孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア・イエメン  内戦状況下での市民による新しい取り組み 女性起業家も

2021-04-26 22:22:07 | 北アフリカ

(イエメン首都サヌア北西のアブスで太陽光発電所を運営するイマン・ハディさん率いる女性グループ(2021年3月9日撮影) 【4月25日 AFP】)

 

【多難な暫定統一政府】

内戦が続くリビアでは、対立してきた東西両勢力の合意のもと、デイバ暫定首相率いる暫定統一政府が3月中旬に成立しています。

 

暫定首相は西から、暫定統一政府を監督する執行評議会議長は東からという権力分担のようです。

しかし、西を支援するトルコ、東を支援するロシアによるそれぞれの傭兵が残存しており、いつ戦闘が再燃してもおかしくない状況でもあります。

 

****内戦終結なるか? リビアでデイバ暫定統一政府が始動****

内戦が続くリビアで、対立してきた東西両勢力が認めるデイバ暫定首相率いる暫定統一政府が3月中旬に始動した。任期は12月に予定される大統領選、議会選までとなる。

 

一部の戦争捕虜が解放されたほか、これまで別々の勢力を支援してきた地域大国のトルコとエジプトの間では関係改善の動きもあり、何度も頓挫してきた内戦の終結に結びつくかが注目される。

 

北アフリカ随一の石油大国リビアでは2011年のカダフィ独裁政権崩壊後、複数の武装勢力が割拠。15年以降は西部のシラージュ暫定政権と東部を拠点とする民兵組織「リビア国民軍」(LNA)の勢力争いが続き、20年前半には西部の首都トリポリを巡る攻防戦が一時激化した。

 

しかし20年10月に停戦合意が結ばれ、国連が仲介する対話が進展。21年2月にはリビア西部・東部・南部の代表75人がスイスで会合を開き、暫定統一政府メンバーが投票で選出された。

 

デイバ暫定首相は西部ミスラタ出身で、暫定統一政府を監督する執行評議会は東部トブルク出身のメンフィ議長が率いるなど、地域間のバランスも考慮されている。西部勢力は3月、和解の意思表示として東部LNAの捕虜100人以上を解放した。

 

こうした中、西部勢力を軍事支援してきたトルコと東部LNAを支えてきたエジプトには接近の動きもある。エジプト外交団は20年12月にトリポリを訪問し、トルコが支援する西部陣営幹部らと会談した。

 

イスラム組織「ムスリム同胞団」と近いトルコのエルドアン政権は、エジプトで同胞団系のモルシ大統領(当時)が13年に軍の介入で失権させられて以降、エジプトと対立。これがリビアにも飛び火し、東西対立を助長する一因となってきた。

 

だがトルコは近年、東地中海での資源開発を巡る周辺国との摩擦などによって孤立し始めており、外交方針の転換を模索しているとみられる。

 

ただ、リビアでの内戦終結には懸案も残る。停戦合意には「外国戦闘員の排除」が盛り込まれたが、西部にはトルコ軍、東部にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊などが駐留を続けている。

 

エジプトのリビア専門家、アブデル・サッター・ヘテイタ氏は「トルコとエジプトの主導権争いは続いており、民兵組織や外国部隊の存在も危険要素だ」と指摘。「暫定統一政府が12月の選挙を実施し、新たな政府と議会を誕生させることが危機を終わらせる最初のステップとなる」と分析している。【4月6日 毎日】

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でもって、最近の状況は・・・あまり順調に機能しているようにも思えません。

 

****相も変らぬリビア情勢****

リビアでは新しい統一政府ができ、12月には大統領と議会の選挙の実施が合意される等、リビア問題の政治的解決に向けて重要な動きがあったように見えますが、その後はシルトでの停戦も必ずしも安定していない等、その実情は相変わらずのようで、アラビア語メディアから見る限り、問題は軍閥の長たるhaftar将軍と議会議長にあるように見えますが、複雑すぎて、何が実相かよくわかりません
とりあえずアラビア語メディアから

