(73年9月11日 チリ・サンチャゴでピノチェト将軍による“9.11”軍事クーデターの攻撃を受けるアジェンデ大統領(写真左 眼鏡の男性) 右の護衛が手にしているカラシニコフはキューバ・カストロからの贈り物とか。 大統領自身も右手に何か持っているようですが、写真ではよくわかりません。
“flickr”より By Javier Chandia http://www.flickr.com/photos/zebehn/1523878109/)
【拷問は共産主義を根絶するために必要なのだ。祖国の幸福のために必要なのだ。」】
現在の中南米は左派政権が主流ですが、かつては右派軍事政権が多く存在していました。
中南米の軍事政権・軍事クーデターということでは、個人的には73年のチリ・アジェンデ政権の軍事クーデターによる崩壊を思い出します。
東西冷戦のなかにあって、社会主義政権としては初めて自由選挙によって合法的に政権を獲得したアジェンデ政権、軍事クーデターに抵抗して大統領官邸に籠城、自ら銃を手にとって応戦し、死んでいった文民大統領(最近の調査で、直接の死因は自殺と言われています)、クーデターさなかでの国民へ向けた最後の演説・・・、そうした悲壮なイメージと、その後のチリ・クーデターを扱った映画「サンチャゴに雨が降る」(75年)「ミッシング」(82年)の影響でしょうか。
ニクソン米大統領・キッシンジャー国防長官など、当時の反社会主義アメリカ政権の意向も反映したクーデターでしたが、もちろん、アジェンデ大統領は悲劇のヒーローという訳ではなく、アジェンデ政権当時、国有化政策や土地問題などの改革でチリ経済・社会はかなりの混乱状態にあり、その施策にも問題はあったとも指摘されます。
この軍事クーデターを起こしたのは、後に大統領に就任するピノチェト将軍ですが、クーデター直後に戒厳令が敷かれ、アジェンデ支持派の多数の市民がサッカースタジアムに集められ、容赦なく虐殺されたと言われています。
また、その後もピノチェト政権下で、多数の左派市民が誘拐され拷問を受け、死亡していますが、そうした拷問行為に対して抗議した聖職者に、ピノチェト大統領は「あんた方(聖職者)は、哀れみ深く情け深いという贅沢を自分に許すことができる。しかし、私は軍人だ。国家元首として、チリ国民全体に責任を負っている。共産主義の疫病が国民の中に入り込んだのだ。だから、私は共産主義を根絶しなければならない。(中略)彼らは拷問にかけられなければならない。そうしない限り、彼らは自白しない。解ってもらえるかな。拷問は共産主義を根絶するために必要なのだ。祖国の幸福のために必要なのだ。」と、拷問を正当化したそうです。【ウィキペディアより】
【7万5000人が殺害され、犠牲者の83%がマヤ民族】
そんなチリ軍事政権を思い出したのは、80年代前半の中米グアテマラの軍事政権に関する記事を目にしたからです。
****グアテマラ:大量虐殺、元将軍の裁判開始****
中米グアテマラで、クーデターで政権を握り82~83年に軍政を率いた独裁者リオス・モント元将軍(85)に対し、先住民のマヤ民族を中心に多くの市民を殺害した罪を審理する裁判が1月末に始まった。被害者の妻らで作る女性組織「コナビグア」のロサリーナ・トゥユク元代表(65)に心境を聞いた。
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裁判開始の日を長い間待っていた。リオス・モント元将軍の他にも、虐殺に関与しながら政府に守られている元軍人がいる。全員を裁き、真実を明らかにしてほしい。
マヤ民族の宗教指導者だった私の父は82年に、夫も84年に政府軍に殺害された。農民に文字を教えていた私も捕まりそうになった。多くの仲間が殺され、行方不明になった。
当時の政府は「左翼ゲリラのテロから市民を守る」ことを口実にしたが、実際に政府軍が行ったことはマヤ民族のせん滅だった。政府はマヤ民族を国の発展の障害とみなしていた。マヤの文化的指導者はゲリラへの協力者として迫害され、女性は集団レイプされた。5歳の少女まで犠牲になった。
3年前、私たちは虐殺現場の一つだった、コマラパの軍施設の跡地の一部を買い取った。地中から226人の遺体が出てきた。ガソリンで焼かれたり、首や足を切断されたりした遺体もあった。このうち身元が判明したのはこれまで17体しかない。
◇7万5000人犠牲
グアテマラで96年まで続いた政府軍と左翼ゲリラとの内戦は20万人以上の死者・行方不明者を出した。特にリオス・モント元将軍の軍政下で大量虐殺が行われ、国連推計によると7万5000人が殺害された。犠牲者の83%がマヤ民族だった。
元将軍は1月14日に国会議員としての免責特権を失い、訴追された。266件の人権侵害事件に関与し、この中で少なくとも1771人が殺害されたとされる。元将軍は無罪を主張している。【2月9日 毎日】
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なお、グアテマラに関する最近の情勢としては、昨年11月に大統領選挙が行われ、治安悪化を背景に、強硬路線を主張する右派で元軍人のペレスモリナ氏が当選しています。
****グアテマラ大統領選、右派ペレスモリナ氏が当選****
中米グアテマラで6日、大統領選の決選投票が行われ、第1回投票で1位だった右派で元軍人のオットー・ペレスモリナ氏(60)が、中道の実業家マヌエル・バルディソン氏(41)を破って初当選を決めた。
任期は来年1月14日から4年。
6日深夜(日本時間7日午後)発表の選管集計(開票率99%)によると、得票率はペレスモリナ氏54%に対し、バルディソン氏は46%にとどまった。
ペレスモリナ氏は6日夜の記者会見で、「最初にやるべき仕事は治安の改善と財政再建だ」と今後の抱負を述べた。
選挙の最大の争点は治安問題だった。同国では近年、国内の犯罪組織に加え、隣国メキシコから侵入してくる麻薬密売組織がらみの凶悪犯罪が増加。軍・警察の大幅増員など強硬路線を唱えたペレスモリナ氏が幅広い支持を集めた。【11年11月7日 読売】
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【現地で注目される日系人の沈黙 「恥の文化」】
南米の軍事政権絡みでは、日系社会に関する話題もありました。
「汚い戦争」による日系人被害を取り上げたものですが、主題は、なぜ日系人社会は被害に沈黙を守っているのか?ということです。
現地ジャーナリストは、その背景として日系人社会の「恥の文化」があるのでは・・・と分析しています。
ただ、最近では、日系人被害者たちの家族が真相解明に積極的に乗り出す動きもあるようです。
****アルゼンチンで消えた日系人 30数年前、軍事政権拉致*****
南米アルゼンチンの日系人たちが三十数年前、拉致された。当時の軍事独裁政権に反対し、左翼活動への関与を疑われたためだ。多くの人の消息が今も分かっていない。家族は「身内の恥」と、長く沈黙を続けた。だが年々困難になる真相究明のため、やっと声を上げ始めた。
■左翼活動疑われ連行
日系2世のエルサ・オオシロさん(57)の弟ホルヘ・オオシロさん(当時18)が姿を消したのは、1976年11月のことだった。
高校生だったホルヘさんは社会党の青年部に所属し、機関誌を配っていた。夜中、ブエノスアイレスの自宅に武装した男たちがなだれ込み、無言のままホルヘさんを連れ去った。
同年3月にクーデターを起こし発足したビデラ将軍率いる軍事政権は徹底して左翼活動家や労働組合員らの弾圧に乗り出していた。後に「汚い戦争」と呼ばれる。
軍事クーデターが起きたすぐ後で、世の中は騒然としていた。エルサさんは、大勢が拉致されていることなど知らなかった。弟が当局の標的にされるとは思いもよらなかったという。
ホルヘさんが拉致された翌年、日系紙「亜国日報」の記者だったフアン・カルロス・ヒガさん(当時29)も、職場から帰宅途中に武装した男たちに連れ去られ、二度と戻らなかった。ヒガさんはスペイン語版の記事や詩を書きながら、左派的な活動をしていた。
ヒガさんが失踪した後、ヒガさんの妹が、他にも日系人の被害者がいると知り、エルサさんらと連絡を取り合った。アルゼンチンで何が行われ、肉親たちがどうなったのか。おぼろげながら分かってきた。
軍事政権によって、行方不明になった人は3万人に上るとされる。拷問のうえ、生きたまま飛行機から海に突き落とすなどして殺害されることもあった。犠牲になった日系人は家族らによると16人。ただ、拉致されたことを明らかにしていない家族がいる可能性もある。
■「恥の文化」肉親沈黙
83年に軍政が終わったが、日系人犠牲者の家族たちは、ほとんど沈黙状態を続けた。
「父の世代の日系移民は、お上には絶対服従だった。だから、軍政に連れ去られた若者たちのことも、『身内の恥』と、受け取っていたと思う」
日系3世のノルマ・ナカムラさん(65)はそう話す。ノルマさんの11歳年下の弟ホルヘ・ナカムラさん(当時21)は78年に消息を絶ち、今も行方が分からない。
父親は軍事政権に連れ去られた、と直感したという。父親は、ノルマさんにホルヘさんが床下に隠していた左翼的な本を燃やすよう頼んだ。ノルマさんは泣きながら、何冊も本を父と一緒に風呂の火にくべ燃やした。
父はホルヘさんが「失踪」したのと同じ日の5年後、病死した。「父は死ぬまで、ホルヘの話はしなかった」とノルマさん。兄弟の中では、ホルヘさんの話は今もタブーという。(中略)
家族の一部は、現地の日本大使館に消息確認のための要請をしたり、日本政府宛ての請願書を書いたりした。だが、表立って動くことはなかった。
日系人の「沈黙」は現地でも注目された。フランスなど欧州系移民の被害者家族たちは本国を巻き込み、責任追及を求める行動を起こしていた。日系人社会では、被害者がいたことさえ知らない人が多かった。
「なぜなのか」。地元テレビ局の記者カリナ・グラシアノさん(39)は、日系人の「失踪者」をテーマにドキュメンタリーを撮り始めた。
家族を訪ね歩くうち、日系人には、事件や消えた身内を「恥じる」独特な感情があることを知った。慣れない異国で、懸命に暮らそうとした1世たちは言葉の壁もあり、現地で生まれ育った2世の息子たちが何に怒り、何のために闘っているかが理解出来ない人も多かった。「1世のカルチャーショックや父親の権威主義なども、沈黙につながったのでは」とグラシアノさんは分析する。
■風化恐れ究明へ一歩
日系人被害者たちの家族が真相解明に積極的に動き出したのは最近のことだ。10年には、日本大使館の広報文化センターで、初めて日系人被害者の写真展を開いた。
息子や兄弟がなぜ拉致され、最期をどう迎えたのか知りたい――。被害者の家族たちは高齢になり、自分の死とともに、明らかにされないまま風化してしまうのを恐れるようになったためだ。当時の軍政幹部たちは高齢で次々と死亡している。家族たちに焦りが募る。
日本政府に人権侵害事件の原告になって、責任追及をするよう求める動きも出ている。スペインなど欧州の国は、アルゼンチン軍政の人権侵害の責任者たちを、自国の法律で訴追しているためだ。マドリードの高等裁判所は05年、アルゼンチン軍政下に反体制派の市民30人を生きたまま航空機から突き落として殺害したとして「人道に対する罪」などで起訴されていた元アルゼンチン海軍将校アドルフォ・シリンゴ被告に禁錮計640年を言い渡した。
日本大使館は国として司法制度上、そこまでは出来ないとしながらも、日系人被害者の事実を明らかにし、責任者を処罰するよう、アルゼンチン政府に求めているとしている。
エルサ・オオシロさんは、「消えたのは、日本人の息子たち。日本政府にも家族とともに原告になってほしい」と訴える。(ブエノスアイレス=平山亜理)
◇
〈アルゼンチンの軍事政権〉軍部のクーデターにより1976年、ビデラ将軍が大統領に就任。反体制派への徹底的な弾圧を続けた。82年には英国との間でフォークランド(マルビナス)紛争が起きた。83年に民政移管されたが、恩赦法を出し、真相究明や責任追及は遅れた。2003年のキルチネル政権の発足後、軍政下の責任者を裁く裁判が始まり、有罪判決も出ている。【2月2日 朝日】
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【独裁者の末路】
やはり80年代の中米パナマで軍事独裁政権を率いたノリエガ将軍の病状に関する記事がありました。
83~89年にパナマの軍事独裁政権を率いたノリエガ将軍は、米仏での22年間の服役に加えて、本人不在のままパナマで行われた裁判で反対勢力の殺害など3つの裁判で有罪となり、現在地元パナマで服役中です。
****服役中のノリエガ元将軍、病院に搬送 パナマ****
2012年02月06日 10:11 発信地:パナマ市/パナマ
パナマの最高実力者だったマヌエル・ノリエガ服役囚(77)が5日、脳卒中によるとみられる高血圧症でパナマ市の病院に搬送されたと、警察が発表した。ノリエガ服役囚の容態には触れていない。
ノリエガ服役囚は、麻薬取引やマネーロンダリング(資金洗浄)などの罪で米仏で22年服役した後、前年12月11日にパナマに送還されていた。
送還時にパナマの空港に降り立ったノリエガ服役囚は、車椅子姿で歩行や会話が困難な状態だった。ノリエガ服役囚は過去にも何度か卒中を起こしている。【2月6日 AFP】
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ノリエガ将軍は隣国コロンビアの麻薬組織と結びつき、パナマからアメリカへコカインなどを密輸するルートを私物化するなどで、アメリカ・ブッシュ政権の不興を買い、89年、米軍のパナマ侵攻で失脚しました。
しかし、そのブッシュ大統領がCIA長官をやっていた頃は、アメリカCIAの先兵として中米・カリブ海の左派政権の攪乱に協力していたそうです。【ウィキペディアより】
アメリカに見捨てられた独裁者の末路・・・というところでしょうか。
(2月7日 アテネ 国会議事堂に突入しようとして警官隊と衝突するデモ参加者たち ギリシャに緊縮策を“強要”するドイツの国旗が燃やされています。ナチスのハーケンクロイツも見られます。“flickr”より By Eleanna Kounoupa (Melissa) http://www.flickr.com/photos/ekounoupamelissa/6835543889/ )
【債務強制カットならデフォルト認定も】
ギリシャは3月20日に145億ユーロの国債大量償還を控えており、これを乗り切るためにはEU・IMFからの計1300億ユーロ(約13兆円)の2次支援がどうしても必要とされています。
しかし、2次支援を受けてハードルを超えるためには、債務削減を巡る民間債権者の合意、新たな財政緊縮策に関する連立与党内の合意が必要ですが、そのふたつとも「合意は近い」「今日、明日には・・・」と言われながらも難航し、ずるずると先延ばしされている迷走状態が続いています。
債務削減については、大幅な削減率に対する民間債権者の抵抗が強く、民間債権者が保有するギリシャ国債を強制的にカットする案も出ているようです。
ただ、強制カットに踏み切れば“デフォルト(債務不履行)”“国家破綻”と認定され、危機は一気にイタリア・スペインなどに拡大する危険もあります。
