孤帆の遠影碧空に尽き

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急増する移民・難民、特に「子どもだけ」への対応に苦慮するバイデン政権 復権を狙うトランプ前大統領

2021-04-19 22:44:15 | アメリカ

(移民が殺到するメキシコ国境(C)AFP=時事【4月19日 フォーサイト】)

 

【急増する保護者がいない「子どもだけ」の移民】

アメリカ・バイデン政権が直面している移民問題については、3月27日ブログ“アメリカ 人権重視の民主主義を掲げるバイデン政権 押し寄せる移民・難民への対応は?”でも取り上げましたが、政権は対応に苦慮しています。

 

メキシコ国境で3月に拘束された不法移民の数は15年ぶりの高水準になっています。

 

野党共和党は、不法移民に寛容なバイデン政権の姿勢が越境者増加を招いたと批判。これに対しCBP(米税関・国境警備局)は「(中米諸国の)治安悪化や自然災害、貧困などが要因で、(バイデン政権発足前の)2020年4月から増加傾向に入った」と説明しています。 

 

****米国境の不法移民拘束、3月は70%増 15年ぶり高水準に****

米国のメキシコ国境で3月に拘束された不法移民の数が、前月比70%増の17万2331人と、15年ぶりの高水準となった。税関・国境警備局が8日発表した。ジョー・バイデン政権は移民問題をめぐり増大する課題に直面している。

 

CBPによると、保護者が同伴していない子どもの保護数は3月、前月から倍増し、1万8663人となった。さらに227人の子どもが国境検問所で入管当局に保護され、政府が再定住のため受け入れざるを得ない未成年者の数は計1万8890人に増加。収容・処理施設がひっ迫する状況となっている。

 

移民の多くはメキシコや、中米の「北部三角地帯」と呼ばれるホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの出身。CBPによれば、大規模な集団での越境が増えている。

 

CBPは、移民増加の背景には「メキシコと中米の北部三角地帯諸国での暴力と自然災害、食料不安、貧困」があると説明。CBPのトロイ・ミラー局長代行は発表文で「これは新しいことではない。(不法移民との)遭遇は2020年4月から増加し続けている」と述べた。

 

3月には、単身の成人を中心とした不法入国者約10万4000人が、新型コロナウイルス対策に基づく規則によりメキシコに送還された。だが、保護者が同伴しない子どもと、幼い子どもを含む家族連れ数万人は米国在留が認められ、バイデン政権にとって政治的・社会的な難題となっている。 【4月9日 AFP】

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【揺れるバイデン政権の対応】

バイデン大統領は、トランプ前大統領の不寛容な移民・難民対策を批判し、難民受入れを拡大することを公約に掲げていましたが、こうした事態を受けて、当面受入れを前政権と同じ水準に据え置くことを発表。

 

バイデン大統領は2月、今年度の受け入れ枠をトランプ前政権が設定した1万5000人から6万2500人に拡大し、10月からの次年度は12万5000人とすると表明していました。

 

****米政権、難民受け入れ拡大計画を棚上げ 前政権の1.5万人維持****

バイデン米大統領は16日、今年の難民受け入れ数をトランプ前政権が設定した歴史的低水準の1万5000人に据え置く命令に署名した。

一方、ホワイトハウスは、バイデン氏が5月中旬までに今年度の残り期間についての最終的な難民上限引き上げを発表すると述べた。

バイデン氏は2月、9月30日に終了する2021年度中に難民受け入れの上限を6万2500人に引き上げる計画を示唆していたが、これまで実施を控えている。

米政府関係者によると、バンデン氏が慎重な姿勢を示したのは、米メキシコ国境に到着する移民がここ数カ月で増える中、難民をさらに受け入れるという印象を持たれることに懸念したようだ。

これに対し、民主党上院ナンバー2のダービン議員は「最大の難民危機に直面しているのに、1万5000人に制限する理由はない」とし、大統領の決定を非難した。

ホワイトハウスのサキ報道官はその後、最終的な上限は5月15日までに決めると釈明。当初目標の6万2500人という数字について、「現政権が引き継いだ壊滅的な難民受け入れプログラムを踏まえると」年度末までに引き上げるのは難しいとの考えを示した。【4月17日 ロイター】

