孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  徴兵に揺れる若者の心情 混迷する政局 クリミア併合2年で自信を示すプーチン大統領

2016-03-21 23:18:39 | 欧州情勢

【3月19日 AFP】

徴兵拒否の動きも 教育現場で進められる「愛国教育」】
東部で親ロシア派と政府軍の対立が続くウクライナは、現在は一応の停戦状態ということで大規模な衝突はなくなったものの、散発的な衝突は今も続いており、犠牲者も増え続けています。

そのウクライナは、2013年末に一度徴兵制廃止を決めていましたが、ロシアによるクリミア半島の占拠とその後の南東部(ドンバス地域)における内戦とにより、2014年5月に入ってから徴兵制を再開しています。

「徴兵」という個人の選択を超越した決定に直面して、ウクライナの若者のなかには徴兵を拒否する者も少なからず存在しており、そうしたなかで徴兵に応じた若者、徴兵を拒否した若者、それぞれの心情を追ったドキュメンタリー番組を昨日観ました。

****ドキュメンタリーWAVE「銃は取るべきか~徴兵に揺れるウクライナの若者たち~****
放送日 3月20日

2年にわたり政府軍と親ロシア派勢力の間で衝突が続くウクライナ。若者たちが次々と東部に送られ、死者は9000人を超えた。

その中で今、徴兵を拒否する動きが広がっている。徴兵拒否には2~5年の禁固刑が科せられるため国外に逃げる者が増加、その逃亡先の多くは、プーチンが門戸を開放しているロシアや近隣の国々だ。

失業率が10%に上り国の将来像が見いだせなくなっている現状と、選択を迫られる若者たちの姿を追う。【NHK】
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ここで描かれているのは、徴兵に応じて慣れない新兵訓練の日々を送る若者、徴兵を避ける合法的手段してポーランドへの留学を選んだ若者とその家族、借金を抱えており自分が徴兵に応じると妻にその責務が覆いかぶさるため、非合法に徴兵を逃れて、ひそかに働き続ける若者、経済苦境のなかで収入を得る手段としてやむを得ず軍に志願した若者など・・・その事情は様々です。

こうした徴兵拒否するウクライナ若者の主張については【https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=93238】にも報じられていますが、こちらはロシア側メディアの報告ですので、多分にロシア側の意向を反映した内容にもなっているきらいもあります。

NHKドキュメンタリーでは、教育の現場で進む「愛国心とは何か?」といった“愛国教育”や、機関銃の分解組み立てを学ぶ軍事教練的な教育の実態も報じられていました。

「愛国心とは国家の統一をまもろうとすること」「国家のために犠牲をささげること」・・・・

正直なところ、こうした「愛国心」については違和感もあります。

隣国が理不尽にも攻撃してきた。自国の人々を殺害している。同胞や家族を守るために銃を手に取って戦わねば・・・という話なら、わかりやすいものがあります。結局は殺人行為である「戦争」というものはどう考えるかという根源的問いかけはありますが。

ただ、ある地域がどうしても一緒にやっていきたくない、そのためには戦いも辞さないというときに、「国家」の統一性を守るために銃を手にしてこうした動きを抑え込もうとするのが、そのためには個人の命を犠牲にするのが当然だというのが、果たして「愛国心」という名の崇高な行為なのか・・・?

ウクライナ東部に限らず、スコットランドでも、カタルーニャでも、民族的、文化的、経済的背景もあって、どうしても一緒にやっていけないというなら、国を分けてもいいのではないか、そのために互いに殺しあうまでのことではないのではないか・・・ 国家の枠組みのありようは、そこに暮らす住民が決めるべきことではないのか・・・と思えます。

もっとも、ウクライナ東部の動きは住民の意向を反映したものではなく、ロシアの侵略行為と一部武装組織によって一方的に作り出されたものだ・・・という立場に立てば、また別の話になってくるのでしょう。

2党の連立離脱で与党過半数割れ
そうした判断の根拠として、選挙で民意を問うというのは有効な手段と思えますが、ウクライナ政府は東部に自治権を付与することにつながる地方選挙実施には応じていません。

****<ウクライナ>親露派支配2州の地方選実施を拒否****
ウクライナ東部の政府軍と親ロシア派武装勢力の紛争を巡り、ウクライナと独仏露の4カ国外相が3日、パリで会談した。

独仏露は情勢正常化へ向けて、親露派が支配するドネツク、ルガンスクの東部2州で今年6月ごろまでに地方選挙を実施するよう要求した。だが、ウクライナのクリムキン外相が「治安回復が先」と拒否し、物別れに終わった。

昨年2月の停戦合意(ミンスク合意)では、東部2州に一定の自治権を持たせるための憲法改正や東部での地方選挙実施が盛り込まれた。

ラブロフ露外相は、「残念ながらすべて実現していない」と指摘し、親露派と対話する意思がないとウクライナ政府を批判した。エロー仏外相は会談後、「地方選を行うために法整備を進める重要性を確認した」と述べた。

ロシアは、独仏との共同歩調を強調して欧米の対露制裁解除を狙っているとみられる。

一方、ウクライナ側には、地方選を実施すれば親露派支配を事実上認めてしまうことになるため議会の合意が得られないという理由があるようだ。【3月4日 毎日】
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そのウクライナ政府の政情は揺らいでいます。

****ウクライナ与党、半数割れ 大統領が首相辞任要求 2党が連立離脱****
欧州連合(EU)加盟を目指すウクライナの政権が、改革の行き詰まりで混乱に陥っている。

ポロシェンコ大統領が大黒柱の首相に辞任を求めたが、不信任案は否決。連立与党は4党のうち2党が離脱して過半数を失った。国際通貨基金(IMF)の融資も保留され、混迷を深めている。東部で続く親ロシア派との紛争への影響も懸念される。

ポロシェンコ氏は16日、演説でヤツェニュク首相の辞任を要求。政権は2014年5月の大統領選に圧勝したポロシェンコ氏と、ヤツェニュク氏の2人が車の両輪だったが、与党内の対立で経済改革が停滞する状況を打開する狙いだった。

第1党の「ポロシェンコ・ブロック」が同日、議会(定数450)に首相の不信任案を提出したが否決された。同党自体、議席は143なのに賛成は97人。結果を不満として18日までに連立から2党が離脱し、与党はポロシェンコ・ブロックとヤツェニュク氏の「国民戦線」の2党だけに。過半数に9議席足りなくなった。

東部の紛争で国内総生産(GDP)は前年比で約10%減り、インフレ率も40%を超えた。最大の懸案は、富豪らが基幹産業をおさえる「旧ソ連型」の経済構造の改革だが、東部の紛争でその富豪らが資金提供する義勇軍部隊に頼る事情もあり、進まない。

不信任案否決をめぐっても、ウクライナ・メディアは、富豪らが多くの与野党議員に影響力を行使したと指摘している。

IMFの175億ドル(約1兆9800億円)の融資も、67億ドルがなされただけで昨秋以降は改革の遅れを理由に止められている。

別の政党との連立を模索する動きもある。ポロシェンコ氏は欧米が混乱を恐れる解散総選挙は避けたい考えだ。

東部では親ロ派との大きな衝突は収まったが、昨年2月の停戦合意で定められた、東部に特別な地位を与える憲法改革には抵抗が強い。総選挙になれば、国民に不満の強い停戦合意が争点化されてしまう恐れがある。【2月20日 朝日】
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ウクライナ政府が東部の地方選挙実施に応じられない背景には、こうしたウクライナ政府の混乱、親ロシア派に譲ったような形になると政権がもたない・・・という事情があるのでしょう。

一方で、国民側にはヤヌコビッチ前政権下で深刻化した汚職への対策の遅れや景気低迷への国民の不満が強くあって、その不満が東部親ロシア派への対応と結びついて政情を不安定化させることにもなっています。

クリミア実効支配をアピールするプーチン大統領
ロシア・プーチン大統領は、2014年3月18日のクリミア併合から2年が経過し、その成果を誇示しています。
実際、ロシア本土と結ぶ橋や海底ケーブルの建設が進み、クリミアのロシア依存が強まっています。

****プーチン露大統領クリミア視察、併合から2年****
ロシアのウクライナ南部クリミア半島の併合から2年となる18日、ウラジーミル・プーチン大統領が現地を訪れた。

プーチン大統領は、トゥズラ島に立ち寄り、ロシアとクリミア半島を結ぶ総工費30億ドル(約3300億円)の巨大な橋の建設現場を視察した。

ロシア政府の狙いは、孤立しているクリミア半島とロシアの結び付きをこの橋で強化することにある。

プーチン大統領は、橋の建設は「歴史的使命」だとして、2018年12月までに完成させると述べ、低迷しているクリミア経済のてこ入れにはロシア本土とクリミアを初めて直結する橋が必要不可欠だと述べた。

さらに、ウクライナへの電力依存を軽減させるために敷設を進めている海底ケーブルは、今年5月に完全に使用できるようになると述べた。

昨年、ウクライナからの送電線が爆破される事件が起き、クリミア半島で大規模な停電が発生したため、安定した電力供給は差し迫った懸案事項だった。

国営テレビで放送された国民に向けの演説でプーチン大統領は、クリミア併合から2年となることを祝い、クリミアとロシアを結ぶ橋は「われわれの一体化を示す新たなシンボルになる」と述べた。

一方、首都モスクワをはじめとするロシア各地では、クリミア併合2周年を祝う政府主催のコンサートや祝典が開かれた。

ロシア政府は、クリミア併合は、ウクライナ南部クリミア半島で行われたロシア編入の是非を問う住民投票で圧倒的多数が賛成票を投じた結果に従ったものだと主張している。
 
クリミア併合によりプーチン大統領の人気は急上昇し、独立系調査機関レバダ・センター(Levada Centre)が先月行った世論調査によると、ロシア国民の83%がクリミア併合を支持している。

しかし、クリミア併合により、ロシアと欧米諸国の関係は急速に冷え込んだ。

また、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は18日、この2年間でロシア当局が「恐怖と抑圧をクリミアに広げている」と非難。さらに、ロシア編入に反対したクリミアの少数派民族、イスラム教徒のタタール人が迫害を受け、ウクライナ寄りの活動家や記者が弾圧されていると強く非難した。【3月19日 AFP】
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なお、クリミア併合2年を記念するロシアでの行事については、“2年前の熱狂は冷めつつある”との指摘もあります。

****<クリミア編入2年>モスクワで集会 参加市民は限定的****
ロシアのプーチン政権がウクライナ南部クリミア半島を一方的に編入してから2年となった18日、モスクワの赤の広場近くでロシア側の記念集会が開かれた。

有力政治家や著名歌手が登壇したが、参加した市民は限定的。経済難が長引く中、2年前の熱狂は冷めつつある。(後略)【3月19日 毎日】
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ただ、併合への支持率、あるいはプーチン大統領への支持は依然高いものがあり、“「欧州の一員にはなれなかった」「生活の質は欧米にほど遠い」。国民の多くはこうした屈辱感を「大国意識」で埋め合わせているのだと専門家らは分析している。”【3月18日 産経】といった指摘もあります。

欧州内にも対ロシア経済制裁で温度差
ウクライナ政府は、ロシアのクリミア併合に関する対ロシア経済制裁措置の延長を求めています。

****対ロ制裁、継続確認=クリミア編入拒否―ウクライナ独仏3首脳****
ウクライナ大統領府によると、ポロシェンコ大統領は17日、訪問先のブリュッセルでドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領と3首脳会談を行った。独仏首脳はウクライナ東部の停戦合意が完全に履行されるまで、対ロシア制裁を継続すると確認した。

また、独仏首脳は、南部クリミア半島のロシア編入を認めない欧州連合(EU)の方針に「変更はない」と約束した。18日はロシアによるクリミア編入条約調印から丸2年となる。【3月18日 時事】 
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もっとも、イタリアやギリシャ、ハンガリーのように経済制裁継続に懐疑的な国もあります。

****協調試されるEU・・・対露制裁の延長論に温度差も****
対ロシア政策をめぐり、欧州連合(EU)が揺れている。

ウクライナ危機の後、ロシアに対する経済制裁に踏み切ったが、その期限が近づき延長の是非が今後の焦点となってくるためだ。制裁への態度が加盟国で割れる中、難民・移民流入への対応も絡み、EUの協調が試されている。

「われわれは対ロシア政策の5原則で一致した」。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は14日、外相理事会後の記者会見でこう強調した。理事会がEUとロシアの関係について議論したのは約1年ぶりだ。

原則には、ウクライナ東部情勢の解決に向けた「ミンスク合意」が履行されるまで、ロシアへの態度を変えないことなどが盛り込まれた。

だが、7月末に期限がくる経済制裁への直接の言及はなく、加盟国間の意見が割れている問題の議論をモゲリーニ氏が避けたとも伝えられる。

EUは2014年7月のマレーシア航空機撃墜後、ロシアの金融、エネルギー、防衛の主要産業を標的に制裁を発動。今年1月末に半年間延長したが、その扱いをめぐって加盟国の温度差が再び目立ってきた。

イタリアやギリシャ、ハンガリーは制裁に懐疑的でジェンティローニ伊外相は14日、「現時点でどんな決定も当たり前ではない」と強調。一方、英国やバルト諸国は「ロシアによる安全保障上の挑戦を見失ってはならない」(ハモンド英外相)と制裁維持を訴えた。

一方、ロシアは移民流入にも乗じてEUにくさびを打つ。プーチン大統領は2月、訪露したハンガリーのオルバン首相に対し、同国の移民への厳しい対応を評価。オルバン氏はシリアでの空爆を念頭に露側の「テロ撲滅の努力」をたたえ、「対露関係の正常化に関心がある。制裁延長は自動的ではない」と表明した。【3月18日 産経】
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今後の火種にもなりそうな、ロシアが拘束するウクライナ女性軍人の問題
ロシア・プーチン大統領はウクライナを“敵”に仕立てることで、政権の求心力を得ようとしていると言われています。

****敵視政策で求心力=18日クリミア編入2年―プーチン政権****
2014年3月18日のロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入条約調印から18日で丸2年となる。国際社会は「力による現状変更」を認めず、対ロシア制裁を継続。プーチン政権は今も、国内向けプロパガンダで敵のイメージを作り出すことで、正当性と求心力を維持している。

 ◇作られるウクライナ憎悪
「敵」の筆頭は、ウクライナと、編入を問う2年前の住民投票に反対した先住民族クリミア・タタール人。ロシアの軍事介入で始まった東部紛争でさえ「ウクライナ政府による住民への懲罰」と見なすロシア人は多い。

1、2月にロシアとウクライナで実施された合同世論調査によると、昨年9月に比べてウクライナ人の対ロ感情は、好感が34%から36%に微増し、反感が53%から47%に緩和した。

これに対して、ロシア人の対ウクライナ感情は逆に、好感が33%から27%に減少し、反感は56%から59%に増えた。軍事介入した側が憎しみを深めている構図だ。

ロシア経済紙ベドモスチは社説で「ロシア人の対ウクライナ感情は、テレビのプロパガンダに起因している」と分析。「論理的にはプロパガンダが止まれば、憎悪はすぐに消えるだろう」とみる。

しかし、ロシア人の3分の2が「ウクライナと戦争をしていない」と今も世論調査で回答。プーチン政権の公式見解と違わず、自国の正当化に終始している。【3月17日 時事】
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そうした中で、ウクライナとロシアの関係を更に悪化させそうな問題として、ロシアで拘束が続くウクライナの女性空軍中尉、ナディア・サフチェンコ氏(34)の問題があります。

****ウクライナ女性軍人に有罪判決=G7が解放要求―ロシア****
ロシアで拘束されているウクライナ女性のナディア・サフチェンコ空軍中尉(34)に対し、南部ロストフ州の裁判所は21日、殺人罪などで有罪判決を下した。検察側は禁錮23年を求刑。量刑は22日言い渡される。

日本を含む先進7カ国(G7)は、ウクライナ東部の停戦合意に鑑みて即時解放を要求しており、実刑判決が下れば、対ロシア批判が一層深まりそうだ。中尉はウクライナへの送還を求め、抗議のハンストを再開する構え。

中尉は、昨年6月にウクライナ東部でロシア国営テレビ記者らが砲撃され死亡した事件を受け、連行された。無罪を主張する中尉は、ウクライナでは「ジャンヌ・ダルク」(地元メディア)と英雄視され、解放を求めるデモが続いている。【3月21日 時事】
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ロシアはウクライナへの敵対心を煽り、ウクライナ国内の対ロシア強硬派は「ジャンヌ・ダルク」を担いでロシアへの敵愾心を煽るだけでなく、「停戦」を続けるウクライナ政府を揺さぶろうとする・・・なかなかウクライナ情勢が安定するのは難しいようです。
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リビア  混乱が続く中での統一政府づくりの現状は? 米欧の再度の軍事介入は?

