孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マカオ返還25周年  一国二制度の「優等生」 激しい抵抗を生んだ香港との違いは?

2024-12-21 23:30:28 | 中国

(中国マカオ特別行政区で19日、祖国復帰25周年を祝う文芸公演が開かれた。【12月20日 新華社】)

【行政長官に初の本土出身者 本土との融合の象徴、「横琴島」開発】
*****マカオ返還25周年式典に習近平氏出席 「1国2制度」の成果強調****
マカオがポルトガルから中国に返還されて25年となった20日、マカオで記念式典が開かれ、中国の習近平国家主席が出席した。新華社通信によると、習氏は演説で「返還後にマカオが得た輝かしい成果は、『1国2制度』が強国建設と民族復興の偉業に資する良い制度だと示している」と述べ、中国が主導するマカオ統治の正当性を強調した。

1887年にポルトガルに割譲されたマカオは1999年12月20日に中国に返還され、特別行政区となった。英国から返還された香港同様、1国2制度を導入して50年間は高度な自治が約束された。

だが近年、香港とともに、中国による統制強化が進む。2021年の立法会(議会)選挙では民主派の立候補が禁じられたが、マカオ社会に民主主義を求める機運は乏しい。

習氏は演説で、香港やマカオの統治について「『1国』を基本として『2制度』の利点を生かすことや、高いレベルの安全を維持して質の高い発展を進めることが必要だ」と主張した。

20日にはマカオ政府トップの行政長官に岑浩輝(しんこうき)氏(62)が就任した。岑氏は中国南部・広東省出身で、マカオ終審法院院長(最高裁長官)を務めた。

返還後のこれまでの行政長官3人はいずれもマカオ生まれで、中国本土出身者は初めて。任期は5年。10月の選挙では他に立候補はなく、各界の代表で構成する選挙委員400人のうち394人の票を得た。

マカオメディアによると、岑氏は就任式で習氏に向かって宣誓し、「偉大な祖国の後ろ盾と住民の団結で、マカオという宝石はさらに輝けると信じる」と述べた。カジノ関連産業に依存する経済の改革が課題となる。”【12月20日 毎日】
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初の中国本土出身の行政長官をいただき、「新たな段階」に向かって中国との一体化が進むと思われます。

****マカオ返還から25年、一国二制度「新たな段階」に…習近平主席は強国建設への貢献を要求****
(中略)習近平国家主席が記念式典で演説し、マカオに適用される一国二制度は「新たな段階に入った」として強国建設への貢献を求めた。マカオは返還後50年は高度な自治を認められているが、その折り返しを迎える中、習政権は中国本土との一体化を加速させている。

習近平主席は「経済建設」に重点
習氏は一国二制度について、あくまでも「一国が原則」とし、「国家の主権、安全、発展の利益が何よりも優先される。中央(政府)の管轄権はいかなる時も揺るがない」と強調した。

習政権が米欧とは異なる独自の発展を目指す「中国式現代化」を推進していることにも触れ、「マカオの一国二制度の実践も新たな段階に入った」として発展への貢献を要求。マカオ政府に経済改革などを求めた。

習氏は、2019年のマカオ返還20年の記念式典の演説では、香港で反政府抗議運動が起きたことを受けて「国家安全」を強調したが、今回は中国の景気減速を受け、「経済建設」に重点を置いた模様だ。

行政長官に初の本土出身者
習氏は演説で「マカオ人によるマカオ統治」に言及したが、20日にマカオ政府トップに就任した岑浩輝しんこうき・行政長官は広東省出身で、初めて本土出身の行政長官となった。10月の行政長官選挙で岑氏が唯一の候補者だったのも、習政権の意向があった可能性がある。

マカオ経済はカジノ産業に依存し、コロナ禍で大打撃を受けた。改革の必要性は長年指摘されてきたが、これまでの行政長官は地元財界出身だったことから、「痛みを伴う改革ができなかった」との指摘もある。

習氏は、マカオ終審法院(最高裁)院長を25年間務め、地元財界との縁が薄い岑氏に「経済の適度な多元化」の実現を期待するが、「マカオ人による統治は崩れた」(外交筋)との声も上がる。

本土との融合の象徴、「横琴島」開発
演説で習氏がマカオと本土の融合を図る象徴として挙げたのが、マカオの西隣にある中国広東省珠海の横琴島の開発だ。21年、マカオと広東省が共同開発する区域に格上げされた。

開発の余地が限られる狭いマカオの3倍の面積がある横琴島で発展を促したい考えで、島内には昨年秋、マカオ住民のための27棟の高層マンションが完成した。

しかし、住民からは「マカオとの行き来が不便」といった声も上がり、全4000戸のうち売約済みは3割程度にとどまる。科学技術など先端企業の誘致を目指す産業区も人影はまばらだ。マカオ住民の意向を無視した、本土との「融合」ありきの開発が突き進んでいる。【12月21日 読売】
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【マカオってどんなところ?】
そもそも「マカオ」というのはどういうところなのか・・・国際金融都市で世界有数の観光都市でもある香港は馴染みも深く、また、これまでも民主化や中国当局の弾圧などで頻繁に取り上げられていますが、マカオというと「カジノがあるところ」ぐらいのイメージしかありません。 

ある意味、パレスチナ・スーダン・コンゴより馴染みがない・・・。アジア方面を頻繁に観光していますが、これまでマカオに行こうと思った事は一度もありません。「マカオって、カジノがある中国なんでしょ」って。

****「アジアのラスベガス」、マカオの住民の暮らしぶりとは****
マカオは中国の特別行政区(SAR)で、香港と比較されることが多い。また大中華圏でギャンブルが合法である唯一の場所であり、「アジアのラスベガス」として知られる。人口は香港の700万人に対し、わずか60万人ほどだ。

マカオは、北のマカオ本島と南のタイパ島の二つの島で構成されている。かつては2島間を船で移動していたが、1972年に二つの島を結ぶ最初の橋が完成した。現在は3本の橋が架かっており、4本目も建設中だ。

わずか40平方キロメートルの世界
世界の人々は、マカオといえばギャンブルを思い浮かべるかもしれないが、マカオの住民は必ずしもそうではない。
マカオで最も古い家族の出身で、8代目のマカオ人であるマリナ・フェルナンデスさんは、ポルトガル語と中国語が混ざったパトゥア語を話す。

フェルナンデスさんによると、地元の住民はめったにカジノには行かず、ギャンブルをしにカジノに行く人はごくわずかだという。また公務員はカジノへの立ち入りを禁止されており、ギャンブルは地元の住民向けというより、観光客向けの娯楽だとフェルナンデスさんは言う。

マカオの生活費の上昇により、カジノや高級店の従業員の中には、マカオに隣接する比較的物価の安い中国本土の都市、珠海(しゅかい)から通勤する人が増えており、それに伴い、広東語ではなく標準中国語を話す従業員も増えている。

マカオは特別行政区であるため、珠海・マカオ間の往来には国境検問所を通過する必要があるが、中国の身分証を保有するマカオの永住者と市民は専用のレーンがあり、審査が迅速に行われる。

2021年のマカオの国勢調査によると、マカオの総人口のおよそ6分の5は中国系で、ポルトガル系はわずか数千人しかいない。

ポルトガル語は現在もマカオの公用語であり、標識や政府文書はポルトガル語の使用が義務付けられている。しかし、多くの地元住民は、特に1999年のマカオ返還(マカオの主権がポルトガルから中国に返還された)に先立ち、ポルトガル語ではなく英語や標準中国語を学ぶ選択をした。

インフラの整備が課題
タイパ島東部にあるマカオの空港は、小規模でターミナルも一つしかないが、近代的で、空港内の移動も容易だ。周辺地域からのフライトが大半で、シンガポール、ジャカルタ、ハノイ、バンコク、北京などへの定期便があるが、北米や欧州への長距離便に乗るには近くの香港、深圳、広州に行く必要がある。

現在、中国は香港、マカオ、広東省の9都市を結ぶグレーターベイエリア(GBA)の接続・促進を目的とした多くのプロジェクトを進めており、2018年に完成した、香港・珠海・マカオを結ぶ世界最長の巨大な海上橋、港珠澳(こうじゅおう)大橋もその一つだ。

一方、マカオ内部のインフラは十分に整備されているとは言い難い。車を持たない地元住民は主に公共バスを利用している。

香港には効率的で、よく整備された地下鉄があるが、19年に開業したマカオ唯一の鉄道、マカオLRTは今のところ一路線しかない。また米配車サービス大手ウーバーは17年にマカオでのサービスを中止しており、市内を走るタクシーは現金払いのみだ。

外国人に厳しい労働政策
マカオはその規模の小ささゆえに、外国人に対して厳しい労働政策を実施している。

リスボン出身のリカルド・バロカスさんは、13年に欧州からマカオに移住して以来、さまざまな職に就いてきた。
バロカスさんのようにマカオに移住した外国人の大半は、マカオで7年間居住、労働、納税をした後に永住権を取得する資格を得る。永住権があれば、労働ビザやスポンサー企業がなくてもマカオに居住可能だ。

マカオ政府発行の身分証明書(IDカード)を持つ居住者は、特別行政区の医療サービスを利用できる。またマカオ市民と永住者には、特別行政区政府から年間1万パタカ(約20万円)の手当が支給される。

しかし、フィリピンなど、マカオよりも貧しい地域から来た労働者の多くには別のルールが適用される。多くのフィリピン人は、家政婦や警備員として働くためにマカオにやって来るが、彼らは地元住民と結婚しない限り、永住権や市民権の資格を得ることはできない。(中略)

バロカスさんは「本音を言うと、マカオに来た人たちにはぜひ、カジノから出てきて、街の中を探索してもらいたい」と述べ、「マカオには美しい美術館や街並みなど、探索すべき場所が山ほどある」と付け加えた。【7月6日 CNN】
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【香港との違いは? アイデンティティーの差か】
香港と同じような「一国二制度」を導入しながら、香港が激しい民主化運動を経験した(今では完全に封じ込まれましたが)のに対し、“一国二制度の優等生”マカオについては、そのような話をほとんど聞かない。その差はどうして?

下記記事は5年前の香港で民主化運動が行われていた頃のもの。

****香港と同じ一国二制度 マカオではなぜ反中デモが起きないのか**** 
マカオを訪問中の中国の習近平国家主席は19日、夕食会で演説し、中国への返還20周年を迎えるマカオが「愛国」を「民主、法治、人権、自由」より優先したと称賛した。

デモが続く香港を牽制した形だが、香港と同じ一国二制度を享受するマカオでなぜ「愛国」が進み、反中デモが起きないのか。一国二制度の優等生が誕生した背景を探った。

マカオと香港の違いはまず、それぞれの旧宗主国であるポルトガルと英国によって形成された。

マカオでは1966年に中国系住民による大規模な暴動が発生、中国系住民側に死者が出た。反発した中国政府は人民解放軍を国境に集結させ、謝罪と賠償を要求。譲歩を余儀なくされたポルトガル政府とマカオ政庁の権威は失墜した。

マカオ立法会(議会)の民主派議員、蘇嘉豪(そ・かごう)氏(28)は「以後、マカオは親中派に牛耳られた。返還前に英国が民主化を進めた香港とは違う」と話す。

こうした歴史的背景に加え、返還前夜の状況もマカオの中国化を加速させた。

マカオでは99年の返還が近づくにつれ、中国の体制下に入る前にカジノの利権を確保しようと暴力団の抗争が激化、治安が極度に悪化した。このため返還と同時に駐留を開始する人民解放軍に、治安回復への期待を寄せるマカオ市民が多かった。進駐を拍手で迎えた市民もいたほどだ。

「香港の若者が今、抗議の声を上げているのは閉塞感があるからだ。マカオの若者とは異なる」と経済的背景の違いを強調するのは立法会の民主派議員、区錦新(く・きんしん)氏(62)である。

返還後、カジノ市場を開放したマカオは、昨年までの19年間で域内総生産(GDP)が9倍に激増。平均給与も3倍以上に増えた。

「マカオの経済発展の最大の受益者は若者たちだ。生きる権利が脅かされていると感じている香港の若者たちとは異なる」という。

一方、マカオ大社会科学学院の楊鳴宇(よう・めいう)准教授(32)は、アイデンティティーの問題を指摘する。
「香港では自らを香港人と考える人が増えている。香港映画、香港音楽といった香港人意識を醸成するような文化もあるが、マカオにはない。自らを中国人と考える人が多い」

マカオには、マカオ人として結集する土壌がまだないというわけだ。

国家分裂や反乱の扇動、政権転覆を禁じた「国家安全法」(2009年制定、香港は未整備)がマカオ市民への無言の圧力となり、「自己規制が進んでいる」(蘇氏)との見方もある。

これらの違いは政治状況にも反映されている。
立法会における民主派議員は、香港で定数70のうち23人を占めているが、マカオでは定数33のうち4人にとどまっている。

ただ、マカオでデモが起きないわけではない。14年5月には、政府高官に巨額の退職金と年金を支給する法案への抗議デモが行われ、主催者発表で2万人が参加。法案を撤回させた。

「マカオ市民は香港のように自由や民主ではなく、政府の悪政に立ち上がる。黙っているわけではない」と蘇氏は話す。

こうした市民の声を政治に反映させようと、マカオの民主派は香港の民主派同様、行政長官選に普通選挙を導入するよう求める運動を続けている。【2019年12月19日 産経】
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旧宗主国の統治の違い、返還後の経済改善の度合い、返還後の政治体制の違い・・・などがあげられていますが、一番の違いはアイデンティティーの問題ではないでしょうか。

香港は国際金融都市、世界有数の観光都市として世界に胸をはれるものがあり、結果的に中国本土を「遅れた国」「民度の低い国」と見下すようなところもありました。中国と香港のネット社会で激しい罵り合いもありました。

そうした中で「香港人」としてのプライドやアイデンティティーも形成され、その政治的あらわれが中国的統治への拒否感・民主化運動でもありました。「自分たちは中国なしでもやっていける」という思いも。

一方のマカオにはカジノ以外にめぼしいものはなく、そのカジノも民衆には縁遠く、厄介なもの。中国の統治を受け入れるなかで生活は格段に向上・・・抗議が起こる土壌がなかったと言えます。

【香港 民主化運動の幕引き図る習近平政権】
しかし、民主化運動に挫折した香港も1周遅れでマカオと同じような軌跡に。
習近平政権は香港でも「仕上げ」にとりかかっています。

****「愛国者による統治」進める習近平政権、狙い通りの幕引き 香港民主派45人量刑****
香港で19日、45人の民主活動家に一斉に量刑が言い渡された。

罪となったのは民主主義に基づいて実施された予備選に関わったことで、香港国家安全維持法(国安法)による民主化運動の弾圧を象徴する判決だ。「愛国者治港(愛国者による香港統治)」を進める中国の習近平政権の狙い通りの幕引きとなった。

判決後に親指立て笑顔
「我愛香港(私は香港を愛している)。バイバイ!」。この日、法廷には45人の被告全員が出廷した。量刑の言い渡しが終わった後、著名な民主活動家で、禁錮4年8月の判決を受けた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(28)はこう叫んで、法廷を後にした。

黄氏は、国安法施行後も「中国の独裁政権に反対する」と公然と主張し続ける強硬派として知られた。予備選に出馬した民主活動家たちの中心的メンバーだった。

今回の裁判では刑の減軽などを図るため罪を認めたものの、他の被告のように情状酌量を求める文書を裁判所に提出することはなかった。

黄氏同様、予備選に出馬し、多くの市民から支持されたのが何桂藍氏(34)だ。ネットメディア「立場新聞」の元記者で、2019年の反香港政府・反中国共産党デモの最前線でネット中継を行い、若者たちから「立場姉ちゃん」と親しみを込めて呼ばれていた。

何氏は罪を認めず、法廷で起訴事実を争った。「香港人は、政権があらゆる面をコントロールする制度の下で生きることを望んでいない」などと主張、自らの情状酌量も求めなかった。

結果、この日の判決は禁錮7年という重刑となった。しかし何氏は言い渡しを受けた後、傍聴席に向かって親指を立てて笑顔を見せたという。

判決の影響、香港政府は考えるべき
香港では民主派が大量に検挙されて以降、選挙制度の見直しが進み、立法会選に民主派が出馬することさえ難しくなっている。愛国者、つまり香港よりも中国共産党を愛する親中派一色に染まってしまった観がある。

こうした中、量刑の言い渡しが行われた裁判所には19日朝、500人を超える市民が傍聴券を求めて詰めかけた。「法廷に入れなくても(45人を)応援する姿勢を示したい」と話す市民もいた。

民主派団体の元代表で、自身も無許可集会に参加した罪などで約1年半入獄した経験がある陳皓桓氏(28)は取材に対し、「今日の判決は予備選で投票した約61万人の市民に対する判決であり、市民への弾圧だ。判決の影響がどれだけ大きいのか香港政府は考えるべきだ」と語った。【11月19日 産経】
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中国の強靭・圧倒的な力はチベット・新疆を抑え、マカオ・香港を平らげ、残る目標は台湾
台湾では香港以上に「台湾人」としてのアイデンティティーが強く、香港のように本土の手足となって動く現地当局もありません。

中国にとって有効な方法は経済的つながりで揺さぶることでしょう。
台湾内で中国との経済的つながりを重視する勢力が増えれば、社会不安も増大。そうした揺れ動く状況で、親中国勢力の要請を受けたという形で軍事進攻・・・
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核兵器に関する現在地 米ロの制限枠組みはほぼ破綻状態 ハイペースで増強する中国

2024-12-20 23:03:28 | 軍事・兵器

(【国際平和拠点ひろしま】)

【流れが逆行する米ロの枠組み】
****世界の核兵器保有数(2024年1月時点)****
広島県と連携協定を締結しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は毎年、シプリ年鑑(SIPRI YEARBOOK)を発刊しています。その中で、2024年1月時点の核兵器数が発表されました。

2024年1月時点の核兵器保有数は12,121で、2023年1月時点の12,512と比較して391減少しています。引き続き、約90%を米露が保有しています。この減少は、米国とロシアが引退した核弾頭を解体したからであり、運用可能な核弾頭数の削減は停滞が続き、その数は引き続き増加しています。

米国の配備弾頭数は変わらないものの、ロシアは増えています。

中国の核兵器数は90増加し、24の核弾頭を配備し始めた可能性があります。今後10年間で、米露と同じ数の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を潜在的に配備できるとみられています。

