孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台頭する極右勢力 民主主義と自国制度への信頼の揺らぎ 既存政治への幻滅

2024-04-13 22:17:24 | 民主主義・社会問題

(「これはスウェーデンの研究機関が、今年(2022年)発表した世界地図です。民主的な度合いが高い国や地域ほど濃い青で、低いほど濃い赤で示されています。

民主的だとされる基準は、“公正な選挙”や“基本的人権の尊重”、“言論の自由”などが実現しているか、さらに、政治権力の暴走を食い止めるための“法の支配”が徹底されているかです。

現在、自由で民主的とされているのは、60の国や地域。一方、こうした基準を満たさず、非民主的だとされているのは119の国と地域です」【2022年11月14日 NHK「混迷の世紀 第3回 岐路に立つ“民主主義”〜権威主義拡大はなぜ〜」】)

【世論が右傾化する背景 移民の増加と経済的苦境、格差の拡大以外に地政学上の不安もあるとの指摘も】
これまでも再三取り上げてきたように欧州では「極右」政党が勢いを増しています。6月の欧州議会選挙では、その傾向が明確に示されるとも予想されています。

一般に、世論が右傾化する背景には移民の増加と経済的苦境、格差の拡大があるとされていますが、現在はそうした環境がそんなに悪化しているわけでもなく、極右政党・排外的な愛国主義が拡大する原因は他にもあるのではないかとの指摘も。

下記記事は、ロシアのウクライナ侵攻以降の国際情勢の変化に対し、これまでの政治では対応できないのではないかという人々の意識変化・不安を極右拡大の背景にあげています。

****6月の欧州議会選挙へ、ヨーロッパで「排外的な愛国主義」が流行する移民と経済以外の理由****
<排外的な主張が支持されるのはなぜか。注意すべきは、ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、極右政党の支持率が目立って上昇していることだ>

欧州議会の選挙が6月に迫っている。気になるのは、移民排斥を声高に叫ぶ極右勢力が議席を増やしそうなことだ。
排外的な愛国主義の波は南のポルトガルから北のスカンディナビア諸国にまで広がっているが、とりわけ憂慮すべきは、70年以上も前に率先してヨーロッパ統合への道を切り開いた6カ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)の右傾化だ。

イタリアでは、往年のファシズムの流れをくむジョルジャ・メローニが2年前に首相となり、今も高い支持率を誇る。オランダでは過激な移民排斥主義者ヘールト・ウィルダースの率いる自由党が昨年の総選挙で第1党に躍進した。

フランスでも各種の世論調査によれば、極右のマリーヌ・ルペン率いる国民連合が30%近い支持率でトップに立つ。
ベルギーでは極右民族主義政党フラームス・ベラングが強く、ドイツでも右派のドイツのための選択肢(AfD)が堂々の第2党。1952年に欧州石炭鉄鋼共同体を結成した6カ国のうち、今も中道路線を堅持しているのはルクセンブルクだけだ。

中には穏健な保守派のベールをかぶった政治家もいる。いい例がイタリアのメローニで、彼女は表向き西側陣営の結束を重視しており、内政の舵取りも巧みだ。

一般論として、世論が右傾化する背景には移民の増加と経済的苦境、格差の拡大があるとされる。しかし今は、こうした問題もおおむね改善に向かっている。

インフレで購買力が低下したのは事実だが、2008年に起きた世界金融危機の直後ほどひどくはない。失業率も、ここ数十年では最も低い。格差も少しは縮まり、例えばフランスでは所得格差を示すジニ係数が10年から下降し続けている。

それでも排外的な主張が支持されるのはなぜか。まず注意すべきは、ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、こうした極右政党の支持率が目立って上昇している点だ。

陸続きの欧州諸国の人々は、あれを見て「冷戦終結以後」の国際秩序が崩壊へと向かう不気味な予感を抱いた。

冷戦の時代には、ソ連の影響力を最小限に抑えるため、西欧諸国の経済統合を進める機運が生まれた。89年のベルリンの壁崩壊で冷戦が終わると、東欧圏も巻き込んで政治的・経済的な統合を進めることが新たなミッションとなった。

