孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

英連邦首脳会議  奴隷貿易への賠償について協議を始めることで合意 英政府は賠償には応じない方針

2024-10-31 21:47:27 | 欧州情勢

(訪問先のサモアで、地元の伝統の踊りを鑑賞するチャールズ英国王=サモア・アピアで2024年10月25日、AP【10月31日 毎日】)

【英連邦 英国王に奴隷制の「償い」要求 英国王は痛ましい過去への言及はあったものの、謝罪はせず】
かつての大英帝国の名残“英連邦(コモンウェルス)”が現代においてどのような意味を持つのか・・・よくわかりませんが、参加国にはそれなりの精神的な意味合いもあるのでしょう。

“英連邦は、英国やカナダ、インド、オーストラリアのほか、アフリカやカリブ海の国などが加盟する緩やかな連合体。英連邦の総人口は27億人に上り、地球の全人口の約3分の1を占める。加盟国は行政や経済、保健医療など各分野で相互に協力でき、若者にとっては英国留学など教育支援を受けられるメリットもある。”【10月31日 毎日】

その英連邦の首脳会議にイギリスからはチャールズ国王が参加しましたが、奴隷制・奴隷貿易というイギリスの「過去」について償いを求められました。

****英連邦諸国、チャールズ国王に奴隷制の「償い」要求*****
英国のチャールズ国王は25日、サモアで開催中の英連邦(コモンウェルス)首脳会議(サミット)で、植民地時代の過去の償いを求められた。

英国の旧植民地を中心とする56か国の首脳が集うサミットに、チャールズ国王が出席するのは戴冠後初。
だが、25日の会議は気候変動など喫緊の課題ではなく、英植民地時代の奴隷制や負の遺産といった歴史をめぐる激論に発展した。

アフリカ、カリブ海、太平洋の多くの旧植民地諸国は、宗主国だった英国や欧州列強が奴隷制に対する金銭的補償か、少なくとも政治的な償いを行うことを望んでいる。英連邦サミットでも補償的正義をめぐる議論を要求しているが、財政難にある英政府はそれを阻止しようとしてきた。

バハマのフィリップ・デービス首相はAFPに対し、「歴史上の過ちにどのように対処するかについて、真の対話を行う時が来た」「補償的正義の議論は容易ではないが、極めて重要だ」と主張。「奴隷制の恐怖は、われわれのコミュニティーに世代を超えた深い傷を残した。正義や補償的正義のための闘いは、まったく終わっていない」と述べた。

数世紀にわたり奴隷貿易から利益を得てきた英王室は、謝罪を求められている。

だが、チャールズ国王はその点については踏み込まず、各国首脳に対し「分裂の言葉を拒む」よう呼び掛け、「英連邦各地の人々の声を聞く中で、過去の最も痛ましい側面が今に与え続けている影響は理解している」と発言。

「過去を変えることは誰にもできない。しかし、われわれはその教訓を学び、今も続く不平等を解消する創造的な方法を見いだすために全力を尽くすことができる」と続けた。

■過去との向き合い
英国のキア・スターマー首相は補償の支払いを公然と拒否しており、英高官らはサミットでの謝罪はないとしている。

だが、サミットでは植民地時代に関する議論を呼び掛ける共同声明案をめぐり、激しい交渉が展開されている。

デービス首相は「補償の要求は単に金銭的なものではなく、何世紀にもわたる搾取の持続的な影響を認め、奴隷制の遺産に対する誠実かつ正直に向き合うことを求めている」と強調した。

次期英連邦事務総長候補の一人、レソトのジョシュア・セティパ氏によると、補償には気候資金のように従来の形態とは異なる支払い方法が含まれる可能性がある。 【10月25日 AFP】
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イギリスなど欧州列強が奴隷制・奴隷貿易で多大な富を得、その後の産業革命の原資ともなったこと、その陰で多くの黒人が非人道的状況に苦しみ、奴隷供給国には大きな傷跡を残したことことは周知のところです。

****奴隷貿易****
イギリスは17世紀末から大西洋の黒人奴隷貿易に参入、特に1713年にアシエント(奴隷貿易特権)を認められてからは、アフリカ・アメリカ大陸を結ぶ三角貿易を行い、大きな利益を上げ、イギリス産業発展の原資とされていた。

しかし、黒人奴隷への非人間的扱いや、中間航路の悲惨な状況が知られるにつけて、主としてキリスト教の人道主義の立場から、批判が強まった。

18世紀末から議会内外で奴隷貿易反対運動を続けたウィルバーフォースらの努力が効を奏し、イギリス議会は1807年、本国とアフリカ・西インド諸島間で行われていた奴隷貿易を禁止した。しかし、この時点では黒人奴隷制度そのものは否定されていなかった。

