孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  周辺国に影響力を拡大する行動の背景に、イラン・イラク戦争の悲惨な記憶が

2017-08-21 23:26:02 | イラン

(イラン・イラク戦争当時のイラン側兵士 【2013年10月5日 Iran Japanese Radio】)

不安定な核合意 2期目のロウハニ政権は対話重視型を維持
イランと制裁強化を続けるアメリカ・トランプ政権の関係は、イラン嫌いのトランプ大統領の暴発の危険性もあって、両者間の核合意は不安定なものがあります。

なお、“イラン嫌い”はアメリカ全体でもありますが、イランの方は、どこのレストランにもコカ・コーラが置いてあるなど、一般民衆レベルの話で言えば、「アメリカに死を!」なんて叫ぶ連中もいますが、むしろアメリカに対する憧れのようなものもあるのかも・・・・先月末にイランを旅行(単なる物見遊山です)した際に、そんな印象も。

ただ、政治レベルの話では、強硬な姿勢を崩さないトランプ政権に対し、イラン側も“売り言葉に、買い言葉”状態です。

****イラン、「数時間で」核合意破棄も 大統領が米制裁強化に警告****
イランのロウハニ大統領は15日、米国がさらなる制裁を科すなら、主要6カ国との核合意を「数時間以内に」破棄する可能性があるとの考えを示した。

ロウハニ師は国営テレビが放映した議会発言で、米国が制裁に戻るなら「イランは必ず、交渉開始前よりもさらに進化した状況に短期間で戻るだろう」と語った。

イランは米国が新たに科した制裁について、米国のほかロシア、中国、英国、フランス、ドイツと2015年に締結した核合意に反すると非難している。

米財務省は7月下旬、弾道ミサイル開発に関わったとしてイラン企業6社を制裁対象に指定。トランプ米大統領は今月、議会が可決したイランとロシア、北朝鮮に対する制裁強化法案に署名した。【8月15日 ロイター】
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「数時間以内に」とは穏やかでありませんが、一応2期目のロウハニ政権は、これまで同様対話重視型にはなっています。

****イランのロウハニ政権 2期目も国際社会との対話重視****
今月2期目の任期に入ったイランのロウハニ政権の新しい閣僚が議会で承認され、核開発をめぐる交渉で欧米との合意に道筋をつけたザリーフ外相が留任するなど、引き続き国際社会との対話を重視した布陣となりました。

イランのロウハニ大統領は、今月2期目の任期に入り、議会では20日、ロウハニ大統領が指名した新しい閣僚17人を承認するかを決める投票が行われました。

その結果、元国連大使で、核開発をめぐる交渉でおととし欧米との合意に道筋をつけたザリーフ外相や、国の重要産業となっているエネルギー分野で外資の受け入れを担ってきたザンギャネ石油相など、多くの重要閣僚の留任が決まりました。

引き続き国際社会との対話を重視した布陣となり、ロウハニ大統領としては1期目と同様に各国との関係改善を図りながら経済の立て直しに力を入れていくものと見られます。

ただ、イランが続けているミサイル開発をめぐり、アメリカのトランプ政権が制裁を科すなど、アメリカとの対立が外資を呼び込むうえで足かせとなっていて、2期目のロウハニ政権がトランプ政権とどのように向き合っていくかが大きな焦点となります。【8月21日 NHK】
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中東の不安定要素、イランとサウジアラビアの対立
現在の中東における最大の不安定要素、混乱の原因のひとつが、イランとサウジアラビアの対立であることは周知のところです。

お互いスンニ派とシーア派の盟主という立場にあって、枕詞のようにそのことがついてまわりますが、別に両国は神学論争で争っているわけではなく、様々な理由から中東における影響力を競っているのでしょう。

最近、サウジアラビア側からイランへ関係修復のボールが投げられたとの情報があって、期待もしたのですが、サウジアラビア側が情報を否定する形になっています。

****サウディのイランとの関係修復の仲介依頼の否定****
・・・・サウディがイランとの関係修復の仲介を求めているという話は、イラクの内務大臣の話として、イバーディ・イラク首相のサウディ訪問の際にサウディ政府が、イラクに対して仲介を要請したとのうわさが流れたが、その後同内相自身が15日サウディは仲介を要請していないと発言して、この噂を打ち消したとのことです。【8月16日 「中東の窓」】
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本当にそういう仲介要請があったのかどうかを含めて、事の真相はわかりません。

シリア介入による多大な犠牲 イラン国内には批判も
そのことはともかく、一般的には、イランは自国の影響力拡大のため、イラク、シリア、イエメンなどに深く介入している・・・と理解されています。

どの程度の軍事支援・民兵派遣を行っているかは明らかにされていませんが、シリアにおけるイラン側の犠牲者も相当数にのぼっています。

それに対する国内的な批判もおきているとか。

****イランでのシリア等での損失に対する不満****
先ほどサウディのイエメン国境方面での死者が50名になったという報道を紹介しましたが、イランの革命防衛隊等のシリア、イラクに於ける損失は比較にならないほど大きいと思います。

この点に関して、al arabiya net は最近、イラン内で活動家の手になる政権に対する批判が出回っていると報じています。

その内容としては、それほどシリア等における活動が重要ならば、政権の指導者、マスコミの指導者は自らシリアやイラクに行って戦えばよい、もし自らが老齢等で戦闘ができないのであれば、自分たちの子供を送るべきであるというものの由(要するに自分たちは何の犠牲も払わずに、国民を犠牲にする指導者に対する不満)

また活動家によれば、これまでシリア等で死亡した革命防衛隊員等は4000名に上る由。
また死者の多い都市はテヘランを先頭に、コム、カルマンシャー、マザンドラン、キーラーン等の由
https://www.alarabiya.net/ar/iran/2017/08/18/الإيرانيون-يهاجمون-قياداتهم-أرسلوا-أبنائكم-إلى-سوريا.html

このような不満の表明が、仮に事実としても、どの程度の広がりを有しているのか不明です。

また、これを伝えているal arabiya net はサウディ系ですから、当然宣伝的要素も強いかと思いますが、革命防衛隊等に多くの犠牲者が出ていることを考えてみれば、ありうる話かと思うので、取り敢えずご参考まで【8月19日 「中東の窓」】
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イランを周辺国介入に駆り立てるイラン・イラク戦争の記憶
そこまでの犠牲を出して、どうしてイランは周辺国に介入するのか・・・?
ひとつ想像できるのは、ロシアと似たような不安感・不信感(立場が異なれば“被害妄想”とも)を抱えているのではないか・・・ということです。

ロシア・プーチン大統領が周辺地域に自らの影響力を拡大しようとする、あるいは、NATOなどの勢力に激しく反発するのは、ロシア革命から冷戦期に至るまで、ソ連・ロシアは絶えず自国を敵視する勢力によって囲まれてきた、そして現在も“だまし討ちのような”(ロシア側の理解です)NATOの東方拡大で脅威にさらされているという不安・不信感に駆られてのことです。

イランにも似たような心理があるのでは・・・と思ったのは、先月のイラン旅行で、イラン国内におけるイラン・イラク戦争の消えない記憶を感じたからです。

世界遺産ペルセポリス遺跡の観光を終えてヤズドに向かう道路脇に、若者(子供のように見える者も)の顔写真を掲げた道路標識のようなものが延々と並んでいます。

訊くと、イラン・イラク戦争の犠牲者とのこと。今のイランがあるのは、彼らの流した血のおかげであるとも。

また、現地の方からイラン・イラク戦争の人生に及ぼした影響などを聞く機会もありました。
1980年から1988年までの長きに渡った戦闘に参加した若者は、今、イラン各分野を担う中枢となっています。

国際社会においては、イラン・イラク戦争というのは掃いて捨てるほど起きている戦争のひとつにすぎず、話題にのぼることもほとんどありませんが、イランにとっては革命混乱期に仕掛けられた、忘れがたい“国難”でもあるようです。

そのことへ思いは、宗教色が強く、硬直的な現在のハメネイ体制を支持する・支持しないにかかわらず、共通した思いでもあるようです。

イラン革命の混乱で防衛体制が崩壊していたイランは、西側からも、東側からも支援を受けられない孤立状態にあって、武器もなく、一時はイラクに大きく攻め込まれました。

“東西諸国共に対イラン制裁処置を発動した為、物資、兵器の補給などが滞り、また革命による混乱も重なって人海戦術などで応じるしかなかったため、イラン側は大量の犠牲者を出す。兵力は1000人規模で戦死者が共同墓地に埋葬されている。(中略)全般的には劣勢であり、時にはイラン兵の死体が石垣のように積み重なることもあった。完全に孤立したイランはイラクへの降伏を検討しなければならなくなっていた。”【ウィキペディア】

その後、イスラエル、シリア、リビアがイランを支援(イスラエルはイラクを空爆、シリアはイラクからの石油パイプラインを遮断)することになったこと、何より、多大な犠牲を伴った義勇兵の人海戦術による祖国防衛の戦いによって形成は逆転し、イランはイラク・バグダッドに迫ります。

しかし、イラク・フセイン政権は化学兵器を使用してイラン側に甚大な被害を与えます・・・・

こうした熾烈な戦争をイランが何とか乗り切ったのは、まさに国民の流した血によるところが大です。
イラン・イラク戦争におけるイラン側戦死者は75~100万人とも言われています。

“(化学兵器による)こうした攻撃により、数万人のイラン国民が殉教、およそ10万人が化学兵器により負傷し、今なお多くの人々がその後遺症に苦しんでいるのです。”【2013年10月5日 Iran Japanese Radio】

また、東西両陣営ともイランを助けてくれなかったこと、そうした状況で化学兵器の犠牲となったことは、イラン国民に大きな傷を残したと思われます。

現在イランは、シーア派が主導するイラクと良好な関係にあります。
“良好”と言うよりは、フセイン後の混乱したイラクにイランが強固な影響力を築いていると言った方がいいかも。

そうしたイランの行動の背景には、イラン・イラク戦争の記憶、二度とあのような悲惨な状況が生まれないようにしたいという強烈な思いがあるように思えます。

****イラクにおけるイランの圧倒的な影響力****
ニューヨーク・タイムズ紙のTim Arangoバグダッド支局長が、7月15日付け同紙解説記事で、米国のイラク軍事進攻以来、イランはイラクにおける影響力を増やし、今や、軍事、政治、経済、社会のあらゆる面で圧倒的な影響力を持つに至っている、と述べています。解説記事の要旨は以下の通りです。
 
米国が14年前、サダム・フセインを倒すためにイラクに侵攻したとき、米国はイラクを中東における民主主義と親西欧体制の要になり得ると考えていた。
そのため米国は4,500名の人命と1兆ドル以上の犠牲を払った。
 
イランは米国のイラク侵攻を、イラクを従属国とする機会と見た。イラクは1980年代にイランに対し、化学兵器を使ったり、塹壕戦をしかけたり、第一次大戦を彷彿とさせるような残忍な戦いをした。

イランの思惑は、イラクが二度と脅威とならないようにするとともに、イラクを地域における影響力の拡大の踏み台とすることであった。
 
この争いでイランは勝ち、米国は負けた。この3年間、米国はイラクでのISとの戦いに専念していたが、イランは上記の思惑を見失わなかった。
 
米国との関係が近過ぎるということでイランから睨まれ失脚したイラクのゼバリ前大蔵大臣は、「イランの影響は絶対的である」と述べた。
 
イラクにおけるイランの影響力は、軍事、政治、経済、文化のあらゆる面に及ぶ。
 
イラク議会は昨年、シーア派の民兵組織をイラクの治安維持勢力の一部とした。
 
マスメディアの分野では、イランの資金で新しいテレビチャネルが作られ、イランがイラクの守護者で米国が悪の侵入者であると宣伝している。
 
イラク東部のディアラ県は、2014年ISに占領されたが、イランはディアラ県をイラクからシリア、レバノンに至る回廊として重視した。

イランで訓練されたシーア派民兵組織が中心となってISを追放すると、県内のスンニ少数派を追いやり、ディアラ県の支配を固め、シリアの手先と、レバノンのヒズボラへの支援ルートを確保した。
 
ディアラは、イランが地政学的目的のためシーア派の台頭、強化を重視しているショーケースといえる。
 
イラン革命防衛隊の特殊部隊クッズフォースの指揮者のスレイマニ将軍をはじめ、イランの多くの指導者は1980年代のイラン・イラク戦争が生んだ。イラン・イラク戦争は彼らの心に癒えない傷を残した。
イラクを支配しようとのイランの野心は、この傷の遺産である。
 
人口の大半がシーア派であるイラク南部で、イランの影響がいたるところでみられる。
 
イランは何十年にもわたり、イラク南部の湿地帯を通して砲や爆弾の原料を密取引してきた。湿地帯を通して、イラクの若者がイランに渡って訓練を受け、イラクに戻って戦った。戦う相手は、最初はサダム・フセインで、のちに米国であった。
 
イランは軍事力を政治力に転換しようとしており、民兵の指導者は来年の議会選挙を控え、政治組織作りを始めている。
 
アバディ首相は困難な立場にいる。イランに対決的と見られる動きや、米国に近寄る動きを示せば、首相の政治的将来が陰りうる。
 
クロッカー米元駐イラク大使は、ISを敗北させた後米国がイラクを去れば、イランに行動の自由を与えることになると言った。しかし多くのイラク人は、イランはすでに行動の自由を得ていると述べている。(後略)【8月21日 WEDGE】
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もちろん、イラン側の一方的思惑だけが先行すれば、イラク国民の反発を買います。

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他方、イランによるイラクの支配は、必ずしもイラクのシーア派に歓迎されているとは限らないとのことです。

同じシーア派といっても、イラクのシーア派は、同時にイラク人、アラブ人としての自覚を持っているといいます。

イランによるイラク支配があまり目につくようになると、イラクのシーア派との軋轢が生まれる恐れがあります。従属国化は、管理上いろいろな問題を生むものです。【同上】
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フランス・マクロン大統領の支持率急落 ドイツ・メルケル首相は余裕の戦い “場外からの乱入”も

2017-08-20 22:09:29 | 中東情勢

【8月20日 毎日】

支持率急落のマクロン大統領 「支配欲の強い人間」?】
フランス・マクロン大統領は、“中道・独立系”としてダークホース的存在にすぎなかった大統領選挙では、左右既成政党の混乱・もたつきで中央に空いた大きなスペースを一気に駆け抜ける形で極右ルペン氏に大差をつけて勝利。

就任早々、プーチン大統領やトランプ大統領を相手に一歩も引かない“強い指導者”をアピールし、国民支持を高めました。

その後の新党を率いて臨んだ議会選挙でも、“風”をつかむ形で、与党の新党「共和国前進」が単独過半数の308議席を獲得、連携する中道政党「民主運動」と合わせ計350議席となり、全体の約6割を得る大勝となりました。

ただ、直前予測では400を大きく超えるとも見られていましたので、バランスをとるような有権者の調整が働いた・・・とも評されました。

その後の支持率推移を見ると、国民の支持率自体が天井をうって、下降局面に入っていたこともわかります。

特に、8月に入ると、あれほどの“風”を起こした世論の支持が、急速にマクロン大統領から離れていきつつあることが報じられています。

****<マクロン仏政権>緊縮策で支持率急落 外交舞台では存在感****
フランスのマクロン大統領(39)が5月に史上最年少で就任してから、21日で100日を迎える。

就任直後から、外交舞台で存在感を示すことに成功した一方、国内政策では財政立て直しのために歳出削減方針を打ち出したことなどが反発を招き、支持率は40%を切るまで急落。

今後も、公約の労働市場改革を進めるが、反発が予想されており難局が続く。
 
マクロン氏は就任後、オランド前政権で関係が冷え込んでいたロシアのプーチン大統領と会談をこなした。米国のトランプ大統領には、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」にとどまるよう説得を続け、大国のリーダーと渡り合う姿を印象付けた。

さらに、7月には、国家分裂状態が続くリビアの暫定首相と武装組織の指導者の会談を仲介し、停戦合意にこぎ着けた。
 
しかし、外交舞台で存在感を示したマクロン氏の勢いは、内政への対応でそがれた。
 
マクロン政権は、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以下に抑えるよう加盟国に求めている欧州連合(EU)の財政基準を満たすことを目指す。

このため、7月に学生や低所得者が受給する住宅手当や地方助成金を減額する緊縮策を発表。痛みを伴う改革に反発が広がった。
 
国防予算の削減方針も打ち出し、異論を唱えた仏軍の制服組トップのドビリエ統合参謀総長に対し、「私がボスだ」とクギをさし、ドビリエ氏の抗議の辞任に発展する事態となった。
 
また、治安政策でも不評を買った。マクロン氏は、パリ同時多発テロ(2015年11月)後に出された非常事態宣言を解除する代わりに、平時でも治安当局の権限を強化するテロ対策法の制定の方針を示し、「市民生活の制限になる」との反発を招いている。
 
こうしたマクロン氏の姿勢や政策は「支配欲の強い人間」(仏紙リベラシオン)と、国民の目に映っているとも指摘される。
 
調査会社IFOPが8月上旬に実施した世論調査では、就任後64%に達した支持率は36%まで下落。オランド前大統領の就任後の同時期(46%)を10ポイントも下回った。
 
マクロン氏は今後、主要公約の一つで、手厚い保護によって硬直化していると指摘される労働市場の改革を進める。IFOPのジェローム・フーケ氏(政治学者)が「(国民との)至福の時は終わりつつある」と指摘するように、反発する労組がデモを計画するなど、難しい政権運営を迫られそうだ。【8月20日 毎日】
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労働規制緩和で、今後も厳しい政権運営
マクロン大統領が進めようとしている労働規制緩和は、左派・労組の激しい抵抗を招くことが必至で、まさに“難しい政権運営を迫られそう”な状況です。

****労働規制緩和、政令で推進=関連法成立で混乱も―仏****
フランス上院は2日、労働規制緩和を議会承認なしに政令で規定することを認める法案を賛成多数で可決、同法が成立した。

マクロン政権は、企業が従業員を解雇する際の要件緩和をはじめとする改革を目指しており、労使双方との交渉を本格化させる。秋ごろに結論を得たい考えだ。一部労働組合は抗議活動も辞さない構えで、混乱が予想される。
 
労働規制緩和はマクロン大統領が4〜5月の大統領選で掲げた主要公約の一つ。周辺各国よりも手厚いとされる労働者保護制度を改めることで企業の負担を軽減し、経済成長の加速を狙う。

経営者側は従業員を解雇する際の補償金に上限を設けることを求めているが、一部労組は反発しており、争点の一つとなりそうだ。【8月3日 時事】 
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マクロン大統領が失速すれば、次は・・・
既成二大政党が国民の信頼を失い、極右伸長を阻止する最後の砦でとも目されたマクロン大統領が国民支持を失い、オランド前政権のような状態になると、今は沈滞した感もある極右勢力が再び勢いを取り戻し、次回大統領選挙では・・・という懸念もあります。

****中道派のマクロン勝利もフランスにくすぶる極右の火種****
今年5月7日に行われたフランス大統領選決選投票で、中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏(39)が当選し、第5共和制第8代の大統領に就任した。

マクロン氏は就任後、「経済、社会、政治的分断を克服するべき」と主張し、これまでの伝統的政治体制を押し切る独立系ならではの意欲をうかがわせた。

欧州連合(EU)離脱を掲げる極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏(48)勝利の「惨事」は免れたが、フランス社会の実態は、想像以上に複雑だ。(中略)
 
他方、極論主義のルペン氏は、高齢者を中心とする市民層の支持が厚い。決選投票に駒を進められたのも、その影響が大きい。
 
マルセイユ近郊に住むジャック・コワントローさん(仮名=78)は、アルジェリア戦争を経験した元フランス兵。彼が常々、口にする言葉があった。
 
「昔のイスラム移民は、フランスの経済成長に貢献した。しかし、今は荒くれ者の集まりで、国を破壊している。口にしないが、そう思っている人々は実に多い」
 
こうした反イスラム感情をむき出しにするフランス市民は、彼ばかりではない。ルペン氏を支持する最大の理由は、今日のイスラム国(IS)問題以外にも、05年の移民暴動事件以来続く、国内の治安悪化に不満があるからだ。
 
