孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジョージア  政権のEU加盟交渉停止措置に対する抗議デモが続く 14日には大統領選挙で与党候補選出

2024-12-11 23:38:28 | 欧州情勢

(【12月4日 TOP WAR】 抗議デモ側が“花火”を撃ち込むといった記載をよく見ますが、通常の花火の他に上記のような手作り“バズーカ”花火もあるようです)


【親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束するなど、強硬姿勢を強める政権側】
旧ソ連構成国で、また、親ロシア勢力による未承認国家を抱えるジョージア(旧国名:グルジア)では、10月の議会選挙で勝利したと主張する政権与党「ジョージアの夢」が、11月28日にEUへの加盟交渉を4年間停止すると表明したことを受けて連日の抗議デモが行われています。抗議市民側は10月の選挙も不正があったとして認めていません。

政権与党「ジョージアの夢」はこれまではEU加盟を掲げてはいましたが、最近では「反スパイ法」とか「LGBT規制法」といったロシアに類似した法律を制定するなどロシアへの接近を強めています。

この政治混乱で、もし政権が崩壊するようなことになれば、かつてロシアを震撼させた民主化を求める市民による親ロシア政権が次々と崩壊した「カラー革命」、そしてウクライナ侵攻の背景ともなっている2014年にウクライナで起きた「マイダン革命」の再現とも。

12月14日は大統領選挙が予定されていますが、議員による間接選挙に変更されたため、与党側の候補の勝利が確実視されています。親欧米的な現在の大統領は10月の選挙に基づき発足した議会が非合法だと主張し、12月に大統領の任期が切れても職にとどまると宣言しています。

なお、ジョージアでは政治の主導権は大統領ではなく首相にあります。

このあたりの経緯・状況は12月1日ブログ“ジョージア EU加盟交渉を4年間停止決定で連日の抗議デモ 想起されるウクライナ「マイダン革命」”でもとりあげました。

その後の情勢ですが、シリアや韓国に関するニュースが溢れるなかで、ジョージア関連のニュースはほとんどみあたらず、どうなっているのかよくわかりません。

ひとつ動きが報じられているのは、政権側は親欧米派の野党指導者らを拘束するなど、露骨な力による対応を強めているようです

****「EU加盟」めぐり混乱続くジョージア 野党党首が殴られ意識失い拘束される****
EU=ヨーロッパ連合への加盟交渉をめぐりデモ隊と警察の衝突が続いているジョージアでは、野党の党首が警察に意識を失うまで殴られ、拘束される事態となりました。

ロシアの隣国ジョージアの最大野党「変革のための連合」の党首のニカ・グバラミア氏が3日、警察に拘束されたと報じられました。

野党系テレビ局が公開した動画には、意識を失ったグバラミア氏とみられる人物が数人の警察官によって車に引きずり込まれる様子が映っています。

ロシア寄りの立場を取る与党のコバヒゼ首相は、この件について「政府を打倒するためにデモでの暴力を煽った人物が対象」だと述べ、「弾圧というより予防措置だ」として警察の対応の正当性を主張しています。

首都トビリシでは、先月28日に首相が「EUへの加盟交渉を4年間停止する」と決定したことに対し、親EU派の市民が抗議デモを行い、警察との衝突が続いていました。

デモは6日間続いており、これまでに300人以上が拘束されたほか、けが人が100人以上出ているということです。【12月5日 TBS NEWS DIG】
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****東欧ジョージア、親欧米派の野党指導者を相次ぎ拘束 抗議行動続く****
東欧のジョージアでは、欧州連合(EU)加盟交渉を停止する政府決定に抗議する親欧米派の野党指導者らが警察によって相次いで身柄を拘束された。地元メディアが内務省の発表として伝えたところによると、「暴動を組織し、扇動した」として7人が逮捕された。抗議行動は4日で7日目を迎えた。 

最大野党「変化のための連合」は、指導者の1人であるニカ・グバラミア氏(48)が首都トビリシで警察によって暴行を受け、意識不明のまま手足をつかまれて拘束されたとして、その際の映像を「X」に投稿した。

ロイターはグバラミア氏が暴行を受けたかどうか独自に検証できなかった。ただ、同党が投稿した映像では、グバラミア氏は拘束された際に体を動かす様子が見られなかった。

警察は他の野党指導者も拘束しており、これまでに拘束された指導者は少なくとも6人に上っている。当局は指導者らの自宅を家宅捜索し、エアライフルや火器などを押収した。

政府がEU加盟交渉を突如打ち切ったことに対する抗議行動は数千人規模となっており、警察が放水銃や催涙ガスでデモ隊を排除している。

コバヒゼ首相は記者会見で、野党勢力に対する弾圧だとの声が上がっていることについて「弾圧ではなく阻止だ」と主張した。【12月5日 ロイター】
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【今も続く抗議行動 14日の大統領選挙を控え「今後何日かが正念場」】
上記は12月4頃の状況ですが、その後、政権側の力の行使が強まる中で抗議デモはどうなったのか? 続いているのか? あるいは政権によって鎮圧されたのか・・・・報道は多くはありませんが、その後もデモは続いているようです。

****ジョージア争乱、与党支持者がデモ隊を暴行か、警察の取り締まり激化***
◎デモ隊は与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉の中断を決めたことに憤慨し、国会周辺で抗議デモを続けている。

2024年12月8日/ジョージア、首都トビリシ、政府与党に抗議する人々(AP通信)ジョージアの首都トビリシで8日、政府与党に抗議するデモが行われ、数万人が参加した。トビリシでのデモはこれで11日連続となった。

警察は国会議事堂周辺にバリケードを設置し、デモを抑制するため、武力行使を強めている。
機動隊は連日、放水砲や催涙ガスを使用してデモ隊を解散させている。

AP通信によると、中央大通りにバリケードを設置した市民と機動隊が衝突し、数十人が逮捕されたという。

7日夜のデモでは地元テレビ局のレポーターと同僚が覆面をした集団に殴られた。その様子を記録した映像はSNSで拡散した。警察はコメントを出していない。

殴られたレポーターはAPの取材に対し、「与党の支持者とみられる覆面をした男たちがデモ参加者に暴力を振るうところを撮影した際、押し倒され、地面に叩きつけられた」と語った。

