(【4月15日 西日本】)
【ドイツ 世論調査で「脱原発」に反対が59%】
東京電力福島第1原発事故を受けて「脱原発」を目指すドイツが、残る最後の3基を停止し、「脱原発」を実現したのは報道のとおり。
****ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止****
国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が停止する日を迎え、「脱原発」が実現します。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。
ドイツは2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきました。
「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を今月15日まで延期していました。
15日、3基が発電のための稼働を停止する日を迎え、このうち南部のネッカーウェストハイム原発の近くでは「脱原発」を求めてきた市民団体などが集会を開き参加者は「原子力発電がついに終わる」と書かれた横断幕を掲げて喜んでいました。
参加者たちは「原発の危険性がなくなりうれしい」とか、「何年も求めてきた『脱原発』が実現できてよかった」などと話していました。
ただ、ドイツではエネルギーの確保が課題となる中、今月の世論調査で「脱原発」に反対と答えた人が59%で賛成の34%を大きく上回り、経済界からも懸念が示されています。
今後は政府がさらなる拡大を目指す再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかや高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分などが課題となります。【4月16日 NHK】
「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を今月15日まで延期していました。
15日、3基が発電のための稼働を停止する日を迎え、このうち南部のネッカーウェストハイム原発の近くでは「脱原発」を求めてきた市民団体などが集会を開き参加者は「原子力発電がついに終わる」と書かれた横断幕を掲げて喜んでいました。
参加者たちは「原発の危険性がなくなりうれしい」とか、「何年も求めてきた『脱原発』が実現できてよかった」などと話していました。
ただ、ドイツではエネルギーの確保が課題となる中、今月の世論調査で「脱原発」に反対と答えた人が59%で賛成の34%を大きく上回り、経済界からも懸念が示されています。
今後は政府がさらなる拡大を目指す再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかや高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分などが課題となります。【4月16日 NHK】
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しかし、上記記事にもあるように、ウクライナ戦争を受けて「脱原発」の手段としていたロシアからの天然ガス輸入が大幅に削減され、電力の安定供給に不安が生じたことで国民世論・経済界は「脱原発」に反対の姿勢です。
2011年には電力構成の18%を占めていた原発は、これまでから進めてきた稼働停止によって、すでに2022年6月時点には6%へと低下しており(再生可能エネルギーは20%から44%に増加)、今回の3基による電力を再生可能エネルギーで代替すること自体は可能と思われますが(当面は石炭火力でカバーし、将来的には再生可能エネルギーへ転換)、今後電力の安定供給が揺らぐと、これまで進めてきた「脱原発」が妥当だったかどうかが問われることになります。
****ドイツの脱原発が完了、稼働中の3基が運転停止…エネルギーの安定供給に課題****
ドイツで15日、稼働中の原子力発電所3基が運転を停止する。2002年の法制化から約20年をかけ、「脱原発」が完了することになる。ドイツ政府は風力や太陽光などの再生可能エネルギー拡大を急ぐが、電力の安定供給をどう維持するかが課題となる。(中略)
ウクライナ侵略でロシアが天然ガスの供給を絞り込み、エネルギー不安が高まったため、ショルツ政権が昨年末での全廃予定を先送りしていた。
ドイツの脱原発は、左派のシュレーダー社民党政権時代に法制化された。保守のメルケル前政権が産業界に配慮していったん方針を見直したが、11年の東京電力福島第一原発事故を受けて再転換した。
