孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  トランプ氏復権で不安を抱えながらも対応を急ぐ 存在感を増すオルバン首相

2024-11-10 23:08:28 | 欧州情勢

(7日、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた欧州政治共同体(EPC)首脳会合【11月8日 共同】)

【欧州、トランプ政権に不安を抱えながらも関係作りに腐心】
欧州各国首脳はトランプ氏当確が明らかになると祝意を表明してはいますが、「アメリカ第一」を掲げ、欧州との防衛協力やウクライナ支援に消極的なトランプ氏との関係について内心は大きな不安を抱えています。

****欧州、トランプ政権に不安も関係作りに腐心 ブダペストの首脳会合でウクライナを討議****
欧州連合(EU)に英国、ウクライナなど近隣諸国が加わる「欧州政治共同体(EPC)」の首脳会合が7日、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた。米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、米欧同盟の行方に不安が広がる中、欧州側はトランプ氏との関係の構築に腐心している。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、トランプ氏が早期停戦に向け圧力をかけることを警戒し、同会合で英仏独など欧州主要国に支援継続を確認したい意向とみられる。会合を前にマクロン仏大統領、スターマー英首相はそれぞれ6日、トランプ氏と電話会談した。

欧州各国はトランプ氏に祝意を示す一方、安全保障への不安をにじませた。

リトアニアのナウセーダ大統領は「わが国は国内総生産(GDP)の3・5%を防衛費にあて、これからも投資する」とX(旧ツイッターで)で発信。トランプ氏が欧州側の防衛費負担が少ないと不満を表明していることを受け、貢献を強調した。

これに対し、ウクライナの早期停戦を支持するハンガリーのオルバン首相は、トランプ氏の勝利を「世界が待ち望んでいた」と手放しで歓迎。Xへの投稿でトランプ氏と電話会談したと明かし、「われわれは大きな計画を持っている」と書き込んだ。

EPCは2022年、ロシアのウクライナ侵略を受けて発足した枠組みで、首脳会合は今回で5度目。EU加盟27カ国を含めて47カ国が招待された。【11月7日 産経】
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ロシアの占領を容認する形でウクライナに停戦圧力をかける恐れがあるウクライナのゼレンスキー大統領は“「トランプ氏が具体的にどう行動するかは分からない」と懸念を表明。一部の欧州首脳からロシアに譲歩するよう働き掛けがあると述べた上で、「欧州にとって自殺行為だ」と受け入れを拒んだ。”【11月7日 時事】

【存在感を増すハンガリー・オルバン首相 トランプ・オルバン両氏に共通する「反移民」「反エリート」の姿勢は欧州極右にも共通】
トランプ氏復権で意気軒高なのがトランプ氏と政治姿勢が近く、親密な関係を持つハンガリー・オルバン首相。

****ハンガリー首相の存在感が増大 EUで、トランプ氏に立場近く****
米大統領選でトランプ次期大統領が勝利したことを受け、強権的な政治姿勢で知られるなど立場の近いハンガリーのオルバン首相の存在感が欧州連合(EU)で増している。

オルバン氏はロシア寄りとされ、EUのウクライナ支援を繰り返し妨害するなどして孤立を深めたが、風向きが変わる可能性が出てきた。

「オルバン氏の発言には重みがある」。欧州外交筋は、次期米政権への対応も議題となったハンガリーの首都ブダペストでの7日の欧州政治共同体(EPC)首脳会合後、同氏を評価。トランプ氏支持を鮮明にし、同氏と関係が良好なオルバン氏への期待がのぞく。

一方、オルバン氏は7日の記者会見で「個人的関係と国家間の関係を混同してはならない。米国の大統領はハンガリー国民の苦境への対処よりも、もっと大きな問題を抱えている」として期待感の抑制に努めた。

ハンガリーは7月から半年間、加盟国が輪番で担当するEU議長国を務めている。加盟国がハンガリー主催の会議への閣僚派遣を見合わせるなどEU内で亀裂が拡大していた。【11月8日 共同】
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オルバン首相とトランプ前大統領の関係の背後にある「反移民」「反エリート」の考えは、両氏の関係を越えて近年台頭が著しい欧州極右・右派勢力に共通するものです。

****「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 国際秩序に打撃のリスク 「トランプ2.0」の衝撃③****
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領(78)が勝利を確定的にした6日、トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした外国首脳の一人にハンガリーの強権指導者、オルバン首相(61)がいる。トランプ氏との親密さを誇示するように、X(旧ツイッター)に「私たちには未来に向けた大きな計画がある!」と投稿した。