レポーターの同僚は頭を負傷。カメラを奪われたという。
このテレビ局は与党「ジョージアの夢」が機動隊と支持者による暴力を容認していると非難したが、政府はこの主張を否定した。

デモ隊はジョージアの夢がEU加盟交渉の中断を決めたことに憤慨し、国会周辺で抗議デモを続けている。
ジョージアの夢は10月26日の議会選(一院制、定数150)で過半数を獲得。野党とズラビシュヴィリ大統領は政府がロシアの協力を得て票を操作したと主張し、議会をボイコットした。

与党がEU加盟交渉の中断を決めて以来、抗議デモは激しさを増し、一部の暴徒と機動隊が衝突する事態となっている。

8日のデモ行進でも警察に向かって花火を撃ちこんだ男性が機動隊に殴られ、連行された。
APによると、少なくとも10人以上のカメラマンや記者が暴動に巻き込まれ、そのうち何人かは意識不明の状態で入院しているという。

7日夜にはジョージアの夢の事務所に入ろうとしたデモ参加者2人が正体不明の覆面をした男たちに殴られ、軽傷を負った。【12月9日2 KWP News】
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****グルジアの抗議行動は13日目の夜に入り、EUは「措置」を脅かす****
トビリシ (AFP) – 欧州連合(EU)がデモ参加者に対する当局を罰する可能性があると警告した後、火曜日、何千人もの親ヨーロッパ派の抗議者がグルジア政府に対して13日連続で反発した。

EUとグルジアの国旗を振り、大声でクラクションや笛を吹き鳴らしながら、デモ隊は議会の外に集まり、選挙が争われた後、EU加盟の推進を棚上げするという政府の決定に対する怒りを声に出した。(後略)【12月10日 FRANCE24からの自動翻訳】
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自動翻訳ですのでよくわからない点はありますが、少なくとも抗議行動が続いているようです。
14日は大統領選挙で、おそらく与党候補が間接選挙で選ばれると思われますので、混乱が拡大することも想定されます。

下記は11日掲載の記事で「今後何日かが正念場だ」とありますが、何日の状況をもとにしたものかは定かではありません。

****親ロシア与党vs親EUの市民...ジョージアはロシアの「衛星国」になるのか? 「西側の決断」が鍵を握る****
<不正が疑われる議会選挙後に、与党がEU離れを鮮明にして市民の怒りが爆発>
ジョージアは今、岐路に立たされている。不正選挙の疑いが指摘されている10月の議会選で勝利した与党「ジョージアの夢」がEU加盟交渉を中断すると発表。多くの市民がこれに反発し、大規模な抗議デモが全土に広がっている。

この状況は2014年にウクライナで起きた「マイダン革命」を想起させる。ウクライナでも当時のビクトル・ヤヌコビッチ大統領がEUに背を向け、ロシアに擦り寄ったことで市民の怒りが爆発した。

治安当局は治安部隊を投入し、放水砲や催涙ガスを使用。ジャーナリストや活動家を逮捕するなど強権的な手法でデモを抑え込もうとしている。

親ロシアの「ジョージアの夢」は、選挙戦中にはEU加盟を推進すると約束していた。前党首で首相のイラクリ・コバヒゼはなぜ突然、22年に始まったEU加盟交渉を28年末まで凍結する方針を打ち出したのか。

理由は不明だが、旧ソ連崩壊時の混乱に乗じて蓄財した資産家で、与党の創設者でもあるビジナ・イワニシビリの意向が働いているのは確かだろう。

交渉中断を発表した11月28日の声明で、コバヒゼは自国を脅迫したとしてEUを非難した。同日、欧州議会は10月に行われたジョージアの議会選の投票プロセスは「自由でも公正でもなかった」と結論付け、選挙結果を無効とする決議を採択した。

それにより12月にはEU側からジョージアとの加盟交渉が打ち切られる見通しとなり、コバヒゼは相手が言い出す前に「交渉お断り」を宣言したのかもしれない。

西側の決断が鍵を握る
あるいは意図的に市民を挑発し、デモの鎮圧を口実に反政府派を一掃しようとした可能性もある。だとすれば、その読みは甘かったようだ。抗議デモはジョージア史上最大規模の広がりを見せている。

市民は自主的にデモに参加。中心となる指導者や政党は不在だが、デモの波は首都トビリシだけでなく、他都市や村々にまで広がっている。草の根レベルの運動がここまで広がったことが、EU加盟を望むジョージアの人々の揺るぎない決意を物語る。

政府機関の内部にもデモを支持する動きがある。国防省、外務省、司法省などの官僚が相次いでEU加盟交渉の中断に抗議する書簡に署名。ジョージアの国連大使も辞任した。

ジョージアの国家元首であるサロメ・ズラビシビリ大統領はEU加盟を推進する立場で、市民のデモを支持。公正な選挙を実施して有権者の意思を反映した新政権を発足させようと国民統一評議会を立ち上げた。

だが大統領の権限は限定的で、この試みを成功させるにはEUと米政府が強力かつ迅速に後押しする必要がある。

今後何日かが正念場だ。コバヒゼ政権が力ずくでデモを抑え込めば、EU加盟の望みが断たれるばかりか、この国の民主主義が崩壊しかねない。

ロシアはルーマニア、ブルガリアに次いでジョージアと、近隣諸国に次々に自国寄りの政権を打ち立てようとしている。西側がこれを阻止するには、独自の戦略が必要だ。

目下のターゲットはジョージア。ここ数日の西側の決断次第で、ジョージアの民主主義が強化され、親EU色が一層強まるか、権威主義に急傾斜し、ロシアの「衛星国」となるかが決まる。【12月11日 Newsweek】
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前述のように上記記事が何日の状況をもとに「今後何日かが正念場だ」と言っているのかはわかりません。

ただ、繰り返しになりますが14日に大統領選挙が行われ、政治の主導権を持つ首相、その首相を支える議会に加えて大統領も与党側がおさえるという事態になれば、政権側の抗議活動に対する攻勢も強化され、政権の体制も堅固なものになると思われますので、今日11日においても「今後何日かが正念場だ」と言っていいと思われます。

なお、ロシアは常々、中東欧諸国の「民主化」は欧米の介入によるものだと主張していますが、“この試みを成功させるにはEUと米政府が強力かつ迅速に後押しする必要がある”とあるように、そうした欧米の介入は事実でしょう。

ただ、欧米の介入はあくまでも市民の自主的な動きを補助するもので、欧米が作り出したものではないでしょう・・・どうかな?

