孤帆の遠影碧空に尽き

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イラン大統領選挙  唯一の改革派候補の善戦も ヒジャブ問題では保守強硬派候補も柔軟姿勢

2024-06-26 22:20:13 | イラン

(イラン大統領選に立候補したジャリリ元最高安全保障委員会事務局長=テヘランで6月22日、WANAロイター【6月26日 毎日】 唯一の改革派候補として善戦も報じられています)

【盛り上がりを欠く大統領選挙 「改革は望めない」「誰が大統領になっても国はよくならない」 国民には諦めムードも】
イランでは、5月中旬に搭乗したヘリコプターがイラン北西部の山岳地帯で墜落して死亡したライシ大統領の後任を選ぶ大統領選挙が明後日28日に行われます。

イラン選挙制度特有の事前審査で、改革派や保守穏健派の候補が排除されたこともあって、「改革は望めない」という諦めの空気も色濃く漂う状況で有権者の関心はいまひとつもりあがらないようです。

****保守強硬派がポスト維持か イラン大統領選28日投票 「誰が大統領でも国よくならない」****
ヘリコプターの墜落で事故死したイランのライシ大統領の後任を選ぶ大統領選の投票が28日に迫った。

立候補した80人の大半が当局の事前審査で失格となり、出馬が認められたのは6人だけ。そのうち5人は欧米との融和に否定的なライシ師と同様の保守強硬派が占めた。

首都テヘランで有権者に聞くと、「改革は望めない」などと政治への失望感を強め、投票をボイコットすると打ち明ける人たちがいた。

24日に訪れたテヘランの繁華街で、設置されていた掲示板には、まばらに候補者のポスターが貼ってあるだけ。食品などのデリバリーで日銭を稼ぐモフセンさん(38)は、「誰が大統領になっても国はよくならない。かといって体制を批判すれば、すぐ投獄されてしまう」とこぼした。

ヤミ両替を営むレザさん(48)は「この国には夢も希望もない。政府は米国の経済制裁に対応できず、物価高が深刻で暮らしていけない」と憤った。モフセンさんもレザさんんも投票に行く予定はないと口をそろえた。

80人の立候補者の適性を審査し、6人に絞り込んだ「護憲評議会」は、メンバー12人のうち6人が最高指導者ハメネイ師が任命する聖職者で、保守派の影響下にある。

出馬が認められた保守強硬派5人で支持を集めそうなのが、ガリバフ国会議長と、アフマディネジャド元大統領時代に核交渉を担当したジャリリ氏だ。ガリバフ氏は政界に影響力を持つ革命防衛隊の元幹部。ジャリリ氏は最高安全保障委員会の元事務局長でハメネイ師の信頼が厚いとされる。

ただ、保守強硬派を巡っては、自由や民主化の障害になっているとして投票自体をボイコットする市民が増える傾向がある。ライシ師が当選した前回2021年の大統領選は投票率48・8%と革命以降で最低となった。

改革派からはペゼシュキアン元保健相が唯一、出馬する。外科医から政界に進出し、対米関係改善などを訴える。勝利には保守強硬派の支配を嫌う若年層やリベラル派の選挙参加が不可欠だが、体制への批判票を集め善戦するとの見方もある。

一方で保守票が割れるのを防ぐため、ガリバフ氏やジャリリ氏が投票直前に出馬を取りやめて一本化を図る可能性も残っている。

イランでは大統領は行政の長に過ぎず、国政全般の決定権は最高指導者が握る。ハメネイ師は推定84歳の高齢で、国民の不満が広がる中でも、反米の保守強硬派による支配を次世代に引き継がせる意向とみられる。
ライシ師は5月中旬、搭乗したヘリコプターがイラン北西部の山岳地帯で墜落して死亡した。【6月25日 産経】
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【善戦が報じられる唯一の改革派ペゼシュキアン氏 保守強硬派は直前一本化の可能性も】
「改革は望めない」「誰が大統領になっても国はよくならない」とは言っても、やはり保守強硬派の大統領と改革派の大統領ではやはりその違いは大きなものがあります。