22年末までの全廃に向け、原子炉17基の段階的閉鎖を進めた。各地で廃炉作業が行われているが、放射性廃棄物の最終処分地は決まっていない。
最後に運転を停止する3基は、国内発電量の約5%をまかなっていた。今後は再生可能エネルギーの普及を急ぎ、30年までに80%、将来的に100%を確保する計画だが、風力発電などは天候に左右されやすいため、蓄電技術の向上が求められる。
原発停止への国民の支持は低下している。独公共放送ARDが11〜12日に行った世論調査では、59%が原発停止は「間違い」と回答した。66%が電気代高騰への懸念を示し、電力に関する不安は根強い。
自動車などの産業が集積するドイツ南部は再エネ資源に乏しく、原発停止への反対論が根強い。バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏は13日にイザール2を視察し、「原子力からの撤退は重大な誤りだ。ドイツにとって危険なことだ」と懸念を示した。【4月15日 読売】
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ドイツの電力価格は、推進する再生可能エネルギーへの補助金をまかなう賦課金もあってEU内でも比較的高く、ウクライナ情勢による、ロシアからの天然ガスの供給が途絶えたことなどで電気やガスの料金がさらに値上がりしました。
【高い電力価格で国際競争力への不安も】
今後、電力不足時には一段の高騰も懸念され、連立与党内に「脱原発は戦略的な誤り」(産業界寄りの自由民主党)との批判もあります。
****「脱原発」を実現するドイツ、「脱ロシア」を進める中で競争力を維持できるか****
経常収支の黒字減少が物語る現実、天然ガスのLNG代替で発電コストは高止まり
(中略)そもそもドイツ政府は「脱炭素」と「脱原発」の二兎を追う戦略を描いていた。そのために、再エネ発電の一段の普及を図るとともに、移行期間においてはガス火力発電を活用するという二段構えの戦術を用意していた。その火力発電に使う天然ガスの主な調達先は、ドイツと経済的な友好関係にあったロシアであった。
そのロシアが、2022年2月24日にウクライナに侵攻したことで、事態は急変した。欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会を中心に化石燃料の「脱ロシア化」が宣言され、EU各国がロシア産の化石燃料の利用の削減に努めることになったのだ。
当初は慎重だったショルツ政権も、徐々に「脱ロシア化」を進めざるを得なくなった。
そして、ドイツは「脱炭素」と「脱原発」に加えて「脱ロシア」の三兎を追う戦略を進めた。再エネ発電の普及を進める一方、ガス火力発電に関してはロシア産の天然ガスの利用が難しくなったため、代替手段として第三国から液化天然ガス(LNG)を輸入する必要に迫られたのである。
ガスの「脱ロシア化」がもたらすコスト増
ドイツの電源構成に占める原発の比率は、2022年6月時点には6.0%へと低下しており、ドイツの電力供給に果たす役割は限定的と言えそうだ。だが、この6%を占める原発を全廃することで減少する電力を、その他の電源で十分に賄うことができなければ、ドイツの電力供給は当然のことながら不安定化する。
ドイツでは2022年6月時点で、電源構成の48.5%が再エネとなった。再エネ発電の問題点は地形や天候に左右されるため、出力が不安定なことにある。
コロナショック後の2021年にヨーロッパで電力価格が急上昇した主因が、風不足による風力発電の不調にあったことは記憶に新しい。出力の安定は喫緊の課題である。
それに、再エネによる電力は価格が高い。
ドイツ政府は3月9日、事業者による再エネ電力の利用を増やすため、差額決済契約(CfD)を導入する意向があると表明した。CfDは一定期間、再エネ発電による電力料金と市場での電力料金の差額を政府が補填するものだが、言い換えればそれだけ、再エネによる電力は高いということだ。
ガス火力発電のコストも、過去の想定に比べると高くつきそうだ。
ドイツはロシアのウクライナ侵攻まで、ロシアからパイプラインを通じて天然ガスを安価に安定して調達してきた。それが「脱ロシア化」で不可能になったため、ロシア以外の国からLNGの輸入を増やすことでガス火力発電の利用を進める路線に転換した。
それまでLNGを輸入してこなかったドイツは、バルト海で洋上LNGターミナルの建設を急いでいる。これらが稼働すれば、LNGの受け入れ態勢が整備され、ドイツでも天然ガスの「脱ロシア化」が完了する。だが、ロシア産のパイプラインを経由した天然ガスに比べると、LNGは加工やタンカーによる運搬を要するため、コストが高くつく。
経常収支の黒字減少が物語る事実