パリ市内にある大モスクの指導者で、イスラム評議会会長のダリル・ブバクール氏(76)さえ、当初、「イスラム移民の2世、3世は、自らの存続意義を失い、コンプレックスとともに社会の混乱を招いている」と漏らした。
 
“敬虔(けいけん)”な極右支持者があふれる国で、歴代最年少の大統領を選出したのは、いかにも時代を先取りするフランスらしい。

だが、いつ極右の火種がぶり返しても不思議ではなく、また、二者択一でマクロン氏に一票を投じる他なかった若者たちは、新政権への不安を募らせている。
 
西部・シャラント県に住む保険会社研修生のアレクシ・グラビエさん(25)は、社会党の支持者だった。
 
「共和党と社会党の2大政党の敗退は驚きだった。決選投票では、マクロンに投票したが、彼は若く、経験が浅いところが不安。とにかく、EU離脱が消えて安堵した」
 
若年層にとって、フランスの孤立は想定外。国外で就職活動中のナタン・ビルヌーブさん(22)も、同じ考えだった。
 
「イスラム過激派に対する恐怖などの影響で、ルペンが決選投票に進んだのは理解できる。だが、フラグジット(フランスのEU離脱)には将来がないと思う」(中略)
 
世代の違いによる政治への期待と不安が露呈した今回の選挙戦で、結果は、EU離脱を拒む「スタトゥス・クオ(現状維持)」が勝利した。
 
しかし、立て続けに起こるテロ事件、不安定な経済─。歴代最年少大統領のマクロン氏が、今後、国内外の諸問題を乗り切れるのか。そのプレッシャーと課題は大きい。【7月24日 宮下洋一氏 WEDGE】
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余裕のドイツ・メルケル首相 焦点は連立相手
一方、欧州をけん引してきたドイツ・メルケル首相は、ここのところ若干支持率低下はありますが、一時急伸した社民党・のシュルツ党首を抑えて、9月24日の総選挙勝利はほぼ固いと思わせる底力を発揮しています。

反移民・難民の右翼政党AfDは、大勢を動かすほどの大きな勢いはありませんが、足切りラインを越えて議席獲得を実現すると予想されています。

****世界混迷、メルケル氏に期待感 来月ドイツ総選挙****
欧州最大の経済大国の行方を占う9月24日投開票のドイツ総選挙まで2カ月を切った。

メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(同盟)が優位に立つ。勝利すれば、戦後最長だったコール元首相に並ぶ、4期16年の長期政権への道が開かれる。

■支持回復、首相4選目指す
4選を目指す選挙が近づく中、メルケル氏は7月25日から3週間弱の夏休みに入った。「選挙戦も楽しむ心が大事」。雑誌社主催の座談会で夏の予定を聞かれたメルケル氏はこう語った。

余裕には理由がある。最新の世論調査で、2大政党の支持率は同盟の40%に対し、社会民主党(SPD)は23%にとどまる。
 
だが15年9月には、高い支持率を保ってきたメルケル政権に一時暗雲が垂れ込めた。
大量の難民申請者を受け入れたことが社会不安をもたらし、支持率は低下。さらにSPDが「選挙の顔」として前欧州議会議長のシュルツ氏を党首に選んだ今春には、「新顔」への期待もあってSPDの支持率が急上昇。両党の支持率が10年ぶりに逆転した。
 
しかしその後、同盟の支持率は回復した。米国で誕生した「自国第一」のトランプ政権が迷走するなど国際社会の不透明感が強まる中、首相として12年の経験があるメルケル氏の安定感に期待が再び高まったとみられる。

失業率が1990年のドイツ統一以来、最低水準にあることや、難民の流入数減少も支持率回復を後押ししている。(中略)

■右翼、初議席の公算大
今回注目を集めているのは、反難民を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が、戦後のドイツで初めて右翼政党として議席を得るかどうかだ。
 
戦後のドイツでは、移民排斥などを主張する極右政党「ドイツ国家民主党(NPD)」が60年代に生まれたが、一部の州議会止まりで、連邦議会で議席を得ることはなかった。
 
AfDは経済学者のルッケ氏が13年に設立。共通通貨ユーロから離脱し、自国通貨マルクを復活させようと訴えて前回の総選挙を戦った。4・7%の得票率にとどまり、議席獲得に必要な5%に届かなかった。
 
しかし15年の難民の大量流入と前後して重点を「反難民」に移した。ルッケ氏は離党し、代わって前面に立ったペトリ現党首らが難民流入に危機感を募らせる有権者の支持を集めた。

すでに16州議会のうち13州で議席を獲得。16年にあった旧東ドイツ地域の州議会選挙では、得票率が20%を超える飛躍ぶりを見せた。
 
難民の流入が減少傾向にあることや、党内の内紛が露呈したことで、現在の支持率は1けたにとどまる。それでも得票率5%は超えて議席を得る公算が大きい。さらに、難民絡みのトラブルが起きれば、同党が勢いを増すとみる関係者は少なくない。(後略)【8月2日 朝日】
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メルケル首相の与党勝利は固いものの、単独過半数は難しい状況で、3位以下の争い次第で連立相手がどうなるか・・・というところが焦点となります。

****ドイツ総選挙、連立の鍵握る「第3の党****
・・・・余裕のあるメルケル首相と苦戦するシュルツ党首に続き、4つの小規模政党が激烈な3位争いを繰り広げている。

この3位争いこそが次期政権の連立形成を決定付け、今後4年間のドイツの政治的方向性を定めることになる公算が大きい。メ

ルケル首相にとって連立が必要なのはほぼ確実だ。第2次世界大戦以降、ドイツの政党が単独で議会の過半数を獲得したことは1回しかない。
 
現在のメルケル政権は、首相率いる保守系与党連合のCDU・CSUとシュルツ氏率いるSPDの「大連立」となっている。

ただ、SPDはメルケル首相の陰に隠れた政権運営を嫌い、また、保守派はこのような大連立について、ドイツ民主主義の規範ではなく例外であるべきだと主張している。
 
そうなると、連立が考えられる残りの政党は、企業寄りとされる自由民主党(FDP)と、環境保護主義を掲げる緑の党の2党となる。両党は最近の世論調査でそれぞれ約8%の支持率を確保している。
 
両党の政策的立場は全く異なっている。FDPは350億ドル(約3兆8400億円)の減税を望んでおり、欧州連合(EU)加盟国に対してはより厳しい態度で臨む見通しだ。FDPは直近のギリシャ救済へのメルケル首相の支持について特に批判している。

一方、緑の党は欧州の統合推進を望んでおり、再生可能エネルギー促進とリベラル寄りの移民政策を掲げている。CDU・CSUは中道的立場であるため、次に連立を組む政党次第で政権は右寄りにも左寄りにもなり得る。
 
また、これ以外の2つの政党がこのシナリオを崩す可能性もある。1つは旧東ドイツの支配政党ドイツ社会主義統一党の流れを受け継ぐ左派党で、緑の党とSDPから票が流れる可能性がある。

もう1つは移民受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」で、メルケル首相の移民受け入れ政策に不満を抱く保守票を集める可能性がある。
 
これら2政党が善戦すればするほど、メルケル首相にとっては連立政権形成の選択肢が狭まることになる。
 
FDPも緑の党も十分に善戦できず、どちらかの政党を合わせても連邦議会(下院)の過半数獲得に至らなければ、メルケル首相は2つの受け入れがたい選択肢から選択を迫られることになる。つまり、SDPとの大連立を継続するか、緑の党およびFDPとともに前代未聞の三党連立政権を組むかだ。(後略)【8月15日 WSJ】
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トルコ・エルドアン大統領 前代未聞の選挙介入
このドイツ総選挙に国外から前代未聞の“参戦”したのがトルコ・エルドアン大統領です。

****トルコ大統領、自らドイツ総選挙に干渉****
トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は18日、9月に迫ったドイツ総選挙に関し、トルコ系ドイツ人に対し主要政党に投票しないよう呼び掛けた。ドイツ政府は「前代未聞の」介入をやめるよう直ちに警告を発した。
 
エルドアン大統領は、アンゲラ・メルケル独首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の他、連立政権を組む社会民主党(SPD)、さらには野党の緑の党を「トルコの敵」だと表現し、これら三党を退けるよう呼び掛けた。
 
エルドアン大統領のこの発言は、同大統領による欧州連合(EU)加盟国に対するこれまでの非難の中で最も強硬なものであり、既に深刻的な状況の独トルコの外交危機をさらに悪化させたとみられる。
 
SPDの党首でもあるジグマル・ガブリエル外相はエルドアン大統領の発言に速やかに反応し「前代未聞の干渉行為だ」と非難した。またメルケル首相の報道官は「他国の政府がわが国の内政に干渉しないよう求める」とツイートした。【8月19日 AFP】
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約300万人~350万人のトルコ系ドイツ人がドイツ国内に住んでおり、ドイツ人口の約4%に当たります。

エルドアン政権は4月の大統領の権限強化を狙う国民投票にあっても欧州各国で政権支持集会を行い、ドイツでも地元当局の判断で複数の政治集会を中止させた経緯があります。この際もエルドアン大統領は「ナチスの行状」と述べ、対独関係の緊張を招きました。

エルドアン大統領は8月12日、欧州との緊張は欧州域内の政治要因が原因とし、ドイツとの関係は9月24日の独議会選挙後に改善するとの見通しを示していましたが、異例の“場外からの乱入”で、選挙後も対立が続きそうです。
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シリア  アメリカはクルド人勢力を“使い捨て”にするのか?

2017-08-19 22:16:26 | 中東情勢

(シリア勢力図 北部トルコ国境地帯のモスグリーンがクルド人勢力「ロジャヴァ」、人口密集地域でもある赤は政府軍、分断された緑は反体制派、砂漠地帯グレーはIS 図は【8月19日 青山弘之氏 Newsweek】より)

ラッカ 旧市街の70%を制圧
シリアでのラッカ奪還作戦は、イスラム国(IS)の抵抗や「人間の盾」などもあって、慎重に進められているのか、難航しているのか、最近あまり新しいニュースを目にしません。

一応は、アメリカが支援するクルド人勢力主体の「シリア民主軍(SDF)」によって、旧市街の70%を制圧するところまでは至っているようです。民間人犠牲も増大していますが、奪還自体は時間の問題でしょう。

****ラッカのIS支配地域、シリアで「最悪の状況にある場所」 国連****
国連は17日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が現在も支配するシリア北部ラッカの一部地域について、同国内で「最悪の状況にある場所」との認識を示した。
 
シリアでの人道問題に関する国連の責任者ヤン・エーゲラン氏はスイス・ジュネーブで記者会見を行い、「おそらく現在シリアで最悪の状況にある場所は、いわゆるISが依然支配するラッカの一部地域だ」と語った。
 
国連によると、かつてシリアにおけるISの事実上の首都だったラッカ市内に、現在も最大で推定2万5000人の民間人が取り残されているという。
 
エーゲラン氏は有志連合軍による「継続的な空爆」がラッカで行われていると指摘した上、米国が支援するクルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」の戦闘員に民間人らが包囲されており、「ISによって人間の盾として利用されているものとみられる」との見解を示した。
 
一方、在英のNGO「シリア人権監視団」によると、SDFは17日も有志連合軍の支援を受けて、ラッカの旧市街でISと戦闘を続けており、これまでのところ旧市街の70%を制圧したという。
 
また同監視団は、米国主導の有志連合軍がIS戦闘員の掃討を目指しラッカで行った空爆により、14日以降に少なくとも民間人59人が死亡し、うち21人は子どもだったことを明らかにしている。【8月18日 AFP】
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アレッポでの戦闘が政府軍勝利で終わったことやIS支配地域縮小によって、アレッポを中心に難民の帰還も増えていますが、“現在も高い割合で新たな避難民が生まれている”との現状で、事態が改善するには、もう少し時間が必要なようです。

****シリア、今年に入って避難民60万人以上が自宅に帰還 国連****
シリア内戦により家を追われた避難民のうち、60万人以上が今年、自宅へと帰還していたことが、国連の国際移住機関(IOM)発表のデータによって明らかになった。帰還者の大半が、同国北部アレッポへと戻っていった避難民だったという。
 
IOMの声明によると、今年1月から7月末にかけて60万2759人の避難民が自宅へと戻り、その多くが地元地域の経済や治安状況が改善したことを理由に挙げていた。また帰還した住民の84%がシリア国内で避難生活を送っていた一方、残りの16%は隣国のトルコ、レバノン、ヨルダン、イラクに避難していた。
 
また、帰還者の4分の1以上が、財産を守るために戻ってきたと答え、地元の経済状況が改善したことを理由に挙げた人も同程度に近い割合で存在していたという。一方、治安の改善を挙げていた避難民は11%、避難先の経済状況の悪化を指摘したのは14%だった。
 
国内避難民の帰還は増えているとみられるものの、シリア国内では現在も高い割合で新たな避難民が生まれていると、IOMは警鐘を鳴らしている。声明でIOMは、今年の1月から7月にかけて推定80万8661人が住み家を追われている」とし、「計600万人超が現在も国内で避難生活を余儀なくされている」と述べている。【8月14日 AFP】
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クルド人勢力 アメリカからも裏切られる時が近づいているのかもしれない・・・
これまでも何度も言及してきたように、関係国の関心は“ラッカ奪還後”そして“IS後”に移っていますが、その中心にあるのが、クルド人の問題です。

イラクのクルド自治政府の独立を問う住民投票などの動きについては、8月5日ブログ「イラクのクルド自治政府、9月に独立の是非を問う住民投票を予定 ISより大きな“爆弾”にも」でも取り上げたように、今後イラク中央政府との調整が焦点となります。(とはいっても、9月はもうすぐですが・・・)

一方、シリアのクルド人の問題は、現在アメリカの後ろ盾でIS掃討の主力となっているクルド人勢力にどこまで権限を認めるのか?という問題で、国境地域にクルド人勢力の自治政府的なものができることを嫌うトルコ、これまでクルド人勢力を“使ってきた”アメリカの意向が影響します。

端的に言えば、アメリカはクルド人を“使い捨て”にするのか、あるいは反発する大国トルコを抑え込んででもクルド人に一定の地位を与えることを保障するのか・・・という問題です。

そこらの問題については、青山弘之氏が詳しく論じていますが、アメリカは“使い捨て”の方向をとるのでは・・・とも推察されます。

****シリアで「国家内国家」の樹立を目指すクルド、見捨てようとするアメリカ****
<内戦が終わりに近づくシリアで、「国家内国家」の樹立に向けて動き出した西クルディスタン移行期民政局、通称「ロジャヴァ」。しかし、アメリカからも裏切られる時が近づいているのかもしれない>

ロシア、トルコ、イラン、そして米国の関与のもと、停戦プロセスが粛々と進行し、武力紛争としてのシリア内戦が終わりを迎えようとしているなか、シリア北部を実効支配する西クルディスタン移行期民政局、通称「ロジャヴァ」(クルド語で「西」の意)は、「北シリア民主連邦」と称する「国家内国家」の樹立に向けて、行政区画法を制定し領土を主張、また9月から来年1月にかけて領内で議会選挙を実施することを決定した。

シリアからの分離独立をめざす動きとも解釈できるこの「賭け」の狙いはいったいどこにあるのか。

米国にとって対シリア干渉政策の橋頭堡、ロジャヴァ
ロジャヴァは、内戦で衰弱したシリア政府に代わって、ハサカ県やアレッポ県北部に勢力を伸張したクルド民族主義政党の民主統一党(PYD)が2014年1月に発足した自治政体である。

PYDは2003年の結党以来、シリア政府の統治に異議を唱える反体制派として活動してきたが、シリア内戦のなかで欧米諸国やトルコの支援を受けて台頭したそれ以外の反体制派とは一線を画し、紛争当事者間の「バッファー」(緩衝材)として立ち振る舞うことで存在感を増していった。

多くの反体制派が力による政権打倒に固執するなか、PYDは政治的手段を通じた体制転換を主唱し、彼らと反目した。

また、これらの反体制派が、シャームの民のヌスラ戦線(現シャーム解放委員会)、シャーム自由人イスラーム運動といったアル=カーイダ系組織と表裏一体の関係をなしていたのとは対象的に、イスラーム国やヌスラ戦線に対する「テロとの戦い」に注力し、その限りにおいてシリア政府、ロシア、イランと戦略的に共闘した。

しかし、このことは欧米諸国との敵対を意味しなかった。2014年9月にシリア領内でイスラーム国に対する空爆を開始した米主導の有志連合は、PYDの民兵として発足し、その後ロジャヴァの武装部隊へと発展を遂げた人民防衛隊(YPG)を支援、連携を深めた。

2015年10月に米国の肝煎りで結成されたシリア民主軍は、YPGを主体に構成されており、同組織が2017年6月に開始されたラッカ市解放作戦を主導していることは周知の通りだ。

米国は現在、ロジャヴァ支配地域内に航空基地2カ所を含む10の基地を構え、特殊部隊約450人を進駐させているという。米国にとって、ロジャヴァは今や対シリア干渉政策の橋頭堡であり、PYDにとっても米国は今や最大の軍事的後ろ盾なのである。

シリア内戦をめぐる政治プロセスから疎外され続ける
にもかかわらず、PYDはシリア内戦をめぐる政治プロセスにおいて疎外され続け、そのことが彼らを北シリア民主連邦樹立に向けて突き動かすことになった。

PYDは、米国とロシアが共同議長国となって国連で推し進めたシリア政府と反体制派の和平協議「ジュネーブ・プロセス」の蚊帳の外に置かれた。トルコとサウジアラビアがその参加を頑なに拒んだためだ。

トルコにとって、PYDはクルディスタン労働者党(PKK)と同根の「テロ組織」で、その存在を認めることなどできなかった。シリア国民連合やイスラーム軍からなる「最高交渉委員会」を担ぎ、ジュネーブ・プロセスに陰に陽に干渉してきたサウジアラビアにとっても、PYDは目の上のコブだった。(中略)

ロシア、トルコ、イランを保証国として開始されたシリア政府と反体制派の停戦協議「アスタナ・プロセス」でも、PYDは黙殺された。

三国は2017年5月、反体制派が支配する北部(イドリブ県、アレッポ県西部)、中部(ヒムス県北部)、東グータ地方(ダマスカス郊外県)、南部(ダルアー県、スワイダー県、クナイトラ県)に「緊張緩和地帯」(de-escalation)を設置することで合意、7月に入ると、これに米国、ヨルダン、イスラエルが同調し、北部を除く3地域で、戦闘停止、人道支援物資搬入、ロシア軍兵力引き離し部隊の進駐が実現した。(中略)

一方、(クルド人勢力の)シリア民主軍は、シリア軍と衝突することはなかったが、トルコの圧力に曝された。

トルコは、アレッポ県北部のアフリーン市一帯に地上部隊を増派し、ロジャヴァ支配地域を断続的に砲撃する一方、「穏健な反体制派」と呼ばれてきた武装集団(ハワール・キッリス作戦司令室、ないしは「ユーフラテスの盾」作戦司令室)とシャーム自由人イスラーム運動を「家を守る者たち」作戦司令室として糾合し、シリア民主軍との戦闘に動員した。

自治体制を確立したことを誇示
こうした情勢のもとで発表されたのが行政区画法と議会選挙実施決定だった。行政区画法は、図(省略)で示した通り、四つの地区から構成されていたロジャヴァ支配地域を、「地域」>「地区」>「郡」>「市」>「区」>「町」>「村」>「農場」>「コミューン」という上意下達の行政単位に再編することで、北シリア民主連邦の領土を明示した。

一方、議会選挙実施決定は、9月22日にコミューン議会、11月3日に村、町、区、市、郡、地区の議会、そして2018年1月19日に地域の議会、および連邦全体の議会に相当する「北シリア民主人民大会」の議員を行政区画法に基づいて下意上達的に選出していくという内容だった。

