(ドイツ東部ブランデンブルク州に広がる褐炭の採掘場=2014年4月9日、篠田航一撮影 【6月17日 毎日】)
【「パラドックス(逆説)だ。結局、褐炭という過去の資源の犠牲になってしまう」】
ドイツでは、福島第1原発事故を受けて国内17基の全原発を22年までに順次停止する「脱原発」を決定しており、再生可能エネルギーの比率を高めていることは周知のところです。
「脱原発」という安全を重視したエネルギー政策の一方で、環境に負荷がかかる石炭・褐炭への依存の高まり、再生可能エネルギーの安定性確保の難しさ、電気料金の高騰といった問題を抱えていることも指摘されています。
****ドイツ:脱原発…進む石炭依存 電気代1.7倍に****
◇閣議決定から3年 再生エネ普及、安定送電に影
2011年の東京電力福島第1原発事故を受け、ドイツが22年までに国内17基の全原発を順次停止する「脱原発」を閣議決定してから、今年6月で3年になる。
風力や太陽光発電など再生可能エネルギーの割合は順調に伸びているが、原発停止に伴う電力の供給源確保には不安も残る。
温室効果ガスを排出する石炭や褐炭(水分や不純物が多く低品質の石炭)への依存度はむしろ高まっており、電力供給の不安定化など多くの課題も表面化している。(中略)
ドイツは2013年、総発電量のほぼ4分の1に当たる23.9%を再生エネでまかなった。だが、再生エネは気象条件に左右されやすいため、安定確保が見込める石炭・褐炭への依存も進む。
13年の石炭・褐炭の割合は45.2%と3年連続で上昇。褐炭のみを使った電力生産量も13年は1620億キロワット時に上り、91年以来最大となった。
◇削減目標黄信号
だが、石炭・褐炭の活用が進めば、温室効果ガスを90年比で2020年までに40%削減するとの政府目標に黄信号がともる。
野党・緑の党や環境団体は石炭・褐炭の削減を求めるが、「45%もの電源を放棄できない。むしろもっと活用すべきだ」(欧州連合エネルギー担当のエッティンガー欧州委員)との意見も根強い。
加えて、天然ガスに頼れない事情も浮上している。ドイツはガス輸入の約4割をロシアに依存するが、ウクライナ危機の影響で今後は対露依存度を下げる方針。
このため、石炭・褐炭は「消せない選択肢」(独商工会議所幹部)なのだ。ドイツの火力発電所は現在、温室効果ガスの排出を抑制する最新技術の導入などに取り組むが、政府は石炭・褐炭を「当面は不可欠」(与党の連立協定書)と位置付けている。
◇「強風は要注意」
再生エネの普及に伴い、送電会社の負担も増えている。発電が天候に左右される分、需給調整に気を配る必要があるからだ。(中略)
センターは、風が弱く風力発電が難しい日には管内の石炭火力発電所などに連絡し、発電ペースを上げてもらう。逆に強風で電力を過剰に生産すると、今度は「発電ストップ」も依頼する。ケーブルに過度な負担がかかり、停電の恐れが高まるためだ。(中略)
12年、発電の増減を依頼した回数は過去最多の年間262日に上った。脱原発決定前年の10年は年間160日だった。職員の負担は増える一方という。(中略)
◇地域差も課題に
送電網の整備も遅々として進んでいない。政府は22年までに、風力に恵まれた北部から産業拠点が集中する南部まで、計約2800キロの送電線を整備する計画だ。
だが、大消費地の南部バイエルン州では、自然破壊や健康被害への懸念から高圧送電線建設の反対運動が起き、ゼーホーファー州首相が「建設阻止に全力を挙げる」と建設予定地の住民に約束。同氏はメルケル政権を支える連立与党の実力者のため、「バイエルンの反乱」などと騒がれている。
反対運動はドイツ各地で展開されている。住民側は主に送電線の地下埋設を求めているが、電力会社側はコストの増大を理由に拒否。工事は年間数十キロしか進まず、このままでは22年の脱原発に間に合わない計算だ。
ドイツ経済研究所のクラウディア・ケンフェルト教授は「ドイツ北部は褐炭や風力発電が過剰だが、西部は再生エネが少ない。南部は太陽光は多いが風力が足りない。ドイツの地図を見れば、(エネルギーの需給バランスは)見事にバラバラ」と現状を説明する。
地域差を是正する送電網の整備が急務だ。再生エネ普及のコストは電気代に上乗せされるため、消費者の負担も増加している。標準世帯(3人家族)の電気料金は03年に月額平均50.1ユーロ(約7000円)だったが、10年後の13年には83.8ユーロ(約1万1800円)と約1.7倍に上昇した。
メルケル政権は電気代の上昇抑制策にも頭を悩ませている。【5月10日 毎日】
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13年現在の総発電量に占めるエネルギー別発電割合は▽石炭・褐炭45.2%▽再生可能エネルギー(風力、太陽光など)23.9%▽原子力15.4%となっています。
福島第1原発事故後、原子力の割合が約2ポイント減ったとのことですが、逆に言えば、まだ2ポイントしか減っておらず、今後ゼロに持って行く過程で、前出のような問題が一層深刻になってくることも想像されます。
