孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東情勢への独自対応①  トルコ、リビア調停案発表 反体制派からは批判も

2011-04-10 20:36:38 | 国際情勢

(4月3日 トルコ病院船で西部の激戦地ミスラタから東部ベンガジに運ばれた負傷者230名のひとり “flickr”より By elin2010020 http://www.flickr.com/photos/61377626@N03/5593648784/

外交的に独自の立場での存在感
NATO唯一のイスラム国という難しい立場から、当初はリビアへの軍事介入に反対したトルコですが、他の欧米諸国とは異なる立場を生かして、紛争が長期化するリビア情勢を打開すべくカダフィ政権と反体制派との調停案を発表しています。
ただ、カダフィ大佐一族への憎悪・拒否感が強い反体制派を説得するのは難しそうです。

****トルコ首相:リビア調停案を発表 政府軍の撤退など柱に****
リビア紛争で停戦のための仲介を行っているトルコのエルドアン首相は7日、首都アンカラで会見し、カダフィ政権と反体制派との調停案の骨格を発表した。
しかし調停案は、カダフィ大佐がどのような形で実権を譲るかという最大の焦点が不明確なままで、反体制派が即座に受け入れるのは難しいとみられる。

トルコのアナトリア通信によると、調停案は、(1)両者が即時停戦し、政府軍は一部の支配地域から撤退(2)人道支援物資の輸送路を確立(3)民主主義体制への移行プロセスの開始--の3本が主な柱。
トルコ政府関係者は、4日にリビア政府特使とトルコで、6日に反体制派を率いる「国民評議会」側とリビアで、それぞれ協議した。調停案の詳細は13日までに明らかにされる予定。【4月8日 毎日】
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近年、イラン追加制裁問題での仲介案や、イスラエルとシリアの交渉を仲介する試み、あるいはガザ地区への支援船派遣など、外交的に独自の立場での存在感を示し、イスラム国家にあって世俗主義をベースにした民主化が“モデル”とみなされることも多いトルコですが(エルドアン政権のイスラム志向を批判する声もトルコ国内にはありますが)、リビア紛争における欧米諸国とは一線を画した対応というのは、NATOによる空爆を頼みとする反体制派からはカダフィ政権延命に手を貸しているともとられ、批判の矢面に立つことにもなります。

反体制派:トルコからの支援拒否
****リビア:市民に強まるNATO、トルコ批判 戦闘長期化で*****
リビア反体制派が拠点を置く北東部ベンガジで、政府軍への攻撃が不十分だとして、北大西洋条約機構(NATO)への不満を訴える声が高まっている。特に、NATO加盟国ながら反体制派への武器供与に反対しているトルコへの批判が強く、反体制派を率いる「国民評議会」がトルコからの人道支援物資の受け入れを拒否する騒ぎにまで発展している。
戦闘の長期化に苦しむ反体制派は、カダフィ政権打倒のための収入源として期待していた油田も政府軍に破壊された。反政府デモが起きてから2カ月近くたっても混乱終息の展望が見えず、そのあせりが市民の怒りにつながっているようだ。

「エルドアン、我々は飢えていない!」
反体制派が連日、デモを繰り広げているベンガジ港近くの裁判所前広場では6日、エルドアン・トルコ首相からの食糧支援拒否を訴えるプラカードが掲げられた。国民評議会は5日、こうした住民の反トルコ感情を受け、トルコの人道支援船の入港を拒否したが、人々の怒りは収まっていない。
デモ参加者は取材中の記者を取り囲み、「トルコが弱腰なのは(最高指導者)カダフィと癒着しているからだ」「外交官を含め、この国に滞在するトルコ人全員を追い出せ」などと口々に訴えた。

国民評議会は6日、トルコ政府代表団とベンガジで協議した。3月にリビアへの飛行禁止空域設定に反対し、最近では反体制派への武器供与に反対しているトルコに真意をただす目的だった。国民評議会側は「NATOが空爆回数を減らしているのは(空爆に消極的な)トルコに責任がある」(ゴガ報道官)とみている。協議でトルコ側は「カダフィ体制排除を望むリビア国民を支持する」とのギュル大統領のメッセージを提示したが、評議会側はこれに満足せず、トルコ政府としてのカダフィ政権に対する正式な立場を表明するよう求めた。(後略)【4月7日 毎日】
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“「国民評議会」がトルコからの人道支援物資の受け入れを拒否”とのことですが、4月3日には西部の激戦地ミスラタから負傷者230名を乗せたトルコの病院船が反体制派拠点の東部ベンガジに入港し、市民の歓声で迎えられた・・・ということもありましたので、対トルコ感情についてはよくわからない部分もあります。(歓声は負傷者へのものであり、トルコへのものではなかったということでしょう。)
拒否されたのは、この病院船の次に、医薬品や食料品を積んでトルコからベンガジに派遣された船のようです。

微妙な舵取り
なお、当初NATOの軍事介入に反対したトルコですが、その後、容認し艦船を派遣してはいます。
****リビア:トルコが軍事介入参加 当面、監視の艦船を派遣****
トルコ国会は24日、北大西洋条約機構(NATO)によるリビアへの軍事介入にトルコ軍が加わることを承認した。当面は対リビア武器禁輸を監視する艦船の派遣にとどめ、直接的な攻撃に加わることは避ける。
NATO唯一のイスラム国という難しい立場で当初は軍事介入に反対したトルコだが、多国籍軍による空爆が一定の成果を上げた後のタイミングで参加を決定した。
アナトリア通信によると、海軍がフリゲート艦など艦船5隻と潜水艦1隻をリビア沖の地中海へ派遣。NATO加盟国の中で海上作戦への最多の参加となる。

カダフィ政権と友好関係にあったトルコはリビア国内で大型建設事業を受注し、内戦前には技術者ら約2万5000人が駐在していた。加えて中東・北アフリカの周辺国とも関係を強化しており、イスラムの同胞に銃口を向けたイメージを避ける必要があった。
一方で、NATOの一員として欧米との関係も重視。03年のイラク戦争開戦時には、国内の反戦世論に押されて米軍の駐留を拒否し、対米関係を悪化させた苦い経験がある。

トルコのエルドアン首相は21日、NATO主導の攻撃について、リビア国民の自決権尊重や、攻撃の早期終結などの条件つきで支持すると語っていた。リビアが内戦状態に陥った後もトルコは在リビア大使館が米、英、イタリア、豪州の大使館業務を代行。リビア当局に拘束された米英のジャーナリスト計5人の解放を実現した。【3月25日 毎日】
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トルコ・エルドアン政権も微妙な舵取りを行っているようです。


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イスラエルとガザ地区武装勢力 激化する報復の連鎖 不安定化するイスラエルを取り巻く中東情勢

2011-04-09 21:10:41 | 国際情勢

(イスラエルがガザ地区境界に配備しているロケット弾迎撃システム「アイアンドーム」の発射装置 こうした兵器に頼るよりは、和平交渉を進めた方が安全保障上有効だとは思いますが・・・ “flickr”より By natanflayer http://www.flickr.com/photos/27083414@N02/5597779003/

【“ガザ地区は「無秩序状態だ」”】
3月中旬から、パレスチナ・ガザ地区の武装勢力とイスラエル軍による報復の連鎖が続いており、緊張が高まっています。
3月26日には、ガザ地区を実効支配するハマスが、ガザ地区内の各武装勢力が休戦に応じることを宣言しましたが、ハマスの統率力が十分に及んでおらず、事態は改善していません。

****パレスチナ:ハマス「休戦」宣言 ガザで軍事的緊張高まる****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは26日、同地区の各武装勢力が休戦に応じると宣言した。しかし、イスラエル軍のルソ司令官は同日、ガザ地区は「無秩序状態だ」として、各武装勢力にハマスの支配が及んでいないとの見方を示しており、効力は不透明だ。
ハマスは同日、イスラム聖戦など各勢力と会談。ハマスのルドワン報道官は、イスラエル軍による08年末のガザ侵攻後の非公式な休戦について「占領者が尊重するなら(各勢力も)尊重する」と発表した。
会談前の26日早朝には、ガザ地区からイスラエル南部に2発のロケット弾が撃ち込まれ、家屋1棟が損傷。27日早朝にはイスラエル軍がガザ北部を空爆し、武装勢力とみられる男1人を殺害した。【3月27日 毎日】
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4月に入り、7日にはイスラエル南部ナハローズ近郊で、ガザ地区から発射された対戦車砲弾がバスに命中し、運転手と16歳の少年1人が負傷していますが、この攻撃についてハマスが犯行声明を出しています。
また、この日、ガザからイスラエルに向けて45発以上の迫撃砲弾やロケット弾が発射されています。【4月8日 朝日より】
こうしたガザ地区からの攻撃に対し、イスラエル軍も報復を強めており、死傷者が増加しています。

****イスラエル:ガザ攻撃を継続 死者は市民含め18人に****
イスラエル軍は9日、パレスチナ自治区ガザ地区への空爆と砲撃を継続し、実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの戦闘員4人を殺害した。一連の攻撃が始まった7日以降のパレスチナ人死者は、市民を含め計18人となった。ガザの武装勢力からもこの日、ロケット弾や砲弾が20発以上イスラエル側に撃ち込まれ、5人が負傷した。

パレスチナ・メディアによると、イスラエル軍は9日朝、ガザ南部ラファでハマス軍事部門「カッサム旅団」の指揮官ら3人を乗せた車を爆撃し、殺害した。さらに戦車砲撃で別の戦闘員1人を殺した。
また、ロイター通信によると、イスラエル軍による8日の攻撃に伴う死者は9人に上り、11歳の少年や自宅にいた女性2人などが含まれた。軍はいずれも「軍事目標」への攻撃だと主張している。【4月9日 毎日】
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本格的な対ガザ軍事作戦は自制
しかしながら、イスラエルのメディアによると、ネタニヤフ首相は攻撃への対処について、「軍事行動に適した時期ではない」と述べ、地上軍侵攻を伴う本格的な対ガザ軍事作戦は自制し、武装勢力幹部の暗殺など限定的な報復で応戦する方針だと報じられています。【4月3日 読売より】

