孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

レバノン  「宗教のモザイク国家」、05年のラフィク・ハリリ元首相爆殺事件で高まる緊張

2011-01-21 22:39:34 | 世相

(09年2月 ラフィク・ハリリ元首相爆殺4周年式典のベイルート 彼の死の真相は6年を経て、今またレバノンを大きく揺るがしています。 “flickr”より By Luciana.Luciana
http://www.flickr.com/photos/lucianaluciana/3278304267/ )

宗教のモザイク国家
中東レバノンは、シーア派・スンニ派などイスラム教、マロン派などのキリスト教など多くの宗派はひしめく「宗教のモザイク国家」とも呼ばれ、これまでも宗派対立からレバノン内戦などを経験してきました。

****レバノンで脱宗派デモ 指導者に既得権益…独立後初****
イスラム教とキリスト教の大小18の宗派がひしめき、宗教のモザイク国家と呼ばれるレバノンの首都ベイルートで25日、宗派主義の克服と世俗主義の定着を訴える市民のデモが行われた。1975年から約15年続いたレバノン内戦の要因の一つとなった宗派主義は依然、社会に染みついているが、こうしたデモは43年の独立以来初めてとみられる。
参加者は「シビル・ウォー(内戦)ではなく、シビル・マリッジ(宗教に基づかない民事婚)を」といったプラカードを掲げ、「君の宗派は? 余計なお世話!」などと書かれたTシャツを着て、国会に向けて行進。国会の手前で警官隊に阻止されたが、ロイター通信によると、約3000人が参加した。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のフェースブックでの議論が発端となり、瞬く間に参加者がふくれあがったという。
レバノンは、旧宗主国のフランスが中東にキリスト教国を作るため、キリスト教徒が多数派となるように国境を線引きした上で、18の公認各宗派に議席や政府の役職を振り分ける独特の宗派体制を植え付けた。ところが、固定的な宗派間の配分と人口比の実態の格差が広がり、主にイスラム教徒側を中心に不満が蓄積したのが内戦への導火線となった。

いまも大統領はキリスト教マロン派、首相がイスラム教スンニ派、国会議長が同シーア派の出身者と決まっており、国会議席も宗派に固定的に割り振られている。このため、各宗派のコミュニティーで名家出身の指導者が“政治ボス”として君臨する状況は内戦時代と変わっていない。
また、市民生活では、冠婚葬祭は各宗派の宗教法に基づいて執り行われ、宗教者が絶大な力を持つ。結婚も宗教戒律に基づく宗教婚であり、国に届け出る民事婚の制度はない。このため、宗派を超えた結婚には困難が伴うのが実情だ。
宗派対立という事態の中では、各派の宗教や政治指導者が対立の当事者のようにみえるが、実は彼らが宗派を問わず宗派体制の最大の既得権益層であり、宗派主義変革の声に対する抵抗勢力にもなっている。
デモの主催者側は「宗派主義を変えるのは今は不可能に近い。だが、すでに第一歩を踏み出した」と話している。【10年4月27日 産経】
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上記のような新しい運動もあるようですが、今のところ現実には宗派主義の枠組みで政治は動いています。
特に、最大野党であり、国軍以上の軍事力を持ち、シリア・イランと緊密な関係にあるイスラム教シーア派ヒズボラの動きへの対応が問題になります。

09年6月の国民議会選で与党の親米反シリア連合が勝利、ヒズボラが敗北。組閣調整が難航し、4カ月以上も政治空白が続きましたが、09年11月ようやく与党の親米反シリア連合を率いるハリリ首相のもとで、ヒズボラの2閣僚を含めた挙国一致内閣が成立しました。
なお、06年にイスラエルとヒズボラが武力衝突したレバノン紛争を巡っては、国連安全保障理事会がヒズボラの武装解除を求める決議を採択、レバノン国内の親米勢力はその後もヒズボラの武装解除を求めてきましたが、ハリリ首相はヒズボラの武器保有をイスラエルに対する「抵抗運動の権利」として事実上認めました。

ハリリ首相は09年12月シリアを訪問しアサド大統領と会談、本格的関係改善に向け一歩を踏み出しました。
それまでシリアとの関係は、ハリリ首相の父ラフィク・ハリリ元首相が05年2月にベイルートで爆殺されて事件にシリアが関与していると思われていたため、与党・親米勢力との関係は悪化していました。
対シリア関係改善を受けて、昨年9月にハリリ首相は、父のハリリ元首相暗殺事件へのシリアの関与を疑ったのは「間違いだった」とまで発言しています。

ヒズボラ関係者を訴追の観測に、連立政権崩壊
しかし、ラフィク・ハリリ元首相爆殺事件については、国連特別法廷が昨年4月にシリア関与を疑わせるレバノン人容疑者4人すべてを「証拠不十分」で釈放するようレバノン当局に指示した後も、今度は国連特別法廷がヒズボラ関係者を訴追する観測が強まり、これにヒズボラが強く反発する形で、新たな宗派紛争の引き金を引きかねない事態となっています。

こうした事態に、昨年7月下旬にヒズボラを支持するシリアのアサド大統領と、ハリリ首相のスンニ派の後ろ盾のサウジアラビア・アブドラ国王がレバノンを同時訪問。レバノン主要各派の政治指導者らと会談、緊張緩和に努めました。
アフマディネジャド・イラン大統領は昨年10月のレバノン訪問で、ヒズボラ関与の疑惑は「でっち上げだ」と反発。シリアのアサド大統領も10月26日付の汎アラブ紙「アルハヤト」で「(訴追は)レバノンを破壊しかねない」と警告しています。
アメリカはハリリ首相が親シリア・イラン姿勢を目立たせているのにいら立ちを強めており、議会の親イスラエル議員は、米政府がテロ組織と認定するヒズボラへの武器流出を恐れ、レバノン国軍への武器供与を凍結している状況で、アメリカ政府のレバノンへの影響力回復は制約されています。

ヒズボラ最高指導者のナスララ師は「(メンバーの訴追は)容認しない」と繰り返し牽制。スンニ派のハリリ首相には特別法廷の調査を拒否するよう要求し、訴追が実現すれば閣僚の引き揚げも辞さないとの態度を示していましたが、ハリリ首相はこれを拒否。

これに対し、ハリリ首相が訪米中の1月12日、ヒズボラ及びそれに近い野党系閣僚11人が一斉に辞任し、スンニ派のサード・ハリリ首相が率いる連立政権は発足から約1年2カ月で崩壊ました。
****レバノン:ヒズボラ系閣僚11人が一斉辞任 連立政権崩壊****
レバノンで12日、イスラム教シーア派組織ヒズボラ系の閣僚11人が一斉に辞任し、スンニ派のサード・ハリリ首相が率いる連立政権は発足から約1年2カ月で崩壊した。現首相の父であるハリリ元首相暗殺事件(05年)を審理する国連のレバノン特別法廷を巡る対立が原因。宗派間の暴力的衝突に悩んできた多宗派国家レバノンは、新たな危機に直面した。
訪米中だったハリリ首相は同日、オバマ米大統領との会談後に訪米を切り上げた。レバノンの旧宗主国で現在も関係が深いフランスに急きょ向かい、サルコジ大統領と善後策を協議する。

イランやシリアが支援するヒズボラは、自派関係者が訴追されるとして特別法廷ボイコットを要求。米国やサウジアラビアが後ろ盾のハリリ氏が拒否したことで、両陣営の対立が深まっていた。
一斉辞任は、ハリリ氏とオバマ大統領が会談して特別法廷支持で一致した12日に行われており、妥協を拒否するヒズボラ側の強い姿勢を印象付けた。サウジアラビアとシリアが協調して行ってきた調停の失敗も背景にあるとみられる。
米国のクリントン国務長官は12日、訪問先のカタールでハリリ政権崩壊に関し「正義を妨害しレバノンの安定と前進を脅かそうとする内外の勢力の取り組みが明らかになった」と発言。ヒズボラやイランなどを間接的に批判した。
05年の暗殺事件後、事件への関与を疑われたシリアは、レバノン国民の反発や国際社会の圧力を受けて約30年同国に駐留させていた軍を撤収。09年の国民議会選で勝利した親米・反シリアのハリリ氏側勢力は、ヒズボラなども加えた挙国一致内閣を発足させていた。【1月13日 毎日】
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スレイマン大統領は13日、新政権発足まで、ハリリ首相に暫定首相として政権運営にあたるよう要請しています。

武力衝突の懸念、難航する調整
こうしたなか、国際特別法廷は17日、容疑者の訴追手続きに入りました。
****レバノン 特別法廷、訴追手続き 首相派とヒズボラに緊張****
2005年に起きたレバノンのラフィク・ハリリ元首相暗殺事件を裁く国際特別法廷(オランダ・ハーグ)は17日、検事が起訴状を法廷に提出し容疑者の訴追手続きに入った。訴追対象は明らかにされていないが、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラのメンバーが含まれているとの観測が広がっている。
同事件をめぐっては、関与を強く否定するヒズボラが、元首相の次男であるハリリ首相に対し、特別法廷への協力を拒否するよう要求。ハリリ首相がこれに応じなかったことから、12日にはヒズボラ系閣僚が辞任し連立内閣が崩壊した。
ヒズボラ最高指導者ナスララ師は「断固としてメンバー逮捕を阻止する」と繰り返し言明しており、今回の訴追対象にヒズボラ関係者が含まれていれば、スンニ派のハリリ首相支持派との緊張がさらに高まるのは必至。武力衝突への発展を懸念する声もある。

特別法廷では今後、予審判事が6~10週間かけて十分な証拠があるかなど起訴状を審査。その後、正式に起訴され裁判が始まる。正式起訴まで容疑者名は明らかにされない。
連立内閣の崩壊を受け、スレイマン大統領は週明けにも新政権樹立に向け各政治勢力との協議を始める。ただ、ヒズボラはハリリ首相再任を拒否する姿勢を崩していない上、双方に緊張緩和を働きかけてきたシリアやサウジアラビアの仲介も暗礁に乗り上げており、協議は難航が予想される。【1月19日 産経】
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新首相人選の難航・長期化はもちろん、武力衝突・宗派紛争再燃の危機を迎えているレバノン情勢沈静化のため、トルコのダウトオール外相とカタールのハマド首相が18日現地入りしましたが、仲介作業は不調に終わっています。サウジアラビアも仲介努力の断念を表明しています。

多宗教・宗派の「モザイク国家」レバノンは、正式起訴での容疑者名公表に向けて、新たな危機が高まっています。

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中断したパレスチナ和平交渉  アラブ諸国が国連安保理にイスラエル非難決議提出

2011-01-20 18:10:10 | 国際情勢

(イスラエルの大規模入植地グッシュ・エジオン(Gush Etzion)近郊の“壁”と“監視塔” “flickr”より By battyward http://www.flickr.com/photos/battyward/2733089936/

ガザ地区:「普通の人々に懲罰が科せられているのと同じだ」】
パレスチナ和平交渉については、アメリカ・オバマ政権の後押しによるイスラエルとパレスチナの直接交渉がイスラエル占領地への入植問題で失敗して以来、ミッチェル米中東特使を軸にアメリカによるイスラエル、パレスチナとの間接交渉が継続されていますが、殆んど進展がみられていません。

ガザ地区についても、08年末のイスラエルの軍事侵攻から2年以上が経過しましたが、イスラエル軍がガザ地区への民間の建設資材搬入を禁じていることもあって、破壊された住宅の再建は進んでいません。
****イスラエル:ガザ軍事侵攻から2年 住宅再建進まず*****
◇不足住宅は10万戸
・・・・侵攻によってガザ全体で完全に破壊された住宅5000戸以上のうち再建されたのは、「100戸に満たない」(ガザ再建調整委員会のラドワン委員長)。08年以前からの紛争による破壊と人口増加を考えると、不足住宅は10万戸になる。
そのため、最近3年でアパートの家賃は2~3倍に高騰。しかも、空き部屋があっても、失業率が45%に上る同地では大半が負担できない。多くが再利用のがれきまたは粘土ブロックで築いた仮設住宅や、倉庫、車庫に住んでいるのが現状だ。
イスラエル軍はガザ地区への民間の建設資材搬入を禁じる政策は当面は変更しないことを示唆しているが、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)ガザ事務所のノルダール次長は「普通の人々に懲罰が科せられているのと同じだ。封鎖さえ解除すれば解決する問題だ」と指摘する。【12月24日 毎日】
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一方、ガザ地区からのイスラエルへの攻撃は激減しているようです。
****ガザからの攻撃が激減 2010年、イスラエル発表*****
イスラエルの国内治安機関シャバクが3日発表した2010年の「テロのデータと傾向」(12月25日現在)によると、パレスチナ自治区ガザから10年に発射されたロケット弾と迫撃弾は計365発で、09年の858発から激減した。イスラエル国内での自爆テロは2年連続で0件だった。【1月4日 共同】
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復興が進まないなか、イスラエル軍の報復を招くロケット弾等の攻撃は、ガザ地区住民の不満を高める結果になるとの、ガザ地区を実効支配するハマスの判断でしょうか。

