(【2019年12月25日 毎日】 黄色の丸印で示した、現在ウクライナ領となっている一帯がハンガリー系住民が暮らすザカルパチア州です。)
【オルバン政権 ロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの姿勢】
ハンガリー・オルバン首相がEU内にありながら、西欧的民主主義価値観と一線を画し、メディアへの介入を強化し、“反移民・難民”の姿勢をとっており、“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。
内容的には上記4月30日ブログと重複しますが、今回は特にハンガリーとウクライナの確執に絞って取り上げます。
4月30日ブログでも触れたように、ハンガリー・オルバン首相は一貫してロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの姿勢をとっています。
“対ロシア制裁は「戦争への一歩」 ハンガリー首相”【2022年11月18日 AFP】
“ハンガリー、プーチン氏逮捕せず 入国の場合で当局者、報道”【3月23日 共同】
“ハンガリー、米国を三大敵の一つと名指し 流出文書で判明”【4月12日 WSJ】
最近でも・・・
****ハンガリー、EUのウクライナ軍事支援基金阻止も OTP銀巡り****
ハンガリーのシーヤールトー外相は(5月)17日、ウクライナ政府が戦争支援者リストからハンガリーのOTP銀行を削除しない限り、欧州連合(EU)による次回の対ウクライナ軍事支援資金や対ロシア制裁を阻止する考えを示した。
ハンガリーは今週、EUが運営する基金「欧州平和ファシリティー(EPF)」からウクライナ軍事支援に追加で5億ユーロ(5億5040万ドル)を充てる案に反対した。
EU加盟国政府がウクライナに供与した武器や弾薬の費用を請求できるようにするものだが、ハンガリーは承認の条件として、バルカン半島や北アフリカなど他地域にも資金を充てるよう保証を求めた。
だがEU外交官によると、非公開の場では、ウクライナがOTP銀行をブラックリストに指定していることが反対の主な理由であることを明確にしたという。
EU当局者は、ブラックリストの対象がOTP全体かロシア支店のみか確認を進めるなど問題解決に取り組んでいると述べた。【5月18日 ロイター】
ハンガリーは今週、EUが運営する基金「欧州平和ファシリティー(EPF)」からウクライナ軍事支援に追加で5億ユーロ(5億5040万ドル)を充てる案に反対した。
EU加盟国政府がウクライナに供与した武器や弾薬の費用を請求できるようにするものだが、ハンガリーは承認の条件として、バルカン半島や北アフリカなど他地域にも資金を充てるよう保証を求めた。
だがEU外交官によると、非公開の場では、ウクライナがOTP銀行をブラックリストに指定していることが反対の主な理由であることを明確にしたという。
EU当局者は、ブラックリストの対象がOTP全体かロシア支店のみか確認を進めるなど問題解決に取り組んでいると述べた。【5月18日 ロイター】
********************
****「ウクライナに勝ち目なし」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は(5月)23日、ウクライナに戦場での勝ち目はないと語り、ロシアとの紛争を終わらせるには米国の介入が必須だとの持論を展開した。
オルバン氏は中東カタールで開かれた会合で、ロシアの侵攻は「外交の失敗」の帰結だと主張した。右派の同氏はウクライナ紛争について、これまでロシアのウラジーミル・プーチン大統領を非難したことはない。
オルバン氏は「戦場での解決の試みが奏功していないのは明らかだ」「現実と数字、周囲の情勢、さらに北大西洋条約機構に派兵の意思がないことを見れば、戦力で劣るウクライナが戦場で勝てないのは明白だ」と述べた。
「われわれの心はウクライナの人々と共にある」「その苦しみも理解している」としながらも、「エスカレーションに歯止めを掛け、和平交渉に向けた議論をすべきだ」と語った。
その上で、停戦が実現した暁には、欧州はロシアとの間で新たな安全保障協定を結ぶ必要があると述べた。
