孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シェールガスのもたらすエネルギー事情変化

2013-02-18 23:42:45 | 原発

(欧州ではシェールガス採掘の環境面での問題が強く指摘されています。昨年12月、ロンドンでフラッキング(水圧破砕法)について、「環境汚染が否定できない、予測も規制も不可能なプロセス」と反対をアピールする活動家。イギリスでは、シェールガス生産の一時停止措置を解除し、シェールガス開発を本格化する方針がだされています。 “flickr”より By AdelaNistora http://www.flickr.com/photos/adelanistora/8236858444/

シェール革命で持ち直すアメリカ経済
“2008年のリーマンショックから4年が過ぎ、アメリカの経済には、注目すべき、明るい変化が見られるようになりました。第1に、住宅市場の持ち直し、第2に、製造業の国内回帰、そして第3に、シェール革命という動きです。いずれもアメリカ経済の根本的変化につながる動きです”【1月29日 NHK解説委員室】というように、与野党間で膠着している債務上限問題など、政治が足を引っ張らなければアメリカ経済は今後回復軌道に乗るのでは・・・というのが一般的な見方です。

アメリカ経済回復を支えている大きな要因である、シェールガス・オイルによる“シェール革命”については、このブログでも何回か取り上げてきました。

****シェールガスとは****
泥岩の一種で深さ2000メートル以上の頁岩(けつがん)層から採掘される天然ガス。掘削技術の確立で開発が可能になり、米国などで生産が急拡大。09年ごろから米国の天然ガス価格が下がり「シェールガス革命」と呼ばれる。日本に輸入する場合は液化天然ガス(LNG)にしたりするために費用がかかるが、現行のLNG価格よりも3割程度安く調達できる計算。【1月20日 毎日】
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アメリカは、天然ガス生産で3年以内にロシアを上回り、世界最大の生産国の座に着くとも予測されていますが、シェールオイル増産によって、原油においても2017年までにアメリカがサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となるとの見通しが発表されています。

アメリカの原油産出増加は経済問題への影響だけでなく、これまで中東の原油を必要としてきたため、不可避的に政治的・軍事的に中東に関わらざるを得なかった訳ですが、今後はそうした中東の制約がはずれるという意味で、アメリカの世界戦略の大きな転換をもたらす可能性もあります。そのあたりの話は、また別の機会に。

日本への輸入に向けた動き
シェールガスについて、現在日本が利用している液化天然ガス(LNG)と比較すると、「100万BTU(英国熱量単位)」という単位当たりでみたとき、LNGは15ドルほど。これに対し、アメリカのガスは3~4ドル。仮にアメリカのガスを日本に輸入できれば、液化して船で運ぶ費用6ドルを加えても10ドルほどですむ・・・という大きな価格差があります。

したがって、日本にシェールガスを輸入して・・・という話になるのですが、そうした「シェール革命」の日本への影響については、12年11月15日ブログ「アメリカで拡大するシェールガス革命 日本への影響 国際関係・温暖化対策・原発政策にも影響」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121115)で取り上げました。

そのなかで事実誤認がありました。
“大阪ガスと中部電力は、米国産シェールガス(岩盤層にある天然ガス)を輸入する契約を米国企業と結んだ、と31日発表した。2017年からそれぞれ最大年220万トンを輸入する。”【12年7月31日 朝日】ということで、“アメリカ産天然ガス輸入が現在全く認められていない訳ではないようです”と書いたのですが、上記契約について、まだアメリカ政府の承認はおりていないようです。

アメリカはLNGを戦略物質とみなし、輸出を個別の許可制にしています。
日本の各社がアメリカのシェールガス開発に相次いで参加していますが、日本への輸出にはアメリカ政府の個別承認が必要となります。その際、アメリカはFTAを締結している国とそれ以外で差をつけており、FTAを結んでいない日本はガス輸入のハードルが高い状況にあります。【12年2月24日 「化学業界の話題」より】

ただ、こうした厳しい状況も改善の動きが出ているようです。
2012年3月、来日したアメリカエネルギー省のチュー長官は、日本へのLNGの輸出について「輸出許可を出すかどうかは報告書が出てから判断したい。」とコメントしていました。
その「報告書」が昨年12月発表され、「シェールガスを含む天然ガスを輸出すればアメリカ経済にとってプラスになる」との内容でした。

こうした動きを受けて、具体的な輸入に向けた交渉が始まっているようです。
****関西電力:米国産シェールガスの輸入交渉開始****
関西電力が米国産の天然ガス「シェールガス」の輸入に向け、米エネルギー企業や国内の商社など複数社と交渉に入ったことが19日、分かった。将来的に米国でのシェールガスの権益取得も検討する。

関電は原発の停止で、火力発電向けの燃料費負担が高まり、4月に値上げに踏み切る。掘削技術の向上によるシェールガスの増産で、米国産天然ガスは低価格化が進んでおり、輸入できれば燃料費の圧縮にもつながりそうだ。

