(G20大阪サミットで、握手した後、すれ違う韓国の文在寅大統領(手前)と安倍首相=28日、大阪市(聯合=共同)【6月29日 共同】)
【2010年の中国によるレアアース禁輸への日本の反応】
韓国人元徴用工らへの損害賠償判決問題への事実上の対抗措置として、日本政府が1日、韓国向け輸出の規制を強めると発表。
韓国で生産が盛んな半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出を難しくするほか、安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する優遇措置をやめるとのこと。
G20サミットで来日した文大統領と安倍晋三首相の首脳会談はなく、その直後の輸出規制強化の発表に韓国側は強く反発しています。
*****韓国紙「経済戦争の銃声が鳴った」 韓国への輸出規制強化****
日本政府が、韓国に対する半導体の原材料などの輸出規制を強化すると発表したことについて、2日付けの韓国の主要な新聞は「『経済戦争』の銃声が鳴った」などという見出しで、いずれも1面で大きく伝えています。
太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題の解決が見通せない中、日本政府は、信頼関係が著しく損なわれたとして1日、韓国に対する輸出の優遇措置を見直し、半導体の原材料などの輸出規制を強化すると発表しました。
これについて、2日付けの韓国の主要な新聞はいずれも1面トップで大きく伝えています。
このうち、有力紙の「朝鮮日報」は「韓国産業の急所を刺した『日本の報復』」という見出しで「日本が世界市場の70%から90%を占めている必須の原材料であり、日本が供給を中断すれば、韓国企業は深刻な打撃を受ける」として、危機感をあらわにしています。
また、経済専門紙の「韓国経済」は、「韓日『経済戦争』の銃声が鳴った」という見出しで「日本は、韓国の輸出産業の心臓である半導体・ディスプレーを直接ねらった。WTO=世界貿易機関を通じた解決などは時間がかかり、効果があるか断言できない」と指摘しています。
韓国では、輸出額の20%近くを占める半導体の製造などに深刻な影響が出るのではないかという懸念が広がっていて、ムン・ジェイン(文在寅)大統領は2日午前中に大統領府で開いた閣議で、今後の対応を話し合ったものとみられます。【7月2日 NHK】
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徴用工の問題は、立場によって意見が分かれますが、韓国・文政権にすれば、司法判断に行政が介入するように日本から圧力を受けている・・・という、三権分立を無視した対応というとらえ方にもなります。
2010年に沖縄県尖閣諸島沖で起きた中国漁船と巡視船の衝突事件の際に、中国が日本経済の急所を狙ったレアアースの禁輸措置をとったときのことを思い出します。
当時、日本側は、非政治的な衝突事件への報復として禁輸を持ち出した中国側の対応に強く反発しました。
その後、日本側が中国人船長を釈放したことで、禁輸措置は先鋭化する前に取り下げられましたが、日本側には“屈辱外交”との批判も国内に残りました。中国への批判・不信感も更に深まる結果にも。
また、レアアースについては、日本側の脱中国依存の取り組みを促す契機ともなり、その後の中国レアアース産業は、日本側が価格決定権を持つような価格低下に悩む結果ともなりました。
【中国メディア 仲裁に入らないトランプ外交、日本国内の選挙の影響を指摘】
今回の日韓の対応について、中国メディア(環球時報)は識者の見解として以下のようにも取り上げています。
****日本が韓国に「むごい」一手、日韓関係は負のスパイラルから抜け出せるか****
中国紙・環球時報は2日、「日韓関係は負のスパイラルから抜け出せるか」と題する、中国社会科学院の李成日氏の論評を掲載した。以下はその概要。
20カ国・地域(G20)大阪サミットの閉幕から間もない今月1日、日本の経済産業省は半導体材料であるフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の対韓輸出規制を4日から始めると発表した。日本は「ホワイト国」からの韓国除外も考えている。先端技術輸出での優遇措置を韓国が受けられないようにするためだ。
内閣官房副長官はこの日の記者会見で韓国の徴用工判決への対抗措置ではないと強調したが、2国間の不信頼については否定しなかった。輸出規制の3品目中、2品目で日本の世界シェアは90%に達する。サムスン、LGなど韓国企業はかなりの打撃を受ける見通しだ。日本に替わるサプライヤーをすぐに見つけることも難しいだろう。