オルバン氏は「国家としてウクライナはもちろん非常に重要だが、長期的・戦略的に考えれば、問題は将来の欧州の安全保障をどうするかだ」と強調。「米国抜きに欧州の安全保障の枠組みが成立しないのは明白だ。ただし、ロシア、米国間で何らかの合意が達成されない限り、この戦争は止められない」「欧州人の一人としては不本意だが、それが唯一の解決の道だ」と話した。
一方、自国と欧州連合との関係については、他の加盟国首脳を「理知的」過ぎると批判しながら、ハンガリーの全輸出の85%が域内向けであるため、離脱はできないと語った。 【5月24日 AFP】AFPBB News
*********************
【ハンガリー系少数民族約14万人が暮らすウクライナ・ザカルパチア州】
オルバン首相が表向き「われわれの心はウクライナの人々と共にある」とは言いつつも、実質的にウクライナを突き放すような行動をとる背景に、ウクライナ・ザカルパチア州にハンガリー系少数民族約14万人が暮らしており、オルバン首相はこのハンガリー系住民を支援してきたという経緯があります。
ハンガリーは、“ハンガリー人は、西暦1000年にキリスト教を受容し、ハンガリー王国を成立させた。だが、16世紀にオスマン・トルコ帝国、17世紀にはウィーンを首都とするハプスブルク帝国の支配を受けた。民族主義の高まりを受け、帝国内で自治権を獲得すると、第一次大戦後にハンガリー王国を復活させた”という歴史を有しています。
一方で、ウクライナ側でもクリミア併合以降、民族主義の高まりがあり、ザカルパチア州ハンガリー系住民の自治権を求める動きへの厳しい対応につながっています。
****ウクライナとは絶対に手を組まない…「ハンガリーのトランプ」がロシアに同調する"したたかな理由"「親ロシア」を掲げるオルバン首相の狙い*****
(中略)オルバン氏は政権奪取後、真っ先に他国に住むハンガリー系住民の支援に取り組んだ。ハンガリーは、オスマン・トルコなどに支配されながら数百年間、広大な領土を維持してきたが、第一次大戦後に独立する際、1920年のトリアノン条約で、領土の3分の2を失っている。
ハプスブルク帝国の崩壊後、ハンガリーが強国になることを恐れた西欧諸国による決定だった。国境線が引き直され、当時のハンガリー系住民約1500万人のうち、約300万人がウクライナ、ルーマニア、セルビア、スロバキアなどの隣国に所属することを余儀なくされた。
隣国との摩擦を生むため、ハンガリー政府が隣国のハンガリー系住民に関与することは、これまでタブーだった。だが、オルバン氏はこの問題に果敢に切り込んだ。
オルバン氏は2011年に憲法改正を実施し、新憲法にこう書き込んだ。「ハンガリー政府は国境を越えてハンガリー系住民の運命に責任を持たなければならない」。
ウクライナ・ザカルパチア州に事務所を構えるハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のラースロー・ブレンゾビッチ党首(55)は、声に力を込める。「他国のハンガリー系住民は初めて、母国から法的に身分を認められたのです」
ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家
ハンガリーは1989年の民主化後、自らの国を立て直すことに精いっぱいで、隣国に住む同胞に目を向ける余裕はなかった。だがオルバン氏は政権を取る前から、ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家だった。(中略)
政権奪取後、オルバン氏の動きは早かった。祖先が1920年以前にハンガリー王国内に住んでおり、一定程度のハンガリー語を話せる住民に対し、市民権を与える法律を制定したのだ。他国のハンガリー系住民はハンガリー政府に税金を支払っていないにもかかわらず、選挙権などを得られるようになった。
さらに、オルバン氏はハンガリー系住民の居住地域に財政支援を始めた。幼稚園、小学校などに資金援助して現地のハンガリー語教育を充実させ、ハンガリー語のメディアにも補助金を支出した。中小企業や工場、レストランにも出資し、現地の雇用確保に貢献した。