・内戦開始から初めて、リビア政府の会合がベンガジ(東部リビアの中心都市でリビア議会議長やhaftar将軍等の本拠地)で26日開催されることとなり、統一政府首相がこれまた内戦後初めてベンガジに入ることとなった

・然るhaftar 指揮下のリビア民兵が、25日、dabiba首相を暗殺すると警告した。

・政府のベンガジ開催については、その準備にあたる関係者が空路到着したが、このような状況を受けて26日に予定されていたベンガジでの閣議は延期された

・他方米国の新政権誕生を受け、これまでリビア問題に消極的であった米国がその政治的解決に熱心となり、中リビア米大使が議会議長と接触する等動き出した。
その背景は一つにはリビア議会議長が、政府の提出した新しい予算案の審議を拒否していることにある【4月26日 「中東の窓」】

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暫定首相を暗殺云々、予想された暫定統一政府と執行評議会の対立・・・12月に大統領と議会の選挙が行えるかどうか、日本の東京五輪と同程度でしょうか。

 

【市民による起業の取り組みも 塩セラピーに水耕栽培】

今日書きたかったのはそういう話ではなく、リビアというと内戦・東西対立のこと、難民の悲惨な境遇などがいつも話題になりますが、(もちろん、それらは極めて重要な視点ですが)そういう状況下でも、市民の新しい生活を求める動きもあるということです。

 

****塩セラピーのスパ、リビア革命の聖地を癒やす新ビジネス****

反カダフィ革命の聖地として知られる、リビア東部の主要都市ベンガジ。戦火で引き裂かれたこの国で思いもよらなかった癒やしのビジネスが、この地に登場した。

 

10年前、独裁者ムアマル・カダフィ大佐の打倒を目指して市民が立ち上がった港湾都市に昨年10月、リビア初の塩セラピーのスパがオープンした。

 

2人の女性起業家が立ち上げたスパの名前は「オパール」。静かな音楽と控え目な照明に包まれた瞑想(めいそう)的な雰囲気の中で、心地よい施術が行われる。それぞれの部屋は、塩でできた人工洞穴のようだ。

 

「塩の粒子を吸い込むことで呼吸器が浄化され、肌にも良い効果がある」と説明するのは、共同設立者で代替医療の専門家イマン・ブガイギスさんだ。

 

彼女はシャベルを使って、30代の男性客の両脚を塩に埋める。客は目を閉じ、塩の塊を両手で握り、ゆっくり呼吸を続けた。

 

別の部屋には、ヨウ素が添加された塩の粒子を散布している装置があった。

 

1回の施術は45分ほどで、料金は80〜120リビア・ディナール(約1900〜2900円)。効果を得るには数回通う必要があるとブガイギスさんは述べた。

 

■「痛みが和らいだ」

ベンガジの流行地区の真ん中にあるオパールが提供する塩セラピーは、ぜんそくなど呼吸器系の症状や湿疹・乾癬(かんせん)を含む皮膚疾患の治療に有望だという。

 

この都市は内戦中、東部勢力のハリファ・ハフタル司令官の牙城だったため、爆発の跡や破壊されたビルが目立つ。

 

(中略)ブガイギスさんは他のアラブ諸国を旅行中に、塩を使う治療法を知ったという。その後、隣国チュニジアで代替医療を学んだ。

 

慢性病に対する塩セラピーの効能を確信したブガイギスさんは、帰国すると知人のザイナブ・アル・ワルファリさんとともに新ビジネスを立ち上げた。

 

■平穏な日常

オパールの開業はちょうど昨年10月、東部勢力と首都トリポリの国民統一政府の間で停戦合意が結ばれた時期と重なった。新たな暫定統治評議会が2月に発足し、12月の国政選挙に向けて体制を整えている。長年不安定な状態にあるリビアでは、ビジネスの見通しはつけにくい。

 

