(会談に臨むゼレンスキー大統領とトランプ候補(9月27日、ニューヨーク)【9月28日 BBC】)
【「米大統領選で戦争の重要な方向性が決まるが、私たちは関与できない」】
周知のようにアメリカ大統領選挙は5日に迫っていますが、アメリカ国内での激しい選挙戦だけでなく、その結果が世界の政治経済に及ぼす影響の大きさから、世界中が見守っています。
ハリス候補勝利ならほぼ現状維持ですが、トランプ候補勝利なら大きく変わります。
特に、現在アメリカの支援を生命線としてロシアと戦うウクライナにとっては、米大統領選挙の結果は死活的に重要で、自分たちではいかんともし難いもどかしさを感じながら、その結果を注視しています。
****ウクライナ「命運握られた状況」 兵士や遺族、米大統領選を注視****
ウクライナの戦死者遺族や現役兵士が、5日に迫った米大統領選の行方を注視している。民主党候補のハリス副大統領がウクライナ支援継続を明言する一方、共和党候補トランプ前大統領はロシアによる侵攻を交渉で終結させると主張。遺族らは大国の選挙結果に「命運を握られた状況」だとして無力感にさいなまれている。
「奪われた領土の放棄を迫られるのなら、怒りを感じる」。ビクトリア・ボリシュクさん(50)は涙ながらに訴え、ハリス氏の当選を願った。
夫セルギーさん(48)は今年3月、東部の激戦で亡くなった。2022年の侵攻直後に軍に動員され、帰還後も志願して再び戦地に赴いていた。
「夫は国を愛し、守り抜いた。歴史に名を刻んだ」とボリシュクさん。トランプ氏が当選して「支援がなくなってもウクライナは戦い続ける。だが武器が不足して犠牲は増える」と予想した。
侵攻初期に制圧された東部ドネツク州マリウポリ出身のアンナ・キシリシュナさん(51)は「米大統領選で戦争の重要な方向性が決まるが、私たちは関与できない」と嘆いた。【11月3日 共同】
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【トランプ氏「この戦争は負け戦だ」 トランプ復権なら現状是認で進む停戦交渉】
ロシア・プーチン大統領に好意的とされるトランプ氏はかねてよりウクライナ支援による戦争継続には消極的で、「自分なら1日で戦争を終わらせる」と豪語しています。
****「私なら24時間以内に戦争終わらせる」 ウクライナ巡りトランプ氏****
2024年の米大統領選で返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領は(23年5月)10日、米CNN主催のイベントに登壇した。ロシアによるウクライナ侵攻について「私が大統領なら、24時間以内に終わらせる。勝ち負けではなく、どう決着をつけるかという問題だ。人が殺されるのを止めるのだ」と主張し、ウクライナへの支持を明言しなかった。
トランプ氏は「(ロシアもウクライナも)両国とも弱みと強みがある。終わらせるには(米国の)大統領の力が必要だ」と強調した。
プーチン露大統領については「大きな過ちを犯したが、頭が良く、ずる賢い人物だ」と評価。「(彼は)戦争犯罪人か」との質問には「戦争犯罪人だと言えば、問題解決のためのディール(取引)がずっと難しくなる。後で議論されるべきだ」とかわした。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領とは「非常に良い関係にある」と述べたが、対ウクライナの軍事・財政支援の継続に関しては明言を避けた。その上で「欧州各国はもっとお金を出すべきだ」と主張した。(後略)【2023年5月11日 毎日】
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“24時間以内”はともかく、短期に戦争を収束させるということは、ロシアがウクライナ領土を大きく占領している現状を一定に是認する形ともなり、ウクライナにとっては領土割譲を迫られることにもなります。
最近では、トランプ氏はゼレンスキー大統領をアメリカから多額の資金を引き出すセールスマンだと批判し、ウクライナの戦争についても「負け戦」と断定しています。
****「この戦争は負け戦だ」トランプ氏がゼレンスキー氏を非難****
トランプ前大統領は(10月)17日に公開されたポッドキャスト番組のインタビューで「ゼレンスキー氏はロシアとの戦争を始めさせるべきではなかった。この戦争は負け戦だ」と述べ、戦争の責任がゼレンスキー氏にあるとも受け取れる発言をしました。
また、「ゼレンスキー氏は今まで見た中で最も偉大なセールスマンだ。彼がアメリカに来るたびに我々は1000億ドルを与えている」と非難し、「自分が大統領だったらあの戦争は決して起こらなかった」と、従来の主張を繰り返しました。
トランプ前大統領はウクライナへの軍事支援に消極的で、大統領選挙で勝利すればアメリカのウクライナ政策が大きく変わる可能性があります。【10月18日 ANNニュース】
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“負け戦”と断じる戦争のために資金を投じることはないでしょう。トランプ氏が考える「24時間で終わらせる」という停戦のあり方はおのずと見えてきます。
トランプ氏とは相性のいい、またロシア寄りとされるハンガリー・オルバン首相はトランプ氏の意を受ける形での和平仲介を行う用意があるとしています。
オルバン首相は7月11日、トランプ氏と会談、ウクライナ情勢をめぐり和平などについて協議したとみられます。
****トランプ氏、再選ならウクライナの「和平仲介」する用意 ハンガリー首相が見解****
ハンガリーのオルバン首相は17日までに、欧州の指導者らに対して、米国のトランプ前大統領が再選された場合には本人自らロシアとウクライナの間に立ち、「和平の仲介役として行動する用意がある」と告げた。
