孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カタール  天然ガス争奪戦 日本が失った分が欧州と中国へ 米・露・中、ガスをめぐり得したのは・・・

2022-11-23 23:35:28 | 資源・エネルギー
(【11月22日 TBS NEWS DIG】)

【天然ガス供給余力があるカタール 欧州・ロシア・中国など世界が注目】
丁度今頃、カタールではW杯日本-ドイツ戦ということで、日本中の視線が中東カタールに集まっている時間ですが、W杯関連(サッカー以外の人権問題なども含め)以外でも最近カタールに関するニュースを目にします。

ウクライナ絡みで欧州で価格高騰などで問題になっている天然ガスに関するニュースです。

確かにカタールは天然ガス生産国ではありますが、世界第6位ということでずば抜けた生産量ではありません。
そのカタールが注目されるのは、“供給余力がある”ということによるものみたいです。

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今年になってEU首脳の“カタール詣で”が顕著だ。3月イタリア首相、5月スロベニア大統領、8月ギリシャ首相、9月ドイツ首相などなど。

みな、ロシアから来なくなった天然ガスの代替をカタールに求める。これによって価格は上昇しているわけだが、そもそもなぜカタールなのだろうか。天然ガスの生産量は、1位アメリカ、2位ロシア、3位イラン、4位中国、5位カナダ、そして6位がカタールだ。

立教大学 蓮見雄 教授 「カタールは供給余力があるということ。アメリカは最大の生産国ですが自分の所で大量に使ってしまいますから・・・」

ロシアはもちろん、イランも制裁対象国で、買うわけにはいかない。中国はアメリカ同様、自国で消費する。ということでEU首脳はカタール詣でとなった。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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カタールに注目しているのは欧州ばかりではないようです。 ロシア、中国も。

****ロシア大統領、カタールとガス安定で協力 サッカーW杯に祝辞****
ロシア大統領府(クレムリン)は18日、 プーチン大統領がカタールのタミム首長と電話会談を行い、世界のガス市場の安定確保に向けてカタールと緊密に協力する意向を示したことを明らかにした。

プーチン大統領はまた、20日開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)の開催国であるカタールに祝辞を述べた。国際サッカー連盟(FIFA)は、ウクライナ侵攻を受けてロシアの国際大会への出場を禁止している。【11月19日 ロイター】
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石油のOPECプラスのように、生産国が協調して高値を維持しようという話でしょうか。
一方、自国生産分では足りない中国は・・・。

****カタール、中国と天然ガス供給27年契約締結 「史上最長期間」*****
カタール国営エネルギー企業「カタールエナジー」は21日、中国と天然ガス供給で「史上最長期間」となる27年契約を締結したと発表した。欧州がロシア産ガスの代替調達先を求めて奔走する中、カタールはアジアとの関係を強化している。
 
同社によると、中国石油化工(シノペック)に対し、新たに開発されたノースフィールドイースト輸出基地から年間400万トンの液化天然ガスを供給する。

エネルギー担当国務相であり、カタールエナジー最高経営責任者のサアド・シェリダ・カアビ氏は「LNG業界史上最長期間となるガス供給契約」だと述べた。

日本、中国、韓国をはじめとするアジア諸国は、カタール産天然ガスの主要な輸出先となっている。ロシアのウクライナ侵攻開始以降は、欧州諸国も取引を模索しているが、ドイツなどはアジア諸国とは異なり長期契約には消極的であるため、交渉は難航している。

ノースフィールドイースト輸出基地は、カタールのLNG生産拡大プロジェクトの中心的存在。生産量は2027年までに60%超増加し、1億2600万トンに達すると見込まれている。同輸出基地からの供給契約を結んだのは、中国が初めて。 【11月21日 AFP】
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【日本が失ったカタールからの輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に】
ドイツが長期契約に消極的とのことですが、将来的な脱炭素の流れ、現在の高値状態を考えると、長期契約に二の足を踏むのは日本も同様です。