日本の対韓制裁に関するうわさは以前からあったが、今回の具体的措置の発表は韓国当局にとってやはり意外だった。韓国は日本がこれほどスピーディーに、そしてこれほど「むごい」一手を打つとは思わなかったのだ。
2017年の文在寅(ムン・ジェイン)氏の韓国大統領就任以来、慰安婦問題や徴用工問題など歴史問題が日韓関係の正常な発展を妨げている。とりわけ日本企業に賠償を命じた韓国最高裁の徴用工判決(18年10月)をきっかけに日韓は新たな苦境に陥った。
ただ、韓国政府は低迷する日韓関係の改善に向けた努力を行っている。例えば、文大統領は知日派の南官杓(ナム・グァンピョ)氏を新たな駐日大使に任命した。文喜相(ムン・ヒサン)国会議長も「天皇謝罪」発言を謝罪したが、韓国側のこうした措置は日本の積極的な反応を呼ばなかった。
日本政府の突然の輸出規制を受け、韓国も相応の対抗措置を取るだろう。
日本と韓国はいずれも米国の同盟国だ。これまでは往々にして米国の関与が歴史問題、領土問題で激しく対立する両国の関係を正常な軌道に戻してきた。だが、トランプ政権は「アメリカファースト」の外交理念を堅持している。仲裁役への関心は薄く、これが日韓関係の持続的な低迷を引き起こした。
現在、歴史問題をめぐって日韓の政府、司法、国民の意見の隔たりはますます埋めにくくなっている。
参議院選挙を控えた安倍政権は外交問題上で強硬な姿勢を必ず示すだろう。選挙が終わるまで対韓政策に大きな変動は見られないはずだ。
さまざまな方面から見て、日韓関係がすぐに改善するとは考えにくい。こうした局面が長期的に続けば、中日韓自由貿易協定など東アジアの協力の進展に影響が及ぶに違いない。【7月2日 レコードチャイナ】
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トランプ政権の立ち位置、日本の国内選挙の影響・・・おおむね妥当な指摘でしょう。
【アメリカメディア 日本外交の「トランプ化」】
アメリカメディア(WSJ)は、商業捕鯨再開問題と絡めて、日本外交の「トランプ化」という視点のコラムを掲載しています。
****トランプ化する日本外交*****
ドナルド・トランプ米大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との突然の首脳会談を実現させ世界を驚かせたが、その前にも、大阪で先週開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議でメディアマジックを披露していた。
中国の習近平国家主席との会談で世界経済の方向性を決め、娘のイバンカ氏を重要会談に同席させて彼女のステータスを上級外交官に引き上げるなど、トランプ氏のトレードマークである幻惑的で目が回るような外交手法は、外交官や識者を魅了し、懸念させ、混乱させた。
多くの人々は、こうした個人的、即興的、一方的な外交はトランプ氏の引退とともに国際政治の舞台から消えていくことを期待している。しかし、日本で起きた2つの出来事は、国際政治のトランプ化が定着する可能性を示唆している。
1つ目の出来事は、日本が国際捕鯨委員会(IWC)から正式に脱退し、小規模な船団が31年ぶりの商業捕鯨に向け出港したことだ。IWCは最重要の国際機関の1つではないかもしれないが、IWCが直面する問題は多くの国際機関を取り巻く危機を象徴している。
IWCは1946年に設立された。商業捕鯨産業を維持可能な状態に保つため、鯨類の生息数をモニターし、商業捕鯨を制限することが目的だった。捕鯨反対の声が強まる中、IWCは捕鯨のモラトリアム(一時停止)を話し合うようになった。
捕鯨との密接な経済的関わりがない国々――内陸国のモンゴル、スイス、ハンガリーなどを含む――がIWCに加盟した。一部の国は捕鯨に反対し、捕鯨支持諸国は捕鯨禁止に反対票を投じさせるために他国をIWCに引き入れた。
最終的には反捕鯨陣営が勝利した。一部の鯨類については資源を維持しながら捕鯨を続けることが可能だとの科学的証拠があるにもかかわらず、IWCは現在すべての商業捕鯨を禁止している。
日本にとって捕鯨の経済的利益は大きくない。同国が1年間に消費する鯨肉は約5000トンにとどまっており、1960年代の20万トン以上から減っている。
しかし、日本のナショナリストや文化伝統主義者からすると、IWCは欧米の文化帝国主義の象徴であり、それに立ち向かうことは国家のプライドを主張する1つの手段となっている。