PKKがトルコからの分離独立をめざしてきたこと、イラク・クルディスタン地域で独立の是非を問う住民投票の実施が決定されたこと、そして「北シリア民主連邦」という国家を思わせる呼称...。

これらからの類推で、行政区画法と議会選挙実施決定を、シリアからのクルド人の独立に向けた布石と解釈することも不可能ではない。

だが、PYDは、シリアという既存の国家枠組みのなかで民族的・宗派的多元主義と分権制を保障する体制の樹立をめざしており、少なくとも現時点では、暫定的な移行期を終えて、恒久的な自治体制を確立したことを、シリア内戦の主要な当時者である諸外国に誇示し、その存在を既成事実として認めさせるのが狙いだと理解した方が妥当だろう。

アメリカ頼みの「国家内国家」
しかし、主権在民の「国家内国家」の存立はその多くを他力本願に頼っていた。そのことを端的に示していたのが、アレッポ県北部のユーフラテス川右岸(西岸)に位置するマンビジュ市と、欧米諸国がイスラーム国の首都と位置づけるラッカ市に対する姿勢だ。

前者は2016年8月にシリア軍がイスラームから奪取、後者は陥落が秒読み段階に入ったとされている。

両市をめぐっては、トルコがかねてからPYDによる勢力伸張を「レッド・ライン」とみなし、YPG(そしてシリア民主軍)の撤退を強く要求してきたが、PYDは米国の意向を追い風に勢力を伸張した。

PYDがマンビジュ市とラッカ市の北シリア民主連邦への編入を望んでいることは言うまでもない。にもかかわらず、行政区画法においてその地位について明記しなかったのは、米国がトルコを制し、北シリア民主連邦への両市の帰属を承認することを期待しているからにほかならない。

すべての当事者に裏切られる時が近づいている
しかし、米国がPYDの思惑に沿って行動するかは判然としない。なぜなら、イスラーム国に対する「テロとの戦い」後の米国の対シリア政策の具体像がまったく見えないからだ。

米国は、北シリア民主連邦領内に軍を常駐させることで、内戦の実質的勝者であるシリア政府の増長を抑止するための軍事的圧力をかけ続けることができるかもしれない。

しかし、さしたる産油国でもないシリアにおいて、PYDを庇護し続けたとしても経済的な見返りは少なく、費用対効果も高い。

こうした事情を踏まえてか、米国は、ラッカ市解放後に本格化することが予想されるダイル・ザウル県でのイスラーム国との戦いからYPGを遠ざけようとしている。

米国は、YPGではなく、ダイル・ザウル県のアラブ人部族とつながりがある反体制指導者のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバーが率いるシリア・エリート軍や、「ハマード浄化のために我らは馬具を備えし」作戦司令室所属組織に、掃討戦を主導させようとしているのだという。

もしこれが現実になれば、YPGの「テロとの戦い」は終わりを余儀なくされ、もっとも頼れる有志連合の「協力部隊」としての存在意義(ないしは利用価値)は低下することになる。

ロシア、トルコ、そしてシリア政府は、このときを虎視眈々と狙っているのだろう。ロシアは、「緊張緩和地帯」がいまだ設置されていない北部で、長らくトルコの支援を受けてきたシャーム解放委員会やシャーム自由人イスラーム運動を放逐するための「テロとの戦い」を国際社会に黙認させるための取引を欲している。

トルコも、その見返りとして、アレッポ県のアフリーン市一帯およびタッル・リフアト市一帯でのPYD排除を目的とした新たな大規模軍事作戦が是認される機会を窺っている。

シリア政府には、PYDとの戦略的関係を解消し、力で全土を掌握する力はない。だが、こうした諸外国の動きに迎合する傍らで、北シリア民主連邦の支配地域との人的・物的な交流を深め、PYDを懐柔しようと策をめぐらしている。

PYDが「バッファー」としてすべての当事者にとって利用価値のある時代は終わり、すべての当事者によって裏切られる時が近づいているのかもしれない。【8月19日 青山弘之氏 Newsweek】
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クルド人勢力にとって“利用価値のある時代が終わりつつある”ことに、クルド側もその存在をアピールして抵抗しています。

****米軍の北部シリアにおける長期戦略****
ラッカ解放作戦がその後どうなっているのか、このところ報道動は見かけませんが、al arabiya net はシリア民主軍(クルド勢力YPGが主力)の報道官が、米軍は北部シリアに戦略的利害を有していて、ISの掃討後も長期間シリアに留まるであろうと語ったと報じています。

9月のイラククルド自治区の住民投票を前に、クルド問題が域内の重要、微妙な問題となりつつある現在、この発言はクルド勢力からの情宣の類かとも思われます(al jazeera net は、国務省がこれを否定したと報じているところ、中身を見ると国務省報道官が、現時点ではISの掃討に集中すべきで、それ以上関心をそらすような発言は慎むべきであると言ったというだけのことで、明確には否定はしていない)が、取り敢えず記事の要点のみ次の通り。何らご参考まで

「シリア民主軍報道官は、米軍はISの敗北後も長期間北シリアに留まるであろうと語り、クルドの支配地域と密接な関係が樹立されることを期待していると語った。

彼はロイターに対して、米軍は当該地域に戦略的な利害関係を有しているとした由。
彼は米軍は同地域における長期的な戦略を有していて、米と現地勢力との間に軍事的、経済的、政治的な合意ができるであろうとした由。

他方有志連合はこの問題は、国防総省の問題であるとしたが、国防総省では、現在ではISとの戦いに集中する時期であるとして、国防総省はシリアやイラクでのISとの戦いの時期的問題やその後の事態については議論しないとした由。(中略)」

米軍としての現時点での反応が以上のようになることは、自然だと思い、また将来のことについて下手な推測をすることは意味がないかと思いますが、こんな問題を考えていると、米軍がベトナムでも少数民族の部隊を北ベトナムに対する戦闘に利用して、その後彼らを見捨てたことが、どこかで頭に浮かびます。

何しろ、クルド民族もイラクやイランやシリアの現地政府に利用されては、捨てられた歴史を有しているので・・・【8月19日 「中東の窓」】
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大国の思惑に振り回される現地勢力というのは、よく見られる話です。シリアでも、クルド人勢力だけでなく、いわゆる反体制派勢力についても同様のことが言えます。

アメリカがベトナム戦争で“使い捨て”にしたモン族の悲劇については、2008年7月31日ブログ「ラオス難民のモン族 今なお続くベトナム戦争、更にイラクへ」などでも取り上げてきました。

もっとも、クルド人勢力もアメリカの後ろ盾をいつまでも信じるほど“お人好し”でもないでしょう。
彼らは彼らで、独自の青写真などを描いてことに臨んでいると思われます。“アメリカを利用する”つもりで動いているとも思えます。

不透明なトラン政権の方針
そのアメリカの方針が不透明なことは、アフガニスタンなど他の問題と同様です。

周知のように、バノン氏更迭などでトランプ政権は揺れています。
「アメリカ第一」の原則から海外への関与を嫌うバノン氏の路線であれば、IS後にアメリカがシリアに関与する余地はあまりないでしょう。

しかし、バノン氏が去って、“退役海兵隊大将のケリー氏を頂点に、外交・安全保障では現役の陸軍中将のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、退役海兵隊大将のマティス国防長官の「軍人トリオ」に加えて元大物実業家のティラーソン国務長官が担うことになる”【8月19日 産経】今後のトランプ政権の場合、一定にシリアに関与し続ける、そのためにはクルド人勢力との関係も“それなりに”維持する・・・という選択もあるのかも。

ただ、大国トルコ・エルドアン大統領を怒らせるような施策は・・・どうでしょうか?
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タイ  一週間後にインラック前首相への判決 混乱も懸念される状況

2017-08-18 20:40:49 | 東南アジア

(1日、最高裁で最終意見陳述をした後、外で待っていた支持者らにあいさつするインラック前首相=バンコク【8月2日 朝日】)

荒れそうなインラック前首相への判決日
タイでは、これまでも再三取り上げてきたように、プラユット軍事政権がタクシン元首相派を徹底して封じ込めようとしていますが、来週25日にはその山場ともなるインラック前首相(タクシン元首相の妹)への判決が出されます。

****タイ前首相裁判、くすぶる火種 インラック氏に25日判決 軍政、タクシン派を追い込み***
2014年に政権を追われたタイのインラック前首相(50)が、職務怠慢罪などに問われた裁判で、インラック氏が1日、最高裁判所で最終意見陳述をし、改めて無罪を主張した。

25日に予定される判決で厳刑になれば、インラック氏や兄のタクシン元首相の支持者らの反発は必至だ。今後の政情や総選挙にも影響を与えそうだ。
 
タクシン派と反タクシン派の対立が深まっていた14年5月、憲法裁判所がインラック氏の政府高官人事を違憲と判断し、インラック氏は失職。

その直後、軍がクーデターを起こした。翌年2月、検察当局がインラック氏を政治家らを裁く最高裁の部署に起訴。

首相在任中に実施した事実上のコメ買い上げ制度で国家財政に損失を与えながら、中止しなかったことが職務怠慢にあたるとされた。
 
インラック氏はこの日の陳述で、「制度は有益だった」「私は職務を違法に怠ったことはない」などと反論。最高裁の周りには大勢の支持者らが集まり、インラック氏を激励した。
 
軍政側はタクシン派をさらに追い込む姿勢を見せている。インラック氏は昨年、コメ問題に絡んで357億バーツ(約1180億円)の賠償金を支払うよう行政命令を受け、同氏は争っているが、最近になって軍政側は銀行口座などの凍結に踏み切った。
 
さらに、当局はインラック氏に関し、新たに11の疑惑で捜査を進める方針を表明。政治家らの事件に関して欠席裁判などを可能にする法案も通し、06年のクーデターで失脚して海外逃亡中のタクシン元首相の裁判再開にも道を開いた。
 
インラック氏が問われている罪は最高で禁錮10年。「厳しい判決になれば、政治的な裁判だと反発しているタクシン派が燃え上がり、総選挙に向けた情勢にも影響を与える可能性がある」と外交筋は指摘する。【8月2日 朝日】
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インラック前首相は「私は巧妙な政治ゲームの犠牲者だ」【8月1日 時事】とも。

“厳しい判決になれば・・・”とのことですが、おそらく“厳しい判決”になるのでしょう。

タクシン元首相が国外にいる現在、タクシン派の象徴というか、広告塔的な立場にもあるインラック前首相への厳罰となれば、タクシン派の一部が暴力的な抗議行動に出る危険性が懸念されます。
タクシン派は大量の武器を隠匿しているとも言われています。

当局も、そうした混乱を予想して、厳戒態勢で臨むようです。

****インラック前首相の判決日、警官2500人を配備****
前政権のコメ質入制度に絡んで職務怠慢に問われているインラック前首相(タクシン元首相の実妹)に対し8月25日に最高裁判所で判決が言い渡される予定だが、首都圏警察は17日、判決日にタクシン支持者が大挙して最高裁に詰めかけるとみられることから警察官約2550人を動員して警備に当たらせる予定だ。

パヌラット首都圏警察副長官は、「支持者が前首相を激励するのは違法ではない。だが、最高裁前に大勢の支持者が集まるのが誰かの指示だったり、騒ぎを起こす目的だったりしたら違法となる」と説明している。【8月18日 バンコク週報】
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“誰かの指示だったり・・・”という話になると、当局側の判断で“違法”の扱いににすることも容易です。

ひと騒ぎありそうな雰囲気で、日本大使館も在タイ邦人に警戒を呼びかけています。

****テロ、デモに注意」 在タイ日本大使館****
在タイ日本大使館は15日、タイ滞在・旅行中の日本人に対し、テロとデモへの注意を呼びかけた。

タイでは2015年8月17日、バンコク都心の観光名所「エラワンの祠」で爆弾が爆発し、タイ人、中国人など20人が死亡、日本人男性を含む約130人が重軽傷を負った。

2016年8月11、12日には、プーケット島、フワヒン市といった観光地を含む中南部7県で連続爆弾・放火テロが起き、4人が死亡、40人近くがけがをした。

タイでの報道によると、2つの事件からそれぞれ2年、1年を迎えることから、タイ政府は警戒を強化している。

また、8月25日には、インラク前首相の汚職関連の裁判の判決が最高裁判所で下ることから、前首相の支持者と治安当局の衝突も懸念される。

大使館はこうした状況を踏まえ、不測の事態に巻き込まれることのないよう、最新の情報入手に努め、政府や軍・警察関連施設、欧米関連施設、公共交通機関、観光リゾート施設、デパートなどテロの標的となりやすい場所を訪れる際には、周囲の状況に注意を払い、不審な状況を察知したら速やかにその場を離れるなど安全確保に十分注意するよう呼びかけた。【8月15日 newsclip.be】
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政権批判を許さない軍事政権
一方、プラユット軍事政権の封じ込めは、タクシン派だけ限らず、政権批判勢力全般に及んでいます。
そうした批判勢力弾圧に「不敬罪」が利用されることも多いようです。

***FBで軍政批判の記者訴追=扇動容疑でタイ警察***
タイ軍事政権に批判的なコメントをフェイスブック(FB)に投稿した地元メディアのベテラン記者が扇動などの疑いで訴追され、人権団体などから当局を非難する声が上がっている。
 
警察は8日、ニュースサイト、カオソットのプラウィット・ロジャナプルック記者を扇動とコンピューター犯罪法違反の容疑で訴追した。昨年2月と今年6、7月の投稿で新憲法案や軍政の洪水対応などを批判したことに関連しているという。裁判で有罪となった場合、最高14年の禁錮刑が科される。
 
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(本部ニューヨーク)は9日、「FBでの平和的な論評に対する疑わしい訴追を直ちに取り下げるべきだ」と訴える声明を発表。

米民間団体ジャーナリスト保護委員会(CPJ)も「同記者がさらに嫌がらせを受けることなく自由に活動できるようにすべきだ」と訴追取り下げを求めた。
 
プラウィット記者はFBで「表現と報道の自由を守るため今後も私の務めを果たす」とコメントしている。【8月9日 時事】 
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****不敬罪で禁錮20年判決=ネットで王室中傷―タイ****
タイ王室を中傷する音声データをインターネット上に掲載したとして、バンコクの軍事裁判所は9日、タイ人男性に不敬罪などで禁錮20年の判決を言い渡した。
 
人権団体によると、男性は2015年1月、自身が開設したウェブサイトに、不敬な内容の六つの音声データを掲載したとして逮捕された。
 
男性は裁判で当初否認していた起訴事実を一転認め、情状酌量を訴えたが、裁判所は「国王に対する犯罪で、国民感情に深刻な影響を及ぼす」と判断し執行猶予を認めなかった。【8月9日 時事】 
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****タイ国王の報道FB共有は「不敬罪」 大学生に実刑判決****
タイ東北部コンケン県の裁判所は15日、ワチラロンコン国王の経歴に関する外国メディアの報道をフェイスブックで共有したことが不敬罪にあたるとして、コンケン大学の学生、ジャトゥパット・ブーンパタララクサ氏(26)に対し、禁錮2年6カ月の実刑判決を言い渡した。
 
ジャトゥパット氏は、クーデター後の軍事独裁体制を批判してきたことで知られ、支持者らは軍政による不敬罪の乱用だとして反発していた。
 
関係者によると、同氏は裁判で争ってきたが、15日に一転して罪を認めたという。争っても無罪になる可能性は低く、裁判が長引くだけと判断したとみられている。
 
タイでは2014年5月のクーデター以来、不敬罪での摘発が急増。国際人権連盟(本部・パリ)などは今年5月、クーデター以降の3年足らずで不敬罪による逮捕者が100人を超えたと発表した。不敬罪が軍政への批判を封じるために利用されているとの批判も絶えない。【8月15日 朝日】
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“問題の記事は2000人以上がシェアしたが、ジャトゥパット氏のみ摘発された。”【8月15日 時事】とも。

国王の対応は?】
こうした状況で、8月25日のインラック前首相への判決で社会混乱が広がった場合、タクシン元首相に近いとも言われるワチラロンコン国王の対応も注目されます。
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中国  キャッシュレス社会の急速な進行 スマホ・ネット依存の拡大 情報の国家管理

2017-08-17 22:35:00 | 中国

(中国では物乞いもモバイル決済で行われる・・・という話も話題になりました。みんなが現金を持ち歩かなければ、そうなるでしょう。画像は【http://www.chinesepayment.com/2017/05/qr.html】)

モバイル決済 日本は6% 中国都市部では9割超
スマホによるモバイル決済・・・こすいた「キャッシュレス社会」に関しては、周知のように日本より中国がはるかに先を言っています。

中国では、単に現金が使われなくなったというだけでなく、「キャッシュレス店」や「シェアリング自転車」などの新たなサービス形態を生むことにもなっています。

日本では“支払時にモバイル決済を利用している人はわずか6%”に対し、中国では“都市部の普及率は9割を超える”という状況です。

日本でモバイル決済が広がらない事情については、以下のようにも。

****日本、利用6%のみ****
日本のモバイル決済は、中国に大きく差を付けられている。日銀が昨年11〜12月に実施した「生活意識に関するアンケート調査」によると、支払時にモバイル決済を利用している人はわずか6%にとどまり、中国とは違って日本はいまだ現金決済が優勢だ。
 
アンケートではモバイル決済を利用しない理由について「安全性に不安がある」との回答が最も多かった。

クレジットカードなど既に他の決済手段が浸透していることに加え、個人情報流出に対する警戒感がモバイル決済の普及を妨げるハードルになっているようだ。【8月7日 毎日】
****************

個人情報流出・プライバシーに対する感覚の差
個人情報流出に対する警戒感に関しては、中国は随分とおおらかなようです。
防犯用の監視カメラ映像の多くが、不特定多数が見られる形でオープンになっているとか。

****監視カメラ映像、中国では一大コンテンツに****
中国のインターネットユーザー7億5100万人は、ユーチューブの閲覧こそブロックされているかもしれないが、ヨガスタジオや水泳教室、アルパカ牧場など、監視カメラがとらえた映像ならリアルタイムでいくらでも見ることができる。
 
法律の専門家によると、そうした映像の多くは欧米では考えられない内容だ。外食、ダンスのレッスン、下着の買い物などの様子を公開しようとすれば、そこに映っている人は反対するだろう。本人の許可なく公開すれば訴訟につながりかねない。
 
しかし中国では、監視はどこでも行われており、広く受け入れられている。有名な中国の現代芸術家はこれを新たな映画の題材にした。(中略)

徐氏とアシスタントは中国のウェブサイトからのダウンロードを中心に約7000時間の動画の中から映像を選別し、作品を作り上げた。
 
そうしたサイトのうち、「シュイディ」(水滴)はインターネットセキュリティ会社の奇虎360科技が運営している。一方、「Ezviz」を運営するのは監視カメラメーカーの世界最大手、杭州 海康威視 数字技術だ。両サイトは合わせて数千台に及ぶ全国のカメラからのフィードを提供している。
 
徐氏はドラゴンフライ・アイズを制作する過程で、1998年の米映画「トゥルーマン・ショー」が未来を予言していたと確信した。この作品は、ジム・キャリー演じる主人公の一挙手一投足が、本人の知らないうちに生放送されるというストーリーだった。
 
「世界全体が巨大な映画スタジオになった」と徐氏は述べた。
 
当初はのぞき見のように思えて不安だったという。だが映像に登場した人たちの大半は何の問題もなく放映許可書に署名したうえ、一部の人は自分もフィードを見たと話した。
 
徐氏は「監視と人々の関係は変化している」と述べた。「以前は、利用するのは政府だった。だが今では、政府からあらゆる人へと拡大している」

監視が広がる土壌
プライバシーに対する市民の意識が厳しくないこともあって、中国政府は監視の範囲を拡大できた。
当局は、個人の行動に関するデータに基づいて「社会信用」スコアを算出する制度を導入しつつあるほか、どの国よりも広範にわたって顔認識技術を利用してきたが、不満は広がっていない。(後略)【8月15日 WSJ】
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このあたりのプライバシーに関する感覚の差は、国家による情報管理の問題にもつながる訳ですが、“中国では取引履歴を政府が個人監視に利用しているのでないかと指摘されるなど情報流出の懸念はつきまとう。だが、北京市内の会社員、郭さん(33)は「個人情報を見られても気にしない」と意に介さない。”【8月7日 毎日】といった声も。

