孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

天然痘「ヒトが唯一勝利した感染症」 廃棄したはずのウイルスが冷凍庫の中から?

2021-11-19 23:07:03 | 疾病・保健衛生
(天然痘ウイルスの電子顕微鏡写真【11月17日 CNN】)

【冷凍庫の奥から天然痘ウイルス?】
日本の新型コロナ感染は(不思議なくらいに)落ち着いた状況になっていますが、一方で、(未接種が一定に存在するとは言え)一定にワクチン接種が進んだ欧州や韓国で感染が再拡大している事実は、コロナとの戦いが一筋縄ではいかないことを示しています。

そんななかで、ドキッとするニュースが。

****「天然痘ウイルス」と書かれた瓶、研究所の冷凍庫で発見****
疾病対策センター(CDC)は16日、数十年前に根絶された伝染病、天然痘の表記がある複数の小瓶が、東部ペンシルベニア州のワクチン研究施設で見つかったことを明らかにした。

瓶は冷凍状態だった。中身に異常はみられず、だれかが接触した形跡もないという。

CDCによると、研究施設の冷凍庫を片付けていた職員が偶然見つけた。CDCと関係機関、捜査当局が詳しく調べている。

天然痘はかつて年間1500万人が感染し、そのうち約3割が死に至る疫病として恐れられていたが、1980年に世界保健機関(WHO)が根絶を宣言した。米国での感染は47年を最後に報告されていない。

2014年には東部メリーランド州で、国立衛生研究所(NIH)の研究室を移転するための準備作業中、倉庫から天然痘ウイルスのサンプルと書かれた6本の瓶が見つかり、このうち2本から生きたウイルスが検出された。

天然痘ウイルスのサンプルを保管し続けるか、完全に処分するかをめぐっては、各国政府の間で議論が続いている。【11月17日 CNN】
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【「ヒトが唯一勝利した感染症」 ウイルス保有は米ロの施設2か所だけ・・・のはずが・・・】
新型コロナや多くの感染症とヒトとの戦いが続く中で、天然痘は「ヒトが唯一勝利した感染症」とも言われてきました。

****ヒトが唯一勝利した感染症 天然痘****
人類の歴史は、感染症との闘いの連続であったと言っても過言ではありません。

感染症を撲滅するため、先人たちは、下水や上水道の整備、住宅環境の改善、予防接種の普及、抗菌薬の開発など、たゆまぬ努力を続けてきました。その結果、20世紀半ばには結核や肺炎などの感染症で死亡する人は急激に減少しました。1960年代には、専門家が「人類は感染症に勝利した」と錯覚したこともありました。
 
しかし、そう思えたのも、つかの間のことでした。
エイズ、プリオン病、SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルエンザ、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラウイルス感染症など、たくさんの新たな感染症が出現しています。感染症との闘いは、勝利には程遠い状況と言えるでしょう。
 
これまでに唯一勝利を収めたと言えるのは、天然痘との闘いです。
 
天然痘は、天然痘ウイルスによって引き起こされます。ヒトにしか感染せず、ヒトからヒトへ飛沫(ひまつ)を介して感染します。1~2週間の潜伏期の後、急激な発熱や頭痛、関節痛で発症し、数日たつと発疹が出現します。発疹は水疱(すいほう)性となり、やがて水疱が化膿(かのう)して膿液がたまった膿疱(のうほう)となり、かさぶたへと変化します。助かる場合には2~3週間で回復しますが、死亡率は20~50%に達します。
 
発疹のあとが「あばた」として残るため、江戸時代には「見目定(みめさだ)め(見た目を悪くしてしまうこと)」と言われました。天然痘の流行は古代エジプトでもあったという人もいますが、確証はありません。
 
しかし、少なくとも16世紀のヨーロッパではすでに猛威を振るっていて、当時子供を中心に多くの人々の命をさらっていました。

さらに、流行地のヨーロッパから中南米に持ち込まれると、感染は爆発的に拡大し、人口が激減したとされています。アステカ帝国やインカ帝国が滅んだのは、侵略者との戦いもさることながら、ヨーロッパから持ち込まれた、天然痘などの新しい感染症の影響が大きかったようです。
 
1796年、イギリスの田舎で開業していたジェンナーは、「牛がかかる牛痘に感染した農民は天然痘にかからない」という言い伝えにヒントを得て、ある少年の皮膚に傷をつけて牛痘にかかった農民の発疹の膿(うみ)をすり込みました。その後数十例の症例を重ねて効果を確認し、1797年にその成果を発表しました。
 