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シリア  大量に押し寄せる帰還難民 欧州は再度の難民流入を警戒 帰還先での生活は?

2024-12-10 23:48:57 | 中東情勢

(【12月10日 TBS NEWS DIG】トルコの国境検問所に押し寄せる帰還難民)

【HTSを主軸に政権移譲が進むものの、どのような統治がなされるのかは不透明】

諸勢力の群雄割拠状態、そこへの関係国の思惑、前回書けなかった、ロシア・イラン・イスラエルの動き(イスラエルはゴラン高原緩衝地帯に進軍し、国連は「停戦協定違反だ」と批判しています)などもありますが、今日は主に難民帰還の話。

アサド政権の突然の崩壊、大統領のロシア亡命・・・今後のシリアは誰がどういう形で統治するのか?
いまのところ、アサド政権崩壊で中心的役割を果たしたイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)を軸に権限移譲が進んでいます。

****反体制派に権限移譲へ=主力組織指導者、首相らと会談―シリア****
シリアのアサド政権崩壊を受け、同国のジャラリ首相は9日、中東のテレビ局アルアラビーヤに対し、2017年に反体制派が設立した「シリア救国政府」に権限を移譲することで合意したと明らかにした。

ただ、実際の移譲には時間を要する可能性があるとも指摘した。権力の空白が生じないよう、スムーズな政権移行ができるかが課題となる。

ロイター通信によれば、反体制派の主力「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は、シリアに残っているジャラリ氏のほかメクダド副大統領とも会談し、政権移行プロセスを協議した。ジャウラニ氏はシリアの再建を公言している。

救国政府は、反体制派が拠点とし、前政権の支配が及ばなかった北西部イドリブ県で統治を担っている。ロイターは中東メディアの報道として、救国政府を率いてきたムハンマド・バシル氏が暫定政権のトップを務める見通しだと報じた。【12月10日 時事】
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アサド大統領の支持基盤であったアラウィ派も反体制派を支持するとのこと。ただし、「報復」など今後の対応次第というところも。

****アサド大統領故郷のアラウィ派、シリア反体制派への支持表明****
シリアのアサド政権を打倒したイスラム教スンニ派主導の反体制派は9日、アサド大統領の故郷を訪れ、同氏と同じアラウィ派の長老による支持を得た。

アサド氏を支持していたアラウィ派を反体制派がどのように扱うかは、政権崩壊が同氏に忠実だったグループに対する暴力的な報復につながるかを占う上で注目される。

複数の住民によると、反体制派の代表団はアサド氏の故郷である北西部ラタキア県カルダハを訪れ、数十人の宗教家や長老らと面会した。アラウィ派の有力者らはその後、反体制派を支持する声明に署名したという。

住民によれば、代表団にはいずれもスンニ派の「シャーム解放機構(HTS)」と「自由シリア軍」のメンバーが含まれた。

シーア派の一派であるアラウィ派はシリアの人口の約1割を占め、トルコ国境に近いラタキア県に集中している。人口の約7割はスンニ派で、キリスト教徒、クルド人、ドルーズ派などのコミュニティも存在する。

ロイターが確認した声明はシリアの宗教的・文化的多様性を強調するとともに、新たな統治者の下で国家のサービスや警察を早期に回復することを求める内容。カルダハの住民が持つ全ての武器を引き渡すことにも同意している。

町の有力者約30人が署名し、カルダハが「新たな道と愛国的で自由なシリアを支持し、(HTSや自由シリア軍と)全面的に協力する」ことを確認した。反体制派は署名していない。【12月10日 ロイター】
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「自由シリア軍」・・・・アサド政権への抵抗が始まった頃は反体制派の中心的存在で欧米の支援も受けていましたが、その後主導権をイスラム過激派に奪われ、また、イスラム過激派との共闘も行っていることが明らかになりました。
その後はいろいろ変遷もあって、現在どの程度の規模を持つのか、イスラム過激派に対しどういうスタンスに立つのか・・・良く知りません。

いずれにしてもHTSを主軸した新たな体制がどのような統治になるのか、HTSの指導者ジャウラニ氏が現在主張しているように宗教的・文化的多様性が容認されるのか、あるいはアフガニスタンのタリバン政権のようにひとつの価値観を押し付けるような政治になるのか・・・今は不透明です。

【戦闘の停止を喜び、帰還を始める難民】
いろいろ今後への懸念は山積みですが、とにもかくにもアサド政権が崩壊し政権と反体制派の戦闘は終わったということで、国内外に逃れていた人々の大量帰還が始まっています。

国外に逃れた難民の数は480万人(UNHCR)とも。また国内に避難した避難民はそれを上回る720万人とも。正確な数字はよくわからないのが実情ですが、とにかく膨大な数字であることはは間違いないところです。

****アサド政権崩壊で シリア難民の帰還始まる****
シリアのアサド政権の崩壊で戦闘を逃れて国外に避難していたシリア難民は、祖国への期待を抱き帰還を始めています。

隣国ヨルダンの国境近くにあるキャンプでは、難民として避難生活を送る100世帯が暮らしています。 避難した後に生まれ、祖国を知らずに育った子どもたちも多くいます。

シリア難民の女性
「(Q.シリアで子どもたちに見せたい場所は?)昔、住んでいた場所『ハサカ』です。内戦が始まった時に避難してきたから」

この家族はアサド政権の崩壊によってシリアに帰れるという希望を抱いたということです。

現在、シリアと行き来ができるヨルダンで唯一の検問所でも早速、家族のもとに帰る人たちの姿が見られました。
しかし、新しい政権が安定した運営を出来るのかなど、課題も残されたままです。【12月10日 テレ朝news】
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****アサド政権崩壊で多くのシリア難民が帰還****
アサド政権が崩壊した中東シリアの隣国トルコでは、内戦から逃れた多くの難民が国境にぞくぞくと押し寄せています。