イスラエル側からは、昨年末、パレスチナとの「暫定的な和平合意」も選択肢の一つとの認識が示されましたが、パレスチナ側は、中核的な問題の交渉を後回しにした暫定的な和平合意には応じない姿勢です。
****イスラエル首相「暫定和平合意」も選択肢=パレスチナは拒否*****
イスラエルのネタニヤフ首相は27日、同国の民放テレビ局チャンネル10のインタビューで、中東和平交渉が停滞する中、エルサレムの帰属などで解決策が見いだせない場合、パレスチナとの「暫定的な和平合意」も選択肢の一つとの認識を示した。
同首相は暫定合意の中身には触れなかったが、エルサレムの帰属やパレスチナ難民の帰還権など中核的な問題の一部を棚上げし、パレスチナとの和平合意を結ぶものとみられる。
ただ、パレスチナ側はこれまで、暫定的な和平合意には応じない姿勢を明確にしており、実現は困難だ。1993年のパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)で、中核的な問題の交渉が後回しにされた結果、現在まで最終的な合意に至っていない経緯がある。【12月28日 時事】
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入植活動:「国際法に違反し、和平の大きな障壁だ」】
こうした状況下で、アラブ諸国など計123カ国は、イスラエルが占領するパレスチナ領(ヨルダン川西岸、ガザ、東エルサレム)へのユダヤ人入植活動について、「国際法に違反し、和平の大きな障壁だ」と非難する国連安保理決議案を提出しました。
これは、昨年12月15日、アラブ連盟の緊急閣僚級会合で決められた“仲介役のアメリカが和平実現の「真剣な提案」を行うまで交渉再開を支持しない。また、イスラエル占領地での入植活動の違法性を確認する決議を国連安全保障理事会に求める”という方針に沿ったものです。

****国連:イスラエル非難の安保理決議案提出****
イスラエルが占領するパレスチナ領(ヨルダン川西岸、ガザ、東エルサレム)へのユダヤ人入植活動について、アラブ諸国など計123カ国は19日までに、「国際法に違反し、和平の大きな障壁だ」と非難する国連安保理決議案を提出した。
中東和平交渉を有利な立場で再開したいパレスチナ自治政府の意向を受けたもので、入植活動が凍結されなかったことが、交渉中断の原因だと国際社会に印象付け、イスラエルやその同盟国・米国への圧力を高めるのが狙いだ。

イスラエル政府報道官は「(パレスチナが)交渉を拒否し、和平プロセスを否定している」と反発している。
パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト交渉局長によると、安保理理事国15カ国のうち、米国を除く14カ国は決議案に賛成している。ただ、決議案は、米国とロシア、欧州連合(EU)、国連の中東和平4者協議がかつて出した声明文と同じ内容で、米国は拒否権を発動しづらく、難しい対応を迫られた格好だ。【1月20日 毎日】
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アメリカの選択
また、ロシアのメドベージェフ大統領は18日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸を初めて公式訪問し、東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家建設を支持すると表明しています。
****ロシア:大統領がヨルダン川西岸を訪問 独立国家建設支持****
イスラエルとパレスチナの中東和平交渉が暗礁に乗り上げた中、ロシアのメドベージェフ大統領が18日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸を初めて公式訪問し、東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家建設を支持すると表明した。ソ連時代(88年)に表明した同種の立場の継承を確認した。ロシアは米国、欧州連合(EU)、国連を加えた中東和平4者協議で仲介役の一端を担っており、発言はイスラエルや米国に対し、交渉再開に向けた一定の圧力となる。

大統領は西岸エリコでアッバス議長と会談した。大統領は会見で、独立国家建設について「イスラエルを含めた全当事者のためになる」として、ソ連時代から続く「支持」姿勢を明確にした。
これは88年、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長(当時)が独立宣言した際、ソ連を含む約100カ国が支持した経緯を指す。しかし米ソ冷戦の枠組みでソ連が“自動的”にアラブ寄りの姿勢をとっていた時代で、実質的な影響はなかった。
イスラエルと米国は、パレスチナの一方的な独立やそれに先立つ「承認」に強く反発している。これに対し、パレスチナ側は各国の「承認」を求めてきた。中南米諸国で承認が相次ぐほか、イスラエル紙ハーレツは、スペインが西側諸国で最初にパレスチナ国家を承認する見通しと報じた。パレスチナ側には、国際的な後ろ盾を受け交渉を有利に再開する狙いがある。

AFP通信によると大統領の発言は、イスラエルの占領地への入植活動を巡り交渉が中断したことに焦点を当てる狙いがある。パレスチナ側は入植活動への国連安保理の非難決議を求める構えだ。PLOのエラカト交渉局長によると、ロシアなど理事国15カ国のうち、決議に反対なのは米国だけだ。(後略)【1月19日 毎日】
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イスラエルによる入植活動によって和平交渉が中断しているなかで、アメリカの姿勢を示すものとして、アメリカが今回のイスラエル入植活動非難決議に拒否権を行使するのかどうかが注目されます。

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チュニジア  与党排除を求めるデモで混乱続く 周辺国・欧米の警戒感

2011-01-19 21:04:04 | 国際情勢

(反RCDデモを催涙弾で鎮圧する治安警察 18日首都チュニス “flickr”より By Nasser Nouri
http://www.flickr.com/photos/nassernouri/5367629917/

首をすげかえただけの「挙国一致内閣」】
ベンアリ大統領亡命後も混乱が続く北アフリカのチュニジア。
国花にちなんだ「ジャスミン革命」といった優雅な呼び名もありますが、今後が懸念されます。

ガンヌーシ首相は、野党勢力や拘束されていた有名ブロガーを取り込んだ「挙国一致内閣」を組閣し、政治犯の釈放やメディア活動自由化を打ち出しました。
しかし、首相以下主要閣僚を与党・立憲民主連合(RCD)が独占しており、単に首をすげかえただけの「見せかけだけの連立」との国民批判から、これまで弾圧・強権支配を行ってきたRCDの政治家全員の退陣を求める反RCDのデモが行われており、治安部隊との衝突が起きています。
また、非合法イスラム主義政党の今後の動向も注目されます。

****チュニジア新政権 野党指導者ら起用…主要ポスト留任で労組系閣僚辞退****
■「変化」強調も深まる混迷
 【カイロ=大内清】民衆の抗議行動で政権が転覆したチュニジアのガンヌーシ首相は17日夜に発表した新内閣で、複数の野党指導者やベンアリ前政権下で拘束されていた著名ブロガーを起用し「変化」をアピールした。しかし、18日には有力労働組合が、与党・立憲民主連合(RCD)主導の新政権を拒否。労組出身の閣僚が政権入りを辞退するなど、チュニジア政局は混迷の度を深めている。
18日は首都チュニスなどで数千人規模の反RCDデモが行われ、前日に引き続き治安部隊が催涙ガスなどでデモ隊を鎮圧する事態となった。
ガンヌーシ首相は17日、国内の情報統制を担ってきた情報省を廃止しメディア活動を完全に自由化することや、すべての政治犯を釈放することを約束。当初は2カ月以内に行うとしていた大統領選についても、「準備期間が必要だ」との野党側の声に配慮し、議会選とともに6カ月以内に実施するとした。
◆ネット情報原動力
組閣ではベンアリ前政権と対立してきた民主進歩党のアハマド・シェビ氏ら野党指導者をはじめ、前政権を崩壊に追い込んだデモで動員力を発揮した労組系の人物を多数、大臣・次官級に登用するなどして融和姿勢を示した。
また、ベンアリ前大統領への痛烈な批判で知られ、政府機関のウェブサイトをハッキングしたとしてベンアリ氏亡命の直前まで拘束されていたブロガー、スリム・アマモウ氏を青少年・スポーツ相次官に任命。ネットからの情報を共有し、今回の政変の「原動力」のひとつとなった若者の支持の取り込みを狙った。
しかし、中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどによると、外務や防衛など主要閣僚ポストをRCDが維持していることに反発する数千人規模のデモが起き、18日には反RCD労組と関係の深い一部閣僚や次官らが相次いで辞退を表明した。
◆RCD主導を批判
一方、今回の組閣から排除された非合法のイスラム主義政党「ナフダ」指導者で欧州亡命中のラシド・ガンヌーシ氏は18日、RCD主導の新政権を強く批判。他のアラブ諸国に比べ世俗化が進むチュニジアではイスラム主義勢力の影響力は強くないとされるが、ナフダは政治プロセス参加に意欲を示しており、今後の火種となる恐れもある。チュニジア政府によると、昨年12月から続くデモや暴動の死者は計78人に達した。略奪などによる経済損失は約30億チュニジア・ディナール(約1730億円)に上るという。【1月19日 産経】
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国民からの批判に対し、ムバッザア暫定大統領とガンヌーシ首相が18日、与党・立憲民主連合(RCD)からの離党を表明、事態の鎮静化を目指しています。
****チュニジアの暫定大統領と首相、前政権与党を離党****
ベンアリ政権が崩壊したチュニジアで、ムバッザア暫定大統領とガンヌーシ首相が18日、与党・立憲民主連合(RCD)からの離党を表明した。野党と連立する形で暫定政権を発足させたが、主要ポストをRCDが占めたため、「前政権の支配が続いている」との強い批判を浴びている。離党で事態の沈静化を図ろうとしているものとみられる。
暫定政権首相に任命されたガンヌーシ氏が17日に連立内閣の閣僚を発表したが、首相をはじめ外相、内相、財務相らはベンアリ前政権を支えたRCDに所属。これに抗議し、保健相に任命されたジャーファル氏ら野党系の正副大臣4人が18日、辞任を表明した。19日には初閣議が開かれる予定だが、暫定政権の行方には早くも暗雲が垂れ込めている。【1月19日 朝日】
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首相以下主要閣僚を残留させたRCD指導層と、ベンアリ独裁政権を支えたRCD排除を求める国民の間には、大きな認識の差があるようです。

注目される軍の動向
TVニュースでは、市内の治安維持にあたる兵士に喜びいっぱいに抱きつく市民の様子なども流されています。
“中年の男性が近づいて行き、警備に立つ兵士にコーヒーを振る舞った。「軍の兵士は市民の味方だ」。ベンアリ前大統領は大規模なデモが発生すると、突然14日に国外脱出した。「軍がベンアリ氏を見限ったからだ」。そんな見方を多くの市民が口にした。”【1月18日 朝日】

確かに、唐突な感すら受けたベンアリ前大統領の亡命の背後には、権力層内部や軍の意向が影響していたようにも思われます。
“共同通信によると、ベンアリ氏に引導を渡したのは、陸軍のラシド・アンマル参謀長だった。高失業率などに抗議する若者のデモ拡大に不満を募らせたベンアリ氏から鎮圧を命じられたが、これを拒否し、「お前は終わっている」と国外脱出を促したという”【1月19日 毎日】
ただ、RCD排除を求める国民の声がどこまで生かされるかは、軍の動向にもかかっているでしょう。
軍の銃口がデモを行う市民に向けられ流血の惨事になるのか・・・。

カダフィ大佐:「なぜ(国民は)待てなかったのか」】
チュニジアの政変の“飛び火”を、やはり強権支配国家が多い周辺国が警戒していることも、報じられています。
****アラブで抗議行動拡大 エジプトなど焼身自殺相次ぐ*****
アラブ諸国で、チュニジアの政変に触発されたとみられる抗議行動やデモが広がっている。
エジプトの首都カイロでは17日朝、議会前で、東部イスマイリーヤのレストラン経営の男性(49)が自身に火をつけ重傷を負った。男性は当局から配給のパンを受け取れず生活に窮していたという。一部の地元紙は、治安当局者が男性の火を消し止める様子をとらえた動画をウェブサイト上で公開、それを見た市民に衝撃を与えている。

チュニジアでは昨年12月、大学卒業後に物売りをしていた男性(26)が警察に抗議して焼身自殺を図り、後に死亡。インターネットなどを通じて若者の怒りを呼び、大規模なデモに発展した経緯がある。
フランス通信(AFP)によると、ブーテフリカ大統領が1999年から政権を握るアルジェリアでも16日、市長に失業問題を訴えようとして面会を拒否され、自らに火をつけた無職男性(37)が死亡した。アルジェリアでは過去1週間で4人が同様の方法で自殺を図っている。また、モーリタニアでも17日、男性(42)が政府に不満があるとして、首都ヌアクショットの議会前で焼身自殺を図ったという。
イスラム教では自殺を禁じており、イスラム教徒がほとんどを占めるアラブ諸国での焼身自殺は異例だ。
一方、20年以上の強権支配が続くイエメンの首都サヌアでは16日、学生約1千人が「政権打倒」を呼びかけ行進。王制のヨルダンでも同日、リファイ首相退陣を求める3千人規模のデモが行われた。【1月18日 産経】
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今朝のTVは、エジプトですでに3件の焼身自殺が実行されているとも報じていました。

周辺アラブ国指導者も自国への波及を恐れて、対策を急いでいます。
“多くのアラブ諸国は、価格高騰への怒りの声を受け、食料品などへの助成金支給を段階的に打ち切る計画を延期あるいは中止する可能性がある。・・・・ヨルダンやリビヤなど一部のアラブ諸国は、アナリストがチュニジア型の暴動が起こる可能性を指摘していたが、すでに物価上昇を食い止める措置を講じている。エジプトは助成金縮小計画を見直す可能性がある。”【1月17日 ロイター】

こうした周辺国の反応のなかで、ひときわ目をひいたのは隣国リビアのカダフィ大佐の発言でした。
“隣国リビアの最高指導者、カダフィ大佐は「ベンアリ氏は14年の大統領選不出馬を約束していた。なぜ(国民は)待てなかったのか」と不快感を表明”【1月18日 毎日】
そういう問題ではなかろう・・・とは思うのですが、強権指導者の認識というのはこういうものなのでしょう。