2016-03-20 20:32:09 | 北アフリカ

(リビアの首都トリポリで2月17日、大勢の人々が、同国の最高指導者だった故ムアマル・カダフィ大佐が失脚した革命5周年を祝った。一方北東部の港湾都市ベンガジでは革命5周年を祝う人の姿は見られなかった。【2月19日 AFP】 なお、ベンガジでは東部世俗派と西部イスラム勢力の争奪戦が続き、2月23日、世俗派が街の一部を手中に収めて一応戦闘が終息したような状況です。)

二つの議会、三つの政府 旧カダフィ政権軍人やイスラム主義民兵も加わっての混乱
昨日取り上げたイエメン同様に、「アラブの春」後の混乱が続いているのがリビアです。

リビアでは、独裁者として君臨したカダフィ大佐が2011年の政変で失脚・殺害されたのち、暫定議会と制憲議会をそれぞれ背景とする二つの政府が並立し混乱している他、ISやアルカイダ系など複数の武装勢力が豊かな石油利益を狙って戦闘を続けています。

世俗主義勢力の暫定議会は国際的には一応正当性が認められているものの、首都トリポリを追われ、北東部トブルクを拠点としているため、「トブルク政府」とも称されています。

トブルク政府は、カダフィ側近だった軍将校(ハフタル将軍)を軍司令官とし、カダフィ政権の旧軍部も取り込んでいます。

一方、首都トリポリを拠点とする制憲議会(「トリポリ政府」)はイスラム主義勢力(「リビアの夜明け」など)に支えられています。

「トリポリ政府」と「トブルク政府」の抗争という“権力の空白”に乗じて、IS等のイスラム過激派が勢力を拡大しており、シリア・イラクのでの劣勢も伝えられるISはリビアに拠点を移そうという動きもあると指摘されています。

一方、国連は「トリポリ政府」と「トブルク政府」を併合した「統一政府」づくりを進めており、両者の代表も入れた協議を行い、閣僚名簿も発表していますが、未だ両議会の承認を得るには至っていません。(手続き的には、国際的に正当とされる暫定議会の承認を必要としています。)

結果、リビアには二つの議会、三つの政府が併存するという訳の分からない状況にもなっています。

上記のように、「トブルク政府」側は、カダフィ政権の旧軍部も取り込んでいますが、情報が少ないリビア関連のなかで珍しく、カダフィ大佐のいとこのインタビュー記事がありました。

****<リビア>カダフィ派、復権足固め 対ISで政府軍と共闘****
2011年のリビア内戦で殺害された指導者カダフィ大佐のいとこで側近だったアフマド・カダフィダム氏(63)が、滞在先のカイロで毎日新聞のインタビューに応じた。

同氏は、内戦後に公職追放されていた旧カダフィ政権派の軍人らが、過激派組織「イスラム国」(IS)などと戦うため「政府軍と協力している」と証言。混乱が長引く中、旧政権派が復権をうかがう構図が浮き彫りになった。

リビアでは13年6月、旧カダフィ政権の要職経験者らを10年間公職から追放する法律が施行された。カダフィダム氏は「旧政権支持者だとして、軍人、警察官、裁判官、外交官ら5000人以上が排除された」と主張した。

だが、反カダフィ派は内紛続きで、新憲法制定など民主化プロセスは停滞。14年夏には東西に二つの政府が分立する事態に発展した。

カダフィダム氏によると、旧政権派は、国際社会から正統性を認知されている東部拠点のトブルク政府傘下の政府軍に合流し、イスラム過激派の掃討作戦で協力関係を築いているという。

また、国連が主導する国民和解と統一政府樹立の協議に関して「話し合いによる解決は重要だが、全てのリビア人を包括する枠組みではない。特定の部族や党派を排除すべきではない」として、政治プロセスに旧政権派の参加を認めるべきだとの考えを示した。水面下では周辺国や国内の政治勢力とも接触しているという。

一方、カダフィ政権崩壊は「北大西洋条約機構(NATO)の空爆が原因で、リビア国民による革命で打倒されたわけではない。NATOが介入しなければ対話で解決できた」と強弁した。

ISがカダフィ大佐の出身地で支持基盤が強かったシルトを拠点化したことについても「NATOがシルトを集中的に空爆し、我々の部族を排除した。そこにイスラム過激派が入ってきた」と主張。

シルトでは旧政権派とISが一定の協力関係にあるとの見方もあるが、「外部からの支援がないため、(地元部族は)戦いようがないだけだ」と説明した。

カダフィダム氏はカダフィ政権時代から特使としてカイロに拠点を置き、巨額の資産管理や海外工作を担ったとされ、カイロの事務所には今もカダフィ大佐の肖像が掲げられている。

匿名を条件に電話取材に応じたリビア人記者は「トブルク政府や軍は旧政権派の復権は望んでいないが、カダフィダム氏の資金を必要としているため、協力関係が成立している」と指摘した。【3月19日 毎日】
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NATOの侵攻の唯一の目的はカダフィ大佐殺害だった。侵攻さえなければリビアはこのような嘆かわしい状況にはならなかっただろう、というのがカダフィダム氏の主張のようでが・・・どうでしょうか。

カダフィ大佐の評価は別として、カダフィ亡き後の政治空白が現在のリビアの混乱を招いたことは一面の事実でもあります。

「トブルク政府」が統一政府を正式承認していないのは、旧カダフィ派、特に国軍司令官としてトブルク政府を支える立場にもなっている旧政権のハフタル将軍の処遇で難色を示しているのではないでしょうか。

「統一政府」づくりを進める執行評議会は、各勢力へ「統一政府」への権限移譲を強く求めています。

****リビア執行評議会 統一政府への権限移譲を各派に要請****
リビアでの組閣を目指す執行評議会は12日夜、声明を発表し、国連が承認する統一政府の樹立へ向けた基本合意に基づき、国内各派に対して権限の移譲を要請しました。

声明はまた、国内に現存する統一政府以外の勢力との連絡を絶つことを国際社会に求めました。【3月14日 CRI】
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更に「統一政府」首相は、現在にチュニスからリビア首都トリポリに「統一政府」を移すことを発表していますが、「トブルク政府」は“議会(トブルク)による正式の承認なしに、外部から統一政府を押し付けようとするのは、リビアの内政に対する干渉であるとして、全ての機関に対して新統一政府と協力しないように求めました”【3月19日 野口雅昭氏 「中東の窓」】と反撥しています。

もう一方の「トリポリ政府」を擁するイスラム主義民兵組織と「統一政府」の関係がどうなっているのか・・・わかりません。

政治空白のなかでのISの動き
国連等の国際社会がリビアでの統一政府づくりを急ぐのは、リビアの混乱がISなどイスラム過激派台頭の舞台となることを懸念しているからでもあり、先日ISが「アラブの春」唯一の成功国とされている隣国チュニジアを襲ったことなども、リビアの混乱が招いていると見られています。

****チュニジア、リビア国境で「首長国樹立の試み」阻止 50人超死亡****
チュニジアのリビア国境に近接するベンガルデンが7日、イスラム過激派による襲撃を受けた。治安部隊が撃退したが、過激派の戦闘員35人と治安部隊側の11人、民間人7人の計53人が死亡。当局は、イスラム首長国の樹立が狙いだったとの見解を示している。

政府によると、同日未明、ベンガルデンの軍兵舎や警察施設などが一斉に襲撃に遭った。ベジ・カイドセブシ
大統領は事件を「前例のない」イスラム過激派襲撃として非難。当局は国境を閉鎖し、夜間外出禁止令を出した。

ハビブ・シド首相はイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」のアラビア語名の略称「ダーイシュ(Daesh)」を用い、今回の襲撃にはベンガルデンに「ダーイシュの首長国を樹立するという狙い」があったが、軍と治安部隊が襲撃犯らを阻止したと述べた。

ISはリビアで勢力を拡大しており、チュニジア政府は、リビアでISに加わった多数の自国民が帰国して攻撃を実行することを防ぐべく奮闘している。

ベンガルデン周辺では、今月2日にも武装集団と治安部隊の間で銃撃戦が起き、武装集団側の5人と民間人1人が死亡している。【3月8日 AFP】
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この事件は、なぜ“民主化が成功した”と言われるチュニジアでISに加わる多数の若者が存在しているのか・・・という問題にもなりますが、その件は今回はパス。

リビアからチュニジアにISが越境したことについては、“リビアで勢力を拡大し、更に隣国へ触手を伸ばした”という訳ではなく、むしろリビアでの拠点づくりがうまくいかず、チュニジアに逃げ出した・・・との見方もあるようで、このあたりの情勢はよくわかりません。

****ISがリビアで苦戦 ローマを目指すと言うが****
先日のアメリカ軍による、デルナへの空爆で、現地にいたIS(ISIL)の指揮官アブ・ムゲイル・カハターニが死亡し、その後を継いだのが、アブドルカーデル・ナジュデイだ。

このアブドルカーデル・ナジュデイは、自身のことをIS(ISIL)のアミールだと宣言した。アミールとは本来の意味は、王子なのだが、指揮官という意味で、使用しているのであろう。つまり、彼がリビアのIS(ISIL)の最高指揮官に、なったということだ。

彼はアフリカらの移住者を歓迎し、取り込むつもりであり、その一部をローマにまで送り出す、と言っている。アブドルカーデル・ナジュデイはローマを自分たちの、支配下に置くということだ。

大ぼらとも思える発言だが、IS(ISIL)の現在の状況は、極めて不利になっているのではないか。リビアのスブラタにあった、IS(ISIL)の基地が攻撃され、リビアの隣国チュニジアに侵入(逃亡)しようとしたが、そこではチュニジア軍の反撃により、成功していない。

リビアのミスラタとシルテの中間にあった、アブ・カレインの基地からも、IS(ISIL)は逃げ出しているようだ。

こうした一連のIS(ISIL)の後退の動きは、リビア人が頑強であり、なかなかIS(ISIL)の支配下に落ちないからであろう。

最初の頃はリビアの一部グループが、IS(ISIL)にバイア(服従の誓い)をする、動きがあったが、それが拡大しているという情報は伝ってきていない。

シリアやイラクで不利になったIS(ISIL)は、ここでもアメリカの攻撃にさらされ始めている、ということであろうか。それは何やら、アルカーイダやタリバーン、ムジャーヒデーンなどの運命と重なるのだが。【3月11日 佐々木 良昭氏 「中東TODAY」】
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一方で、欧米は対IS対策として、再度のリビア軍事介入を検討しているとも言われています。
「統一政府」づくりも、統一政府の要請に従って介入・・・という枠組みづくりの面もあるのでしょうか。

****米欧、リビア再介入か-IS勢力拡大で、軍事行動を準備****
過激派組織「イスラム国」(IS)がリビア国内で勢いを増しているため、西側が再び同国に軍事介入する公算がますます大きくなっている。焦点は、争いを続けてきた勢力がリビア統一政府を形成し、その政府からの要請により介入するのか、それを待たずに介入を余儀なくされるのかだ。

米国と他の西側諸国は2011年、最高指導者カダフィ大佐(当時)の打倒を支援するため軍事介入したが、その後、西側の関心は他の地域に移った。

14年までに、リビアは首都トリポリのイスラム原理主義政権と、東部都市トブルクに本拠を置く政権(国際的にも承認されている)との間の内戦に陥った。

この分裂状態に乗じて、地元のIS系組織は、故カダフィ大佐の本拠地だった沿岸都市シルトを昨年奪取した。これらIS系組織はその後、他の一部地域を占領し、戦況に決定的な影響を与え得る油田地帯に一段と近づいて、主要インフラに被害を与えた。

無法状態のリビアはまた、移民(難民)たちが欧州に向かう出発地となっている。このため欧州諸国(特にイタリアとフランス、さらには英国も)は長くリビアの安定化に努力してきた。米国も、リビア混乱の長期化を脅威とみなすようになった。

ケリー米国務長官は今週、ローマで開催されたIS掃討のための有志連合の会合で、リビアに言及し、「世界でわれわれが最も望まないのは、偽りのカリフ制(ISを指す)が何十億ドルもの石油収入を手に入れることだ」と述べた。

西側高官は、介入するなら、広く承認されたリビア統一政府によって要請されることが望ましいと考えている。この政府はISの脅威に対抗して大半のリビア人を結束させている。しかし、状況が劇的に悪化したら、西側は要請が得られなくても介入しなければならないとみる向きもいる。

国連は、リビア内の2つの政権と、それらと同盟関係にある民兵集団を説得して統合政府を樹立させようと1年以上努めてきた。

しかし、トルコとカタール(トリポリのイスラム原理主義勢力を支持している)と、エジプトとアラブ首長国連邦(UAE)(宗教色の薄いトブルクの政権を支持している)との間で代理紛争が発生しており、この統合政府樹立に向けた説得工作は難行している。

ワシントンにある大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)のリビア専門家、カリム・メズラン氏は「ISが躍進しているのは、リビアという国家が不安定だからだ」と述べ、「ISに対処する前にリビアの問題を解決する必要がある。その逆ではない」と語った。

国連仲介の国民合意政権(統一政府)は1月に発表されたが、一部の勢力から反対意見が出された。トブルク政権の実力者ハリファ・ハフタル将軍の扱いなどで意見が分かれている。

こうした対立を解消し、新政権を発足させるには数カ月かかるかもしれない。そして、発足したとしても、新政権が西側の軍事介入を本当に要請するかどうか不透明だ。

新たなリビア政府が最終的に外国部隊による介入要請を決定すれば、イタリア、フランス、英国、そして米国は合同部隊を創設し、IS掃討作戦のためのリビア部隊を支援する公算が大きい、と外交筋は言う。

これら米欧諸国は数カ月にわたって緊急計画の立案作業を進めており、米国は既に小規模な特殊作戦部隊をリビアに派遣している。

英王立国際問題研究所(通称チャタムハウス)のアソシエートフェロー、リチャード・ダルトン氏(元駐リビア英国大使)は、その上で、国際部隊が有効に機能するには少なくとも兵士1万人が必要だと推測している。

同氏は、ISがリビア国内の少なくとも4カ所で活動しており、これら点在するIS勢力に同時に対処しなければならないと述べた。【2月5日 WSJ】
**********************

状況はよくわかりませんが、リビアに限らず戦闘・内戦が続く状況を見るとき、いつも思うのは「この武器は一体誰が供給しているのか?」という疑問です。

武器禁輸措置をかいくぐる違反
リビアも国連によって武器禁輸措置が課されています。

****対リビア武器禁輸、国・個人が多数違反=国連報告書****
政情不安で分裂状態にあるリビアに多数の企業や個人、国が武器を供給し、5年前に同国に科された国際的な武器輸出禁止措置に違反していたことが、近く公表される国連の報告書で分かった。

報告書は1月に安全保障理事会に提出された。それによると、違反があったのは2014〜15年で、アラブ首長国連邦(UAE)やエジプト、トルコなどから軍装備品が輸出された。中にはヨルダンなどの第3国を経由して輸送されたものやウクライナなどの国と密接な関係にある企業から供給されたものもあった。

国連当局によると、この他の調査対象には2011年に武器取引を仲介したとみられる米国拠点の企業2社と、リビア当局を代表して英国を拠点に活動するリビア人に協力しているイタリア人仲介者も含まれている。リビア当局は首都トリポリを掌握している。

国連安保理は報告書で提示された証拠を検討し、こうした案件に関与しているとされる国連加盟諸国と個人に何らかの措置を科すかどうかを決める。

国連は2011年の「アラブの春」の際、カダフィ独裁政権に対する国際的な軍事介入の一環として、リビアと全敵対勢力に対して武器禁輸措置を発動した。

リビアは政治と治安の安定化に苦戦している。武器禁輸のほか、一部の元カダフィ政権当局者や政府系ファンド(SWF)などの国家機関に対する資産凍結措置も依然として続いている。

報告書によると、問題の武器は、2014年夏から統治権を争っている2つの分立する政府とそれぞれを支持する武装勢力に供給された。【3月11日 WSJ】
*****************

こうした武器供給を断つ措置が実効をあげれば、世の中の多くの紛争が鎮静化すると思われますが、そうなっていないところを見ると、実効性ある武器輸出禁止措置というのは難しいもののようです。

なお、リビア側はIS等に対抗するためには武器が必要であり、国際社会は武器輸出禁止措置を解除すべきだと主張しています。
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イエメン  「忘れられた紛争」も内戦休止の動き? 新たな南北分断か 楽観視できない今後

2016-03-19 21:50:18 | 中東情勢

(2月2日aljazeera.net掲載のイエメン勢力図 濃い紫のところがフーシ派・サレハ連合軍の勢力圏で、黄色のところがサウジアラビアの支援する政府軍の勢力圏、赤いところが衝突が生じているところ。【2月3日 野口雅昭氏 「中東の窓」】http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5005700.html  政府軍側が広いように見えますが、その多くは砂漠・半砂漠で、またイスラム過激派の活動地域でもあります。)

病院も、老人ホームも、子供も・・・
アラビア半島先端に位置するイエメンでは激しい内戦が繰り広げられてきました。
その大まかな構図は、以前のブログから再録すると、以下のようなものです。

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2011年1月 、「アラブの春」の影響を受けて市民による反政府デモが発生してサレハ大統領は退陣し、ハディ副大統領が翌2012年2月の暫定大統領選挙で当選。

2015年2月、サウジアラビア国境に近い北部を地盤とするイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」が事実上のクーデターで首都サヌアを掌握。

ハディ暫定大統領は南部アデンに逃れましたが、翌3月には「フーシ派」の勢力がそのアデンにも迫り、後ろ盾のサウジアラビアへ逃れました。

「フーシ派」をシーア派の地域大国イランが後押ししていると言われ、イラン及びシーア派の影響力拡大を嫌うスンニ派の地域大国サウジアラビアは他の湾岸諸国と共同でイエメンに軍事介入、空爆を継続しています。

なお、失脚したサレハ前大統領は「フーシ派」と共闘しており、イランが支持するシーア派の「フーシ派」とサレハ前大統領の連合勢力と、サウジアラビアが空爆支援するハディ暫定大統領・政府軍という内戦構図となっています。
【10月3日ブログ「イエメン内戦 イランはサウジの「誤爆」批判 サウジはイランの武器供与批判 戦況は「泥沼」化も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151003)】
*******************

戦況の方は、サウジアラビアなど有志連合の空爆が一定に功を奏し、アデンなど南部を奪還し、更にフーシ派・サレハ前大統領連合軍を押し上げてはいますが、首都サヌアなど北部は依然としてフーシ派が支配する状況が続いています。

もともと「アラブ最貧国」とも言われていた国で、石油などの特段の資源もなく、地域大国イランとサウジアラビアの代理戦争という点以外ではあまり国際的に注目されることもなく、情報も断片的にしか伝わってきません。

そうしたなかで、「国境なき医師団」が支援する病院施設に対する攻撃も報じられています。

****国境なき医師団の病院に爆撃、14人死傷 イエメン****
イエメン北部で現地時間の10日午前9時20分ごろ、国際医療支援団体「国境なき医師団」が支援する病院にロケット弾が着弾し、建物数棟が破壊されて、少なくとも4人が死亡、10人が負傷した。同団体が明らかにした。

負傷者のうち3人は国境なき医師団の職員で、2人が重体となっている。倒壊した建物の下敷きになった人がまだ取り残されている可能性もあるという。

被弾した病院は昨年11月から国境なき医師団が支援していた。ロケット弾がどこから発射されたのかは分かっていない。(後略)【1月11日 CNN】
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更には、老人ホーム襲撃のニュースも。
もともとイエメンは反政府勢力フーシ派以外にも、イスラム過激派アルカイダの勢力、南部分離独立派などの不安定要素を抱えていましたが、内戦の混乱のなかでイスラム過激派が勢力を拡大しているとも言われています。

