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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ軍撤退にともなうイラク、アフガニスタン情勢  イラン、パキスタンの影響力増大

2011-04-20 20:49:23 | 国際情勢

(イラク内のイラン人難民キャンプ「キャンプ・アシュラフ」に対するイラク治安当局の弾圧は今回だけではないようで、写真は09年7月27日のものです。 “flickr”より By AshrafIran natarsid http://www.flickr.com/photos/40989090@N08/3768883696/

イラン:「イラク政府の行動は正しい」】
あまり馴染みがありませんが、イランの反体制派組織に「ムジャヒディン・ハルク(MKO、イスラム人民戦士機構)」という組織があるそうです。
“親米・世俗政策を取ったパーレビ国王に反対して60年代に組織され、イスラム革命(79年)でも大きな役割を果たした。革命後、イスラム共和制を確立した最高指導者ホメイニ師らと路線対立して武装闘争に転じ、80年代のイラン・イラク戦争では、イラク側を支援してイランに対抗。イラク中部やパリに拠点を持つ。”【4月11日 毎日】

アメリカは、この反体制派組織MKOをテロ組織に指定していますが、イラン政府はアメリカによるMKOへの支援を疑っているという微妙な関係があるようです。
そのMKOがアメリカ・ワシントンでイランの秘密核関連工場を暴露しましたが、この動きもアメリカがMKOを使ってイランに揺さぶりをかけている・・・とも見られています。

一方、この暴露の直後、イラク軍がイラク内にあるMKOの活動拠点を急襲、イランとイラクの連携を印象づけています。

****イラン:反体制派「テロ組織」が核施設暴露 米揺さぶりか*****
米国がテロ組織に指定しているイランの反体制組織「ムジャヒディン・ハルク」(MKO)が7日、テヘラン近郊に秘密の核関連工場があると米ワシントンで公表。国際原子力機関(IAEA)も未把握の施設で、核兵器開発の疑念が深まった。イラン政府は9日、施設の存在を認めたが、その前日にイランと関係を深めるイラクの軍部隊がイラク国内のMKOの拠点を攻撃した。米国が反体制派の「テロ組織」を使い、イランを揺さぶっている可能性がある。

「イラン政府の核計画が平和利用でないことを示す新たな証拠だ」。AFP通信によると、ワシントンで7日に会見したMKO関係者が、衛星写真を手にテヘラン西郊カラジにある工場の存在を指摘した。遠心分離機の部品が作られ、イラン中部のウラン濃縮施設に設置されている約9000台をはるかに上回る10万台がこれまで生産されたという。
衛星写真をどう入手したかは不明だが、MKOは、02年8月にイラン政府による核施設建設計画を暴露したことでも知られ、米当局側との関係も浮上している。

これに対し、イランのサレヒ外相は9日、国営通信に工場の存在を認めたうえで「秘密施設ではない。(平和利用目的の)核計画に必要な関連部品を作っているだけだ」と反論。カラジには軍事施設や農業、医療目的の核研究施設があることは知られていたが、部品工場の存在を認めたのは初めて。今後、イランがIAEAに公開するかなどは不明だが、工場の存在を認めたうえで、核兵器開発を否定するのが得策と判断したとみられる。

一方、イラクでの動きが臆測を呼ぶ。MKOが工場の存在を指摘した直後の8日未明、MKOが活動の拠点とするイラク中部ディヤラ県のキャンプ・アシュラフに、イラク軍が急襲。AP通信によると、少なくとも12人が死亡、39人が負傷した。イランのサレヒ外相は9日、「イラク政府の行動は正しい」と述べ、両国が連携した攻撃との印象を与えた。
スンニ派主体のフセイン政権当時のイラクはMKOを好意的に受け入れ、シーア派のイランと対決姿勢を取り続けた。しかし、03年の同政権崩壊後はシーア派が勢力を強め、イランとの関係を強化している。

イランでは今年2月中旬以降、若者らによる民主化要求デモが再燃。イラン政府は「デモはMKOなど反体制組織、米国など外国勢力が扇動したものだ」と主張して弾圧を正当化した。具体的な組織の関与は不明だが、「国民による抗議」という事実を受け入れたくない政府はMKOへの批判をこれまで以上に強めている。
米国はMKOをテロ組織に指定しているが、イラン政府は米国によるMKOへの支援を疑っており、核施設暴露は米イラン関係にも影響を与えそうだ。【4月11日 毎日】
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なお、イラク軍によるMKOのキャンプ・アシュラフ攻撃については、イラク政府はイラク軍との関係を否定しています。
****イラクのイラン人難民キャンプで銃撃事件、34人死亡 イラク軍が関与か****
国連は14日、イラクのディヤラ州にあるイラン人難民キャンプ「キャンプ・アシュラフ」が前週、イラク軍に銃撃され、女性を含む34人が死亡したと発表した。また、数十人が負傷しているという。
しかしイラク政府は、イラク軍はキャンプ・アシュラフの攻撃とは無関係だと反論。「現在、事件を捜査中だが、治安当局によると犠牲者たちはキャンプから逃げようとして、仲間の警備員に撃たれたものだ」と主張している。これまでにもキャンプの住民が逃亡しようとした事件は何回も起きているという。

このキャンプには、イランの反体制派組織「ムジャヒディン・ハルク(イスラム人民戦士機構、MKO)」のメンバーが暮らしている。
MKOはイランで1965年、当時のパーレビ国王に対抗するイスラム系左派組織として結成され、1979年のイラン革命で大きな役割を果たしたが、その後反体制派に転じた。イラン・イラク戦争ではイラクのサダム・フセイン大統領(当時)側につき、イラク国内のキャンプ・アシュラフを拠点に対イラン闘争を続けた。だが、2003年の米軍によるイラク侵攻で武装解除させられている。【4月15日 AFP】
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MKOとアメリカ、イランとイラクの微妙な関係はハリウッド映画のようでもありますが、アメリカ軍の撤退とともに、シーア派中心のイラク・マリキ政権とイランの関係が更に強まりそうなことを予感させる出来事でもあります。

【「アメリカ抜き」の和平構築
一方、7月からのアメリカ軍撤退を前にしたアフガニスタンでは、アフガニスタンとパキスタンが「アメリカ抜き」のタリバンとの和解交渉を進める動きもあります。

****パキスタン:アフガンと合同委設置 タリバンと和解目指し****
パキスタンのギラニ首相は16日、訪問先のカブールでアフガニスタンのカルザイ大統領と会談し、アフガンの旧支配勢力タリバンとの和解を目指す合同委員会の設置で合意した。米軍が両国で、タリバンを含む武装勢力掃討作戦を進める中、パキスタンとアフガンはそれぞれの事情もあり「米国抜き」の和平構築を狙っている可能性がある。

ギラニ首相は、会談後の共同会見で「我々は兄弟であり、両国民はこれ以上(武装勢力による攻撃に)苦しむべきではない」と述べ、合同委設置の意義を強調した。
パキスタンでは先月17日、米軍が同国北西部で無人機による空爆を実施したが、多数の民間人が死亡する誤爆だった。住民の反米感情が一層強まり、パキスタンはアフガン問題に関する米国、アフガンとの3カ国政府間会議(同26日)を欠席している。

一方、アフガンでは、カルザイ大統領が2010年以降、国民和平会議(ピース・ジルガ)の開催や、高等和平評議会の設置でタリバンとの和解を探ってきたが、成功していない。タリバンの最高指導者オマル師との和解を視野に入れているが、オマル師は対米強硬派とされ、「タリバン和解」の試みは米国など国際社会に受け入れられていないのが大きな要因だ。

合同委設置は、7月に予定されるアフガンからの米軍撤退開始をにらみ、パキスタン・アフガン主導の治安確保を探る目的もある。アフガンは、武装勢力が潜むパキスタン側からの協力を得る必要性にも迫られていた。

しかし、アフガン国境に接し部族支配地域でもあるパキスタン北西部は、事実上パキスタンの政府や軍の支配が及ばない。軍が昨年、米側の強い要請を受けて武装勢力掃討作戦を実施して以降、軍や軍情報機関ISIを狙ったテロ攻撃も続発している。
地元ジャーナリストは「最近の武装勢力は、タリバンや(国際テロ組織)アルカイダなどさまざまなグループが入り交じり、パキスタン軍の影響力がますます及ばない状態だ」と指摘しており、合同委設置により、タリバンとの和解促進につながるかは疑問視する向きが強い。【4月17日 毎日】
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パキスタン:「我々を除外した形では何も進まない」】
常々話題になるタリバンとパキスタン軍情報機関ISIの関係ですが、パキスタン側には「我々を除外した形では何も進まない」(ギラニ首相)とのお思いがあるようです。

****アフガン政権とタリバーン和解交渉にパキスタンも参加へ****
パキスタンのギラニ首相が16日、アフガニスタンを訪問し、カルザイ大統領と会談。カルザイ政権と反政府勢力タリバーンとの和解を目指し、ハイレベルの協議機関を設けることで一致した。パキスタン側には、カルザイ氏が進める和解路線に影響力を行使する狙いがあるとみられる。

両国は1月に外相レベルの共平委員会の設置で合意したが、これをギラニ首相とアフガン高等和平評議会のラバニ議長が加わる形で格上げし、軍や情報機関のトップもメンバーになるという。
パキスタンにはタリバーン指導部が潜んでいるとされ、パキスタン軍の情報機関(ISI)が一定の影響力を持つとみられている。ギラニ氏は昨秋、カルザイ政権とタリバーンの和解交渉について、「我々を除外した形では何も進まない」と記者団に語っていた。
ISIは昨年2月、カルザイ政権と接触を重ねていたタリバーンのナンバー2バラダル師をパキスタン南部で拘束。パキスタン抜きで交渉が進むことへの妨害とみられていた。【4月18日 朝日】
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“ギラニ首相は昨年12月にもアフガンを訪問してタリバンとの和平交渉を支持する考えを表明した。ただ、その時点では、パキスタン国内で絶大な影響力を持つ軍の支持が得られるかが不透明だった。今回は軍幹部も同行し、パキスタン政府と軍が共に和平を支持する姿勢をカルザイ氏に伝えたとみられる。”【4月16日 読売】ということで、パキスタン側は政府・軍が協調して和平交渉を進める意向のようです。

どういう形の和平になるのか、アメリカの意に沿うものなのか・・・そこらはまだ不明です。
いずれにしても、アメリカ撤退後、パキスタンとしては宿敵インドに対抗するうえで、アフガニスタンにおける自国の影響力を強めたいのは間違いないところです。

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チェルノブイリ事故から25年 “25年後のフクシマを、現在のチェルノブイリのような状況にしてはならない”

2011-04-19 20:55:23 | 災害

(チェルノブイリ:半径30kmの入域制限地域の検問所 “flickr”より By Wolfhowl http://www.flickr.com/photos/ashenwolf/5595853993/

【「レベル7」の衝撃
日本の原子力安全・保安院と原子力安全委員会は12日、福島第1原発事故の「国際原子力事象評価尺度(INES)」を放射性物質の放出量を踏まえて「レベル5」から2段階引き上げ最悪の「レベル7」にしたと発表しました。これにより、欧州全土に大量の放射性物質をまき散らし、数十人の死者を出し、その後多数のがん患者を出したチェルノブイリ事故と同じくらい深刻と判定されたことになります。

この判断については賛否両論ありますが、原子力利用を推進しようという立場の国からは、日本の過剰反応との不満も出ています。

“国際原子力機関(IAEA)は、チェルノブイリとの違いを強調するなど警戒感をあらわにした。ロシアやフランスなど原発大国からは日本の「過剰評価だ」と指摘する声も相次いだ。背景には、国際的な原発推進路線の「後退」への危機感の強さが読み取れる。”【4月13日 毎日】

チェルノブイリ事故から25周年
そのウクライナのチェルノブイリ事故(86年4月26日発生)から25年が経過しようとしていますが、19日から首都キエフで原子力関連の国際会議が開催されます。

****チェルノブイリから25周年 キエフで各国首脳級会合へ*****
旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原発事故から25周年となる26日を前に、各国首脳級の原子力安全サミットなど一連の国際会議が19日から首都キエフで開かれる。福島第一原発事故が進行中で、原発の安全性に改めて注目が集まるタイミングの開催となる。