発電コストが増えれば生産コストが増加し、国際競争力は低下する。そのため、これまでヨーロッパ経済をけん引してきたドイツの国際競争力は、大胆な為替調整(つまりユーロ安)が入らない限り、自ずと低下すると予想される。その萌芽は、すでに経常収支の黒字幅の明らかな縮小というかたちで現れている。
ドイツの2022年の経常収支の黒字幅は前年からほぼ半減し、1451億ユーロ(約20兆7000億円)となった。その主因は、財収支(モノの貿易の収支)が1159億ユーロと前年から790億ユーロ減少したことにある。化石燃料の価格の急騰を受けて輸入額が前年から22.3%と急増したことが、財収支の黒字減少につながった。
輸入サイドに関しては、ロシア産の天然ガスの輸入が減少し、代わってLNGの輸入が増加することで、輸入額が高止まりとなる可能性がある。輸出サイドに関しても、電力コストの増加に伴う生産コストの増加を輸出価格に転嫁するなら、輸出額が思うように増加しないどころか、頭打ちとなる可能性も考えられる。
いすれにせよ、ドイツ政府が「脱炭素」「脱原発」「脱ロシア」という三兎を追う戦略を推進する以上、これまでのような輸出主導の経済成長モデルを維持すること自体、難しくなるだろう。コロナ前までドイツは2000億ユーロを超える巨額の経常収支黒字を計上していたが、それも難しくなるのではないだろうか。
今年4月に完了するドイツの「脱原発」は、ドイツ経済がそうした道を着実に突き進んでいることの象徴的な出来事になる。【3月23日 土田 陽介氏 JBpress】
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【「脱原発」をめぐるEU内の対立】
「脱原発」をめぐってはドイツ国内だけでなく、「脱炭素」を進めるEU内においても大きな議論があります。
「脱原発」を進めるドイツと対照的なのがフランスで、電力の7割以上を原発に依っています。
昨年10月に独仏の首脳会談がパリで行われましたが、「脱炭素」を進めるうえでの原発の扱いについて溝は埋まらず、予定されていた会談後の共同会見をマクロン仏大統領が断るという前代未聞の事態もありました。
****EU、再生可能エネルギー規則で原子力の扱い巡り対立****
欧州連合(EU)の再生可能エネルギー規則の目標を巡り、原子力を認めるかどうかで対立する加盟国が28日、最終的な協議を行った。
加盟国と議会は29日に2030年までに再生可能エネルギーを拡大するためのより厳格な目標で合意を目指していた。これは二酸化炭素(CO2)の排出を削減するとともに、ロシア産のガスへの依存を減らす計画のカギになる。
しかし、原子力の位置付けに関する協議は難航。EUの温暖化対策に関する合意を脅かしている。
オーストリアを中心としたドイツ、スペインなど11カ国は28日の会合で、再生エネルギー規則では原子力を除外することを推奨した。原子力を盛り込むことで、風力および太陽光発電を大幅に拡大する取り組みが阻害されると主張した。
一方、フランスのアニエス・パニエリュナシェ・エネルギー移行相はこの日、チェコ、フィンランド、イタリア、ポーランドなど13カ国による原発推進国の会議を開催。共同声明で各国は「原発プロジェクトには望ましい産業、金融の枠組みが必要との認識で一致した」と表明した。
このうち9カ国程度は、原子力発電で生成された「低炭素水素」を再生可能エネルギーとして扱うことも求めた。【3月29日 ロイター】
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【日本の「石炭火力」容認 G7環境相会合で矢面に】
日本では、従来は原発再稼働に「反対」が「賛成」を上回っていましたが、やはり電力料金高騰の影響もあって、最近は賛否が逆転して、「賛成」が多数を占めるという世論調査結果が出ています。
その点では、「原発」については再稼働を進める岸田政権と世論が一致した形ですが、さりとて再稼働を一気に進める状況にもありません。
当面は「石炭火力」で・・・という日本の方針ですが、国際的に見ると日本の「石炭火力」容認への批判が強くあります。
折しも、昨日・今日、札幌市で先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が開催され、議長国日本は難しい立場に。
****「石炭火力廃止」圧力で苦境のG7議長国・日本 環境相会合****
札幌市で15日開幕した先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で、最終日の16日に採択する共同声明の調整を巡って最も難航しているのが、石炭火力発電の扱いだ。
昨年のG7閣僚会合では議長国ドイツの提案に日本が抵抗したが、今回は議長国を務める日本の事前提案に他の6カ国から批判が続出。