そうして加盟国の増えたEUは自信をつけ、経済政策でも気候変動対策でも、自分たちが率先して模範を示せばいいと考え始めた。

しかし、そこにロシアによるウクライナ侵攻が起きた。中東でも戦争が始まり、アメリカではドナルド・トランプが大統領に復帰しかねない気配だ。流れが変わった。人々はその変化を察知し、この30年間とは異なる道を指し示す指導者を求め始めた。

ロシアがウクライナに攻め込むのを見て、自分たちの主権が完全なものではないと気付いた。気候変動対策を主導しようにも、今の欧州には必要な技術力がない。

今のところ、メローニは穏健なふりをしている。だが実際は、ひそかに既存の体制を崩そうとしているのではないか。現に政府の要職に続々と自分の支持者を送り込んでいる。
大統領と議会の権限を弱め、首相に権力を集中する憲法改正案も用意した。まずは国内を掌握し、次にEUを内部から変えていくつもりだろう。

だが欧州で広がる右傾化の核心に地政学上の不安がある以上、それに対抗するために必要なのは政治統合のさらなる深化だ。現状維持のままでは安全と主権を守れない。排外主義ではなく、統合推進こそが正しい道だ。【4月2日 Newsweek】
*******************

単に極右政党が議席を増やすだけでなく、そうした流れに対抗するために、従来の中道勢力が極右勢力の主張を一部取り込む形で右傾化して支持を守ろうとすることにもなります。

****欧州議会、移民・難民受け入れ巡るEUの枠組み改正案承認****
欧州連合(EU)欧州議会は10日、EUの移民・難民受け入れの枠組みの改正案を承認した。

加盟国国境における難民認定手続きの迅速化や、難民申請が認められない人々の送還を拡大することなどが盛り込まれ、イタリアなど移民・難民希望者が最初に到着する国と、比較的財政が豊かなドイツなどの国の負担をより公平にする。

欧州委員会のヨハンソン委員(内政担当)は改正案によって「国境の守りが強化されると同時に、弱者や難民の保護が進み、滞在資格のない人々は速やかに送還され、加盟国は果たす義務の面で団結する」と説明した。

6月の欧州議会選で極右勢力の躍進が予想され、こうした勢力が移民抑制を求めている中で、現在多数派の中道側が対応を迫られて今回の改正案を打ち出した形だ。

ただ極右勢力は移民を阻止するには不十分だと批判。左派からも、重大な人権侵害だと反対の声が出ている。【4月11日 ロイター】
********************

【極右政党AfDが台頭するドイツ】
「排外的な愛国主義」が流行・・・・これも再三指摘されるように、ドイツでは極右政党AfD(ドイツのための選択肢)の支持率が第2位となる状況が続いています。

****ドイツの右傾化が止まらない…移民受け入れ・グローバル経済を推し進めてきた「リベラル政治家」が真に向き合うべき相手とは****
不動産危機は「あと2年続く」との予想
欧州最大のドイツ経済の雲行きがあやしくなっている。 ウクライナ戦争に起因するインフレを抑止するため、欧州中央銀行(ECB)が大幅な利上げを余儀なくされ、そのせいでドイツの不動産市場が大打撃を被っている。(中略)

ドイツの不動産危機について、業界関係者から「あと2年は続く」との予測が出ている(3月14日付ロイター)。しかし、バブル崩壊後の日本の例にかんがみれば、危機は10年以上続くのではないかとの不安も頭をよぎる。

経済成長率は2年連続でマイナス成長か
企業の業績も大きく悪化している。ドイツ政府によれば、昨年の企業倒産は前年比22.1%増の1万7814件だった。「産業の空洞化」も顕在化しており、昨年の海外企業によるドイツへの投資は過去10年で最低水準だった。一方、国内の事業コストの増加を嫌気して、海外投資を検討する企業も増加している(3月12日・14日付ロイター)。

ドイツ経済を牽引してきた自動車産業も苦境に陥っている。成長が期待される電気自動車(EV)市場で中国メーカーとの競争に敗れつつあり、「ドイツの自動車産業は生存の危機にある」との嘆き節が聞こえてくる。

昨年は0.3%減だった経済成長率が、今年もマイナス成長となることが現実味を帯びてきているのだ。

経済が不調になれば政治に悪影響が及ぶのが世の常だ。「反移民」などを訴える政党・AfD(ドイツのための選択肢)の支持率が第2位となる状況が続いており、ドイツ政府関係者の頭痛の種となっている。