日本にとってもカタールは重要なガス供給国ですが、欧州各国の“カタール詣で”や長期契約問題などで、ガス確保に苦戦しているとのこと。(その点、中国はカネに糸目をつけず・・・といったところでしょうか)

日本が失った分が欧州と中国に向かっている・・・という状況のようです。

****「すべて売り切れ…調達はすでに戦時状態」エネルギー世界争奪戦 大丈夫か⁈ニッポン*****
ワールドカップが始まり世界の熱い視線が集まる中東・カタール。しかし、サッカー以外でも今、カタールが注目の的になっている。

ウクライナ戦争を機に始まったヨーロッパのエネルギー危機。ロシアから来なくなった液化天然ガス(LNG)の新たな輸出国として注目されているのが、カタールなのだ。このカタールのLNG争奪戦は日本にとっても他人事ではない。今回はエネルギー争奪戦の世界地図を読み解いた。

■「日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」
天然ガスはパイプラインで送る場合を除いて、マイナス162度で液化して輸送する。この液化天然ガス(LNG)を、産出国カタールで積んだタンカーが、どこに移動したか映し出した航路画像がある。

カタールを出たタンカーの一部は、紅海を通ってヨーロッパへ・・・。別の一部はインド洋を通ってアジア諸国へ向かう。が、日本に向かう船は殆ど無い。このタンカーの航路を調査している、シンガポールのエネルギー調査会社に話を聞いた。

『VORTEXA』LNG部門責任者 フェリックス・ブース氏
「カタールの日本へのLNG輸出量は全体の11〜12%だったが、今年は4%にまで減少した。(カタールが売却先を公開しないので)中東から東アジアに向かう船の最新情報を見ている。

最大のポイントは、船のほとんどが日本に向かっておらず、中国、韓国、台湾に向かっていることだ。今年1月以降、日本の、カタールからのLNG輸入量は非常に少なくなり、わずかなものしか入ってこない。

カタールから中国とヨーロッパへの輸出量の増加分を見てみると、日本の輸入量の減少分と同じだ。つまり日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」

更に今までヨーロッパは、パイプラインで天然ガスをロシアから輸入していたため、LNGの施設なども充実しておらず、限られた量しか買えなかったが、今後はロシア産を買うわけにもいかず、施設を作っているため、カタールからの輸入は増える。また、中国は来年以降も買い手になる。そのため日本のLNG購入は来年以降更に厳しくなるとブース氏は言う。

実は日本の大手の会社は1997年以来、カタールから年間550万トンのLNGを購入する契約を結んでいた。この契約が去年切れ、日本は契約を更新しなかった。

理由は契約が20年以上という長期契約と、他国に転売しないという条件を飲めなかったためだ。もちろん今年の状況を予測出来るはずもなかったが、他にも長期契約できない事情があった。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「去年の11月というと、COP26がグラスゴーで開かれ、世界の脱炭素の潮流がピークに達した時だった。企業にもコンプライアンスが求められる中で、今後20年炭素を出すエネルギー源を使うのかっていうことと、原子力発電所の再稼働も持ち上がっていた…。そういう時にLNGの20年30年という契約をするのはどうなのかなと…」

さらに価格の面でも疑問はあった。日本の平均購入価格は、スポット購入額より高めだったが、去年の夏以降LNG価格が高騰。契約更新の11月には、スポット価格が何倍にも跳ね上がっていた。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「天然ガスの価格というのは今が非常に異常な状態でして、エネルギー危機の状態。いくつかのクライシスが起きている中の3番目のクライシス。これを去年の更新の時期には予見できなかった」

かくして日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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【ロシア侵攻に備えて検討されていた流れ】
カタールのガスを欧州に・・・・という方向性は、ロシアのウクライナ侵攻の可能性が議論され始めた今年1月にはすでに示されていたものです。当然、どこからか引きはがして・・・ということになります。