奴隷貿易廃止の背景
アフリカの黒人を奴隷として人身売買する黒人奴隷貿易は、人道主義の立場に立つウィルバーフォースの運動によって、ますイギリスで1807年に実現した。

この動きはイギリス以外にもひろがり、翌年はアメリカ合衆国でも奴隷貿易を禁止、1814年にオランダ、1815年にはフランスがそれに続いた。

19世紀初頭に、欧米諸国でアフリカの黒人を奴隷として人身売買することが急速に禁止されるようになったのには、人道主義的な反対運動が強まっただけではない、大きな経済のしくみの変化が背景にあった。

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(引用)19世紀初頭、ヨーロッパではかつての重商主義、重農主義の時代が終わり、産業革命の時代を迎えつつあった。

南北アメリカ植民地やアフリカとの関係でも、奴隷を労働力とするプランテーション経営や、アフリカからの奴隷供給をその一辺とする大西洋三角貿易で利益を得ていた時代から、第一次産品の供給地おおび製品の市場としての植民地が求められるようになる。

そうしたなかで、イギリス(1807年)、オランダ(1814年)、フランス(1815年)が相次いで奴隷貿易を禁止する。<川田順造『アフリカ』地域からの世界史9 1993 朝日新聞社 p.185>
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その結果、ヨーロッパ列強のアフリカに対する関心は、現地人首長との交易拠点が置かれた海岸から、急速に内陸に向けられることになり、19世紀前半の「アフリカ探検」ブームを引き起こし、さらに世紀後半の「アフリカ分割」競争へと移っていく。

奴隷制度そのものの廃止へ
欧米諸国が黒人奴隷貿易を禁止するようになったのは、単一商品作物に特化するプランテーションよりも、国内産業育成に目が向いた結果といえるが、そのような転換を遂げなかったブラジルとキューバは依然として大きな奴隷輸入地域だった。奴隷貿易禁止に転じたイギリスは軍事力を使って奴隷貿易国(スペイン)に圧力をかけた。
奴隷貿易が禁止されても奴隷制度そのものは続いていた。19世紀に奴隷制による生産が行われていた主な地域は、イギリス領西インド諸島の砂糖プランテーション、アメリカ合衆国南部の綿花プランテーション、ブラジル南東部のコーヒープランテーションであった。

次の段階では、このような奴隷制度そのものの廃止が改題となってゆき、イギリスでは1833年に奴隷制度廃止が決定される。

アメリカでは奴隷制度の廃止か存続下で国論がわかれ、南北戦争となる中で、1863年に奴隷解放宣言が出され、それ以後各国に広がり、1888年のブラジルを最後に世界から奴隷制度は(一応のところ)姿を消す。【世界史の窓】
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【被害を受けた国への賠償について協議を始めることで合意 英政府は賠償には応じない方針】
英連邦(コモンウェルス)首脳会議では、奴隷貿易によって被害を受けた国への賠償について協議を始めることで合意しました。

****イギリス連邦 首脳会議 奴隷貿易の賠償について協議開始へ*****
イギリスの旧植民地などで作るイギリス連邦の首脳会議が開かれ、かつて奴隷貿易によって被害を受けた国への賠償について協議を始めることで合意しました。

イギリス連邦はイギリスの旧植民地など56か国で作る緩やかな連合体で、2年に1回の首脳会議が太平洋の島国サモアで開かれました。

最終日の26日、すべての国が署名し採択された合意文書には、島しょ国への経済支援や気候変動対策に加え、かつてイギリスの奴隷貿易によって被害を受けた国への賠償について協議を始めることが盛り込まれました。

イギリスは16世紀後半以降、主にアフリカ西部からおよそ300万人を奴隷としてカリブ海諸国や南北アメリカの植民地に送り込み、タバコや綿花、砂糖などを栽培させて産業革命を推し進める富を築いたとされていますが、過酷な環境で多くの犠牲者が出ました。

近年、カリブ海諸国を中心に謝罪や賠償を求める声が高まっていて、イギリス連邦の首長を務めるチャールズ国王も首脳会議の開幕に際して「私たちの最も痛ましい過去が反響し続けていることを理解している」と述べ、真摯(しんし)に向き合う姿勢を示していました。