今回選挙では絞り込まれた6人の中に改革派のペゼシュキアン元保健相が含まれているというのことの意味合いはよくわかりません。

保守強硬派が支える体制側としても、保守強硬派候補者だけの選挙となって極端に投票率が低くなって選挙の正当性が揺らぐこと、特にその国際的影響を懸念したものでしょうか。

いずれにしても、素人考えでも6人の中に改革派が一人という状況は、保守強硬派の票が分散し、改革派候補への現状批判票・体制批判票が集中し、結果的に改革派候補が上位に浮上する可能性も想像できます。

もし上位2名に改革派ペゼシュキアン氏が残って決戦投票となれば、現在の国民の諦めムードは一変する可能性もあります。

“ガリバフ氏やジャリリ氏が投票直前に出馬を取りやめて一本化を図る可能性も残っている”・・・・投票日が明後日に迫っているこの段階でやるのでしょうか? イランですから日本の常識は通用しないのでしょうが・・・26日22時時点では、そういう報道はまだ見ていません。

****イラン大統領選、改革派候補が「台風の目」 決選投票の可能性も*****
ライシ大統領がヘリコプターで事故死したことに伴うイラン大統領選は28日、投票が行われる。ライシ師の路線を支持する保守強硬派のジャリリ元最高安全保障委員会事務局長(58)とガリバフ国会議長(62)が有力候補とみられていたが、改革派から唯一、出馬が認められたペゼシュキアン元保健相(69)も支持を伸ばしており、「台風の目」となりつつある。

いずれの候補も当選に必要な過半数を得票できなければ、7月5日に上位2候補による決選投票が実施される。
 
大統領選は、最高指導者ハメネイ師が指名した聖職者などで作る「護憲評議会」が立候補資格の事前審査を行い、事実上ふるいにかける制度となっている。

2021年の大統領選では改革派や穏健派の候補者が出馬できず、ライシ師が圧勝。今回も候補者6人のうち、保守強硬派が5人を占めたが、改革派のハタミ政権で保健相を務めたペゼシュキアン氏の立候補も承認された。

世論調査機関「ISPA」が24日に発表した調査では、「投票に行く」と答えた人の各候補の支持率は、ペゼシュキアン氏24・4%▽ジャリリ氏24%▽ガリバフ氏14・7%。一方、投票先を決めていない人は30・6%に上った。

英紙ガーディアンなどによると、ペゼシュキアン氏は外交顧問として、2015年に米欧などと核合意を成立させた立役者の一人、ザリフ元外相を起用。選挙戦では米国が離脱した核合意の再建を通じ、欧米に経済制裁を解除させるべきだと訴えた。

一方、ジャリリ氏とガリバフ氏は中国やロシアとの連携を強め、経済を改善させる方針とみられる。

イランでは最高指導者が国政の最終決定権を持ち、大統領の権限は限られている。さらに、穏健派や改革派の実力者が立候補できなかったことから、失望した国民の多くは棄権するとの見方もある。

だが、ペゼシュキアン氏の陣営は選挙戦で「棄権はメッセージにならない。棄権すれば、イランをひどい状況に導く少数派に力を与えることになる」と訴えている。

ライシ政権は22年、全土で広がった女性権利の向上などを求めるデモを厳しく弾圧しており、国民の怒りを招いた。ペゼシュキアン氏は、候補者の中で警察による強硬な取り締まりに最も批判的とされ、当時のデモ参加者らに支持を広げられるかが注目される。【6月26日 毎日】
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当然ながら改革派ペゼシュキアン氏は、核合意の問題などで他の保守強硬派候補からは集中攻撃を受ける立場にあります。同候補顧問が生中継TV討論会で、怒ってマイク投げ捨てスタジオから立ち去る場面も。

****怒ってマイク投げ捨て、スタジオから立ち去る候補者…イラン大統領選挙は批判合戦が激化****
イラン大統領選(6月28日投票)に向け、保守強硬派と改革派の候補の批判合戦が激化している。米国などの制裁への対応をめぐる論戦が熱を帯びる中、国営テレビで生中継された座談会では、怒った改革派の顧問がマイクを投げ捨ててスタジオを立ち去り、物議を醸した。