インドと北朝鮮も核兵器数を増加させています。北朝鮮の核弾頭数については、不確かなことが多いものの、90の核兵器を作るのに十分な核分裂性物質を生成した可能性がありますが、実際に核兵器として組み立てた数は、これよりも少ない50程度と考えられています。【国際平和拠点ひろしま】
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冒頭の核兵器保有数の推移(1945年~2023年)を見るうえで、留意すべきものとしてのNPT(核不拡散条約)、
INF全廃条約、新START(戦略核兵器削減交渉)の簡単な説明は以下のとおり。

****NPT(核不拡散条約)****
「核不拡散条約」NPTは、正式名称を「核兵器の不拡散に関する条約」(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)と言い、核兵器保有国の増加を防ぐこと(核兵器の拡散を防ぐこと)を主な目的とした条約です。(中略)

条約の内容としては、核兵器の不拡散、核軍縮の促進および原子力の平和利用の推進が三本柱とされています。しかし、不拡散が条約上の義務とされているのに対し、核軍縮と原子力の平和利用の促進は、事実上努力目標となっており、現実には条約の名前通り、核兵器の不拡散を目的とする条約としての役割を主に果たしています。【長崎大学核兵器廃絶研究センター】
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NPT締約国数は191か国・地域(2021年5月現在)。非締約国はインド、パキスタン、イスラエル、南スーダン【外務省】

****中距離核戦力全廃条約/INF全廃条約****
1987年、ゴルバチョフとレーガンの米ソ首脳が中距離核戦力(INF)全廃に合意して締結した。ソ連崩壊後ロシアが継承、核軍縮の枠組みとして期待されたが、1990年代から中国の軍拡という新たな情勢が出てきたことで維持が難しくなり、2019年8月失効した。

中距離核戦力とは 
中距離核戦力=INF(Intermediate-Range Nuclear Forces) とは、戦略核兵器(相手の政治中枢を破壊する目的の核兵器。およそ米ソ国境間の距離5500kmを超えてとばすもの)と戦術核兵器(敵部隊との遭遇戦で使用する核兵器)との中間にある核兵器という意味で、戦域核ともいう。

米ソ本国よりもその中間にあるヨーロッパ地域で配備され、70年代末にソ連がトレーラーで移動可能な中距離ミサイルであるSS20を開発したことから現実的な脅威として問題となった。NATO側も中距離核戦力パーシングⅡの配備を進め、70年代の戦略兵器制限交渉(SALT)、さらに戦略兵器削減交渉(START)の網にかからないところで配備競争が続いた。(中略)

中距離核戦力廃棄の意味
中距離核戦力(INF)は距離500km~5500kmの間で使用されるミサイルなどの核兵器のことで、アメリカとロシアが直接相手を攻撃するためものではない。上述のようにアメリカは西ヨーロッパのNATO加盟国である親米国に配備し、ソ連攻撃を狙うものであった。

米ソが大陸間弾道弾によって直接相手を攻撃するよりも、現実性の高い軍事配備であるので両国ともその配備数を競う傾向があった。その競争が際限なく行われることは両国の経済に負担になるので、制限の必要を両国が感じ、一気に全廃にすることに合意したものと思われる。この時点ではアジアでの配備は問題外であった。

核兵器廃棄と抜け道
その合意に基づき、1991年までに中距離核戦力(INF)として廃棄対象とされたミサイルが、アメリカ側は846基、ソ連側は1846基に及び、同年中に全廃が完了した。

その年、ソ連が崩壊し条約をロシアが継承し、ロシアとアメリカの間で相互査察が10年間にわたって実施され、2001年には完全履行を相互確認して終了した。(中略)

しかし、ここでの中距離核戦力は陸上のみに限定されたので、空中および海中から発射されるものは含まれていないという抜け道があったので、両国は巡航ミサイルの開発を密かに進めるなど、相互不信が続いた。

新たな対立
INF全廃条約は冷戦の終結の象徴であり、二大国による核戦力軍縮の枠組みとして世界中の期待を集めた。2007年にはアメリカとロシアも当初は他の核保有国へも条約参加を呼びかけるなどの動きを見せていたが、ロシアのプーチンは次第に大国主義を標榜してこの条約に拘束されることを嫌うようになった。

2009年、アメリカ大統領オバマはプラハ演説で核なき世界をめざすことを表明し、ノーベル平和賞を受賞した。そのオバマ政権は2014年7月、ロシアの地上発射型巡航ミサイルが500kmを越えるとして条約違反を指摘した。条約では一方が相手の履行に疑問を持てば特別検証委員会を開催すると定めていたが、その後委員会開催は2回にとどまった。

大きく情勢が変化したのが、2017年1月アメリカ大統領に共和党トランプが就任したことであった。トランプ(およびその背後のボルトンなどネオコンといわれる右派政治家)がこの条約が不都合だと考えたのは、1990年代から急速に軍備を拡張し始めた中国の存在であった。

中国はINF条約に拘束されないので、アメリカにとってはそれが足かせになると考えたのであろう。事実中国は2015年に軍事パレードで対艦弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルを誇示している。

2019年8月1日、INF全廃条約失効
アメリカのトランプ大統領は2018年末、ロシアに対し60日間以内にミサイルを破棄することを最後通告、受け入れられなかったとして、2019年2月1日に正式な離脱手続きに踏み切った。翌日、双方が条約義務履行停止を声明、半年後の8月1日に失効が発効した。

こうして中距離核戦力をフリーハンドで配備することが出来るようになったトランプとプーチンはそれぞれ配備競争を開始するであろう。またそれはかつてのような配備数を競うのではなく、より高性能な核戦力の開発に向かうであろうと言われている。

さらに、トランプの狙いは中国との力のバランスを維持することであるので、中国に対抗して日本への中距離核戦力の配備を求めてくることが予想される。(中略)

NewS 新STARTの延長
アメリカとロシアの間の核軍縮の枠組みとして、オバマ大統領の2010年に始まった新START(戦略核兵器削減交渉)は、このINF条約失効によって両国間の唯一の条約となったが、トランプ大統領の登場でその延長が危うくなっていた。バイデン政権の登場によって2021年2月に五年間の延長で合意が成立した。これによって米ロ間の核軍縮に向けてのチャンネルは残ることとなった。【世界史の窓】
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****中距離ミサイルの生産再開へ 米が欧州配備ならとプーチン氏****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は(7月)28日、米国がドイツなど一部欧州諸国へのミサイル配備計画を撤回しないなら、短・中距離ミサイルの生産を再開すると警告した。

プーチン氏はサンクトペテルブルクで行われた海上軍事パレードに出席し、米国がミサイル欧州配備計画を実行するなら、これまで一方的に行ってきたとする、短・中距離ミサイル配備の一時停止から「解放されたとみなす」と発言。そうしたミサイルシステムは「開発の最終段階にある」とも述べた。

さらに、「欧州および世界の他の地域における米国やその衛星国の行動を考慮した上で、対抗措置として(短・中距離ミサイルを)配備する」と語った。(中略)

米独両国は今月(7月)上旬、2026年から巡航ミサイル「トマホーク」など米国製長距離ミサイルのドイツへの「一時的な配備」を開始する方針を発表した。 【7月29日 AFP】
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“米ロ間の核軍縮に向けてのチャンネルは残ることとなった”とされている新START(戦略核兵器削減交渉)もロシアは23年2月に条約履行停止を表明。後継条約締結交渉は滞っています。

****新START****
第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約として米国とロシアが2010年4月に調印、11年2月発効。

配備戦略核弾頭数を1550、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や重爆撃機など運搬手段の総数を各800に制限したが射程が短い戦術核は対象外。

米ロは21年1月に条約を5年間延長した。22年2月にウクライナ侵攻に踏み切ったロシアは23年2月に条約履行停止を表明。後継条約締結交渉は滞っている。【3月13日 共同】
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****米、ロシアに新たな対抗措置=新START、有名無実化****
米国務省は1日、ロシアによる新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止に対抗する新たな措置を発表した。条約で義務付けられているミサイルや発射装置の情報共有を停止するほか、米国で検証作業を行うロシアの査察官に発行されたビザなどを取り消す。米ロ間に残された唯一の核軍縮の枠組みは、さらに有名無実化が進むことになる。

国務省は発表文で「米国はロシアに対抗措置を事前通告した。ロシアが再び順守すれば、対抗措置を破棄して条約を完全に履行する意向と用意があるとも伝えた」と説明した。

対抗措置はいずれも1日から実施。情報共有停止やビザ取り消しなどのほか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験の際の飛行経路などに関する情報提供も取りやめる。

米ロは年2回、新STARTに基づき配備済み核弾頭数などの核戦力情報を共有してきた。ロシアのプーチン大統領が2月に新STARTの履行停止を表明して以降、ロシアは情報共有に応じていない。【2023年6月2日 時事】 
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いろんな米ロの思惑もありながらも一定に歯止めがかけられ、核弾頭総数も減少してはきましたが、ここ数年INF全廃条約失効や新STARTの有名無実化で、流れが逆行し始めてもいます。

【中国 「予測を上回る勢い」】
その状況を更に難しくしているのが中国のハイペースの核兵器増強。

****中国の核弾頭「600発超」、4年で3倍…米国防総省「予測を上回る勢い」****
米国防総省は18日、中国の軍事・安全保障に関する年次報告書を公表した。今年半ば時点で中国が保有する運用可能な核弾頭数は、昨年5月時点と比べ100発増の600発超と推計し、中国の核戦力の増強に危機感を示した。2030年には核弾頭数が1000発を超える可能性が高いと予測している。

20年の報告書は保有数を200発台前半と見積もり、30年までに倍増するとみていた。当時からみて4年間で3倍となり、急速に保有数を増やした形となる。今回の報告書は「以前の予測を上回る勢い」と指摘した。

中国は核弾頭保有数を明らかにしていないが、米露間の新戦略兵器削減条約(新START)が戦略核弾頭の配備上限としている1550発に中国が迫っている状況だ。報告書は「今後10年間、核戦力を急速に近代化、多様化させるだろう」との見通しを示した。

中国は核兵器を搭載できる大陸間弾道弾(ICBM)のほか戦略爆撃機などの開発を進めており、報告書は「インド太平洋地域の標的にピンポイントで攻撃できることを示している」と指摘した。

ウクライナを侵略するロシアに対し、武器の製造に必要となる精密工作機械などを中国が売却しているとして、「中国がロシアの軍需産業を強く支えている」との懸念を示した。ロシアのウクライナ侵略を教訓に、中国が武器の国産化を進めているとの見方も提示した。【12月19日 読売】
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通常兵器では敵わないインドに対抗するために核兵器開発を進めるパキスタンも。

****パキスタンの長距離ミサイル開発、米国に「新たな脅威」=高官****
米国のジョナサン・ファイナー大統領副補佐官(国家安全保障担当)は19日、パキスタンが長距離弾道ミサイル能力を開発中であり、米国にとって「新たな脅威」になっていると述べた。

ファイナー氏はカーネギー国際平和財団で講演し、パキスタンは「長距離弾道ミサイルシステムから装備品に至るまで、一段と洗練されたミサイル技術」を追求し、かなり大型のロケットモーターの実験を可能にしていると述べた。

こうした傾向が続けば、パキスタンは米国を含む南アジア全域を攻撃する能力を持つことになると説明した。

米国本土に届くミサイルを持つ核保有国の数は「非常に少なく、敵対的な傾向がある」とし、ロシア、北朝鮮、中国の名を挙げた。

その上で、パキスタンの行為は米国に対する新たな脅威だと指摘した。同氏の発言は、2021年のアフガニスタンからの米軍撤退以降にかつて緊密だった米国とパキスタンの関係がいかに悪化しているかを浮き彫りにしている。【12月20日 ロイター】
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パキスタンの場合、政府が軍をコントロールできていないという問題も。
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スーダン内戦  戦闘・飢餓で崩壊状態の医療 戦闘、国軍有利の報道も・・・露、それを見込んだ動き

2024-12-19 23:07:28 | スーダン


(準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の攻撃で破壊された車両。スーダンのオムドゥルマンで10月撮影【12月11日 ロイター】)

【「戦争の両当事者による犯罪は、国際社会が完全に沈黙する中で続いている」】
****スーダンで続く「忘れられた紛争」****
2023年4月15日に始まったスーダンでの紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・は、パレスチナやウクライナでの戦争とは違って、それらの戦争に匹敵する犠牲者を出しながらもあまりメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」となっています。

「忘れられた」かどうかに関係なく、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

死者は推計で1万5千人にのぼるとされていますが、実際にはその10~15倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。【8月1日ブログ“スーダンの「忘れられた紛争」 国内外への避難民は人口の20%、1000万人超”より再録】
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戦闘は未だ激しく、12月9-10日の二日間だけで、交戦中の双方による爆弾や砲撃で民間人を中心に少なくとも127人が死亡したとのことです。

****内戦下スーダン、2日間で100人超が死亡 国軍とRSF双方が攻撃****
内戦下のアフリカ北東部スーダンで9─10日、交戦中の双方による爆弾や砲撃で民間人を中心に少なくとも127人が死亡した。

国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は昨年4月以降戦闘を続けており、停戦交渉は停滞している。

国軍とRSFは人口密集地域を中心に攻撃を続けている。北ダルフール州では9日、市場に8発以上の樽爆弾が投下され、人権団体によると100人以上が死亡し、多数の負傷者が出た。

国軍は北ダルフール州周辺の最後の拠点となる州都アル・ファシールを巡りRSFと激しい戦闘を続けている。

一方、10日にはRSFがハルツーム州の国軍支配地域に砲撃を行い、少なくとも20人が死亡した。

国連の推計によると、内戦で約1200万人が家を追われ、3000万人以上が援助を必要としている。【12月11日 ロイター】
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9日、北ダルフール州の市場への国軍の空爆による被害者は多くが市場の商人や買い物客だったとみられ、地元の弁護士団体は声明で「戦争の両当事者による犯罪は、国際社会が完全に沈黙する中で続いている」と訴えています。

空爆による犠牲者は連日で、昨年4月に戦闘が始まって以降、国軍の空爆による犠牲者は数千人にのぼるとみられるとも報じられています。

10日のRSFによるハルツーム州国軍支配地域への砲撃では、市場や医療施設が標的になっており、走行中のミニバスが被弾し乗客全員が死亡したもようです。

“紛争地域のデータを収集する米NPO「ACLED」によると、スーダンでは昨年4月以降、少なくとも1万8千人が戦闘で死亡した。”【12月11日 共同】

【戦争による死傷者、大量飢餓の脅威、医療施設への攻撃・・・ほとんど崩壊している医療】
こうした状況ですので、もともと極めて不十分だった医療は「崩壊状態」です。

****スーダンの医師たち、医療崩壊と戦争の矢面に立たされる****
スーダンの医師モハメド・ムーサ氏は、自分の病院の近くで絶え間なく聞こえる銃声や砲撃音に慣れてしまい、もはや驚かなくなった。それどころか、彼はただ患者に接し続けている。

「爆弾には麻痺してしまった」30歳の開業医は、アル・ナオ病院からAFPの電話インタビューに答えた。

遠くで銃声が鳴り響き、頭上で戦闘機が唸り、近くの砲撃が地面を震わせる。苦境に立たされた保健ワーカーたちは「続けるしかない」とムーサ医師は言う。

2023年4月以来、スーダンはアブドゥルファッターハ・アル・ブルハン陸軍大将と、即応支援部隊(RSF)のリーダーであるモハメド・ハムダン・ダグロ元副将との戦争によって引き裂かれている。

この戦争は数万人を殺し、1200万人を根こそぎにし、国際救済委員会の援助団体が「過去最大の人道危機」と呼ぶ事態を引き起こしている。

アル・ナオの圧迫された病棟の中では、紛争の犠牲者は驚異的である。頭、胸、腹部への銃創、重度の火傷、粉砕された骨、切断–わずか4ヶ月の子供でさえ–などである。

病院自体も被害を受けている。アル・ナオ病院を支援している国境なき医師団(MSF)によれば、致命的な砲撃が何度も病院の敷地を直撃しているという。

他の地域でも悲惨な状況が続いている。北ダルフールでは、最近ドローンによる攻撃で州都の主要病院で9人が死亡し、MSFは飢饉に見舞われた難民キャンプにある野戦病院からの避難を余儀なくされた。

スーダンの医療制度は、戦争前からすでに苦境に立たされていたが、今やほとんど崩壊している。
エール大学の人道研究ラボとスーダン米国医師会が提供し分析した衛星画像によると、ハルツーム州の87の病院のうち、半数近くが戦争開始から今年8月26日までの間に目に見える被害を受けた。

10月の時点で、世界保健機関(WHO)はスーダン全土で119件の医療施設に対する攻撃を確認したことを記録している。

MSFの人道問題アドバイザーであるカイル・マクナリー氏は、「民間人の保護は完全に無視されている」と述べた。
彼はAFPに対し、現在進行中の「医療に対する広範な攻撃」には、「広範な物理的破壊が含まれ、その結果、文字通り、そして比喩的に、医療サービスが低下している」と述べた。

スーダンの医師組合は、スーダン全土の紛争地帯で、医療施設の90%が閉鎖され、数百万人が必要な医療を受けられなくなっていると推定している。

紛争の双方が医療施設への攻撃に関与している。
医療組合によると、戦争が始まって以来、78人の医療従事者が職場や自宅での銃撃や砲撃によって死亡している。

組合スポークスマンのサイード・モハメド・アブドゥラー氏はAFPに語った。
「病院や医療関係者を標的にする正当な理由はない。医師は…患者と他の患者を区別しない」

医師組合によると、RSFは負傷者の治療や敵の捜索のために病院を急襲し、軍は国中の医療施設を空爆している。

11月11日、MSFは、南ハルツームで機能している数少ない病院のひとつであるバシャール病院を戦闘員が襲撃し、そこで治療を受けていた別の戦闘員を射殺したため、ほとんどの活動を停止した。MSF職員は、戦闘員はRSFの戦闘員だと考えているという。

戦争による死傷者が後を絶たないことに加え、スーダンの医師たちは、大量飢餓という別の脅威にも対応しようと奔走している。

ハルツームからナイル川を隔てた対岸のオムドゥルマンの小児科病院には、栄養失調の子どもたちが大挙してやってくる。

ある医師によれば、8月中旬から10月下旬にかけて、この小さな病院には1日に40人もの子どもたちが収容され、その多くが重体だったという。

「毎日、3、4人の子どもたちが亡くなっていました。その理由は、病気が非常に末期で複雑であったため、あるいは必要な医薬品が不足していたためです」と、その医師は安全を考慮して匿名を要求した。