原子力安全サミットは今回の最大の焦点となり、原子力安全や技術向上の国際協力について議論する。
約50カ国が参加。フランスのフィヨン首相、ロシアのメドベージェフ大統領ら首脳級が顔をそろえる。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長や、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥(ゆきや)事務局長も出席。日本からは高橋千秋外務副大臣が出席し、福島第一原発の現状や事故の経緯などについて報告する。

これに先立ち、チェルノブイリ原発事故の今後の長期的対策を主要8カ国(G8)がウクライナと話し合う支援国会合も19日にある。25年前に原子炉からの放射能を封じ込めたコンクリート製「石棺」の老朽化対策が急がれており、財政的な手立てを模索する。
20~22日にも国際会議が開かれ、事故の教訓や、環境や社会への影響などについて討議する。(後略)【4月19日 朝日】
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【「観光というより、教育的な観点から事故の教訓を学び取ってほしい」】
チェルノブイリ原発から半径30キロ圏内では、現在でも居住などが禁止されていますが、一方、観光ツアーとして公開されるなどの動きも出ています。

***大竹剛のロンドン万華鏡 今のチェルノブイリを歩いてみた “レベル7”から25年、観光地化した惨劇の地****
観光バスで行くチェルノブイリツアー
ウクライナの首都キエフを訪れる観光客の間で、ここ数年、ちょっとした人気を集めている観光ツアーがある。チェルノブイリ原発の事故現場を訪れる日帰りツアーだ。キエフからバスに揺られること約2時間半。原発施設内の食堂で食べるランチ込みで150~160ドルという手軽さが受けている。(中略)

キエフ市内を出発してから約2時間、4号炉から30キロメートルの地点に到着した。ここから先は現在も立ち入り禁止区域に指定され、一般市民の居住は許されていない。つまり、先に進むには政府の許可が必要だ。といっても複雑な手続きは必要なく、事前に旅行会社に伝えておいたパスポート情報と照らして、本人確認を受けるだけで済む。
昨年12月、政府はこうした観光ツアーを正式に許可した。それまでは、研究者やジャーナリスト、カメラマンなどにしか許可を与えていなかったが、既になし崩し的に観光ツアーが組まれるようになっており、事実上、政府が追認した格好だ。(中略)

そして爆発を起こした4号炉。防護服を着ることもなくバスを降りて、普段着のままカメラ片手に、事故現場から約300メートルの地点まで近づくことができる。ガイガーカウンターの数値を確認すると、300メートル地点で毎時3.5マイクロシーベルトだった。
現在、4号炉は放射線を遮蔽するために、コンクリートなどを使った「石棺」と呼ばれるシェルターで覆われている。この石棺は老朽化しており、ウクライナ政府は100年耐え得る巨大なシェルターを新たに建設する予定で、既に基礎工事を始めている。

廃墟の学校に散乱する子供用ガスマスク
4号炉を後にして3キロメートルほど離れたところにある町を訪れた。「ゴーストタウン」とも呼ばれ、事故発生から48時間以内に約5万人の住人が避難して廃墟となったプリピャチである。石棺に覆われ記念碑も立つ4号炉より、むしろ、当時の生活が思い起こされるこの町の方が、残酷な事故の記憶を残していた。
中央広場の周りには、旧ソ連時代に典型的だった画一的な団地が立ち並んでいた。窓ガラスは割れ、壁は朽ち果てている。小学校に足を踏み入れると、破れた教科書や壊れたピアノが残されたままだ。放射能から生徒を守るために持ち込まれたものであろう、教室の片隅に散乱している大量の子供用ガスマスクが、事故の悪夢を今に伝えている。(中略)

ウクライナ非常事態省のボブロー副局長は、「観光というより、教育的な観点から事故の教訓を学び取ってほしい」と話す。
実は、事故を起こした4号炉で建設が始まっている新たなシェルターには、16億ユーロ(約1950億円)の資金が必要となる。だが、いまだに6億ユーロ(約730億円)が不足している。
ウクライナ政府は4月19日からキエフで開催する事故後25周年を記念する国際会議で、欧州諸国を中心に国際社会から足りない資金を募る計画だ。事故現場への観光を許可する背景には、チェルノブイリの悲劇が忘れ去られないように、国際社会にアピールし続けたいという思惑もあるのだろう。

25年後のフクシマは……
だが、大惨事となった原発事故の現場に観光ツアーが行くことについては、否定的な意見も多い。
従妹を白血病で亡くしたある女性は、「ウクライナ人の心情として、観光でチェルノブイリに行くことはあり得ない」と話す。彼女は、従妹の死は放射能と関係があるのではないかと考えている。(中略)
チェルノブイリ原発事故では、25年を経た今でも、市民の不安は解消されていない。それでも政府は、事故現場を観光地化してまで、負の遺産の処理に取り組まなければならない。それは、チェルノブイリ原発事故、言い換えれば「レベル7」という事態の深刻さを物語るものだ。
25年後のフクシマを、現在のチェルノブイリのような状況にしてはならない。【4月19日 日経ビジネス】
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事故の後遺症はまだウクライナ経済の重荷となっている
老朽化が進む“石棺”を覆う新しいアーチ状の格納施設建設については、上記リポートにもあるように資金が不足しており、その調達が今回キエフで開催される国際会議の主要目的のひとつとなっています。

****チェルノブイリは、いま  チェルノブイリ、25年後の現実****
・・・焼け落ちた原子炉を封じ込めるため、一時しのぎの策として造られた“石棺”は腐食が進む。
「石棺はこれほど長期間使われるはずではなかった」。同原発の現場監督、アレクサンドル・スクリポフ氏は呼吸マスク越しに、くぐもった声で語る。その背後に立つ1986年4月の爆発事故後に急ごしらえで造られた石棺は、壁の崩壊を防ぐために支柱で支えられている状態だ。(中略)

欧州連合(EU)及び米国の当局は、チェルノブイリ原子炉の恒久的な格納施設を建設する費用の調達に今も苦労している。各国とも世界金融危機で膨大な債務を抱えただけに、税金による支出には及び腰だ。昨年、国際通貨基金(IMF)から156億ドルの緊急支援を受けたウクライナは、単独ではとても費用を賄い切れないとしている。(中略)

欧州復興開発銀行(EBRD)と欧州委員会は4月20日から22日にかけてウクライナの首都キエフで、新しい格納施設の建設費用として各国政府から6億ユーロ(約8億3400万ドル)以上の寄付を募る予定だ。高さ110mのアーチ型の格納施設の建設費用は総額15億5000万ユーロになる見込みだが、EBRDがこれまでに調達した資金は10億ユーロにとどまる。
チェルノブイリ原発のイホール・フラモトキン所長は、原子炉の閉鎖には20億~25億ドルという新規建設と同じくらいの費用がかかると話す。2000年12月にやっと稼働を終了した同原発では、今も3473人が働く。(中略)

スリーマイル島原発の事故では、冷却システムの不具合によって部分的に炉心溶融が起きた。だが死傷者は出なかった。チェルノブイリでは事故後86年7月までに、原発作業員や消防隊員など少なくとも31人が死亡した。
チェルノブイリには4つの原子炉があり、1号炉が稼働したのは77年だ。EBRDによると、事故は83年12月に試運転を終えたばかりの4号炉の過熱が原因で起きた。
爆発によって建屋の屋根が崩れ落ち、燃料棒の一部を含む放射性を帯びた破片類が屋外に放出され、近隣の森林を破壊した。EBRDによると、事故後の86年10月には同原発の別の原子炉での発電が再開され、2000年末まで続いた。事故の後遺症はまだウクライナ経済の重荷となっている。

ウクライナ緊急事態省のホームページによると、現在もまだ215万人が放射能で汚染された土地に住んでおり、30km圏内の立ち入り禁止区域は今も有効だ。検問所では放射能検出器を使い、過剰な放射線を浴びた可能性がある訪問者がいないか確認している。
同省によると、事故当時に旧ソ連の一部だったウクライナは、今年も原発の安全性を維持するために7億2890万フリブナ(約9200万ドル)を支出する。それに加えて、同国政府は2009年に被害者への手当てとして20億フリブナを支払った。事故で障害を負ったとして登録されている人の数は、2010年初めの時点で11万827人に上る。(中略)
「放射線量の高い地点は非常に多く、現在の石棺を解体し、すべての放射性廃棄物を除去する作業がまだ必要だ。それを完了して初めて、チェルノブイリの問題が解決し、人々と環境への危険性はなくなったと言えるのだ」とスクリポフ氏は語る。 【3月31日 日経ビジネスONLINE】
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【「25年を経て制限区域の汚染は本質的に減った」】
資金だけでなく、放射線汚染自体が未だ残存していることが最大の問題ですが、ウクライナ当局は立ち入りが制限された区域の縮小を検討していることが報じられています。

****チェルノブイリ原発:入域制限区域の縮小を検討****
ウクライナのバロガ非常事態相らは18日、同国北部のチェルノブイリ原発で記者会見し、25年前の事故以来、放射性物質に汚染され、立ち入りが制限された区域の一部は既に安全だとして、同区域を縮小し、経済活動の再開などを検討していることを明らかにした。

事故時のソ連政府は、原発から半径30キロの地域から居住者を立ち退かせ、入域を制限。ウクライナ政府もこの措置を継続しており、制限区域が縮小されれば事故後初となる。
バロガ氏は「25年を経て制限区域の汚染は本質的に減った。土地の大部分はおそらく生活や経済活動に使用できる」と強調。「数百ヘクタールが雇用創出や投資のための経済活動の場に戻せるかもしれない」と述べた。制限区域では事故前、主に農業や畜産業が行われていた。
同区域を管理する政府機関の当局者は、首都キエフ寄りの制限区域の南側は比較的安全になっており、「制限を設けずに居住することも可能だろう」と説明。現在、制限解除に向けて事務作業が行われていると述べた。【4月19日 毎日】
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“25年後のフクシマを、現在のチェルノブイリのような状況にしてはならない”・・・本当にそのように思います。

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イタリアに押し寄せるチュニジアからの不法移民、フランスはイタリアからの受入れを拒否

2011-04-18 21:51:44 | 国際情勢

(イタリア・ランペドゥーサ島にボートで押し寄せる北アフリカからの不法移民・難民 “flickr”より By IFRC http://www.flickr.com/photos/ifrc/5570209437/

フィンランド:民族主義右派政党大躍進
昨日の続きのような話で、欧州の移民問題について。
昨日ブログで触れた、欧州における反移民の流れを示すひとつの事例としてのフィンランドの議会選挙については、予想どおり、反移民・反EUを掲げる民族主義右派政党の「真のフィンランド人(真フィン)」が大躍進を実現しています。

****反EU政党、議席6倍増で第3党に フィンランド総選挙****
任期満了に伴うフィンランド総選挙(一院制、定数200)が17日投開票され、連立与党の一つである中道右派の国民連合が44議席を獲得し初めて第1党となった。一方、反欧州連合(EU)の姿勢を示してきた政党「真のフィンランド人(真フィン)」が現状の6倍以上の39議席を獲得し、第3党に躍進した。

選挙戦では、ポルトガルなど財政難の国をEUが救済することの是非が大きな争点となった。見直しを求める真フィンに押され、与党の中央党と国民連合、野党の社会民主党の3大政党が議席を減らす結果になった。
今後は国民連合を中心に連立交渉を始める。真フィンのソイニ党首は政権入りに意欲を示しているが、EUの救済策の扱いをめぐり難航も予想される。

国民連合党首のカタイネン財務相は選挙後の共同記者会見で「我々は問題を引き起こすのではなく、解決しないといけない」と述べ、従来の姿勢を変えるべきでないとした。これに対して真フィンのソイニ党首は「新しい政府は独自の政策を持つべきだ。ポルトガルやアイルランドの救済について再交渉すべきだ」と語った。【4月18日 朝日】
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【「人間津波の襲来」】
中東・北アフリカの民主化運動を受けて、イタリアには対岸のチュニジアから大勢の難民・不法移民が押し寄せています。
これまでは強権支配政権によって抑えられていた人の動きが“民主化”によって開放された形ではありますが、受入れ側のイタリアにとっては深刻な問題となっています。