欧米:ベンアリ政権によるイスラム主義者への弾圧を事実上黙認
一方、欧米諸国には、過激なイスラム主義がチュニジアに復活することへの警戒感があります。
****チュニジア:「過激主義が復活」…イスラム台頭に欧米警戒*****
チュニジアで世俗主義のベンアリ独裁政権が崩壊したことで、欧米には過激なイスラム主義がチュニジアに復活することへの警戒感が広がっている。国外追放中の非合法イスラム主義政党の指導者が早期の帰国を表明し、メバザア暫定大統領も新政権への「全国民の意向の反映」を約束した。隣国アルジェリアではイスラム主義者の政治的台頭から内戦状態に陥った経緯もあり、チュニジアがイスラムにどう対応するかが焦点になっている。
(中略)
ベンアリ政権はチュニジアでのイスラム主義台頭を警戒して徹底した弾圧を行い、多数のイスラム指導者が国外追放された。民主化を求める欧米諸国も、イスラム主義の台頭を懸念し、ベンアリ政権によるイスラム主義者への弾圧を事実上、黙認してきた。
今回の政権崩壊をもたらした全国規模の抗議デモにイスラム主義者の積極的関与は薄いと見られている。デモ参加者も「若者の怒りが原動力」(25歳の男子大学生)だ。しかし、英フィナンシャル・タイムズ紙は16日、「西側諸国がチュニジアでのイスラム主義者復帰を恐れている」と報道した。

チュニジア政治に詳しい地元国際政治誌のカマル・ビニューナス編集長は「チュニジアのイスラム主義者の多くは穏健派で、過激主義とは距離を置いている」と指摘する。既存政治勢力は、「弾圧は過激化を生む」と受け入れを認める陣営と、政教分離原則を主張する陣営に分かれているという。
モハメド・ガンヌーシ首相は帰国予定のイスラム主義指導者とも対話の方針を打ち出しており、ビニューナス氏は「護憲や暴力放棄を条件に政治参加を認めるのではないか」と見ている。【1月17日 毎日】
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アメリア後押しによる民主的な選挙がイスラム主義台頭につながった事例としては、パレスチナでハマスが政権掌握に至った選挙や、エジプトの前々回選挙でムスリム同胞団が躍進した事例などがあります。
民主化でイスラム過激派が台頭するぐらいなら、強権支配政治の方が・・・というのがアメリカなどの本音ではないでしょうか。

1.5トンの金塊
今回のチュニジア政変で印象的だったニュース。
****ベンアリ氏、1.5トンの金塊持ち出しか*****
17日付の仏ルモンド紙(電子版)は、チュニジアのベンアリ前大統領一家が出国、逃亡した際、1.5トンの金塊(約4500万ユーロ相当=48億6000万円)を持ち出したと仏当局が推察していると報じた。夫人が政権崩壊当日、チュニジア銀行に金塊の引き出しを要請したが銀行の総裁は当初、拒否したという。【1月18日 産経】
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実際のところ50億円弱の金塊がどうなったのかはよくわかりません。
それにしても、1.5トンもの金塊をどうやって運ぶのでしょうか・・・。まあ、そんなことは余計なお世話ですが、ベンアリ前大統領の専制支配を印象づけるニュースです。
もちろん、政治家がその権力を利用して賄賂などを蓄財するのは、日本を含めて古今東西で見られる話ですが、隠れてこっそりやるのと、権力者として当然のこどく半ば公然と行うのでは、やはり民主主義に対する認識の差がそこにはあります。
前大統領一族の豪邸に関するニュースなど見るにつけ、どうしてそんな国民の犠牲の上で私腹を肥やすようなことができるのだろうかと、不思議な感じがします。民主主義云々以前に、政治というものに対する基本的な認識の差があるようにも思えます。
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フランス  極右政党・国民戦線新党首にルペン氏三女 「ソフトな極右戦略」展開

2011-01-18 20:22:36 | 国際情勢

(確かにテレビ映りが良いソフトなイメージです。こわもての極右イメージと彼女のソフトイメージがどのように融合するのか・・・  “flickr”より By Partisans de Marine Le Pen...
http://www.flickr.com/photos/45639822@N03/5007653679/ )

将来を恐れるフランス人
フランス人に対しては、どちらかと言えば快楽志向の楽観的なイメージを持っていましたが、必ずしもそうではないようです。
****世界で一番悲観的なのはフランス人、世論調査*****
フランスは世界有数の先進国で、治安も比較的良い国だ。だがフランス人たちは、世界で最も悲観的な国民であることが、BVAギャラップが3日発表した世論調査の結果で明らかになった。
BVAギャラップが53か国を対象に実施した調査によると、2011年に経済は悪化すると答えたフランス人は61%で、53か国平均の28%を大きく上回った。
さらに67%が、2011年の失業率は増加すると答え、74%の英国、72%のパキスタンに次ぐ悲観度の高さとなった。
2011年は前年よりも悪い年となると答えたフランス人は37%で、14%のアフガニスタン、12%のイラクよりも高かった。
世論調査の結果をうけ、評論家のドミニク・モワシ氏はいう。「フランス人は恐れている。現在は過去よりも良くはない。未来はさらに悪くなる。子どもたちの世代は、より厳しい時代に直面するだろう、とね」(中略)モワシ氏は、背景に病的な鬱(うつ)傾向があると指摘する。

■不況で中間層が悲観的に
モワシ氏は、日常的に生命の危険があるアフガニスタンやイラクの人々よりフランス人の方が悲観的になっているというBVAギャラップの調査結果には懐疑的だが、ある程度はそのような現実もあると考えている。モワシ氏ら何人かの評論家が複数の要因を挙げている。
フランスは社会保障が比較的、充実した国だったが、経済危機により国民が国に頼るのは難しくなっている。そこで、フランス国民は国に対し「反抗する一方で、より大きな保護を要求する」という「親に対する10代の子どものような」態度を取っているとモワシ氏は分析する。

実はフランス人が悲観的だという事実は目新しいものではない。フランスの抗うつ剤の消費量は欧州で最も多い。
失業率の上昇が彼らの悲観的傾向に拍車をかけている。その上ニコラ・サルコジ大統領が推し進める年金の支給開始年齢を2018年までに現行の60歳から62歳に引き上げる法案が議会を通過したことから、フランス全土で抗議運動が巻き起こった。
「フランス人は、精神的に疲れきっている」と語るフランス政府のオンブズマンを務めるジャンポール・デレボワイエ(Jean-Paul Delevoye)氏は語る。政府に対する市民の苦情調査の任に当たる同氏は、悲観的になっているのは主に中間層だとみている。仕事が不安定となるなかで、生活の質が低下していくと恐れているからだ。
「フランス人は元来、快楽好きな国民だ。今、社会が沈滞し、ささやかな個人的喜びが失われつつある」(デレボワイエ氏)【1月12日 AFP】
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経済的な危機感や移民の増加などを受けて、欧州社会において排外主義的な傾向が強まり、極右政党が各地で台頭していることは、これまでも何回か取り上げてきました。
フランスにおいても、イスラム教徒の女性の顔を含む全身をほぼ覆う衣装「ブルカ」や「ニカブ」を公共の場で着用することを事実上禁止する法案や、ロマの強制送還などに、その傾向がみてとれます。
悲観的な“現状への不満”“将来への恐れ”の矛先が、移民・イスラム教徒に向けられていると思われます。

極右政党・国民戦線の復調
昨年9~10月には、上記記事にもあるサルコジ政権の年金改革に対し、激しい抗議ストが繰り返し行われました。
こうした社会保障への不安は、“将来への恐れ”に拍車をかけます。
すでに、昨年3月に行われたフランス地域圏議会選挙(比例代表制)において、サルコジ政権の経済政策・失業対策には厳しい評価がなされています。

****サルコジ陣営惨敗、右翼政党に勢い 仏地域選第2回投票****
フランス地域圏議会選挙(比例代表制)の第2回投票が21日に行われ、右派与党の民衆運動連合(UMP)が社会党を軸とする左派連合に惨敗した。右翼政党・国民戦線は、UMPへの支持を取り込む形で勢力を拡大。失業対策を怠ったサルコジ政権への異議申し立てとみられ、政府は経済政策の練り直しを迫られる。(中略)
今回の選挙の傾向が2012年の大統領選に引き継がれる保証はないものの、過去10年で最高水準の失業率を改善できない政権への国民の不満が噴出しているのは明らかだ。

投票率は50%以下と地域圏議会選では最低水準にとどまった。これが固定票の多い国民戦線の追い風となり、候補を立てた12地域圏の平均推定得票率で17%を超えた。23%近い支持を集めたルペン党首は「サルコジ主義の崩壊」と今回の選挙を言い表し、支持層の年金生活者や貧困層への支援強化を訴えた。
一方、左派連合にとっては04年の前回選挙を上回る地滑り的勝利だった。社会党のオブリ党首は21日、「前例のない勝利」と歓迎。そして、サルコジ政権に対し、「抜本的な政策転換」を促した。
ただ今回の圧勝は、07年の大統領選以降、党内対立で求心力を失った社会党の復権というよりも、緑の党を軸として結党したばかりのヨーロッパ・エコロジーに支えられたとの見方が強い。(後略)【10年3月22日 朝日】
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極右政党・国民戦線は、80年代、保守層が多い東部や南部などで地盤を固め、90年後半から移民排斥を訴えて労働者が多い北部工業地帯で支持を広げました。02年の大統領選では党首ルペン氏が社会党候補を破り決選投票に進出しましたが、その後は党勢が低迷していました。
ここにきて、高い失業率への不満、国民の将来への不安、増加するイスラム・移民への不満を取り込む形で復調してきたようです。

三女、マリーヌ・ルペン氏 新党首へ
これまで約40年にわたりジャンマリ・ルペン党首(82)が率いてきましたが、高齢のため、後継党首が選任されました。後継党首には、ルペン党首の三女であるマリーヌ・ルペン副党首が選ばれ、メディア受けのいい柔らかいイメージもあって、12年大統領選挙に向けたその動向が注目を集めています。

****フランス:極右「国民戦線」党首にルペン氏三女****
フランスの極右政党「国民戦線」(FN)は16日、党大会を開き、党首を退いたジャンマリ・ルペン氏(82)の後任として同氏の三女、マリーヌ・ルペン副党首(42)を党首に選出した。72年設立の同党は移民排斥などを訴え、勢力を伸長。世論調査でマリーヌ氏は17%の支持率を獲得しており、同氏が打ち出す「ソフトな極右戦略」が、さらに支持を広げる可能性がでている。
投票でマリーヌ氏は、約68%の党員票を獲得。同氏は当選後の演説で「グローバリゼーションで(人の移動が進み)我々の文明が損なわれてしまう」と、間接的にイスラム教徒を中心とする仏への移民増加を非難した。
同氏は父のジャンマリ氏に比べ過激な表現を避ける傾向にあり、「女性なりのソフトさが支持者増大につながる」(仏紙)との指摘がある。だがこの一方で、最近では仏国内でイスラム教徒が行う野外の礼拝を大戦中のナチスの侵略に例え、批判された。同氏は今後の政治目標を来年の次期大統領選としている。

同党はジャンマリ前党首が設立。移民排斥のほか欧州連合(EU)からの脱退、死刑復活などを主張、02年の大統領選の第1回投票では前党首が第2位となった。党首退任の演説でジャンマリ前党首は「移民の増加で仏の統一が損なわれている」と主張、「信念」の変わらないことを見せた。前党首は今後、名誉党首となる。【1月17日 毎日】
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【「ソフトな極右戦略」】
「ナチスのユダヤ人迫害否定に固執する守旧派は時代錯誤だ」と言い、「イスラム系移民の排斥」ではなく、「フランス社会にふさわしいイスラムのあり方を」と呼びかけ「柔軟さ」を演出、イメージ刷新を訴えるマリーヌ氏に対して、大衆誌パリマッチの最新調査では33%が「好感を持つ」と回答。主要メディアの扱いも有力政治家並みとか。【12月23日、1月16日 読売より】 

****大統領選で台風の目か=ルペン氏三女が新党首―仏極右*****
フランスの極右政党・国民戦線(FN)は16日の党大会で、引退するジャンマリ・ルペン党首(82)の後任に、三女で欧州議会議員のマリーヌ・ルペン副党首(42)を選出した。マリーヌ氏は最近の世論調査で支持を伸ばしており、来年の大統領選で「台風の目」になるとの見方も出ている。
ジャンマリ氏は過去5回の大統領選に立候補。2002年には社会党候補を抑えて決選投票に進み、欧州政界に衝撃を与えた。
14日発売のマリアンヌ誌に掲載された世論調査では、18%が大統領選の第1回投票でマリーヌ氏に投票すると回答。社会党候補と目されるストロスカーン元財務相の30%、再選を目指すサルコジ大統領の25%に次ぐ3位に入った。【1月16日 時事】
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現在ところ、“大統領選を勝ち抜くには十分な数字ではないが、中道右派のサルコジ氏にとっては、票田を脅かす大きな脅威となってくる”【1月17日 AFP】といった位置付けですが、今後、マリーヌ氏が打ち出す「ソフトな極右戦略」が、さらに支持を広げる可能性がでているとも。

それにしても、「ソフトな極右戦略」とはどんなものでしょうか?その実態がよくわかりません。

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スーダン南部 分離独立へ向けて ②山積する課題

2011-01-17 21:07:35 | 国際情勢

(08年、帰属問題解決のロードマップに沿ってアビエイ地区から撤退する南部SPLA兵士 アビエイ地区の問題、SPLA兵士の社会復帰は今後の大きな課題です。 “”より By La Salle International
http://www.flickr.com/photos/lsif/4454851579/ )

国際援助・石油権益の誘惑
昨日のブログ「スーダン南部 分離独立へ向けて ①独立容認の流れ加速(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110116)」では、スーダン南部の分離独立が現実のものとなりつつある環境をとりあげましたが、そうなると今度は「独立して本当にうまくやっていけるのだろうか?」という不安も頭をもたげます。

今後のスーダン南部にとって最も基本的な課題は、殆んどインフラが整備されていない現状から国づくりを進めていくだけの統治能力を示せるか?という点にあります。
国際援助と石油資源に依存した状況は、往々にして政権内部の汚職・腐敗を生みます。
そうした権力に伴う魔力に惑わされることなく、国民の期待に応えていけるか・・・という、政治の姿勢ともいうべき基本的な問題です。
この点に関しては、10年11月11日ブログ「スーダン 南部独立への動きにみる“国際開発援助の限界”( http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101111)」でも取り上げましたので、ここではこの点の指摘のみにとどめます。

