孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?

2024-11-11 23:00:15 | 欧州情勢

(2019年、G20大阪サミットで撮影【11月11日 ロイター】 個人的には、ウクライナが両者の間でどのように扱われるかということもさることながら、強権的プーチン大統領と非常に親密とされるトランプ氏の「体質」が非常に懸念されます。)

【トランプ氏 「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指す】
復権が決まったトランプ氏は「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指しているとされています。

その実例が、かつてシリアにミサイルを撃ち込み、そのことを中国・習近平主席との会食で周氏に伝えたことがあげられます。シリアに明確な力を示すとともに、中国に対して「中国にも容赦しないぞ」みたいな圧力をかけた・・・・。

****第三次大戦前夜の世界 トランプ流「力による平和」の内実問われる 試金石はウクライナ 「トランプ2.0」の衝撃①****
米大統領に返り咲くトランプ前大統領は2期目の政権で、「力による平和」を外交・安全保障政策の柱に据えるとされる。敵対者を圧倒する軍事力で侵略を抑止し、無謀な戦争を回避して平和を実現する戦略である。

過去にはレーガン大統領が1981年に就任後、ソ連に対して「力による平和」を推進し、東西冷戦の勝利に導いた。

「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」。トランプ氏が訴え続けてきた危機意識だ。 

共和・民主両政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は昨年9月、「米国がロシア、中国、北朝鮮、イランという4つの敵対国連合と同時に向きあう未曽有の事態」を米外交誌で警告した。 

中東では翌10月、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、イスラエルとイランおよび親イラン勢力との紛争が拡大した。ロシアはウクライナ侵略の長期化に伴って中国、北朝鮮、イランと結託を深め、北朝鮮がロシアに派兵して参戦するに至った。 

米議会が設置した超党派専門家パネル「国防戦略委員会」も報告書で「近い将来、大規模な戦争が起きる可能性」を指摘した。

権威主義勢力に対する抑止が効かなかったバイデン政権への国民の不信は、民主党候補、ハリス副大統領への厳しい評価に直結した。有権者は「(自らの任期中に)大規模戦争は起きなかった」と誇示するトランプ氏にかじ取りを託した。 

シリアへの巡航ミサイル攻撃が実例
ペンス前副大統領の補佐官だったケロッグ退役陸軍中将は、トランプ氏には「力による平和」の実例があると語る。2017年にシリアのアサド政権が猛毒のサリンを民間人に使用したとして、シリアの空軍基地に対して行った巡航ミサイル攻撃だ。 

「米国が対処すれば大量破壊兵器の使用を容赦しないという明確なシグナルになるだろう。ロシアも北朝鮮もあなたの出方を見ている」。ケロッグ氏はこうトランプ氏らに進言したという。数時間後、トランプ氏はマティス国防長官が提示した基地への限定攻撃を指示した。 

「この行動で抑止の一線が確立された」とケロッグ氏は語り、力を行使する指導者の意思が抑止を形成するのだと強調する。

2期目のトランプ氏に「力による平和」の内実はあるのか。それがすぐに試されるのはウクライナだ。
トランプ氏はプーチン露大統領と即座に停戦交渉を開始するというが、具体的戦略は明言していない。

プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ。ウクライナが多大な譲歩を迫られるような交渉にトランプ氏は本気で動くのか。それとも、プーチン氏を慌てさせる「選択肢」を用意するのか。

■ウクライナには「変貌」期待する声も
(中略)
ウクライナの人々は、将来への不安感と重ね合わせて米大統領選の行方を注視した。男性によれば、発言が変わりやすく、プーチン露大統領との親密な関係を誇示するトランプ氏は「信用されていない」。ただ、「トランプ氏がロシアに強硬な態度へと変わることを期待する声も一部にある」という。

「トランプ氏は世界をかき乱す破壊力の持ち主だ」と語るのは国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏だ。トランプ氏の「予測不可能性」に期待する向きは多い。同盟国は予測困難なトランプ外交に何を期待するかより、自ら何ができるかを示すことが重要とミード氏は述べている。(後略)【11月7日 産経】
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【真相がわからない「トランプ・プーチン電話会談」報道】
そのウクライナに関して、トランプ氏がプーチン大統領と電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した・・・と、今日朝方報じられました。

****トランプ氏、プーチン氏にウクライナ戦争拡大しないよう忠告=米紙****
トランプ次期米大統領はロシアのプーチン大統領と7日に電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した。米紙ワシントン・ポストが10日、関係筋の話として報じた。

トランプ氏は選挙期間中にウクライナ戦争を1日で終結させる解決策を見つけると述べていた。

複数のメディア報道によると、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領とも6日に話をしたという。【11月11日 ロイター】
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しかし、夕方になってこれをロシアが否定。

*****ロシア大統領府、プーチン氏とトランプ氏の電話会談を否定****
ロシア大統領府(クレムリン)は11日、ウラジーミル・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ次期大統領が先週、ウクライナ紛争について電話会談したとする米メディアの報道を否定した。(中略)

