孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エボラ出血熱  西アフリカ全域での感染者の「飛躍的増加」も危惧される

2014-09-13 22:32:12 | 疾病・保健衛生

(リベリアの首都モンロビア 感染が疑われる少年を治療施設に運ぶスタッフ “flickr”より By standbytaskforce1 https://www.flickr.com/photos/127488415@N04/15192036282/in/photolist-oLxqnW-p4GcEM-p4HgDd-p9ta73-p4Eipy-oQYVdX-oReChb-oLwiZ6-oSKKxu-oUDHgc-oNhy4f-p1Vm5f-p9v7Cp-oS1nEY-oS1VSa-p9iXQT-oLfnKz-p4TnFX-oPLAVd-p9S6mw-p27MgG-p29BGR-p27MfQ-oJDNS4-oLwJrb-oSbwYW-p6GY4F-p6YqXV-pbEMbg-oSR8AV-oUiwez-oUaVth-pbEMcD-p9tccq-p9tcgy-oUjFRX-oUjDCQ-p9LWY3-pbxcoB-pbLV6j-oUj3FC-oSWSHj-oNdkxP-p3EzbU-oJE5dA-p9etH8-oR7q8A-p3Ewub-oNczWc-oNcMnj

最多の犠牲者を出しているリベリアのサムカイ国防相は9日の安保理で、「リベリアは国家存亡をかけた深刻な脅威に直面している」「(エボラ出血熱は)野火のように、その進路上にある全てをのみ込みながら拡大している」と述べています。)

感染拡大の現状に「完全に圧倒されている」】
西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱について前回取り上げたのが、8月22日ブログ「エボラ出血熱  感染国での混乱拡大 不十分な国際支援 急がれる治療薬の量産」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140822)でしたが、その時点での犠牲者は1350人でした。

9月12日時点では2400人を超えたとWHOは発表しています。(感染者は4784人)

しかし、感染中心部では医療体制が崩壊していおり感染状況が十分に把握されていないことや、現地住民の間で医療体制への不信感が強く適切な受診が行われていないことを考えると、実際にはもっと犠牲者が多いことも推察されます。

また、膨大な感染者が存在していることから、今後とも犠牲者がハイペースで増え続けることも危惧されます。
“世界保健機関(WHO)は、西アフリカ全域での感染者の「飛躍的増加」を予想しており、特にリベリアでは今後数週間で数千人規模の新たな感染者が出る恐れがあると警告している。”【9月10日 AFP】

空気感染はしないというウイルス特性にもかかわらず、ウイルスとの戦いは後手に回っており、関係者からは「闘いに負けている」「完全に圧倒されている」といった悲鳴にも似た発言が出ています。

****<国連>エボラ出血熱「封じ込めの闘いに負けている」警告****
国連本部で2日、西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱の感染拡大に対処するための会合が開催された。

現地で治療にあたっている国際医療団体「国境なき医師団」のジョアンヌ・リュー会長は「国際社会は、感染の封じ込めに向けた闘いに負けている」と指摘。
生物的脅威に対処する知識をもった文民、軍人の専門家を派遣するよう各国に求めた。

世界保健機関(WHO)によると、これまで確認された感染者数はリベリア、シエラレオネなどで約3500人、うち1500人以上が死亡。リュー会長によると、同医師団のスタッフは感染者全体の3分の2以上を治療してきたが、感染拡大の現状に「完全に圧倒されている」という。

リュー会長は人員の投入に加え▽隔離施設の拡大▽可動式の医療・実験施設の導入▽現地で感染した医療関係者を治療するための地域ネットワークの構築--などの必要性を訴えた。

また、WHOのマーガレット・チャン事務局長は会合後の記者会見で、エボラ出血熱は比較的孤立した集落で発生することが多かったため「すべての関係機関が規模を過小評価していた」と話した。

一方、航空路線の運休などによる感染国の「孤立化」で、国連スタッフや専門家の現地派遣にも支障が出ていることを指摘。
出国時に検査を徹底することで他国への感染拡大の危険性は「極めて小さくなる」とし「孤立化は事態の解決法ではない」と語った。【9月3日 毎日】
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状況はその後も改善せず、WHOのマーガレット・チャン事務局長は12日にも、被害が大きい国の1つであるリベリアでは「感染者の治療に提供されるベッドが全国規模で1つもない」との憂慮すべき状態にも言及、状況は現地対応能力を超えていると指摘しています。

【「今われわれが一番必要としているのは(現場の)要員なのです」】
問題は多々ありますが、医療スタッフが犠牲になることが多いことや、感染の恐怖から逃げ出してしまうことなどもあって、とにかく現地では医療スタッフが絶対的に不足しています。

そうした中で、国策としての医療スタッフ国外派遣では実績があるキューバが大規模な派遣を発表しています。

****キューバが最大の医療団を派遣****
・・・・キューバのロベルト・モラレス・オヘダ保健相はジュネーブでの記者会見で、エボラ熱で500人を超える死者が出ているシエラレオネに医師62人、看護師103人を派遣すると発表した。キューバの医療チームは西アフリカに6か月間留まるという。

