孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット・ウイグル  ダライ・ラマの失言とエルドアン大統領の豹変発言

2019-07-03 23:04:08 | 中国

(トルコ・イスタンブール旧市街の観光名所ブルーモスク近くにある、亡命ウイグル族の民族指導者の名前を冠した公園。1995年に公園ができた際に中国から名称変更の申し入れがあったが、当時のイスタンブール市長だったエルドアン大統領が、「名前を変えるのはトルコだけでなく、世界中のトルコ系の人々への侮辱になる」と反対した。【519日 朝日】)

 

【ダライ・ラマ後継女性は「もっと魅力的でなければならない」 ダライ・ラマ、失言で謝罪へ】

チベット問題に関する記事は、最近あまり目にしませんが、今後の最大の問題がチベット社会を支えるダライ・ラマ14世(83)の後継者問題であることは衆目の一致するところです。

 

ダライ・ラマ14世が4月に体調を崩して入院した際も、その問題が話題となりました。

中国当局側は「輪廻転生」による後継者選定で主導権を握ろうとしており、これを警戒するダライ・ラマ14世の方は、これまでの輪廻転生によらない選定をも検討しているとされています。

 

いつも言うように、宗教に否定的な共産党が「輪廻転生」という(科学的には論証不可能な)伝統の尊重(もちろん、裏でそこに共産党が介入して、政府の傀儡を後継者にしようとの考えですが)を訴え、チベット側が伝統によらない新しい方法を・・・・という奇妙な逆転現象が生じています。

 

****ダライ・ラマの「輪廻転生」、中国の法律順守を 中国外務省****

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマの後継者を選ぶ「輪廻(りんね)転生」について、中国政府がこのほど「中国の法律に従う必要がある」との認識を示した。

 

中国外務省の報道官は10日、肺の感染症のため入院したダライ・ラマ14世(83)について質問され、容体については認識していないとした上で、輪廻転生には「明白なルール」があると強調した。

 

報道官は、「ダライ・ラマを含めて生けるブッダの輪廻転生は、中国の法規制に準拠し、宗教儀式と歴史的慣例に従わなければならない」と述べ、中国政府は国民全ての宗教の自由を尊重すると言い添えた。

 

ダライ・ラマは9日から入院しているが、側近は11日、ダライ・ラマが間もなく退院できる見通しだと語り、「医師に言われた通り胸の感染症があったが、抗生剤を投与され、かなり回復した」と説明した。

 

それでも今回の入院で、ダライ・ラマの死後、チベット仏教がどうなるのかという疑問が改めて浮上している。

 

ダライ・ラマ本人が自身の死後の輪廻転生を認める意向なのかどうかもはっきりせず、ここ数年は、自身が最後のダライ・ラマになる可能性をうかがわせる発言をしていた。【412日 CNN】

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ダライ・ラマとしては、中国政府の介入を防げるなら、新しい方法でも、あるいは女性でもかまわない・・・というところですが、どうも女性に関しては、さすがのダライ・ラマも認識がずれていたようで、思わぬところで批判をあびるところとなっています。

 

****「女性は魅力的でなければ」 ダライ・ラマが失言で謝罪*****

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ(83)が2日、後継者の人選を巡り、女性が後継者になる場合は「もっと魅力的でなければならない」と述べた冗談の発言について謝罪した。

 

問題発言は先月、英BBCとのインタビューで飛び出した。この中でダライ・ラマは、「もし女性がダライ・ラマになる場合、(その女性は)もっと魅力的でなければならない」と言って笑った。

 

BBCによると、ダライ・ラマはこの発言に続いて顔を歪めて見せ、もし女性のダライ・ラマが特定の外見をしていた場合、「人々はその顔を見たがらないだろう」と発言したという。

 

ダライ・ラマは2015年にもBBCのインタビューの中で、未来のダライ・ラマは女性になるかもしれないと述べ、その場合は容姿が良くなければ「あまり役に立たない」と発言していた。

 

今回の発言について、ダライ・ラマ法王庁は2日に発表した声明の中で、「猊下(げいか)に侮辱する意図は一切なかった。猊下は自らの発言によって人を傷つけたことを大変申し訳なく思っており、心からの謝罪を表明している」とした。

 

さらに、ダライ・ラマ自身は「人は外見に基づく先入観にとらわれるのではなく、もっと深い人間性において互いに結び付く必要がある」と一貫して強調していると指摘。

 