(中略)今月6〜7日にイマーム・サディク大学が3000人を対象に行った意識調査によると、次期大統領に最も期待する政策はインフレ対策(45・2%)で、次に制裁解除(14・8%)だった。

経済制裁については、強硬派が抜け道による制裁回避を優先するよう主張しているのに対し、改革派は対話による制裁解除を目指しており、真っ向から対立している。

18日放送の国営テレビの座談会では、改革派候補のマスード・ペゼシュキアン氏(69)が、ロハニ前政権の外相として2015年に核合意をまとめたモハンマドジャバド・ザリフ氏(64)を顧問として伴って出演した。

強硬派候補のサイード・ジャリリ氏(58)が制裁下での石油輸出を可能としたと主張したことについて、ザリフ氏は「バイデン米政権が制裁を緩和したためだ」と反論した。イランに強硬な共和党のトランプ前大統領が返り咲く可能性があるとして、「反応が見ものだ」と拳を振り上げて批判した。

対話路線で保守穏健派のロハニ政権は核合意をまとめたが、トランプ米政権の一方的な合意離脱で制裁が再開された。ザリフ氏は強硬派から「戦犯」扱いされており、19日付の強硬派各紙は「負け組の再登場だ」と報じた。

改革派のペゼシュキアン氏の陣営は、強硬派の集中攻撃を受けている。文化を議題とした19日の座談会では、ペゼシュキアン氏と同席した顧問が、強硬派パネリストの国営放送大学学長から経歴を批判されて言い争いになり、生中継中の国営テレビが音声を遮断した。

怒った顧問はマイクを投げ捨ててスタジオを去り、残されたペゼシュキアン氏が「この行為が正しいとは言えない」と状況を取り繕う事態となった。【6月22日 読売】
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もっとも、こうした“集中攻撃”状態はペゼシュキアン氏の存在を際立たせる効果もあって、現状批判票・体制批判票を集めやすくなることにもなるのではないでしょうか。

候補者の支持率は調査によって差があるようです。
上記記事では“ペゼシュキアン氏24・4%▽ジャリリ氏24%▽ガリバフ氏14・7%”とのことですが、別の調査では・・・

****イラン大統領選、ハメネイ師側近vs元軍司令官のトップ争い…改革派の医師は3位****
(中略)外信は28日の大統領選挙を控え保守派候補2人がトップ争いを行う中で改革は候補が善戦していると評価した。 

最近の世論調査の結果、元外交官のジャリリ元イラン核交渉首席代表が支持率36.7%でトップとなり、元革命防衛隊空軍司令官のガリバフ国会議長が30.4%、元医師のペゼシュキアン元保健相が28.3%の順となった。

最高指導者ハメネイ師の側近であるジャリリ氏は最高国家安全保障会議議長を務めた強硬イスラム理念家と評価されている。

警察庁長官とテヘラン市長を歴任したガリバフ氏は2003年の学生民主化デモの際に実弾発砲を命令した人物として知られる。 

ペゼシュキアン氏はイラン護憲評議会が大統領選挙立候補者80人のうち最終候補として承認した6人の中で唯一の改革派だ。

ニューヨーク・タイムズは護憲評議会が彼を候補に残した理由について「投票率を高めようとする政府計画の一部」と分析した。

ペゼシュキアン氏は心臓外科医出身で、タブリズ医科大学総長を務めた。2022年のヒジャブデモ当時にはイラン女性の服装を規制する道徳警察と政府の強硬鎮圧を批判し、「強圧的な方法では信仰を強要できない」と主張した。

イランの保守派はイスラム教理原則を固守し、改革派は政治的自由と社会的変化を支持する傾向がある。 

反政府性向メディアのイラン・インターナショナルは、11~13日に行われた世論調査を引用し、投票意向がある有権者のうち浮動層が62%に達したと伝えた。このため残る3人の候補が終盤に浮上する可能性もあるという指摘が出る。 