【キャッシュレス社会で取り残される高齢者】
さきほど7時のNHKニュースで、日本でも「海の家」など現金を持ち歩きたくないような場所で、スマホ利用が広がっているとの話題を報じていました。

ただ、そのNHKニュースでも取り上げていたように、キャッシュレス“先進国”中国では、店頭に置かれた「二次元コード」の上から偽造コードを張り付け改ざんし、自分の口座に入金させる・・・などの新たな問題も出現しています。【7月30日 NHKより】

そうしたセキュリティーの問題以外に、モバイル決済が利用できない高齢者の現金使用が拒否され、買い物もできない、タクシーにも乗れない・・・という社会になりつつもあります。

****中国で急速に普及したキャッシュレス化は高齢者への差別****
・・・・専門家の中には、キャッシュレス化キャンペーンに疑問を呈する人もいる。北京師範大学・国際金融所の賀力平(ホー・リーピン)所長は、「もし現金での支払いを店が拒否するなら、それは私のような高齢者に対する差別になるのではないか」と述べている。

賀所長によると、現金での支払いができないことも不便なことであり、バランスのとれた多方面に配慮した社会を構築すべきで、現金拒否は法に触れる恐れもあるという。

清華大学・国家金融研究院の朱寧(ジュー・ニン)副院長も、「モバイル決済を大々的に活用することには賛成だが、キャッシュレス化社会には同意しない。モバイル決済が主流になる方向とはいえ、これは現金を無くすことを意味するものではない」と語り、「まだ多くの人が携帯電話やスマートフォンを使用していないことを覚えておかないと、不公平になってしまう」と指摘した。(後略)【8月15日 Record China】
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いろんな問題があるかもしれないが、まずやってみる、問題がでてきたらその時に対応する・・・というのが中国流の発想法であり、“石橋を叩いて壊してしまう”ような日本とは対照的です。

一概にどちらが・・・というのは言い難いところですが、日本も中国的なダイナミズムは参考にすべきところが多々あるようにも思えます。

ついでに言えば、“まずやってみる”というのが中国民間の発想なら、“とりあえずやらせる。多くの業者が出てきて競争し、その後に淘汰され大手が残ったところで、その大手を対象に規制をかけコントロールする”というのが中国当局のやり方とか。

深刻化・拡大するスマホ・ネット依存
スマホやネットへの“依存”などの弊害は、日本を含め世界共通の現象ですが、スマホが生活の中で主たる位置を占めつつあるような中国では、その“依存”も深刻なようです。

****ネット依存の18歳が死亡 中国、治療施設に入所直後****
中国で、インターネット依存症の治療施設に入所した18歳の少年が、入所から2日足らずに死亡する出来事があり、これまでにも物議を醸していた同様の施設に対し改めて疑惑の目が向けられている。
 
世界で初めて、インターネット依存症を治療が必要な障害と認定した中国には、延々とネットにふける人が何百万人もいると推定され、その多くは若い男性とされる。
 
亡くなった少年の両親は、息子のネット依存を止めようと、家業に関わらせる、軍への入隊を勧める、旅行に連れていくなど、あらゆる手を尽くした。
 
だがこれらのいずれも奏功しなかったことから、2万2800元(約38万円)を支払って治療施設での180日間に及ぶ「隔離環境での特別教育」を受けさせようと決意した。
 
両親は13日、国営の中国中央テレビ(CCTV)に対し、施設からは心理療法と軍隊式のトレーニングとを組み合わせて実施するという説明を受けていたと語った。
 
少年の死因はいまだ明らかになっていないものの、両親は息子の遺体に無数の傷があったと主張している。(後略)【8月16日 AFP】
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上記記事で“軍への入隊を勧める”とありましたが、軍の中でもスマホの影響が懸念される状況とか。

****中国軍の新たな敵はスマホゲーム? 夢中になり過ぎる兵士に懸念****
中国人民解放軍の幹部に新たな「敵」が出現したようだ。国内で大ヒットしているスマートフォン向け対戦型ゲーム「王者栄耀(King of Glory)」だ。若い兵士らがゲームに夢中になり過ぎて実際の戦闘に悪影響を与える可能性があると懸念されている。
 
人民解放軍の機関紙は「見逃せない安全保障上のリスクがあるのは確実だ」と指摘。「このゲームは常に注意力を必要とするが、兵士の任務はすべてが不確実だ。緊急の任務でゲームを止めても兵士の意識がゲームにとどまっていたら、任務の間、上の空になる恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
 
機関紙によると、ある宿舎で兵士のほぼ全員が週末の間にこのゲームをしているのを軍の将校らが見つけ、懸念するようになったという。ゲームがすぐに禁止される計画はないが、兵士に「科学的なガイドライン」が示されるべきだと同紙は伝えている。
 
1日あたり最大8000万人がプレーする王者栄耀については、中国政府も長時間にわたりゲームをする子どもや10代の若者への影響について懸念を深めている。
 
王者栄耀を提供するIT・ネットサービス企業テンセント(Tencent)は先月、国内でのあまりの人気ぶりに「子どもたちの健全な成長のため」プレー時間を1日1~2時間に制限すると発表した。【8月16日 AFP】
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ネットユーザーが7億人とも言われる中国社会ですから、何百万人もの依存症患者がいても不思議ではありません。

個人的にも、私はスマホは使用しませんが、PCでのネット依存症状があって、“常に情報に飢えており、探し求めている。見逃している情報がありそうで不安になる”といった傾向があります。

海外旅行にもノートを持参して、街に出ずに、ホテルで(旅行とは無関係な)情報を検索している・・・ということも。
ホテルの選択基準もWiFi条件がいいことが一番です。先日のイラン旅行でも、アクセスできないサイトが多く、かなりのストレスを感じました。

インターネットは生活の利便性を高め、娯楽と収益をもたらしますが、多大な時間を消費し、注意力を奪い、自己喪失にも至る・・・といった弊害もあります。

そのあたりの中国の事情について、下記のようにも。

****中国7億人のネットユーザー、スマホ生活の実態に迫る****
携帯電話でネットを利用する人は7億人以上で、ユーザーの月平均モバイルインターネット通信量は1.5GB以上。こんなにも通信量が多いのは、スマホが手放せなくなるのが癖になっているからだろうか、それとも生きるため必要だからだろうか。(中略)

◆スマホを手放せない生活になって何を失った?
インターネットは生活の利便性を高め、娯楽と収益をもたらすが、悩みと戸惑いもある。

杭州市のIT企業で働くOLの程さんは最近、微信モーメンツの使用を停止したという。その理由は簡単だ。「思わずチェックしてしまい、通信量を消費してしまうのはともかく、時間を無駄にしているから」

ドイツの調査会社「Statista」の統計データによると、中国のスマホユーザーは2016年にスマホを毎日3時間利用しており、「夢中度」で世界2位につけている。テンセントのデータによると、微信だけでも毎日の使用時間が1時間半のユーザーが半数に達している。

清華大学新聞・伝播学院の金兼斌教授は、「通信量経済は人々の注意力を奪い、自己喪失という最大の問題が生じる。スマホを手にして忙しそうに見えるが、その一部の仕事は急ぎのものではない。表面的にはネット記事を読み多くのことを学んだように見えるが、得られる知識は系統的ではなく、問題を直接解決できるものではない」と指摘した。

テンセントが行った「SNS断捨離」実験によると、15日続けて微信の使用時間を毎日30分に短縮すると、被験者の消極的な情緒が大きく改善され、仕事への集中度が大幅に高まった。

人と人がいつまでもスマホの交流のみに留まり、特に長期的にSNSにのめり込むと、性格や行為の形成に知らぬ間に影響が生じる。

北京の事業機関の管理職は、「近年採用している実習生、特に90年代生まれになると、EQ(心の知能指数)や感情表現などの面に欠陥があると感じる。ルックス抜群でEQの高いモーメンツのイメージとはかけ離れている」と指摘した。

◆5G社会を目前に 中国人のネット生活はどうなる?
さらに大きな変化が控えている。例えば、間もなく訪れる5G応用だ。

中国移動(チャイナ・モバイル)は上半期、上海市と広州市で5G試験ネットワークの設置を完了した。これによる通信密度は1平方キロメートル当たり10-100Tbpsに達する。つまり5Gは今後、スマホ通信量の1000倍以上の拡大をサポートし、高画質映画のダウンロードに1秒もかからないことになる。

米Cisco社は報告書の中で、世界のスマホ1台当たりの平均月間通信量は2021年に14.9GBに増加すると予想した。これにより、人々の多くの需要が満たされるようになる。これはまた人の自制心と実行力の大きな試練となる。

長沙市に住む趙さん(51)は、5Gが間もなく切り開く「新世界」について、「期待しているが、不安でもある。今でも多くのスマホアプリを使えないのに、今後さらに多くのものが登場すれば、本当にスマホがなければ生きられなくなるのではないか。もっと年上の高齢者は、社会から見捨てられるのではないか」と述べた。

実際に「断捨離」を選び始めている人もいる。
「地下鉄蔵書活動(地下鉄に読み終わった本を置き、読書普及につなげる活動)」の流行や、微信がモーメンツに三日間以内の内容しか閲覧できない機能を追加した。テンセントはモバイルゲーム「王者栄耀(Honor of Kings)」にもユーザのゲーム没頭防止機能を追加した。これは通信量への意図的な制御、スマホの過度使用への反省だ。

金氏は今後について、「物質文明が発達するにつれ、社会の発展が速くなる。これは歴史の進歩の必然的な法則だ。スマホ族の幸福指数が上がったかは現時点では不明だが、将来的に人工知能をうまく活用できれば、娯楽の時間をより多く確保できるようになるだろう」と語った。【8月16日 Record china】
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情報の国家管理・統制 サイバーセキュリティー分野での人材育成
上記は、中国の・・・と言うより、日本を含めた現代社会に共通の問題です。

中国固有の問題としては、国家による情報管理・統制の問題があります。
(情報管理自体は多くの国がやっています。また、アメリカでトランプ政権が反トランプ大統領を掲げるサイトのデータを持つIT会社に対し、サイトを閲覧した人の個人情報を提出するよう命じていた・・・といった話もあります。ですから、“中国固有の”というよりは、“中国では大ぴら・大規模・広範に行われている”というべきでしょう)

****大手3社を一斉調査=党大会前、ネット統制強化―中国****
中国国家インターネット情報弁公室は11日、ネット上に国家の安全や社会秩序を脅かす情報を投稿するユーザーがいるとして、ネット大手3社に対する調査に着手したと発表した。

これまでも、問題があると判断した書き込みの削除を求めるなど規制してきたが、大手に対する一斉調査は異例。習近平指導部は秋に共産党大会を控え、言論統制をますます強めている。
 
調査対象となったのは、騰訊(広東省深セン市)の中国版LINEと呼ばれる「微信」、新浪(北京市)の中国版ツイッター「微博」、百度(同)の掲示板。いずれも中国では多くの人々が利用している。
 
ネット情報弁公室は「暴力テロや虚偽のデマ、わいせつなポルノを広めるユーザーが存在する。3社は法律月違反の書き込みに対する管理義務が不十分だ」と指摘。インターネット安全法違反の疑いがあると説明している。【8月11日 時事】 
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情報の国家管理やは別にしても、現代社会でサイバーセキュリティーが非常に重要な分野となり、そこでの人材が求められているのは間違いないでしょう。

****ネット統制の要員育成=「サイバー学院」設立へ―中国****
中国共産党の中央インターネット安全・情報化指導小組と中国教育省は、サイバーセキュリティー分野で優秀な人材を育成するため、「一流のネット安全学院」を設立すると発表した。

同省が15日、ネット上で明らかにした。2027年までに「国際的に影響力と知名度を持つ学院」を国内の4〜6カ所につくる計画だ。
 
発表によると、学院の設立は「習近平総書記(国家主席)の重要な指示」に基づく。習指導部は言論統制のためにネット規制を強化すると同時に、サイバー技術の軍事利用にも力を入れている。学院を設立し、体制を守る観点からサイバー分野の先端技術を備える要員の養成を目指すもようだ。
 
学院の教員には経験豊富な専門家を招き、外国の大学や企業、研究機関と積極的に交流を進める方針。地方政府や企業などにも学院建設への支援を求めている。【8月16日 時事】 
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育成した人材をどのように使うかは重大な問題ですが、人材の育成自体は日本でも参考にすべき非常に大切な課題でしょう。
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ミャンマー  テロと弾圧の悪循環に陥るロヒンギャ問題 スーチー氏の経済運営に不安も 変容する社会の歪

2017-08-16 22:00:26 | ミャンマー

(ヤンゴン郊外の老人ホーム【8月13日 AFP】)

ミャンマー政府の消極的対応
スーチー政権ミャンマーにおいて、西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャへの対応があまり改善していないという話は、7月6日ブログ「ミャンマー ロヒンギャ虐殺を否定する国軍 “政治家”スー・チー氏の対応は?」でも取り上げました。

ロヒンギャはミャンマーを構成する民族として認められておらず、バングラデシュからの「不法移民」として、長年、移動の自由などが制限されています。

更に、昨年10月の警察襲撃事件以来、国軍など治安当局による“民族浄化”とも言えるような迫害(放火、暴行、殺害など)がなされているとの国際的批判があります。

****人権問題対応「変わっていない」 スーチー政権を批判****
イスラム教徒少数派ロヒンギャなどミャンマーの人権問題の調査で同国を訪れていた国連特別報告者の李亮喜(イヤンヒ)氏が21日、最大都市のヤンゴンで会見を開き、調査地域が厳しく制限されたことや、政府側からの圧力があったとして「受け入れられない」と批判した。
 
10日からの調査を終え会見に臨んだ李氏は、アウンサンスーチー国家顧問率いる現政権の人権問題への対応が「これまでの(軍事)政権と変わっていない」と厳しく指摘した。
 
記者3人が拘束された北東部シャン州で一般の観光客が訪れる場所にさえ入れなかったことや、ロヒンギャのいる地域で地元の人と接触を図った際、政府側が監視していたと指摘。「(人権問題に取り組む)保護団体やジャーナリストが監視されていた状況は(政権が代わった)今も続いている」とした。
 
李氏は、ミャンマーが国連の調査対象から外れるのを望んでいることについて、「まずは調査が必要ない国にならなければ」とした。
 
ミャンマー政府は、李氏の調査とは別の国連人権理事会による調査団の受け入れを拒否している。李氏はこのことを「非常に残念」とし、政府側と会談した際に「受け入れを強く進言した」と話した。【7月22日 朝日】
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****ロヒンギャ迫害「証拠ない」 ミャンマー政府が報告****
ミャンマー西部で少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害が相次いで報告されている問題で、政府の調査委員会は6日、「国際機関が発表しているような人権侵害を裏付ける証拠はない」とする報告書の要約を発表した。

報告書はすでにティンチョー大統領に提出されたが、公開するかは大統領が判断するという。
 
委員会は最大都市ヤンゴンで記者会見を開き、政府軍が「民族浄化」を行っているとした国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報告書について、「誇張やでっちあげ」と批判。OHCHRの調査に「夫が殺された」と証言した村人が示した遺骨が偽物だったとする事例も紹介した。【8月7日 朝日】
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調査委員長を務めたミン・スエ副大統領は軍部出身ですから、こういう報告書にもなるのでしょうが、スーチー氏としても、こうした状況を追認するしかないようです。

迫害はテロ・過激思想の温床にも
迫害から逃れようとすると、今度は人身売買の対象にされたり・・・と苦難が続きます。

****少数民族ロヒンギャ 密航、人身売買・・・迫害の民****
東南アジアでは、迫害から逃れたり経済的理由から密出国した難民らが、仲介業者にだまされ人身売買の被害に遭うケースが続いている。ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの事例は、実態をあぶり出した。
 
ロヒンギャは、1970年代後半以降、ミャンマー軍事政権に迫害され、政府は自国民族と認めていない。西部ラカイン州では2012年、仏教徒とロヒンギャが衝突し200人以上が死亡し、ロヒンギャを中心に10万人以上が避難民キャンプで暮らす。
 
周辺国への密航も続き、15年5月には数千人を超えるロヒンギャを乗せた船が、マレーシアやインドネシアの沖合で漂流し、世界的な注目を浴びた。
 
タイ南部のジャングルでは15年5月、ロヒンギャの人身売買拠点とみられるキャンプ跡が70カ所以上見つかった。漁船に奴隷として売ったり、追加の密航料を家族に身代金要求していたとみられる。暴行や病死が横行し、周囲には数十人ごと埋めた「集団墓地」も見つかった。
 
タイの刑事裁判所は7月19日、ロヒンギャの人身売買の罪に問われた62人に有罪判決を言い渡した。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は今年2月、ミャンマーの治安当局がロヒンギャの殺害やレイプに組織的に加担したと非難する報告書を発表した。【8月9日 産経】
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ミャンマーにおいては“バングラデシュからの不法移民”として扱われていますが、そのバングラデシュに逃げても厄介者扱いは変わりません。

バングラデシュ人と以前からいるロヒンギャ、新たに流入したロヒンギャの3者の間に緊張関係が生まれているとの指摘も。

こうした逆境は、当然のように武力・テロで抵抗しようとする“過激思想”の温床となります。

****南東部、難民流入 迫害ロヒンギャ、住民とあつれき イスラム原理主義拡大か****
バングラデシュ南東部コックスバザールで、隣国ミャンマーから越境してきた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」と地元住民とのあつれきが深まりつつある。

ロヒンギャ難民はミャンマー軍などの迫害が強まった昨年10月以降7万人以上が流入し、35万人に膨れあがった。多くが不法滞在で、治安が悪化しており、バングラ政府は対策を迫られている。

雨でぬかるんだ土地に青いビニールシートの住居が密集していた。コックスバザールから車で約1時間にあるバルカリ。住民によると、ここで暮らす約3500世帯は全員、昨年10月以降に流入したロヒンギャだ。
 
「できるなら、いつかミャンマーに戻り、軍と戦いたい」。トタンで作ったマドラサ(イスラム教神学校)で学ぶハビブル・ラフマンさん(16)は低い声でつぶやいた。

4月ごろ、ミャンマー北西部ラカイン州の村が軍とみられる集団に襲撃を受け、自宅を放火された。親族3人が銃撃で死亡し、自身も暴行を受けた。家族10人で村を抜け出し、国境の川を渡ってバルカリにたどり着いた。「父も仕事が見つからない。援助物資だけが頼りだ」

コックスバザールでは、難民登録を受けた約3万3000人は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民キャンプで暮らすが、残る約32万人は不法滞在のまま、キャンプ周辺に集落を形成している。

仕事は日雇いの農作業や建設作業がほとんどで、多くは援助物資で食いつなぐ。日当100タカ(約140円)の日雇い労働で家族5人を支えるウマル・ファルークさん(15)は「援助がないときは、食事できない日もある。学校にも行けない」と話す。
 
一方、地元のバングラ人は、ロヒンギャ難民が暮らす地域は強盗や人身売買などの犯罪の温床と化しているため、治安悪化への不安を募らせている。
 「
ロヒンギャは危険だ」。地元ジャーナリストのムハンマド・ハニフ・アザド氏(40)はこう言い切る。サウジアラビアなどの支援でマドラサが次々にできており、「イスラム原理主義が広まっている」と指摘する。国際機関関係者も「マドラサの若者たちが将来、過激化する恐れがある」と語った。

ロヒンギャに詳しいチッタゴン大学のラフマン・ナシルディン教授は「バングラで過激派に入るロヒンギャは今のところは多くはない」と否定するものの、地元住民の間には「治安悪化はロヒンギャのせいだ」(バングラ人大学生)との批判も少なくないという。
 