非公式な発言を巡っては、一方の文化でユーモアと受け止められても、別の文化に翻訳される際にそのユーモアが失われることがあると釈明している。

 

ダライ・ラマは女性を物としてとらえることに反対し、両性の平等を支持すると強調。亡命中のチベットの尼僧は、かつて男性にしか授与されなかった「ゲシェー」の学位を授与されているとも説明した。【73日 BBC】

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どんなに言いつくろっても「アウト」でしょう。

 

「アウト」ではありますが、トップに担ぐ女性に女神・マリアのような神々しい美しさを期待しがちなのは男性一般の正直な心情でもあり、まあ、ダライ・ラマも世間一般の男性とその点では大差なかったということでしょう。(こういう評価は、また叱られるかもしれませんが)

 

ただ、最近は一般男性でもこういう発言は表ではしないと思いますので、ダライ・ラマの時勢とのズレはかなり大きなもののようにも思えます。

 

ダライ・ラマの女性問題への認識のズレはともかく、発言の背景にある後継者問題の方は重大です。

その存在が大きすぎた故に、そのあとの空白を埋めるのは困難でしょう。ダライ・ラマという支柱を失ったチベット社会に、中国政府に抗していく力は・・・・難しいでしょう。

 

【エルドアン大統領 「新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄において幸せに生活している」】

中国政府は、チベット統治の正当性を国際社会に主張するために、(中国政府支配のもとで)いかにチベットが経済的・あるいは市民生活の面で向上したかをアピールしています。

 

****中国政府がチベット自治区「白書」発表 経済発展の成果を強調****

中国政府は(3月)27日、チベット自治区に関する「白書」を発表した。経済発展の成果を強調し、チベット族の信仰の自由を保障していると主張。中国の少数民族政策に対する米国などからの批判に反論した形だ。

 

今年はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世のインド亡命につながったチベット動乱から60年にあたる。

 

中国側は動乱の制圧後、「政教一致の封建農奴制を撤廃した」と位置付けており、白書は60年間で「共産党の強固な指導の下、チベット社会は歴史的な飛躍を遂げた」とし、チベット族の信仰を含む伝統文化を保護していると主張。昨年の域内総生産(GRP)は1959年の約190倍に増大したなどと経済・民生の向上をアピールした。(後略)【327日 毎日】

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また、保健衛生面での進歩もアピールしています。

 

****チベット住民の平均寿命が706歳に―中国メディア****

中国国家衛生健康委員会は、北京で23日に開催した記者会見において、「チベット自治区の住民の平均寿命は、平和解放当初の355歳から、現在の706歳に延びた。

 

妊産婦死亡率は、10万人あたり5000人から5652人に、乳児死亡率は430‰から1159‰にそれぞれ低下して2020年目標を前倒しで達成した」と発表した。新華社が伝えた。(後略)【525日 レコードチャイナ】
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こうした事実は、(「そうは言っても・・・」という問題はあるにしても)現実の一面ではあるでしょう。

 

特に、チベット仏教による「政教一致の封建農奴制」が改革されるべき問題を内在していたことも事実でしょう。

(西欧中世の教会、かつての日本の寺社がそうであったように)当時のチベット仏教支配と今のダライラマを敬愛するチベット社会は、決して同質ではないでしょう。

 

中国政府は、チベットと同様な民族抑圧政策をとる新疆ウイグルに関しても同様の主張で、共産党支配の正当性を主張しています。

 

驚いたことに、この中国の主張への賛同者が思わぬところから現れました。

 

****トルコ大統領、新疆に肯定的 「人々は幸せに生活」=中国メディア****

トルコのエルドアン大統領は、新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄下で幸せに生活しているとの見方を示した。中国国営メディアが2日に伝えた。

中国政府は、ウイグル族やイスラム教徒が多く住む新疆ウイグル自治区で過激派勢力が台頭することを防ぐため、職業訓練という名目で施設を設置。多くの欧米諸国は収容施設だと批判している。

トルコは、同自治区の人権問題をたびたび指摘してきた唯一のイスラム教徒国で、今年2月にも国連の人権理事会に問題を提起。中国の怒りを買った。

一方、中国国営メディアによると、エルドアン氏は北京で中国の習近平国家主席と会談した際に、同自治区についてより肯定的な見方を示した。

国営テレビは「実際には、新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄において幸せに生活している」とエルドアン氏が述べたと伝えた。