国連によると、スーダンは数カ月にわたって飢饉の淵に立たされており、人口の半分以上にあたる2600万人近くが深刻な飢餓に直面している。

赤十字国際委員会のスポークスマンであるアドナン・ヘザム氏は、「医療施設に対する物資と人的資源の面で早急な支援が必要だ」と述べた。「それがなければ、すでに限られているサービスが急速に悪化する恐れがある」と彼はAFPに語った。

医師のムーサ氏にとって、「耐え難い」と感じる日もある。「しかし、やめるわけにはいかない」【12月18日 ARAB NEWS】
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戦場と化した国土はどこも「地獄」ですが、スーダンの場合もパレスチナ・ガザ地区に匹敵するような悲惨な状況です。しかし、それにしてはニュースなどで取り上げられることがあまりにも少ない。

【セルビア、ロシアや中国など6カ国から武器供給】
こうした国軍とRSFの戦闘がいつまでも続くのは、武器・弾薬を支援する形で“火を絶やさない”外国の存在があります。

****スーダン内戦、国外からの武器流入で世界最悪の人道危機に拍車 ****
深刻な人道危機が起こるスーダン内戦で、セルビア、ロシアや中国など6カ国から武器供給が事態を深刻化させている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、国連武器禁輸措置を迂回したスーダン西部ダルフール地方への流通ルートを明らかにした。

アムネスティ・インターナショナルが7月に公表した調査で、何千もの武器がスーダンに流入し、一部は2004年以降、国連の武器禁輸措置の対象地域であるダルフール地方にまで拡散していることが判明した。

(中略)国連は紛争の影響で、スーダンの人口の過半数が前代未聞の食糧不安に陥っているとして、両当事者による戦争犯罪を糾弾している。

アムネスティの報告書は、海外から絶え間なく流入する武器が紛争を煽っている」と指摘した。調査は約2000件の出荷記録と数千枚の画像を分析し、内戦当事者の双方が手にする武器を追跡した。

対スーダン武器輸出は国連の禁輸措置に違反
アムネスティ・インターナショナル・スイス支部広報担当者、ナディア・ボーレン氏は、「複数の国が武器貿易条約(ATT)に違反して、スーダンに武器を輸出している」と解説する。

拳銃やライフル銃などの小型武器、また装甲戦闘車両やドローン妨害機器、何百万発もの弾薬、さらには迫撃砲などのより重い武器も輸出されているという。

2014年に発効した武器貿易条約は、武器の使用が人権侵害を引き起こす可能性が高い国への武器輸出を禁じている。一方で、世界の違法な武器移転を追跡する調査団体スモール・アームズ・サーベイ(本部・ジュネーブ)のデータ責任者ニコラ・フロルカン氏はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)で、同条約の文書には違反した際に科す制裁は盛り込まれていないと指摘した。

アムネスティは、スーダンへの武器輸出国としてセルビア、ロシア、トルコ、中国、アラブ首長国連邦(UAE)、そしてイエメンの6カ国を名指しした。そのうち、イエメンとロシア以外は、武器貿易条約の締結国だ。

2024年1月には、国連のスーダン専門家グループによる複数の調査が、RSFを支援するUAEからの武器の供与を確認した。その経由地として、RSFの拠点があるダルフール地方に隣接するチャド東部のアムジャラス空港を特定したが、UAEはこの告発を強く否定している。

猟銃を軍事転用
同調査は、武器を紛争に利用するための迂回供給ルートが少なくとも二つ確認した。民間用途(狩猟やスポーツ射撃など)の武器のみならず、軍事転用される可能性のある刃物も輸出されていた。

スモール・アームズ・サーベイによると、軍事転用による武器の迂回供給は増加傾向にあり、欧州内でも確認されている。「警報用の銃の軍事転用は、欧州連合(EU)における違法な武器取引の主要因のひとつとして挙げられている」とフロルカン氏は強調する。

こうした武器の迂回供給への対策として、国連事実調査団、そしてアムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権擁護団体は、武器禁輸をスーダン全域に広げるよう呼びかけている。

アムネスティのボーレン氏は「ダルフール地方に限定された武器禁輸は、民間人への被害を阻止するにはまったく不十分だ。スーダンに武器を輸出すれば、ほぼ確実に人権侵害を犯すために使用される」と主張し、武器貿易条約の締約国または署名国に対し、スーダンへの武器輸出を厳格に規制するよう訴えた。

しかし、こうした呼びかけに対する国際社会の反応は鈍い。国連安全保障理事会は9月、ダルフール地方における武器禁輸措置を1年間延長したが、適用範囲はスーダン全域に広げなかった。

また、8月にスイスのジュネーブ地方で行われたスーダン内戦の停戦協議は、停戦合意に達することなく終了している。【12月7日  swissinfo】
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【国軍が軍事的に優位に・・・政府に接近するロシア、「勝ち」が期待できる戦争の停止を望まず】
関係国の中でも国軍へ接近するロシアは停戦交渉にも消極的ですが、どうやら軍事的に国軍が優勢となっており、このまま戦闘を続ければ「勝てる」と考えているようです。

****スーダン停戦決議にロシアが拒否権****
(11月)18日、国連安全保障理事会で、スーダンの停戦を求める決議がロシアの反対で否決された。決議は英国とシエラレオネが共同提案したもので、14ヵ国が賛成し、反対はロシアだけだった。

英国のラミー外相は、「一ヵ国の反対で理事会の意思が挫かれた。この国は平和の敵だ。ロシアの拒否権は恥ずべき行為だ.ロシアはまた、本当の顔をさらけ出した」と強く非難した。米国のトーマス・グリーンフィールド国連大使も、「ロシアはアフリカと協調するようなことを言っているが、アフリカ諸国が賛成する停戦決議に反対した」と述べた。

一方、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は、ロシアは紛争当事者による停戦を支持すると述べて、決議案を「ポストコロニアルの香りがする」と批判した。ロシアの拒否権に対しては、スーダン外相が「スーダン及びその国家機関の独立と統一を支持するものだ」と評価する声明を出している。

スーダン内戦は、国軍指導者ブルハーンと準軍事組織RSFの指導者ヘメティの対立を軸に動いてきたが、ロシアは最近になってブルハーン寄りの姿勢を強めている。スーダンに停戦を呼びかける前回の決議の際、ロシアは棄権している。

ブルハーンと国軍はRSFに軍事力で勝利できると踏んでおり、そのために国際社会による停戦呼びかけに消極的な態度を取るのだと考えられる。

10月に入って、国軍側が優位に立っているとの分析記事が掲載された(10月11日付ルモンド)。ロシアはスーダンに接近したい思惑があり、そうした情勢を理解した上で、国軍側に秋波を送っていると見られる。

18日、米国のスーダン特使Tom Perrielloが18日、ポート・スーダンを訪問してブルハーンと面会した。当然、国連をめぐる状況が議論になったと考えられる。

2023年4月にスーダン内戦が始まってから、既に1年半が経過した。世界で最も深刻な人道危機と言われ、ウクライナやガザを上回る数の死者や避難民が生まれているが、周辺国の介入や当事者の頑なな態度のために停戦が成立せず、人道危機が拡大し続けている。【11月21日 現代アフリカ地域研究センター】
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「勝馬」に乗るためには、民間人犠牲の戦闘継続も厭わない・・・残念ながらこれが現実です。

【多くのスーダン難民を受け入れる南スーダンも医療は逼迫  国民の約半数は人道支援が必要】
なお。今朝のTVニュースでは隣国南スーダンの医療状況を取り上げていました。
南スーダンは2023年には、スーダンの内戦から逃れて来た60万人余りの難民も受け入れていますが、もともと南スーダン自体が国際支援を切実に必要とする国ですから、多くの難民がスーダンから流入するその状況は想像に難くありません。

****南スーダンでの国境なき医師団(MSF)の活動は****
2011年7月に長年の内戦の末、独立を果たした南スーダン。和平合意や統一政府の発足後も多くの地域で不安定な情勢は続き、国内での戦闘や暴力によって大勢の人が命を落とす状況が続いています。

加えて大洪水や食料危機、病気の流行など複数の緊急事態も発生。2023年には、スーダンの内戦から逃れて来た60万人余りの難民も受け入れています。

人道援助を必要とする人は、人口の1240万人のうち590万人に達しました(2023年、国連人道問題調整事務所)。【12月11日 国境なき医師団】
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南スーダンも混乱と貧困のなかで病院職員への長期間賃金支払いが滞っており、医療スタッフのストライキも発生しているとか。

そのニュースの次は北イタリアかどこかの洞窟で女性洞窟研究者が滑落し、救助隊が百数十人駆けつけて奇跡的な救出を実現したという喜ばしいニュースでした。

一方で満足な医療を受けることもできず大勢が命を落とす国があり、いっぽうで、一人の事故救出におびただしい救出チームが派遣される・・・これまた「現実」です。まだ、よくある「木から下りられない猫救出」のニュースでなかっただけ救いか・・・
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シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?

2024-12-18 23:26:28 | 中東情勢

(8日、群衆に向かって演説を行う「シャーム解放委員会」(HTS)の指導者ジャウラーニー氏【12月9日 CNN】)

【各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているものの、イスラエルのゴラン高原緩衝地帯侵攻は長期化の様相】
シリアの反体制派が首都ダマスカスに進軍し、首都を「解放」したと宣言した8日から10日間が経過。
日常生活は戻りつつありますが、一方 各地で治安悪化、武装集団の市民襲撃が相次いでいるとも。

****シリア アサド政権崩壊から1週間 戻りつつある日常生活、一方 各地で治安悪化 武装集団の市民襲撃相次ぐ****
(中略)記者 「市民は日常生活へと戻り始めていまして、お店も開いていまして、ショッピングに繰り出す市民の姿も多く見られます」

シリアの首都ダマスカスでは、すでに夜間外出禁止令が解除され、日常生活が戻りつつあります。一方で、各地で治安の悪化が懸念されています。

イギリスに拠点を置く「シリア人権監視団」は、中部ハマの郊外で武装した集団が民家を襲撃し、合わせて5人が殺害されたと伝えました。ハマ郊外では、別の場所でも11人が殺害されるなど、武装集団による市民襲撃が相次いでいるということです。

また、「シリア人権監視団」は、北部のアレッポや南部のスワイダなどでも市民が銃撃され死亡したと伝えています。【12月15日 TBS NEWS DIG】
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懸念されているシリア国内の各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているようです。

****トルコと米支援クルド勢力SDFの停戦、今週末まで延長=国務省****
米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。

ミラー氏は、米政府は停戦が可能な限り長く延長されることを望んでいるとした。その上で「シリアの今後の道筋について、引き続きSDFやトルコと協議していく」と述べ、シリアでの紛争が激化することはどの当事者にとっても利益にならないとした。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、その中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、トルコは国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

SDFのマズルム・アブディ司令官は17日、米国の監視下で治安部隊を再配置し、北部の都市コバニに非武装地帯を設置する案を提示する用意があると表明した。Xへの投稿で、提案はトルコの安全保障上の懸念に対処し、地域の恒久的な安定を確保することが目的だと説明した。

しかし、両者の戦闘は継続しており、SDFの別の声明によると、17日にはトルコが支援する部隊がコバニ南部の地域を攻撃した。【12月18日 ロイター】
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一方、イスラエルはこの機に乗じてゴラン高原緩衝地帯に進軍し、懸念材料になっています。ただ、イスラエルも「シャーム解放機構」(HTS)も互いに対決を起こす考えはないとはしています。

****「シリアとの対決に関心なし」=ゴラン高原入植拡大を承認―イスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は15日に公表した動画で、アサド政権崩壊後の対シリア政策について「変化する現場の現実によって決定する。シリアとの対決に関心はない」と強調した。

シリアの旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は14日、シリアとの間に設けられた緩衝地帯に軍を展開させたイスラエルを批判。一方で、「シリアは長年の戦争で疲弊し、新たな紛争を起こすことはできない」と述べていた。

イスラエルのメディアによると、同国政府は15日、イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから奪った占領地ゴラン高原で入植者を倍増させる計画を承認した。4000万シェケル(約17億円)を投じ、インフラ整備を促進する。ネタニヤフ氏は「ゴランの強化は国家の強化だ」と訴えた。 【12月16日 時事】
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イスラエルの今回軍事作戦は長期化の様相も。

****イスラエル首相シリア視察 要衝の山、軍占領長期化か****
イスラエルのネタニヤフ首相は17日、シリア首都ダマスカスを望む要衝ヘルモン山の山頂のシリア側を視察し「安全が保証される別の取り決めが見つかるまで、この地にとどまる」と発言した。イスラエル軍はシリアのアサド政権崩壊の混乱に乗じてシリア側を制圧。「一時的な防衛措置」と強調していたが、占領を長期化させる可能性がある。(後略)【12月18日 共同】
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【「今のところ正しいことを言っている」HTS指導者】
こうした状況で、今後のシリアに最大の影響力を持つのは、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)、およびその指導者アフマド・アッシャラア氏がどのような統治を目指しているのか・・・という点です。

****シリア新政権樹立へ、反体制派アッシャラア氏が大きな影響力か…過去にアル・カーイダ参加も穏健姿勢を前面に****
シリアのアサド政権崩壊を受け、新政権の樹立に向けた動きが始まった。大きな影響力を持つとみられているのが、反体制派を主導し、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)の指導者アフマド・アッシャラア氏だ。

中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラなどによると、アッシャラア氏は1982年、サウジアラビアで生まれ、シリアで育った。2003年に米英軍のイラク攻撃が始まると、米国を敵視してイスラム教スンニ派の過激派組織「イラクのアル・カーイダ」に加わったが、後に米軍に拘束され、5年間収監された。

00年に始まった第2次インティファーダ(反イスラエル蜂起)や01年の米同時テロが過激思想に向かわせたとの指摘もある。

11年にシリアで内戦に火が付くと帰国し、イスラム過激派組織「イスラム国」の前身組織の支援を受けて「ヌスラ戦線」を設立した。強権を振るうアサド政権の打倒を掲げて自爆攻撃や拉致を繰り返し、米国からテロ組織に指定された。

14年のアル・ジャジーラのインタビューでは「シリアはイスラム法に基づき統治されるべきだ」と述べ、アサド政権の中核を占めたシーア派の一派・アラウィ派やキリスト教徒ら少数派を認めない強硬姿勢を示した。16年に路線の違いからアル・カーイダと決別すると、他組織との統合の末、ヌスラ戦線をHTSに改組した。

この頃から軍服姿での露出を控え、自身や組織についた過激派のイメージ払拭ふっしょくを図り始め、穏健姿勢を示すようになったとされる。21年には米メディアのインタビューにも応じ、ブレザー姿で「HTSは西洋に脅威を与えない」と主張した。

首都ダマスカスを制圧した8日頃から、自身の名前も、アル・カーイダ加入後に使っていた通称の「アブムハンマド・ジャウラニ」から切り替え、本名を名乗り始めた。

8日には国営テレビを通じて「シリアは全ての人々のものだ」と述べ、宗教宗派を問わずに共生する融和姿勢を示した。国民や国際社会の支持を得る狙いがあるとみられる。

一方で、首都の著名なモスク(礼拝所)で8日に行った演説では「『イスラム国家』全体の勝利だ」と述べ、イスラム国家樹立への思いものぞかせた。

穏健姿勢への転向を「表面的」と見る向きは根強く、国連や米欧は今もHTSをテロ組織に指定している。シリアには旧アサド政権のほか、HTSなど複数の反体制派やクルド人勢力が支配する地域があり、各勢力を束ねて統治するには困難が伴うと予想される。

エジプトの研究機関「アラブ政治戦略学センター」のムフタル・ゴバシ副所長は「アッシャラア氏の出自を知った上で、今後の振る舞いを見ていく必要がある」と指摘した。【12月11日 読売】
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まだ10日間・・・ということで、今後の方向性はわかりません。
現時点での発言は「穏健」なものになっていますが、アフガニスタンで政権を打倒したタリバンも復権当初は比較的穏健な発言もあって、「以前のタリバンとは少し変わったのかも・・・」と期待もさせましたが、現状はかつてのタリバンと大差ありません。

“平和的協力を望むという武装勢力の主張をうのみにするのは間違いだろう。だが同時に、完全に無視していても戦争終結にはつながらない。”【12月18日 Newsweek】

【HTSの今後の動きを見守る欧米】
アメリカ、欧州は当面は注意深く見守り、その「穏健な」発言を実行に移すなら協力も・・・というところ。

****米軍はシリア駐留継続へ、IS壊滅目指す=ホワイトハウス高官****
米ホワイトハウス高官は10日、過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させるために、シリアのアサド政権崩壊後も米軍は同国に駐留を続けると表明した。(中略)

アサド政権を崩壊に導いた反体制派の主力組織シャーム解放機構(HTS)は国際武装組織アルカイダの流れをくみ、米国はテロ組織に指定している。

ファイナー氏は「このような組織については、政策の正式な変更はない」と述べ、テロ組織の指定は組織の発言や意図ではなく活動に基づいて決定するため行動を注視していくと説明した。

一方で、これらの組織が過去数週間に発言している内容の一部は「非常に建設的」だと評価した。その上で、そうした発言に「シリアに信頼できる包括的な統治」をもたらす行動が伴うかどうか見守ると述べた。

また、バイデン政権はトランプ次期大統領の政権移行チームメンバーと連絡を取り、シリアに関する情報を提供していると語った。【12月11日 ロイター】
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****シリア政権移行への干渉けん制=国民主導なら「承認」―米国務長官****
ブリンケン米国務長官は10日、反体制派がアサド政権を打倒したシリアについて声明を出し、政権移行作業への干渉を控えるよう各国をけん制した。シリア国民主導で新政権が発足すれば「承認し、全面的に支持する」と表明した。

ブリンケン氏は、2015年の国連安保理決議が定めたシリア国民主導の新憲法制定や選挙実施を目指す政権移行プロセスに言及。この移行作業を「信頼に足る、包括的で宗派によらない政府へとつなげるべきだ」と強調した。【12月11日 時事】 
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****EU、シリア制裁緩和の用意 前向きな措置実施なら=カラス上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるカラス外交安全保障上級代表は16日、アサド政権崩壊後のシリアについて、新政権の下で包括的な政府が樹立され、女性や少数派の権利の尊重などの「前向きな措置」が講じられれば、EUは対シリア制裁の緩和を検討する用意があると述べた。