ミャンマーではサウジやパキスタンとつながりを持つロヒンギャの武装組織が活動しており、政府との「聖戦」を呼びかけている。

昨年10月にはミャンマーの警察施設襲撃事件に関与したとされ、軍がロヒンギャに対する取り締まりを強化し、住民の大量避難につながった。こうした過激派組織がバングラの避難民を勧誘する可能性もある。
 
こうした中、バングラ政府はロヒンギャをベンガル湾の島に移住させる計画を検討中だ。だが、生活インフラが整っておらず、洪水被害も多発する島のため「非人道的」との指摘も出ている。

ナシルディン教授は「バングラ人と以前からいるロヒンギャ、新たに流入したロヒンギャの3者の間に緊張関係がある。ミャンマー政府に働きかけ、帰還をうながすべきだ」と述べた。【7月25日 毎日】
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ロヒンギャの一部が過激化することで、ミャンマー国軍側は更に対応を厳しくする・・・という悪循環にもなります。

****ラカイン州に数百人の部隊増派=ロヒンギャ問題、衝突懸念も-ミャンマー****
イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題で不穏な情勢が続くミャンマー西部ラカイン州をめぐり、政府と国軍は数百人規模の国軍部隊を現地に増派するなど、治安対策の強化に乗り出した。ただ、反政府武装集団との衝突など情勢の一層の悪化を懸念する声も上がっている。
 
政府は11日発表した声明で、ラカイン州で「過激派がテロ活動を活発化させている」と指摘。9日までに59人が殺害され33人が行方不明となり、その多くは政府に協力しているとみられた村長らだという。政府は「国軍と協力し、活発化するテロ活動を鎮圧する」と表明した。
 
声明は増派部隊の規模には触れていないが、地元メディアなどによると、数百人に上るとされる。
 
部隊増強に対し、ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者の李亮喜氏(韓国出身)は11日声明を発表し、「大きな懸念」を表明。「政府はラカイン州の治安情勢に対処する上で、治安部隊があらゆる状況で自制し人権を尊重するよう保証しなければならない」と警告した。【8月12日 時事】
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テロと弾圧の応酬、増える難民、過酷な難民生活、難民を食い物にする密航業者・・・明るい展望が見えないロヒンギャ問題です。

【「目下の問題は経済が指導者らの優先事項ではないことだ」】
ミャンマー経済に関しては、アメリカが経済制裁を解除したことを受けて好景気の到来を期待する声が強かったのですが、このところはむしろ減速傾向にあり、スーチー氏の経済舵取りへの不安も投資家・経営者にはあるようです。

****置き去りにされたミャンマー経済、スー・チー政権に不安****
ノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー氏は2016年にミャンマーの事実上の最高指導者となって以来、数十年に及ぶ内戦を終結させることに専念してきた。この目標達成に精力を注ぐ余り、新たな問題が生まれている。

急ピッチで開放が進むミャンマー経済をうまくかじ取りできないのではないか、との疑念が投資家の間で広がりつつある。
 
長年孤立してきたミャンマーの景気減速は、スー・チー氏の経済運営が早くも壁にぶち当たったことを浮き彫りにしている。

軍による支配が続いたミャンマーでスー・チー氏率いる文民政権が誕生し、米国が数十年ぶりに経済制裁を解除したことを受け、好景気の到来を期待する声は多かった。
 
ヤンゴンに本社を置く複合企業UMGのアリワルガ最高経営責任者(CEO)は「ミャンマーは、やり方さえ間違わなければ大きな可能性を秘めている」とした上で、「目下の問題は経済が指導者らの優先事項ではないことだ」と述べた。
 
ミャンマーでは前年度の経済成長率が2011年以来の低水準に落ち込んだ。それを受け、国家運営に不慣れな現政権の戦略を疑問視する投資家が増えつつある。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、海外からの直接投資(FDI)は2016年に前年比22%減の22億ドルとなったが、それでも2011〜14年平均の2倍超の水準だ。
 
景気減速は意図的に引き起こされた面もある。新たな指導者らは、法令順守問題を調べるため首都ヤンゴンでの猛烈な建設ラッシュに歯止めを掛けた。さらに、経済の多様性を高める狙いで、鉱業(石油など)以外の分野に投資を分散させた。
 
政権移行期には経済の先行きが見通しづらくなることがよくあるが、何十年も世界から孤立し経済発展が遅れを必死に取り戻そうとしているミャンマーの場合、不安要素はそれだけでは済まないと投資家らは言う。例えば、スー・チー氏の政権運営手法や民間企業との協議で見せるよそよそしい態度を投資家や政治アナリストは不安視する。(中略)

スー・チー氏率いる与党「国民民主連盟(NLD)」の幹部で、ミャンマー投資委員会のメンバーでもあるエイ・ルウィン氏は、改革の遅れは官僚機構の脆弱(ぜいじゃく)性が一因だとし、スー・チー氏でもさまざまな問題にいっぺんに対応できるわけではないと述べた。
 
一方、中核機関である国防省、内務省、国境省の3省は引き続き軍の管理下にある。(中略)

スー・チー氏に近い関係者は、同氏は経済を優先する方針に傾き始めており、近くそうした変化が現れるだろうとしている。(中略)

経済政策がようやく変わり始めた兆しもある。政府は最近、明瞭な投資規制を発表したほか、外国企業に現地企業との合弁を義務づけている業種を90から22に削減した。さらに、外国人に移動制限などの規制を課す法案の可決を阻止した。

また、内閣改造でエネルギー相を入れ替えたほか、過去の功績が高く評価されている元中銀幹部を副財務相に据えた。(中略)

国際通貨基金(IMF)はミャンマーの経済成長率について、昨年は6.3%にとどまったが、今年は7.5%程度まで回復すると予想している。(後略)【8月7日 WSJ】
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変容する社会で「うば捨て」のような歪も
“昨年は6.3%にとどまったが”ということで、減速とは言っても、基本的には拡大基調にあることは間違いありません。成長する経済につれて社会も大きく変化します。

****世界的な動物カフェブーム、ミャンマーにも****
世界的なペットカフェの波がミャンマーにもやって来た。急速に変わりゆくミャンマーの最大都市のヤンゴンに動物カフェが2軒オープンしたのだ。ミャンマーは今、モンスーンの季節だが2軒のカフェが動物愛好家たちに屋内で過ごす楽しみを提供している。(後略)【7月29日 AFP】
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こうしたニュースを見ると、人々の暮らしにも余裕ができたのか・・・とも思えますが、それほど楽観ばかりもしていられないようです。

ミャンマーは“若い国”のイメージがあって、高齢化社会とは無縁のように思えますが、必ずしもそうではないようです。高齢化は、解消しない貧困や未整備な医療・介護制度とあいまって大きな歪を生みます。

****ミャンマーの貧困と高齢化問題、「うば捨て」も****
脳卒中で半身がまひし、ほとんど話すこともできないティン・フラインさん(75)は、実の子どもたちによって道端に捨てられた。
 
そのまま道端に横たわっていたティン・フラインさんは、気の毒に思った知らぬ人に、最大都市ヤンゴンの郊外にある老人ホーム「トワイライト・ビラ」に連れて行ってもらったことで救われた。
 
ティン・フラインさんの身に起きた「うば捨て」のような出来事は、急速に進む高齢化への対応に苦慮している貧困国ミャンマーにおいて、まれな例ではなくなってきている。同国では高齢化の問題が、既に無力化している医療福祉制度に重くのしかかっている。
 
トワイライト・ビラのキン・マー・マー氏によると、入居者の多くはティン・フラインさんのように、家族に見捨てられた後、当惑し病気を患った状態でやって来るという。(中略)

■死に場所
軍事政権による数十年にわたる悪政、厳しい制裁、民族紛争などによって、ミャンマーは世界の最貧国の一つとなった。そんなミャンマーは今、人口動態上の危機に直面している。
 
国連(UN)によると、現在、ミャンマーの人口の約9%は65歳以上だが、2050年までにこの数字は25%に急増し、15歳未満の割合を上回る見通しだという。
 
国連人口基金(UNFPA)のミャンマー担当者ジャネット・ジャクソン氏は「経済の現状により、多くの人々が高齢になっても生きるために肉体労働を続けることを余儀なくされている」「このことは高齢者のための適切な社会福祉と政策の必要性を明確に示している」と語った。
 
軍事政権の50年にわたる投資不足により高齢化対策は既にぼろぼろの状態で、ミャンマーの医療福祉制度はこうした現状に対処するのに苦慮している。
 
約半世紀ぶりとなった文民政権は昨年の発足以来、新しい老人ホームを1つしか設立していないばかりか、この施設は90歳以上限定で、1か月あたりわずか1万チャット(約800円)の援助金しか得ていない。
 
伝統的に大抵の高齢者たちは家族によって面倒をみられるが、貧困の圧力、高いインフレ率、急速な都市化などにより身内を見捨てる人々の数は増加している。
 
僧侶が運営しているヤンゴンの別の老人ホームに3年前から暮らしてるフラ・フラ・シュイ(Hla Hla Shwe)さん(85)は「私たちには他に行く所がない。死を待つためにここに来た」と話し、「ここでは孤独感が薄らぐし、寄付のおかげで食べ物も貰える」と付け加えた。(後略)【8月13日 AFP】
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アメリカ  それでもトランプ大統領を支持する人々

2017-08-15 21:56:39 | アメリカ

(「この郡(オゲモー郡)は破たんに近い状態だ」と話す、ミシガン州ウェストブランチのデニース・ローレンス市長【8月7日 WSJ】)

【「12日の時点で大統領から同じ言葉を聞きたかった」】
並みの政治家なら進退問題になるような話も、“毎度お騒がせ”のトランプ大統領は“またか・・・”で済んでしまうあたり、さすがと言うか、何と言うべきか・・・困ったところです。

最近の話題は、多くのメディアに報じられているように、南部バージニア州シャーロッツビルの事件でトランプ大統領が白人至上主義を批判しなかったことです。

****トランプ氏対応に批判=白人至上主義批判せず―反対派との衝突事件・米****
米南部バージニア州シャーロッツビルで12日、白人至上主義団体などと反対派が衝突し、多数の死傷者が出た事件をめぐり、トランプ大統領が人種差別主義に対する批判を明言しなかったことが波紋を広げている。

ホワイトハウスは13日、白人至上主義も非難の対象だと釈明したものの、トランプ氏の問題認識の欠如に批判が強まっている。
 
事件では、反対派が集まっていたところに車が高速で突っ込み女性1人が死亡、重体の5人を含め19人が負傷した。警察によると、亡くなったのは同州出身の法律事務所職員、ヘザー・ヘイアーさん(32)と確認された。
 
米メディアによれば、車を運転していた20歳の男は殺人容疑などで逮捕され、連邦捜査局(FBI)が動機などの捜査を始めた。米紙ワシントン・ポストは、男の高校時代の教師の話として、男がナチス・ドイツやヒトラーの思想に共鳴していたと伝えた。

一方、トランプ氏は12日、事件を受けて「多くの側面での憎悪と偏見と暴力の表れを最も強い言葉で非難する」と表明した。だが、人種差別主義批判には直接言及せず、反対派にも非があったとも受け止められる「多くの側面」と述べたことで、与党・共和党を含め批判の声が上がった。【8月14日 時事】 
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“トランプ大統領は12日、静養先の東部ニュージャージー州で記者会見し、「憎悪と分断はすぐに止めるべきだ」と述べ、迅速な治安回復を訴えた。また「多くの側から憎悪、偏見、暴力が示された」として自制を求めたが、「白人至上主義者」という言葉を使わなかった。

これに対し、与党・共和党内からも「悪魔は名指ししなければならない」(ユタ州のハッチ上院議員)など、明確に非難すべきだとの批判が相次いだ。”【8月13日 毎日】

“トランプ氏は白人のナショナリストや白人至上主義者を批判するには至らず、これらのグループについての見解を大声で問いただす報道陣からの質問を無視した。これらのグループは昨年の大統領選でトランプ氏を支持していた。”【8月13日 AFP】

こうしたトランプ大統領の対応に関し、アメリカのネオナチグループは以下のように称賛しているそうです。

“「トランプのコメントは良かった。彼は我々を攻撃しなかった。双方に憎悪があると示唆した。・・・彼を支持する白人民族主義者に関する質問には答えなかった。非難は全くなかった。非難すべしと求められた時、彼は退席した。とても、とても良かった。」”【8月15日 宮家邦彦氏 Japan In-depth】
ネオナチグループに称賛される米大統領というのも・・・・

“CNNテレビによると、行進に参加した元KKK最高幹部のデビッド・デューク氏は「我々はこの国を取り戻す。トランプ大統領の公約を果たすのだ」と話した。白人至上主義者の多くは昨年の大統領選で移民規制を公約したトランプ氏を支持。トランプ政権の誕生で自分たちの主張がお墨付きを得たと感じているとみられる。”【8月13日 毎日】

もちろん後日、ホワイトハウスは釈明はしていますし、イヴァンカ氏やペンス副大統領も白人至上主義への批判を表明してはいます。

トランプ氏の発言に関し周囲が火消しに走り回る・・・という、いつもの展開ではありますが、やはり大統領本人の認識が問われる問題でもあり、また、トランプ大統領を熱烈支持しているのがどういう人々であるかの一端を示すものでもあります。

****大統領は白人至上主義も非難」 衝突めぐりホワイトハウスが釈明****
米南部バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義を掲げる団体と反対派が衝突した事件で、ドナルド・トランプ米大統領が白人至上主義者らを明確に非難しなかったことに批判が高まっている。

米ホワイトハウスは13日、「大統領が非難した対象には白人至上主義者やクー・クラックス・クラン(KKK)、ネオナチも含まれる」と釈明に追われた。
 
事件では12日、現場の人だかりに車が突っ込み、女性1人が死亡、19人が負傷した。トランプ大統領は「各方面の」暴力と憎悪、偏見を非難する半面、集会を開いた白人至上主義者らへの明確な非難は避けた。これには与党・共和党からも批判の声が上がった。
 
ホワイトハウスの報道官は、トランプ氏が事件後に表明した内容について「あらゆる形の暴力、偏見、憎悪を非常に強く非難している。それには当然、白人至上主義者、KKK、ネオナチなど、あらゆる過激主義者集団が含まれる」と述べた。

「大統領は国の団結、すべての国民の連帯を呼び掛けている」とも指摘した。
 
トランプ大統領の長女で大統領補佐官のイヴァンカ・トランプ氏も13日、「社会にはレイシズム(人種差別主義)、至上主義、ネオナチの場所はない」とツイート。
 
マイク・ペンス副大統領も訪問先のコロンビアで、白人至上主義は容赦しないと言明した。【8月14日 AFP】
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高まる批判に対し、トランプ大統領は14日、追加声明で白人至上主義団体を名指し批判する形になっています。

****米大統領、白人至上主義者など名指しで非難 自身への批判受け****
・・・・大統領は14日の声明で「人種差別は悪であり、その名の下に暴力をふるう者は犯罪者だ。KKK、ネオナチ、白人至上主義者などの扇動集団は米国民が重視するあらゆるものと矛盾する」と非難。人種差別主義者の責任を明確にすることで、自身への批判を和らげようと努めた。

これに先立ち、米製薬大手メルク<MRK.N>の最高経営責任者(CEO)で黒人のケネス・フレージャー氏は14日、「不寛容」と「過激主義」に断固反対するとして、トランプ大統領の経済助言組織を辞任した。

民主党のマーク・ウォーナー上院議員(バージニア州選出)は大統領の新たな声明について、「12日の時点で大統領から同じ言葉を聞きたかった」と述べた。(後略)【8月15日 ロイター】
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もっとも、ニューヨーク・トランプタワー周辺に数千人が集まり、白人至上主義などを非難したのが事件から2日後だったのは遅すぎると抗議するなど、一向に収まらない批判に対し、トランプ大統領はいたくご立腹の様子です。

“トランプ大統領は14日、ツイッターに「事件について追加の発言をしたが、フェイクニュースメディアは決して満足しないと改めてわかった。本当にひどい人々だ」と書き込み、反発が収まらないことに対し不満をあらわにしました。”【8月15日 NHK】

それでもトランプ大統領を支持するのはどういう人々か?】
今回“騒動”がどこまで反映しているかは判然としませんが、大統領支持率は過去最低を更新しているとか。

****トランプ氏の支持率34%、過去最低を更新 米世論調査****
米世論調査会社「ギャラップ」は14日、トランプ米大統領の支持率が就任後最低の34%を記録したと発表した。共和党支持層からの支持率も低下したが、それでも77%が依然としてトランプ氏を支持している。
 
ギャラップは就任直後から継続的にトランプ氏の支持率を調査。就任直後は45%で、これまでの最低支持率は3月末の35%だったが、今回これを更新した。
 
支持政党別では、共和党支持層での支持率が直前の82%から77%に低下。民主党支持層では7%で、無党派層では29%と初めて3割を切ったという。
 
調査は11日から13日まで実施。北朝鮮のミサイル発射問題が注目され、12日に米東部バージニア州で白人至上主義グループが集会を開き、反対派と衝突したなかで行われたが、それらが支持率低下に影響したかは定かでない。【8月15日 朝日】
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個人的な印象としては、支持率が低い云々より、34%が依然としてトランプ氏を支持していることの方が驚異というか不思議です。

****それでも33%の米国人がトランプを熱狂支持する理由****
これだけの内憂外患をものともせず、猪突猛進する米大統領は米史上でも珍しい。ドナルド・トランプ大統領の不支持率はついに61%にまで上昇した。支持率は33%と最低記録を更新し続けている(米キニピアック大学世論調査)。
 
同大世論調査班は、「日々明らかになる醜聞や不手際が悪い結果につながる波状現象を起こしている」と分析している。
 
しかし、コップの中に3分の1の水が入っているのをどう見るか、いわゆる「コップの中の水」論を持ち出せば、まだ33%がトランプ氏を支持をしているとも言える。いったい、この33%の米市民はどんな人たちだろう。
 
トランプ大統領が何度か出かけて行って、トランプ支持大集会を開催してもらっているペンシルバニア州ハリスバーグ市に住むブルーカラーのマイク・ホワイトヘッドさん(51)にトランプ大統領を熱烈支持するわけを電話で聞いた。

リベラルなエリートが何より嫌い
ホワイトヘッドさんは筆者にこう語っている。
「俺たちは黒人やラティーノ、同性愛者やリベラルなエリートが大嫌いなんだよ。米国をダメにしているのは奴らなんだ。その象徴がバラク・オバマ(前大統領)だったし、ヒラリー・クリントン(前民主党大統領候補)だった」
 
「オバマが去り、ヒラリーが選挙に負けてせいせいしてる。トランプ大統領の言っている『リアル・アメリカ』(Real America)*1に戻すことが俺たちの願いだ」
 
「大統領は今それを必死になって実現しようとしている。ロシアゲートだって? あれはコミ―(共産主義者の別称)の仕業だよ。そのうち収まるさ」

*1=保守派は「かっての古き良き米国」を漠然と描いているが、本音は「白人中心の豊かで安全な米国。マイノリティや不法移民に邪魔されない、かっての白人優先社会」のこと。(後略)【8月15日 高濱 賛氏 JB Press】
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【“地域格差”がもたらす社会分断
トランプ氏を支持した、グローバリズム・変革の波に取り残された“ラストベルト”などの白人層・・・といった分析・報道は、選挙後に多数見ましたが、最近目にした興味深い記事は、おそらくそうした支持層と重なると思われる、地方に暮らす白人層の“身動きがとれない”閉塞状況・都会生活への屈折した感情に関するものです。

****身動きとれない米国人、田舎に足止めの訳は 移動率は戦後最低、文化的ギャップも壁に****
テイラー・ティベッツさんが高校を卒業したとき、米ミシガン州北部にある小さな町で彼女は輝かしいスターだった。水泳選手として年間1万8000ドル(約200万円)の奨学金を獲得し、サウスカロライナ州にあるコンバース・カレッジに進学した。期待に胸を膨らませて町を出た。
 