記者
「長い間、難民としてトルコで生活してきた人たちが大きな荷物を持って、シリアとトルコの検問所に向かっていきます」

国境検問所には、2011年のシリア内戦が始まって以降、トルコに逃れてきた難民がアサド政権の崩壊を受けて母国に帰還しようと押し寄せています。

「故郷に帰りたい。家を造りたい」
「シリアは自由だ。私たちはこれから国をつくるんだ」

ただ、今回の反体制派勢力の電撃的な攻勢では、異なるいくつものグループが「打倒アサド政権」で一致することはできたものの、全く別の主義主張にたつ勢力も多くあり、新たな政権づくりに向けて、これからが正念場となりそうです。【12月10日 TBS NEWS DIG】
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【欧州 シリア情勢は混沌としており、新たな大量難民発生を懸念】
難民受入国にとって難民の存在は重荷にもなっていましたので、その帰還は歓迎すべき事態でしょう。

数百万人と言われる最大のシリア難民を抱えるのがトルコですが、国境検問所の開放を決定して難民帰還を促しています。

****トルコ、シリア難民の帰還に向け国境検問所開放へ****
トルコのエルドアン大統領は9日、シリアと接するヤイラダギ国境検問所を開放することを明らかにした。シリアのアサド政権崩壊を受け、現在受け入れている数百万人のシリア難民の安全かつ自主的な帰還に対応する。

エルドアン大統領はアンカラでの閣議後、国境付近での戦闘を背景に2013年以降閉鎖されていたヤイラダギ国境検問所を「渋滞防止と交通緩和のために開放する」と表明。難民の帰還については「受け入れ国としてふさわしい方法で自主的帰還の手続きを管理する」と述べた。【12月10日 ロイター】
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欧州も大量のシリア難民で各国の政治が揺らぎ、反移民勢力の台頭を惹起し、そのうねりは今も続いていますので、基本的に難民の帰還は関歓迎すべき事でしょう。

しかしシリアの今後は不透明で、状況が悪化すれば、再び難民が逆流するとの懸念も。

****アサド政権崩壊で欧州に新たな移民危機の恐れ-ラミー英外相が警鐘****
英国のラミー外相は9日、シリアのアサド政権崩壊により、欧州全般に新たな移民危機が発生する恐れがあるとの警戒感を示した。英国はシリア難民申請に関する決定を留保した。
  
ラミー外相は英下院でアサド政権の崩壊について、「危険と機会が同時に訪れる瞬間だ」と指摘。アサド大統領を追放した反体制派の武装組織「シリア解放機構(HTS)」に関して英政府は「慎重な姿勢を維持している」と付け加えた。

HTSは英国では依然として非合法のテロ組織とされており、HTSや紛争に関わる他の勢力が支配地域で民間人をどう扱うかを英政府は厳しく注視していくと外相は述べた。
  
外相は「多くの人々がシリアに戻り始めていることは、アサド大統領が退陣した今、より良い未来を望む彼らにとって明るい兆しではある。

だが、今後の展開は多くのことに左右される」とし、「シリアへのこうした流れが、すぐに逆回転し、危険で違法な移民ルートを使って欧州大陸や英国を目指す人々の数を増やす恐れもある」と付け加えた。
  
英国への移民流入が過去2年間に記録的な数に達したことを示す統計を受け、スターマー首相は移民流入抑制の取り組みを強化している。英内務省は、現状を評価する間、シリアからの難民申請を一時保留すると発表した。
  
2015年の欧州における移民危機は、アサド政権による残虐な弾圧から逃れるためにシリア市民数十万人が国外に避難したことが一因だった。【12月10日 Bloomberg】
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2015年の欧州における移民危機への思いから、シリア情勢に警戒感を抱いているのはイギリスだけでなく欧州各国に共通しており、欧州各国は状況が混沌としている今は難民受入れを一時停止する措置をとっています。

****シリア人難民受け入れ、独仏英など欧州約10カ国が停止へ 2015年の流入危機で警戒****
2015年の欧州における移民危機シリアのアサド政権崩壊を受けて9日、ドイツやフランス、英国など欧州約10カ国がシリア人の難民申請受け入れや審査を一時停止する方針を発表した。

「シリアの状況が流動的で審査が困難になった」のが主な理由だとしている。2015年、シリア内戦による難民流入で欧州が大混乱に陥った「教訓」が背景にある。

申請受け入れ停止は、ドイツが最初に決定した。政府は声明で、難民申請者の審査も延期し、「状況が安定すれば、再開する」と表明した。

現状ではシリアから難民が流出するのか、あるいはドイツ在住シリア人の帰還が進むのかの予測ができないとしている。

ドイツでは11月までに、シリア人の難民申請が約7万5千件にのぼった。国別では最多で、申請全体の3割を占める。

来春予定の総選挙では、移民問題が争点のひとつになっており、保守系の最大野党「キリスト教民主同盟」(CDU)からは、シリアへの帰国希望者に1千ユーロ(約16万円)を支給し、出国を後押しするべきだという主張も出た。

フランスではルタイヨー内相が「シリア人の難民申請受け入れの停止に取り組んでいる。数時間で決める」と発言。

イタリアやベルギー、ギリシャ、スウェーデンなど北欧諸国も続いた。

オーストリアではカルナー内相が公共放送ORFで、難民申請の受け入れに加え、定住した難民の家族呼び寄せも停止すると述べた。さらに、「シリア人の秩序ある帰国や送還」に向けて準備を進めると表明した。

一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日の声明で、難民の安全で自発的帰還には「忍耐と警戒」が必要だとして、各国の性急な動きを牽制した。

欧州には15年のシリア難民危機で、100万人以上が流入。寛容な受け入れ政策が不法移民を増加させ、イスラム過激派の侵入も招いたという不満が広がった。現在は、各国で移民排斥を訴える右派政党が支持を伸ばしている。【12月10日 産経】
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“(シリア難民の)出国を後押しするべき”・・・難民自身の自主的な判断ではなく、難民を追い出したいような風潮に繋がらないか心配もあります。