なお、一部民間債権者には、大幅削減率を認めるよりはいっそのことデフォルトに持ち込み、倒産保険の一種である金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の適応を受けた方がいい・・・との思惑もあるとか。そうなると話はまとまりません。
****ギリシャ国債、削減交渉大詰め 2次支援へ強制カット案****
■連鎖暴落リスクも
欧州債務危機の元凶であるギリシャの債務削減をめぐり、同国政府と民間債権者の合意期限が週内に迫る中、民間債権者が保有するギリシャ国債を強制的にカットする案が浮上している。ヘッジファンドなどの債権者が削減の枠組みに参加せず、十分な削減効果を得られない恐れが高まっているためだ。
強制カットに踏み切れば、欧州連合(EU)などからの第2次金融支援を受けられる。だが、実質的なデフォルトと認定され、イタリアやスペインなど他の重債務国でも同様の事態になるとの不安から国債が暴落し危機が深刻化する懸念もある。
◇
銀行などの民間債権者が保有するギリシャ国債は元本で計2千億ユーロ(約20兆円)に上る。EUは昨年10月、ギリシャへの1300億ユーロの2次支援の条件として、国債の元本を50%削減することで合意した。削減は価値の低い新たな国債と交換する方式で行うが、利率をめぐり交渉が難航している。ギリシャ政府が要請している4%以下の場合、削減率が70%超に達することに債権者が猛反発しているためだ。
先月30日のEU首脳会議では、業を煮やしたファンロンパイEU大統領が「今週末までの合意を目指しあらゆる手段をとる」と、早期合意を要請した。
これに対し、民間債権者の一部は「あくまで自主的な取り組みであるべきだ」とし、削減の枠組みに参加しない意向を示している。このため、合意に達したとしても、財政再建に必要な削減規模に達しない可能性がある。
ギリシャは3月20日に145億ユーロの国債大量償還を控える。債務削減による「計画的なデフォルト」で合意できないと、2次支援を受けられず、「無秩序なデフォルト」に陥り、金融市場が大混乱しかねない。
このため、同国政府やEU、国際通貨基金(IMF)は、全体の3分の2程度の合意を取り付け、すべての債権者に一律で適用する「集団行動条項」と呼ばれる手法を検討している。
だが、強制カットに踏み切れば、「一定の秩序は保たれるが、市場参加者が『国家の破綻』と見なすリスクは否定できない」(大和総研の山崎加津子シニアエコノミスト)。
デフォルトと認定されれば、倒産保険の一種である金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」が発動される可能性が高い。民間債権者の損失はカバーできるが「(CDSの引受先である)金融機関は損失を肩代わりしなければならなくなる」(SMBC日興証券の嶋津洋樹シニアマーケットエコノミスト)。CDSの保険料も跳ね上がり、同様のリスクがあるイタリアやスペイン国債の大量売りを招くのは必至だ。強制カットは、“諸刃”のリスクをはらんでいる。【2月3日 産経】
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【テクノクラート首相と選挙を控えた議員に溝】
更なる財政緊縮策についても、すでにこれまでの緊縮策で国民からの批判にさらされているなかで、最低賃金や年金額の引き下げ、公的部門の人員削減といった国民への痛み(激痛)を覚悟しなければならないため、連立与党議員も選挙を控えて、おいそれとは合意できないところです。
“ユーロ離脱もいとわない共産党など左派が支持率を伸ばしている。主要労組も「国民にどこまで犠牲を強いるのか」と政府批判を強め、7日朝から24時間のゼネストに入った”とのことです。
****ギリシャ支援、足踏み 国内反発、緊縮策取れず****
財政危機に陥っているギリシャの連立政権が、国家破綻(はたん)の瀬戸際で迷走を続けている。欧州連合(EU)などからの2次支援を受けるために必要な財政緊縮策などを決められず、民間金融機関からも損失受け入れへの合意を得られていないからだ。
「緊縮策の合意がなければ、2次支援はない」。6日午後、メルケル独首相は、独仏首脳会談後の会見で強調し、ギリシャが緊縮策を直ちに受け入れるよう求めた。(中略)
EUなどは2次支援の条件として、最低賃金や年金額の引き下げ、公的部門の人員削減、国内総生産(GDP)の1%に当たる約22億ユーロ(約2200億円)の歳出削減を求めている。
これに対して、ギリシャ政府はとりあえず、GDPの1.5%にあたる33億ユーロ(約3300億円)の歳出削減で合意し、EUなどの要求よりも上積みした。6日には公的部門の人員1万5千人を今年中に削減することも発表した。
だが、最低賃金や年金額の引き下げを受け入れるかどうかが決められず、EUなどの了承を得られないでいる。2大政党を中心とした連立各党に反対論が根強く、意見をまとめられないからだ。
3党による連立政権はもともと同床異夢だ。元中央銀行総裁のパパディモス首相は議会に足場がない。連立各党とも、4月にも予想される総選挙で国民から批判されるのを恐れている。実際、緊縮策などに反対し、ユーロ離脱もいとわない共産党など左派が支持率を伸ばしている。主要労組も「国民にどこまで犠牲を強いるのか」と政府批判を強め、7日朝から24時間のゼネストに入った。
一方、2次支援のもう一つの条件となる民間金融機関との債務削減交渉もまだ決着を見ない。ギリシャ政府は「合意は近い」と繰り返しているだけだ。
パパディモス首相は7日午後、債務削減交渉と、緊縮策などを話す連立与党党首との会談を立て続けに開き、現状を打開しようとしていると報じられている。ユーロ圏の財務相は今週後半に会合を開く考えだ。
ただ、ギリシャに詳しいUBSのアナリスト、コミネッタ氏は「近く総選挙がある以上、ギリシャの連立与党が緊縮策を受け入れるのは難しい」と話す。「もう時間がないので、EU側がしかたなく折れるしかないのではないか」との見方を示している。【2月8日 朝日】
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「もう時間がないので、EU側がしかたなく折れるしかないのではないか」とは言っても、そうなると支援の負担を担うドイツなどで国内世論の反対が強まります。
なお、年内の公務員1万5千人削減は、ギリシャ政府によると、主に採算の取れない公社の解体や、その人員削減により実施される見通しとのことです。
欧州中央銀行(ECB)前副総裁という実務家としての手腕が期待されたパパデモス首相ですが、選挙の洗礼を受けねばならない各党議員がテクノクラート出身の首相と距離を取り始めた・・・とも言われています。
5日に与党各党党首との会談前、首相は説得できなければ、辞任すると述べたとも伝えられています。【2月6日 産経より】
パパデモス首相も、そう簡単に投げ出すことはないでしょうが、事態が困難を極めているのは間違いないようです。
【「国民にどこまで犠牲を強いるのか」】
直接的痛みを被る労働者側も、“これまでのツケ”とは言いつつも、生活がかかっていますので必死です。
官民労組はゼネストに入り、一部は暴徒化して警官と衝突しています。
*****ギリシャ:官民労組が24時間スト…新たな緊縮策に反発****
アテネからの報道によると、ギリシャの官民労組は7日午前0時(日本時間7日午前7時)、今年初となる24時間のゼネストに突入した。ギリシャ政府が借金返済のため欧州連合や国際通貨基金から1300億ユーロ(約13兆円)規模の第2次支援を受けるための公務員削減など新たな緊縮策に対する反発で、一部住民が暴徒化して衝突も発生した。
省庁や学校、病院など公共機関に加え、地下鉄やバスなど空路を除いた交通機関、銀行もストに加わった。
ギリシャでは昨年11月、(1)2割削減済みの公務員給与をさらに2割カット(2)年収1万2000ユーロから8000ユーロに下げられた所得税免税枠を5000ユーロに減額--などを盛り込んだ緊縮策を制定した。
前回、11年中に公称約75万人の公務員を3万人減らす予定だったが一向に進まず、政府は12年中に公務員を1万5000人削る案を挙げている。【2月7日 毎日】
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【「ギリシャが誠意を見せない限り、オランダとドイツは納税者にギリシャへの緊急支援を納得させられない」】
こうした状況に、ギリシャ国内でも、先述のように共産党などのユーロ離脱論が高まっていますが、国外からもギリシャのユーロ離脱に言及する発言が出始めています。
*****ギリシャのユーロ離脱可能性に言及 欧州委副委員長*****
欧州連合(EU)の行政機関・欧州委員会のクルス副委員長は7日付のオランダ紙フォルクスクラント(電子版)のインタビューで、債務不履行の危機が迫るギリシャがユーロ圏を抜ける可能性に触れた。欧州委員がギリシャの離脱可能性に触れるのは異例。欧州委員会はこの日の定例会見で、「ギリシャはユーロ圏に残って欲しい」として、離脱観測を打ち消した。
クルス氏は「ある国が離脱すれば、すべての組織が壊れるといつも言われている。だが、それは単なる間違いだ」と述べた。仮にギリシャがユーロ圏を離れても、ユーロ圏全体が壊れることはないという見方だ。
クルス氏は、ドイツとともにギリシャへの支援に異論が強いオランダの出身。インタビューでは再建策を実行できないギリシャの政治家を批判した。「ギリシャが誠意を見せない限り、オランダとドイツは納税者にギリシャへの緊急支援を納得させられない」と、EUなどが求める緊縮策の受け入れも求めた。
ギリシャではEUによる追加支援の前提として突きつけられた緊縮策に反対し、ユーロ離脱もいとわない左派が支持され始めている。【2月8日 朝日】
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【日本は・・・・】
国の借金総額がGDPの2倍の約1千兆円という“借金の上で暮らす”日本にとって、明日は我が身の話です。
これまで国債の低金利・国内消化の原資となってきた経常収支が2016年にも赤字になる可能性があるとも言われていますが、ギリシャ破綻を契機とする欧州・世界経済の混乱といった事態にもなれば、もっと早い段階で日本が抱える爆弾がさく裂する危険もあります。痛みをフォローできる余力があるうちに対応したらいいのに・・・というのは多くの人が思うところでしょう。
(昨年12月12日のプーチン支持派の集会 手にした紙には“In Putin we trust”“Russian democracy is not a fake”“I hate oranges”のメッセージが。“orange”とは、04年にウクライナの大統領選挙で不正があったとして選挙結果に抗議して起きた野党主導による民主化運動「オレンジ革命」のことでしょう。プーチン支持派は、反プーチン派が「オレンジ革命」を標榜しプーチン政権の打倒をもくろんでいると批判しています。“flickr”より By hegtor http://www.flickr.com/photos/yuri_timofeyev/6499162275/ )
【静かで固いプーチン支持層も街頭に】
2月4日のモスクワでは、3月4日のロシア大統領選挙まで残り1カ月ということで、反政権側、プーチン支持派それぞれが大規模な集会を開催しています。
****親プーチン対反プーチン、集会合戦*****
「プーチンは退任せよ。政権は我々の声を無視している」。反政権デモの主催者の一人、リベラル派「国民自由党」のルイシコフ氏は集会でこう繰り返した。
「公正な選挙を」と書いたプラカード。シンボルカラーの白いリボン。参加者らは都心を約1.5キロ、大統領府クレムリンの方向へと行進した。目指したのは、下院選の不正疑惑に怒り、ソ連崩壊後で最大規模の反政権集会の会場となった昨年12月と同じボロトナヤ広場だ。
警察発表で3万6千人と過去2回の集会を超える人たちが集まった。主催者側は「12万人」としている。
声を上げる都市中流層を引っ張るのは政治家ばかりではない。ロシアを代表するブロガーや作家、音楽家たちも奔走している。反プーチン集会には、こうしたリベラル派だけでなく、国家主義者や過激なマルクス主義者など右派から左派まで合流している。
「今の政治状況は退屈。とにかく新しく変わってほしい。プーチン支持の集会も開かれているけど、いろんな主張があるのはいいことです」。会社員のマリア・クズネツォワさん(21)は、こう話した。
「台風の目」はプーチン支持派の集会だった。会場の戦勝公園に13万8千人(警察発表)が集まった。「カオスはいらない」などのスローガンで強調したのは「安定」。2000年に大統領に就いたプーチン氏がもたらした実績だ。
「ロシアの愛国者」のコルネエワ副代表は、主催者の狙いを代弁するかのように「我々は(ソ連崩壊で混乱した)1990年代に戻りたくない」とイタル・タス通信に語った。
静かで固いプーチン支持層が街頭に出た形だが、教師や労働者に動員がかかったとも伝えられていた。選挙まで、あと1カ月。政権側が「数」を見せつける手を打った可能性が高い。【2月5日 朝日】
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【政権の「正当性」確保が課題】
昨年12月の下院選での不正疑惑から、成長する中流層を中心に、反プーチンの声がこれまでになく高まってはいますが、有力な対抗馬もいないことからプーチン首相の逃げ切り・大統領復帰が確実視されています。
****露大統領選:政権の正当性焦点 逃げ切り図るプーチン氏****
ロシア大統領選(3月4日投票)を1カ月後に控え、プーチン首相は反政府デモのうねりにさらされながらも「逃げ切り」で大統領復帰を果たす構えをみせている。だが昨年12月の下院選で浮上した不正疑惑は解消されないままで、プーチン氏にとっては大統領選で政権の「正当性」を確保できるかが大きな課題となっている。
プーチン首相は1日、選挙監視員候補との会合で「決選投票の準備はできている。恐れることはない」と話し、第1回投票で過半数に届かない可能性に初めて言及した。一方で「(決選投票は)政局の不安定化につながる」と指摘し、あくまで“一発当選”を目指す考えを示した。4日にモスクワ中心部で行われたプーチン支持派の集会では参加者が「ロシアの安定を守れるのはプーチン氏だけだ」と気勢を上げた。
ロシアの世論調査機関「世論基金」が1月28、29日に実施した調査によると、大統領選でのプーチン氏の支持率は46%。下院選直後の42%から持ち直している。これとは別の「全ロシア世論調査センター」の最新調査では、プーチン氏の支持率は52%と過半数に。政権側が下院選後、地方首長の公選制復活や政党登録条件緩和など一定の政治改革の道筋を示したことがプラスに影響しているようだ。
大統領候補5人のうち「政権を担えるのはプーチン氏以外にない」という消極的支持もある。ジュガーノフ、ジリノフスキー、ミロノフの3氏は「万年野党の古い政治家」とみなされており、唯一の新顔、プロホロフ氏も新興財閥として国民の拒否反応が強い。民間世論調査機関「レバダセンター」の1月下旬の調査によるとプーチン氏の支持率は37%だが、「大統領になるのはプーチン氏」と考える人は78%に上った。