石炭・褐炭への依存の高まりについては、褐炭採掘場拡張のために多くの住民が立ち退きを迫られ、太陽光発電施設も撤去される・・・という事態も起きています。
****ドイツ:脱原発で「褐炭依存」 低品質−「過去の資源」 採掘場拡張、800人退去対象****
「脱原発」を決めたドイツで、原子力分の穴埋め用エネルギー源として地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO2)を排出する石炭や褐炭(水分や不純物が多く低品質の石炭)への依存が進んでいる。
急速な再生エネへの転換は難しく、当面は旧来のエネルギー源に頼らざるを得ないためで、褐炭の採掘場拡張のため住人が立ち退きを迫られるなど矛盾も表面化している。
「パラドックス(逆説)だ。私たちは再生エネを成功させようと努力してきたのに、結局、褐炭という過去の資源の犠牲になってしまう」。東部ブランデンブルク州ウェルツォウで、太陽光発電会社を経営するハーゲン・レッシュさん(35)は憤りを隠さない。
地元住民約5000人に太陽光による電力を供給してきたレッシュさんが所有する発電施設は、褐炭採掘のため立ち退きを迫られるからだ。
ドイツは2022年までに国内17基の全原発を停止する。政府は停止する原発分を補完するため太陽光・風力などの再生可能エネルギーの普及を進めているが、急速なエネルギー転換は進んでいない。
州政府は今月3日、電力会社が計画する26年以降の採掘場拡張案を認可。火力発電用に約2000ヘクタールが新たに採掘場として拡張される。
レッシュさんの発電施設のほか、近くの住民約800人が立ち退き対象となった。住民側は反発を強めており提訴も視野に入れている。
同州では、旧東独の社会主義政党の流れをくむ左派党が連立政権の一角を担う。
本来、左派党の党本部はCO2削減を訴える立場だが、褐炭が基幹産業の同州では、褐炭活用に賛成の姿勢を見せる。同党のクリストファーズ州経済相は「褐炭は放棄できない」と州政府の意向を強調する。
ドイツでは1990年代、石炭・褐炭は、総発電量に占めるエネルギー源の60%近くを占めた。その後、徐々に依存を減らし、10年には約41%まで下がった。
だが11年の福島第1原発の事故後、再び割合が増え、13年は約45%まで上昇した。
再生エネは現在、約24%にとどまっており、メルケル政権は石炭・褐炭を「当面は不可欠」(与党の連立協定書)と位置付けている。【6月17日 毎日】
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【「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させる前提」のもと・・・・】
「脱原発」状態にある日本でも、老朽化した火力発電所に依存する状態となっています。
****40年超「老朽火力」26%、原発再稼働を推進 25年度エネ白書****
政府は17日、平成25年度版のエネルギー白書を閣議決定した。
原子力発電所を持たない沖縄電力を除く大手電力9社の火力発電所のうち、運転開始から40年以上経過した「老朽火力」が25年度に火力全体の4分の1を超えたと指摘。
東日本大震災後に原発の代替電源として老朽火力に頼っている現状が改めて浮き彫りになった形で、燃料コストや二酸化炭素排出量の増加、トラブルによる供給不足などを懸念した。(中略)
大手電力9社の老朽火力のトラブルは25年度に169件と、22年度の101件から増えた。火力発電所の耐用年数は40年程度とされており、低効率の老朽火力をフル稼働することにより、トラブルのリスクが高まっている。
白書では「故障などによる電力供給不足に陥る懸念が依然として残っている」と警戒を示した。
一方、原発については「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と、4月に閣議決定したエネルギー基本計画で定めた位置づけを強調。
その上で、原子力規制委員会が規制基準に適合すると認めれば「再稼働を進める」との方針を改めて明記した。
白書では、電力・ガス事業の制度見直しや、次世代エネルギー資源「メタンハイドレート」の開発状況、米国やカナダの新型天然ガス「シェールガス」の輸入に向けた取り組みなどについても説明した。【6月17日 産経】
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また、同白書は、原発の運転停止で火力発電所をフル稼働させていることや燃料価格が上昇によって、“液化天然ガス(LNG)などの燃料輸入額が13年に約27兆円に達し、東日本大震災前の10年(約17兆円)と比べて約10兆円増えた”【6月17日 読売】ことも指摘しています。
更に、“原発停止により全国の電力会社が出す温室効果ガスが10年度から2年間で約30%増えたことで、日本全体でも約8%増加した”【同上】とも。
