孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  「民政移管」新国会が月末召集 期待される民主化勢力の再構築

2011-01-11 21:00:14 | 国際情勢

(彼女に託された国民の大きな期待に応えるために、議会内民主化勢力との連携など、現実的な対応が望まれます。 “flickr”より By newsweekpakistan http://www.flickr.com/photos/57294420@N03/5279461875/

【“一応の”民政移管
ミャンマーでは、昨年11月の総選挙を受けて、新国会が今月31日に開催され、大統領が選出される運びとなっています。

****ミャンマー:国会を31日に招集 2月に新政権が発足*****
ミャンマー軍事政権は10日、昨年11月の総選挙結果に基づいて発足する新国会を31日に招集すると国営放送を通じて発表した。国会で新大統領が選ばれ、2月にも新たな政権が発足する見通し。同国は、1962年の軍事クーデター以来49年ぶりに軍事独裁支配を終結させ、一応の「民政移管」を果たす。

新国会の定数は上院が224、下院が440。憲法の規定でうち75%が総選挙の当選者、残る25%は軍が推薦した議員に割り当てられる。上下院の民選枠議員がそれぞれ1人、両院の軍推薦枠議員が1人の計3人の副大統領を選出し、このうち1人が大統領に就任する。
総選挙では軍事政権翼賛政党「連邦団結発展党」が民選枠の8割近くを獲得。軍推薦枠と合わせると圧倒的多数を軍部寄りの議員が占め、大統領と副大統領2人はいずれも軍部出身者か、軍の強い影響下にある人物が選ばれるのは確実だ。【1月10日 毎日】
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これまでも再三取り上げてきたように、また上記記事にもあるように国会議員の25%は軍が推薦した議員に割り当てられるなど、実質的に軍部支配を維持した形での、“一応の”「民政移管」ではあります。

軍部は民政移管を控えて、基盤強化のため徴兵制度を導入しました。
***ミャンマー、徴兵制を導入 民政移管前に軍基盤強化****
ミャンマー軍事政権が全国民に兵役の義務を課す徴兵制を新たに導入したことが7日、分かった。ミャンマー軍はこれまで志願兵制だったが、昨年11月の総選挙を受けて近く民政に移管されることから、徴兵制の導入は民政移管前に軍の基盤強化を図る狙いがあるとみられる。同国からの情報によると、兵役の義務が課せられるのは男性が18歳から35歳まで、女性は18歳から27歳まで。【1月7日 共同】
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一部与党議員も盗聴計画対象
一方、軍事政権による大規模な携帯盗聴計画も報じられています。
****ミャンマー:軍事政権が携帯盗聴計画 反政権系誌が報道*****
3000人の会話を監視せよ--。反ミャンマー軍事政権系誌「イラワディ」(タイ拠点・電子版)は5日、軍事政権が国内の政治家やビジネスマン、報道関係者などの携帯電話の盗聴計画を進めていると報じた。昨年11月の総選挙に政権翼賛政党「連邦団結発展党」(USDP)から立候補し当選した財界関係者も含まれており、軍部の「身内」以外への不信感も浮き彫りにしている。
同誌は国営電話会社の関係者の話として伝えた。

政権の情報機関が同社に示した盗聴対象リストには、民主化運動指導者アウンサンスーチーさん率いる「国民民主連盟」関係者や、与野党の総選挙当選者、映画監督や人気歌手、国内メディアの幹部や海外メディア現地記者など3000人以上の名前が記されているという。
関係者によると、ミャンマーでは過去にも同様の携帯電話の盗聴がなされていたが、政権の情報機関を率いたキンニュン首相(当時)が失脚した04年ごろ中断されたという。関係者は同誌に「当時は携帯電話の数も少なく盗聴は容易だった。今は数が多く、対象者はいつでも新しい番号に替えることもできる」と話し、盗聴計画の成功に疑問を呈した。【1月5日 毎日】
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上記記事を期待を込めて解釈すれば、与党「連邦団結発展党」(USDP)の議員であっても、100%軍部の意向に沿わない者もあいるかも・・・ということにもなるでしょうか。
更に言えば、軍部出身者であっても、軍服を着ていた頃と、軍服を脱いで選挙を経て議員となったこれからとでは、異なる対応もあるのかも・・・・というのは期待のしすぎでしょうか。

【「国民民主勢力(NDF)」:和解・連携に向けてスー・チーさんと会談
実質的に軍部支配の「民政移管」で、どのように“民意”が反映されるのか注目されます。
民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いる民主化最大勢力「国民民主連盟(NLD)」(総選挙不参加、解党)から分裂して11月の総選挙に参加した政党「国民民主勢力(NDF)」は、上下両院と地方議会あわせて16議席を獲得しています。

わずかながらでも民意を国政に反映させていくためには、こうした議会内の民主化勢力とスー・チーさんらの活動の連携・民主化勢力の再構築が是非とも必要です。
スーチーさんも、解放後の演説で民主化勢力再構築に尽力していく旨を表明しています。

両者は、年末の先月30日に初めての会談を行っています。
この日の会談では、「個人的な会談で、政治の話はしなかった。我々は今後も話し合いを続ける」(NDF幹部キン・マウン・スエ氏)とのことで、分裂の解消やNLD・NDF両党協力へ向けた具体的な協議には及ばなかった模様です。

****民主化勢力再構築へ一歩 スー・チーさん、NDF幹部と会談****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんは30日、先の総選挙にあたってスー・チーさん率いる旧野党国民民主連盟(NLD)から分かれて選挙に参加、16議席を獲得した国民民主勢力(NDF)の幹部と、解放後、初めて会談した。軍政主導の選挙への対応をめぐって分裂した民主化勢力の再構築に向けた第一歩になることが期待される。

会談はNDF側からの呼びかけを受け、NLDのティンウー副議長宅で、約1時間行われた。出席したNDF幹部のキン・マウン・スエ氏は「個人的な会談で、政治については話していない。また会うだろう」と語った。
NDFのタン・ニェイン議長は会談後、フランス通信(AFP)に対し、「(スー・チーさんは)われわれNDFの立場を理解している。そうでなければわれわれと会うことはなかった」と語り、会談が良い雰囲気で終わったことを強調した。同議長は、先の産経新聞とのインタビューで、同国の民主化実現のため、スー・チーさんに党の枠組みを超えて一緒に活動するよう働きかける考えを示していた。【12月31日 産経】
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【「彼女が現実の政治から離れている間に物事は大きく変わった」】
NLDから分裂し、スー・チーさんの指示に反して総選挙に参加した国民民主勢力(NDF)ですが、今後の活動のためには国民に大きな影響力を持つスー・チーさんとの協力が必要です。
キン・マウン・スウェ氏はこれまで「スー・チーさんの指示に従う」【12月30日 朝日】と発言しています。
昨年末のインタビューで、NDFのタン・ニェイン議長は、「彼ら(旧NLD)にその気があるなら、和解することはやぶさかではない」「彼女(スー・チーさん)の国への愛情、国民のために犠牲となることをいとわない決意と勇気には疑問の余地はない。」と連携に期待する発言していますが、一方で「彼女が現実の政治から離れている間に物事は大きく変わった。彼女がそれに気づき、われわれと一緒に民主運動を引っ張っていくことを期待している」「従来の野党のように、単に与党と対立するだけでなく、責任ある立場から国民の利益のために行動する」とも。

****ミャンマーNDF議長 民主化運動、スー・チーさんとの連携期待*****
■国会に足場「野党連合」
ミャンマーの野党、国民民主勢力(NDF)のタン・ニェイン議長は21日までに、産経新聞のインタビューに応じ、2月までに招集される新たな国会では、他の民主化勢力や民族政党との野党連合を結成し、国軍与党と対峙(たいじ)していく方針を明らかにした。また、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーさんに対し、彼女が率いた旧国民民主連盟(NLD)の枠を超え、ともに民主化運動を進めることに期待を示した。

NDFは、選挙のボイコットをNLDが決めたことに反発、同議長や幹部のキン・マウン・スエ氏らが立ち上げた政党で、先の総選挙では、最大都市ヤンゴンを中心に16議席を獲得した。選管の最終発表はないが、国軍の代理政党とされる連邦団結発展党(USDP)は下院で79・6%にあたる259議席を確保したとされる。
今回の選挙結果について、同議長は「予想以上に少ない議席だが、NDFが政治的な目的を実現するための足場ができる。そこで民主勢力を統合し国民の困窮や必要なもの、望むことについて質問し、修正を求めていく」と述べた。
具体的には、野党のラカイン民族開発党、連合民主党、統一民主党、さらにモンやチン族の民族政党と国会内での協力を進める方針だ。同席したキン・マウン・スエ氏によると、野党共通の課題として、全政治犯の釈放や経済改革、健康・社会問題をとりあげていくことで一致したという。
議長はさらに「従来の野党のように、単に与党と対立するだけでなく、責任ある立場から国民の利益のために行動する」と語った。

一方、選挙参加をめぐる路線対立から分派した旧NLDとの関係について、同議長は「旧NLDが選挙をボイコットし、政党登録をしないと決めたのに対し、われわれは仮に法律が不公正でも、真の民主政党は戦うためには法に従い、存在すべきだと考えた。それが彼らとたもとを分かった理由だ。彼らにその気があるなら、和解することはやぶさかではない」と述べた。
同時にスー・チーさんについて議長は「彼女の国への愛情、国民のために犠牲となることをいとわない決意と勇気には疑問の余地はない。ただ、彼女が現実の政治から離れている間に物事は大きく変わった。彼女がそれに気づき、われわれと一緒に民主運動を引っ張っていくことを期待している」と述べた。【12月22日 産経】
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一方、スー・チーさんの側も、公的にはNLDが解党状態になっていますので、議会内のNDFとの共闘は不可欠でしょう。
これまでのいきさつ、わだかまりを捨てて、国民のための視点からの対応が望まれます。

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アメリカ  民主党穏健派下院議員へのテロ 「分断と憎悪」の果ての悲劇

2011-01-10 17:26:55 | 世相

(アリゾナ銃乱射事件の犠牲者を追悼する市民 “flickr”より By AZCapitolTimes
http://www.flickr.com/photos/49702375@N08/5337639661/ )

【「国家全体にとっての悲劇だ」】
アメリカ西部アリゾナ州トゥーソンで8日、女性で民主党穏健派のガブリエル・ギフォーズ下院議員(40)が、対話集会最中に男に銃で撃たれ重体となるというショッキングなニュースがありました。

****米アリゾナで銃乱射19人死傷、男を逮捕 標的?民主党議員、重体*****
米西部アリゾナ州トゥーソンで8日午前(日本時間9日未明)、女性で民主党のガブリエル・ギフォーズ下院議員(40)がスーパーマーケットの敷地内で対話集会を開いていたところ、男が拳銃を乱射した。現場にいた連邦判事や9歳の少女ら6人が死亡し、ギフォーズ議員をはじめ13人が負傷。男はジャレッド・ロフナー容疑者(22)で、現場で取り押さえられ逮捕された。
ジャレッド容疑者は、ギフォーズ議員に近づき、約1~2メートルの至近距離から銃撃。さらに、次々と無差別に発砲した。銃弾はギフォーズ議員の頭部を貫通し、同議員は重体となっている。