プーチン首相は1日の会合で、「大統領選は公正かつオープンに行われ、結果は客観的なものになる」と強調した。投票所へのウェブカメラ設置や透明な投票箱の導入を打ち出し、下院選の不正疑惑が大統領選に波及しないよう配慮している。下院選では特に地方で与党「統一ロシア」を利するための露骨な選挙違反が目立ったが、ボロージン大統領府副長官は今回、地方首長に不正を戒める通達を出したとされる。
しかし、政権側が下院選で批判を浴びたチューロフ中央選管委員長を留任させたことで、国民の多くが選管への信頼を失っている。リベラル系野党ヤブロコのヤブリンスキー前代表が有権者200万人の署名を集めたにもかかわらず、選管が名簿の不備を理由に大統領選への立候補を却下したことへの反発も根強い。レバダセンターの世論調査によると、大統領選が「公正に行われる」と答えた人は49%にとどまった。大統領選で不正行為が相次ぐ事態になれば、プーチン氏が当選しても「正当性」が揺らぐのは避けられない。【2月5日 毎日】
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【“勝ち方”によっては不正疑惑再燃も】
政権の「正当性」確保が最重要課題ということで、プーチン首相の“勝ち方”が注目されています。
第1回投票での“一発当選”を目指すとは言いつつも、ぎりぎり過半数での辛勝は不正疑惑批判を再燃させかねず、それぐらいなら決選投票で圧勝した方がまし・・・との見方もあるようです。
ただ、第1回投票での数字次第では、その力の陰りを云々されることになりますので、痛し痒しというところです。
****プーチン氏、「勝ち方」焦点 避けたい「1回目で辛勝」****
・・・・・プーチン氏に対抗する有力候補がいない大統領選。焦点は「勝ち方」だ。
3月4日の投票で過半数に届かなければ、上位2人が25日の決選投票に臨む。
全ロシア世論調査センターが3日に発表した調査では、プーチン氏に投票するとした人は52%。ジュガーノフ共産党委員長、ジリノフスキー自民党党首を大きく引き離し、一発当選の可能性がある。
とはいえ、50%をギリギリ超えるのはプーチン氏にとって最悪のシナリオでもある。12月の下院選と同様に選挙の不正を問われ、内外から再登板の正統性に疑問符を付けられかねないからだ。
2000年代のプーチン政権時に、旧ソ連のグルジアやウクライナで政権交代が起きた「カラー革命」も、もとはといえば開票結果に市民が反発したのが引き金だった。野党勢力はすでに、3月4日の投票後の大規模集会を計画している。
このため、「反プーチン集会」が求める「公正な選挙」はプーチン氏にも重みを増す。政権は、ロシア全土で約9万4千カ所ある投票所の大半にウェブカメラを設け、インターネットで見られるようにする計画だ。署名の不備があるとして立候補を拒まれたリベラル政党「ヤブロコ」のヤブリンスキー氏陣営や、知識人らによる「有権者連盟」からも選挙監視に参加させる方針も示した。
さらに、「双頭体制」を組むメドベージェフ大統領が選挙改革法案を相次ぎ提出し、プーチン氏は経済の選挙綱領で「国家の課題は、育ちつつある中流層の資金を枯らさないことだ」とも明記。集会の軸となっている都市部の中流層を意識する姿勢を見せた。
政治学者のパブロフスキー氏は、プーチン氏の第1回投票での当選は政治的なリスクが高いと見る。「政権の正統性を得られず、国のコントロールができなくなる。決選投票で55~60%を得て勝つ方が国際的な認知も得やすい」
プーチン氏は1日、選挙監視を希望する若手の法律家らとの対話の席で、「決選投票になれば、政治的に不安定になることが避けられない」としつつ、決選投票にはっきりと言及した。「その準備はできている」【2月5日 朝日】
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【「国のトップを目指す人間が討論で代理人を立てるなんて世界中どこにもない」】
選挙で圧勝して政権の正当性を誇示したいプーチン首相ですが、本人はテレビ討論会に出ず代理人が参加するそうで、プーチン首相の“選挙”や“有権者”に対する基本的考え方が窺えます。
****プーチン氏、静かな戦い=TV討論拒否、政策寄稿―ロ大統領選****
3月4日のロシア大統領選まで1カ月を切った。復帰を目指す前大統領のプーチン首相は、昨年12月の下院選の不正疑惑に抗議するデモの活発化とは対照的に、静かな選挙戦を展開。各候補者とのテレビ討論会を拒絶した上で、新聞に「政権公約」を次々と寄稿し、持ち直した支持率を失点なく維持したい考えだ。(中略)
政権与党「統一ロシア」は下院選で議席を大幅に失ったものの、選挙戦を率いたのはメドベージェフ大統領で、プーチン氏の責任は限定的。さらに、対抗馬に強敵がいないと見るや、年明け早々「本人はテレビ討論会に出ず、代理人が参加する」(側近)方針を打ち出し、各候補からは「有権者軽視だ」(ミロノフ前上院議長)などの声が上がった。
その一方で、プーチン氏は1月16日、23日、30日と新聞各紙上に論文を掲載。「今後10年で貧困問題を解決する」「不法移民対策を強化する」などと、有権者受けする政策を発表している。【2月5日 時事】
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6日の討論収録にプーチン首相は代理として女性政治学者をよこしたそうで、これにジリノフスキー候補は「プーチンの脳みそが政治学者の頭の中に入っているとでもいうのか」と怒ったとか。もっともな怒りです。
****プーチン氏、TV討論に代打 他候補激怒「コメディー」*****
3月4日が投票日のロシア大統領選に向け、候補者同士のテレビ討論が始まった。だが、返り咲きを目指すプーチン首相は公務を理由に出演を拒否。専門家を代理出席させる。
「これは討論じゃなくてコメディーだ」。民族右派「自由民主党」党首として立候補しているジリノフスキー氏は地元メディアに怒りをぶちまけた。2月6日夜、同氏はプーチン氏とテレビ討論を行う予定だったが、収録に現れたのは女性の政治学者。「プーチンの脳みそが政治学者の頭の中に入っているとでもいうのか。滑稽だ。国のトップを目指す人間が討論で代理人を立てるなんて世界中どこにもない」と同氏は話す。
首相の報道官は、首相は公務を空けてまでテレビ討論に出席することはないとし、「その分の時間を有権者のために自身の選挙公約を仕上げることに使う」と説明している。過去の大統領選でも、プーチン氏やメドベージェフ大統領は討論への参加を拒否してきた。【2月7日 朝日】
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日本にも国民の前に出たがらず、もっぱら裏で策を弄することを好む有力政治家がいますが、国民に自分の言葉で訴えようとしない政治家は、その一点で“民主主義における政治家”とは言い難いと考えます。
プーチン首相は選挙戦多忙のため、次期首相と目されている中国の李克強(リー・カーチアン)副首相のロシア初訪問を断ったそうです。
“李副首相は今月、初めてロシアを訪問し、プーチン首相、メドベージェフ大統領と会談する予定だったが、ロシア側から「大統領選を控えたプーチン首相が多忙で時間が取れない」と伝えられたため、訪問を取りやめたという”【2月2日 Record China】
まあ、忙しいのは間違いないようです。
(1989年5月19日 天安門広場でハンガーストライキに入った学生たちに、「我々は来るのが遅すぎた。申し訳ない」と、声を詰まらせながら絶食をやめるよう呼びかけた趙紫陽元首相 「学生たちの理にかなった要求を民主と法律を通じて満たさなければならない」「わが国の法制度の欠陥と民主的監察制度の不備が腐敗をはびこらせてしまった」と学生たちに理解を示した趙紫陽元首相は、最高実力者小平と対立する形となり、動乱を支持し、党を分裂させたとして失脚しました。 “flickr”より By treasuresthouhast http://www.flickr.com/photos/74568056@N00/4947361080/ )
【今年秋には習近平体制へ】
今年は3月にロシア、4月にフランス、11月にはアメリカで大統領選挙が行われますが、中国では今年秋に開かれる第18回中国共産党大会において、胡錦濤国家主席・温家宝首相の現体制から習近平体制へ権力移譲が行われる予定です。首相については李克強第1副首相が有力視されていますが、欧米の選挙とは異なり、こうした人事は共産党内部における厳しい権力闘争の結果です。
****習近平・次期国家主席を待つこれだけの難題****
中国でも2012年から首脳が交代するが、次のトップがほぼ確定している点が米国やフランスと異なる。
現在、国家副主席の立場にある習近平(シージンピン)氏が胡錦濤(フージンタオ)国家主席の後を継ぐことは確実視されている。2012年秋の第18回中国共産党全国代表大会(18大)で党総書記に選出され、翌2013年春の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に就任すると予想されている。
「習近平国家主席」の誕生には、江沢民(ジャンズーミン)・前国家主席の強い後押しがあったというのが定説だ。胡氏が後継に指名したかったのは同郷(安徽省)の後輩である李克強(リークァチャン)・第1副首相だった。胡氏と李氏は共産党エリートの集まりである中国共産主義青年団(共青団)出身という共通点もあり、経済成長よりも格差是正を重視する考え方で一致していると言われている。
しかし、江氏が率いる「上海閥」が強力に推したのが元上海市共産党委員会書記の習氏だった。また、習氏の父は副首相まで務めた習仲勲(シージョンシュン)氏で、党幹部の師弟グループで構成する「太子党」も習氏支持の流れに乗った。
その結果、2007年秋の共産党大会(17大)で、習氏は党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員に2階級特進で抜擢された。2010年秋には党中央軍事委員会で、胡氏に次ぐ副主席の座も獲得した。
依然残る、江沢民の影響
次期の国家主席がほぼ確定したことで注目されるのが、温家宝(ウェンジャーバオ)首相の後を誰が継ぐかということ。
順当に行けば胡氏が推す李氏となるが、最近になって存在感を増しているのが王岐山(ワンチーシャン)副首相だ。中国人民銀行や中国建設銀行の総裁を歴任するなど経済政策に詳しく、米中経済交渉ではティモシー・ガイトナー米財務長官のカウンターパートナーも務めている。
王氏は江氏の下で成長重視の政策を進めた朱鎔基(ジューロンジー)前首相の直弟子。重病説が噂される江氏の影響力を疑問視する向きもあるが、江氏は王氏の手腕を高く評価していると言われている。首相レースの行方は混沌としてきた。
だが、国家主席だけでなく首相人事も江氏の意向が働いたとなれば、胡氏にとっては面目丸つぶれだ。中国は共産党が事実上独裁しているが、党内は様々な勢力がせめぎ合っている。上海閥や太子党が一方的に勢力を増せば、共青団などからの反発が強まるのも確実。党内の融和を図る意味からも、李氏の首相就任が濃厚と言えそうだ。(後略)【1月12日 日経ビジネス】
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【「問題解決のカギは依然として改革開放にある」】
中国現指導部にあって温家宝首相は、災害被災地で国民に直接に言葉を交わす場面や改革への前向きな発言などで、比較的ソフトなイメージもあります。
その温家宝首相の改革路線を強調する発言が注目されています。
****温首相が「南巡講話」絶賛=改革訴え、路線に違いか―中国****
中国の温家宝首相は6日までに広東省を視察し、「20年前、トウ小平同志は80歳を超える高齢にもかかわらず、広東を訪れ、歴史的意義のある講話を行った」と述べ、トウ氏が改革・開放加速へ大号令を出した「南巡講話」を絶賛した。さらに「われわれが直面する挑戦と困難は少なくないが、問題解決のカギは依然として改革開放にある」と訴えた。
今年1~2月は1992年の南巡講話から20年の節目だが、共産党・政府は記念行事を行っていない。党最高指導部で公に同講話に言及したのは温氏が初めて。政治体制も含めてたびたび改革推進を主張する温氏と、社会の安定維持を重視する保守派指導者の間で、改革をめぐる路線に違いが出ている可能性も指摘されている。【2月6日 時事】
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トウ小平氏の「南巡講話」については、先月も、中国紙が大きく取り上げたことが今回同様に改革派のアピールではないかとの憶測を呼びました。
****中国「改革開放」に光、再び トウ小平氏「南巡講話」20年、異例の報道****
中国の最高指導者だったトウ小平氏(1904~97年)が87歳のとき、国内の保守派の反発で停滞していた改革開放路線で不退転の決意を示した「南巡講話」が始まって18日で20年を迎えた。
同日付の中国紙、東方早報は関連記事を48ページにわたって掲載する異例の報道ぶりで、「現在の中国にもトウ氏が残した言葉を当てはめて『再改革』が必要だ」などと主張。人民日報系の環球時報は社説で「政治改革の継続」に踏み込んだ。
国内体制の改革と経済の対外開放策は、トウ氏の指示で78年12月に打ち出されたが、89年の天安門事件の影響や、国内で「改革開放は資本主義的だ」と反発した保守派が権力闘争に挑んだことにより一時ストップした。トウ氏は92年、「講話」のため、湖北省武漢を皮切りに広東省深センや上海などを1カ月以上かけて列車で回った。
トウ氏は、「発展こそ絶対的道理だ。改革開放に反対するものは誰であろうと失脚する」などと保守派を攻撃。改革開放の再加速に執念を燃やした。
改めて中国紙が相次ぎ南巡講話を持ち出したのは、指導部交代を決める今年秋の党大会に向けた権力闘争で、トウ氏の威光を借りたい改革派の意向が働いた可能性もある。【1月19日 産経】
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【温家宝首相 「アラブの春」に理解示す】
温家宝首相や中国紙が改めてアピールする「改革開放」が、政治・社会における民主化や人権重視といった概念とどのように関係するのか、あるいは関係しないのか・・・そのあたりはよくわかりません。
ただ、中東民主化運動の波及を極度に警戒していると思われている共産党指導部にあって、温家宝首相は先月、「アラブの春」に理解を示す発言を行っています。
****「アラブの春」を支持=民衆の変革尊重、国内に波紋も―中国首相*****
中東歴訪中の中国の温家宝首相は18日、カタールで記者会見した。現地からの報道によると、温氏はデモ弾圧が続くシリア問題に触れ、「変革や利益に対する幅広い人民の要求は尊重されなければならない」と強調、民衆の民主化要求に理解を示した。