****カタール、有事に欧州へガス供給も 米国の力添えは必要=消息筋****
液化天然ガス(LNG)の主要産出国カタールは、ロシアがウクライナを侵攻した場合、米国がロシア経済制裁を発動し、報復でロシアが欧州向けガス供給を中断する事態になれば、一部のカタール産ガスの供給先を欧州向けに変更することが期待されている。

事情に詳しい筋によると、米ワシントンで来週、タミム首長とバイデン大統領がこの問題を協議するが、カタールにとっては、同国ガスの購入契約者への説得で米国の力添えが必要になるという。

米政権は欧州向けのガス供給元確保が必要になった場合に備え、ここ数週間、カタールなど主要エネルギー産出国に接触してきた。

消息筋は「2011年の福島の原発事故の際のような世界的なエネルギー供給の大混乱が起きた場合」は「カタールが力になれるかもしれない」と指摘。カタールには欧州に振り向けられる余剰分がある程度あるとした。

ただ、産出量のほとんどは長期契約に向けられているため、そうした余剰分はあまり多くないとし、「短期的な解決策としてガスを欧州に振り向ける場合は、大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になるだろう」と語った。

カタールはLNG輸出をより長期的に大きく拡大させていきたい意向。消息筋は、欧州連合(EU)がエネルギーの安全保障を確かにし、将来的な供給混乱を回避できるようにしたいなら、EUがLNGの長期契約締結を考えることが必要だと指摘した。【1月27日 ロイター】
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欧州はガス確保に関して、アメリカの協力を仰いでいました。

****欧州、ガス確保で米の支援仰ぐ ロシア産の代替探し****
欧州の政府関係者がロシア産天然ガスの代替となる供給源探しで米国の支援を仰いでいる。ウクライナ情勢の緊迫化に伴い、ロシアからのガス供給が滞る事態に備える狙いがある。
 
ロシアは10万人を超える軍部隊をウクライナ国境付近に集結させている。こうした中、エネルギー分野の欧州連合(EU)当局者は米当局者と協議を重ねており、代替供給の確保に向けてアゼルバイジャンやカタールといったガス生産国を訪れている。(後略)【1月28日 WSJ】
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そしてアメリカはカタールをNATO非加盟の主要同盟国に指定する形で、同国を取り込んでいます。

****バイデン米政権、カタールを同盟国に指定、大型の航空機取引も成立****
(中略)ホワイトハウスが公表したバイデン大統領と(カタールの)タミーム首長の会談要旨によると、両者は湾岸と中東地域の安全と繁栄の促進や、世界のエネルギー安定供給、アフガニスタン人への支援、貿易・投資協力の強化に関して相互の利益を確認した。その上で、50年にわたる戦略的な友好関係に基づき、カタールを非NATO主要同盟国に指定するに至ったとしている。【2月2日 JETRO】
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“日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった”というのは、こうした国際政治の流れに沿う形にもなっています。

【アメリカ・ロシア・中国の天然ガスをめぐるゲーム 勝ったのは・・・】
この天然ガスをめぐる争奪戦は、アメリカ、ロシア、中国という「大国」間の激しいパワーゲームの舞台ともなっています。

ウクライナの戦況同様に劣勢にあるのがロシア、この機に乗じて大儲けしているのがアメリカ、ロシアとの距離を考えながら着々と有利に進めるのが中国・・・といった構図のようです。

****「結果的にアメリカを利しているというのはロシアからすると忸怩たる思い」*****
今年になってEU首脳の“カタール詣で“が顕著だ。(中略)結果カタールの貿易黒字額は今年春以降跳ね上がっている。だが、実はこの天然ガスの高騰で笑顔がこぼれる国はカタールばかりではなかった・・・。

