ミャンマー軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長 同議長は今回総選挙には出馬しない模様です。民政移管を花道に引退するとの観測がある一方、軍事政権に近い筋は、同議長が事実上の国の最高機関となる国家防衛安保評議会(NDSC)のトップに就任し、タンシュエ院政が続くとの見方を示しています。
“flickr”より By angela_te2i http://www.flickr.com/photos/34801614@N07/3673583923/)
【中国 総選挙を建設的に支援する】
11月の総選挙に向けて着々と準備を進めるミャンマー軍事政権については、8月30日ブログ「ミャンマー 立候補届け出締め切る 周到に準備進める軍政側(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100830)」で取り上げたところです。
そのミャンマー軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長が胡錦濤国家主席の招きで7日から中国を訪問しています。同議長の訪中は2003年1月以来、7年ぶりです。
****ミャンマー:軍事政権トップが訪中 中国は総選挙支援表明*****
ミャンマー軍事政権トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長が7日、北京に到着した。中国側は同議長訪中を受けて、ミャンマーで11月に実施される20年ぶりの総選挙を建設的に支援する姿勢を表明した。内政不干渉を原則とする中国が友好国とはいえ、外国の選挙に支援を表明するのは極めて異例だ。
中国外務省の姜瑜副報道局長は7日の定例会見で「ミャンマー国内の政治的緊張や地域の平和・安定へのマイナスの影響を避けるため、国際社会は総選挙を建設的に支援していくべきだ」と述べた。
欧米や日本は民主化運動指導者のアウンサンスーチーさんを総選挙から排除した軍事政権への圧力を高めている。今回、中国が、スーチーさんを排除したままでも選挙を積極的に支援する姿勢を示したことで、ミャンマーの強硬姿勢を崩すことは難しいとみられ、日米欧側も対応を迫られそうだ。(後略)【9月7日 毎日】
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今回の中国側の思惑については、次のように報じられています。
“欧米諸国が総選挙に厳しい視線を注ぐ中で、中国がタンシュエ議長を招いたのは、軍事政権の「後ろ盾」となって天然ガスなどエネルギー資源の見返りを確実にするためだとみられている。
北京の外交関係者によると、中国は資源だけでなく、総選挙後に軍事政権内で世代交代が進む可能性も視野に入れているという。軍政内には過度の中国依存を警戒する意見も根強いため、トップ会談で権力継承期の両国関係を固めておく必要があると判断した模様だ。”【9月4日 毎日】
先月末の北朝鮮・金総書記の訪中受け入れも、北朝鮮側の後継者についての了承云々が言われていますが、中国外交も先を見越しての段取りに抜かりはないようです。
ただ、北朝鮮といい、ミャンマーといい、国際社会からは批判を浴びている国の後ろ盾になることは、アメリカなどに対抗して特殊な発言権を得ることにはなりますが、中国が今後国際社会でリーダーシップを発揮していこうとするならば、いささかどんなものか・・・という感もあります。
【インド 国賓級の待遇で議長訪印を厚遇】
それはともかく、これまであまり外国を訪問することが少なかったミャンマー軍事政権側のタンシュエ議長は、7月末にはインドも訪問しています。
****インド舞台の外交 中国の影 ミャンマーと協力、前面*****
■現実路線 軍政トップ厚遇
ミャンマー軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長が、25日から5日間の日程でインドを訪問している。「世界最大の民主主義国家」を自負するインドはかつて、ミャンマーの民主化運動を弾圧する軍事政権を激しく非難した歴史をもつ。しかしミャンマーで影響力を拡大する中国への対抗上、同議長を厚遇し軍政との協力姿勢をアピールするなど、現実路線を強めている。
タン・シュエ議長は27日、ニューデリーでインドのシン首相と会談し、テロ対策やエネルギー支援、インフラ整備などで協力を進めることで合意した。インドは1640キロにわたるミャンマー国境付近のマニプール州やナガランド州などに、武器や麻薬の密輸を資金源とする反政府武装勢力を抱えており、武装勢力の取り締まり強化に向けて犯罪捜査協約も締結した。
