuG7-mXdSjB-mRePgM-mRTcMr-mVrz1A-mWzrGr-mRURvu-mS1RDK-mTHVrp-mTNJgj-mRUaiK-mVQnrs-mXi1DM-mT1bnS-mTLS9g-mRHcjb-mTMezd-mTWbut)
【ヒンズー至上主義者の剛腕モディ氏】
有権者8億1459万人。「世界最大の民主主義国」と言われるインドで、「世界最大の選挙」の投票が7日から始まっています。
なにぶん大規模なため投票は10段階(9段階との報道もあります)に分けて行われ、10日にはデリー首都圏(州)などで投票が実施されました。
5月16日に一斉開票されます。
結果予測については、経済の減速や汚職の蔓延、そして治安や社会正義への不安という現与党、国民会議派連合の失点に乗じ“西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相(63)が前面に立つ最大野党インド人民党が優位に立ち、10年ぶりの政権交代が濃厚となっている”【4月6日 毎日】と見られています。
****最大野党、過半数迫れるか****
定数545のうち、大統領任命の2議席を除く543議席が改選される。任期は5年。
現在の下院の構成は、与党・国民会議派が206議席、人民党は117議席。
だが、首都ニューデリーの政治アナリスト、K・G・スレーシュ氏は「人民党が200議席以上を取るのは確実で、会議派は2ケタに転落する」と予想。人民党がどれだけ過半数の272議席に近づき、安定した議会運営ができるかが焦点となっている。【同上】
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人民党勝利の暁には首相に就任することにもなるモディ氏は、“積極的な企業誘致でグジャラート州を国内で最も豊かな州に育てた「決断・実行の人」と言われ、ビジネス界や中産層を中心にカリスマ的な支持を集めている。”【同上】と、その経済手腕が期待されています。
地元グジャラート州において、工場に欠かせない電力や道路といったインフラ整備も推進し、インドで唯一「停電のない州」(インド産業連盟幹部)を実現したとされています。
汚職が蔓延するインドにあって、クリーンなイメージが定着していることも人気の理由だと言われています。
一方で、2002年にグジャラート州で起きたイスラム教徒虐殺暴動を敢えて止めず、政治的に利用したという疑惑があるように(本人は否定)、その宗教的立場が懸念される人物でもあります。
“今回下院選に初出馬するにあたり、選挙区に出身地グジャラート州ではなく北部のヒンズー教の聖地、バラナシを選択。「ヒンズー至上主義者」であることをアピールする。”
マニフェストにもそうした「ヒンズー至上主義」的な色彩があり(人民党はもともとそういう政党ですから、当然と言えば当然ですが)、更に核政策でも強硬姿勢を見せています。
規制緩和などが期待されている経済政策においては、“現政権が2012年9月に決定した総合小売業(スーパー、百貨店などいわゆるマルチブランド業態)への外資参入を、一転「禁止する」と明記。同党による経済改革の加速に期待を示していたインド経済界は、一斉に困惑の声を上げている。”【4月10日 緒方麻也氏 フォーサイト】と、国内の零細な小売業者や農産物仲買人などの利益を優先させた反改革的な内容となっています。
****インド総選挙:優勢の人民党、公約発表 外交面で強硬姿勢****
インド総選挙(下院選)の投票が始まった7日、勝利が予想されている最大野党のインド人民党は、選挙公約であるマニフェストを発表した。「一つのインド、偉大なインド」をスローガンに、税制改革による投資拡大や「核政策の再検討」を盛り込んだ。
外交面では、近隣国との「友好」を主張する一方、「必要とあれば強硬手段を取ることも辞さない」とした。
与党・国民会議派のシン政権が過去10年間維持した「核実験のモラトリアム(一時停止)」などの核政策については「詳細を検討し、現在の脅威に見合うよう改定する」とした。
党の次期首相候補で、「反中国」「反パキスタン」とされるナレンドラ・モディ氏の意向が反映された模様だ。
インドは人民党政権だった1998年に24年ぶりに地下核実験を実施し、日本を含む各国による制裁を受けた。