温首相は訪問したサウジアラビアやアラブ首長国連邦でも「人民の変革要求を支持・尊重する」と繰り返しており、中東の民主化運動「アラブの春」を支持する方向を鮮明にした。
一党独裁体制が続く中国では昨年2月、チュニジアなどの民衆蜂起に触発され、民主化を求めてネットで集会を呼び掛ける「ジャスミン革命」騒動が起きた。共産党大会を今秋に控え、党・政府が民衆の決起に神経をとがらせる中での温氏の発言は異例と言えるもので、中国の政治改革を求める知識人や市民に波紋を広げそうだ。【1月19日 時事】
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もっとも、温家宝首相のこうした姿勢は、共産党指導層の中では主流とは言い難いのでは・・・とも思われます。温家宝首相も任期終わりに近づき、言いたいことは言っておこうというところでしょうか。あるいは、水面下で行われている権力闘争の一環でしょうか。
「アラブの春」を巡っては、今日開かれたミュンヘン安全保障会議で、アメリカ大統領をオバマ氏と争ったマケイン上院議員と中国外交部の間で、激しい応酬があったようです。
****「中国でもアラブの春」は幻想、中国外交部副部長が米議員に反論―ミュンヘン安保会議****
2012年2月6日、ドイツで開催された第48回ミュンヘン安全保障会議で、中国と米国が一触即発の事態となる場面がみられた。シンガポール華字紙・聯合早報が伝えた。
きっかけは、ジョン・マケイン上院議員が北アフリカ・中東の民主化運動「アラブの春」が中国に飛び火することは避けられない、と発言したこと。これに中国外交部の張志軍(ジャン・ジージュン)副部長が「いわゆる『中国でもアラブの春が起きる』という見方は幻想に過ぎない」と反論した。
張副部長は「中国の平和的発展に対する決意を見くびるな」と牽制。「中国は今後、地域平和と世界の平和・安定にさらなる貢献を果たす。独り勝ちするつもりはないし、排他的な地域秩序を構築するつもりも能力もない」と強調した。中国共産党機関紙・人民日報はこの時の様子を「中国と米国が価値観問題で矛を交えた。会場の雰囲気は火薬臭でいっぱいになった」と報じた。
また、張副部長は「アラブの春」が中国に飛び火する可能性について、「彼らとは政策が異なる」と一蹴。「西側の機関が実施した政府に対する満足度調査でも、中国政府は70%を超える高い満足度で1位を獲得している。これほど支持されている理由は簡単だ。改革開放から30数年の成果を見て欲しい。そうすれば『中国でもアラブの春』という見方が幻想に過ぎないことが分かるだろう」と胸を張った。【2月6日 RecorsChina】
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マケイン上院議員も簡単に「アラブの春」が中国に飛び火するとは思っていないでしょうが、“ジャスミン革命”を必要としている現在の共産党一党支配体制への批判としての物言いでしょう。
【“異例”の成果、広東省烏坎村】
“改革開放から30数年の成果”とのことで、再び“改革開放”ですが、中国の政治・社会面において山積する問題点は今更言うまでもないところです。
最近、共産党の指導ではなく、住民側の戦いで異例の成果を勝ち取ったとされるのが広東省烏坎村のケースです。
****民主的選挙に向け第一歩、中国・烏坎村****
中国で昨年12月、地元の共産党当局に対する抗議行動が全国規模の注目を集めた広東省烏坎村で1日、住民が「この村で初めて」と呼ぶ公正で民主的な選挙へ向けたプロセスの鍵となる一歩が踏み出された。
烏坎村の住民は12月、地元共産党当局の土地をめぐる汚職に対し、1週間以上に及ぶ抗議行動の末、中国では珍しく地元当局の譲歩を勝ち取った。その際に住民たちは、当局から自由な村民選挙を実施する約束も取り付けた。
一党独裁の中国では国民が指導者を選ぶことはできないものの、全国の村民委員会に限って、住民の投票による代表者選出を認めている。だが烏坎村では、その村民委員会の選挙もきちんと行われたことがなく、村の指導者たちが非公開で委員たちを選んできたと住民は訴えていた。
しかし今回初めて、烏坎村の住民は3月に予定している村の選挙へ向けて、それを監視する独立選挙委員会の委員を村民投票で選出した。
地元自治体に近い村民は1日の選挙委員会選出について、「透明性の高い、開かれた、公正な選挙を実施するプロセスの一環だ」と歓迎した。(中略)【2月5日 AFP】
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抗議行動を受けて行われた広東省による汚職調査の結果、政府は住民の不満が妥当であると認め、2011年に実施された同村幹部の選挙は無効とされています。
広東省烏坎村のケースが話題となるのは、これが“異例”だからです。
中国の政治システムの現状は下記記事の状況です。
****封じ込められた「独立候補」=市民政治、進展の声も―北京で直接選挙投票・中国****
中国の北京市で8日、市の下部行政単位である区・県の人民代表大会(人代)代表(議員)選挙の投票が行われた。今年は共産党や政府系団体の支持を受けない「独立候補」が急増したが、当局によって徹底的に封じ込められ、当選どころか最終候補者にも残らなかった。しかし独立候補を後押しした関係者は「今回の選挙を通じて市民の政治への参加は進展した」と解説した。
中国の末端人代代表は住民の直接選挙で選ばれる仕組みで、北京市ではこの日、区・県の代表として4349人を選出。特に今年はミニブログ「微博」などで立候補を宣言したり、選挙活動を報告したりするケースが急増したのが特徴で、北京の独立候補は50人以上に達した。
共産党・政府は人代代表選挙について、表向きは「一人ひとりが手にある貴重な民主権利を大事にしよう」(7日付中国紙・北京日報)と呼び掛ける。しかし独立候補に関しては、市民が団結して一党独裁体制を突き崩す動きととらえ、警戒を強めた。独立候補を拘束したり外出禁止にしたりしたほか、微博での発信を削除し、選挙活動を妨害し続けた。【11月8日 時事】
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「独立候補」が急増していることは、中国の政治体制に変革が迫られている結果とも思えます。いつまで共産党指導部がこうした動きを抑え込むつもりなのか・・・。
【「正常でない陳情行為を処罰することは、社会の秩序を維持するものであり、正しいことだ」】
最近目にした記事で、暗澹たる印象を残したのが、地方からの陳情者を“さらし者”として処罰している地方政府の実態を紹介したものです。
地方からの陳情者が北京に多く集まり、なかなか当局に取り上げられない実態はよく聞いていますが、“さらし者”とは・・・・。まるで、悪徳代官の不正を糾弾した直訴首謀者が処刑される江戸時代以前の話のようでもあります。
****陳情したら、さらし者 中国、「秩序乱した」と糾弾****
取材を始めたきっかけは1枚の写真だった。
広場でスーツ姿の男性がマイクを前に演説をしている。その後ろの横断幕にはこう書かれていた。
「陳情に関する違法行為の公開処理大会」
一昨年3月、中国西安市郊外の富平県で撮影された。県政府への不満を訴えようと北京に陳情に行った女性2人を、公開の場で糾弾する集まりだった。
集会は県政府庁舎前の広場で開かれ、地元の司法当局幹部がずらりと顔をそろえた。大勢の住民が集まる中で2人は「さらし者」にされ、地元テレビはその模様を放映。写真は政府のホームページに掲載された。(中略)
集会では2人の「違法行為」の内容が読み上げられた。「違法陳情で秩序を乱した。天安門広場での陳情ビラ散布を計画していた……」。40分にわたり責め立てられた。オレンジ色のジャケットを着た段さんは警察官に両腕をつかまれ、群衆の中で、ぼうぜんと立つしかなかった。
段さんは友人とその1カ月ほど前から北京に行き、区画整理で収用された農地の補償を求め、最高裁や最高検に陳情を繰り返していた。中国語で「上訪(シャンファン)」と呼ばれる中央への陳情は、法的に認められたものだ。
集会の前夜、宿泊先のホテルに北京の警察官が踏み込んできた。連行された派出所で県の司法当局に引き渡された。そのまま地元に連れ戻され、広場に引きずり出されたという。
段さんは集会後、「行政警告」との処分を受け、釈放された。しかし、屈辱感は癒えない。「私は何も間違ったことをしていない。あまりにも非人道的だ」
◇
1960~70年代の文化大革命を思い起こさせる公開批判集会。中国には「公開批判」による処罰の規定はなく、中央政府は80年代から開催禁止を再三呼びかけている。それでも地方では「司法の公開」などとして後を絶たない。以前は強盗や殺人、薬物犯などが対象だったが、ここ数年は反政府的な行為をとる人々への手軽な「見せしめ刑」として広がりを見せている。
(中略)
■指導者、出世への影響意識
地方当局が公開批判集会を開くのは、つるし上げることで、陳情を繰り返すのをやめさせるためだ。北京の人権派弁護士は「多くの市民に北京への陳情を踏みとどまらせる効果もある」と波及効果も指摘する。
北京市南部に陳情を受ける政府機関「国家信訪局」がある。庁舎前はいつも地方からの陳情者であふれる。中央への陳情は、当局者が絶大な権力を持つ中国で、市民がその間違いを正す数少ないチャンネルだ。「この世に正義はないのか」。道路沿いの壁には陳情者たちが書いた訴えの文字が並ぶ。
幹部の腐敗問題を扱う規律検査当局には、年間140万件前後の訴えが寄せられる。中央政府は「適切に解決し、社会の安定維持に努めるべきだ」(最高人民法院常務副院長)と積極的な対応を求める。不満を解消し、大規模な政府批判の芽を摘み取る狙いだ。
地方の指導者は全く別の発想だ。陳情者が北京で騒動を起こせば、自らの政治的な業績に傷がつく。汚職などにからんだ場合はなおさらだ。しつこい陳情は連行して封じ込める方が手っ取り早い――。
北京大学法学部の姜明安教授は「地方指導者は大きな圧力を受けている。問題が起これば出世できない」と説明する。連行正当化のため、独自の規定を設けて北京への陳情を制限しようとする地方政府もある。(中略)
一昨年に公開批判集会を開いた富平県当局は、人民日報系のサイト「人民網」で、集会の正当性をこう訴えた。「正常でない陳情行為を処罰することは、社会の秩序を維持するものであり、正しいことだ」
北京のある司法関係者は言う。「違法陳情というだけで何年も刑務所に入れておくわけにもいかない。陳情常習者に対し『面倒をかけやがって』との思いが地方役人にあるのは間違いない」【1月30日 朝日】
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温家宝首相が強調する“改革開放”は、こうした現状に変革をもたらすものなのでしょうか。
(昨年10月11日 首都キエフの地区裁判所で、在任中の職権乱用の罪で禁錮7年の実刑判決を言い渡されたティモシェンコ前首相 “flickr”より By inphoto.com.ua http://www.flickr.com/photos/cyberpunkzzz/6236677399/ )
【ウクライナ国内の死者は計101人】
南国・鹿児島でも厳しい寒波で、一昨日はマイナス5.6℃まで気温が下がり、水道管の凍結などで大騒ぎでした。
昔はよく経験しましたが、最近ではあまり記憶にないことです。
報じられているように、中東欧の寒波はもっと厳しく、欧州全体の死者は260人以上【2月5日 AFP】に上っています。
****中東欧で大寒波、死者増加 ****
ロンドン(CNN) 欧州の広範囲を覆っている大寒波の影響で、中東欧では、3日に厳しい寒さによる死者の増加が相次いで報じられた。
最も被害が大きいのはウクライナで、その他にもポーランド、ルーマニア、セルビア、ベラルーシが例年をはるかに凌ぐ厳しい冬の寒さに苦しんでいる。
ウクライナでは、過去24時間で38人が低体温症により死亡したと国営通信社ウクルインフォルムが伝えた。これで1月27日に始まった大寒波によるウクライナ国内の死者は計101人に達した。しかし、ウクライナの首都キエフの気温は低下し続けており、3日朝の気温はセ氏マイナス27度まで下がった。気温がセ氏マイナス15度を下回ったのは9日連続となる。
またポーランドでも2日の時点で29人が死亡したと地元ラジオ局が伝えた。さらにセルビアやルーマニアなどでもこの1週間で寒さによる死者が報告されている。
セルビアでは23の市町村が大雪により非常事態を宣言したと国営タンユグ通信が3日に伝えた。セルビアでは寒さにより6人が死亡、1人が行方不明となっている。現在、約1万1500人が大雪の影響で外界から遮断された状態にあるという。
国際赤十字は、緊急事態対策の支援金として災害救援基金から約10万8000ユーロ(14万1000ドル)を拠出した。その資金の3分の1はベラルーシに、3分の2はウクライナに配分されるという。しかし、生活必需品の購入費やボランティアの人たちを輸送する車の燃料費、さらに情報提供活動の費用を支援するためにさらなる資金が必要だとしている。【2月4日 JST】
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南欧・イタリアでも、ベネチアで氷点下5度を記録し、運河が凍り始めたとか。ローマの市街地も雪に覆われ、円形闘技場コロッセオなどの観光名所が閉鎖されたそうです。
また、チェコ南西部では氷点下38・1度を記録。寒さはさらに数日続く見通しのようです。【2月4日 読売】
【ロシア、天然ガス供給を操作?】
この寒波に関連して、ちょっと気になるニュースも。
****ロシアからのガス供給減少=寒波の中、8カ国で―EU****
寒波に見舞われた中・東欧を含む欧州連合(EU)の8カ国で、ロシアからの天然ガス供給が減少していることが3日、欧州委員会の調査で分かった。EUはガス調達でロシアに大きく依存しており、寒波に伴う凍死者が増え続ける中、暖房の熱源となるガスの供給減が長引けば、深刻な影響をもたらす可能性もある。
欧州委によると、ロシア産ガスの供給減はポーランドやオーストリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアなどで確認。オーストリアでは減少率が一時3割に達したという。
一方、ロシアからの報道では、同国国営天然ガス独占企業ガスプロムの幹部は、今冬のEUの需要が増えただけで、契約に基づく供給を続けていると反論した。【2月4日 時事】
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ロシアも厳しい寒波に襲われていますので、自国の需要を優先させたのでは・・・と思われます。
もしそういうことであれば、協議もなく一方的にエネルギー供給を調整してしまうロシアのやり方は、「やはりロシアという国は・・・」という感を抱かせます。
【ロシア寄りを強めるウクライナ】
今回寒波で100名を超える最大の犠牲者を出しているのがウクライナですが、ウクライナでは現在、ティモシェンコ前首相が職権乱用罪で禁固7年の判決を受け収監されています。
