孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  学生による立法院占拠、政権側が譲歩する方向で収束の見通し

2014-04-08 23:08:43 | 東アジア

(立法院を占拠する学生たち 【4月8日 TBS Newsi】)

【「いちご白書」】
昔、「いちご白書」という映画(1970年公開)がありました。
アメリカ・コロンビア大学で1968年におきた学部長事務所の占拠に参加した学生たちを描いた映画です。政治的というより青春映画という趣きでした。

私がこの映画を観たのは、「『いちご白書』をもう一度」というフォークソングが1975年に流行り、「いちご白書」なるものが有名になった後だったと思います。

正直なところ、有名なわりにはあまり印象は強くない映画でした。
ただ、講堂内でサークル状に座り込んだ学生たちが、武装警官によって殴られ、血を流し、力づくで連れ出されていくシーンだけは記憶に残っています。

長年、“いちご白書”というタイトルの意味が分からずにいたのですが、ウィキペディアで確認すると、“『いちご白書』という題名はコロンビア大学の学部長ハーバート・ディーンの発言に由来する。ディーンは大学の運営についての学生の意見を、学生たちが苺の味が好きだと言うのと同じくらい重要さを持たないものとして見下した。”ということのようです。(ディーン氏は、自分の発言が間違った形で引用されているとしています。)

民主主義の否定か、救済か
台湾で3月18日から続く、馬英九政権が推し進める中台間の「サービス貿易協定」に抗議した立法院占拠のニュースを見聞きすると、大昔の「いちご白書」が思い出されました。

****中台統一」懸念で政治問題化 「サービス貿易協定」が発端****
台湾の学生らが立法院を占拠したのは、昨年6月に中台双方が一層の市場開放を目指して調印した「サービス貿易協定」の承認をめぐり与党、中国国民党が審議を打ち切ったことが原因だ。

同協定は、2010年9月に発効した中台間の事実上の自由貿易協定(FTA)にあたる「経済協力枠組み協定(ECFA)」の柱の一つ。

サービス貿易協定では、新たに中国側が80項目、台湾側が64項目を開放。中国側は他国・地域には未開放の電子商取引、娯楽、医療サービスの3分野を認めるなど、台湾側に大幅に譲歩したとされる。

だが、台湾では、中小企業が多い業界を中心に、巨大な資本を持つ中国企業の参入で淘汰(とうた)されかねないと懸念が高まり、学生の間でも、就職先が失われるとの認識が広まった。

加えて、中国企業による印刷業の寡占が進んだ場合、間接的に出版や言論の自由が侵されるのではないかという懸念など、中国側が目指す「中台統一」に利用されかねないとの不信感を生んだ。

2月中旬に中国・南京などで行われた、分断後初の主管官庁トップ(閣僚級)協議で、中国側から早期承認を求められたことも、問題の「政治化」を促したとみられる。

民進党は、協定の条項ごとの審議を求めて抵抗。立法院で過半数を占める国民党が今月17日、「審議が3カ月を超えた」として委員会審議を打ち切ったことで、学生らの乱入を招いた。

馬英九総統が23日の記者会見で「発展のために選択肢はなく、(承認は)これ以上待てない」と述べたことも、学生の反発を強めている。【3月27日 産経】
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“もう十分に審議した”とのことで審議を打ち切り、野党が反発するなかで強行採決へ・・・という話は、日本でも日常的に目にする政治風景です。

ただ、今の日本では、学生や一般市民が実力行使で政府の進める施策の中断・変更を迫るという状況はありません。
大規模な抗議行動としては、60年安保ぐらいでしょうか?もう半世紀前の話です。

世界的には、タイでも、ウクライナでも“実力行使”の花盛りです。

学生の立法院占拠については、当然に、民主的な選挙で選ばれた立法府の行為を実力行使で阻止するということが民主主義においてどうなのか?・・・という問題があります。

日本でそうした抗議行動な見られないのは、日本の民主主義が成熟しているからでしょうが、日本人の国民性、政治への無関心、社会全体のエネルギーの枯渇・・・も関係しているのかも。