ワルファリさんは、塩セラピーの考え方をまずベンガジ市内の医療関係者に広めるところから始めるつもりだ。「そうすれば一般の人々にもできる限り行き渡る」と考えている。オパールでは、あらゆる年齢の患者を診る用意ができている。

 

カダフィ大佐殺害から10年、繰り返された戦闘を経て、リビアの人々は平穏な日常を取り戻そうとしている。 【3月13日 AFP】

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東部勢力のハフタル司令官の牙城ベンガジで塩セラピーのスパ、しかも立ち上げたのは女性起業家・・・内戦や難民だけでなく、こういう動きもあるのかと驚いたのですが、驚く方が物事の一面しか見ていないということなのでしょう。

 

次は首都トリポリでの水耕栽培事業。

 

****国土9割が砂漠のリビアで「緑のパラダイス」 食料自給率向上に奮闘****

黄色い防水シートに覆われたトンネル形の温室で、シラジュ・ベチアさんとパートナーのムニルさんは水耕栽培のレタスの出来を調べていた。国土の9割が砂漠で、伝統的な農業が困難なリビアでは先駆者だ。

 

この「グリーンパラダイス」で貴重な作物を支えているのは、プラスチックのカップに穴を開けた鉢と、ホームセンターで購入した合成樹脂管、結束バンド。間に合わせの園芸用品ではあるが、作物はぐんぐん成長し続け、栄養分と酸素濃度の高い水を送り込まれたレタスが白い根を長く伸ばしている。

 

ベチアさんとムニルさんは首都トリポリの東40キロの小さな町で何か月もこのプロジェクトに打ち込んでいる。

ベチアさんはAFPに、水量が少なくて済み、農薬も要らない水耕栽培を広めていくのが願いだと語った。

 

国土の大半を不毛な砂漠が占めるリビアで、水耕栽培は食料の自給自足率を高めることにつながるというのがベチアさんの考えだ。

 

アフリカ最大の原油埋蔵量を誇るリビアでは、経済は炭化水素関連の分野を中心に回っており、農業は脇に追いやられている。耕作に適した土地は国土のせいぜい3%しかなく、地中海沿岸の肥沃(ひよく)な土地にも都市化が急速に広がっていることから、残されたわずかな土地もこの先どうなるか分からない。

 

農業をさらに難しくしているのが、農作業に最も必要な水が不足していることだ。

 

南部の地下水面からくみ上げられた飲料水は、リビアの大規模なパイプラインを通じて国民の大半が暮らす北部の各都市に運ばれている。だが、水資源には限りがあり、この供給網も、独裁者だった故ムアマル・カダフィ大佐の失脚以来10年間続いた内戦による損壊が激しい。

 

■「リビアの消費者は有機野菜を求めるようになった」

水耕栽培は、理論上は従来の農法に比べると収穫量も収益も多い。従来の農法は、天候や水不足の影響を受ける一方で、野放図な農薬散布による汚染のリスクもある。

 

ベチアさんは、「リビアの消費者は農薬まみれの野菜にそっぽを向き、有機野菜を求めるようになった」と指摘する。

 

水耕栽培の野菜は農薬まみれではないにしても、味が水っぽいとけなされることもある。また一般的には有機野菜には分類されないが、専門家は、リビアの水不足を補う新たな農法として、水耕栽培に期待を寄せている。

 

とはいえ、普及するにはまだ多くの障害がある。手間がかかり、リビアで必要な材料を調達するには費用がかかり過ぎると専門家は指摘する。

 

それでもベチアさんはくじけない。「根気強く続けて、信念を貫くしかありません」 【4月24日 AFP】

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おそらく一般庶民向けではない、高級食材でしょう、今は。

それでも、リビアの土地・水資源を考えると、将来が期待されます。

 

【内戦のイエメンでも女性起業家による太陽光発電事業】

一方、4月18日ブログ“サウジアラビア イランとの直接対話 アメリカの戦略変更、軍事・財政事情でイエメン停戦を協議か”でも取り上げたイエメン。

 

内戦の状況については新たな情報を見ていませんが、リビア同様、内戦に負けない市民の新たな動きも。

 

****女性だけの太陽光発電所 イエメン内戦に苦しむ家々に光****

イエメンで10人の女性が、周囲から冷ややかな目で見られながら、ひるむことなく地元の村に電気をもたらすという先駆的な取り組みを実現した。

 

イマン・ハディさんと仲間の女性たちは今、戦禍で荒廃した国内各地に太陽光発電を利用したマイクログリッド(小規模発電網)を拡大する夢を抱いている。

 

イエメンは、壊滅的な内戦によって大半のインフラが破壊され、国民は飢えと貧困に苦しんでいる。

 

ハディさんは2019年から、首都サヌア北西に位置し、反政府武装勢力が掌握するアブスで「フレンズ・オブ・エンバイロメント発電所」を女性のみで運営している。太陽光パネル6基を備えたこの発電所は、村の数十世帯にとっては唯一の電力供給源だ。

 

事業のアイデアは、アラビア半島の最貧国イエメンで、戦争の影響を少しでも和らげるために自分たちで何かできないかと模索した時に生まれたとハディさんは言う。

 

■地元への融資で市民を援助

イエメンでは、2014年以降、紛争による死者は数万人に上る。同国では、イランから支援を受けた反政府武装勢力フーシ派と、国際社会が支持し、サウジアラビア主導の連合軍が援助する政府が内戦を続けている。

 

紛争前に公共電力供給網を利用していたのは、国民の約3分の2だけだったが、内戦によって発電所をはじめ、病院や事業所も破壊されるか休業に追い込まれた。深刻な燃料不足もあり、多くの市民がろうそくの火を頼りに働くことを余儀なくされている。

 

絶望の底にあるイエメンで希望の光となっているのは、都市部や農村の住宅の屋上に設置され始めた太陽光パネルだ。

 

ハディさんの発電所は、国連や欧州連合に資金と研修を受けて運営されているが、こうした事業は市民が収入を得る一助にもなっている。

 

ハディさんは毎月約2000ドル(約22万円)の純利益から小口融資を行い、地元の人々が食料品店やパン店などの小規模事業を始める援助をしている。

 

■以前はばかにされ、今は尊敬されるように

とはいえ、起業家としてのハディさんの道のりは険しいものだった。

 

コンクリートの壁に囲まれた小さな発電所が位置するのは、反政府勢力と政府軍との戦闘がたびたび発生する前線地域だ。しかも、農村社会では女性が家庭の外で働くことが受け入れられていない。

 

「試練はたくさんありました。この種の仕事は男性がやるものと思い込んでいる家族や地元の社会からは笑われ、反対されました」とハディさんは言う。「でも私たちはこうした困難に粘り強く対処してきました。ばかにされていましたが、今では女性たちは感謝され、尊敬されるようになりました」

 

ハディさんの事業は、気候変動と闘う人々をたたえる「アシュデン賞」(人道支援のためのエネルギー部門)を獲得している。国連開発計画は、同事業を現3か所から全国100か所に拡大する取り組みを行っている。ハディさんは、英BBCによる2020年の「世界で最も影響力のある女性100人」の一人にも選ばれている。

 

ハディさんの長期計画は、地元地域の3060全世帯に太陽光発電の供給を広げることだ。「この国の全ての女性に対する私のメッセージは、立ち上がり外に出て、自分の夢を実現しようということです」とハディさんは語った。 【4月25日 AFP】

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全くの素人感想ですが、イエメンなど大規模発電のインフラが不十分な地域では、太陽光発電というのは有効活用ができるツールなのでは。

 

そういう視点での資金的・技術的サポートがもっと望まれます。

 

リビアの塩セラピー同様、こちらも女性による起業。

 

リビアにしろイエメンにしろ、内戦状況という厳しい環境に加え、女性の社会進出に厚い壁のあるイスラム社会での女性起業家の奮闘、なんとか今後も頑張って「新しい社会」の1ページを作って欲しいものです。

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