孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マリ  国連安保理、北部イスラム過激派支配地域への軍事介入を求める決議

2012-10-13 22:03:51 | アフリカ

(イスラム過激派「アンサール・ディーン」メンバー “flickr”より By Color Balance http://www.flickr.com/photos/8239492@N06/7969805556/

アフリカのアフガニスタン
西アフリカ・マリ北部における分離独立運動・イスラム国家建設、それに伴うマリ中央政府のクーデター・混乱については、7月3日ブログ「マリ 北部で反政府武装勢力が「イスラム国家建設」 イスラム過激派によるイスラム霊廟破壊も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120703)でも取り上げたところです。

ことの経緯を簡単にまとめると、以下のようになります。

****欧米を脅かす西アフリカ「無法地帯****
・・・・四月六日、同地に住む遊牧民族トゥアレグの武装組織「アザワド解放国民運動(MNLA)」が、北部の分離独立を宣言した。国名はサハラ砂漠のアザワド盆地にちなみ「アザワド国」としたという。マリは南部の首都バマコ特別区と八つの州から成る連邦国家だが、このうち北部のトゥンブクトゥ、キダル、ガオの三州は、バマコの中央政府の支配が及ばない地域となった。むろん、この独立を承認した国は世界にない。

トゥアレグ人はこれまでに何度も独立を求めて反乱を起こし、その度にマリ国軍に鎮圧されてきたが、今度は鎮圧を撥ね返して「独立」をもぎ取った。砂漠での戦闘に長けたマリのトゥアレグ人たちは長年、リビアのカダフィ政権で傭兵として重用されてきたが、昨年の政権崩壊後に大量の武器と共にマリに帰国してMNLAに加勢したからである。

かつてない強敵に遭遇した国軍はバマコの中央政府に援軍を求めたが、要請は拒否された。怒った兵士たちは三月二十一日、クーデターを決行し、アマドゥ・サノゴ大尉を首班とする「民主主義再建・国家再興のための国家委員会」を樹立してトゥーレ大統領を追放した。地域機構「西アフリカ諸国経済其同体(ECOWAS)」による調停の結果、トラオレ国民議会議長が四月十二目に暫定大統領に就任した。

「テロ組織の聖地になる」
ここまではアフリカでお馴染みの政変劇だが、今回は事態の深刻さが違った。クーデターによる「権力の空白」に乗じて分離独立したアザワド国に、イスラム過激派が集結していることが判明したのだ。
カーソン米国務次官補(アフリカ担当)は六月二十九日の米下院外交委員会アフリカ小委員会で「西側の権益を脅かすテロ組織の聖地になる」と危機感をあらわにした。
旧宗主国フランスのルドリアン国防相は「アフリカのアフガニスタン」と形容している。

分離独立を主導したMNLAは世俗主義者の集団だが、アザワド国では他に少なくとも三つのイスラム過激派のプレゼンスが確認されている。
三つのうち、マリ北部土着の過激派は、一九九〇年代から分離独立運動に関わってきた北部出身のトゥアレグ人、イヤド・アグガリ氏が率いる「アンサール・ディーン」だ。今回、MNLAと共闘して独立を主導したが、アザワド国へのイスラム法導入に消極的なMNLAに対し、アンサール・ティーンは厳格な適用を主張。装備と資金力で勝る彼らは七月、MNLAを北部の都市部から放逐し、主導権を握った。(中略)

土着組織のアンサール・ディーンに対し、残り二つの組織は国外から流入したアルカーイダ系テロ組織である。一つはアルジェリアに源流を持つ「イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ(AQIM)」。もうひとつは二〇一一年半ばにAQIMから分派した「西アフリカ聖戦統一運動(MUTJAO)」だ。
アザワドには今、アルジェリア、モロッコ、リビア、チュニジアなどから、この二組織の外国人戦闘員が集結している。(後略)【10月号 選択】
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「アンサール・ディーン」などのイスラム過激派は、世界遺産の砂漠都市トンブクトゥで古代イスラム遺跡や霊廟などの歴史・宗教遺産の破壊行為を行っていることは、前回ブログにも書いたところでが、洋楽の禁止、女性のベール着用強制など、タリバン政権下のアフガニスタンのような状況が生まれているようです。