アメリカだ。アメリカは天然ガスの生産量は世界一だが、輸出量は大きくなかった。ところが今回のエネルギー危機によって、今年上半期の輸出量は実に約3億1700万立方メートル。これは世界一の数字だ。つまりアメリカは世界最大のLNG輸出国となった。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「アメリカはシェールガス革命によって、ヘンリーハブ(天然ガス指標価格)がお安い。液化コスト、輸送コストを乗せても、世界市場を狙っていける。ただこれからどのくらい伸びるかは、意見が分かれる(中略)今ガスの価格が高いから輸出できるけれど、価格が安定してからも供給を続けられるかどうか。二の足を踏むんじゃないか・・・。カタールと並んでアメリカの動向がエネルギー価格において重要」

化石燃料をやめようとする世界の潮流があり、比較的CO2の排出が少ない天然ガスは“つなぎのエネルギー”として必要だ。結局エネルギー市場でも、アメリカが世界をリードしくいくのだろう。この状況をプーチン大統領はどう思っているのだろうか…。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「結果的にアメリカを利しているというのは、ロシアからすると忸怩たる思いがある。ただロシアのエネルギーを市場から排除することが世界のインフレを高める。そこにプーチン大統領の政治的狙いっていうのがあって…。とにかくインフレが高まれば、ウクライナに対する支援疲れであったり、早く戦争をやめて欲しいっていう国際世論が、ウクライナ側への圧力となったりする。そういう政治的揺さぶりのためにエネルギーを武器にしている」

プーチン氏には自国の経済的損失などより、西側を混乱させる政治的思惑が優先される。確かに経済合理性を考えられるなら戦争など始めるはずもない。

■「ロシアは資源大国じゃなくなる」
アメリカはプーチン氏のエネルギー戦略に乗じて潤っているようだが、中国もまたロシアとの絶妙な距離感で、美味しい思いをしている。

立教大学 蓮見雄 教授
「わかりやすく言えば、漁夫の利ですよ。ロシアはエネルギーを買ってもらわなきゃならないから安くても売る。“シベリアの力”というパイプラインを使うんですが、ヨーロッパ向けと比べるとせいぜい4分の1くらい。(中略)“シベリアの力2“を作る話もあるが、これもロシア側が相当負担するだろうし、売れても安い・・・。

基本的には中国に頼るしかない。ロシアは資源大国じゃなくなるリスクもある。資源開発の技術が禁輸になってる。西側の開発会社は撤退したし、LNGも自分じゃ作れないし、深いところも掘れない。」

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「クリミア併合後に合意したのが“シベリアの力”で、中国は欧州の10分の1の価格でガスを買っていた。国際的に孤立したロシアが頭を下げて長期契約した。それが8年前。それで今度も“シベリアの力2”をロシアが持ちかけてるんですが、今になっても中国は一言もそれを言わない」

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「ヨーロッパを揺さぶる目先のエネルギー戦略のために、中国への依存を必要以上に高めている。中ロも外から見ると“反米”で連携しているように見えるが、力関係は明らかにロシアが中国に頭を下げている。この従属関係はロシアにも不本意であると思う」

■中国が6割を握っている
ロシアは自らエネルギー大国として世界の市場から退場した。ではエネルギーを背景にどこの国が世界の覇権を握っていくのか。果たして日本の未来はどうなるのか…

資源エネルギー庁の資料では、日本の商社のこんな言葉が紹介されている。「2026年までに開始できる(LNGの)長期契約はすべて売り切れてしまっている。エネルギーの調達はすでに戦時状態だ」 
蓮見教授は気になる問題点を口にした。

立教大学 蓮見雄 教授
「日本はロシアとサハリン2との契約を続けたが、生産自体ができるのかどうかが問題。そうすると本気で再生可能エネルギーに取り組まなければならないということになるが、日本もヨーロッパもそうですが、太陽光パネルにしても発電機にしても、すべて鉱物資源が必要になるんです。そしてその鉱物資源の6割を中国が握っているんです。

そうすると再生可能エネルギーを進めるためには資源をどう確保するのか…今後本気になって考えなければならないんです」(BS-TBS 『報道1930』 11月21日放送より)【11月22日 TBS NEWS DIG】
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