棚上げされたアビエイ地区帰属問題
南部独立に向けて、あるいは独立後に、まっさきに直面するのは北部との関係です。
今回の住民投票にあたって、南北境界にある油田地帯アビエイ地区の帰属については棚上げされ、今後の課題とされています。

現在アビエイ地区は大統領府直轄の特別行政区とされ、その治安は国連軍とスーダン北部、南部の特別合同部隊が担っており、北部政府軍と南部自治政府軍の立ち入りは禁止されています。
アビエイ地区の石油産出は2004年のピーク時には日量8万2千バレルを誇り、スーダン全体の産出量の約4分の1を占めています。
現在は、収入はいったん北部にある中央政府に入り、特別行政区は2%が還元される仕組みですが、南部への帰属が決まれば、中央政府は恩恵を受けられなくなる可能性があります。
住民投票期間中も武力衝突が起こり、今後が懸念されています。

****スーダン:南北境界付近で武力衝突 30人以上死亡*****
南部の分離独立を問う住民投票が実施されているアフリカ・スーダンで、南北境界付近に位置する油田地帯アビエイ地区周辺で7日以降、断続的に武力衝突が発生。11日までに30人以上が死亡、一部地域で住民投票が一時中断された。北部のアラブ系遊牧民と南部のアフリカ系農耕民との戦闘とみられる。帰属が未確定の油田地帯を巡り、南北間でなお確執があり、南部の独立に足かせになっていることを改めて見せつけた。

地元メディアなどによると、境界北側にある南コルドファン州と南側にある北バハルアルガザル州の境で10日、南部の住民らが車で投票に向かう途中、アラブ系遊牧民ミッセリアの武装集団に襲撃された。市民10人が死亡、18人が負傷した。
南部自治政府は武装集団の背後に北部・中央政府軍の支援があるとの見方を示す一方、住民投票を平和裏に履行するため「北部側の挑発に乗らないように」と自制を促した。
さらに、周辺では7、8日にも衝突が発生。この影響で一部地域で9日の投票が停止された。投票延長も検討されている。

北部を拠点に同地区に南下し、家畜の放牧を続けてきたミッセリアの投票権を巡り、北部・中央政府は有効と主張。一方、南部自治政府を主導するディンカ人主体の「スーダン人民解放運動」は「和平合意でアビエイはディンカの領域と規定された」「遊牧民を住民とは規定できない」などの理由で投票権を認めず、議論が暗礁に乗り上げている。

05年の「包括和平合意」では、南部の分離を問う住民投票とは別に、アビエイ地区で、南北いずれかへの帰属を問う住民投票を同時に実施する予定だったが、棚上げ状態だ。
米国務省高官らは11日、ワシントンで、住民投票の結果を北部が受け入れたうえで、アビエイ地区の帰属問題解決▽テロ支援の停止--などが満たされれば、テロ支援国家指定解除を行うという従来の方針を強調。北部に圧力をかけた。(後略)【1月12日 毎日】
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定住農耕するアフリカ系黒人には「自分たちの土地だ」という思いがありますが、北部アラブ系遊牧民のミッセリアの立場からすれば、南部に編入されると土地を奪われ、報復をを受けるという思いがあります。
****スーダン南部編入なら「武力抵抗」 焦点の中部アビエ、アラブ系遊牧部族****
現在、スーダンの首都ハルツームに生活拠点を置くバボニミル氏は「ミッセリアは1年のうち約8カ月をアビエ付近で遊牧する。有権者となるのは当然だ」と語る。約100万人のミッセリアに投票資格が与えられれば南部編入派の定住民を上回るのは確実という。
バボニミル氏は南部編入について「(内戦中に敵対した)SPLMの報復があるのは間違いなく、受け入れられない」と不信感をあらわにする。その上で「問題は石油ではなく土地を奪われるかどうか。戦う準備はできている」と強調。「そうなれば北部の政府軍はわれわれを支援するだろう」と、南北の本格対立につながる可能性を示唆した。ミッセリアの装備については、内戦中からの蓄えや「SPLMの横流しで入ってくる武器もある」と証言した。【1月11日 産経】
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住民投票を前にして、“中央政府は最近、アビエイの開発資金の送金も停止。住民は南部に合流する動きへの嫌がらせと疑っており、対立の構図が続く”【1月11日 朝日】という話もありますが、一方で、“南部自治政府は警察官の制服を着せた兵士をアビエイに送り込み、ミッセリアの戦闘員と衝突を起こしているという” 【1月11日 AFP】という情報もあり、南北双方が働きかけを行っているようです。

南部内部にくすぶる火種
独立後の南部内部の安定性にも懸念があります。
ひとつは、これまで銃を手に戦いの日々を送ってきた兵士をどのように武装解除して、定職につかせるかという問題です。
****武装解除進まず=兵士ら不安定要因に―スーダン南部****
スーダン南北内戦を終結に導いた2005年の包括和平合意に盛られた武装解除が停滞している。15日まで続く南部独立の是非を問う住民投票に沸く中、最大都市ジュバ郊外の軍事キャンプでは、武装した兵士たちが「和平が確実に訪れたとは言い切れない」と厳しい表情を崩さない。半年後にも独立が実現する見通しだが、武装解除の問題は大きな不安定要因となりそうだ。
和平合意では、南北双方9万人ずつの兵士を削減することが決められ、兵士が市民生活を始めるため、教育や職業訓練を受けた後に社会復帰する計画だった。しかし、南部自治政府関係者によれば、こうした教育や訓練を受けている南部の旧反政府勢力スーダン人民解放軍(SPLA)兵士の数は約1万人にすぎない。まだ約400人が社会復帰しただけだ。
兵士の削減が進まない背景には、「独立国家が樹立され、安定するまで予断はできない」と戦闘再燃を警戒する軍指導部の判断もあるもようだ。【1月13日 時事】
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今後のインフラ整備などに大量の資金が必要となる南部にとり、民兵を含むと数十万人とされるSPLA兵士の給与は大きな負担になります。雇用がないため社会復帰も難しく、過去には給与への不満から暴動が起きたこともあります。

更に、問題を難しくしているのは、南部における部族問題です。
“南部にはSPLM主流派のディンカ人のほか、ヌエル人、シュルク人など数十の黒人系民族がおり、それぞれに独自の言語や文化を持つ。内戦中は同じSPLMに属しながらも、分裂や衝突を繰り返した” 【1月11日 産経】という状況で、北部という南部住民にとっての「共通の敵」を失ったことによる問題が表面化する恐れがあります。

****独立歓喜、対立の火種も=最大部族の支配に不満―スーダン南部*****
・・・・北部への隷属からの解放や、半年後にも実現する独立を前に、南部は歓喜に沸いている。だが、その陰で2005年の和平合意後、最大部族ディンカ族による支配が強まった。少数派からは「新たな支配の始まり」との声も出ており、新たな内戦の火種がくすぶっている。(中略)
南部の中にも対立の構図は存在する。部族数は40を超え、09年には部族間抗争で2500人以上が死亡した。解放闘争を主導したディンカ族が、キール大統領を筆頭に南部自治政府や治安機関の要職を占める中、少数派からは公的機関での雇用や、住民サービスをめぐる差別的な扱いに不満も出ている。
ウガンダ国境近くの南端に住む少数部族出身のヨブ・アネットさん(26)は「どうして新たな支配のために独立に投票しなければならないのか」との思いから棄権した。
地元紙ジュバ・ポストの編集者によれば、南北統一維持に票を投じた人が、投票所で治安機関に連行されたとの情報がある。内戦の論功行賞による能力無視の人選や、ディンカ族による縁故人事も目立っており、同紙がある閣僚の不正を紙面で批判したところ、武装した護衛を伴う閣僚が編集局に殴り込んできたこともあるという。【1月12日 時事】
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社会復帰に期待できない多数の兵士が、こうした南部内部の対立・混乱に乗じる形で、再び戦闘の日々を選択する可能性もあります。

イスラム化推進の北部での問題
南部を失う形の北部側にも課題があります。
バシル大統領は、求心力確保のため、北部のイスラム化を一層推し進める構えをみせていますが、この動きは北部の非イスラム教徒からの反発を強めることにもなります。

****スーダン北部、イスラム化の波 南部の独立濃厚、焦る大統領****
スーダン南部の独立が現実味を増す中、領土維持の失敗という「屈辱」を味わっている同国のバシル大統領が、求心力確保のため、北部のイスラム化を一層推し進める構えをみせている。非イスラム教徒からの反発は大きく、政権の出方次第では北部が再び不安定化する懸念もある。国際社会が今後、どうバシル政権に穏健化を促していくかが、同国安定の鍵を握る。

バシル氏は昨年12月の演説で、住民投票で南部が独立を選んだ場合、憲法を改正し北部で施行されているイスラム法(シャリーア)を強化する考えを示した。(中略)
独立に向けた南部の自決権を容認したことは、「南部をイスラム共同体(ウンマ)の一部とみなすイスラム主義者からすれば裏切り行為」(外交筋)とされた。バシル氏にとっては大幅な譲歩だったが、米国などによる経済制裁は緩和されず、経済が一向に上向かないことへの国民の不満も強まっている。
バシル氏の「シャリーア強化」発言からは、北部社会に強い影響力を持つイスラム主義勢力の歓心を買い、権力基盤を盤石にしたいとの焦りがにじむ。

これに対し周辺諸国は、シャリーア強化が実行に移されれば、紅海に面した戦略的要衝に位置するスーダンの情勢不安を招くと危機感を募らせている。アラブ系イスラム教徒中心の北部にも非イスラム教徒は少なくない上、内戦中にバシル政権側と戦った黒人系民族が多い青ナイル州や南コルドファン州なども抱えるためだ。
隣国エジプトのスーダン専門家は「こうした地域がイスラム化に反発するのは確実。20年余に及んだ内戦の二の舞いにもなりかねない」と指摘する。(後略)【1月12日 産経】
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また、北部には多数の南部出身者も暮らしています。
北部で働く南部出身者の仕事は清掃業や建設業が多く、大半が首都ハルツーム郊外の三つのキャンプで暮らしています。
今回の住民投票を機に、これまでの生活を捨てて南部に帰還する人々も多いようです。南部での新たな生活は大変ですが、北部に残る人々も“外国人”としてのこれまで以上に厳しい新たな試練に直面します。

住民の期待に応えるために
分離独立の将来に期待が高まるスーダン南部ですが、以上のような問題は山積しています。
****水も電気も教育もない」=独立に希望託す寒村―スーダン南部****
スーダン南部独立の是非を問う15日までの住民投票は、独立支持が大半を占めるもようだ。最大都市ジュバから約20キロ離れたニシジュ村の住民も、独立により南北内戦終結が確実となり、水や電気などの住民サービスの到来を待ち望んでいた。
「水も電気も十分な教育も、医者もいない」―。村の投票所で独立賛成に投じたアシリア・ムーイさん(50)は、長年の内戦に苦しめられた人生にもついに幸福の時がやってきたと喜びをかみしめた。しかし、積年の生活苦から今や視力をほとんど失い、足取りもおぼつかない。
ジュバからの道のりは、南部最大の貿易相手国ウガンダとの幹線道路に当たるが、未舗装の悪路が続き、電線や水道施設などの生活基盤もない。村の住民は泥や植物で建てた質素な家に住み、家財道具らしきものはほとんどなく、硬い土の床に寝転がる生活だ。
村には、わずか1カ所の井戸があるだけ。人々はほそぼそとした農業やまきを路上で売って生計を立てている。肌を焦がすような太陽の下、ある母親は疲れた様子で寝転がり、子供たちは木陰で過ごしていた。【1月12日 時事】 
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こうした南部住民の切実な期待に応えていくために、南部指導者には、一過性の熱狂・興奮ではなく、長く地道な努力が求められています。
そして、南北間あるいは南部内部の紛争を避け、安定と平和を維持することが最優先です。


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スーダン南部  分離独立へ向けて ①独立容認の流れ加速

2011-01-16 19:32:11 | 国際情勢

(投票を待つスーダン南部の住民 「私たちは尊厳を守るために投票している」と語っています。
“flickr”より By Oxfam International http://www.flickr.com/photos/oxfam/5342203907/ )

オバマ大統領:投票終了後の課題の解決にも「全面的に関与」する
【スーダン南部の分離独立を問う住民投票は15日に締め切られました。
投票は南部各地で概ね順調に実施され、監視団関係者は「公正に実施された」と語っています。
投票管理委員会の報道官によれば、投票率は投票成立の条件に定められる60%に達しています。
3、4日中にも大勢が判明する見込みですが、結果は分離独立支持が圧倒的多数となると推測されており、半年後にもアフリカ第54番目の新国家が誕生する見通しです。

投票実施までは、「バシル大統領・中央政府が南部独立につながる投票を実施するだろうか?」と否定的にも見ていたのですが、投票は実際に行われ、北部主導の中央政府を率いるバシル大統領は投票前、南部が独立を選択した場合、結果を受け入れる方針を示しています。