2人が盟友関係にあることはよく知られる。トランプ氏は選挙演説で何度もオルバン氏を「強い指導者」「素晴らしい男」と絶賛した。オルバン氏も公然とトランプ氏を支持し、7月には米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸に足を運んだ。

欧州連合(EU)内で批判され、異端視されることの多かったオルバン氏が、トランプ氏との近さゆえに存在感を増していく可能性がある。

オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降のハンガリーでは、報道の自由や司法の独立性、LGBT(性的少数者)の権利などへの制限が進んだ。自由民主主義の規範から逸脱していると批判を浴びるが、オルバン氏はむしろ、自分こそが来たるべき「非リベラル民主主義」時代の先駆けだと胸を張る。

盟友のオルバン氏、欧州難民危機が追い風に
オルバン氏が権力を盤石にする契機の一つとなったのは、中東・アフリカの難民らが欧州に押し寄せた15年の難民危機だった。「反移民・難民」の旗幟(きし)を鮮明にし、人道的対応を求めるEUのエリート官僚らへの攻撃を強めた。

そうした「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつある。

フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派勢力の台頭が典型だ。今年6月にEU各国で行われた欧州議会選では、フランスでRNが首位、ドイツでAfDが2位につけた。

トランプ氏も同じ系譜にある。初当選した16年大統領選では、不法移民流入を阻止する「国境の壁」建設や、反エスタブリッシュメント(既得権益層)を掲げた。これらの主張は、20年大統領選での落選を経てさらに先鋭化している。

今回の大統領選では、1100万人超とも2千万人超ともいわれる不法移民に「最大級の強制送還作戦」を行うと訴えた。民主党などのリベラル勢力を「内なる敵」と呼び、「州兵や米軍を使って排除する」とも語った。

反エスタブリッシュメントの主張はしばしば、リベラル勢力から成る「ディープステート(闇の政府)」が米国を牛耳っているという陰謀論の色彩まで帯びる。

欧州の新興右派勢力には福祉政策の拡大を掲げているものが多く、トランプ氏もそうだ。

共和党の支持基盤である保守派では従来、連邦政府の支出や権限を縮小し、企業の自由競争を促す「小さな政府」論が支配的だった。

しかしトランプ氏は大統領選で、社会保障年金やメディケア(高齢者向け医療保険)の維持だけでなく、体外受精の費用を保険会社が負担するよう「義務付ける」と豪語するなど、民主党左派とみまがう主張を展開した。

こうしたこともあって、仏RNや独AfD、オルバン氏やトランプ氏らはポピュリズム(大衆迎合主義)勢力に分類されることが多い。

「自国第一」に由来する侵略国ロシアへの甘さ
その政策と人気に盲点はないか。最も懸念されるのは、この勢力に共通する「自国第一」の姿勢が、ウクライナを侵略するロシアへの甘い態度につながっていることである。

オルバン氏はプーチン露大統領と親しく、EUと北大西洋条約機構(NATO)内で最も親露的な立場をとる。ウクライナは「勝てない」と公言し、欧州各国は対ウクライナ支援を縮小して停戦圧力をかけるべきだとしてきた。

その主張は、ウクライナでの早期停戦を実現するとし、ロシアとのディール(取引)を志向するトランプ氏とも通じる。

仮にロシアに領土を割譲するような形でウクライナ侵略戦争が終われば、「一方的な領土変更は認めない」という第二次大戦後の国際秩序は根幹から揺らぐ。また、世界で「自国第一」の傾向が強まり、米国主導の集団安全保障体制が弱体化することは、プーチン氏が強く願ってきたことにほかならない。

米右派の最大イベント「保守政治行動会議(CPAC)」では近年、オルバン氏ら欧州の右派政治家が大歓声で迎えられ、連帯を確かめ合うのが恒例の光景となっている。トランプ氏の当選確実が伝えられたとき、旧ソ連構成国のキルギスを訪問中だったオルバン氏はわがことのように喜び、「ウオッカで祝杯をあげた」という。

「反移民」「反エリート」が米欧で共振する現象は、世界に何をもたらすのだろうか。【11月10日 産経】
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【フランスは米依存脱却を主張するも北欧などは対米関係重視姿勢】
上記のハンガリー・オルバン首相は別格として、欧州内部にはトランプ氏復権への対応で温度差があります。