日本は強みを持つアンモニアを石炭火力に混ぜて燃やす「混焼」などへの理解を求める考えだが、石炭火力の廃止時期の明記を求める国や混焼の二酸化炭素(CO2)削減効果は不十分と指摘する国もあり、厳しい立場に置かれている。
「2050年に脱炭素化を実現する目標は変わらないが、各国の事情に応じた多様な道筋がある」。会合に関わる複数の日本政府関係者はこう話す。共同声明の原案作成に向けた事前協議が本格化した3月頃から特にこの言葉が増えてきた。ある政府関係者は石炭火力を巡る協議が難航していることを暗に認める。
石炭火力を巡る表現は昨年のG7でも焦点となった。ドイツが「2030年までの石炭火力廃止」を提案し、欧州各国やカナダが賛同。日本は期限の明示に最後まで同意せず、昨年の共同声明で石炭火力は「段階的に廃止」との表現に留められ、廃止時期は明示されなかった。
2035年までの電力部門の脱炭素化についても「大部分(predominantly)」と各国の解釈が可能な表現で決着した。
今年は立場が変わり、日本が石炭火力の廃止時期の明記と、2035年までの電力部門の〝完全な〟脱炭素化への道筋をつけるように他の6カ国から求められる展開となっている。
再生可能エネルギーの主力である太陽光や風力の適地に乏しく、既設原発の再稼働も進まない日本にとって、今後も一定程度を石炭火力に頼るのはやむを得ないのが現実だ。
足元で総発電量の約3割を石炭火力に依存しており、エネルギー基本計画でも30年度の電源構成に占める石炭火力の比率は19%と見込む。脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に向けた電源構成の前提となる話だけに、日本も簡単に譲歩はできない。
ただ、ウクライナ危機後に覇権主義的な傾向を強める中国とロシアをメンバーに含む20カ国・地域(G20)が機能不全に陥る中、G7の結束の重要性は増している。共同声明をしっかり取りまとめ、5月に開かれるG7首脳会議(広島サミット)につなげる責務が日本に課せられている。【4月15日 産経】
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結局、共同声明には石炭火力発電の扱いは廃止時期を明示せず、「化石燃料」を使った火力発電の段階的廃止とすることで妥協が図られたようです。
****石炭火力発電、廃止時期は明示せず G7環境相が共同声明採択****
札幌市で行われた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は16日、プラスチックごみによる海洋汚染ゼロの国際的な目標を従来の2050年から10年前倒しして、40年とすることなどを盛り込んだ共同声明を採択。2日間の日程を終え、閉幕した。
焦点となっていた石炭火力発電の扱いは廃止時期を明示せず、天然ガスにも対象範囲を広げ、二酸化炭素(CO2)の排出削減対策が取られない火力発電を段階的に廃止することを明記した。
終了後の記者会見で共同議長を務めた西村康稔経済産業相は「脱炭素化への道筋は多様であることを認めながら、具体的な取り組みの合意ができた」と強調。西村明宏環境相は「気候変動や環境問題へのわれわれのコミットメント(関与)がゆるぎないことを国際社会に示すことができた」と述べた。
プラごみ対策については、G7各国でリサイクル施設の整備など取り組みが進んでいることも踏まえ、19年の20カ国・地域(G20)で合意した国際的な目標を前倒しした。G7として、問題解決に積極的な姿勢を国際社会に広く示す狙いがある。
石炭火力を巡っては、G7のうち、日本以外の欧米6カ国は共同声明に廃止時期の明示などを求めていたが、石炭火力の依存度が高い日本が従来の「段階的廃止」の方針を主張。共同声明では、石炭火力についての表現は踏襲した上で、天然ガスも含めた「化石燃料」を使った火力発電の段階的廃止とすることで折り合った。
この他には、自動車分野の脱炭素化で、ガソリン車なども含めた各国の保有台数を基にG7各国でCO2の排出量を35年までに2000年比で半減させるため、取り組みの進捗(しんちょく)を毎年確認することなども盛り込んだ。【4月16日 産経】
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日本には日本の事情がありますし、経済・市民生活の根幹をなし電力供給の問題ですから安易な妥協もできません。
ただ、今後はますます「石炭火力」への風当たりは強まることが予想されますので、長期的な視点にたっての戦略が求められます。
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