欧州では、トランプ氏が再選すればウクライナ政府に向けてロシアへの領土割譲を迫るのではないかとの懸念が広がっている。
オルバン氏は欧州理事会のミシェル議長と欧州連合(EU)加盟国の全首脳に書簡を送り、トランプ氏が再選を果たせば「大統領就任を待たず、和平の仲介役として行動する準備を即座に整えるだろう」と指摘。同氏にはそのための詳細かつ根拠の十分な計画があるとの見解を示した。【7月17日 CNN】
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【戦況 後退を余儀なくされているウクライナ】
トランプ氏復権の予想と併せてウクライナにとって具合が悪いのは、戦局が思わしくなく、犠牲を顧みないロシアの攻勢で後退を余儀なくされていることです。
****ロシアのウクライナ制圧面積、10月は22年3月以降で最大 データ分析****
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が10月に制圧した面積は27日時点で478平方キロに及び、月間としては、侵攻開始直後の2022年3月以降、最大となった。AFPが28日、米シンクタンクの戦争研究所のデータを基に分析した。
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が10月に制圧した面積は27日時点で478平方キロに及び、月間としては、侵攻開始直後の2022年3月以降、最大となった。AFPが28日、米シンクタンクの戦争研究所のデータを基に分析した。
ロシア軍はウクライナで今年8月に477平方キロ、9月に459平方キロを掌握したが、10月はそれを上回る。特に戦略的な要衝である東部ドネツク州ポクロウシク周辺で、ロシア軍が戦線を大きく押し込んだことが寄与した。
ロシア軍は現在、南・東方面からポクロウシクに向かっており、わずか数キロの地点にまで迫っている。
さらに、戦線北方に位置するハルキウ州クピャンスク近郊でも40平方キロ以上を掌握している。
戦力で上回るロシア軍を相手に、ウクライナ軍が東部で苦戦を強いられている状況が改めて浮き彫りになった。
AFPが分析に使用したのは、ISWが毎日発表しているデータで、ロシア・ウクライナ両軍が公表した情報および衛星画像に基づいている。 【10月29日 AFP】
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****ウ軍、最も強力な攻撃に直面 東部激戦地でロ軍の集落制圧続く****
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は2日、2022年のロシアの侵攻以降、最も強力な攻撃の一つに現在直面しているとの見解を示した。チェコ軍幹部との会談後に通信アプリで明らかにした。ウクライナ東部の激戦地でロシア軍の集落制圧が続いている。
ロシアによる市民への攻撃も激しく、ゼレンスキー大統領は声明で、10月に無人機シャヘドがほぼ毎日飛来し、計2千機を超えたと説明。欧米や中国が無人機部品を供給しているとして、輸出管理の厳格化を求めた。(後略)【11月3日 共同】
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こうした戦況では、トランプ氏の提案する現状是認的な停戦案を拒むことは難しいでしょう。拒んで、トランプ氏が支援を停止すれば事態は更に悪化します。
ゼレンスキー大統領と9月27日に会談したトランプ氏は「戦争を終わらせるべき時だ」と話したとのこと。
****トランプ候補、ゼレンスキー氏と会談 ロシアとの戦争終わらせるべきと****
米共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ前大統領は27日、訪米中のウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領とニューヨークで会談し、ロシアがウクライナで続ける戦争を終わらせるべき時だと話した。
ニューヨークのトランプ・タワーで記者団を前に、ゼレンスキー氏と並んだトランプ候補は、「我々は双方としっかりやりとりをして、これを収めてまとめるように取り組む」と述べ、「(戦争は)終わらなくてはならない。いずれは終わらなくては。(ゼレンスキー氏は)地獄のような思いをしているし、彼の国も地獄のような経験をしている」のだと話した。
ゼレンスキー大統領はその場で、「ウクライナをいかに強化するか、我々の計画をすべて共有することが大事だ」としたうえで、「もちろんそれは今の時点で決めなくてはならない。というのも、11月以降がどうなるのか私たちにはわからないので。誰が大統領になるか決めるのは、アメリカ人だけだ。
けれども11月まではプーチン(ロシア大統領)を自分たちでは止められないこともわかっている。でもそうしなくては。戦場では果敢な兵士たちが努力する。
けれども11月以降は決断しなくてはならないと理解しているし、アメリカが強力でいてくれることを期待しているし、頼みにしている。だからこそ私は、両候補と会うことにした」のだと話した。
ゼレンスキー氏はさらに、自分とトランプ候補は「この戦争は終わらせなくてはならないし、プーチンには勝たせてはならないのだという認識で一致している」と話し、自分の「勝利計画」について詳細をトランプ候補に説明するつもりだと述べた。【9月28日 BBC】
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「誰が大統領になるか決めるのは、アメリカ人だけだ」というのがゼレンスキー大統領の悩みです。
ハリス氏勝利の場合はゼレンスキー大統領の提示する「勝利計画」、アメリカ供与の長距離兵器の使用制限の解除・緩和などが問題になりますが、それはハリス氏勝利の後に。