****欧州、トランプ政権復活で安保強化誓うも温度差 仏「米依存脱却を」北欧「米国は最重要」****
米国でトランプ政権の復活が決まり、欧州連合(EU)と近隣諸国は7日、ブダペストで開いた「欧州政治共同体(EPC)」首脳会合で欧州安全保障の強化を打ち出した。

一方で、米依存脱却を目指す西欧と米国を頼みとする北欧の温度差も浮き彫りになった。英独仏の欧州3大国が内政に足をとられ、指導力を発揮できないことも不安を増幅している。

フランスのマクロン大統領は会合で「われわれは、ずっと米国に安全保障を依存できない」と発言。トランプ氏の大統領就任を前に、かねてからの持論である欧州独自安保の構築に意欲を見せた。「欧州は草食動物ばかり。これでは肉食動物の食い物にされる」とも述べ、米中やロシアに対抗できる「強い欧州」を目指すべきだと訴えた。

ベルギーのデクロー首相もマクロン氏に同調し、「安全保障を米国に『外注』していてはいけない」と述べた。ロシアの侵略を受けるウクライナ支援も、欧州が半分以上を担うようになったと強調し、「米国不在ではダメになるというわけではない」とした。

これに対し、ラトビアのシリニャ首相は「米国は主要パートナーであり、今後もそうだ」と強調。そのうえで「わが国の防衛費は国内総生産(GDP)の3%以上。ほかの国も同様にしてほしい」と呼びかけた。

仏独の防衛費は今年、北大西洋条約機構(NATO)基準値の「GDP比2%」に達したばかり。ベルギーは1・3%にとどまっており、自助努力を促した形だ。デンマークのフレデリクセン首相も「トランプ氏が欧州にさらなる努力が必要と言うなら、私は完全に同意する。米欧同盟はわれわれには最も重要だ」と述べた。

NATOのルッテ事務総長は、北朝鮮がロシア支援の見返りにロシアから軍事技術を供与されているとして、「中露、北朝鮮の連携は、米国と欧州、さらに日本にとっても脅威になる」と主張した。米欧同盟の意義は欧州安保にとどまらないと指摘することで、米国の欧州離れを牽制(けんせい)した。

7日はEPC首脳会合に続いて、EUの非公式首脳会合が開かれた【11月8日 産経】
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【EUのミシェル大統領 「現実を受け止めなければ」】
EPC首脳会合に続いて開かれたEUの非公式首脳会合において、EUのミシェル大統領は記者団に「米国の有権者による明確な意思表示を尊重し、現実を受け止めなければならない」と指摘しています。

****EU、トランプ氏勝利で対策協議 「現実を受け止めなければ」*****
EUは7日、ハンガリーの首都ブダペストで非公式首脳会議を開いた。首脳らは夕食会で米大統領選のトランプ氏勝利を受け、良好な米EU関係を維持するための対策を協議した。非公式首脳会議は8日まで。

ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、トランプ氏はEUが重視するウクライナ支援に消極的な立場で、欧州各国が防衛費を十分に負担していないとしてNATOにも批判的だ。トランプ氏は選挙戦で輸入品への関税も主張し、欧州では警戒感が強まっている。

EUのミシェル大統領は記者団に「米国の有権者による明確な意思表示を尊重し、現実を受け止めなければならない」と指摘した。【11月8日 共同】
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いささかどろなわの感はありますが、下記のような動きも。

****米国産液化天然ガスの輸入を検討 欧州連合、トランプ氏意識****
欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は8日、ウクライナに侵攻するロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入を米国産に切り替えることが可能かどうか検討する意向を示した。トランプ次期米大統領を意識し、交渉カードとして利用する考えとみられる。

ハンガリーの首都ブダペストで行われたEU非公式首脳会議後の記者会見で述べた。加盟国の首脳らは非公式首脳会議でトランプ次期政権への対応を協議し、安全保障や貿易面の関係強化を目指す方針で一致した。【11月9日 共同】
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【米民主党と友党関係にある英労働政権 これまでのハリス支持から、今後の米英「特別な関係」維持に腐心】
EUもトランプ氏との今後の関係に腐心していますが、アメリカとの“特別な関係”を誇示してきたイギリスもEU以上に困っているでしょう。

イギリスで政権を担う労働党はアメリア民主党と「友党」の関係にあって、労働党のスタッフ約100人が、民主党候補のハリス副大統領陣営を支援するためにアメリアカ入りする計画が明らかになり、波紋を広げました。