****世界遺産トンブクトゥ支配のイスラム勢力、ベール未着用女性を連行****
西アフリカ・マリ北部の世界遺産都市トンブクトゥを実効支配するイスラム系反政府勢力「アンサール・ディーン」が20日から、ベールを着用せずに出歩いている女性の身柄を拘束し始めた。現地住民へのAFPの取材で分かった。夜遅くに出歩いている女性を投獄するとの布告も出しているという。

住民の1人が電話でAFPに語ったところによれば、アンサール・ディーンのメンバーが20日、町の市場へやってきてベールをかぶっていない女性たちを片端から捕らえていったという。さらにアンサール・ディーンは、午後11時以降に道を歩いている女性を投獄し、罰金を科すとの布告も出したという。

別の住民も、アンサール・ディーンのメンバーが19日夜からイマーム(イスラム教指導者)たちの元を訪れ「女性は今後、慎みある服装をしなければいけない」と通達していると証言した。あるイマームによると、「女性用監獄」の設置やイスラム法に違反した者への罰金の制定なども伝えられたという。(後略)【9月21日 AFP】
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ECOWAS介入をフランスが後方支援、アメリカもこれを支援
東アフリカ・ソマリアでは、ようやくイスラム過激派勢力の実効支配から脱却しつつありますが、今度は西アフリカ・マリ北部が「テロ組織の聖地」「アフリカのアフガニスタン」と化する事態を、アメリカ・フランスは危惧しています。
なお、フランスは旧宗主国ですが、アメリカはそのフランスを抜いてマリに対する最大の援助国になっています。

こうした危機感から、国連安保理においてマリへの軍事介入・北部奪還を求める決議が、フランス主導・アメリカ支援で12日なされました。

****国連安保理:マリ軍事介入求め決議…過激派の北部制圧で****
イスラム過激派に北部を制圧された西アフリカ・マリ政府の要請を受け、国連安全保障理事会は12日、北部奪回に向けた国際社会による軍事介入の「詳細で実行可能な勧告」を45日以内に提出するよう、国連事務総長に求める決議案を全会一致で採択した。

イスラム過激派は、国際テロ組織アルカイダの北アフリカ組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」と連携しており、決議でもテロ組織の活発化に「重大な懸念」を表明。事務総長の勧告を受けて安保理が、マリ軍を支援する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)部隊の派遣を承認する決議案の採決を行う。

国連関係者によると、マリ軍2700人、ECOWAS部隊3300人の計6000人規模の展開が想定される。ただ、国際社会による財政支援の問題もあり、ロイター通信は部隊展開までに数カ月かかるとの各国大使の見方を伝えている。【10月13日 毎日】
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****マリ:西アフリカ諸国部隊を仏が支援へ…安保理介入決議****
・・・・西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の軍事介入を積極的に支持するのが、過去に西アフリカの広範囲を植民地とし、今も強い影響力を持つフランスだ。マリ北部がテロ組織の温床となる「(第二の)アフガニスタン化」(ルドリアン国防相)を懸念。オランド大統領はECOWAS介入時に後方支援に当たることを明言し、今回の決議草案もフランスが作成した。

一方、9日付の仏紙ルモンド(電子版)によると、ゴードン米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)は、フランスの軍事介入を米国が支援する意向を示唆した。米紙ワシントン・ポストによると、ホワイトハウスはAQIMへの攻撃を準備すべきか秘密裏に検討中。米当局は、米大使ら4人が死亡した先月11日のリビア・ベンガジ米領事館襲撃事件にAQIMが関与した疑いを持っている。【10月13日 毎日】
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混迷するイスラム世界との関係
マリが92年の民主化以降、サハラ以南アフリカで模数政党制が実質的に機能してきた数少ない「模範国家」であり、また。サハラ周辺でイスラム過激主義拡大の兆しがあったことから、アメリカは経済援助・軍事支援を拡大してきました。

今回のマリ北部の事態は、そうしたアメリカの対イスラム戦略が有効に機能していないことを物語っています。
アフガニスタン、ソマリア、マリ北部・・・と、次々に生まれるイスラム過激主義に対するアメリカ・西側の対応は、モグラ叩きのような様相を呈しています。
最近のイスラムを冒涜したとされる米映画をきっかけとする反米デモの嵐にも見られるように、イスラム世界とどのように向き合っていくか、回答を見出すことができないのが現状です。

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