収監施設に暖房などはあるのでしょうか?日本では、寒冷地の刑務所には暖房設備があるようですが。
そのティモシェンコ前首相の娘が米議会で、厳しい収監状態、体調不良を証言しています。
****「ウクライナの自由に危機」=前首相の娘、米議会で証言*****
職権乱用罪で収監されているティモシェンコ前ウクライナ首相の娘エウヘニアさんが1日、米上院外交委欧州小委員会で証言し、「ウクライナの自由は深刻な危機にある」と述べ、ヤヌコビッチ大統領を厳しく非難した。
エウヘニアさんによると、ティモシェンコ氏は収監後も厳しい取り調べを受け、睡眠も制限されるなどして健康が著しく悪化。先月、ウクライナ東部ハリコフの刑務所で一時意識不明に陥り、死亡する可能性があったにもかかわらず、家族に連絡があったのは3日後だったという。
エウヘニアさんは「不幸にもウクライナは独裁政権に変わった。母が選挙への出馬を認められれば、ウクライナをソ連時代に逆戻りさせない」と述べ、早期釈放に向けヤヌコビッチ政権に圧力をかけるよう求めた。ホワイトハウスや国務省当局者とも面会し、支援を要請するという。【2月2日 時事】
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なお、ティモシェンコ前首相の夫オレクサンドル・ティモシェンコ氏がチェコに政治亡命を申請したことが、1月6日、チェコの外相から公表されています。
これまでウクライナは、EUやNATO加盟を目指すなど欧米との接近を図っていましたが、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領に変わり、当初は東西間のバランスをとっていましたが、政敵ティモシェンコ前首相実刑判決に対する「政治的判決だ」との西側からの批判を受けて、ロシア寄りの姿勢を強めています。
昨年10月には、ロシア主導する旧ソ連8カ国の自由貿易圏条約にウクライナも署名しました。
この自由貿易圏条約は、ロシアのプーチン首相が提唱したソ連圏再編とも目される「ユーラシア連合」の第1歩とも見られています。
プーチン首相の大統領復帰で、“ソ連時代に逆戻り”ということが加速するのでしょうか?
(1月5日 南スーダン・ジョングレイ州 ロウ・ヌエル族の襲撃を避けて避難したムルレの人々 “”より By unpeacekeeping http://www.flickr.com/photos/unpeacekeeping/6648334449/ )
【「戦争をせざるを得ない状況になればする」】
昨年7月にスーダンからの分離独立を果たした南スーダン共和国。その財政の唯一の柱は石油です。
しかし、南スーダン産の原油の輸出にはスーダンを通るパイプラインやスーダンの輸出港を使用する必要がありますが、その使用料をめぐって両国の対立が過熱。
スーダンが原油を差し押さえたことに対抗して、南スーダン政府は1月20日、同国での原油の生産を段階的に停止すると発表しています。
もちろん、南スーダン側も対策を考えていない訳ではなく、スーダンを経由しないケニアへの輸送ルートの建設がケニアとの間で合意されています。
*****南スーダン:ケニアと石油パイプライン建設に合意*****
昨年7月にスーダンから分離独立した南スーダンと、南隣に位置するケニアの両国政府が今月24日、南スーダンからインド洋に面するケニア東部ラムへ通じる石油パイプライン建設に合意する覚書に署名した。
南スーダンからの石油輸出ルートは現在、北のスーダンを通る既存パイプラインに限定され、原油権益の分配を巡る南北スーダン間の対立が続いている。南スーダンは、新パイプライン建設でスーダンからの依存脱却を目指す意向を示した形だ。
AFP通信によると、覚書は南スーダンからケニアへ石油パイプラインと光ファイバーケーブルを建設するという内容。南スーダンの首都ジュバでキール南スーダン大統領とケニアのオディンガ首相が立ち会い、署名。建設時期や受注企業は明らかにされていない。
国連平和維持活動(PKO)のため陸上自衛隊先遣隊が入った南スーダンは、独立以前の南北スーダン全体の約4分の3にあたる豊富な油田を抱える。南北内戦終結の包括和平合意(05年)でいったんは権益を南北で折半すると決めたが、南スーダン独立後、北部スーダン側にあるパイプラインや輸出港の使用料などを巡る交渉が暗礁に乗り上げている。【1月30日 毎日】
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ただ、実際に稼働するのはしばらく先の話ですので、当面はスーダンとの関係改善が急務となりますが、スーダンとの間には、パイプラインや輸出港の使用料だけでなく、分離独立に伴う債務の分配方法、国境線、スーダンに住む南スーダン出身者の国籍問題、反体制派への支援、南北の境界にある油田地帯アビエの帰属問題.など難問が山積しています。
スーダン・バシル大統領側からは、「戦争をせざるを得ない状況になればする」といった穏やかならざる発言も出ています。
****スーダン大統領、南スーダンとの戦争「ありうる」****
スーダンのバシル大統領は3日、原油を巡って火種を抱える南スーダンとの戦争の可能性について「ありえる」と、国営テレビのインタビューで発言した。AP通信などが報じた。
バシル大統領は「今の雰囲気は、平和というよりも戦争だ。戦争をせざるを得ない状況になればする」と述べ、原油問題の解決に南スーダンが歩み寄らないと批判した。一方で「(戦争を)主導的には行わない」とした。
南スーダンは20年以上の内戦を経てスーダンから昨年7月に分離独立。だが、国境付近の産油地帯の帰属や原油利益の配分が未解決になっている。南スーダンの原油は、スーダンを通るパイプラインを通って輸出されてきた。南スーダンは1月末、スーダンが法外な輸送料を要求しているとして原油の生産を全面停止。スーダンを「泥棒」と断じた。さらに独自のパイプライン建設の計画を明らかにしたため、両国の緊張が一気に高まった。【2月4日 朝日】
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“もっとも、長年の内戦を経てようやく分離を果たした南北スーダンが、再び本格的な戦争に突入する可能性は低いだろう。過去50年の大半を戦闘に費やしてきた両国は、戦争がもたらす人的・経済的犠牲の大きさを熟知している”【1月31日 Newsweek】というのが、常識的な判断ではありますが・・・・。
なお、両国関係の緊張で、スーダン政府軍と南スーダン支持の反政府勢力の間で武力衝突が続いているスーダン南部エリアでは、混乱による飢餓の発生も懸念されています。
****飢餓、50万人に影響も=スーダン南部地域****
米国連代表部は16日、安保理議長国の南アフリカに書簡を送り、南スーダンと国境を接するスーダンの南コルドファン、青ナイル両州で、武力衝突により飢餓の危険が高まり、50万人に影響が出る恐れがあると指摘した。安保理外交筋が明らかにした。
書簡は、飢餓の深刻度を示す5段階のうち両州では3月にも最も深刻なレベルに次ぐ「緊急事態」へと悪化するだろうと強調。人道援助機関が現地で自由に活動できるようにする必要性を訴えた。両州では政府軍と南スーダン系武装勢力の衝突が続いている。【1月17日 時事】
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【犠牲者の規模もわからず、救済も困難】
南スーダンが抱える問題は、こうしたスーダンとの緊張関係だけではありません。
以前も取り上げたように、家畜の強奪や村人の誘拐をめぐり部族衝突が続いています。
****南スーダンでまた民族衝突、51人死亡****
家畜の強奪や村人の誘拐をめぐり民族衝突が激化している南スーダン東部ジョングレイ州で16日夜、新たな襲撃があり、少なくとも51人が死亡した。
知事によると、武装集団が夜間に同州北部ドゥク・パディエ村を襲撃し、家々に火を付け、女性と子供と高齢者を中心に51人を殺害した。また、負傷者22人が首都ジュバに避難したという。
南スーダン政府は同州に「人道危機」を宣言している。また国連は、一連の民族衝突で6万人が支援を必要としているとして、緊急援助に乗り出した。【1月18日 AFP】
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この地域では、ムルレ族とロウ・ヌエル族の間で、牛の強奪、報復の襲撃が繰り返されています。
1月11日にも、ロウ・ヌエルが住む村をムルレ60人ほどが武装して襲撃し、ウシ2万頭を連れ去ったと報じられています。この襲撃で57人が死亡、53人が負傷したそうですが、死者の大半は女性と子どもで、男性は11人だけだったとか。【1月13日 AFP】
1月初めには、ロウ・ヌエルの武装した若者最大8000人がムルレの住むピボル郡を襲撃し、3000人以上を殺害したとの驚くべき報告もありましたが、後に、国連南スーダン派遣団のジョンソン特別代表は、誤報だったとみられるとこれを否定しています。
ただ、3000人規模の大虐殺はなかったとしても、報復の連鎖で相当数の犠牲者が出ていることは間違いないようです。
3000人規模の虐殺があったかどうかについて、“誤報だったとみられる”といった一片の記事ですまされるあたり、1月7日ブログ「南スーダン、牛争いから大量虐殺 アフリカで繰り返される虐殺」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120107)で書いたように、“ゴリラ殺害のニュース以下”の扱いです。
被害規模がわからないなど情報も正確に伝わらないぐらいですので、救援活動も難しい状況です。
****民族紛争激化で支援届かず 南スーダン****
■犠牲者の数つかめず
ジョングレイ州では昨年12月末、ロウ・ヌエル族の武装集団数千人がムルレ族の村々を襲撃したことを契機に双方の応酬が激化した。南スーダン政府は同州が「人道危機」の状況にあると宣言。国連が推計する人道支援が必要な市民は12万人に上る。
日本の陸上自衛隊は治安確保という制約があるため、同州での活動は想定されていない。120キロ以上離れ、比較的治安が安定しているジュバ周辺でインフラ整備を行う。
一方、国連南スーダン派遣団(UNMISS)は、全武装部隊の半数の3千人を同州に派遣し、事態の収拾に努めている。ただ、同州は面積が約12万平方キロメートル(日本の約3分の1、バングラデシュとほぼ同じ)の広さで、道路などの交通インフラはほとんどなく、難航している。
昨年末から3千人以上が死亡したとの情報もあるが真偽は不明だ。ヒルデ・ジョンソン事務総長特別代表によると、死者数の規模は把握できないという。
ジョンソン氏は「武装集団は昼夜問わず、どこに現れるかわからない。市民を保護するのが極めて困難な状況だ。すべて防ぐには、国連でかつて認められたことのない軍事力が必要だ」と語った。【1月28日 朝日】
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混迷する南スーダン情勢にあって、日本陸自のPKOが社会の安定に少しでも貢献できれば幸いですが・・・。
万一、日本のPKO部隊が混乱に巻き込まれた場合、どのように対応するかについても考えておく必要があります。ルワンダのジェノサイド、スレブレニツァの虐殺といった事例もあります。
(パキスタンの支援で、米軍のアフガニスタン撤退後の復権を狙うタリバン “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6806132149/in/photostream)
【「パキスタン軍が拘束することは不可能だろう」】
アフガニスタン及びパキスタンに関することで、今まで事実としては広く知られていたものの、公式には明らかにされていなかったふたつの事柄が改めて公表・公認されました。
ひとつは、パキスタン北西部の部族地域に潜伏するアルカイダに対し、アメリカが無人機を使った攻撃を行っていることです。
オバマ大統領がネット中継のインタビューに参加したユーザーの質問に答える形で認め、「使用には細心の注意を払っている」と説明したそうです。【1月31日 時事より】
****オバマ米大統領、パキスタン領内での無人機攻撃を認める****
バラク・オバマ米大統領は30日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの戦闘員掃討を目的に、米国の無人機がパキスタン領内で攻撃を行っていたことを認めた。
オバマ大統領がグーグルプラスやユーチューブのチャットで、ユーザーから米軍無人機について尋ねられて答えたもので、米政権がパキスタン国内での無人機攻撃を正式に認めたのは初めて。
ユーザーの質問に対し、オバマ大統領は「多くの攻撃がFATA(パキスタンの連邦直轄部族地域)で行われている」と答え、「アルカイダの工作員らはパキスタン軍の手が届かない場所に点在しており、パキスタン軍が拘束することは不可能だろう」と説明し、ほぼ無法地帯化している部族地域が対象となっていることを認めた。
■無人機攻撃で反米感情高まる
米政府関係者らは、10年におよぶアフガニスタンでの戦闘で、パキスタンの部族地域がタリバンや欧米攻撃を画策するアルカイダなどの潜伏地になっていると主張している。
米政府はこれまで無人機による攻撃の事実を公式に認めてこなかったが、オバマ政権がアフガニスタンに駐留する外国軍の2014年末までの完全撤退を目指す中、無人機による攻撃は急増している。
一方のパキスタン政府も、国内での反発をよそに米軍の無人機攻撃に同意してきたと理解されている。実際、2004年以降、アルカイダやタリバンの工作員や戦闘員ら多数が無人機攻撃で死亡した。
だが、無人機攻撃に反発するパキスタン国民の間で反米機運が高まり、ことに前年11月に米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍による誤爆でパキスタン軍兵士24人が死亡したことで、反米感情はさらに高まった。
米軍とNATOは、この誤爆の原因はNATOとパキスタン軍側双方の不十分なコミュニケーションと、過失が重なったことだったと結論づけた。しかし、誤爆は意図的なものだったと主張しているパキスタン側はこの調査結果を受け入れていない。
パキスタン政府は米国との同盟関係を見直しているほか、アフガニスタンに通じるNATO軍の補給路を2か月前から閉鎖している。さらに、米中央情報局(CIA)による無人機の攻撃拠点とみられていたバルチスタン州シャムシ空軍基地からの米部隊の撤退を要求した。パキスタンは補給路の再開にあたって、輸送物資に特別税を課すことを条件にするとみられている。【1月31日 AFP】
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無人機攻撃自体は周知の事実ですが、NATO軍誤爆事件で補給路が閉鎖されているように、パキスタンとの関係が極めて悪化しているこの時期に公表された理由はわかりません。
それにしても、ネット中継、チャットの質問への答えで・・・というのが、いかにもアメリカ的です。入念な下準備があっての問答でしょうか?