さらに「トルコと中国の関係に不調和をもたらすいかなる者もトルコは容認しない。トルコは過激主義に断固として反対で、中国との政治的な信頼関係を強め、安全保障を強化することに前向きだ」と語った。

習主席は、テロ対策での協力推進に向け、両国は具体的な措置を講じるべきだとエルドアン氏に伝えたという。【73日 ロイター】

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トルコと言えば、2月には「人類にとって大きな恥」と中国のウイグル族同化政策を批判していたはずです。

 

****中国のウイグル人同化政策は「人類にとって大きな恥」、トルコが非難 民謡歌手が獄中死****

中国でイスラム教を信仰するトルコ系少数民族ウイグル人が大量拘束されている問題で、トルコ外務省のハミ・アクソイ報道官は9日声明を発表し、ウイグル人に対する中国当局の組織的な同化政策は「人類にとって大きな恥だ」と強く非難した。

 

同報道官は「100万人以上のウイグル人が恣意(しい)的な逮捕の危険にさらされ、強制収容所や刑務所で拷問や洗脳を受けていることは、もはや秘密ではない」とも指摘した。

 

多くのウイグル人が暮らす中国北西部の新疆ウイグル自治区では近年、民族間の対立の激化を受け、警察当局による厳しい監視体制が敷かれている。国連の専門家パネルによると、中国ではチュルク諸語を話すウイグル人などの少数民族、約100万人が再教育施設に強制収容されている。

 

中国は、共産党の思想や多数派である漢民族の文化と異なる新疆の少数民族たちの宗教や文化を抑圧し、少数民族を同化させようとしていると批判されている。

 

これに対し中国側は、これらの施設は人々がテロリズムに関わらずに社会復帰できるようにするための「職業教育センター」だと主張している。イスラム諸国の多くは、重要な貿易相手国である中国をウイグル人弾圧問題で批判することを避けてきた。

 

アクソイ報道官は、「再教育施設に収容されていないウイグル人たちも抑圧下に置かれている」と述べ、国際社会やアントニオ・グテレス国連事務総長に、「新疆における人類の悲劇」を終わらせるために有効な措置を取るよう訴えた。

 

また同報道官は、拘束されていたウイグル人の民謡歌手アブドゥレヒム・ヘイット氏が死亡したことをトルコ政府は9日に知ったと明らかにし、「この悲劇によって、新疆での深刻な人権侵害に対するトルコ人の反発はより強まった」と強調した。ヘイット氏は自作の歌詞が問題視されて禁錮8年を言い渡され、死亡時は服役2年目だったという。 【210日 AFP】

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この「人類にとって大きな恥」声明については、“エルドアン政権は3月末に統一地方選を控えており、ウイグル族擁護を鮮明にして、与党が頼る民族主義的な有権者へのアピールを狙った可能性がある。ただ、声明はエルドアン氏や外相でなく、外務省報道官名義で出しており、対中関係の決定的な悪化を避けようとしたともとれる。”【214日 朝日】と、必ずしも額面どおりにとることはできないとの指摘は当時からありました。

 

トルコに限らず、“イスラム諸国の多くは、重要な貿易相手国である中国をウイグル人弾圧問題で批判することを避けてきた。”という現実も再三指摘されています。

 

そうではありますが、エルドアン大統領の「実際には、新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄において幸せに生活している」という見事な豹変ぶりには驚きました。

 

別に豹変すること自体は悪いこととは思いません。

状況・環境が変われば、政治指導者たるものは過去に固執することなく、豹変すべきでしょう。

「ぶれない」ということは、対応力のなさであることも。

 

ただ、どうして豹変したかを説明する必要があります。エルドアン大統領にその気はないでしょうが。

そのあたりが、非民主的強権体質を云々される所以でもあります。

 

ついでに言えば、エルドアン大統領はサウジアラビアのカショギ氏殺害に関しても、ことの真実を明らかにすることより、この問題をいかに有効に利用するかに腐心しているように見えます。

 

外交というのはそういうものだ・・・・と言えば、そうでしょう。ただ、ウイグル族同化政策にしても、カショギ氏殺害にしても、本来問題とすべき点をうやむやして、自国利益追求に走るのはいかがなものかという感も。

 

アメリカは「アメリカ第一」で国際社会・国際協調をないがしろにし、アラブ社会はパレスチナ支援の「大義」を捨て去り、イスラム社会はウイグル支援を封印して、各国が自国の利益に走る・・・という世界に変わってきたようです。


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