私は、生き残っている鯨たちが光り輝く海を煩わされることなく泳げるようにすることを望むが、日本の主張には一理ある。倫理を巡る果てしない議論と貧弱なガバナンスによってIWCの道徳的権威はそがれ、カナダやノルウェーといった捕鯨支持国はモラトリアム措置から離脱したり、IWCそのものから脱退したりした。
世界政治のシフトを示す2つ目の出来事は、貿易に絡むものだ。日本は、曲がるスマートフォン画面や半導体の製造に不可欠な素材について、一方的に韓国への輸出制限を課した。これは韓国の保護主義への報復ではなく、長期にわたる激しい政治的紛争に伴う動きだった。
日本政府の立場からすると、韓国は「慰安婦」への補償問題で和解するための両国間の合意に違反した。問題となる素材の輸出には今後、事前に取得する認可が必要となるが、許可が適時に下りる保証はなく、そもそも許可されるかどうかも分からない。
日本は主要な貿易国だが、国際システムにおいて米国のような特別な影響力は持っていない。このため、貿易に政治を絡ませる日本の決断は、国家戦略の劇的なシフトを意味する。
ここから明確に推測できることは、日本がルールに基づく国際システムの弱体化が続くとみていること、そしてトランプ流としか言いようがない方法で自国の強みを最大化しようとしていることだ。
中国の日常的な不正行為、トランプ政権の2国間交渉への移行、そして日本による貿易戦略の政治化。世界の三大経済大国が、ポスト世界貿易機関(WTO)体制の様相を呈する状況の中で動いている。他の諸国は間違いなく注視するだろう。
米国は中国と北朝鮮に対応する上で日韓間の良好な関係を必要とするが、日本の新たな貿易方針は、攻撃的で一方的な貿易戦略が大きなコストを伴うことを浮き彫りにしている。
日本の方針が日韓の経済関係に打撃を与えることになれば、慰安婦の補償問題を巡る激しい議論は今後さらに激化し、対応が一層困難になるだろう。
ルールに基づく旧来の貿易体制は、相互連携を管理し、自由貿易へのコミットメントを制度化するものだった。より混沌(こんとん)とした世界では、外交官も経済界のリーダーもこれまで以上に努力しなければならないだろう。
日本は第2次大戦後に主権を回復して以降、ルールに基づく多国間国際システムの支持者として特に信頼できる存在だった。その日本が旧来の体制の制約から抜け出したがっていることが示唆するのは――日本の観点から見れば――トランプ時代とは移行期であり、一時的な幕あいの出来事ではないということだ。【7月2日 WSJ】
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捕鯨の問題について言えば、個人的には、日本側がそこまで意固地になる必要があるのか・・・という疑問も感じています。実際にクジラを食べる人など今は殆どいませんし。(捕鯨関係者の問題は、国内の補償でも対応可能です)
もちろん、日本の主張は科学的裏付けを伴ったまっとうなものでしょう。
ただ、どうしてもクジラを食べることに抵抗感を示す人々が多数存在することもまた事実です。(その人々の“意固地さ”もまた問題ですが)
個人間のつきあいであれば、自分の主張に間違いはないと思うときでも、それを嫌がるひとが大勢いるときは、そしてその問題が死活的なものでなければ、「まあ、みんなが嫌がることを敢えてすることもないか」という常識的対応にもなります。
(そうした常識的対応ができず、自分の主張にこだわる人は周りから嫌がられます)
それが国家間になると、国家の伝統に対するプライド・・・みたいな話にもなりがちです。
各国が自分の主張に固執し、「そんなルールに従うつもりはない」「力で相手をねじ伏せればいい」というトランプ的対応に走るなら、“ルールに基づく多国間国際システム”は機能しなくなります。
長期的に見た場合、それが日本にとって好ましい方向なのか?
韓国との関係について言えば、日本側に韓国に対するフラストレーションがたまっているのは事実で、「この際、思い知らせてやれ!」ということにもなる・・・その感情は十分に理解できます。
理解はできますが、感情論におぼれてしまっては、長期的な方向を見失う危険もあります。
仮に、韓国側が禁輸回避のために徴用工問題で何らかの対応をとったとしても、それは問題が解決した訳ではなく、将来に向けて新たな問題・消し難い恨みをひとつ増やしたということに過ぎないでしょう。
伝家の宝刀というのは抜いてしまっては意味がない、抜くかもしれないという圧力をかけることで、有利な交渉に持ち込むというのが、その使い道でしょう。いったん抜いた刀をどうやって鞘に納めるのか・・・。
かつて自国が中国から受けた対応にどのように感じたのか・・・そこらも踏まえて、長期的な日本外交の進むべき道を冷静に検討することを期待します。