これまでは、国民の強い反米感情や主権侵害に絡むパキスタン軍の面子もあって公にはされてきませんでしたが、軍部との対立で窮地に立たされているザルダリ政権にとってはプラスにはなる話ではないでしょう。
アメリカへの抗議姿勢も見せないといけないでしょう。これまでの黙認についての国民世論からの批判もあるでしょう。
【補給路遮断で代替ルート輸送費急増】
NATO軍補給路閉鎖問題について、上記記事では、輸送物資に特別税を課すことを条件に再開の可能性が報じられていますが、代替ルートで輸送コストが急増しているNATO、アメリカ側としては、多少の特別税なら・・・というところでしょうか。
****アフガン米軍、輸送費急増 パキスタンが補給路遮断****
アフガニスタンに展開する米軍の物資輸送費が急増している。最大の補給ルートが通るパキスタンが、国際治安支援部隊(ISAF)による越境攻撃で自軍兵士に犠牲が出たことに抗議して、輸送を遮断。遠回りの補給路を使わざるを得ないためだ。この状態が続けば、アフガンでの作戦に影響が出るおそれもある。
パキスタンは2001年、米国主導の対テロ戦争への協力を表明して以来、隣国アフガンに展開する米軍やISAFへの補給路を提供してきた。南部カラチ港を起点に、北西部のカイバル峠を越えてアフガンのカブールへ入るルートと、パキスタン南西部からアフガン南部カンダハルへ向かう二つのルートがあった。
いずれも、外国軍部隊を敵視するタリバーンなど武装勢力の活動が活発な地域を通るため、08年には北西部ペシャワル近郊でトラックターミナルが襲われ、160台以上が焼き打ちに遭うなど、攻撃にさらされてきた。
米軍などは代わりに、ロシアなどからウズベキスタンを通ってアフガン北部へ入るルートの整備を急いだが、なお3割がパキスタン経由だった。
パキスタン側が協力姿勢を一転させたのは昨年11月末。ISAFの越境攻撃で同国の兵士24人が死亡した事件の報復措置として、物資輸送を遮断。武装勢力掃討作戦に携わる米軍無人偵察機の出撃拠点となっていた南西部の空軍基地に駐在する米政府要員の撤収を要求した。米国側は昨年12月、要員撤収に応じたが、無人機攻撃は今月上旬に再開した。
代替ルートとなるウズベキスタン経由は輸送距離が長く、米軍は空輸も増やしたとされる。AP通信は19日、米国防総省から得た情報として、1カ月間で約1700万ドル(約13億円)だった輸送費が、約1億400万ドル(約80億円)と約6倍に跳ね上がった、と報じた。
パキスタンが再び通過を認めるかどうかは不透明な情勢だ。越境攻撃について、米側が昨年12月に出した調査報告書で、「パキスタン軍が先に仕掛けた」「適切な自衛行為」と結論づけたことに、パキスタン側は強く反発。仮に通行を認める場合でも、輸送路の維持管理に多額の費用がかかっているとして、通行料を求めることも検討している。
米国防総省は公式には軍事作戦に影響はないとの立場だ。カービー副報道官は「補給路が恒久的に閉鎖された場合、輸送費は2.5倍になるとの試算があるが、現時点では大幅なコスト上昇は関知していない」と指摘した。パキスタン政府が3月に補給路を再開するとの報道もあるが、カービー氏は「まだ最終決定は聞いていない」とし、閉鎖の長期化に懸念をにじませた。
一方、輸送路通行止めのあおりで、アフガンへ食料品を運ぶ民間トラックにも影響が出始め、アフガン側の市場で鶏肉の価格が上がるなど、庶民の生活にもしわ寄せが出ているという。【1月29日 朝日】
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内陸国アフガニスタンにとって、パキスタン経由の輸送は物流の大動脈であり、“アフガンへ食料品を運ぶ民間トラックにも影響”というのが懸念されます。
【「パキスタンはタリバン幹部の居場所を把握し、絶えず操っている」】
最近明らかにされたもうひとつは、パキスタンによるタリバン支援です。
こちらもかねてより広く指摘されていたところではありますが、今回、NATOの内部報告書という文書の形で報告されたそうです。
ただ、NATO軍スポークスマンによれば、NATOとしての分析報告ではなく、拘束されたタリバン兵士の供述報告だとのことです。
パキスタン軍としては、公には認められないことですので、当然否定しています。
ただ、いつも思うのですが、アフガニスタンでの戦闘のパートナーであるべきパキスタンが、闘っているタリバンを支援している最大スポンサー・黒幕であるということを、当のアメリカはどう考えているのでしょうか?
パキスタン軍としては、先の無人機攻撃にしても、このタリバン支援しても、公にはしたくない問題でしょう。
****「パキスタン今もタリバーン支援」 NATO報告書指摘****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンが今もパキスタンから支援を受けている、と北大西洋条約機構(NATO)の内部報告書で指摘されていた。英BBCなどが1月31日伝えた。パキスタン側はこの報道内容を否定した。
パキスタンの情報機関、軍統合情報局(ISI)がタリバーンを支援しているとの指摘はこれまでも繰り返されてきた。ただBBCは、両者の関係が文書で明らかになったのは初めてとしている。
報告書は、拘束した4千人以上のタリバーン兵らに尋問して作られた。パキスタンはタリバーン幹部の居場所を把握し、絶えず操っていると記している。【2月1日 朝日】
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パキスタンのタリバン支援は、米軍撤退後のアフガニスタンにおいて、インドに対抗する形で自国の影響力を行使するため・・・というのが大きな理由とされています。
パネッタ米国防長官は1日、アフガニスタン駐留米軍の戦闘任務を13年半ばから後半までに終了させ、アフガニスタン治安当局の訓練や支援に任務を切り替える考えを明らかにしていますが、パキスタンのタリバン支援が変わらない限り、アフガニスタンの安定は難しいように思われます。
【ザルダリ大統領の政権維持の秘訣】
安定しないのはアフガニスタンだけでなく、パキスタンのザルダリ政権が軍部・司法によって追い込まれていることは、これまでも取り上げたとこです。
ザルダリ大統領の汚職疑惑をめぐり、最高裁は2日、大統領を訴追しない姿勢を示しているギラニ首相を法廷侮辱罪で13日に起訴すると決定したとのことで、いよいよ“正念場”を迎えています。
****最高裁、ギラニ首相起訴へ=ザルダリ政権、正念場―パキスタン****
パキスタン最高裁は2日、ギラニ首相が最高裁の命令に反し、ザルダリ大統領の過去の汚職疑惑に対する捜査再開を拒否しているとして、同首相を13日に法廷侮辱罪で起訴する方針を明らかにした。ギラニ首相が今後、有罪を宣告されて失職する事態も現実味を帯びており、ザルダリ政権は正念場に立たされた。
最高裁はギラニ首相の起訴によって、ザルダリ政権と対立を続けている軍部を事実上、側面支援し、本格的な政治介入に乗り出したことになる。ザルダリ大統領は支持率低迷にあえぎながらも、政権を維持しているが、今後は野党の早期辞任要求など圧力が強まると予想される。【2月2日 時事】
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もっとも、党内基盤も弱く、軍部の支持もない、国民的人気が高いとも言えないザルダリ大統領がここまで持ちこたえていることの方が不思議です。その思いは私だけではなかったようです。
****ピンチ連続一転 長期政権 パキスタン・ザルダリ大統領の謎****
軍や最高裁との対立が絶えず、国民からの支持も低いといわれるパキスタンのザルダリ政権が、発足当初の多くの予測に反して長期政権になる可能性が出てきた。ザルダリ大統領の政権維持の秘訣(ひけつ)は何か。
◆下院をがっちり確保
「2008年9月の大統領就任時、3カ月はもたないと思われていたのに。彼は強運だ」と、政治・軍事アナリストのタラト・マスード氏は驚きを隠さない。
同国の文民政権は1970年代のズルフィカル・アリ・ブット政権以来、任期を満了したことがない。ときには軍事クーデターの前に倒れ、多くが短命に終わってきた。ザルダリ大統領-ギラニ首相のコンビは政権発足から4年目に突入し、同国では長期政権の域に入っている。
ザルダリ氏は、2007年12月に暗殺されたベナジル・ブット元首相の夫で、「偶発的に大統領になった」と揶揄(やゆ)される人物だ。ブット首相時代には、夫の立場を利用して賄賂を手にしたとして「ミスター10%」の悪名で呼ばれた。1996年にブット氏が失政や腐敗を追及されて首相の座を追われる直前に汚職容疑などで逮捕され、8年間収監された。
「ザルダリ氏の強さのカギは現在の下院の勢力にある」と語るのは、主要英字紙ドーンのコラムニスト、シリル・アルメイダ氏。下院は大統領を罷免できるが、ザルダリ氏が長男のビラワル・ブット氏とともに共同総裁を務めるパキスタン人民党(PPP)を中心とする与党勢力は強く、罷免に必要な下院3分の2以上の賛成は得られない状況にある。
◆冷静さと敵への嗅覚
ザルダリ氏は政治的なサバイバル能力も備えている。アルメイダ氏によると、野党の攻撃にも冷静さを崩さず水面下で対応し、同国で繰り返されてきた“恩讐政治”もやらない。アルメイダ氏は、「これらは誰もが知らなかったザルダリ氏の能力」と表現し、その結果、「ザルダリ氏は物事を動かすのに必要な51%の支持を獲得することができる」と話す。
一方、マスード氏は、「ザルダリ氏は敵の強みと弱みを見抜き、相手に先んじて動くことができる」と分析する。例えば、軍についてザルダリ氏は(1)国際社会は軍政を受け入れない(2)軍は武装勢力との戦いで手いっぱい(3)最大野党は軍による政権転覆を支持しない-という“弱み”を把握している。その上で、軍を試す挑発的な発言を行い、軍が反発すれば一歩退き、また挑発を繰り返して、「軍とうまく対峙(たいじ)してきた」(マスード氏)という。
◆現在の敵は最高裁
そんなザルダリ氏がいま最も気をもんでいるのが、最高裁がザルダリ氏の過去の汚職事件の審理再開手続きを進めるよう政権に要請していることだ。「現職大統領には免責特権がある」と、これを拒否するギラニ首相が有罪判決を受け、失職する可能性もある。だが、マスード氏は「どう転がっても政権が倒れることはないだろう」とみる。
「初の政権の任期全うと、次期総選挙での再勝利を目指している」(アルメイダ氏)とされるザルダリ氏。3月の上院選はPPPの勝利が有力視されており、勝利すれば、仮に年内の実施が噂される解散・総選挙があっても政権にとって追い風となる。
ただ、「パキスタンは不可解なことが起きる国」(アルメイダ氏)。長期政権の見通しを覆す事態が起こる可能性も排除できない。ザルダリ氏の「強運」が引き続き試されることになりそうだ。【1月30日 産経】
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“3月の上院選はPPPの勝利が有力視”というのも、日頃の不人気ぶりからすれば意外なことです。
ザルダリ大統領の打たれ強さ・粘り腰は、超短期政権が続く日本は見習うべきかも。
いずれにしても、パキスタン国軍のタリバン支援など、奇々怪々なパキスタン情勢ですが、国内政局も同様です。
ザルダリ大統領がギラニ首相起訴をどのように凌ぐのか・・・注目されます。
(中国から援助によって建設されたAU会議センターの落成式 “中国から援助”ということを大々的に掲げるところが中国式で、日本的“奥ゆかしさ”とは異なるところでもあります。また、中国の援助は、こうした“目に見えやすい”箱物に集中しているとの指摘も聞かれます。 “flickr”より By The Presidency of the Republic of South Africa http://www.flickr.com/photos/presidencyza/6788254899/)
【「中国人を敵視しての犯行ではない」】
アフリカへの進出を加速する中国ですが、その中国人の拉致事件が立て続けに2件発生しています。
1件目は1月28日、中国との友好関係にあるスーダンの南部、南スーダン国境沿いの南コルドファン州で発生しています。この地域は、南スーダンとの関係で反政府勢力と政府軍の衝突が続いている不安定なエリアです。
中国人作業員29名が反政府勢力に拉致されましたが、すでに安全な場所に移動し、健康状態は良好だとのことです。
****世界で多発する中国人拉致事件、スーダンにも救助隊派遣―米メディア****
2012年1月31日、スーダンの反政府武装勢力により中国人作業員らが拉致された事件で、中国側はスーダン政府に対し正式な抗議を申し立て、作業員救出のために救助隊をスーダンに派遣した。米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ(中国語版)が伝えた。
中国外交部の謝杭生(シエ・ハンション)副部長は31日、スーダン駐中国代理大使と面会。スーダンの反政府組織が28日、スーダンの南コルドファン州にある中国企業を襲撃し、29人を拉致したことに抗議を表明した。