(中略)ライシ大統領がハメネイ師を継ぐ有力候補の1人だった点から次期大統領選出はその後の最高指導者継承問題ともつながっている。 

ニューヨーク・タイムズは「今回の選挙の核心争点はインフレと失業など経済的困難、米国が主導する制裁、女性の権利。内部デモと米国・イスラエルとの緊張の中でイランが大統領死去にも揺らぐことなく対処できることを見せる機会」と評した。【6月26日 中央日報】
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こういう数字を見ると、保守強硬派としては投票日前日だろうが候補者一本化しないと改革派ペゼシュキアン氏を含む決選投票という事態に追い込まれる可能性がかなりありそうです。

【「選挙」の効用 保守強硬派と言えど、女性票を意識してヒジャブ問題では柔軟姿勢】
争点は先ずはインフレ対策、次に制裁解除ということですが、女性票を考えると女性の権利問題、具体的にはヒジャブ(スカーフ)強制の問題も大きな論点です。

この点について、保守強硬派候補者も女性票を意識して柔軟な姿勢を打ち出しているとか。

****イラン大統領補欠選挙の争点となった「ヒジャブ問題」****
「選挙と政治はさておき、いかなる場合にも女性を残酷に扱ってはならない」

28日に行われるイラン大統領補欠選挙に立候補したムスタファ・ポール・モハマディ元法相は21日のテレビ討論で、ヒジャブ未着用の女性弾圧について警告した。

イスラム法を厳格視する強硬保守の人物がヒジャブ着用をめぐる論争にこのような発言をすることはこれまで稀だった。米紙ニューヨーク・タイムズは24日、「ヒジャブ問題が大統領選挙の争点になっている」と報じた。

同紙によると、強硬保守派の5人を含め、今回の大統領選挙に立候補した6人の候補全員が、ヒジャブを着用していない女性を弾圧することに否定的な反応を示している。

先月、ヘリコプター事故で死亡したライシ前大統領の政権時代の2022年の「ヒジャブ不審死」に触発された反政府デモは、イラン全土を震撼させた。当時の反政府感情が再燃することを警戒しているとみられる。

今回の大統領選挙でヒジャブ問題を強調したのは、候補6人のうち唯一の改革派であるマスード・ペゼシュキアン氏だ。英紙フィナンシャル・タイムズによると、ペゼシュキアン氏は、「Z世代が問題視しているのは私たち(既成世代)だ。彼らは変化を望んでいるが、私たちは変わっていない」と述べ、ヒジャブを着用していないという理由で女性を弾圧するイスラム法はないと主張した。

有権者6100万人のうち半分を占める女性有権者は、大統領選挙で誰が当選してもヒジャブ義務化方針が廃止されるとは思っていないという。

しかし、「すでに変化は始まっている」というのが現地のムードだと、同紙は伝えた。ファッションブロガーのファヒメさん(41)は、「女性たちはヒジャブを脱ぐことについて当局の許可を待たない。すでに多くの人がヒジャブを着用していない」と話した。【6月26日 東亜日報】
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もちろん選挙前にこうした柔軟姿勢を見せていながら、政権獲得後は一転、強硬姿勢に転じる・・・というのはよくあることでしょうが。

さはさりながら、保守強硬派といえどヒジャブ問題で柔軟姿勢を見せざるを得ない・・・・事前審査などイランの選挙制度の問題や大統領権限が限られていることはあるものの、やはり民意を問う選挙というのはそれなりの効果はあるみたいです。

まともな選挙のない中国や有力候補を排除したロシアなどよりは、イランの方がまだ欧米的「選挙」に近いものがあります。

【仮に改革派大統領が誕生しても・・・】
ただ、今の段階で言及するのはいかにも早すぎますが、仮に改革派大統領が誕生したとしても、これでもそうであったように、最高指導者の存在、体制を固める保守強硬派の壁によって、実際にはなかなか政策実現ができないという事態は想像されます。

ハメネイ師も警告のような発言を。

****イラン最高指導者、対米接近論を批判 大統領選挙めぐり****
イラン最高指導者のハメネイ師は25日、28日投票の大統領選を巡り「米国の恩恵なしには一歩を踏み出せないと考えている者は、うまく国家を運営できない」と語った。米国との接近を念頭に対外融和的な姿勢を示す改革派候補に否定的な認識を示した。(後略)【6月26日 日経】
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