実は、「種痘」はジェンナー以前にも農村で行われていたようですが、きちんと検証して世の中に認めさせたのは、やはりジェンナーの功績と言えるでしょう。
 
この種痘に使われた膿は、今でいえばワクチンにあたります。ヒトからヒトへ接種して引き継がれたワクチンは、1848年に日本にもたらされ、全国に普及していきます。
 
1956年以降、日本国内で天然痘の発生はなく、世界的にも77年のソマリア人が最後の感染者になりました。WHOは80年に天然痘撲滅宣言を行いました。
 
種痘は日本や米国、カナダでは実質的には72年に乳児への接種が中止され、その後、日本では80年に法律で廃止されています。【2017年10月6日 弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授 萱場広之氏 朝日】
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ジェンナーの種痘実験は、今の基準で言えば人体実験に近いようなものかも。ただ医学の発達の歴史はそういうものでしょう。

また、「1960 年代、当時普及した Lister 株(主にヨーロッパ)、NYBH 株(主に米国)、池田株(日本)等 6 種類程の牛皮型ワクチン株が使用 されていた。これらのワクチンは副反応が強く特に 神経合併症による種痘後脳炎が社会問題として起き た。日本は 1972 年から Lister 株に変更されたが年度別の脳炎・脳症発生率は 100 万人の初種痘当たり 20 人前後、死亡率は年度により差があるが平均すると 6 人程度と報告されている。」【「種痘廃止して 28 年目の痘瘡抗体保有状況」 武内安恵氏等】といったワクチン副作用リスクは、新型コロナワクチンに比べて小さいものではないようにも思えます。

ワクチンを含め医薬品には必ず副作用・副反応がありますので、悪戯にそうしたリスクを騒ぎ立てるのではなく、ベネフィットとの冷静な比較を行うバランス感覚が重要になります。

日本では1976年(昭和51年)に定期種痘が廃止されていますので、それ以降の世代(40歳代前半より若い世代)は免疫を持っていません。世界でも同様。

免疫のないものが天然痘ウイルスに接触すると罹患率 は 80%近くとなり、発症後の死亡率は 40%を超えると言われていますので、冒頭ニュースにドキッとした次第です。

なお、根絶宣言後もアメリカとロシアは「研究用」に天然痘ウイルスを保有し続けており、これが万一市中に漏れだすと・・・という脅威があります。

****天然痘ウイルスの処分 ****
根絶宣言と前後して WHO は世界各地で研究用と して保管されていた天然痘ウイルスの廃棄に取りかかった。

米露以外の国で持っていたウイルスは 1980 年頃までに廃棄し、残余は米国とロシアの 2 つの研究所に送られた。

WHOの廃棄処分決議にも拘らず、米露 2 カ国は「生物テロ対策」研究用として処分反対し、その後 2 カ国が独占保有して現在に 至っている。

衝撃的なことは旧ソ連の崩壊によって ロシア共和国に保管されていた大量の天然痘ウイル スが 80 年代後半から 90 年代初めにかけて科学者と 共に他国に散逸し、テロ国家の手に渡っている可性が出てきたことである。【同上】
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【今回は天然痘ウイルスではなかったものの、リスクは常に存在】
世界で唯一ウイルスを保管している米ロの研究施設(ジョージア州アトランタにあるCDCの施設と、ロシアのコルツォボにある国立ウイルス学・生物工学研究センター)からの流出も(人間のやることにはミスが絶対にあり得ますので)可能性ゼロではありませんが、そうした施設の奥深くからではなく、そこらの冷凍庫の中からひょっこり・・・というのは怖すぎます。

“このほかの施設でも天然痘ウイルスが保管されている可能性はあり、それが誤って、あるいは意図的に流出される可能性が懸念されている。CDCは「そのような事態が起きれば、破壊的な影響がもたらされかねない」と言っている。”【11月18日 Newsweek】

確認の結果、今回は天然痘ウイルスではなかったようです。

****「天然痘」と記載の瓶、中身は天然痘ウイルスではなくワクシニアウイルス 米****
 米ペンシルベニア州のワクチン研究施設で「天然痘」と記載された瓶が複数見つかった件で、米疾病対策センター(CDC)は18日、中身は天然痘を引き起こす天然痘ウイルスではなく、天然痘ワクチンの作成に用いられるワクシニアウイルスと判明したと報告した。

CDCは16日、「天然痘」との記載がある瓶が数個見つかったことを確認していた。
検査の結果、中身は天然痘ウイルス(バリオラウイルス)と近縁のワクシニアウイルスであることが判明した。ワクシニアウイルスは天然痘ワクチンの作成に使われ、「ワクチン」の語源となっている。

CDCは声明で「天然痘の原因となるバリオラウイルスが瓶に含まれている証拠はない」と説明。州や地元保健当局、法執行機関、世界保健機関(WHO)と緊密に連携しているとも述べた。(後略)【11月19日 CNN】
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今回は無事にすんだようですが、こんな形で終わったはずの感染症が再び人類を襲う・・・という危険性は、映画・小説の中だけではないようです。

シベリアの永久凍土が温暖化でとけだすと、凍土のなかから太古の未知のウイルスが出現することも、あるいは、人間の活動領域が拡大することで野生動物との接触機会が増えて、新たな感染症が・・・・、あるいは、これまでのありふれたウイルスが変異で強毒化する・・・といった危険も。

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