今回の老人ホーム襲撃についても、ここ数か月でアデンに足場を築いたイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の犯行と指摘する向きもあるようですが、よくわかりません。

混乱のイメージしかないイエメンに老人ホームのような施設があること自体が意外な感もしましたが、そこを襲撃して何になるのか・・・。

****銃で武装の4人、イエメンの老人ホームを襲撃 16人死亡****
イエメン南部の主要都市アデンにある老人ホームが4日、銃で武装した4人の男に襲撃され、インド人看護師4人を含む少なくとも16人が死亡した。治安当局者が述べた。

当局者らによると、銃で武装した4人の男は警備員を殺害し、入居者に無差別に発砲した。目撃者によると、事件を受けて入居者の家族数十人がホームに集まっているという。

ある当局者は、襲撃犯が「過激派」で、ここ数か月でアデンに足場を築いたイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の犯行だと語った。

だがこれまでのところ、犯行声明を出した組織はない。

国際社会からの承認を受けるイエメン政府は、イランが支援する反政府勢力と戦う一方で、伸張するイスラム過激派の攻撃にもさらされている。【3月4日 AFP
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もっと深刻なのは、激しい空爆による民間人犠牲者の増加です。

****サウジ連合軍の空爆で子供含む119人死亡 内戦状態続くイエメン****
内戦状態が続くイエメンの北部ハッジャ州の町で15日、ハディ暫定政権を支援するサウジアラビア主導の連合軍による空爆があり、子供22人を含む119人が死亡した。国連高官が17日、AP通信に明らかにした。

この町はハディ暫定政権と敵対するイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」の勢力圏にある。昨年3月下旬にサウジが軍事介入して以来、6千人以上が死亡しているが、1日の空爆で100人以上の死者が出るのは最悪規模とみられる。【3月18日 産経ニュース】
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フーシ派とサウジアラビアが「緊張緩和」で合意 サウジ「大きな軍事作戦はほぼ終了しようとしている」】
国際社会があまり(すくなくともシリア・イラクのようには)注目しないなかで、上記のような混乱が続いてきたイエメン内戦ですが、これまたあまり注目されないなかで、停戦というか内戦休止による現状維持というか、とにかく戦闘を取りあえず休止する方向で動きだしているようです。

****国境緊張緩和で合意=サウジとイエメン武装組織****
サウジアラビア主導の連合軍は、イエメンのイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」との間で、両国国境地帯での緊張緩和で合意に達した。国営サウジ通信が9日に伝えた連合軍の声明などで明らかになった。

イエメンの首都サヌアを掌握するフーシ派側の代表団がサウジの首都リヤドを訪れ、連合軍と協議していた。

イエメンのハディ大統領派を支持する連合軍が昨年3月に対フーシ派軍事作戦を開始して以降、両者の間でこうした合意が成立するのは初めて。【3月9日 時事】
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また、こうした動きを受けて、サウジアラビア側は「大きな軍事作戦はほぼ終了しようとしている」とも発言しています。

****イエメン情勢(アラブ連合軍報道官の発言****
イエメンでは下記のように相変わらずタエズをはじめとして戦闘が続いていますが、al qods al arabi net は、アラブ連合軍の報道官が16日、アラブ連合軍のイエメンにおける同連合の大きな軍事作戦はほぼ終了しようとしていると発言するとともに、サウディ等のアラブ連合は、大きな軍事作戦が終了した後もイエメンに対する治安維持、復興の支援を行い、2011年のNATOのリビア攻撃のように、カッダーフィ政権を倒しただけで、撤収し、後に大きな混乱と混沌を残したようなことはしないと表明した由。

報道官はさらに、イエメン全土で戦闘のレベルは下がってきており、特にサウディ・イエメン国境では停戦が守られていると語った由。(後略)【3月17日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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長年戦闘を続けてきたフーシ派は多大な犠牲者をすでに出していますし、サウジアラビアとしてもこれ以上の戦局の大幅転換には地上軍派遣も必要にもなりますが、そこまでの余力はサウジアラビアにもない・・・といった双方の実情に基づいて「このあたりで・・・」といった手打ちがなされたということでしょうか。

なお、今回のフーシ派主導の停戦に向けた動きで、フーシ派と組んでいたサレハ前大統領は行き場を失った形にもなり、アメリカ等への脱出を打診しているといった情報もあるようですが、定かではありません。

また、サウジアラビアが最も懸念するのはイランの存在ですが、イランを介入させないことをフーシ派側に確約させた・・・といった話もあるようですが、これも定かではありません。

新たな南北分断?】
一連の情報が正しければ、イエメン内戦もようやく出口を見出したということにもなりますが、先述のように首都サヌアなど北部はフーシ派が依然として支配しています。

現在のフーシ派、サウジアラビアなどに支援されたハディ大統領の政府軍の支配領域を見ると、かつての南北イエメンの版図に近いものがあります。

かつて南北の分断していたイエメンは北側の主導で1990年に統合され、北イエメンの大統領であったサレハ氏が統一イエメンの大統領となった経緯があります。

今回の戦闘行為の休止で現状維持ということになれば、再度の南北分断ということにもなります。

なお、国連は、イエメン内戦の犠牲者の大半がサウジアラビア主導の連合軍の空爆によるものであると非難しています。

****イエメンの民間人犠牲者、原因の大半はサウジ主導の連合軍 国連****
国連(UN)は18日、サウジアラビア主導の連合軍がイエメンで最近行った複数の空爆による「大虐殺」を非難し、イエメンでの紛争において民間人が亡くなったのは、大半の場合、連合軍によってもたらされていると述べた。

ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は声明で「数字を見る限り、連合軍に起因する民間人の死亡者は、連合軍以外のすべての部隊に起因する民間人の死亡者の2倍に達しているとみられる」と述べた。【3月18日 AFP】
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サウジアラビアが「大きな軍事作戦はほぼ終了しようとしている」と発表した段階で、国連がサウジアラビアの空爆を「大虐殺」を非難・・・・

今更非難しても遅すぎるのでは・・・という感もありますが、両者示し合わせての動きでしょうか。よくわかりません。

古い部族社会構造が残るイエメン統治の困難
イエメンの今後については、あまり楽観視することはできません。
もともとイエメンは「国家」という枠組みなじまない部族が優先する社会で、いろいろ批判されるサレハ前大統領ですが、彼が強権や金権などでかろうじてバランスをとりながら国家にまとめ上げてきたとも言えます。

その構造が「アラブの春」で崩壊し、その後の構造は見えていません。
その点では、カダフィなきリビアの混乱とも共通します。

****蛇の頭の上でダンスを踊るイエメンの統治****
・・・・イエメンにおいては、常に崩れそうになるモザイクのような魑魅魍魎からなる政治社会構造を、いかに1つにまとめあげ続けられるか否かが、政治に課せられた課題なのである。

かつてサーレハ前大統領が、「イエメンの統治は蛇の頭の上でダンスを踊ることに等しい」と述べたのは、自らこそが、このダンスに唯一長けた政治家であるとの自負心の吐露だったのだ。(中略)

そうした古い部族社会構造と近代国家システムのバランスを、アラブの春が短期間の内に崩壊させたことが、現在の混乱の始まりにある。

ここまで崩れたバランスを、一朝一夕に回復させることは誰にとっても容易ではない。(中略)

簡単にあげるならば、北部と南部の地方間対立、北部における部族連合同志の対抗、ザイド派フーシ派とスンニ派の宗派対立、AQAPやダーイシュなどの過激派と中央政府との戦い、古い政治家たちと新たな若い世代とのギャップ、軍・治安機関の内部分裂といった幾つもの亀裂は、複雑にねじれ、修復不能なまでに深まりつつある。

そこでは、全ての勢力の上位に位置するはずの、唯一の主権者=国家は存在せず、それぞれの勢力が他の勢力を自らのサバイバルのために利用するという、仁義なき世界が広がっている。【2015年4月10日 松本 太氏 JB Press】
********************

上記の複雑な分裂要素に、イラン・サウジアラビアなど周辺国の介入・影響力拡大、政治空白をついてイスラム過激派が台頭という要素も加わって、今後のイエメン統治は困難を極めそうです。

内戦で更に困窮する「アラブ最貧国」 水不足という根本的問題も
長年の戦乱で「アラブ最貧国」の住民生活は破綻をきたしています。
下記はおよそ1年前の記事です。さらに1年続いた内戦、激しい空爆で事態は更に悪化しています。

****イエメン>内戦状態が「アラブ最貧国」に追い打ち****
事実上の内戦状態が続くイエメンで、市民の生活環境が急速に悪化している。

国連によると、戦闘が激化する前から国民(約2500万人)の約6割が支援を必要とする「アラブ最貧国」だったが、武力衝突やサウジアラビア主導の連合軍による空爆の影響で支援物資の搬送もままならず状況が悪化している。赤十字国際委員会(ICRC)などは人道支援目的での一時休戦を呼びかけているが、実現の見通しは立っていない。(中略)

戦闘激化は、長年の課題である貧困と相まって市民を追い詰めている。イエメンは周辺国とは対照的に石油資源が乏しく、農漁業が主要産業だ。

独裁体制だったサレハ前政権の腐敗や失政に加えて、1990年代の内戦、東アフリカの紛争地からの難民流入、2000年代以降の国際テロ組織アルカイダ系組織によるテロなどの影響で経済は停滞。

れんがを積み上げた街並みが有名な首都サヌア旧市街や、珍しい植物で知られるソコトラ群島など4件がユネスコの世界遺産に登録されているが、治安の悪化で観光地や貿易中継地としての魅力も失われた。

国連によると、今年(2015年)2月時点で、食料や水、医療物資など人道支援が必要な国民は、約33万人の国内避難民を含めて推計約1470万人に上る。地元の非政府組織(NGO)の推計では、14年の失業率は38・4%に達した。一連の紛争で人道状況がさらに危機的になるのは確実だ。(後略)【2015年4月12日 毎日】
*********************

更に言えば、仮に内戦が終結したとしても、この地域は深刻な水不足という大問題を抱えています。
(2015年2月13日ブログ「イエメンの国家崩壊  中東・北アフリカの人口爆発が惹起する社会不安定化」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150213

****イエメンに迫る「水戦争」の脅威****
中東 シーア派とスンニ派武装勢力の台頭に加えて、深刻な水不足で国が干上かって枯死する可能性も(ジェームズ・ファーガソン

4年前の「アラブの春」で可憐な花を咲かせ、ずっしり重い民主主義の実を結実させた稀有な例……になるはずだった。
しかしアラビア半島の突端にある国イエメンで民主主義が実を結ぶことはなく、今や(この地域にある多くの国と同様)国家の存続すら危ぶまれている。 

なぜか。宗教と政治の複雑微妙な関係ゆえではない。宗教や政治に無縁な人たちにも不可欠な「水」がないからだ。

首都サヌア(人口260万)の状況はとりわけ深刻だ。
水道から水が出るのは月に1度、それもわずか数時間。だから住民はずっと前から、水道よりも屋上に設けた貯水槽を頼りにしてきた。ただし貯水槽にためる水はタンクで運ばねばならないから、けっこう高くつく。

世界銀行の調査によれば、このままだとサヌアは、あと4年ほどで「持続不能」になりかねない。しかるべき対策が取られなければ、住民たちは町を捨てて逃げ出すしかない。すべてが干上がって、枯死する前に。(後略)【2015年2月10日号 Newsweek 日本版】
********************

停戦すらまだ定かではありませんが、仮に戦闘が収まってもその後の統治は困難で内戦犠牲者の救済・復興も難しいものがあり、更には「水不足」という深刻な根本問題を抱える・・・ということで、息の長い国際支援が必要になると思われます。
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インド  社会に根深い「カースト制」 「逆差別」問題、名誉殺人多発、女性暴行など

2016-03-18 21:22:33 | 南アジア(インド)

【3月17日 AFP】

今なおインド社会を規制するカースト制
先月6日間ほどインドを旅行しましたが、そうした観光旅行ではインド社会に根深く存在するカースト制などについては全く触れることも見ることもありません。

カースト制については、数千にも及ぶ非常に細分化された複雑な仕組みだとはよく聞きますが、その実態は外部の人間にはうかがい知れぬものがあります。

取りあえずの説明としては、以下のように。

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カーストとは、ヒンドゥー教における身分制度(ヴァルナとジャーティ)を指すポルトガル語、英語である。インドでは現在も「カースト」でなくヴァルナとジャーテと呼ぶ。

紀元前13世紀頃に、バラモン教の枠組みがつくられ、その後、バラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの4つの身分に大きく分けられるヴァルナとし定着した。現実の内婚集団であるジャーティもカースト制度に含まれる。【ウィキペディア】
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“ジェノサイド”に至ったルワンダのフツ・ツチとも類似しますが、もともと曖昧・流動的な部分があった伝統的社会枠組みが植民地支配体制に組み込まれる中で、より固定的なものに拡大・再構築されたという見方もあるようです。

“植民地の支配層のイギリス人は、インド土着の制度が悪しき野蛮な慣習であるとあげつらうことで、文明化による植民地支配を正当化しようとした”【同上】

“カーストに対応するインド在来の概念としては、ヴァルナとジャーティがある。(ポルトガル・イギリスからの)外来の概念であるカーストがインド社会の枠組みのなかに取り込まれたとき、家系、血統、親族組織、職能集団、商家の同族集団、同業者の集団、隣保組織、友愛的なサークル、宗教集団、宗派組織、派閥など、さまざまな意味内容の範疇が取り込まれ、概念の膨張がみられた。”【同上】

現在ではカースト差別はインド憲法でも禁止されていますが、今なお非常い強い力で生活を規制しています。

****根強いカースト意識****
50年に施行されたインド憲法は、カーストによる差別を禁じている。

ただ、姓がカーストや出身地を示していることが多く、カーストを意識せずに暮らすのは難しい。新聞などに掲載される結婚相手を募集する広告も、「同じカースト限定」といった記載があることが多い。

そのため、姓を非公開にしたり、カーストがわからないように改姓したりする人も少なくない。こんな現実が、騒動が起こる土壌としてあるとも言えそうだ。

NGO社会調査センターのランジャナ・クマリ理事長は「カーストが集団のアイデンティティーとなり、他の国の民族集団と似た役割を果たしている」とみる。

インドでは近年、女性への性暴力事件が問題になっているが、多くは異なるカースト間で起こるという。「仲間と見なさないから起こる。90年代のユーゴ内戦で異民族への強姦(ごうかん)が相次いだのに近い」と話す。【3月8日 朝日】
******************

優遇措置と「逆差別」問題
社会的に差別を受け、弱い立場にあるカーストの人々を引き上げるべく、そうした者には多くの優遇措置が取られています。

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インド政府はカースト差別を禁じる憲法に基づき、被差別カーストを「指定カースト(SC)」、少数民族を「指定部族(ST)」、SC・STに次いで社会的に疎外されたカーストを「その他後進階級(OBC)」として、公務員採用や大学進学で優先枠や奨学金などを設けている。SCはインド総人口の17%を占める。OBCは4割程度とみられる。【同上】
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ただ、こうした優遇措置は、優遇の対象外の人々にとっては「逆差別」とも見なさることになり、強い反対もあります。

私が旅行していたとき、デリー郊外で暴動を引き起こし、28名もの死者を出した事件も、こうした被差別カースト・部族への優遇措置をめぐる、上位カーストからの抗議行動でした。

****豊かなカースト、不満爆発 就職で「不公平」、デモ暴徒化 インド****
インドの首都ニューデリー近郊で2月、被差別カースト向けの優遇策の適用を求めたデモが暴徒化し、日系企業の操業停止や首都での断水につながる騒ぎが起きた。

デモをしたのは、比較的豊かなカーストの人たち。「持てる者」の反乱の背景には何があるのか。

 ■公務員に優先枠「自分たちも後進階級に
「税務署の採用試験で僕は395点も取ったのに205点の者が採用された。こんな不公平は許せない」
首都近郊のハリヤナ州ロータク。2月23日、大学前で座り込みをしていたスニート・ナンダルさん(28)が語った。伝統的に農業に従事してきた「ジャート」というカーストに属する。

ジャートの学生や住民らが19日、公務員採用の優先枠を自分たちにも割り当てるよう求めて、デモを開始。ナンダルさんも加わった。

近くには黒こげの車が転がり、焼き打ちされ、略奪された商店が見える。デモ隊はやがて暴徒化し、19日夕には商店などを襲い、各地で道路を封鎖したのだ。暴動は軍や武装警官隊が派遣された22日まで続き、28人が死亡した。

インドでは、かつて「不可触民」と呼ばれ過酷な差別を受けたカーストや、カーストの枠外の少数民族に、政府が公務員採用や大学進学で優先枠を設けてきた。1990年代以降は「その他後進階級(OBC)」と呼ばれるカーストの人たちにも同様の優遇をし、公務員採用のおよそ半分が優先枠となった。

ジャートは今回、自らもOBCと認めるように求めた。自作農が多く、同州で人口の3割を占める。動員力があり、政治家も「集票マシン」とみなしてきた。

2004年の州議会選で、ジャートへの優先枠適用を公約に掲げた国民会議派が勝ち、ジャートのフダ氏が州首相になった。フダ氏は14年の州議会選の直前に優先枠の適用を発表したが、選挙に敗れて退陣。最高裁は昨年、「ジャートはOBCではない」と適用を取り消す判決を出した。

プラデープ・フダさん(27)は昨年、優先枠で決まりかけた公務員採用が最高裁判決で取り消された。大学でコンピューター科学の修士号を取ったが良い仕事に就けず、公務員を目指していた。「我々にも優先枠を適用するか、制度そのものをやめるべきだ」(中略)

暴徒がニューデリーの水源となる用水路などを一時占拠したため、首都の広い範囲で断水が続き、国鉄も運行が妨害されて約100万人の足に影響が出た。

インド商工会議所連合会は、商店の焼き打ちや工場の操業停止、断水などによる経済的な損害を計1800億~2千億ルピー(約3千億~3400億円)と見積もる。

 ■「農業に未来ない」・・・転職に壁
比較的豊かとされるカーストの優先枠の要求は昨年、西部グジャラート州でもあった。「パテル」と呼ばれる人々が最大都市アーメダバードなどでデモを繰り返し、警官隊との衝突で死者も出た。パテルも伝統的に農民で、かつ村の「徴税役」を意味する。