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しかし、この「据え置き」方針には難民支援団体や民主党内から批判が噴出。

“民主党のオカシオコルテス下院議員はツイッターで、公約撤回を「全く受け入れられない。バイデン氏は移民を歓迎すると約束し、人々はそれを信じて投票したのだ」と批判した。”【4月17日 時事】

 

批判を受けて、ホワイトハウスは急きょ、受け入れ数を拡大する方向で見直す考えを示しています。

 

****バイデン氏、難民受け入れ拡大を表明 据え置き巡る批判受け****

バイデン米大統領は17日、今年の難民受け入れ数の上限を引き上げると表明した。

バイデン氏は16日、トランプ前政権が設定した歴史的低水準の1万5000人に上限を据え置く命令に署名、9月30日に終了する2021年度中に6万2500人に引き上げるという2月に発表した計画を棚上げにした。これを受け、民主党議員らから批判の声が上がっていた。

バイデン氏は17日、記者団に対し、1万5000人を超える水準に上限を引き上げると述べた。【4月19日 ロイター】

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【移民問題を復権の突破口にしたいトランプ前大統領】

移民・難民受入れに関しては、基本的な寛容・不寛容の問題にかかわらず、一時的な大量流入は大きな社会混乱を招き、政権基盤を揺るがす事態にもなることは欧州の事例でもあきらかです。

 

まして、アメリカの場合は、トランプ前政権への評価で社会は分断されており、この移民・難民受入れ問題はその分断を先鋭化させる極めてデリケートな問題でもあります。

 

逆に言えば、政権を失ったトランプ前大統領・野党共和党にとっては、格好の「攻めどころ」ともなります。

 

****バイデン政権「移民危機」に復権のチャンスを伺うトランプ派****

アメリカ南部のメキシコとの国境に、子どもだけの移民が殺到する異常事態が続いている。3月は前月から倍増し、史上最多の約1万9000人に達した。「移民危機」は、対応が後手に回ったジョー・バイデン米政権の急所になりつつある。

 

定員の16倍の子どもが密集

夜陰に紛れ、高さ4.3メートルの国境フェンス上にまたがった男が、抱えた少女を米国側にゆっくりと降ろしていく。地面まで高さ約2メートル。ボトリと落ちた少女は衝撃で前のめりに突っ伏し、約15秒間もうずくまっていた。2人目の少女を米国側に落とすと、男は奥にいたもう1人とともにメキシコ側に走り去った――。

 

ニューメキシコ州で3月30日夜、米国境警備隊の暗視カメラがとらえた密入国の瞬間だ。すぐに警備隊が駆けつけて少女たちは無事保護されたが、現場は最寄りの住宅まで数キロも離れた砂漠地帯だった。少女たちは南米エクアドル出身の5歳と3歳で、逃げ去った2人組は密航手引き人とみられている。

 

テキサス州でも4月1日、警備隊の車両に10歳の中米ニカラグアの少年が泣きながら助けを求めた。ワシントンポスト紙などによると、少年は3月、母と一緒に国境を越えたものの、警備隊にメキシコ側に追い返され、その直後に母とともに誘拐された。

 

米国に住む親族が身代金の要求額の半分を支払ったことで少年だけ解放されて米国側で放置され、砂漠地帯を1人で4時間さまよったという。

 

テキサス州と国境を隔てるメキシコ北部は、麻薬カルテルが激しい縄張り争いを繰り広げ、米国務省がシリアやアフガニスタン並みとも位置付ける危険地帯だ。カルテルが「コヨーテ」と呼ばれる密航手引き人を囲い込み、身代金目的で移民を誘拐する事件も相次いでいる。

 

米税関・国境警備局(CBP)の統計によると、3月に見つかった密入国者は約17万2000人。今年1月までは4カ月連続7万人台だったが、バイデン政権発足直後の2月に10万人台に乗り、そこからさらに跳ね上がった。 

 

なかでも際立つのが、保護者がいない「子どもだけ」の移民だ。1月は5852人だったが、2月に9431人と急増し、3月にはさらに倍増して1万8890人と史上最多となった。