また、大型スーパーなど小売業への外国資本の投資規制を復活させるという。外資規制は、米国などの圧力を受けたシン政権が2012年に緩和していたが、当時から人民党は「全国の零細小売業への影響が甚大」と主張し、反対していた。
さらに、北部ウッタルプラデシュ州にあるヒンズー、イスラム両教徒の聖地アヨディヤにヒンズー教寺院を「再建する」と明記した。
アヨディヤには16世紀に建てられたモスク(イスラム教寺院)があったが、ヒンズー至上主義者らは「ラーマ神の誕生の地に古くからあった寺院を破壊して建てられた」と主張、92年に数千人のヒンズー教徒がモスクを襲撃・破壊し、両教徒の対立を激化させた経緯がある。
「ラーマ寺院再建」が盛り込まれたのも、ヒンズー至上主義者として知られるモディ氏やその支持者が主張したとみられる。【4月7日 毎日】
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選挙戦での公約と、政権獲得後の実際の政策は異なる・・・というのは往々にしてあることですし、核政策や外資政策においてはアメリカなどの意向も強く影響しますので、勝手にこれまでの政策を変えることもできない面もあります。
ただ、その「ヒンズー至上主義者」的な色彩を敢えて隠そうとしないところは、多宗教国家インドにあっては気になります。
インドはインドはヒンドゥー教徒が8割を占めますが、1割強はイスラム教徒で、キリスト教徒もいます。
****民主大国の実像:インド総選挙を前に/2 暴動、深まる宗教対立****
インドの野党、人民党の指導者で、次期首相の呼び声も高い西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相(63)。だが、彼には消せない過去の「汚点」がある。州政府首相就任の翌年の2002年に起きた「グジャラート暴動」だ。
列車の焼き打ちテロをきっかけにヒンズー、イスラム両教徒が殺し合い、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した。「ヒンズー至上主義者のため、わざと警察を出動させず、イスラム教徒の虐殺を許した」と今も批判される。
モディ氏は疑惑を否定するが、与党・国民会議派のシン首相は今年1月、「モディ氏が首相になれば、(異教徒間の対立激化で)国は壊滅的な打撃を受ける」と警告した。その前触れのような暴動事件が、昨年9月8日に北部ウッタルプラデシュ州ムザファルナガルで起きていた。
イスラム教徒を中心に53人が死亡、23人が行方不明。ヒンズー教徒の迫害を恐れ、約4万人のイスラム教徒が今も自宅に戻れない。
雨上がりの午後。地面はぬかるみ、むっとする異臭が鼻を突く。布で覆っただけのテントが並び、人々はだるそうな表情を見せた。郊外にはそんな避難民キャンプが点在する。
親族宅に避難する大工、シャヒドさん(46)によると、暴動の朝、自宅周辺でヤリや銃を持ったヒンズー教徒の若者がイスラムの住民を追いかけ、殺害。暴徒は自宅にも侵入し、シャヒドさんは逃げ延びたが、高齢の両親は遺体で見つかった。「もう平和は戻らない」と言う。
暴動は、2週間前の両教徒の若者同士によるオートバイ事故が発端。だが、住民から聞き取り調査をした人権活動家、ヒマンシュ・クマール氏(49)は「その前から危険な状況だった」と語る。
調査によると、総選挙に向け人民党支持者が昨年2月ごろから地域に入り「イスラム教徒がヒンズー女性をレイプする『愛のジハード(聖戦)』を計画している」などのデマを流していた。
ウッタルプラデシュ州には、インド政界の最高実力者で国民会議派のソニア・ガンジー総裁(67)と、その長男で会議派の事実上の次期首相候補、ラフル・ガンジー副総裁(43)の選挙区がある。
人民党は、イスラム教徒への憎悪をあおってヒンズー住民の結束を固め、与党の牙城を崩そうとしていた。そこにオートバイの衝突事故が起き、暴動に発展した−−。これがクマール氏の結論だ。だが人民党広報は「事実無根だ」と否定する。
確かなのは、事件を受け、国民の13%、約1億6000万人を占めるイスラム教徒のモディ氏への憎悪が高まったことだ。シャヒドさんが言う。「たくさんの遺体を踏み越えてきた人物だ。首相になるのは許されない」【3月29日 毎日】
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モディ氏は当時、暴動を食い止める手を打たなかった、と批判されている。
