孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア  首相職・有力ポストの世襲化・私物化 期待できない“昨日よりも寛容で民主的な社会”

2023-09-08 23:12:52 | 東南アジア

(言葉を交わす岸田文雄首相(右)とカンボジアのフン・マネット首相=7日、ジャカルタ【9月8日 時事】)

【ミャンマー・カンボジアなど東南アジア詐欺拠点で数十万人が強制労働】
「ルフィ」と名乗る今村容疑者などが関与してフィリピンを拠点に60億円以上の被害を出した特殊詐欺事件が話題になりましたが、東南アジアにおけるこうした犯罪行為の最大勢力はミャンマーやカンボジアを拠点とする中国人犯罪組織のようです。

単に詐欺行為・違法なオンライン賭博を行っているだけでなく、現地で数十万人規模の人々に強制労働を強いているということで、その悪質さは半端ないものがあります。

****東南アジア詐欺拠点で数十万人が強制労働か、犯罪組織下で=国連****
国連人権高等弁務官事務所は29日、東南アジア地域で近年見られる詐欺拠点や違法なオンライン事業に数十万人規模の人々が犯罪組織の手で移送され、強制労働を強いられているとする報告書を発表した。

複数の信頼できる情報筋に基づく推計として、ミャンマーで少なくとも12万人、カンボジアで約10万人が詐欺拠点に収容されている可能性があると指摘。ほかにも、ラオスやフィリピン、タイなどに、暗号資産詐欺やオンライン賭博などの犯罪組織が所有する企業があるとしている。

ターク国連人権高等弁務官は「こうした詐欺行為に強制的に加担させられている人々は、非人道的な扱いを受けながら犯罪行為を強いられている。被害者であって犯罪者ではない」と述べた。

カンボジア警察の広報は報告を見ていないとした上で、「(10万人という)数字をどこから得たのか。外国人がとやかく言っているだけだ」などと述べ、ミャンマー軍政はコメント要請に応じていない。

こうした状況は新型コロナウイルス禍以降に見られ、カジノ閉鎖で規制の緩い東南アジア各地に拡大している。

報告書は、詐欺拠点は急速に拡大し、毎年数十億米ドル規模の収入を生み出していると分析している。【8月30日 ロイター】
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「外国人がとやかく言っているだけだ」(カンボジア警察広報)・・・これだけの規模で犯罪行為を行う場合、警察などに察知されずに行うというのは考えにくく、現地警察・地方政府などとの「癒着」があるのでは・・・というのは容易に想像されるところです。

強制的に詐欺行為に加担させられている者には中国人若者が多いということで、中国公安が摘発に乗り出しています。

****中国当局269人逮捕 ミャンマー拠点の“振り込め詐欺G”摘発****
ミャンマーを拠点に中国に対して“振り込め詐欺”を行なっていたグループが摘発され、269人が一斉に逮捕されました。中国の公安当局は、海外に潜む詐欺グループの摘発を強化しています。

中国国営の中央テレビによりますと、中国の公安当局はミャンマー当局と合同でミャンマー北部にある“振り込め詐欺”グループの拠点を摘発し、269人を逮捕したということです。このうち186人は中国人だったということです。

ミャンマーでは詐欺グループに騙され渡航した中国人の若者が、監禁や拷問により犯罪に加担させられるケースが相次いでいますが、こうした「人身売買」の問題は今、インドネシアで行われているASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議でも大きな議題のひとつとなっています。【9月5日 TBS NEWS DIG】
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****中国へ1207人送還=ミャンマーから越境詐欺****
ミャンマーで中国国内を標的にした電話・インターネット詐欺に関わったとして、容疑者1207人が6日、国境を接する中国南部雲南省に移送された。中国国営中央テレビが8日、中国人とみられる集団の送還の様子を伝えた。

中国では、電話やネットを悪用した詐欺が社会問題化。2022年には被害額が2兆元(約40兆円)に達したとされる。習近平政権が社会の統制を強め、犯罪の取り締まりも強化していることから、中国人詐欺グループは東南アジアなど近隣に移って中国人相手に犯行を続けている。【9月8日 時事】 
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詐欺グループの摘発は結構な話ですが、“中国の公安当局はミャンマー当局と合同で”というのは、中国公安がミャンマーに大挙乗り込んで犯罪者逮捕などの実際の警察行為を行っているということでしょうか?