ウクライナでは他国政府による政党への支援が禁止されているが、オルバン政権は「(裏で)ハンガリー民族政党も手厚く支援している」(ベレホベのペトルシュカ市長)という。隣国のハンガリー系住民への支援額は、2019年で計1300億フォリント(約480億円)に上る。ハンガリー国内のスポーツ予算(1200億フォリント)、高等教育への予算(1600億フォリント)に匹敵する額だ。
権力維持のための票田
なぜ、オルバン氏はハンガリー系住民の支援に、こだわるのだろうか。
「目的は大きく分けて二つある」。ハンガリー社会科学センターのバールディ・ナーンドル主任研究員は語る。
一つは、国民の民族意識を高揚させることだ。
ハンガリーは民主化以降、欧米からの投資を受け、経済を発展させてきた。2004年に念願だったEU加盟を実現し、より多くの企業がハンガリーに進出した。だが、米国で起きたリーマン・ショックが2009年、欧州に波及。海外債務が大きかったハンガリー経済は大打撃を受け、ハンガリーから投資を引き上げる欧州企業が続出した。危機の際にハンガリーを見捨てた西欧を、ハンガリー人は容易に信頼できなくなったのだ。
「オルバン氏は、『ハンガリー人の連帯』を訴えることで、『西欧化』という目標を失った国民のアイデンティティーを刺激し、政権の求心力を高めようとした」(ナーンドル氏)という。
もう一つは、他国のハンガリー系住民を自らの「票田」にすることだった。先述したカタリン・バルナさんのように、選挙権を得た他国のハンガリー系住民はオルバン氏を救世主とあがめる。2018年の選挙では、ハンガリー系住民の96%がオルバン氏率いる与党に投票した。
特にオルバン氏に喝采を送ったのが、EUに未加盟で、1人あたりの国民総所得(GNI)が、隣国で最も低いウクライナのハンガリー系住民だった。
ウクライナに取り残された自国民
ザカルパチア州では、約14万人のハンガリー系住民が国境沿いに集中する。同州は元々ハンガリー領だったが、第一次大戦後にチェコスロバキア領になった後、一時自治権を持った。
1939年にハンガリーが奪い返したものの、第二次大戦後に旧ソ連が占領。最終的に旧ソ連の一部だったウクライナに組み込まれたという複雑な歴史を持つ。(中略)
オルバン氏は2014年5月10日、議会でこう発言している。「ウクライナに住むハンガリー人には自治権を持つ資格がある。我々は国際政治の場で、彼らの権利を追求し続ける」。オルバン氏は、ハンガリー人が自治権を獲得することを後押しし、事実上ハンガリーの支配下に置く意欲を示したのだ。
ウクライナの親米政権成立の余波
ザカルパチア州に投資する余裕がないこともあり、オルバン政権の行動を黙認していたウクライナ政府だが、2014年、状況が大きく変わった。反政府デモでウクライナの親露政権が倒れたのだ。親米政権ができることを嫌ったロシアは、軍事的な要衝であるウクライナのクリミア半島を一方的に編入。親露派武装勢力は同国東部の支配を目指し、ウクライナ軍と衝突した。
同年6月に就任したウクライナのポロシェンコ大統領はロシア側との紛争に危機感を強め、国民の連帯を促した。だが、その呼びかけはハンガリー系住民にも意外な形で波及する。ハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のブレンゾビッチ党首は言う。
「2014年以降、ポロシェンコ氏はメディアを使い、外国人を敵とするプロパガンダを流し始めた。最初は国内にいるロシア系住民だけが対象だったが、続いてハンガリー系住民も攻撃対象になった」。
極右団体は「ロシアだけでなく、ハンガリーもウクライナの領土を奪おうとしている」と主張。ザカルパチア州では、ハンガリー人の「処刑」を訴えるデモが繰り返されるようになった。2018年、ハンガリー文化同盟が入る建物は2度も放火された。
さらにウクライナ政府は2017年、小学5年生以上の子供に対し、ウクライナ語の学習を義務づける法律を制定した。多くのハンガリー系住民はハンガリー語の学校に通っていたため、オルバン氏は強く反発した。
ウクライナ政府に対抗するため、クリミアの編入を理由にEUから制裁を受けているロシアのプーチン大統領と手を組んだのだ。
ロシアに同調する歴史問題の根深さ