【疲弊したシリア経済 帰還した難民の生活が成り立つのか?】
帰還を喜ぶ難民が多い中で、実際に帰還して生活が成り立つのかどうかの不安も。

****アサド政権崩壊で中東のパワーバランス激変か シリア難民480万人の進路は?****
(中略)
■9割が貧困ライン以下で生活 帰還阻む国内経済
内戦で大量の難民が発生
シリアでは2011年の内戦勃発以来、多くの人々が難民として国外で不安定な生活を続けている。
 
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によると、先月時点でおよそ480万人がシリアから国外へ避難していて、トルコは最多のおよそ294万人を受け入れ。また、ドイツの国際放送局ドイチェ・ヴェレによると、ドイツも7月時点で90万人以上を受け入れたという。

こうしたシリア難民は、アサド政権崩壊でどうなるのか?
HTSのリーダー・ジャウラニ氏はCNNのインタビューで、アサド政権から解放した地域に難民・避難民を帰還させる考えを示した。しかし、難民の帰還は簡単には進まない可能性もある。

難民の帰還は進むのか
世界銀行によると、シリアのGDP(国内総生産)は2011年にはおよそ675億米ドル、現在のレートでおよそ10兆円だったが、2021年にはおよそ89億米ドル、およそ1.3兆円に。10年で7分の1以下になった。

また、WFP(国連世界食糧計画)によると、シリア国民の9割が一日あたり2.15米ドル(およそ320円)の貧困ライン以下で生活していて、人口の4分の3にあたる1670万人が人道支援を必要としているという。

さらに、シリアの失業率は2023年時点の推定で13.54%。15歳から24歳の若者に限れば33.5%にも上る。

大規模な難民帰還の実現可能性は?
アメリカメディア・GZEROは、大規模な難民帰還の実現可能性について「シリア経済の安定、将来の政府の形、復興努力にかかっている。HTSが主導する政権は、帰還を望む難民にとって魅力的ではないかもしれない」と伝えている。(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年12月10日放送分より)【12月10日 テレ朝news】
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新たな統治体制がどのようなものになるのか、実際に帰還して生活が成り立つのか・・・今はその行方を見守るしかありません。
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シリア  アサド政権のあっけない崩壊 各勢力・関係国の思惑が交差 内戦第2幕への幕が上がった?

2024-12-09 23:44:55 | 中東情勢

(8日、シリアの首都ダマスカスで、アサド政権の崩壊を祝う人たち【12月9日 共同)】

【アサド政権の圧政から解放され喜びの声をあげる市民 報復を恐れて身をひそめる市民も】

“こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも”とは書いたのですが、ブログアップして数時間後には反体制派がダマスカスに入り、アサド政権は崩壊・・・ブログ更新が追いつかない、想定外に早い展開でした。

アフガニスタンでもそうですが、空洞化した政権はあっという間に崩壊するようです。

シリア情勢について一言で言えば、アサド政権は崩壊したけど、シリアの内戦・混乱が終わった訳ではなく、これから第2幕が開く危険もある・・・といったところでしょうか。

シリアの内戦・・・アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに起きた内戦・・・トルコの海辺に打ち上げられ、うつ伏せに横たわる男児の写真が世界の注目を集め、多くの難民が流出し、欧州世界を揺るがすことに。その影響は移民・難民の受入れに反対する勢力を勢いづかせる形で今も続いています。

これからのシリアを考えるためには、これまでのシリアの総括が必要ですが、ロシアが公式に亡命受入れを認めたアサド大統領については簡単に。(詳しくやっていると、それだけで終わってしまうので)

****シリアのアサド政権、自国民ないがしろにし一族は麻薬密輸で利益追求…父子2代の恐怖政治終焉****
シリアのアサド政権は、父子2代で50年超の恐怖政治によって国内を支配した。敵対勢力は暴力で徹底的に抑え込み、一族の利益を追い求めた。

バッシャール・アサド氏(59)の父ハフェズ氏は1970年、クーデターで実権を握った。イスラム教スンニ派が大多数の国内で、約10%を占めるイスラム教アラウィ派出身だったハフェズ氏は、権力の中枢を同じ宗派で固める一方、諜報ちょうほう機関による国民監視で強固な統治体制を築いた。82年に中部ハマで反体制派のイスラム主義者数万人を虐殺した。

その後を継いだのが次男バッシャール氏だ。元々は眼科医。94年に後継者と目されてきた兄の交通事故死で、留学先の英国から呼び戻された。父の死去を受け、国民投票で97%の信任を得て2000年7月、大統領に就任した。

当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手し、国民の間で改革への期待感も膨らんだが、与党バース党による事実上の一党独裁体制を守り、形だけの選挙を通じて強権支配を維持した。

11年に民主化運動「アラブの春」で反体制デモが始まると、参加者らを徹底弾圧し、内戦を招いた。大量殺害、拷問、処刑に加え、化学兵器を使った自国民の攻撃もいとわなかった。内戦による死者は50万人を超え、2200万人だった人口の約6割は国内外で避難生活を強いられてきた。

長引く内戦や制裁で経済危機が深刻化し、自国民の命はないがしろにしても、麻薬の密輸を取り仕切ることでアサド一族や取り巻きは潤っていたとも指摘される。自分たちの利益のみを追い求めた政権が、国民の信頼を失って終焉しゅうえんに追い込まれたのは必然だったといえる。【12月9日 読売】
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なぜ“当初は経済自由化や政治犯釈放などに着手”というアサド氏が独裁体制へと移行したのか・・・ひと頃は「砂漠の薔薇」「中東のダイアナ」などと呼ばれたこともあるイギリス生まれ、ロンドン大卒の夫人の自由化に対する影響力への期待もありました・・・いろいろ知りたいことはありますが、先に進みます。

(今は)圧政と監視から解放された市民は歓喜の声をあげています。

****アサド政権崩壊のシリア 反体制派勢力を主導したリーダー「新たな歴史の1ページ」と勝利宣言****
アサド政権が崩壊した中東シリア情勢です。反体制派勢力を主導した組織のリーダーは「新たな歴史」だと述べ、勝利を宣言しました。

市民 「シリア万歳!アサドは倒れた!」
8日、「アサド政権崩壊」の一報が入り、喜びの声を上げる市民たち。
市民 「(アサド)政権が倒れるまでこの日を待ち続けてきました。そしてついに政権は倒れたのです」