なぜ、「持てるカーストの反乱」が続くのか。ネール大学のスリンダル・ジョドカ教授(社会学)は、背景に社会の変化をみる。

ジョドカ教授によると、インドでは、品種改良などで穀物を増産した60年代以降の「緑の革命」で農村が豊かになり、自作農のジャートやパテルが経済的、政治的に力を得た。

だが、政府が91年に経済開放政策をとると、94年に就業人口の61%を占めた農業は、13年には50%に低下。

14年に発足したモディ政権は製造業を振興して経済成長と雇用創出を目指す政策を進め、農地の買収手続きを簡素化しようとしている。こうした変化に「農業に未来はない」という考えが、ジャートやパテルの間で広がっているという。

だが、民間企業に就職しようにも、上層部は伝統的に司祭や商人だったカーストの人たちが占め、公務員採用での競争率は高い。ジョドカ教授は「こうした人々が見つけた出口が優先枠だ」と話す。【3月8日 朝日】
*********************

多発するカースト制絡みの事件 名誉殺人も
こうした「逆差別」問題よりは、もっと外部の人間にもわかりやすい「カ―スト差別」に根差す事件も後を絶たないようです。
そしてその多くは、身内の“恥・不名誉”を死を持って償わせるという「名誉殺人」という形をとることが多いようです。

****兄弟が女性焼殺、インドでまた「名誉殺人」 身分違いの結婚理由に****
インド西部ラジャスタン州の村で、家族の意向に反して異なるカーストの男性と結婚した女性が、兄弟に焼き殺される事件があった。地元警察が6日、明らかにした。インドでは、家族の名誉を汚したとの理由で身内を殺害する、こうした「名誉殺人」がしばしば起きている。 

被害者のラーマ・クンワルさん(30)は8年前にカーストの異なる男性と駆け落ちして村を離れていたが、もう家族が結婚を許してくれることを期待して4日に帰省した。

しかし、まだ怒りが収まっていなかった兄弟らは夫の親族宅にいたクンワルさんを家の外へ引きずり出し、村人らの前で火をつけた。

地元ドゥンガルプール県の当局者はAFPの取材に「彼女は今なら両親が許してくれると思っていたが、兄弟たちは彼女が村に戻ったと知るなり、すぐに(クンワルさんのいた)家に駆け付け、彼女を引きずり出した」と語った。

クンワルさんは助けを求めて叫んでいたが、誰も助けようとしなかったという。さらに焼殺の証拠を隠滅するため、クンワルさんの葬儀はその日のうちに行われた。

だが、クンワルさんの義母の通報を受けた警察が現場に急行し、証拠を採取するために火葬現場に水をかけて火を消した。

事件では、これまでにクンワルさんの兄弟のうちの1人と男6人が逮捕されたが、警察はさらなる容疑者の行方を追っているという。

インドでは数百年前から、家族や地域社会が認めない関係にある男女を名誉を汚したとの理由で殺害する「名誉殺人」の風習があり、現在も地方部を中心に残っている。

インドの最高裁判所は2011年、「名誉殺人」に関与した者には死刑を科すとの判断を示している。【3月7日 AFP】
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****異なるカースト出身の夫婦が襲われ夫死亡、インド****
インド南部タミルナド州の路上で13日、最下層カーストのダリット出身の男子学生(22)と上の階層のカースト出身の女性(19)の夫婦が鎌などを持った男3人に襲われ、夫は死亡、妻は重傷を負った。2人の結婚に怒った女性の親族による「名誉殺人」とみられる。

3人の男は鎌や鋭利な刃物を手に、日曜日の人手の多い通りで夫婦を襲った。現地警察によると、襲われた夫婦は8か月前に結婚したが、男性がダリット出身だったことから女性側の親族が結婚に怒っていた。

女性も負傷したが、地元の病院で治療を受けて回復しつつあるという。襲撃と関連し、警察は女性のおじの行方を追っている。

インドのテレビでは、オートバイで乗りつけた男3人が、通りを歩く2人に襲い掛かる様子を捉えた防犯カメラ映像が放映された。【3月14日 AFP】
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****インド女性、カースト差別受け自殺 最下層男性と「不倫」で懲罰****
インド中部マディヤプラデシュ州で、自分より低いカーストの男性と不倫したとして長老会議により罰せられた4児の母親の女性(25)が、首つり自殺した。地元警察官が16日、明らかにした。

女性が自殺したのは14日。女性の自宅周辺には当時、長老会議が不倫の罰として家族に開催を命じた宴会に参加するため、数十人の村人が集まっていた。

女性と同じカーストのメンバーで構成される長老会議は先月、インドに根強く残る社会階級制度でかつて「不可触民」とされた最下層のダリット(Dalit)出身の男性と関係を持ったとして、女性に対し「有罪」を宣告していた。

地元の警察官によると、女性は宴会を開くことに加え、5000ルピー(約8400円)の罰金と、地元寺院で自身の「罪」を償うことが命じられていた。女性は、夫の同僚であるダリットの男性との不倫疑惑で落ち込んでいたとみられている。警察は現在、長老会議が女性の死に果たした役割について捜査しているという。

「パンチャヤット(panchayat)」と呼ばれるこうした長老会議は、正当な法的権威はなく違法とされているが、とりわけインド北部で強い影響力を持っており、法的機関が利用できない状況にある数百万人の貧しい村人たちのための調停役を果たしている。【3月17日 AFP】
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カースト、特に不可触民(ダリット)の置かれている差別は想像を超えるものがあるようです。

3月に入ってからだけでも、国際ニュースで伝えられるカースト絡みの事件が3件・・・実際はどれほどの差別・事件が横行しているのか・・・・

また、インドで近年問題となっている女性への性的暴行事件についても、前出【朝日】も指摘するように、背景にカースト制の問題が存在していることが多いようです。

事件として話題になるのは上位カーストが被害にあったときのみで、ダリット女性の被害など警察も取り合わない・・・とも。

現代社会は多くの面で流動化が進む社会ですが、その一方でその流動化を認めない固定的なカースト制との間でのせめぎあいとして事件が起きているように思えます。

また、世界各地で経済格差拡大が問題とされているように、現代社会は社会内部に大きなストレスを抱え込むことにもなりがちですが、そうした不満が弱い立場の人間に向かって差別・暴力としてはきだされることも懸念されます。

インドのカースト制だけでなく、世界には宗教的・伝統的規範によって個人の選択の自由を縛るものが多々あります。

それぞれ、もたらされた社会的理由・背景もあってのものでしょうし、異なる価値観を一方的に否定するのもいかがなものかとは思いますが、比較的そうした制約が少ない日本に暮らしていると、なじめないもの、理不尽なものを感じざるを得ません。

“比較的少ない”とは言いましたが、もちろん、日本にも「差別」問題は厳然として存在します。
そして、心の内側に根差すだけに、また、社会不満のはけ口として人間は常に自分より弱い立場の存在を求めるものであることからも、その克服が容易でないことも承知しています。
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中東動乱第1幕の主役ISには退潮の兆しも しかし、クルド人を主役とする第2幕の萌芽も

2016-03-17 21:23:28 | 中東情勢

(赤茶色部分がISが昨年初め以降失った地域を示しています 【3月17日 AFP】)

衰退傾向のIS 少年兵依存や化学兵器使用も
イスラム国(IS)の支配領域は、アメリカやロシアの空爆に支援されたシリア政府軍、クルド人勢力、イラク政府軍などの攻勢によって、大幅に縮小しており、ISは軍事的に劣勢に立たされていると指摘されています。

****昨年から領域22%縮小=IS、孤立・衰退傾向―ジェーンズ****
国際軍事情報大手IHSジェーンズは16日、過激派組織「イスラム国」(IS)の支配地域が昨年初め以降、22%縮小したとの分析結果を明らかにした。

ジェーンズは昨年12月、ISの領域が同年中に14%縮小し、7万8000平方キロとなったとの見方を示していた。今月14日までにさらに8%を失ったとみている。

ジェーンズによると、今年に入り、シリア北東部でクルド人民兵組織などから成る「シリア民主軍」が米軍やロシア軍による空爆の支援を受け、ISが「首都」とするラッカやデイルアッズールに向け南進し、ISは大きな領域を失った。

アサド政権軍もISから領域を奪い、ISが昨年5月に制圧した中部のパルミラまで5キロに迫った。【3月7日 時事】 
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こうした軍事的劣勢によって戦闘員確保も困難になりつつあるISは、少年兵への依存を強めているとも言われています。

****IS、離反者増加で「少年兵に依存」 米政府****
米政府は14日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が、離脱する戦闘員の増加に伴い少年兵に依存する割合を強めているとの見解を示した。(中略)

一方で、ISでは「ますます多くの」離反者が出ており、少年兵に対する依存度が高まっていると付け加え、「当初、彼ら(IS)は情報入手に子どもたちを使っていたが、その後、自爆攻撃に使うようになった」と指摘。

「現在、彼らが大人の戦闘員と一緒に実際の戦闘に子どもを使用しているとするより多くの報告を入手している」とし、「彼らが人員の勧誘や組織へのつなぎ留めに苦慮していることを示す良い兆候」だと述べた。【3月15日 AFP】
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少年兵多用は「良い兆候」と言ってはいられない、憂うべき事態でもあります。
かつてカンボジアのポル・ポト政権は思想的に変革が困難な大人たちは消耗品として酷使し、洗脳した子供たちに革命の実現を託しました。ISも似たようなことがあるように見えます。

“ISが少年兵を利用しているのは、少年らが単に減少する戦闘員の代用品ではなく、イスラム帝国「カリフの府」を再興する大儀のための重要な一員とみなしていることも大きい。今後ISがさらに追い込まれれば、自爆テロが増え、結果として少年兵がそうした作戦に投入されるケースも多くなるのは必至だ。”【3月11日 WEDGE】

窮地に追い込まれつつあるISが頼るのが少年兵ともうひとつ、化学兵器であると言われています。

****ISの化学兵器攻撃で負傷した3歳少女が死亡、イラク****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の化学兵器を使った攻撃で負傷し、治療を受けていたイラク人の3歳の少女が11日、入院先の病院で死亡した。医療情報筋や当局が明らかにした。

イラク人権委員会のマスルール・アスワド氏は「女の子は、呼吸器合併症と腎不全で死亡した。タザでISが使用したマスタードガスが原因だ」と語った。(中略)

これまでのところこの種の化学兵器攻撃による死傷者の数は少なく、軍事的な影響より心理的な影響の方が大きいとされている。【3月12日 AFP】
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しかし、今後ISが化学兵器使用を強めることも懸念されています。

****最終兵器は少年兵と毒ガス 窮地に追い込まれたIS****
・・・・米CNNは9日、米軍がイラク北部モスル近郊にあるISの化学兵器施設を空爆したと報じた。この作戦はアファリからの情報に基づくものとされる。こうした兵器工場はイラクとシリアに複数あると見られており、すでに大量の化学兵器が前線に配備されている可能性もある。

ISと戦っているイラク軍やクルド人武装勢力は防護服など化学兵器戦の備えはほとんどできておらず、米軍は毒ガスという新たな難題に頭を抱えている。【3月11日 WEDGE】
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IS退潮の立役者クルド人勢力が今後主張を強めることも・・・中東動乱第2幕の危険
一方、冒頭の地図を見てわかるように、ISが失っている領域の大部分がシリア北東部に集中しています。
この領域はクルド人民兵組織などから成る「シリア民主軍」が米軍やロシア軍による空爆の支援を受けてISへの攻撃を強めている地域です。

対IS戦線の中核的存在ともなっているクルド人勢力ですが、もちろんボランティアでやっている訳ではなく、自治権を強めて独自の支配領域を確保したいという彼らの思惑に沿ったものです。

****<シリア>北部のクルド勢力、自治宣言か****
ロイター通信は16日、シリア北部を拠点とする少数民族クルド人勢力が、同日中にも、トルコとの国境沿いの3地区の自治領域化を宣言する見通しだと伝えた。

クルド人勢力はシリア内戦で米欧の支援を受け、過激派組織「イスラム国」(IS)を撃退するなどして北部に支配地を拡大している。

国内に敵対的なクルド系武装組織を抱える隣国トルコは同日、「正当性がない」と早くも強い反発を示している。

ロイター通信によると、シリア北部コバニ(アラブ名アインアルアラブ)を拠点とするクルド人勢力の幹部が、同地など3地区で連携し、「自治の枠組みを広げる」方針を明らかにしたという。シリアのクルド人勢力は同国の連邦化を求めてきた。【3月16日 毎日】
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こうしたクルド人勢力の伸長に神経をとがらせているのが国内に反政府クルド人勢力PKKを抱えるトルコで、PKKと繋がるシリアのクルド人勢力に対しても武力行使を厭わないとするトルコと、対IS戦略の中核を占めるクルド人勢力の間でアメリカが板挟み状態にあることは、これまでも取り上げてきたところです。

一方、すでに自治政府を確立しているイラクのクルド自治政府は、更に、「独立」をも視野に入れています。

****独立問う住民投票実施表明=「時が来た」―イラクのクルド自治政府****
イラクのクルド自治政府のバルザニ議長は2日、「クルド人が自らの将来について決めるのに適した時が来た」と宣言、独立国家樹立の是非を問う住民投票を実施する考えを表明した。

「すぐに国家樹立を宣言するわけではない。クルド人の意思を知っておくためだ」とも強調した。

しかし、この動きにバグダッドの中央政府の反発は必至。イラク国内を引き裂く対立に発展すれば、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いにも影響が及ぶ恐れがある。

具体的な投票日に議長は言及していない。ただ、1月末に主要政党に対し、11月の米大統領選前に実施した方がいいと所見を述べたことがある。

議長は、独立を目指す英国北部スコットランドやスペイン東部カタルーニャ自治州と同様、クルド人にも独立について意見を述べる権利があると主張している。

しかし、クルド人はトルコやシリアでも多数が暮らす。イラクだけで話は済まない。
 
ラク北部を統治しているクルド自治政府は、2014年に自治区とトルコを結ぶパイプラインを完成させ、原油輸出を開始。中央政府の反発をよそにトルコのエルドアン政権と手を組み経済的自立をもくろんできた。

また、クルド人治安部隊「ペシュメルガ」はイラクで対IS地上戦の主力を担う。欧米には議長への遠慮が生まれている。

住民投票実現をかねて狙ってきた議長には好都合な環境が醸成されつつある。しかし、クルド独立となれば、さすがにトルコや米国からも反対が予想される。

議長は今回、一歩踏み込んだ発言を行い、反応を見極める構えとみられるが、思惑通り投票が実現するかはまだ分からない。【2月3日 時事】 
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このクルド自治政府の動きは、関係国の反応を探る“観測気球”的な発言と思われ、すぐに何らかの行動が起こされるものではないでしょう。

ただ、シリアにしても、イラクにしても、ISとの戦いのなかでクルド人勢力の存在感が強まっているのは事実であり、これまで「国家」を持たなかったクルド人勢力が、自治権や国家を求めて声を上げることは十分に想定されてきたことでもあります。

その場合、シリア、イラクの中央政府、先述のように国内に反政府クルド人勢力を抱えるトルコ、更にはやはりクルド人を抱えるイランなどを巻き込んだ、中東動乱の第2幕が始まること、そしてその第2幕はISによる第1幕より遥かに強力なインパクトで中東全体を揺さぶるであろうことも指摘されてきたところです。

なお、各地域のクルド人勢力は必ずしも一枚岩ではなく、例えば、シリアのクルド人勢力はPKKと繋がっていますが、イラクのクルド自治政府は石油取引を通じてトルコ・エルドアン政府とは親密な関係にあり、トルコ政府に対立するPKKとは疎遠であるとされています。(PKKとの距離感は自治政府内の二大派閥で異なるものがあります)

こうしたクルド人勢力側の内情もあって、事態は更に複雑なものになっていきます。

クルド人勢力との戦いで治安悪化のトルコ エルドアン政権の強権化も
トルコは再三触れているように、シリアのクルド人勢力の活性化が国内PKKを刺激するとして、すでにISとクルド人勢力の両方を標的として攻撃する二正面作戦に踏み出していますが、そのことで国内のテロが急増する事態ともなっています。

****クルド武装組織が犯行声明=軍事作戦への「報復」―トルコ首都テロ****
トルコの首都アンカラで13日に起きた自動車爆弾テロで、クルド系武装組織「クルド解放のタカ(TAK)」が17日、犯行を認める声明を出した。ロイター通信が伝えた。TAKは、さらなる攻撃を宣言している。

トルコ政府は昨夏、「テロとの戦い」の一環で、反政府武装組織クルド労働者党(PKK)に対する軍事作戦を再開し、南東部で激しい市街戦を展開している。

TAKは、今回のテロはその「報復行為」だと強調。当初は治安部隊を狙ったが、警察が妨害したため、大勢の市民が巻き込まれたと説明した。

TAKはPKKの分派で、2000年代初めに設立されたとみられる。PKKとはたもとを分かったと主張しているが、密接な関係も指摘されるなど、実体はよく分かっていない。

13日にアンカラ中心部の繁華街で起きたテロでは、少なくとも35人が犠牲になった。政府は事件後、PKKの関与を示す「ほぼ確かな証拠」(ダウトオール首相)があると主張。自爆テロ犯は13年にPKKに参加し、シリアのクルド人民兵組織、人民防衛部隊(YPG)の下で訓練を受けた20代の女だと発表していた。

TAKは、アンカラで2月中旬に起きた別の自動車爆弾テロでも犯行を認めていた。2月の事件では軍の車列が狙われ、29人が死亡した。【3月17日 時事】 
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反政府クルド人勢力PKKとの戦いにのめり込むトルコ・エルドアン政権は、急速に強権的な姿勢を強めているとも言われています。

****民主主義をかなぐり捨てたトルコ****
今月初め、政府に批判的な有力紙ザマンを突然、政府の管理下に置いたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領がなりふり構わぬ過激派対策に走ろうとしている。「西側の一員」としての顔はほとんどかなぐり捨てている。

ジャーナリスト、学者、議員も対象に
首都アンカラでは13日、爆弾を積んだ車両が爆発、これまでに37人の死亡が確認されている。事件を受けてエルドアンは、過激派対策法を改定し、ジャーナリスト、政治家、学者も取り締りの対象とする法案を議会に提出。「クルド人寄りの政治家がテロをそそのかしている」ので、議員の免責特権を「直ちに」廃止する必要があると演説した。