イギリスのスターマー首相は26日の会見で「首脳会議では金銭に関する議論はなかった。その点についてわれわれの立場は非常に明確だ」と述べ、巨額に上ると見られる金銭による賠償以外の方法を模索する考えを示し、地元メディアは債務の軽減や経済支援などの形をとる可能性もあると伝えています【10月27日 NHK】
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****英国の奴隷貿易を巡り「賠償で対話の時」 英連邦が歴史的声明*****
英国の旧植民地など56カ国で構成する英連邦(コモンウェルス)内で、過去の奴隷貿易や植民地支配に対する賠償を求める声が高まっている。

10月25〜26日に南太平洋の島国サモアで開かれた英連邦首脳会議では、「賠償の問題」について協議を始めるとする歴史的な共同声明が採択された。ただ、チャールズ英国王は過去について「痛ましい側面」があったと述べるにとどまり、賠償や謝罪には踏み込んでいない。

「有意義で、誠実で、敬意を持った対話をする時が来た」。英連邦加盟国は同26日の共同声明に、英国が植民地支配時代の「負の歴史」を直視すべきとの趣旨の内容を盛り込んだ。声明には英国も合意した。

英議会の資料によると、英国は1562年から1807年まで奴隷貿易を行い、300万人以上のアフリカ人を北米やカリブ海の植民地に運んだ。

チャールズ国王は10月21日、サモア入り前に訪問したオーストラリアで先住民の上院議員から「英国人は大虐殺をした。土地を破壊した。祖先の命を返せ」と罵倒される一幕もあった。

国王は今回のサモア訪問で、「過去を変えることはできないが、その教訓を学ぶことはできる」と述べたが、謝罪はしなかった。国王は個人的には過去の清算に前向きとされるが、「政治的に微妙な問題に関しては、国王の演説は政府方針の範囲内にとどまる」(英BBC放送)ことが慣例という。

英国の政権は7月の総選挙で保守党から労働党に変わったが、政府見解は変わらず、現在のスターマー首相も「賠償には応じない」との立場だ。

英連邦首脳会議は2年に1回開催される。英メディアによると、次回は賠償問題が主要議題になる可能性があるという。(後略)【10月31日 毎日】
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【もし賠償すれば、その額は巨額に】
謝罪すれば賠償問題へとつながり、その額は膨大なものになる・・・・という現実問題があります。

****どうやって払うの? 歴史の清算は高くつく 英奴隷貿易35兆円、米奴隷制は1285兆円也****
「奴隷貿易は受け入れ難いイギリスの歴史」
米白人警官による黒人暴行死事件に端を発した黒人差別撤廃運動「Black Lives Matter(BLM、黒人の命は大切だ)」が欧州に飛び火し、原因をつくった奴隷貿易(大西洋三角貿易)やそれに続く植民地支配の清算を迫っています。

奴隷貿易の責任を償うとしたら、その額は一体どれぐらいになるのでしょう。

「レイシスト(差別主義者)」という非難や破壊行為から逃れるためか、BLMに対して伝統的な金融機関や法律事務所が謝罪や遺憾の意を表明する例が相次ぎました。

過去の総裁や理事計27人が奴隷貿易に関わった英中央銀行、イングランド銀行は記念像や肖像画の展示を見直すとして、次のような声明を出しました。

「18、19世紀の奴隷貿易が受け入れ難いイギリスの歴史であることは明らかだ。イングランド銀行が直接、奴隷貿易に関与することはなかったものの、過去の総裁や理事が言い訳できないつながりを持っていたことを認識しており、それらを謝罪する」(中略)

しかし「謝罪」は「補償」を伴うのが国際社会の常識です。

1807年に奴隷貿易廃止法を制定したイギリス
奴隷貿易(大西洋三角貿易)は17~19世紀、雑貨や銃などの工業製品がアフリカに輸出され、黒人奴隷(黒い荷物)が大西洋を越えて西インド諸島や北米大陸に運ばれました。黒人奴隷が生産した綿花や砂糖(白い荷物)は欧州に送られました。

スウェーデン・ヨーテボリ大学のクラス・ロンバック教授の論文によると、三角貿易と植民地のプランテーション、関連産業を合わせた国内総生産(GDP)への貢献度は1701年の3.1%から1800年には10.8%に達しています。