中国国営通信・新華社は、謝副部長がスーダン代理大使・アハマド氏に対し、作業員らの安全の確保を要求し、中国政府が在外邦人の安全確保を最重要視していることを申し入れたと報道。謝副部長はまた、スーダン政府に対し、他の中国人作業員や中国企業への安全対策を要求した。
また、31日には中国からの救助隊がスーダンの首都・ハルツームに到着したことを明かしている。犯行に及んだスーダン人民解放軍(SPLA)の広報担当がケニアのナイロビで新華社の電話取材に応じ、中国人作業員はすでに安全な場所に移動し、健康状態は良好だという。
スーダン国内の報道によれば、拉致された中国人作業員のうち18人はすでに安全な場所に避難しており、首都ハルツームに向かっているという。だが、逃げ出した作業員のうち、1人の行方はわかっていない。今回の人質拉致事件はスーダンと強力な友好関係にある中国との間に大きな亀裂をもたらした。中国はスーダンにとって、最大の石油輸出国である。(後略)【2月2日 Record China】
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南コルドファン州知事は、拉致事件は中国企業が進めている、地元住民にとって“数十年来の夢”である道路建設阻止を狙った犯行だと指摘しています。
一方、犯行グループとされる「スーダン人民解放運動・北部(SPLM-N)」幹部は、「SPLM-Nは中国や中国人に反対しているのでは決してない。中国人労働者の安全を保証し、解放する」と述べ、中国人を敵視しての犯行ではないとしています。【1月31日 JP.EASTDAY.COMより】
「政府軍との激烈な戦闘を行った。中国人作業員の安全を考え移送した。拉致したのではない」との説明もされているようです。
2件目は、1月31日、エジプト・シナイ半島のセメント工場で起きています。
国営新華社通信は1日、在エジプト中国大使館の話として、全員が解放されたと伝えています。
****ベドウィンが中国人技術者25人を拉致、エジプト****
エジプト治安当局者によると、同国シナイ半島で31日、セメント工場で働く中国人技術者25人がエジプトのベドウィン(遊牧民)に拉致された。25人は同半島中部のレーフェン地区にあるセメント工場に向かう途中で拉致された。
ベドウィンらによると、25人を現在レーフェンのテント内で拘束し、周囲の道路も封鎖している。イスラム武装勢力「Al-Tawhid Wal-Jihad」が2004年から06年の間に行った一連の爆弾攻撃のうち、04年のリゾート地タバでの攻撃に関連して拘束された親族5人の釈放を要求している。(後略)【2月1日 AFP】
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【「事件の多発は中国企業が情勢の不安定な地域に進出するケースが多いため」】
中国人作業員拉致事件が頻発することについて、中国・環球時報は、“事件の多発は中国企業が情勢の不安定な地域に進出するケースが多いため”と解説しており、スーダンの拉致事件についても“内政不干渉の立場を取る中国は大多数のスーダン人に支持されている”としています。
****中国人29人がスーダンで拉致=海外で襲撃事件が多発、原因は不安定地域への進出―中国紙****
・・・・事件の絶対数こそ増加しているものの、中国からの年間5000万人という出国者数から見れば、中国人が事件に巻き込まれる割合が高まっているわけではない。専門家は、事件の多発は中国企業が情勢の不安定な地域に進出するケースが多いためだと分析する。
中国は発展途上国との協力プロジェクトを重視しているが、社会制度が整わない国では、動揺が起こった際に中国人が被害者になる可能性がある。同地域では昨年の南スーダン独立により、石油などを巡って南北の問題が複雑化しているという背景がある。
中国企業は現地でインフラやエネルギー分野の協力に従事するケースが多い。西側諸国がスーダンに対し長期的制裁を行う一方で、内政不干渉の立場を取る中国は大多数のスーダン人に支持されているが、国内には意見の異なる政治集団も存在する。身代金目的の可能性も排除できないが、今回の拉致事件はスーダン政府あるいは中国政府に対し、何らかの政治的要求をする目的で行われた可能性が高い。
中国政府は海外での中国人保護体制の拡充を進めるとともに、進出企業に対しては普段から現地政府、国民と良好な関係を構築するよう呼びかけている。【1月31日 Record China】
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【「中国はアフリカとの新型戦略パートナー関係を推し進めていく」】
資源確保・関係強化を狙った中国のアフリカ進出が急ピッチで進んでいることは周知のところで、今回の連続した拉致事件は、紛争地域をも厭わない中国進出の現状を明らかにしています。
そうした努力の成果で、中国はアフリカ最大の貿易パートナーになっています。
****中国、2011年のアフリカ最大の貿易パートナーに―中国メディア****
2012年1月30日、中国とアフリカの2011年の貿易総額は1600億ドル(約12兆2000億円)を超え、中国はアフリカにとって最大の貿易パートナーとなった。人民日報(電子版)が伝えた。
中国の孫海潮(スン・ハイチャオ)駐中央アフリカ大使が27日、中国・アフリカ関係説明会および新春記者招待会で明らかにした。アフリカに投資する中国企業も2000社を超えたという。
また、賈慶林(ジア・チンリン)全国政協主席が29日、エチオピアで開幕した第18回アフリカ連合(AU)首脳会議に出席したことを挙げ、「中国の指導者が辰年最初の訪問先にアフリカを選び、AU首脳会議に出席しことは、中国とアフリカの『新型戦略パートナー関係』の深化と発展途上国の団結・協力に重要な意義を持つ」と指摘した。 (中略)
孫大使は「2011年は中国とアフリカにとって大きな発展の年となった」とし、「国際情勢がどのように変わっても、中国はアフリカとの新型戦略パートナー関係を推し進めていく」と強調した。【1月30日 Record China】
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上記記事にもある、AU首脳会議に出席した賈慶林全国政協主席は、過去にAU首脳会議に参加した中国高官の中で最高位です。
また、中国はAU会議センター建設に2億ドル(約153億円)を援助し、更に、AUへの今後3年間で6億元(72億円)の追加無償援助を表明するといった力の入れようです。
“賈氏は(AU会議センター)落成式で「センターは新世紀の中ア関係が発展を深める象徴だ」と述べ、AU議長のヌゲマ赤道ギニア大統領は「アフリカには『建物は愛の表現』という言葉がある」と応じた。”【1月30日 朝日】
【「嫌われる理由」:経済分野におけるルール無視や生活面での悪い習慣】
ただ、こうした中国のアフリカ進出に対し、人権問題や民主化を無視した、みさかいのない資源目当ての進出といった批判的な論調が欧米側にはあります。
また、中国からのモノ・人・カネの流入が、地元住民の生活向上に繋がっていない、地元民・地元社会を無視している・・・との、アフリカ現地での批判もあります。
この「嫌われる中国人」のイメージについて、09年末に中国側からのリポートが公表されています。
****欧州でアフリカで「ひどく嫌われる中国人」…祖国の政府「なぜだ」****
中国政府・僑務弁公室はこのほど、国外における中国系住民のイメージを扱ったリポート「海外同胞の文明的イメージを樹立するための調査研究」をまとめた。経済分野におけるルール無視や生活面での悪い習慣が中国系住民のイメージを損ねているなど、「嫌われる理由」を分析した。
中国系住民のイメージが特に悪いのはイタリア、スペイン、フランス、英国、南アフリカなど比較的発達した国で、最近になり中国系住民が増えたという共通点があるという。
同リポートは、「中国系住民はグループ同士での“内輪もめ”を激化させている」、「現地社会に溶け込むことも不十分」とも指摘。「少数の人間の犯罪行為が、中国系住民全体のイメージを著しく傷つけることになる」と論じた。
リポートは一方で、「かつて生きるために海外に渡った中国系住民は、みずからの忍耐強い努力を続けた。現地に根づき、生業では絶え間なく発展を続け、素質そのものを向上させてきた。法律概念も高め、現地社会にも貢献するようになった」と指摘した。
世界全体での中国系住民について、「中国の発展と国際的な影響力の向上にともない、急速に地位が向上」、「経済的実力を強め、素養も高い新たな中国系住民のイメージが形成されつつある」と楽観的な見方を示した上で、「一部の国と地域で、中国系住民のイメージは再び、危機的状況になっている」と警戒した。
中国外交部領事局の魏葦局長は7月、「国外で中国系住民に絡むトラブルが発生した場合、かなりの案件が、中国系住民自身が招いた問題だ。否定できない」と述べた。主な問題点は「個人また中国系企業には法律意識が欠けており、商業道徳に違反する。現地社会ときちんとした関係を構築することができず、現地の風俗習慣にも無頓着。管理が粗暴で現地人従業員をないがしろにする中国系企業もある」ことなどという。【09年12月17日 Seachina】
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【「アフリカにとって中国は敵ではない」】
ただ、植民地支配の過去がありながら人権問題や民主化を振りかざすフランスなどに比べたら“まだまし”との地元評価もあるようです。
****敵か味方か――アフリカと中国は真のパートナーになれるか*****
アフリカで急増する中国人の“お行儀の悪さ”が問題になっている。(中略)
先日もアフリカ南東部にあるマラウイ共和国で起きた、現地の中国人に矛先を向けた暴動が話題になった。
「マラウイの中心街では中国人資本の店が襲撃された。みんな中国人にはいい感情を持ってない。ローカルの商売がどんどん潰され、地元民は我慢の限界に来ている」
一方、それはアフリカの西にあるマリ共和国にも共通していた。上海在住のマリ人はこう話す。
「街を走るのは中国製の安いバイク。中国人の商売人がやってきて、ありとあらゆる中国製の工業製品を売りつける。安い中国製に地元資本は利益が取れなくなっている」(中略)
「彼らのやり方は“オール・バイ・チャイニーズ”、中国政府が中国企業を進出させ、そこに中国人をも派遣させる。我々ローカル市民の出る幕がない」――アフリカ人の不満はこんなところでも高まっている。
ビジネス以外に「非道徳的行為」も流入
一方、中国資本がアフリカに持ち込むのは「中国式ビジネス」だけではない。これまで地元にはあり得なかった「非道徳的行為」まで持ち込んで、社会問題を引き起こしている。
ラブホテル経営や風俗もそのひとつだ。中心街の高級マンションの空き室をフロアごと借り上げ、こぎれいに内装して時間貸しする。その新手のビジネスは妻帯者を含めた富裕層や若者がターゲット。昔はなかったこのモラルハザードに、信仰ある人々や社会全体が批判の矛先を向けている。
また、不動産の賃貸をめぐっては、中国人は「群租」という独特の賃貸のやり方をアフリカに持ち込んだ。群租というのは、ひとつの大きな部屋を借りてそれを賃借人がさらに複数名に転貸するやり方で、中国では経営者が外省出身の従業員の宿舎などに使うためによく使う手でもある。
「中国人を相手に契約をしたら、なんとその家に20人の中国人を詰め込んできた」と慌てふためくアフリカの不動産オーナー。ケアが行き届かないどころか、家の劣化が早くなってしまうと、これもまた地元から顰蹙を買っている。
地元経済を崩壊させてしまうどころか、法律も道徳もまったく意に介さない、そんな中国人の経済活動に対し、現地では強い不満の声が高まっているのだ。
しかしその中国との関係をばっさりと切ってしまうわけにはいかない。なぜならアフリカにとって中国は、真の敵ではないからだ。
アフリカの複雑な対中感情
「アフリカにとって中国は敵ではない。なぜなら、アジアの国は我々を奴隷にしたことも植民したこともないからだ。中国はアフリカになくてはならないパートナーだと思っている」(中略)
彼のように中国の存在を好意的に受け止めるアフリカ人は少なくない。いまだ西欧による植民地支配が実質的に残存しているアフリカでは、どの国民も西欧の影響からの脱却を切望すると同時に、「誰が本当のパートナーか」を思考しないではいられないのだ。
人権問題や民主化を振りかざしながらも、その実資源ほしさに戦争をしかけてくるフランスなどは論外のようだ。今回のリビアへの空爆に向けるアフリカ人の怒りは強く、ポストカダフィのリビアは、再びフランスの経済植民かと懸念もされている。
他方、昨今資源外交をたくましく展開させ、国際メディアから「資源略奪」として叩かれている中国だが、むしろアフリカ人たちはこの中国に対してはまったく別な感情を抱いているのだ。
(中略)
「タダでやってくれる」有り難い存在
さて、2000年代に入ると、中国の対アフリカ経済進出はいよいよ加速をつける。中国企業のアフリカ進出は土木建設プロジェクトの請負という形での進出が大きな割合を占め、その進出は07年以降本格化し、受注するプロジェクトは大型化するようになっていた。(中略)
だが、アフリカ人たちはその中国を「資源の略奪だ!」と頭ごなしに批判してはいない。