参加者全員が「これまでに各種の惨事の対処に参加した経験があり」、全員が派遣に志願したという。

キューバには世界的に評価が高い医療従事者を世界各地の被災地などに派遣する伝統があり、今回のエボラ流行で外国から派遣される医療チームとしては最大になる。

実験的な治療を通じていずれはエボラ出血熱の治療法が確立されるのではないかとの希望が出ているが、WHOのチャン事務局長は、「今われわれが一番必要としているのは(現場の)要員なのです」と強調して、キューバ政府の発表を歓迎した。

WHOは、西アフリカ全体でのエボラ禍の拡大を阻止するには、さらに外国人保健衛生専門家500人と現地の医師と看護師1000人が必要だと推定している。【9月12日 AFP】
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“全員が派遣に志願した”という実態はよくわかりませんが、こういう事態にあっては非常に助かる話ではあります。
ただ、まだ1桁多い数字が求められています。

食糧支援体制も必要
医療体制だけでなく、感染地域の食糧問題も深刻化しています。

****薬だけでは治せない」=エボラ感染地への食料支援急務―WFP事務局長****
国連世界食糧計画(WFP)のカズン事務局長は13日、エボラ出血熱の感染が広がるギニア、シエラレオネ、リベリアの西アフリカ3カ国について「薬だけでは病気は治せない。飢えている人にいくら医療処置を施しても不十分で、食料も水も必要だ」と強調、食料支援が急務だと訴えた。東京都内で時事通信社などとのインタビューで語った。

感染者が出た集落は封鎖され、周辺から隔離されてしまう。WFPは現在3カ国で14万人に食料支援を行っているが、その数は今後3カ月で130万人に増えると予想している。

隔離された集落では「作物の収穫もできないから、食料をめぐる影響はさらに大きくなる」と事務局長は警告する。

流通が滞り、食料価格の高騰が始まっており「食料品の購買力がもともと低い貧困層が真っ先に犠牲になる」と支援拡充への協力を日本を含め国際社会に呼び掛けた。【9月13日 時事】 
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感染地域を十分な食糧支援なしに隔離閉鎖してしまうことは、当局と現地住民との間の緊張を高め、協力体制も難しくなります。
感染しなくても餓死してしまう・・・といった事態になったら、ますます悲惨です。

シエラレオネ 外出禁止令のもとで一斉調査、感染者を把握へ
感染封じ込めには感染者の把握が大前提となりますが、感染者が把握しきれていない現状を打開するため、シエラレオネでは外出禁止令を出して全戸一斉調査を行う予定とされています。

****シエラレオネ、全世帯訪問でエボラ患者特定へ****
シエラレオネ当局は8日、エボラ出血熱の感染者特定や遺体の適切な処置のため、人口約600万人の同国内の全世帯を訪問する計画を発表した。

同国エボラ緊急対策センターのスティーブン・ヌガオジャ氏は記者会見で、先日発表された19~21日に施行予定の外出禁止令の一環として、ボランティア2万1400人が国内の全世帯を個別訪問すると説明。

エボラ感染が疑われる患者を特定するとともに、遺体を発見した場合は接触者の追跡や埋葬を担当するチームに報告するという。

今回のエボラ出血熱流行の中心となっている西アフリカ3か国での死者は2000人を超えており、うちシエラレオネでは491人が死亡している。

シエラレオネ政府は6日、「この恐ろしい病気(の実態)を確実に把握するため」として、19日から72時間の外出禁止令を発令すると発表。この間は必要不可欠な業種関係者を除いて、人々が屋外に出ることや車両の通行も禁じられる。【9月9日 AFP】
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うまくいけば感染者を把握でき、今後の事態改善の糸口になりますが、現在の混乱状態でボランティア2万1400人を動員するという計画がどのように実行されるのか・・・・。

72時間の外出禁止令は市民生活に多大な負担をもたらします。
ただ、このような一斉に網をかけるような方法をとらないと、いつまでも感染が拡大し続けます。
政府は必要があればその後も複数回にわたり、同様の外出禁止措置を取る方針です。

野生動物の肉(ブッシュミート)からの感染の危険はアフリカ以外でも
現在の感染拡大はウイルス保持者および遺体の体液を通じて起きるいわゆる「接触感染」によるとされていますが、もともとの発生源は、感染した野生動物の肉(ブッシュミート)を食べたり、調理時に傷口から感染したりしたことが考えられています。

****サル食肉が運ぶ死のウイルス*****
・・・・今回のエボラ熱感染拡大の正確な原因は不明だが、ウイルスはザイール株に似ているもののギニア固有の株で、ブッシュミートが感染源だった可能性を示唆している。

果実などを主食とするオオコウモリは、エボラウイルスの「自然宿主」(ウイルスが長期間寄生しても害を受けない)とされている。

そのコウモリが食べ残した果実を食べたほかの動物が、付着していた唾液を介してウイルスに感染するのではない
かと考えられている。

そうして感染した動物からヒトに感染する。(中略)