米国は原則、自由貿易協定(FTA)締結国にしか天然ガスの輸出を許可しておらず、非締結国の日本は輸入できない。だが、米エネルギー省は昨年12月、「輸出は米国経済に利益をもたらす」との報告書を公表。
早ければ今年前半にも米政府が天然ガスの日本への輸出を許可するとの見方が強まっており、関電が早期調達に踏み切る可能性もある。

原発停止の影響で火力発電の稼働率が高まっている関電は昨年度、例年より約200万トン多い約740万トンの液化天然ガス(LNG)を輸入。原油の輸入増などもあり、火力発電用の燃料費は約2倍の年約9000億円になり、4月に電気料金の値上げをする方針だ。

安い米国産LNGの輸入比率が上がれば、燃料費の抑制効果が期待できる。関電はシェールガスの権益の獲得や液化委託事業も検討しており、利益の上積みも目指す。北米のほか豪州や欧州からのLNGの権益取得も検討しており、コスト削減を追求する。

また、液化天然ガスの輸入価格は、アジアでは、原油価格に連動する仕組みで、このところ高止まりしている。これに対して、米国産天然ガスは安いだけでなく、原油価格に無関係な値動きをするため、「シェールガスの輸入で燃料調達を多様化させ、財務リスクの抑制と安定調達を進められる」(関電幹部)という。【1月20日 毎日】
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なお、アメリカのエネルギー多消費型の産業界(発電業界、化学、アルミ等)は、LNG輸出により国内ガス価格が上昇するのを懸念し、一定の制限を設けるべきとの主張しています。

エネルギー間、産出・消費国間での競合・調整
LNG取引は個別性の大きい長期契約という特殊性はありますが、仮に、直接のアメリカからのLNG輸入がすぐには進まなくても、安価なシェールガスが大量に産出され続けば、アメリカのシェールガス増産・価格下落でアメリカ国内の発電用石炭が天然ガスに変わり、余った石炭が安値で欧州に輸出され、欧州ではロシアからの高い天然ガス輸入を減らし、ロシアは欧州に変わる天然ガスの販路として日本にアプローチする・・・というように、競合するエネルギー資源、産出国、消費国を巻き込んだ世界規模の価格調整が機能しますので、少なからず日本の利用するLNGにも影響があると思われます。

そうしたすべてが競合関係にある状況でアメリカからのLNG輸入を実現させることは、日本にとっては、調達先の多様化によって、他の国からの輸入においても交渉力を高めることにもなります。

****シェールガスは日本を救うのか 期待高まるも他国頼みの現実****
・・・・このため大阪ガスなどは米国政府の許可が出れば、シェールガスをLNGにして2017年から日本に輸入する計画だ。大阪ガスで年間輸入量の2割超、中部電で2割近くに相当する年間220万トンの天然ガスの液化能力をそれぞれ確保することになる。

シェールガスは従来のLNGと比べて価格が割安で資源量も豊富とされ、米国が輸出を認めると、安価なガスの調達につながると期待が高まる。

その一方、購入費の圧縮という直接的な効果だけが目的ではないという。大阪ガス担当者がこう打ち明ける。
「もちろん競争力の高い安いLNGを期待できるが、もう一つの狙いは調達先の多様化だ」
火力発電への依存度が高くエネルギーの安定供給という重い課題を抱える日本の事情は、LNGなどの買い付け交渉で、圧倒的に売り手側に有利に働いている。そこでカギを握るのが、他とも交渉中だということを示す「見せ札となるカード」(経済アナリスト)を数多く持つことだという。

一方、原発再稼働が進まない中で、火力燃料費の負担急増で厳しい経営状況が続く関西電力。同社は東南アジアや中東を中心にLNGを輸入しているが、シェールガスや南部アフリカなど、新たなLNGの調達先を開拓中だ。

ただ、米国ではまだシェールガスの日本への輸出を政府として正式には判断していない。エネルギーに詳しい在阪大手商社幹部も「米政府が日本向けにどれくらい輸出してくれるか油断できない。政府に日米同盟のさらなる関係強化を働きかけてもらう必要がある」と求める。

「(燃料購入の)交渉中に『悔しいなら原発を動かせ』といわれたこともある」。関電の火力燃料の担当者がこう打ち明けるように、資源がなく、わずか4%という脆弱(ぜいじゃく)なエネルギー自給率の日本にとって、他国頼みのシェールガスなどが完全に補ってくれるのかどうかは未知数だ。

エネルギーがなければ、国は成り立たない。この問題を現実的に解決できるのは、今のところ安全が確認された原発の速やかな再稼働しかないのではないか。【2月17日 産経】
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シェール革命で原発廃炉も
シェールガスによる火力発電と原子力発電も競合関係にあり、実際アメリカでは、安価なシェールガスの出現により相対的にコスト高となった原発が廃炉になるという現象が多く起きています。