しかし大学の現実は違った。厳しい授業に圧倒され、全米から集まった価値観の異なる学生の中ですっかりおびえ、孤立感を深めた。わずか1週間後、母親は仕方なく彼女を家に連れ帰った。
 
3年後、ティベッツさんは家族がウェストブランチに開くピザの売店を手伝いながら、デンバーかナッシュビルのような繁栄する大都市で暮らすことに憧れていると語った。新しい生活に失敗したことを悔やんでいるという。
 
「私は永遠にここにいるつもりはない」と彼女は話す。
 
辺ぴな地域にある多くの田舎町と同様、人口2067人のウェストブランチは製造業の衰退と農場の統廃合がもたらした経済停滞に苦しんでいる。近年、複数の小売店と製粉所、カーペット販売店が閉鎖に追い込まれた。
 
こうした田舎町で悩ましいのは、生活の苦しい住民の多くが新天地に活路を求めたいと思うにもかかわらず、驚くほど高い比率でじっと動かずにいることだ。

経済的・文化的に数多くの理由から、足がすくみ、もうどこにも行けないと考えている。
 
チャンスに恵まれなければ、より良い場所を求めて移動するのが米国人の伝統的スタイルであり、自然な反応だ。屈強な肉体をもつ野心的な若者の移住は、1930年代に中西部のダスト・ボウル(黄塵地帯)からカリフォルニアへの大移動を引き起こし、1980年代に黒人の北部から南部への回帰が始まるきっかけとなった。
 
ところが今や、米国の人口移動率は、第2次世界大戦終了時に集計を始めて以来、最低水準にとどまる。直近のピークだった1985年に比べ、ほぼ半分に落ち込んだ。
 
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析によると、米国の田舎から2015年に郡境を超えて移住した人の割合はわずか4.1%と、1970年代後半の7.7%から大幅に低下。大都市圏よりも急速なペースで落ち込み、今では大都市圏の移動率を若干下回る。
 
移動率の低下は、田舎の人々の生活を向上させる機会を奪うだけでなく、働き口の多い都会では企業が労働力の調達ルートを断たれることになる。

この問題を研究するイエール大学ロースクールのデービッド・シュライチャー教授は、人口と資本の集中から生じる自然な経済成長を妨げることになると話す。

さらに、米国の政治的分断を深刻化させる要因にもなる。田舎の住民は昨年の大統領選でドナルド・トランプ氏を勝利させたポピュリズム的反乱の原動力となり、移民制限やインフラ投資による雇用増といったトランプ政権の公約を陰で支えてきたからだ。
 
田舎町にとって人々の移動は常に問題だった。最も優秀な若者が町を出ていく「頭脳流出」は、移住先の都市にはもうけものだが、地元の地域社会には手痛い損失となる。

しかし今や、人々が移動しないことが米経済全体の下押し要因となりつつある。
 
「われわれは最も生産的な都市から人々を締め出している」と、移住について研究するシカゴ大学のピーター・ギャノン助教(公共政策)は言う。「この力は都会と田舎の格差を一段と広げる」(後略)【8月7日 WSJ】
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WSJ記事は、地方の人々が移動しない理由として、都会で暮らす際の高額な住居費、州ごとに給付金が異なるメディケイド(低所得者向け医療保険)などの公的支援制度、州ごとに求められる職業資格要件、更に、文化的な格差(外国からの移民や同性婚、世俗主義を歓迎する都会の風潮が異なる価値観をもつ田舎町の住民の不信感を高めていること)・・・などを指摘しています。

こうした“閉塞状況”にある地方の人々の不満の表れとしての“トランプ支持”は、都会的・リベラルなメディアによるトランプ批判がどれほど強まろうが、ほとんど影響を受けないのでしょう。

上記の“地域格差”記事を興味深く感じたのは、“トランプ現象”との関わりの文脈のほか、日本の“内向き志向”という“淀み”と地域格差の関連にもつながるものを感じたからです。

****海外旅行格差から見える日本社会の深い分断***
<若者の「海外旅行離れ」が言われるなか、全国の都道府県別の若者の海外旅行の実施率に大きな差異が出ている。世帯収入別に見た子どもの海外旅行の実施率もこの10年で格差が拡大した>

・・・・2016年の総務省『社会生活基本調査』によると、過去1年間に海外観光旅行をした国民の割合は7.2%、およそ14人に1人だ。

しかし時系列推移をみると、1996年の10.4%をピークに減少の一途をたどっている。20代前半の若者の経験率も、この20年間で16.4%から12.9%に下がっている。このような変化を指して、国民(若者)の「海外離れ」などと言われている。

不況で経済的ゆとりがなくなった、インターネットで国外の情報が容易に得られるので行く必要性がなくなったなど、要因はいろいろ考えられる。

大学生の場合は、学業の締め付けが厳しくなっているので、時間的余裕がなくなっていることもあるのではないかと思う。若者の内向化といった精神論を振りかざす前に、客観的な生活条件の変化に注目する必要がある。

生活条件という点でみると、地域間の違いも見逃せない。同じ若年層でも、都市と地方では海外旅行の経験率に大きな差異がある。15~24歳の海外観光旅行経験率を都道府県別に出し、高い順に並べると<表1>(省略)のようになる。

全国値は9.7%だが、県別にみると東京の18.2%から青森の2.1%までの開きがある。東京は5人に1人で、青森は50人に1人だ。時間的余裕のある学生が占める割合等にもよるだろうが、この違いはあまりに大きい。同じ国内とは思えないほどの格差だ。(中略)

また海外旅行には費用がかかるので、経済的要因も関与しているとみられる。<表1>の海外観光旅行経験率は、各県の1人あたり県民所得(2013年)と+0.5669という相関関係にある。こうした社会的、経済的条件により、若者のグローバル体験の機会に地域格差が生じている。

家庭環境による差も大きい。とりわけ、生活の全面を家庭に依存する子ども世代の格差が拡大している。小学生の海外観光旅行経験率を家庭の年収別に出した統計があるので、それをグラフ<図2>(省略)にしてみる。

年収が高い家庭の子どもほど経験率が高いが、注目されるのはこの10年間の変化だ。年収1500万円超の富裕層だけがグンと伸びている(12.0%→22.0%)。その一方で、年収300万円未満の貧困層では減少している。子どもの海外旅行経験の格差が拡大していることがわかる。

近年の学校現場では、グローバルな世界で通用する「生きる力」の育成が重視されているが、富裕層は同様の目的で国際体験を子どもに積ませようという意識が高いのだろうか。

こうした体験格差が、学校でのアチーブメントの違いに転化するであろうことは想像に難くない。大学入試も人物重視の方向に転換されるが、そうなった時、幼少期からの体験の違いがモノを言うようになる。

面接での仕草、立ち居振る舞い、話題の豊富さ......。ペーパーテストにも増して、育った家庭環境の影響を受ける要素だ。学校の特別活動は、こうした体験格差を是正することを目指さなければならない。

海外旅行の経験率という指標から、地域格差や階層格差によって深く分断された日本社会を見ることができる。【8月9日 舞田敏彦氏 Newsweek】
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アフガニスタン  悪化する情勢に対応を決めきれないアメリカ・トランプ政権

2017-08-14 21:30:21 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン西部ヘラートの空港で、父親と写真を撮るフェテマ・カデライアンさん(左、2017年7月13日撮影)。【8月3日 AFP】 アフガニスタン関連では数少ない明るい話題でしたが・・・)

ロボコン少女の父親もテロの犠牲に うまく機能していない教育現場 問われる政府の指導力
最近のアフガニスタンに関する話題2件。
一つ目は非常に痛ましい話です。

アメリカ・トランプ政権による入国規制を国内外世論の後押しで何とかクリアする形で、アフガニスタン少女がロボコンに参加できた・・・という話を、7月19日ブログ“アメリカのアフガニスタン戦略見直しは? 不透明なパキスタン対策、和平プロセス対応”で取り上げました。

非常に明るい、将来に希望が持てる話として紹介したのですが、その少女の一人の父親が、8月1日にヘラートのモスクで起きた自爆攻撃で死亡し、少女が食事もできないショックを受けているとのことです。

****ロボコン出場のアフガン少女の父親、モスクで起きた自爆攻撃で死亡****
アフガニスタン代表メンバーとして米国で開催されたロボットの国際競技大会に出場したフェテマ・カデライアンさん(15)の父親が、西部ヘラートのモスク(イスラム礼拝所)で1日夜に発生した自爆攻撃により、死亡していたことが分かった。カデライアンさんの家族が3日、明らかにした。
 
カデライアンさんはヘラート出身の10代少女6人で構成されたアフガニスタン代表の1人として、米首都ワシントンで先月開催されたロボットの国際競技大会「ファースト・グローバル・チャレンジ」に出場。世界中の関心を集めた。
 
6人は米国への入国ビザの申請を2回却下されたことでメディアに盛んに取り上げられたが、最終的にはドナルド・トランプ米大統領政権の介入により入国を認められた。
 
カデライアンさんの兄、ムハンマド・レザさんがAFPに語ったところによると、父親はイスラム教シーア派のモスクで起きた自爆攻撃により死亡したという。この攻撃による死者は数十人に上り、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。
 
レザさんは自宅で応じた取材で、「家族は皆打ちのめされている。事件以降フェテマは何も口にしておらず、何もしゃべらない。ショック状態にある」と語った。またカデライアンさんは何度か気を失い、点滴治療を受けていると明かした。【8月3日 AFP】
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もう一つの話題は、アフガニスタンの教育現状に関するものです。

*****先生が学校に来ない=副業優先、抗議しない親―アフガン教育事情、ユニセフ代表語る****
来日した国連児童基金(ユニセフ)アフガニスタン事務所のアデル・ホドル代表が現在取り組むアフガンの学校教育の問題点を語った。

2001年の米同時テロ後のタリバン政権崩壊を受け、統計では過去15年で学校数は4倍に、小学校から高校まで学校に通う生徒数も10倍に増えた。ただ「学校に先生が来ない」という課題を指摘する。

 ◇確認する人いない
先生が学校に来ないのは「副業を持っているから」だ。公立校教師の場合、「給料のいい私立校教師と兼職する」例が多い。さらに「店を構え商売に忙しい先生もいる」。
 
来なくても給料は支払われている。「学校に来ているのか確認する人がいない」からだ。時には校長も副業で忙しい。
 
(中略)しかし、アフガンでは「文句を言っても、学校も政府も何もしない」と親が諦めている。ホドル代表は今「なぜ学校に先生が来ないのか、まず声を上げて学校に尋ねよう」と親の権利を説いて村々を回っている。
 
(中略)先生の不登校は「実はアフガンだけではない。アフリカでも非常に大きな問題だ」と指摘する。背景には公立校教師の給料だけでは暮らしを維持できない「貧困という問題がある」と考えている。

 ◇女性の教師を
一方で喫緊の課題は「女性教師を増やす」ことだ。アフガンは都市と地方で多少の差はあるものの「女子は学校へ行かなくていいと信じる人が圧倒的多数」な社会。

ホドル代表も「職場にはアフガン人男性もいるからスカートをはいて出勤はできない」「たとえあいさつでも女性が握手してもらえることはない」毎日に直面している。
 
アフガン女性の半分近くは「18歳以下で結婚してしまう」。貧しい家庭ほど女児を早く嫁がせ食費を減らそうとする。児童婚は大きな問題だ。
 
その結果、女児であっても「性的な対象として見られるとても危険な状況」が教室に生まれる。あらぬ疑いを回避したい男性教師が女児を忌避する傾向があり「教育を受けたい少女が増えている以上、受け入れる体制を整える必要がある」とホドル代表。

首都カブールでさえ「妻を働かせるなんて、夫はどんな男だ」と真顔で非難される社会で、女性教師増員という難題と取り組んでいる。【8月7日 時事】 
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貧困にしても、女性問題にしても、政府の指導力が問われる問題ですが、今のアフガニスタン政府には期待できないのが現実です。

タリバン等との戦闘状態が収まらないので、教育など内政がうまく機能していないのか、腐敗・汚職にまみれ内政が機能しないような政府なので、タリバン等との戦闘も劣勢に立たされているのか・・・・後者の要素がかなり大きいように思えます。

治安悪化続く状況に、新戦略を決められないアメリカ・トランプ政権
先述の西部ヘラートのモスク自爆テロ、あるいは8月5日に北部サリプル州でタリバンと「イスラム国」(IS)が共同で同州の村を襲撃し、女性や子供を含む民間人ら少なくとも50人を殺害したと報じられた事件(互いに競合するタリバンとISが本当に協調したのかは不明です。この襲撃では多くの者が拉致され、8日に235人が解放されましたが、まだ100人ほどが拘束されているとの情報もあります。)など、治安状態は“相変わらず”です。

****アフガニスタンの治安悪化続く タリバン、IS・・・テロ頻発****
アフガニスタンでは、イスラム原理主義勢力タリバンや、同じイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」(IS)によるテロが頻発し、治安改善の道筋がまったく見えない状態が続いている。
 
タリバンは2001年に米軍攻撃で政権を追われて以来、テロ攻撃を続けてきた。和平交渉開始には、米軍の完全撤収が必要だとの立場を崩していない。

ISは15年、アフガンを含む一帯をISのホラサン州と宣言し、タリバンと対立しながら、アフガンで少数派のイスラム教シーア派住民などへのテロを強めている。
 
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によれば、アフガンで昨年1年間に戦闘などにより死傷した市民の数は前年比3%増の1万1418人に上り、統計を取り始めた09年以降、最悪だった。過去、米軍機による誤爆も起きており、対テロ戦の困難さを露呈している。
 
今年になっても、状況は変わらず、5月31日に首都カブールで起きたタリバンによるとみられる自爆テロでは、150人以上が死亡し、日本人2人を含む300人以上が負傷した。

タリバン政権崩壊以降、首都での一度の攻撃による犠牲者数としては最悪となった。米軍率いる北大西洋条約機構(NATO)駐留部隊にも死者が出ている。
 
米報告書によれば、昨年11月時点で、アフガン政府が支配・影響下に置いている地域は、全体の半分強の57・2%にとどまった。タリバンなどは支配・影響下の地域を拡大している。
 
カブール大のジャファル・コヒスタニ教授は「これは国際テロとの戦いだ。アフガン治安部隊は外国部隊の強い支援を欲している。さらに多くの米軍、NATO軍が必要だ」と述べた。【8月11日 産経】
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こうした厳しい情勢を踏まえて、アメリカは、パキスタンとの関係を含めたアフガニスタン戦略の見直しを検討しているが、トランプ政権内部で意見が分かれている・・・と言う話は、7月19日ブログで取り上げました。

このトランプ政権内部の混乱・分裂も“相変わらず”の状況です。マティス国防長官は7月中旬までに新戦略を発表できるとしていましたが、いまだ発表されていません。
トランプ大統領においても、深入りしたくないが、手を引けば「負けてしまう」という状況への葛藤があるとか。

****アフガン政策論争で苦悶するトランプ氏****
「負け」を嫌悪する大統領は勝ち目のない戦いから逃れられないのか

トランプ政権は、アフガニスタンで悪化する戦況を反転させる戦略について、内部合意を得るのに四苦八苦している。政権の苦悩を理解するにはまず、これまでの経緯を振り返ってみると良い。
 
ドナルド・トランプ氏は2013年の初め、「アフガニスタンから即時撤退すべきだ。これ以上の命を無駄にすべきではない」とツイートした。

その翌年の初めにバラク・オバマ大統領(当時)がほぼ全ての米軍戦闘部隊を撤収させようと試みたとき、トランプ氏はこうツイートした。「わたしはアフガニスタンに関してオバマ大統領に同意する。われわれは迅速に撤退すべきだ。なぜカネを無駄にし続けなければならないのか。米国を再建しよう!」
 
従って、米国がアフガンで「負けつつある」とトランプ氏が論じる時(当局者らは、同氏が実際に幾つかの会合でそう論じたと述べている)、それは目新しい考えではない。

同地で勢力を盛り返す反政府勢力タリバンを覆すための兵力増派の問題で、トランプ氏は苦悶(くもん)しているように見えるが、それは長引く米軍のアフガン駐留について同氏が長年抱いている疑念を反映している。

オバマ氏のアフガン撤退論に賛成
そして現政権の当局者らは、オバマ氏が重大な間違いを犯したと主張している。つまりオバマ氏は14年末までに米軍部隊を撤収させると公に宣言し、それによってタリバン復活のための扉を開くきっかけを作ったのだという。

その主張は恐らく正しい。だが、オバマ氏の判断は、当時、一般市民だったトランプ氏が公に賛辞を送っていたものだ。
 
かくして、今どうすべきかを模索する苦悶は、トランプ氏が自らの顧問や米軍指導者らともめているものではなく、むしろトランプ氏が自分自身ともめているものだと言った方が分かりやすい。

彼は「負ける」ことを憎む男だが、同時にアフガニスタンで「負ける」ことから逃れられないのではないかと懸念している男でもある。
 
トランプ氏は、確かに、アフガニスタンの転換戦略を立案しようと模索する過去16年間で3人目の大統領だ。そして、そのことでフラストレーションを抱いている3人目の大統領でもある。
 
遅れている戦略レビューを仕上げようと努めるなかで、トランプ政権が何を実際に議論しているかを思い出すことが重要だ。

同政権は既に事実上、アフガン駐留米軍のプレゼンスを拡大する決定を下した。それは、ジム・マティス国防長官が兵力水準を決定する権限を早々と与えられた時だ。現在の駐留米軍8400人を上回る兵力を増派する権限を同長官に認めたのだ。
 
この権限は、米国の非核爆弾(通常兵器)としては最大の威力をもつ爆弾をアフガンに進出した過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘集団に投下する決定を今年4月に下したのと併せ、米国がより広範に軍事的関与をする用意があることを示唆している。
 
政府当局者によれば、レックス・ティラーソン国務長官、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官らのトランプ政権高官は皆、このアプローチに同意しているという。

一方でジェフ・セッションズ司法長官は、現在の閣僚メンバーとしては昨年の大統領選挙期間中にトランプ陣営と最も親密に関与してきた人物だが、より広範な軍事コミットメントを行うことに懸念を表明した。ホワイトハウスのスティーブ・バノン上級顧問もそうだった。
 
欠けているのは(そしてマティス長官に兵力増強の引き金を引かせないよう阻止しているのは)、こうした兵力活用のためのより広範な戦略だ。

米軍部隊は、(アフガン部隊を訓練したり助言したりするのではなく)戦闘活動にどれほど深く関与するのか? 彼らは、アフガン政府と戦っているゲリラ勢力のハッカニ・ネットワーク(HQN)やタリバン出身の戦闘員たちを掃討する自由が与えられるのか? それは単にアルカイダの残党との戦いだけでないのか?

