孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・イスタンブール 2020年、イスラム教国で初の夏季オリンピックを目指す

2012-02-19 22:32:53 | 中東情勢

(09年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、イスラエル・ペレス大統領と激しいやり取りとなり、途中で退席するトルコ・エルドアン首相 この事件が象徴するように、トルコ・エルドアン政権は親欧米とは一線を画した独自路線を強めています。“flickr”より By kacacca http://www.flickr.com/photos/30103239@N08/4040907974/

【「ニッポン復活」・・・・「なぜ東京か」の疑問も
今年2012年はロンドンで夏季オリンピックが開催されますが、次回2016年は新興国の雄・ブラジルのリオデジャネイロが決定しています。
16年大会の選考でリオデジャネイロに敗れた東京は、再度、2020年を目指して招致に乗り出しています。
08年がアジアの北京だったことから16年の東京は最初から難しいと思われていましたので、東京としては今回の20年の方が本命でしょう。

****20年東京五輪で「ニッポン復活」を 招致委が概要発表****
2020年夏季五輪の招致を目指す「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会」は16日、開催計画の概要をまとめた「申請ファイル」を発表した。東日本大震災などを受け、大会のコンセプトに「ニッポン復活」をかかげ、「(五輪は)日本が一丸となり、困難を乗り越えて目標を達成する力を与える」と開催意義を説明した。 
(中略)サッカーでは宮城県を会場の一つとし、震災からの復興もアピールする。

(中略)招致委はすでに、国際オリンピック委員会(IOC)に申請ファイルを提出。開催都市は東京とマドリード(スペイン)、イスタンブール(トルコ)、バクー(アゼルバイジャン)、ドーハ(カタール)の五都市で争われる。立候補を表明していたローマは、欧州債務危機の影響で断念した。
今年5月に3~4都市に絞り込まれ、来年9月のIOC総会で最終的に決まる。【2月17日 東京】
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東京・石原都知事はオリンピックにご執心のようですが、海外から見れば、“失われた20年”からの脱出もままならない日本は“停滞”のイメージが強く、今更なぜ・・・という感もあるのではないでしょうか。
東京が世界にアピールするポイントとしては、“震災からの復興”というコンセプトでしょうが、それなら東北・仙台かどこかで・・・とも思われます。

また、下記記事にもあるように、国際的には“震災からの復興”だけでは弱い感もします。
例えば、フクシマを顧みて“脱原発”を宣言し、大会のエネルギーをすべて自然エネルギーでまかなう・・・といったコンセプトでもあれば、国際的評価も違ったものになるでしょう。
“脱原発”が妥当な判断か、日本で可能かどうかは、また別の議論ですが。

****ニッポン復活」もメッセージは曖昧****
記者会見で発表された招致のコンセプトは「ニッポン復活」。招致委員会の公式サイトでは「東日本に経済効果が及ぶようなオリンピック・パラリンピックにしたい」「今回の招致レースは勝てる可能性が高いと言われている」と国内向けアピールに終始した。

水野正人・招致委員会専務理事は「スポーツの力で元気、誇りを取り戻し、世界の人たちと分かち合いたい」と力を込めた。だが、国際オリンピック委員会(IOC)に提出した申請ファイルに「ニッポン復活」の文言はなく、「夢、希望、目標などを生み出せるスポーツの力を信じる」という抽象的な表現にとどまり、IOC委員に向けたメッセージはあいまいだ。

16年五輪招致の大きな敗因とされたのは、国内支持率の低さだった。さらに「環境への配慮」を掲げたものの、インパクトに欠けた。「復興五輪」を強調するのは既定路線だったが、日本オリンピック委員会の中には「国内向けは復興でいいが、国際的な別のビジョンを示さなければならない」という声もあった。

東京の計画自体は質が高い。だが、会見で外国メディアから「復興ならば東北ではないのか」という質問も出るように、問われているのは「なぜ東京か」。計画の「顔」が「復活」「復興」だけでは前回と同じ轍(てつ)を踏むかもしれない。【2月16日 毎日】
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初のイスラム教国として五輪に向けて
東京と競合する候補都市から、先ずローマが脱落しました。イタリアのモンティ首相は14日、多額の公的債務を抱えて財政再建を進める現状を踏まえ、政府としてローマの招致を支持しないと発表しています。
現在の経済危機を考えれば当然の判断でしょう。

その点で言えば、マドリード(スペイン)も同様ではないでしょうか。
また、12年がロンドンですので、20年また欧州でというのも難しいところです。

バクー(アゼルバイジャン)・・・正直なところ、なぜアゼルバイジャンで?といった感じで、インパクトがありません。

候補都市の中で一番インパクトが感じられるのはイスタンブール(トルコ)でしょう。
9.11以降、世界が抱える最大の問題のひとつが、イスラムとどのように付き合っていくか・・・ということにあります。世界で起きている多くの紛争・問題がイスラム絡みというのが現状です。
その意味で、世界初のイスラム圏でのオリンピック開催というのは、世界の融和をアピールするうえでは、これ以上のものがないコンセプトでしょう。

同じイスラム圏では、バクー(アゼルバイジャン)の他に、ドーハ(カタール)も名乗りをあげています。
ただ、カタールでは、いかにも“オイルマネー”で砂漠に作り上げた蜃気楼のような感があります。
国際的には、リビア・シリア問題などで存在感を示すカタールですが、王制のこの国の民主化がどのようなものか・・・という点でも疑問があります。

それに対し、トルコは今や中東の地域大国としてゆるぎない地位を獲得しており、経済成長で大会開催を可能とする力も蓄えてきています。
また、トルコはイスラム国家でありながら政治は宗教から切り離す世俗主義の国として、「アラブの春」などのイスラム民主化運動にあって、ひとつの“民主化モデル”とされている国です。(トルコの世俗主義が今後も維持されるのかどうかは、後述のように問題もありますが)
地政的にも、アジアとヨーロッパにまたがる立地は、両地域の“架け橋”というイメージをアピールします。
世界の火薬庫“中東”という立地も、“平和の祭典”としては好都合でしょう。

****イスタンブール 5度目の正直へ、インフラ整備着々****
日本オリンピック委員会関係者が「最大のライバル」と見ているのが、「5度目の正直」を目指しているイスタンブールだ。

「前回までとは全く意味合いが違う。初めて国が全面的にバックアップしての挑戦となる」。五輪準備委員会のネシェ・ギュンドアン事務局長(50)は言葉に力を込める。
2000年大会から12年大会まで、4大会連続で立候補したが落選。12年大会開催地を決めた05年7月のIOC総会でロンドンに敗れてからは、初のイスラム教国として五輪を開催するため入念に準備してきた。

五輪準備委員会は、過去に敗退した最大の理由を「インフラの整備不足」と分析。この8年の間に約60億ドル(約4700億円)を投じ、地下鉄など市街地での移動手段を充実させた。宿泊施設は最近4年間で24%増加したという。
欧州、アジア、中東のちょうど中間に位置し、民族、文化的な交流が盛んな地理的特異性をアピールポイントにする。ギュンドアン事務局長は「この文化圏だからこそ、という点を強調していく」と話した。【2月17日 朝日】
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中東のオピニオンリーダー、エルドアン首相
そのトルコをリードしているのがエルドアン首相で、今や中東のオピニオンリーダーとして注目されています。
穏健なイスラム主義政党「公正発展党」党首でもありますが、そのイスラム主義の度合いについては、立場によって評価が分かれるところでもあります。

****親米とイスラム同居〈リーダーたちの群像〉エルドアン トルコ首相****
「アラブの春」と呼ばれる民主化のうねりが続くアラブ世界で、民衆に人気のある指導者はトルコ首相のタイップ・エルドアン(57)だ。米シンクタンクがエジプトなどアラブ5カ国で行った調査で「理想の指導者像」のトップだった。
長期独裁政権が崩壊したエジプト、チュニジア、リビアの3国を、昨秋歴訪した。カイロ空港では数千人の若者が「共に進もう」と声を上げ、歓迎した。

エルドアン率いる公正発展党は2002年、07年、11年と3度の総選挙で勝利し、政情が不安定だったトルコに安定をもたらした。01年に危機に陥った経済を立て直し、10年に8.9%の経済成長率を達成した。

アラブ世界でエルドアンが一躍中東のカリスマとなったのは、09年の世界経済フォーラム(ダボス会議)での出来事だ。
会議の直前にイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザへの大規模攻撃があった。同席したイスラエル大統領のペレスが攻撃を正当化したのに対し、エルドアンは「あなたたちは人の殺し方をよく知っている。子どもまで殺した」と非難した。
司会に発言をさえぎられると、「彼(ペレス)には25分間発言させ、私には12分。二度とダボスには来ない」と言って席をけった。
アラブ世界の指導者たちが沈黙する中、アラブの民衆の喝采を浴びた。国連ではパレスチナ独立を公然と支持し、民衆デモを弾圧する隣国シリアのアサド政権に退陣を求めるなど、中東のオピニオンリーダーだ。

■世俗主義に転換     
エルドアンはイスラムの教えを政治で実現しようとするイスラム主義の流れをくむ。宗教心の強い家庭に生まれ、イスラム宗教者を養成する学校を卒業後、大学で経営学を学んだ。
1990年代は反欧米色が強いイスラム系政党「福祉党」の若手リーダーだった。94年のイスタンブール市長選挙で当選した。人口1千万の大都市で、行政経験がない40歳の市長が次々と問題解決に着手した。
道路整備と公共交通網の充実で交通渋滞を軽減、水道整備で断水問題を解決し、天然ガスの導入で深刻な大気汚染も改善させた。イスラムの教えに通じる貧困対策にも力を入れた。

ところが、福祉党は98年、トルコの国是である政治と宗教の分離を厳格に求める憲法の世俗主義規定に反するとして非合法化される。後継政党の美徳党も01年に活動が禁止された。
エルドアンはすぐに公正発展党を結成、出直しを図る。世俗主義を掲げ、自由主義経済政策をとる中道右派の保守政党を名乗った。
政権は欧州連合(EU)加盟問題でも積極姿勢をとる。米国と強い友好関係も維持する。記者会見で態度の変化を問われて、「私の世界観は世界の変化に応じて変わった。道徳観は変わらないが、もう昔の私ではない」と言い切った。

チュニジアやエジプトではイスラム勢力が選挙で躍進し政治を主導する。エルドアンはカイロ訪問時に「エジプトは世俗的な憲法を持つべきだ。世俗主義は宗教の敵ではなく、特定の宗教に偏らないということだ」と地元のテレビで語り忠告する姿勢を見せた。
イスラム的な主張を抑え、折り合いをつけながら、経済振興などで着実に成果を上げる――。エルドアンの政治手法はアラブ世界の手本になるとの期待が欧米諸国などにはある。(後略)【1月7日 朝日】
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世俗主義の守護者を自任してきた軍部との確執
“初のイスラム教国として五輪”を、イスラム民主化のモデル国・トルコで・・・というのは他を圧倒する強力なインパクトがありますが、問題点としては、トルコが2020年においても、現在のようなイメージを保っていられるかどうか・・・というところでしょう。

トルコが抱える問題のひとつが、エルドアン首相率いる穏健イスラム主義政党と、これまで“世俗主義”の守護者として政治をも牛耳ってきた軍部との確執です。
軍部や世俗主義勢力からすれば、エルドアン政権はこれまでの“世俗主義”を放棄して、トルコをイスラム主義に導くものとなります。
エルドアン首相側からすれば、これまで政治・社会を支配してきた軍・司法などの既得権益層を排除して、真の民主化を成し遂げる・・・ということになります。

両者の確執は、現在のところエルドアン首相の側に勢いがあり、軍部の影響は低下しつつあります。
ただ、今後このバランスがどのように動くかは予断を許さないものがあります。

****トルコ元参謀総長を逮捕 政権転覆計画に関与の疑い****
トルコ司法当局は6日、軍のバシュブー元参謀総長を政府転覆計画に関わったとして逮捕した。同国では2010年2月にクーデター計画に関わったとして軍高官らが拘束され、その後訴追されており、エルドアン政権側による軍への圧力の一環と見られる。

トルコ軍は国是である政教分離の守護者を自任。エルドアン首相の与党で親イスラムの公正発展党(AKP)政権と対立が続き、昨年8月にも参謀総長が交代している。元参謀総長が逮捕されたことで、軍は政権への反発を強めることになりそうだ。
政府転覆計画は09年に発覚、バシュブー氏は参謀総長として、インターネット上に政府を攻撃するウェブサイトを作ることを指示した疑いが持たれている。バシュブー氏は10年に退任している。【1月7日 朝日】
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クルド独立派にとどめを・・・
トルコが抱えるもうひとつの大きな問題はクルド人問題です。
トルコでは、現在もクルド人独立国家の樹立を目指す武装組織、クルド労働者党(PKK)が抵抗運動を続けており、PKKが反政府武装闘争を開始した1984年以降の死者は4万5000人に達しています。

エルドアン首相は11年11月23日、1930年代後半にトルコ南東部で起きたクルド人虐殺事件(1万3800人が殺害)について、初めて公式に謝罪し、クルド人との融和も図っています。
もっとも、当時の虐殺事件は軍部主導であり、これへの謝罪は軍部批判にもなります。

一方で、武装組織PKKへの攻撃は手を緩めていません。
“トルコ軍は1万人近い兵力を動員し、イラク領内にあるPKKの拠点に対して地上攻撃と空爆を実施した。「政府は現在、少数民族の権利拡大を盛り込んだ新憲法を起草している。このタイミングで攻撃したのは、クルド独立派にとどめを刺すためではないか」と、米ニューヨーク・タイムズ紙は評した”【11年11月2日号 Newsweek日本版】

そのPKK攻撃の過程で誤爆事件も起きています。
****住民の怒り渦巻く=クルド人誤爆事件―トルコ南東部****
「他に仕事はない」「学費を稼ぐために」―。トルコの反政府武装組織クルド労働者党(PKK)の要員と誤認され、少数民族クルド人35人がトルコ軍の空爆で死亡した事件。

AFP通信によると、犠牲者には複数の少年も含まれ、祖父の代から続く密輸稼業に従事していたところを攻撃された。犠牲者が暮らしていた地域では意図的な攻撃との見方も広がり、政府への怒りが渦巻いている。(後略)【11年12月31日 時事】
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2020年にはこのクルド人の問題が沈静化しているのか、それともテロの火を噴いているのか・・・わかりません。
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北朝鮮と中国の微妙な関係  黙認された「金正恩暗殺説」、羅津港使用権の中国付与、金正男の処遇

2012-02-18 21:05:27 | 東アジア

(金正恩氏の側近が2009年、「おしゃべりな」金正男氏(写真)を襲撃する計画を立て、中国から「わが国の領土では(正男氏に)接触するな」と警告を受けていたと、朝鮮日報が10年10月13日報じています。
“flickr”より By Tin Mot Tam Muoi http://www.flickr.com/photos/tin180/5095970393/ )

北朝鮮:脱北者取り締まりを厳格化
北朝鮮・金正恩体制が、脱北者取り締まりを厳格化していることが報じられています。
****脱北者は三代にわたり処刑」北が指示…米報道****
韓国外交通商省は14日、北朝鮮からの脱北者10人が8日、中国・瀋陽で公安当局に身柄を拘束されたとの情報があり、現在、中国側に事実関係の確認と、強制送還を控えるよう要請していることを明らかにした。拘束の情報は、9日に人権団体から同省に寄せられた。

韓国メディアによると、先に韓国入りした家族に会うため脱北した16歳の少年も含まれ、大半は韓国を目指しているという。ほかにも14人の脱北者が今月に入り、中国東北部で身柄拘束されたとの情報もある。