ヒトの場合は感染した動物を殺して解体する際に、手の傷などから血液が体内に入って感染する可能性が最も高い。

しかし「正確なところは分からない」とアメリカ自然史博物館の保全遺伝学部門を率いるジョージ・アマートは言う。

アマートによれば、感染した動物の肉を適切な処理をせず食べたために感染が拡大した可能性も大いにある。(後略)【9月16日号 Newsweek日本版】

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オオコウモリはブッシュミートのなかでも最も需要があり、ガーナだけで年間推定10万匹が売られているそうです。
そのほか、ヒヒ、チンパンジー、マンガペイ、オナガザル、アフリカアシネズミなどの肉が食用とされることがあります。

アフリカの人々にとっては、「生きるためには食べるしかない」という側面もありますが、同時に食文化として、海外移住者にとっては“懐かしい味”ともなります。

そのため、アフリカからの移住者が多いアメリカなどでも、ブッシュミートからの感染は起こりうるとも指摘されています。

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西アフリカ出身者7万7000人が暮らすニューヨーク市は、アメリカのブッシュミート売買の中心地だ。

西アフリカからアメリカヘの直行使はごくわずかで、旅行者の大部分は西ヨーロッパ経由でやって来る。
10年の研究によれば、パリのシヤルル・ドゴール国際空港に持ち込まれるブッシュミートは年間推定273トン。そこからさらにアメリカヘ、という例も多い。

ブッシュミートは珍重され、ますます貴重になっているため、密輸は増え続けている。
02年の米議会聴聞会によれば、ブッシュミートの取引総額は「年間5000万ドル超に達しており、今後20年間で億単位に成長する可能性がある」。

ブッシュミート取引は違法なので正確なデータはないが、過去10年間でアフリカ生まれの移民が増加しているのに伴って、取引も増えている可能性が十分ある。【同上】
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野生動物からヒトへの感染が懸念される地域としては、中国も指摘されています。

****SARSはコウモリから*****
今日ではグローバル化によって人間、そしてブッシュミートも簡単に国境を越えるようになり、感染症が地球規模で拡大する確率が以前より高まっている。

「いい例が中国だ。あの国ではさまざまな種類の野生動物を殺し、倉庫や市場で積み重ねて貯蔵する」とアマードは指摘する。
「普通なら決して接触することのない病原菌と微生物が接触する環境が生まれている」

そうした環境では、同じ個体に感染した異種のウイルスの遺伝子が互いに取り込まれる「遺伝子の水平伝播」と呼ばれる現象が起きやすい。

水平伝播の最悪のケースは、強力だが無害のウイルスの遺伝子が、脆弱だが致死性の高いウイルスに取り込まれスーパーウイルスが誕生すること。

02~03年に世界を震憾させたSARSがそうだった。
SARSの大流行は中国南部にある動物の肉を売る市場から始まった。

SARSウイルスの自然宿主はコウモリ。咸心染したコウモリが市場で食用のジャコウネコの近くに置かれていたのだ。

ウイルスは突然変異を起こしながらコウモリからジャコウネコヘ、そして人間へと感染。
32力国・地域で8000人以上の患者が出る結果となった。【同上】
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治癒者の血液を輸血する方法も
話を西アフリカのエボラ出血熱に戻すと、治験段階の治療薬が投入されていることはこれまでも取り上げてきましたが、病気が治った人の血液を輸血することで、一度エボラウイルスを撃退した人の体内に存在する抗体を別の人の体内に入れることができるのではないかという方法も試されています。ただ、問題点もあるようです。

****エボラ出血熱、治った人の血液で治療 実践にはリスクも*****
(上記輸血治療が施された)サクラ氏の容体は快方に向かっているが、その理由が(エボラ出血熱が治癒し、血漿を提供した)ブラントリー氏の血漿なのか、サクラ氏に投与された別の実験薬なのか、あるいは単に近代的な病院で治療を受けているからなのかは分からないと医師らは話している。

仏パスツール研究所のウイルス学者、ノエル・トルド氏は、エボラ出血熱が治った人の血清には、エボラウイルスを無力化する抗体はそれほど多くは含まれていないといういくつかの研究があると指摘する。(中略)

エボラ出血熱が治った人の血液を輸血するという治療法は、西アフリカで使える簡単で低コストの対応策のように思える。

現に、今月行われたWHOの会議では、参加した約200人の専門家が、血液療法と回復期の血清療法はすぐに利用できるという考えで一致した。

しかし、仏パリのピティエ・サルペトリエール病院で感染・熱帯病部長を務めたフランソワ・ブリケール氏は実際にはリスクもあると言う。

「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)や肝炎ウイルスを広げないよう、まず血清が安全であることを確認しなければならない。そのための技術は先進国では一般的だがアフリカで実践するのは難しい。病気の流行の真っただ中では、あらゆることをチェックすることは主な関心事にはならない」

上述のクラウスナー氏も、適切な手段がなければ治療を受けた患者がエイズや梅毒にかかったり、輸血の副作用が出たりする恐れがあると指摘している。【9月13日 AFP】
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