カラス氏はまた、シリア暫定政府を主導する「シャーム解放機構(HTS)」の幹部と会談するため、EUが高官をシリアに派遣したと明らかにした。

EUはこの日、ブリュッセルで外相会合を開催。カラス氏は会合後に記者団に対し、アサド政権の後ろ盾となっていたロシアとイランのほか、過激主義的な勢力はシリアの将来に関与すべきでないとの考えを示し、「(会合で)多くの外相が、シリア新政権はロシアの影響力排除を条件にすべきだと強調した」と述べた。

その上で「(シリアでの)過激主義や急進化は望んでいない」とし、「シャーム解放機構は今のところ正しいことを言っている」と言及。同時に、今後の行動に基づき判断していくとの考えを示し、「シリアの発展を支援するため、前向きな措置が見られた際に積極的に行動できるよう計画を準備しておく必要がある」と語った。【12月17日 ロイアー】
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「今のところ正しいことを言っている」・・・実行に移されるといいのですが。
12月17日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、来年1─6月に約100万人のシリア難民が帰国するとの見通しを示しています。
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アメリカ  新たな権力者へすり寄るテック業界大物たち 司法の場の流れも手繰り寄せるトランプ氏

2024-12-17 23:29:24 | アメリカ

(【12月16日 Newsweek】)

【トランプ氏への寄付金相次ぐテック業界大物 “絶好の機会”と見なしている】
権力者に企業経営者がすり寄るというのは「当たり前」かも。それをとやかく言うのは、すりよる術さえない貧乏人のひがみか。

ただ、連日のようにそうした動きが報じられると「なんだかな・・・」という感も。

****米メタがトランプ次期大統領の就任式に100万ドルを寄付 米報道****
フェイスブックなどを運営するアメリカIT大手のメタが、1月20日に行われるトランプ次期大統領の就任式に100万ドル(日本円でおよそ1億5000万円)を寄付したと、アメリカメディアが伝えました。 これはアメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が11日に伝えたものです。 

メタのザッカーバーグCEOとトランプ氏は11月末、フロリダ州にあるトランプ氏の私邸「マール・ア・ラーゴ」で会食したことがわかっていて、この場でメタ側が就任式に寄付する考えを伝えたということです。 

また、ザッカーバーグ氏がメタが開発する最新のスマートグラスのデモンストレーションを行い、トランプ氏にプレゼントしたとも伝えられています。 

トランプ氏は2020年の大統領選挙で、ザッカーバーグ氏がフェイスブックを操り、陰謀を企てたと主張していて、今年9月に発売された自身の著書の中では「今回、彼が違法行為をすれば、残りの人生を刑務所で過ごすことになる」などと圧力をかけていました。 

メタは過去2回の就任式でいずれも寄付をしていないということで、ウォール・ストリート・ジャーナルはメタによる寄付について、「険悪だった次期大統領との関係改善に向けた動き」と伝えています。【12月12日 TBS NEWS DIG】
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****米アマゾン、トランプ氏の就任基金に100万ドル寄付へ-メタに続き****
米アマゾン・ドット・コムは、トランプ次期米大統領の就任基金に100万ドル(約1億5300万円)を寄付すると、アマゾンの広報担当者が述べた。米メタ・プラットフォームズによる寄付に続くもので、テクノロジー大手は次期政権と良好な関係を築こうとしている。

トランプ氏は12日、CNBCとのインタビューで、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏とも来週会談すると述べた。

アマゾンの広報担当者によると、直接的な寄付に加え、100万ドル相当の現物寄付として就任式をストリーミング配信するという。また寄付は会社の資金から出す予定でベゾス氏が拠出するわけではないとした。(中略)

ベゾス氏は今月、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)主催のディールブック・サミットで、トランプ政権2期目について「非常に楽観的で、期待している」とし、「トランプ氏は規制緩和に多くのエネルギーを注ぎ込むようだし、私にその手助けができるのなら手助けするつもりだ」と語っていた。【12月13日 Bloomberg】
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*****米オープンAIのCEO、トランプ次期大統領の就任に100万ドル寄付を計画****
(中略)アメリカメディアは13日、オープンAIのサム・アルトマンCEOがトランプ次期大統領の就任式に向けた資金として100万ドル、日本円で1億5000万円あまりの寄付を計画していると報じました。 

アルトマンCEOは「トランプ氏がAI時代へとアメリカを導く。アメリカが優位に立ち続けるため、その取り組みを支援したい」としています。 

た、アマゾン・ドット・コムも同額の100万ドルの寄付を計画しているほか、フェイスブックのメタは既に100万ドルを寄付しています。 イーロン・マスク氏がトランプ氏の側近として影響力を強める中、IT大手各社がトランプ氏との関係改善を図ろうとしているものとみられています。【日テレNEWS】
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権力に近いとどんないいことがあるのか・・・イーロン・マスク氏の下記ケースなど見ると、100万ドルぐらい“安いもの”かも。

****「自動運転の事故報告義務」撤廃を提言 マスク氏経営のテスラにメリットか****
トランプ次期政権の移行チームは、自動運転車の事故の報告義務を撤廃するよう提言しました。トランプ政権で影響力を持つイーロン・マスク氏が経営する電気自動車大手テスラは、この報告義務に反対しています。

アメリカ道路交通安全局は、自動運転システムなどを搭載した車両の安全性の調査のため、事故の報告を義務付けています。

この報告義務についてトランプ次期政権の移行チームは、過剰なデータ収集だとして撤廃を提言したと、ロイター通信が報じました。

テスラはトランプ政権で影響力を持つイーロン・マスク氏が経営しています。
ロイターの分析では死亡事故45件のうち40件がテスラの車両だということです。 報告義務が撤廃されればテスラにメリットがあるとみられています。(中略)

トランプ氏の就任に際し、SNS大手のメタはすでに100万ドルを寄付し、オープンAIも100万ドルの寄付を表明するなど、IT各社が次期政権にすり寄る構図になっています。【12月14日 テレ朝news】
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まだまだ続きます。金融界からも。

****BofAとゴールドマン、トランプ氏就任委に寄付へ 金額未定****
米第2位の金融機関バンク・オブ・アメリカ(BofA)と投資銀行ゴールドマン・サックスは、トランプ次期米大統領の就任委員会に寄付する予定だと、各行の広報担当者が13日明らかにした。金額についてはまだ決まっていないとしている。

BofAと米金融大手JPモルガン・チェースは、トランプ氏の2017年の大統領就任に伴い寄付を行っている。JPモルガンはコメントを控えた。

連邦選挙委員会によると、就任委は開会式やパレード、舞踏会などの関連行事を企画し資金を出すが、宣誓式自体は対象外という。

BofAは、17年のトランプ氏および21年のバイデン氏の就任基金にそれぞれ100万ドルを寄付。JPモルガンは17年のトランプ氏就任時に50万ドルを寄付した。【12月16日 ロイター】
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こうなると寄付しないと「何か因縁つけられるかも」って不安になるかも・・・ヤクザのみかじめ料みたいなものか。

しかし、不安になるならまだしも、「億万長者たちが恐れているとは思えない。彼らはこれを絶好の機会と見なしていると思う」とも。

こうした動きに「節操がない」と眉をひそめる向きも。

****アルトマン、サッカーバーグ、ベゾス......テック界の富豪が次々と節操なきトランプ献金****
<テック業界の大物たちが次々にトランプの基金への高額寄付を表明。二期目のトランプの大胆な動きを見越して、チャンスに賭けているようだ>

テック業界の億万長者たちは列をなして、ドナルド・トランプ次期大統領の就任式関連の基金に寄付を表明している。ここ1年、テック業界を脅かしてきた人物に、すでに3人の大物が100万ドルずつの寄付を表明した。

「アメリカ人はトランプに投票した。彼を支持することは危険だという認識は......なかったようだ」と、モントリオール大学ビジネススクールのグウィネス・エドワーズ准教授(戦略経営学)は本誌に語った。

「億万長者たちが恐れているとは思えない。彼らはこれを絶好の機会と見なしていると思う」と、彼女は言う。

AI開発企業オープンAIのサム・アルトマンは13日、トランプ大の大統領就任式基金に100万ドルの寄付をすると発表した。メタの創設者兼CEOのマーク・ザッカーバーグ、アマゾンのジェフ・ベゾス会長も同じ約束をしている。

オープンAIの広報担当者は本誌に対し、基金への寄付はアルトマンの「個人的な寄付」であることを確認した。アルトマンは声明の中でこう付け加えた。「トランプ大統領はわが国をAIの時代へと導く。私はアメリカが一歩先を行くための彼の努力を応援したい」

トランプは、テスラ創業者でXのオーナーであるイーロン・マスクとのパートナーシップを通じてテック業界とのつながりを築いているが、その絆はこうした寄付によってさらに強固なものになるだろう。マスクは実業家のビベック・ラマスワミとともにトランプ政権で政府効率化省(DOGE)を率いることになっている。

寄付を発表した最初のテック・リーダーはザッカーバーグだったが、その決断に一部のリベラル派と保守派のコメンテーターから怒りの声が上がった。

ザッカーバーグはトランプと揉めた過去がある。新型コロナのパンデミックの際に、妻とともに選挙インフラを支援するために約4億ドルを寄付したが、一部の共和党員から、それはジョー・バイデンが2020年の大統領選挙で勝利するための裏工作だと非難された。

だが、今回のザッカーバーグの発表の次の日に、ベゾスが寄付を発表した。政治雑誌ニュー・リパブリックはこの動きを事実上、トランプに「膝を屈する」決断と呼んでいる。

ベゾスはまた、今年の大統領選において、特定の大統領候補への支持表明は「偏見の認識」を生むと主張。自分が所有するワシントン・ポストがカマラ・ハリス候補を推薦する動きを阻止する決定を下し、おおいに批判された。

ベゾスは自身の決断を説明する論説の中で、「支持候補の表明をやめることは、原則に基づく決断であり、正しい決断だ」と書いている。ポスト紙の元編集長を含むトランプ批判派は、この選択を「臆病」、「憂慮すべき」、「意気地なし」と呼んだ。

セールスフォースのマーク・ベニオフCEOなど、他のテック業界のリーダーたちも選挙中からトランプを支持しており、就任式に向けて同様の資金援助を表明する可能性がある。

サンフランシスコ・クロニクル紙とのインタビューで、ベニオフはトランプの当選を「新たな序章へのチャンス」と呼んだ。「大統領の成功を願うのは当然のことだと思う」

エドワーズは、テック業界のリーダーたちは、トランプの大統領就任を前に、ある選択を迫られていると主張した。「多数派に従ってゲームに参加し、何かを得られることを期待するか、それとも静観するか」という選択だ。

「トランプに反対する立場を取ることは、常にリスクを伴う。選挙の勝利が、トランプをつけあがらせている」と、エドワーズは説明した。「彼は自分のレガシーを重視し、自分の名声を強固なものにするために大胆な動きをする可能性が高い」

エドワーズはトランプを「使命に燃える男」と評し、「テック業界の億万長者にとってはトランプ列車に飛び乗ったとして、失うものは何もない」と述べた。【12月16日 Newsweek】
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ついでに言えばソフトバンク・孫正義CEOも。こちらは寄付ではなく投資ですから「同列に扱うな」と怒られそうですが。

****ソフトバンク孫正義CEO トランプ次期大統領と会談へ 米国内への1000億ドル=15兆円投資と10万人の雇用創出を表明か****
アメリカ・CNBCによりますと、トランプ次期大統領と会談するソフトバンクの孫正義CEOが、▼アメリカに1000億ドルをソフトバンクが投資することや、▼AIの関連分野で10万人の雇用創出を表明する見通しであることがわかりました。

孫CEOは、16日にフロリダ州のトランプ氏の邸宅で会談する予定です。【12月17日 TBS NEWS DIG】
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【司法の場の流れもトランプ氏へ】
権力にすり寄るのは億万長者だけではないようで、すべてがトランプ氏を軸に、かれにとっては都合のよい形で回り始めたようにも。司法の場での流れも変わったようです。

****トランプ氏とABCニュース和解 名誉毀損で「異例の勝利」****
アメリカのトランプ次期大統領が名誉を毀損(きそん)されたとしてABCニュースを相手取り起こした訴訟で、ABC側が23億円余りを寄付する形で和解が成立したことが分かりました。

ABCニュースの司会者ステファノプロス氏が、3月に放送された番組で「トランプ氏は女性作家をレイプした責任がある」と言及したことを受けて、トランプ氏側は名誉を毀損されたとして提訴していました。

トランプ氏が、女性作家に性的暴行を行ったなどとして損害賠償の支払いを命じられた民事訴訟では、レイプについては証拠の裏付けが不十分だと判断されています。

フロリダ州の裁判所に提出された和解文書によりますと、トランプ氏が今後設立する財団と博物館にABC側が1500万ドル=23億円余りを寄付することなどを条件に和解が成立したということです。

トランプ氏はこれまでにも自身に批判的なメディアを標的に複数の訴訟を起こし、いずれも敗訴していましたが、ニューヨークタイムズはトランプ氏の「異例の勝利」だと伝えています。
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トランプ氏に関する起訴についても、トランプ氏側の時間稼ぎ戦術がまんまと奏功し、大統領当選をもってほとんどが雲散霧消したみたい。

****検察がトランプ氏への起訴取り下げ求める 議会乱入事件など****
アメリカ司法省の特別検察官は、およそ4年前の連邦議会乱入事件についてトランプ次期大統領に対する起訴の取り下げを求める書面を裁判所に提出し、認められました。特別検察官は大統領の在任中の訴追、起訴は行わないとする司法省の立場に沿った判断だと説明しています。

アメリカ司法省の特別検察官は25日、2021年1月の連邦議会乱入事件をめぐってトランプ次期大統領が国家を欺こうとした罪などに問われた事件について、起訴の取り下げを求める書面を連邦地方裁判所に提出し、裁判所はこれを認めました。

また、大統領退任後に最高機密を含む文書を不正に自宅で保管していたとされる事件についても控訴を取り下げるよう、連邦控訴裁判所に書面で申請しました。

書面の中で、特別検察官はいずれの事件についても「訴追した判断に変わりはない」などとしながらも「憲法により大統領の在任中の訴追、起訴は禁じられている」とする従来の司法省の立場から、トランプ氏の2025年1月の就任前に起訴の取り下げが必要だと判断したと説明しています。

書面には大統領の任務の遂行は妨げられてはならないという憲法上の要請と「何人も法を超越しない」という法の支配の原則が相反するものになったとも記されていて、難しい判断だったことをにじませています。

一方で、トランプ氏が次の任期を終えた後、起訴する権利を妨げないことを裁判所に求めました。

事件の捜査を担当するスミス特別検察官は、トランプ氏の大統領就任の前に辞任する意向を示していると報じられています。

トランプ次期大統領「勝利した」
特別検察官が2つの事件で自身に対する起訴の取り下げを裁判所に申請したことについてトランプ次期大統領はSNSに投稿しました。

この中でトランプ氏は「これらの裁判は私がこれまで経験してきたほかの裁判と同じように中身のない、法に基づかないもので、決して起こされるべきではなかった。民主党が私という政治的な対立相手と闘うために1億ドルを超える納税者の資金がむだになった」と批判しています。

その上で「これは政治的なハイジャックでわが国の歴史における最悪の事態だ。それでも私は粘り強く闘い、あらゆる逆境に負けず、そして勝利した」としています。

トランプ次期大統領をめぐるほかの刑事裁判は
トランプ次期大統領が、不倫の口止め料をめぐって有罪の評決を受けたニューヨーク州の裁判については、裁判所が26日に予定していた量刑の言い渡しを延期しています。

来月以降、裁判所が検察・弁護側双方の意見などを踏まえ、量刑の言い渡しをトランプ次期大統領の4年の任期の終了後までさらに延期する可能性や、裁判手続きを取りやめる可能性があります。

このほかトランプ次期大統領は2020年の大統領選挙で敗れた際に、南部ジョージア州の州政府に圧力をかけて結果を覆そうとした罪に問われていますが、手続き上の理由で審理は進んでいません。【11月26日 NHK】
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 議会乱入事件は本来、民主主義国における大統領の資格の有無に直結する裁判ですから、大統領選挙に入る前に白黒つけておくべき類の話だったと思いますが・・・

政治的意味合いは比較的薄い不倫口止め裁判については、かろうじて評決を破棄するよう求めたトランプ側の申し立てが棄却されたとか。

****トランプ氏不倫口止め裁判 判事が大統領免責特権を認めず申し立て棄却****
アメリカのトランプ次期大統領が有罪評決を受けた不倫口止め裁判を巡って、ニューヨーク州の判事は、評決を破棄するよう求めたトランプ側の申し立てを棄却しました。

大統領経験者として初めて有罪評決を受けたトランプ氏の不倫口止めを巡る裁判は量刑の言い渡しが延期されていますが、トランプ氏側は今月、ニューヨーク州の裁判所に対し、「大統領職に混乱が生じる」として評決を破棄するよう求めていました。

これに対してニューヨーク州の判事は16日、大統領の免責特権を認めずトランプ氏側の申し立てを棄却し、有罪評決は有効だとする判断を示しました。

量刑が言い渡されるべきかどうかなど、今後の裁判の進行については言及していません。【12月17日 テレ朝news】
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テック業界の億万長者にしろ、司法の場の流れにしろ、トランプ氏に草木もなびく昨今のようです。日本流に言えば「選挙でみそぎを済ませた」ということか。あるいは「勝てば官軍」といったところか。


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トランプ関税に交錯する「不安」と「思惑」

2024-12-16 23:23:21 | 経済・通貨

(【12月3日 矢嶋 康次氏 ニッセイ基礎研究所】 より大きな赤字をもたらしている国ほど狙われやすい・・・・ということにも その点ではベトナムは要注意 日本は以前に比べると重要性が低下)

【カナダ首相を「カナダ州知事」と揶揄 メキシコ大統領は報復関税に言及】
“トランプ氏は11月25日、就任初日にメキシコとカナダの輸入品すべてに25%の関税を課し、中国には追加で10%の関税を課すことを表明した。トランプ氏は選挙期間中、すべての中国品に対して最大60%の追加関税を課す考えを示して来た。日本やそれ以外の国に対しては10-20%の関税を課し、メキシコからの輸入自動車に対しては200%超の関税を課すことを主張していた。”【12月3日 ニッセイ基礎研究所】

“タリフマン(関税男)”ことトランプ次期大統領の動きに中国はもちろんですが、その他の国々も戦々恐々といったところ。

カナダ・トルドー首相は早くも足元を見られたような状況。

****トランプ氏、トルドー首相をやゆ「カナダ州知事」****
ドナルド・トランプ次期米大統領は10日、隣国カナダのジャスティン・トルドー首相を「カナダ州知事」とやゆした。

トランプ氏は真夜中すぎ、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「先日、偉大なカナダ州のジャスティン・トルドー知事と夕食を共にすることができて光栄だった」「近いうちに知事に再会し、関税や貿易に関する深い協議を続けられることを楽しみにしている」と投稿した。

トランプ氏は来年1月に就任後、カナダからのすべての輸入品に25%の関税を課すと脅した後にフロリダ州でトルドー氏と会談した際にも、カナダが「米国の51番目の州」になることを提案したと報じられている。

FOXニュースによれば、トランプ氏はトルドー氏に対し、カナダが25%の関税に耐えられないのであれば、米国に吸収されるべきだと述べた。

カナダのマーク・ミラー移民・難民・市民権相はトランプ氏の投稿について記者団に問われると、TVアニメ「サウスパーク」に言及し、「まるでサウスパークのエピソードを生きているようだ」と述べた。

1999年の劇場版では、米国とカナダが全面戦争に突入。米国人の登場人物たちはカナダを非難して挿入歌「ブレイム・カナダ」を歌う。

カナダのクリスティア・フリーランド副首相兼財務相は、記者団にトランプ氏はカナダが米国の一部となることを真剣に望んでいると思うかと問われると、「それは明らかに、次期米大統領に聞くべき質問だ」と答えた。 【12月11日 AFP】
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トランプ氏はこの悪い冗談が気に入っているようで、11月29日に南部フロリダ州の私邸でトルドー首相と会談した際にも・・・

“トルドー氏は、関税によってカナダ経済が完全に破綻すると再考を求めた。
これにトランプ氏は、米国から巨額の利益をむしり取らなければ生き残れないのかと反論。カナダが「米国の51番目の州」になるべきだと畳み掛けた。”【12月4日 産経】

カナダ同様に輸入品すべてに25%の関税、自動車に対して200%超の関税・・・と言われているメキシコは、今のところ強気姿勢で報復関税に言及しています。

****メキシコ「トランプ関税で40万人の米雇用喪失」、報復関税も検討****
メキシコのシェインバウム大統領は27日、トランプ次期米大統領がメキシコからの全輸入品に25%の関税を課す方針を実施した場合、米国の40万人の雇用が失われる可能性があると警告した。また、報復関税を導入する構えも示した。

シェインバウム大統領は定例会見で「米国が関税を課せば、メキシコも関税を引き上げるだろう」と述べ、報復措置導入を明言した。

エブラルド経済相も関税により米国で大規模な雇用喪失や成長率の低下が起き、メキシコに生産拠点を持つ米企業が支払う税金が実質的に倍増することで大きな打撃を受けると警告した。【11月28日 ロイター】
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【トランプ関税の米経済、世界経済への影響】
トランプ関税の米経済自体への影響などについては、以下のようにも。(あくまでも「予想」のレベルですが)

****トランプ関税劇場の号砲****
11月25日、米国のトランプ次期大統領は自身のSNSにて「就任初日に対中関税を10%、対メキシコ・カナダ関税を25%引き上げる」と表明した。

とはいえ、当事者間の交渉によって引き上げが保留される、或いは大幅な除外措置がとられる可能性があるなど、今後の不透明感は強い。

仮に同関税措置がトランプ氏の言及通りに実現する場合、米国のインフレ率は約+0.2%pt加速し、中期的なGDP水準は-0.2%押し下げられると試算できる。

また、関税の対象国が日本やEUへと波及しそれぞれが報復措置に踏み切る場合、米国GDPへの影響は-1.2%まで拡大する。

世界経済への影響を巡っては、関税引き上げによる中国、メキシコ、カナダの対米輸出減少の影響がサプライチェーンを通じて各国に波及し、中期的なGDP水準を-0.1%押し下げる見通しだ。他国が報復措置に踏み切る場合、こうした下押し幅は-0.2%まで拡大する。【12月5日 第一生命経済研究所】
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【ベトナム 近年対米黒字拡大で「次の標的」を懸念】
一方、米中貿易戦争以降、一番恩恵を受けてきた国の一つがベトナムですが、対米貿易黒字が膨らんでいることから、トランプ氏が同国を次の関税の標的にする可能性があるとの懸念が業界関係者やアナリストの間で広がっています。

****米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム****
ベトナムは近年、対米貿易黒字で中国、メキシコ、欧州連合(EU)に次ぐ第4位であるが、これは世界の製造業がトランプ関税の影響を避けるために中国から工場を移したからである。しかし、この「チャイナ・プラス・ワン」の成功は、ベトナムを脆弱な立場に追いやった。
 
ベトナム経済は、輸出の30%近くを占める米国に大きく依存している。ベトナムは今後、特に中国への関税を回避するために同国を経由する製品について、厳しい監視を受ける可能性が高い。

トランプは今回の大統領選挙でベトナムについて言及しなかったが、かつてベトナムについて「唯一最悪の悪用者」、「中国よりも更にひどく我々を利用している」などと発言したことがある。

ベトナム政府関係者は、トランプ大統領の貿易敵視政策がもたらす潜在的リスクをよく理解している。
東南アジア全体が米中貿易戦争の恩恵を受けるなか、ベトナムほど投資誘致に成功した国はない。ベトナムの成功は、中国に近いという優位性、ビジネス・フレンドリーな政策と優遇措置のおかげだ。

2023年のベトナムへの外国投資は366億ドル。ベトナムの対米貿易黒字は1040億ドル以上に急増し、トランプ大統領が就任した17年の380億ドルの約3倍となった。

トランプ退任後、米越関係は強化されてきた。両国は昨年、越政府が与える外交関係の最高レベルである「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げした。バイデン政権はまた、中国による先端チップ製造へのアクセスを制限するキャンペーンの一環として、ベトナムでの半導体生産を後押しする取り組みを支援してきた。【12月16日 WEDGE】
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****ベトナム、対米貿易黒字急増で関税リスク高まる 業界に懸念****
(中略)ベトナムにはアップル、グーグルの親会社アルファベット、ナイキ、インテルのような米国の多国籍企業が大規模な拠点を置いており、対米黒字が中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで4番目に多い。

米商務省が5日発表した貿易統計によると、1─10月の対ベトナム貿易赤字は1020億ドルと、前年同期比約20%増加した。

貿易調査団体のハインリック財団の貿易政策責任者デボラ・エルムズ氏は「トランプ氏にとって主要な指標は貿易赤字であり、ベトナムの数字は望ましくない」と指摘。ベトナムは米国に対して簡単には報復できないため、トランプ政権が早期に行動を起こす理想的な対象との見方を示した。

米商工会議所が先週、ハノイで主催したビジネス会議で上映されたビデオで、トランプ氏の息子で最高顧問のエリック氏は米国から「不当な利益を得た」国の一つにベトナムを挙げた。

この会議で企業や通商団体の関係者らは、米国がベトナムに関税を課す可能性について懸念を表明した。(中略)

ベトナムは液化天然ガス(LNG)や医薬品、航空機などの輸入を増やすことで、対米貿易黒字を減らせるとの見方もある。しかしエルムズ氏は「ベトナムが黒字を大幅に削減するために、迅速かつ十分な規模を輸入できる状況にあるとは思わない」と語った。【12月6日 ロイター】
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もっとも、トランプ次期政権が中国との対決姿勢を強める場合、南シナ海において中国と対峙するベトナム・フィリピンはアメリカにとって重要なパートナーともなりますので、そうした安保保障的な観点から、ベトナムへの圧力は緩められる・・・との観測もあります。

【東南アジア諸国 対中国高関税で「漁夫の利」的に相対的優位となることへの期待も】
また、ベトナムに限らず東南アジア諸国には、仮に関税が引き上げられても、劇的に高くなる中国に比べたら相対的に有利になる・・・との見方も。

****東南アジア諸国「トランプ関税」に戦々恐々、タイでは7015億円損失の試算****
東南アジア諸国連合(ASEAN)で、米国のトランプ次期大統領の貿易政策に対する警戒と期待が交錯している。「トランプ関税」による打撃が東南アジアに及ぶとの懸念が広がる一方、中国から東南アジアへの生産拠点の移管につながることへの期待も根強い。

「漁夫の利」
(中略)東南アジア各国は米国が有力な貿易相手国という国が多い。例えばタイの2023年の輸出総額は2850億ドル(約43兆6000億円)だが、このうち米国向けは17%を占め、国別では最多だ。

タイ商工会議所大学はトランプ氏が公約通り関税を引き上げた場合、「タイ経済は最大45億8480万ドル(約7015億円)を失う」と試算しており、ペートンタン首相は「輸出を支える必要性は認識している」と対策を講じる方針を示す。

アジア開発銀行(ADB、本部・マニラ)は12月に改定した最新の経済見通しで、「米国の貿易政策の変更がアジア・太平洋地域の成長を鈍化させる可能性がある」と懸念を示した。

一方、カンボジアの英字紙クメール・タイムズは11月、カンボジア商工会議所幹部の「米中貿易戦争が中国企業のカンボジアへの投資を加速させる」との発言を伝えた。米国が対中関税を大幅に引き上げれば、関税が相対的に低くなるカンボジアに生産拠点を移す企業が増える「漁夫の利」を期待したものだ。ベトナムでも同様の見方が広がる。【12月15日 読売】
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現段階では全ては不安と思惑ですが、今後次第に「現実」に。

【日本経済への影響  米中ガチンコ勝負ならアメリカにとって日本の協力も重要 一方、その余波は日本にとっても深刻】
日本も影響を避けられませんが、「不安」と「思惑」が交錯。

****日米貿易交渉の課題-第一次トランプ政権時代の教訓*****
1――トランプ関税による日本への影響は?
(中略)米国を代表するシンクタンクの1つであるピーターソン国際経済研究所の試算によると、米国が2025年に貿易相手国すべてに10%の追加関税を発動し、相手国から報復がないという前提のもとで、日本への影響はベースライン対比の実質GDP成長率が、2年目で▲0.14%減少と他国対比の影響は小さくなっている。

ただ、相手国からの報復措置や中国の最恵国待遇を取消し、中国に60%の追加関税を発動するなどすれば、この数倍の影響が出てくるだろう。今後の展開は、米国の要求次第で変わり得る。
日本としては、米国との交渉を通じて影響を減らす努力が必要となるが、それができなかった場合には、日本企業の米国流出が加速することも想定される。

米国が関税引き上げなど、ある意味で意地悪をしてきたとき、8年前であれば中国市場という逃げ場が残されていたが、分断が深まる世界ではそうした選択肢を選ぶことはできず、日本企業は意地悪をされても米国市場に向かわざるを得ないだろう。

そうなれば、米国の言う通り、日本企業は米国に工場を移転し、競争力の源泉である自動車や半導体などの産業を、国外に出していくことになる。

その結果、生産や雇用は米国に流出し、日本への利益還元も悪くなる。日本としては、こうした悪い流れを作らない交渉と企業を強くする産業政策を、セットで推進して行く必要がある。

2――第一次トランプ政権時代、結果として日本の交渉はうまく行った
今回、米国が何を要求して来るかなど、不確定要素は大きいものの、8年前の第一次トランプ政権時代に行ったような交渉ができれば、日本への影響を小さくできる可能性はある。前回は、日本にとって肝になる自動車・自動車部品への関税引き上げを先送りできた。(中略)

合意では、武器購入や防衛費増額など安全保障面での協力を約束し、次の選挙をにらんで米国から要望が強かった牛肉や豚肉など農産品の市場開放で、TPP水準までの関税引き上げに応じている。ただ、日本にとって一番痛い自動車への追加関税の発動を回避することができ、コメの輸入枠導入も先送りすることができた。

3――今回交渉のポイントと見通し
前回合意した日米貿易協定では、第2段階の貿易交渉が棚上げされた状態にある。米国からは農産物などの市場開放とともに、自動車に対する要求が出て来るだろう。とりわけ自動車分野では、非関税障壁の撤廃や輸出数量規制、原産地規則の厳格化といった話が出てくる可能性は考えられる。また、為替の話が出てくる可能性も否定できない。対米輸出で黒字を稼ぐ日本にとって、厳しい交渉になることが予想される。

ただ、日米関係に重きを置いた交渉ができれば、守り一辺倒というわけでもない。日米通商協議が始まった2018年対比でみると、直近2023年の対日貿易赤字は確かに広がっているものの、米国の貿易赤字に占める日本の割合は低下し、国別順位で見ても低下している。

また、対米直接投資では、日本が5年連続最大の投資元であり、投資残高も拡大している。防衛費も大きく拡大し、GDP対比でみた防衛関係費も2018年対比で0.38pt上昇している。それに伴い、米国からの防衛装備品の購入も拡大し、米軍基地駐留経費の負担額も増加している。

米国にとって安全保障面における日本の重要性は増している。前回の交渉時には、ここまで厳しい米中対立には発展していなかった。

米国が中国とのデカップリングを目指すとすれば、日本との関係は8年前より重要になったと言える。それを踏まえれば、日米関係が決定的に損なわれる事態が生じるとの懸念は、それほど心配しなくて良いかもしれない。

ただ、8年前と違って、第3国と米国との間で生じる間接的な問題が、日本により大きく影響する可能性があることには注意を要する。

4――メキシコの自動車、中国の半導体の行方は、日本にとって影響が大きい
トランプ氏は、メキシコから入ってくる自動車の関税引き上げを梃子に、不法移民問題を動かそうとしている。さすがに、選挙期間中に主張していた200%超の関税発動はないだろうが、それなりの関税引き上げには動きそうである。

日本の自動車会社の多くは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を前提に、安価な労働力を活用できるメキシコに工場を立地し、そこで作った製品を米国に輸出している。

外務省の調査によれば、メキシコに進出した日系企業の拠点数は1,500近くある。トランプ氏が、大統領権限などを用いて、メキシコにも関税を掛けるようになれば、現地生産のメリットは失われる。サプライチェーンの組み換えが発生し、日本の自動車会社には大打撃になる。

さらに、米中がガチンコでやり合った場合、日本から見て輸出割合の高い中国向けの輸出が、さらに鈍ることも考えられる。日本の対中輸出品目では、半導体製造装置や電子部品が大きな割合を占めている。先端品から汎用品まで規制対象が広がれば、対中輸出で稼ぐ日本のビジネスも影響を受けざるを得ない。

ただ、不法移民問題で発動されるメキシコの自動車関税や、米中覇権争いの中で発動される中国の半導体規制は、日本としてどうしようもできない面がある。日本ができるのは、日米交渉をうまくやることだけである。

「守り」については、米国や同盟国との意思疎通を今まで以上に緊密なものとし、「攻め」については、日本の再評価と言う良い流れを活かす産業政策の推進が、これから極めて重要になって来るだろう。【12月3日 矢嶋 康次氏 ニッセイ基礎研究所】
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あまり「安心」できるような記事ではありませんが、対米黒字が拡大しているベトナムと違って、幸か不幸か日本の対米黒字割合は相対的には小さくなっている、つまりアメリカにとってさほど重要な標的ではなくなっていること、中国と殴り合いをやるつもりなら、日本の協力が重要なこと・・・あたりは「安心」材料

不法移民問題で発動されるメキシコの自動車関税や、米中覇権争いの中で発動される中国の半導体規制が本格化すると、日本もその嵐の中に・・・といったあたりが「不安」材料といったところのようです。
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マレーシア  とかく厄介な領有権問題 政治指導者間の因縁の関係が重なると・・・

2024-12-15 22:31:49 | 東南アジア

(マル印で囲んだあたりがペドラ・ブランカ島 実際は地図にも表記できない小さな島です)

【無人島「ペドラ・ブランカ島」 2008年5月 シンガポール領とする国際司法裁判所(ICJ)判断】
日本の尖閣諸島・竹島問題に限らず、多くの国が隣国と領有権を争う問題を抱えており、合理的判断の有無にかかわらず、その解決・譲歩はナショナリズムと絡んで非常に困難です。ときに国内の政争とも絡んでくることも。

マレーシアは隣国シンガポールと無人島「ペドラ・ブランカ島」(面積はサッカー場の半分ほどと極めて小さく、地図にも表示できないぐらい)をめぐって争ってきました。「過去形」なのは、領有権についてはシンガポールの主張が認められる形で国際司法裁判所(ICJ)の判断が確定しているからです。

しかし、ここにきて今度はマレーシア国内の「アンワル首相vs.マハティール元首相」という因縁の対決の形で再燃しています。

*****ペドラ・ブランカ島*****
ペドラ・ブランカ島は、マレー半島南部ジョホールの7.7カイリ沖、南シナ海から半島東岸に沿ってシンガポール海峡に入る位置にある花こう岩性の無人島。面積はサッカー場の半分ほどと小さいが、その位置から戦略的に重要な意味を持ち、領海問題にも影響を及ぼすとみなされてきた。【2008年5月23日 AFP】
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****マレー半島の小島、領有権はシンガポールに 28年間の論争に終止符****
オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は(2008年5月)23日、シンガポールとマレーシアが領有権を争っていたペドラ・ブランカ島(Pedra Branca、マレーシア名はバトゥプテ島、Pulau Batu Puteh)について、シンガポールに帰属するとの判断を下し、28年間にわたる論争に終止符を打った。(中略)

ペドラ・ブランカ島の領有権はそもそもマレーシア側が主張していた。しかし、シンガポール側は130年前から同島のホースバー灯台を管理しており、それに対してマレーシアは何の申し立てもしていなかったことから、暗黙のうちに領有権がシンガポールに移転していたと反論していた。

ICJのAwn Shawkat Al-Khasawneh裁判官は「当法廷は12対4で、1980年までにペドラ・ブランカ島の領有権はシンガポールに移転されていたとみなし、同国に帰属すると判断するに至った」と述べた。

またICJは、島周辺に2つある岩場のうちMiddle Rocksについてはマレーシアに領有権があることを認めた。もう1つの岩場South Ledgeはちょうど領海が重なるところに位置することから、あらためていずれの国に帰属するか判断するとした。

論争の発端は1980年、ペドラ・ブランカ島を自国領土として記載したマレーシアの新しい地図にシンガポールが異議を唱えたことにある。以後、両国間で数年にわたり協議が行われてきたが解決には至らず、国連(UN)の最高司法機関であるICJに判断を委ねることになった。

1965年にマレーシアからシンガポールが分離独立して以来、両国関係は領有権争い以外でもしばしば悪化している。1965年当時には、島の領有権は定められていなかった。

23日のICJの判断について、マレーシア、シンガポールともに2国間関係に影響を及ぼすものではないとコメントしている。【同上】
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【かつてはマレーシアを追放されたシンガポール その後世界的金融・港湾都市に変貌】
もとより(マレー人優遇政策をとる)マレーシアと(華人主体の)シンガポールの関係は微妙。1965年にマレーシアから「追放」される形で「不本意」な分離独立はするも、小さく天然資源の不足に悩み、生き残れないと言われていました。“独立を国民に伝えるテレビ演説で(シンガポール指導者)リー・クアンユーは涙を流した”【ウィキペディア】とも

*****シンガポール マレーシアから「追放」される形での分離独立*****
マレーシアを結成
1957年にマラヤ連邦が(イギリス植民地支配から)独立し、トゥンク・アブドゥル・ラーマンが首相に就任する。その後の1959年6月にシンガポールはイギリスの自治領となり、1963年にマラヤ連邦、ボルネオ島のサバ・サラワク両州とともに、マレーシアを結成する。

しかし、マレー人優遇政策を採ろうとするマレーシア中央政府と、イギリス植民地時代に流入した華人が人口の大半を占め、マレー人と華人の平等政策を進めようとするシンガポール人民行動党(PAP)の間で軋轢が激化。

1964年7月21日には憲法で保障されているマレー系住民への優遇政策を求めるマレー系のデモ隊と、中国系住民が衝突し、シンガポール人種暴動 (1964年)が発生、死傷者が出た。

シンガポール共和国として分離独立
軋轢の激化に加え、1963年の選挙において、マレーシア政府与党の統一マレー国民組織(UMNO)とシンガポールの人民行動党(PAP)の間で、相互の地盤を奪い合う選挙戦が展開されていたことにより、関係が悪化してしまう。

ラーマン首相は両者の融和は不可能と判断し、ラーマンとPAPのリー・クアンユー(李光耀)の両首脳の合意の上、1965年8月9日にマレーシアの連邦から追放される形で都市国家として分離独立した。独立を国民に伝えるテレビ演説でリー・クアンユーは涙を流した。【ウィキペディア】
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それが今では・・・・世界有数の金融・港湾都市国家へ変貌。

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シンガポールは、教育、娯楽、金融、ヘルスケア、人的資本、イノベーション、物流、製造・技術、観光、貿易・輸送の世界的な中心である。多くの国際ランキングで上位に格付けされており、最も「テクノロジー対応」国家(WEF)、国際会議のトップ都市(UIA)、世界で最もスマートな都市である「投資の可能性が最も高い」都市(BERI)、世界で最も安全な国、世界で最も競争力のある経済、3番目に腐敗の少ない国、3番目に大きい外国為替市場、3番目に大きい金融センター、3番目に大きい石油精製貿易センター、5番目に革新的な国、2番目に混雑するコンテナ港湾。

2013年以来『エコノミスト』は、シンガポールを「最も住みやすい都市」として格付けしている。経済平和研究所によると、シンガポールは世界平和度指数で9位、汚職の少ない国として12位にランクインしている(共に2022年時点)【ウィキペディア】
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リー・クアンユーの手腕によるところが大きいものの、その強権的政治には批判も。

【2018年 復権したマハティール首相 前年に行ったICJへの控訴を取下げ】
話をペドラ・ブランカ島に戻すと、前期のICJ判断で結着したはずですが、2017年マレーシアは新たな証拠が見つかったとして判決見直しを要求。

しかし、当時のマハティール首相は翌年(2018年)、この控訴を取下げました。これで、ペドラ・ブランカ島はシンガポールが領有することで改めて結着しました。

****ペドラ・ブランカ島帰属問題が決着、マレーシアが控訴取り下げ****
マレーシアとシンガポールとの間で領有権が争われたペドラ・ブランカ島(マレーシア名バトゥ・プテ島)の帰属問題が決着し、シンガポールに領有権のあることが確定した。

マレーシアは1979年、シンガポールが実効支配する同島はマレーシアに属すると主張。ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に提訴したが、ICJは2008年5月23日、島はシンガポールに属するとの判決を示した。

しかし判決を覆す可能性のある決定的証拠が英国のアーカイブで発見されたとしてマレーシアは昨年2月、判決の見直しをICJに要求。別に判決内容の解釈を求める請求も行った。

マレーシアは2件の請求とも取り下げをICJに要請し、またシンガポールの法務総裁にも通知。シンガポール側も同意を表明した。(中略)

ラジャラトナム国際研究学院のヤン・ラザリ特別研究員によれば、マレーシアのマハティール首相は、財政健全化など、より重要な課題に取り組むことを優先したと考えられるという。【2018年5月31日 Asia X】
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合理的なマハティール首相にすれば、そんな小さな岩島に拘っても仕方ない・・・という考えでしょうか。

【アンワル政権 ペドラ・ブランカ島に関連する訴訟を審査する王立委員会を設置 マハティール氏が独断で控訴を取り下げたことが不正行為に当たると勧告 因縁のマハティール・アンワル両氏】
それから数年の時が流れ、2024年1月、ロイター通信はマレーシアがペドラ・ブランカ島に関連する訴訟を審査する王立委員会を設置すると報じました。

改めて王立委員会を設置するということは、アンワル首相としては上記2018年のマハティール元首相による幕引きを了承できないということでしょう。

アンワル首相とマハティール元首相・・・・非常に興味深い関係
アンワル氏はかつてはマハティール政権の副首相として後継者と目されていましたが、経済政策をめぐって対立。
アンワル氏は政権からも、与党からも追放され、同性愛の罪(マレーシアはイスラム教を国教とする国家で同性愛は犯罪に該当します。このアンワル氏への嫌疑は政治的なものとも見られています)で投獄されることに。

アンワル氏は2004年に釈放されるものの、2014年に司法の無罪判決取り消しで再び収監されることに。

2018年に首相に復帰したマハティール政権のもとで国王恩赦により釈放され、アンワル・マハティール両者は和解(したことになってはいます)。

アンワル氏はその後2022年に念願の首相の座に。

なお、マハティール氏はザヒド副首相との間でも名誉毀損を巡る裁判を抱えているようです。

そうした個人的な確執がペドラ・ブランカ島をめぐるマハティール氏の対応への不満の背景にあるのか、ないのか・・・

一般論で言えば、アンワル氏の長年の収監に関して加害者側のマハティール氏は「過去の話。水に流して・・・」というところでしょうが、実際に収監されていたアンワル氏の思いはそう簡単ではないでしょう。(もし政治的冤罪だとしたら)

もっとも、マハティール氏にすれば、あれは政治的冤罪ではなく、実際にアンワル氏が罪を犯したから・・・という話でしょうが。

****マレーシア元首相のマハティール氏、捜査対象に? 島の領有権問題で****
マレーシアのマハティール元首相(99)が在任中の政治判断を巡り、捜査対象になる可能性が浮上している。

シンガポールと争っていた小島の領有権に関する国際司法裁判所(ICJ)の判断への異議申し立てについて、マハティール氏が独断で取り下げたことが不正行為に当たるとして、王立調査委員会が捜査を勧告した。マハティール氏は、独断ではなかったなどと否定し、対決の構えを見せている。

現地メディアによると、問題となっているのは、南シナ海とシンガポール海峡を結ぶ要衝にあるぺドラブランカ島などの領有権に関する対応だ。ICJは2008年、同島がシンガポールに帰属するとの判断を下したが、マレーシア政府は17年に異議を申し立てた。

ところが、18年5月の下院選挙を経てマハティール氏が首相に就任した直後に異議申し立ては取り下げられた。

アンワル首相が当時の経緯の見直しを指示したとされ、調査委が今年に入って調査に乗り出していた。今月5日に議会に提出された報告書は、マハティール氏が内閣の承認を受けないまま不当に領有権を放棄したとして問題視した。

これに対し、マハティール氏は自身のX(ツイッター)に45項目にわたる反論を投稿。異議申し立ての取り下げは閣議で合意された▽異議申し立てがうまく進む可能性は低いとする国際法の専門家らの見解を考慮し、国益を優先した――などと主張した。10日に記者団の取材に応じた際には、調査の背景に政治的動機があるとして現政権を非難したという。

(中略)(マハティール氏は)今年1月と10月には感染症の治療のために入院し、裁判は延期されていた。【12月15日 毎日】
*******************

TVでチラ見した現地ニュースでは、マハティール派の野党議員が「不当に責任を押し付けるものだ」と批難。

政府側は王立調査委員会の報告書を検討・議論してくれという立場のようですが、同報告書の多くのページが真っ黒に塗られれており野党議員は「これでは検討もしようもない」と政府を追求していました。

ただでさえ厄介な領有権交渉に、長年のアンワル・マハティール両氏の確執(一応表面的には和解したことにはなっていますが)が加わって、すっきりしない展開に。

なお、アンワル首相については、長年の政治的迫害を経て政権の座についたこれまでとは異なる価値観の政治家と欧米からは期待もされていましたが、その実像は欧米の期待したものとは異なるのではないか・・との指摘もあります。
(“【期待を裏切ったマレーシア首相】西側諸国が間違ったアジアの指導者を支持する背景【10月25日 WEDGE】)

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イスラエル  人道支援を止め、過激派排除のために住民犠牲を厭わない論理

2024-12-14 22:26:50 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスで、食料配給を待つ市民ら=11月29日【11月30日 産経】)

【ネタニヤフ首相とトランプ氏の「力によるハマス屈服」が奏功 ハマスも停戦に向けた動き】
パレスチナ・ガザ地区からは連日のように痛ましいニュースが伝えられていますが。人質と民間人を盾にしてここまで抵抗を続けてきたハマスも、ヒスボラも大きく損傷を受け、イランも支援を期待できない、シリア・アサド政権も崩壊と孤立を深めるなかで、また、アメリカ・次期トランプ政権が更にイスラエル支援をつよめることも予想される状況で、これ以上の事態好転は見込めず(一時的な)停戦に向けた動きも出てきているようです。

****ガザ停戦、年内の合意に意欲 ハマスも譲歩か 交渉仲介の米高官****
パレスチナ自治区ガザ地区の停戦交渉を仲介する米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は12日、訪問先のイスラエルでネタニヤフ首相と会談した。

会談後の記者会見で、イスラエルとイスラム主義組織ハマスとの停戦交渉について、「ネタニヤフ氏は合意する準備ができていると感じた」と述べ、年内の合意成立に意欲を示した。

また米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは12日、ハマスが交渉で、ガザ地区でのイスラエル軍の一時的な駐留を初めて認めたと報道。これまでは撤退を主張しており、譲歩した格好だ。

停戦に向けて動いているトランプ次期米大統領も停戦の成立に楽観的な見方を示しており、ここに来て動きが加速している。

報道によると、イスラエルとハマスの間では、60日間の停戦のほか、ハマスが拘束する人質のうち最大30人を解放することなどが検討されている。米メディアによると、ハマスは人質100人ほどを拘束しているとみられ、イスラエルの情報機関はこのうち約半分が生存していると考えているという。

米ニュースサイト「アクシオス」によると、ネタニヤフ氏は会談でサリバン氏に、「ハマスが青信号を出せば、すぐに取引を実行する用意がある」と強調したという。

サリバン氏は記者会見で、これまで強硬だったハマスの交渉姿勢に変化がみられるとし、「合意は実現しないかもしれないが、両者に政治的な意思があれば合意は可能だと信じている」と説明。一方、ネタニヤフ氏が合意の成立の時期をトランプ政権が発足する来年1月20日まで遅らせるとの見方は否定した。

またトランプ氏は12日に公表されたタイム誌のインタビューで、「中東の問題はロシアとウクライナで起きていることよりも対処しやすい。非常に建設的なことが起きていて、解決に向かっていると思う」と語った。

一方、ロイター通信は西側諸国の外交官の話として、「合意は具体化しているが、一握りの人質の解放と一時的な敵対行為の停止にとどまるだろう」との見方を伝えた。【12月13日 毎日】
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****米高官「ハマスは孤立」 ガザ停戦に期待、アサド政権崩壊が後押しか****
カービー米大統領補佐官は10日、シリアのアサド政権が崩壊したことで、同じくイランから支援を受けてきたパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスが孤立を深めているとの認識を示した。

ハマスについて「誰も支援には来ない。取引に応じるべきだ」と述べ、ハマスに対する停戦の圧力につながるとの期待を示した。
 
ハマスは、イスラエルと対立するイランや、レバノンの親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラの支援を受けてきた。だが、ヒズボラはイスラエルとの一連の交戦で大きな打撃を受けた。

アサド政権はイランやヒズボラのほか、ウクライナとの戦闘に注力するロシアから十分な支援を受けられず、崩壊につながったと指摘される。さらにアサド政権が崩壊したことで、イランからヒズボラへの「補給路」も断たれることになった。

カービー氏は記者団に「ハマスがどう動くかはまだ分からないが、絶対に取引すべきだ。なぜなら、イランやヒズボラはもうあてにできないのだから」と述べた。

バイデン大統領は5月末に停戦案を発表するなど、イスラエルとハマスの仲介に動いてきたが、停戦は実現していない。強硬な姿勢を崩さないイスラエルと、ハマスの隔たりが埋まらないためだ。(後略)【12月11日 毎日】
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****トランプ氏がハマスに警告 就任までに人質解放しなければ「最も激しい打撃を与える」****
アメリカのトランプ次期大統領は2日、イスラム組織ハマスに対し、自らの大統領就任までに人質を解放しなければ「最も激しい打撃を与える」と警告しました。

トランプ次期大統領は2日、パレスチナ自治区ガザ地区で人質を拘束しているハマスに対し、「直ちに人質を解放しろ」と迫りました。また、来月20日の大統領就任までに人質を解放しなければ、「アメリカの歴史上、最も激しい打撃を与える」と警告しました。

ハマスは先月、イスラエル系アメリカ人男性の人質の映像を公開。この中で男性はトランプ氏に助けを求めていて、これに応じたかたちです。(後略)【12月3日 日テレNEWS】
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一時的とは言え、かりに“60日間の停戦”となれば、2か月後に戦闘を再開する余力はないでしょう。
ネタニヤフ首相とトランプ氏の「力によるハマス屈服」が奏功した形です。

【パンを求めて殺到する群衆で子供・女性3人が圧死】
ただ、ここに至るまでにガザ地区住民が払った犠牲はあまりにも大きなものでした。

イスラエル軍が人道支援すらも厳しく制限し、略奪行為で国際支援も滞る状況で、「このままでは爆弾を受けなくても多くの住民が飢えで死ぬだろう。特に子供やお年寄りの飢えは深刻だ」(食料配給所運営者)という住民は飢えに直面しています。

****肉を見たのは3か月前、主食も2週間食べずガザ住民「冬越せない」…支援物資滞り深刻な飢餓止まらず****
パレスチナ自治区ガザへの支援物資の搬入が滞り、飢餓の深刻化が止まらない。イスラエル当局が円滑な物資の搬入を阻止しているのに加え、ガザ住民の略奪で国連などが搬入を停止したためだ。昨年10月にガザで戦闘が始まってから2度目の冬季を迎え、住民からは「このままでは冬を越せない」との悲痛な声が漏れる。

ガザ南部ハンユニスで、外国や国連機関の支援を受けて民間団体が運営する無料の食料配給所には4日、鍋を持った人々が殺到していた。子供の姿が目立つ群衆は「先に入れてくれ」と殺気立って叫んでいた。

ガザ最南端ラファからハンユニスに避難し、妻や子供3人とテントで暮らすファディ・モフセンさん(47)も配給を待つ列に並んだ。モフセンさんには手持ちの現金がない。現金があったとしても近くのパン店はイスラエル軍の空爆で破壊された。市場でも食料が高騰し、手を出せない。

モフセンさんは午前8時から列に並び、昼頃にようやく薄い豆スープを鍋に入れてもらった。モフセンさんは「妻子に食べさせる唯一の方法は、ここに数時間並んで食べ物を恵んでもらうことだけだ」と本紙通信員に悲壮な表情で語った。

イスラエル当局はガザを封鎖し、必要とされる物資の搬入を認めていないことから、ガザは深刻な食料不足に陥った。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、11月は578回の搬入申請のうち35%の204回分は拒否された。16%にあたる93回分は手続きが遅れた。
 
搬入が許可されたトラックからの略奪も相次ぎ、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は12月1日、物資搬入の中止を発表した。

米民間団体「ワールド・セントラル・キッチン」は11月30日、スタッフ3人がイスラエル軍の空爆で殺害されたことを受け、活動を停止した。

中部ディール・アルバラハでは11月29日、女性3人がパン店の前で殺気立った群衆に押しつぶされて死亡した。

ラファからハンユニスに避難中のオマル・バルハムさん(32)には、身ごもった妻と2人の子供がいるが、主食のパンを2週間食べておらず、肉を最後に見たのは3か月前だ。「お金がないので、食料配給だけが頼みの綱だ」。バルハムさんは力なく語った。

外国などの支援を受け昨年10月から食料配給所を運営するハニ・カーシムさん(39)によると、UNRWAの物資搬入中止などで1週間前から群衆が殺到するようになった。カーシムさんは「このままでは爆弾を受けなくても多くの住民が飢えで死ぬだろう。特に子供やお年寄りの飢えは深刻だ」と訴えた。国連は「戦闘が終結せず、支援物資が届かなければ、この冬ガザ全体で飢餓の恐れが続く」と警告している。【12月12日 読売】
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痛ましかったのは、上記記事にもある11月29日のパンを求めて集まった群衆に押しつぶされ、子どもを含む3人が死亡した事故。

****パンを求めて集まった群衆に押しつぶされ…子ども含む3人死亡 ガザ地区****
食料危機が深刻化するパレスチナ自治区ガザ地区で29日、パンを求めて集まった群衆に押しつぶされ、子どもを含む3人が死亡しました。

ガザ地区では、イスラエル軍とイスラム組織ハマスによる戦闘の影響で深刻な食料危機に陥っていて、AP通信によりますと、29日、大勢の人がパンを求めて店に殺到し、押しつぶされた3人が死亡したということです。

死亡したのは、13歳と17歳の少女2人と50歳の女性で、死因はいずれも窒息死でした。

過去2か月間でガザ地区に搬入された食料は、去年10月に戦闘が始まって以来、ほぼ最低水準まで落ち込み、1日1食しか食事を確保できない家族も多いということです。

こうした中、ロイター通信はハマス幹部の話として、ハマス代表団が停戦交渉に向け、30日にも仲介国のエジプトを訪問すると伝えました。ただ、イスラエル軍は29日も攻撃を続けていて、先行きは不透明です。【11月30日 日テレNEWS】
*******************

みんな生き残るために必死です。

【「イスラム聖戦」の幹部1人を排除するため30人が死亡、50人が負傷】
イスラエルの空爆も熾烈を極めています。

****ガザの郵便局攻撃で30人死亡、イスラエル軍「人間の盾」と非難****
イスラエル軍が12日夜、パレスチナ自治区ガザ中部ヌセイラートの難民キャンプにある郵便局を攻撃し、少なくとも30人が死亡、50人が負傷した。医療関係者が明らかにした。

郵便局にはガザの避難民が身を寄せていた。

イスラエル軍は13日、パレスチナ過激派組織「イスラム聖戦」の幹部1人が標的だったと表明。イスラム聖戦が民間人を「人間の盾」として利用していると非難した。

医療関係者によると、この攻撃でガザ地区の12日の死者は66人に上った。【12月13日 ロイター】
*************************

いつも言うように、住民を人間の盾とするイスラム過激派も卑劣ですが、その「人間の盾」をものともせず住民ごと吹き飛ばすイスラエル軍の攻撃も非情です。

「イスラム聖戦」の幹部1人を排除するためには、“30人が死亡、50人が負傷”という住民犠牲もやむを得ないという考えでしょうか。賛同できません。

【シオニズム 先住民をその土地から排除する論理で必然的に暴力を伴う】
イスラエルにすれば、テロ攻撃をしかけたのも、人質をとっているのはハマスやイスラム聖戦の側であり、また「やられたらやり返す」のが世の常とは言え、イスラエル側の力の行使があまりにも過大であり、バランスを書いているとの指摘は以前からのものですが、ここにきて「対テロ作戦」「人質救出」という名目のもとで、その暴力に歯止めがかからなくなっているように思えます。

****なぜイスラエルは苛烈な暴力をいとわない国家になったのか? 長く迫害されたユダヤ人の矛盾、イスラエル人歴史家に聞いた****
2023年10月7日のイスラム組織ハマスの奇襲後、イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザへの攻撃を始め、これまでに4万人以上が死亡した。イスラエルが占領するヨルダン川西岸でも、軍は「対テロ作戦」と称してパレスチナ武装勢力を攻撃し市民が巻き添えに。ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への暴力も急増している。

約2000年前に世界に離散したユダヤ人は欧州で長い間迫害され、ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)で約600万人が殺害された。

差別に苦しんできたユダヤ人が建国したイスラエルがなぜ暴力をいとわない国家になったのか。イスラエルが建国された1948年の政府や軍の公文書を分析したイスラエル人歴史家で、英エクセター大のイラン・パペ教授に話を聞いた。

 ▽パレスチナ人が排除される論理。シオニズム運動とはなんですか
―イスラエルは、ユダヤ人の国家建設を目指すシオニズム運動が主導して建国された。その思想的背景は。
「シオニズム運動は一種の植民地主義に基づいています。ただ大英帝国によるインド支配のような、先住民搾取が目的の植民地主義とは異なり、(米国のように)先住民をその土地から排除することが目的で、歴史家の間では「入植者植民地主義」と呼ばれています。

シオニズム運動の担い手は欧州の反ユダヤ主義の暴力から逃れたユダヤ人たちで、パレスチナという土地にユダヤ人国家をつくるためには先住民のパレスチナ人を排除する必要がありました。それには必然的に暴力が伴います。

シオニズム運動の目的は可能な限り多くの土地を入手し、可能な限り多くのパレスチナ人を追い出すことでした。当然、パレスチナ人は抵抗します。その抵抗はシオニズム運動を展開するユダヤ人(シオニスト)にとっては、さらなる暴力行使の正当化の根拠になりました。

建国運動の過程で村落を焼き払い、家屋を破壊し、住民追放や民間人虐殺もしました。まさに「民族浄化」です。それは今日にまで至っています。

先住民のパレスチナ人が自らの土地を簡単に明け渡すはずはなく、パレスチナの土地にユダヤ人だけの民族国家を建設したいと考えても、不可能なのです」

 ▽ユダヤ教の役割とは
 ―ユダヤ教はシオニズムとどう関係しているのか。
「あらゆる宗教は暴力の正当化に利用されます。当初のシオニストたちは世俗的なユダヤ人でした。彼らは宗教書であるユダヤ教の聖書を起きた事実に基づく歴史書とみなし、さらに法律書のように振りかざして、そこにある記述を基にパレスチナでの居住権を主張しました。最初から政治目的で宗教を利用したと言えます。
シオニズムに反対するユダヤ人もいますが、問題はそうした反シオニストがイスラエルでは少数派ということです。イスラエル国内でシオニズムに反対するのは非常に難しいですが、世界を見渡すと、シオニストではないユダヤ人のほうが多数派だと思います」(中略)

 ―米国に求めることは何か。
「一部のイスラエル国民は『欧米は、イスラエルが人種差別しようとしまいが支持してくれる』と考えているようです。

加えて『パレスチナ人が暴力的だ』という政府のプロパガンダを信じていると、パレスチナ人を理解しようとする余地がなくなります。若者は多感な18〜21歳ごろに徴兵され、軍での教育を通してパレスチナ人への暴力は許容されるとの考え方に簡単に感化されてしまいます。イスラエルの右傾化は、国の内側から変えることはできないと言えるでしょう。

中東地域全体がイスラエルを疎外し、世界でも支持しない人が増えていくと思います。イスラエルロビーが活動を続けても各国政府はイスラエル支持が国益にかなうのか考え直さざるを得なくなるでしょう。
資金面の問題もあります。現在、ガザやレバノンでの戦闘で、戦費の多くは米国からの支援に頼っており、米国の納税者が負担しています。戦争が続けば親イスラエルの米国人でも限度を感じる瞬間が来ると思います。(中略)

 ▽イスラエル社会の分断とは
パペ氏によると、イスラエル社会は現在、ユダヤ教に国家基盤を求めるグループと民主主義や人権を重視するグループに分断されている。前者はイスラエル軍、治安機関の上層部に影響を与えているほか、ネタニヤフ首相の支持基盤で、国内で支持は高まっている。
前者はイスラム組織ハマスとの戦闘継続を求める一方、後者のリベラルなグループは人質解放を求めてハマスと交渉すべきだ主張することが多く、さまざまな論点で対立する。【12月14日 47NEWS】
******************

【「勝てば勝つほど」に世界的に共感を失う】
たしかに今はハマスを壊滅寸前まで追い詰め、ヒズボラには数年は立ち直れないほどの打撃を与え、イラン本土を攻撃し、シリアでは緩衝地帯に進軍・・・とネタニヤフ首相の進める、またその支持基盤が求める「力の行使」でパレスチナ人を排除し、ユダヤ人国家「イスラエルの安全保障上必要なものは何でも行う、ある意味「やりたい放題」の状況はイスラエルにとって大きな軍事的成果をもたらしています。

しかし、そうした形で「勝てば勝つほど」に(利害損得を考えてのイスラエル・サウジの関係改善みたなものはあったにしても)世界的に共感を失い、安全保障の最も根幹部分で危うさをましていくようにも見えます。

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ガザでの戦闘を巡りネタニヤフ首相らに戦争犯罪の疑いがあるとして逮捕状を発行した国際刑事裁判所(ICC)や、イスラエルのパレスチナ占領政策が国際法違反だとした国際司法裁判所(ICJ)の判断に見るように、イスラエルは国際社会から孤立しつつあります。世界では、イスラエルの製品や企業をボイコットする運動が広がり、若いユダヤ人もイスラエルから距離を置きつつあります。

国家としてのイスラエルの将来像を描けず、安全に不安を抱く国民が増えています。イスラエル国民としての自信の喪失は前例のないレベルになったと言っていいでしょう。社会の結束が大きく揺らいでいるのです。
 
パレスチナという土地にユダヤ人国家を押し付けるという入植者植民地主義のシオニズム計画に基づくイスラエル国家は崩壊に向かっています。私の考えでは10〜15年で没落するでしょう」【同上】
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モルドバ  大統領選挙は親欧米派現職勝利も、エネルギーのロシア依存で揺れる

2024-12-13 22:35:32 | 欧州情勢

(ロシアとの関係をめぐり路上で言い争う人々 モルドバ・オルヘイ【2023年6月15日 NHK】)

【大統領選挙決選投票 親欧米派現職勝利 ただ、物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も】
東欧の旧ソ連構成国でもある小国モルドバは「欧州最貧国」とも呼ばれる国家ですが、地政学的に見ると欧州・EUとロシアという大国の間で揺れ動き、どちらの勢力が勝るのかを示すバロメーターともなっています。

また、ウクライナやジョージアと同様に親露派勢力が実効支配する未承認国家を抱え、ロシアの介入を招きやすいという「危うさ」もあります。

そのモルドバで10月20日に大統領選挙、及び、「貴方は、モルドバ共和国のEU加盟を視野に入れた憲法改正を支持しますか?」というEU加盟の是非を問う国民投票が行われたこと。大統領選挙では現職親欧米路線サンドゥ大統領はトップには立ったものの過半数はえられず、決選投票へ。ロシア支持層が親ロシア候補で一本化すると決選投票は不透明に。更にロシアの選挙干渉も懸念される・・・といった結果になったこと。

“サンドゥ大統領は、EU加盟を阻止したいロシアが国民の1割以上に賄賂を贈り、買収を企てたと主張していて、警察当局もロシアからおよそ60億円が送金されたとしています。”【11月3日 日テレNEWS】
(事実かどうかは別にして、ロシアがその気になれば国民の1割以上に賄賂を贈れるあたりは、「小国」ならではのことです)

更にEU加盟の是非を問う住民投票では事前の加盟賛成圧勝予測にもかかわらず、結果は賛成50.38%で、薄氷での承認になったことなどは10月29日ブログ“モルドバ・ジョージア 欧米とロシアの間で揺れる両国の選挙 思った以上に根強い親ロシア的なもの”でも取り上げました。

その後の11月3日に行われた大統領選挙決選投票では、親欧米路線サンドゥ大統領が国外居住者の票を集める形で勝利しました。

****モルドバ大統領選、親欧米派の現職が当選確実 親露派候補を破る*****
東欧の旧ソ連構成国モルドバで3日、大統領選(任期4年)の決選投票が行われ、即日開票された。親欧米派の現職サンドゥ氏が親露派候補を破り、当選が確実な情勢となった。

10月にあった欧州連合(EU)加盟への賛否を問う国民投票に続いて親欧米路線が支持された形で、影響力を保ちたいロシアと現政権を支持する欧米の対立も激しくなると予想される。
 
中央選管によると、現地4日未明時点で開票率は98%以上で、サンドゥ氏は親露派政党の後押しを受けるストイアノグロ元検事総長に9ポイント以上の差を付けている。暫定投票率は約54%。サンドゥ氏はX(ツイッター)に「私たちは団結、民主主義、そして尊厳ある未来への決意の強さを共に示した」と投稿した。(中略)

2020年に発足したサンドゥ政権はロシアがウクライナに侵攻した直後の22年3月にEU加盟を申請。その後も親欧米路線を加速させていた。ストイアノグロ氏は、EUへの加盟自体は目指すものの、ロシアとの関係修復にも意欲を見せていた。

モルドバはウクライナとの国境沿いに親露派勢力が実効支配する未承認国家を抱える地政学上の要衝。ロシアが国民投票と大統領選に買収や偽情報の拡散で介入した疑いが持たれている一方で、欧米は経済支援を強化して対抗していた。

10月の投票について、サンドゥ氏はロシア側が人口の1割を超える30万人を買収しようとしたと非難していた。決選投票でも組織的な大規模動員などが疑われている。2期目に入ってもサンドゥ政権とロシアとの対立は先鋭化しそうだ。

これで親欧米派は国民投票と大統領選のいずれも制したことになるが、親欧米派の支持者が多い国外からの投票の貢献が大きかった。物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者もおり、来夏に予定される議会選挙で与党が過半数を維持できるかが次の焦点となる。【11月4日 毎日】
**********************

“物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も”という事情に関しては以下のようにも

*****ロシアから離れたい?離れられない? なぜ揺れるモルドバ?****
(中略)
首都から北に40キロほど離れた町オルヘイ。
一部の市民がサンドゥ政権に対するデモに参加していたと聞いて、町を訪れ市民に話を聞いてみました。

「年金だけではやっていけない」、「EUとロシア、どちらと関係を深めるほうがいいかわからない」と話す高齢の女性たち。

以前ロシアの建設現場で働いていたという37歳の男性は「ロシアと一緒のほうがいい。昔はなんでもあった。物価も下がりはしなかったが、こんなに高くはならなかった。サンドゥ政権には期待しない」と不満を口にしていました。

取材をしていると、人々が突然、言い争いを始めました。
「資金面で支援をしてくれるのは誰だ?EU、ルーマニアだろう!ロシアが何をした?ガスの値段を高くしただけじゃないか!」
「面倒を見てくれたのはロシアでしょう!ルーマニアではない!」
「ロシアに面倒を見てもらうなんて、とんでもない!」

路上で言い争う人々ヨーロッパかロシアか。 市民の間で、意見が割れている実態を目の当たりにした瞬間でした。【2023年6月15日 NHK】
********************

【12月末でロシアのガス供給停止 表面化するエネルギーのロシア依存】
上記のような物価高などで地方を中心に現政権への不満を持つ有権者も多い実情から懸念されるのが、ガス供給をめぐる状況です。

ガスはこれまで、ロシア→ウクライナ→モルドバ→親ロシア未承認国家「沿ドニエストル共和国」という流れでしたが、ウクライナの戦争の影響でこの流れが停止する事態となっています。(ある意味では、これらの国々は互いに相争いながらも、経済関係では密接に繋がっているとも言えます。そこが「親ロシア派」が欧米で考える以上に根強い最大の理由でもあるでしょう」

*****モルドバが16日から60日間の非常事態宣言 ロシアのガス供給停止に備え****
モルドバ議会が16日から60日間の非常事態宣言を発令すると発表しました。今月末にロシア産ガスの供給が停止される懸念があり、迅速な対応ができるよう備えた形です。

モルドバ議会は13日、レチャン首相の要請を受けて、16日から60日間の非常事態宣言を発令することを決定しました。

ガスはウクライナ経由で供給されていますが、ウクライナは供給元のロシアの国営企業「ガスプロム」との12月末で終了する契約について延長しないと表明しています。

その場合、来年以降のエネルギー不足が懸念されるため、非常事態宣言は政府や議会などの迅速な対応を可能にすることを目的としているということです。

また、モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組みになっていて、契約の終了により「沿ドニエストル共和国」のガス不足も懸念されています。

地元メディアによりますと、レチャン首相は要請を前に「ロシアが沿ドニエストルの住民を人質にしていて、地域の不安定化を狙っている」とロシア側を批判しています。【12月13日 テレ朝news】
*********************

“モルドバに供給されたロシア産ガスは親ロシア派の支配地域「沿ドニエストル共和国」にすべて供給される仕組み”という話なら、ガスに関してはモルドバは単なる通過国であり、ロシア産ガスが止まっても、モルドバ自身は困らないということにもなりますが、多分そういうことではなく、現実問題としてはモルドバ自身がロシア産ガスに頼ってもいる形になっているのでしょう。

更に、沿ドニエストルではロシア産のガスで発電を行い、モルドバは電力の大半(7~8割)をこの沿ドニエストルからの電力に依存しているという関係にもあります。沿ドニエストルへのガスが止まると、沿ドニエストルからモルドバへの電力も止まります

このあたりのエネルギーのロシア依存は以前から問題となっていた話であり、サンドゥ政権も脱却を目指してはいますが、未だ間に合っていないようです。

********************
サンドゥ政権はロシアによる政権転覆を警戒していることに加え、エネルギー面でのロシア依存からの脱却も課題となってきた。

天然ガスはロシアから供給されていたほか、国内の電力供給の7割を担う主力の発電所も沿ドニエストル共和国にある。このため米国の資金援助を受けながらガスの供給元の多様化や、隣国ルーマニアとの送電線整備を進めてきた。【5月30日 毎日】
*********************

【兄弟国ルーマニアもロシアの選挙介入で揺れる】
これまでの引用記事の中にルーマニアの名前が出てきますが、モルドバとルーマニアは単に隣国というだけでなく、民族的にも同系統であり、互いに国家統合を目標としてきた関係にあります。

****ロシア帝国主義と大ルーマニア主義の角逐で生まれた小さな国****
さて、モルドバ共和国とは、どんな国だろうか? モルドバは、ウクライナとルーマニアに挟まれた内陸国である。かつて社会主義のソ連邦を形成した15共和国の一つが、1991年暮れのソ連崩壊に伴い、初めて独立国となった。
 
モルドバの所得水準は非常に低く、ウクライナと並んで、しばしば「欧州最貧国」と呼ばれる。農業・食品以外にはこれといった有力産業がないので、糧を得るために欧米やロシアなどに出稼ぎに出る市民が多い。最近では外国に定着するディアスポラが拡大し、モルドバ本国の人口が空洞化している。そして、実はこれが近年の選挙で死活的な要因に浮上している。
 
モルドバ人は民族・言語的にルーマニア人と同系統であり、スラブ人主体の東欧にあって「ラテンの孤島」となっている。言ってみれば、ルーマニアとモルドバは一種の「分断国家」である。

ただし、戦後に誕生した分断国家の多くは、東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナム、台湾・中国など、資本主義VS共産主義の対立により成立した。

それに対し、ルーマニアとモルドバは、1980年代まではともに共産主義陣営で、1990年代以降はともに自由化したにもかかわらず、別々の国として存在してきた。
 
ずばり言えば、モルドバという存在は、歴史的にロシア帝国主義と大ルーマニア主義がこの地を巡ってせめぎ合ってきた結果として生まれ落ちたと言える。それが、今日ではプーチン・ロシアとEUによる影響圏の奪い合いに姿を変え、東欧の国際関係の火種となっているのだ。
 
なお、現時点でルーマニア側にもモルドバ側にも国家統一を求める意見はあるが、双方ともまだその機が熟しているとは言えない。

それでも、モルドバの場合には、単にEU加盟路線を採っているだけでなく、ルーマニアというEU加盟済みの長兄が存在している点が、ウクライナなどとは異なる要因である。【11月20日 服部倫卓氏 新潮社Foresight】
**********************

ルーマニアとの国家統合の話は今回はパスします。“双方ともまだその機が熟しているとは言えない”と言うべきか、次第に熱が冷めていると言うべきか。関心の度合いは浮き沈みもあるようです。両国間で温度差もあります。

そのルーマニアも親欧米と親ロシアの間で揺さぶられています。

11月24日に行われた大統領選挙第1回投票では無名だった親ロシア派の極右泡沫候補がSNSを駆使した選挙戦略で一躍トップに躍り出たものの、ロシアの選挙介入疑惑があるとして憲法裁判所が選挙のやり直しを命じたことは12月8日ブログ“ルーマニア  大統領選挙 再投票へ  極右候補、違法なSNS利用 ロシア介入疑惑も 多くの者が彼に投票した事実も”でも取り上げました。
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インド  アメリカの「上から目線での介入」、民主主義価値観の押しつけに不満、だからトランプ氏が好き

2024-12-12 23:43:37 | 南アジア(インド)

(訪米したモディ首相(左)を歓迎するトランプ大統領【2017年6月27日 CNN】)

【インド政界を揺るがすアメリカ発のスキャンダル】
インドでは賄賂なんて当たり前・・・のようにも思ったりもするのですが、財閥トップの贈賄事件がインド国内ではなくアメリカ発で表面化しています。

****インド新興財閥会長が390億円の賄賂に同意か、米検察当局が証券詐欺罪などで起訴…財閥側は否定****
米司法省は20日、インド新興財閥アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ会長(62)らが贈賄事件に関与して不正な資金調達を行ったなどとして、ニューヨーク州の連邦大陪審に証券詐欺などの罪で起訴されたと発表した。
 起訴状などによると、アダニ氏とグループ企業の幹部らは2020年から今年にかけて、印政府から太陽光発電事業の受注を獲得するため、同政府高官に2億5000万ドル(約390億円)以上の賄賂を支払うことに同意したとされる。

資金調達の際に、汚職防止の取り組みなどで虚偽の説明を行い、米国の投資家らを欺いたなどとしている。米メディアによると、米国の法律では、国内の投資家や市場と関連がある場合、検察当局が国外の汚職事件を捜査することを認めている。

アダニ氏は資産が850億ドルを超えるアジア有数の大富豪で、モディ首相との親密な関係で知られる。アダニ・グループは21日の声明で「米司法省の主張は根拠がない」と強調した。【11月21日 読売】
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なぜインド企業のインド国内での贈賄事件がアメリカで起訴されるのか・・・わかりにく話ですが、今回の起訴は賄賂を贈ったかどうかだけではなく、資金調達の際に汚職防止の取り組みなどで米国内の投資家に虚偽の説明を行い、賄賂の問題で米当局に捜査を受けていたにもかかわらず、そのことに関する報道を否定し、贈賄疑惑を隠して米国内で資金調達していた虚偽報告も問題視されており、従って米当局がインドにおける贈賄事件を起訴するという話になっているようです

問題は、財閥トップのアダニ氏がモディ首相と同郷で親密な関係にあり、モディ首相の庇護を受ける形で急成長したのではないかとも見られていることで、そのモディ首相との関係をめぐってインド議会は大荒れとなっているようです。

“主要野党・国民会議派の指導者ラフル・ガンジー氏は記者団に対し、「野党のリーダーとしてこの問題を提起するのは私の責任だ」と述べた。同党のカルゲ総裁は「アダニ・グループの活動のあらゆる側面」について包括的な議会調査を求めた。”【11月22日 ロイター】

***インド野党、アダニ問題追及姿勢強める 議会は機能不全****
インド財閥アダニ・グループの創業者らが贈賄罪などで米国で起訴された問題を巡り、野党が追及姿勢を強めている。今週開会した議会は、野党が連日アダニ・グループ問題の審議を要求して議事進行を阻止し機能不全に陥っている。

野党は、モディ首相と首相率いるインド人民党(BJP)がアダニをかばい、インドでの調査を妨害していると非難している。主要野党の国民会議派のラフル・ガンジー氏は記者団にゴータム・アダニ会長は逮捕されるべきだと述べた。

今回の問題の中心にあるアダニ・グリーンは27日、ゴータム・アダニ氏が証券法違反で米国で起訴され、罰金を科せられる可能性があるとした上で、米海外腐敗行為防止法(FCPA)では起訴されていないと説明。米証券取引委員会(SEC)が起こした民事訴訟については、ゴータム・アダニ氏らへの罰金支払いを求めているが金額は示していないとした。

米国での起訴を受け、アダニ・グループ傘下の10社の株は急落したが、27日はアダニ・グリーンが9%上昇するなど、持ち直しの動きを見せている。【11月27日 ロイター】
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【与党サイドにはアメリカの「上から目線での介入」といった不満も】
与党インド人民党(BJP)には米国発の今回スキャンダルについて、「上から目線での介入」といった不満もあるようです。

****米国で新興財閥トップが起訴…インド政治と経済を揺るがす「大スキャンダル」発生 西側諸国との対立を深める「上から目線での介入」****
贈収賄と不当な手段での資金調達
破竹の勢いだったインド経済の雲行きがあやしくなっている。
(中略)ここに来てインドを揺るがすスキャンダルが発生している。

米連邦裁判所ニューヨーク東部地区検察は11月20日、インド政府への贈収賄などに関与したとして、インドの新興財閥アダニ・グループのゴータム・アダニ会長らを起訴した。加えて米証券取引委員会(SEC)も、米国内外の投資家から不当な手段で資金調達した疑いで起訴した。

訴状によれば、アダニ氏らは再生可能エネルギーを手がけるグループ企業のアダニ・グリーンなど2社に利益をもたらすよう、インド政府高官に計2億5000万ドル(約390億円)の賄賂を贈ったという。インド政府とアダニ・グリーンは、市場価値を上回る価格で太陽光エネルギーを購入する契約を締結している。(中略)

インド議会は機能不全
アダニ・ショックはインド政界にも波紋を呼んでいる。

アダニ氏とモディ首相は同じ西部グジャラート州の出身で、密接な関係があると指摘されてきた。アダニ・グループの事業急拡大が、モディ氏の政治的成功と軌を一にするかのようだったことから、野党はモディ政権の保護があるとして非難している。対してインド政府はこうした主張を否定しており、今回の疑惑についても見解を示していない。
 
この問題が災いして、インド議会は機能不全に陥っている。11月21日、野党はインド議会としてもアダニ・グループの疑惑を調査するよう求めたが、与党はこれを拒否した。そのため、議事進行の目途は立っていない。
 
気になるのは、与党インド人民党(BJP)幹部の間で「議会の会期直前、トランプ次期大統領就任が迫っているこのタイミングでの起訴発表にはいくつかの疑問がある」という不満(11月21日付ロイター)が生まれていることだ。
 
西側諸国では近年、民主主義の伝統を根拠に「インドとは共通の価値観を共有している」との見方が広まっているが、専門家は「インドと西側諸国はお互いの世界観を共有していない」と反論する。インド人が植民地支配時代に負った心の深い傷がいまだに癒えていないことが大本の原因だ(11月23日付日本経済新聞)。

上から目線で介入してくることへの苛立ち
昨年1月、インド政府が開催した「グローバルサウスの声サミット」でジャイシャンカル外相は、「(グローバルサウスの国々は)植民地時代の過去の重荷を背負い、現在も世界秩序の不公平さに直面している」と述べた。

この発言はルサンチマン(弱者が強者に対して抱く恨み)的な感情に裏打ちされていると筆者は思う。西側諸国には植民地支配に対する反省がないばかりか、今も「西側基準の行動様式から逸脱している」と上から目線で介入してくることへの苛立ちだ。パワーを身につけ、自信を深めつつあるインドにとって、これほど不愉快なことはないだろう。

アダニ・ショックを引き起こした米司法当局の起訴について、前述のBJP幹部がこのような不快な思いをした可能性は十分にある。

2000年代に一連のテロ攻撃に苦しんだインド政府にとって、国内の治安維持は最優先課題だ。このため、インド政府は現在、米国やカナダ在住のシーク教徒殺害を巡って西側諸国と対立を深めている。

西側諸国との蜜月時代は短期間で終わってしまうのかもしれない。インドの動向については今後も細心の注意を払うべきだろう。【12月5日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ただ、“2000年代に一連のテロ攻撃に苦しんだインド政府にとって、国内の治安維持は最優先課題だ。このため、インド政府は現在、米国やカナダ在住のシーク教徒殺害を巡って西側諸国と対立を深めている。”という件に関して言えば、昨年6月にバンクーバー近郊でシーク教徒指導者が殺害された事件について、インド政府職員が関与していたとするカナダとインドが互いに外交官を追放し、双方首脳が相手国を批難するなど“ガチンコ勝負”的な対立になっているのに対し、アメリカ国内でも同様の殺害計画があったにもかかわらず、アメリカはあまりこれを問題視せず、対中国で重要なプレーヤーであるインドを刺激しないようにしているようにも見られます。

****シーク教徒殺害計画巡るインドとの会談、米政府「生産的」と評価****
米国務省の報道官は16日、米国内で計画されていたシーク教徒独立活動家の暗殺に関するインドとの協議について、生産的だったと評価し、インド側の協力に満足していると語った。

米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。

国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
***********************

インド側には“「西側基準の行動様式から逸脱している」と上から目線で介入してくることへの苛立ち”あるとのことですが、客観的に見ると原子力関係でのインド優遇(NPT(核拡散防止条約)非加盟国のインドに対しアメリカの核輸出解禁を国際的に認めさせ、米印原子力協定を締結)でもそうですが、アメリカはインドをつなぎとめておくために、インドに対して非常に甘いと言えます。

【“つい最近まで山賊が出るほどの国”に民主主義のルールとか、国際社会のルールを説いても効果がない】
そのインドでは「西側基準の行動様式」を押し付ける印象もあった「「弱い」指導者バイデン大統領よりも、ルールや価値観ではなく実益を重視する「強い」トランプ大統領の方が人気があるとか。

****〈インドはトランプが好き〉米国・インド関係黄金時代か、新政権を歓迎する本音とは****
今年のアメリカ大統領選挙ではインドの存在感が目立った。民主党の候補者となったカマラ・ハリス副大統領がインド系とアフリカ系の両方のルーツをもっていただけではない。共和党の候補者としてニッキー・ヘイリー氏、ヴィヴェック・ラマスワミ氏という2人のインド系の候補者が出た上、最終的に副大統領候補となったJ・D・バンス氏の妻ウィーシャ・バンス氏もまたインド系だったからだ。

アメリカでは不法移民は問題視されており選挙の争点になったが、合法移民は問題視されていない。合法移民の代表であるインド系は、その勢力を見せつける状態になりつつある。

インド系アメリカ人の勢力拡大が続くと、その親族などを通じてつながり、アメリカ政治がインドへも影響する。インドでも、民主党支持、共和党支持両方の動きがみられた。

ハリス副大統領の母の出身地ではハリス氏勝利の祈願も行われる一方で、トランプ前大統領勝利を祈願するヒンドゥー寺院もあったのである。

インドにおける米大統領選挙への関心は非常に高く、TVでは特集があり、筆者も、米大統領選挙の2日前から選挙当日まで、インドのテレビで、米大統領選挙について解説する状態であった。

興味深かったのは、インドでは、ハリス氏よりもはるかに、トランプ氏が人気を集めているようにみえたことだ。インドの有識者の中には、トランプ氏の方が「far far better(はるかに、はるかに、いい)」とはっきり述べる有識者が少なくなかったからだ。

しかも、トランプ氏とモディ氏の個人的な友人関係もクローズアップされることが多かった。大統領選挙投票日である11月5日より前の11月1日、トランプ氏は、X(旧ツイッター)にコメントをだし、モディ首相への支持を表明している。そしてトランプ氏勝利が濃厚になると、かなり早い段階で、モディ首相も、トランプ大統領に祝意を伝えたのである。

なぜ、インドでは、トランプ氏が人気なのだろうか。米印関係はトランプ氏の下で黄金時代を迎えるのだろうか。本稿で分析することにした。

表面上蜜月に見えて悪化しかかっていた米印関係
一見すると、バイデン大統領の下で、米印関係は、何もかもうまくいっているように見えた。インドが求めていた戦闘機のエンジンの技術供与なども含め、防衛協力は明らかに進展しつつあり、経済面でも進展がみられていたからだ。

アメリカに逃げたインドのシーク教徒過激派指導者の暗殺未遂事案についても、外交官の国外追放合戦になっているインドとカナダとは違い、米印間では大きな問題になることなく、静かな交渉が行われているようにみえる。米印関係は安定して進展している。(中略)

だから、これらの状態から見れば、本来、バイデン政権は、インドにとっていい政権のはずである。しかし、インドではあまり人気がない。なぜか。

「弱い」と思われたバイデン政権
インドでの議論を聞いていると、インドでは、バイデン政権の評価が低い。それは、まず、ロシアのウクライナ侵略を受けて、米印間でロシアに対する立場の違いが出たこと。そして、バイデン政権が、安全保障に弱いにもかかわらず、お小言だけ多い政権だとみられていたことに起因するものとみられる。

バイデン政権が「弱い」というイメージは、アフガニスタンから撤退する際、総崩れの様相を示してしまったことが、始まりであった。それはロシアのウクライナ侵略につながったが、その際も、バイデン氏は、ロシアが侵略してもウクライナのために戦わないことを明確に表明し、むしろロシアの侵略を黙認するかのようにすら見えた。

その後、ウクライナが反転攻勢に出る際も、射程の長い武器や戦闘機の供与を行わなかったから、ウクライナは領土を奪還できなかった。

そして、中東では、イスラエルに「怒りに身を任せてはならない」などと軍事作戦の制限ばかり要求しているが、イスラエルに無視され続けているように見える状態が続いた。こういった姿勢は、アメリアが影響力を失っている印象を強め、「弱い」というイメージを強めたのである。

それにもかかわらず、バイデン政権は、お小言だけは多かった。中国やロシアに対する対決を、民主主義対権威主義の対決として、イデオロギーを重視した。

そして、民主主義国としての成績評価を行い、インドのモディ政権が民主主義国としてのルールを守っていない、まるで権威主義国であるかのような態度をとった。

モディ首相が訪米した際には、モディ首相が好まない記者会見を要求し、その場では、インドの民主主義の関して厳しい質問が出ることになった。

アメリカは、以前から、記者会見を利用して間接的にメッセージを送るやり方を好み、中国の指導者に対しても、記者会見の際に、活動家がプラカードを掲げたりした事例がある。同じ手法をインドに適応した可能性がある。

実際には、2024年にインドで行われた選挙は、与党が議席を減らしたが、インドが民主主義国としてきちんとした選挙行ったことを示している。問題があるとしても、インドを権威主義国として非難するようなバイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎで、インドでは反感を買っていたのである。

これらの部分は、トランプ政権時代と比較すると、歴然とした差があった。トランプ政権は、「予測できない」として、怖がられていたから、弱い政権だとは思われていなかった。

実際、トランプ氏は、習近平氏を夕食会に招き、チョコレートケーキを進めている最中に、シリアにミサイルを撃ち込むことを伝えた政権だ。「今はシリアだが、次はお前だ」と言わんばかりの脅しを、油断したタイミングでかけてくる点で、怖い政権だった。

しかも、トランプ大統領の外交は、イデオロギーを気にしなかった。最初の外国訪問はサウジアラビアだったし、東南アジアではベトナムを優先して訪問、友好関係を結んだ。サウジアラビアもベトナムも民主主義国ではない。利益になれば、イデオロギーは気にしないのである。

そして、トランプ大統領はインドを重視しており、20年の大統領選挙前にトランプ大統領は、選挙活動で忙しい中でも、インドへ訪問した。

インドのような国では、まだまだ社会のルールが守られていないことがよくある。だから、ルールを守っているかどうかよりも、力が強くて、自分を守ってくれる人をリーダーに選ぶ傾向がある。

つい最近まで山賊が出るほどの国だったが、これは、自分を守ってくれるなら、政府ではなく山賊についていく人々がいることを示している。

そのような国に、民主主義のルールとか、国際社会のルール、といったお小言を言って説得するのは、効果が弱い。バイデン政権は、まず力を示し、強い、と印象付ける必要があり、過去4年間、それに失敗し続けたのである。

激しい交渉の幕開け
だから、インドでは、バイデン政権よりもトランプ政権の方が人気だ。ただ、それで、米印関係が全く問題のない、黄金関係、ということにならないだろう。トランプ大統領の外交の特徴は、2国間ベースで、脅しをかけて取引を狙う。

安全保障問題であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に「十分国防費を負担しないなら、ロシアに好きなようにするよう促す」といったかなり激しい脅し文句がくる。経済であれば、関税を大幅に上げてくる。インドだけ例外とは言えない。

さらに、トランプ政権第1期で問題になったのは、合法移民になるためのビザの発給数だ。それも再び交渉課題になるだろう。

トランプ政権としては、アメリカ人の雇用を守る観点から、優秀なインドからの合法移民があまり無制限に来ると、困るからである。イデオロギーなどが関係してこないシンプルな外交だとしても、米印間で激しいやり取りが起きることは必至だ。

インドではトランプ歓迎のムードが高まっている。それは同時に、新しい駆け引きと交渉の時代の幕開けと、いえよう。【11月9日 WEDGE】
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非常に興味深い記事です。
インドの民主主義が充分に機能しているかどうかについては個人的にはやや疑念があり、“バイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎ”云々には必ずしも賛同しませんが、“つい最近まで山賊が出るほどの国”に民主主義のルールとか、国際社会のルールを説いても効果がない・・・と言われると「そんなものかも」という感も。

ただ、それはインドを“その程度の国”と下に見るようなふうにも思えますが。
コメント
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