 

すでに当局の対応能力を超えており、3月30日に米メディアに公開されたテキサス州の移民収容施設は、アルミホイルの緊急用ブランケットに身を包んだ小中学生くらいの子どもたちが足の踏み場もない状態でたたずんでいた。

 

CBSニュースによると、新型コロナウイルス対策に基づく収容定員250人の16倍を超す約4100人が収容されていた。

 

子どもは72時間以内に環境のよい保護施設に移送される決まりだが、約2000人が刑務所のようなこの収容施設に超過滞在している状態で、15日以上留め置かれている子もいるという。

 

保護者のいない子どもに限って受け入れ

子どもの移民が国境に殺到する事態の引き金を引いたのは、バイデン政権自身だった。

 

ドナルド・トランプ前政権は昨年3月からコロナ対策を名目に密入国者を即時国外退去処分としてきたが、バイデン政権は保護者のいない子どもに限って、人道的対応として受け入れを再開した。

 

移民の目線で見れば、親と一緒なら退去させられるが、子どもだけなら確実に受け入れてもらえるうえ、最終的に米国にいる親族の元まで送り届けてくれる、ということになる。

 

警備隊幹部はCNNの取材に「多くの家族がメキシコで自ら離れ離れになっている」と指摘した。家族で密入国していったん国外退去になった後、子どもだけを再び送り出すケースが増えているのだという。

 

親たちが子どもだけでも米国に行かせようとする背景には、母国・中米諸国の窮状がある。

 

もともと治安悪化と貧困で多くの移民を送り出してきた地域だが、昨年は新型コロナ流行で経済に急ブレーキがかかったうえ、11月に2つの大型ハリケーンが直撃した。グアテマラやホンジュラスなどで200人以上が死亡し、730万人が被災した。

 

そこに登場したのが人道的対応を掲げ、トランプ前政権時代の移民排除策の撤回を公約したバイデン政権だった。

 

切羽詰まった中米貧困層の間で期待が高まり、バイデン氏就任直前の1月中旬には、ホンジュラスから出発した移民キャラバンに数千人が加わった。隣国グアテマラ当局が催涙ガスで追い返したものの、その後は集団行動を避け、動きはより把握しにくくなっている。

 

届かなかったバイデン氏のメッセージ

バイデン政権の分かりにくい情報発信が誤解を生んだ側面もある。

 

バイデン氏は1月20日の就任初日、国境の壁建設を中止する大統領令に署名するなど、移民政策の大転換をアピールした。貧困や暴力など移民が母国を離れる根本的な原因に対処することを約束し、40億ドル(約4400億円)の支援を表明。メキシコ側で審理を待たされてきた難民認定申請者の入国を認め、彼らが歓喜する様子がメディアで報じられた。

 

その一方、排除策の柱だった即時国外退去は子どもを除いては維持しており、政権幹部は「今は来ようとしないで」と呼びかけていた。

 

バイデン氏も就任前の昨年12月の会見で「就任初日にすべての規制を撤廃するわけにはいかない」と段階的に取り組む方針を示し、拙速に進めれば「突発的な危機が起き、我々の取り組みが困難に陥ってしまう」との懸念を示していた。

 

ハードルは徐々に下げるし、手も差し伸べるから、今すぐは来ないで欲しい――。そんな込み入ったメッセージは期待を膨らませた移民の耳には届かず、バイデン氏が恐れていた懸念が的中した。

 

米メディアは「移民危機」「人道危機」として連日報じるが、バイデン政権は人道的対応を掲げているだけに、前政権のように米軍を派遣して威嚇したり、催涙ガスで追い払ったりするわけにもいかない。

 

バイデン氏は3月16日、米テレビで「私がナイスガイだから来ていると聞くが」と、移民の「誤解」に触れ、「来るな、とはっきり言う」と強調。翌週にはカマラ・ハリス副大統領を移民対策の責任者に任命してメキシコや中米3カ国との調整に当たらせたり、移民を思いとどまるよう促すラジオCMを中南米で流したりしているが、移民の通り道にあたるメキシコやグアテマラに食い止めてもらうしかない状況だ。