極右支持が若者のトレンドに
ドイツ連邦銀行(中央銀行)のナーゲル総裁は3月23日、「右翼過激派が同国の繁栄を脅かしている」と警告を発した。ナーゲル氏の懸念とは、反移民の風潮が海外の熟練労働者をドイツから遠ざけてしまうことだ。

ドイツ政府の推計によれば、2035年までにドイツ全体で700万人の熟練労働者が不足する。だが、反移民ムードの高まりから、ドイツ経済にとって不可欠な存在となった外国人熟練労働者の離職が増加し始めている(3月27日付ロイター)。

これに対し、AfDは「国内経済の悪化から目をそらすために我が党をスケープゴートにしているだけだ」と、政財界からの批判に耳を傾けようとしていない。

ドイツに限らず欧州では「極右」と呼ばれる政党が支持を伸ばしており、特に若者の間で浸透している感が強い。3月10日に総選挙が実施されたポルトガルでは、極右政党のシェーガが議席数をこれまでの約4倍に伸ばした。この成功の秘訣は、カリスマ的な若いインフルエンサーを利用したことだと言われている。

ドイツでもAfDは若者をターゲットにした戦略を積極に進めている。既存政党は若者の言葉を話していないが、急進的な極右政党は若者に響く言葉を話しており、「極右を支持することが若者の間でクールなことだ」との風潮が生まれているという(3月19日付クーリエ・ジャポン)。

危機に瀕しているのはリベラリズム
「西側諸国の民主主義の危機」が叫ばれているが、筆者は「危機に瀕しているのは民主主義ではなく、これまで政治を主導してきたリベラリズムなのではないか」と考えている。

リベラリズムを信奉する政治家(リベラル政治家)は、移民などの積極的な受け入れや経済のグローバル化などを重視するが、生活費の高騰で不満が高まる中間層のことにはあまり関心を示さない印象が強い。

これに対し、「極右」の政治家たちは中間層の怒りを代弁し、リベラル政治家への不満を糧に支持を伸ばしてきた。

70年以上前に欧州統合の先鞭を付けた6ヵ国のうち5ヵ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー)で極右化が進んでいる(4月2日付ニューズウィーク日本版)。

これまでのところ、大きな混乱は発生していないが、極右の政治手腕には不確実さがつきまとう。社会的な対立が先鋭化している状況下で、いつ想定外の事態が起きても不思議ではないだろう。

リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向き合わない限り、ドイツをはじめ欧州で政治の危機が発生する可能性は排除できないのではないだろうか。【4月10日 藤和彦氏 デイリー新潮】
******************

リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向きった結果が、先述の中道の右傾化でしょうか。
ただ、守るべき価値観はあるでしょう。

ドイツにおける若者らの既存政治への不満がもたらすものは極右勢力拡大だけではないようです。
下記のような過激思想へ傾斜する若者がどれだけいるかはわかりませんが・・・いつの時代でも、こういうものは存在するかも。あるいは、問題とすべきはISのプロパガンダ活動なのかも。

****テロ計画容疑で少女ら拘束 ドイツ、IS賛美か****
ドイツ検察は12日、テロを計画した疑いで、西部ノルトライン・ウェストファーレン州の15歳と16歳の少女2人と15歳の少年を拘束したと発表した。大衆紙ビルトによると、3人は過激派組織「イスラム国」(IS)を賛美し、キリスト教会や警察署の襲撃を企てていた。

地元メディアによると、別の州に住む16歳の少年も3人との関連で同様の疑いで拘束された。

パレスチナ自治区ガザ情勢や、ISが犯行声明を出したモスクワ郊外での銃乱射事件を受け、欧州ではテロへの懸念が高まり、ドイツをはじめ各国が警戒を強めている。【4月12日 共同】
*********************

【自国の民主主義と制度への信頼の揺らぎ、既存政治への幻滅あるとの】
極右台頭にしても、過激主義にしても、自国の民主主義と制度への信頼が揺らぎ、既存政治への幻滅が広がっていることと表裏の関係にあるのでしょう。期せずして似たような調査結果がふたつ。

****多くの国の有権者が民主主義に懐疑的=政府間組織IDEA****
多くの国の有権者が自国の民主主義と制度への信頼に危機感を抱いている――。スウェーデンに本拠を置く政府間組織「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)」は11日公表した報告書でこう指摘した。