こうしたバシル大統領の柔軟姿勢の背景には、ブッシュ前政権が主導した05年の包括和平合意の総仕上げともいえる南部の分離独立の住民投票を何としても成功させたいアメリカ・オバマ政権の強い後押しがあるように見えます。
****米大統領:スーダン南部分離独立 投票後も積極関与を約束*****
アフリカ・スーダン南部の分離独立の是非を問う住民投票が始まったことを受け、オバマ米大統領は9日に声明を出し、投票終了後の課題の解決にも「全面的に関与」する意向を示した。国境画定や石油資源の利益分配など、対応を誤れば、内戦に逆戻りしかねない火種を多く抱えているためだ。投票結果を平和的に実現できるか、オバマ政権の指導力が試されている。
大統領は8日付米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)への寄稿でも、スーダン指導部が投票結果を順守し、平和を選択すれば、経済制裁解除や、テロ支援国家指定解除の手続き開始を含む「米国との関係正常化の道がある」と改めて呼び掛けた。そうでなければ、「更なる圧力と孤立化」があると警告した。(中略)
約200万人の死者を出した南北内戦を終結に導いたのは、米国のブッシュ前政権が主導した05年の包括和平合意だ。その総仕上げともいえる南部の分離独立の住民投票を巡る混乱を許せば、オバマ政権の指導力低下は計り知れない。
さらに、オバマ政権には「ルワンダ大虐殺の再現を許すことは避けたい」という考えがあるとも指摘される。(中略)当時のクリントン米大統領は、地域紛争に米国が巻き込まれるのを避けるために不介入の立場をとった。クリントン氏はそのため、米国内や国際社会から「適切な対応を取らなかった」と批判された。【1月10日 毎日】
******************************

バシル大統領:「全債務は北部が負うべきもので南部ではない」】
アメリカは住民投票の実施成功のために「南部だけなくスーダン全体を支援する」と北部も支える意向を示しており、国際孤立に悩むバシル大統領・中央政府はアメリカの意に沿って南部の独立を容認し、経済制裁解除や債務軽減などでアメリカの援助を得る狙いもあるとも指摘されています。

****スーダン:南部独立容易に 大統領「対外債務は北が返済*****
スーダン北部・中央政府のバシル大統領は、スーダンが抱える約380億ドル(約3兆1000億円)にのぼる対外債務について、南部が分離独立した場合も「(北部が)引き継ぐ」との考えを示した。15日まで行われている南部の独立を問う住民投票では、石油利益の南北配分などと並び、債務処理が焦点の一つだった。これで、南部独立へのハードルが一段と低くなったと言える。
スーダンで投票監視活動を行っているカーター元米大統領がバシル大統領と会談、10日にその内容を米CNNに明らかにした。それによると、バシル大統領は「全債務は北部が負うべきもので南部ではない」と述べた。カーター氏は「これで南部は負債のない財務状況でスタートできる」と述べた。

南部は活発な民間投資で成長をとげているものの、油田は南北境界線上にあって帰属が未確定で、南部自治政府の歳入は潤沢とはいえない。このまま7月に独立が達成されても、巨額の債務があれば国家運営に支障をきたすと懸念されていた。
中央政府は南部との内戦や反政府勢力との和平協定実現が長引く西部ダルフール紛争で、多額の費用を軍事・治安面に投入。その結果、債務が膨らみ、財政状況が逼迫(ひっぱく)。1月に入り、ガソリンなどの燃料や砂糖の値上げを決定し、閣僚級幹部の給与削減なども発表していた。
ダルフール紛争を巡り欧米の経済制裁が続く中で、中央政府は国際機関などに援助を求めるのも難しく債務膨張に歯止めをかけられない状況だ。

バシル大統領側は、米政府が住民投票の実施成功を条件に「南部だけなくスーダン全体を支援する」と北部も支える意向を示していることを重視。米国の意に沿って南部の独立を容認し、負債問題でも柔軟な姿勢を見せることで、債務軽減などで米国の援助を得る狙いもありそうだ。
国際社会も債務問題を重視しており、日本は05年の南北和平合意の定着・進展を理由に08年3月、対日債務の一部約31億6500万円を免除する方針を発表。09年7月にスーダン政府との間で合意している。【1月11日 毎日】
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中国も方針変更 安保理で生まれた奇妙な協調ムード
南部独立を支援するアメリカの本音として、南部に豊富に存在する石油の利権確保があるとも思われますが、21世紀ですので“権益確保”だけでもないでしょう。
なお、石油利権のためにスーダンへの影響力を増していた利権重視の中国は、ここにきて南部独立不可避という流れから、油田地帯を抱える南部との関係構築を目指して、南部独立容認へと方針を転換させています。

****安保理「平和的実行を」 スーダン住民投票 中国“譲歩”で声明****
スーダン南部の分離独立の是非を問う住民投票の開始を9日に控え、国連安保理は6日、投票の平和的な実行を求める報道向け声明を出した。南部寄りの欧米と北部に拠点を置く中央政府寄りの中国の対立という構図が消えてしまったかのような声明は、住民投票を前に安保理で生まれた奇妙な協調ムードを象徴している。背景にあるのは、中国の急激な姿勢変化だ。(中略)

少なくとも昨年初めごろまでは、中国は人権問題などで欧米からの批判を浴びるスーダン中央政府との関係を堅持し、南部独立に懸念を示す姿勢を崩していなかった。台湾、チベットなどの独立を容認しないとの立場を貫く中国は、2008年にジュバに総領事館を開設したものの、控えめな活動にとどまっていた。
だが、独立の動きは止められないとの見方が加速する中で、80%の石油資源が集中するとされる南部との関係構築に失敗すれば、権益を大きく損なう結果にもなりかねない。
こうした中国の姿勢が、繰り返しスーダン住民投票の平和的な実行と、その有効性を強調してきた欧米諸国と一致。国連安保理には一見奇妙にさえ映る「協調」さえ生まれている。
ただし、中部の油田地帯アビエの帰属をはじめ、衝突の火種になりかねない難問は軒並み先送りされた。各国の思惑は、むしろ不透明さを増している。【1月8日 産経】
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以上のように、アメリカを中心として、バシル政権や中国をも含めて南部独立容認へと流れは加速しています。
もちろん、今回棚上げされた南北境界にある油田地帯アビエイ地区の帰属問題など火種は多く、バシル大統領がすんなり南部独立を承認するかはいまだ不透明です。

【「なぜスーダン南部はいいのか」】
しかし、分離独立を求める声はなにも南部スーダンだけでなく、アフリカ各地、世界各地にあります。
現行の秩序維持を重視する国際社会は、一般的には分離独立の動きには冷淡です。
「なぜスーダン南部はいいのか」・・・・という思いが、各地にあるとも指摘されており、スーダン南部独立は“パンドラの箱”を開ける結果になると危惧する声もあります。

****紛争 国境線にも遠因が*****
植民地支配からアフリカ17力国が独立した1960年は、「アフリカの年」と呼ばれる。
前後して独立した国々と同様に、植民地を支配する側の利害に基づいて引かれた国境線を踏襲した。そこに住民の民族や言語、宗教、文化といった実情は反映されていない。このため、国の枠祖みは今もきしみ続け、各地で紛争が絶えない。

アフリカ諸国でつくるアフリカ連合(AU)は、独立時の国境を変えないことを原則としている。国土の分割は最大の主権と利害問題だからだ。93年にエチオピアから分離・独立したエリトリアが誕生。スーダン南部はそれに続く予定だが、独立が国際社会に認められるのは異例だ。
「どの国も独立を認めてくれない。なぜスーダン南部はいいのか」。ソマリア北西部ソマリランド地域の政治指導者ファイサル・ワラベ氏は今月、朝日新聞の取材に不満をあらわにした。
ソマリアは91年から無政府状態が続く破綻国家。武装勢力が割拠し、沿岸では海賊が暗躍する。ソマリランドは同年、一方的に独立を宣言、民主的な選挙を経験し、治安も安定している。だが、国際社会は国として認めようとしない。
モロッコが領有権を主張する西サハラや、アンゴラの飛び他領カビンダ、エチオピアのオガデン地方でも、分離・独立を求める動きがあるが、欧米などの関心は低い。
コートジボワールは02~03年の南北内戦後、国土の分断状態が続く。昨年11月の大統領選をめぐる混乱で、二つの政権が併存する異常事態を据いている。        
ナイジェリアも、かつては独立運動をめぐるビアフラ内戦を経験し、今も宗教をめぐって住民対立が激しい。4月に大統報道を控え、緊張が高まっている。

スーダン国連大使のオスマニン氏は7日、禁断の箱を開けたために世界中に災厄が広がったというギリシヤ神話に、南部の動きをなぞらえた。
「アフリカのパンドラの箱になる。民族や宗教、経済を原因とした紛争の火種があるのに、なぜアフリカの深刻な自傷行為を支援するのか」
長引いた内戦の打開策として、国際社会はスーダン南部独立の動きを例外扱いし、是認している。だが、連鎖を招きかねない、似たような事情をアフリカの多くの国は抱えている。【1月10日 朝日】
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「なぜあそこはいいのか?」という不満、“パンドラの箱”云々の懸念はコソボ独立でも見られた問題です。
南部スーダンの場合、独立の相手がダルフール紛争で人道責任を問われ、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状も出ているバシル大統領であること、アラブ系イスラム教徒の北部に対して、キリスト教徒が多いアフリカ系黒人の南部という対立の構図が欧米社会にとって受け入れやすいものであること、石油利権も絡むこと・・・など、分離独立容認に都合がよかった面があります。

確かに特定地域だけに独立を認めるのはダブルスタンダードには違いありません。
そうは言っても、すべての分離独立を支援・容認するとなれば、現実問題として現行国際秩序は危機的な状況となります。
一概に答えが出せない問題です。

ダルフールへの影響
スーダン南部独立がアフリカ・世界各地の分離独立を求める動きにどれだけ実際に影響するかはともかく、スーダン内部の他の紛争地帯、特に西部ダルフールには影響するでしょう。
****ダルフールの内戦激化を懸念 岡崎彰・一橋大学大学院教授*****
・・・・多様な地域住民が法治国家のもとで中央政府と交渉し、権力・資源の分配を実現する民主化過程が今日の国際社会では基本の考えだ。スーダン南部の独立は時代に逆行するように見えるが、これは同国固有の問題から来るもので、直ちにアフリカ各地で独立国家が続出する事態につながるとは考えにくい。
ただ、分離・独立の動きはスーダン各地に波及する恐れがある。信仰や言論の自由を認め、天然資源や権力の分配を可能にすることが重要だが、北部の中央政府は多様性を拒否する方向に向かっている。このままでは西部ダルフールなど各地で内戦が激化する可能性がある。(聞き手・山本大輔)【1月10日 朝日】
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ダルフールの反政府勢力は「自分たちも」と考えるでしょうし、北部の中央政府は、南部との複雑な交渉を進めるうえでも、また分離後の体制引き締めのためにもダルフールでの圧力を強めることが予想されます。

長くなったので、今後の課題については明日以降に取り上げます。
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アメリカ  進まない銃規制議論の現実

2011-01-15 17:51:12 | 世相

(イギリスの著名な写真家Zed Nelsonが写した銃社会アメリカ “flickr”より By dansinch
http://www.flickr.com/photos/dansinch/3598173582/ )

1日約80人が銃が原因で死亡
アメリカ・アリゾナ州で今月8日に起きた、民主党のガブリエル・ギフォーズ下院議員ら20人が死傷した銃乱射事件をめぐり、“銃社会”アメリカでも銃規制強化の議論はあるようですが、逆に銃保有が進む動きなどもあって、“銃社会”の変革は難しいのが現実のようです。

下記記事は、1月10日ブログ「アメリカ  民主党穏健派下院議員へのテロ 「分断と憎悪」の果ての悲劇(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110110)」でも取り上げたものですが、アメリカでは1日約80人が銃が原因で死亡しているとか。

****進まぬ銃規制 9000万人が所持、自己防衛…個人の権利****
米国では銃乱射事件が起こるたびに銃規制を求める声がある一方、なかなか規制が進まない。銃の所持は自己防衛を目的とした個人の権利だとする建国以来の国民意識が背景にある。
米合衆国憲法修正2条は「規律ある民兵は自由な国家の安全にとり必要であり、国民が武器を保有、携帯する権利を侵してはならない」と規定している。ロイター通信などによると、米国では現在、約9千万人が銃を所持し、約2億丁の銃が出回っている。1日約80人が銃が原因で死亡し、このうち半数近くが殺人事件とされる。
1980年代から銃規制論議が高まりをみせたが、銃所持の権利を擁護する有力ロビー団体、全米ライフル協会(NRA)が規制に反対してきた。昨年6月、米連邦最高裁は拳銃所持を禁止したシカゴ市の条例を違憲とし、論議を呼んだ。【1月10日 産経】
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昨年6月に米連邦最高裁が、自宅での銃所持を事実上禁じるシカゴ市の条例を違憲した件については、判決直後にシカゴ議会は対抗措置として、銃所持者が銃を携帯して自宅家屋から外に出ることを禁じる新条例を全会一致で可決しています。
新条例では、シカゴ市内での銃器店営業を禁止。銃所持者が自宅家屋の外の庭や車庫などに銃を持って出ることを禁じています。また、銃を1丁登録する度に15ドル(約1300円)、3年ごとの免許更新に100ドルの支払いも義務付けています。【10年7月4日 毎日より】

全米で2番目に「緩い州」】
事件直後の世論調査では、「銃規制を強化すべきだ」と回答した米市民は47%と依然低く、銃規制強化が進展しそうにない状況を示しています。
****米国:銃規制論議高まる アリゾナ州乱射事件で*****
米アリゾナ州で米下院議員を狙った8日の銃乱射事件を受けて、米メディアやインターネット上で銃規制の是非を問う声が高まっている。しかし、銃を持つことが憲法上の権利とされる米国で、規制強化が実際に進むかどうかは不透明だ。