日本では考えにくい話ですが、中国との関係が強いミャンマーやカンボジアならそういうこともあるかも・・・これは想像です。

【フン・マネット新首相の外交デビュー】
でもって、今日はカンボジアの話。
カンボジアでは(仕組まれた)7月の総選挙“圧勝”を受けて、40年近くカンボジアを統治してきたフン・セン首相から長男のフン・マネット氏に首相職が禅譲されました。

(フン・セン氏の「院政」が敷かれているとは言え)欧米での教育も受けているフン・マネット新首相がどのような政治姿勢を見せるのか注目され、今月の一連のASEAN関連会議は新首相の外交デビューとなりました。

****カンボジア新首相、国際会議で演説 50年までの高所得国入り目指す****
カンボジアのフン・マネット新首相は4日、就任後初めて国際会議で演説し、2050年までに高所得国入りを目指す構想を明らかにした。(中略)

フン・マネット氏はインドネシアで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)のビジネスフォーラムで演説し、カンボジアは「50年までの高所得国入りを実現するため、苦労して勝ち取った平和を守り、国の開発を加速する」総合的な国家経済ビジョンでを打ち出したと説明。

「五角形戦略」と呼ぶこのビジョンでは、人的資本の開発、デジタル経済、包摂性、持続可能性を重視していると述べた。

カンボジアは長年の内戦で経済が疲弊したが、現在では経済成長率7%の低中所得国に発展しているとも指摘した。
大国間の地政学的な競争が激しくなり「ASEAN全体の平和、安全保障、繁栄」を圧迫しているとも発言。

「戦争を戦争によって終わらせることはできない」とし、主権国家を武力で脅すことに反対するようASEANと国際社会に呼びかけた。「(ASEANと国連は)独立、主権、領土の一体性、不干渉の精神を貫くべきだ」と主張した。【9月5日 ロイター】
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“不干渉の精神”・・・要するに“人権”とか“民主主義”に関して外国が余計な口出しするな・・ということでしょうか。

このあたりは“形式的なお題目”に近い話で、あまり中身がありませんが、中国・李強首相との会談などで、父親の親中路線を継続する姿勢を見せています。

****カンボジア新首相が外交デビュー=親中路線を踏襲―ASEAN会議****
カンボジアのフン・マネット新首相(45)がインドネシアで開催中の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席し、国際舞台にデビューした。加盟各国や中国の首脳らとも個別に会談するなど積極的な外交を展開した。

フン・マネット氏は8月、38年間首相を務めた父親のフン・セン氏(71)から首相の座を引き継いだ。欧米への留学経験があり英語は堪能で、ASEAN各国の首脳では最年少となる。

フン・マネット氏は4日に夫人と共にインドネシア入り。新政権の発足直後で新首相が参加していないタイと、クーデターで排除されているミャンマー以外の加盟国首脳と個別に会談したり、朝食を共にしたりした。

6日のASEANと中国との首脳会議では「中国の『一帯一路』構想はカンボジアに多くの恩恵をもたらした」と強調。李強首相とは個別会談も行い、フン・セン氏の親中路線を踏襲した。

一方、米国のハリス副大統領とは立ち話であいさつを交わすなどした。英国で経済学博士号を取得した経歴などから、世界経済フォーラム(WEF)のシュワブ会長とも会談した。【9月7日 時事】 
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【国家を私物化する世襲システム】
“親中路線を踏襲”を含めて、まだスタートしたばかりでその中身を云々するには早すぎます。すべてはこれからですが、これまでも取り上げてきたように首相だけでなく、有力閣僚ポストの多くが世襲されるというカンボジア政治の特殊性を考えると、あまり期待しないほうがいいようにも思えます。

****高級官僚のポストを「倍増」し、与党幹部の親族に「ばら撒き」...世襲大国カンボジアの罪****
<長男を後継の首相とするために、フン・セン前首相は権力の大安売りで省庁の次官・次官補級ポストを倍増したが...>

アジアの国には世襲が似合う──のだろうか。
(中略)8月22日には新議会が粛々とフン・マネットの首相就任を承認した。さて、この世代交代は何を意味するのか。あの国は昨日よりも寛容で民主的な社会になるのだろうか。

予断は禁物だが、同国のジャーナリスト協会(JA)が運営する英文ニュースサイト「カンボJAニュース」が8月23日付で興味深い情報を載せていた。なんと、新内閣では各省庁の大臣より下の長官(次官)、副長官(次官補)級ポストが2倍以上に増えるという。その数は計1422、父の時代には641だったから、まさに激増である。

カンボJAによれば、「新設ポストの多くは与党幹部の親族に加え、今回の選挙前に与党側に転じた野党有力者や活動家、労働組合の幹部などに振り分けられた」らしい。

とんでもない「高級官僚の超インフレ」だが、実は今に始まった話ではない。93年に国連の監視下で総選挙が行われて以来、ずっと続いてきた慣行なのだ(あのときは日本も国連のPKO選挙監視団に加わっていた)。

選挙の結果、王制が復活したが、CPPのフン・センは「第2首相」の座を確保。以来、CPPはひたすら反対勢力を排除し、力ずくで黙らせる一方、与党側に寝返れば政府の要職を与え厚遇するという手法を取ってきた。だから選挙のたびに政府組織が肥大化し、高級官僚の数が増えた。