「免責特権問題に早急にけりをつけなければならない。議会は迅速に審議を進めるべきだ」──この発言が「クルド人寄りの政治家」、即ちクルド系政党・国民民主主義党(HDP)の議員の刑事告訴を視野に入れたものであることは明らかだ。

エルドアンはさらに、過激派の定義を拡大し、過激派対策法の取締り対象にジャーナリスト、政治家、学者を入れると主張。「裁かれるべきはテロの実行犯だけではない。肩書にかかわらず、テロ行為をそそのかす人間もテロリストと定義しなければならない」

捜査当局は、非合法の武装組織・クルディスタン労働者党(PKK)が13日のテロ攻撃を計画したと見て、翌14日、PKKとの関係が疑われる人物の一斉検挙に乗り出した。

トルコの国営通信社アナドルによると、国内各地で逮捕者は少なくとも47人に上った。16日にはトルコ人学者3人が「テロリストの宣伝工作」容疑で逮捕されたほか、クルド人寄りの弁護士8人も身柄を拘束された。

「テロリストの宣伝工作」とは、トルコ南東部のクルド人武装組織に対する治安部隊の攻撃を中止するよう、公式に政府に呼び掛けたこと。トルコ政府はクルド人が多数を占める南東部の一部地域を包囲し、深刻な人道危機を招いていると、クルド人組織は訴えている。

誰にとっても危険な国
HDPのセラハッティン・デミルタス共同議長は今月に入って本誌の取材に応じ、エルドアンは「独裁体制」を固めつつあり、クルド人に限らず「トルコでは誰もが大きな危険にさらされている」と懸念を表した。

過激派対策法改定の法的根拠について、与党・公正発展党(AKP)の法律顧問はロイターにこう語っている。「テロ行為に直接的に関わっていなくても、思想的に支持した場合、完全なテロ犯罪ではないが、やや軽度のテロ犯罪とみなせる。われわれは対策法の範囲を拡大するつもりだ」

トルコの治安状況は悪化の一途をたどっている。混乱が続く隣国シリアで、クルド人武装組織「民主連合党(PYD)」「人民防衛隊(YPG)」がトルコとの国境地帯で支配圏を拡大。

その影響でトルコ国内でもクルド人の分離独立の動きが活発化し、昨年7月にはトルコ軍とPKKの衝突が再燃。2年余り守られてきた停戦協定は脆くも崩れた。昨年11月には、トルコ空軍がシリアとの国境地帯に展開するPKK部隊に空爆も実施。

84年から13年の停戦成立まで続いたトルコ軍とPKKの武力衝突では4万人余りの死者が出ている。【3月17日 Newsweek】
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中東動乱の第1幕については、先述のようなISの退潮、また、現在進行している和平協議など、状況改善の兆しも出てはきていますが(それも先行き不透明ではありますが)、早くもクルド人勢力を主役とする第2幕の萌芽も次第に表面化しつつあります。
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欧州難民問題  「バルカンルート」閉鎖の混乱 EU・トルコの合意をめぐる問題

2016-03-16 21:42:42 | 難民・移民

【3月15日 AFP】

国境に足止めされた難民らの苛立ち・不安
欧州に押し寄せる難民・移民問題では、トルコからギリシャに渡りバルカン半島を北上する、いわゆる「バルカンルート」の周辺国(スロベニア、クロアチア、セルビア、マケドニア)が難民らの流入を厳しく制限し、事実上閉鎖された状態にあります。

“(9日)スロベニアが同国内で難民申請する移民ら以外の入国を拒否。クロアチア、セルビアも同様の措置をとったのを受け、マケドニアが有効な旅券と査証を持たない移民らの入国を拒否した。”【3月10日 産経】

このため、ギリシャ北部のマケドニアとの国境にはおよそ1万2000人が足止めされており、ギリシャ全体では、島々を含めておよそ4万5000人の難民たちが足止めされた状態で、難民たちの間からは不安や不満・苛立ちの声が広がっています。

過密状態のなかで先行きが見えない状況にしびれをきらした難民の中には、強行突破しようとする者も出ており、混乱が報じられています。

****ギリシャに滞留の移民、数百人がマケドニア国境を突破****
ギリシャ北部のマケドニアとの国境に足止めされていた移民のうちの数百人が14日、水位がももの位置まで上がった川を渡ってマケドニア側に入り、同国軍により制止された。

ギリシャの対マケドニア国境では、バルカン諸国が国境閉鎖に踏み切ったため移民ら数千人が留め置かれ、イドメニ付近の移民キャンプは過密状態に陥っている。

移民ら約1000人がこの日、閉鎖されている検問所を通らずにマケドニアに入る経路を探し回り、イドメニからおよそ2キロ離れた村で代わりの経路を見つけ出した。

AFPの記者によると、移民らは所持品全てを抱えて丘を越え、流れの速い川の中を歩いて渡り、この村に向かった。ギリシャの警察当局によってたちまち包囲されたが、2度にわたってくぐり抜けた。最初は移民らが多過ぎて阻止しきれず、2回目は川を渡っていく移民らを警察車両が追跡できなかったという。

だがその後、マケドニア軍が移民らの移動を制止。同行取材していた記者約20人も、国境を越えた直後に警察に連行され、「不法入国」を理由に1人500ユーロ(約6万3000円)の罰金を科された。

また同日にはこれに先立ち、大雨で水位が上がったマケドニアの川で、ギリシャからの越境を試みて水死したアフガニスタン人3人の遺体が発見されている。

さらにギリシャ沖のエーゲ海(Aegean Sea)では移民らが乗った船が沈没し8人が行方不明となり、同国の沿岸警備隊が捜索に当たっている。【3月15日 AFP】
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EU・トルコ 一律送還・同数「第三国定住」受入で合意
事態打開を目指すEU側はトルコとの間で、ギリシャに密航した全難民らをトルコに送還する一方、送還されたシリア難民と同数のトルコにとどまるシリア難民を「第三国定住」の正規の手続きに基づいてEUに移住させることで大筋合意しています。

****密航移民をギリシャから送還 EU・トルコが大筋合意****
難民・移民流入問題をめぐり、欧州連合(EU)28加盟国とトルコは7日、ブリュッセルで行った首脳会談で、ギリシャに密航した移民らをトルコに送還する一方、同国にとどまるシリア難民をEUに移住させることで大筋合意した。

詳細を詰め、EUは17〜18日の首脳会議での最終合意を目指す。EU側は移民危機収束への「突破口」と期待するが、実効性の確保が課題となりそうだ。

トゥスクEU大統領は会談後の記者会見で、大筋合意について「われわれは突破口を得た」と強調。トルコのダウトオール首相は新たな措置が危機的状況を「転換させる」手段となりうるとの見解を示した。

合意はトルコ側の提案に基づいており、送還は全移民が対象。一方、EUは送還したシリア難民と同数を正式手続きに従いトルコから引き取る。

正式な難民の受け入れルートを確保しつつ、密航への厳しい態度を示すことで、違法業者が介在する無秩序な流入を押さえ込む狙いだ。

EUは当初、流入数の約3割を占めるシリア難民以外の経済移民の送還受け入れをトルコに求める方針だったが、メルケル独首相が6日、ダウトオール氏とさらに踏み込んだ措置で調整した。

メルケル氏はオーストリアなどの入国制限といった個別対応でEUの連帯が一段と損なわれることを警戒。国内では重要な地方選挙を控え、成果を示す必要にも迫られていた。(後略)【3月8日 産経】
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難民問題での協力とりつけのため“価値観を放棄”したEU
国内で政府批判を行うメディアを弾圧するなど強権的な姿勢が目立つトルコ・エルドアン政権ですが、難民問題でどうしてもトルコの協力が必要なEU側は、本来であれば批判すべきそうした問題には目をつぶってトルコ側の要求を入れた形となっています。

****シリア難民をトルコに強制送還 ついにメルケルも音を上げた****
欧州の難民危機を解決するため、欧州連合(EU)とトルコはこのほど、ギリシャに密航する難民・移民のすべてをトルコに送還することで大筋合意した。

合意では、難民問題をEU加盟交渉の促進などにしたたかに利用しようとするトルコと、なり振り構わずトルコにすがるEUの実像が浮き彫りになった。だが、合意で難民の欧州流入に歯止めがかかる見通しは全く不透明なままだ。(中略)

トルコはこの見返りに、EUのトルコ国内への難民支援金を現在の33億ドルからほぼ倍に増額すること、EU加盟国へのビザなし渡航の自由化を当初予定を前倒しして6月末までに導入すること、そして長年求めてきたEU加盟の交渉を加速させることの3点をEU側に約束させた。

EUの首脳会議は昨年、欧州に押し寄せる難民のうち16万人を加盟国に割り当てることで合意したが、ハンガリーなどの東欧諸国が受け入れを拒否するなどしたこともあり、わずか700人の行き先が決まっただけだ。今回の首脳会議も議論が8日にずれ込むなど難航した。

こうした状況下で頃合いを見計らっていたトルコのダウトオール首相が難民の送還方式を提案。EU側は「実現すれば、難民問題の突破口になる」(メルケル独首相)と賛同するなど、“渡りに船”とトルコ提案に飛びついた。

EU側はこの際、トルコに約束した見返りのほか、これまでトルコに求めていた民主化要求も放棄してしまった。

表現の自由の価値観放棄
EUはトルコのEU加盟交渉などで、国内の民主化の促進を要求。エルドアン政権も一時は少数民族クルド語の放送や教育を合法化したり、死刑を廃止するなどこれに応じた。

しかし加盟交渉が停滞するにつれて、民主化も後退。最近では政府批判を展開する最大手紙ザマンを5日に政府管理下に置くなど政権の強権姿勢が一段と強まっている。

しかしEUは今回、表現の自由という欧州の価値観を要求することはせず、エルドアン政権の言論弾圧を事実上黙認する形でトルコの難民送還の提案に飛びついた。

トルコを怒らせては、難民危機の解決に向けた提案が崩壊しかねないからだ。「双方は互いの利害のためにただ取引しただけ」(トルコ人コラムニスト)と、なり振り構わないEUの姿勢を問題視する向きも多い。(後略)【3月15日 WEDGE】
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合意の国際法上の疑義
密航した難民を一律に送り返すことになるEUとトルコの間の合意については、国際法で定められた「保護されるべき難民」もトルコに機械的に強制送還することになるとして国際法上の疑義も指摘されています。

****トルコへ難民送還、合法性に疑問の声 EU内相理事会****
難民危機をめぐり、欧州連合(EU)は10日、ブリュッセルで内相理事会を開いた。7日のトルコとの首脳会議では、中東などからギリシャ入りする難民らを経由地のトルコに送り返す案で大筋合意したが、各国からは合法性に疑問の声が相次いだ。EUは17日からの首脳会議で正式合意を目指すが、難航も予想される。(中略)

さらに問題とされているのは、密航した難民を一律に送り返すこと自体の適法性だ。ルクセンブルク内相から懸念する声が出たほか、ザイド国連人権高等弁務官も9日、「集団的かつ独断的な追放」は国際法上、違法な可能性がある、と指摘した。【3月12日 朝日】
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強制送還したシリア難民と同数の「第三国定住」を受け入れることについても、東欧諸国などの強い反対が予想されています。

****対立と分裂が深まる懸念**** 
EUは17、18日の首脳会議で正式な難民送還の合意を目指すが、反対論や問題も浮上している。難民拒否の強硬派であるハンガリーのオルバン首相は「第三国定住」として、シリア難民の受け入れが義務づけられることに猛反発、他の東欧諸国が追随する可能性もある。

この「第三国定住」が年間数十万人に達することも予想され、合意を推進したいドイツなどと反対する東欧諸国などとの間の対立と分裂が深まる懸念がある。「第三国定住」の場所など具体的な議論が始まれば、収拾がつかなくなる恐れも強い。【前出 WEDGE】
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新たな危険、新たな人道危機
さらに、「バルカンルート」が厳重な管理下におかれることで、より危険なルートに人々が押し寄せ、犠牲者が増大する危険も懸念されています。

“懸念されるのは、トルコからギリシャ経由の欧州入りルートが遮断された場合、難民らはより危険な「リビア―地中海―イタリア」というルートに向かうと見られていることだ。このルートは地中海を横断するため船の沈没などでこれまでに数千人が死亡しているが、海が穏やかになる春の到来で急増する危険性もある。”【同上】

未だ問題が山積している状況ですが、冒頭の川を渡る難民らの写真を見ると、手をこまねいているだけではすまされない思いを強くします。

“欧州各地で漂流している多数の難民に加え、ギリシャには約5万人の難民が足止めされ、野営地では厳寒の中、病気になる人などが急増、新たな人道危機が生まれつつある。”【同上】

独州議会選挙で反難民政党躍進 メルケル首相は寛容政策堅持
難民受け入れを主導してきたドイツ・メルケル政権も国境管理を厳重化しており、今回合意でもトルコ・ダウトオール首相の提案する難民送還方に乗った形となっています。

しかし、ドイツ国内ではこれまで難民受け入れを進めてきた、また、今も受け入れ方針を撤回していないメルケル首相に批判的な空気が強まっており、13日に行われた州議会選挙ではそうした反難民の動きが大きく表面化しています。

****ドイツ州議会選、反移民の右派政党が躍進 メルケル首相の与党敗北****
ドイツで13日、移民・難民の大量流入が問題化して以降では最大規模となる州議会選挙が3州で行われ、アンゲラ・メルケル首相率いる「キリスト教民主同盟(CDU)」が大幅に議席を減らした一方、移民受け入れに反対する新興の右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が有権者の憤懣をすくい上げて躍進した。

今回の州議会選は、戦火を逃れてきた人々の受け入れを表明したメルケル首相の寛容な移民・難民政策に対する事実上の国民投票とみなされていた。

CDUは2州で敗北したうえ、これまで地盤としてきた南西部バーデン・ビュルテンベルク州でも得票率が過去最低の27%に落ち込み、第1党の座を「緑の党」に譲り渡した。

一方、ドイツ入国を試みる不法移民に対して警察は発砲してもかまわないなどの発言で物議を醸してきたAfDは2桁台の支持を獲得し、3州全てで議席を確保。特に東部ザクセン・アンハルト州では第2党の座に躍り出た。

2013年に欧州連合(EU)に批判的な政党として立ち上げられたAfDは、その後、移民受け入れ反対を掲げる政党へと変化し、これまでは旧東ドイツでのみ支持を広げていた。【3月14日 AFP】
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ただ、ドイツ有力紙シュピーゲル(電子版)は意外にも、今選挙戦はメルケル氏の勝利だった、と指摘しているそうです。

****反難民」党躍進 踏ん張れメルケルさん****
ドイツの州議会選挙で難民受け入れ反対を訴える右派政党が躍進し、メルケル首相率いる保守与党が議席を減らした。首相への逆風は厳しさを増すが、人道重視の寛容政策を貫くよう求めたい。

躍進したのは右派政党「ドイツのための選択肢」。旧東独の一州で得票率約24%を獲得して第二党、旧西独二州では約13%、約15%で第三党となった。これまで、いずれの州でも議席がなかった。

メルケル首相は選挙後、難民政策の不変は言明したものの、「満足できるような解決策を見つけるに至らないことへの有権者の不安」が背景にあったと認め、欧州全体での解決を図っていくとした。

内戦が続くシリアなどからの難民殺到にメルケル首相は昨年秋、上限のない受け入れを表明。入国者は約百十万人に上り、難民による暴行事件が起きたことで、寛容政策への批判は強まった。

「選択肢」党は反ユーロを主張し三年前に設立され、反難民で支持を広げた。女性党首のペトリ氏は「銃を使ってでも違法な入国を阻止しなければならない」と強硬姿勢を際立たせていた。

独誌シュピーゲル(電子版)は意外にも、今選挙戦はメルケル氏の勝利だった、と指摘する。
寛容政策への異論が噴出する保守与党から「選択肢」党へ票が流れた可能性がある半面、連立相手の社会民主党に加え、野党緑の党の支持者が寛容政策を支持した、と分析する。

南西部の州では、保守与党大敗の一方で緑の党が躍進。西部の州では、寛容政策に距離を置きメルケル氏のライバル視されていた保守与党の女性州首相候補が、社民党に敗れた。

戦後一貫してきた難民への寛容政策は逆風にもかかわらず、国民に定着していると考えてよさそうだ。ただ、難民への不安や反感をなくすには、ドイツ語習得や職業訓練による社会統合が急務だ。

ドイツにばかり難民を押し付けるのには無理がある。欧州連合(EU)はトルコと、欧州に到着する難民を送還しトルコから直接シリア難民を受け入れることで合意した。

受け入れに難色を示す中東欧諸国には、難民流入をコントロールしEU加盟国で負担を分担していくよう、今週の首脳会議で理解を訴えたい。

英国では六月、EU離脱の是非を問う国民投票が実施される。責任と規律と協調の必要性を、政治家は分かりやすく説明せねばならないだろう。【3月16日 中日「社説」】
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バーデン・ビュルテンベルク州での「緑の党」躍進は、保守層にも浸透する州首相の個人的な人気が背景にあると、また、ラインラント・プファルツ州での与党の反メルケル・反難民候補の敗北は党内の混乱ぶりを印象づけたことによるとも指摘されてはいますが、【シュピーゲル】が「メルケル氏の勝利だった」と言うのですから、逆風のなかでそれなりに善戦したということなのでしょう。

反難民政党躍進という今回州議会選挙を受けても、メルケル首相は寛容な移民政策を変更する見込みはないことを明らかにしています。

****独州議会選、与党敗北も難民政策の路線維持 政府報道官****
ドイツの3州で行われ、与党「キリスト教民主同盟(CDU)」が大幅に議席を減らした州議会選について、アンゲラ・メルケル首相が現在の寛容な移民政策を変更する見込みはないと、政府報道官が14日、語った。

シュテフェン・ザイバート政府報道官は記者会見で「(独)連邦政府は決然として、国内外での難民政策におけるわが国の路線を維持する。その目標は、すべての(欧州連合)加盟国における難民の明らかな減少につながる欧州共通の持続可能な解決法であるべきだ」と述べた。(後略)【3月14日 AFP】
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選挙結果に右往左往しないところはさすがです。

【「同時代を生きる人間としての責務」としての難民問題
難民問題はドイツだけに責任を押し付けるものでもなく、また、欧州だけが対応を求められる問題でもなく、ひろく世界全体が対応すべき問題です。

****シリア難民40万人受け入れを UNHCRトップが国際社会に要請へ****
シリア内戦の発生から5年となった15日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップを務めるフィリッポ・グランディ高等弁務官は、各国にシリア難民40万人を追加で受け入れるよう要請する方針を示した。

高等弁務官に就任後初めて米首都ワシントンを訪問した同氏は、危機を終わらせるために国際社会はもっと行動しなければならないと呼び掛けた。

グランディ高等弁務官は「私は3月30日にジュネーブで会合を主催するが、その場で国際社会に対し、すべてのシリア難民の10%を受け入れるよう要請する」と報道陣に語り、「10%は相当な人数だ。40万人以上になる」と付け加えた。

内戦発生以降、シリア人400万人以上が戦火を逃れて国外へ脱出した。また、シリアの国内避難民は600万人以上に上っている。

シリアと国境を接するトルコやレバノン、ヨルダンは大量の国外脱出者たちへの対応に苦慮している。また、多数の難民受け入れに乗り出したカナダとドイツが称賛される一方、米国などそれ以外の国々に対しては非難の声が上がっている。【3月16日 AFP】
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異なる民族・文化の難民受け入れについては、そのリスクが大きく取り上げられます。
それらにどう対応すべきかという話はありますが、おそらくどうしても残るリスクもあるでしょう。実際、問題もいろいろ生じるでしょう。

しかし、そうしたリスク・問題を受容することは、難民問題を生んでいる現代社会に生きている全世界の人々の「同時代を生きる人間としての責務」であると考えます。
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シリアからのロシア軍撤退発表 和平協議に向けてプーチン大統領のアサド大統領への強い圧力か?