陥落した首都ダマスカスでは、反体制派勢力を主導した「シリア解放機構」のリーダーが10年以上に及んだ内戦での勝利を宣言しました。

「シリア解放機構」 ジャウラニ指導者
「この勝利はイスラム世界にとって新たな歴史の1ページとなる。私たちはこの勝利によって13年間の苦しみから抜け出せるのだ」

アサド政権が2011年に起きた民主化デモを武力で弾圧したことをきっかけに内戦に発展したシリア。そこから13年の間にアサド政権が反体制派側に化学兵器を使用したとの指摘やシリアを脱出した難民の船が転覆し、トルコの海岸に3歳の男の子の遺体が打ち上げられるなど、凄惨な出来事も繰り返されてきました。(中略)

ロシア外務省は声明で、(亡命した)アサド大統領は“平和的な手段で権力移譲を実行するよう指示した”と明らかにしました。

ただ、今回の攻勢を主導した「シリア解放機構」がテロ組織に指定されていることもあり、今後、政権移譲がスムーズに行われるかどうかは不透明です。【12月9日 TBS NEWS DIG】
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ただ、イスラム過激派とされる反体制派「シリア解放機構」(ハヤト・タハリール・シャム HTS)支配のもとで報復を恐れる人々も。

****シリア「自由」「心配」思い交錯 崩壊アサド政権の施設で略奪も****
「自由だ」「解放された」「将来が心配」。シリアのアサド政権が8日崩壊し、市民の間で喜びや不安が交錯した。異なる民族や宗教宗派が共存するシリア。各地で祝砲が鳴り響く一方、反体制派の弾圧を恐れて身を潜める人もいる。政権側施設では略奪も起きた。先行きは見通せない。

交流サイト(SNS)の投稿によると、首都ダマスカスの大統領府は反体制派が占拠し、政権側施設の略奪とされる映像が出回った。空港には多くの人が押し寄せた。刑務所から拘束されていた女性や子どもが救出され、首都に帰還する人々による大渋滞も起きた。

「強権的な政権が崩壊し、とてもうれしいが、同時に非常に恐れている。何が起きるか分からない状況だ」。首都中心部に住む銀行員ハーレド・タレブさん(50)が電話取材に対し、不安げな様子で語った。

今回の攻勢を主導するのは国際テロ組織アルカイダ系組織が前身の「シリア解放機構」。タレブさんは、イスラム主義組織タリバンが制圧した「アフガニスタンのような厳しいイスラム統治は望んでいない」と訴えた。【12月9日 共同】
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【首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とするHTS “キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”とのことだが・・・】
先ずは首都を制したアルカイダ系「ヌスラ戦線」を前身とする「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)がどういう統治を行うのか?というところです。アルカイダとは関係を断ったとは言っていますが・・・・アフガニスタンのタリバンのような存在になるのか?

****シリア内戦で大規模攻勢 反体制派を率いる組織「HTS」とは?****
シリア内戦で大規模攻勢を仕掛けている反体制派は、米国がテロ組織に指定している「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が主導している。

国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「ヌスラ戦線」を前身とする組織だが、近年はアルカイダとの関係を絶ち、アサド政権打倒に集中してきたとされる。一体、どんな組織なのか。

「この政権(アサド政権)を打倒することが目標だ」。HTSを率いるジャウラニ指導者は5日、米CNNテレビのインタビューにこう強調した。

CNNや中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」などによると、ジャウラニ氏はイラクでアルカイダ系の戦闘員として反米武装闘争に身を投じた経験があり、2011年にシリア内戦が始まってからは、ヌスラ戦線を設立して参戦した。

 だが、16年ごろにアルカイダとの関係を絶ち、17年には複数の武装組織を吸収する形でHTSを結成。拠点とするシリア北西部イドリブ県で「シリア救国政府」も設立し、支配地域での統治を強めた。

HTSは最大3万人規模の戦闘員を擁するとみられ、北西部の支配地域では石油などの資源も管理しており、一定の経済力もあるとされる。

HTSは米国や国連などがテロ組織に指定している。だが、ジャウラニ氏はCNNに「イスラム統治を恐れる人たちはきちんと理解していない」と語り、キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせると強調。

「他の集団を消す権利は誰にもない。多くの宗派がこの地域で何百年も共存してきた」と語った。政権打倒後は「国民に選ばれた議会」を設立する考えも明らかにした。
 
シリアでは長年、アサド政権による強権的な支配が続き、内戦が始まってからは各地で政府軍による激しい空爆も相次いだ。政治犯として収容された人たちの多くが厳しい拷問にかけられ、そのまま行方不明になった人も数多い。
 
それだけに、HTSが制圧した北部アレッポや中部ハマでは、アサド政権の支配からの解放を祝う市民の姿も報じられている。

ただ、シリアではクルド人組織を含む多様な反体制派が各地で勢力を維持しており、過激派組織「イスラム国」(IS)も今月、東部で一部地域を支配下に置いたとの報道もある。仮にアサド政権を打倒したとしても、反体制派がまとまるのは容易ではないとみられる。【12月8日 毎日】
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“キリスト教徒や少数民族もHTSの統治下では安全に暮らせる”・・・今はその言葉を信じましょう。不安を抑えて。

【HTS以外にトルコ支援をうける組織、クルド人武装勢力、IS、更にトルコ、アメリカなど関係国の思惑が入り乱れる】
次に心配されるのは上記記事最後にあるように、各武装勢力間のせめぎあいが今後どうなるのか?という点です。

****シリア各地に割拠する反体制派 イスラム過激派、親トルコ、クルド人…政権崩壊で混乱必至****
アサド政権が崩壊したシリアは2011年に始まった内戦の結果、各地にさまざまな反体制派が複雑な形で割拠する事態となった。それぞれ利害が異なる上、イスラム過激派は離合集散を繰り返すなどしており、政権崩壊後の情勢が混乱するのは必至だ。

シリア北西部イドリブには、アサド政権側との戦闘を主導したイスラム過激派「シリア解放機構」(HTS)などが根を張る。HTSは内戦開始直後に活動を活発化させた「ヌスラ戦線」を前身とする。16年に忠誠を誓った国際テロ組織アルカーイダとの決別を宣言し、他組織と合併して改名した。米国などはテロ組織に指定している。

北部のトルコ国境に面する一帯は、トルコのエルドアン政権が肩入れする「シリア国民軍」(SNA)の支配地域だ。HTSとともに政権側への攻撃に加わった。エルドアン大統領はアサド政権の退陣を求め、反体制派を通じてシリアへの影響力浸透を図ってきた。

また、北東部は少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が支配している。エルドアン政権はトルコ国内の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の分派だとして、過去にSDFに対する越境攻撃を行った。

さらに、東部の一部地域では小規模ながらイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が暗躍する。かつてシリアとイラクにまたがる広い範囲を制圧したが、米軍と連携したSDFなどの攻撃を受け、19年に支配地域を全て失った。東部にはISの勢力回復を警戒する米軍が兵士約900人を駐留させている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、クルド人勢力は北東部に施設を設けてIS戦闘員ら数万人を拘束している。過去にISがこれらの施設を襲撃したこともあり、仮に戦闘員らが大量脱走すれば治安の悪化がシリアにとどまらず、周辺地域に飛び火する恐れもある。【12月8日 産経】
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【アメリカと共闘し、トルコと対立するクルド人勢力の今後は? トランプ新政権に見捨てられた後は?】
HTSとともに政権側への攻撃に加わったトルコが支援する「シリア国民軍」(SNA)は、トルコの影響力でHTSと一定にうまくやるのかも。

しかしクルド人勢力や、ましてやISは、HTSと協調するのはなかなか難しいかも。
すでにトルコ支援の勢力とクルド人勢力の間で衝突が起きています。

****トルコ支援のシリア反体制派、北部の町を米支援組織から奪取****
トルコ治安筋によると、トルコが支援する複数のシリア反体制派組織がシリア北部の町マンビジュを米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」 から奪取した。

シリアでは反体制派が首都ダマスカスを掌握し、アサド大統領を追放したが、北部での衝突は続いている。

SDFは「シリア国民軍(SNA)」などトルコが支援する組織と激しい戦闘を繰り広げ、ここ数日マンビジュを占拠していた。

ロイターが確認した動画によると、マンビジュでは住民が反体制派組織を歓迎する様子が映っている。マンビジュはトルコとの国境の南30キロの地点に位置する。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS) の掃討で米国の支援を受けているが、トルコはSDFについて、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)とつながりのあるテロリスト集団が指揮していると主張している。

米国はSDFが制圧するシリア東部でプレゼンスを維持し、ISの復活を阻むために必要な措置を講じる意向を示している。

これとは別にオースティン米国防長官は、米軍がここ数日、シリアを攻撃したことについて、ISが混乱に乗じて活動を拡大することを阻止する狙いがあると説明した。【12月9日 ロイター】
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各勢力のせめぎあいには、バックにいる関係国の支援のあり方も問題になります。

トルコ・エルドアン大統領はこの機に、影響下の「シリア国民軍(SNA)」を使って、クルド人勢力を叩きたいという考えでしょう。

クルド人勢力にはIS掃討で共闘しているアメリカの支援があります。

****米、シリア情勢安定へ支援 政権移行巡り反体制派注視****
バイデン米大統領は8日、シリアのアサド政権崩壊について「長期にわたり抑圧されてきた人々にとって歴史的なチャンスだ」と述べ、情勢安定化に向けて支援する考えを示した。首都ダマスカスを掌握した反体制派の一部が「残忍なテロの記録」を有しているとし、政権移行を巡る動向を注視すると強調した。ホワイトハウスで記者団に語った。
 
バイデン氏は、米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針を表明。内戦で荒廃したシリアの復興のため人道支援を実施する意向も示し、数日以内に中東地域の首脳らと協議すると説明した。【12月9日 共同】
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“米軍が今後もシリアで駐留を続け、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を続ける方針”・・・・ということはクルド人勢力との共闘も続く、つまりトルコと利害がぶつかるということになります。

ただし、来年になれば状況は変わります。

****米国はシリアに関与すべきでない トランプ氏が投稿****
トランプ次期米大統領は7日、自身の交流サイト(SNS)で、アサド政権軍が反体制派の攻勢を受けているシリア情勢を巡り「米国は関与すべきではない。私たちの戦いではない」と主張した。(後略)【12月8日 共同】
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トランプ政権になればクルド人勢力はアメリカの後ろ盾を失い、トルコに売られるでしょう。そのときクルド人勢力がどうするのか?

アサド政権の枠組みもなくなった今は悲願の国家樹立の機会です。クルド人は国家を持たない最大の民族として、シリア、トルコ、イラク、イランに分散して暮らしてきました。

心情的には分離独立でしょうが、それは国内(シリアが国家と言える状態かどうかはわかりませんが)の反発・攻撃だけでなく、関係国トルコ。イラク、イラン全ての反発・介入を招くでしょう。

2017年にイラクのクルド人自治政府は独立を問う住民投票を行ったことで、イラク中央政府の軍事的攻撃を受け、それまでの支配地域も失うことになりました。

【ロシア・イラン・イスラエルの思惑 超簡単に】
関係国としては軍事基地を持つロシア、イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」を有していたイラン、そのイランと敵対するイスラエルの話がありますが、もうこれ以上記事が長くなるのは無理ですね。また別機会に。

ひとことで言えば、ロシアにとってシリアの軍事基地は中東、地中海、アフリカへの展開の要であり、絶対に手放したくないところ。一応反体制派と存続で合意したとの情報もありますが、今後は「どうかな?」といったところ。

イランは「シーア派の弧」の一画を失い、レバノン・ヒズボラも叩かれ、その再建が問題。すでに反体制派と接触しているとの情報も。

イスラエルは「残存する(アサド政権が有していた)化学兵器や長距離ミサイル、ロケット弾のような戦略兵器が過激派の手に渡らないようにするためという目的でシリアへの激しい空爆を行っています。また、イスラエルが占領するゴラン高原とシリア国境の非武装地帯に地上部隊を派遣したとのこと。

いろんな勢力・関係国の思惑が交差して、シリア内戦第2幕の危険をはらんだ状況です。

あと、シリア難民の帰還の問題もあります。
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ルーマニア  大統領選挙 再投票へ  極右候補、違法なSNS利用 ロシア介入疑惑も 多くの者が彼に投票した事実も

