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(中国軍が軍事演習で台湾総統府と外観がそっくりの建物を攻撃の標的にしたと報じた23日付の台湾各紙(共同)【7月24日 中日新聞】 たしかに写真の建物は台湾総統府に酷似しています。)
【野党有利の情勢の次期総統選 中国は台湾取り込みに腐心】
台湾では来年1月に総統選が行われます。
中国と一線を画する姿勢が強い野党・民進党の蔡英文(ツァイインウェン)主席(58)に対し、与党・国民党は19日、立法院副院長(国会副議長)の洪秀柱(ホンシウチュー)氏(67)を候補者に決定し、女性対決となりました。
洪秀柱氏は中国寄りの言動がこれまで目立つ人物ですが、苦戦が予想されています。
****台湾総統選、国民党は洪氏 民進・蔡氏と女性対決 「第3の候補」に注目****
・・・・国民党は昨年11月の統一地方選で惨敗し、強い逆風にさらされる。
これまでの総統選では有力者が早くから候補者の地位を固めていたが、今回は朱立倫(チューリールン)主席や王金平(ワンチンピン)・立法院長らが立候補を見送り。「2軍」とも評された洪氏が予想外の勢いを得て公認要件を満たし、候補者になった。
洪氏は、国民党支持者の中でも中国とのつながりを重視する熱心な支持者の間で人気が高い。だが、公認要件審査の段階であった勢いは、かげりを見せている。
国民党は、中台が「一つの中国」の原則を確認しつつ、その中身はそれぞれが述べ合うと台湾側が主張した1992年の中国とのやりとりを「92年コンセンサス、一中各表」として対中政策の核心に据える。
ところが洪氏は当初、「一中同表」という言葉で、中台はともにより大きな全体中国に属するという考えを訴えた。党の立場を超えた「統一派」だとみる警戒感が強まった。
党内からも反発が出て、洪氏は「一中同表」と言わなくなった。今回の党大会では92年コンセンサスを盛り込んだ政策綱領を採択し、洪氏も順守を表明した。
だが、国民党立法委員の一人は「指導者にふさわしいか疑問。このままだと大変なことになる」と語る。国民党は大会直前、党批判を繰り返していた立法委員ら5人を除名。不満の押さえ込みに躍起だ。(後略)【7月20日 朝日】
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洪氏の支持が盛り上がらない一方で、台湾省長などを務めた元国民党の大物政治家で立候補を模索しているとされる「第3の候補」親民党の宋楚瑜(ソンチューユイ)主席(73)に国民党票が流れる可能性もあると言われています。
有利な戦いが予想されている野党・民進党は「一つの中国」という「92年コンセンサス」を正式には認めていませんが、蔡英文主席は6月の訪米で対中政策の「現状維持」を強調し、独立志向の強い民進党政権に戻ると中台関係が不安定化するかもしれないというアメリカの懸念を払拭したとされています。
いずれにしても、台湾世論の「現状維持」(経済的には中国との関係を維持しながら、政治的には中国と一線を画する)志向は強く、国民党にしても、民進党にても、「現状維持」の大枠から踏み出すことは当面ないでしょう。
ただ、もともと独立志向の強い民進党政権になれば中国にとって台湾との関係が今以上に難しくなることが予想されます。
中国としては、なんとか台湾を取り込みたいという思惑から、「対日共闘」を呼びかけて国民党への“ラブコール”を送るような動きも見られます。
****台湾取り込み狙う中国 「対日共闘」を呼びかけ、国民党軍の功績を再評価****
中国の習近平政権が、1937年から45年まで続いた日中戦争で、国民党軍が果たした役割への積極的な評価を強調しはじめている。歴史認識問題などで日本政府に対する批判を強めるなか、「対日共闘」を呼びかけて台湾の与党、国民党を取り込む思惑がありそうだ。
「戦争の勝利は中華民族のすべての子孫が血を浴びながら奮戦して得た。勝利は中華民族がともに記念し銘記すべきものだ」
中国外交部の華春瑩報道官は6日の定例記者会見で、抗日戦争を主導したのは共産党か国民党かと問われ、こう答えた。国民党軍も日中戦争の主役だったことを認めた形だ。
中国当局は長年、「抗日戦争の主役は共産党軍」と国内外に宣伝してきた。教科書や映画、テレビドラマなどを通じ、「共産党軍が日本軍と戦った際、国民党軍は後方に隠れてほとんど何もしなかった」と国内外に宣伝してきた。
しかし昨年あたりから、政府関係者が公の場で国民党軍の功績をたたえる場面が増えている。