上海在住のアフリカ人ビジネスマンは次のように話している。
「貿易自由化や人権問題を振りかざしながら借款を提供しようとする西欧とは異なり、中国はなんでもタダでやってくれる」。
なんら交換条件を求めないこの“中国方式”が歓迎される一方で、中国国家主導のフリカ進出が持っている“利益度外視の経営”という側面も歓迎されている。厳しく利益を追求する西欧のやり方とは決定的に異なるのだ。アフリカ人たちは中国を、アフリカの経済力をカバーして発展につなげてくれる存在とも受け止めている。
また何より、奴隷貿易、植民地支配をした歴史がないというだけで、もはや中国は真の敵ではないといえるだろう。反帝国主義、反植民地主義、民族自決は共通の思いだ。
“中国の経済進出”による民間経済の浸食とモラルハザード、それに片目をつぶってでも中国をパートナーに選ばざるを得ないアフリカの複雑な事情が浮き彫りになる。
前出のアドゴニー氏は次のように続ける。
「我々には金やレアメタルがある、だがトランスファーする技術がない。その需要と供給をうまく満たすためにも、アフリカはアジアと手を握るべきだと思っている」
中国・上海のアフリカ人コミュニティからは、「アフリカのカギはアジアにある」という強いメッセージが発信されている。そこには「地元資本との共存共栄をもたらせるのは日本だ」という期待も垣間見られる。日本はアフリカとどんなパートナーシップを結ぶのか。単にアフリカ=貧困と見るのではない、新しい向き合い方が求められている。【11年9月23日 DIAMONDonline】
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かつて周恩来は「日本には戦略がない」と批判したそうですが、そのあたりは今も同様です。
(昨年12月9日 欧州首脳会議でのメルケル独首相と相談するギリシャのパパデモス首相 “flickr”より By European Council http://www.flickr.com/photos/europeancouncil_meetings/6505364327/
欧州では、セーフティネットとして新たに設立する欧州安定メカニズム(ESM)が支援に使える額の上限をさらに増やすべきだとして、域内最大の経済大国ドイツに追加負担を求める声も高まっていますが、ドイツでは追加負担への国民の反発が根強く、メルケル首相も「これ以上は負担しない」と繰り返しており、1月30日の首脳会議でも議論は先送りされています
一方、会議直前に、ギリシャの財政権限をEUに移譲させるという、ギリシャの国家主権を制限するドイツ提案が明らかになりましたが、サルコジ仏大統領など各国首脳の反対もあって、提案はされませんでした。)
【虚偽情報にミスリードされる世論】
かつての中・東欧の「カラー革命」(現在は各国で、その限界が露呈していますが)、昨年来の中東の「アラブの春」などの“民主化”、最近ではミャンマーにおける民主化へ向けた改革路線などは、日本や欧米社会にあっては、基本的には社会の前進・改善として迎えられます。
一方で、独裁・強権国家による弾圧、中国のような一党支配体制の問題などは、批判的に取り上げられます。
それはそれで間違いないのですが、国民の民意を基盤とする政治を目指す「民主主義」というのも、その実態においては、なかなか厄介なものです。
具体的には選挙で示される“民意”なるものは、決して絶対的に正しい神の声ではなく、ときに間違いやすく、いいかげんなものでもあります。
****美貌の与党候補、潔白 捜査当局が証明 ウワサに踊る韓国社会****
彼女は700万円のエステ通いをしている
野党系の市民運動家が当選して話題になった昨年10月のソウル市長選で、対抗馬だった美貌の与党候補を敗北に追い込んだ「巨額スキンケア」説はウソだったことが分かり、ウワサや扇動に弱い韓国社会の体質をあらためて浮き彫りにしている。
◆ソウル市長選 落選の決定打
この“事件”は、市長選の終盤で週刊誌が与党ハンナラ党の羅卿●(ナ・ギョンウォン)候補(47)に対する批判として「彼女は年会費1億ウォン(約700万円)のエステに通っている!」と伝え、この“情報”がネットなどで一気に広がり、落選の決定打になったというもの。
彼女は当時、虚偽情報として捜査当局に告発、その捜査結果がこのほど「あれはウソだった」と発表された。エステに通っていたのは事実だが問題の「1億ウォン」は事実無根という。
当選した朴元淳(パク・ウォンスン)候補(55)の野党陣営はこの「豪華エステで巨額スキンケア」説に飛びつき、選挙戦で大々的に宣伝。羅候補に対する市民の反感をあおった。「1億ウォン」の数字に驚いた有権者は羅候補に背を向け、朴候補当選につながった。
韓国では2002年の大統領選でも、与党候補の「息子の兵役逃れ」説が野党勝利の一因になったが、これも後に事実無根と判明している。
◆ネットで一気に拡散
韓国社会は李明博政権の初期(08年)にも「米国産牛肉を食えば狂牛病にかかる」「韓国人は狂牛病にかかりやすい」などといった虚偽のテレビ番組にあおられ、大々的な反政府・反米デモが起きている。
政治的な虚偽情報による宣伝、扇動は左派勢力が得意とする。近年、韓国社会はネットを通じた虚偽情報で揺さぶられることが多い。今回の「豪華エステ」説もネット上の交流サイト「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」で一気に拡散、選挙情勢を左右した。
韓国では4月に国会議員選挙、12月に大統領選挙が予定されている。政治の季節を迎え、虚偽情報を含む手段を選ばない政治宣伝が、SNSを通じ威力を発揮することになりそうだ。
●=王へんに援の旧字体のつくり 【2月1日 産経】
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狂牛病騒動などを見ると、韓国社会はこの手の問題がおきやすい土壌があるようですが、基本的には韓国に限らず、日本を含めすべての“民主主義国”にあてはまる問題です。
【「民主主義は、必ずしもベストな政治体制ではない」】
日本で問題なのは、“民意”“国民世論”なるものが、対策は必要だが犠牲は払いたくないという、自らの痛みを伴う改革を避けたがる傾向でしょう。
消費税引き上げ、年金改革、財政改革、原発対策、TPP・・・・重要な問題において、有効な対策が一向に定まりません。
直接には、政府・与党、あるいは政治家全体のせいにされることが多い訳ですが、政治家に冷静な判断をためらわせているのは“民意”“国民世論”の無責任さ、身勝手さでしょう。
深刻な経済危機と向き合う欧州においても同様です。
****今の民主主義では経済危機を止められない?ユーロ不安は金融市場によるポピュリズムへの警鐘か【真壁昭夫コラム】****
民主主義の基本原理は多数決だ。国の政策は、多数決によって選ばれた政治家によって決められる。国会では、国民の代表者たる政治家の過半数が賛成する政策が採択され、過半数の賛同が得られない政策は採用されない。
今ここに、1つの政策があるとする。その政策は国の将来にとって必要不可欠で、しかも長い間に国民に多くのメリットをもたらす。その一方、短期で見ると多くの国民にとって痛みを伴うものだとする。果たして国民は、その政策に賛成するだろうか?
実際には、多くの国民が「ノー」という答えを出す可能性は高いだろう。おそらく国民の多くは、「今すぐに、大きな痛みを伴う政策を実行するのは避けたい。時間をかければ、きっと痛みを伴わない政策を思いつくはずだ」と主張する。
そして、「国民の負担を最小限にする政策を考案するのが政府の役目だ」というだろう。その意味では、国民は時として、わがままで、ないものねだりをする存在なのである。
それが現実の世界で起きることもある。そのため、時として、長い目で見ると避けて通れない政策が、痛みを伴うという理由で先送りされてしまうこともある。特に、その政策が一部の人たちに耐えられないような痛みを伴う場合は、なおさらだ。
政治家は選挙で当選しなければならない。「猿は木から落ちても猿だが、政治家は選挙に落ちるとただの人以下になり下がることもある」と言われるほどだ。そのため、どうしても有権者に耳触りのよい政策を前面に押し出すことになる。いわゆるポピュリズムである。
こうして政治がポピュリズムに走ると、国が危機的な状況になるまで、本当に必要な政策の実行が遅れることが考えられる。問題が深刻であればあるほど、国民は痛みを伴う解決策の実行を嫌う。結果として、ポピュリズムに走ったときの民主主義の政治体制では、経済的な危機の発生を止めることが難しくなる。
あるファンドマネジャーが口にした懸念 ユーロの信用不安はポピュリズムの副産物?
最近、ロンドン在住でファンドマネジャーをしている友人が興味深いメールを送ってよこした。友人曰く、「今、ユーロ圏で起きている問題の大元を辿ると、民主主義の政治体制に行き着く」というものだ。
彼の言わんとするところは、ユーロ圏で最も多くのメリットを享受しているのはドイツだということだ。ユーロ圏諸国に関税がなく、しかも為替リスクを気にすることなく自由に輸出ができることは、ドイツ経済に大きな福音をもたらしているからだ。
そう考えると、ドイツにとって、ユーロ圏を維持することは中長期的に見て大きな利益をもたらすはずだ。そうであれば、ドイツは自国が得た利益の一部を使って、ギリシャやポルトガルを積極的に救済した方が有利になる。
ところが、ドイツ政府の姿勢は厳しく、南欧諸国の救済に消極的なスタンスを変えていない。そうしたドイツのスタンスが、ユーロ問題をここまで拡大させてきた最大の理由と考えられる。
ドイツ政府の厳しい姿勢を作っているのは、他ならぬドイツ国民の声=世論である。世論が変わらない限り、ユーロ圏の信用不安問題の本格的な解決を望むのは難しいことになる。
ということは、ある意味では「この問題の本源的な原因は、ユーロ圏、特にドイツの民主主義の政治体制にある」というのが、ファンドマネジャー氏の見解だ。
民主主義政治体制の弊害は、ユーロ圏以外にも存在する。たとえばわが国では、1990年代初頭にバブルが崩壊して以降、歴代の政府は国民に痛みが及ぶ構造改革を先延ばしする姿勢をとってきた。その結果、わが国は世界有数の財政悪化国になってしまった。
また、財政悪化にもかかわらず、民主党政権は“バラマキ”型の政策運営を続けることになっている。それもある意味では、民主主義政治体制の弊害が顕在化している現象と考えられる。
ラッセルの「民主主義論」が残した警鐘 民主主義はベストな政治体制ではない?
「民主主義は、必ずしもベストな政治体制ではない」
学生時代、バートランド・ラッセルの「民主主義論」を読んだときの印象として、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている言葉だ。その通りだろう。
民主主義が多数決を基本原理としている以上、過半数の人が判断を誤れば適切ではない政策が実施される。さらに恐ろしいことは、過半数の人が間違った方向に走り出すと、間違った政治家に権限を与える可能性があることだ。
そうした例は、人類の歴史の中で頻繁に現れる。第一次世界大戦に敗れた後のドイツでは、ヒットラー率いるナチスドイツが圧倒的な国民の支持を得て政権を握り、第二次世界大戦へと向かってしまった。
あるいは、それとほぼ同時期に、わが国でも国民世論は軍部を支持し、結果的に大戦に至ってしまった。
それを見ても、民主主義の政治体制下では常に正しいことが実行されるとは限らない。時に世論が間違えると、国自体も間違った方向に進むことはある。
ただ、長い目で見ると、国民の多くは誤りに気が付き、それを修正しようと方向転換することが期待できる。だからこそ、多数決の原理を基礎に置くことによって、長期的に見れば、民主主義の政治体制が誤りを永久に続けることはない。それが、民主主義にとって重要な“救い”になるのである。
有能な聖人君子が現れ、彼が1人で政治を取り仕切ることができれば、おそらく多数決を基本とする民主主義の政治に勝る政策運営を行なうことができるだろう。たとえ国民は痛みを感じたとしても、それが中長期的にはより多くのメリットをもたらすことを理解することができれば、おそらく短期的なデメリットを耐え忍ぶことができるはずだ。
しかし、そのような聖人君子がいつもいるとは限らない。仕方がないので、多数決の原理によって、長い目で見ると“最も間違いが続きにくい”と考えられる政治体制を選ぶ。それが、民主主義の政治体制ということになる。
(後略)【DIAMOND online 1月31日 】
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危ういのは、自らの無責任さ・身勝手さは棚に置きながら、一向に改善しない社会の現状に不満を募らせ、「誰でもいいから、なんでもいいから早く何とかしろ!」と叫ぶ国民が、“英明なる聖人君子”の幻影に判断を委ねようとするときでしょう。
問題を単純化し、多くの国民が直接には関与しない少数派・国外勢力が現在の苦境の元凶であると断罪し、それを排除すればすべてがうまくいくような幻想をふりまく・・・そんな分かりやすく過激な政治家を求めてしまうことが危惧されます。
欧州各国における極右政党の伸張は、そうした傾向の一端のように思えます。