2016-03-15 21:44:53 | 中東情勢

(14日、モスクワのクレムリンで話すロシアのプーチン大統領(中央)とラブロフ外相(左)、ショイグ国防相(タス=共同)【3月15日 共同】)

例によって即断即決のプーチン外交
シリアで和平協議再開に合わせるように、ロシア軍が撤退を開始するという大きな動きがありました。

****ロシア 主要な航空部隊のシリア撤退を発表****
シリアの内戦終結を目指す和平協議がおよそ1か月ぶりにスイスで再開されました。シリアで空爆を続けてきたロシアは、主要な航空部隊を撤退させると発表し、和平協議が進展するか注目されます。

シリアを巡る和平協議はスイスのジュネーブにある国連ヨーロッパ本部で14日再開され、仲介役の国連のデミストラ特使がアサド政権側の代表のジャファリ国連大使と会談し、15日には反政府勢力側とも会談します。

同じ14日、ロシアのプーチン大統領は、シリアで続けている空爆などの軍事作戦について「全体として任務を遂行した」と述べたうえで、「主要な航空部隊の撤退を始めるよう命じる」と指示しました。

ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領はアメリカのオバマ大統領と電話で会談した際、撤退の方針を伝え、「内戦のすべての当事者にとってよいシグナルとなり、真の和平プロセスを始める条件をつくるのは確かだ」と述べ、決定の意義を強調しました。

ロシアとしては、再開した和平協議をロシアが妨害していると批判されるのを避けるため、機先を制する形で主要な航空部隊の撤退を発表し、今後の和平協議で主導権を握ってアサド政権を支えていくねらいがあるものとみられます。

一方で和平協議では、アサド大統領の退陣を求める反政府勢力側と政権側との主張の隔たりは大きく協議は難航が予想されていて、ロシアの今回の動きがどのような影響を与え、和平協議が進展するか注目されます。【3月15日 NHK】
*********************

ロシア国内的には、プーチン大統領が外相・国防相との会議で指示を出したようです。

“プーチン氏は14日、ショイグ国防相とラブロフ外相との会合で、「ロシア軍の参戦により、シリア軍は国際テロリズムとの戦況の改善に成功した」と成果を強調。ショイグ氏によると、ロシア軍機は9千回以上出撃し、2千人以上の戦闘員を殺害。400の市町村を解放したという。”【3月15日 朝日】

“国際テロリズムとの戦況の改善に成功した”とは言うものの、ISはまだしぶとく残っています。
ただ、「IS攻撃」という名目とは別に、ロシアの狙いはアサド政権のテコ入れにあり、攻撃目標も多くは反体制派であったとされていますので、アサド政権側が優勢に転じた現在、プーチン大統領の真の目的は達成されたと言えなくもありません。

それにしても、部分的・形式的な撤退ではなく、本当に「主要な航空部隊の撤退」ということであれば、プーチン大統領の決断は、これまで同様素早いものがあると言えます。

ウクライナ問題といい、シリアにおける空爆参入といい、「即決即断」で事態の主導権を握るプーチン外交を高く評価する向きが多くありますが、これでまたプーチン株が上がるのかも。

強気のアサド政権姿勢で難航が予想される和平協議へのプーチン大統領の圧力?】
なお、3月8日ブログ“シリア停戦で「目に見える成果」も 和平協議再開は再延期 望まれる和平に向けたアメリカの強い姿勢”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160308でも触れたように、停戦実施に関し、“実はプーチンは焦っていた。ロシア軍は西部ラタキア空軍基地から週に約510回ものペースで出撃していたが、こうした大攻勢は数力月が限界だ。”【3月8日号 Newsweek日本版】という指摘もあります。

今回の撤退発表も、そういうロシア側の実情も影響しているのと思われます。

そうした側面も含めて、プーチン大統領としては、停戦実施から和平協議再開という事態が動き始めた今の段階で確かな成果を出したい、いつまでもズルズルとシリアの泥沼に引き込まれたくない・・・という思いがあるのでしょう。

ところが、支援してきたアサド政権側は有利な状況に立ったこともあって、和平協議に対してはアサド退陣を認めない強気の姿勢を見せています。

****<シリア>和平協議再開 アサド氏巡り難航か****
内戦が続くシリアのアサド政権と反体制派による和平協議が14日、ジュネーブの国連欧州本部で約1カ月半ぶりに再開した。2011年に内戦の引き金となった反政権デモが本格化してから15日で5年を迎えるが、最大の焦点であるアサド大統領の処遇を巡る対立は続き、和平進展は困難な状況だ。

「協議が失敗すれば、さらにひどい戦いになるだけだ」。仲介役を務める国連のデミストゥーラ特使(シリア担当)は14日の記者会見で、協議進展への決意を表した。特使は双方の交渉団と個別に会談しながら、新たな統治機構の設置、憲法改定、18カ月以内の大統領・議会選挙の実施について協議を進めたい意向だ。

ただ、双方の思惑は大きく異なる。「大統領を選ぶのはシリア国民だけの権利だ。特使に大統領選挙について話す資格はない」。シリアのムアレム外相は12日の記者会見で、デミストゥーラ氏の議題設定に反発した。

反体制派は新統治機構の設立時にアサド氏が退陣するよう強く求めている。しかし昨年9月にロシアが軍事介入して以降、政権側は戦闘を優位に進めており、アサド氏の処遇でも一切妥協しない構えだ。 

シリア国内では2月27日、米国とロシアが主導した一時停戦が発効し、一定の戦闘抑止効果が出ている。
反体制派支配地域では停戦発効後に政権側の空爆が減った地域もあり、数十〜数百人単位で反政権の街頭デモを行うようになった。北西部イドリブ県でデモに参加した教員のフアド・イブラヒムさん(33)は「革命を諦めていないと世界に伝えたかった」と話した。

ただ、和平協議への期待感は乏しい。北西部ラタキア県の反体制活動家、アンマル・フアードさん(20)は「外国の干渉が解決を困難にしている」と話す。

ロシアとイランがアサド政権、米国やサウジアラビア、トルコが反体制派を支援。各国の思惑が絡み、和平協議が複雑化する一因となっている。また、内戦の混乱に乗じて勢力を拡大した過激派組織「イスラム国」(IS)にも多数の外国人戦闘員が流入した。

在英の民間組織シリア人権観測所によると、11年3月以降の死者は27万人を超えた。国民の半数を超える1240万人以上が自宅を追われ、食料や医薬品の確保が困難な地域も多い。政府軍の無差別空爆やISの虐殺による被害も多発。トルコを経由して欧州に逃れる難民が続出している。

和平協議は1月下旬に約2年ぶりに開かれたが、反体制派が政権側の空爆や人道支援の規制を批判し、本格協議に入らないまま中断していた。米露は一時停戦や人道支援拡充を主導し、双方に協議復帰を働きかけていた。ISや国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」は、和平協議や一時停戦から除外されている。【3月14日 毎日】
********************

ロシアは、ロシアの影響力が残る形であれば、アサド大統領個人の処遇にはあまりこだわっていない・・・と、かねてより指摘されていました。“アサド抜き”のアサド政権存続でもかまわないという姿勢です。

昨年10月にロシア主導で和平案の協議が始まった頃から、ロシア側のそうした意向は流れており、驚いたアサド大統領が慌ててモスクワに飛んでプーチン大統領の真意を確認するといった場面もありました。
(2015年10月26日ブログ“シリア情勢 存在感を強めるロシアが「和平案」を提示 今後の協議の軸に”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151026

そうしたあたりで、アサド大統領とプーチン大統領の考えは必ずしも一致していないのではないでしょうか。

プーチン大統領としては、アサド退陣を一切認めない政権側の強気の姿勢のせいで、和平協議が破綻してもらっては困る、なんらかの“アサド抜き”で話がまとまるなら、それで構わない・・・といったところでは。

今回の“突然”のロシア軍撤退発表は、事前にはアサド大統領にも知らされていなかったとも言われています。
“クレムリンの発表によると、プーチン大統領は長年の同盟相手であるシリアのバッシャール・アサド大統領に電話をかけ、この突然の決定を伝えたという。”【3月15日 AFP】

本当だろうか?本当なら、さぞかしアサド大統領は驚き、怒ったのでは・・・とも思いますが、そういう流れであれば、今回のロシア軍撤退発表は、ロシア・プーチン大統領によるアサド政権側への強い圧力、「調子に乗るな!とにかく和平協議をまとめろ」との圧力と考えられます。

もちろん、事後的にはシリア側もロシアと撤退にかんする歩調をそろえてはいます。

****シリア政府は空爆継続の可能性示唆****
ロシアのプーチン大統領がシリアに展開中のロシア軍の一部撤退を指示したことについて、シリア大統領府も声明を出し、「アサド大統領とプーチン大統領の電話会談で、シリアに駐留するロシア空軍の数を減らすことで合意した」と発表しました。

その一方で、「ロシア空軍の協力によって多くの地域で治安を回復できた。ロシアはテロとの戦いにおいてシリアへの支援を継続することを約束した」として、今後もロシア軍が「テロとの戦い」を掲げてシリア国内で空爆を続ける可能性を示唆しました。【3月15日 NHK】
*******************

なお、現地ネット情報によれば、ロシアとともに、イランを背景にアサド政権を地上軍として支えてきたヒズボラも一部撤退を開始したとの話もあるようです。真偽はわかりません。

ロシア・ヒズボラが手を引けばアサド政権側たたちまち現在の優位性を失います。
ここはロシアの意向に沿って和平の線で動くより仕方がない・・・・ということにもなります。

下記記事も、大筋において上記のようなロシアの意向を推察する見方です。

****<シリア>アサド政権「ロシアとの盟友関係は不変****
 ◇ロシア軍主要部隊のシリア撤収決定を受けて
「ロシアは今後も『テロとの戦い』を支援すると確約した」−−。シリア内戦を「テロとの戦い」と位置付けるアサド政権は14日、シリアから露軍主要部隊が撤収しても、ロシアとの盟友関係に変わりはないと強調。「露軍の協力で多くの地域で治安を取り戻した」と戦果を誇示し、露軍の撤収も政権との合意に基づく判断だとした。

だが、露軍の撤収はアサド政権にとって大きな軍事的打撃となる。

アサド政権は昨年春から夏にかけて、反体制派や過激派組織「イスラム国」(IS)に支配地域を次々と奪われ、大統領自身が兵員不足を認めざるを得ないような状況だった。戦局を覆す要因となった露軍が介入を弱めれば、再び劣勢に転じる可能性がある。

「露軍の撤収は、アサド政権に対して和平協議に真剣に取り組むよう求める警告だ」。反体制派主要組織「シリア国民連合」幹部のサミル・ナシャル氏は毎日新聞の電話取材に対して、ロシアの判断を歓迎する考えを示した。

ジュネーブで14日に再開された和平協議を前に、米国やロシアなど関係国が提示した和平案には「18カ月以内の大統領選挙の実施」が含まれていた。

だが、シリアのムアレム外相は12日、大統領選挙を議題にすることを拒否。ナシャル氏は、こうしたアサド政権の強硬姿勢にロシアがいらだちを募らせたとの見方を示した。

ただ、政権側にとってアサド大統領の留任は譲れない一線だ。反体制派側は、和平プロセスの起点となる新統治機構の発足と同時にアサド氏が退任するよう強く求めており、同氏の処遇で歩み寄りがなければ和平協議の進展は困難とみられている。【3月15日 毎日】
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ロシアの意向は昨年10月段階の和平案では、以下のようにも伝えられていました。

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3、自由シリア軍及び国内反政府派を含む対話会議の準備。その結果、総ての逮捕者の釈放、議会及び大統領選挙の準備、恩赦、憲法改正のための国民一致内閣の設立,大統領権限の首相への移管に合意すること

4、アサドが立候補しないことに関するプーチン大統領の保証、然し、アサド家又は政権の他の者の立候補は可能なこと 【2015年10月26日ブログより再録】
********************

新統治機構(移行政権)にはアサド氏は大統領として残るが、権限は大幅に制限する。大統領選挙にはアサド氏本人は出ない・・・・という内容ですが、アサド退陣を認めない政権側、アサド退陣が最初から必要とする反体制派、双方の「落しどころ」としては妥当な線ではないでしょうか。

反体制派は“ロシア軍の主要な航空部隊が撤退を始めたことを歓迎しながらも、「ロシアがシリアへの介入をやめることはない」とする慎重な見方を崩していません”【3月15日 NHK】とのこと。まあ、それはそうでしょう。ただ、ロシア軍の大幅撤退が実現すれば大きなインパクトにはなるでしょう。

アメリカはあまり表に出てきません。
オバマ大統領はプーチン大統領との電話会談で、“オバマ大統領としてはアサド大統領の退陣が必要だという立場を改めて伝え、ロシア軍の主要な部隊を撤退させるもののアサド政権への支援を続けるプーチン大統領をけん制した形です。”【3月15日 NHK】とのことです。

アメリカとしては、本音は別として、今更アサド容認はの旗を振ることはできませんので、ロシア主導で反体制派も上記のような線で動くなら、それはそれで結構・・・というところではないでしょうか。

今後、情報が出てくれば、まったく違う展開にもなるのかもしれませんが、とりあえず今日段階でロシア軍撤退発表に関して個人的に思う所は以上です。

それにしても、本当にプーチン大統領のロシア軍撤退発表がアサド大統領にも事前に知らされていなかったとすれば、大国の思惑に翻弄されるアサド氏も気の毒な感もあります。

これで和平協議が実際にロシア主導でまとまれば、鮮やかなプーチン外交ともなるのでしょうが、ロシアの熾烈な空爆によって亡くなった大勢の一般市民が存在していることは忘れてはならないでしょう。
“力による外交”の評価は難しいものがあります。
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マレーシア  汚職疑惑のナジブ首相 マハティール元首相との権力闘争も 批判報道規制を強める

2016-03-14 22:19:29 | 東南アジア

(汚職疑惑の渦中にあるものの、批判封じの強権姿勢を強めるナジブ首相 【3月1日 WSJ】

巨額汚職疑惑の渦中にあるナジブ首相
マレーシア・ナジブ首相が代表を務める政府系投資会社「1MDB」(ワン・マレーシア・デベロップメント)を舞台にした巨額汚職疑惑については、これまでも何回か取り上げてきました。

2015年9月17日ブログ「マレーシア 汚職疑惑の首相へ高まる批判 民族間の対立に飛び火する不安も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150917
2015年7月8日ブログ「マレーシア 与党は首相の汚職疑惑、野党は共闘崩壊 それぞれに困難に直面」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150708
2015年5月1日ブログ「マレーシアで進む宗教保守化と強権支配」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150501
など


その疑惑は、巨額負債(約1兆2100億円)やマネーロンダリング、首相親族の関与、更には首相自身への資金還流など多岐にわたっています。

そのひとつが、「1MDB」関連会社を通じ、ナジブ首相の個人口座に約7億ドル(約800億円)の不透明な資金が振り込まれた・・・というものですが、ナジブ首相側は、サウジアラビアの王族が寄付したものであり、「汚職」ではないという調査報告で幕引きを行っています。

****マレーシア首相資金疑惑 政府「サウジ王族寄付****
マレーシアのナジブ首相が800億円余りの政治資金を不正に受け取ったとして疑惑を持たれている問題で、マレーシア政府は、振り込まれた金はすべてサウジアラビアの王族が寄付したものだという調査結果を発表し、「汚職を示す証拠はない」とする見解を示しました。

マレーシアのナジブ首相は、2013年に行われた総選挙の直前に、首相みずからが設立した政府系ファンドから、およそ7億ドル(日本円で800億円余り)の政治資金を不正に受けていた疑惑が持たれていて、国民や野党の間で退陣を求める声が上がっています。

この問題で、調査に当たってきたアパンディ司法長官は、26日、記者会見し、資金はすべてサウジアラビアの王族から寄付されたもので、首相側はこのうちおよそ730億円を使用しなかったため、総選挙が終わった3か月後に返却したと明らかにしました。

返却しなかった70億円については、何に使用されたのか明らかにしませんでした。

そのうえで、「汚職を示す証拠は見つからなかった」として、調査を打ち切る方針を示しました。

2013年の総選挙では、当初、ナジブ首相が率いる与党連合「国民戦線」の劣勢が伝えられていましたが、結果は与党側が勝利して、政権が維持されました。

今回の司法長官の発表に対し、野党議員は説明が不十分だとして、さらなる調査を求めていて、首相の疑惑を巡って一層批判が高まりそうです。【1月26日 NHK】
*********************