****学生の立法院占拠 民主主義って何なんだろう**** 
赤いカーテンをふわりとまくり上げ、窓から入ってくる風が心地よい。

学生による占拠が3月18日から続く台湾の立法院。ヤシの木に囲まれた白い建物は、蒋介石時代の1960年代に建てられたものだそうだ。その壁には今、当局批判の垂れ幕が下げられ、イスでバリケードが築かれている。

学生たちが抗議しているのは、与党国民党が、中国との経済協定の承認を強引に進めようとしたことだ。
「選挙で選ばれたら、任期中、何をやってもいいというわけじゃないと思う。こんな大事なことを審議もせずに、30秒で決めるなんて、台湾の民主主義の否定です」

学生代表の一人、曽栢瑜(ツォンパイユイ)さん(22)は、立法院のなかに入ってきた私に対し、勢いよく訴えた。政治大学3年の女子学生。Tシャツの袖まで伸びた長い髪の毛が、カサカサと日差しに揺れながら、跳びはねている。

経済協定を締結し、対外開放を進めなければ、台湾経済に未来はないと曽さんは思う。でも、「香港は中国に返還されて、『言論の自由』が狭まった。中国の接近に、台湾人は不安を感じている。もっと情報を公開し、時間をかけて議論しなきゃ」

学生たちの表情に、議場占拠の緊迫感は感じられない。しきりに笑い声が上がり、歌も聞こえる。何か楽しそうだ。「太陽花(ヒマワリ)」運動とも呼ばれている。

――議会占拠も、民主主義の否定ではないですか。
「通常ならば、そうですよね。でも、代議員制度は完璧じゃない。今回の彼ら(与党)の行為には人々の声が反映されてない」

世論調査で、学生たちへの支持は約4割。一方で、馬英九総統が学生と対話することを望む人は8割に上る。台湾の世論は複雑だ。
「50万人」が集まった30日の集会で、学生は叫んだ。「私たちが提起したのは、今の民主制度への反省です」

一方、共産党一党支配の中国で、こうした議論は理解されない。
協定は「台湾同胞に利益を与えるもの」(中国政府)とされ、元軍人の友人は「台湾人は愚かだ。得するのは自分たちなのに、なぜ邪魔するんだ」と冷ややかに話す。

確かに民主主義はムダの多いシステムだ。多数決で物事を決める際も、少数意見に耳を傾け、議論を繰り返す。時間がかかるから、時に国家の利益を失うこともある。

そんな「決められない政治」に私たち日本人もイライラしていたのかもしれない。反動のように、安倍政権は今、特定秘密保護法や武器輸出三原則見直しといった重大案件を、数を頼りに推し進める。その性急さに疑問を感じる人は少なくない。

正直言って、分からなくなってしまう。民主主義って、いったい何なのか、と。

台北大学3年の許思思さん(21)は議場で私に言った。
「政治というものは、私たち一人ひとり、みんなのものだと思う。過去に多くの人が、この権利を得るために牢獄に送られた。彼らのおかげで、私は今、ここにいる。そのことに感謝したい」

選挙で選ばれた政権は何でもできるのか――。台湾の学生たちが投げかける問いは、民主主義を信じる私たちすべてに向けられている。【4月7日 古谷浩一 朝日】
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学生たちは、民主主義を失ったのは政権側であり、自分たちの行動は「民主主義救う行動だ」と主張しています。

****台湾:「民主主義救う行動だ」立法院占拠の学生指導者****
・・・・(学生指導者の)林さんは「(審議打ち切りにより)代議政治制度はもはや正常機能を失ったので議場を奪還した。民主主義を破壊するのではなく、救うためだ」と述べ、国会にあたる立法院を占拠するのは民主主義の原則に反するとの批判に反論。30日には総統府前でも抗議集会を実行すると宣言した。