ウクライナは欧州諸国の一員となるため、NATO、EUへの加盟を宿願としている。だが、両組織への加盟は全加盟国の同意が必要だ。
NATO、EUの加盟国であるハンガリーは、ウクライナの加盟に強く反対し始めた。ウクライナが両組織に入った場合、自国への脅威が高まると考えていたロシアに同調したのだ。(中略)
ウクライナのハンガリー系住民は、オルバン氏の意向に従い、本気で自治権を獲得しようとしているのだろうか。筆者の質問に、ハンガリー文化同盟のブレンゾビッチ氏はこう答えた。
「ウクライナ政府はもう信用できない。我々は自分たちのことを自分たちで決める」。オルバン氏の「反ウクライナ」の姿勢は、大ハンガリー主義を巡って既に明確になっていたのだ。【2022年12月13日 三木 幸治毎日新聞記者 PRESIDENT Online】
********************
ウクライナからすれば、上記のようなザカルパチア州ハンガリー系住民に自治権を・・・・といったことを認めると、「じゃ、クリミアはロシアに」といった話もなってきますので、受け入れがたいところでしょう。
(個人的感想を言えば、領土なんて歴史的に取ったり取られたりして常に変化しており、現在の帰属を決めるのは最終的には住民の意思でしょう。)
【ロシアからハンガリーに引き渡されたハンガリー系ウクライナ人捕虜11人をめぐるハンガリー・ウクライナの対立】
上記のようなザカルパチア州ハンガリー系住民の存在、その自治権や支配をめぐるハンガリー・ウクライナ間の確執が存在することを前提にすると、非常にわかりにくい下記報道の意味合いも少し見えてきます。
****ハンガリーが捕虜との連絡妨害 ウクライナ主張****
ウクライナ外務省は19日、ロシアからハンガリーに引き渡されたハンガリー系ウクライナ人捕虜11人との連絡を、ハンガリー政府が妨害していると非難した。ハンガリーは、ウクライナ侵攻開始後もロシアとの関係を維持している。
ロシア正教会は今月、ハンガリー系少数民族が住むウクライナ西部ザカルパッチャ州出身の捕虜の一行をハンガリーの首都ブダペストに移送したと明かした。同州には、ハンガリー系少数民族約10万人が暮らしている。
ウクライナ外務省のオレグ・ニコレンコ 報道官はフェイスブックへの投稿で、捕虜は隔離されており、「ウクライナの外交官はここ数日、自国民と直接連絡を取るためにあらゆることを試みたがかなわなかった」と主張した。
ニコレンコ氏によると、捕虜が親族と会話する際には第三者の立ち合いが求められ、ウクライナ大使館に連絡することは許されていないという。同氏は、連絡を取ろうとするウクライナ政府の試みをハンガリーが「無視」していると非難した。
ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は捕虜について、「ロシアで解放された後、ロシア正教会が(ハンガリーの)マルタ騎士団の慈善団体との協力でハンガリーに移送したため、法的には捕虜と見なされていない」と説明。
一行は「自由意思でここに来たという特別な状況に置かれている」とした上で、「自由意思に基づきいつでもこの国を離れられる。われわれは足止めも監視もしない。完全に自由だ」と述べた。
グヤーシュ氏によると、11人の中にはハンガリー国籍を持たない人もいたが、そうした人には難民資格が与えられたという。
ザカルパッチャ州の少数民族の権利問題をめぐり、両国政府は長年反目し合っている。ハンガリー側は問題が解消するまで、ウクライナの欧州連合と北大西洋条約機構加盟を承認しないと公言している。 【6月20日 AFP】
******************
ハンガリー系ウクライナ人捕虜11人について、どういう意思でロシアとの戦争に参加していたのか、捕虜となった後、どういう処遇を求めているのか(ウクライナに戻ることを希望しているのか、ハンガリーで暮らすことを求めているのか))・・・そのあたりが明らかにされていませんので、話の半分は依然としてわかりませんが、ウクライナとハンガリーが、11人の処遇を決めるのは自分たちだと主張していがみ合っている事情は、上述のような背景があってのことです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます