孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア イランとの直接対話 アメリカの戦略変更、軍事・財政事情でイエメン停戦を協議か

2021-04-18 23:38:25 | 中東情勢

(サウジアラビアの首都リヤドでファイサル外相(右)と会談する中国の王毅国務委員兼外相=3月24日【3月26日 産経】 人権問題を巡る米欧諸国の非難に強く反発している両国は、会談では「内政干渉に反対」することで一致したとのこと。)

 

【サウジ、イランが直接対話】

今日一番目を引いた記事が下記のサウジアラビアとイランの直接対話に関するもの。

 

****サウジ、イランが直接対話 英紙報道、和解調整か****

英紙フィナンシャル・タイムズは18日、中東で敵対するサウジアラビアとイランの当局者が9日にイラクで直接対話していたと伝えた。関係修復へ調整が進んでいる可能性がある。

 

米バイデン政権は、サウジ・イラン両国の代理戦争となったイエメン内戦の終結を目指しており、これに合わせサウジも停戦を提案していた。

 

同紙によると、対話はそれぞれの隣国イラクのカディミ首相が仲介し、首都バグダッドでサウジの情報機関高官が参加して行われた。イラク高官が同紙に対し、対話の実施を認めたとしている。【4月18日 共同】

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今のところ、上記記事のほかに情報がなく、「直接対話」の内容はわかりません。

 

中東情勢に関しては、従来の「イスラエル対アラブ諸国」という構図から、ここ数年は「イラン対サウジアラビア」という対立構図に変わったと言われていますが、その構図も更に変わるのでしょうか。

 

【中東から手を引くアメリカ】

イランについては、アメリカの厳しい経済制裁によって国内経済は深刻なダメージを受けていること、そのアメリカの核合意復帰・制裁解除を目指した交渉が進行していること、一方で、そういう流れに反対するイスラエルによるものとの見方もある核施設攻撃が行われるなど緊張した状態にあることなど・・・多々報じられていますが、一言で言えば、現在のイランは周辺国で活発な活動を展開するような余裕はないように思われます。

 

一方で、サウジアラビアもイエメン・フーシ派の攻撃にさらされるなど厳しい状況にありますが、これまで後ろ盾となってきたアメリカが人権重視の立場から、サウジアラビア・ムハンマド皇太子の強権手法に厳しい姿勢を取り始めたことや、中国との対立への対応に軸足を置く戦略変更などもあって、サウジアラビア・中東から「手を引く」姿勢を示していることも、サウジアラビアにとっては行動変容の背景にあると思われます。

 

****米、サウジの「今後の行動」重視 人権問題改善に期待=報道官****

米国務省のプライス報道官は1日、サウジアラビアとの関係について、同国の「今後の行動」を重視する方針を示し、人権問題の改善に期待すると表明した。

米国の情報機関を統括する国家情報長官室は先月26日、2018年に起きたサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏殺害事件について、サウジのムハンマド皇太子がカショギ氏の「拘束もしくは殺害する作戦を承認した」とする報告書を公表。複数のサウジ人に制裁を科したが、皇太子への制裁措置は見送った。

これを受け、人権擁護団体などから批判の声が上がっており、説明責任や、外交政策で人権問題を優先課題にするというバイデン米政権の公約に疑問が生じている。

プライス報道官は、記者会見で「われわれは今後の行動を非常に重視している。それがこの件を(米・サウジ関係の)決裂ではなく、再調整と位置付けている理由の一つだ」と述べた。

また「われわれはカショギ氏の残忍な殺害の背景にある組織的な問題に迫ろうとしている」と語った。

国家情報長官室は26日、サウジ警備隊のラピッド・インターベンション・フォース(RIF)がカショギ氏殺害に関与したとし、RIFに対する制裁を発動。サウジ国籍76人へのビザ(査証)制限も発表した。

プライス報道官はこの76人について、詳細は明かせないとし、ムハンマド皇太子が含まれるかどうかにも言及しなかった。【3月2日 ロイター】

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****バイデン氏、中東の米軍縮小指示 サウジからミサイル撤去****