ジャレド・ロフナー容疑者(22)は昨年11月、半自動式拳銃を銃器店で購入し、少なくとも31発を続けざまに発射し一気に20人を死傷させた。弾倉の交換時に周囲の人に取り押さえられており、弾倉に込められた弾数が少なければ、犠牲者は少なかったはずだとみられている。
このため銃規制推進派の複数の上院、下院議員らは、事件で使われたのと同じタイプの大容量弾倉の販売を禁止する法案の作成を始めた。ほかにも国会議員や政府職員の近くで銃を携帯することを禁じる法案が検討されている。
事件のあったアリゾナ州は銃規制緩和の方向に進み、昨年、21歳以上の成人が許可なく銃を隠し持って携帯することを認める法律を成立させた。どこでも誰でも銃が持てる状態に近く、事件を捜査する同州ピマ郡の保安官は「新法が事件の一因となった」と指摘する。
81年のレーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけに銃規制強化法が成立したが、州ごとに規制の厳しさは異なり、銃規制推進団体はアリゾナ州をユタ州に次いで全米で2番目に「緩い州」と位置づけている。アリゾナ州議会には昨年の新法に加え、大学構内で教授や学生が銃を携帯できるようにする法案も提出されている。

銃規制に積極的な民主党に対し、反対する共和党というのが米国の基本的な構図だが、米国では銃を持つことは憲法上の権利。銃撃された民主党中道派のギフォーズ下院議員自身、銃所持の範囲を広げたアリゾナ州の新法に賛成していた。また、事件直後の米CBSテレビの世論調査では、「銃規制を強化すべきだ」と回答した米市民は47%と依然低く、世論が割れていることを示した。【1月12日 毎日】
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容疑者が使用した銃の売り上げが伸びる
乱射事件後、アリゾナ州など複数の州で拳銃の販売数が急増していることも報じられています。
****議員銃撃、容疑者使用の半自動ガン売り上げ伸長*****
米民主党下院議員らが銃撃されたアリゾナ州での乱射事件後、同州など複数の州で拳銃の販売数が急増していることが、連邦捜査局(FBI)の調査で明らかになった。
事件を機に自らの手で身を守る意識が高まっているためとみられ、銃が米社会に深く根ざす現実を浮き彫りにした格好だ。
FBIによると、8日の事件発生から2日後となる10日の、アリゾナ州での1日あたりの拳銃の販売数は前年比60%増の263丁。他州ではオハイオ州で65%増の395丁、イリノイ州は38%増の348丁、ニューヨーク州でも33%増の206丁が売れた。全米では、5%増の7906丁が販売された。
アリゾナ州からの報道によると、州内で最も売れたのは、乱射事件の容疑者が使用したオーストリア製のグロック19型半自動拳銃だった。【1月14日 読売】
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事件容疑者が使用した銃が売り上げを伸ばす・・・というのは、日本的な感覚では納得し難いものがあります。
「銃を手にして乱射事件を引き起こすイカれた奴らに立ち向かうためには、こっちもますます銃を増やして彼らを止めなければならい」という考えが、銃保有を進めています。

【「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」という狂気
また、犯人を取り押さえるのに協力した銃を保持した男性の“勇敢な”行動が、こうした銃所有を肯定する立場を勢いづかせているとも報じられていますが、その行動は無関係の人間に発砲しかねない相当に危ういものだったようです。

****銃乱射で勢いづく銃支持派の狂った論理*****
アリゾナ州トゥーソン郊外で起きた銃乱射事件の教訓を生かし、アメリカは銃規制を厳格化すべきだろうか──まさか!
個人が銃器を持つ権利を保障した憲法修正第2条を支持する人々は、銃乱射事件をそんなふうには捉えていない。銃を手にして乱射事件を引き起こすイカれた奴らに立ち向かうためには、こっちもますます銃を増やして彼らを止めなければならい、というわけだ。
91年にテキサス州キリーンのレストランで発生した銃乱射事件では、23人が死亡。店の客の1人は銃を持ち合わせていたものの、「馬鹿げた法規制のせいで」店内に持ち込めず、外の車に置きっぱなしになっていた。
バージニア工科大学での07年の銃乱射事件では、32人が死亡。学内に銃を持ち込んではいけないという大学の「バカ正直な」決まりのせいで、教室にいた学生たちの誰1人として銃を所持していなかったからだ。銃さえあれば命が救えたのに・・・という理屈らしい。
この考え方で今回の乱射事件を見たとき、銃支持派は何と言うだろうか。「もっと銃を導入せよ」と言うに違いない。
アリゾナ州は既に、許可がなくても銃器を隠して持ち歩くことを認めている。州議会はこの権利を強化するためさらに2つの法案を検討しているし、アリゾナの市民団体は政治家やスタッフに銃器の取り扱い訓練を提供する州法を制定しようと活動を始めている。

全員が銃を持てば誰も死なずにすむ
彼らはそれを、今回の事件で重体に陥ったガブリエル・ギフォーズ議員と亡くなった側近の名をとってギフォーズ・ジマーマン法と呼んでいる。「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」と、銃支持派の同州議員は言う。アリゾナ以外の州でも、少なくとも2人の連邦議会議員は、自らの選挙区に出向くときに銃を携帯するだろうと発言している。
この議論の広告塔として突如躍り出たのが、ジョー・ザムディオ――今回の銃乱射事件の「英雄」だ。ザムディオは事件が起きたとき近くのドラッグストアに居合わせた。彼はたまたま拳銃を所持していた。
彼は事件現場に駆けつけ、犯人を取り押さえるのに協力。テレビは彼の勇気を称え、銃支持派のブログは彼の英雄的行為は銃を所持していたからこそ可能だったと書きたてた。「持っていた銃が僕の背中を押してくれた」と、ウォールストリート・ジャーナル紙は見出しにうたっている。
ザムディオは勇敢な行動を取った、だから銃を所持することは正しい――銃支持派はそう主張するだろうが、彼らの意見を受け入れる前に、この一件の全貌を知っておく必要がありそうだ。
ザムディオがワイドショーで語ったところでは、彼は上着のポケットに入れた銃に手をかけながら現場に向かい、銃を持った男を見つけて「銃を置け!」と叫んだ。だがその男性は、犯人と格闘して銃を取り上げた人物だったのだ。「もし撃っていたら、大変な間違いを犯すところだったね」と記者に指摘され、ザムディオはうなずいた。「僕はとても幸運だった。ものの数秒で決断しなければならなかった」
さらに銃の訓練を受けたことがあるのかと問われ、ザムディオはこう答えた。「幼い頃に父に拳銃を与えられて育ったから、銃の扱いは慣れている。軍隊やプロのトレーニングを受けたことはない」

訓練された兵士でも誤射は起こる
これは、一般に報道されているよりもずっと危険な話だ。ザムディオは拳銃の安全装置を外し、銃を持った犯人と思われる人物を見かけたら発砲するつもりだった。彼が銃を撃つかどうか判断するまで一瞬しかなかったのだ。彼は銃を持っていた男性を犯人だと確信して壁に押し付けたが、発砲は思い止まった。罪のない人を撃ち殺すまで、ほんの紙一重だったわけだ。
銃を持って殺人の事件現場に駆けつける人には、誰にでも起こりうることだ。混乱と緊張の中で、間違った相手を撃ってしまう可能性だってある。あるいは、現場で自分の銃を取り出したために、自分が犯人と間違われる可能性もある。
バーン! 一発で終わりだ。運が悪ければ、銃を持った罪のない人々の間で銃撃戦が起こり、バンバンバンバンバン!になるかもしれない。それは、訓練を積んだ兵士の間でも起こりうる事態だ。一般市民では、その危険はずっと大きくなる。
正式な訓練を受けたことのないザムディオが、瞬時に正しい判断を下せたのは、本当に運が良かったとしか言いようがない。次の銃乱射事件のときにも同じようにいくとは限らない。
今回の事件を受けて、アリゾナ州が議員やスタッフを対象に、銃器の正しい取り扱い方を指導する訓練を行うことを期待する。彼らが選挙区の会合の場に銃を携帯して出席するつもりだとしたら、その時にはこの訓練を思い出してほしい。だがさらに言うならば、そもそも彼らが銃を持ち歩かないことを望みたい。【1月12日 Newsweek】 
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「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」・・・・“銃依存症”とも思える狂った議論です。
西部劇のヒーローのように、自分が悪漢をバタバタと撃ち倒せるとでも思っているのでしょうか。
皆がポケットの中で引き金に指をかけて、びくびくしながら周囲の他人を窺う・・・そんな社会を望んでいるのでしょうか。

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パキスタン  アメリカとの“危うい同盟”ますます脆弱化

2011-01-14 21:15:24 | 国際情勢

(説明がないので定かではありませんが、恐らく1月4日に暗殺されたパンジャブ州のサルマン・タシール知事の殺害犯人を支持・褒めたたえるパキスタン人ではないでしょうか  “flickr”より By umair azhar khan
http://www.flickr.com/photos/46861848@N03/5327469374/ )

武装勢力の楽園と化した部族地域 掃討に消極的なパキスタン
アフガニスタンでのタリバンとの戦闘に苦しむアメリカにとって、隣国パキスタン北西部の部族地域や南西部のバルチスタン州からアフガニスタンに新たなジハード(聖戦)要員が供給される流れを断てるかどうかが、作戦の成否のカギであることは周知のところです。アメリカはパキスタンにイスラム武装勢力掃討を以前から強く迫っています。

****米副大統領:パキスタンに武装勢力掃討へ協力求める*****
バイデン米副大統領は12日、パキスタンを訪問し、ザルダリ大統領やカヤニ陸軍参謀長らと会談。ギラニ首相との共同会見で、「過激な思想に協力して対抗していく」と語り、アフガニスタンとの国境地帯に潜伏する国際テロ組織アルカイダなどの武装勢力壊滅へ向け、パキスタン側の協力を求めた。(中略)
バイデン氏は11日、訪問先のアフガニスタンで、「我々は最終的にパキスタンのアルカイダを崩壊させる。アフガンをテロリストの避難所にしてはならない」と語り、武装勢力の中心拠点がアフガンではなくパキスタンにあるとの認識を示していた。
12日の会見では「安定し、民主的なパキスタンが我々の利益だ」と述べ、ザルダリ大統領・ギラニ首相の政権を支持する考えを表明した。【1月13日 毎日】
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しかし、アメリカ撤退後のアフガニスタンへの影響力も考えて、パキスタン側に本気でやる気があるのかどうか(多分、ないのでしょうが)疑われているのも、また周知のところです。

****タリバン幹部逮捕でもアフガン駐留米軍は憂鬱*****
パキスタン政府とイスラム原理主義勢カタリバンの双方の情報筋によると、パキスタン当局は12月中旬、タリバン関連の主要武装勢カハッカニ・ネットワークを率いるジャラルディン・ハッカニの息子、ナシルディン・ハッカニを逮捕した。彼らは5人でペシャワルから北ワジリスタン地区の部族地域に車で向かう途中、身柄を拘束されたという。
アメリカはパキスタン政府に対し、アフガニスタンとの国境付近でタリバン勢力への攻撃を強化するよう繰り返し求めてきた。しかし北ワジリスタンを拠点に、国境を越えてアフガニスタン駐留米軍への攻撃を続けるハッカニ・ネットワークは、野放し状態だった。
12月14日に米軍のマイク・マレン統合参謀本部議長が首都イスラマバーードを突如訪れ、パキスタン政府に「戦略上の焦燥」について伝えた。約1週間後の今回の逮捕は、アメリカからの圧力にパキスタンがしぶしぶ応じたものとみられる。
アラブ湾岸諸国に多くの親族がいるナシルディンは、資金調達の要とされる。パキスタン籍の複数のパスポートを使い、巨額の現金を集めてきたという。(中略)
 
パキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)は、ハッカニ・ネットワークなどのタリバン勢力と親密な関係にあると言われている。パキスタン政府は今回の逮捕で米軍の信頼を高めようとしたのかもしれないが、北ワジリスタンで全面攻撃を行うつもりはまだない。
政府の警告は明白だと、あるタリバン指揮官は語る。「われわれはお前たちを誰でもいつでも逮捕できる、という意味だ」

国境は武装勢力の楽園
今回パキスタン当局は沈黙を続けているが、ある政府高官は逮捕の事実を認めた。アメリカ側へ事前の通告はなかったともいう。ナシルディンは政府がハッカニ・ネットワークに対する影響力を強めるための「人質」だと、この高官は語る。
5人の身柄はISI管轄下の隠れ家に移された。パキスタン政府の情報筋は、米情報機関がナシルディンに接触することはないとみる。彼の「自白」はパキスタンの情報機関とハッカニ・ネットワークの関係の深さを裏付けるだけだからだ。
アメリカは逮捕を間違いなく歓迎するだろうが、パキスタンヘの圧力が軽減されるところまではいかないかもしれない。
アフガニスタン駐留米軍のデービッド・ペトレアス司令官は、特殊部隊による国境をまたいだ攻撃計画を明らかにしている。武装勢力の楽園と化した部族地域への攻撃をパキスタンが速やかに強化しなければ、米軍の無人航空機による攻撃を増やす用意があることも隠していない。(後略)【1月12日号 Newsweek】
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パキスタン軍統合情報局(ISI)は軍の中枢であり、特にイスラム過激派との関係が強いことが知られています。

イスラム過激派の活動はアフガニスタンでのアメリカ軍に対してだけでなく、パキスタン国内を“テロ地獄”としてパキスタン政府を揺さぶっています。バイデン米副大統領が訪問中の12日にも、パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州バンヌー地区で警察署に車が突入して自爆しました。地元テレビが州政府高官の話として伝えたところによると、少なくとも17人が死亡、21人が負傷したとのことです。

政治混乱が続くザルダリ政権
一方、ザルダリ大統領、ギラニ首相率いる与党パキスタン人民党政権は、こうしたアメリカからの圧力、国内の反米感情、イスラム武装勢力のテロの板挟みになる形で、更に汚職問題や経済問題をめぐって“よれよれ”の状態です。
年末から年明けにかけて、汚職問題や経済政策をめぐる与党人民党との対立を理由に、連立を組んでいたムータヒダ民族運動(MQM)が連立から離脱する騒ぎがありました。
下院過半数割れに落ち込み行き詰まった政権に対し、野党イスラム教徒連盟シャリフ派のシャリフ元首相は改善要求をつきつけ、政権に激しく揺さぶりをかけていました。
ギラニ政権は今月1日から実施したガソリン価格値上げの撤回を明らかにし、MQMは7日、連立に復帰すると発表。これにより、ギラニ政権は再び下院で過半数を確保、政局の混乱はひとまず収束に向かっています。