確かな事実は
決定的に重要なのは、この新戦略にはパキスタンをどのように扱うかに関する幅広い決定が含まれることだ。パキスタンは、国境付近にいるタリバンとハッカニの戦闘員たちに聖域を提供し続けている。
 
政策レビューでは、パキスタンに対するムチを多くし、アメを少なくして、アフガニスタン政府の敵に対するパキスタンの支援をやめさせるプランを策定する可能性が高い。パキスタンが態度を変更するまで、同国向けの援助は削減され、米軍による越境空爆が多くなるかもしれない。
 
確かなことが少数ながら存在する。

1つ目に確かなことは、アフガニスタンが依然としてタリバン、アルカイダ、そしてISという害毒集団の巣のままだということだ。アフガニスタンを2001年9月11日の米同時テロ攻撃の発進地になった時と同じイスラム過激主義の危険な温床に変えようとしている集団だ。
 
2つ目に確かなことは、トランプ氏がアフガニスタンでの経験が極めて深く、知識も豊富な補佐官たちを抱えていることだ。(中略)

3つ目に確かなことは、ブルッキングス研究所のアナリスト、マイケル・オハンロン氏が述べたように、「アフガン問題で決定打となるような偉大な選択肢は、恐らく存在しない」ということだ。
 
この3つの確かさが、トランプ氏でさえ決定する公算が大きい4つ目の確かなことにつながる。

米国は長期間にわたってアフガニスタンに駐留せざるを得なくなっている。
アフガン地域で軍事・外交指導者を務めた著名人で構成するブルッキングス・パネルによる今夏のアフガン政策レビューは、次のように結論した。

「米国とアフガニスタンの連携は、一世代にわたって持続すると認識すべきだ。脅威の性格と、その脅威が将来、長期にわたって具現化する公算が大きいだけに、そう言える」【8月8日 WSJ】
******************

アメリカが手を引けば崩壊するアフガニスタン政権 深入りしたくないが、負けたくもないトランプ大統領は?】
イラクではオバマ前大統領が撤退を急ぎ過ぎたためにISの拡大を招いてしまった・・・という批判が一般的になされますが、その後の現実の展開を見れば、アメリカが撤退し全責任を負わされたために、イラク政府は何とか反撃体制を構築し、嫌々ながらも国内各勢力が協調する形でモスク奪還にこぎつけた・・・・という評価も可能です。

それでは、アフガニスタンでもアメリカが撤退してしまえば・・・・という話について、下記記事は“アフガニスタンでは無理だ”と論じています。

****アフガン対応、米軍イラク撤退から得る教訓とは****
(中略)では、ホワイトハウスがアフガンについて、大幅な部隊増強から完全撤退に至る選択肢を議論するなか、イラクでの経験はどの程度生かせるだろうか。アフガンも、対タリバンの戦いを国や国民の闘争に変えられるのか。
 
答えはおそらくノーだ。

今や16年に及ぶ米国のアフガン戦争は、多くの重要な側面でイラク紛争とは違う。そして違いは、アフガンのアシュラフ・ガニ大統領が6年前のイラクのリーダーとは異なり、米軍にできるだけ長くとどまってほしいと思っている点だけではない。
 
イラクの反政府勢力は同国少数派であるスンニ派の内側から生まれたが、アフガンのタリバンは国内で最も多いパシュトゥーン人が大半を占める。
 
またタリバンは9000人近い米国部隊の存在にもかかわらず前進を続けている。アフガンで命を落とす米兵の数は最近減っているが、依然としてゼロではない。米国防総省は2日、カンダハルで米兵2人が殺害されたと発表した。

石油資源の豊富なイラクと違い、アフガンは自国の軍を賄えず、毎年数十億ドルに上る欧米からの支援を必要とする。
 
それに加え、アフガンの政治家は2014年当時のイラクよりも腐敗や内紛による分裂がひどい。

また、米国というバックネットを撤廃すれば、アフガンの急速な崩壊は避けられないだろうと欧米の現・元当局者らは話す。(中略)
 
アフガン軍が近いうちに対タリバンで勝利することは見込みにくいなか、相対的には小さな米軍の存在がカブールや他の主要都市の崩落を防いでいる。

戦況を恒久的に変えようとする過去の兵力増強の失敗を思えば、そうしたこう着状態はありうる中で最善の結果かもしれない。
 
駐イラク米大使を務めた経験を持つワシントン中近東政策研究所のフェロー、ジェームズ・ジェフリー氏は「この地域全体そして各地で学んだのは、われわれには飛び出すことも、完全な解決に向けて本格参入することもできないという教訓だ」と述べた。「むしろ、慢性疾患に対するように長期的に対応していかなくてはならない」【8月7日 WSJ】
*****************

トランプ政権の内部でアフガン新戦略の策定が難航しているのに業を煮やした上院軍事委員会のマケイン委員長は10日、戦況が悪化するアフガニスタン情勢に関し、米軍増派などを柱とする独自の新戦略を提案してもいます。

オバマ前大統領のアフガニスタン撤退論に賛成していたトランプ大統領、どうするのでしょうか?
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チベット 弾圧と焼身自殺の悪循環 現実味を増すダライ・ラマの後継者問題

2017-08-13 20:55:47 | 中国

(ポタラ宮の前を行く漢民族の新郎新婦【2016年1月4日 Newsweek「抑圧と発展の20年、変わりゆくチベット」】)

焼身は2009年以降150人目で、死者数は128人
チベットでは、中国政府の圧制への抗議として焼身自殺が続いています。
ただ、ひと頃の“連日のように”というようなペースではないようにも思えますが、そこらの事情はよく知りません。

****<インド>亡命チベット人150人デモ行進 中国圧政に抗議****
チベット人に対する中国の圧政に抗議して焼身行為をはかるチベット人が相次ぎ、亡命チベット人の非政府組織・チベット青年会議が29日、インドの首都ニューデリーでデモ行進した。

亡命チベット人ら約150人が焼身の犠牲者を表すひつぎを担いで国連事務所まで行進し、国連でチベット問題を協議するよう訴えた。
 
青年会議によると、中国青海省で今月19日、チベット僧の男性(22)が焼身をはかり死亡。焼身は2009年以降150人目で、死者数は128人となった。

青年会議のテンジン・ジグメ総裁(38)は「これほど焼身が続くのは世界でも前例がない。国際社会はチベット問題を話し合ってほしい」と話した。
 
インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府は、中国のチベット自治区ではダライ・ラマ14世の写真の所持が禁じられるなどチベット人に自由が認められていないと主張。中国に「高度の自治」を求めているが、中国側は対話には応じていない。【5月29日 毎日】
*************

開発の陰に覆い隠す抑圧
中国政府は厳しい取締りと併せて経済開発を進める「アメとムチ」を続けており、実際、経済的変化も起きているようです。

ただ、経済開発の恩恵が移住してきた漢民族や、一部の者に限定され、ひろくチベット住民全体に行き渡っていないのでは・・・との指摘もあります。

****抑圧と発展の20年、変わりゆくチベット****
漢民族による経済開発が進む中で、多くのチベット人が社会の隅に追いやられると感じている

私がチベット自治区を初めて訪れたのは97年。15年5月に再訪し、その変化を写真に収めた。

かつてのチベットでは、中国政府に禁じられていたものの、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(インドに亡命中)の肖像をよく見掛けた。

一方で、中国国旗や指導者の写真はほとんど飾られていなかった。それが今や区都ラサの至る所、特に観光地や寺院・僧院には中国国旗がはためいている。
 
経済発展の続く中国から多くの漢民族がチベットに押し寄せ、小さな農村は高層ビルの街へと変わっていく。こうした開発はチベットに繁栄をもたらすと、中国政府は言う。
 
しかし多くのチベット人が、開発により自分たちは社会の隅に追いやられると嘆く。新たな労働市場で求められるのは中国語。彼らの多くは中国語があまり話せず、仕事も見つからない。

08年のチベット騒乱後、中国はチベットへの政治的、社会的、軍事的な締め付けを強化。これに抗議するチベット人の焼身自殺は09年以降、150件近く起きている。中国側はそんな事実を否定し、開発の陰に覆い隠そうとしているかのようだ。【2016年1月4日 Newsweek】
******************

“中国語があまり話せず、仕事も見つからない”ということであれば、中国語教育が重要になります。

もとより、チベットが独立ではなく“高度の自治”ということで中国国内にとどまり続けるのであれば、中国当局・漢民族とのコミュニケーションを可能とする中国語は必要不可欠です。

(世界中で“独立”を容認する国家は少なく、イングランド独立の住民投票をキャメロン政権が認めたのも“楽勝”できるという誤認があったからです。欧州でもスペインではカタルーニャの住民投票を認めていません。
ましてや、中国で“独立”ということになれば、手段を択ばない弾圧の対象となりますので、“高度の自治”という目標設定は現実問題としてやむを得ないものでしょう)

中国当局も、チベットにおける中国語教育に力を入れるとのことです。

****新疆とチベットに教師大量派遣=「中国化」を推進****
中国政府は新疆ウイグル自治区とチベット自治区に、国内各地から教師1万人を派遣する計画に着手した。

教育水準の向上が目的としているが、漢民族支配への反発が根強い両自治区で中国語を普及させることで「中国化」をさらに進める狙いがありそうだ。
 
20日付の中国英字紙グローバル・タイムズ(環球時報英語版)によると、両自治区では現在、内地から派遣された約1500人の教師が働いているが、計画の第1弾として近く4000人を増員する。

教師は、小中学校でウイグル語やチベット語などと中国語を同時に教える「双語(バイリンガル)教育」を担うことになる。
 
同紙は、新疆ウイグル自治区にかつて派遣された教師の話として「異なる少数民族が意思疎通するためにも双語教育は不可欠。若い生徒は過激主義者の誘いに乗りやすいが、(中国語が分かれば)テロの本質を理解するための情報にアクセスできるようになる」と強調した。【6月20日 時事】 
*******************

方向性としては間違っていないと思いますが、問題は“どういう意図”で行うのか・・・ということです。
文化的独自性を尊重した共存のためではなく、単に「中国化」を進めて、民族的抵抗を封じ込めるため・・・・ということであれば、民族・文化の圧殺という批判も向けられるでしょう。

【「安定教」にしがみつき弾圧を強める中国指導部
これまでの、そして現在の中国当局のチベットにおける対応を見るにつけ、あまり期待することはできません。

****焼身しか策がないチベット人の悲劇****
<安定を何より重視する中国が圧政を強めるなか、焼身自殺しか抗議手段がない人々がさらに弾圧される悪循環>

(中略)天安門事件が起きた89年以来、中国政府は一貫して「安定は全てを圧倒する(穏定圧倒一切)」を最重要視してきた。

その目標は独裁的な統治を正統化すること。つまり上からの政治・文化統制と下からの経済成長を結び付け、「一党独裁国家への大衆からの支持」を理論的に生み出すことだ。

この安定重視策は政治的、文化的、法的、精神的な抵抗勢力となりそうな全てを標的とし、敵(特にチベットにいる者)を「カルト集団」に仕立てあげる。

ただその政策自体が、国家によるカルトだとみることもできる。つまり反証や反対を拒み、無条件で受け入れられる全体主義信仰だ。

この狂信が、漢族もチベット族も含めたチベットの人々を、怒りと苦痛の悪循環に封じ込めている。

今や人々は、(150人目の焼身自殺者)ロサルと同じような過激な手段に訴えるしかない。(中略)なぜこんなことが起きるのか? これからチベットと中国はどうなるのか?

かつて焼身自殺は、公の場で抗議をする手段として効果的なものだった。ベトナム人仏教僧ティック・クアン・ドックの例を思い出すといい。ベトナム戦争中の63年、当時の南ベトナム政権の仏教徒弾圧に抗議し、大勢の前で焼身自殺をした映像は世界に衝撃を与えた。

しかしチベットでは焼身抗議が8年も続いており、今やほとんど波紋を呼ばない。

チベット人は「単純」で「粗野」で、ダライ・ラマという「封建的な奴隷所有者」を崇拝しており、中国の寛大さからどれほど恩恵を受けているのか分かっていない――これが一般的な中国人の見方だ。

つまり、焼身自殺をする人は「粗野」で「非理性的」な心をカルト勢力に操られ、だまされていると見なされる。(中略)

抗議の芽からつぶされ
だが、自殺の現実はもっと複雑だ。それは中国によるチベット支配と同じだけ長く続いてきた、抗議行動の一部である。

50年代の東チベットで中国が進めた「民主改革」に対する蜂起、80年代後半の文化的・政治的支配への大規模抗議、北京五輪前の08年3月から数カ月間、チベット高原に広がった暴動――。

08年の抗議は中国政府の容赦ない弾圧を受け、その後はチベットの警察国家化が進められた。中国人民解放軍がチベットの通りを徒歩や装甲車で回り、全てがビデオカメラで撮影された。検問所は人々の行き先を管理し、特にチベット人を狙って監視。国外のジャーナリストや研究者がチベットに入ってこうした動きを監視したり、報道したりすることは禁じられた。

最も狡猾なのは、世帯レベルで監視を行うシステムだ。社会福祉制度に関連付けて各都市を「地区」に分割し、リアルタイムのデータを集める。それを治安当局者が分析し、不穏な動きの兆候があるかどうかを調べる。

その結果は非常に満足のいくものだったため、同じような問題を抱える新疆ウイグル自治区にもこの制度が導入された。

全てを監視し、追跡するというチベットの治安強化は集団的な抵抗運動を事実上、不可能にした。大規模な抗議に発展する前にその芽はつぶされる。

誰かがチベット独立やダライ・ラマの帰国を支持するスローガンを叫んでも、その声を聞かれる前に本人は姿を消すことになる。

これらは全て、中国が目標とする安定強化の証しに思えるだろう。しかし焼身自殺という抗議行動を生んだのが、まさにこの「安定」だ。

チベット人作家であるツェリン・オーセルは近著『チベットは燃えている』で、焼身自殺は計画なしに自分1人ですぐに実行できるし、止めるのはほぼ不可能だと書いている。

と同時に、抵抗のメッセージをはっきり伝えることができる。あらゆるものが禁じられるなか、何かを主張するには最も印象的な手法だ。

過熱するプロパガンダ
中国政府の安定維持に対する信仰に近いこだわりのせいで、チベットでは焼身自殺以外の抗議活動はもはや不可能なのが現実だ。

一方で、宗教的な弾圧やチベット人の2級市民扱い、格差の拡大といった人々を抗議活動に追いやる要因は変わっていない。焼身自殺は今や、大義のための自己犠牲の1つの形として、文化的・宗教的な重要性を帯びるまでになっている。

地元当局者には、焼身自殺を食い止めよという強いプレッシャーがかけられている。だがこの「安定教」の熱心な信者である彼らにとって、さらなる抑圧以外に採るべき道はない。

焼身自殺した人々の家族は逮捕され、遺体は警察から返還されず、時にはその出身地の町や村まで連帯責任を負わされ、政府の補助金打ち切りという罰を受ける。

市民への監視は強化され、焼身自殺があったことを外国に知らせれば起訴の対象だ。宗教学の御用学者たちは、焼身自殺は自己犠牲という古くからの尊い伝統ではなく、仏教の教えの冒瀆だと非難している。

政府のプロパガンダは過熱している。焼身自殺をするのは精神的に不安定な者だと断じ、こうした抗議運動を画策しているのは「ダライ・ラマ一派」で、焼身自殺の実行者に金銭的な援助をしていると非難。インドに亡命中の僧侶たちを「人々の心を操っている」「腐敗している」と攻撃したりもしている。

08年の騒乱以降、抗議活動への締め付けが強化され、チベット人にとって声を上げる唯一の手段が焼身自殺となったわけだが、そのことがさらなる弾圧を招き、また新たな焼身自殺を生むという悪循環が起きている。

残されたのは、8年たってもチベットを取り巻く情勢が十分に改善されないなか、150人もの人々が焼身自殺で命を落とし、その終わりは見えないという残酷な事実だけだ。

13年に習近平(シー・チーピン)国家主席が就任した際には、中国政府のチベット政策にも新たな展開があるのではと期待された。だが、習も根っからの安定教の信者だったらしい。市民社会の萌芽は弾圧の対象となり、政治的活動への締め付けはさらに強まっている。

中国の指導者たちはさまざまな政策のコストと恩恵を慎重に吟味する現実主義者だと言われることが多い。だが、チベット政策に関しては安定教への信仰心が先に立ち、うまくいくはずのない対処法を「これぞ最終的な解決策」と信じてしがみついている。

確かに中国とチベットの歴史的関係や今日の中国のチベット政策の影響についてはさまざまな考え方がある。それでも人々が自らに火を放つ事例が後を絶たないなか、何らかの変化が必要である事実から目を背けることは不可能だ。

だが中国指導部が安定教にしがみついている限り、新たな展開は期待できそうにない。【8月1日 Newsweek】
*******************

ダライ・ラマ 女性も含めた生前の後継者選定も
こうしたチベット情勢のカギを握るのがダライ・ラマ14世ですが、高齢のダライ・ラマにとって健康問題が大きな問題となっています。

****ダライ・ラマ、「極度の疲労」によりボツワナ訪問を中止****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(82)が、「極度の疲労」を理由に今週予定されていたボツワナ訪問を中止した。
 
11日夜に発表された公式声明によると、ダライ・ラマは高齢により体が休養を必要としており、医師からも今後の数週間は長旅を控えるよう言われたという。またボツワナ大統領らに宛てた書簡のなかで「極度の疲労」のために訪問を中止することを「心の底から残念に思う」と述べている。
 
インドで亡命生活を送るダライ・ラマは、ボツワナの首都ハボローネで17日から3日間の日程で開かれる会議で演説することになっていた。
 
しかし中国政府はダライ・ラマのボツワナ訪問を前に、同師の訪問を受け入れたボツワナに対する怒りを表明。中国外務省の陸慷報道局長は先月、チベット問題では中国の主権に「心から敬意を払い、正しい判断を下す」ようボツワナ政府に求めていた。
 
中国はアフリカ各国にとって主要投資国であり最大の貿易相手国でもある。ボツワナでも道路網の開発や発電所、橋、学校の建設などを支援している。【8月13日 AFP】
*****************

今回決定が“疲労”によるものなのか、中国政府のボツワナへの圧力の結果なのかは知りません。

いずれにしても、“ダライ・ラマの死後”どうなるのか?という問題が、次第に現実味を強めていることは間違いありません。(中国政府は彼の死を待ち望んでいることでしょう)

ダライ・ラマの後継者を従来方法(死後の「転生霊童」)で決めるということになると、パンチェン・ラマのときがそうであったように、中国政府の介入を招き、当局に都合のいい人物が選ばれることにもなりかねません。

ダライ・ラマ14世は、女性も対象とした生前の選定を可能とする改革にも言及しています。

****ダライ・ラマ、生前の後継者決定を示唆 中国による選定懸念****
インドに亡命したチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(82)が9日、ニューデリーで講演し、「転生霊童」(生まれ変わり)と呼ばれる少年を探し出す伝統的な後継者選びのやり方を改め、自らの死去前に後継者を決める可能性を示唆した。
 
自身の死去後、中国政府が都合の良い後継者を選んでチベット統治に利用する懸念を踏まえた発言とみられる。今後、高僧らによる議論を始めるとし、女性が後継者になることもあり得ると述べた。
 
チベット仏教では、すべての生き物は輪廻(りんね)転生するという考えに基づき、ダライ・ラマら「活仏」が死去した後、生まれ変わりの少年を探して後継者にする伝統がある。

ダライ・ラマは講演で「死の前に後継者を選ぶ方が安定的だ。かつては後継をめぐる争いもあった」と述べ、生前に後継者を決める可能性に言及した。
 
さらに、「(自身が)90歳前後になる時に大事なことを決めたい」とし、「この1、2年でそのための準備的な会議を開いていく」と話した。
 
後継者については「女性も当然あり得る。女性は仏に帰依するのに適している」とも語った。
 
活仏であるパンチェン・ラマ10世が1989年に死去した後、中国当局が現在のパンチェン・ラマ11世を転生者と認定し、体制側に取り込んだ経緯がある。一方、ダライ・ラマ14世が転生者として選んだ少年の消息は途絶えたままになっている。【8月11日 朝日】
**********************

宗教指導者が伝統の改革を主張し、宗教を嫌う共産党政府が宗教的伝統維持を主張するという、奇妙なねじれが生まれています。


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中国  フィリピン人家政婦を破格の条件で受け入れ

2017-08-12 22:08:40 | 東アジア

(香港島・中環(セントラル)で、高層ビル群をつなぐ回廊を埋め尽くすフィリピン人の家事労働者【2015年2月18日 白壁 達久氏 日経ビジネスonline】 同じ外国人労働者でもインドネシア人はビクトリア公園に集まる・・・というように場所が違うようです。

休日に友人らとの語らいを楽しむということのほか、雇い主側も休日は家にいるので家政婦は家から追い出されるという面もあるようです)

香港の外国人家政婦 厳しい労働環境も
日本を含めて、外国人労働者が過酷な労働条件を強いられるという話は世界中で多々あるところですが、特に、女性が多数従事する家政婦労働に関しては、外部からはうかがえない家庭内という閉鎖空間という環境もあって、虐待が横行しやすい環境にあります。