州警察幹部だったサンジブ・バット氏(50)は「宗派対立で不測の事態が起きるから対応策を取るべきだと進言したが、聞く耳を持たなかった。むしろ緊張を自身とBJPへの支持強化に利用しようとした」と語る。
本人は暴動への関与を否定しているが、欧米の人権団体やイスラム社会は激しく反発。米国は05年、「宗教対立をあおった」としてモディ氏へのビザ発給を拒否した。【4月7日 朝日】
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首相になった場合、その姿勢が心配される人物でもあります。
【「ネール・ガンジー王朝」の威光にも陰り】
半減することも予想されている国民会議派は、ネール・ガンジー王朝の御曹司ラフル・ガンジー副総裁を中心とした戦いですが、母親ソニア・ガンジー総裁の庇護下にあるようなひ弱なイメージが消えません。
****「名家の威光」に陰り=ラフル氏、経験不足否めず****
1947年のインド独立以降、ネール初代首相らを出した名門一族の威光に、陰りが見え始めた。
シン首相が後継者に指名した「御曹司」ラフル・ガンジー副総裁(43)は、与党国民会議派の顔として政権維持を図る。しかし、野党インド人民党(BJP)の首相候補ナレンドラ・モディ氏(63)の勢いは食い止め難く、じりじりと追い詰められている。
「偽物のガンジーだ」。モディ氏は選挙演説で、ラフル氏らのガンジー家が、国父マハトマ・ガンジーとは血縁がないと指摘。「民主主義の代弁者を装いながら一族で党を牛耳り、権力を保つことしか念頭にない」と切り捨てた。
この家系からはこれまでネール、インディラ・ガンジー、ラジブ・ガンジーの3人の首相が輩出した。
3人がインドを統治した期間は計37年に及び、「ネール・ガンジー王朝」と呼ばれた。しかし、91年に暗殺されたラジブ氏を最後に、同家から首相は出ていない。
ラジブ氏の息子に当たるラフル氏だが、党務は母ソニア・ガンジー総裁が取り仕切り、「温室栽培」の感は否めない。政治評論家サルジート・ナラン氏は「(ラフル氏は)演説の歯切れが悪く、特筆すべき政治的発想もない」と酷評。「グジャラート州首相として実績を重ねたモディ氏との力の差は歴然だ」と語る。
一方のラフル氏は、モディ氏をナチス・ドイツ総統ヒトラーに例え、「自分だけが正しいと信じる独裁者だ」と国民の危機感をあおる。
しかし、BJP支持に傾いた世論の流れを変えられず、モディ氏が演台に立つ政党集会には常に多くの聴衆が詰めかける。ナラン氏は「かつては一時代を築いたガンジー家だが、その名は輝きを失いつつある」と話す。【4月6日 時事】
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もっとも、ラフル・ガンジーの妹であるプリヤンカ・ヴァドラ氏が政治的資質の評価が高く、祖母譲りのカリスマ性もあって「インディラ・ガンディーの再来」とも言われていますので、ラフル氏の次の弾もあるような・・・・。
【ブームは去った? 一般人党のケジリワル党首】
最近あまり話題を聞かないのが、新党・一般人党のケジリワル党首。
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デリー首都圏では昨年12月、腐敗一掃を掲げる新党・一般人党がデリー首都圏議会選でいきなり第2党となり、今回の総選挙でも「台風の目」になるといわれていた。
しかし、州政府首相に就任した同党のケジリワル党首(45)は今年2月、腐敗防止法の提出を最大野党・インド人民党に阻止されたとして辞任。
今回の選挙運動中にはオート三輪の運転手に殴られたり、市民にインクを投げつけられるなど、人気に陰りが見えている。
ニューデリー南部の投票所を訪れた公務員、アビシェーク・クマール・シンさん(38)は、首都圏議会選では一般人党を支持したが、今回は人民党に1票を投じたといい、「ケジリワル氏は結局何もせずに逃げた。必要なのは安定した政権だ」と批判した。【4月10日 毎日】
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いずれにしても、結果がわかるまでもうしばらくかかります。
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