世界人口の半分以上を占める米国、インド、英国、欧州連合(EU)が今年選挙を控えている中、多くの民主主義国家の健全性について暗い認識が持たれていることが浮き彫りになった。

調査対象19カ国のうち米国とインドを含む11カ国の有権者の間で、直近の選挙が自由で公正だったと考える人の割合は半数以下だった。

デンマークの有権者だけが、裁判所が司法制度へのアクセスを「常に」ないし「しばしば」提供していると回答。19カ国中8カ国で「議会や選挙に煩わされない強力な指導者」について好意的な見方をする人が、そうでない人よりも多かった。

IDEAのケビン・カサス・ザモラ事務総長は声明で「民主主義国家は、ガバナンスを改善するとともに、信頼できる選挙に対する虚偽の告発を助長している偽情報文化に対抗することによって、国民の懐疑心に対応しなくてはならない」と述べた。

今年の米大統領選では、現職の民主党候補に指名される見通しのバイデン大統領と、2020年の大統領選で敗北した際に不正投票がまん延していると虚偽の主張を行ったトランプ前大統領が再び対決することになりそうだ。

こうした中で米国の回答者のうち、自国の選挙プロセスを信頼できると答えた人は47%にとどまった。

6月に行なわれる欧州議会選挙では、極右勢力が大きく躍進する可能性があり、ロシアと戦うウクライナへの支持から気候変動対策まで、政策に影響を与える可能性がある。

調査は2023年7月から24年1月にかけて、19カ国のそれぞれ約1500人を対象に実施。19カ国にはブラジル、チリ、コロンビア、ガンビア、イラク、イタリア、レバノン、リトアニア、パキスタン、ルーマニア、セネガル、シエラレオネ、韓国、タンザニアなどが含まれる。【4月11日 ロイター】
********************

****政治への幻滅が急拡大、米若年層の保守化が顕著=国際調査****
既存の政治に対する幻滅と絶望が世界的に急拡大していることが12日公表された調査で明らかになった。この傾向は特に米国の若い男性で顕著だった。

調査は国際調査機関グロカリティーズが行った。「希望」と「絶望」、「統制(保守)」と「自由(リベラル)」の間のそれぞれどこに位置するか回答者に尋ねた。

平均すると世界は2014年から23年の間に、より悲観的になる一方でよりリベラルになった。

調査責任者のマルティン・ランパート氏は世界中の若者が特に社会に失望していると述べ、米国の若年層の絶望の急増はEU諸国の若年層をはるかに上回っていると指摘した。

米国と欧州連合(EU)加盟国7カ国で、14年からより保守的になったのは米国の若年層だけだった。

ランパート氏は「(世界中で)絶望感、社会への幻滅、コスモポリタンな価値観への反抗が反体制極右政党の台頭の一因となっている」と分析した。

ソーシャルメディアのアルゴリズムは、穏健的保守の若い男性をより過激で急進的な保守派の男性像や世界観に引き寄せることで、この傾向を拡大させていたという。

<若い女性は史上最もリベラル>
18─24歳の男性が55─70歳の男性を抜いて最も社会的に保守的なグループとなった一方で、18─24歳の女性はよりリベラルで反父長制的な傾向が強まった。

18─24歳の女性のリベラル度(1が最も保守的、5が最もリベラル)は14年が3.55、23年は3.78と、いずれもどの年齢層よりも高かった。

同年齢の男性は14年が3.29、23年は3.36だった。米国の18─34歳の男性はリベラル度が3.48から3.46に低下した。

報告書は「世界的に見て若い女性は人類史上最もリベラルなグループだろう」と結論付けた。

調査はオーストラリア、ブラジル、中国、ドイツ、インド、日本、ロシア、南アフリカ、米国など20カ国で実施された。【4月12日 ロイター】
**********************

アメリカが“より保守的になった”のは世論動向とも一致しますが、欧州が“悲観的になる一方でよりリベラルになった”というのはよくわからないところも。詳しい調査結果を見ないと何を意味するのかはよくわかりません。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アメリカによる対ロシア第二... | トップ | チャイナ・ショック2.0  中... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

民主主義・社会問題」カテゴリの最新記事