****人のツナミ イタリア最南端の島に難民大挙****
アフリカ諸国の動乱は、これまでも地中海を渡って欧州に逃げてくる多数の難民を生み出してきたが、最近のチュニジア政変とリビア内戦により「人間津波の襲来」とさえ呼ばれるほどの難民が押し寄せている。

1988年以来、欧州に渡ろうとして、海上で遭難し溺死した難民の数は5日夜の250人の遭難者を含め1万5千人以上にもなり、人道上の問題でもある。特に、チュニジアやリビアからひと晩で小型船で到達できるイタリア最南端のランペドゥーサ島は、本来は観光を主要産業とする島にもかかわらず、3月下旬には、1週間で島民総数の4倍以上にもなる2万6千人の難民が上陸した。

もちろん、島に大量の難民を収容する施設はなく、治安・衛生上の問題も深刻化してきた。政府が海軍の艦船などで、各地のテント村へ移送を開始したが、受け入れに難色を示す自治体も多い。欧州連合は難民救助の方針だが、実際はイタリアだけに負わされているのが現状だ。今後もどのくらいの数の難民が来るか予想もつかない。
一番多い難民はチュニジア人のためベルルスコーニ首相は急遽(きゅうきょ)、チュニジアに飛び、難民送還を提案したが受け入れられなかった。わが国でも、いざ近隣諸国で動乱が起こった際の難民対策を考えるべきだと思うのだが。【4月10日 産経】
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イタリア・チュニジア両国は即時本国送還で合意しましたが、イタリア最南端のランペドゥーサ島では、本国送還に抗議した不法移民の暴動も起きています。

****チュニジアからの不法移民、即時強制送還に抗議し暴徒化 イタリア****
イタリアの南部ランペドゥーサ島で11日、ボートで漂着したチュニジアからの不法移民が、両国政府が前週合意した即時本国送還に抗議し、暴徒化した。
ランペドゥーサ島の施設に収容されている数百人の移民の一部が「自由、自由!」などと叫んだ。移民たちがつけた火で小さなぼやも起きたが、消防隊がすぐに消火した。また施設から移民数十人が逃走した。
 
面積20平方キロのランペドゥーサ島はイタリア領だが、地理的にはイタリア本土よりも北アフリカに近い。今年に入り2万5000人以上の不法移民が漁船に乗って漂着している。これまでその大半はイタリア本土の収容所に送られている。
抗議行動にもかかわらず11日には数十人の不法移民が旅客機2機でチュニジアに送還されたが、移民たちの抗議によって、2機目の出発に遅れが出た。
両政府は7日、4月5日よりも前に漂着していた不法移民についてはイタリア側が半年間の居住許可を与える代わりに、それ以降に到着する移民は全員、チュニジアに送還するという方針で合意していた。【4月12日 AFP】
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移民という「重荷」を押し付けあう対立
チュニジアからの移民の多くは旧宗主国フランスへの入国を求めていますが、やはり移民問題で悩むフランスは受入れを拒否しています。
それなら・・・ということで、イタリア側は移民の一部に4月以降、「自由越境のパスポート」に当たる暫定滞在許可証を発行しフランスなどへの出国を事実上促す措置に出ています。
これに対し、フランス側はイタリアとの国境を一時封鎖するという対抗措置に出て、対立が激化しています。

****フランス:チュニジア移民入国阻止 伊との国境一時閉鎖****
1月のチュニジア政変後、同国からイタリアに押し寄せた移民に対し、フランス政府が17日、伊からの入国を一時禁じ、両国の対立が高まっている。チュニジア移民の多くは旧宗主国フランスへの入国を求めており、それを阻む仏に対し伊は厳重抗議した。移民という「重荷」を押し付けあう対立は今後も欧州各地に広がりそうだ。

フランス政府は17日、地中海に面した仏南部ニッツァと伊北西部のベンティミリアを結ぶ鉄道を閉鎖した。チュニジア移民60人のほか、移民受け入れに消極的な仏政府に抗議する仏伊の人権団体約300人の入国を阻むためとみられる。
これを受けフラティニ伊外相は同日、「国境閉鎖は違法で、欧州の原則に反している」と抗議した。仏政府の措置は欧州連合の25カ国間の自由越境を認めたシェンゲン協定を侵すものとみて、その釈明を求めた。これに対し仏側は「抗議団体はデモの申請をしておらず、閉鎖は治安維持のためだった」と答え、同日夕、国境を再開した。

イタリアでは移民が過去10年で20倍に増え人口の1割近くの400万人以上になり、アラブ諸国の政変で今後も急増が予想される。特にこの2月以降、チュニジアからの移民船が増え、今年すでに約2万9000人がイタリア南部に漂着し、数百人が海難で死亡している。
伊政府はチュニジアからの移民を一時的受け入れ施設で収容してきたが、仏など他の欧州諸国が移民対策に協力しないことに不満を抱き、移民の一部に4月以降、「自由越境のパスポート」に当たる暫定滞在許可証を発行し独仏などへの出国を事実上促した。マローニ伊内相は17日夜の国営放送で仏政府の措置を「不可解、乱暴かつ不正義なもの」と断じた。【4月18日 毎日】
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まさに“移民という「重荷」を押し付けあう対立”ですが、日本の“ことを荒立てない外交”からすると、イタリアにしてもフランスにしても、なかなかに大胆な対応です。
EUという共同体にあっても、利害対立がからむと理念よりも国益優先のようです。

チュニジアだけでなく、リビアの動向によっては、この問題は更に深刻化する恐れもあります。


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イギリス  キャメロン首相、移民制限に乗り出す

2011-04-17 20:06:52 | 世相

(“illegal immigrants”というタイトルのロンドンの光景 “flickr”より By Tom Močička http://www.flickr.com/photos/32773922@N05/3728794811/

フィンランド:反移民政党支持率4%→16%
実質的に移民への門戸を殆んど閉ざしている日本と異なり、これまで大量の移民を受け入れてきた欧州社会は、移民増加に伴う文化的軋轢・経済的摩擦から反移民・移民排斥の流れが強まっており、そうした風潮を背景に政治的には極右政党が各地で台頭していることは、これまでたびたび取り上げてきたところです。

先日14日に取り上げたフランスのブルカ禁止法もその流れであり、中東・北アフリカの民主化運動の結果、イタリアは対岸チュニジアからの大量移民問題に直面しています。
今日もフィンランドで議会選挙が行われていますが、反移民を掲げる右派政党がどこまで伸びるか注目されています。

****フィンランド:議会選投票始まる 注目は真正フィン人党に****
任期満了に伴うフィンランド議会(1院制・定数200)選挙の投票が17日朝、始まった。事前の世論調査では、連立政権の一翼を担う中道右派の国民連合がややリードするが、過半数には遠く及ばない。一方で、反ユーロや反移民を掲げる右派「真正フィン人党」が大きく支持を伸ばす見通しで、波乱含みとなっている。

小党乱立の同国では主要3党が選挙結果を受けて連立政権を主導するのが一般的。3党の支持率は拮抗(きっこう)しているが、カタイネン財務相の率いる国民連合が、キビニエミ首相の中道右派・中央党などを抑えて第1党になると予想されている。
一方、真正フィン人党は反ユーロの立場から、財政危機に陥った加盟国への欧州連合(EU)による金融支援に反対。税金を他国への支援に使うことに反発する国民の不満を吸収して、前回07年総選挙の得票率4%から支持率を4倍近い16%前後まで伸ばしている。選挙結果次第で、EUのポルトガル金融支援に影響を及ばすとの指摘も出ている。選挙は比例代表制。即日開票される。【4月17日 毎日】
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【「優秀な移民以外はお断り」】
事情はイギリスでも同様で、欧州屈指の寛容さを誇った受け入れ移民大国イギリスが保守党キャメロン政権下で「優秀な移民以外はお断り」という移民規制に乗り出しています。

****移民受け入れという慈善」はやめた*****
イギリスのデービッド・キャメロン首相は14日、南部ハンプシャー州で開かれた保守党の会合で行った演説で、EU諸国以外からの移民の受け入れを制限する方針を明らかにした。
キャメロンが移民政策に特化した演説を行うのは、1年前の選挙戦以来。移民の受け入れ数を現状の年間「数十万人」から「数万人」に減らすと約束した。

インドのビジネス・スタンダード紙によると、キャメロンは演説でEU圏外からの移民が多くなった要因としてイギリスの福祉制度を批判。その上で、現政権は「大量の移民ではなく優秀な移民」のみを歓迎すると発言した。
「問題は、働かない国民を長年支えてきた福祉制度のおかげで、ぽっかりと空いた労働市場の穴を、移民が埋めているということ。非難されるべきは、このひどい福祉制度であり、前政権がその改革に完全なまでに失敗したことだ」

インドのヒンドゥスタン・タイムズ紙によると、キャメロンはさらに、前政権である労働党は大量の移民と不法移民(主に学生や合法移民の家族)が法の抜け穴を利用して入国してきたことを傍観していたとも批判した。
英ガーディアン紙によれば、英語を話せなかったり社会に同化する意志のない移民は、コミュニティーを分断させる「一種のわだかまり」を生んでいるとも語った。
ガーディアンが公開しているキャメロンの演説全文から、要点を一部引用すると──。

■移民の大量受け入れは善行で、経済もおかげで助かっているという主張もあれば、移民はイギリスの寛大な福祉制度を悪用しているという主張もある。こうした両極端な主張をただし、分別ある理論的な議論を展開することが、政治家の役割だ。
■しかし先の労働党政権はそれとは逆に、議論を煽ってきた。移民に反対するのは人種差別だとでも言うように議論そのものから目を背けた閣僚もいれば、自身の保守派としてのイメージを守ろうと躍起になって反移民を叫びながら、移民削減へ向けて何一つ具体的な行動を起こさなかった閣僚もいる。

■わが国は移民から計り知れないほどの恩恵を受けてきた。どこの病院に行っても、ウガンダ、インド、パキスタンなどから来た人々が病人や弱者の世話をしている姿を見かける。学校や大学では、世界中から集まってきた教師がイギリスの若者たちに刺激を与えている。外国から来た起業家たちは地元経済に貢献しているだけでなく、地域社会の一員としての役割を果たしている。
移民がイギリスに多大な貢献をしていることは間違いないし、われわれも歓迎している。だがそれでも、私にははっきりさせておきたいことがある。長い間、イギリスは移民を多く受け入れ過ぎてきた。

■移民の制限は、この国の将来にとって非常に重要な課題だ。だかこそ、わが保守党は選挙戦中に国民にはっきりと約束した。移民の数を80〜90年代のレベルにまで削減することを。そして政権を取った今、われわれはこの目標の達成に向かっている。
合法移民については、EU諸国以外からの移民の数に上限を設ける。不法移民については取り締まりを強化。難民の認定ついても見直しに取り掛かった。こうした取り組みの成果は見えてきている。

■とても若く英語がほとんど話せない外国人が英国民と国際結婚するケースがある。この場合、政治的公正に反したとしても、偽装結婚の可能性を疑わないわけにはいかない。昨年11月より配偶者ビザ申請の条件として最低限の英語能力の証明を求めているのも、そのためだ。われわれはまた、イギリスに来る配偶者の年齢制限を21歳以上と規定した。
■もちろん、イギリスは今後も世界の優秀な頭脳や、迫害から逃れてくる人々を歓迎する。だが現保守党政権の下、わが国の国境は開放されているわけではなく、移民の数は受け入れられる範囲でなければならない。そこに「もし」とか「しかし」といった条件はない。これは、われわれが国民と交わした約束であり、決して破ることのない約束だ。【4月15日 Newsweek】
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マイノリティーへの配慮も?】
移民排斥との批判をかわすべく、「わが国は移民から計り知れないほどの恩恵を受けてきた」と、移民のもたらすメリットを強調してバランス感覚を保ちながらも、英語を話せなかったり社会に同化する意志のない移民を拒む方針を明確にしています。

なお、マイノリティーへの配慮というバランス感覚について言えば、キャメロン首相は先日、名門オックスフォード大学の黒人受入れの少なさを批判しています。

****英オックスフォード大 黒人「狭き門」 首相発言波紋****
キャメロン英首相が出身大学の英名門オックスフォード大について「2009年に黒人学生を1人しか受け入れなかったのは不名誉」と非難し、波紋を広げている。オ大は「誤解だ。27人の黒人学生を受け入れた」と反論しているが、黒人受け入れ率は全体の1%。米名門ハーバード大では1割を超えており、黒人にとってオ大が「狭き門」であることが浮き彫りになった。
首相は11日、「低所得者層の学生に門戸を開かない大学は授業料を値上げできない」と述べ、オ大を例に挙げて改善を求めた。

これに対し、オ大は09年の合格者2653人のうち黒人学生は27人だったと反論。内訳はカリブ海出身1人▽アフリカ出身23人▽その他3人。カリブ海出身者については35人が入学願書を提出したが、首相は合格した1人だけを誤って取り上げてしまったようだ。
01年の国勢調査によると英国の人口比率は白人が92・1%、黒人は2%。オ大の黒人受け入れ率はその半分の1%。労働党議員によると、オ大内の1つのカレッジは黒人学生を5年間も受け入れていなかった。
オ大のライバル校、ケンブリッジ大では09年にカリブ海出身6人を含む28人の黒人学生を受け入れた。オ大同様、黒人学生の少なさが目立っている。

英国では中流階級が増えたものの、上流と労働者階級の格差が残り、オ大、ケ大の合格者も富裕層の子弟が通う私立校出身者が4割以上を占める。一流大学の受験資格とみなされる成績を収めた白人は09年に2万9千人に達したのに黒人はわずか452人だった。
一方、米国のハーバード大では今年秋に入学する学生のうち11・8%がアフリカ系で、12・1%が中南米出身。階級が影を残す英国との違いを際立たせている。【4月14日 産経】
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黒人・ヒスパニックの多いアメリカのハーバード大と、黒人が2%イギリスのオックスフォード大を単純には比較できませんが、キャメロン首相が敢えてこうしたマイノリティー問題を取り上げたのも、反移民的な右傾化批判への配慮でしょうか。

移民は「機会」であるよりは「問題」】
移民問題に関しては、移民を「機会」であるよりは「問題」であると考える人が、イギリスで3分の2以上にのぼっているとの世論調査も報告されています。

****移民は「問題」、欧米世論調査****
カナダでは移民は「機会」のひとつと考えられているが、英国や米国、スペインでは移民を「問題」ととらえている人が多いことが、欧米世論の移民問題に対する意識を調べる「欧米トレンド:移民」で明らかになった。
調査は前年末、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインの各国の成人1000人を対象に電話で実施された。

フランスでは移民に対して否定的な意見を持つ人が急増した。2009年には違法合法を問わず移民が犯罪を増加させると考える人は25%以下だったが、2010年には40%にまで増えた。
移民を「機会」であるよりは「問題」であると考える人は、英国で3分の2以上、米国とスペインで半数以上の人に上った。

しかし一方で、移民たちが社会に適応できていると考える人の割合も、米国とスペインではそれぞれ59%と54%と半数以上に上った。また、英仏独ではおよそ40%、オランダとイタリアではわずか36%ほどだった。

一方、カナダでは移民を「機会」と考える人の方が多く、移民を「問題」とみる人はわずか27%だった。また、移民らが社会に適応できていると考える人の割合も3分の2近くだった。
また、移民が社会に適応するための方法としてはドイツでは言語の習得が重要と考えられ、オランダでは言語と文化、イタリアとスペインとフランスでは政治制度と法の尊重が最も重要だと考えられていた。【2月6日 AFP】
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バーレーン  周辺国を巻き込む宗派対立 強硬姿勢の政府側、最大野党解党へ

2011-04-16 20:28:40 | 国際情勢

(3月14日 バーレーンに進駐したサウジアラビア治安部隊 “flickr”より By Sniper Photo Agency
http://www.flickr.com/photos/sniperphotocouk/5540592500/ )

GCC「(イランの内政干渉」、イラン「サウジの火遊び」】
ペルシャ湾岸の小国バーレーンでの民主化運動は、多数派シーア派住民をスンニ派王制が支配する構図にあって、シーア派対スンニ派という根深い宗派対立の様相を呈していますが、スンニ派主体のサウジアラビアなど湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議(GCC)」が現王制支持の軍事介入をしたことで、これを批判するシーア派のイラン、やはりシーア派の影響が強いイラクが反発する形で、周辺諸国を巻き込んだ対立に発展し、中東情勢不安定化を懸念させる火種となっています。

****イラン:湾岸諸国との関係悪化 バーレーン巡り非難合戦****
イランとペルシャ湾岸諸国の関係が急速に悪化している。反体制デモで混乱する湾岸のバーレーンに対し、サウジアラビアなどが3月中旬に軍を派遣したことからイランが反発、これに湾岸諸国が「内政干渉だ」と非難合戦を繰り広げている。イスラム教シーア派の地域大国イランと、スンニ派が政権の主体の湾岸諸国との対立が深まれば、中東全体の不安定化につながりかねない。

「サウジアラビアによる中東地域での火遊びは何の利益にもならない」。イラン国会の国家安全保障外交委員会は先月31日、サウジ軍のバーレーンへの介入を非難。これに対し、サウジなど湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議(GCC)」は今月3日、リヤドで緊急外相会議を開き「(イランの言動は)内政干渉で、国際条約に反する」との声明を出した。

バーレーンでは2月中旬からシーア派住民によるデモが続き、自国へのデモ波及を恐れるサウジなどがバーレーンに軍を派遣。先月16日にはサウジ軍がバーレーンで現地当局とともにデモ隊を弾圧し、その後も厳戒態勢を敷いている。一連のデモ犠牲者は計24人で、サウジ介入後が半数以上を占める。

湾岸諸国は、イランがバーレーンで影響力を強めることを警戒している。だが、バーレーン国民の多くは自国政府に不満を持つが、イラン、湾岸のどちらの介入も望んでおらず「住民不在」の中で周辺国の綱引きが続く。
また、湾岸諸国の介入には、イラクのマリキ首相(シーア派)やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラなどシーア派勢力も警戒感を示している。
こうした中、イランのアフマディネジャド大統領は4日の会見で、「この地域にサッカーボールを入れたのは米国だ」と語り、反米国家イランと親米の湾岸諸国との対立を米国があおっているとの認識を繰り返した。【4月5日 毎日】
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軍事介入している湾岸諸国(GCC)側が、イランの反発を「内政干渉」と批判するというのも奇妙な感はありますが・・・。
GCCの言い分は、GCCの軍事介入はバーレーン政府の要請による正当なものであり、イランがGCC加盟各国のスンニ派による君主制を脅かす目的で暴動を扇動し、GCC加盟国の「主権を侵害」しているというものです。

なお、イラン保守強硬派の一部には、16世紀以降の一時期、イランがバーレーンを支配した歴史を背景に「バーレーンは、イランの一部」との主張も根強くあるようです。
“「バーレーンは、シャー(イラン国王)と米英政府の違法な取引でイランから分離した。バーレーン州および州民は母なる大地イランへの返還を望んでいる」。イラン政府系紙ケイハンは昨年7月、同社社長の論評を掲載した。イラン側は、外務報道官が「私人の見解だ」と断り、イランのモッタキ外相がバーレーンに飛ぶなど釈明に追われた。”【3月22日 毎日】

ヒズボラを警戒
レバノンのシーア派武装組織ヒズボラへの警戒ということについては、レバノン人の国外退去や調査が行われています。
****バーレーン:ヒズボラを警戒「テロに関与*****
イスラム教シーア派住民の抗議デモによる混乱が続くのを受け、ペルシャ湾岸のバーレーン政府が、レバノンのシーア派組織ヒズボラに対する警戒を強めている。
現地紙「ガルフ・デーリー」によると、バーレーン当局は26日までに、ヒズボラに関与して国内混乱を招いたとしてレバノン人労働者3人を逮捕。近く90人を国外退去させ、約4000世帯の国内在住レバノン人も順次関与を調べる。

ヒズボラの最高指導者ナスララ師は19日の演説で、バーレーン政府のシーア派住民弾圧やサウジアラビア軍受け入れを厳しく批判。バーレーン政府はこれに強く反発し、ハリド外相は24日、「国内のテロ活動にヒズボラが関与している証拠をつかんだ」と語った。同政府は22日以降、レバノンとの航空機の直行便を休止。既にイラン、イラクとの直行便も止めている。【3月26日 毎日】
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パキスタン人が「市民弾圧に加担した」として標的
こうしたバーレーン政府側のイラン、ヒズボラへの警戒のほか、シーア派住民のパキスタン人などの外国人労働者への反感も募っています。
****バーレーン:シーア派住民、相次ぎ外国人襲撃*****
イスラム教シーア派住民による抗議デモが続く中東バーレーンで、シーア派住民によるとみられる外国人襲撃事件が相次いでいる。同国では、パキスタン人などスンニ派イスラム教徒の外国人が軍や警察に多い。このため、特にパキスタン人が「市民弾圧に加担した」として標的となっている。建設労働者なども狙われているため、被害を恐れて帰国する外国人も目立ち始めた。(中略)

バーレーンはシーア派が人口の6割を占めるが、少数のスンニ派が支配層を握る。政府はスンニ派重視政策を続け、スンニ派の外国人労働者を歓迎。シーア派住民の就職が難しい比較的高給の軍や警察でも採用してきた。
2月中旬以降、バーレーン治安当局は、デモを続けるシーア派住民を繰り返し弾圧。当局側にパキスタン人がいることに反発して今月中旬以降、一部の住民らが次々に襲撃行動に出たとみられる。

しかし、5万人以上とされるパキスタン人労働者の大半は建設現場などで働く低賃金労働者だ。バーレーンの外国人労働者保護協会によると、治安悪化で帰国する労働者が増えているが、勤務先にパスポートを管理されて手続きが取れない人も多いという。【3月28日 毎日】
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バーレーン政府は、先月1千人近いパキスタン退役軍人を新たに治安部隊要員として雇用したとも報じられています。
****バーレーン治安部隊、パキスタン人を大量雇用****
パキスタンの有力英字紙ニューズは15日、バーレーンの治安部隊に先月1千人近いパキスタン退役軍人が新たに雇われたと報じた。バーレーン政府はイスラム教シーア派住民によるデモの弾圧のためにスンニ派が多いパキスタンから要員を増強しているとみられる。
同紙がパキスタン退役軍人のための財団の関係者の話として伝えたところによると、バーレーン政府は以前から治安部隊にパキスタン人を雇用、現在約1万人がいるとされる。財団関連企業は今年5月までにさらに1500人を新規雇用する予定だが、9割はバーレーンに送られるという。
財団はバーレーンで大規模なデモ弾圧が始まる2週間前の3月上旬、パキスタン地元紙にバーレーン治安部隊への求人広告も出していた。給与や待遇が良いため、中途退役して再就職する軍人も多いという。【4月15日 朝日】
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強硬姿勢を続ける政権側
イラン、イラク、レバノン、パキスタンを巻き込んだ対立が続いていますが、GCC軍事介入など強気のデモ弾圧が目立ちます。
チュニジアやエジプトの事例が「譲歩したら崩壊にまで追いやられる」という教訓となっているのでしょうか。また、リビア・カダフィ政権の「結局は力だ」という姿勢が参考になっているのでしょうか。
そうした中で、クウェートの仲介も報じられていました。

****バーレーン:政府と野党との対話 クウェートが仲介へ****
反体制デモが散発的に続くペルシャ湾岸のバーレーン情勢を受け、クウェート政府が、デモを主導するイスラム教シーア派野党とバーレーン政府との対話の仲介を申し出、野党が27日までに受け入れたことが分かった。仲介が順調に進めば、頓挫している対話が動き出す可能性がある。

シーア派野党「イスラム国民統合協会」によると、クウェートのサバハ首長が同協会に仲介を打診。同協会は、サウジアラビア軍の撤退や政治犯解放などの条件が整えば政府との対話に応じることを同首長側に伝えた。同協会のイブラヒム・マタル前国会議員(デモ弾圧に抗議して辞任)は毎日新聞に「トルコや米国など複数の国から仲介の打診があったが、クウェートが最も我々を理解していると判断した」と語った。【3月27日 毎日】
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しかし、政府側の強硬姿勢は変わらないようです。最大野党を解党する動きに出ています。

****シーア派最大野党会派の解党に着手 バーレーン政府*****
バーレーン政府が、反政府デモを主導したイスラム教シーア派の最大野党会派・イスラム国民統合協会(ウィファーク)の解党手続きに着手した。スンニ派王室が実権を握る政府が議会からのシーア派勢力排除を狙ったもので、民主化運動はさらに抑え込まれる形となりそうだ。
法務・イスラム問題省は14日の声明で、ウィファークの解党を裁判所に申し立てたと発表。「憲法と法律に違反し、社会の平穏を乱した」ことを理由としている。結論が出るには1カ月ほどかかるとみられる。国営通信は15日、「(政府は)証拠が出そろうまで措置は取らない」と伝えた。

ウィファークは穏健シーア派で、昨年10月の国民議会選挙(定数40)では最多の18議席を獲得。今回の措置に対して弁護士と対応に追われており、15日のイスラム教金曜礼拝後の抗議行動は呼びかけていない。
バーレーンでは2月中旬から、ウィファークなど野党7団体が主導する民主化要求デモが始まったが、主張は「王制打倒」へと変化した。ハマド国王は3月中旬、サウジアラビアなどスンニ派の湾岸諸国に援軍を要請。非常事態令を宣言し、弾圧を強めた。
これを受け、ウィファーク側はこれまで拒んでいた政府との対話を模索する姿勢を見せ始め、アリ・サルマーン事務局長は13日、朝日新聞の取材に、「真の立憲君主制の実現を求めており、王制打倒は目指していない」と強調。「数週間後にも王室と対話を始めたい」と述べていた。
それだけに、解党は寝耳に水で、ウィファーク関係者は「対話どころではなくなった。最悪の展開だ」と反発している。

ウィファークの説明によると、「王制打倒」の要求は、後にデモに合流した反体制組織や、インターネットでデモ参加を呼びかけた若者グループらによるものだったという。
しかし、デモに対抗してつくられたスンニ派の政治組織・国民統合の会のマフムード議長は、「ウィファークは過激な連中の主張を止めようともしなかった。王制打倒という目的があるのは明らかだ」と不信感を隠さない。
シーア派を国教とするイランがデモを扇動したとみるバーレーン政府は、国民の多数を占めるシーア派に支持されているウィファークの解党で、イランやシーア派の影響力拡大を食い止める狙いがあると見られる。【4月15日 朝日】
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南スーダン  独立を前に激化する暴力、増加する犠牲者

2011-04-15 20:44:15 | 国際情勢

(10年5月17日 「神の抵抗軍(LRA)」によって3名の文部省官僚が殺害された南スーダン・Tambura
“flickr”より By BenedicteDesrus http://www.flickr.com/photos/benedictedesrus02/4623795330/ )

【「アトル氏は南部の人物であり、NCPとは一切関係がない」】
スーダンでは今年1月に南部の分離独立の是非を問う住民投票が行われ、98.83%という圧倒的大多数による賛成で7月に独立することが決まっていますが、当初から懸念されていたように、南部の各勢力・部族間の対立による治安悪化が報じられています。

****独立確定のスーダン南部で衝突、武装勢力襲撃で240人超死亡か****
スーダン南部の自治政府は15日、石油資源が豊富なジョングレイ州で先週発生した武装勢力による襲撃で、少なくとも211人が犠牲になったと発表した。武装勢力側も含めると、死者は240人を超える可能性があるという。
南部の軍当局は、襲撃した武装勢力は、昨年ジョングレイ州の知事選に落選し、反乱を起こしたジョージ・アトル氏を支持するグループだとしている。

スーダン南部は、分離独立の是非を問う住民投票で98.83%という圧倒的大多数による賛成で独立が確定。しかし2月に入っても南部の町マラカルで軍部隊内の暴動で50人以上が犠牲になったほか、親族によるとみられる犯行で閣僚が射殺されるなど、治安の不安定さが浮き彫りになっている。

南部自治政府の幹部は、今回の襲撃はスーダン北部によって計画されたものだとし、「北部から資金や武器の提供を受けた武装勢力が南部で活動している」と主張。一方、スーダン政府の与党である北部の国民会議党(NCP)幹部はこれを否定し、「アトル氏は南部の人物であり、NCPとは一切関係がない」と強調した。

スーダンでは1955年以降、イスラム教徒が多数を占める北部と主にキリスト教と伝統宗教が信仰される南部との間で、石油利権や民族問題をめぐり幾度も内戦となり、計約200万人が死亡。2005年に和平合意が結ばれ、住民投票の実施が決まった。【2月16日 ロイター】
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3月入っての下記報道もアトル氏支持勢力と自治政府軍の衝突と思われます。
****スーダン南部で戦闘、98人死亡の報道 選挙巡る対立****
今夏の独立が決まったスーダン南部で2月27日、自治政府軍と反乱派の間で戦闘があり、多数の死傷者が出た。反乱派側は「自治政府軍の兵士86人を殺し、こちらも12人の仲間を殺された」と主張している。ロイター通信などが報じた。
現場はジョングレイ州で、反乱派は元自治政府軍の元将軍に率いられている。元将軍は昨年4月の州知事選で、自治政府を率いる南部の与党・スーダン人民解放運動の公認をもらえず、無所属で立候補したが落選。以来、私兵を率いて自治政府に反旗を翻すようになったという。【3月2日 朝日】
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【「神の抵抗軍(LRA)」による攻撃も散発的に発生
こうした南スーダン内部の勢力間の争いに加え、ウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」による攻撃も発生しており、7月の独立に向けて治安の回復が急務となっています。

****スーダン南部、独立決定後も暴力激化 死者800人超える****
国連は13日、住民投票で独立が決まったスーダン南部で暴力が激化しており、今年にはいってからの犠牲者が800人を超えたと発表した。避難民も約9万4000人に達しているという。スーダン南部は7月の独立に向けて、治安の維持が大きな課題となった。 

スーダンでは今年1月に南部の分離独立の是非を問う住民投票が行われ、7月に独立することが決まった。住民投票はおおむね平和的に行われたが、それ以後、武力衝突が激化しており、過去1か月で避難民の数は倍増したという。
スーダン南部では武装勢力と政府軍の武力衝突のほかにも、土地や家畜をめぐる部族間の衝突、スーダン南部に主力を移したウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」による攻撃も散発的に発生している。

スーダン南部の主要都市ジュバで会見したLise Grande国連人道調整官(スーダン担当)は、「少なくとも7つの民兵組織が存在し、共同体の中でも暴力が続いている。その上、LRAの存在もある。非常に憂慮している」と語った。
暴力の激化は2010年の統計と比較しても明らかだ。スーダン南部における暴力の犠牲者は、2010年には年間で980人程度だったが、今年はすでに3か月あまりで800人に達している。【4月14日 AFP】
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「神の抵抗軍(LRA)」については、これまでも何回か取り上げてきましたが、ウガンダだけでなく、スーダン・コンゴなどアフリカ中央部で襲撃を繰り返しています。
国際刑事裁判所(ICC)は、2005年7月、LRAの指導者、ジョセフ・コニー、オコト・オディアンボ、ドミニク・オングウェンに逮捕状を出し指名手配、この逮捕状が足かせになった部分もあって、2008年には和平交渉も失敗しています。
下記は半年前の記事ですが、情況は今も変わっていないと思われます。

****ウガンダ:神の抵抗軍が2000人殺害*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)報道官は17日までに、ウガンダの反政府勢力、神の抵抗軍(LRA)が中央アフリカやスーダン南部、コンゴ民主共和国(旧ザイール)で村などへの襲撃を繰り返し、2008年12月以降、2000人を殺害、2600人以上を誘拐し、40万人が家を追われたと述べた。
今年はこれまでに少なくとも344人が殺害された。襲撃件数は今年9月以降、急増しているという。英BBC放送によると、4カ国はLRA掃討に向け、合同部隊を結成することで合意した。

LRAはウガンダ北部で20年以上前に政府軍との内戦を開始。近年は拠点をコンゴ民主共和国北東部や中央アフリカ東部に移し、住民虐殺や略奪を繰り返しているとされる。コニー指導者はスーダン西部ダルフール地方に潜伏しているとの指摘もある。【10年10月18日 毎日】
毎日新聞 2010年10月18日 18時55分
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【“暴力”に対する基本認識に違い?】
LRAの所業については、“LRAの兵士たちの人の殺し方は残虐だ。死ぬまで殴いたり、重いこん棒で頭がい骨を叩き割ったり、木に縛りつけてナタで頭を切り落とすなどが常套手段だ。また彼らは、家族や隣人を殺害させるために子どもたちを誘拐。逃亡しようとした人、疲労困ぱいしたり病弱な人、LRAが用なしと決めた人びとが、誘拐された子どもたちに殺されているのだ。”“LRAは200~400人の戦闘員を擁しているほか、数百人の拉致被害者も連れているとみられている。 特に政治目標はなく、一般市民からの支持もない。兵士の補給は、子どもの拉致が主。時に成人も拉致する。拉致された人びとは途方もない残虐行為にさらされ、戦闘を強制される。”
【10年11月10日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】とも。

特に政治目的もなく殺りくを繰り返すLRA、南スーダンだけでなくアフリカ各地で繰り返される内戦・武力衝突・民間人虐殺・・・こうしたものを見ていると、弱肉強食のジャングルの掟がそのまま人間社会にも適用されたような、アフリカにおける“命の軽さ”“暴力の蔓延”を感じてしまいます。生命とか暴力にかんする基本的認識が他の世界とは違っているのでは・・・とも。長年の植民地支配における人権無視の風潮も影響しているのでしょう。

もちろん、そうしたネガティブなアフリカのイメージは一面的であり、経済成長とともに新しいアフリカの側面も一方で形成されているのも事実でしょうが・・・・。
南スーダン独立で、民主的な政治体制を確立し、ネガティブなイメージを払しょくしてもらいたいものですが。

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フランス  サルコジ再選戦略か 積極的軍事介入とブルカ禁止法

2011-04-14 20:12:05 | 世相

(ブルカ禁止法施行の4月11日、パリで拘束されたケンザ・ドリデルさん(ニカブ着用の写真中央女性) ただし、拘束理由はニカブ着用ではなく、無許可の抗議行動だったそうです。 “flickr”より By siobh.ie http://www.flickr.com/photos/siobhansilke/5609101315/ )

【「人道危機に手をこまぬかないリーダー」演出
リビア空爆で国際世論をリードし、コートジボワールでも軍事介入を行うなど、フランスの“市民保護”を目的とした積極的な軍事行動が目立っていますが、背景には人気が低迷するサルコジ大統領の再選を狙う思惑があるとも指摘されています。

****仏、際立つ軍事介入 対リビア・コートジボワール****
大統領選へ強い指導者演出
対リビア軍事作戦に続き、内戦状態のコートジボワールに軍を投入しバグボ前大統領の拘束に協力するなど、フランス政府の介入外交が際立っている。「人道危機に手をこまぬかないリーダー」を強調し、再選に向けて支持率回復をねらうサルコジ大統領の思惑が透けて見える。

「軍事介入によってしか虐殺が止められない時がある」。ジュペ仏外相は、コートジボワールに介入を始めた2日後の今月6日、国民議会(下院)でこう説明した。
コートジボワール問題で仏政府は、国連安全保障理事会に外交攻勢をかけ、3月末、バグボ氏らに対する制裁決議を全会一致での採択に持ち込んだ。対リビア介入の時と同様、「市民の保護」を理由に軍事介入できる環境が整った。国連やアフリカの近隣諸国などから人進上の要請を受け、それを満たすために武力を行使するという理屈だ。

仏政府の積極姿勢は、サルコジ氏自身の指示によるものだ。来年4月の大統領選で再選を目指す同氏にとっては、低迷する支持率の回復が急務。国内の最大の関心事は経済だが、国民に不人気の財政の引き締めを進めるしかない。
そこで、サルコジ氏が力を入れるのが外交だ。過去に「成功体験」があるからだ。ロシアとグルジアが武力衝突を起こした2008年、欧州連合(EU)議長国の首脳として停戦を仲介し、人道介入を評価する仏国民の支持率は一気に11ポイント跳ね上がった。

主要8力国(G8)と20力国・地域(G20)の議長国を務める今年、サルコジ氏は外交を再選戦略の要に位置づけた。ただ今回、世論は必ずしも思惑通りに反応していない。
仏ルモンド紙が13日付で報じた対リビア軍事介入に関する米英仏伊4カ国世論調査では、介入支持はフランスが63%で最も高く、国民に受け入れられていることを示した。しかし、別の最新の世論調査によると、サルコジ氏の支持率は前月比1ポイント減の30%と07年の当選以来で最低を更新した。
リビアの戦況は一進一退が続き、膠着状態に陥っている。コートジボワールもバグボ氏拘束後も治安は回復されていない。
仏外務省顧問のフランソワ・エースブー氏は朝日新聞に対し、「今回の介入でフランスの政治的、軍事的存在感は増したかもしれないが、アフリカの問題ある指導者を支えた時代の記憶を呼び起こしかねない」と反仏感情が高まる懸念を示した。(パリ=稲田信司)【4月14日 朝日】
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極右政党に任せなくてもいい・・・
積極的な軍事介入による“強い指導者”のイメージづくりと並んで、サルコジ大統領が再選対策として推し進めるのが、増加する移民、浸透するイスラム文化への国民の不安感を背景にした、イスラム教徒の女性が全身を覆う衣服、ブルカやニカブの着用の禁止する、いわゆる“ブルカ禁止法”です。
躍進する極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏の追い上げをかわす狙いも感じられます。

****フランス、ブルカ禁止法を施行*****
欧州で国内のイスラム教徒人口が最も多いフランスで11日、イスラムの女性が顔をすべて覆うベールを禁止する法律が施行された。

欧州では同様の動きが広がっているが、実際に禁止法を施行したのはフランスが初めて。ベルギーでは同様の法律が議会を通過しているがまだ施行されていない。オランダでは極右組織などの指導者らがやはりブルカの禁止法を提案している。イタリアでは右派の北部同盟が今回のフランスの法律をモデルにロビー活動を行っている。
(中略)
顔全体を覆うベールの着用は中東および南アジアでみられるイスラムの慣習だが、フランス当局は同国に居住するイスラム教徒400~600万人のうち、このベールを実際に着用している女性は2000人程度と推計している。
一方、国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者などイスラム原理主義者たちはこの禁止法はフランスがイスラムに戦いを挑んでいるあらわれだとして、フランスへの攻撃を呼び掛けている。【4月11日 AFP】
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ブルカ禁止法が施行された11日に「ニカブ」を着用した女性2人が警察に一時拘束されたとの報道もありましたが、この件はニカブ着用が理由ではなく、無許可の抗議行動への参加を理由とした拘束だったようです。

****ブルカ禁止法施行後、初の拘束 フランス*****
顔全体を覆うベールの着用を禁止する法律が11日に施行されたフランスで同日、首都パリでの抗議行動中、体をすっぽりと覆い目だけを出す「ニカブ」を着用した女性2人が警察に一時拘束された。
ただし女性たちはベールの着用ではなく、ノートルダム寺院前で発生したデモに参加したことが、無許可の抗議行動への参加とされ拘束された。しかし、同法の施行後であるため法律上では、公共の場で顔を見せることを拒否するイスラム女性に当局は罰金を科すことができる。
拘束された1人、ケンザ・ドリデルさん(32)は「わたしたちについてどうするか検察官が決めるまでの間、警察署に3時間半、拘束された。その後『いいでしょう。行っていい』と言われた」と語った。
 
■拘束されるも罰金科されず
ドリデルさんとは別に、実業家で活動家のラシド・ネッカ氏も、ニカブをかぶった女性の友人と一緒にいて、大統領府前で警察に拘束されたと語った。ネッカ氏はAFPの取材に「わたしたちはニカブをかぶっていたことで罰金を科されたかったが、警察のほうが罰金を科したがらなかった」と語った。
ネッカ氏は今回の禁止法に反対しており、ベールをかぶっていて罰金を科された人の肩代わりするために、200万ユーロ(約2億4000万円)相当の自己資産を競売にかけ、基金を設立すると宣言している。

一方、フランス警察は、同法に違反した人がいても強制的にベールをはがす権限は与えられておらず、さらにすでに緊張関係にある移民居住区で抵抗に遭う恐れもあり、施行はされたものの、同法の執行には困難があると懸念している。【4月12日 AFP】
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学校など公共の建物のほか、道路や交通機関など社会のほぼ全場所でのブルカ・ニカブの着用を禁止する“ブルカ禁止法”には、人権団体や約600万人の仏イスラム社会から「人権侵害」との批判も強く、今後、ブルカ禁止法と宗教の自由をめぐる論争が激しくなることが予想されます。

ただ、そうしたこともあって、同禁止法の実施はかなり慎重に行われてもいるようです。
****意外と腰砕けなサルコジのベール禁止****
・・・・ベールは女性抑圧の象徴であり、顔を隠すことはフランス社会とは相いれないとして政府が送付した禁止法案を、議会が昨年可決していた。「イスラムを悪者にすることは選挙対策として有効。極右政党に任せなくてもいいのだと国民に感じさせられる」と、歴史家のフランソワ・デュールペールはグローバルポストに語った。

だが施行直前の通達を見ると、強硬姿勢とは程遠い実態が見えてくる。先週の報道内容によると、ゲアン内相は取り締まりのガイドラインで、その場でベールを取るよう強制するなと指示。身元確認のために顔を見せるよう頼み、拒否された場合は「最後の手段として」警察への同行を求める。その場合も勾留や4時間以上の拘束は禁じている。腰の引けた法律が選挙でどれはどの効果を生むかは未知数だ。【4月20日号 Newsweek】
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“腰砕け”“腰の引けた”ととるか、“慎重”ととるかは、立場の違いにもよります。
サルコジ大統領の思惑は別にして、個人的に言えば、やはり社会には固有の慣習・文化があり、極端にその慣習・文化と相いれないものを禁止するのは理解できます。

インドネシア・マレーシア、バングラデシュ、エジプトなどイスラム教国を旅行しても、完全に顔を覆うブルカ・ニカブはそう多くはなく、そうしたイスラム社会においてさえ異様な感じがします。
単に異様だけでなく、コミュニケーションを拒否するような雰囲気があり、自由な意思表示・互いのコミュニケーションを前提にした欧米的市民社会の理念にそぐわない服装のようにも思えます。

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ペルー  フジモリ元大統領長女ケイコ氏、決選投票へ 今後の展開は“有利”との指摘も

2011-04-13 21:07:37 | 国際情勢

(選挙期間中、支持者の歓迎を受けるケイコ・フジモリ氏 “flickr”より By keiko.fujimori http://www.flickr.com/photos/keikofujimori/5507460444/

【「最も拒否感の強い2候補」】
服役中のペルーの元大統領フジモリ氏の長女、ケイコ・フジモリ氏の大統領選出馬については、1月7日ブログ「ペルー フジモリ元大統領長女ケイコ氏、大統領選挙への正式出馬」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110107)で取り上げましたが、報道のように10日の投票を2位で勝ち抜き、決選投票に進むことなりました。
なお、フジモリ元大統領は、軍による民間人殺害への関与など2件の人権侵害と汚職5件の計7件の罪状で公判中で、一審ではすべて有罪となり、軍による民間人殺害への関与では最高裁での実刑判決も確定しています。

****ウマラ氏とケイコ氏、決選投票へ ペルー大統領選******
10日に投票があったペルー大統領選は11日、開票が進み、左派で元軍人のウマラ氏と、フジモリ元大統領の長女で国会議員のケイコ・フジモリ氏が、上位2人による6月の決選投票に進む見通しになった。
中央選管によると、開票率86.47%でウマラ氏が31.36%、ケイコ氏が23.22%、元首相のクチンスキー氏は19.22%、前大統領のトレド氏が15.27%。3位のクチンスキー氏は「決選投票に進むのはウマラ氏とケイコ氏だろう」と述べ、事実上の敗北宣言をした。【4月12日 朝日】
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上位2氏のおおよそについては、下記のように報じられています。
****ペルー:ウマラ氏とケイコ氏 大統領選決選投票へ*****
・・・・3月末から支持が伸びたウマラ氏は政治腐敗の一掃、教育の無料化、憲法改正、メディア規制を主張する左派。産業界には投資や市場に対する規制が強まる、との観測がある。10日夜、ウマラ氏は支持者に「富の再配分をして経済成長は少数のためだけではないことを示す」と語った。
ウマラ氏は前回大統領選でベネズエラのチャベス大統領の応援を受けて敗北。今回はブラジルのルラ前大統領の選挙アドバイザー2人がペルー入りした。

一方、ケイコ氏は人権侵害罪で収監されている父フジモリ元大統領(90~00年在任)の市場開放路線と支持基盤を引き継ぐ中道右派。ケイコ氏は、貧困層への社会福祉の充実を公約し、人権侵害と腐敗というフジモリ政権の負のイメージの払拭(ふっしょく)を目指してきた。

昨年のペルーの国内総生産(GDP)伸び率は8.78%で、経済規模は10年間で約3倍になった。だが、都市部と農村部の経済格差が拡大し、不満が高まっている。
政治アナリストのルイス・ベナベンテ氏は「(ウマラ氏とケイコ氏の)2人は支持基盤が同じ貧困層。決選投票に進めばイデオロギー論争、ネガティブキャンペーンなど激戦となる」と予測した。【11月14日 毎日】
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ケイコ氏は、支持者を前に「もう決選投票だ。経済発展から見捨てられた人々のもとに道路を作り、水道を通そう」と演説しましたが、貧困層を支持基盤とする両氏ともにかなり特異・個性的で、“一部の国民にとっては「最も拒否感の強い2候補」”【下記 時事】とも。

【「大統領就任」へ追い風
ただ、左派の過激主義者とも見られるウマラ氏に対し、イデオロギー的には穏健な中道右派と評されるケイコ氏の方が広く支持を集められる可能性があり、決選投票はケイコ氏有利とも報じられています。

****フジモリ氏長女、悲願へ追い風=決選投票有利か―ペルー大統領選****
ペルー大統領選で、フジモリ元大統領(72)=殺人罪で服役中=の長女ケイコ・フジモリ氏(35)の決選投票進出が確実になった。フジモリ派を束ねる支柱として、父を熱烈に支持する強固な基盤を引き継いだケイコ氏にとって、悲願の「大統領就任」へ追い風が吹き始めている。

ケイコ氏が決選投票で戦う左派オジャンタ・ウマラ元陸軍中佐(48)は、憲法改正や富の平等な配分などを掲げる。決選で敗れた前回大統領選を教訓に、急進的な主張を和らげてはいるものの、経済成長をおう歌するペルー国民の多くが警戒感を隠さない。世論調査では、両者の一騎打ちならケイコ氏勝利との予測が大勢だ。
ケイコ氏とウマラ氏は、貧困層が中心の支持者を持つ点で共通する。このため、決選での勝敗を分けるのは、都市部の若者や富裕層の票だ。地元メディアによれば、10日の投票で3位に終わり、都市部で人気が高いクチンスキ元首相(72)は「ウマラ候補には決選で投票しない」と発言。クチンスキ支持票がケイコ氏に流れ込むようなら、親子2代にわたる日系人大統領誕生が現実味を帯びることになる。

強権政治を敷いた元大統領の娘、急進左派的な元軍人という背景から、ケイコ氏とウマラ氏は「われわれは過去の圧政に戻るか、空白に飛び込む自殺行為に身を委ねるか」(トレド前大統領)と批判の的にされることも多かった。ただ、熱狂的とも言える支持基盤を共に固めた結果、一部の国民にとっては「最も拒否感の強い2候補」(地元政治評論家)が勝ち残る形となり、有権者は6月5日の決選投票まで難しい選択を迫られる。【4月12日 時事】
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それでもなおペルー国民の多くはフジモリ政権を懐かしく思いだす
ケイコ氏は06年に首都リマの選挙区から国会(一院制)議員選挙に出馬し、全国最多得票で初当選を果たしていますが、これは同氏自身の実力よりも父親の知名度のおかげだといえます。
ペルー国民にはフジモリ政権を懐かしむ気持ちが残っているようです。
2年前の下記記事は、すでにケイコ氏有利を報じていました。

****ペルー次期大統領 ケイコ・フジモリ氏有力 広い支持層、父の恩赦実現か****
・・・・フジモリ元大統領の人気が根強く残る理由には、大きく2つが挙げられる。
1つ目は、同氏の政権が1980年代のインフレをうまく収束させ、90年代の新たな成長への道筋を開いたこと。
2つ目は、7万人の死者を出した反政府勢力「センデロ・ルミノソ(輝く道)」との戦いを終結したことだ。
同氏は政権1期目の93年に憲法を改正して自身の再選を可能にし、続投を決めた95年の選挙では、有効投票数の64.4%を獲得した。しかし3期目の政権末期には、その名声も色あせる。独裁主義的な性格が強まり、政権維持のための汚職が横行した。それでもなおペルー国民の多くはフジモリ政権を懐かしく思いだすのだ。

フジモリ元大統領がペルーに戻ってからは、裁判の記事が連日のように新聞に載り、国民の記憶からフジモリ元大統領が消えることはない。国民の多数は同氏が有罪だと考えているが、「罪は責められるべきだとしても、よい大統領だった」という思いは変わらないようだ。
ケイコ氏が所属する「未来同盟」は、フジモリ派の希望を担い、小グループながら議会で大きな影響力を持つ。正式には与党勢力に属していないが、重要政策に関して与党アプラ党と緊密に連携してきた。(中略)

ケイコ氏は父親のようにカリスマ性のある指導者ではないが、選挙を戦うにふさわしい支持基盤は持っている。
まず、ペルーの経済界はリベラルな経済政策の推進を求めているが、これはフジモリ元大統領が最重要課題に位置付けた。経済界は、その継承者としてケイコ氏を支持している。さらに同氏は、元大統領に好意的な人々、とくに女性や貧困層からの支持も受け継いでいる。(後略)【09年5月22日 Oxford Analytica】
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“父親のようにカリスマ性のある指導者ではない”との評ですが、元大統領の長女で親しみやすい性格ということでブームを起こす魅力はあります。経済界も左派ウマラ氏よりはケイコ氏を推すでしょう。となると、大統領の椅子も手の届くところに・・・という感があります。

問題は、大統領になったとき、父親フジモリ氏の公判をどうするかということですが、まだそれを論じるのは気が早いかも。ケイコ氏は「立候補にあたっては、貧困対策が最優先事項だ」と、“父親のための出馬”を否定しています。


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ポーランド  ロシアとの歴史的和解に水差すポーランド政府機墜落事件追悼碑“交換”

2011-04-12 22:34:25 | 国際情勢

(昨年4月にロシアで起きたポーランド政府専用機墜落事故から1年たった4月10日、悲劇を追悼するワルシャワ 厳重な警備は複雑な事情を反映したものでしょうか? “flickr”より By bylemwidzialem http://www.flickr.com/photos/bylemwidzialem/5608314940/

【「新たな(両国関係の)段階が始まった」】
ポーランドにはその歴史的経緯から根強いロシアへの不信感がありますが、そうしたロシアへの感情を象徴するのが「カチンの森事件」と言われる第2次大戦中の出来事です。

“「カチンの森事件」:第二次世界大戦中の1940年春、ソ連秘密警察がポーランドから連行した将校ら2万人以上を銃殺した事件。ドイツ軍が43年、現在のロシア西部スモレンスク近郊のカチンの森で遺体を発見、発覚した。ソ連はナチス・ドイツの仕業だと主張、90年にゴルバチョフ大統領が関与を認め、初めて謝罪した。事件はポーランドに対露不信を長く根づかせる一因となった。”【10年12月7日 産経】

そうしたポーランドのロシアへの不信感を払しょくする道を開いたのも、ロシア側の「カチンの森事件」に対する責任を認め、ポーランドとの和解を進めようとする対応でした。
事件の70周年の昨年4月、プーチン首相がポーランド首相を招いて初の追悼式典を開くなど和解への動きを見せ、ロシア下院は「スターリンら当時のソ連指導部が直接指示した犯罪」と断定する声明を初採択、メドベージェフ大統領も事件の捜査資料のポーランド側への提供を進め、スターリン体制の批判も明確にしました。

昨年4月には、「カチンの森事件」追悼式典へ出席するためにロシアに向かっていたポーランドのカチンスキ大統領(当時)のほか政府高官ら約90人が乗った専用機がロシア西部で墜落し全員が死亡するという衝撃的な事件が発生しましたが、このときロシアがポーランド側への協力を惜しまない姿勢を見せたことが、特にポーランド国民の対ロ不信感を和らげるうえで影響が大きかったと言われています。

****露・ポーランド首脳会談 カチンの森事件から70年 歴史的和解、友好へ一歩*****
ロシアのメドベージェフ大統領は6日、ポーランドの首都ワルシャワでコモロフスキ大統領と会談した。会談後の共同記者会見で両首脳は、「カチンの森事件」に象徴される第二次世界大戦をめぐる歴史的対立を乗り越え、友好関係構築に踏み出すことをアピールした。欧州屈指の反露派だったポーランドとロシアの関係は新たな局面を迎えた。

メドベージェフ大統領は記者会見で、「ロシアは最近、歴史的障害を取り除くために先例のない道を歩んできた」と述べた。ロシアは5月、カチンの森事件に関する公文書のポーランド側への提供を始めたほか、露下院では11月下旬、スターリンらソ連首脳部が同事件の指令を下したことを認める声明を採択、和解に向けた努力を進めてきた。
カチンスキ大統領(当時)のほか政府高官ら約90人が乗った専用機が今年4月、露西部で墜落し全員が死亡した事故についても、ポーランド側への協力を惜しまない意向を示した。

コモロフスキ大統領はカチンの森事件について、「(全容解明は)最後まで行われなくてはならない」としながらも、露下院の声明を高く評価、「新たな(両国関係の)段階が始まった」と述べた。
カチンの森事件をめぐっては、発生から70年となる今年4月、両国の首相が初めて現場での追悼式典にそろって出席、和解の機運が生まれていた。7月の選挙を経て大統領に就任したコモロフスキ氏は故カチンスキ氏と異なり、対露融和派として知られる。

メドベージェフ大統領はポーランド政府に対し、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)との交渉にも、積極的に加わることに期待を示した。大統領は7日までのポーランド滞在に続き、ブリュッセルでEUとの首脳会談に臨む予定で、ポーランドとの関係好転はロシアの対欧州関係全般にも影響を及ぼしそうだ。【10年12月7日 産経】
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こうしたポーランドとロシアの“歴史的和解”の流れは、これまでロシア批判の急先鋒だったポーランドに対ロシア融和派のコモロフスキ大統領が誕生するなど、ロシア外交にとって、ウクライナでの親ロ政権成立などとならんで、旧ソ連・東欧におけるロシアの復権を示す“成果”とも見られてきました。

【「ポーランドに対するあざけりだ」】
しかし、今年1月にロシア側から発表された昨年4月のポーランド政府機墜落事件に関する最終報告は、ポーランド機パイロットの判断ミスであり、ロシア側には責任はないとする内容で、ポーランドからの反発を惹起するものでした。

****ロシア:ポーランド政府機墜落で最終報告 露側に問題なし****
昨年4月、ロシア西部でポーランド政府専用機が墜落し、カチンスキ・ポーランド大統領(当時)夫妻ら乗員乗客96人全員が死亡した事故で、ロシア政府航空委員会は12日、操縦士がカチンスキ大統領を恐れて、悪天候の中で着陸を強行したことが事故原因とする最終報告書を発表した。ロシア側の対応には問題がなかったとの見解を示したものだが、ロシアの航空管制などに問題があったとの認識が広がっていたポーランド側からは「ポーランドに対するあざけりだ」と反発の声が上がっている。
この事故ではロシアが発生直後に迅速に対応したことから、従来歴史問題で対立していたポーランドとの和解を促進する格好となった。だが、ポーランド側の反発が強まれば、関係改善に水を差す可能性もありそうだ。

報告書は、管制室が他の空港への振り替え着陸を勧めたり、着陸許可を出さなかったにもかかわらず、同機が視界不良の中で着陸を試みて、障害物に衝突したと指摘した。
強行着陸の背景については、ボイスレコーダーの解析や遺体の損傷具合から、ポーランド空軍司令官ら2人が操縦室に入ってきたと断定し、司令官の存在が操縦士にとって「心理的な圧力」となった▽司令官の血液からアルコール成分が検出された▽操縦室内で交わされた「もし(着陸)しなければ、彼(=大統領)は激怒するだろう」という会話が録音されていた--などの調査結果を明記した。

一方、報告書について、死亡したカチンスキ大統領の双子の兄で保守系最大野党「法と正義」党首、ヤロスワフ・カチンスキ元首相は12日の記者会見で「証拠も無しにすべての責任をポーランド人操縦士とポーランドに負わせた最終報告は、ポーランドに対するあざけりだ」と反発。遺族を代表する弁護士の一人もロイター通信に「遺族が必要としているのは一方的な発表ではなく、真実だ」と述べ、「全く破廉恥な内容だ」と最終報告を否定した。【1月13日 毎日】
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カチンスキ大統領はじめお偉方が、式典出席に間に合うよう予定通りの着陸を強く求め、その結果無理な強硬着陸に至った・・・というロシア側見解は、個人的には「多分そんなところだろう・・・」という感がしますが、ポーランド側には受け入れがたいものもあるようです。
なお、ポーランドの調査委員会は、管制官と操縦士の交信記録から、政府専用機が着陸前に飛行コースから大きく外れていたにもかかわらず、管制官が伝えなかったと分析しています。

****政府専用機墜落:「ロシア管制ミス原因」ポーランドが反論*****
昨年4月にロシアで起きたポーランド政府専用機墜落事故の原因を巡り、両国間の非難合戦がエスカレートしている。すべての責任は機長の判断ミスなどにあるとしたロシアの最終報告に対し、ポーランドは現地(ロシア側)の航空管制にも責任の一端があるとの独自の調査結果を発表。両国の関係改善に影を落としている。

ポーランドのミレル内相は18日の会見で、政府専用機が悪天候下、ロシア西部スモレンスクの空港に着陸しようとした際、正常な高度やコースから外れていたにもかかわらず、「航空管制官は操縦士に針路から外れていることをまったく伝えていなかった」と述べた。
これを受け、ロシア政府航空委員会は19日、「異例の」対抗措置として管制官と操縦士などの全通信記録を公開した。この中で管制官は視界が400メートル以下だったことから、「着陸を受け入れる状況でない」と勧告していた。ただ、針路から外れていたことは直接的に伝えていなかった模様だ。

ロシアは今月12日の最終報告書で、事故で死亡したカチンスキ大統領(当時)の搭乗に伴う「心理的圧力」によって、操縦士が悪天候下で着陸を強行したことが原因と発表。航空管制や空港設備にも責任があると考えるポーランドのトゥスク首相は「不十分な内容だ」と反発していた。
ポーランドでは今秋の総選挙に向け、カチンスキ前大統領の双子の兄、ヤロスワフ・カチンスキ前首相率いる保守系最大野党「法と正義」が、トゥスク政権の対ロシア政策を「弱腰だ」と痛烈に批判している。
ポーランドでの最近の世論調査によると、ロシアの最終報告は正しくない、と考える回答者が半数近くに上っており、同国との関係改善を進めてきたトゥスク政権は苦境に追い込まれている。【1月21日 毎日】
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【「(現場は)カチンの森事件を追悼する場所ではない」】
こうした、ポーランド側の対ロ不信感を再び煽りかねない“事件”が表面化しています。
****ポーランド政府機墜落から1年、ロシアの追悼碑「交換」が火種に****
ポーランドのレフ・カチンスキ大統領らが乗った政府専用機がロシア西部スモレンスクで墜落し、95人が犠牲となった事故から10日で1年を迎えたが、事故現場にポーランドが建てた追悼碑がロシア政府によって取り替えられていたことが明らかになり、両国間にきしみが生じている。