捜査当局者は、ロフナー容疑者はギフォーズ議員を標的にしたとの見方を示している。動機や背景は不明。同容疑者が、精神的な問題を抱えていた可能性もあるという。また、別の男が現場でロフナー容疑者と一緒に行動していたとの情報もあり、捜査当局は行方を追っている。
AP通信によると、ロフナー容疑者は事件の数時間前、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「マイスペース」に、「さようなら友よ」「腹を立てないでくれ」とのメッセージを掲載していたという。

オバマ大統領は事件を受け「アリゾナだけでなく、国家全体にとっての悲劇だ」と犯行を非難し、米連邦捜査局(FBI)のモラー長官を現場に派遣した。
同議員は民主党の穏健派で、2006年に初当選。昨年11月の中間選挙で3選を果たした。
夫は米航空宇宙局(NASA)のマーク・ケリー飛行士で、4月にもスペースシャトルでの飛行が予定されている。【1月10日 産経】
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事件に関し、容疑者の男が事前に犯行を計画していたことを示すメモ書きが男の自宅から見つかったことが分かったと報じられています。
****米議員銃撃事件、「暗殺」示唆するメモ見つかる******
・・・・訴追状によると、トゥーソンにあるラフナー容疑者の自宅を捜索していた捜査当局は9日、金庫の中から、同容疑者宛てのギフォーズ議員の手紙1通と、封筒1枚を発見した。手紙は2007年8月付で、同議員の集会にラフナー容疑者が出席したことに対する礼状だった。一方、封筒には「以前から計画していた」「暗殺」「ギフォーズ」などと手書きで書かれ、ラフナー容疑者のものとみられる署名も記されていたという。
捜査を担当する同州ピマ郡のクラレンス・デュプニク保安官は、米FOXニュースとのインタビューで、ラフナー容疑者が書いたギフォーズ議員の殺害を示唆する内容の文書が見つかったことを明らかにした。その上で、事件がギフォーズ議員を狙ったものかとの問いに対し、「疑いの余地はない。問題のある個人による単独犯行だと見ている」と述べた。【1月10日 AFP】
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なお、ラフナー容疑者については、以前より精神面で問題を抱えていたとの情報もあるようです。
また、捜査当局は9日、事件に先立ってロフナー容疑者とともに現場を訪れた男性は事件とは関係ないと結論付けています。【1月10日 時事より】

米合衆国憲法修正2条
今回事件に関連して指摘されているのは、アメリカにおける銃規制問題と、最近のアメリカ社会における政治的対立の激化の問題です。

****進まぬ銃規制 9000万人が所持、自己防衛…個人の権利*****
米国では銃乱射事件が起こるたびに銃規制を求める声がある一方、なかなか規制が進まない。銃の所持は自己防衛を目的とした個人の権利だとする建国以来の国民意識が背景にある。
米合衆国憲法修正2条は「規律ある民兵は自由な国家の安全にとり必要であり、国民が武器を保有、携帯する権利を侵してはならない」と規定している。ロイター通信などによると、米国では現在、約9千万人が銃を所持し、約2億丁の銃が出回っている。1日約80人が銃が原因で死亡し、このうち半数近くが殺人事件とされる。
1980年代から銃規制論議が高まりをみせたが、銃所持の権利を擁護する有力ロビー団体、全米ライフル協会(NRA)が規制に反対してきた。昨年6月、米連邦最高裁は拳銃所持を禁止したシカゴ市の条例を違憲とし、論議を呼んだ。【1月10日 産経】
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“1日約80人が銃が原因で死亡”するなかで、今とは全く社会状況が異なる220年ほど昔、トーマス・ジェファーソンの時代の“民兵武装権”にこだわり続けるアメリカ社会というのは理解に苦しみます。
“このうち半数近くが殺人事件とされる”ということですが、残りは自殺・誤射事故でしょうか?自殺方法としては銃が簡便なことは認めますが・・・。
自己防衛とは言いますが、銃を普段使用したことのない人間が慌てて発砲しても、自分の足を打ち抜くのがおちです。
なお、こうした“自己防衛”に対する考え方は、国家の安全保障や戦争に対する考え方にも及ぶものと思われ、アメリカとのそうした国家間の関係においても配慮すべき点でしょう。

なお、先の中間選挙でその言動・影響力が注目を集めた、“憲法遵守”を掲げる保守派草の根市民運動の「ティーパーティー」の影響もあってか、米下院で憲法全文の朗読が行われたそうです。
****米下院で初の憲法全文朗読=大統領出生めぐるヤジで中断*****
米下院で6日、議員が代わる代わる憲法全文を朗読した。同院で憲法全文の朗読が行われたのは初めて。保守派市民運動「ティーパーティー(茶会)」の影響を受けたパフォーマンスとの批判の声も上がっている。
憲法の朗読は、下院で多数派となった共和党が主導。共和党には、昨年11月の中間選挙で旋風を巻き起こした茶会の支援を受けた議員も加わり、右傾化傾向が指摘されている。茶会は憲法の理念重視を強く訴えている。
朗読は、民主党議員も参加して約1時間半かけて行われた。ただ、米国内での出生など大統領選挙の被選挙権を定めた憲法条項の朗読中に、傍聴していた女性が「オバマは例外」と叫んだため、朗読は中断。女性は警備員に退席させられた。【1月7日 時事】
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いささか茶番劇ではありますが、憲法遵守を叫ぶ割には憲法の内容を知らないとも言われている「ティーパーティー」系議員には勉強になったのかも。

激しさを増す「分断と憎悪」】
今回標的となったギフォーズ議員は、不法移民対策法や医療保険制度改革をめぐり、リベラル派の立場でオバマ大統領を支持して行動していました。

****銃乱射 アリゾナ「分断と憎悪」象徴 不法移民対策法、激しい対立****
米アリゾナ州トゥーソンで8日に発生した銃乱射事件は、民主党の下院議員を狙った暗殺未遂事件との見方も出ている。犯行の動機や背景の解明が待たれるが、同州は保守的な土壌で知られ、不法移民対策法や医療保険制度改革をめぐり、保守、リベラル両派が激しく対立。米国の潜在的な「分断と憎悪」の象徴として取り上げられることも少なくない。そうした構図を、今回の事件は改めてクローズアップさせている。
米国では近年、レーガン大統領が銃撃された暗殺未遂事件(1981年)はあるが、現役の連邦議員が標的になった事例は乏しい。米紙ワシントン・ポストによると、78年に下院議員が射殺されたものの、滞在先の南米でのことだった。

アリゾナ州では、米国で最も厳しいとされる不法移民対策法をめぐる保守、リベラル両派の対立の火種がくすぶる。医療保険制度改革でも意見が割れ、所得格差や人種問題に根ざした双方の嫌悪感が拡大し、治安の悪化が懸念されていた。
同州ピーマ郡のクラレンス・デュプニク保安官は「アリゾナは偏見と頑迷な憎悪の中心となってしまった」と、事件には政治的な背景があるとの見方を示した。同州元上院議員のアルフレッド・グティエレズ氏も「怒りにあふれた人々と拳銃の組み合わせが、アリゾナを暴力へと誘っている」と懸念を表明した。
ギフォーズ議員は不法移民対策に熱心な一方、医療保険制度改革法案を支持した。同法案に賛成票を投じた直後には、地元トゥーソンの同議員の事務所が荒らされている。
彼女は来年に改選予定の連邦上院議員選、2014年の同州知事選の候補に取り沙汰され、「ホープ」として保守層の批判を一身に浴びている。昨年11月の中間選挙では、保守系草の根運動「ティーパーティー」(茶会)や、共和党のサラ・ペイリン前アラスカ州知事らの攻撃の的になった。
一方、ロフナー容疑者は、インターネットの動画サイト「ユーチューブ」への投稿で、ギフォーズ議員の選挙区の住民について、識字率の低さに不満を示し、愚弄していたという。
米共和党下院のカンター院内総務は、同党主導で12日に予定していた医療保険改革をつぶすための法案の本会議採決など、10日からの週の全審議を延期すると発表した。事件の影響は国政の場にも広がっている。【1月10日 産経】
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「ティーパーティー」・保守派の広告塔的存在になっているサラ・ペイリン前副大統領候補のWebサイトで、中間選挙前に示された「撃たれるべき20人の政治家」のリストにギフォーズ議員の名前が含まれると言われていますが、詳細は把握していません。今となっては随分刺激的なタイトルですが・・・・。

(ペイリン氏のWebサイトに掲載された20人の政治家の“hit list” ギフォーズ議員は左側4番目に挙がっています。地図上のマークは銃の照準 “flickr”より By monado http://www.flickr.com/photos/monado/5338037012/# )

事件は、医療保険改革撤回をめぐる審議などにも影響を及ぼしているようです。
移民法や医療保険制度改革をめぐって、保守・リベラル両派が激しく対立、過激な意見が横行する「分断と憎悪」が顕在化しているアメリカ社会にとって、「分断と憎悪」の果ての悲劇とも言える今回事件が、バランス感覚を取り戻すうえでひとつの警鐘となってくれれば不幸中の幸いです。

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アメリカ司法制度の不思議  黒人不当量刑の象徴“スコット姉妹”釈放

2011-01-09 19:17:31 | 世相

(スコット姉妹 左が姉のジェイミー、右が妹のグラディス “flickr”より By 4WardEver UK
http://www.flickr.com/photos/4wardever/3605470030/ )

伝説の「ビリー・ザ・キッド」は死後恩赦認められず
昨年末、アメリカでの裁判をめぐるふたつの話題が報じられました。
ひとつは、関係者には申し訳ないですが、「なんで今頃こんなことが問題になるのか・・・?」と訝しく思われるもので、伝説の無法者“ビリー・ザ・キッド”の死後恩赦に関するものです。

年末31日に、ニューメキシコ州のリチャードソン知事が、約130年ぶりに「死後恩赦」を認めるかどうかを発表するということで注目されました。

****伝説の無法者ビリー・ザ・キッドに恩赦認めず、米州知事*****
2011年01月01日 13:17 発信地:サンタフェ/米国
米国、西部開拓時代の伝説の無法者「ビリー・ザ・キッド」が生前、当時の知事から恩赦を約束されていながら殺害されたとされる歴史のミステリーについて、12月31日で退任する米ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏は同日、調査の結果、ビリー・ザ・キッドに死後恩赦を与えないことに決めたと発表した。

リチャードソン氏は州知事就任以後ずっと、ビリー・ザ・キッド(本名:ウィリアム・H・ボニー)の事件について調査していたという。しかし、知事の最後の日となった12月31日、証拠が不十分だったため、ビリー・ザ・キッドの恩赦を認めない決定を下した。
「ビリー・ザ・キッドに恩赦を与えないことに決めた。決定的なものが不足している。ウォレス知事が恩赦の約束を破った理由もあいまいだ」と、リチャードソン氏は米ABCテレビで語った。

ビリー・ザ・キッドの死後恩赦を求める人びとによると、当時のルー・ウォレス州知事は、別の殺人事件について証言を行うのと引き換えに、ビリー・ザ・キッドに恩赦を約束していたという。しかし、ウォレス知事が恩赦を与えることなく、ビリー・ザ・キッドは1881年7月14日、パット・ギャレット保安官に射殺された。
ビリー・ザ・キッドは少なくとも4人を殺害したとされる。21人を殺害したとの説もあるが、それは「伝説」の域を越えないかもしれない。【1月1日 AFP】
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リチャードソン知事の元には、死後恩赦を求める請願が殺到し、一方、保安官の子孫は恩赦に反対して論争が過熱。知事は任期満了で退任する2010年末までに結論を出すとしていたそうですが・・・。

11ドル強奪関与で終身刑
もうひとつの裁判の方は、より深刻な問題をはらんでいます。
アメリカ社会では1964年に公民権法が制定され、法律の上での人種差別はなくなりました。
しかし、当然ながら人種間の不信感は根深く存在しており、陪審員制度のもと、公平であるとされる裁判において白人よりも黒人に重刑を科すことが多い・・・とも言われています。
そうしたアメリカ司法の黒人への不当量刑の象徴となっていた“スコット姉妹”の事件の話題です。

事件は1993年、ミシシッピ州で起きました。
93年のクリスマスイブに、黒人のスコット姉妹(当時、姉のジェイミーが21歳、妹のグラディスは19歳)は2人の男性に、彼女らをナイトクラブまで車で送るように頼みました。
ドライブの間にジェイミーは気分が悪くなったと訴え、ドライバーに道路わきに停まるように頼みます。
そこには、姉妹の知人でもある車に乗った10代の少年3人(14歳から18歳)が待ち構えており(1人はショットガンを持って)、彼女らの車が止まると少年らは男性を銃で脅し11ドルを強奪、ジェイミーとグラディスは少年らとともに車に飛び乗って逃げ去った・・・という事件です。負傷者はいませんでした。

この事件で逮捕されたスコット姉妹は無罪を主張していますが、11ドルの強盗事件の共犯として、2回分の終身刑を言い渡されました。
彼女らには子供がおり、前科もありませんでした。

強盗を実行した少年たちは8年の刑を宣告されましたが、2年で出所しています。
少年たちのうち2人は、自分たちの量刑を軽くすることへの取引として、彼女らに不利な証言をしています。
その証言を引き出すため警察は少年(14歳)に対して、「姉妹が関係していたと証言しないと、お前を(悪名高い)Parchman刑務所に送って、お前が同性愛であるとばらしてやるぞ」といった、刑務所でレイプされることを意味する圧力をかけたそうです。

彼女らの弁護士もやる気はなく、目撃者を喚問することもなく、後に別件事件で「努力の欠如」のため弁護士資格をはく奪されたような人物でした。

姉に妹が腎臓を提供することを条件に釈放
姉妹は無罪を主張していますが、すでに収監されて16年になり、2014年までは保釈もないとされていました。
しかし、姉のジェイミーが腎臓を患って透析を受けていることもあって、今回姉に妹が臓器提供することを条件に刑期を短縮され、釈放されました。

****米姉妹受刑者を釈放、黒人不当量刑の象徴*****
10代の少年3人が1993年に銃で人を脅し11ドル(約900円)を奪った強盗事件の共犯として2回分の終身刑を言い渡され、16年間服役していた米ミシシッピ州の黒人姉妹が7日、妹から姉への腎臓提供を条件に釈放された。
姉妹の服役は、白人よりも黒人に重刑を科すことが多いという米国司法の黒人への不当量刑の象徴となっていた。

姉のジェイミー・スコット受刑者はこぼれる涙をふきながら、「塀の中の日々があまりに辛くて、塀の外に出られる日が来るとは思ってもいなかった。これでちゃんとした治療が受けられる。感謝しています。とても感謝しています」と語った。
腎疾患のある姉のジェイミー受刑者に、妹のグラディス・スコット受刑者が腎臓を提供するという条件のもとで、同州のハーレー・バーバー知事は前月、両受刑者の釈放を決定していた。

2人の間の腎臓移植が可能なのかはまだわかっておらず、これから検査が行われる。仮に妹の腎臓が合わなければ、新たにドナーを探すことになる。
地元メディアによると、スコット姉妹は、フロリダ州で母親と子どもたちと一緒に暮らす計画を立てている。【1月9日 AFP】
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釈放の決定は、ミシシッピ州のハーレー・バーバー知事によって12月29日に発表されました。
声明で同知事は「スコット姉妹の拘束は、治安面からも更生の観点からも、もはや必要ない。さらにジェイミー・スコットの健康状態は、ミシシッピ州の財政に大きな負担を与えている。姉に腎臓を提供することを条件に、グラディス・スコットを釈放する。手術日は至急、決定する」と述べています。
全米黒人地位向上協会(NAACP)は30日、バーバー知事の判断は「偏見に侵されたわが国の刑事司法制度を象徴する」事件における「公正で勇気ある決定だ」と歓迎する声明を発表しています。【12月31日 AFPより】

臓器売買に当たるとの見解も
州知事は恩赦ではなく、ジェーミー元受刑者の人工透析に要する医療費が財政上の負担を州に課してしることを理由に刑の執行を停止したものですが、臓器移植をその条件にしたことに関しては批判もあります。
****アメリカ:強盗で終身刑の姉妹 「腎臓提供」条件に釈放*****
米ミシシッピ州で93年に起きた武装強盗事件で終身刑を言い渡されていた黒人姉妹が7日、仮釈放された。腎臓病を患う姉へ妹が腎臓を提供し移植手術を行うことを条件に、州知事が刑の執行を停止した。
臓器提供を釈放の条件としたことに米移植学会は「臓器の提供は真に無私の行為で、強制力や金銭など物質的利益を条件とすることから完全に自由でなければならない」と批判する声明を出した。臓器売買に当たるとの見解も出されている。

姉妹はジェーミー・スコット(38)、グレーディス・スコット(36)の両元受刑者で、94年に終身刑を言い渡され服役していた。事件の被害額は多くても2万円弱で、2人は無罪を主張していた。
黒人の人権団体が「刑が重すぎる」と恩赦を求めていたが、州知事は恩赦ではなく、ジェーミー元受刑者の人工透析に要する医療費が年間20万ドル(約1700万円)に上る財政上の負担を理由に刑の執行を停止した。妹のグレーディス元受刑者については「1年以内に姉に腎臓を提供する」と条件を付け、刑の執行を停止した。【1月8日 毎日】
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黒人への不当量刑の問題、犯罪行為の内容(被害金額や負傷者の有無)と量刑の関係、更には、臓器移植を条件とすることの妥当性など、いろいろ問題をはらんだ今回処置です。
しかし、前科なし、負傷者なし、被害金額11ドルで終身刑・・・公民権法制定以前ならともかく、1993年のアメリカでこんな判決がどうして出たのか、不思議な事件です。

なお、事件概要については下記サイトを参考にしました。
http://www.nytimes.com/2010/10/12/opinion/12herbert.html?_r=3&src=tptw
http://www.truecrimereport.com/2010/09/jamie_gladys_scott_got_life_fo.php


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中国の「少子高齢化」「温暖化」対策に思う、日本政治の機能不全

2011-01-08 21:00:55 | 世相

(成長する中国の象徴・上海は、世界トップクラスの少子高齢化が進んだ都市でもあり、「白髪都市」とも呼ばれて問題視されています。
“flickr”より By Kurt van Aert  http://www.flickr.com/photos/kurtvanaert/2562179970/ )

国家と個人
中国の上海・南京路や北京・王府井であれ、雲南や新疆の田舎町であれ、旅行者として街をぶらつく限り、日本社会との大きな違いを感じることは殆んどありません。
しかし、中国は共産党による事実上の一党支配国家であり、党・国家と個人の関係は、日本のそれとは大きく異なる社会であることも事実です。

最近は中国指導部もネット世論などに随分気を使っている側面もあるようですが、日本的な常識・価値観からすれば、党・国家・当局の意思が個人の権利を大きく制約、あるいは無視しているように思える現実も多々あります。
よく紙面を賑わす、当局による一方的土地収用に対する住民の暴動などは、そうした個人の権利がないがしろにされていることに対する不満の表れのひとつでしょう。

【「高齢者と別居している扶養者は日常的に高齢者を訪れなければならない」】
ところで、中国も日本同様に「少子高齢化」の問題を抱えています。特に、中国の場合、「一人っ子」政策によって人口構成がいびつになっていることが問題を加速・深刻化させています。
驚異的な経済成長を続ける中国の一番の問題は、この人口問題にあるとの指摘もあります。
当然、中国当局も何らかの対策を講じなければ・・・と考えている訳で、下記の記事などもそのひとつです。

****中国:進む高齢化…日常的に親元訪問、義務化へ 我が子を提訴も可能****
「一人っ子」政策によって急速な高齢化が進む中国で、高齢の親と別居する子供に対して、日常的に親元を訪問することが法律で義務付けられる見込みになった。5日付の中国各紙が、所管する民政省幹部の話として伝えた。
中国では96年に施行された「高齢者権益保障法」の改正作業が進められており、民政省がまとめた改正案が近く全国人民代表大会(国会)に提案される見通し。

改正案では、高齢者の「精神慰謝」という1章が追加され、そこに「高齢者と別居している扶養者は日常的に高齢者を訪れなければならない」と規定されている。「日常的」の定義や頻度などは実施細則で定める方向だ。
義務化する背景には、1人暮らしなどで孤立する高齢者の急増がある。中国で同法の対象となる60歳以上人口は約1億6700万人。うち半数以上が子供と別居している。
親孝行は中国で最も尊重される道徳の一つ。だが、双方の親4人を扶養する「一人っ子」夫婦にとっては、遠い親元を頻繁に訪れることが難しいという事情もある。しかし、法律改正が実現した場合、違反した子供たちを親が訴えることも可能になるという。【1月8日 毎日】
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日本でも“直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある”【民法 第877条】という法律規定はありますが、今回の中国の改正案では「高齢者と別居している扶養者は日常的に高齢者を訪れなければならない」と具体的です。
これが単に精神的な規定にとどまるのか、何らか実効性を持つものにする意図があるのかはわかりません。

いずれにせよ、“親元を訪れるべし”というような個人生活に関わることをバサッと法律で規定してしまうという発想は、なかなか日本では出てこないものです。
そこまで国家が個人生活に介入してくることについては拒否感があります。
万一、中国でこれをもとに何らかの具体策がとられたとしたら、茶番劇的な騒動もおこるでしょう。
そもそも問題の背景にある「一人っ子」政策自体が、国家と個人の関係で大きな問題をはらんでいます。

ただ、この記事を見て、あまり揶揄したり批判したりする気にもなれませんでした。
それは、同じく「少子高齢化」の問題を抱える日本を顧みると、最重要課題であるとの認識はあるものの、ここ数年の政治状況は政争・足の引っ張り合いに終始し、こうした重要課題の議論、実効性ある対策の実施がなされてきていないように思えるからです。

緑の茶番劇
中国の「少子高齢化」対策の記事を見て思い出したのは、同じく重要課題である温暖化対策にかんする中国の取組を伝える記事です。

****中国河北省で病院・学校への電力供給カット=国営メディア*****
中国河北省安平県で、政府の省エネ目標を達成するため、信号、病院、学校、住民への電力供給が約10日間にわたって順次カットされる事態が発生し、中央の機関からは行き過ぎだとの批判の声が出ている。
国営放送の中央人民広播電台が報じた。

中国では電力供給が需要に追いつかずたびたび停電が発生するが、今回の騒動は、中央政府の進める省エネ対策を地方政府がいかに歪めて解釈し得るかを浮き彫りにしたと言える。
安平県政府は、住民からの不満が相次いだことを受け、学校、病院、廃水処理施設、街灯、信号への安定した電力供給を約束したという。
地元政府関係者によると、安平県では上半期の電力消費が0.9%しか減らず、今年の目標である電力消費6.6%減を達成するため、一連の電力供給カットを余儀なくされたという。
中国社会科学院の研究員は中央人民広播電台に対し「利用目的にかかわらず、電力を一律に制限するのはばかげている。中央政府の意図は効率化だ」とコメントした。
中国政府は、単位国内総生産(GDP)当たりのエネルギー消費を2005年の水準から5年間で20%減らす目標を掲げている。同エネルギー消費は過去4年間減少を続けたものの、今年第1・四半期は前年比で3.2%増加しており、目標達成が危ぶまれている。【10年9月6日 ロイター】
***************************

さすがに学校・病院や信号の停電はまずい・・・ということになったようですが、工場への電力供給カットは企業へ大きな影響を与えたようです。

****中国地方政府、省エネ達成へ強制停電 生活・企業を直撃****
中国で停電が続出している。年末に期限がくる国の省エネ目標を達成しようと、地方政府が電力の供給を制限しているからだ。突然の停電で人々の生活や日系企業の工場にも影響が出ている。
「電力の供給は毎日午後6時から10時まで」――。河北省のある村が10月、「無差別停電」を始めたところ、抗議が殺到。村は22日、「エネルギー効率の悪い企業は淘汰(とうた)するが、学校や病院への送電は保障する」と通知を出し、停電は「電線の修理のため」と弁解した。同省のほかの村でも9月、ろうそくが値上がりしたり、ポンプが止まって野菜の水やりが滞ったりした。

中国政府は2010年までの5カ年計画で、国内総生産(GDP)単位あたりのエネルギー消費量を05年より20%減らす目標を掲げる。だが、金融危機もあって省エネへの取り組みが後回しになり、今年上半期は微増。残り半年で約5%を減らさなければならなくなり、生産活動のもとになる電力を制限したようだ。
中国共産党・政府は人事評価に近年、省エネ・環境への対応を加えており、温家宝(ウェン・チアパオ)首相は「(割り当てた)目標を達成できなければ責任を追及する」と明言。地方政府の幹部はしゃにむに動いている。中国は過去、設備の老朽化や消費の伸びに発電が追いつかずに停電を迫られたことはあったが、意図的な停電は初めてという。

工場向けに停電に踏み切る都市も多い。8月末以降、江蘇、浙江、山東省などで日系企業にも影響が出ている。突然の通知で5日連続の停電を命じられたり、送電量を2割減らされたり。増産を見こんで新しい設備を導入したとたんに停電され、資金繰り難に陥った企業もある。1カ月、操業停止になった中国の製鉄会社もある。
日本貿易振興機構上海センターは「突然の変更は企業の生産計画に大きな影響を及ぼす。そもそもエネルギー効率を上げる目標であり、全体の量を減らすのは不合理」として、改善を申し入れている。
中国国家統計局によると、9月の発電量の伸びは8.1%で、今年1~8月の17.2%から半減した。電力の消費量が大きい粗鋼の生産はマイナス5.9%。工業全体の生産も鈍っている。同局も「エネルギー消費や二酸化炭素の排出量の削減に力を入れているからだ」(報道官)と説明した。来年以降の5カ年計画でも省エネ目標は導入される見通し。その実現に向けた手法に注目が集まっている。【10年10月23日 朝日】
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地方政府が環境対策として電力供給を制限した結果、企業は軽油を燃料とする自家用発電機を使用するようになり、中国各地のガソリンスタンドが深刻な軽油不足に陥っている・・・【10年11月8日 産経より】ということにもなっているようです。
“地方政府が省エネ目標を達成するために、自家発電で環境にさらに重い負担をかけているのが実態だ。”【同上】という次第で、中国メディアも批判しており、英字紙シャンハイデイリーは削減目標を大慌てで達成しようという政府の動きを「緑の茶番劇」と呼んでいます。

具体策が何も出ない日本
この騒動は、中国の“上意下達”的政治体質、目的のためなら手段を選ばぬ滑稽さ・非合理性を揶揄する形で報じられましたが、このときも親元訪問義務化法案の話題で感じた、茶番劇と嗤えないためらいを感じました。

温暖化対策という問題について言えば、COPなどの議論では消極的とされる中国ですが、この騒動はそれなりに数字を出そうとしている“努力”の表れでもあります。
一方で、京都議定書で削減義務を負い、鳩山前首相が高い目標を掲げた日本はこの間何をやってきたのか・・・・。

より大きな枠組みでとらえると、温家宝首相・党首脳の意向が「茶番劇」的な騒動となったりはするものの、広く徹底される中国に対し、“民主的”議会で時間をかけても何も出てこない日本。
別に中国的な社会がいいとも、住みたいとも思いませんが、また、民主主義はときに非効率とさえ思えるような時間がかかることも承知していますが、結果何も決まらないというのでは困ります。

「なまじ民主的な国家より、叡智ある慈悲深い独裁者の支配する国家のほうがいいのかも・・・」なんて危ない考えがよぎったりもします。
もちろん、“叡智ある慈悲深い独裁者”など存在しませんので、非効率でも民主的議論をつくしていくしかありません。
それにしても日本政治の機能不全は何とかしないと。


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ペルー  フジモリ元大統領長女ケイコ氏、大統領選挙への正式出馬

2011-01-07 20:48:23 | 国際情勢

(昨年12月 ケイコ氏(写真中央) “flickr”より By keiko.fujimori
http://www.flickr.com/photos/keikofujimori/5244655929/ )

有力候補3人の1人
今朝のTVニュースで、ペルーのフジモリ元大統領長女ケイコ氏の大統領選挙出馬を報じていました。
日系ですので顔立ちは馴染みやすく、どちらかと言えばお笑い系のTV番組などに出てきそうな感じです。

****フジモリ氏長女が正式出馬 ペルー大統領選*****
4月に実施される南米ペルー大統領選挙に、フジモリ元大統領(72)=服役中=の長女で、国会議員のケイコ氏(35)が6日、選挙管理当局に立候補届けを提出した。初出馬の同氏は世論調査で上位につけており、ペルー初の女性大統領を目指している。この日、ケイコ氏は「今日から(選挙までの)最後の区間が始まる」と演説。左翼ゲリラの残党らの摘発強化などを訴えた。【1月7日 共同】
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ペルーは国家全体としては順調な成長を遂げていますが(実質GDP成長率で07年8.9%、08年9.8%、09年0.9%)、その一方で、成長の恩恵を受けられず貧困から抜け出せない多くの国民が存在しています。
TVニュースでは、フジモリ元大統領の支持基盤でもあった貧困層や女性の支持を受けているとのことで、学校給食や医療の無料化など、貧困対策を前面に押し出した選挙戦を行っているようです。

もっとも、野党候補の選挙公約ですから、そうした貧困対策の一方で財政再建なども掲げ、一体どやって両立させるのだろうか・・・というところはありますが。まあ、それは彼女だけの話ではないでしょう。
今のところは、有力候補の一人となっているようです。

****フジモリ元大統領の長女、大統領選へ出馬表明****
ペルーで受刑中のアルベルト・フジモリ元ペルー大統領の長女で国会議員のケイコ・フジモリ氏(35)が7日、来年4月に行われるペルー大統領選への出馬を表明した。
大統領選は4月10日に投票が行われる予定で、フジモリさんは有力候補の一角になるとみられている。ペルー大統領の有資格年齢は就任時に36歳以上だが、当選した場合、フジモリ議員はこれをぎりぎりで満たす。また大統領の3期連続再選は禁じられているため、現在2期目のアラン・ガルシア大統領は、次期大統領選へは出馬できない。
ケイコ・フジモリ氏は、フジモリ元大統領の4人の子どものうちの最年長で、2006年の総選挙で圧勝し議会入りした。

最近の世論調査によると、アレハンドロ・トレド前大統領、首都リマの前市長ルイス・カスタニェダ氏と並び最有力候補3人の1人に挙げられている。
しかし議会での業績が乏しいこと、また市民虐殺事件で実刑判決を受け受刑中の父親のイメージの悪さなどが足かせとなり、次期大統領選までの数か月でフジモリ議員の形勢は不利になるだろうとみる専門家もいる。
また、大統領となって父親に恩赦を与えるためだけに出馬すると述べた昨年の発言も、一部で問題視されている。ここ数か月、フジモリ議員はこの件に関連する発言は一切していない。また、フジモリ議員が大統領に就任しても、そうした権限があるかどうかは定かでない。【10年12月8日 AFP】
********************************

フジモリ元大統領の裁判への関与は?】
一方、父親フジモリ元大統領は在任中、麻薬組織や左翼ゲリラを抑え、経済を安定軌道に乗せたとの評価がありますが、その強権的・独裁的政治体質への批判もありました。
現在は、軍による民間人殺害への関与など2件の人権侵害と汚職5件の計7件の罪状で公判中で、一審ではすべて有罪となり、軍による民間人殺害への関与では最高裁での実刑判決も確定しています。

****ペルー:フジモリ元大統領、禁固25年が確定 市民虐殺で****
1990年代にペルーで起きた市民虐殺事件をめぐり殺人罪などに問われた元大統領、アルベルト・フジモリ被告(71)の上訴審で、最高裁特別刑事法廷は3日、禁固25年の1審判決を支持することを決めたと発表した。裁判は2審制で、これにより実刑が確定する。
秘密裏に左翼ゲリラ掃討を担当していた軍の暗殺組織「コリーナ部隊」が、91年に8歳男児を含む住民15人を殺害したバリオスアルトス事件と、92年に学生ら10人を誘拐・殺害したラカントゥタ事件などについて、当時大統領だったフジモリ被告の罪が問われた。
フジモリ被告は「コリーナ部隊の作戦に関与していない」などとして無罪を主張。しかし、1審判決は最高権力者である大統領が部隊を指揮した「間接主犯」と認定。上訴審も1審の有罪判決を支持した。同被告は他の事件でも有罪判決を受けているが、ペルーでは最も重い刑期が適用され、禁固25年となる。
   ◇
フジモリ元大統領は実刑が確定したことで、政治生命をほぼ絶たれたといえる。ただ、フジモリ派は11年の次期大統領選で長女ケイコ・フジモリ国会議員(34)を擁立する見通しで、元大統領の「名誉回復」を図る動きもある。
フジモリ被告は大統領時代に左翼ゲリラの鎮圧や経済立て直しで成果をあげ、依然として根強い人気がある。一方、92年に憲法を大統領が自ら停止するなど、強権的な政治手法から「独裁者」と批判されてきた。
側近の汚職を引き金に3期目就任直後の00年に失脚。既に4年余りの拘束生活を送るが、フジモリ派は国会で第3党を占めるなど一定の影響力を保持。ケイコ氏が次期大統領に当選すれば、父親に恩赦を与えるとの観測も出ている。地元ラジオ局RPP(電子版)によると、同派スポークスマンのラフォ国会議員は3日、「選挙で我々が勝利することで、元大統領の名誉回復を目指す」と表明した。【1月3日 毎日】
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ケイコ氏の大統領選出馬は、父親フジモリ氏への恩赦のためではないか・・・との批判もありますが、今朝のTVニュース・インタビューでは、「立候補にあたっては、貧困対策が最優先事項だ」と、“父親のための出馬”を否定していました。

父親の件については、優秀な弁護士のもとで無罪を勝ち取れるとも言っていましたが、その一方で、現在の裁判を不公正と批判して、市民を加えた裁判制度自体の変更をも示唆していたようです。(TVニュースは出勤前の慌ただしい中だったので、このあたりはよく観ていません。)恩赦という直接的な手段は公言していませんが、裁判への何らかの関与を考えているようです。

ケイコ氏が、現在の勢いを維持して台風の目になるのか、【10年12月8日 AFP】にあるように、失速していくのか、注目されるところです。

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キルギス  ロシアとの関係強化へ 「ウラジーミル・プーチン峰」

2011-01-06 20:47:25 | 国際情勢

(昨年10月の議会選挙の際のポスター 左はメドベージェフ・ロシア大統領のようです。ということは親ロ派野党のアル・ナムス(「尊厳」)のポスターでしょうか。得票率7・74%で議会内に一定の勢力を築いた親ロ派「尊厳」は今回の連立政権には参加していません。
“flickr”より By yeva m  http://www.flickr.com/photos/54602850@N08/5064308954/ )

【「ウラジーミル・プーチン峰」】
中央アジアのキルギスでは昨年12月17日、オトゥンバエワ暫定大統領の与党、社会民主党のアタムバエフ党首を首相とする連立政権が発足し、強権支配国家が多い中央アジアで初となる議会制民主主義体制が成立しました。
もともとキルギスは、他の中央アジア国家に比べると一定に政治的自由が許されており、そうした自由があったからこそ政権批判や集会が可能で、昨年のバキエフ前大統領追放の政変も実現したとも言われています。

そんなキルギスですが、いささか笑えると言うか・・・首をかしげると言うか・・・そんなニュースが。
****キルギスに「プーチン峰」誕生へ 親ロ姿勢を強調*****
中央アジアのキルギスに「プーチン峰」が誕生しそうだ。イタル・タス通信などによると、アタムバエフ新首相がロシアのプーチン首相にちなみ、北部チュイ州の天山山脈にある4500メートル級の無名峰を「ウラジーミル・プーチン峰」と命名する法案に署名、議会に提出した。
昨年4月の政変を経て新体制に移ったキルギスでは、昨年12月に就任したアタムバエフ首相が最初の外遊でロシアを訪問。会談したプーチン首相から閣僚全員を一人ずつ紹介されるなど手厚く迎えられ、「ロシアとキルギスは切り離せない関係にある」と戦略的パートナー関係を強調した。法案への署名は、12月末の訪ロ直前の同24日に済ませていた。親ロの姿勢を打ち出す狙いがあると見られる。
キルギスには中央パミールに「レーニン峰」(7134メートル)があるほか、2002年には天山山脈の5千メートル級の未踏峰がロシア初代大統領にちなんで「エリツィン峰」と名付けられている。【1月6日 朝日】
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“こわもてで岩のように固い筋肉で知られるロシアのプーチン首相”【1月6日 AFP】ですが、今回「ウラジーミル・プーチン峰」と命名される標高4446mの峰もそんな感じなのでしょうか。
それにしても「そこまでやるかな・・・」という感もあります。

かつて、プーチン首相に絶対的忠誠を示しつつ、域内では中央政府を権限をもしのぐ独自の強権的支配体制を固めるロシア南部チェチェン共和国のカドイロフ大統領(共和国の“大統領”という名称は廃止されるそうですが、それもカドイロフ氏が「大統領を名乗るのは恐れ多い」と言い出したとか)が、首都グロズヌイ中心部の通りの名称をプーチン首相にあやかった「プーチン大通り」に改名したことがありました。

チェチェンの場合はまだロシア国内ですが、キルギスは旧ソ連とは言え独立国家です。
それが、「ウラジーミル・プーチン峰」というのは・・・。
ロシアの政治体制の表向き頂点にある「メドベージェフ峰」ではなく「プーチン峰」というのも、やはりロシアの実際の権力者はプーチン首相であることを示しているようにも思えます。
ただ、「レーニン峰」はともかく、「エリツィン峰」より標高が低いことで、プーチン首相のご機嫌を損じないでしょうか。

【「ロシアは主要な戦略的パートナーだ」】
話を本筋に戻すと、“新首相は最初の外遊先として「戦略的パートナー」であるロシアを訪問する考えを示す一方、アフガニスタンへの物資輸送拠点となっている北部マナスの米空軍基地使用をさらに4年間継続させると言明し、米国とロシアに対するバランス外交を展開する姿勢を見せた。”【12月18日 毎日】とのことですが、今回の「プーチン峰」といい、かなりロシアへの傾斜を強めているようにも見えます。

昨年6月の政変に伴う南部オシでの民族衝突の際には、オトゥンバエワ暫定大統領はロシアに治安維持部隊の派遣を要請しましたが、ロシアは平和維持部隊派遣を拒否し、カント空軍基地に輸送機3機を派遣したものの人道支援にとどめる慎重姿勢を見せていました。

昨年7月には、オトゥンバエワ暫定大統領は、キルギス国内にカント空軍基地に次ぐ2番目のロシア軍基地を受け入れる可能性があると述べています。

年末には、ロシアが主導する関税同盟への参加の意向を表明しています。
****キルギス:旧ソ連3カ国の関税同盟に参加表明 新首相が*****
中央アジアで初めて議会中心の政治体制に移行したキルギスのアタムバエフ首相は27日、モスクワでロシアのプーチン首相と会談し、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの旧ソ連3カ国でつくる関税同盟にキルギスも参加する意向を表明した。
17日の就任後、最初の外遊先としてロシアを訪れたアタムバエフ首相は「ロシアは主要な戦略的パートナーだ」と述べ、両国間でかつて協議されていた天然ガスや水力発電の共同プロジェクトを再開させたい考えを示した。プーチン首相はアタムバエフ氏の首相就任を祝し、新政権が経済難や政治的不安定を解決することに期待を表明した。
ロシアが主導する関税同盟は、税関手続きの簡素化などで域内の経済統合を強めるのが目的で、12年には自由貿易圏の創設を目指している。【12月28日 毎日】
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ロシア悲願のWTO加盟が現実的になってきている現在、ロシアが主導する関税同盟が今後どのように機能するのかはよくわかりませんが、とにかくキルギスとしては経済的にロシアとの関係強化を柱としていく方向のようです。
ロシアとしては、キルギスとの関係強化は、ウクライナの親ロ政権やポーランドとの関係改善などと並んで周辺国との関係強化、ロシアの影響力強化を示すもので歓迎すべきものでしょう。

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スーダン  南部独立を問う住民投票を9日から実施 西部ダルフールで高まる緊張

2011-01-05 22:01:47 | 国際情勢

(分離独立を熱烈に支持する南部住民 ただ、独立に向けた体制・準備が南部側で整っているのか、独立してやっていけるのか・・・と言えば、危ぶむ声もあるのも事実です。南部自治政府の独立後の責任は重大です。国の運営には熱狂ではなく地道な努力が求められます。
“flickr”より By Al Jazeera English http://www.flickr.com/photos/aljazeeraenglish/5323503164/ )

【「南北関係は当面、緊張をはらんだものになるだろう」】
実施が危ぶまれていたスーダン南部の分離独立の是非を問う住民投票が9日から始まるようです。
スーダンはアラブ系イスラム教徒中心の北部を基盤とする政府軍と、キリスト教徒や土着宗教信者などが多い南部の黒人系民族の反政府勢力の間で長く紛争が続き、その犠牲者は200万人とも言われています。
南北間の紛争は05年の包括和平合意で一応終息し、今回の南部独立を問う住民投票はその包括合意に定められているものです。住民投票が実施されれば、“分離独立”の結果がでると思われています。

当然ながら北部中心の・バシル大統領は南部独立には消極的ですが、南部に石油資源が存在することも影響しています。特に、南北境界付近に存在する油田地帯のアビエイ地区については、どちらに含まれるのか線引きも定かではありません。
なお、石油権益については“バシル氏にとって重要なのは北部で権力を維持することだ。南部には有力な油田があるが、パイプラインなど石油の輸出用設備はすべて北部にある。仮に油田すべてが南部のものになっても使用料などが入る。南部の石油権益をすべて失うことにはならない。”【10年4月28日 朝日】との現地識者の指摘もあります。

ダルフール紛争の責任を問われて国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているバシル大統領の欧米での評価は劣悪で、本当に南部独立を認める気があるのか懸念されています。
今朝のTVニュースによれば、バシル大統領は南部スーダン自治政府の首都ジュバを訪れ、「我々与党は統一を支持しているが、住民投票の結果が統一になろうが、独立になろうが、南部住民の意思を尊重する。もし分離独立とういうことになれば、それにともなう混乱の要素への対応の準備はできている。線引きが未確定のアビエイ地区などについては、話し合いで解決できると考えている・・・・」といった住民投票結果を尊重する主旨の発言をしていました。

****スーダン南部、9日から住民投票 独立濃厚も油田争い火種****
20年余に及ぶ内戦を終結に導いた2005年の包括和平合意に基づき、スーダン南部の分離独立の是非を問う住民投票が9日から始まる。独立賛成が反対を上回るのはほぼ確実で、アフリカで54番目の国家が誕生する公算が大きい。しかし、南部が石油の産地であることなどから、北部に拠点を置く中央政府は独立に必ずしも前向きでなく、対立の火種は消えていない。

「9日は偉大な日だ」
南部自治政府を主導するスーダン人民解放運動(SPLM)関係者からは早くも、独立を前提とした発言が相次いでいる。住民投票をめぐっては一時、事務作業の遅れなどから延期も取り沙汰されただけに、国連や関係各国にも一応の安堵(あんど)感が広がる。
しかし、専門家らの間では、今後の情勢は決して楽観できないとの見方が大勢を占める。
スーダンでは1983年、アラブ系イスラム教徒中心の北部の政府軍と、キリスト教徒などが多い南部の黒人系民族との間で第2次内戦が勃発、2005年の和平合意までに約200万人が死亡したとされる。
その際の激戦地の一つとなった中部の油田地帯・アビエについて、和平合意では南部住民投票と同時に、南北どちらに帰属するかを問う住民投票を行うとしていた。しかし、北への残留を主張するアラブ系遊牧部族ミッセリアを有権者に含めるか否かをめぐる南北の協議が難航、実施のめどは立っていない。
南北双方ともアビエの自領への組み入れを狙っており、「対立が続けば、北の支援を受けるミッセリアとSPLMが衝突し和平合意崩壊の導火線になりかねない」(スーダン人ジャーナリスト)との指摘もある。

スーダンのバシル大統領が昨年12月、南部独立が実現すれば、北部で施行されるイスラム法(シャリーア)を強化するとの考えを表明したことも懸念材料だ。北部に多く居住する非イスラム教徒からの反発は必至で、野党勢力は「SPLMの影響が強い地域が、南部への編入を主張し始める恐れがある」と、国のさらなる分裂を警告する。
こうした問題に加え、約20%が未画定の南北境界線や、南部に集中する石油資源からの収入の配分についても、今後、両当局間で話し合いが行われる。南部から武器が流入しているとの指摘もある西部ダルフール地方の反政府勢力と政府との紛争も、解決の糸口は見えていない。
スーダン問題に詳しい隣国エジプトの「アラブ・アフリカ研究所」のヘルミー・シャラウィ副所長は、情勢の変化を注視する必要があるとした上で、「南北関係は当面、緊張をはらんだものになるだろう」と予測している。【1月5日 産経】
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世界に忘れられたダルフール
南北間の問題とは別に、スーダンは西部ダルフールでの紛争も抱えています。
ダルフール紛争は昨年2月、政府と主要反政府勢力「正義と平等運動」(JEM)が和平実現に向けた枠組み合意に調印して停戦に入りましたが、5月にJEMが和平交渉を打ち切ってから戦闘はむしろ激化しているとも報じられています。

****スーダン 世界に忘れられたダルフールで続く悲劇*****
国連・アフリカ連合合同活動(UNAMID)の報告によると、スーダン西部ダルフール地方で5月に殺された犠牲者の数は約600人。07年に国連が介入して以降、最大の数字だが、なぜかあまり注目されていない。世界はダルフールヘの関心を失ったのか。
反政府組織「正義と平等運動」(JEM)は最近、政府軍の兵士35人を拘束した(6月9日に解放)。今年4月に行われた大統領選挙と総選挙を前に、政府とJEMの間では2月、和平に向けた枠組み合意が結ばれ、停戦が期待された。だが、5月にJEMが和平交渉を打ち切ってから戦闘はむしろ激化していると、英BBCは報道している。
人道危機は深刻で、「紛争地域への支援が圧倒的に不足している」と、国連の報告は警告している。国連の推定では03年以降、ダルフール紛争による同地域での死者は30万人に上り、260万人の難民が発生している。犠牲者数が増加した程度では誰も驚かなくなってしまったのかもしれない。【6月23日号 Newsweek日本版】
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混とんとしつつあるダルフール情勢
今回の南部独立を問う住民投票が、ダルフールの緊張を更に高めているとの報道もあります。

****スーダン:ダルフール緊迫 「南部独立」住民投票に影*****
南部の独立を問う住民投票が来月9日に行われるアフリカ・スーダンで、南北の対立とは別に、西部ダルフール地方の紛争が再燃する兆しを見せており、住民投票への波乱要因になっている。先週にはダルフールで政府軍と反政府勢力による戦闘が発生、反政府側の40人が死亡した。
背景には独立を目指す南部との微妙な駆け引きにダルフール紛争が影響を及ぼさないよう、バシル大統領が軍事攻撃を含めた“解決”を目指し、強硬になりつつある事情がある。これを受け、分裂していた反政府勢力は結集しつつあり、情勢は混とんとしつつある。

アラブ系の中央政府に対し、黒人住民らの反政府勢力が対立していたダルフール紛争は今年2月、政府と主要反政府勢力「正義と平等運動」(JEM)が和平実現に向けた枠組み合意に調印した。しかし、他の反政府勢力などとの足並みがそろわず、断続的な交渉は続くものの最終合意には至っていない。
(12月)24日にダルフールで起きた戦闘では、JEMなど複数の反政府勢力が数年ぶりに結集し、「政府軍に重大な損失を与えた」と発表した。直接的には関係のない南部住民投票を機に、ダルフールの反政府勢力がまとまりを見せ始めている。

バシル大統領にはダルフール紛争での「戦争犯罪」などの容疑で09年、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出されている。南部住民投票の結果を認めるよう国際的に圧力を受け、南部と交渉を続けなければならないバシル大統領にとってはダルフール紛争の解決は急務だ。
バシル大統領は29日、「反政府勢力側が最終合意に至らないなら(中央政府は)和平交渉から退くことになる」と警告した。
国連によると今月10日以降、西部での戦闘で新たに推定3万2000人が避難民化しており、事態悪化が懸念されている。

一方、住民投票は来月9~15日に実施される。AFP通信によるとバシル大統領は29日、「南部の同胞の決定を否定しない」とし、分離・独立が決定した場合でも「新たな同胞国家として最初に承認する」と述べた。21日にはキール南部自治政府大統領を交え、隣国エジプト、リビア両首脳と会談。平和な投票実施を呼び掛ける共同声明も発表した。
しかし、南北の境界線画定や石油資源の利益配分などを巡り、南北間の対立は解消されていない。住民投票を支援する米国はバシル大統領に対し「予定通りの実施」「結果の受け入れ」を求め、圧力を強めている。【12月30日 毎日】
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南部にしても、西部ダルフールにしても、どこから火を吹いてもおかしくない火薬庫を抱えたスーダンですが、とりあえずは南部住民投票の公正な実施と、その結果受け入れをバシル大統領には期待します。
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中国と台湾  「辛亥革命」から100年  中台関係を巡る両者の思惑と世情

2011-01-04 19:19:12 | 国際情勢

(台北 昨年10月10日に行われた清朝を打倒した1911年の辛亥革命を記念する「双十節」(「中華民国」の建国記念日)を祝う式典パレード 100周年を迎える今年は、中国から記念行事の共同開催の打診ありましたが、台湾側は拒否しています。 “flickr”より By sunshine莊信賢影像世界
http://www.flickr.com/photos/sunshine_chuang/5074903241/ )

【「辛亥革命」の勃発から100年
今年、清朝支配に終止符を打った「辛亥革命」の勃発から100年を迎えます。
「辛亥革命」を出発点とし、共に孫文を「国父」と位置づけている台湾と中国ですが、当然ながら思惑の違いがあります。

****辛亥革命100周年 統一促進に利用 「中華民国」堅持 中台、思惑の違い鮮明****
今年、清朝を倒した「辛亥(しんがい)革命」の勃発から100年を迎え、その歴史に連なる中国と台湾の政治的思惑の違いが改めて浮き彫りになっている。経済面では急接近する中台だが、辛亥革命で成立した「中華民国」を堅持する“本家”の台湾は、その後の国共内戦勝利で成立した共産・中国に統一工作などの政治面で利用されたくないとして、100周年記念行事の中台共同開催を拒んでいる。

1911年10月10日に勃発した辛亥革命の成功により、孫文を臨時大総統とする共和制国家「中華民国」が成立した。しかし孫文らが19年に結成した中国国民党は49年、中国共産党との内戦に敗れて台湾に政権を移し、「中華民国」を名乗り続けている。
このため台湾側は辛亥革命の意義を共和制の確立に求めている。馬英九総統は辛亥革命の蜂起から99年となった昨年10月10日の「双十節」で、「両岸(中台)は現時点で法的に(国家として)認め合うことは不可能だ」と指摘。そして辛亥革命そのものよりも、「中華民国100年」を祝賀する方針を改めて強調した。

一方、49年に「中華人民共和国」を成立させた共産党の中国は「中華民国」の存在は認めず、清朝打倒による満州族支配からの漢族の解放と、数千年に及んだ君主政治に終止符を打ったことに歴史的な評価を与えている。
中国の国務院(政府)台湾事務弁公室スポークスマンの楊毅氏は昨年12月29日の記者会見で、「両岸は辛亥革命100周年の記念行事を共同で実施すべきで、両岸の団結と中華民族の復興にも有利だ」と述べた。
中台の経済協力枠組み協定(ECFA)は1月1日付で発効している。中国は「先経後政(経済問題を先(ま)ず解決、その後に政治問題を解決する)」を基本戦略とする台湾統一工作において、ECFA発効をステップとし、辛亥革命100周年を政治的接近のチャンスと位置づけている。
蜂起場所の武昌を抱える湖北省武漢市も、総額200億元(約2500億円)もの予算をつけて記念館を設置。武漢や北京以外に、中華民国が首都を置いた江蘇省南京や、孫文の出身地(現・広東省中山)に近い広東省広州も式典開催に意欲を見せている。
今年10月10日の辛亥革命100周年に向け、“同床異夢”の中台の間でさまざまな思惑が渦巻くことになりそうだ。【1月4日 産経】
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経済協力枠組み協定(ECFA)に代表されるように、中台間の経済関係強化を進めることで台湾経済の活路を切り開こうとする国民党・馬英九政権ですが、巨大な中国の影響力に絡めとられる不安と経済的実利の間で台湾の民心も揺れています。

昨年11月の台湾5大市長選挙
台湾の今後の国政を占う選挙として注目された、昨年11月27日の5大都市での市長選挙においては、野党・民進党有利の戦前予想を覆して、与党・国民党が現有3市長を死守したものの、得票率においては民進党のリードを許す結果となっています。

この結果に野党・民進党側は、12年3月の総統選での政権奪還への足場を築けたと評価すると同時に、中国との関係についても模索しています。独立志向が強いと言われる民進党ですが、今の台湾経済が中国との関係なしには立ち行かないという認識では国民党と大差はありません。
****台湾:「与野党の勢力は互角」政権奪還に自信…民進党主席*****
台湾の最大野党・民進党の蔡英文主席は2日、日本メディアと会見し、先月27日に行われた5大市の市長選の結果について「与野党の勢力は互角になった」と述べ、12年3月の総統選での政権奪還に自信を見せた。同市長選で民進党は与党・国民党に3市で敗れたが、全体の得票率では国民党を上回った。
また蔡主席は政権奪還に向けた準備として、中台関係など対外政策を検討するシンクタンクを新たに設立することを明らかにした。同党は独立志向が強く中国側の警戒心が強いことから、中国全体の研究や理解を深めるほか「中国との意思疎通の役割を持たせ、中国にも民進党や台湾の民衆の意見を理解させたい」と述べた。【12月2日 毎日】
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国民党政権の中台経済関係強化に将来の「ひとつの中国」を期待する中国は、国民党側が現有勢力を維持したことで、「2年余りの両岸(中国と台湾)関係の改善と発展は両岸同胞に真の利益をもたらし、両岸関係の平和的発展への支持は共通認識となっている」「われわれは引き続き台湾各界と共に努力し、両岸の交流と協力を拡大して、関係発展を徐々に進め、同胞の福祉を増進していく」(中国国務院台湾事務弁公室の範麗青報道官)と、国民党政権との関係発展を今後も進めていく意向を示しています。【10年11月28日 時事より】

現状維持を望む世論
世論調査によれば、台湾の中国への対応は「現状維持」を望む声が多いようです。
****台湾有情 統一派が減った*****
馬英九政権発足以来の2年余りで中台交流が飛躍的に拡大する一方、台湾では中国との統一を望む住民が大幅に減っている。これにはさまざまの解釈ができるが、筆者には共産党政権の統一をめざした政治・経済攻勢や中国人観光客の激増が、台湾人の警戒心を呼び起こしているようにみえる。

台湾紙、聯合報の世論調査(8月下旬実施=有効回答者1001人、9月11日掲載)によると統一を望む回答者は「早急に統一(5%)」と「将来(9%)」を合わせて14%だった。
10年前の同調査では「早急(9%)」と「将来(20%)」だったから、統一派は半減した。一方、「早急に独立(16%)」と「将来の独立(15%)」は31%と、10年前(26%)に比べ微増した。
過半数の51%が「永遠に現状維持」で、こちらは19ポイント、6割も増えた。現状維持とは「統一せず明確な独立宣言もせず、事実上の独立を維持する」ことだ。
聯合報は中国国民党支持の親中国紙で、将来の中台統一を視野に入れている。その調査でさえ、統一を拒否し独立を望む世論が強まっているわけだ。
中国は経済協力枠組み協定(ECFA)締結後、文化や軍事面での協定交渉を急いでいる。しかし、これが裏目に出て、事実上の独立志向を強める結果を招いているようだ。【10年09月23日 産経】
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中国への吸収を意味する「統一」でも、波風立てる「独立」でもない「現状維持」がいい・・・と言うのはわかりますが、曖昧な「現状」を巨大な中国の影響力のもとで維持していくのは、かなり高度な政治的テクニックを要する技のようにも見えます。

将来に向けて変化の要素も
ただ、将来の話になると、国家・政権の意向にかかわらず、時間の経過とともに人心も変化しますし、情況も変わっていきます。
そうしたことを窺わせる話題が年末に2件ありました。

****台湾:毛沢東ら上位に 「大人物」ネット投票****
台湾の馬英九政権が来年の辛亥革命100年に合わせた記念事業の一環で住民に「中華民国100年大人物」を選んでもらうインターネット投票を実施したところ、今月初めまでの途中経過で、中華民国を打倒した中国共産党の指導者だった毛沢東やトウ小平が上位に食い込み、中華民国の指導者で総統だった蒋介石を上回った。
主催者で総統府直属の歴史編集機関「国史館」は来年1月末まで投票を受け付ける予定だったが、台湾立法院(国会)で「(共産党の指導者を)選択肢に入れる必要があったのか」と批判が集中し、投票は今月8日に中止。同館の林満紅館長が辞任に追い込まれた。

ネット投票は、生存者を除外した100人の中から分野別に大人物を選ぶ形式。政治分野では、1位が革命家で中華民国初代総統の孫文、2位が蒋介石の息子の蒋経国、3位が毛沢東、4位が蒋介石だった。軍事分野ではトウ小平、外交分野では蒋介石の妻、宋美齢が1位だった。
国史館側は選択肢に毛沢東やトウ小平を入れたことについて「歴史には正と負の両面がある。民衆に評価してもらおうと思った」と説明している。【12月26日 毎日】
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毛沢東やトウ小平など中国共産党に対する台湾民心の抵抗感は薄れているとも考えられる話題です。

もうひとつは中国側の変化を予測させるものです。
****台湾:中国発禁本が人気 観光の中国人が購入****
台湾を訪問する中国人観光客が爆発的に増加する中、台湾の書店が中国人の新たな観光スポットになっている。中国で発売禁止となっている毛沢東に関する暴露本や、89年の天安門事件で失脚した趙紫陽・元中国共産党総書記に関する本を購入するためだ。

観光名所にもなっているのは、台湾でチェーン展開している大手書店「誠品書店」。24時間営業の同書店敦南店では、夜になると中国人観光客が最後の「観光地」として訪れるという。
投資関連の本も人気は高いが、「国家の捕囚-趙紫陽の秘密録音」▽「趙紫陽軟禁中の談話」▽「マオ 誰も知らなかった毛沢東」▽「毛沢東の私生活」▽「張学良の口述歴史」--など、かつての指導者の口述記録や側近者による回顧録などは根強い人気を誇る。この5冊は中国人観光客向けの「常備商品」とされている。
今年1~10月までの台湾訪問者数は、日本人の87万3224人(前年比5.34%増)に対して、中国人は134万3752人(同75.42%増)。過去30年以上にわたって訪問者数第1位を維持してきた日本を中国が今年初めて抜くことが確実となった。【12月26日 毎日】
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共産党による事実上の一党独裁のもと、国内における情報管理には神経を使っている中国ですが、天安門事件で失脚した趙紫陽の本が人気の土産物になっているというのは、意外な感じがしました。
経済のグローバル化にともない、人や物の国境を越えた行き来が今後ますます増加するなかで、当局による厳格な情報管理は難しくなります。結果、中国独自の理解が、国外からの情報によって是正される日が来るかもしれません。

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ナイジェリアで相次ぐテロ 南北対立を背景に、大統領選挙に向けて懸念される情勢悪化

2011-01-03 19:44:44 | 国際情勢

(事態掌握のため、テロが相次ぐ中部都市ジョスに派遣された軍隊 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5292639854/

問題山積の地域大国ナイジェリア
昨年9月30日ブログ「ナイジェリア  来年1月大統領選挙 暴力が吹き荒れる可能性も(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100930)」は、以下のような書き出しで始まっていますが、事態は全く変わっておらず(むしろ悪化していると言うべきでしょうか)、同じ文章がそのまま使えます。(大統領選挙は4月になったようですが)

“あまり情報量が多くないアフリカにあって、ナイジェリアについてはときどきニュース(多くは、好ましくないものですが)を目にします。
おそらくそれは、アフリカのなかでもナイジェリアで特別いろんなことが起きていると言うよりは、ナイジェリアがアフリカ最大の人口及び最大の軍事力を有する地域大国であり、石油などの資源も豊富な国であるからニュースになるだけでしょう。
アフリカには、ベナンとか、ガンビアとか、カーボ・ベルデとか、その名前すら聞いたことのないような国も多くあり、そうした国でも恐らく大同小異の多くのことが起きているのでしょうが、世界に発信されていないだけでしょう。
ナイジェリアは、南部の石油産出地域であるニジェールデルタでは反政府武装勢力が活動しており、国民を二分する北部イスラム教徒と南部キリスト教徒の間の紛争も絶えません。
最近のナイジェリアに関する話題は、やはり眉をひそめるようなものが多いようです。”

前回ブログ以降のナイジェリア関連のニュースをあげると、
****ナイジェリア:爆破で8人死亡 反政府勢力の犯行か****
ナイジェリアからの報道によると、同国の首都アブジャで1日、乗用車2台が爆発し、少なくとも8人が死亡した。現場近くの広場では当時、独立50周年を祝う式典が開かれ、ジョナサン大統領ら政府要人が出席していた。南東部の産油地帯で石油企業襲撃を続けている反政府武装組織「ニジェール・デルタ解放運動(MEND)」が犯行予告声明を出しており、警察は独立50周年式典に合わせた爆弾テロとみて捜査している。(後略)【10年10月1日 毎日】
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****鉛中毒で子供400人死亡=金の違法採掘が原因―ナイジェリア****
ナイジェリアからの報道によると、同国で活動する国際援助団体「国境なき医師団」(MSF)は5日、同国北西部ザムファラ州で過去半年の間、子供ばかり400人以上が鉛中毒で死亡したとの調査結果を明らかにした。同地域で広く行われている金などの違法採掘が原因とされる。
MSFの現地責任者がAFP通信に語ったところによると、子供の大半は5歳未満。住民が鉛を含んだ鉱石を自宅に持ち帰り、金採取のためそれらを処理する作業の過程で汚染が広がったとみられている。当局によって採掘が禁止されることを恐れる住民が被害を隠ぺいするケースもあり、犠牲者数はさらに増える見込みだという。
被害地域の住民の多くは貧しい農民たちで、農業より高い収入が見込める違法採掘に手を出す例が多発。住民らは当初、子供の死亡はマラリアが原因と考えていたという。【10年10月6日 時事】
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****ナイジェリアのコレラ流行、死者1500人超に=国連*****
ナイジェリアでの今年1月からのコレラによる死者数が累計1500人を超え、過去数年で最悪の状況になっていることが分かった。国連児童基金(ユニセフ)の地域担当広報が25日、ロイターの取材に明らかにした。
それによると、今年1月以降の同国のコレラ感染報告は3万8173件で、これまでに1555人の死亡が確認されている。(中略)今年は豪雨などの影響で例年以上にコレラが流行しており、感染報告数は現時点で2009年通年の約3倍になっているという。【10年10月26日 ロイター】
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****栄養失調児が700万人のナイジェリア、最大の要因は「迷信*****
ユニセフ(UNICEF)の統計によると、ナイジェリアには栄養失調の5歳未満児が700万人いる。国別では、インド、中国に次いで多い。
ナイジェリア国内では北部で特に深刻だ。北東部には、5歳未満児の42%が栄養失調という地域もある。
要因には、サハラ砂漠に近いため暑く乾燥した気候のほかに、さまざまな文化的要素があるという。北部の4州で栄養失調に関するユニセフの調査に携わっている専門家によると、最大の要因は継続的に母乳が与えられていないことだという。
通常、生まれたばかりの赤ちゃんには(母乳ではなく)悪霊をはらうための「聖水」が与えられる。新生児にとって極めて重要とされる初乳は「有毒」とされ、誕生後丸々3日間母乳を与えないケースもあるという。また、発熱や黄だんが見られる赤ちゃんには、薬草を調合したものを服用させるという。
さらに、農村部では母親が出産後すぐに仕事に復帰する傾向があり、授乳する時間がほとんどない。子どもが口にする水も不衛生なことが多い。
保健衛生の担当者らは、母親教育が必要であり、政府も何らかの対策を打つべきだと話している。【10年11月5日 AFP】
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南北対立 報復の連鎖
こうした記事でもナイジェリアの貧困、政治・部族対立、不十分な統治などの問題が推測されますが、この国が抱える最大の政治課題は北部イスラム教徒と南部キリスト教徒の対立です。これまでも、たびたび、両者の衝突が報じられており、特に両勢力が接する中部プラトー州では昨年だけで約1500名が死亡しています。

****ナイジェリア:連続爆弾テロ 住民間の衝突拡大****
ナイジェリアからの報道によると、同国中部プラトー州で(12月)24日以降、キリスト教系住民を狙ったとみられる連続爆弾テロをきっかけに住民間の衝突が拡大している。テロの犠牲者を含め死傷者は100人を超えている。テロの背景が不明であるにもかかわらず、一部のキリスト教系住民の間に「爆弾テロはイスラム教徒の犯行」との風評が広まり、以前から対立関係にあった地元のイスラム教系住民との衝突に至った模様だ。【白戸圭一】

騒乱のきっかけになった連続爆弾テロは24日夜、同州の州都ジョスと周辺で発生した。キリスト教系住民が集まる市場など7カ所で次々と爆発が起き、32人が死亡、74人が負傷した。犯行声明は出ておらず、警察当局が捜査を続けている。
さらに同日、ジョスの北東約520キロのボルノ州の州都マイドゥグリで、二つのキリスト教会が武装集団に襲撃され、牧師ら6人が殺害された。警察当局はマイドゥグリに拠点を置く「ボコ・ハラム」と称するイスラム過激派組織の犯行とみて捜査している。

爆弾テロと教会襲撃の発生地は遠く離れ、両事件の関係は不明。だが、両事件ともクリスマスイブに多数のキリスト教系住民が犠牲になったため、プラトー州の一部のキリスト教系住民の間に「爆弾テロはイスラム教徒の犯行」との風評が広まり、イスラム教系住民との衝突に至った。AFP通信によると、ジョスの市街地で26日、建物が炎上し、死傷者が出ているという。
プラトー州のデービッド・ジャン知事はAFP通信に「(テロの)狙いはキリスト教徒の反イスラム教徒感情をあおり、新たな暴力を生み出すこと」と述べ、住民に平静を呼びかけている。
同州では、この地に先に定住したキリスト教系住民が教育や就職などで優遇される実態があり、不満を抱くイスラム教系住民との衝突、報復の連鎖で今年だけで約1500人が死亡している。【12月27日 毎日】
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プラトー州の州都ジョスで24日に発生した連続爆発については、北部を拠点とするイスラム過激派武装勢力「ボコ・ハラム」が28日、犯行を認める声明を出しています。
“「ボコ・ハラム」はアフガニスタンのイスラム原理主義組織タリバンの影響を受け、全土へのイスラム法導入を掲げて2002年頃に組織され、貧困層の若者らに浸透し勢力を拡大してきた。昨年7月には警察署を襲撃、軍に制圧されたが、再び活動を活発化させている”【12月29日 読売】