また、「1MDB」に関係する複数の国有企業から総額40億ドル(約4800億円)が不正に流用された可能性については、銀行口座のあるスイスの検察当局も解明に動いています。

****4800億円、不正に流用か マレーシア国有企業から****
スイスの検察当局は29日、マレーシアの政府系ファンド「1MDB」に関係する複数の国有企業から総額40億ドル(約4800億円)が不正に流用された可能性があると発表した。

1MDBをめぐっては、マレーシアの司法長官が公金流用疑惑に揺れるナジブ首相の関与を否定するなど幕引きを急ぐが、疑惑追及の動きは収まりそうにない。

1MDBに関連する銀行口座がスイスにあることから、スイス検察が口座を凍結し、昨年8月から資金洗浄などの疑いで捜査を続けていた。検察の発表によると、1MDBの元職員2人を含む複数の人物が捜査の対象になっている。ナジブ首相も含まれているかは明らかにしていない。

2009年から13年にかけての1MDB周辺の取引のうち4件を捜査中。これまでにマレーシア政府の元職員、アラブ首長国連邦(UAE)の現職や元職員らが保有するスイスの銀行口座に1MDB絡みの不透明な資金が送金された事実を突き止めたという。

スイス検察は29日の発表文で「マレーシアの国有企業から資金が不正に流用されたことを示す重大な兆候をつかんだ」と指摘。「複雑な金融の仕組みを利用して(不正行為が)組織的に実行された」としている。

検察はマレーシアに捜査への協力を要請する方針も表明した。これに対し、マレーシアのアパンディ司法長官は30日、「我々は可能な限り追跡捜査し、スイス当局と協力していく」とのコメントを発表した。(後略)【1月31日 朝日】
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ナジブ批判を強めるマハティール元首相
マレーシアでは、これまで野党勢力をまとめてきたアンワル元副首相が、政治的な臭いが強い「同性愛行為の罪」で収監されて分裂状態に陥っています。

ナジブ首相追及は野党勢力も行っていますが、そうした野党勢力の状況もあって、ナジブ首相を追い込むまでには至っていません。

野党勢力に代ってナジブ首相追及を強めているのが、かつてマレーシアを率いて現在の繁栄に導いたマハティール元首相です。汚職問題の議論は、与党内の権力闘争的な色合いも濃くしています。

****当局の説明「謎だらけ」 マハティール氏****
ナジブ首相の資金疑惑をどう見ているのか。同じ最大与党・統一マレー国民組織(UMNO)に所属しながら、首相辞任を求めてきたマハティール元首相が27日、朝日新聞の単独インタビューに答えた。

 ――アパンディ司法長官はナジブ氏の資金受領に違法性がないと判断したが。
 「疑惑の渦中にいるのは一国の首相だ。(首相に任命権がある)司法長官が一人で判断できるものではない。反汚職委員会の捜査結果をすべて開示し、裁判所の判断を仰ぐべきだ」

 ――首相の個人口座に送金したのはサウジアラビア王室との説明だった。
 「政党ではなく、首相個人の口座に巨額の寄付金が振り込まれること自体が間違っている。王室の一体誰なのか、何のための寄付なのか。謎だらけだ」

 ――ナジブ首相は疑問に答えていないと。
 「警察も司法長官も軍も首相の味方だ。首相を批判する人間は逮捕され、拘束される。国民はおびえている。もはや法や規律が正しく機能していない」

 ――首相の辞任は今後も求めるか。
 「選挙以外で首相を辞めさせるのは難しい。次期総選挙でUMNOは確実に敗北するだろう」【同上】
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ナジブ首相批判を強めるマハティール元首相に対し、ナジブ首相側は2月、マハティール元首相の三男で、ケダ州の首相を務めるムクリズ・マハティール氏を更迭しました。

****資金疑惑批判の州首相を更迭 マレーシア首相****
マレーシアのナジブ首相は、マハティール元首相の三男で、同国北部ケダ州の首相を務めるムクリズ・マハティール氏(51)を更迭した。決定を受け入れたムクリズ氏が3日会見し、同日付での辞任を発表した。

ムクリズ氏は、最大与党・統一マレー国民組織(UMNO)の党幹部の一人。前回総選挙後の2013年5月に州首相に就任した。

同国の政府系ファンド「1MDB」から首相に不正に資金が流れたとする疑惑が昨年7月に浮上して以降、ムクリズ氏は父親と同様にナジブ氏の対応を批判していた。【2月4日 朝日】
********************

一方、マハティール元首相は2月29日、最大与党の統一マレー国民組織(UMNO)を離党すると明らかにしています。

与党を離れたマハティール元首相は、これまでの「政敵」を含む超党派でナジブ退陣を求める共闘を進めています。
ただ、ナジブ首相は議会内で多数を占める与党をおさえており、すぐに政権が揺らぐようなことはない・・・とも見られています。

****超党派で「反ナジブ」宣言 汚職疑惑追及強める マレーシア****
マレーシアのマハティール元首相が、政府系ファンド「1MDB」をめぐる汚職疑惑に揺れるナジブ首相を辞任に追い込む姿勢を強めている。

長年の政敵だった野党指導者や反政府活動家、一部与党議員らと4日に記者会見し、政権打倒で「共闘」を宣言。国民にも支持を呼びかけた。

「我々は、政党や組織の代表ではなく、国民としてここにいる」。マハティール氏は4日、こう訴え、与野党の参加者50人以上とともにナジブ氏の辞任を迫る「国民宣言」に署名した。


ナジブ氏の個人口座に入金されたとされる約7億ドル(約800億円)の公金流用疑惑をめぐっては、今年1月、司法長官が捜査の打ち切りを表明。入金を認めたナジブ氏も疑惑は否定し、幕引きを急ぐ。

政府は先月25日、ナジブ氏の汚職疑惑に触れた国内の一部ニュースサイトの閲覧を制限。政権批判を書き込んだソーシャルメディアサイトを閉鎖できるように法改正も検討するなど、強権姿勢を強める。

マハティール氏も、2度にわたって警察の事情聴取を受けた。これに対し、米国は2日、国務省報道官名で「表現の自由の尊重をマレーシア政府に促す」との声明を発表し、くぎを刺した。

かつてマハティール氏と対立し、同性愛の罪で収監中の野党指導者、アンワル氏も獄中から「マハティール氏支持」を表明した。

マハティール氏は先月29日、最大与党の統一マレー国民組織(UMNO)を離党。国民宣言を通じて国民の支持を取り付け、首相の不信任決議案の提出をめざす。

しかし、独立調査機関ムルデカ・センターのイブラヒム・サフィアン所長は「与党内の切り崩しは難しく、ナジブ氏が辞任する可能性は低い」とみる。【3月6日 朝日】
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政権側は批判封じの強権姿勢を強める
批判に曝されるナジブ政権は、「表現の自由」を制限する強権的な防衛姿勢を強めています。

****マレーシア首相への突撃取材試みた豪TV記者ら2人が逮捕される 豪外相「言論弾圧」への懸念を表明****
マレーシアのナジブ首相に汚職疑惑を「突撃取材」したオーストラリアの記者らが現地の警察当局に一時逮捕され、出国禁止措置となった。

記者が所属する豪州公共放送、オーストラリア放送協会(ABC)が14日、伝えた。豪州のビショップ外相は「言論の自由に対する弾圧」への懸念を表明。同放送も警察の主張に根拠がないとし、早期の出国措置を求めている。

同放送によると、逮捕されたのは記者とカメラマンの2人。マレーシア・サラワク州の州都クチンで12日夜、モスク(イスラム礼拝所)を訪ねる途中のナジブ氏に、海外からの不透明な巨額資金授受について質問したところ、警護要員に取り囲まれた。

2人は拘束を解かれホテルにもどったところ、逮捕され警察署で6時間の尋問を受け、旅券を取り上げられたという。(後略)【3月14日 産経】
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****マレーシア 首相追及のネットメディアが閉鎖****
マレーシアでナジブ首相の選挙資金を巡る問題を追及していた大手インターネットメディアが、政府から国内でのアクセスを遮断されて閉鎖に追い込まれ、報道規制を強める政府に対して批判が強まりそうです。

マレーシアでは、ナジブ首相が3年前の総選挙の直前にサウジアラビアの王族から日本円にしておよそ800億円の寄付を受け取っていたことが発覚し、野党や国民の間からは、選挙資金を外国から受け取っていたのは問題だとして首相の退陣を求める声が上がっています。

国内のメディアもこの問題をたびたび取り上げ、追及する構えを見せていますが、これに対し、政府は報道規制を強めています。

このうち、インターネットの利用に関する法律に抵触したとして、政府から国内でのアクセスを遮断された大手インターネットメディア「マレーシア・インサイダー」は14日をもって閉鎖すると発表しました。

この中で、マレーシア・インサイダーは「かつてないほど透明性が求められているこの時期に事業を終了することになった」として首相の問題を追及するなかでの閉鎖に無念さをにじませました。

マレーシアでの報道規制を巡ってはアメリカ国務省のカービー報道官も今月、「強い懸念がある」と述べていてマレーシア政府に対し内外から批判が強まりそうです。【3月14日 NHK】
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3月6日ブログ「トルコ・ロシア・中国 封殺される政権批判」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160306でも触れたように、およそ政治権力というのは本能的に反対意見を示す存在を封殺したがるものですが、批判にさらされるような状況になると、その本能が牙をむきます。

【「複合民族国家」マレーシアで増加する外国人労働者】
「複合民族国家」マレーシアは、こうした汚職疑惑をめぐる政治問題のほかに、徐々に進行する全く別の問題(問題なのかどうかも含めて)も抱えています。

今回は詳しく取り上げるスペースもないので、とりあえず問題提起だけ。

****ついに労働者の過半が外国人になったマレーシア****
・・・・数年前までは「4人から5人に1人」だったのが、今では実に、「ほぼ2人に1人」が、外国人労働者が占めるまでになっており、すでにマレーシアは世界で最も外国人労働者の占める比率が高い国の1つになっている。

また、さらに驚くべきことに、マレーシア政府は今後3年間で、(ムスリム人の)バングラデッシュ人労働者を「合法的に150万人」、受け入れることを決めた。

これにより、多民族国家の人口構成比(マレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%)が1957年の英国からの独立以来、60年ぶりに修正されるという歴史的事態に陥る。

結果、外国人労働者総数は約800万人になり、中華系マレーシア人の人口をはるかに超え、マレーシアで「第2位の人口構成群」に躍り出る。(後略)【2月15日 末永 恵氏 JB Press】
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イスラエル  ガザ地区ハマスのIS接近を警戒 更なる混乱の可能性も

2016-03-13 22:11:31 | パレスチナ

【3月12日 AFP】

燃え続ける憎しみの炎
昨年7月末に起きたユダヤ人入植者によるパレスチナ人親子の放火殺人事件、更にユダヤ教が新年を迎えた9月中旬、エルサレム旧市街にあるイスラム教・ユダヤ教双方の聖地「ハラム・アッシャリフ」(ユダヤ教呼称「神殿の丘」)で起きたパレスチナ人とイスラエル治安当局との衝突に端を発したパレスチナ人とイスラエル当局の緊張については、「第3次インティファーダ」の危険も・・・ということで、これまでも取り上げてきました。

(2015年10月12日ブログ“パレスチナ イスラエルのガザ空爆 ハマスは「波状攻撃」呼びかけ 高まる第3次インティファーダの危機”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151012
2015年10月31日ブログ“パレスチナ 収まらない混乱 「国際社会は何か解決策を提示できるだろうか」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151031など)

当時の状況に比べれば、現在はメディアで取り上げられることもすくなくなりました。
メディア側が飽きた・・・ということは別にしても、やや落ち着いてきたことは事実でしょう。

実際、「停戦」中とはいえ内戦状態のシリア、サウジアラビア対イランの代理戦争とも言われるイエメンなどと比べてはもちろん、国連が「世界でも最悪レベルの人権状況になっている」と指摘する南スーダン、イスラム国(IS)を凌ぐような残虐性を見せるボコ・ハラムの活動が止まないナイジェリアなどと比べても、市民犠牲者の数は少ないレベルでしょう。

ただ、「インティファーダ」(抵抗運動)の火が消えた訳ではなく、人々の心の中で燃え続けているのもまた、間違いないでしょう。

特に、昨年来の衝突の中心は20歳以下の若者たちであり、その憎悪の炎は今後も長く燃え続けることになります。

****イスラエル「襲撃の半数近く 20歳以下の犯行****
イスラエルの情報機関は、パレスチナ人による襲撃事件が去年10月以降、220件以上に上り、このうち半数近くが20歳以下の若者による犯行だと発表し、双方の間の緊張が緩和に向かう見通しは立っていません。

イスラエルとパレスチナの間では、エルサレムの聖地を巡る対立をきっかけに去年10月以降、緊張が高まっています。

イスラエルの情報機関は15日、ナイフや車などを使ったパレスチナ人による襲撃事件が、去年10月からの4か月間で未遂も含めて228件に上り、このうち半数近くが20歳以下の若者による犯行だとする統計を発表しました。

この間に殺害されたイスラエル人は27人に上り、一方、パレスチナ人は少なくとも160人で、このうち半数以上が襲撃事件の現場でイスラエルの治安部隊などに射殺されていて、パレスチナや欧米の一部からは過剰な武力の行使だとして批判が出ています。

またパレスチナ側には、一部の事件が治安部隊や入植者によるでっちあげだとする見方が根強く、イスラエルに対する嫌悪感も一層高まっています。

一連の事件について、パレスチナ暫定自治政府は相次ぐ暴力を非難したうえで、「イスラエルの占領や入植政策が続くなか、若者たちが未来に希望を失った結果だ」としています。

しかし、イスラエル政府は「過激思想に基づくテロであり、パレスチナに対する占領政策とは関係ない」として強硬な態度を崩しておらず、緊張が緩和に向かう見通しは立っていません。【2月16日 NHK】
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最近の事件としては、イスラエルを訪問したアメリカのバイデン副大統領とイスラエルのペレス大統領の会談中に、会談場所から数キロの場所で起きています。

****パレスチナ人が米観光客刺殺=商都で襲撃事件―イスラエル****
イスラエルのメディアによると、商都テルアビブのヤッファ港近くで8日、パレスチナ人の男が通行人を刃物で次々と刺し、米国人観光客1人が死亡、約10人が負傷した。男は海岸沿いの遊歩道を逃走中、警官に射殺された。

ヤッファ港は世界最古の港の一つで、観光名所としても知られる。事件が起きた時間帯、イスラエルを訪問中のバイデン米副大統領が、現場から数キロの場所でペレス前大統領と会談していた。

この日は、中部ペタクチクバとエルサレムでも、パレスチナ人の男らによるイスラエル人襲撃事件が相次いで発生し、警官ら3人が負傷した。【3月9日 時事】 
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イスラエル、ハマスへ報復空爆 ハマスはIS接近の情報も
全体としては昨年に比べれば落ち着いているようにも見える状況下で、パレスチナ自治政府ガザ地区をめぐり、ロケット弾攻撃と報復空爆という何度も繰り返されきた衝突があり、巻き添えで6歳から13歳の兄妹3人が死傷しています。

****イスラエルがガザ地区を空爆、巻き添えで兄妹3人が死傷****
パレスチナ自治区ガザ地区で12日早朝、イスラエルの戦闘機がイスラム原理主義組織ハマスの拠点を空爆し、近くに住む兄妹3人が死傷した。

ガザ保健当局者によると、イスラエル軍の空爆があったのはガザ北部ベイトラヒヤにあるハマスの軍事部門、イザディン・アルカッサムの拠点。これに巻き込まれて10歳の少年が死亡。6歳の妹も重傷で、13歳の兄が軽傷を負ったという。

11日夜にガザ地区からイスラエル側に向けてロケット弾4発が発射されており、イスラエル軍はこの報復として、アルカッサムの拠点を含むガザ地区の4か所を空爆したと説明した。

イスラエルに着弾したガザからのロケット弾攻撃による死者は出ていないもよう。【3月12日 AFP】
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ロケット弾を発射したのがガザ地区のどの勢力なのかは明らかになっていませんが、イスラエル軍は、ガザ地区での出来事はガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが責任を負うとして、ハマスに対する報復攻撃を行うとうのが従来からの方針であり、今回もその方針に沿った報復攻撃です。

“この空爆で、攻撃を受けた場所の近くにあった住宅が破壊され、この家に住む10歳の男の子と6歳の女の子のきょうだいが死亡しました。きょうだいの家族はNHKの取材に対して、「イスラエルは軍事施設を狙ったというが、市民が標的になっているではないか。10歳の子どもが戦闘員だとでもいうのか。あの子は家で寝ていただけで殺されてしまった」と怒りをあらわにしていました。”【3月13日 NHK】

また、“ハマスの指導者は、ことしに入って新たな戦闘の準備を進めていると述べるなど、イスラエルとの対決姿勢を強調していて、ガザ地区を巡って緊張が再び高まるおそれがあります”【同上】とも。

ハマスの動きは把握していませんが、イスラム国(IS)との関係も報じられています。

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パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが、シナイ半島のイスラム国(IS)負傷兵をガザ地区内の病院で治療し、見返りにISから武器や資金を得ていると、イスラエルが告発した。

同地区とエジプトを結ぶ数百の秘密トンネルから運び込まれている模様で、米国はエジプト政府に「トンネル撲滅」を改めて求めている。【3月号 選択】
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また、【中東の窓】http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/では、上記情報に加え、下記のようなイスラエルのハマス警戒姿勢を紹介しています。

****ハマスの脅威(ガザ****
・・・・また同ネット(y net news)の別の記事は、このところ続いている西岸でのイスラエル人に対する攻撃は、パレスチナ人の個人的なインティファーダではなく、ハマス・インティファーダという記事を載せています。

さらに、al jazeera net はイスラエル軍が、ハマスの海軍特別攻撃隊がイスラエルにとって大きな脅威をなっていると報じています。(後略)【3月13日 「中東の窓」】
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これまではISを静観してきたイスラエルに変化の可能性も
イスラエルはゴラン高原でシリア南部と接し、また、エジプト・シナイ半島とも接していますが、これらの地区でISなどイスラム過激派が跋扈していることに関しては、サウジアラビアやトルコのように地上軍を派遣して云々といったような目立った言動はとっていません。