そのうえでエネルギー白書は、“「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させる前提」のもと、原発の再稼働を進める方針”を強調しています。
実を言えば、私が住んでいる鹿児島県薩摩川内市は全国でもトップを切って再稼働が予想されている原発を抱えています。
毎週金曜日の夕方になると、自宅近くの九州電力支社の前で行われる抗議行動の「再稼働反対!」のシュプレヒコールが聞こえてきます。
大規模自然災害などでいったん暴走し始めたら、それを食い止める有効な手立てがない原発を使用することの問題に反論することは難しいものがありますが、正直なところ「そうそう大規模自然災害が起きるものでもあるまいし・・・。福島の経験で少しは対応・対策もましになるだろうし・・・。危険性云々を言えば、世の中のものすべてがリスクを伴うもので、そうしたリスクを“無視”することで皆が普通に生活しているのが現実ではないか・・・確率的にはリスクはむしろ低い原発だけをことさらに言い立てるのはいかがなものか・・・」という感もあります。
火山の巨大噴火云々に至っては、「そんなこと言い出したら、原発の話は別にしても、鹿児島で生活している人間はどうしろと言うのか?」という感も。
安全性よりは、放射性廃棄物の最終処分方法が確立しなまま原発を使用することの問題の方が気になります。
【「潜在的核保有国」であることを目指す日本の“秘めたる国策”】
核燃料サイクルが機能しない現状で、増え続けるプルトニウム、実用化できない高速増殖炉は日本にとって厄介ものにも思えますが、「潜在的核保有国」であることを目指す日本の“秘めたる国策”“裏の国策”に関係するとの指摘もあります。
****「潜在的核保有国・日本」への不信 オバマが安倍から「核」取り上げた****
ギリシャ神話の「地獄の神」プルート。その名を冠したプルトニウムは核爆弾の原料である。
危険極まりないこの核物質は日米の間で「同盟の証」だった。米国は日本にプルトニウムや高濃縮ウランを与え、原子力開発に使わせていた。今になって米国は「引き渡せ」と迫る。一連の交渉に安倍政権への不信が滲む。
安倍首相が引き渡しを表明
オランダ・ハーグで開かれた核安全保障サミットで安倍首相は、茨城県東海村で研究用に使っていたプルトニウム・高濃縮ウランを米国に引き渡すことを表明した。
「テロリストに渡る危険性」を危ぶむ米国の要請とされるが、厳重な管理なら日本でも可能である。米国はそれを許さず、「米国へ移送」にこだわった。
日本は信用できない、と言わんばかりの強い姿勢は、安倍首相が進める「戦後レジームからの脱却」と無関係でなさそうだ。
原子力平和利用を口実に「潜在的核保有国」でありたいとする日本への冷めた眼差しが、親密な日米関係の象徴だった「核物質」を日本から運び出す決断となった。(中略)
日本の秘めた国策
核の扱いは日米間で微妙な問題となっている。日本は「平和利用のための研究に欠かせない」と手元に置く必要性を主張。米国は「テロリストへの流出」を理由に引き渡しを迫るというやり取りだが、いずれも表向きの議論である。
裏に日本は「いつでも核武装できる体制をとることで潜在的核武装国としての地位を確保する」という秘めたる国策がある。(中略)
安倍首相の登場で揺らぐ前提
技術や核管理の根幹は米国が握り、商業生産の現場で日本が力を発揮するという協力関係を築くことで、日米原子力体制は維持されてきた。協力関係といっても「米国が主導権を握り日本が従う」という構図である。
安倍首相の登場で、この前提が微妙になっている。
「ホワイトハウスは安倍に違和感を持っている。これまでの日本の首相と違うキャラクターだと。中曽根もナショナリストではあったが、日米関係の重要性を理解していた。戦後レジームからの脱却という言葉が好きな安倍は少し違う」(中略)
高速増殖炉「もんじゅ」存続の狙い
心情とは異なっても政治家・安倍晋三は妥協せざるを得なかった。だが、これで日本が潜在的核保有国を諦めたわけではない。(中略)
「事故ばかり起こしている『もんじゅ』に政府があれほどこだわるのは、一度でも動かせば核兵器に使える高純度の核物質が手に入るからです」(中略)
今回のエネルギー基本計画で「もんじゅ」は見直され、商業運転を事実上放棄することになった。「核物質の減容化・無害化」を目指す実験炉にする、という方針の変更がなされたが、裏の狙いは「兵器に転用できる高純度核物質の取り出し」にあると小出助教は指摘する。(中略)
「IAEAの査察で最重点に置かれているのが日本です。用途が定かでないプルトニウムや高濃縮ウランをこれほど大量に保有いている国はないからです。兵器転用が疑われているということです」(後略)【3月27日 DIAMOND online】
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“さもありなん”という感もありますが、こうした話が本当なら、突然に「脱原発」を言い出した小泉元首相の背後には・・・・という話にもなります。
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