イスラエルに逆風の中東情勢
中東の民主化運動によって、イスラエルにとっては、エジプト・ヨルダンやシリアといった、これまで一定の関係を維持してきた政権が崩壊、もしくは動揺しており、安全保障上の危機感が募っています。
イスラエルを支えるアメリカも、この点を憂慮しています。

****米国:イスラエル安保に懸念 和平交渉頓挫に危機感****
民主化運動で中東地域の情勢が不安定化する中、米国が同盟国イスラエルの安全保障についての懸念を強めている。オバマ米大統領は5日、ホワイトハウスでイスラエルのペレス大統領と会談、頓挫したままのイスラエルとパレスチナの和平交渉は「緊急性が増している」と述べ、危機感をあらわにした。

アラブ諸国でイスラエルと国交がある2カ国のうち、エジプトではムバラク政権が退陣、ヨルダンでも反政府デモが続く。両国との関係維持への不安があるイスラエルは、パレスチナと和平交渉を再開し安全保障上の懸念を少しでも減らし、米国もそれを後押ししたいとの意図がある。
また、イスラエルとの和平交渉に前向きな姿勢をみせていたシリアでも反アサド政権デモが拡大している。

イスラエル紙によると、パレスチナ側は今年9月の国連総会で独立国家としての承認を求めるよう動いている。ペレス大統領は、イスラエルが積極的な提案をして和平交渉を再開させない限り、パレスチナ側の動きは阻止できないと懸念しているという。【4月6日 毎日】
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イスラエルの姿勢への批判も
欧米諸国には、ヨルダン川西岸と東エルサレムでの入植活動を止めないイスラエルの頑なな対応への批判・失望も広がっています。

****四面楚歌」イスラエルが探る暫定和平****
ネタニヤフの「有言不実行」にドイツのメルケルも激怒。友好国も批判的で、パレスチナが一方的独立宣言も。

チュニジアのジャスミン革命が中東に波及するなか、イスラエルとパレスチナの紛争は泥沼化し、イスラエルは和平努力を怠っているとの批判の矢面に立っている。

2月末、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の間で交わされた怒りに満ちた電話会談の内容が、イスラエルのハーレツ紙に漏れた。ネタニヤフ首相がメルケル首相に電話をかけ、ドイツが国連安全保障理事会の決議案に賛成の票を投じたことに遺憾の意を示したのだ。(中略)
ハーレツ紙によると、メルケル首相はネタニヤフ首相の“抗議電話に「よくもそんなことが言えますね」と怒りをあらわにし「あなたこそ私たちを失望させている。和平へ一歩も前進していないではないですか」と反論したという。

メルケル首相はこれまでイスラエルの信頼できる同盟者だったが、イスラエルに苛立ちを見せている。彼女だけではない。米国や欧州連合(EU)もイスラエルの友好国であり、和平を推進する先導者だが、パレスチナ独立国家を創設するという意味を持つ2国家解決案に向けて、ネタニヤフ首相が繰り返し「努力する」と約束しながら何もしないことに、裏切られた思いなのだ。(後略)【4月4日 FACTA】
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上記記事は、今後の展開について、“現時点でありそうなシナリオは、パレスチナ側がイスラエルの立場を無視し、9月までに宣言したいとする国家樹立が国際的に認められるよう働きかけるというものである。地域的な大嵐がパレスチナを呑みこむ前に、問題を解決したいと世界が願うなかで、パレスチナが一方的に独立宣言すれば、イスラエルはますます世界との不調和を強めることになるだろう”とも報じています。

ミニMDシステム「アイアンドーム」】
なお、国家防衛のため、核兵器を保有し、無人機技術などを進展させているイスラエルですが、ガザ地区から発射されるロケット弾を迎撃するイスラエル版ミニMDシステム「アイアンドーム」が実践で初成功したという話題も報じられています。

****イスラエル、ロケット弾迎撃に実戦で初成功*****
イスラエルが開発したロケット弾防衛システムが7日、パレスチナ自治区ガザから発射されたロケット弾を撃ち落とした。先月末に配備が始まったシステムで、実戦で迎撃に成功したのは初めて。
イスラエル軍によると、「アイアンドーム」と名付けられた移動式防衛システムで、ガザからイスラエルのアシュケロン方向に向けて発射されたロケット弾を迎撃したという。アイアンドームは先月末から今月にかけ、南部ベールシェバとガザ北方のアシュケロン近郊に配備されていた。
ガザの武装勢力やレバノン南部を拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラの攻撃に対抗するため、イスラエルの軍需産業ラファエル社が開発した。レーダーなどを使い着弾点を推計、被害が出る可能性がある場合に限り、迎撃するという。【4月8日 朝日】
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ロケット弾と聞くと、世界の武装勢力定番兵器である、対戦車などに使用するRPG-7(映画でもよく出てくる、肩に担いで弾頭を発射する兵器)が連想されますが、ハマスなどが撃ち込んでいるロケット弾は手製のものが多いのではないでしょうか。
映画などでは、RPG-7から発射されたロケット弾は弾道が目で追えるようにも描かれており(実際がどういうものかは全く知りませんが)、そんなにスピードはないのかも。それにしても、あんな小さな標的を迎撃するシステムというのも感心してしまいます。

もっとも、手製の超安価なロケット弾への対応としては、迎撃ミサイルの価格が1発4万ドル(一説には10万ドル以上)と超高価な兵器システムではあります。
ロケット弾が撃ち込まれない政治環境をつくるのが、より安全・効率的な方策であることは間違いありません。

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ASEAN  タイ・カンボジア国境紛争仲介が難航

2011-04-08 20:39:31 | 国際情勢

(プレアビヒア寺院近くに展開するカンボジア軍 さすがにポル・ポト時代に比べると近代的ですが、兵士の首にまかれたスカーフ(クロマー)がいかにもカンボジア的です。 “flickr”より By phyroum http://www.flickr.com/photos/dankuy/5431815620/

抜けない“小骨”】
国境にあるヒンズー寺院遺跡「プレアビヒア」周辺の領有を巡る争いという、タイ・カンボジア関係に刺さった“小骨”はなかなか抜けないようです。この紛争への仲介を「2015年の共同体構築」に向けた第一歩としようというASEANの試みも難航しています。

これまでも何回か取り上げたように、08年7月にタイ人3人がカンボジア領に越境したのを機に、両軍がにらみ合う事態となり、10月には交戦に至りました。
その後も小康状態と交戦を繰り返し、昨年12月に別の国境未画定地域付近で、タイの政権与党「民主党」所属の下院議員ら7人がカンボジア領内に無断侵入したとして拘束された問題で再び緊張が高まり、今年2月から死傷者を出す交戦が再開されました。

2月23日ブログ「ASEAN 「プレアビヒア」へ監視団派遣 南シナ海での行動規範づくりは難航」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110223)でも書いたように、1962年の国際司法裁判所の判決でカンボジア領とする判断が出されていること、更に、08年にカンボジア政府による世界遺産登録申請にタイ政府が一旦は合意したことなどから、カンボジアのフン・セン首相は国際介入に積極的ですが、タイ・アピシット首相は反タクシン派「民主市民連合」(PAD、いわゆる「黄シャツ」)など国内保守派の突き上げを受ける形で譲歩が困難な政治状況で、国際介入にも消極的でした。

インドネシア主導のASEAN仲介も難航
そうした中で、ASEANの盟主としての地位を回復したいとのインドネシアの強い意向を背景に、これまで内政不干渉を基本原則としてきたASEANがインドネシア主導で監視団をこの紛争地域に派遣するという、ASEANとしては「2015年の共同体構築」に向けた第一歩を踏み出す流れとなりました。
しかし、国際調停に消極的なタイ側の事情もあって、難航しています。

****タイ・カンボジア国境紛争 ASEAN監視団、調整難航*****
ヒンズー教寺院遺跡「プレアビヒア」と、その周辺をめぐるタイ、カンボジア両国の国境紛争情勢は、なおインドネシアの監視団が展開するには至っておらず、この間に両国のさや当てが再燃している。

東南アジア諸国連合(ASEAN)としての監視団の派遣は、2月22日の緊急外相会議で合意された。議長国であるインドネシアのマルティ外相は、監視団を計30人とし、各15人で編成する2チームをそれぞれタイ、カンボジア側に配置する方針を示している。
先週、先遣隊5人が寺院周辺を事前調査し、両国にインドネシア側は、監視団の具体的な権限や配置などを提示した。だが、タイは難色を示しているもようで、調整が続いている。

一方、カンボジアは今月初め、プノンペンに駐在する米国など12カ国の武官に、国境未画定地域を視察させた。主眼は「タイの攻撃による寺院の損壊状況を、その目で見てもらう」(軍幹部)ことだった。
タイ側は強く反発、アピシット首相は「タイ・カンボジア合同国境委員会」での2国間交渉にカンボジアは応じるつもりがないと非難した。その後、カンボジアが参加を表明したことで、同委は24日からインドネシアで開かれる予定だ。【3月9日 産経】
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タイ側は、政治的に強い影響力を持つ国軍が、ASEANの仲介に反対している模様で、ASEANの“「2015年の共同体構築」に向けた第一歩”は迷走しています。

****タイ・カンボジア国境紛争 ASEAN仲介 迷走、 安保共同体 暗雲*****
タイとカンボジアの国境未画定地域問題をめぐり、7日に始まる会合が、一時は開催すら危ぶまれる状態になるなど迷走している。ホスト役で東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国インドネシアは紛争解決のモデル事例にしたい意向だった。2015年の政治・安全保障の共同体発足を前に、早くもASEANの「眼界」を露呈した形だ。
会合は7、8両日、インドネシア西ジャワ州ボゴールで開かれる。同国のマルティ外相は6日、記者団に「会合は外相ではなく、政府高官級で行う形になるだろう」と述べた。

両軍の衝突が激化した2月、ASEAN緊急外相会合で、①問題地域にインドネシアの監視団を送る②インドネシアで2国間会合を問くことを合意。「内政不干渉」を掲げてきたASEANが政治・安全保障分野で踏み込んだ役割を果たす事例になると思われた。
マルティ外相は当初、タイとカンボジアの大臣を招き、外務省主導の合同国境委員会(JBC)と、国防省主導の総合国境委員会 (GBC)を開く意向だった。ところが先月、タイ国軍幹部らがインドネシアは会合の場に入らない」などと発言。カシット外相によるASEANでの合意に、プラウィット国防相や国軍は反対だとみられる。
カンボジア側は逆にインドネシアが仲介しない限り、協議拒否」の立場だ。このため交渉が進まず、7日からの会合ではJBCのみが大臣不参加で開かれる見込みだ。協議が進まなければ、問題地域に監視団を送ることができなくなる。【4月7日 朝日】
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領土・国境問題といった外交交渉は、一方の主張が100%とおる形でまとまることはありえず、お互いが何らかの譲歩をする必要があり、その譲歩を国内強硬派に認めさせる指導力が必要になります。
反タクシン派PADを支持基盤とし、国軍の顔色を窺うタイ・アピシット政権にはその指導力はなく、ASEANが仲介しても、意味のある結果はあまり期待できません。

第三者的には、ずいぶんささいなつまらない問題で揉めている・・・という感がします。どちらの領有でもかまわないので、ひとりでも多くの人が世界遺産を訪れることができるようにして、また、両国関係を深めればいいのにと思うのですが。

現実味のない「2015年の共同体構築」】
一方のASEANですが、もともとASEAN加盟国は、共産党一党支配国、軍事政権独裁国、王制などその政治体制が多様で、人権や民主主義に対する価値観も異なるものがあります。

****ASEAN各国 民主化めぐり温度差 人権、汚職…問題根深く*****
ミャンマーが3月末、テイン・セイン大統領をトップとする新体制へ移行した。軍主導という本質を堅持したままの「民政移管」はまた、東南アジア諸国連合(ASEAN)における民主化の進展度合いの濃淡を印象づけている。
ASEAN10カ国の政治体制は、シンガポールの「開発独裁」、ベトナムの共産党一党支配、ブルネイの国王専制など多様だ。

米国の民間人権団体「フリーダムハウス」が1月に発表した報告書「世界の自由」によると、各国の政治的自由度はミャンマー、ベトナム、ラオスが最悪の7。カンボジア、ブルネイが6、シンガポール、タイ5、マレーシア4、フィリピン3、インドネシア2。
民主化を先導しているともいえるのが、1998年に、約30年間のスハルト政権を終わらせたインドネシア。ユドヨノ政権下で地方分権などが進んでいる。

クーデターが繰り返され、国王の裁定が威力をもつ「タイ式民主主義」のタイでは、そうした“伝家の宝刀”への不安がつきまとう。最近でも、今年6月か7月に総選挙が予想され、タクシン元首相派と反タクシン派の反目が続く中で、クーデターのうわさが絶えない。
このため今月5日には、ソンキティ・ジャガパー軍最高司令官らが「クーデターはない。軍は民主的統治を支える」と否定した。

先月30日に新体制へ移行したミャンマーでは、最高意思決定機関だった国家平和発展評議会(SPDC)が廃止され、軍政トップのタン・シュエ前議長は表舞台から退いたようだ。前議長が兼務した国軍司令官には、ミン・アウン・フライン前総参謀長が就任した。
だが、人権問題が改善される兆しは見えず、週刊英字新聞「ミャンマー・タイムズ」編集長兼最高経営責任者のオーストラリア人男性が、当局に入管法違反で逮捕、拘束された。

ベトナムでは4日、複数政党制の導入などを訴え、反国家宣伝罪に問われた反体制活動家、クー・フイ・ハー・ブー被告が、ハノイ市人民裁判所に禁錮7年の判決を言い渡され、米政府などが非難している。
一方、国際民間非営利団体(NPO)のトランスペアレンシー・インターナショナルによると、各国の汚職の程度は、低い順にタイ78位、インドネシア110位、ベトナム116位、フィリピン134位、ミャンマー176位など。深刻な汚職問題を抱えてもいる。【4月7日 産経】
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こうした状況では、「2015年の共同体構築」というのはあまり現実味がない目標のように思われます。

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福島第1原発事故  海外に広がる影響 一部に過剰反応も 論議を呼ぶ“低濃度の汚染水の海への放出”

2011-04-07 21:57:39 | 災害

(東日本大震災の被災地支援のため三陸沖で活動していた米原子力空母「ロナルド・レーガン」の、特殊薬剤による放射能汚染洗浄作業の様子のようです。“flickr”より By U.S. Pacific Fleet http://www.flickr.com/photos/compacflt/5553730162/in/photostream/ )

【「休校にしてくれ。わが子が心配でたまらない、夜も眠れない」】
福島第1原発事故の市民生活・経済・政治への影響は国内だけでなく、広く海外に及んでいます。
放射能の危険については素人にはわかりづらいことから、特に海外の場合、正確な日本の情報が伝わりにくいこともあって、やや過剰とも思える反応も見受けられます。
そうした反応の一因には、人々の不安感を煽るメディアの姿勢もあります。

****海外の大衆紙、恐怖心あおる誇張報道*****
海外の大衆紙などでは、福島第一原発から漏れ出した放射能の危険を実態以上に誇張し、恐怖心をあおるような報道ぶりも目立つ。
3月15日付の英大衆紙サンは1面トップ記事で「数千人が放射能漏れを恐れ、東京から脱出を開始」と仰々しく伝えた。
別の英大衆紙デイリー・メールの3月16日付1面の見出しは「核パニックにとらわれた国」。「日本の核危機は制御不能」などと書き立て、白いマスクをつけて涙を浮かべる女性の写真を添えた。日本で花粉症対策のマスクは珍しくないが、あたかもマスクで放射能汚染をしのいでいるかのような印象だ。
低濃度の汚染水が海に放出されたことを伝えた今月6日付独大衆紙「ビルト」は、見出しで「日本人は太平洋全部を汚染するのか?」と憤りを示した。読者はこの見出しを見ただけで、とめどない汚染の拡大を連想してしまう。【4月7日 読売】
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“低濃度の汚染水の海への放出”を問題視することが過剰反応かどうかは、異論もあるところでしょうが、広く話題にあがっているのは韓国の反応です。

****韓国首都圏で休校相次ぐ、雨に含まれる放射線を懸念****
韓国首都圏の京畿道で7日、雨に放射性物質が含まれている恐れがあるとして、幼稚園・小学校130校以上が臨時休校したり、雨が降ってきた時点で授業を途中で切り上げたりした。道教育庁の勧告によるという。
ある当局者は「生徒の安全のための予防的措置」だと説明した。
道教育庁は6日、「被ばくの危険に関する情報が錯綜しており、生徒や保護者の間に不安が広がっている」ことを理由に、休校や授業の短縮を各校に勧告していた。とくに市街地から離れた学校では、登校距離が長いことから休校措置を奨励。休校しない場合でも、屋外活動は中止するよう呼び掛けていた。

ソウル市教育当局は休校措置を取らず冷静な対応を呼び掛けたが、市のウェブサイトには「休校にしてくれ。わが子が心配でたまらない、夜も眠れない」などと、保護者からの苦情が殺到している。
京畿道の南に位置する忠清北道当局は、サッカーや野球などスポーツイベントの開催を延期した。

韓国では4日、日本の東京電力福島第1原子力発電所から漏れた放射性物質が、風に乗って朝鮮半島に到達する可能性があると気象当局が発表したことから、懸念が広がっている。青瓦台(大統領府)は6日、雨に含まれる放射性物質はごくわずかで健康被害の心配はないと指摘し、教育当局に「両親を不安にさせたりしないように」と呼び掛けていた。【4月7日 AFP】
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韓国で大騒ぎするなら、日本に住んでいる私たちはどうなるのだ・・・とも言いたくもなりますが、身近なだけに日常性に埋もれて我々の感覚がマヒしているということも多少あるのかもしれません。
今や外国人にとって日本は不安な地となったようで、日本を訪れる外国人観光客の数が3分の1程度に落ち込んでいることが6日、入国管理局の調べで明らかになってもいます。
外国観光地で事件・災害が起きると日本からの観光客が激減することもよくある話ですから、あまりとやかく言えるものでもありません。地元の人間からすれば「全土がそんなに危険な訳でもないのに・・・」というところでしょう。

その他、インドは日本からの食品輸入を今後3カ月間全面的に停止するとか、台湾で魚が売れないといったことも報じられています。
****日本の食品 インド、3カ月輸入停止****
インド保健省は5日、福島第1原発事故によって日本国内の農産物に放射能被害が出ていることを受け、日本からの食品輸入を今後3カ月間、全面的に停止すると発表した。ロイター通信によると、日本からの食品輸入を全面的に停止するのはインドが初めてという。
停止措置の適用期間について、保健省は「放射性物質のレベルが許容範囲まで低下したという信頼できる情報が得られるまで」としている。対象となるのは加工食品や野菜、果物など。(後略)【4月7日 産経】
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****台湾、魚が売れない 放射性物質は未検出****
福島第一原発の事故が台湾での魚介類の売れ行きに影響を与えている。今のところ放射性物質は検出されていないが、当局は懸命に「安心」を強調している。
台湾で日本に最も近い北端に位置する基隆市の碧砂漁港に一般客向けの魚市場がある。近海でとれたアジ、サバなどが並んでいるが、ここ2週間は客が3割減った。特に大ぶりな魚は日本寄りの遠洋産と疑われ、全く売れない。(後略)【4月7日 朝日】
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ドイツでは政局にも影響を与えています。
****ドイツ:緑の党の支持率28%に 議会第1党に迫る勢い****
ドイツで初の州首相選出を確実にした緑の党が、6日に公表された世論調査で、メルケル首相が率いる連邦議会第1党のキリスト教民主・社会同盟(30%)に迫る史上最高の支持率28%を記録した。
世論調査機関「フォルザ」によると、調査は2505人を対象に3月28日から4月1日に実施。緑の党は前週調査より7ポイント上積みし、議会第2勢力の社会民主党(23%)も抜き去った。
地球温暖化問題への関心の高まりから緑の党の躍進は予想されていたが、日本の原発事故がこの流れを一気に後押しした格好だ。緑の党は議会に所属する5党で唯一、支持率が上昇傾向にあり、次期2013年の総選挙で台風の目になる可能性が強い。【4月7日 毎日】
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【「低濃度」の放射能汚染水を海洋大量放出
“放射能雨”(以前日本でも、海外の核実験の際に、雨に濡れると頭が禿げてしまう・・・といった類の噂がありました)や農産物・魚に対する過剰な反応はともかく、冒頭記事にもある“低濃度の汚染水の海への放出”となると、私自身も本当に大丈夫なのだろうか・・・という感はあります。

東京電力は、1万1千トン以上の「低濃度」の放射能汚染水を海洋に流すという決定を下し、即日実行に移しました。「低濃度」とは言っても、通常の環境基準の100倍以上、普通であれば「高濃度」な汚染水です。
国内漁業関係者からも強い批判が出ていますが、世界の専門家の間でも論議を呼んでいます。

****汚染水放出に各国懸念…原子力再検討会議****
ウィーンで開会中の原子力安全条約再検討会議は3日目の6日、日本の同条約履行状況を検討する分科会が開かれた。
各国からは、本来の議題から離れ、福島第一原発で低濃度の放射性物質を含む汚染水を放出した問題で懸念が表明されるなど、同原発の事故に絡む質問が相次いだ。日本の関係機関による情報伝達の遅れへの各国の不満を背景に、日本に注がれる厳しい視線を浮き彫りにした形だ。

分科会は報道陣に非公開で開かれ、詳細なやりとりは不明。会議終了後に日本メディアに対して記者会見した経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官によると、分科会では同審議官が、日本の原子力安全規制状況や、福島第一原発事故を受けた日本の他の原発での緊急時対策の強化などを説明した。放射性物質を含む汚染水の放出問題については、日本側が取り上げなかったものの、出席国から「懸念を持っている」との声が上がったという。【4月7日 読売】
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近隣国の懸念
中国や韓国も公式に政府レベルで懸念を表明しています。
****日本の放射能汚染水放出、韓国政府が公式懸念通達*****
韓国政府は6日、東京電力が福島第1原子力発電所から放射性物質を含む水を海に放出したことに対する懸念を日本に公式に伝えた。
外交通商部東北アジア局の張元三(チャン・ウォンサム)局長は同日夕、外交通商部庁舎に兼原信克駐韓公使を呼び、日本の放射能汚染水海洋放出行為に対する韓国内の不安と懸念を伝えた。同部関係者が明らかにした。
同日午前には在日韓国大使館の参事官が外務省経済局の政策課長を訪問し懸念を伝えているが、これより1段階進んだ外交的対応措置を取ったことになる。

この席で張局長は、汚染水の海洋放出は日本だけの問題ではなく、近隣国にも影響し国民に心理的不安を与える事案だとし、事前に通達すべきだったのではないかと指摘した。そのうえで、今後こうした問題があった場合は事前に通達し、十分な情報を適時に提供してほしいと要請した。
また、必要に応じ日本を支援し協力するという次元から、モニタリング分野で韓日が協力する道がないか検討することを提案した。

これに対し兼原公使は、地理的に日本と最も近い韓国国民の懸念は十分に承知、理解していると述べた。汚染水の放出は避けられないものだと説明しながら、韓国を安心させられるよう、情報提供などさまざまな措置を取り、緊密に協力していくと述べた。韓国政府のモニタリング協力提案には、危険な地域への訪問は受け入れられないが、一般的次元の協力ならば本部に建議すると答えた。【4月7日 聯合ニュース】
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中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は7日の定例会見で、福島第1原発から放射性物質を含む汚染水が海に放出されている問題について、迅速かつ正確な情報の提供を日本側に求めています。
“中国政府は、震災支援を通じて日中双方の国民感情の改善を目指していることもあり、原発事故の影響について抑制的な対応が目立っている”【4月7日 毎日】とも。

恐らく中国や韓国で同様のことが行われれば、日本政府も同様の措置をとることは間違いないことです。
批判に国内世論は沸騰するでしょう。
今回の場合、事前の情報提供に問題があった面は否めません。

【「海洋汚染テロ国家」の批判も
この件にかんしては、“日本を「海洋汚染テロ国家」にした”との厳しい指摘もあります。

****日本が「海洋汚染テロ国家」になる日――放射能汚染水の海洋投棄に向けられる世界の厳しい視線【週刊 上杉隆*****
自由報道協会はきょう(4月6日)、元佐賀大学学長の上原春男氏の共同インタビューを主催した。上原氏は福島第一原子力発電所3号炉(もしくは5 号炉)の設計にかかわり、外部循環式冷却装置の開発者でもある。
震災直後から複数回にわたり、菅直人首相はじめ政府、統合本部、東京電力などから助言を求められている。事故後メディアの前に姿を現すのは今回が初めてであった。

その上原氏は、放射能汚染水を海洋に流し続けるという決定を下したばかりの政府に対して、繰り返し嘆いた。
「なんで、あんなことをしたのか。海洋に放射能汚染水を流すなんて信じられませんよ。誰がそんなバカなことを決めたのか。これで日本は世界中を敵に回した。恥ずかしい。せっかく信頼のある国だったのに、本当になんてことをしてくれたんだ」
いまや政府と東京電力による愚かな決定の数々は、日本を「海洋汚染テロ国家」に仕立て上げようとしている。(後略)【4月7日 DAIMOND online】
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コートジボワール  紛争は最終段階 今後の論議をよぶ住民虐殺とPKOによる軍事介入

2011-04-06 21:22:49 | 国際情勢

(昨年12月 ワタラ氏が居住するアビジャンのホテルを警護するPKO部隊を訪問した国連事務総長の使節 “flickr”より By unpeacekeeping  http://www.flickr.com/photos/unpeacekeeping/5497840019/

国連・仏軍介入で、バクボ大統領の投降は時間の問題
カカオの産地でもある西アフリカ・コートジボワールの大統領選挙を巡る混乱については、これまでも数回取り上げてきました。

2010年の大統領選をめぐり、選管がワタラ元首相の当選を認定したのに対し、最終確定権を持つ(バクボ大統領の影響下にある)憲法評議会が現職のバグボ大統領の再選を宣言。国際社会はワタラ氏の当選を承認しましたが、バグボ氏は退陣に応じず、「二人の大統領」が並立する状況となっていました。混乱の背景には、宗教・民族的な南北対立もあるとされています。

アフリカ連合(AU)の調停も不調に終わり、最大都市アビジャンにおいて、PKO部隊に守られたワタラ氏をバクボ大統領側がホテルに缶詰め状態にする状況が続き、国際社会の不当介入を煽るバクボ大統領側の住民虐殺も懸念されていました。
その後、ワタラ氏を支持する北部勢力が南進し、双方の衝突が激化し、多数の市民らが死亡。ワタラ氏支持勢力は3月下旬に西部を攻略、攻勢を強めていました。

こうした混乱も、ワタラ氏を支持する旧宗主国フランスの軍事介入によって、ワタラ氏側の武力制圧という形で、一応の決着がつきそうです。
今朝のフランスのTVニュースでは、バクボ大統領が隠れていたシェルターから出て投降した・・・との報道もありましたが、ネット上のメディア報道では、まだ投降は確認されていません。ただ、時間の問題と見られています。なお、6日20時41分の【毎日】では“ワタラ元首相の支持部隊が攻撃を再開、バグボ前大統領が立てこもっているとされる最大都市アビジャンの大統領の邸宅に突入した”とあります。

****コートジボワール 大統領投降へ交渉 元首相支持部隊が総攻撃****
昨年11月の大統領選をめぐり混乱が続くコートジボワールの最大都市アビジャンで、国際社会が当選を承認するワタラ元首相の支持部隊が4日、政権に居座るバグボ大統領側部隊への総攻撃を開始した。バグボ氏側司令官は即時停戦を申し入れており、ジュペ仏外相は5日、バグボ氏の投降に向けて交渉が行われていることを明らかにした。仏国防省によると、投降は時間の問題とみられる。
ロイター通信によると、同氏の広報官も5日、ワタラ氏を大統領と認める▽バグボ氏と家族の安全を確保する-ことを条件に同氏の投降と国外脱出が双方間で交渉されていると述べた。

ワタラ氏側部隊は4日、大統領公邸を攻略したが、バグボ氏は見つかっていない。バグボ氏側の共和国防衛隊2500人は軍基地や大統領府、国営テレビ局で抵抗を続けているが、ワタラ氏側の兵力は9千人と圧倒している。
平和維持活動(PKO)部隊の国連コートジボワール活動(UNOCI)はアビジャンで戦闘が激化した3月31日以降、バグボ氏側の攻撃で11人が負傷。市民の犠牲者も激増した。

同月30日に採択された国連安全保障理事会決議に基づき、重火器による市民やPKO部隊への攻撃を防ぐため、国連は4日、駐留仏軍と共同作戦を実施。武装ヘリがバグボ氏側の重武装車両、武器庫を破壊した。
ロシアのラブロフ外相は「PKOは中立かつ公平であるべきで、合法性を検討中だ」と述べた。
旧宗主国フランスの大統領府は4日の声明で、潘基文国連事務総長の要請に基づき駐留仏軍が武力介入を開始したと発表。仏外務省によると、アビジャンでフランス人2人を含む外国人5人が拉致された。フランスは戦闘の激化に伴い約900人の駐留部隊を約1650人に増強していた。【4月6日 産経】
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旧宗主国ということでコートジボワールと関係の深いフランスは、現地の在留フランス人が約1万2000人いるとのことで、フランス軍は4日、救出のため自国民をアビジャン市内の3カ所に集合させ始めていました。
“フランスは大統領選後、ワタラ氏の支持を表明し、バグボ氏側に早期の政権移行を促していた。バグボ氏はこれに対し、「植民地主義の再来」と反発、仏系銀行の系列会社の「国有化」に踏み切った。3月初めには生産量世界一のカカオ豆の買い付けや輸出を政府の統制下に置くと発表するなど、フランスを含む多国籍企業の権益への脅威が増していた。”【4月5日 朝日】ということで、フランスが有する権益確保と西アフリカにおける存在感維持のため、フランスは軍事介入に踏み切ったと思われます。

今後に影響する住民虐殺の真相
今回のワタラ氏側の軍事進攻にあたっては、ふたつの問題が生じています。
ひとつは、軍事衝突のなかで起きた住民虐殺の疑惑です。

****コートジボワール混乱、800人以上犠牲 赤十字発表****
昨年11月のコートジボワール大統領選をきっかけに始まった政治混乱の影響で、赤十字国際委員会は2日、同国西部の町ドゥエクエでの戦闘で800人以上が殺されたと発表した。
戦闘は、国際社会が当選を認定したワタラ元首相を支持する部隊と、選挙で敗北したが大統領職に居座る現職バグボ氏の政府軍の間で、29日に起きた。

国際社会の介入にもかかわらず事態が打開しないため、3月下旬からワタラ氏側が、バグボ氏の支配圏への攻勢を強めている。国連によると、双方に人権侵害行為の疑いが出ている。
ワタラ氏は2日、同国西部で複数の集団墓地が見つかったと明らかにした。バグボ氏側がワタラ氏の支持者を虐殺したと見ている。
戦闘は、バグボ氏の拠点である最大都市アビジャンで、2日も続いている。バグボ氏はアビジャンにいる模様だが、この数日間は姿を見せていない。(ナイロビ=古谷祐伸)【4月2日 朝日】
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今のところ、虐殺の犠牲者数も、どちら側による殺りくだったのかも不明です。
ワタラ氏は潘基文(パン・ギムン)国連事務総長との電話会談で、支持勢力の関与を否定し、国際社会からの調査を受け入れると表明しています。
今後の調査でワタラ氏側の関与が明らかになった場合、ワタラ氏を支持した国連の立場にも影響が出てきます。

【「(PKO部隊の)自衛と市民保護のため」】
もうひとつの問題は、その国連PKOの今回対応についてです。
これまでバクボ支持勢力からワタラ氏をホテルに保護してきたPKO部隊は、フランス軍との共同作戦で、明確なバクボ大統領側攻撃に出ました。

****仏軍と国連部隊、バグボ氏拠点を空爆 コートジボワール****
2011年04月05日 09:12 発信地:アビジャン/コートジボワール
大統領選の結果をめぐって混乱が続くコートジボワールで4日、駐留仏軍と国連平和維持活動(PKO)部隊が大統領に居座るローラン・バグボ氏の拠点への空爆を行った。国際社会が当選を承認するアルサン・ワタラ元首相の支持派も同日、バグボ派への総攻撃を開始した。
国連関係者によると、仏軍・PKO部隊のヘリコプターは、最大都市アビジャンで、大統領宮殿、バグボ氏の住居、兵舎などを攻撃した。この数時間前には、ワタラ派が新たな攻撃を開始した。

作戦の報道官は、「国連安保理決議1975にもとづき、駐留仏軍と共同作戦を行っている」と発表した。
前月30日に採択されたこの決議は、大統領職を辞さないバグボ氏に制裁を科すもので、国連部隊は民間人を保護するとともに、重火器の使用を回避すべきとも記されている。
関係者によると、仏軍・PKO部隊による合同軍事行動は、国連の潘基文事務総長がニコラ・サルコジ仏大統領に書簡で(軍事行動を)緊急要請したことに応じたものだという。【4月5日 AFP】
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PKO部隊が紛争当事者の片方を支持して軍事行動に出ることは異例の事態ですが、これまでの“中立・不介入”が、PKO部隊が展開していながら推定80万人もの虐殺が行われたルワンダなどでは結果的に“虐殺の黙認、住民見殺し”につながったとの批判もあります。

****PKO、バグボ氏攻撃「自衛と市民保護」 国連事務総長****
コートジボワールで、国連平和維持活動(PKO)部隊が紛争当事者のうち一方を攻撃したのは、PKO部隊としては異例の行動だ。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は「(PKO部隊の)自衛と市民保護のため」とする声明を出したが、加盟国からは反発の声も出そうだ。

潘氏は声明で、過去数日間、アビジャンにあるPKO部隊の本部が、バグボ派によって迫撃砲などで攻撃されて4人が負傷し、市民保護活動に従事していたPKO部隊もバグボ派に襲撃されたと説明。国連がバグボ派の標的となっている状況を訴え、自衛の必要性への理解を求めている。
その上で、先月30日に採択された国連安全保障理事会の決議などに基づいて、差し迫った暴力から市民を保護するため、駐留フランス軍と連携した軍事行動を含む必要な手段を講じるように命じたとしている。

PKO部隊によるバグボ派への攻撃は、この日の安保理でも報告された。PKO担当のアラン・ルロワ国連事務次長は安保理に出席後、報道陣に対し、「今回の武力行使は、暴力から市民を守るという安保理決議に則したもの。異議を唱えた理事国はなかった」と繰り返し強調した。安保理はコートジボワール情勢をめぐる協議を5日も行う予定だ。
一方、コートジボワール駐留仏軍が軍事介入を決めた背景には、旧宗主国フランスの権益を守り、西アフリカでの存在感を維持したいとの思惑がある。(後略)【4月5日 朝日】
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潘基文国連事務総長はリビア紛争においても、国家が住民の保護責任を放棄した場合、国際社会が国家に変わって保護する責務があるとの立場で軍事介入を容認していますが、国際社会による“市民保護”という観点からの積極的な紛争介入を進めています。

こうした立場は、先述のようなルワンダの悲劇の反省に基づくものですが、とかく“存在感がない”と批判される潘基文国連事務総長自身の存在感アピールの思惑もあるのではないでしょうか。

PKOの軍事行動を疑問視する立場も
ただ、国連の紛争介入には批判もあります。
****コートジボワールのPKO空爆を疑問視、ロシア・南ア外相****
大統領選の結果をめぐって混乱が続くコートジボワールで、国連平和維持部隊(PKF)と駐留仏軍が、大統領に居座るローラン・バグボ氏の拠点を空爆したことに対し、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は5日、PKFによる武力使用に疑問を示した。
ラブロフ外相は記者団に「PKFは公平・中立の義務があったはずであり、この問題についての法的側面を調べている」と語った。
ラブロフ外相はまた、ロシア政府は状況の説明を求めて国連安全保障理事会に特別報告を要請したが、その結果に満足していないと述べ、「われわれの疑問を解消するような的確な回答は得ていない。今後も状況を調査するつもりだ」と語った。

安保理の非常任理事国である南アフリカもコートジボワールでのPKFの役割に懸念を強めている。マイテ・ヌコアナマシャバネ外相は、コートジボワールでの治安や人道的状況の悪化を深く懸念しているものの、空爆が委任されたとは認識しておらず、空爆を必ずしも支持しないと述べた。【4月6日 AFP】
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今回衝突のもうひとつの問題である住民虐殺にワタラ氏側が関与していた事実が出てくると、今回PKFの軍事介入の正当性に対する批判も強まりそうです。
個人的には、国連部隊が存在していながらルワンダのような虐殺が行われるの見過ごすことは人道的に許されないことだと思いますので、なんらかの形での国連・PKOの積極的介入はあってしかるべきだと考えています。

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東日本大震災  海外からの支援に、日本の感謝の気持ちを

2011-04-05 19:37:55 | 災害

(4日夜、日の丸をイメージした白と赤のイルミネーションに染められたエンパイアステートビル “flickr”より By NYC♥NYC http://www.flickr.com/photos/nyclovesnyc/5590681117/

エンパイアステートビルも日の丸に
東日本大震災に対する海外からの支援については、国家レベルの援助・支援の提供、多くの人々からの義援金など、連日報じられています。
震災は大きな不幸ではありますが、国内・国外における人のつながりを再認識させるところもあります。

4日夜には、ニューヨークのエンパイアステートビル、ソウルのNソウルタワーなど、世界7か国の九つのビルやタワーが東日本大震災に見舞われた日本国民との結束を示すため、日の丸色にライトアップされたそうです。

****世界が応援、日の丸染めてライトアップ****
ソウル中心部・南山の頂上に立つ「Nソウルタワー」(236・7メートル)が4日夜、日の丸をイメージした赤のイルミネーションに染められた。
東日本大震災の被災者を応援しようと、米ニューヨークの象徴、エンパイアステートビルの管理会社が発案した。

ソウルのほか、中国・マカオのマカオタワー、マレーシア・クアラルンプールのメナラKL、ニュージーランド・オークランドのスカイタワー、カナダ・トロントのCNタワーなど世界7か国の九つのビルやタワーが賛同した。現地時間の4日夜から5日未明にかけて、ライトアップされる。【4月5日 読売】
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日本との関係も深いタイからは、電力不足に陥っている東京電力に、ガスタービン発電機2基を付属設備を含めて施設丸ごと無料で貸し出すことが報じられています。

****東電に発電施設丸ごと貸し出し タイから船で運搬****
タイ政府は29日、東日本大震災による福島第一原発などの事故で電力不足に陥っている東京電力に、ガスタービン発電機2基を付属設備を含めて施設丸ごと無料で貸し出すと発表した。1基で約450トン。2基で計24万4千キロワットを供給する能力があり、船で運んで8月中の稼働を目指す。

東京電力は今夏ピーク時の電力不足を総需要の2割弱の850万~900万キロワットと見積もっており、余剰設備がないかを国内外に打診。タイ政府がほぼ休眠状態だった非常時用のガスタービン発電機2基を貸し出すと申し出た。
1995年稼働開始の三菱重工製。貸出期間は3~5年で、吸気フィルターや排気ダクトなど付属設備も運ぶ。全体の設置面積は1基約1700平方メートル。設置場所は検討中という。施設の分解と輸送、再組み立てなどを経て稼働は8月ごろになる。

輸送作業を担当する三菱重工によると、発電機だけを運んで日本で付属設備をそろえるより短期間で稼働できる。これだけの規模の海外移送は「世界的にも聞いたことがない」(担当者)という。
ワナラット・チャーンヌクン・エネルギー大臣は記者会見で「日本とタイは120年に及ぶ協力関係にあり、電力についても40年間にわたり提携してきた」と述べた。【3月29日 朝日】
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バンコクの日本大使館が感謝広告
こうした支援には救われる感じがありますが、その感謝の気持ちははっきりとした形で出すのがいいでしょう。
タイ・バンコク大使館は3月31日付の地元紙に感謝を表す広告を出しています。

****タイ国民に「ありがとう」=震災支援に日本大使館が感謝広告****
タイ国民から日本の大震災被災者に多くの義援金や支援が寄せられたことを受け、バンコクの日本大使館は31日付の地元紙に感謝を表す広告を出した。半ページを占める扱いだが、新聞社側の意向により無料で掲載された。
広告は日本とタイの国旗をあしらい、タイ語、英語、日本語で「ご支援・ご声援ありがとうございます」と記している。この日は英字紙ネーションなど2紙だけだが、1日以降少なくともあと2紙が掲載の予定。どの新聞社も「広告料は不要」と伝えてきたという。

大使館前にも同様のメッセージを書いた横断幕を掲げている。大使館員有志が約5万バーツ(14万円)を出し合って作成した。業者は「料金は要らない」と言っているというが、大使館側は「これは払わせてもらうつもり」と話している。【3月31日 時事】
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他の国にでも行っているのかは知りませんが、まだ行っていないなら、日本の感謝の気持ちを伝えるべく、是非取り組んでもらいたい試みです。

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イエメン  アメリカ、サレハ政権を見限り退任要求へ

2011-04-04 22:29:44 | 国際情勢

(3月12日、首都サヌア 抗議行動に対する治安部隊の催涙ガスと発砲により負傷した人々が運び込まれたモスク “flickr”より By yemenmujaz http://www.flickr.com/photos/59847790@N05/5532452431/

【「三重苦」のサレハ政権をテロ対策で支援
アラブ最貧国のイエメンでは、国民の約半数が貧困層で失業率は30%を超えるといわれています。
そのイエメンで独裁体制を続けてきたサレハ大統領に対する抗議行動が発生したのはチュニジア政変後の比較的早い段階でした。

****イエメン:大規模な反政府デモ チュニジアから飛び火****
アラビア半島南西部のイエメンで反政府デモが発生し、1月22日には首都サヌアや南部主要都市で学生や野党勢力ら数千人が集まってサレハ大統領の辞任を求めた。21年にわたって同大統領による独裁体制が続くイエメンだが、大統領を名指しした大規模な抗議活動は初めてとみられる。チュニジアでベンアリ前大統領の亡命につながった民衆蜂起が飛び火した形だ。

現地からの報道によると、サヌアでは約2500人のデモ参加者が「アリ(サレハ大統領の名前)よ、友達のベンアリの所に行け」と叫んだ。
イエメンでは、今回の騒乱前から、北部でのイスラム教シーア派の一派ザイド派の反乱や国際テロ組織アルカイダ系団体「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の活動、南部での分離独立運動という「三重苦」に直面してきた。高失業率や大統領周辺の腐敗、地方の開発の遅れなど、国民はチュニジアと同様の環境の中で苦しんでいる。

イエメンはテロ対策で米国の支援も受ける。しかし、掃討作戦で民間人が死亡しており、反米、反政府感情は強い。AQAPは米欧を標的にした爆破テロ未遂事件も起こしており、サレハ体制の動揺は、国際テロの活発化を招く懸念もあり、民主化は「もろ刃の剣」と見る専門家もいる。(後略)【1月23日 毎日】
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【“アメとムチ”によっても事態打開ならず
サレハ大統領はこれまで、13年の次期大統領選への出馬を断念する意向を表明(2月2日)、すべての行政権限を議会主導の内閣に移行する新憲法案を起草し国民投票にかけること発表(3月10日)、来年1月までの辞任の意向の表明(3月22日)と、抗議行動への譲歩を示していました。

しかし、その一方で、発砲も辞さない強い姿勢で、あくまで大統領の即時辞任を抗議行動を厳しく弾圧してきました。
大統領支持派と抗議行動の衝突、治安部隊の発砲によって犠牲者は日増しに増加しています。
首都サヌアでは3月18日、治安当局がデモ隊に発砲して52人が死亡したと報じられています。
また、神経ガス使用の報道もありました。
***デモ隊に神経ガス? イエメン3人死亡****
サレハ大統領の即時辞任を求める反政府デモが続くイエメンの首都サヌアで12日、治安部隊がデモ隊に発砲し、2人が死亡した。ロイター通信などによると、デモ参加者はけいれんなどして倒れており、神経ガスが含まれていた可能性がある。また南部の港町ムカラでも同日、デモに参加していた15歳の少年が治安部隊に撃たれて死亡した。【3月13日 産経】
***********************

こうした“アメとムチ”によっても即時辞任要求を求める抗議行動は一向に収まらず、軍幹部や政府高官の離反も相次いでいます。
大統領の権力移譲を巡る反体制派との話し合いは行き詰まり、交渉は3月26日には打ち切られました。
サレハ大統領が率いる与党、国民全体会議は3月27日、常任委員会を開き、「大統領は13年の任期切れまで務めるべきだ」と確認、強硬姿勢に転じたとみられています。

その後、大統領側からは暫定政府への権限移譲、野党連合からはハディ副大統領が臨時大統領になって憲法を改正し、国会議員選と大統領選を行うといった提案もなされていますが、事態を打開するには至っていません。

****イエメン大統領が暫定政府への権力移譲を提案、野党は拒否****
イエメンの野党勢力は30日、サレハ大統領が次期大統領選まで現職にとどまることを条件に、暫定政府に権力を移譲するという新たな提案を行ったことを明らかにした。
野党勢力は即座にこの提案を拒否し、同大統領は政権を出来るだけ長く持続させようとしていると非難した。(後略)【3月31日 ロイター】
************************

****イエメン:野党連合が権力移譲計画 大統領に提出****
反体制デモが続くイエメンで2日、野党連合がサレハ大統領に権力移譲計画を提案した。ハディ副大統領が臨時大統領になって憲法を改正し、国会議員選と大統領選を行うというもの。ロイター通信によると、野党側は、軍部と治安当局を改革して大統領の影響を排除することなどを狙っている。即時辞任を拒否している大統領は反応していない。【4月3日 毎日】
*************************

アメリカ、サレハ大統領へ退任要求
こうした経緯を受けて、これまでサレハ大統領批判を控えてきたアメリカも、いよいよサレハ大統領を見限り、退陣要求に転換したことが報じられています。

****イエメン、治安部隊の発砲で多数負傷 米国は退陣要求に転換か****
アリ・アブドラ・サレハ大統領の退陣を求めるデモが続くイエメンで4日、南部タイズ(Taez)で地元政府庁舎に向けて行進するデモ隊に治安部隊が発砲し、医療関係者によると少なくとも15人が死亡、30人以上が負傷した。(中略)
国際人権団体によると、1月末に同国で反政府デモが発生してからの死者数は100人に達する見通しだ。(中略)
イエメンの反体制派は2日、30年にわたって政権の座にあるサレハ大統領に対し、移行期間を設けた上で権限を副大統領に移譲するよう提案。サレハ大統領は3日、これを拒否していた。

■米政府、サレハ大統領に見切りか
ただ、米ワシントンD.C.からの報告によると、3日の米紙ニューヨーク・タイムズは、米政府がサレハ大統領に見切りを付け、退陣に向けて協議に動き出していると報じている。
米国は長年、サレハ大統領を支援しており、バラク・オバマ大統領も表だってはサレハ氏批判を控えてきた。しかし、複数の政府高官が同盟国に対し、デモはイエメン全土に拡大しており、もはや政権維持は困難で、サレハ大統領は退任することが妥当と伝えたという。退陣をめぐる協議はすでに1週間以上前から始まっているという。【4月4日 AFP】
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国際テロ組織アルカイダ系団体「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」に対するテロ対策をサレハ政権に委ねてきたことが、これまでのアメリカによるサレハ大統領支援の理由ですが、1月以来の混乱・衝突を見ると、アメリカの方針変更はやや遅きに失した感があります。

なお、“AQAPには隣国サウジでの摘発を逃れた過激派が多数参加し、「反サウジ王室」をも公言している。かろうじて国内の秩序を保っているサレハ政権が崩壊すれば、AQAPの活動が活発化しサウジに“逆流”してくる可能性もある。現在は表立った活動を控えているザイド派も、テロやサウジへの越境攻撃を再開する恐れがある。また、旧南イエメンには、分離独立運動もくすぶる。”【2月20日 産経】ということで、サレハ政権崩壊によってアラビア半島の「火薬庫」イエメンの混乱が地域全体の不安定化につながりかねないとの懸念の指摘もあります。


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アフガニスタン  米牧師のコーラン焼却で広がる暴動

2011-04-03 20:58:06 | 国際情勢

(テリー・ジョーンズ牧師の暴挙に対する抗議行動は、アフガニスタン同様に反米感情が高まるパキスタンでも行われています。写真は4月1日のパキスタン・ラワルピンディでの抗議行動 “flickr”より By Roomi Syal
http://www.flickr.com/photos/roomisyal/5579781626/ )

暴徒化したデモ参加者が国連事務所を襲撃
イスラム教で神聖視される預言者やコーランに対する欧米における批判(あるいは“冒涜”)、それに対するイスラム諸国における民衆の反発という宗教的トラブルはこれまでもしばしば発生していますが、同様の構図で、アメリカ牧師のコーラン焼却に対する抗議・暴動がアフガニスタンで高まっています。

****アフガン南部10人死亡 コーラン焼却 抗議デモ激化****
アフガニスタンで、米国の牧師がイスラム教の聖典コーランを焼却したことへの抗議デモが激化している。北部バルフ州マザリシャリフで1日、暴徒化したデモ参加者が国連事務所を襲撃、外国人職員や警備員7人を殺害したのに続き、2日には南部カンダハルでも大規模な抗議デモが発生、ロイター通信によれば10人が死亡、83人が負傷した。コーラン焼却はイスラム教徒の怒りを招いたほか、くすぶる反米感情を刺激しており、今後も各地で抗議デモが起こる可能性がある。

1日の国連施設襲撃後、同州のヌール知事は「武装勢力がデモに便乗して施設を襲撃した」と批判。地元警察は約30人を拘束した。ただ、イスラム原理主義勢力タリバンのムジャヒド報道官はロイター通信に対し、関与を否定した。
同日のデモはイスラム教の金曜礼拝後に始まり、「米国に死を」などと叫んだデモ隊の一部が国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の施設に侵入。警備兵の銃を奪い職員に発砲したほか、建物に放火した。
マザリシャリフで、7月から始まる駐留外国部隊からアフガン側への治安権限移譲への影響は少ないとみられるが、アフガン側の治安能力を問う声が改めて強まりそうだ。

一方、2日のカンダハルのデモでも、一部が国連施設に向かう動きを見せた。街には銃声が響きわたり、煙も立ち上ったが、事前に治安当局がデモ隊の施設侵入を阻止したという。
国連施設襲撃について、国連の潘基文事務総長は「言語道断で卑劣だ」との声明を発表した。オバマ米大統領も「最も強い調子で非難する」と語った。
コーラン焼却は3月20日、米フロリダ州の教会で行われた。中心人物は昨年9月、焼却計画を掲げて国際的な批判を浴びたテリー・ジョーンズ牧師。【4月3日 産経】
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“群衆に襲われた北部マザリシャリフの国連事務所は、自爆テロを警戒して、高さ3メートルほどのぶ厚い壁に囲まれていた。群衆に対し、地元警察は当初、警告射撃で解散させようとしたが失敗。群衆の一部は武装。壁によじ登り、警備員から銃を強奪、火を放った。国連の外国人職員7人が死亡。鎮圧されるまで約3時間かかった”【4月2日 朝日】ということで、ロイター通信は当初、アフガン警察の話として、殺害された中に首を切り落とされた外国人がいたと報じました、国連はこれを否定しています。

懸念される治安権限移譲への影響
アフガニスタンのカルザイ大統領は3月22日、情勢が不安定な南部ヘルマンド州の首都ラシュカルガーを含む4都市3州で、NATOが主導する国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン側への治安権限移譲を7月から開始することを明らかにしています。
今回暴動の起きたマザリシャリフもこの中に含まれていますが、比較的平穏な都市として、問題は少ないと見られていた地域です。

上記【産経】記事では、“影響は少ないとみられるが・・・”ともありますが、「アフガン側の治安能力不足は明らか。権限移譲を予定通り進めるかどうか、議論は必至だ」と指摘する駐アフガニスタン外交関係者の声なども報じられています。

広まる外国軍への嫌悪感
事件の背景には、米軍などの軍事作戦による民間人犠牲者の増加へのアフガニスタン国民の批判がありますが、特に“非武装の民間人3人を殺害した米軍兵士が3月下旬、軍法会議で禁錮24年の判決を受けた。その兵士らが遺体をもてあそんでいる画像を独誌が報じ、アフガンのテレビでも放送された”【4月2日 朝日】という事情もあります。

この米軍兵士による民間人殺害事件は、戦場における狂気として以前も取り上げたことがありますが、以下のようなものでした。
****アフガン駐留米兵に民間人殺害容疑、遺体の骨を所持****
アフガニスタンの民間人3人を殺害し、共謀して犯行の隠蔽(いんぺい)を試みたとして、アフガン駐留米兵12人が起訴されたことが同日公表された米陸軍文書で明らかになった。兵士らの中には、被害者の遺体の骨を所持していた者もいたという。

事件は、旧支配勢力タリバンの影響力が強いアフガニスタン南部カンダハル州にあるラムロッド前線作戦基地に最近配置された兵士らが、今年1月、2月、5月にアフガニスタン人3人を殺害したというもの。
起訴状によれば兵士らは、被害者らに向かって手投げ弾を投げつけた後、銃撃したとされる。1件以上の殺人に関与したとして兵士5人が、内部告発しようとした仲間を殴るなどして事件の隠ぺいを図ったとして兵士7人が起訴された。

■遺体の頭蓋骨や手足の骨、歯を所持
検察官によると、容疑者のうちカルビン・ギブス二等軍曹は、殺害したアフガニスタン人の遺体から指、脚、歯の骨を持ち去って所持していた。また、マイケル・ギャグノン特技兵は、遺体の頭蓋骨を所持していたとされる。さらに複数の兵士に遺体の写真を撮影した容疑が、コリー・ムーア特技兵には遺体をナイフで刺した容疑がかけられている。
その他、複数の兵士が、大麻使用やその他の違法行為について告発しようとした仲間の兵士1人を襲って脅迫した容疑に問われている。(後略)【10年9月10日 AFP】
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【「責任があるとは感じない。行いも変えない」】
一方、今回の暴動のきっかけとなったコーラン焼却は、“例の”“お騒がせ” テリー・ジョーンズ牧師によるものです。
****コーラン焼却までの映像、米教会が自身のサイトに掲載*****
アフガニスタンでデモ隊が国連事務所を襲撃した事件。問題の発端となった米フロリダ州のキリスト教会は3月下旬、イスラム教の聖典コーランを「公開裁判」にかけて「有罪」判決を下し、燃やすまでの様子を記録した映像を自分たちのインターネットサイトに掲載していた。
同サイトによると、裁判で「検察」側は、コーランは永遠の起源を持たず、神聖ではない、などと主張。ターバンを巻いた男性がコーランを弁護してみせたが、灯油をかけて燃やすとの「判決」が下された。

この教会のテリー・ジョーンズ牧師は昨年も、米同時多発テロが起きた9月11日に合わせてコーランを焼く計画を公表し、国際的な批判を浴びた。その際は、アフガニスタン駐留米軍のペトレイアス司令官らが計画中止を呼びかけたのに応じ、矛を収めていた。
だが今回、ついにコーランを焼却したことの波紋が広がり、実際に人命が失われる事件に発展した。ジョーンズ牧師はAFP通信に対し、アフガニスタンでの襲撃について「衝撃を受けた」としながらも、「責任があるとは感じない。行いも変えない」などと語った。【4月2日 朝日】
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昨年は、コーラン焼却予告に対する抗議行動が世界各地のイスラム国に広がり、アメリカ国内でも“イスラム国の民衆を刺激する行為は、イラク・アフガニスタンの米軍兵士を危険にさらす”として批判が高まり、結局中止されました。

今回は、事前の報道には気づきませんでした。
ジョーンズ牧師側が秘密裏に事を進めたのか、ジョーンズ牧師側に乗せられる形で騒ぎが広がることを警戒してメディア側が報道を自粛したのかはわかりません。

アフガニスタン・カルザイ政権の矛盾
アフガニスタンで騒ぎが激化したことに関しては、“政権基盤が弱体化するカルザイ大統領は、欧米批判で求心力の維持を図ってきた。先月24日には声明を出し、それまでアフガンではあまり知られていなかったコーラン事件を強く批判するとともに、米当局に関係者の処罰を求めた。デモが起きる背景につながった可能性がある。” 【4月2日 朝日】とも報じられています。

いずれにしても、宗教対立を煽るジョーンズ牧師の狂信的行為には憤懣やるかたないものを感じます。
今回は多数の死者まで出す結果となっており、“お騒がせ”ではすみませんが、本人は正しいことをしていると思っているようですので始末に負えません。こうした暴挙を行う自由も認めないといけない社会というのも納得し難いものがあります。
欧米軍事力で支えられていながら、欧米批判で求心力を保とうとするカルザイ政権の対応も、アフガニスタンの混乱・矛盾を象徴するものに思われます。
こういう事件を見ると、アフガニスタンの安定化などはとても無理なような気もしてきます。
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カザフスタン 長期支配への道を進むナザルバエフ大統領

2011-04-02 20:36:31 | 国際情勢

(膨大な費用を投じて遷都された首都アスタナ 背景のタワーはアスタナを象徴する建造物「バイテレック」。カザフ語で「高いポプラの木」を意味するそうです。ここにはナザルバエフ大統領の黄金の手形もあります。
なお、アスタナは、国際コンペで1位に選ばれた日本の建築家・黒川紀章氏の都市計画案に基づき開発が続けられているとか。【ウィキペディアより】
写真は“flickr”より By Martin Solli http://www.flickr.com/photos/tidsrom/3149105644/ )

長期政権で強まる個人崇拝
中東・北アフリカで吹き荒れる強権政治に対する国民の抗議行動は、同じく強権支配国家の多い中央アジア・カザフスタンまでは及んでいないようです。
なお、カザフスタンは、採掘量が世界第10位以内に達する地下資源が9つも存在する(2002年時点)そうで、世界2位のクロム、3位のウラン、そのほか亜鉛、マンガン、鉛、ボーキサイト、銀、銅、石炭、リン鉱石・・・。
原油の産出量も世界シェアの1.1%。【ウィキペディアより】
ありとあらゆるものが地下に眠っている、“宝の山”の国です。

****カザフ現大統領の圧勝確実、さらに長期政権へ 3日投票****
中央アジアのカザフスタンで3日、前倒し大統領選の投票がある。ソ連崩壊前から20年以上にわたり同国を率いるナザルバエフ現大統領(70)が圧勝する見通しだ。当選を決めれば任期はさらに5年延び、個人崇拝色がいっそう強まる可能性がある。
ナザルバエフ氏を除く候補者は3人だが、いずれも最近まで、国民投票によるナザルバエフ氏の任期延長に賛成していた人物。欧州安保協力機構(OSCE)の選挙監視団は、選挙戦に競争原理がみられないと指摘。野党は不出馬で、ボイコットを呼びかけている。前回2005年の大統領選では、ナザルバエフ氏は91%以上を得票した。

次回大統領選は本来は12年の予定だったが、代わりにナザルバエフ氏の任期を20年まで延長する国民投票の実施を求める動きが、議会や国民の間から出た。
実際はナザルバエフ氏による独裁継続のための茶番劇とみた米欧から「民主主義の後退だ」との批判が沸く中、ナザルバエフ氏は国民投票を拒否し、前倒し大統領選に踏み切った。選挙綱領では政治システムの現代化を掲げ、議会や政党、地方自治体の役割を高めると主張している。
07年には同氏に限って憲法の3選禁止規定が除外され、昨年は「国民のリーダー」の称号が与えられた。豊富な天然資源を背景に中央アジアの地域経済大国に導き、昨年は初のOSCE議長国を務めて国際的な存在感を誇示。米欧の反応をうかがいながら長期政権の足場を固めている。【4月2日 朝日】
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ナザルバエフ氏は、ソ連崩壊時の1991年に独立宣言したカザフスタンの初代大統領に就任。
95年には、国民投票によって任期を2000年まで延長。さらに07年には上記記事にもあるように、ナザルバエフ氏に限り大統領の3選禁止規定を除外する権限を議会が承認。昨年6月には「国民のリーダー」という称号が与えられています。
この時も、大統領は表向き拒否しましたが、議会に差し戻さなかったため、法律は発効しています。

ナザルバエフ氏の任期を20年まで延長する国民投票の実施を求める動きについては、任期延長を求める理由としては、「大統領選への参加は、大統領の仕事の妨げとなる」「建国者で国民のリーダーでもある大統領の歴史的使命実現のための条件づくり」などが挙げられているとも報じられていました。この国民投票実施に必要な20万人を上回る300万人以上の署名が集められたそうですが、さすがにナザルバエフ氏もこれは避けて、代わりに大統領選挙前倒しに踏み切ったという経緯です。【1月14日 朝日より】

理性を曇らせる錯覚と過信・思い込み
昨年12月には、欧米と旧ソ連の56カ国が加盟する全欧安保協力機構(OSCE)の11年ぶりの首脳会議を首都アスタナで議長国として開催し、国威発揚を狙ったナザルバエフ大統領ですが、冒頭演説で、セミパラチンスク核実験場を閉鎖し、核弾頭を撤去したことに触れ、「核なき世界」の実現を呼びかけました。

“だが、20年以上も権力の座にあるナザルバエフ大統領が、人権・民主主義を掲げるOSCEの議長を務めたことには、人権団体から「最大のパラドックス」と批判が出た。折しも、内部告発サイト「ウィキリークス」が公表した米外交公電で、大統領の娘婿が誕生日に英歌手エルトン・ジョンさんを招いて私的なコンサートを開くなど、一族の豪勢な生活ぶりも暴露された。”【10年12月6日 毎日】

会議自体は、“グルジア紛争などを巡る対立で予定された行動計画の採択は見送られ、多くの首脳は閉幕を待たずに早々と帰国した。3日未明の総括会見で、「歴史的な成功」を強調するナザルバエフ大統領の言葉がむなしく響いた。”【同上】というものでした。

古今東西、長期政権・個人崇拝の弊害を示す事例は山ほどあるにもかかわらず、なぜ権力者は権力の座に固執するのでしょうか?
現在の体制で甘い汁を吸っている周辺の取り巻き・関係者の思惑もあるのでしょうが、権力者自身「自分だけは他の事例とは違う」という錯覚、「自分がこの国を一番うまくリードできる」という思い込みがあるのでしょう。

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福島第1原発事故対応に活かされぬ「ロボット先進国」日本の技術

2011-04-01 20:35:42 | 災害

(日本政府から米国務省への要請で、福島に送り込まれたと報じられている軍用ロボット「ドラゴン・ランナー」 米海兵隊向けに開発された戦車のような無限軌道走行型の小型ロボットで、屋内の偵察や車両底部の不審物探査などの任務に適しているとされています。今回は、原発内部に入り込み、詳細な破損状況の確認などに使われることが想定されています。 “flickr”より By Defence Images http://www.flickr.com/photos/defenceimages/4604399402/

【「官邸側の反応が鈍い」】
東日本大震災の救援・復興、福島第1原発の事故対応については、相変わらず厳しい状況が続いています。
官邸を含め、関係者が連日必死の努力をされていることは疑いませんが、部外者の目からすれば、原発事故対応については、国際協力やロボット技術の活用でもう少しうまくいかないものか・・・という思いも感じます。

****米「菅政権の反応が鈍い」…支援提供打診も*****
「もっと我々を信用してほしい」
福島第一原発事故への対応を巡り、米政府関係者は民主党幹部の一人に最近、こうもらした。米国は当初から強い危機感を持ち、原子炉冷却のための様々な機材や人員の提供を打診したが、米側は「官邸側の反応が鈍い」と感じ、「菅政権には米国への不信感がある」との臆測も呼んだ。

29日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、米原発業界は極秘に発電機やポンプ、ホースなどの冷却機材一式を備蓄しており、いざというとき米空軍が全米どこでも運搬する態勢になっている。テロ攻撃などで機能不全に陥った原発の安全確保が目的で、2001年の米同時テロ以後に態勢が整えられたという。
クリントン国務長官が地震直後、「在日米空軍の装備を使い、冷却材を日本の原発に運ばせた」と発言したのは、これに関連しているとみられる。しかし、日本側は「水なら海にいくらでもあるが……」(日本政府関係者)と危機意識が薄く、結局、この緊急計画は発動はされなかった。【4月1日 読売】
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放射線量が高く現場の作業員がなかなか近寄れず温度も線量もわからないとか、汚染されたがれきが作業の妨げになっているとか、作業中に被爆したというニュースを聞くと、「一体、ロボット先進国の技術はどうなったのか?こんなケースにこそ活用されるべきものではないか」という感があります。

【「原子力災害に備えたロボット政策を怠ったつけ」】
もちろん、日本政府もロボット技術活用を行っていない訳ではありません。
****米ハイテク3社、原発事故支援へ リスク回避へ日本要望******
東京電力福島第一原発の事故を受け、遠隔操作ロボットの開発が盛んな米国から、複数のハイテク企業が支援に名乗りを上げている。イラク戦争に使われた軍用ロボも投入される。原発事故という特殊現場での効乗は未知数だが、期待は高まっている。

「日本政府が世界にロボット、無人機を求めています」。世界の注目が「フクシマ」に集まっていた3月22日、米バージニア州にある国際無人機協会(AUVSI)のホームページに会員企業向けの案内が載った。
ロボット開発に取り組む研究者や企業でつくる世界最大の業界団体で、現在55力国から2千社以上が加盟している。協会によると、原発事故後、日本政府が米国務省にロボットや無人機の支援を要請。現時点で少なくとも3社が支援に動き出しているという。(中略)

遠隔操作ロボの開発は軍事利用が念頭に置かれているが、原発事故の直後には、日本の防衛省関係者の間で 「今回は戦地に並ぶ危険任務。遠隔操作可能な無人機、ロボットを投入できれば、人的リスクを軽減できる」との期待が高まっていた。
国際無人機協会によると日本側が求めているのは、 ①運搬用ロボット、②原発の深部に入り込んで破損状況など詳細データを収集できる小型ロボット、③放射能汚染区域にも物資や機器を運べる遠隔操作型の無人ヘリコプターやトラックの3点だった。
世界における軍事ロボの広がりに詳しい米ブルッキングス研究所のピーター・シンガー上級研究員によると、多くの米企業がアイデアや技術の提供を申し出ている。原発という珍しいケースのため、試作品の投入も検討されているという。【4月1日 朝日】
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ただ、こうした先端技術を使いこなせていない現状もあるようです。
****原発災害ロボ、使えぬ日本 欧米提供もノウハウなく****
専門家「政策怠った」
放射性物質(放射能)漏れ事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所は、建屋内の汚染水や高い放射線量が復旧作業を阻んでいる。欧米各国の支援もあり、現地には原子力災害に対応できるロボットが投入されているが、十分に活用できていない。事故を想定したロボット運用のノウハウが日本にないためで、専門家からは、政府や東電が「原子力災害に備えたロボット政策を怠ったつけ」との批判が上がっている。

東日本大震災の発生に伴う事故から間もなく、米国から、米アイロボット社が米軍向けなどに開発している運搬用ロボットなどが日本に送り込まれた。日本の原子力安全技術センターも、放射能を測定できるロボット「防災モニタリングロボ」2台を現地に送り込んだ。
米社のロボットは、100キロ以上の物体を運ぶ能力があり、高い放射線量が検出されている場所で、消防ホースを運ぶ役割などが期待される。ただ、ロボット操縦用に派遣された社員6人は待機している状況だ。
防災モニタリングロボは、約1キロの遠隔地から自走して災害現場にたどり着き、作業できるが、東電は「現場に任せているので詳細は分からない」(広報)と歯切れが悪い。
アイロボット社は「われわれも詳しい情報がない。スタッフは要請があればいつでもスタンバイしているが…」と戸惑い気味だ。

災害用ロボットの権威である東北大の田所諭教授は「原子力災害用に開発されたロボットは人に代わって危険な現場で作業をこなす能力がある」と指摘する。
活用を妨げているのが、ロボットの運用の問題だ。原子力安全技術センターは「操作方法を東電に教え、使い方も東電の判断に委ねている」とするが、東電の受け入れ態勢もさることながら、東電任せで、慣れない事故現場での作業効率が十分かは疑問だ。

3月28日付米紙ワシントン・ポストは、世界的にみれば原子力災害に対応したロボットを配備する国は少数だと紹介した。米国でも、1979年のスリーマイル島原発事故後に産学連携で開発が進んだが、経営難で行き詰まったという。
それでも、田所教授は「電力会社や当局が、ドイツやフランスのように原子力災害に備えたロボット開発を推進してこなかったことは問題だ」と指摘する。
ドイツのメルケル首相は、原子炉の修復などに使える高性能ロボットの提供を日本政府に申し出た。米国も軍用の爆発物処理ロボットを29日に発送したほか、放射線の測定ロボットの投入も準備している。
日本政府も遅まきながら、第1原発でのロボット活用を検討し始めたが、人的被害を最小限に抑えるには、もっと迅速な対応が求められた。【4月1日 産経】
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メンテナンスされてなく使えないロボット
日本の原発用ロボットについては、こんな記事も。
****日本製も現場投入*****
日本のロボットも現地に1台が派遣されている。放射線計測器やカメラなどを積んだ「防災モニタリングロボット」だ。原子力安全技術センターが1億円弱をかけ、2000年に開発した。
これまで防災訓練で使われていたが、「実戦」は初めて。地震発生から徽日後に東電側に引き渡された。ただ「使用状況に関する情報は入っていない」(同センター)という。

「ロボット先進国」の日本では、原子力施設の事故に対応する専用のロボットも開発してきた。
同センターのほかに、旧日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)も、99年に茨城県東海村のJCOで起きた臨界事故の後、放射性物資で汚染された場所の状況を把握することなどができるロボット5台を開発した。
だが、福島には派遣されていない。今はもう動かないからだ。予算がつかなくなり、メンテナンスができなくなったためという。【4月1日 朝日】
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メンテナンスされてなく動かない・・・というのはどういう状況でしょうか?
何十年も以前の機械ならまだしも、ほんの10年ほど前の機械ですから、こうした事態を受けて突貫作業でメンテナンスすればすぐに使えるようになる・・・といったものではないのでしょうか?こうした事態のために高い費用をかけて開発した技術ではないのでしょうか?
素人にはわからないところですが、被爆の危険をおかしながら作業を続けている関係者のことを思うと、危機意識が欠如しているようにも思えてしまいます。

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