1200万人の黒人奴隷が輸送され、300万人が死亡したとされています。1776年、アメリカの独立宣言でこの一角が崩れ、自由貿易や人道主義の高まりとともにイギリスは1807年、世界に先駆けて奴隷貿易廃止法を制定します。

1833年には奴隷制も廃止され、イギリス政府は奴隷約80万人分の損失を補償するため、永久債を発行して財源を捻出します。英政府が償還し終えたのは2015年のことだそうです。

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの奴隷所有者データベースによると、補償金は当時の金額で総額2000万ポンド、現在の価値に換算すると170億ポンド(約2兆2500億円)。4万7000人の奴隷所有者に配分されました。(中略)

また奴隷約80万人の市場価値は2000万ポンドではなく、実は5000万ポンドで、当時のイギリスのGDPの12%。現在、GDPの12%は2640億ポンド(約35兆円)に当たります。(中略)

1862年の奴隷解放宣言でアメリカでは400万人が解放されました。それに対して補償するとなると10兆~12兆ドル(約1070兆~1285兆円)にのぼるという米シンクタンク、ルーズベルト研究所の試算もあります。

「謝罪だけでは十分ではない」
トリニダード・トバゴの西インド諸島大学に拠点を置くカリブ研究協会は「制度化された人種差別、白人至上主義、警察の残虐行為とジョージ・フロイドさんら米国および世界中の黒人犠牲者を生んだ体系的な社会的不正を糾弾する」と表明しています。

カリブ諸国12カ国は「謝罪だけでは十分ではない」と何らかの形の補償を求めています。西インド諸島大学の副学長でカリブ共同体補償委員会委員長のヒラリー・ベックルズ教授は2014年に英下院でこう証言しています。

「イギリスの奴隷船は180年にわたって550万人の黒人奴隷をアフリカからカリブ海に運んできた。奴隷制が廃止された時、残っていたのはわずか80万人だった」

「奴隷制と虐殺の邪悪なシステムが確立されたのはこの英下院だ。この下院は法律を可決し、財政政策を取りまとめ現在、修正を必要とする有害な遺産と永続的な苦しみを生み出すという罪を犯した」

「下院はまた奴隷制からの解放と植民地主義からの独立を実現した。私たちが今期待しているのは、補償のための法律が制定されることだ。過去のひどい過ちが是正され、これらの歴史的犯罪の恥と罪悪感から人類が最終的にそして真に解放されると信じている」(中略)

ベックルズ教授は今回、ロイター通信に「謝罪だけでは十分ではない。私たちは街角の物乞いのように何かを求めているのではない。金銭は二の次だが、道徳的義務から解放されるためにはカリブ諸国の発展のために市場経済で貢献することが求められる」と訴えています。

奴隷制だけでなく過去の植民地支配も裁かれ、補償が求められるとなると、韓国との間で旧日本軍従軍慰安婦問題、元徴用工問題を抱える日本にとっても対岸の火事で済まされなくなってしまいます。【2020年6月29日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】
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“スターマー首相は巨額に上ると見られる金銭による賠償以外の方法を模索する考えを示し、地元メディアは債務の軽減や経済支援などの形をとる可能性もあると伝えています”【前出 NHK】

日本の中国に対する国交回復後の支援もその類でしょうか。結果、中国は飛躍的発展を実現しました。
しかし“謝罪”を曖昧なまま行ったことで、未だに“歴史問題”が日中関係を難しくするものとなっています。

【アメリカ バイデン大統領が先住民同化政策について謝罪】
アメリカではバイデン大統領が・・・

****米大統領、先住民に謝罪 白人社会への同化政策巡り****
バイデン米大統領は25日、政府が白人社会への同化を目的に先住民の子どもを150年間、寄宿学校に強制入学させていたことを初めて公式に謝罪した。

先住民の言語や文化を失わせたとし「恐ろしいほど間違っていた。米国史の汚点だ」と述べた。訪問先の西部アリゾナ州フェニックス近郊の先住民居留地で表明した。

バイデン氏は「謝罪は遅すぎた。弁解の余地はない」と強調。「歴史を消し去るのではなく、学び、記憶することで国家として癒やしを得ることができる」と訴えた。

米政府によると、37州で計400以上の寄宿学校を運営し、強制入学は1819年から1969年まで続いた。「過酷な軍国主義的同化政策」で先住民の言語や文化が薄れ、多くの子どもが虐待や性的暴行を受けた。【10月26日 共同】
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今この時期に謝罪がなされたのは、選挙対策の意味合いがあるのではと邪推しています。
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