カンボJAの報道によると、今回はフン・センの盟友で2017年に死去したソック・アンの息子4人が要職に起用された。「ソック・サングバーは公共事業省の次官、ソック・プティブットは郵政省の次官、ソック・ソカンは国土整備省の次官、そしてソック・ソケーンは観光相」だ。

どうやら、これがカンボジア流の現代版世襲制らしい。そこでは権力の継承が法律や規則ではなく個人的な関係によって行われる。公務員は国民にではなく、その上司に奉仕する。公務員の給料は微々たるものだが、その地位と権力を利用すれば十二分に稼げるから困らない。

とめどなく増えるポスト
当然のことながら、このCPPを核とする権力ネットワークは選挙のたびに肥大せざるを得ない。
政府高官の地位に一旦就けば、政権に忠実である限り、まず追放されることはない。一方で、新人を受け入れるために新しいポストが設けられる。現職は昇進ないし横滑りするのみだから、その数はどんどん増えていく。

それにしても、今回の高級官僚インフレの規模は異例と言うしかない。そこには父から子への権力継承を円滑に進めるための入念な準備があったとみるべきだろう。

カンボJAによると、官僚インフレが特に顕著なのは内務省だ。前政権では22人だった次官・次官補が、今回は104人に増えた。また国防省でも、38人だった次官級が86人に増えた。

増員の理由は明かされていないが、実を言うと両省のトップは以前から、首相職の世襲に批判的だと指摘されてきた。内務相のサル・ケンと、国防相のティア・バン。共にフン・センの長きにわたる盟友である。

もちろん真相は闇の中だ。CPPの党内政治に関しては事実と噂の区別がつかない。しかし、フン・センの狙いどおり息子を後継者に据えるためには、長年にわたって彼の統治を支えてきた政界有力者や治安組織の賛同が必要だったことは明らかだ。そのためには有力者を金と名誉で釣る必要があった。

結果として、内務省でも国防省でも首相府と同じ世代交代が行われた。サル・ケンとティア・バンは退任し、それぞれの息子(サル・ソカとティア・セイハ)が後を継いだ。これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった。

それで次官・次官補級のポストが激増した。退任した2人の親族や手下を追い出すわけにはいかず、新任の2人の親族や仲間には新たな席を用意しなければならない。かくして政府は肥大化する。それはフン・センが首相職を息子に渡すに当たり、支持を確保するために支払わねばならぬ代償だったと言える。

これら全てが、フン・セン政権下で発展してきたカンボジアの独特な政治システムと、その今後の展開について重要なことを物語っている。

新政権の次官・次官補級1422人のうち、その地位にふさわしい具体的職務をこなしてきた人物は皆無に等しい。しかし全員がその地位を利用して稼ぎ、親類縁者の暮らしを支え、自分を補佐し、あるいは自分の手足となる者たちのネットワークを維持する資金を必要としている。

少なくとも過去には、役人が昇進のために金を払い、昇進によって増えた稼ぎの一部を「上の者」に献上するしきたりがあった。

経済縮小で崩壊のリスク
そういう事情があれば、公務員(正規の給料はたかが知れている)は自らの地位を利用して最大限に稼ごうとする。だから賄賂が横行する。結果、国民への奉仕は二の次になる。これがフン・セン政権下のカンボジアで汚職が蔓延した根本原因だ。

この現実を踏まえて、本稿の冒頭で提起した問い(この世代交代でカンボジアは今よりも寛容で民主的な社会になるか)に戻るなら、多くを望めないことは明らかだ。仮にフン・マネットに改革意欲があっても、できることは限られている。【9月7日 Newsweek】
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“これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった”・・・首相職はフン・セン一族の私物なら、有力ポストも・・・。

まあ、日本でも特定ポストがある派閥や政党に引き継がれるというのはよくある話ですから、そう珍しい話でもないのかも。 当然にそうした世襲で利権構造が出来上がりますし、何より国民のための政治が行われることは期待できません。

冒頭に取り上げた詐欺等の犯罪組織も悪質ですが、国民のための政治を空洞化させる国家の私物化は更に大規模な犯罪行為のように思えます。

なお、フン・マネット首相は岸田首相とも会談

****日カンボジア首脳が会談 岸田氏「民主的発展を後押し」****
岸田文雄首相は7日、訪問先のインドネシアで、カンボジアのフン・マネット首相と会談した。先月就任した同氏との会談は初めてで、法の支配に基づく国際秩序の維持に向け「連携したい」と伝えた。

岸田氏は、海上自衛隊の訪問などを通じ安全保障協力の強化を図る意向も強調。「国民が多様な意見を表明し得る環境が重要だ。カンボジアの民主的発展を後押しする」と語った。(後略)【9月8日 時事】
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「民主的発展」・・・カンボジアにその気があれば“後押し”の仕様もありますが・・・
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