原因について中国の台湾問題専門家は、「最近、台湾で中国の強引な拡張姿勢に反発する感情が高まっていることを踏まえ、中国は歴史上の功績を高く評価することで国民党にラブコールを送る意味もある」と分析する。
この専門家は「日中戦争で国民党が戦場で大きな役割を果たしたことは事実であり、それを証明する史料がインターネットなどを通じて出回っている。いまさら隠しきれなくなった」とも指摘した。
共産党関係者によると、9月3日に北京で行われる反ファシズム戦争勝利70周年の軍事パレードに国民党の元軍人が大勢招待される予定。習近平国家主席が直接会い、貢献をたたえるという。【7月7日 産経】
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【中国軍兵士が台湾総統府に突入?】
中国が台湾への配慮に腐心するなかで、台湾世論の神経を逆撫でするような報道が。
中国中央テレビ(CCTV)で先日放送された軍事ニュースのなかで、特殊戦闘部隊の戦闘員が台湾総統府そっくりの建物をターゲットとした演習を行う様子が3分間にわたって流されたとのことです。
****台湾総統府制圧を想定か=中国軍の市街戦演習****
23日付の香港各紙によると、中国国営中央テレビは、中国軍部隊が市街戦の演習で台湾総統府に酷似した建物を攻撃する映像を放映した。台湾問題を武力により解決する状況下で、特殊部隊などが総統府を制圧する事態を想定しているとみられる。
21日付の中国軍機関紙・解放軍報によれば、演習は北京軍区の部隊が内モンゴル自治区の市街戦訓練場で実施した。演習の攻撃部隊は、敵側首脳の排除を意味する「斬首行動」に成功したとされている。
中台双方は22日、それぞれの立場を表明し、中国国防省報道事務局は中国メディアに対し「定例の軍事演習であり、特定の目標を想定したものではない」と強調。
一方、台湾国防部(国防省)報道官は「台湾住民や国際社会が受け入れられることではない」と批判した。【7月23日 時事】
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台湾では来年1月に総統選を控え、中国が武力制圧をちらつかせる形で牽制したとの受け止めも出ているようです。
ただ、そうした威嚇が中国への反感を強めることにしかならないことは、過去の“失敗例”でも明らかです。
“中国側の失敗事例としては、1996年に実施された台湾初の正副総統の直接民選選挙時に、台湾近海でミサイル演習を実施したことある。台湾世論の反発を招き、中国が嫌う「李登輝総統」が予想以上の高得票で当選した。”【7月23日 Searchina】
どうしてこの時期に、こうした“無神経”な映像が流れたのは不思議でもありますが、中国側は火消しに躍起のようです。
****台湾「てんやわんや」の大騒ぎ!・・・・中国の軍事演習で総統府がターゲット!? 中国政府が慌てて否定=中国メディア****
・・・・記事は、台湾における騒動に対して大陸の国防部が22日に「年次の定例軍事演習であり、特定の目標を狙ったものではない」と否定したことを紹介。
さらに、匿名のアナリストが「台湾メディアが映像の建築物を総統府と伝えたのは、完全に独り善がり。こんな話はそもそも存在しない」と評したこと、演習が行われている基地を訪れたことがあるという人物が「都市作戦演習用の建築物などはあるが、台湾総統府を模した建物はなかった」と語ったことを併せて伝えた。【7月24日 Searchina】
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【政権指導部のコントロールがどこまで及んでいるのか?】
“軍が「台北市内での市街戦」の訓練をしてもおかしくない。ただし、軍事関連の情報は外に出さない場合も多い。しかも中国は、当局による報道管制のある国だ。”【7月23日 Searchina】と、台湾を刺激するこのような映像が流れた理由を訝る向きがあります。
中国は、こうした「なぜこんなことを・・・・」と思われるような行動を起こすことがときどきあります。
7月17日ブログ「中国 人権派弁護士一斉拘束 経済減速下の民衆不満拡大への危機感 『指導者の看法(見方)』が優先」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150717)で取り上げた人権派弁護士一斉拘束にしても、9月に予定される習近平国家主席の訪米を考慮すれば、アメリカ側に格好の批判材料を与えるものでもあります。
これについては、党中央がコントロールしきれておらず、治安機関が暴走したもの・・・との見方もあります。