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に対し、「完全に虚偽の情報」だと述べ、電話会談が行われたというのは事実ではないと否定した。 【11月11日 AFP】FPBB News
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奇妙なのはトランプ氏側からの情報がないこと。
単なる偽情報なのか、偽情報だけどトランプ氏にとってはロシアに圧力をかける好ましいイメージなので放置したのか、実際に電話会議が行われたが、ロシアとしてはプーチン大統領がトランプ氏から指示・圧力を受けたようなイメージは好ましくないとして否定したのか・・・よくわかりません。

【国務長官候補はウクライナ支援否定】
ウクライナ支援をめぐっては各方面からトランプ氏へのいろんな要望・期待も。

バイデン大統領は支援継続を求めています。

****バイデン氏、トランプ氏にウクライナ支援から撤退しないよう要請へ****
サリバン米大統領補佐官は10日、バイデン大統領がトランプ次期大統領にウクライナ支援から手を引かないよう求める考えだと明らかにし、13日に予定する両氏の会談では国内外の政策上の優先事項について話し合うとの見通しを示した。(中略)

バイデン氏がトランプ氏就任までの70日間で「議会と次期政権に対し、米国がウクライナから手を引くべきではなく、ウクライナから手を引けば欧州のさらなる不安定化を招くと訴える」考えだとした。

議会にウクライナ追加支援の法案可決を求めるかどうかとの質問には明確な回答を避けた。

米政府監査院によると、バイデン政権下で議会は1740億ドル余りのウクライナ支援予算を承認してきた。

トランプ次期政権で国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はCBSのインタビューで、「米国民は他国の主権を守るために資金や資源を使う前に、ここ米国の主権が守られることを望んでいる」と述べ、ウクライナ支援を批判した。【11月11日 ロイター】
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上記記事にもあるように、国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はウクライナ支援に否定的です。

****次期トランプ政権で国務長官候補のハガティ前駐日大使 ウクライナ支援継続に反対姿勢****
アメリカの次期トランプ政権で国務長官など要職への起用が取り沙汰されている共和党・ハガティ上院議員がウクライナ支援よりもアメリカ国内の問題に焦点をあてるべきとして支援継続に強く反対する姿勢を示しました。

10日、CBSテレビに出演したハガティ上院議員はウクライナ支援について「膨大な金額が使われている。アメリカ国民は国境問題などの国内の問題に焦点をあてたいのだ」と支援継続に否定的な立場を強調しました。

また、自身を「ウクライナ支援に関して1セントからでも反対してきた数少ない上院議員だ」と評し、「アメリカ・ファースト」主義を徹底すべきだと強調しました。

また、日本などの同盟国については「各国がそれぞれの防衛力を強化すべき」と主張したうえで、日本の防衛費倍増は「前向きだ」として、トランプ次期政権下では日韓の連携がより緊密になるとの見方を示しています。

ハガティ上院議員は前回のトランプ政権時に駐日大使を務め、大統領選挙の際には副大統領候補の一人に名前が挙がっていました。【11月11日 テレ朝news】
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【焦りを募らせるウクライナ】
当事者のウクライナは、戦局的に劣勢にあり、領土をロシアに占領された状態でトランプ氏の停戦交渉が始まるとの状況に「焦り」を示しています。

****ウクライナ、トランプ和平案に焦り「安全保証のない停戦は危険だ」…米の支援停止に現実味****
米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、ウクライナへの軍事支援停止やウクライナに妥協を迫る停戦交渉が現実味を帯びてきた。トランプ氏とロシアのプーチン大統領が対話に前向きな姿勢を見せる中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は焦りを募らせている。

ゼレンスキー氏は7日、ハンガリーの首都ブダペストで行われた「欧州政治共同体」(EPC)首脳会議後の記者会見で、「信頼できる明確で現実的な安全の保証がない中で、停戦の話をするのは危険だ。ウクライナの占領を続け、独立と主権を破壊するための地ならしでしかない」と述べた。トランプ氏が意欲を示しているプーチン氏との交渉への警戒感をあらわにした。

ロシアに国土の約2割を占領されているウクライナは、占領の固定化につながる「戦闘の凍結」には反対だ。停戦後、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」も米欧に求めている。

トランプ氏はウクライナへの軍事支援に否定的で、当選後すぐに和平を実現させると根拠なしに主張してきたが、具体案は語っていない。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6日、トランプ氏の政権移行チームがウクライナの和平について、〈1〉現在の前線に沿って非武装地帯を設ける〈2〉ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を少なくとも20年間認めない代わりとして、米国は軍事支援を継続する――という案が検討されていると報じた。バンス次期副大統領も9月、非武装地帯の設定とウクライナの「中立化」を主張した。

こうした案は、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退やウクライナのNATO加盟断念を求めるロシアの主張に近い。

一方、新政権で再び閣僚に就く可能性が取りざたされているポンペオ前国務長官は、NATOへの早期加盟を支持する立場だ。欧州の負担を増やして支援を継続し、対露制裁を強化した上で交渉することを提案している。