こうしたイスラム過激派によるキリスト教徒襲撃は、昨日のブログで取り上げたイラクやエジプトでのアルカイダ主導のテロとはやや異なり(アルカイダなどの影響は受けているかも知れませんが)、先述のようにナイジェリアに以前から存在する南北対立を背景にしています。
そして、その対立・緊張は、4月(以前は“1月”と報じられていましたが)に予定されている大統領選挙を巡って一層強まっています。

****ナイジェリアで相次ぐテロ、97人死亡 大統領選関係か*****
ナイジェリアで昨年末から、爆弾テロや武装勢力による攻撃が相次ぎ、2日までに少なくとも97人が死亡した。イスラム武装勢力の仕業とされる一方、4月に予定されている大統領選との関係も指摘され、情勢悪化が懸念されている。
中部の都市ジョスでは12月24日、爆弾が爆発、80人が死亡。同日と29日には別の中部の都市でも、キリスト教会が放火されるなどして、計13人が犠牲になった。さらに、31日夜、首都アブジャの市場で爆発があり、4人が死亡、26人が負傷した。ジョスの事件では、イスラム武装勢力ボコ・ハラムが犯行を認めた。

ナイジェリアはアフリカ随一の産油国だが、恩恵が国民に行き渡らないことへの不満が強く、イスラム過激派暗躍の背景になっているとされる。
同国では大統領は南北出身者が2期ごとに交代するしきたり。ところが、北部系の前大統領ヤラドゥア氏が昨年、1期目途中で病死し、南部系のジョナサン氏が後を継いだ。このため北部ではジョナサン氏続投への警戒感が高まっている。【1月3日 朝日】
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暴力の引き金となる“民主的選挙”】
キリスト教徒とイスラム教徒がほぼ半々で、250ほどの民族で構成されているナイジェリア。
ビアフラ戦争(1967-1970)や度重なる軍事クーデターにもかかわらず、独立後半世紀にわたってどうにか国の体裁を保って来られたのは、“称賛”に値する、奇跡に近いとの声もあります。

大統領選挙の成り行き次第では、その“奇跡”も暴力の嵐にさらされそうな危険な気配です。
民主的な政治の象徴・基礎であるはずの選挙が、かねてより存在する対立の引き金になり暴力を惹起する・・・コートジボワールもそうですが、しばしば目にする状況です。

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イラクからエジプトへ拡大  キリスト教徒を対象としたテロ攻撃

2011-01-02 19:44:50 | 国際情勢

(クリスマスに教会で祈るエジプト・カイロのコプト教徒 “”より By Directions to Orthodoxy
http://www.flickr.com/photos/directionstoorthodoxy/4261385402/ )

ISI:「イラクからキリスト教徒を追い出す」】
イラクでは昨年10月末にキリスト教会襲撃事件があり多数の犠牲者が出ていますが、こうしたイスラム過激派による少数派キリスト教徒への迫害によって国外に逃れるキリスト教徒が増加しています。

****イラク:キリスト教徒数千人脱出 相次ぐ襲撃で****
イラクのキリスト教徒が宗教的理由で迫害を受け、居住地から脱出せざるをえないケースが目立っている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10月末に50人以上が死亡したバグダッドの教会襲撃事件後にキリスト教徒の脱出行が増加。治安が比較的安定している北部クルド人自治区や隣国のシリア、ヨルダンに数千人が逃れたという。

10月の事件は国際テロ組織アルカイダ系の「イラク・イスラム国(ISI)」が犯行声明を出した。ISIは今月21日にもキリスト教徒攻撃を続けるという声明を発表。これを受け、クリスマスのミサを中止する教会も出た。
イラクでは、少数派宗教の信徒が暴力の標的になるケースが続いている。キリスト教徒に対しては、バグダッド以外でも中部ディヤラ、北部サラハディン、ニネベの各県などで攻撃事件の報告が目立っている。03年のイラク戦争前は総人口の約3%がキリスト教徒だったが、相次ぐ襲撃で脱出する人が多く今では1%を割り込んだという推計もある。

しかし、最近は欧州からの難民送還も目立つようになってきた。今月15日にはスウェーデンがバグダッド出身のキリスト教徒5人を強制送還したが、うち1人は07年に民兵に殺害を警告され出国していたという。こうした事態を受けて、UNHCRは「危険地域からの脱出者は送還すべきでない」として、各国に送還を見合わせるよう要請している。【10年12月25日 毎日】
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イスラム過激派にとって、民兵組織など自衛手段を持たないキリスト教徒は容易に攻撃できて、「戦果」を誇示できる格好の対象となっています。
また、イラク新政権樹立が難航し、政府による十分な対策が講じられてこなかったことも背景にあると指摘されています。

****アルカーイダ系がテロ扇動、国外移住加速も イラク、キリスト教徒受難****
(「イラク・イスラム国(ISI)」の「すべてのキリスト教徒はジハード(聖戦)の正当な標的だ」とする)声明を受け、イラクに信者が多いシリア正教会のダウード大主教は7日、活動拠点の英国で、「(キリスト教徒は)殺される前に国を出るべきだ」と呼びかけ、欧州各国にも協力を要請。こうした声に応じたフランス政府は、治療のために事件の負傷者35人を緊急に受け入れた。

アルカーイダと対立するイスラム教シーア派のマリキ・イラク首相は9日、現場の教会を訪問して事件を非難し、キリスト教との融和姿勢をアピールした。
ただ、イラク政府は現在のところキリスト教徒保護のための十分な対策を講じられていない。治安部隊の養成が進んでいない上、3月の国民議会選後の新政権樹立交渉が長期化したことも対策の遅れを招いた。
イラクのキリスト教徒は民兵組織など自衛手段も持っておらず、声明で「(イラクから)キリスト教徒を追い出す」と宣言しているイラク・イスラム国にとっては容易に攻撃できる対象だ。キリスト教徒の国外避難がさらに増えれば、それを「戦果」として強調し勢いを増す懸念もある。【10年11月17日 産経】
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矛先はエジプト・コプト教徒へも
国際テロ組織アルカイダ系武装勢力はキリスト教徒への攻撃を扇動、その矛先はエジプトのキリスト教の一派コプト教会にも向けられています。
新年早々、エジプト・アレキサンドリアで、キリスト教の一派コプト教徒を狙った自爆テロが起き、少なくとも21人が死亡しています。

****エジプト:キリスト教会前で爆発 21人死亡、43人負傷*****
エジプト北部アレキサンドリアで1日未明、キリスト教の一派コプト教の教会前で車が爆発し、エジプト国営通信などによると信徒ら少なくとも21人が死亡、43人が負傷した。使用された爆薬はエジプト製で、治安当局は自爆テロの可能性が高いとみている。事件前、イラクのアルカイダ系組織「イラク・イスラム国(ISI)」がコプト教会の攻撃を予告する声明を出していた。

爆発は午前0時半ごろ、新年のミサのため約1000人が集まっていたアレキサンドリアのクッデスィーン(聖人)教会前で発生。ミサ終了後に外に出てきた教徒らが巻き込まれた。車の下か中に置かれた爆弾が爆発したものとみられる。
保健省幹部は国営テレビに、死者が21人に達したと明らかにし、「アルカイダがエジプトの教会を攻撃すると脅していた」と述べた。エジプト大統領府は声明で爆発を「テロ攻撃」と断定。ムバラク大統領はコプト教徒とイスラム教徒に対し「協力して国家の安全と安定を脅かす攻撃に対処しよう」と呼びかけた。
地元テレビは、同教会前に黒焦げになって転がった車の映像を放映した。現場周辺は警官ら多数が封鎖しているという。

目撃者がAP通信に語ったところでは、事件後、怒ったコプト教徒が警官と小競り合いになり、近くのモスクでイスラム教徒と衝突した。
エジプトのコプト教会に対しては、ISIが「イスラム教に改宗した女性を拘束している」と主張、解放しなければ攻撃すると警告していた。ISIは10月末にバグダッドでキリスト教会襲撃事件を起こし、50人以上が死亡している。
エジプトは人口の約1割がコプト教徒とされ、イスラム教徒との衝突が起きていた。昨年1月7日には乱射事件でコプト教徒7人が死亡、イスラム教徒の男3人が逮捕された。首都カイロでも11月に教会の建設をめぐり暴動騒ぎが起きている。【1月1日 毎日】
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エジプト内務省は、犯行の手口から「外国勢力」が関与した可能性があると指摘、事前にコプト教会攻撃を言明していた国際テロ組織「アルカイダ」関係者の犯行との見方を示しています。

上記記事にある“ISIが「イスラム教に改宗した女性を拘束している」と主張”している件については、イスラム教スンニ派最高権威のアズハル機構が昨年9月、改宗はデマだと示唆し、エジプト国内ではいったん幕引きが図られましたが、イスラム過激派はこれを利用してコプト教徒への攻撃を正当化しようとしています。

****アルカーイダ系がテロ扇動、他国の問題に干渉****
イラクの教会襲撃は、コプト教徒が人口の約1割を占めるとされるエジプトにも波紋を広げた。イラク・イスラム国が犯行声明で、襲撃は「コプトに捕らわれたイスラム教徒の女性を救う」のが目的だと言明、コプト教徒への攻撃を予告したためだ。
ここで言及された女性は、エジプトで今夏、失踪(しっそう)したコプト教司祭の妻、カメリア・シェハタさんのことだ。失踪は家庭問題が原因だとされているが、一部のイスラム教指導者が「彼女がイスラムに改宗したのでコプトに拉致された」と主張。イスラム教徒による抗議デモが頻発した経緯がある。
エジプトでは過去にも同様の改宗騒ぎがあり、抗議デモが繰り返されている。宗教問題に詳しいエジプト人ジャーナリストは、当局はそうしたデモを一定の範囲内で容認し、「一部の国民の反コプト感情のはけ口として利用してきた」側面もあると指摘する。

シェハタさん問題では結局、イスラム教スンニ派最高権威のアズハル機構が9月、改宗はデマだと示唆し、エジプト国内ではいったん幕引きが図られた。しかし、犯行声明を機に、イスラム過激派系サイトでは「コプトを処刑しろ」などの書き込みが続出。実際のテロの可能性は低いとみられるものの、当局は教会側への配慮などから反コプト・デモを当面、禁止した。
政府系シンクタンク、アハラム戦略研究所のイスラム運動専門家、アムル・ショバキ氏は「声明は、他国の問題に干渉し社会不安をあおる戦術だ」と分析。「エジプトでは政権への信頼低下から宗教回帰が進み、両宗教の関係が悪化している。テロ組織がそれを利用しようとしているのは間違いない」と話している。【10年11月17日 産経】
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不寛容の時代
「9.11」、イラク・アフガニスタンでの戦争以来、アメリカ国内においては「嫌イスラム」の風潮がひろがり、イスラム過激派はイラク・アフガニスタンから各地に拡大し欧米社会への敵対行動を更に過激化させています。
一方、欧州では「嫌イスラム」の風潮に移民増加が重なり、排外主義的な動きもつよまっています。
そして、今日取り上げたように、中東では少数派キリスト教徒わ対象としたテロの増加があります。
今年も“「不寛容」の時代”が一層強まることが懸念されます。


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