金正恩体制で、北朝鮮は脱北者取り締まりを厳格化しており、米政府系のラジオ自由アジア(RFA)は「脱北者は三代にわたり処刑する」との指示を出した、と伝えている。【2月14日 読売】
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また、米華字サイト・多維新聞は、食糧事情の悪化などに伴い、中国への越境を図ったり、食糧の密貿易を行う北朝鮮人が増加しており、北朝鮮政府はこうした状況をコントロールするため、越境や食糧の密貿易を抑止するため、北朝鮮が中国との国境付近の監視カメラの数量を大幅に増設していると報じています。【2月11日 Record Chinaより】

中国:「金正恩暗殺説」の噂を黙認
そうしたなかで、中国版ツイッターにおいて、“北朝鮮の最高指導者となった金正恩(キム・ジョンウン)が北京で暗殺された”という噂が広まったそうですが、興味深いのは、この噂を中国当局が敢えて規制しなかったという点です。

****金正恩暗殺説」を放置した中国の真意****
先週末、北朝鮮の最高指導者となった金正恩(キム・ジョンウン)が北京で暗殺されたという噂がネットを駆け巡り、大騒動になった。
結局、彼は死んでいなかった。事の経緯はこうだ。中国のミニブログ「新浪微博(シンランウェイボー)」で10日の午前2時頃に、正恩が北京の北朝鮮大使館で撃ち殺されたという噂が流れた。これが中国政府に近い香港の報道機関で引用されたため、信憑性が高まった。(中略)

しかしこの暗殺騒動で最も興味をそそるのは、中国が噂の拡散を放置した点だ。
新浪微博はしばしば中国版ツイッターと言われる。しかし実際には、ジャーナリスト向けの教育研究機関ポインター研究所のレジーナ・マコムズが指摘する通り、「ツイッターのように自由でもないし、開放されてもいない。厳重に管理され、監視された空間だ」。

つまり地政学的な観点から見ると、中国がこの噂を黙認したのは、中国と北朝鮮の関係が必ずしもうまくいっていないことの表れだ。おそらく権力掌握の過程にある正恩の行動が、中国の期待に十分沿うものでなかったのだろう。

北朝鮮関連の情報サイト「シノNKドットコム」の編集者アダム・カスカートは、外交ニュースサイト「ディプロマット」でこう書いている。
“すべてが、中国と北朝鮮の非常に緊張した関係を示唆している。中国は金正恩に対して、中国の庇護の下で北朝鮮が軍事独裁の手を緩め、国外からの投資を受け入れることを望んでいる。しかし現状では、正恩はそうした路線を取っていない。”

中国は、金正日(キム・ジョンイル)の後継者選びで黙殺された、正恩の兄・正男(ジョンナム)を取り上げた本『父・金正日と私 金正男独占告白』をめぐる報道にも口をはさまなかった。正男とのメール交換やインタビューなどを基に日本の新聞記者が記した同著の中で、正男は金一族の世代継承を公然と批判している。しかし、それについても中国は黙認している。【2月15日 Newsweek】
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北朝鮮の改革開放で、中国が日本海進出
なかなか興味をひかれるところではありますが、“中国と北朝鮮の関係が必ずしもうまくいっていない”かどうか・・・については、よくわかりません。
両国関係の密接な繋がり、北朝鮮の中国式改革開放路線を示すニュースもあります。

****中国式改革開放への第一歩か、北朝鮮が新埠頭使用権を中国に―韓国紙****
2012年2月15日、韓国紙・ソウル経済は北京とソウルの情報筋の話として、北朝鮮が羅先(ラソン)経済特区にある羅津(ラジン)港の4~6号埠頭の50年間の使用権を中国に付与したと報じた。米華字サイト・多維新聞が伝えた。

記事によると、中国と北朝鮮は昨年末、中国が総額30億ドル(約2360億円)を投資して、羅先特区の共同開発を加速させることで合意。まずは、羅津港に7万トン級船舶の出入りが可能な4号埠頭、旅客機と貨物機が離発着できる空港、吉林省延辺朝鮮族自治州の図們市と同港を結ぶ55kmの鉄道、火力発電所などを建設、その後、鉄道の延伸と同港の5~6号埠頭の建設が行われるという。

対外的には何よりも軍を優先させる「先軍政治」の継続を宣言している金正恩(キム・ジョンウン)政権だが、こうした動きから、実際は経済発展に重点を置く考えであることがうかがえる。記事によると、北朝鮮は遼寧省丹東市と接する黄金坪(ファングムピョン)経済特区の開発を急ぎたかったが、中国の意向で羅先特区が優先された形。

中国の北部から南部までの物資輸送はこれまで、長い陸路を経て渤海沿岸まで迂回し、そこから黄海を経るルートしかなかったが、羅津港から日本海を経由すれば距離、コストともにかなりの短縮となる。同港の1号埠頭は2008年に中国が使用権を獲得し、すでに昨年1月から利用が始まっている。3号埠頭の使用権はロシアが持っている。【2月16日 Record China】
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また韓国紙・ソウル経済は、中国がこれほど羅津港の使用権獲得に熱心なのは、以前から狙っていた日本海航路の開拓が目的との見方を示しています。

“中国で日本海に1番近いのは東北部の吉林省だが、直接面しているわけではない。ロシアと北朝鮮に挟まれているため、わずかに届かないのだ。
中国は4号埠頭の建設と同時に、同省延辺朝鮮族自治州の図們市と同港を結ぶ鉄道の建設も行うとしている。これにより、中国の東北三省から羅津港、日本海を経由しての物資輸送がよりスムーズになる。”【2月17日 Record China】

中国の日本海進出が本格化すれば、海上輸送路を確保するための軍事力強化など、日本との摩擦も増えることが懸念されます。

【“厄介者” 金正男氏への送金停止?】
ところで、前掲【Newsweek】記事のラストに登場する正恩の兄・正男(ジョンナム)氏ですが、中国は彼の北朝鮮体制批判を黙認していますが、北朝鮮側はそうではないようなニュースが報じられています。

****金正男氏、マカオのホテル追い出される 送金停止で困窮か****
北朝鮮の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男、金正男(キム・ジョンナム)氏が、母国からの送金が止まり金銭的に困窮しているようだとロシア誌が17日、伝えた。3代世襲に疑問を呈したことが送金停止の理由ではないかと分析している。

露週刊誌「論拠と事実」(電子版)によると正男氏は最近、宿泊費1万5000ドル(約120万円)を滞納したため、滞在していたマカオの高級ホテル「グランドラパ・ホテル」を追い出されたという。
同誌はマカオ当局筋の話を引用し、正男氏のマカオでの暮らしぶりを、カジノに明け暮れたり高級レストランで食事をするなど派手な生活だったと紹介。ところが、グランドラパ・ホテル関係者は同誌に、正男氏は「ビザのゴールドカードで(宿泊費を)支払おうとしたが、口座残高がなかった」ため、ホテル17階の部屋から出てもらった話したという。

正男氏の窮状について同誌は、正男氏が1月に東京新聞とのインタビューで、金正恩(キム・ジョンウン)氏への3代世襲について「社会主義に符合しない」などとコメントしたことがきっかけではないかと分析している。
また同誌は、正男氏の滞在に神経をとがらせているマカオ当局者の次のような談話も伝えている。「彼(正男氏)の身に何が起きるか分からない。爆殺や殺し屋を雇っての暗殺計画がないとも限らない。(マカオでの)面倒は、ごめんだ」【2月17日 AFP】
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改革開放主張、中国の庇護下に
正男氏は北朝鮮にとっては厄介者ですが、中国にとっては、将来的に“切り札”になる可能性もある人物です。
“(ロシア週刊紙「論拠と事実」の)記者がマカオのカジノ前で護衛に伴われた正男氏を目撃していることから、正恩氏が病気で倒れるような事態に備え、中国が親中派の正男氏に庇護を与えているとの見解を伝えた。”【2月18日 読売】

糖尿病や高血圧を患っているとされる正恩氏ですので、健康問題は十分にありえる話ですが、権力継承がうまくいかず北朝鮮が混乱状態に陥るケースもまたありえます。

その正男氏は日本への偽名入国事件などで、日本には幾分馴染みがある人物ですが、“遊び人”イメージとは別に、中国式の改革開放路線を強く主張しています。彼がトップに就けば、北朝鮮社会も随分と変わるだろうということは想像できます。

****金正男にやらせろ! 意外とまともな人物****
日本で話題の本『父・金正日と私 金正男独占告白』(五味洋治著、文芸春秋社刊)は、北朝鮮の新指導者・金正恩の異母兄である金正男が日本の記者と交わした長年の“メール対話”を紹介したものだ。北朝鮮を知る貴重な第1級の最新資料である。韓国の本屋でも山積みされ関心を集めている。

読んでみて最も印象的だったのは、金正男がきわめてまともな人物だったことだ。スイスでの9年の留学を含め海外生活が長く(現在は中国在住)、国際情勢に明るく、北朝鮮の実情を客観的にとらえており、自分についてもおごりなどなく終始、冷静な語り口だ。すこぶる知的でマナーがよくユーモアもある。

金正男についてはその容貌やファッション、日本での偽名入国事件などから“遊び人”で“ドラ息子”風のイメージがあったが、実際はまったく違うのだ。北朝鮮の将来については中国式の改革・開放しかないことを繰り返し語りながら「祖父(金日成)に容貌だけ似ている正恩がどれだけ人々を満足させられるか心配です」という。

「資本主義青年」になったため父(金正日)から疎まれたというが、実に親近感を感じさせる人物だ。本人はその気はまったくないと言っているが、読後感は「金正恩ではなく金正男にやらせろ!」である。【2月4日 産経】
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アフガニスタン  和平交渉協議スタート タリバン内部には異論・混乱も

2012-02-17 22:11:48 | アフガン・パキスタン

(バイクで移動するタリバン戦闘員 “flickr”より By DTN News  http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6888293043/in/photostream )

撤退を急ぎたい派兵国
アフガニスタンでは依然として多くの民間人が戦闘の犠牲になっています。
****アフガンの民間人死者、3千人に 11年、過去最悪****
アフガニスタンで昨年1年間、テロや戦闘に巻き込まれて死亡した民間人が3021人にのぼり、2001年に米軍などがタリバーン政権に対する軍事作戦を始めてから最悪となった。治安の改善が進まない現実が改めて浮かび上がった。
国連アフガン支援団(UNAMA)が4日、報告書で明らかにした。11年の民間人の死者は前年より8%(231人)増えた。死者数の増加は5年連続だ。このうちタリバーンなど反政府武装勢力によるテロや攻撃での死亡が2332人と全体の77%を占めた。【2月5日 朝日】
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軍事的な出口は未だ見えない状況ですが、アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)に派兵している48カ国は、14年末までにアフガン当局に治安維持権限を移譲することで合意しており、オバマ米大統領は昨年6月、約10万1000人の駐留米軍を12年9月までに3万3000人撤収させる方針を表明しています。

残る約6万8000人の任務や撤収時期はこれまで明示されていませんでしたが、今月1日、パネッタ米国防長官が米軍の戦闘任務を13年後半に終えたい意向を表明しました。なお、現在の駐留米軍は9万人になっています。

また、サルコジ仏大統領が1月27日、仏兵士殺害事件もあって、当初の計画より1年早い13年末に仏軍を完全撤退させる考えをカルザイ大統領に伝達しています。

このように、アフガニスタン派兵諸国は、早期撤退に向けて動き出しているように見えます。
ただ、今月2,3日に開催されたNATO国防相会議に参加したラスムセンNATO事務総長は記者会見で「目標はアフガン国軍が14年末までに全土に対する治安を担うことだ」と述べ、従来の方針に変更がないことを強調しています。
“パネッタ長官は2日の理事会終了後、米国の方針について「同意があった」と述べたものの、決定ではないと指摘。AP通信によると、理事会では異論も出たという”【2月4日 産経】

****アフガン撤退急ぐ欧米 財政難響き計画前倒し****
アフガニスタンの安定化を目指す北大西洋条約機構(NATO)諸国が、早期撤退に傾いている。各国とも財政難で、巨額の費用がかかる軍事作戦から早く手を引きたいためだ。今後の治安を担うアフガン軍を養成する資金も不足しており、日本などに支出を求める圧力が高まっている。

NATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)は、アフガン政府に治安権限を完全移譲する2014年末まで、治安の責任を担う計画だ。だがブリュッセルで2、3の両日に開かれたNATO国防相会議を前に、米仏が前倒しに動いた。

まずフランスのサルコジ大統領が1月27日、当初の計画より1年早い13年末に仏軍を完全撤退させる考えを、アフガンのカルザイ大統領に伝達。続いて9万人を派遣している米国のパネッタ国防長官は、NATO国防相会合に向かう専用機中で、米軍の戦闘任務を13年後半に終えたい意向を表明した。

サルコジ氏の表明は、アフガン兵にフランス兵4人が殺害されたことがきっかけ。だが、4月の大統領選を控え、不人気な軍事作戦から手を引いて国民にアピールする狙いもあったとみられている。オバマ米政権は、財政赤字削減の一環として、今後5年間で2590億ドル(約20兆円)を削減する方針。戦闘任務の早期終了で駐留兵の撤退を進め、年間880億ドル(13会計年度)の戦費負担も減らしたい考えだ。

債務危機に見舞われている欧州各国も、早く軍事負担を減らしたいのが本音。AFP通信によると、国防相会合で撤退方針を各国に伝えたロンゲ仏国防相は「私は批判されなかった。どの国も同じ問題に直面しているからだ」と語った。

これに対し、NATOのラスムセン事務総長は3日の会見で、「フランスも訓練活動は続けると聞いている」としたうえで、「ISAF参加の全50カ国が従来の計画どおりに進めることを約束している」と繰り返し、治安権限の移譲の時期に変わりがないことを強調した。ただ、ISAFの任務はアフガン軍の訓練や後方支援に変わっていくとし、今年5月に米シカゴで開かれるNATO首脳会議で、権限移譲の具体的な計画を決める方針を示した。

NATO撤退後の治安を担うアフガン軍の育成も急務だ。だが、現在、約30万人の要員を増やし、維持していく費用は、NATO加盟国だけではまかなえない見通しだ。パネッタ長官は、日韓、中東諸国などNATO非加盟の同盟・友好国に資金協力を求めていく考えを示している。(後略)【2月4日 朝日】
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協議開始 交渉の前段階としての信頼醸成を図る
軍事的な出口が見えないなかで、タリバンとアメリカの和平交渉に向けた協議がスタートしています。
今のところは“成果”云々の段階ではなく、信頼醸成の段階です。
早く泥沼のアフガニスタンから撤退したいアメリカとしては、何とか和平交渉で撤退へ向けた形を整えたいところでしょう。

****タリバンと米国、和平交渉に向けてカタールで協議****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが、10年におよぶ米国との戦争を終結する和平交渉に向けた米国側との協議を、カタールで始めたことが明らかになった。

元タリバン幹部のマウラビ・カラムジン氏が29日、AFPに語ったところによると、タリバンと米国側は交渉の前段階としての信頼醸成を図っており、このプロセスにはしばらく時間がかかるという。(中略)

タリバンは今月に入り、米国との和平交渉に向けた一歩として、カタールに事務所を設置する計画だと発表していた。【1月30日 AFP】
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タリバン側からは、オマル師の側近と言われる人物や、タリバン政権時代に駐サウジアラビア大使だった人物などがカタールに入っているそうです。

タリバン側は「交渉相手はあくまで米国」と、現アフガニスタン政府・カルザイ政権を“アメリカ傀儡政権”として無視する姿勢も見せていますが、“蚊帳の外”に置かれる状況に危機感を持つカルザイ政権も交渉に参加していることを明らかにしています。ただ、和平交渉におけるアフガニスタン政府・カルザイ政権の位置付けははっきりしません。

****アフガン政府も交渉参加=対タリバン、大統領が明言―米紙****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は15日、アフガニスタンのカルザイ大統領とのインタビュー記事を掲載し、同大統領は反政府勢力タリバンと米国の和平交渉にアフガン政府も参加していることを明らかにした。
タリバンはカルザイ政権について、「米国のかいらい」だとして交渉を拒否してきた経緯から、カルザイ政権は米国がタリバンと交渉を進め、取り残されることに焦燥感を抱いていた。【2月16日 時事】
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【「銃はタリバンの美であり、力でもある」】
こうした協議に関する情報の一方で、アフガン・イスラム通信は1月30日、“タリバンの最高指導者オマル師の下にある意思決定機関が政権とは交渉しないことを決めたと報じた。”【1月31日 産経】ということで、タリバン内部の状況は不透明です。
前線で闘うタリバン兵士の間では、不倶戴天の敵アメリカとの交渉の情報に、混乱も広がっているとも伝えられています。

タリバン側が交渉に出てきた背景には、軍事的にタリバンの勢いが失われていることがあるようです。
“2年前に米軍が増派された当時ほどの勢いが今のタリバンにないことも事実だ。タリバンが和平協議に応じた最大の理由は、南部、東部、北部の戦線で守勢に立だされていることにあると考えられている。
「重要なヘルマンド州とクンドゥズ州内に、タリバンが支配している地域はまったくない」と、和平協議を支持する前出の補給担当将校は言う。「爆弾を仕掛けたり自爆攻撃を行ったりしても支配地域を維持できず、(敵の)勢力拡大を阻止できない。すべてを失う前に、誰かがオマル師を説得して、柔軟な姿勢に転じさせるべきだ」”【2月22日号 Newsweek日本版】

****和平協議の開始でタリバンが崩壊する****
指導部がこっそりアメリカと和平協議  現実派は和平路線にこそ未来があると言うが、現場の戦闘員たちは動揺と反発を強めている

アーメド・ジャマルはこれまで15年余り、ずっとムハマド・オマルの忠実な支持者だった。
20歳だったジャマルがオマル率いるタリバンに加わったのは96年。このイスラム原理主義勢力が首都カブールを制圧し、アフガニスタン全土の掌握に大きく前進した年だ。それ以来、アメリカ軍とアフガニスタン政府軍との戦いに身を投じてきた。

しかし、中東のカタールでタリバンの指導部がアメリカと極秘に和平協議をしているという噂を問いて、気持ちに変化が生まれた。敵がこちらを動揺させるために流した偽情報だと最初は考えたが、不安は募る一方。「頭の中に疑問が渦巻いて、昼も夜も頭を離れなくなった」と、ジャマルは言う。
やがて、現実を受け入れざるを得なくなった。「イスラムの最悪の敵であるアメリカ人とタリバンが直接話し合いをしていると知ったとき、ジハード(聖戦)への私の夢は砕け散った」

ジャマルは、それまで思ってもみなかった行動を取ることを決意した。戦いを放棄することにしたのだ。
昨年のある日、4年にわたり一緒に戦ってきた弟のアーマド・ビラル(25)にその意思を伝えた。「一部のタリバン指導者が大統領宮殿に入って、アメリカの傀儡の(ハミド・)カルザイ(大統領)と権力を共有するのを助けるために、私は4人の子供を孤児に、妻を寡婦にする危険を冒すつもりはない」
「私が戦い続けてきたのは、祖国から異教徒を追い払い、イスラム政権を再建するためだ。理想を捨てるために戦ってきたわけではない」と、ジャマルは本誌に語った。「もう指導部を信用できない」

指導部がカタールで秘密交渉を進めていることが明るみに出たことで(その情報は、タリバンがカタールの首都ドーハに連絡事務所を設置したことにより裏付けられた)、前線の戦闘員の間に動揺が広がっている。
一枚岩だったタリバンの内部に亀裂が走り始めた。ジャマルのような忠実な戦闘員の多くが戸惑い、士気を弱めている。戦闘員の大量脱走は現時点でまだ報じられていないが、その可能性を案じる声もタリバン内部で聞こえている。「大量脱走が起きる危険性は非常に大きい」と、ある補給担当の将校は言う。

ベテラン司令官たちは、和平協議や指導部の方針について部下に説明できずにいる。タリバン関係者によると、ある幹部は部下に質問されてこう言ったという。「私もラジオで聞く以上のことは知らないんだ」
こんな言葉で、戦闘員たちの不安を取り除けるはずがない。過酷な戦いを続け、大きな犠牲を払ってきたのに、指導部に裏切られるのではないかと、多くの戦闘員が恐れている。

「戦闘員は納得いかない」
「戦って戦って戦い抜いて、米軍を撤退に追い込めと、オマル師は言い続けてきた」と、元タリバン戦闘員のラマトゥラは言う。「それなのに、一転してアメリカと協議を開始した。オマル師はどうして、18年間の抵抗の戦
いを無にできるのか。戦闘員は納得いかない」アフガニスタン中部のワルダク州のいてつく山の中で、ジャマルの弟のビラルはまだ戦い続けているが、将来に不安を感じている。

「(和平協議の)ニュースを知って愕然とした。和平協議は、私たちの銃口を沈黙させ、タリバンを破滅させるための陰謀なのではないか」と、ビラルは言う。「銃はタリバンの美であり、力でもある。銃を失えば、勝利は永遠にあり得ない」
戦いを続ける以外に選択肢はないと、ビラルは言う。「武器によってイスラム政権を再建すべきだ。異教徒と和睦を話し合うのではなく」

オマルが戦いの大義を裏切ることはないと、ビラルは自分に言い聞かせ続けている。「オマル師が殉教者の血を売り渡すことはあり得ない。オマル師の明確な指示がない限り、私たちはジハードをやめない」

オマルの声明はいつ?
司令官も戦闘員もオマルの言葉を待っている。01年末にタリバン政権が崩壊した後、オマルは本人と確認できる音声や映像による声明を一度も発していない。「誰もがオマル師の声明を待っている」と、ある情報担当将校は言う。「何らかのメッセージが必要だ。今すぐに」

未確認情報ではあるが、1月後半にオマルが口づてで数人の上級司令官にメッセージを伝達したとされている。ある上級司令冒によれば、そのメッセージはこんな内容だったという「私は諸君を裏切らない。諸君の血の犠牲を無駄にはしない。これまで厳しい戦いを続け、多くの犠牲を払ってきた。私の目標は、諸君全員の目標と変わらない」。

同じ頃、タリバンの最高意思決定機関であるクエッタ・シューラは書面で通達を発した。東部ラグマン州の副司令官によれば、ある会合でこの書簡が読み上げられたという。
その中で指導部はカタールに連絡事務所を開設することを認めた上で、「ジハードを継続するのと並行して、捕虜の返還交渉を行いたいと考えている」と説明。さらにこう述べた。「アメリカをアフガニスタンから撤退させるというジハードの最大の目標をないがしろにすることはないと、約束する」(後略)【2月22日号 Newsweek日本版】
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「銃はタリバンの美であり、力でもある。銃を失えば、勝利は永遠にあり得ない」・・・・随分と気のきいた言い様ですが、これまでの人生で戦闘しか知らない“戦闘依存症”という側面もあります。
そうした戦闘員に戦いを止めさせることができるのは、最高指導者オマル師の言葉だけでしょう。

しかし、“01年末にタリバン政権が崩壊した後、オマルは本人と確認できる音声や映像による声明を一度も発していない”という現実からは、すでにオマル師は存在しないのでは・・・と思ってしまいます。
上記記事にあるオマル師の口づてのメッセージというのも、かなり怪しげです。

タリバン指導層に和平交渉を指向する勢力があるのは事実ですが、最高指導者オマル師“不在”の状況で、どこまでその方針をタリバン内全体に徹底できるかには疑問もあります。
それも、アメリカとの間で一定の合意が出来ての話ですが、そこまで行くのも大変なハードルがありそうです。

“近い将来、和平協議が大きく進展することは考えづらい。捕虜の解放と停戦が実現する状況にはまだない。
その点は、和平協議の賛成派も十分に理解している。「カタールに連絡事務所を設置すると決めることにも、何カ月もの時間を要した」と、現在もタリバンと緊密な関係を保っている前出の元タリバン政権閣僚は言う。「すべては、まだ始まったばかりだ。この先に、長く険しい道のりが待っている」

それでも、タリバンの中にその道を歩もうとする人たちがついに現れたという事実は、極めて大きい。”【同上】
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イスラエル・イランの「秘密の戦争」 対立先鋭化に苦慮するインド

2012-02-16 21:59:40 | イラン

(2月13日 インド・ニューデリー 爆破され炎上するイスラエル大使館の車 “flickr”より DTN News  http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6871990897/in/photostream )

インド・グルジア・タイで対イスラエルテロ
インドの首都ニューデリーとグルジアの首都トビリシで13日、イスラエル大使館に関係する車両に爆発物が仕掛けられる事件が2件起き、更に、タイ・バンコク中心部の住宅街で14日、イラン人グループが手投げ弾などを爆発させる事件が起きており、イスラエルはイランによるテロ攻撃として非難を強めています。

****イスラエル:インドとグルジアの大使館に爆発物 4人負傷****
インドの首都ニューデリーとグルジアの首都トビリシで13日、イスラエル大使館に関係する車両に爆発物が仕掛けられる事件が2件起きた。ニューデリーでは車が爆発し、4人が負傷した。

イスラエルのネタニヤフ首相は両事件を「イランとその代理である(レバノンのイスラム教シーア派民兵組織)ヒズボラの仕業だ」と指弾したが、イラン政府報道官は関与を否定。イランの核兵器開発疑惑を巡る両者の緊張関係がさらに高まりそうだ。

AP通信などによるとニューデリーでは、何者かがイスラエル外交官の車にオートバイで近づき、爆発物を張り付け、爆発させた。外交官の妻らが負傷した。トビリシでは、大使館の現地職員の車に仕掛けられた爆発物が、爆発前に処理された。

イスラエル・メディアによると、事件前日の12日は、ヒズボラのムグニエ司令官が4年前の08年に暗殺された日。またイランでは10年以降、核科学者ばかりを狙った5件の爆弾事件などが相次ぎ、4人が死亡している。イラン政府はいずれの事件にもイスラエルが関与したと批判していることから、イスラエル政府は、在外公館などに報復への警戒を呼びかけていた。【2月14日 毎日】
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****イラン身分証の男 車に手榴弾投げる バンコク****
タイのバンコク東部のスクンビット界隈(かいわい)で14日午後、イラン国籍の身分証明書を所持した男が、タクシーなどに向かって手榴(しゅりゅう)弾を投げつけ爆発し、タイ人の通行人らとこの男の5人が負傷した。

タイ紙ネーション(電子版)などによると、男が他の中東系とみられる2人と暮らしている借家でまず、爆発があった。男は逃走中、乗車を拒否されたタクシーに手榴弾を投げつけた上に、駆けつけた警察官に手榴弾を投げつけようとし、爆発で自身の足が吹き飛ばされ、重傷を負った。

バンコクでは先月、イスラエル人観光客などを狙ったテロ情報があり、レバノン系の男がテロを企てた疑いで逮捕された。13日にはインドとグルジアでイスラエル外交官を狙ったとみられる爆破事件が相次いだ。
イスラエルのバラク国防相は14日、バンコクの爆発事件について「イランとその手先がテロを継続していることが証明された」とイランを強く非難した。【2月15日 産経】
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タイの事件は無茶苦茶な展開ですが、犯人グループの3人目も15日にマレーシアの首都クアラルンプールで現地警察に逮捕されています。
タイ当局者はフランス通信(AFP)に「3人は暗殺チームで、標的は大使を含むイスラエル外交官だった。車に爆弾を仕掛ける計画だった」と指摘しています。

【「イランと国際社会の間で秘密の戦争が続いている」】
一方、“イランでは10年以降、核科学者ばかりを狙った5件の爆弾事件などが相次ぎ、4人が死亡している”ことについては、イラン側はイスラエル情報機関モサドの犯行と非難しており、今回の一連のイスラエルを標的にした事件によって、もとより険悪なイスラエルとイランの関係が一段と厳しくなっています。

****イスラエル・イラン対立深刻化=核開発阻止で「秘密の戦争****
インド、グルジア、タイの3カ国で立て続けに起きたイスラエル大使館員を狙ったとみられる爆弾事件をめぐり、イスラエルとイランの緊張関係が強まっている。イランの核計画に関わった核科学者が次々と暗殺された事件を「イスラエルの仕業」とみるイランが報復したとの観測が浮上しているためだ。

イスラエルの対外情報機関モサドのハレビ元長官は、イランの核開発阻止のために「イランと国際社会の間で秘密の戦争が続いている」と認めている。
「秘密の戦争」の一部とみられているのが、イランの首都テヘランで1月11日に発生した核科学者爆殺で、核計画に関わったとみられる同国の科学者4人がこれまでに暗殺されている。【2月15日 時事】
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イランの核開発の成果アピールで、対立激化の懸念
核兵器開発疑惑で経済制裁を受けるイランは、15日、新型遠心分離機を開発し、核燃料の国産化を成し遂げたことを発表しています。
“核開発の成果アピールには米欧を揺さぶる狙いと、制裁下で不満を強める国民に「強いイラン」を演出する思惑があるとみられる”とのことですが、かねてよりイラン核施設攻撃を噂されているイスラエルが更に態度を硬化させることが予想されます。

****イラン:核開発分野で進展 新型遠心分離機を開発****
イランのアフマディネジャド大統領は15日、核開発分野で進展があったと発表した。ウラン濃縮の時間を短縮できる新型遠心分離機を開発し、国産の核燃料棒を初めて研究炉に装塡(そうてん)したと強調した。イランは米欧の新経済制裁で国際的な孤立を深めており、核開発の成果アピールには米欧を揺さぶる狙いと、制裁下で不満を強める国民に「強いイラン」を演出する思惑があるとみられる。

イラン国営テレビによると、「第4世代」とされる新型遠心分離機は炭素繊維製で、ウラン濃縮能力が従来型よりも3倍高いとされる。濃縮技術が核兵器開発へ応用されることを懸念する米欧やイスラエルが反発を強める可能性がある。
また、国営テレビによると、イラン政府は中部ナタンツの核施設で20%に濃縮したウランを使って核燃料棒を製造。大統領立ち会いの下、燃料棒をテヘランの研究炉に初めて装塡した。研究炉稼働は「医療用アイソトープ(放射性同位体)の生産が目的」(イラン原子力庁)としている。

一方、イランメディアによると、イラン政府は15日、欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表に書簡を送り、核協議再開の意向を伝えた。具体的な協議内容や日程も記されているという。ただし、核開発を進める一方で協議再開を呼びかけるイランのメッセージを米欧が前向きに受け取る可能性は低い。

イランが核開発の進展を強調する背景には国内事情もある。相次ぐ制裁で経済が疲弊し、国民の不満が高まる中、政府は強力な国家像を示す必要がある。また、反大統領派との権力闘争の渦中にある大統領は「力強い指導者」を印象づけ、3月の国会議員選挙での大統領派の勢力回復や、来年6月の大統領選での側近への権力継承を有利に進めたい考えとみられる。【2月16日 毎日】
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イランの核技術が実際問題としてどの程度のレベルかはよくわかりませんが、アフマディネジャド大統領の発表がなくても、イスラエルの対外情報機関モサドであれば、ある程度はすでに把握しているところではないでしょうか。
ただ、これを機会にイラン攻撃論を更に強めるということは、ありえる展開でしょう。

****対イラン、欧米の反発必至 核開発推進で圧力強化か****
イランが15日、核燃料の自力生産など核開発技術の進展を発表したことで、イランの核兵器開発への疑念を強めてきた欧米やイスラエルの反発は必至だ。米オバマ政権は核開発阻止に向けて制裁強化を打ち出しており、圧力を一層強めると見られる。
パネッタ米国防長官は発表に先立つ14日、米議会上院軍事委員会で、イランの核開発について「重大な懸念だ」と指摘。「あらゆる選択肢も排除しない」とするオバマ大統領の言葉を引用し、軍事的手段も辞さない構えを改めて示した。

イランは米国などの圧力にかかわらず核開発を続けており、大統領選の指名争いをする野党共和党の政治家や米議会から、核施設の攻撃などより強い対応を求める声が高まっている。
ただ、米政府は実際には、イランを「最大の脅威」とするイスラエルがイランへの武力行使に走る事態を強く警戒している。

イスラエルではこのところイラン攻撃説が再燃。今回の発表で政府内の主戦論が強まる可能性も出ているが、武力行使に反発する国も多いとみられ、実際に踏み切れば核開発阻止に向けた国際的な包囲網も崩れる。
イスラエルもこれまでは、国際社会による制裁の強化に主眼を置き、武力行使は「最終手段」とみなしてきた。ただ、インドなどでイランの関与が疑われるイスラエル外交官を標的にした爆破事件が相次ぎ、イランによる挑発が今後も続けばイラン攻撃を支持する世論が高まりそうだ。

国際原子力機関(IAEA)はイランに対し、今月20~21日の日程で2回目の調査団派遣を計画している。だが、1月末に派遣した高官級調査団は核関連施設に立ち入りできず、「疑惑解明に結びつく成果は得られなかった」(外交筋)という。【2月16日 朝日】
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イランとの関係を捨てきれないインド、対応に苦慮
イスラエルとイランの対立先鋭化で、困った立場にたたされているのがインドのようです。
****イランとイスラエル、対立が先鋭化 インド、実利重視外交に難問****
インドの首都ニューデリーで13日、イスラエル大使館員の妻が乗った車が爆発した事件は、イランの関与が指摘され、イラン、イスラエル両国と友好関係を持つインドを困惑させている。仮にイランの関与が立証されれば、同国との関係見直しを求める声がインド内外から強まりそうだ。

事件について、イスラエルのネタニヤフ首相は、「イランが背後にいる」と断言しているが、インド政府は総じてイランを名指しすることを避けている。インドはイランと関係拡大をさらに図ろうとしているだけに、関係発展の障害としたくない思惑がうかがえる。
インドにとってパキスタンとアフガニスタンに隣接するイランは戦略的な重要性を持つほか、莫大(ばくだい)なエネルギー需要を支える第2位の原油輸入先である。

欧米諸国は核開発疑惑でイランへの制裁強化を進めているが、インド政府は近日中に大規模ビジネス訪問団をイランに派遣する方針。また、原油についても、インドはすでに削減した以上の輸入削減はしないと最近米国に伝えた。

今回の事件でイランの関与が立証されれば、イスラエルがインドにイランとの関係見直しを迫る可能性が出てくる。インドがイスラエルの要求に簡単に応じることはないとみられるが、イスラエルもインドに圧力をかけるテコを持つ。
1992年の国交樹立以来、インドにとってイスラエルは主要な武器供給国だ。近年は両国が最も警戒するイスラム過激派に関するテロ情報の共有などで関係強化を図っているほか、貿易も拡大傾向にある。

しかし、イスラエルとイランの対立が深まる中、実利重視のインド外交は、「利害衝突は避けられない状況だった」との声もある。元インド軍情報機関トップのラビ・サハニ氏は、「インドにとってイランとイスラエルとの関係のあり方が難しくなることは明らか」と語る。軍事アナリストのラフル・ボンスレ氏も「両国の代理戦争の犠牲にならないように関係を修正する必要がある」と指摘している。【2月16日 産経】
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インドにとってはイランに関して問題となるのは、イスラエルというより、アメリカでしょう。
****核疑惑」イランが突くインドの急所****
核開発をめぐる経済制裁が続くなか、イラン政府が天然資源を人質に包囲網の一角を突き崩そうとしている。ペルシヤ湾の天然ガス田の共同開発契約に「1カ月以内に」サインするようインド政府に通告したのだ。

イランの核開発には反対しているインドだが、イラン産原油の輸入を禁止する欧米の制裁の輸からは逃れたがっている。最近、原油輸入代金の45%を自国通貨ルピーで支払えるようイランと交渉したのも、イラン中央銀行とのドル決済を規制する制裁を回避するためだ。

急成長するインドは、原油供給の12~15%をイランに依存している。
だが理由はそれだけではない。将来起こり得る中国、パキスタンとの衝突に備え、インド政府はイランとの関係を重視している。

原油の共同開発権を持つインドの共同企業体は、イラン政府に対し50億ドルを投じて今後7年から8年で開発する計画を伝えていた。しかしアメリカのブラックリストに載ることを恐れて、正式契約は結んでいなかった。
イランを捨て天然資源を失うか、アメリカを怒らせるか。インドに残された時間は長くない。【2月22日号 Newsweek日本版】
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イランとアメリカの間での板挟みは、日本も同様です。


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対シリア強硬姿勢のサウジなど湾岸諸国 宗派間の主導権争いの側面も バーレーンで再び反政府運動

2012-02-15 21:46:03 | 中東情勢

(2月14日 バーレーン 道路を封鎖して抵抗する住民 “flickr”より By Friends of Bahrain http://www.flickr.com/photos/75379274@N04/6880140377/

アサド政権への圧力強化は、「シーア派勢力への絶好の牽制になる」】
シリアでは武力弾圧が続いていますが、国連総会でアメリカのディカルロ国連次席大使は、昨年3月からのシリア人の犠牲者数が「6000人以上」との見方を示しています。

安保理におけるロシア・中国の拒否権行使で、国連機能の限界も言及されていますが、そうした中で、湾岸アラブ諸国のシリア批判が高まっています。
サウジアラビアやカタールが中心となって、拒否権行使がない国連総会でのシリア非難決議の採択や、国連とアラブ連盟による「共同平和維持軍」構想などが提起されています。

****アラブ諸国、シリア非難決議案を国連総会に提出****
アラブ諸国は14日、シリアのアサド政権による反体制派の弾圧を非難する決議案を、国連総会に提出した。
4日の国連安全保障理事会でシリア非難決議案に拒否権を行使した露中に対する圧力を高める狙いだ。

決議案は、市街地からの治安部隊の撤退などアラブ連盟による調停案の即時実施を要求し、4日の安保理決議案をほぼ踏襲する内容。アラブ連盟が12日に提案した連盟と国連の「共同平和維持軍」構想については明示していない。

総会決議には安保理決議のような法的拘束力がないが、アラブ諸国は圧倒的多数の賛成で総会決議を採択、国際社会の総意を印象づけた上で、改めて安保理決議案を提出し、露中に譲歩を迫りたい意向とみられる。【2月15日 読売】
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こうした湾岸アラブ諸国の対シリア強硬論の背景は、民主化支援と言うよりは、イスラム教スンニ派のこれらの国々とシリア・イランのシーア派勢力圏の主導権争いという側面が強いように見えます。

****対シリア 湾岸6カ国、強硬姿勢鮮明 シーア派勢力圏に楔****
駐在大使を追放、対立先鋭化の恐れ
市民弾圧が続くシリア問題で、湾岸アラブ6カ国は7日、それぞれの駐シリア大使を一斉に本国へ召還するとともに、各国に駐在するシリア大使を追放すると発表した。同国に対する強硬姿勢をいっそう鮮明にした形だ。イスラム教スンニ派が支配層を形成する湾岸諸国には、今回のシリア危機を利用し、シーア派の勢力圏に楔(くさび)を打ち込む狙いがあるとみられる。

アラブ連盟は1月、シリアのバッシャール・アサド大統領に対し、シャラ副大統領への権限移譲を迫った。表向き、これを主導したとされるのは、対シリア強硬派のカタールとサウジアラビアだ。
だが複数の外交筋によれば、この案はもともと、混乱長期化による域内の流動化を恐れるイラクが、事態収拾に向け水面下で根回しを進めていたものだった。

アサド大統領の父ハフェズ・アサド前大統領(2000年に死去)の政治顧問だったジョージ・ジャッブール氏(73)は「(大統領退陣後の)権力配分などの問題を解決できれば、政権が受け入れる可能性はあった」と話し、同案を軸に騒乱を軟着陸させるシナリオもありえたと指摘する。
しかしアラブ連盟が、カタールなどの主導で、準備不足のまま一方的に発表したことで、外圧に屈したとの構図を嫌う政権側は同案を拒否、シリアの孤立が深まった。
ジャッブール氏は「政権を徹底的に追い詰めたいカタールやサウジが、(同案を)潰すため連盟に持ち込んだ」とみる。

カタールやサウジは、一連の騒乱の発生前はシリアへ活発に投資してきた。この2国がシリアへの圧力を強める立場に転じた背景には、「シーア派三日月地帯」と呼ばれる、イランからレバノンに至るシーア派人口の多い地域で、同派勢力の結びつきが強まっていることへの警戒心がある。

スンニ派が多数を占めるシリアでも、シーア派の一派とされるアラウィ派が権力を握る。そのアサド政権は、イランと盟友関係にあるほか、西隣のレバノンでシーア派組織ヒズボラを支援。東隣のイラクでは近年、シーア派主導のマリキ政権がイランとの関係を深めている。
そんな中、デモや反体制派との戦闘で弱体化したアサド政権への圧力強化は、「シーア派勢力への絶好の牽制(けんせい)になる」(外交筋)というわけだ。

アラブ連盟には、エジプトなど、本音では圧力強化に慎重な国も少なくない。ただ、弾圧を続けるアサド政権を支持しているとは受け取られたくはないため、強硬論に引きずられているのが現実だ。投資や援助が見込める富裕な湾岸諸国との関係を悪化させたくないとの事情もある。
連盟内での議論は、今後もカタールやサウジが主導する可能性が高いだけに、シリアと他のアラブ諸国との反目が先鋭化する恐れも指摘されている。【2月9日 産経】
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昨年のバーレーンの民主化運動には軍事介入
昨年来の弾圧を別にすれば、政治的には厳格な王制で(最近は内閣や国会に相当する諮問評議会、地方議会も設置されたようですが)、スンニ派の中でも女性の権利・社会進出に規制的なワッハーブ派支配のサウジアラビアが、強権的独裁体制とは言え、世俗主義的なシリアの社会より“民主的”かどうかは非常に疑問のあるところです。
膨大な原油を握っていますので、誰も強く抗議はできませんが・・・。

実際、湾岸諸国のバーレーンで多数派であるシーア派住民の民主化運動が起こると、サウジアラビアなどの湾岸諸国は軍事介入して、この運動を抑圧しています。

このバーレーンでの民主化運動弾圧と、現在のシリアの弾圧の間には共通点も指摘されています。
****シリア内戦への懸念高まる アサド政権、鎮圧作戦続行か****
・・・・アサド政権が狙うのは、ロシアの支持を背景に国際社会の介入を防いで反体制派を制圧し、限定的な改革を行って事態を沈静化させるというシナリオだ。バーレーンで昨年行われた戦術に近い。

バーレーンでは、自国へのデモの波及やイランの影響力増大を恐れたサウジアラビアなどの湾岸諸国が、ハマド国王を支えるため軍を派遣してデモを鎮圧。バーレーンに第5艦隊司令部を置く米国も黙認した。

シリアの場合、構図は逆転する。米国やサウジなどがアサド政権に退陣を求めるなか、政権側の生命線は近隣諸国ではなく、ロシアとイランだ。シリアにはロシア海軍が拠点とする補給基地があり、反米、反イスラエルで緊密な関係にあるイランはアサド政権を支援している。

さらに、バーレーンと違い、反体制派も銃を取っていることが事態を深刻化させている。政府軍を離脱した兵士らでつくる「自由シリア軍」などが政府軍に対しゲリラ戦を続けており、4日から5日朝にかけ、北部イドリブなどで政府軍の兵士9人を殺害した。・・・・【2月6日 朝日】
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バーレーンで再び反政府運動
そのバーレーンで、反政府デモが起きてから1年がたった14日、シーア派住民ら数千人が首都マナマ郊外で抗議デモを展開し、治安部隊が催涙ガスなどを使い弾圧するという事態になっています。

****バーレーン当局、記念デモを再び阻止 反政権デモ1年****
バーレーンで反政権デモが始まって1年となる14日、各地で「記念デモ」を行おうとした反体制派を治安当局が阻止した。反体制派は昨年のデモで中心地となった首都マナマの真珠広場を目指そうとしたが、当局側は要員や車両を配備して厳戒態勢を敷いた。

バーレーンでは昨年2月14日、人口の7割を占めるイスラム教シーア派市民らがチュニジアやエジプトのデモの影響を受け、スンニ派のハマド国王に対して権利の拡大などを求めるデモを始めた。マナマの真珠広場を占拠したデモ隊に、治安部隊が発砲。自国へのデモの波及を恐れるサウジアラビアなどもハマド国王の要請で出兵して介入し、デモを鎮圧した。

ハマド国王は議会の権限拡大など限定的な改革案を提示したが、シーア派の反発は強く、散発的なデモが続いている。反体制派は「真珠広場の奪還を目指す」と11、13両日にも広場に向かおうとしたが、治安部隊が催涙ガス弾などを撃って追い返した。【2月15日 朝日】
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政府が設置した調査委員会は昨年11月、「治安部隊が市民に過剰な武力を行使した」と報告し、当局側の過失を認めてはいますが、多数派であるシーア派住民を少数派スンニ派支配層が統治する構造が変わらない限り、住民の反政府運動は武力弾圧によらないと抑えきれない実情があります。

シリアの武力弾圧を強く批判しているサウジアラビアなどが、再度軍事介入を行うのも難しいでしょう。
それでも、湾岸地域におけるスンニ派支配体制維持のためには強行するのでしょうか。
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フィリピン アメリカとの同盟関係強化に高まる中国からの圧力

2012-02-14 20:02:51 | 南シナ海

(南シナ海を見下ろす形で中国・海南島に立つ、高さ108mの巨大な南海海上観音聖像  中国が、このような御仏の心で事に臨めば、南シナ海の波も穏やかになるのでしょうが・・・ “flickr”より By llee_wu  http://www.flickr.com/photos/13523064@N03/6870505353/ )

対中「強硬派」のフィリピン、ベトナム
中国が関係諸国と領有権を争う南シナ海問題については、ASEAN諸国のなかでも、対中「強硬派」のフィリピン、ベトナムと、「穏健派」のブルネイ、マレーシア、非当事国のラオス、カンボジアなどでは温度差があるとされています。

違法漁民へのフィリピンの対応も、「強硬派」の“同盟国”であるベトナムに対しては寛大だとか。
****中国に厳しく、ベトナムに寛大****
パラワン島の西約300キロには、比と中国など6カ国・地域が領有権をめぐって対立しているスプラトリー(南沙)諸島が広がる。同島の北西約260キロには、膨大な未開発の石油・天然ガスが眠っているとされるリード礁があり、昨年3月には中国海軍の艦艇が比の資源探査船を妨害する事件が起きた。中国との緊張は、密漁事件への対応にも影響しているようだ。

昨年5月、比国旗をかかげた大型漁船でパラワン島付近の比領海に入ったベトナム漁民122人が捕まる事件が起きたが、ベトナム漁民たちは罰金を払っただけで間もなく釈放された。これに対し、中国漁民たちはいまも拘束されている。

ベトナム漁民への対応について、パラワン州幹部は「政府から寛大に扱うよう働きかけがあった」と明かした。さらに中国の南シナ海進出をめぐって、警戒感を募らせる比とベトナムは「対中国で同盟国」との認識も示した。
それを裏付けるかのように、昨年12月の事件で捕まった中国漁民について「早急で公正な措置」を求める中国外務省に対し、比外務省は沈黙を守ったまま。事件への対応についての取材にも「コメントできない」という。 【2月14日 朝日】
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【「他国への見せしめとするべく・・・・」】
一方、“大国”中国の意に従わずアメリカとの関係を強めるフィリピンに対して、中国ネット世論はかなり苛立っているようです。

****中国ネットユーザーの98%「フィリピンに制裁を!」=米との軍事協力拡大で―中国メディア****
2012年1月30日、フィリピンが米国との軍事協力拡大による南シナ海などの海洋安全保障体制強化を検討していることを受けて、ネット上で行われた「中国はフィリピンに経済制裁を行うべきか」というアンケートでは、回答者2万5000人のうち、98%が賛成と回答した。環球網が伝えた。

賛成派からは「中国の友情は主権の放棄を意味しない。経済制裁は無礼な行動への報復だ」「アキノ大統領にも意図があるのだろうが、中国の主権への干渉は容認できない。経済というテコで両国の関係を正しい軌道に戻すことこそ賢明」といった回答が寄せられた。

また、「経済だけではなく、全方位的な制裁を行うべき」との声や、「他国への見せしめとするべく、核心的利益を守るためにあらゆる手段をとるべき」「フィリピンは米国の手先になる前に国内の貧困問題を解決せよ」とする意見もあった。

少数の反対派からは、「他国がどこと仲良くしようと口を挟む権利はない」「経済制裁は諸刃の剣、必ずしも中国の利益にならない。板ばさみになる小国にはやむを得ないこと。経済の不安定はどちらにとっても不本意なのだから、我慢強く、愛をもって気長にやるべき」との声が挙がっている。

一方で、「フィリピンではなく米国に制裁を。米国こそならず者の海賊で、フィリピンは誘拐された人質だ」という意見もあった。【1月31日 Record China】
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強まる“対中シフト”】
そのフィリピンのアメリカとの同盟関係強化は、オーストラリアのダーウィンへの米海兵隊駐留、シンガポールに最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)配備などと併せて、“対中シフト”の形成の一環となっています。

****米国-フィリピン 中国にらみ、関係強化****
基地使用の運用策検討に着手/3月には合同演習

フィリピン軍事筋は26日、同国内の基地を米軍が使用し艦船を配備することなど、同盟関係を強化する具体的な運用策について、米政府と検討に入ったことを明らかにした。艦船や海兵隊による南西部パラワン島の使用などが、俎上(そじょう)に上がっている。パラワン島周辺では3月中旬にも、両国海軍による合同軍事演習が実施される。

運用策の検討は、南シナ海などにおける中国の海洋覇権拡大に対処し、アジア・太平洋地域で米軍事力を強化する一環。両政府は艦船、哨戒機、海兵隊などについて配備、駐留の対象と規模、場所を検討している。
このうち、パラワン島にはフィリピン海・空軍基地があり、南シナ海に面し、中国と領有権を争う南沙(英語名・スプラトリー)諸島に近い。パラワン島の南にあるバラバク島を将来、潜水艦基地とし米軍に“開放”する構想も、フィリピン側の一部にはある。

ただ、フィリピン世論には、新たな基地協定を締結し、米軍駐留を固定・制度化することへの抵抗感が依然、存在する。このため両政府は、米軍がフィリピン軍の基地を“間借り”する形を取り、既存の(1)米比相互防衛条約(2)訪問米軍に関する地位協定(VFA)(3)相互補給支援協定(MLSA)-を汎用(はんよう)する方向だ。
米紙ワシントン・ポスト(25日、電子版)は、艦船や部隊を定期的に交代することや、合同訓練の強化も検討していると報じた。

オーストラリアのダーウィンに米海兵隊が駐留し、シンガポールに最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)が配備されることから、フィリピンにおける米軍の運用策が決まれば、対中シフトはさらに強いものとなる。
フィリピン政府はまた、警備艇、哨戒艦など装備の調達計画リストを米側に提示しており、米国の装備供与も順次、進むとみられる。

一方、パラワン島周辺での合同軍事演習は、石油・天然ガスの掘削施設を防衛するという想定。米側から艦船、航空機多数、要員500人以上、フィリピンから1千人以上が参加する大規模なものとなる。【1月27日 産経】
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沖縄からグアムへの移転を予定している米海兵隊の一部をフィリピンに向けることも検討されています。

****米軍:フィリピン国内で合同訓練増 海兵隊移転へ地ならし****
フィリピンを訪問中のアンドリュー・シャピロ米国務次官補(政治・軍事担当)は10日、フィリピンのガズミン国防相と会談し、フィリピン国内で両国軍による人道支援や災害支援活動の訓練回数を増やすことで大筋合意した。フィリピン国防省が明らかにした。両国軍の合同訓練を増やすことで、米海兵隊を国内に受け入れる地ならしをするのが狙いとみられる。

アジア太平洋地域を重視する米国の新国防戦略と、日米両政府による8日の在日米軍再編のロードマップ見直しに関する合意を受けた会談。見直しでは、グアム移転が予定されていた沖縄の海兵隊の一部をアジア太平洋で分散ローテーションさせる方向となり、フィリピンもその候補地の一つとされる。

ガズミン国防相は「フィリピンの憲法や法律にのっとったものだ」と述べ、国内で米軍との合同演習を可能にする「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」の枠内で演習を行うことを強調した。91年に米軍基地協定の更新を拒絶し、米軍基地を撤退させたフィリピンの国民感情に配慮したものと見られる。

フィリピンでは、米軍基地撤退後の95年に中国が南シナ海の南沙諸島に軍事拠点を構築。そのため、フィリピンは99年に米軍との合同軍事演習を可能にするVFAを批准した。米同時多発テロ発生の翌年の02年からは、米兵約600人がテロ対策名目で南部ミンダナオ島に駐留している。【2月10日 毎日】
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【「米中両国に良い顔をしなければいけないのが現実」】
こうした“対中シフト”に対し、中国の対フィリピン批判は先述のネット世論だけでなく、共産党指導部にも高っています。
フィリピンとしても、対中貿易額(10年)は全貿易額の約1割を占めており、中国は4番目の貿易相手国という関係にあり、中国との無用の摩擦は避けたい思いもあります。

****フィリピン:米との関係強化に中国、制裁ちらつかせる****
米国がアジアにおける軍事プレゼンスの強化を打ち出し、フィリピンとの関係強化を進める中、フィリピンと中国の間であつれきが生じている。中国共産党系の情報紙「環球時報」が社説でフィリピンとの経済関係冷却化などの制裁をちらつかせ、これに対して、フィリピン国会で「脅しだ」と反発する声が上がっている。経済分野での中国依存が強まっている事情から、フィリピン政府は社説を直接的には批判せず、中国を刺激しないよう配慮している。

米国とフィリピンは1月末、ワシントンで開かれた国防・外務両省の高官級協議で、中国の南シナ海での軍備拡張を念頭に、軍事協力を強化することで合意した。軍事演習の規模や回数を増やすことなども協議した。
協議について1月29日付環球時報は「フィリピンにバランス外交のツケを支払わせろ」と題した社説を掲載。「フィリピンは処罰するのに最適な標的だ。(処罰によって)米中間でバランスを取ることが良い選択肢ではないことを周辺国にも知らしめるべきだ」と指摘した。

フィリピンでは国会議員から抗議文の提出などの行動を検討する動きも出ている。だが、国防省報道官は「社説はさまざまな意見のひとつにすぎない。米国との協力は中国を念頭に置いていない」と静観の構えだ。大統領府も「(米国との)協議は初期段階だ。我が国の防衛力を高め、周辺国に追いつくようにしているだけだ」と表明するにとどめ、中国を刺激するのを避けている。

米国は南シナ海への中国の進出を視野にオーストラリアへの海兵隊駐留や、シンガポールへの新型戦闘艦配備の計画を進めている。一方、フィリピンは経済分野で中国への依存を強めている。対中貿易額(10年)は約100億ドルと全貿易額の約1割を占めており、中国は4番目の貿易相手国になっている。

匿名を条件に取材に応じた空軍少佐は「米同盟国の中で我が国の軍事力が最も貧弱で『中国包囲網の穴』と認めざるを得ず、米国に頼らなければならない」と対米軍事協力の必要性を指摘する。同時に「中華系フィリピン人(華僑)が経済を牛耳り、経済でも中国に依存している。米中両国に良い顔をしなければいけないのが現実だ」と話した。【2月5日 毎日】
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“処罰するのに最適な標的”・・・・“大国”中国の驕りが感じられる言い様です。
自国の利益のみに固執し、国際ルールに従わない強面の隣人には、日本もフィリピンも、その対応に苦慮するところです。
3月中旬に予定されているパラワン島周辺での米比合同軍事演習が行われると、中国の苛立ち・批判もエスカレートするものと思われます。

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トルクメニスタン  現職大統領、得票率97%で再選 “謎の国”で復活する個人崇拝路線

2012-02-13 20:40:45 | 中央アジア


(トルクメニスタン産の名馬アハル・テケ種のビューティー・コンテストで、愛馬にまたがるベルドイムハメドフ大統領 確かに美しい馬です。国民の娯楽は制約されていますが、大統領のお楽しみは別のようです。なお、漢の武帝が求めた汗血馬は、このアハル・テケ種だった・・・とも言われています。大宛国(フェルガナ)は今のウズベキスタン・タジキスタン・キルギスあたりに相当します。“flickr”より By Kerri-Jo http://www.flickr.com/photos/kerri-jo/5692083814/ )

投票率約96%、得票率97%
カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンにトルクメニスタン・・・正直なところ、中央アジアの国々には殆んど馴染みがなく、いつもどの国がどこにあって、誰が指導者で、どんな情勢にあるのか混乱します。
大まかな印象としては、旧ソ連圏の国々で、昨年5月の反政府騒乱でバキエフ前大統領がベラルーシに追われたキルギス以外では、総じて強権的独裁政権が続いているといったイメージです。

中央アジア諸国のなかでも、カスピ海に接し、イラン北部に位置するトルクメニスタンは、あまり情報が伝わってこない国ですが、現職のベルドイムハメドフ大統領が再選されたそうです。

****得票率97%、現職が圧勝 トルクメニスタン大統領選*****
旧ソ連の中央アジア・トルクメニスタンで12日、任期満了に伴う大統領選があった。インタファクス通信によると、現職のベルドイムハメドフ大統領が約97%を得票し、再選を決めた。
任期は5年。選挙には国営企業幹部や地方行政幹部ら計8人が立候補したが、ベルドイムハメドフ氏が圧倒した。投票率は約96%。

大統領は2期目も、豊富な天然ガスの輸出をてこに経済発展をはかる方針とみられる。国の各地に自身の肖像画を掲げさせる個人崇拝や、インターネットの閲覧を規制する情報統制を続けるとの見方も強い。

旧ソ連の崩壊で誕生したトルクメニスタンでは、初代のニヤゾフ大統領が国中に自らの黄金像を建設するなど個人崇拝の体制を確立した。ベルドイムハメドフ氏は当初、開放政策を宣言したものの、前大統領と同様の路線をとっている。【2月13日 朝日】
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どうやれば、“投票率約96%、得票率97%”という結果が出るのでしょうか?日本的常識では考えられない数字です。2007年2月14日に行われた前回大統領選では89.23%の得票率だったそうですから、更に支持率が上昇しています。この数字を見るだけで、おおよその国の雰囲気が窺われます。

【「中央アジアの北朝鮮」に変化も
トルクメニスタンは、ニヤゾフ前大統領(06年12月死去)の独裁政権下で長く外国との交流を断ち、事実上の鎖国体制を取っていたこともあって、「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれていました。
ニヤゾフ前大統領死後、07年2月に就任したベルドイムハメドフ大統領は、欧米を訪問するなど外交姿勢を転換し、変化の兆しを見せているとも報じられていました。

確かに、ニヤゾフ前大統領の施策が、オペラやサーカスを禁止し、図書館も廃止するなど、すこぶる“異様”であっただけに、変化は見られます。

****オペラ、サーカスの禁止解く トルクメニスタン****
来月就任から1年を迎える中央アジア・トルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領が、故ニヤゾフ前大統領の独裁体制下で始まったオペラの禁止など風変わりな政策の見直しを進めている。

99年に終身大統領となったニヤゾフ氏は01年、「わが国固有の芸術でなく、国民にはわからない」などの理由でオペラやサーカスを禁止した。これに対し、大統領は19日、文化関係者との会合で「今は市場経済の創出など発展のための移行期。新しい考え方が必要だ」と強調、「今後数カ月で国民のための新作オペラをつくり、上演する」との方針を示した。サーカスについても、閉鎖中の首都アシガバートの国立サーカスを大改修して復活させる考えを明らかにした。
またニヤゾフ氏が「田舎の人は字が読めないから」と廃止した地方の図書館も、改めて整備する考えを表明。15日には、10年以上も途絶えていた大学院教育についても、修士と博士両課程の学生受け入れを決めた。
豊かな天然ガス資源を持つ同国だが、ニヤゾフ氏は教育や文化へ予算を向けずに荒廃させた。その再建が新政権の重要課題となっている。【08年1月23日 朝日】
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“異国の文化”として禁じられていたサーカスは10年4月に9年ぶりに公演されています。
なお、娯楽施設は現在も少なく、首都アシガバートでも、観客の投票で見たいDVDを選び、大型テレビで鑑賞する「映画館」と呼ばれる施設が1軒しかないという状況です。【10年4月26日 毎日より】

自宅でネットを使用するには勤務先の上司から許可状をもらい、国に提出
ネットカフェも出来たようですが、自宅でのネット使用に対する制約など、制限は厳しいようです。

****トルクメニスタン:「中央アジアの北朝鮮」 積極外交、鎖国に変化*****
・・・・インターネットカフェの開設も改革政策の一つ。
公務員用の高層住宅が並ぶ新市街の一角にあるネットカフェでは、4台のコンピューターに若者が向かっていた。その一人で石油関連企業に勤めるハハン・クルバンマメドフさん(25)は「英国とドバイ(アラブ首長国連邦)にいる親類にメールを書いているんだ。自宅のパソコンは通信ができないから」と話した。
同国では自宅でネットを使用するには勤務先の上司から許可状をもらい、国に提出する必要がある。

店長のオバド・セルダさん(23)によると市内にはネットカフェが現在5店ある。いずれも通信省傘下の国営会社が運営し、セルダさんも公務員だ。ただ、利用料は1時間3万マナト(約200円)で、平均月収が1万~1万5000円とされる市民にはまだ割高。セルダさんが「規制がある」と認めるように、反体制派や一部の外国サイトに接続できないのが実態で、1日の利用者は10~30人にとどまっている。・・・・【08年12月6日 毎日】
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そんなトルクメニスタンで、中国の無償援助により小学1年生全員に中国製PCが無償支給されるという報道もありました。
****トルクメニスタン、小学1年生全員に中国製PCを無償支給****
トルクメニスタン政府は、今年度から小学校の1年生全員に、中国製のノートブックPCを無償で支給することを決めた。教育省の関係者が1日、AFPに明らかにした。
中国政府から同国に対する5000万元(約6億円)相当の無償援助の一環として、トルクメニスタン政府と中国パソコン大手、聯想(レノボ)が6月、ノートブックPCの無償提供で合意した。
配布されるノートPCは、基礎文法やアルファベットなどの教育ソフトを備えた小学1年生向けの特別仕様だという。

海外資源を貪欲に求める中国は近年、融資やエネルギー協定を通じて、資源に恵まれた中央アジアの旧ソ連諸国において政治・経済両面での影響力を拡大している。既に7月から全長8700キロのパイプラインを通じたトルクメニスタン産天然ガスの中国向け供給が始まっている。

トルクメニスタンのインターネット事情は、回線の信頼性が低い上に料金も高い。1世帯あたりの高速インターネットサービスの常時接続料金は、月額でおよそ7000ドル(約54万円)もする。それでも、トルクメニスタンの学校や大学の多くが、デスクトップ・パソコンを備えている。

2007年からグルバングルイ・ベルドイムハメドフ大統領がトップの座にあるトルクメニスタンは、世界でも強権的で不透明な点が多い国家の1つだ。【11年9月2日  AFP】
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【“黄金像”復活 ベルドイムハメドフ大統領自身の肖像画も
上記のような変化はあるものの、冒頭【朝日】記事に“ベルドイムハメドフ氏は当初、開放政策を宣言したものの、前大統領と同様の路線をとっている。”とあるように、基本的な政権の性格はあまり変わっていないようです。

ニヤゾフ前大統領に対する個人崇拝の象徴であった巨大な“黄金像”は、ベルドイムハメドフ大統領に変わって、「景観向上」を理由に一旦は撤去されましたが、最近郊外に復活しています。また、ベルドイムハメドフ大統領自身の肖像画が市内あちこちに掲げられているそうです。

****アシガバート 近づけぬ黄金像に迫る*****
・・・・「像には近づけません。遠くから見るのもだめ」。トルクメニスタン外務省職員にいきなり断られた。像がそびえる「中立の塔」は現在、移設工事中で見せられないという。
同国では報道規制が厳しく、今回の同行でも、希望する取材先を事前に提出させられ、認められたのはわずか。移動中は常に当局員が随行した。「少しでも国のマイナスイメージになると判断されると、取材はできない」と、ある住民は語った。

像と中立の塔は、同国が1995年12月12日に永世中立国になったのを記念して建設された。高さはその記念日に合わせ、それぞれ12メートル、95メートルという。両手を上げたニヤゾフ氏が常に太陽の方向を向きながら1日で1回転する。(中略)

かつては首都のど真ん中に立っていた。2代目の現大統領ベルドイムハメドフ氏が昨年、約8キロ離れた郊外に移設を決めたという。街のあちこちにあったニヤゾフ氏の他の黄金像も次々と撤去されて少なくなった。威光排除が目的とされる。その代わりに、至る所にベルドイムハメドフ氏の肖像画が掲げられている。【11年12月19日 朝日】
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三つ巴の天然ガス争奪戦
“謎の国”トルクメニスタンが話題になるのは、多くは、その豊富な天然資源を巡ってのことです。
なかでも、天然ガスの確認埋蔵量は7兆9000億立方メートルで世界第4位(1位はロシアの43兆立方メートル)とされており、従来から独占してきたロシア、ロシアに対抗するパイプライン計画“ナブッコ”を進める欧州、新たに参入した中国の三つ巴の資源争奪戦が展開されています。

****トルクメニスタン:中国へ天然ガスの直通パイプライン完成*****
世界有数の天然ガス埋蔵量で知られる中央アジアのトルクメニスタンから中国までの直通パイプラインが完成し、14日、起点となるトルクメン東部サマンテプで開通式典が開かれた。同国からの天然ガス輸出はこれまでロシアにほぼ独占されてきたが、中国向けパイプラインの開通によってロシアと中国、別のパイプライン計画を推進する欧州の間で三つ巴の争奪戦が激しさを増しそうだ。

タス通信によると、完成したパイプラインはトルクメンからウズベキスタン、カザフスタンを経て中国・新疆ウイグル自治区へ至る約2000キロ。同自治区から沿岸部までの既存のパイプラインと合わせた総延長は約7000キロに及ぶ。06年に関係国が計画に調印し、07年に着工。約73億ドルとされる建設費の多くを中国が負担したという。

開通式典には、中国の胡錦濤国家主席ら沿線4カ国の首脳が出席した。トルクメンのベルディムハメドフ大統領は式典に先立つ13日、胡主席との会談で「地域の安定要因となる傑出した世紀の事業が完成した」と述べた。
同大統領によると、中国への天然ガス輸出量は最大で年400億立方メートルを予定しており、従来のロシアへの輸出量(年約500億立方メートル)に匹敵する。対露輸出は今年4月のパイプライン事故以来、価格や輸出量を巡る対立もあり停止中。中国という巨大な競争相手の出現でロシアは交渉上、厳しい立場に立たされそうだ。

欧州連合(EU)主導のロシア迂回(うかい)パイプライン「ナブッコ」計画も、トルクメンを有力供給源の一つとみており、欧州向け輸出ルートの独占を続けたいロシアとの競合が始まっている。

トルクメンは91年のソ連崩壊に伴う独立後、経済的にはロシアに大きく依存する一方、故ニヤゾフ前大統領の独裁政権が「永世中立」を宣言し、事実上の鎖国状態にあった。しかし、07年に就任したベルディムハメドフ大統領は積極外交で欧米やイランとの関係強化に動き、対露依存体質からの脱却を目指している。

一方、ベルディムハメドフ大統領は16~18日、同国元首として初めて日本を訪問し、鳩山由紀夫首相と会談するほか、天皇陛下とも会見する。大統領はガス田開発や液化天然ガス(LNG)技術の向上などに向け、日本に投資や経済協力の促進を呼びかけるとみられる。【09年12月14日 毎日】
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先述の“小学1年生に中国製PC無償供与”の話も、この中国の天然ガス確保戦略の一環です。

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今も続くフクシマの悪夢 原発対応に揺れる中国、アメリカ、フランス

2012-02-12 22:06:23 | 原発


(1月7日 町の全域が福島第一原子力発電所から半径20キロ圏内の「警戒区域」内にある福島県双葉町。 役場機能と町民の多くが埼玉へ避難しています。国は2年以内に汚染地域の放射線量をおよそ半分に減らす基本方針を打ち出していますが、除染によって安全に暮らしていける場所になるのかはよくわかりません。
“flickr”より By osaprio http://www.flickr.com/photos/osaprio/6773986313/ )

揺らぐ「冷温停止状態」 温度計故障?】
福島第一原子力発電所事故については、野田首相が昨年12月16日、政府の原子力災害対策本部の会合で「冷温停止状態に達し、事故そのものは収束に至った」と宣言しました。

これについては、“「冷温停止」などの言葉が本来とは異なる意味で使われており、これで問題がなくなったといった誤った印象を与えるのではないか”(NPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長)などの批判が内外からありましたが、私を含め事故地域外の多くの人にとっては、危機感・恐怖心が日重生活のなかで次第に薄れているのも事実です。

しかし、今日報じられた福島第一原子力発電所2号機の温度上昇のニュースは、フクシマの問題が何ら解決した訳ではないことを改めて思い起こさせます。

****2号機温度、80度超す…「再臨界の恐れない*****
東京電力は12日、上昇傾向を示している福島第一原子力発電所2号機の圧力容器底部の温度が同日午後2時20分に約82度に達し、保安規定で温度管理の上限として定める80度を超えたと発表した。
これを受け、午後3時30分には、原子炉に注入する冷却水を毎時約3トン増やし、計17・4トンに変更する作業を完了した。

ただ、温度が上昇しているのは、圧力容器底部の温度計3個のうち1個だけで、ほかの温度計は35度前後で安定しているという。原子炉の気体の分析でも、核分裂で発生するキセノン135は検出されておらず、東電は再臨界の恐れはないと説明している。

昨年末に政府と東電が宣言した「冷温停止状態」は、原子炉の温度が100度以下であることなどが条件で、東電では、20度程度の測定誤差を考慮して、80度以下に維持すると定めている。【2月12日 読売】
****************************

温度計の故障の可能性も指摘されていますが、内部で何が起きているのか未だによくわかっていないことが問題でしょう。
また、冷却水を大量に増加させて冷却を加速することについても、汚染水の処理が定まっていない現状で、汚染水を増やす事態は避けたいとする東京電力は消極的だとか。汚染水を含めた事後処理も手つかずの状態です。

【「最悪シナリオ」で問われる情報公開の在り方
一方、昨年の事故当時、首都圏を含む避難処置に言及した「最悪シナリオ」が政府に報告されていたことも話題となっています。

****福島事故直後に「最悪シナリオ」 半径170キロ強制移住*****
福島第一原発の事故当初、新たな水素爆発が起きるなど事故が次々に拡大すれば、原発から半径百七十キロ圏は強制移住を迫られる可能性があるとの「最悪シナリオ」を、政府がまとめていたことが分かった。首都圏では、茨城、栃木、群馬各県が含まれる。
菅直人首相(当時)の指示を受け、近藤駿介・原子力委員長が個人的に作成した。昨年三月二十五日に政府は提出を受けたが、公表していなかった。

シナリオでは、1号機で二回目の水素爆発が起きて放射線量が上昇し、作業員が全面撤退せざるを得なくなると仮定。注水作業が止まると2、3号機の炉心の温度が上がって格納容器が壊れ、二週間後には4号機の使用済み核燃料プールの核燃料が溶け、大量の放射性物質が放出されると推定した。
放射性物質で汚染される範囲は、旧ソ連チェルノブイリ原発事故の際に適用された移住基準をあてはめると、原発から半径百七十キロ圏では強制移住、二百五十キロ圏でも避難が必要になる可能性があると試算した。

事故の拡大を防ぐ最終手段にも言及、「スラリー」と呼ばれる砂と水を混ぜた泥で炉心を冷却する方法が有効とした。スラリーの製造装置と配管は、工程表にも取り入れられ、実際に福島第一に配備されている。

政府関係者は「起こる可能性が低いことをあえて仮定して作ったもので、過度な心配をさせる恐れがあり公表を控えた」と説明。近藤委員長は「当時、4号機のプールは耐震性に不安があり、そこにある大量の核燃料が溶けたらどうなるか把握しておきたかった」と話している。【1月12日 東京】
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当然に想定されるべきシナリオであると思いますが、この報告の公表が控えられてきたことの是非が、情報公開の在り方として問われています。
政府側は、過度の、必要でない心配・不安を煽りたくなかったので公表しなかった・・・との立場です。
メディアの取り扱い次第では、首都圏住民にパニックを引き起こすことも考えられます。

そうした心情はよく理解されますが、一方で、都合の悪い情報は伏せる・・・という対応では、今後の政府情報への信頼性を損なうことも事実です。なかなか判断に迷う問題です。

中国:原発建設推進に地方政府が中止要求
魔法のように巨大なエネルギーを生みだす原発は、ひとたび事故を起こすと制御不能な事態をも引き起こします。それが生み出す廃棄物の処理さえままならないのが現在の技術です。
こうした原発の取り扱いについては、フクシマ以後、日本だけでなく各国がそれぞれの事情で迷っています。

先日、原発建設に関する話題が中国とアメリカからありましたが、中央政府が進める原発建設に対し隣接地方政府が建設中止を求めたのが中国で、スリーマイル島原発事故後34年ぶりに建設再開を決めたのがアメリカというのも、面白いところです。

****中国東部の原発建設「即時中止を」、隣県政府が国に求める****
中国東部に建設中の原子力発電所の立地が地震多発地域にあたり住民の安全が懸念されるとして、安徽省望江県政府が中央政府に建設の即時中止を求めたと、国営紙新京報が9日、伝えた。
経済発展に伴い大量のエネルギー確保が急務の中国では、国内25か所で原発の建設計画が進んでいる。こうした状況のなか、地方政府が国に原発計画の中止を要求するのは極めて異例だ。

新京報によると望江県政府は、隣接する江西省彭沢県で進められている原発建設計画について、今週初めに公表された環境アセスメント結果が、建設予定地から半径10キロ圏内の住民の人数を実際より少なく見積もっているなど信頼性に欠けると主張。また、予定地で2006年にマグニチュード(M)5.7、前年9月にはM4.6の地震が起きているなど、地震多発地域である点を指摘している。
望江県政府関係者らは、「原発が放出するガスや有毒液体」によって風下の住民が深刻な被害を受ける恐れがあるとの懸念を口にしているという。

これに対し、彭沢県政府は「全く根拠のない主張だ」と反論しているという。
彭沢県の原発建設計画は2010年に承認され、既に初期工事も始まっているが、新京報は建設計画の評価報告書を公明正大に公表すべきだとの論評を掲載した。

中国では現在、14基の原子炉が稼働中。世界原子力協会によれば、中国当局は2020年までに原発稼働能力を現在の5~6倍に増強したい考えだ。東日本大震災に伴う福島第1原発の事故を受け、中国も前年4月、国内全原発の総点検を実施している。【2月10日 AFP】
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アメリカ:34年ぶりの建設再開
****米で原発2基新設認可 34年ぶり 規制委員長は反対票****
米原子力規制委員会(NRC)は9日、南部ジョージア州で計画されている新規原発2基の建設・運転の申請について5人の委員による投票を行い、賛成多数で認可した。ただ、ヤツコ委員長は東京電力福島第一原発事故を受けた安全対策が規制に反映されていないとして反対票を投じた。

ボーグル原発に増設される3、4号機(いずれも110万キロワット級)で、2008年にNRCに申請が出されていた。東芝傘下の米ウェスチングハウスが開発した改良型加圧水型炉「AP1000」を採用、16年と17年の運転開始を目標にしている。1979年のスリーマイル島原発事故後、原発の建設が行われていない米国で建設が認可されるのは、78年以来、34年ぶりとなる。

反対票を投じたヤツコ委員長は「福島原発事故は無視できない」とする声明を発表。事故を受けた安全対策の規制強化が検討されている最中なのに「まるでこの事故がなかったかのように認可に賛成することはできなかった」と説明した。
オバマ大統領の指名で09年に委員長に就任したヤツコ氏は、原発に厳しい姿勢で知られる。昨年末には運営手法をめぐって他の委員との対立が表面化、米議会が調査に乗り出す事態になっている。

ウェスチングハウスによると、AP1000は外部電源喪失などの緊急時に運転員が操作しなくても自動的に原子炉の冷却が維持される仕組みを備えている。中国の2カ所で建設が始まっている。米国でも南部サウスカロライナ州のサマー原発で2基の増設計画があり、近くNRCから認可が下りる見通しだ。

米国では104基の原発が稼働中だが、主に経済性の問題で新規申請は長年、控えられてきた。ブッシュ前政権時代に建設のための資金調達をしやすくする原発推進策が導入され、今回の2基を含む計26基の新規申請が出された。
だが、国内での天然ガス価格低下や建設コスト高騰などで、20年までに運転開始できる新規原発は4基にとどまるとみられている。このほか78年以前に認可を受け、長らく工事を中断していた南部テネシー州の原発1基の建設が07年以降、再開している。【2月10日 朝日】
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なお、アメリカの原発建設再開の多くを日本の東芝が受注しているとのことです。

****東芝「原発は今後も不可欠」 新設認可の米で次々受注****
米原子力規制委員会(NRC)が新規の原発建設を認可したことについて、米ウェスチングハウス(WH)を傘下に持つ東芝は10日、「温室効果ガス対策などの観点から、原発は今後も必要不可欠なエネルギーとして、継続的な需要が見込まれる。安全性向上のためさらに努力を続けたい」とコメントを発表した。

東芝によると、NRCには今回認可された2基以外にも、26基の建設を求める申請が出ており、うち12基がWH、2基が東芝の原子炉を採用している。
東芝は09年、15年度までに自社とWHをあわせて39基の原発を受注。年間売上高1兆円を達成する目標を掲げた。しかし、東京電力福島第一原発の事故を受け、達成が数年間遅れるとの見通しを示している。【2月10日 朝日】
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フランス:雇用確保と絡んで大統領選挙争点に
欧州では脱原発の動きがドイツ・スイス・ベルギーなど広まっていますが、原発大国フランスでは、4月の大統領選挙の重要な争点に浮上しています。

****仏大統領選:「国内最古の原発」存廃が争点に*****
フランスのサルコジ大統領は9日、独、スイス両国境に近い仏東部にある国内最古のフッセンハイム原発を訪れ、「この原発の閉鎖は問題外」と原発推進を強く訴えた。大統領選で社会党公認候補のオランド氏がフッセンハイム原発の閉鎖を公約に掲げており、老朽化した原発の存廃が、選挙の争点になってきた。

サルコジ氏は原発労働者を前に「政治家の下心のためにあなたたちの雇用を犠牲にするのは言語道断だ」と繰り返した。大統領選のライバルとなるオランド氏の社会党は昨年11月、「欧州エコロジー・緑の党」と選挙協定を結び、▽25年までに電力の原子力依存率を現在の75%から50%に下げる▽原子炉24基を段階的に閉鎖する--などの合意書を取り交わした。フッセンハイムは合意書で唯一「速やかな閉鎖」とされ、オランド氏は当選した場合の任期中の閉鎖を明言している。

東京電力福島第1原発より約6年遅れた77年に運転開始したフッセンハイム原発は老朽化が進み、特に福島原発事故後、安全性が不安視されてきた。脱原発を打ち出した独やスイスとも近く、両国でも閉鎖を求める運動が起きている。仏原子力安全機関はすでに、原発を運営するフランス電力に土台部分の改修などの措置を命じている。

今年1月、仏原子力安全機関が公表したストレステストの結果では、仏国内に「すぐに停止すべき原子炉はない」とする一方、安全確保のための追加改修費用が国内全体で約100億ユーロ(約1兆円)と見積もられた。フッセンハイム原発についてはコシウスコモリゼ環境相が閉鎖の可能性を排除できないと発言している。

大統領選では雇用対策が最大の争点となっており、サルコジ氏は「原発推進」と「雇用確保」を絡める形で支持を広げる戦略に出ている。【2月10日 毎日】
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現在の世論調査では、社会党オランド候補が支持率でリードしており、政権交代となれば、フランスの原子力政策も大きく舵を切ることになります。

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イランとアメリカ 互いの牽制のなかで、緊張緩和の兆しも

2012-02-11 21:38:57 | イラン


(1月26日 EUの原油輸入停止を牽制して、新型中距離ミサイルの発射実験をホルムズ海峡で行うイラン艦艇 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6764819401/in/photostream 

【「今春にも(イスラエルが)イランの核関連施設を攻撃する可能性が高い」】
核兵器開発疑惑で緊張が高まっているイランとアメリカなどの関係は、基本的には相変わらずです。
経済制裁を続けるアメリカがイラン産原油を輸入する国の金融機関を対象とした制裁措置を昨年末に導入し、イラン側の資金源を断とうとするのに対し、イラン側はホルムズ海峡封鎖や一部EU加盟国への原油輸出の停止をちらつかせる形で、互いに相手が折れるのを待つチキンレースの様相です。

そうした中で、イスラエルのイラン攻撃の時期も話題となっています。
米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、イグネイシアス氏は、「イスラエルは4月か5月、または6月にイランを攻撃する可能性が高い」とパネッタ米国防長官が考えているとの記事を発表。
パネッタ長官は詳細は述べていませんが、記事内容を否定せず、イスラエルの行動をめぐる憶測は深まっています。

当のイスラエルは、イランからの報復ミサイル攻撃への防御を想定した実験を行うなど、イランを牽制する動きも見せています。

****ミサイル迎撃システム試験成功=イランをけん制か―イスラエル****
イスラエル国防省は10日、弾道ミサイル迎撃システム「アロー」の標的捕捉試験を地中海上で米国と共同で行い、成功したと発表した。同システムはイランからのミサイル攻撃への防御を想定しているとされ、実験はイランをけん制する狙いがあるとみられる。
国防省は声明で「今回の実験は、増大する弾道ミサイルの脅威を打ち破るイスラエルの能力に信頼性を与えるものだ」と主張した。【2月11日 時事】
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イラクやシリアでの“実績”があるイスラエルですが、全土に点在し、地下化が進んでいるイラン核施設攻撃は、イスラエルの軍関係者らも含めて「空爆は極めて困難」との見方が多いようです。

****イスラエル、イラン単独攻撃論再燃 制裁強化狙う****
イスラエルの対イラン攻撃論が再燃している。パネッタ米国防長官の分析とされる「今春にもイランの核関連施設を攻撃する可能性が高い」との情報を、米国メディアが流したのがきっかけだ。イラクやシリアの施設を攻撃した「実績」もあり、欧米との対立を深めるイランの情勢が、さらに複雑化しかねない。

「イランは核爆弾4発を製造するのに十分な量のウランを持っている」。イスラエルの軍情報部門トップ、アビブ・コハビ氏は2日、地元イスラエルのヘルツェリアで開かれた国際会議で、こんな見方を示した。イランの最高指導者ハメネイ師が指示さえすれば1、2年で核爆弾を準備できると見ている。

これにヤアロン首相代理兼戦略担当相の発言が重なる。「すべての核施設は攻撃可能だ」。強調したのはイランのあらゆる核関連施設を破壊する能力だ。
実際イスラエルは1981年6月、イラクの首都バグダッド近郊のアルツワイサで、核開発が疑われていたオシラク原子炉を戦闘機で攻撃して破壊。2007年9月には、シリア北部のデリゾール地方にあった核関連とされる施設を秘密裏に空爆している。

イランの核関連施設は全土に点在し、地下化も進んでいるとされる。イスラエルの軍関係者らも含めて「空爆は極めて困難」との見方が多いものの、バラク国防相は2日、「制裁で核開発を止められないなら行動を検討する必要がある」と指摘した。
単独攻撃の可能性をちらつかせて国際社会からの制裁を強めるほか、対イスラエルの武装闘争を続けるイスラム組織ヒズボラやハマスへのイランの支援を絶つ狙いがあるとみられる。(後略)【2月6日 朝日】
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【「イスラエルは決断していないと考えている」】
一方、イスラエルの後ろ盾となるアメリカも、同盟国8か国と共に、米東海岸で軍艦25隻を動員し、イランを仮想敵国に見立てたとみられる大規模な揚陸演習を実施しています。
この演習には、米軍約2万人の他、英、仏、オランダ軍から数百人、伊、スペイン、ニュージーランド、オーストラリアから連絡将校が参加し、米海兵隊員のホバークラフトでの上陸なども実施されています。

****米東海岸で9か国大規模揚陸演習、対イラン戦を想定*****
・・・・演習シナリオは、架空の神政国家「ガーネット」に侵略された北側の隣国「アンバーランド」が反撃するために国際支援を求めているという設定。沿岸地域の「トレジャーコースト」が舞台で、港湾には機雷が仕掛けられ、沿岸には対艦ミサイルが配備されているという状況下での上陸を想定している。

沿岸域の機雷に対艦ミサイル、小型艇配備といえばイラン海軍を想起させるが、ハービー司令官ら演習司令部は、特定の国を想定したシナリオではないと否定している。【2月9日 AFP】
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また、イランの地下核施設攻撃を想定した、超大型地下貫通型爆弾(MOP)の貫通力増強のための費用を国防総省が求め、これを上院が承認しています。【2月11日 時事】

こうしたイラン牽制の一方で、オバマ政権としては、実際にペルシャ湾で軍事行動が起こり原油価格が高騰するような事態は極力避けたいのが本音で、イスラエルに自制を促す動きも見られます。

****対イラン、武力行使疑問視 米大統領「イスラエルの決断ない****
オバマ米大統領は5日、NBCテレビのインタビューで、イスラエルはイランの核施設への攻撃を「決断していないと考えている」と述べ、イランの核兵器開発の阻止に向けて、問題を「できる限り外交的」に解決するためにイスラエルと歩調を合わせていると強調した。

米国とイスラエルは表面上「強固な関係」を誇示しているが、中東和平交渉で足並みが乱れるなど、最近は関係のきしみが目立つ。ネタニヤフ首相の3月訪米も決まり、オバマ政権がどこまで、イスラエルに自制を促せるかが注目される。
大統領はインタビューで軍事行動も排除しない姿勢に改めて言及したが、ペルシャ湾での軍事行動は原油価格に「破壊的」な影響をもたらすと指摘し、現時点での効果を疑問視した。
(中略)
米国は原油高騰による世界経済の混乱などを懸念してイラン攻撃を自制するよう促しているが、イスラエル側は攻撃の事前通知の有無も含め、曖昧な回答を繰り返しているとされる。
背景には、オバマ大統領とネタニヤフ首相の「そもそもそりが合わない」(中東外交筋)とされる関係も指摘されている。ロイター通信によると、今秋に大統領選を控えるオバマ氏が米国内の親イスラエル団体の離反を恐れ、ネタニヤフ首相の強硬姿勢に対抗できないとの見方も強まっている。

一方、イスラエル政府は5日、3月上旬にネタニヤフ首相が親イスラエル団体の総会に出席するため訪米すると発表。首脳会談も行われる見通しで、双方の温度差をどこまで解消できるかが、今後のイラン情勢の大きなカギとなりそうだ。【2月7日 産経】
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緊張が緩和の兆しも
イラン側の状況としては、食料品の価格高騰、輸入医薬品の高騰・不足など、欧米の経済制裁による国内経済への影響が深刻になっていることが報じられています。
ただ、イラン国内では核開発はイラン固有の権利というのが国民・政治家を含めた一般的コンセサスでもあり、“「欧米は『イラン国民を敵視するわけではない』というが、うそだ」。主婦は怒りの矛先を自国の政府ではなく、制裁を強める欧米諸国に向けた。”【2月8日 朝日】といった、制裁を強める欧米への反発も強まっています。

もっとも、イランとしても、最新鋭の武器を持つイスラエルやアメリカとの軍事衝突となって敗れれば、イスラム体制の崩壊につながりかねませんので、“イラン指導部は、最悪の事態を回避する「落としどころ」を探っている模様だ。”【2月6日 朝日】といったところです。

アメリカ・オバマ大統領の「イスラエルは(イラン攻撃を)まだ決断していない」との発言に呼応して、イラン側も「ホルムズ海峡封鎖」などの警告を控え、イラン国会の強硬派議員が提案していた「欧州連合(EU)諸国への原油輸出禁止措置」も決定を先送りしているというように、暴発を避けたい“緊張が緩和の兆し”も見られています。

【「大統領が将来的に体制変革をもくろんでいるのでは」】
そうした一方で、最高指導者ハメネイ師との不仲が伝えられるアフマディネジャド大統領と、ハメネイ師やラリジャニ国会議長を中心とする反大統領派との権力闘争が伝えられています。

****イラン:権力闘争激化 反大統領派、体制変革を警戒****
イランと米国の極度の緊張が緩和の兆しを見せる中、3月の国会議員選挙を前に、イラン政界で主導権争いが激しさを増してきた。アフマディネジャド大統領に対し、イスラム体制の最高指導者ハメネイ師やラリジャニ国会議長を中心とする反大統領派は「大統領が将来的に体制変革をもくろんでいるのでは」と勢力伸長を警戒しており、利権争いも絡み、生き残りをかけた政争の様相を示している。

昨年末から高まった両国の緊張に対し、オバマ米大統領が5日、米メディアに「イスラエルは(イラン攻撃を)まだ決断していない」と述べ、外交による問題解決の重要性を強調した。今年11月の大統領選で再選を目指すオバマ氏はイランとの軍事衝突を望んでおらず、今後もイスラエルに自制を求めていくとみられる。
こうした動きに呼応し、イラン側も「ホルムズ海峡封鎖」などの警告を控え、イラン国会の強硬派議員が提案していた「欧州連合(EU)諸国への原油輸出禁止措置」も決定を先送りしている。

緊張緩和の動きと並行するように、イラン内政は混迷を深める。国営放送によると、反大統領派は今月7日、近く大統領を呼び、経済政策などの「不正」を問うことを決めた。反大統領派の先頭に立つラリジャニ議長は「大統領は国会を軽視している」と再三批判。大統領への喚問が実現すればイスラム革命(79年)以来初めてで、国会選挙を控えた大統領派のイメージダウンが狙いだ。

イラン政界は、改革派が力を失う中、保守派内が大統領派と反大統領派に分裂。反大統領派はさらにラリジャニ議長らのグループや、革命防衛隊のレザイ元最高司令官らのグループに分かれ、綱引きを展開する。
石油や天然ガスが豊富なこの国で、政界の関心は対外関係より莫大(ばくだい)な利権に向く。利権確保は政界の主導権と裏表の関係だ。

アフマディネジャド大統領は来年8月で任期が切れるため、側近のマシャイ元大統領府長官に後継させる意向で、2人はともに非聖職者。
マシャイ氏は10年12月に、文化規制を強める聖職者を念頭に「音楽を理解せずに、反イスラム的だと言う人たちがいる」と批判して物議をかもし、聖職者が嫌う在外イラン人との交流にも積極的だ。多くの聖職者や周辺の政治家らはこうした動きを「(聖職者が握る)現体制への挑戦」ととらえ警戒する。
近づく国会議員選挙は、次期大統領候補の支持基盤固めとしても重視され、各派閥の争いが過熱している。【2月11日 毎日】
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アフマディネジャド大統領は、そのエキセンントリックな反米的言動の一方で、現実主義者というか有権者の意向を重視したポピュリストでもあります。
少なくとも、宗教的権威や血筋・家柄ではなく“選挙”という民主主義に権力の基盤を置いている点では、イランのアフマディネジャド大統領の立場は、アメリカのオバマ大統領とそう大きくは違いません。
妥協できる点はあると思いますが、問題は両国の国内政治事情がそうした“弱腰”“譲歩”を認められるか・・・というところです。

市場、日本政府の動向
万一、ホルムズ海峡封鎖といった有事になれば、原油価格は150~200ドルにも達するのでは・・・とも見られていますが、ここ3カ月ほどはWTI原油先物は100ドルを挟んだ展開が続いています。
イラン危機は以前からの言及されている要素で、すでに織り込んだ価格水準でしょうが、素人考えでは、“ホルムズ海峡封鎖”云々という割には落ち着いているようにも思えるのですが・・・。

当然、原油価格が150~200ドルなんてことになれば日本経済は危機的状況にもなりますので、政府もその点については十分に検討・準備していますから、国民としては安心していられます。

****イラン問題「戦闘想定した議論必要」 首相が答弁****
野田佳彦首相は10日の衆院予算委員会で、イランと欧米諸国の緊張が続いていることについて「戦闘状態の時は(日本には)限界があるかもしれない。その前や後に何ができるかの議論は当然しておかなければいけない」と述べた。イランへの経済制裁が軍事制裁に発展した場合も想定し、日本の対処方針を検討する考えを示したものだ。

イランがホルムズ海峡封鎖の可能性に言及していることについて、首相は「外交的、平和的な解決が基本だが、ホルムズ海峡は日本にとって非常に重要なところだ。エネルギー源(の輸入)を頼っている。何か起こった時の想定はしなければいけない」と語った。自民党の西村康稔氏に答えた。【2月11日 朝日】
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中国  重慶副市長失脚事件の“改革開放路線からの転換”への影響

2012-02-10 23:33:57 | 中国


(父薄一波・元副首相の葬儀(?)で「国際歌」(インターナショナル?)を歌う薄熙来・重慶市党委書記(中央)と、「赤い貴族」として悪名高いドラ息子の薄瓜瓜(左)“flickr”より By IsaacMao http://www.flickr.com/photos/isaacmao/5858585045/ )

党大会を前に激化する権力闘争
中国では、今年秋に開かれる第18回中国共産党大会において、胡錦濤国家主席・温家宝首相の現体制から習近平体制へ権力移譲が行われる予定です。
その権力移譲を前に政府高官の失脚が相次ぎ、水面下で権力闘争が激化していることを窺わせます。

****中国軍幹部、汚職で解任か=党大会前に高官失脚相次ぐ****
香港誌・開放2月号などは、中国軍総後勤部の谷俊山副部長(中将)が規律違反で解任されたと報じた。汚職の疑いが掛けられているとみられる。故劉少奇国家主席の息子で、習近平国家副主席に近いといわれる同部の劉源政治委員(上将)が谷副部長に対する調査を指示したという。

中国では今年に入ってから、汚職疑惑などで共産党広東省委員会統一戦線工作部の周鎮宏部長(次官級)や重慶市の王立軍副市長といった高官が相次いで失脚。秋の第18回党大会を前に権力闘争が激化していることの表れとの見方もある。【2月10日 時事】
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2月6日ブログ「中国 温家宝首相、改めて改革開放の必要性強調 安定維持重視の保守派との路線対立か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120206)においても、「習近平国家主席」の誕生に関する、江沢民前国家主席率いる上海閥と胡錦濤現国家主席が代表する中国共産主義青年団(共青団)グループとの確執、温家宝首相が見せている最近の「改革開放」重視の動きなど、中国政権内部の動きを取り上げたところです。