****突然の「弁護士狩り」と株価騒動の因果関係****
・・・・「劉暁波」という失敗例
今回の一斉摘発は中国政府にとって微妙なタイミングで行われた。9月に習近平国家主席の訪米を控えており、オバマ政権がその際に今回の事件をやり玉に挙げる可能性があるからだ。
中国政府があえて米中関係に波風を立てるような選択をしたのは、直前に起きた上海・深川株の乱高下と無関係ではなさそうだ。
「空売り」で暴落を引き起こした投資家まで摘発して見せしめにしたのは、9000万人といわれる国内投資家の動揺
を抑え、社会不安につなげないためだ。
公安当局には社会不安を招く事態が起きたとき、締め付けのため摘発する「要注意人物」を段階的に抽出したリストが存在するといい、今回の弁護士摘発もその一環である可能性がある。
中国の政府機関も往々にして縦割りで互いに連携しない。公安当局は訪米を担当する中国外務省の意向に配慮せず、半ば自らの点数稼ぎのために摘発にいそしむ。
「習は今回の動きを完全にコントロールし切れていない」と、中国の人権と弁護士事情に詳しい東京大学の阿古智子准教授は言う。「社会が不安定化したとき、公安機関は『自律的に暴走』することがある」
前例がある。09年は、08年の北京五輪に向けて続いた好景気がいったん収束し、世界金融危機の余波で経済の失速が懸念された年たった。
公安当局はこの年、民主活動家で作家の劉暁波の逮捕・起訴を強行。しかしそれがあだになり、劉は10年にノーベル平和賞を受賞した。彼は中国の人権弾圧の象徴的存在になり、共産党政府は今もマイナスイメージに苦慮している。
公安当局のやり方がいつもうまくいくわけではない、ということだ。【7月28日号 Newsweek日本版】
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同様に、“軍の行動を政権指導部がコントロールしきれておらず・・・”といった説明がなされることもしばしばあります。
更には、指導部へ反感を持つ勢力が、敢えて指導部が困るような事態を引き起こしている・・・といった類の指摘がなされることもあります。
指導部の指示・了承があったのか、政府機関や軍が縦割りで互いに連携しない結果なのか・・・実際のところはよくわかりません。
話を台湾に戻すと、今回の中国軍兵士が台湾総統府に「極めて似ている」建物を攻撃し、突入する映像が流れたことは、中国にとってマイナスにしかならないでしょう。
【台湾の学習指導要領の改定 「中国色」が問題化】
台湾では、高校の学習指導要領の改定をめぐっても「中国色」が問題となって騒動が起きています。
****「中国色」強い教科書に抗議 台湾、学生らが政府庁舎を占拠 33人が拘束****
台湾の馬英九政権が進める高校の学習指導要領の改定をめぐり、「中国色」が濃いとして改定指針に反対する学生らが23日深夜、教育部(文部科学省に相当)の庁舎に侵入し、学生24人を含む33人が拘束された。
台湾では与野党間の歴史認識の違いから、過去の改定でも政治論争が発生。今回の改定は8月から施行される予定で、今月に入り反対を訴える野党支持者らの行動が過熱していた。
報道によると、学生らは、学習指導要領の改定をめぐる23日の座談会に、教育部長(文科相)が出席しなかったことに反発。警察官の警備網を突破して敷地の塀を乗り越え、部長室を一時占拠した。学生らの排除時に現場で取材していた台湾紙、自由時報などの記者3人も一時拘束された。
改定版は、歴史分野で「日本統治」を「日本植民統治」に、「慰安婦」の表現を「強制されて慰安婦にされた」とそれぞれ変更。戦後の中国国民党による台湾統治の始まりを、台湾の「接収」から祖国復帰のニュアンスが強い「光復」に変えている。
また、「中国」の表現をすべて「一つの中国」原則に従って「中国大陸」に変更するなど、中国的な要素が強まり、台湾に関する内容が薄まっている。
改定は文字の誤りの訂正など「微修正」としていたにもかかわらず、「台湾史」では字句の「6割」(聯合報)が変更されたことや、当局が審査過程の議事録公開を一時、拒んだことも反対派の不信感を増幅した。【7月24日 産経】
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学習指導要領が政治問題化するのは日本でも同じですが、中国関連の記述を大幅に増やし、「中国色」が濃いとされる今回改定について、野党・民進党は「戒厳令下の『大中国史観』に回帰している」などと批判しています。
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