****パキスタン政権 下院過半数割れ 対テロ・財政 失速****
パキスタンの連立政権が下院で過半数割れに陥り、崩壊の危機に直面している。だが、多数派となった野党側は即座の政権奪取に消極的で、政治混乱が当面続きそうな情勢だ。財政の立て直しや対テロ戦などの重要課題が停滞する恐れが出ている。

連立与党の一角だったムータヒダ民族運動(MQM)の政権離脱から1夜明けた4日、最大野党のイスラム教徒連盟シャリフ派のシャリフ元首相は10項目の要求をギラニ首相に突きつけた。
政府が発表した石油製品価格値上げの撤回、腐敗閣僚の一掃、物価の安定、政府支出の3割削減などの厳しい内容で、首相側が応じない場合は他の野党と連携する準備に入るとした。応じた場合はその後の45日間で政府の施策を評価するという。
首相を支える最大与党・人民党側は同党所属のパンジャブ州知事が同じ日に暗殺された喪に服しており、態度を明らかにしていない。

シャリフ氏は、要求が受け入れられない場合は「新たな国民の負託が必要だ」として解散・総選挙に追い込む考えを示唆した。ただ、即座に首相不信任案を提出して政権崩壊へと追い詰めることはせず、「寸止め」の構えだ。
この背景には、他の野党とも対立を抱えていることや選挙の準備が整っていないことに加え、「課題山積のいまのパキスタンですぐに政権を引き継ぎたくない」(地元政治専門家)との本音があるとみられている。
2008年3月に発足したギラニ内閣下でパキスタン情勢は悪化の一途をたどってきた。インフレが進み、物価は高騰。電力、ガス不足は深刻化し、計画停電が常態化。イスラム過激派や武装勢力によるテロも相次ぎ、政権への支持は急速に失われている。
MQMが連立離脱したのも「不人気の現政権から離れることで、次の総選挙への悪影響を食い止める狙いがあった」(パキスタン駐在外交官)とされる。

パキスタン政治に強い影響力を持つ国軍も別の理由から解散・総選挙を望んでいないとされる。すぐに選挙となれば、シャリフ派が有利だが、シャリフ氏は1999年のクーデターで軍によって政権を追われており、軍部に対して「歴史的な敵対意識がある」(地元紙編集長)とされる。
こうした事情から、当面、緊張をはらみながらも少数与党による政権運営が続く可能性がある。しかしそれは同時に、政治経済の混乱の拡大、長期化につながる。(後略)【1月6日 朝日】
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火中の栗を拾いたくない最大野党のイスラム教徒連盟シャリフ派も「寸止め」、連立相手のMQMは不人気の政権から距離を置きたがっている・・・というあたりに、パキスタンの置かれた現状の困難さが窺えます。
野党や軍の思惑もあって、なんとか生きながらえている現政権ですが、IMFから要請されている財政改革、アメリカから要請されている武装組織掃討作戦の大胆な実行はいよいよ難しくなっています。

穏健派知事暗殺 犯人は英雄扱い
今月4日には、パキスタンの政治家には珍しく、武装勢力とつながりがあるイスラム過激派や宗教右派を公然と批判する人物だったパキスタン中部パンジャブ州のサルマン・タシール知事が、イスラム教に対する冒涜法に批判的態度を理由に警護官に射殺される事件がありました。
80年代に導入された「宗教冒涜罪」では、違反者には死刑が適用され、暗殺されたタシール知事はこの規定の緩和を唱えていました。また、預言者を侮辱したとして死刑判決を受けたキリスト教徒女性の擁護も行っていました。
この事件は、パキスタン国内におけるイスラム過激派の浸透、そうした動きに対する防御の危うさを伝えています。

****知事殺害男、英雄扱い パキスタン「冒涜法」改正めぐり不穏*****
■裁判所で迎えたのは称賛と花びら
イスラム教に対する冒涜法に批判的だったパキスタン中部パンジャブ州のサルマン・タシール知事を銃殺した警護官の男が“英雄”として国内の宗教指導者らから称賛を受けている。こうした動きはタシール氏を追悼することさえ阻み、冒涜法改正への反対運動を勢いづけている。過激派の浸透に歯止めをかける政治勢力をも欠いた情勢は、テロとの戦いにも影響を及ぼしかねない。(中略)
 
しかし、こうした批判や冒涜法のあり方についても、同法改正反対の動きにかき消されている。法改正に反対する宗教指導者らは9日、南部カラチで大規模なデモをし、動員力を見せつけた。タシール氏に近いはずのザルダリ政権も早々に冒涜法改正はしないと表明。過激派の圧力に屈したともとれかねない態度に、テロとの戦いに対する政権の姿勢を不安視する声も出ている。ハイダー元法相は、「国内の穏健派が殺害され続ければ過激派とテロリストが国を乗っ取ってしまう」と危機感を募らせる。【1月12日 産経】
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なお、タシール知事のパンジャブ州では、最大野党のシャリフ元首相の弟が州首相を務めており、知事は、「シャリフ兄弟は口では過激派に反対しながら裏で支援に回っている」と両者を激しく批判していました。

“このむごたらしい暗殺劇の後も、他の穏健派の政治家や宗教指導者はタシールの遺志を継ぎ、もっと寛容なパキスタン社会の実現に取り組む勇気があるのかどうか。イスラム過激派と戦うアメリカとパキスタンの危うい同盟の行方は、この点に懸かっているのかもしれない。”【1月19日 Newsweek】とのことですが、ザルダリ政権も早々に冒涜法改正はしないと表明しており、“危うい同盟”はいよいよ危うくなりそうです。


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懸念される原油・食料価格の高騰  アルジェリア・チュニジアでは暴動も

2011-01-13 20:39:01 | 国際情勢

(チュニジアでの抗議行動の様子 騒乱を起こしている勢力はともかく、デモ参加者は写真で見ると若者だけではないようです。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5341557515/ )

【「原油価格は世界経済にとって危険な領域に入りつつある」】
原油先物市場で、指標となる米国産標準油種(WTI)先物価格は07年から08年前半に急上昇し、08年7月には1バレル=146ドル近くまで上昇して、食料価格上昇と相まって世界各国、特に貧困層を抱える国々で暴動や政情不安を招く危機的な事態となりました。原油・食料価格高騰の原因として大量の投機マネーの流入があることも問題とされました。

その後、原油価格は急落、08年12月には7月水準の4分の1以下の33ドル台にまで落ち込みました。
09年に入ってからは上昇基調に転じており、最近では90ドル前後の水準にまで上昇しています。
12日の米原油先物(2月限)は1バレル=91.86ドルと、2年3カ月ぶり高値で取引を終えています。
市場には、景気回復に伴いエネルギー需要が拡大するとの期待が広がっているようです。

こうした相場の動きには全くの素人でよくわからないながらも、最近の100ドルも視野に入れた推移には、「なんだか随分高くなってきたな・・・・。また08年みたいになるのだろうか?」といった漠然とした不安も感じていましたが、あながち素人の杞憂でもないようです。

****原油価格は世界経済にとって「危険ゾーン」=IEAエコノミスト****
英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙によると、国際エネルギー機関(IEA)の主任エコノミスト、Fatih Birol氏は、原油価格は世界の景気回復を脅かす「危険ゾーン」まで上昇していると警告した。
同氏は「原油価格は世界経済にとって危険な領域に入りつつある。原油の輸入価格は景気回復に対する脅威となっている。これは、原油消費国と産油国への警鐘だ」と述べた。
FT紙はIEAの分析を引用し、経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国の原油輸入コストが過去1年間に2億─7億9000万ドル増加したと伝えた。
IEAによると、これはOECD域内総生産(GDP)の約0.5%に相当する金額となる。【1月5日 ロイター】
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食料価格、最高を更新
一方の食料価格については、昨年7月猛暑が続くロシアで干ばつが広がり、小麦の輸出禁止措置をとったことで市場が高騰し注目を集めました。
****世銀、食糧危機につながる恐れのある政策を控えるよう各国に要請****
世界銀行は9日、干ばつに見舞われているロシアが穀物の輸出禁止期間を来年まで延長する可能性があると明らかにしたことを受け、国際的な食品価格危機につながる恐れのある政策を取らないよう各国に要請した。
世銀のオコンジョ・イウェアラ専務理事はロイターに対し、前週以降の穀物価格の高騰はまだ危機には達していないものの、食品価格のボラティリティの高まりは貧困国に打撃を与えると強調。
状況が悪化した場合に備え、現在休会中の世界銀行理事会が9月初めに招集された際に食糧基金を発動する方針を示した。

穀物価格は、ロシアが穀物輸出を禁止する方針を明らかにしたことを受け、前週以降大幅上昇している。
世界第6位の小麦輸出国ウクライナでは、穀物輸出業者が、前週の新たな税関審査システム導入後に輸出の遅れに直面しているほか、悪天候により穀物の収穫・輸出見通しが悪化する恐れがある。
専務理事は、輸出国がバングラデシュへの小麦の輸出契約を取り消し、エジプトへの小麦供給契約を見直しているとの報道があるなか、影響を受けやすい国を対象に調査を行っていることを明らかにした。
また、インド、パキスタン、中国での洪水も食糧供給への懸念の高まりにつながっていると指摘した。
同専務理事は「まだ危機は見られておらず、危機につながる政策を取らないよう各国に要請することで危機を食い止めることを望んでいる」と語った。
さらに、米国のような穀物生産の良好な国々がロシアの生産減少を補うことを望んでいると述べた。
また、世銀は食糧基金を発動することで、状況が正当化する場合には迅速に資金を提供する用意があると語った。同基金は2008年の危機時に食料不足に直面する途上国を支援するため設立された。
専務理事によると、基金には約8億ドルの資金がある。【10年8月10日 ロイター】
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10年9月には、アフリカ南部モザンビークで、パンなどの値上げに抗議する市民デモが暴徒化して警官隊がゴム弾などを発砲、子供を含む10人が死亡したほか、400人以上が負傷する事態も報じられていました。
その後も、食料品価格の高騰は続いています。

****世界の食料価格が最高に=12月、08年水準上回る―FAO****
国連食糧農業機関(FAO)が5日発表した昨年12月の世界の食料価格指数は214.7となり、統計を開始した1990年1月以来の最高を更新した。干ばつに見舞われたロシアで小麦生産が落ち込んだことなどが響き、新興国の需要増大でこれまで最高だった2008年6月(213.5)を上回った。
昨年12月は前月比で8.7ポイント上昇。6カ月連続の上昇となり、食料の国際価格がじわじわ値上がりしていることを示している。【1月6日 時事】
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こうした情勢を懸念する動きも出てきています。
****仏大統領、米仏会談で食料価格安定に向け支持求める方針****
フランスのサルコジ大統領は、20カ国・地域(G20)会合の議長国として、米仏首脳会談で世界的な食料価格と為替の安定をとりあげ、オバマ大統領に取り組みへの支持を求める方針。
食料価格の上昇とアルジェリアなどでの暴動を受け、サルコジ大統領には、為替相場と同様に商品価格の極端な動きへの対処について、G20参加国間の調整を求める声が強まっている。(後略)【1月11日 ロイター】
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暴動 背景には若者の高い失業率
上記記事にもあるアルジェリアでは、今年に入っての暴動で2人が死亡、400人が負傷したと報じられています。暴動の直接の原因は食料品価格の高騰で、若者に失業者が多く、将来がまったく見えないということも暴動の一因にあげられています。【1月8日 AFPより】

****アルジェリア、食料品暴動の鎮静化目指す―チュニジアでは14人死亡****
食料品価格高騰による暴徒と警官隊の衝突が起きているアルジェリアでは政府が先週末、事態鎮静化のために一部食料品の税金と輸入関税の引き下げを発表した。
一方で、隣国のチュニジアでは高失業率に伴う反政府デモが広がっており、同国メディアによると、週末の警官隊との衝突で少なくとも14人が死亡した。

両国とも若年層の人口が増加する中で高い失業率に悩まされているが、いずれも独裁政権が政治的反対運動を抑え込んできており、今回のような暴動は異例だ。
エコノミストや開発専門家の間では、最近の世界食料価格の高騰によって2008年に一部開発途上国で起きた食料暴動に似た事態が起こるのではないかとの警戒感が強まっている。

ただ、今回のアルジェリアの暴動の場合、どの程度まで食料価格が影響したのかは不明だ。同国は穀物などの食料の大手輸入国だ。1月に入ってからの暴動の直接的原因は、規制されていない行商や家内工業など大規模なインフォーマル・セクター(非公式部門)を規制するために今年導入された政策だ。
卸売業者や流通業者はこの新政策に伴うコスト増加分を消費者に転嫁しようとした。エコノミストや国内企業関係者らによると、これによって食用油と砂糖は1月に20%も値上がりした。
抗議の動きは、数が多く失業率も高い同国の若者たちの間に、広まったようだ。国際通貨基金(IMF)の統計によれば、同国の人口の70%近くは25歳未満の層が占めているが、その失業率は推定30%に達する。
カブリア内相が国営メディアに語ったところでは、先週半ばに始まった暴動で少なくとも3人の暴徒が死亡し、このほか約100人の暴徒と少なくとも300人の警官が負傷した。

同国は世界有数のエネルギー生産国だが、1999年以降圧政を敷いているブーテフリカ大統領は北アフリカや中東のほとんどの国が抱える若年層の高失業率問題の対策に完全に成功しているとはいえない。若年層は何年も前から住宅難を訴えており、一方で市民社会の創設を目指すグループは政治的自由を求めている。