■消えた「カチンの森」への言及
カチンスキ大統領らポーランド政府代表団は前年4月10日、第二次世界大戦中に旧ソビエト連邦の秘密警察がポーランド軍将校を大量虐殺した「カチンの森事件」の追悼式典に出席するため、ロシアのカチンに向かう途中、濃霧の中で墜落事故に遭った。
事故の遺族ら約40人は9日、追悼のため事故現場を訪れ、ポーランド語で追悼文を記した御影石の追悼碑が、別のものに交換されているのを発見した。ロシア側が新たに設置した追悼碑の碑文は、ポーランド語とロシア語で併記され、元のものより短いうえ、元の碑文には記されていた「カチンの森事件」への言及が削除されていた。
ポーランド政府は、ただちにロシア側の対応を非難する声明を発表した。

■ロシア、真っ向から反論
これに対しロシア外務省は、「ロシアの公用語はロシア語だということを、ポーランド政府は知らないのか」と述べる声明を発表。ポーランド側が設置した追悼碑は「暫定的」なものに過ぎず、事故に相応しいよう両国の言葉を併記した追悼碑を設置したロシア側の努力を、ポーランド政府は無視していると反論した。
「騒動の元を作ったのはポーランド側だ。解決を呼びかけたのに、返答がなかった。したがって、ポーランド外務省のコメントには困惑している」(ロシア外務省)
また、事故現場となったスモレンスク州知事も、現場は「カチンの森事件を追悼する場所ではない」と記者団に語った。

■和解ムードに水差す疑念
ポーランド軍将校ら2万2000人が虐殺された「カチンの森事件」をめぐっては、旧ソ連政府が長年、事件の存在を隠蔽(いんぺい)してきた経緯があり、いまだにポーランドとロシアの外交関係に影を落とす問題となっている。
ロシア政府が事件の調査結果の一部を公表し、虐殺はヨシフ・スターリンの命令によるものだったと認めたことで和解ムードへと移行しつつあったが、今回、ロシアによる追悼碑交換が発覚したことでポーランド国内では再びロシアへの疑念と不信感が高まっている。
ポーランド外務省は、ブロニスワフ・コモロフスキ大統領が11日に事故現場で行われる追悼式典で、交換された追悼碑には花輪を捧げない可能性を示唆。首都ワルシャワのロシア大使館前でも、数百人が抗議運動を展開した。【4月11日 AFP】
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詳しい事情はわかりませんが、ポーランドが設置した碑文を勝手に変えてしまうというのは、なんとも大胆な行為です。墜落事故直後の“ロシアの「誠実な対応ぶり」”はどこにいったのでしょうか。
こうしたことがポーランド側を刺激することはわかっていたことですが、プーチン首相やメドベージェフ大統領も了解したうえでのことでしょうか?

“ポーランドでは今秋の総選挙を控え、事故死した大統領の双子の兄で、保守系最大野党「法と正義」を率いるヤロスワフ・カチンスキ元首相が、愛国心を鼓舞する戦術を展開。対露協調路線をとる与党・市民プラットフォーム党首のトゥスク首相らは苦しい立場に立たされている。”【4月11日 毎日】

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中東情勢への独自対応②  カタ-ル、欧米諸国に協調し“貸し” イランとの関係悪化の懸念も

2011-04-11 20:28:27 | 国際情勢

(リビア空爆の共同作戦に参加するカタール空軍のミラージュ2000-5戦闘機 “flickr”より By Global News Pointer http://www.flickr.com/photos/58594229@N07/5567748782/

【「中東での指導的な地位を確立しようとの野心のあらわれだ」】
昨日は、混迷する中東情勢にあって、リビアへのNATO軍事介入に当初反対し、今また、リビア調停を仲介しようとするなど、独自の外交姿勢でその存在をアピールしているトルコを取り上げましたが、トルコとは異なるベクトルで注目を集めているのが湾岸の小国カタールです。

NATOの一員であるトルコがイスラム国の立場から当初反対したのに対し、カタールは逆に欧米諸国に協調して軍事介入に参加することで、アラブ諸国との協調・連携を演出したい欧米にとって重要な存在となりました。

****カタールが存在感 対リビア多国籍軍参加、米欧に「貸し*****
■シリアでは地域安定優先
民衆の反政府行動が中東・北アフリカに拡大する中、ペルシャ湾岸の産油国カタールが存在感を強めている。対リビア軍事作戦では、アラブとして多国籍軍に初参加し米欧に大きな「貸し」を作った。近年は中東各地で調停外交を展開、国内情勢が比較的安定していることもあり、米欧にとっての重要性も高まりつつある。

対リビアでカタールはミラージュ戦闘機6機を派遣した。外交面でも北東部ベンガジを拠点とする反体制派組織「国民評議会」をアラブ諸国で初めて承認し、反体制派の石油輸出を請け負い、資金調達にも協力する。
「西洋による干渉」との批判を避けたい米欧各国にとりカタールの関与は「きわめて重要」(ロンゲ仏国防相)で、各国のリビア政策を調整する「連絡調整グループ」の第1回会合もカタールで開催される。

近年は、スーダンのダルフール紛争の和平交渉や、レバノンの各政治勢力間の調停にも乗り出している。カタールのこうした外交面での積極姿勢について、エジプトの政府系シンクタンク「アハラム戦略研究所」の湾岸地域専門家、ムハンマド・エッズルアラブ氏は「中東での指導的な地位を確立しようとの野心のあらわれだ」と指摘する。

これまでアラブ世界では、エジプトとサウジアラビアの2地域大国が中心的な役割を果たしてきた。しかし、エジプトは現在、ムバラク政権崩壊後の混乱にあり、サウジは隣国バーレーンとイエメンの政情不安の対応に追われる。カタールとしては、米欧に対する発言力強化を図る絶好の機会-というわけだ。

人口約150万人ながら豊富な石油・天然ガス収入を誇るカタールには、米中央軍の前線司令部もある。米欧にとり、チュニジア政変後も大きな混乱が起きていない同国は魅力的な存在だ。2005年に三権分立を明記した憲法を発効させるなど、民主化の面でも評価は高い。

その一方でカタールは、今年3月以来、反体制デモへの弾圧を強めるシリアのアサド政権に対し、他の湾岸諸国とともに支持姿勢を示している。エジプトやチュニジアではデモを詳細に報じたカタールの衛星テレビ局アルジャジーラも、シリアに関しては抑制的な報道ぶりが目立つ。
カタールには、イランとも関係が深いシリアが揺らげば中東全体の不安定化につながりかねないとの懸念があるためとみられ、民主化促進より地域の安定維持を優先させるしたたかさをもみせている。【4月5日 産経】
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全方位外交の変質で、イランからの反発も懸念
カタールは、先月28日には、フランスに続いて、リビア反体制派「国民評議会」による暫定政府を承認しています。
こうした目立つ“独自の対応”は、リビア反体制派の批判にさらされているトルコのように、軋轢もともないます。
カタールの場合、地理的に対岸はイランであり、これまでイランなどの反米国と欧米諸国の両方と良好な関係を築く「全方位外交」を展開してきました。
今回のリビア軍事介入参加は、欧米寄りを明示した形で、今後のイランからの反発も懸念されています。

****カタール:リビア問題で目立つ欧米寄り イラン反発の懸念****
混迷するリビア情勢を巡り、ペルシャ湾岸の小国カタールの関与が際立っている。アラブ諸国の中で先んじて欧米中心の多国籍軍による軍事作戦に協力したほか、反体制派を支援するなど多様な動きを見せる。イランなどの反米国と欧米諸国の両方と良好な関係を築く「全方位外交」を反映したものだが、リビア情勢では欧米寄りの姿勢が目立つ形となっており、イランからの反発を招きかねないという懸念も出ている。

カタールは先月28日、リビア反体制派「国民評議会」による暫定政府をフランスに続き早々と承認した。29日のロンドンでの国際会議で、カタールのハマド首相兼外相は、ヘイグ英外相と並んで声明を発表し、今後の対リビア政策を調整する関係国会合も今月13日にカタールで開かれる。
軍事介入でも他のアラブ諸国が慎重になる中、カタールは戦闘機を派遣した。カタールの衛星テレビ局「アルジャジーラ」が反体制派の放送に協力するなど情報戦略も支援。反体制派が資金調達するための原油輸出にも協力する方針だ。

原油と天然ガスが豊富なカタールは人口約160万人で、イスラム教スンニ派住民が大半。サウジアラビア(スンニ派)、イラン(シーア派)の二つの地域大国にはさまれる中で、積極的な全方位外交を展開。近年はレバノンの政治対立やイエメン、スーダンの紛争で仲介役を務めて注目された。
近く行われるアラブ連盟事務局長選には、3月まで湾岸協力会議(GCC)事務局長を務めたカタールのアティーヤ氏の出馬が伝えられ、より大きな舞台での発言力強化を狙う同国の思惑がのぞく。

順風満帆に見えるカタール外交だが、懸念もある。ヘルミダスバーバンド・テヘラン大教授(中東政治)は「カタールは、国際社会で大きな役割を果たそうとの野心を高め、欧米関与を強めている。今後、イランとの関係は弱まり、全方位外交は変質するだろう」と話す。【4月8日 毎日】
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揺らぐ中東情勢の枠組み
そのイランと湾岸諸国の関係は、バーレーンを巡るサウジアラビアなど湾岸諸国の介入を巡って、シーア派対スンニ派という宗派対立の様相を強めています。

****イラン:湾岸諸国との関係悪化 バーレーン巡り非難合戦****
イランとペルシャ湾岸諸国の関係が急速に悪化している。反体制デモで混乱する湾岸のバーレーンに対し、サウジアラビアなどが3月中旬に軍を派遣したことからイランが反発、これに湾岸諸国が「内政干渉だ」と非難合戦を繰り広げている。イスラム教シーア派の地域大国イランと、スンニ派が政権の主体の湾岸諸国との対立が深まれば、中東全体の不安定化につながりかねない。

「サウジアラビアによる中東地域での火遊びは何の利益にもならない」。イラン国会の国家安全保障外交委員会は先月31日、サウジ軍のバーレーンへの介入を非難。これに対し、サウジなど湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議(GCC)」は今月3日、リヤドで緊急外相会議を開き「(イランの言動は)内政干渉で、国際条約に反する」との声明を出した。

バーレーンでは2月中旬からシーア派住民によるデモが続き、自国へのデモ波及を恐れるサウジなどがバーレーンに軍を派遣。先月16日にはサウジ軍がバーレーンで現地当局とともにデモ隊を弾圧し、その後も厳戒態勢を敷いている。一連のデモ犠牲者は計24人で、サウジ介入後が半数以上を占める。
湾岸諸国は、イランがバーレーンで影響力を強めることを警戒している。だが、バーレーン国民の多くは自国政府に不満を持つが、イラン、湾岸のどちらの介入も望んでおらず「住民不在」の中で周辺国の綱引きが続く。

また、湾岸諸国の介入には、イラクのマリキ首相(シーア派)やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラなどシーア派勢力も警戒感を示している。
こうした中、イランのアフマディネジャド大統領は4日の会見で、「この地域にサッカーボールを入れたのは米国だ」と語り、反米国家イランと親米の湾岸諸国との対立を米国があおっているとの認識を繰り返した。【4月5日 毎日】
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中東・北アフリカ諸国における一連の民主化要求運動は、当事国だけでなく、リビア軍事介入をめぐるトルコやカタールの対応、エジプト・シリアなどとの関係を前提にしてきたイスラエルの安全保障体制、カタール軍事介入を巡るシーア派対スンニ派の宗派対立の激化など、これまでの中東情勢の枠組み大きく揺さぶる展開となっています。

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