トランプ氏が新政権で実際にどのような対応をとるかは見通せない。トランプ氏の当選後、ゼレンスキー氏らウクライナ政府高官はこぞって、トランプ氏が1期目に多用した「力による平和」という言葉を使い、トランプ政権への期待を示した。まずは良好な関係を築き、トランプ氏の翻意を促す狙いのようだ。

ただ、ウクライナ抜きの和平交渉はせず、必要な限り支援するとしてきたバイデン政権の方針は転換される公算が大きい。

ウクライナが侵略終結に向けて策定した「勝利計画」は、米国の支援が停止となれば前提条件が崩れる。ウクライナの野党議員は6日、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」とSNSで嘆いた。【11月9日 読売】
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【戦局は「膠着」からロシア攻勢に転換】
一方、ロシアは冒頭【産経】記事に“プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ”とあるように、東部戦線での占領地域を拡大するとともに、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても奪還を目指しています。

膠着状態と言われてきた東部戦線は、ロシアの攻勢で動き始めています。

****ウクライナ軍が東部で劣勢、兵力不足で要衝陥落…情報機関「もはや膠着状態ではない」****
ロシアの侵略を受けるウクライナ東部では今年秋に入って要衝の陥落が相次いでおり、ウクライナ軍の劣勢が目立ち始めている。以前から課題となってきた兵力不足が大きな要因で、戦況は悪化している。

ウクライナ軍参謀本部は8日、東部ドネツク州の輸送拠点ポクロウシクの南方約40キロ・メートルのクラホベ方面で前日、50回の戦闘があったと発表した。露軍はポクロウシクを陥落させるため、周囲を包囲する作戦を取っているとみられる。

英誌エコノミストによると、ウクライナ軍が10月に失った領土は約620平方キロ・メートル。1か月に失った面積としては侵略開始以降、最大となる。ウクライナ軍総司令官は今月2日、SNSで「これまでで最も強力な攻勢の一つに耐えている」と述べた。

ウクライナ軍は、10月初めに同州ウフレダルから撤退した。下旬には同州セリドベを失ったとみられている。いずれも露軍との紛争が始まった2014年から防衛拠点としてきた要衝だ。

東部では露軍とウクライナ軍の戦力が拮抗きっこうする状況が続いてきた。だが、米紙ニューヨーク・タイムズは今月1日、米軍や情報機関が「もはや戦況は膠着こうちゃく状態ではない」と分析していると報じた。

ウクライナ軍が苦戦する最大の原因は、兵力不足とされる。同じ部隊が交代なしで戦い続け、疲労による戦力低下が指摘されている。

露西部クルスク州への越境攻撃で防衛がさらに手薄になったとの指摘もある。同州では露軍がウクライナ軍が制圧した地域の奪還を始めたほか、援軍で派遣された北朝鮮兵が参戦し、ウクライナ軍は守勢を余儀なくされている。【11月8日 読売】
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ウクライナがロシア領内に侵攻したロシア西部クルスク州についても、ロシアによる大規模な奪還作戦が予定されており、それには北朝鮮から「援軍」も含まれているとも報じられています。

****北朝鮮軍兵士5万人含む部隊がロシア西部で戦闘準備 近日中に攻撃開始か 米報道***
ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州で、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊が戦闘準備に入ったとアメリカメディアが報じました。

ニューヨークタイムズは10日、アメリカとウクライナの当局者の話として、ロシア軍が、ウクライナ軍の越境攻撃が続くクルスク州で、反撃のため、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊を編成したと報じました。

ウクライナの当局者は、数日中に北朝鮮軍による攻撃が始まるとみています。

また、アメリカの評価として、ロシア軍は主戦場であるウクライナ東部の戦線から、兵士を撤退させることなく、兵力を集めていて、複数の戦線で同時に戦闘をすることが可能になっていると伝えています。

アメリカの当局者は、北朝鮮軍の兵士は砲撃や、基本的な歩兵戦術、塹壕を撤去する訓練を受けていて、ウクライナの陣地へ正面から投入されるとみているということです。【11月10日 テレ朝news】
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クルスク州への越境攻撃でウクライナは東部戦線で防衛がさらに手薄になって劣勢に立たされ、ロシアは東部戦線から兵士を撤退させることなくクルスク州奪還作戦を始める・・・となると、ウクライナの越境攻撃開始時に言われていたように「妥当な作戦だったのか?」という疑問を裏付ける形にもなります。

【この状況でロシア有利の停戦となれば、「ルール」より「力」が優先することにも】
いずれにしても、停戦交渉の場における立場の優劣を決めるのは戦局の状況。すでに多くの地域を占領され、その奪還が実現できず、更にロシア側の攻撃圧力にさらされ後退も余儀なくされているウクライナとしては、トランプ氏が停戦交渉に乗り出すと、非常に厳しい状況となります。

しかし、ロシアの「力による現状変更」を認めることになる停戦については、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」ということにもなり、「ルール」より「力」が優先することについて「それでいいのか?」という疑問も。

ディール(取引)に基づく国際秩序・・・・そこには理念もルールもありません。
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