就職難や住宅価格高騰が原因で、台湾の若者の生活は苦しい。
馬政権下で中台経済交流が活発化する中、学生らには、中国資本の進出により台湾の弱小企業が打撃を受け就職機会が奪われ、将来的に中国にのみ込まれる、との懸念もある。
一部メディアは、政権が協定発効を急ぐのは馬総統が中国の習近平国家主席との会談を実現したいため、と報じる。

林さんは「中台の経済交流自体には反対していない」とした上で「協定調印前に内容を確認する機能がない。ブラックボックスの中で調印されたのが問題」と主張。
内容を確認する機能を法制化し、その後で協定を再審議すべきだと訴える。

一方、政権は「就業機会も増え、台湾への経済効果は大きい」と説明。調印前も立法院や各種業界に対し説明会を開いており「ブラックボックスではない」と強調する。【3月29日 毎日】
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学生「この段階での任務を達成した」】
中台間の経済関係強化が台湾経済の生命線であると台湾の人々は認識はしていますが、接近しすぎて“大国”中国に呑み込まれてしまいかねない不安も多くの人々が抱いています。

そうした人々の不安が根強く存在するだけに、不人気の馬英九政権としては占拠を続ける学生たちへの強硬手段もとりづらく、次第に歩み寄る形でことを収めようという流れになりました。

****台湾総統、立法院占拠の学生らに歩み寄り示す****
台湾の 馬英九 ( マーインジウ )総統は29日、記者会見し、中台間で結ぶ協定に対し立法院(国会に相当)などによる監督権限を定めた法令を制定する考えを表明した。

昨年締結した中台の「サービス貿易協定」の撤回を求めて立法院を占拠している学生らの要求に応じ、歩み寄りを示したものだ。

馬氏は、「できるだけ(立法院の)今会期終了前に、(中台)協定に対する監督メカニズムの法制化を完成させたい」と述べた。サービス貿易協定の締結前に、台湾の関連業界などへの事前説明が不十分だったとの非難が根強いことを意識したためとみられる。その一方で、同協定の撤回そのものには応じない姿勢を改めて強調した。

30日には総統府前で学生らによる大規模な抗議集会が予定されている。馬氏は「平和的で理性的に意見を表明するように望む」と、学生らの行動が過激化しないように呼びかけた。【3月29日 読売】
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しかし、占拠を続ける学生らは政権側の譲歩では不十分だと主張、3月30日には台北の総統府前で、学生らが全土に呼びかけた大規模抗議デモが警察当局によると11万人超が参加する形で行われました。

4月6日、学生たちが占拠を続ける議場に王金平立法院長(国会議長)が足を運び、中国との協定を監視する新法の制定まで協定の審議を再開しないと明言したことで、ようやく事態が動きました。

学生側はこの発言を評価して、退去の検討に入りました。

ただ、王氏は馬英九総統とは政敵の関係で、馬総統はサービス貿易協と監視法の同時審議を主張していましたので、王氏の独断専行を馬総統が受け入れるのか・・・との危惧がありました。

結局、馬総統も“やむなし”ということに至ったようです。

****学生側「10日退去」発表 台湾議場占拠 馬総統、決定評価****
中国と昨年調印した「サービス貿易協定」の議会承認に反対し、台湾の立法院(国会に相当)議場を占拠している学生らは7日夜、本会議の定例日前日の10日に議場から退去する方針を発表した。一連の騒動は議場占拠から3週間で収束に向かう見通しとなった。

王金平立法院長(国会議長)は6日、占拠後の議場を初めて訪れ、対中協議を監視する新法の制定まで、サービス貿易協定の政党間協議は行わない意向を表明。学生側に歩み寄る姿勢を示した。