****トランプ氏陣営“英労働党がハリス氏支援のためスタッフ派遣”****
アメリカ大統領選挙の投票が来月5日に迫る中、共和党のトランプ前大統領の陣営は、イギリスの与党・労働党が対立候補のハリス副大統領の陣営を支援するためスタッフを派遣しているとして、調査を申し立てました。イギリスの労働党は個人のボランティア活動で、組織的ではないと否定しています。

トランプ陣営が22日に発表した声明によりますと、イギリスの労働党の幹部がハリス陣営の選挙運動を支援するためアメリカに派遣する党のスタッフをSNSで募集し「住まいは私たちが調整します」などと投稿したということです。

そして、労働党がハリス陣営を組織的に支援しているとして「外国からの干渉にあたり違法だ」などと主張し、連邦選挙委員会に調査を求めています。

これについて23日のイギリス議会で質問された労働党のレイナー副党首は「人々は自分の金と時間を使ってやりたいことをしている」と述べ、あくまでも個人のボランティア活動で、組織的ではないという認識を示しました。

アメリカとイギリスはともに「特別な関係」と呼ぶ緊密な同盟関係を保ち、互いを重視してきただけに、イギリスの野党からはトランプ氏が返り咲いた場合アメリカとの外交や貿易などに深刻な影響が出かねないとして労働党に対する批判の声も上がっています。【10月24日 NHK】
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“「これは違法だ」。トランプ氏を支援する米実業家イーロン・マスク氏は10月中旬、X(ツイッター)にそう記した。ただ、英紙タイムズによると、外国籍のボランティアが選挙運動を手伝うことは、無報酬であれば米国の法律で認められているという。”【10月23日 毎日】

選挙戦最終盤の時期に100人程度のスタッフが入っても、何の効果もないと思いますが・・・
民主党・ハリス陣営への“義理立て”のようにも思えます。

実際にスタッフが派遣されたのかどうかは知りません。これだけ問題視されたら実施は難しいかも。

上記問題に加え、今後、対米関係構築の最前線に立つラミー外相は、かつてトランプ氏を「ネオナチ」などと罵倒していた経緯があります。

****トランプ氏復権に焦る英政権 外相は過去に「ネオナチ」と批判****
米共和党のトランプ次期大統領の当選を受け、伝統的同盟国・英国が「困惑」(米ブルームバーグ通信)の度を深めている。

スターマー英首相率いる与党・労働党はもともと米民主党と友党関係にあり、現在の対米外交の「顔」であるラミー外相は、かつてトランプ氏を「ネオナチ」などと罵倒していた過去があるためだ。スターマー氏は「英米の特別な関係は変わらない」と強調し、良好な関係をアピールしている。
 
「歴史的勝利、おめでとうございます」。スターマー氏は6日の声明でトランプ氏に祝意を表し、英米の「緊密な同盟」は不変と強調した。
 
だが今回の大統領選期間中には、労働党スタッフらが民主党のハリス副大統領陣営を支援するため米国入りする計画が発覚し、トランプ氏陣営が不快感を示した一幕もあった。

労働党内には「反トランプ派」が多く、外相就任前のラミー氏は2018年、トランプ氏を「暴君」「女性嫌いで、ネオナチに同調する反社会的人物」と批判していた。同じく労働党のカーン・ロンドン市長も、今回のトランプ氏当選で多くの人々が「民主主義や女性の権利」の行方を不安視していると述べた。

再選視野の備えも
一方でスターマー政権は7月の発足以降、トランプ氏の当選も視野に入れて関係構築を試みてきた。スターマー氏とラミー氏は9月に国連総会出席のため訪米した際、トランプ氏と2時間ほど夕食を共にした。
 
その後、ラミー氏は「(トランプ氏批判は)古いニュース」「彼は協力できる人物だ」と発言のトーンを変えている。北大西洋条約機構(NATO)の中で「欧州の防衛費支出は不十分だ」と欧州批判を繰り返してきたトランプ氏の主張についても、ラミー氏は「正しい指摘」と賛同した。

だが、トランプ氏は過去の言動を忘れない「根に持つタイプ」(ブルームバーグ通信)とも報じられており、関係修復は容易ではないとの見方もある。【11月9日 毎日】
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上記のようないきさつがなくても、米英の「特別な関係」を維持していくためには、イギリスはトランプ氏から折につけ、相当の譲歩・貢献を要求されるかも。
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