****米原発、相次ぎ閉鎖=電力業界、投資慎重に―シェール革命でガス優位****
米国で電力会社が老朽化した原子力発電所の閉鎖を決めるケースが増えている。「シェールガス」と呼ばれる天然ガスの生産拡大に伴い、安価なガスを使った火力発電が急増。原発のコスト競争力が相対的に下がり、電力会社が補修に必要な投資に二の足を踏んでいるためだ。

電力大手デューク・エナジーは5日、フロリダ州の原発を廃炉にすると発表。格納容器に入ったひびの補修に巨額の費用がかかり、採算が取れないと判断した。同じ大手のドミニオンも昨年10月、電力の卸売価格の下落を背景に、「純粋に経済性の観点」(ファレル最高経営責任者=CEO=)から、ウィスコンシン州にある原発の廃炉を決めた。原発で最大手のエクセロンは、ニュージャージー州の原発を10年前倒しで閉鎖する方針だ。

米国内の原発の数は世界最多の104基で日本(50基)の倍。これらの建設認可は全て1979年のスリーマイル島原発事故以前に行われた。原発の運転免許の有効期間は40年で、更新すれば20年の延長が可能。既に7割の原発が更新手続きを終えているが、老朽化に伴う補修費用が将来の利益に見合わなくなれば、原発の閉鎖は今後さらに増えるとみられる。【2月9日 時事】 
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オバマ政権の方針にも変更が見られます。
****米国で原発の廃炉相次ぐ 老朽化やシェール革命で採算悪化****
・・・・オバマ政権は当初、地球温暖化対策として「化石燃料の依存脱却」を旗印に原発推進を強調し、昨年はジョージア州で34年ぶりに原発建設を認可したが、最近は「海外産原油の依存脱却」に“軌道修正”。今年の一般教書演説では「天然ガスブームが米国をエネルギー自給に導いている」と力説したが、原発には言及すらしなかった。
現在米国内に20基以上の原発計画があるが、計画変更など先細りも懸念される状況で、米国の原発産業は岐路に立たされている【2月18日 産経】
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日本の原発に話を戻すと、LNGによる火力発電か原発かの二者択一ではなく、選択肢の範囲は広く持って、原発も稼働させることで、競合するエネルギーとしての安価なLNG獲得も有利になり、ひいては将来的な脱“原発依存”にもつながる・・・と考えるべきではないでしょうか。
エネルギー間の適切な競合によって、コストもエネルギー割合も妥当なところに落ち着くものであり、再稼働を認めないという制約は資源の効率利用を阻害します。

もちろん安全性は極めて重要ですが、空から隕石が降ってくることもある世の中で100%の安全性などあり得ません。福島の経験をオープンに、より安全な原発を実現するためには何を行うべきか・・・という議論を行うことが建設的だと考えます。

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2 コメント

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共同幻想と、、戦中 (Unknown)
2013-02-28 08:19:38
価格は、上昇にきまってます。変動は、米と中国の手の中。それと、為替も無視してるので、、貴殿だけでなく、日本国中が、同一の視点です。これ、戦中の失敗に、同じ字愚かさでは。売れなくなる?他の種のガスが?。馬鹿げてる、15年には、インドが第2位の、生産国に。エネルギーは、足るなんて。自分の日本の、夢想のけいさんです。戦争に突入の、資金がなくても全然気にし無し。感情、激情で渡った、歴史。まるで、北??みたいです。
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原発は歴史のあだ花 (三村 尚)
2013-02-28 13:14:37
まず、日本が原子力発電に依存していった政治的・社会的経緯は理解しています。それは飽くまで当時の中曽根康弘氏や正力松太郎氏の政治的判断でした。しかし、当時から湯川秀樹博士等の良心的学者の中には、原子力に依存する危険性と将来の事故を予見していたと考えられています。

過去50年間に世界中で500基に達する原発が建設され、それなりに現在の工業化社会のエネルギーを支えてきたことも事実です。しかし、未だ核のゴミの問題は全く解決の目途も立っていません。核燃料サイクルも幻想に近い状況です。原発は、歴史の一時点では“地球温暖化(これも地球の46億年の歴史の中では、もっと大きな気候変動要因がある可能性もあります)対策”にはなっているかもしれませんが、核のゴミは今後10万年単位の地球の環境汚染をもたらすという現実から逃避できません。

ウラン資源も、このまま世界中で原発に使用されると100年前後の埋蔵量しか確保できないとも言われています。化石燃料はシェールガス・シェールオイルの採掘技術のシンポで、今後200~300年分の埋蔵量が確認されています。

私は、ここは取りあえずシェールガス・シェールオイルを中心とする化石燃料を利用しながら、今後50年、100年の地球規模のエネルギー政策を先進20カ国を中心に考え、人口爆発に悩む残りの途上国の経済・社会発展を、全世界が考えるときです。再生可能エネルギーで全てのエネルギー需要を満たせるように今世紀中に世界の頭脳が結集して、21世紀の世界の歴史に存在する我々の責務です。
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