学生らの代表の一人は「この段階での任務を達成した」と評価し、退去を決めたと述べた。
また、「一つの中国」を建前とする行政院(内閣)の法案に対し、中台関係を「国と国」の関係とする学生側の新法案が「立法院に提出された」ことも理由として挙げた。

一方、与党の中国国民党の立法委員(国会議員)団は7日夜、同党主席の馬英九総統らも出席し、意見集約のための会議を開いた。

馬総統は王氏の発言について、政権の主張と矛盾しないとの見解を示し、新法の会期内の制定と速やかな協定審議を呼びかけた。さらに、学生らの退去決定を評価する声明を発表した。

国民党内では王氏の意見表明には事前の調整がなかったとして反発も出ていた。半面、国民党の●龍斌台北市長や胡志強台中市長が王氏に同調姿勢を示すなど、党論が二分される危機が浮上。

このため、馬総統としては、いわば善意に解釈する形で王氏に譲った格好となった。

ただ、馬総統は3月29日の記者会見では、新法制定と協定審議は「同時進行」との方針を打ち出していた。王氏とは反目する間柄とされ、11月には統一地方選も控えていることから、今後も両氏の確執が再燃する可能性も指摘されている。

民放世論調査で支持率が10%前後と低迷する馬総統は、対中対話の進展や貿易自由化促進という課題を抱えつつ、今後も厳しい政権運営を迫られそうだ。●=赤におおざと  【4月8日 産経】
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台湾版「いちご白書」は、どうやら学生側の抗議が成功する形で終わりそうです。

今回の政治的危機は中台間の緊張緩和がまもなく終焉するシグナル?】
国民党内部の馬総統と王氏の確執はともかく、台湾のこうした状況に強い苛立ちを感じている中国が、今後どのような対応に出るのかも注目されます。

****中台のデタントは終焉か/ウォールストリート・ジャーナル・アジア版(米国****
米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は3月28日付の論評記事で、台湾の学生らによる立法院の占拠は「中台間のサービス貿易協定の問題にとどまらない」とし、今回の政治的危機は中台間の緊張緩和(デタント)がまもなく終焉(しゅうえん)するシグナルかもしれないと指摘した。

デモの背景にある、中国への経済的依存が進むことへの懸念について、記事は「学生らと対立する馬英九総統ですら共有している」と分析。

例証として、馬総統がここ数カ月にわたって米国主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加など中国以外の国との貿易関係を拡大する必要性を強調していることを挙げる。

では、デモ勢力と馬総統の相違点は何か。記事はこう解説する。
「馬総統は、中国側の黙認があって初めて、台湾が新たな国際貿易関係を構築できると考えている。そのためには両岸(中台)のデタントが、サービス貿易協定などを通じて継続されなければならない」

現在の政治的混乱については、台湾の各勢力に厳しい見方を示した。
馬総統と与党の中国国民党は「民衆に十分な説明をしなかった」と指摘し、学生らの行為についても「不法な占拠」と批判。最大野党の民主進歩党についても「機に乗じた」とし、「すべての勢力がまずい対応をした」と断じた。

ただ、現在の混乱は中国への警戒感や恐れという「台湾の政治的潮流」を象徴しているとも分析する。
「台湾人は、中国の自国民に対する抑圧や、香港の自治権を認める約束を反故(ほご)にしたことなどを見てきた」と指摘する。

こうした潮流は、馬総統の任期満了より早く台湾の対中政策に影響する可能性があるとし、こう警鐘を鳴らす。
「その際、中国の指導者たちは両岸関係を以前のあしき日々に逆戻りさせる決断をして、いっそう危険な状態にするかもしれない」【4月8日 産経】
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香港では、1997年の中国返還後も保障されていた「言論の自由」をめぐる危機感が強まっており、本土との摩擦・軋轢も強まっています。

一党支配体制の中国が、民主的な香港・台湾を呑み込み、平和的に“消化”するのは、“大国”の圧倒的パワーをもってしても、そうそう容易なことではなさそうです。

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