【「打黒英雄」重慶副市長の失脚
最近の高官失脚のなかでも、特に注目されているのが、重慶市トップである薄熙来党委書記の側近として暴力団撲滅キャンペーンの指揮を執っていた王立軍副市長の件です。
“王氏は、薄氏がかつて省長を務めた遼寧省の錦州市公安局長から重慶市公安局副局長に08年6月に抜てきされた。09年3月に公安局長に就任してからは、黒社会(暴力団)や後ろ盾となっていた市幹部の摘発に尽力。「打黒英雄」と呼ばれ、薄氏の実績づくりに貢献していた。”【2月8日 毎日】

王立軍副市長失脚については、今年秋の共産党大会での最高指導グループ・党政治局常務委員会入りを目指してきた上司である薄熙来氏に対する攻撃との見方のほか、汚職追及が自身に及ぶことを恐れた薄熙来氏が王立軍氏に見切りをつけたとする見方もあるようです。

****中国:重慶副市長、異例の米領事館訪問 市トップを告発*****
中国外務省は9日夜、重慶市の王立軍副市長(52)が6日に四川省成都の米総領事館を訪れたことを認めた上で、1日間滞在した後に離れたと新華社通信を通じて発表した。直轄市の副市長が外国公館に駆け込む異例の事態に臆測が広がる中、秋の党大会で最高指導部入りを目指す薄熙来・重慶市党委書記(政治局委員)は一層厳しい立場に置かれた形だ。

外務省の報道官は「関係部門が調査を進めている」と説明。香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」は10日、王氏が北京に連行され、公安省と国家安全省の調べを受けていると伝えた。
崔天凱外務次官は9日に国内外の一部メディアと会見した際、王氏の問題について「個別の事案であり、既に解決している」と述べ、習近平国家副主席の13日からの訪米に対する影響を否定した。しかし、次期最高指導者への就任が確実視される習氏の訪米を前に、米国との間に「余計な案件」(北京の外交筋)を作ってしまったことは、薄氏にとって手痛い失点となることは確実だ。

王氏は公安局長として暴力団撲滅キャンペーンの指揮を執り、薄氏の実績づくりに貢献してきた。しかし、強引とも言える薄氏の政治スタイルには指導部内でも批判が根強く、側近である王氏の汚職追及で薄氏に不利な状況を作り出す動きがあった、と香港メディアは報じている。

一方で、汚職追及が自身に及ぶことを恐れた薄氏が王氏に見切りをつけ、2日に公安局長の職を解いたため、王氏が「薄氏やその家族の腐敗」を告発するために米総領事館を訪れたとの見方も浮上。真偽は不明だが、薄氏を批判する王氏のものとされる公開書簡がネット上に出ていることも、こうした見方が強まる一因となっている。【2月10日 毎日】
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【「ニューレフト」の旗手として注目される薄熙来・重慶市党委書記
王立軍副市長の件が注目されるのは、米総領事館への駆け込みといった異例の展開以上に、上司の薄熙来・重慶市党委書記が「ニューレフト」の旗手として非常に注目されている人物であり、薄熙来氏が今秋の党大会で党政治局常務委員会入り出来るかどうかは、今後の中国の基本路線に関わる問題であるからです。

****好対照、2書記の改革 中国指導部候補の地方リーダー*****
■弱者支援「政府が保証」 重慶市・薄氏
9月、重慶市郊外で家具を高層マンションに運びこむ人たちの姿があった。
「薄書記の政策には、庶民への思いやりがある」
運転手の夫と暮らす主婦劉育美さん(50)は手放しの褒めようだった。

重慶市は市場価格の6割の家賃で住める福祉住宅を2010年からの3年間で60万戸以上建設。農村部の農民や出稼ぎ労働者を含む月収3千元(約3万6千円)以下の家庭が対象だ。
モデルルームには視察した中央の指導者の写真が並び、「市場に任せきりにせず政府が保証するやり方は、国情に合った優れた方法だ」(李長春〈リー・チャンチュン〉・政治局常務委員)といった賛辞が掲げられていた。

昨年来、重慶市には次の最高指導者と目される習近平(シー・チンピン)国家副主席、呉邦国(ウー・パンクオ)・全国人民代表大会常務委員長らが訪問。薄氏は毛沢東時代への懐古がにじむ「唱紅歌(革命歌を歌う)」運動も主導、左派勢力を代表するリーダーと印象づけた。
薄一波・元副首相を父に持つ薄氏は、老幹部の子弟グループ「太子党」の代表格。淡い緑のスーツを着こなし英語で取材に応じるなど、華やかな立ち居振る舞いに耳目が集まるが、「実のある仕事をしている」(呉氏)と評される。

融資制度で農民や出稼ぎ労働者の起業を促すなど、薄氏の政策には弱者の底上げという狙いが鮮明だ。
山間部の貧しい地域を抱える重慶は、広大な内陸部の縮図とも言える。薄氏が就任した07年、市内の都市部と農村部の所得格差は全国平均を上回る3.9倍あった。今年7月、市党委員会は「共同富裕の決議」を採択。格差を15年までに2.5倍まで縮めるとした。
「人民が共産党を政権に押し上げたのは、ともに豊かになる世の実現を期待したからだ」。薄氏は採択の際の演説でこう述べ、格差是正は党の支配の正統性に関わる問題だと訴えた。

汪氏と薄氏の政策を研究する中山大学の肖浜教授は「手法は違うが、このままでは行き詰まるという危機感は同じ。次の指導部はこの危機感を基調に針路を模索することになる」と指摘する。【11年11月25日 朝日】
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毛沢東の過激な平等主義とトウ小平の改革開放路線に続く「社会主義3.0」】
次期国家主席の習近平氏と薄熙来・重慶市党委書記は、共に、党幹部の師弟グループで構成する「太子党」に位置付けられていますが、習近平氏は重慶市共産党委員会書記の薄煕来氏が推し進める「赤い文化」路線に関心を抱いていると言われています。

この薄煕来氏が推し進める「赤い文化」路線は、“毛沢東の過激な平等主義とトウ小平の改革開放路線に続く「社会主義3.0」と呼ぶべきもの”とも見られています。

****改革開放路線が葬り去られる日****
この30年の成長重視の政治に異を唱えて、平等重視の政治への回帰を主張する勢力が台頭 
そのニューレフト陣営が論拠とする「重慶モデル」とは


・・・・・だが共産党内部では、中国の社会主義の未来をめぐって活発な論争が繰り広げられてきた。
特に、地方レペルでのさまざまな政治的実験がそういう議論を活性化させている。とりわけ中央の指導部の交代を前に、薄のような新進指導者が上層部の目を引こうと、競うようにして大胆な政策を打ち出し始めた。

薄は現在、共産党政治局委員で、さらに高い地位である政治局常務委員入りを目指している。
重慶での薄の取り組みは、中国の(ニューレフト(新左派)」陣営にとって、党内論争での重要な論拠になっている。ニューレフト論者たちは、市場経済志向の改革開放路線を大幅に修正すべきだと主張。重慶を例に挙げて、国家の役割を再び拡大すれば、経済発展と経済的平等を両立できると訴えている。

薄自身は近年の成長路線との決別を高らかに宣言することは避け、慎重な発言を心掛けている。「『赤い文化』は左翼志向の動きだと言う人もいるが、これは人民に奉仕するための取り組みだ。そもそも共産党が設立された目的は、そこにあるのだから」と、09年に演説している。

しかし、ニューレフトは重慶の実験にもっと大きな意味を見いだそうとしている。トウ小平が改革開放に着手して以来、30年間続いた中国政治の基本路線が変わりつつあるということだ。
香港中文大学の王紹光教授(政治学)の表現を借りれば、新しい路線は、毛沢東の過激な平等主義とトウ小平の改革開放路線に続く「社会主義3.0」と呼ぶべきものだろう。

重慶の実験は、中国が「ポスト改革開放」の時代に移行し、平等重視の伝統的な社会主義に回帰し始めた証拠だと、北京大学の浦維教授(政治学)は主張する。浦いわく、近年の成長重視政策により貧富の格差が容認できない水準まで拡大しており、政策を抜本的に見直すべき時期に来ているという。

リベラル派やグローバル志向の近代化推進派は、沿海部の深川や広東省の改革の実例を前面に押し出して、ニューレフトに対抗している。
温家宝首相は10年8月、欧米流の政治改革の実験を行ってきた深川で演説し、政治改革の重要性を強調した。政治局常務委員の座を薄と争う広東省党委員会書記の汪洋は、「幸福広東」をキャッチフレーズに、経済成長のみならず住民の幸福度を総合的に評価する「幸福指数」を公開している。

そんな改革開放路線に背を向ける、ニューレフトが思い描く中国の社会主義の未来像とは、どういうものなのか。ニューレフト論者は何より、資本主義的な要素を減らすべきだと主張する。国有企業を拡大させている重慶の経済成功を見れば、それが不可能でないと分かるという。

重慶には、賃金やコストが高くなった沿海部から工場が続々と移転してきており、その経済生産は年率14%のペースで拡大している。これは中国全体の成長率を大きく上回る。
政府の投資が増えれば民同企業が弱体化して「国進民退」とでも呼ぶべき現象が起きると、市場経済派の経済学者の多くは主張している。しかし、10年に重慶で長期の現地調査を行った清華大学の崔之元教授(政治学)によれば、重慶では「公共部門と市場が共に発展している」という。

香港中文大学の王も同じ見方をしている。重慶で民間の経済活動が公的投資を上回っていることがその証拠だという。「(公的投資が民同部門を衰退させるという説は)理論的な根拠がまったくないばかりか、重慶の実例により、ばかげた主張であることが立証された……重慶では、政府の経済活動が拡大するに伴い、(経済の規模が大きくなり)経済全体に占める公共部門の割合がむしろ小さくなった」と、王は指摘している。

民主主義より毛沢東思想
とはいえ、重慶モデルで最も重視されるのは、民間経済の発展ではなく、あくまでも貧困と格差の解消だ。国有企業が市場で上げた利益は、公共住宅の建設や交通・輸送インフラの整備など、旧来の社会主義的な公共事業に投じられている。
これまでに薄が高い評価を得ている政策の1つは、貧困層向けの公共住宅の整備だ。重慶の3000万の人口の約3分の1に安価な公共住宅を提供することを目指している。

この公共住宅整備政策は全国で注目を集め、中央政府も感心したらしい。中央政府は、昨年スタートした「第12次5ヵ年計画」の一環として同様の政策を全国規模で導入している。
薄は、この政策を経済成長一辺倒の発想の次のステップと位置付けようとしてきた。「重要なのは、高層ビルをいくつ建設したかではない。人民がどれだけ幸せを感じているかだ」と、09年に演説で述べている。

一見すると、「幸福広東」のスローガンと大差ないように感じるかもしれない。しかし、国家の役割を重んじるニューレフトの政策は、市場経済重視のリベラル派の政策とは対極にある。
広東省で最近進められている改革は、欧米の政策担当者の間で主流の考え方に基づいており、都市住民の生活の質を改善することに主眼を置いている。
改革開放路線の牽引役となってきた上海や広州などの都市では、経済成長と引き換えに、大幅な貧富の格差を事実上容認してきた。薄の政策は、そうした沿海部の都市の路線とはっきり一線を画するものだ。

欧米のメディアは概して、温家宝らの政治改革に注目してきたが、民主的モデルを採用しなくても中国の未来を切り開くことは可能だと、重慶モデルの支持者は考えている。この勢力が民主主義の代わりに重んじるのは、毛沢東の政治思想だ。

改革開放路線により経済的に豊かになった結果、指導層が人民との接点を失ったと、ニューレフトは考えてい
る。薄も毛沢東の唱えた「大衆路線」を持ち出して、共産党にはびこり始めたエリート主義を痛烈に批判してきた。指導層は大衆の中で暮らし、大衆の考え方を知るべきだと、毛は考えていた。

薄は重慶の共産党員に対し、それぞれの地区の貧しい住民との「結び付きを取り戻す」よう指示している。例えば、村の党書記たちには、最低でも週に1回、半日以上、村人たちと一緒に過ごすことを義務付けた。その際には、政府の活動を村人に説明し、村人の考えに辛抱強く熱心に耳を傾けることを党員に求めている。
また、村より上の行政区分である県の指導者も少なくとも月1回以上は農村に足を運び、人々の陳情を受け付けるよう、薄は指示している。

人民に「赤い文化」を強制
ただし、薄が道徳の「再生」を要求している対象は、共産党員や役人だけではない。重慶では人民の「精神的健康」を重視し、汚職やギャンブルなど、さまざまな社会問題の解決策として「赤い文化」の振興を目指している。
具体的には、革命歌を歌う「唱紅歌」大会を問いたり、市の1700万人の携帯電話利用者に毛沢東思想を記した文章を1日1回、携帯メールで配信したりしている。

ニューレフトの論者たちは、中国の「国産」政治改革の実例として重慶モデルを絶賛する。つまり、外国を模倣しなくても、中国独自の方法で政治を改革できることが実証されたと考えているのだ。

もっとも薄は、いかにも毛沢東主義者らしいプロフィールの持ち主というわけではない。父親は共産主義革命の指導者の1人である薄一波。父親が毛に疎まれて失脚したこともあり、文化人革命の時代はほとんどを監獄と農村で過ごした。今日は賛沢な暮らしぶりで知られており、息子の薄瓜瓜はイギリスの名門パブリックスクールのハロー校に留学し、卒業後はオックスフォード大学に進んでいる。
薄は共産党幹部の息子として甘やかされて育ったというイメージを抱かれることを非常に恐れていると、香港城市大学の鄭宇碩教授(政治学)は言う。「典型的な太子党(共産党幹部の子弟)だが、今はポピュリスト的な毛沢東流の政策を採用している」

中国の最高指導部が薄をどのように評価しているかは、外部の人間には知る由もない。しかし、薄に注目していることは間違いない。
次期国家主席の習は10年末に重慶を訪ねた際、演説で薄の取り組みを「高潔な政策」と称賛。「赤い文化」路線が「人民の心をしっかりっかんでいる」と評価した。

少なくともはっきりしているのは、薄の重慶での取り組みが中国の社会主義の未来に間する白然した議論に火を付けたということだ。それにより薄が政治局常務委員の椅子を手にできるのかどうかは、秋の共産党大会まで分からないが。ピーター・マーチン(政治コンサルタント) デービッド・コーエン(ジャーナリスト)【2月15日号 Newsweek日本版】
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上記レポートの流れで見れば、2月6日ブログでも取り上げた温家宝首相などの改革開放重視のキャンペーンは、薄煕来氏などのニューレフト路線への対抗と見ることができます。

もっとも、習近平氏が薄煕来氏が推し進める「赤い文化」路線に関心を抱いているのことですが、胡錦濤現国家主席が代表する中国共産主義青年団(共青団)グループが格差是正・社会的公平を重視するのに対し、「太子党」の習近平氏を推した江沢民前国家主席率いる上海閥は経済成長重視路線で、薄煕来氏などのニューレフト路線とは対極にあるようにも見えるのですが・・・。

また、幹部子弟の「太子党」である薄煕来氏が“毛沢東の唱えた「大衆路線」を持ち出して、共産党にはびこり始めたエリート主義を痛烈に批判してきた”というのも、いまひとつピンときません。
文革で苦労した幹部子弟の方が、中国共産主義青年団(共青団)グループのようなエリート集団より一般庶民に近いという認識でしょうか?

薄煕来氏の実績について言えば、過度の市場経済重視が現代中国にもたらした拝金主義的風潮は是正する必要がありますが、“国有企業を拡大させている重慶の経済成功”というのは、あくまでも経済成長の沿岸部から内陸部への波及過程にある現在の状況によるものであり、「国進民退」は招かないという判断は早計ではないでしょうか。
また、「赤い文化」を国民に強制する路線は、欧米・日本的な個人の自由を尊重する価値観と衝突するものがあるように思えます。

認識不足でわからないことが多々ありますが、王立軍副市長失脚事件の薄煕来氏人事への影響が今後の中国の基本路線に大きく影響しそうだ・・・ということは理解できます。

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