アルジェリア政府は8日の閣議で、砂糖と食用油の輸入関税、付加価値税、それに関連する法人税の「一時的、例外的免除」を決めた。政府は声明で、この新たな措置はこれらの価格を40%以上下げることを目的としたものだと強調した。9日には新たな抗議活動の報告はなかった。
チュニジアでは、今回のアルジェリアの暴動が起きる数週間前から暴動が相次いでいる。昨年12月17日に警察によって果物や野菜を販売していた屋台を没収された大卒の男性が焼身自殺した。この男性の葬儀後、めったに行われることのなかった全国規模のストライキやデモ行進が続いている。【1月10日 JST】
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アルジェリアは沈静化したようですが、チュニジアの混乱は続いています。
****夜間外出禁止、異常事態に=暴動で死者多数―チュニジア****
北アフリカで安定した経済成長を続けていたチュニジアが12日、首都チュニスに夜間外出禁止令を出す異常事態に陥った。混乱は各地に広がり、多数の死者が出ている。
一連の騒ぎは昨年12月17日、中部シディブジッドの路上で物売りをしていた若者が警察の取り締まりに抗議する焼身自殺を図ったのが発端。警察への抗議が内陸部から沿岸へと飛び火し、各地で暴動や衝突が発生、首都にも到達した。
各地では治安部隊の発砲で死者が続出。政府が死者23人と主張しているのに対し、人権団体や労組は少なくとも50人と反論している。背景には、若者の高い失業率があり、物価上昇や汚職への不満も加わり、抗議活動への参加者は増えている。【1月13日 時事】
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アルジェリア、チュニジアともに若者の高い失業率が政府への不満となっている背景があり、【1月10日 JST】にもあるように、どの程度まで食料価格が影響したのかはよくわかりません。
ただ、今後、ガソリン・燃料価格、食料品価格の高騰が続くと、いろんな不安定要因を抱えた途上国において、08年前半と類似の事態が発生することが懸念されます。

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ハイチ  大地震から1年、進まぬ復興  日本の陸自や「ハイチのマザー・テレサ」の活動

2011-01-12 19:51:23 | 災害

(韓国と日本の陸自が共同で復旧活動にあたる現場 “flickr”より By United Nations Stabilization Mission In Haiti http://www.flickr.com/photos/minustah/4876134588/

いまだに約81万人が暮らすテント村
各紙で報じられているように、今日12日で死者約30万人を出したハイチ大地震から1年になります。
****ハイチ大地震経済損失6400億 国連開発計画が推計****
国連開発計画(UNDP)は11日までに、ハイチ大地震による経済損失は78億ドル(約6400億円)との推計を発表した。ハイチの国内総生産(GDP)の約1・2倍に当たる。復興費用は115億ドルと見積もられている。被災者は350万人に上り、29万棟以上の家屋が全半壊。政府機関の建物も大統領府を含む6割が崩壊した。首都ポルトープランスでは8割の学校が全半壊した。【1月11日 共同】
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しかし、これもまた各紙が伝えるように、大地震からの復興作業は大きく遅れています。
****避難所生活、81万人に減少=地震1年でほぼ半減―ハイチ*****
国際移住機関(IOM)は9日、昨年1月のハイチ大地震で家を失った後、今も避難所生活を続ける人の数は約81万人との試算を明らかにした。震災直後には約150万人が屋外でのテント暮らしを強いられていたが、地震発生から1年でほぼ半減したことになる。AFP通信が伝えた。
IOMによれば、避難所生活者は昨年11月ごろから大幅に減少。感染症コレラの流行が深刻化したことに加え、国際支援に伴う定住場所の確保なども減少につながったとしている。【1月10日 時事】 
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避難所生活を続ける人の数が、“81万人に半減した”と言うべきなのか、“まだ81万人いる”と言うべきか・・・。
“減少”の背景には、テント村を常設したくない政府の食糧・飲料水配給打ち切りなどの措置もあるようです。

****ハイチ大地震:発生1年 81万人がまだテント生活*****
ハイチの首都ポルトープランス周辺を襲い、死者約30万人を出した大地震(マグニチュード7.0)から12日で1年がたつ。しかし、復興は遅々として進まず、いまだに約81万人が暮らすテント村では「食べ物がほしい」という声が漏れる。昨年10月に発生したコレラのまん延が復興作業をより困難にしている。陸上自衛隊は国連平和維持活動(PKO)で現地に派遣されているが、防衛省内には「目に見えた改善が見られず、もどかしい」との声も上がっている。
今も崩れかけたままの大統領宮殿。近くのシャンドマルスには家を失った約4万4000人がテントで暮らす。だが政府はコメ、小麦、豆の食糧配給を昨年4月で、飲料水配給を1カ月前に打ち切った。テント村を常設したくないためだ。
ナターシャ・べロニさん(26)は「何でもいいから見つけて食べる。友だちに恵んでもらう」と言う。地震で家が倒壊し夫(当時29歳)と2人の子どもを失った。たまにNGOが食糧を配りに来るが、激しい争奪戦になり、何も手に入れられない。(中略)
首都周辺は地震で政府機関施設の70%、学校の88%が壊れた。すべてがまひするなか、昨年10月末からコレラが拡大した。
南部カルフール地区の「国境なき医師団」のコレラ治療センター。テントの中で患者が横たわり、穴のあいたベッドの下に置いたバケツに排せつしていた。
看護師の根本律子さん(41)は「1回の下痢で1~2リットルの水を失うため、脱水で目が落ちくぼみ無表情になる。運ばれてきた時、点滴をしようにも血管が見えない人もいる」と話す。
人口約1000万人のハイチ。保健当局によれば、1日までにコレラによる死者は3651人、罹患(りかん)者は計17万人に達した。流行は今後2、3年続くという分析もある。(後略)【1月11日 毎日】
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コレラ、全土に拡大
上記記事にもあるように、復興の遅れに追い打ちをかけているのがコレラの感染拡大です。
****コレラ終息めど立たず=ハイチ、感染全土に拡大―死者3600人超******
昨年1月の大地震被害にあえぐカリブ海のハイチに、追い打ちをかけるようにコレラがまん延し、住民の生活を脅かしている。昨年10月に感染が広がり始めて以降、死者は3600人を超えた。今ではハイチ全土で患者が出ており、終息のめどは立っていない。

首都ポルトープランスから西方約20キロにあるカルフールでは、日本とカナダの赤十字社が昨年12月中旬にコレラ治療センターを立ち上げ、24時間態勢で患者を受け入れている。最も多い時で1日の新患数は80人を上回り、五つの病棟があふれかえった。(中略)
コレラは本来、致死率の低い感染症。手洗いや排せつ物などの処理を適切に行えば、感染を防ぐことができ、感染しても早期治療で回復は早い。赤十字スタッフは地域をローラー作戦で回り、予防法や、発症時の対処法を書いたパンフレットを配布。このかいあってか、最近、患者数は減少。センターに来た時に、既に重症化している人も減ったという。
しかし、カナダ赤十字の現地代表シリル・スタインさん(30)は「今後どうなるかは注意深く見極めなければならない」と楽観を戒める。日赤チームの看護師長、高原美貴さん(45)も「年末年始に人が動いたことがまん延に影響するかもしれない。雨期が来れば、衛生状態は悪化する」と話す。【1月10日 時事】
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機能しない政府
ハイチの復興の遅れの根本的な原因は、復興の中核になるべき中央政府が機能していないことにあります。
大地震以前からハイチの統治機能には問題がありましたが、大地震によってその不十分な機能すら崩壊しました。
“地震で国家公務員の2割弱が死亡し、連邦政府庁舎28棟のうち27棟が倒壊したため行政活動が滞っている。書類が散逸して土地の所有者をなかなか確認できないせいで、多くの地区では建物の取り壊しや建設がほぼ不可能になっている”【11月24日号 Newsweek日本版】

そうした行政機能を立て直すべく行われた昨年11月の大統領選挙ですが、混乱が続いており、決選投票延期の公算も報じられています。
****決選投票、延期の公算=ハイチ大統領選*****
大地震からまもなく丸1年を迎えるハイチの選管当局者は5日、今月16日に予定されていた大統領選決選投票が延期される公算が大きいとの見方を示した。AFP通信が伝えた。
大統領選は昨年11月に第1回投票が行われたが、不正への批判や選挙無効を求める声が後を絶たず、米州機構(OAS)が検証作業を進めている。同当局者は「OASの報告書が出るまでは決選投票は実施できない」と語った。【1月6日 時事】
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こうした情勢で、事実上国際支援が頼みの綱になっています。
****長期的復興支援を約束=ハイチ大地震1年―米大統領*****
オバマ米大統領は11日、ハイチ大地震から12日で1年を迎えるに当たって声明を出し、「多大な勇気と信念で想像を絶する喪失に立ち向かった」とハイチ国民を称賛するとともに、同国に対する長期的な復興支援を約束した。
同大統領は、被災地に依然として未撤去のがれきが残り、多数の市民がテント生活を強いられている点に触れ、「大多数のハイチ人にとって復興のペースは十分でない」と指摘。西半球最貧国の復興には「何年もかかる」との認識を示した。
その上で、ハイチ主導の復興を引き続き支援していく方針を確認し、国際社会に対しても「確固とした持続的な長期的取り組みを行うという約束を果たさなければならない」と呼び掛けた。【1月12日 時事】
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現地で評価される陸自
日本の陸上自衛隊もPKOに参加しています。
****陸自の貢献に感謝=孤児院施設建設で―ハイチ*****
昨年1月の大地震から1年を迎えるカリブ海のハイチで、国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊は孤児院の施設建設の仕上げに取り組む毎日だ。地元には自衛隊に対する感謝の言葉が多く、高い技術への信頼から一層の国際貢献を期待する声も上がっている。

自衛隊は昨年2月にハイチで活動を始め、これまで1次隊、2次隊計約550人が任務を完了。現在は8月に現地入りした3次隊約350人が、がれきの除去や整地に当たっている。
首都ポルトープランスの東方約30キロの町マルパセでは10日、隊員45人が孤児院の宿舎新設に汗を流していた。気温30度、砂ぼこりが舞う中、20日の完成を目指し、雨漏り防止工事や電気配線の取り付けを行った。
孤児院は地震で倒壊した他の施設から子どもを受け入れるなどしたため、スペースが不足。仮設のプレハブ小屋やテントの利用を強いられてきた。自衛隊は昨年11月初めに工事を開始。同月実施された大統領選の結果をめぐるデモの影響などで資材が調達できず、10日間ほど作業が滞った。
現地の治安は不安定だが、日本隊隊長の佐々木俊哉1等陸佐(47)は「日本国旗を見ると、ジャポン、ジャポンと歓迎してくれている」と述べ、地元との関係は良好だと語った。
孤児院で生活するマヌシュカ・ルイさん(13)は「新しい建物が建つのが楽しみ。とても立派なものを造ってくれた自衛隊の人たちが大好き」と笑顔を見せた。マリン・モンデジール院長は「自衛隊は最大の難題を解決してくれた」と絶賛。「自衛隊にはハイチを含む国際社会でもっと活躍してほしい」と話している。【1月11日 時事】
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ただ、制約が多い現地で困難にも直面しています。
“陸上自衛隊はこの1年、首都を中心に倒壊した建物のがれき除去や、整地・造成、道路補修などを行ってきた。だが、復旧は公共施設や主要道路などにとどまり「目に見えて改善していないのが現状」(防衛省)だ。
コレラ対策として車両洗浄などのほか、現地のコレラ治療センターに医官、看護官各1人を当直要員として派遣するが、障害に直面する日々が続いている。”【1月11日 毎日】

【「ハイチのマザー・テレサ」】
現地で「ハイチのマザー・テレサ」とも呼ばれる邦人女性の活動も報じられています。
****はい上がらなきゃ」=邦人女性、震災復興に取り組む―「ハイチのマザー・テレサ****
カリブ海のハイチで死者22万人を出した大地震から12日で1年。この国に30年以上住み、医療活動に取り組んできた日本人女性がいる。医師で修道女の須藤昭子さん(83)。「はい上がらなきゃしょうがない。負けてはいられない」―。10日までに時事通信のインタビューに応じた須藤さんは、大地震やコレラ禍からの復興に力を尽くしたいと語った。
須藤さんは1976年、クリストロア宣教修道女会(本部カナダ)の医師として、ハイチに赴任した。それ以降、首都ポルトープランス西方約30キロにあるレオガンの国立結核療養所で患者の治療に従事し、「ハイチのマザー・テレサ」の名が定着した。
昨年1月の大地震で療養所は倒壊。その際、たまたま日本に一時帰国していて須藤さんは難を逃れたが、患者数人が亡くなった。地震前は医師6人前後が交代で勤務。「地震後にほとんどの医師が戻って来ず、週末に医者を置けない病院になってしまった」と肩を落とす。約50人の入所者は今もテントでの生活を余儀なくされている。

須藤さんは80歳で診療現場から退き、今は療養所の再建に力を注ぐ。「予定通りには進んでいないが、私がやらなければ」と話し、引退の2文字には無縁な様子。「多くの人は自分の人生に自分で区切りを付けてしまうようだけど、何かしないと生きている意味がない」と強調する。
農業振興と雇用創出を目指し、植林・農業学校の創設もかねて計画。今は地震で行き詰まった形だが、近い将来何としても実現する決意だ。
苦難の中にあるハイチの人々については、「苦しみに対して我慢強い。どんな困難も乗り越えようとする性格が好き」。ハイチと共に歩み続ける須藤さんの思いは揺るがない。【1月11日 時事】
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こうした陸自や須藤さんの活動が、将来的には日本の国際社会における“信頼”の拠り所となります。

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