ロシアのミサイルがシリアからヒズボラに渡るのを阻止するための空爆などは行っていますが。

シリアの反体制派は政府軍が攻撃しづらいように、イスラエルを背にして展開することが多く、そのことは承知しているイスラエル軍は多少の流れ弾程度は無視するようにしているとも。

国内やパレスチナ自治政府との関係で難しい問題を抱えるイスラエルとしては、必要以上にシリアにかかわって、余計な揉め事を抱え込みたくないというのが本音で、シリアについては「アメリカが責任を持って対応すべき」といったところです。

****イスラエルが対IS戦に加わらない理由****
ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、イスラエルでの対イスラム国戦のシミュレーションを見聞し、1月26日付同紙に「イスラエルはなぜイスラム国について慎重なのか」との論説を書いています。論旨は次の通り。

イスラエル国家安全保障研究所(INSS)は、「ISがシリア国境でイスラエル軍偵察隊を攻撃、4人を殺害、ヨルダンの国境検問所も襲撃し、シリア南部のダアラ地域を占拠した」との想定で、米、ヨルダン、イスラエルの代表も参加した戦争シミュレーションを行った。

IS攻撃に慎重なイスラエル
イスラエルとヨルダンの代表は、報復はしつつも、テロリストに対する激しい戦闘を回避し、米国のリーダーシップを見守る方針を取った。

ISとの紛争には、米国が関与を強めても、イスラエルとヨルダンはシリアの混乱した内戦に引きずり込まれないように慎重さと自制心をもって行動する、との結果が出た。(中略)

イスラエルが本気を出せばISは3〜4時間で駆逐可能
このシミュレーションの結果に満足できないとすれば、現実に対してはなおさらであろう。ISが地域や国際秩序に対する重大な脅威であるとのコンセンサスは高まっている。しかし、イスラエルもヨルダンも、戦いの大部分を行っている米国を頼りにしている。

イスラエルの軍司令部を訪問して、シミュレーションはイスラエル軍指導者の紛争への見方を正確に反映している、と確信した。

あるイスラエル軍高官は、「イスラエルは、北及び東の国境沿いのIS軍を攻撃するのではなく、抑止、封じ込め、ひそかな接触さえ望んでいる」と言い、「イスラエルがシリア南部とシナイ半島のIS軍への総攻撃をすれば、3、4時間で駆逐できるだろうが、その後事態は悪化するので、我々は抑止に努めている」と述べた。

「イスラエルはISへの対応で蜂の巣をつつくようなことをしたくないが、米国は超大国であり、地域でのリーダーシップを維持したければISを押し戻す戦いを率いなければならない」と殆どのイスラエル当局者が言っている。(中略)

イスラエル人は、中東では国家システムが壊れ、それは長年続きそうであると考えており、どのように戦争をするのか、注意深く考えなければならないとしている。【3月11日 WEDGE】
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アメリカに責任を押し付けた形のイスラエル側の本音ですが、ISとガザ地区のハマスが関係を深めるという話になれば、全く話は違ってきます。

自国の安全に脅威を与えかねない不安の芽は早い段階で摘んでしまうというのがイスラエルのやり方ですから、ただでさえもつれた中東・シリア情勢を更に混沌とさせるような動きがでてくる可能性もあります。

なお、アメリカ・オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相の関係は相変わらずよくないようです。

****首相の訪米中止で波紋=両国関係悪化も―イスラエル****
イスラエルのネタニヤフ首相の訪米取りやめが波紋を呼んでいる。オバマ米大統領との会談が調整されていたが、米側が訪問中止を知ったのはメディアを通じて。イラン核合意などをめぐって冷え込んだ両国関係がさらに悪化する可能性がある。

首相は、ワシントンで20日から開催される在米イスラエル・ロビー団体の会合に合わせて訪米を検討していた。イスラエルのメディアは7日、首相が訪米を取りやめたと報じ、理由の一つとして「大統領との会談の予定が立たなかった」ことを挙げた。

しかし、米メディアによれば、米側は既に18日の首脳会談を提案していた。国家安全保障会議(NSC)のプライス報道官は7日、「訪問中止をメディアで知って驚いた」と不快感を示した。

イスラエル首相府は8日、「駐米大使が先週、首相が来ない可能性も十分あると(米側に)伝えていた」と釈明。首相府筋は、大統領選予備選の最中に、選挙に干渉している印象を与えるべきではないと判断したと説明した。【3月8日 時事】
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アメリカ  「世界の警察官」に関心がない“トランプ大統領”になれば・・・対中国政策は? 日本は?

2016-03-12 22:34:57 | アフリカ

(大統領選から撤退し、トランプ支持を明らかにしたニュージャージー州のクリス・クリスティー知事(左)ですが、その硬い、うつろな表情が「まるで人質みたい」とも揶揄されると同時に、その思惑がいろいろ取り沙汰されてもいます。【3月3日 Newsweek】)

混乱する共和党主流派
アメリカ大統領選挙で23戦15勝と共和党・トランプ候補の快進撃が止まりません。

“3月1日のスーパー・チューズデーでも、トランプ氏は11州のうち7州で勝つという好成績を収め、予備選のトップランナーの地位を確立し、3月5日にカンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、メインの4州で行われた予備選でも、ケンタッキーとルイジアナの2州で勝利した。”【3月9日 WEDGE】

3月9日時点の獲得代議員数では、トランプ氏が446名、テッド・クルーズ氏が347名、マルコ・ルビオ氏が151名、ケーシック氏が54名となっています。

次のヤマ場は、「勝者総取り」方式で15日に行われる大票田フロリダ、オハイオ両州などでの予備選とされています。

これまでとことなり「勝者総取り」となると、代議員数の多い州での結果次第では、数字が大きく動くことも充分にありますが、他の候補者の地元で予備選が行われるこれらの州でもトランプ氏の優勢が伝えられている・・・ということで、トランプ氏が共和党の大統領候補に指名される可能性がかなり現実味を帯びてきています。

この事態に、共和党主流派はかなり慌てているようにも思えます。

*****米大統領選】「トランプ大統領」誕生に強い懸念 トランプ氏vsロムニー氏 互いに非難 安保専門家も*****
・・・(前回共和党大統領候補)ロムニー氏はユタ州で演説し、「トランプ氏はペテン師、詐欺師だ。彼が公約していることには価値がない」と批判。大衆の怒りをかき立てるだけの政治手法や女性蔑視発言をいとわない気性の面からも大統領にふさわしくないと述べた。

特に安全保障面で米国の利益を損なう可能性を指摘。「大言壮語が同盟国を警戒させ、敵対国の憎しみをあおっている」とした。トランプ氏がロシアのプーチン大統領を称賛する一方で、イラク戦争を始めたブッシュ前大統領を「嘘つき」と呼んだことを挙げ、「悪が善に勝るという倒錯の一例」と語った。(後略)【3月4日 産経】
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ロムニーのこのトランプ批判については、「遅すぎた」という声がある一方、“彼の演説は、トランプ氏に対する強い反発が共和党内の中道派・穏健派の間にあることの表れで、今の時期にあれだけ批判的な演説を彼がしたということは、夏の党大会で共和党候補を党が一丸となって支持しようという雰囲気を醸成することは、トランプ氏が候補として指名された場合ほぼ不可能になるのではないか、という見方も出てきており、その場合、トランプ氏に反発する勢力がポール・ライアン下院議長を「第3の候補」を担ぐ可能性も否定できず、ロムニー氏が自ら「第3の候補」として出馬するのではないかという憶測も流れている。”【3月9日 WEDGE】

トランプ氏と争うルビオ氏からは、こんな奇策も。

****共和ルビオ氏、生き残りへ奇策=ライバルへの投票呼び掛け―米大統領選****
米大統領選の共和党候補マルコ・ルビオ上院議員(44)が15日の「ミニスーパーチューズデー」に向け、生き残りをかけた奇策に打って出た。

不動産王ドナルド・トランプ氏(69)の独走を危惧する党員に対し、オハイオ州ではジョン・ケーシック知事(63)に投票するよう呼び掛けた。

15日にはオハイオ州とともにルビオ氏の地盤のフロリダ州でも予備選が行われる。ルビオ、ケーシック両氏とも多くの世論調査でトランプ氏に先行を許している。

地元で敗れれば撤退せざるを得ないとの見方が強まる中、ルビオ氏としてはケーシック氏の生き残りを後押しすることで、フロリダ州での見返りを期待しているとみられる。【3月12日 時事】 
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まあ、戦術としてはわかりますが、大統領を争うにふさわしい方法か・・・という点では、かなり疑問です。

既成政治をこきおろすトランプ候補が共和党主流派から嫌われているのは事実ですが、“党執行部を強烈に批判する草の根保守「ティーパーティー」出身で、反主流派の急先鋒”である2位のテッド・クルーズ氏も党内の嫌われ者である点では同じです。

党内主流派にとっては、嫌われ者のどちらを選ぶかという「究極の選択」を迫られています。

****乱 分断大国)アメリカの選択:6 信じ難い主流派の提案****
・・・名門政治一家出身のブッシュ元フロリダ州知事が2月20日に選挙戦から撤退、その10日後のスーパーチューズデーでトランプ氏がリードを広げると、主流派の動揺はピークに達した。

その象徴が、連邦議員を20年以上務めたリンジー・グラハム上院議員の発言だった。同日深夜の報道番組で発した言葉に、誰もが耳を疑った。

「トランプ氏を阻止する唯一の方法として、クルーズ氏に結集するしかない」

クルーズ上院議員は、党執行部を強烈に批判する草の根保守「ティーパーティー」出身で、反主流派の急先鋒(きゅうせんぽう)だ。この若手議員をグラハム氏は露骨に嫌悪し、「トランプとクルーズのどちらを選ぶかというのは、銃殺と毒殺の違いだ」とすら語っていた。

そんな相手を支持するのか。そう司会者に問いただされ、グラハム氏は答えた。「自分でも自分の言っていることが信じがたいが、答えはイエスだ」

トランプ氏を止めなければ党が壊れる。具体的なすべも見当たらぬまま、エスタブリッシュメントが異端児の阻止に動き出した。【3月12日 朝日】
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もっとも、党内のクルーズ嫌いも相当なもので、“クルーズに決まるぐらいならトランプを受け入れる”という声もあるように聞いていますので・・・・。

中国嫌いではあっても・・・
ここまでトランプ候補の本戦出馬の可能性が高くなり、しかも民主党クリントン候補が、マイノリティー票を集めてリードはしているものの、若い年代からの支持が極端に低いという状況では、もしかしてトランプ氏が・・・という可能性も考えざるを得ない情勢です。

トランプ氏が勢いを得ている背景は、既成政治・エスタブリッシュメントへの有権者の不満・反感があると言われていますが、それはそれとして、日本が直接影響を受ける、彼の国際政治への認識はどういうものでしょうか。

主張がころころ変わるトランプ氏ですが、例えば対中国については、筋金入りの「反中」だとの指摘もあります。

****トランプ大統領”なら南シナ海問題にどう対応? 「反中」は筋金入り 日本にも影響****
・・・・ヒラリー氏や夫のビル・クリントン元大統領はかつて、中国との親しい関係が報道されたが、トランプ氏の姿勢はまったく違う。

昨年8月、中国の習近平国家主席が訪米する直前、トランプ氏は、オバマ大統領が「国賓」として厚遇することを批判し、「私ならば晩餐(ばんさん)会は開かず、ハンバーガーでも出す」と言い放っている。

当時、サイバー攻撃や南シナ海問題で、米国内でも反中感情が高まっていたこともあるが、トランプ氏の「反中」は筋金入りだという。

国際政治学者の藤井厳喜氏は「トランプ氏は4年前の大統領選では、ほぼ『アンチ・チャイナ』だけで途中まで注目された。今回、自身のパーソナリティーを前面に出して、オバマ政権の弱腰外交や移民政策、過激組織『イスラム国(IS)』を批判しているが、総合的な外交・安全保障政策はまだ不明だ。ただ、基本的な反中姿勢は変わらない」と分析する。(中略)

もし、「偉大な米国の復活」を掲げ、「やられたらやり返す」が持論のトランプ大統領が誕生したら、中国の詭弁(きべん)は許さないとみられる。(中略)

前出の藤井氏は「(中略)大統領になれば『アンチ・オバマ』『アンチ・チャイナ』だけに、南シナ海問題でも強硬になるだろう。かつて、ケネディ大統領がキューバ危機で海上封鎖をしたように、軍事基地化した人工島の海上封鎖でも検討するのではないか。トランプ氏は、日本にも駐留経費の負担(思いやり予算)増額や、役割分担を求めてくるはず。覚悟が必要だ」と語っている。【3月4日 夕刊フジ】
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実際、北朝鮮問題で中国への“暴言”が話題になったことも。

****米トランプ氏「北朝鮮問題を解決しないなら、中国を潰してしまえ」 中国で怒りの声続々****
これまで、テロ問題などに絡むイスラム教徒に対する排他的発言で、強い批判を浴びつつも支持層を広げてきた米大統領選のドナルド・トランプ共和党候補が、今度は北朝鮮と中国問題で「吠えた」。「北朝鮮問題を解決しないならば、中国を潰してしまえ」と述べたという。環球網が報じた。

トランプ候補は続けて「貿易関税を引き上げるか、貿易そのものを中止してしまえば、2分以内に中国は崩壊する」と述べたという。米テレビ局のCNNの取材に答えて6日、北朝鮮が7日に核実験を実施したことについての考えを披露した。

トランプ候補の「ロジック」はこうだった。そもそも中国が、「世界の警察官」を米国が務めていることを嫌がった。「ピョンヤンが引き起こした問題は北京が解決する」ことを望んだ。トランプ候補は「だったら、中国は身を挺してこの問題を解決せねばならない。中国が援助しなかったら、北朝鮮人はメシも食えないんだ」と主張。現在の米国の役割は「中国に圧力をかけて、北朝鮮問題の処理に着手させる」ことで、そのために「貿易停止」も辞さないべきという。(後略)【1月8日 Searchina】
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勇ましい発言ですが、ただ、トランプ氏には、かつてのブッシュ大統領のように「世界の警察官」としてイラクやアフガニスタンに出兵するといった考えは全くありません。

*****トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機****
・・・・トランプの主張は「排外、政治的正しさへの反抗」といった「表層」をはがしてしまえば、その中身は、「小さな政府ではなく必要な福祉施策は行う」「自由貿易より国内雇用」「世界の警察官でなく仲介役」といった政策から成り立ち、妊娠中絶に理解を示すなど宗教保守派とも一線を画している。・・・・【3月2日 Newsweek】
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こうした従来の共和党の方向とは全く異なる彼の基本姿勢が、共和党主流派にとって彼を受け入れがたい一番の理由でもあります。

嫌いな相手とも利益のためなら手を組むのがビジネスマン
非常に驚いたのは、彼の中国・天安門事件に関する認識です。

****トランプ氏、天安門事件を「暴動」と呼ぶ 米大統領選TV討論会****
米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏は10日、米CNNによるテレビ討論会で、1989年に中国・北京(Beijing)の天安門広場で行われた民主化運動を「暴動」と呼んだ。

司会役のジェイク・タッパー)氏は、トランプ氏が1990年に米男性誌プレイボーイ上で述べた天安門事件についてのコメントに対して批判が上がっていることを受け、トランプ氏のコメントを求めた。

これに対しトランプ氏は、天安門で起きたことを支持していないと強調した上で、「(中国政府は)暴動を抑え込んだ」と発言した。

1989年6月、中国共産党は、学生主導のデモ隊が民主的な改革を求めて平和的な座り込みの抗議行動を行っていた天安門広場に、デモ鎮圧のため戦車を投入。数百人、あるいは一部の推計によると1000人以上の人々が死亡した。【3月11日 AFP】
*******************

トランプ氏はビジネスマンですから、「人権」とか「民主化」とか、一文の得にもならないことには興味ないようですし、ましてや、自由主義世界の価値観を守るためにアメリカが犠牲を払うという考えもないでしょう。

また、ビジネスマンですから、利益のためなら嫌な相手とも容易に手を結びます。
中国が好きか嫌いかという問題と、中国と手を組むかどうかという問題は全く別物です。ビジネス世界にあっては。
価値観を重視する立場とは異なり、条件さえあえば手のひらを反すような対応もあり得ます。

彼が重視するのはあくまでもアメリカ国内の雇用・経済であり、中国がその点を侵害しない限り、アジアで何をやろうがアメリカの知ったことではない・・・とも推察されます。

中東に関しても、ロシアがテロリストを潰してくれるなら大いに結構・・・という考えでしょう。

その点では、リベラル・ホークとも言われるクリントン氏の方が中国・ロシアへの姿勢は厳しいものになるでしょう。言い換えれば、そうした価値観を捨てきれないところで、現実政治において解決策を見いだせるのか?というところが彼女の問題でしょう。

“トランプ大統領”になれば、アメリカの国益優先という本音の政治になり、国際情勢も大きく変わるでしょう。
ただ、そのとき日本は中国に「お好きなように」と差し出される危険も。

かつて中国高官が、「太平洋のハワイから東部を米国がとり、西部を中国がとるとことで合意できないか」と太平洋分割案をアメリカ側に持ちかけたとされていますが、これは中国側の本音であり、“トランプ大統領”なら、アメリカの実益に合致すれば大いに検討するところかと思われます。

少なくとも、日本等への“守ってやっているのだから、カネを出せ”という圧力は確実に強まります。

****トランプ氏、軍事費見直し示唆 社会保障制度の維持強調****
米大統領選の共和党候補者指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏(69)が10日、米国の社会保障制度を維持するため、外国の駐留米軍経費など、同盟国防衛のための軍事費を見直す考えを示唆した。

トランプ氏はフロリダ州マイアミであった同党討論会で、現行の社会保障制度を維持する考えを強調。必要な財源について司会者から聞かれると、「我々はより強力な軍事力を持つ必要があるが、ドイツやサウジアラビア、日本、韓国の面倒を見なければならない。狂気じみた北朝鮮が何かするたびに米国は艦船を派遣するが、事実上、米国が得るものは何もない」と話し、日本を含めた外国の駐留米軍経費を削減する可能性に言及した。【3月11日 朝日】
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日本などの「面倒を見る」のが非常に不満そうです。
アメリカが面倒を見てくれない・・・とれなば、今度は日本国内では「軍事力を高めないと・・・」という議論にもなるのでしょう。
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