 

勢いづくトランプ派

「危機」が長引いたり、対応に失敗したりすれば、来年11月の中間選挙に向けた政権のアキレス腱になりかねない危うさをはらむ。

 

実際、移民問題は近年、選挙の年に政治問題化して時の政権を揺さぶってきた。

 

大きな社会問題になったのが、バイデン氏が副大統領だったバラク・オバマ政権下の2014年。今回と同様に子どもや家族連れが殺到して収容能力を超え、「人道危機」と批判された。

 

2016年の大統領選では、共和党候補だったトランプ氏の壁建設の主張が大きなうねりを巻き起こした。2018年の中間選挙前には、大統領になったトランプ氏の「親子引き離し政策」が猛反発を受けて撤回を余儀なくされ、その後、移民集団キャラバンの到来で大騒ぎになった。

 

移民問題がコロナ禍、経済危機、黒人差別問題の陰に隠れた2020年の大統領選は、むしろ例外だったといえる。

コロナ対策などで順調な滑り出しを見せたバイデン政権にとっては、すでに移民問題が急所になりつつある。

 

AP通信などが3月25〜29日に行った世論調査では、政権の移民政策について56%が「支持しない」と回答し、コロナ対策や経済など9項目で最も低評価だった。子ども移民への対応を個別に聞いた質問では、支持は24%にとどまった。

 

バイデン氏が3月25日に就任後初めて開いた記者会見でも、質問は移民問題に集中。「移民が冬に急増するのは毎年のことだ」「トランプ政権に壊された対応能力の立て直しには時間がかかる」などと釈明に追われた。

 

不法滞在者に市民権獲得の道を開くバイデン氏肝いりの法案は下院を通過したものの、野党共和党は一段と批判を強めており、上院で成立する見込みは立っていない。

 

野に下ったトランプ氏も3月21日に声明を出し、「史上最も安全な国境を引き継いだのに、国家的な大災害に変えてしまった」とこき下ろした。

 

実はトランプ氏は、こうした事態を「予言」していた。

連邦議会議事堂への襲撃事件の渦中にいた1月12日、テキサス州の国境付近までわざわざ足を運び、壁を前にこう語っていたのだ。

「もし我々の国境安全策が覆されたら、不法移民の津波の引き金になるだろう。いまだかつて見たことないような波だ」

 

トランプ氏は最近、自らに近い政治家を「推薦」する声明を次々と出したり、フロリダ州パームビーチの邸宅「マール・ア・ラーゴ」で共和党議員や大口献金者らと相次いで会合を開いたりと、動きを活発化させている。

 

トランプ氏の退任早々に「マール・ア・ラーゴ」を訪れ、中間選挙への協力を取り付けた共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務は連日、ツイッターを封じられたトランプ氏を代弁するかのように「バイデンの国境危機は、国家安全保障の脅威だ」などと非難を続けている。

 

トランプ氏が「壁建設」で熱狂をさらった2016年の大統領選の再現を狙って、復権を懸けた来年の中間選挙で再び移民問題の争点化を仕掛け、子飼い議員の大量当選を狙う可能性もある。【4月19日 フォーサイト】

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バイデン大統領にとっては、なんとも厄介な問題です。強硬策に転じれば、急進派を多く抱える身内の民主党内の混乱にもなります。

 

祖国で命の危機にさらされている人々が、僅かな光明にもすがりつこうとしてアメリカを目指す・・・というのは仕方ないことでしょう。

 

また、そうした流入をネガティブに見る人々が多数存在するのも現実です。

 

しかし、軍を派遣して威嚇したり、催涙ガスで追い払ったりするのが正しいことなのか?子供だけの場合も、シリアやアフガニスタン並みとも言われる危険地帯に追い返すのか?

 

もちろん、長期的にはホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラなどの国内統治改善の問題ですが、当面の対応をどうするのか・・・バイデン大統領の方針が揺れるのもわかりますが、そうも言っておられません。

 

ホンジュラスなどの協力が得られれば打つ手もあるのでしょうが。

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