マレーシアや台湾のインドネシア人家政婦、サウジアラビアなど中東における東南アジア人家政婦に関する虐待・トラブルなど、これまでにも取り上げたことがあるかと思います。

香港における下記事例も、そうした外国人家政婦に関する話題のひとつです。

****家政婦にエアコン使わせない! 雇い主の主張が論議呼ぶ 香港****
中国・香港で、家政婦のエアコン使用を制限すると雇い主らが主張していることに対し、複数の人権団体が非人道的だと非難している。香港ではうだるような暑さが続く中、ある政治家が家政婦は「暑さに慣れるべき」と発言するなど、この主張に賛意を示す声も上がっている。
 
香港では主にフィリピンやインドネシアからやって来た外国人労働者34万人以上が家政婦として働いているが、近年、虐待事例が相次いで発覚し、家政婦らの処遇に対する懸念が浮上している。
 
香港では今週、ある雇い主の女性が怒りをあらわに、家政婦が夜に許可なく勝手に自室のエアコンを入れたとフェイスブックに投稿し、波紋を巻き起こした。気温は30度、湿度も高かったとされるが、雇い主はこの家政婦を「極度に厚かましい」と評し、エアコンのスイッチを撤去すると息巻いた。
 
ただ、この投稿に非難の声が寄せられる一方、賛意を示す人も現れているという。
 
家政婦の雇い主らでつくる協会の会長を務める政治家のマイケル・リー氏はラジオのインタビューで、家政婦の多くが香港より暑い国の出身であることを理由に、この気候に慣れるべきだとの持論を展開。また、雇い主に家庭内で厳格な規則を定めるよう求めた。
 
リー氏はAFPの取材にも応じ、「暑い国から来ているのであれば、香港の暑い気候にも慣れるべき」と、同様の主張を繰り返した。
 
また「香港の雇い主ら全てには、家政婦は何をして良いのか、また何をしたらいけないのかを定めた家庭内の規則を定めるよう勧める」と述べた。
 
一方で、家政婦らの権利を擁護する運動家らは、エアコンの使用を制限するのは「ばかげており、不当で非人道的だ」と批判している。【8月11日 AFP】
*******************

家政婦労働に関しては、節度を持った一定のルールが必要ということはわかりますが、「暑さに慣れるべき」「極度に厚かましい」という考え方には、“外国人労働者のくせに・・・”“貧しく教養のない連中”といわんばかりの差別的な考えも透けて見えるようで、共感しかねるものを感じます。

もっとも、香港における外国人家政婦がすべてこうした過酷な状況に苦しんでいる・・・・という訳でもありません。

明るい話題、息抜きもあれば、厳しい労働も。
理解を示す人々もいれば、そうでない人々も。

****現代の「シンデレラ」、フィリピン人家政婦の苦難****
香港の美人コンテストに優勝し、観衆の声援に笑顔で応えながらティアラとトロフィーを受け取るとき、黄色のイブニングドレスに身を包んだフィリピン出身のシリル・ゴリアバさんのエレガントさは際立っていた。

だが帰りのバスのなかで紫色のアイシャドーとつけまつげを取ると、高揚感は消えていき、ゴリアバさんは翌週のことで頭がいっぱいになった。

「家に帰ると、突然悲しくなった。友だちとの時間が終わってしまったから」とゴリアバさんは話す。
「また仕事だけの1週間が始まる。ストレスの多い仕事を6日間しなくてはならない。食事を独りで食べ、一日中単調な仕事をする毎日が」

ゴリアバさんは家政婦をしている。ゴリアバさんや彼女と同じようなフィリピン人家政婦の話が、新たなドキュメンタリー映画のテーマだ。同映画は、世界中の家庭で働く何百万人もの女性に対するステレオタイプなイメージを打ち砕こうとしている。(中略)

<ソファ禁止>
同映画は今月、アジア最大の映画祭である韓国の釜山国際映画祭でプレミア上映された。

香港には30万人を超える外国人家政婦がおり、その大半がフィリピン人かインドネシア人だ。彼女たちは雇い主の家族と共に暮らし、通常は1週間に6日間、1日当たり16─20時間働く。

日曜日だけが唯一の休日だ。
ゴリアバさんらの日曜日の予定は、モデル歩きのレッスンやリハーサルで埋め尽くされている。毎年恒例であるこの美人コンテストやその前に行われるイベントへの参加は、厳しい仕事からの息抜きを彼女たちに与えている。

映画は、彼女たちの毎日のきつい仕事や雇い主との関係、直面する困難などを描いている。搾取や、虐待を報告する意欲もそぐような厳しい就業規則、そしてソファに座ることを禁止されたり、台所で寝ることを強いられたりといった扱いまで、その内容は多岐にわたる。

コンテストに参加したある家政婦は、ある日曜日に門限の午後9時に間に合わなかったことで職を失った。
「これは現実のシンデレラの物語だ」とビララマ監督は言う。

<反移民感情>
香港で働く外国人家政婦は、他のアジア諸国で働く家政婦よりも保護されている。

しかし、2014年にインドネシア人家政婦が雇い主から暴行を受け、熱湯でやけどを負わされた事件以来、香港における外国人家政婦の社会的排除と虐待は厳しい目にさらされるようになった。

3月に発表された調査では、香港で働く6人に1人の外国人家政婦は強制労働の犠牲者であり、かなりの割合が人身売買によるものであることが明らかとなっている。

その一方で、フィリピン人家政婦2人が香港の永住権を求めた裁判を起こし、2013年に敗訴してからは反移民感情が急速に高まった。

だが映画が示しているように、全ての香港市民が外国人家政婦に偏見を抱いているわけではない。

コンテストに出場した家政婦の1人であるマイリンさんと生活するジャック・スーさん(67)は映画のなかで、外国人家政婦がいなければ香港は「困難な状況になる」と語っている。
「外国人家政婦なしで家族がやっていけるか想像してごらん。どうやって外に働きに出るのか。子どもたちの面倒は誰が見るのか」

ビララマ監督は、この映画が外国人家政婦による貢献に光を当て、彼女たちの扱いが変わることを期待している。
「美人コンテストは明るい話だが、その陰にはわれわれが直面しなければならない現実がある」と同監督は語った。
【2016年 10月 25日 ロイター】
*****************

外国人家政婦の多くは、“友達や家族がいて、休みの日には充実した生活を満喫している”とも。

****香港:いまを楽しむことを忘れないフィリピン人家政婦たち****
香港の外国人家政婦の数は上昇し続けており、昨年34万380人に達した。この数字は、5年前と比較すると24%の増加だ。

香港の共働き家庭にとって家政婦は欠かせない存在になっているが、いまだに貧しく教養がないという先入観を持っている人が多い。

ニュースで報じられるときには悪い話が多く、雇用主に対する詐欺行為や窃盗、世話をする対象者への虐待、または雇用主の家政婦に対する虐待といったものばかりである。

しかし実際は家政婦もみんなと同じだ。友達や家族がいて、休みの日には充実した生活を満喫している。

37歳のミシェル・サルータは1年前に香港に来た。ダンスサークルを始めて、毎週日曜日はダンスの仲間と一緒に練習をしている。

サルータは10年以上ダンスを続けている。ダンスを始めたのはフィリピンの大学時代だ。踊ることで仕事のプレッシャーから解放されるし、友達との絆(きずな)も深まるように感じている。サルータは週に一度の休日を充実したものにしたいと考えている。

「座って悲しんでなんかいないで、楽しまなくちゃ。」

もう一人の家政婦、リー・アン・イダルゴは写真のワークショップに参加している。写真を撮っていると前向きな気持ちになれるので、熱中するようになった。イダルゴは写真を通して家政婦の才能を示したいと思っている。

「私が嫌いなのは、私たちなんか単なる家政婦に過ぎない、と自分で言っている家政婦たちです。私たちの給料はここ香港の最低賃金かもしれない。でも、言ってみれば、そんな私たちが香港を支えているのです。

私は、悲しいことやホームシックなどネガティブな面にはピントを合わせずに、写真を撮ることでポジティブに過ごしています。私の写真で、自分たちは単なる掃除婦じゃない、他にも素晴らしいことができるんだ、と気づいてもらえたらいいなと思います。」

日々の仕事を超えて、フィリピン人家政婦は同郷の人たちと一緒に香港での生活を楽しんでいる。

レオ・セロメニオは1996年に香港に来た家政婦で、その10年後にグローバル・アライアンスを立ち上げた。グローバル・アライアンスは国外のフィリピン人コミュニティ支援に尽力している団体で、セロメニオは家政婦仲間のために週末をイベントの企画に費やしている。

時間が足りないことや、金銭的サポートの不足などさまざまな問題に直面しているが、雇用主が彼女の活動を理解しサポートしてくれており、毎週末2日間の休暇を取らせてくれている。

「いずれフィリピンに帰り、ここには戻らないと思いますが、どこへ行こうとも絶対に雇用主のことは忘れません。彼らはすでに私の人生の一部となっているのですから。」【2月28日 Global Voice】
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いろんな条件・環境のもとにあると思われますが、なるべくおおくの外国人家政婦が“友達や家族がいて、休みの日には充実した生活を満喫している”ことを願いますし、そのような法的。社会的条件整備に努めるべきでしょう。

中国 フィリピン取り込み策のひとつ 家政婦受け入れ 労働環境は?】
今回、外国人家政婦の話題をとりあげたのは、中国がフィリピン人家政婦の受け入れをかなりの好条件で認める・・・という話があったからです。

****中国がフィリピン人家事労働者受け入れへ、賃金は月20万円以上か*****
フィリピンメディア「フィリピン・スター」は7月31日、同国のセイ労働副大臣が自国民の家事労働者の受け入れについて、中国側と協議していることを明らかにしたと報じた。最低賃金は月額10万フィリピンペソ(約22万円)程度の方向だという。

セイ労働副大臣によると、中国大使館スタッフが同国労働省を訪れてこの問題について協議した。中国側は北京、上海、福建省・厦門(アモイ)など大都市5カ所に限ってフィリピン人家事労働者を受け入れる考えで、賃金については月額10万フィリピンペソを想定しているという。

記事は詳しく報じていないが、各国が外国人労働者を受け入れる際には自国民労働者とは別に自国通貨建ての最低賃金を設定する場合があり、中国側も人民元建てで10万フィリピンペソに相当する額の最低賃金を検討していると考えられる。

セイ労働副大臣は、中国の代表団が9月にフィリピンを訪れてさらに進んだ協議を行うと説明。中国側はフィリピン人の英語能力にも注目し、フィリピン人が中国人家庭で仕事をすれば中国人の子どもの英語力の向上にも効果があると考えているという。

香港メディアの蘋果日報(アップル・デイリー)は、大陸でのフィリピン人家事労働者の賃金が香港での外国人労働者の法定最低賃金の月額4310香港ドル(約6万円)よりもはるかに高いことに注目。

実際の受け入れ人数にもよるが、中国が高額報酬で家事労働者としてフィリピン人を受け入れることになれば、周辺国の家事労働の賃金相場が影響を受ける可能性も否定できない。

中国の周辺で東南アジアからの家事労働者を多く受け入れていると地域としては、香港以外に台湾を挙げることができる。ただし蘋果日報によると、台湾政府・労働力発展署の関係者は中国によるフィリピン人家事労働者の受け入れは、台湾には影響を及ぼさないとの見方を示した。

台湾における外国人家事労働者に対する最低賃金は、手当を含めて月額2万台湾ドル(約7万3000円)で、中国のフィリピン人家事労働者受け入れで想定されている賃金よりもかなり低い。

ただ、台湾で働く外国籍労働者は41万人でうちフィリピン人は11万3000人だが、家事労働者は数百人と極めて少ないので影響はないという。なお、台湾の外国人家事労働者のうち、最も一般的に見られるのはインドネシア人だ。

2016年に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領は発言に「ブレ」があるものの、基本的にはアキノ前政権時に南シナ海における領有権問題などにより極めて険悪化した中国との関係を修復し、中国に歩み寄ることで経済的利益などを引き出す方針を取っている。

家事労働を含む労働力の輸出はフィリピンにとって重要な外貨獲得手段で、海外からの送金額は金融市場などの動向を判断するための経済指標にもされている。

中国によるフィリピン人家事労働者の受け入れが実現すれば、ドゥテルテ大統領は中国との協調路線により、経済面における成果を一つ引き出したことになる。【8月1日 Record china】
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国際政治の枠組みで言えば、“フィリピンにとっては海外出稼ぎが貴重な外貨獲得手段。南シナ海で領有権争いがくすぶるフィリピンを取り込みたい中国が、家政婦受け入れで、「アメ」をぶらさげた格好となる”【8月2日 産経】という話になります。

麻薬問題での超法規的殺人など、個人的にはドゥテルテ大統領の統治は否定しますが、この件に関して言えば、中国から破格の条件を引き出したということで、大きな成果を得たと評価できるでしょう。

いつも言うように、フィリピンが中国とどういう関係を持つかは、日本にとって不都合であったとしても、フィリピンが判断すべき性格の問題です。(超法規的殺人の問題は、そうした個別事情によるものではなく、普遍的価値観の問題です)

中国のフィリピン人家政婦受け入れに関して、まず心配されるのは、冒頭に紹介した香港と同じような問題が起きないか?フィリピン人女性の労働環境・人権に関して適切な対応がとられるか?ということです。

香港に爆買い中国人が大挙押し寄せた頃、香港と中国はその“文化程度”をめぐって感情的対立もありました。
部外者から見れば、五十歩百歩ではないか・・・という気もします。

“カネがすべて”の中国社会にあって、フィリピン人家政婦がどのような境遇に置かれるのか・・・懸念も感じます。
(中国で月額10万フィリピンペソ(約22万円)を負担できるのは相当な富裕層でしょうから、香港などの中流層雇い主とはまた違う・・・・のかも)

条件整備も香港に及ばない状況であり、フィリピン側も改善を要求しています。
“香港で整備されている外国人家政婦の就労保障制度が中国にはなく、フィリピン側は法整備を求めているもようだ。”【8月2日 産経】

上海では月に2万元(約32万円)が相場 変わりゆく経済状況
このニュースで一番驚いたのは、月額10万フィリピンペソ(約22万円)という“好条件”です。

もちろん、中国でも人件費が高騰しているという話は耳タコぐらいに承知はしていますが、そこまで上昇しているのか・・・と、正直なところ驚きました。

“中国の農村部から都市部に出稼ぎに来ていた家政婦は、経済発展を受けて内陸部に戻り始め、減少に転じている。”【8月2日 産経】という状況で、ベビーシッターに関して“報酬の相場も上昇していて、上海では月に2万元(約32万円)は出さなければ見つからない状況”【8月2日 日刊サイゾー】とも。

****報酬2倍で、香港で働く家政婦の大量流出も? 中国がフィリピン人ベビーシッターの爆買いへ****
昨年、中国は1979年から続けてきた一人っ子政策を廃止し、二人っ子政策へとかじを切った。現在生まれてくる新生児の約半数は「二人目」といわれており、限定的ではあるが、官製ベビーブームが起こっている。
 
そんな中、不足しているのがベビーシッターだ。中国事情に詳しいフリーライターの吉井透氏は、次のように話す。

「共働きが一般的な中国では、祖父母に育児を手伝ってもらうことは当たり前。しかし、二人目となると、一人目よりも祖父母が高齢化していたり、子ども二人分の育児はさすがにキャパシティーオーバーということで、中流以上ではベビーシッターを雇う家庭が多いんです。

そのベビーシッターが、今年に入って不足している。報酬の相場も上昇していて、上海では月に2万元(約32万円)は出さなければ見つからない状況になっている。ベビーシッターを予約してから子作りを開始するという夫婦もいるほどです」
 
そんな状況下、中国ではこれまで外国人に認められなかったベビーシッター業務の担い手として、フィリピン人労働者の受け入れを検討しているという。
 
フィリピン労働雇用省(DOLE)の副部長が明らかにしたところでは、北京、上海、アモイなどの主要都市が、フィリピン人労働者に対し、ベビーシッター業務を近く解禁。ベビーシッターへの報酬は、月額1万3,000元(約21万円)に達すると見込まれている。
 
ベビーシッターとしてフィリピン人労働者が特例的に選ばれた背景には、フィリピン人の英語力があるという。英語が堪能なフィリピン人をベビーシッターとして雇うことで、子どもに英語を学ばせようというわけだ。
 
しかし、こうした中国の動きに、香港人は警戒感を強めている。香港では、中流家庭でも家政婦を雇うことが一般的だ。
 
現在、約30万人の外国人家政婦が働いているというが、そのうち最も多いのがフィリピン人なのである。しかし、香港紙「アップルデイリー」によると、月額1万3,000元というのは、香港でフルタイムの住み込み家政婦に支払われる月額の約2倍。

中国のフィリピン人ベビーシッター受け入れが実現すれば、香港で働くフィリピン人が、こぞって中国に移動してしまう危惧があるのだ。 
 
紙おむつや粉ミルクなど、ベビー関連用品の数々を大陸からの爆買い客に買い占められたことで、香港人の反中国感情が高まったという前例もある。その上、家政婦まで奪われるとなれば、彼らの不満をさらに刺激することとなりそうだ。 
 
また、日本でも4月からフィリピン人家政婦の受け入れが開始されたが、報酬の改善などを余儀なくされることになるかもしれない。【8月2日 日刊サイゾー】
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私の頭の中には、日本がアジアで突出して発展し、中国は貧しかった・・・その頃の記憶の残滓があるようです。

2016年の一人当たり名目GDPで見ると、シンガポール10位(52,960ドル)、香港16位(43,527ドル)に対し、日本は22位(38,917ドル) 韓国や台湾の追撃もうける状況です。【http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

GDP総額でみると、ピーク時にアメリカの70%だったのが、今は4分の1。イギリスと比較すると、4.1倍から1.8倍に縮小しています。

人口減少が避けられない日本は・・・・
将来的には人口減少が間違いなく進みますので、更に厳しい状況ともなります。

*****日本を待ち受ける2つの未来****
(中略)人口動態を見れば明らかなように、日本は縮みゆく大国だ。

今後は自衛隊の維持強化に必要な人材の確保にも苦労するだろう。もちろん経済活動の担い手も、高齢者の介護に必要な人材も足りなくなる。
 
現在の日本の出生率は世界最低レベルで、この傾向が続けば65年までの人目減少率は未曾有の31%。人口は現在
の約1億2700万人から8800万人に落ち込み、65歳以上が4割を占める超高齢化社会となる。

生産年齢人目は約5000万人と推定されるが、これは100年前の水準だ。
 
対照的に中国とインドの人口はどちらも10億を優に超え、アメリカも4億人程度まで増える。

日本が少子高齢化による衰退を食い止めるには、移民を大量に受け入れるか非現実的なほどのスケールでロボットや人工知能(AI)を導入するしかない。どちらを選ぶにせよ、日本社会にとっては黒船来航に匹敵する衝撃となるだろう。
 
たとえ今すぐ出生率が人口の維持に必要な2.1人を超えたとしても、その子たちが経済的・戦略的に貢献し始めるのは20年ほど先だ。(後略)【8月15日号 Newsweek日本版】
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日本はこれまで基本的に外国人労働者の受け入れについては厳しい対応をとってきました。
そこには、“日本のような豊かな国が国を開けば、周辺の貧しい国から人が殺到して混乱する”という発想が根底にあってのことではないでしょうか。

しかし、その前提条件は崩れつつあります。

介護のための人材を必要としているのは中国も同じです。香港・台湾も人手を必要としています。
人材送り出し国のインドネシア、フィリピン、ベトナムの経済も今後着実に拡大します。

日本が現在のような仕組みではどうにもやっていけなくなって、いざ海外から人を入れようとしても、他の国々との競合で、誰も日本には来たがらない・・・・という将来もあるのかも。

現在の研修生制度のような性格のはっきりしないやり方ではなく、きちんとした移民対策を考えるべきときでしょう。
外国人受け入れの問題点・デメリットばかり叫ぶのではなく、どうしたらそうした点を克服できるかを前向きに検討すべきでしょう。
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