ジョー・バイデン米大統領は、中東湾岸地域から一部の軍事力や部隊の引き揚げを開始するよう国防総省に指示した。中東から軸足を移し、世界的に米軍を再編する取り組みの第一歩となる。

 

米国は湾岸地域から少なくとも3基のミサイル防衛システム「パトリオット」を撤去した。1基はサウジアラビアのプリンス・スルタン空軍基地に配備されていた。こうした動きはこれまで報じられていなかった。

 

米当局者によると、空母や監視システムを含む一部の軍事力は、他地域における必要性に対応するため、中東からの移管が進んでいる。

 

パトリオットミサイルの撤去などによって、数千人の米兵が湾岸地域から撤収する可能性がある。昨年終盤の時点では、約5万人が同地域に駐留。約2年前は当時のトランプ政権とイランとの間で緊張が高まる中、米兵の数は約9万人に達していた。

 

中東では、サウジアラビアが親イラン勢力によるとみられるロケットやミサイルの攻撃にさらされている。米当局者によると、国防総省では軍事の縮小を進める一方で、装備や訓練でサウジへの協力を検討している。米政府はサウジ防衛の負担をサウジ政府に移していく考えだ。【4月1日 WSJ】

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アメリカはイラクからも撤退し、アフガニスタンからも9月11日で完全撤退するというように、中東から「手を引く」姿勢を明確に示しています。

 

【サウジ イエメン停戦案提示】

残されたサウジアラビアは自主防衛と言われても、イエメン・フーシ派の度重なる攻撃にさらされています。

サウジアラビアの弱点は、国家経済の根幹をなす石油施設が隠しようもない格好の攻撃対象となっていること。

 

また、「お金持ち」と見られていたサウジアラビアもイエメンへの軍事介入は大きな財政負担となっており、ムハンマド皇太子が目指す脱石油経済への改革路線「ビジョン2030」の足を引っ張ることにもなっています。

 

そうしたことで、サウジ・ムハンマド皇太子としても、イエメン介入をなんとか終わらせたいようです。アメリカもその方向を支持しています。

 

****イエメン内戦 サウジがフーシに停戦案 合意は見通せず****

中東イエメンの内戦をめぐり、ハディ暫定政権の後ろ盾として軍事介入を続けてきたサウジアラビアは22日、反政府武装組織フーシに対する停戦案を示した。サウジの国営通信が報じた。

 

内戦終結を求めているバイデン米政権の意向に沿った形だが、フーシ側は「新しいものは何もない」などと反発しており、合意にいたるかは不透明だ。

 

国営通信によると、サウジ外務省が発表した停戦案は「イエメンの人々の苦しみを終わらせる」などとして、国連の監督下でのイエメン全土での停戦を提案。

 

紅海に面したホデイダ港と首都サヌアの国際空港の封鎖解除も盛り込んだ。いずれもフーシ側支配地域にあるが、サウジなどの有志連合軍が包囲しており、事実上の封鎖状態にある。

 

国連によると、イエメン国内では2015年から続く内戦で人口の約半分の約1600万人が飢餓の瀬戸際にいるとされるが、物流の停滞から特にフーシ支配地域に支援物資が行き渡らないことが問題になっていた。

 

バイデン米政権は内戦を「人道上の大惨事」と表現し、2月に、イエメン内戦に使用される武器のサウジへの売却停止を決定した。トランプ前政権が行ったフーシへの「外国テロ組織」指定も解除するなど、内戦終結に向けて介入を始めた。

 

その後、フーシはイエメン西部の暫定政権側の支配下にある産油地帯マーリブで攻勢を強め、サウジ国内の石油施設などにも無人機で攻撃を繰り返し、それに対してサウジは首都サヌアなどへの空爆で応酬し続けるなど、状況はさらに悪化していた。

 

フーシの報道官は22日の声明で、港や空港の封鎖解除が停戦案に盛り込まれたことを批判し、「この瞬間から(サウジなどの)侵略や包囲が止まるのなら、私たちも攻撃を止める。だが(港や空港の封鎖解除という)人道支援上の問題を政治的、軍事的な問題(停戦案)と引き換えにするのは受け入れられない」と主張した。合意への交渉は難航が予想される。【3月23日 朝日】