インド紙によると、首脳会談ではタン・シュエ議長から年内に予定されるミャンマー総選挙の説明があった。シン首相は、幅広い国民和解の取り組みと民主化プロセスの重要性を強調したものの、軟禁状態にあるミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんの問題など同国の人権をめぐって踏み込んだ発言はなかったようだ。
タン・シュエ議長の訪印は2004年10月以来。議長はあまり外国訪問をしないとされる中、軍服を脱いでインドに5日間滞在する。27日には、インド独立の父で非暴力主義のシンボル、マハトマ・ガンジーの祈念碑を訪れ、献花した。
インド側も、国賓級の待遇で議長を迎えた。パティル大統領や野党党首など主要人物が相次いで会談し、米欧などが非難する軍政トップを厚遇した。
インドのこうした対応は、かつては考えられないことだった。1980年代後半から90年代前半までは軍政を厳しく批判していたからだ。特に88年の民主化運動の際には、スー・チーさんら民主勢力を支持する姿勢を鮮明にしていた。
スー・チーさんの母がビルマ(ミャンマーの旧国名)の駐インド大使を務めていた60年代、スー・チーさん自身、ニューデリーで暮らした経験をもち、「インド外交当局にはスー・チーさんは『インドの娘』との感情があった」(外交筋)という。
しかし、インドが欧米とともに軍政批判を強めている間に、中国がミャンマーで影響力を拡大した。ベンガル湾に面するミャンマーの港湾では、整備支援などを通じて中国の存在感が高まっており、インドにとっては安全保障上の問題にもなっている。
こうしたことから、インドは少しずつ軸足を軍政批判から関係改善へ移し、2006年にはカラム大統領(当時)がミャンマーを訪問、関係を強化する方針を打ち出した。
今回、インド国内ではタン・シュエ議長の訪問への抗議デモが起きているものの、国内主要メディアはほとんど報じていない。【7月29日 産経】
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【「民主化勢力抜きでの民政移管」へ自信】
地政学的な影響力、資源を巡ってミャンマーに関心を向けるライバル中国・インド双方を訪問し、その協力をとりつけるミャンマー外交もなかなかにしたたかです。
スーチーさんを排除した軍政の実質的維持のための総選挙への国際批判も、意に介さずといったところのようです。
****中印の招請「自信」に*****
ミャンマー軍事政権トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長は7月下旬、6年ぶりにインドを訪問して、インド側から経済開発支援などの約束を取り付けたばかり。11月に行われる総選挙を前にインド、中国両国から相次いで招請された議長は、「欧米の民主化要求への妥協は不要」との自信を深めているとみられる。
民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんを総選挙から排除したことで、欧米や日本は総選挙の正当性を認めない見込みだ。だが中印が競い合うようにミャンマー支援を強化する中、軍事政権は欧米との関係改善の必要性を感じず、自身が描いてきた「民主化勢力抜きでの民政移管」への道を突っ走るのは確実だ。
欧米が軍事政権の強硬姿勢を転換させるには、まず中国とインドを説得する必要がある。だが両国は世界1、2位の巨大な人口を抱え、経済成長維持のためにも資源確保が最優先課題。両国への説得は極めて困難で、欧米は口では強くミャンマー民主化を求めるものの、実際にはそれを実現させるための打つ手がないのが現実だ。【9月4日 毎日】
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ついでに言えば、7月30日には朴宜春・北朝鮮外相もミャンマーを訪問、ミャンマーのテイン・セイン首相ら軍事政権幹部と同国の首都ネピドーで会談、アメリカなどの主導する国際圧力に抗すべく、今後の関係強化を図っています。
もっとも、このときは“ミャンマー側は首相が朴外相と会談することで北朝鮮重視の姿勢を示す一方、最高指導者のタンシュエ国家平和発展評議会議長は会談に応じなかった。北朝鮮によるミャンマー核開発支援疑惑など、両国関係の強化に懸念を示す米国などに一定の配慮を示した形だ。”【7月31日 毎日】とも。
ミャンマー民主化を願う立場からは面白くない展開ではありますが、これが現実のようです。
ミャンマー軍事政権、その後継たる総選挙後の「民政」は当面揺らぎそうにありません。
総選挙で民主化勢力が一定の得票を得れば・・・ということもあったのですが、現状ではそれも難しい情勢です。
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