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【その後も続くドローン攻撃 標的となっているアラムコ石油施設】

その後、この停戦案がどのように位置づけられているかは知りませんが、少なくともフーシ派のサウジ攻撃は更に激しくなっているようにも見えます。

 

“フーシ派、サウジ軍基地やアラムコの石油施設に無人機攻撃”【3月26日 ロイター】

“サウジ連合、フーシ派発射の爆発物搭載ドローンを迎撃=国営TV”【4月3日 ロイター】

“サウジ連合、フーシ派発射の爆発物搭載ドローン6機を撃墜=TV”【4月12日 ロイター】

 

連日の攻撃で、サウジ側は「迎撃」「撃墜」としていますが、フーシ派は被害を与えたとしており、(双方が「大本営発表」的で)実態はよくわかりません。

 

****フーシ派、サウジ南部のアラムコ施設攻撃 ミサイル防衛システムも****

イエメンの親イラン武装組織フーシ派は15日、サウジアラビア南部ジザンの複数の標的をドローン(無人機)やミサイルで攻撃したと発表した。このうちサウジ国営石油会社、サウジアラムコの施設では火災が発生したとしている。

フーシ派は、ミサイル防衛システム「パトリオット」の構造物なども攻撃したと主張。サウジは火災や攻撃について確認していない。

国営メディアによると、イエメンでフーシ派と戦うサウジ主導連合軍は先に、ジザンに向けて発射されたフーシ派の武器搭載ドローンを破壊したと述べていた。【4月15日 ロイター】

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仮に被害は少ないにしても、市販品でも組み立てられるような超安価なドローンを、億円単位の超高価なパトリオットなどで迎撃していたのではコスパ悪すぎます。(このあたりは、イエメンだけでなく、今後の戦争のあり方が変わってきていることを示すもので、日本も防衛戦略上考える必要があるところです)

 

石油施設が攻撃対象となっているアラムコはサウジ国家財政の虎の子であり、ムハンマド皇太子の「ビジョン2030」の財源でもあります。

 

アラムコの業績はただでさえコロナ禍で厳しい状況です。

 

****サウジ国営石油会社 去年の最終利益 前年比44%減 コロナ影響****

世界最大級の石油会社「サウジアラムコ」の去年1年間の最終的な利益は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う原油需要の落ち込みを受け、前の年に比べて44%減少しました。

中東サウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコは、21日、去年1年間の決算を発表しました。

それによりますと、最終的な利益は490億ドル、日本円で5兆3000億円と、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け原油の需要が落ち込んだ影響で、前の年に比べて44%減少しました。

ナセル最高経営責任者は声明で「近年で最も厳しい年の一つとなった」と振り返る一方、ことしについては「アジアで需要が回復し、その他の地域でも前向きな兆候が見られる」として、需要が持ち直すことへの期待感を示しました。(後略)【3月22日 NHK】

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ムハンマソ皇太子は、アラムコ株の追加放出で「ビジョン2030」の財源を確保する腹積もりです。

 

****サウジ皇太子、アラムコ株の追加放出を表明****

サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子は28日、2019年に国内市場で新規株式公開(IPO)を実施した国営石油会社サウジアラムコの株式を追加放出する方針を表明した。

 

新型コロナ危機により消費国の脱炭素への動きが加速するなか、石油資産の現金化を急ぎ、石油に頼らない国づくりへの改革を加速する。

 

皇太子は28日まで開いた恒例の国際投資会議「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ(FII)」に登場し「数年のうちに」政府保有株を追加で売却すると述べた。

 

売却収入は経済改革のエンジン役を担う政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)に入り、「国内や海外の市場に再投資してサウジ国民の利益につなげる」と指摘した。(後略)【1月29日 日経】

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そのアラムコの石油施設が連日のようにフーシ派のドローン攻撃を受けていては、ムハンマド皇太子も困ります。

 

フーシ派の後ろ盾となっているイランとの直接対話で、なんとかイエメン情勢について停戦ぬ向けた道筋をつけたい・・・・というのが、冒頭記事のサウジ側の背景でしょうか。

 

コメント
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