2024-12-08 23:50:30 | 欧州情勢
 
(ルーマニア大統領選の第1回投票で首位となったカリン・ジョルジェスク氏【11月29日 BBC】)

【SNS選挙で無名候補が一躍首位に】
ルーマニアでは11月24日に行われた大統領選挙で、それまで無名の泡沫候補だった親ロシア・極右候補者がSNSを駆使する選挙戦略で一躍第1回投票の首位に躍り出て、決選投票に進むという事態になりました。

****ルーマニア大統領選、「SNS戦略」成功でプーチン賛美の「極右」が予想外の首位...若年層の不満を代弁****
<ルーマニア大統領選第1回投票で、「ウクライナ戦争の背後で『帝国主義』軍産複合体が暗躍」と訴えるジョルジェスク候補が首位に>

ルーマニア大統領選の第1回投票が11月24日行われ、親露派で反北大西洋条約機構(NATO)の極右ナショナリスト候補カリン・ジョルジェスク氏が212万票(得票率22.9%)を超える予想外の大躍進を見せ、首位で12月8日の決選投票にコマを進めた。

ジョルジェスク氏はウラジーミル・プーチン露大統領を称え、ウクライナ戦争の背後で「帝国主義」軍産複合体が暗躍していると唱える。事前の世論調査では社会民主党(PSD)代表のマルチェル・チョラク首相が圧倒的にリードしており、ジョルジェスク氏は完全なダークホースだった。(中略)

ジョルジェスク氏は1962年ブカレスト生まれ。ブカレスト農業科学獣医学大学で博士号を取り、国連やローマクラブ欧州支援センター会長など持続可能な開発に関する役職を歴任。大統領選には無所属で立ち、農家支援、エネルギー・食料の自給志向、輸入依存からの脱却を唱えた

ホロコーストに加担した第二次大戦指導者を称賛
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に加担して銃殺刑になったルーマニアの第二次大戦指導者イオン・アントネスクや、欧州で最も暴力的な極右の反ユダヤ主義民族運動「鉄衛団」の創設者コルネリウ・コドレアヌを国民的英雄と呼ぶ極右ナショナリストだ。

政治スタンスは親露。ルーマニアのNATO加盟に反対する。NATOが加盟国を守る能力に懐疑的な一方、ルーマニアは外交的・戦略的判断を下す準備ができておらず 「ロシアの知恵」に従うべきだと主張する。しかし実際にロシアを支持するかどうかについては名言を避けている。

「私は不当な扱いを受けた人々のために投票した
ルーマニアはフランス率いるNATO多国籍戦闘部隊と米軍のミサイル防衛施設を受け入れており、ジョルジェスク氏は「外交の恥」と批判。ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。

投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。より多くの有権者にリーチするため動画共有サイトTikTokなどSNSを効果的に活用した。

新聞・テレビを上回るSNSや動画サイトの破壊力
幅広い視聴者、特に若い有権者の共感を呼ぶ短くて魅力的な動画を共有することで、ジョルジェスク氏は反体制的で民族主義的なメッセージを効果的に広めた。伝統的なメディアを回避し、主要政党を見放した有権者と直接つながり、知名度と支持を大幅に高めることに成功した。

NHKによると、日本でも自身のパワハラ疑惑などを巡る出直し兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事のユーチューブ公式チャンネルの総再生回数は約119万回。街頭演説を短くまとめた動画は少なくとも計2000万回再生された。SNSや動画サイトの破壊力は新聞・テレビを上回る。

米大統領選で返り咲いたドナルド・トランプ次期大統領を例に挙げるまでもなく、SNSや動画サイトの活用はポピュリスト政治家の常套手段。ジョルジェスク氏は若者に人気のTikTokで25万人のフォロワーを持ち、投稿したクリップのいくつかは300万回以上再生された。

ロシアの干渉を示す証拠は見つかっていない。ジョルジェスク氏が決選投票でも勝利すれば首相指名権、連立協議権、外交・安全保障政策に関する最終決定権を持つ役職に就くことになる。極右の暗雲がさらに広がり、NATOや欧州連合(EU)の結束が大きな音を立ててきしみ始めた。【11月26日 木村正人氏 Newsweek】
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【憲法裁判所 再集計を命じる】
驚愕とロシア介入への疑念が広がる中で、11月28日、ルーマニア憲法裁判所は中央選挙管理委員会に対し、大統領選の第1回投票結果の再集計を要求しました。

****ルーマニア大統領選、憲法裁が再集計命じる ロシア介入疑惑も****
ルーマニアの憲法裁判所は28日、大統領選挙の第1回投票の結果について再集計を命じた。

24日行われた大統領選挙は、事前の世論調査で支持率が1桁台だった北大西洋条約機構(NATO)懐疑派の極右カリン・ジョルジェスク氏が予想外に健闘し、選挙の公平性に疑問が生じている。

憲法裁判所は声明で「11月24日の大統領選挙の投票用紙の再検証と再集計を全会一致で命じた」と明らかにした。

一方、国内の最高安全保障機関である最高防衛会議は、選挙プロセスに影響を及ぼすことを目的としたサイバー攻撃の証拠があると発表した。

「大統領候補は、政治候補者としてラベル付けされず、選挙コンテンツにラベル付けするよう求められないというTikTok(ティックトック)のプラットフォームを通じて大規模な露出の恩恵を受けた」と説明。ルーマニアは「国家および非国家主体、特にロシア連邦による敵対行為」の主要標的となっていると指摘した。

ジョルジェスク氏は動画共有アプリのTikTokを中心に選挙戦を展開していた。【11月29日 ロイター】
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単に、想定外の躍進というだけでは再集計の理由になりませんが、ルーマニア憲法裁判所が具体的に何を懸念して再集計を求めたのかはよくわかりませんが、“落選した候補が選挙無効を訴え、憲法裁は28日、選管に再集計を命じた”【11月29日 共同】とのこと。

【議会選挙でも複数の極右政党で得票の3分の1を占める】
憲法裁判所が再集計結果について判断する前に議会選挙が12月1日に行われ、極右勢力がどの程度の議席を獲得するか注目されていました。結果は、連立与党の左派政党が第1党になるものの、複数の極右政党で得票の3分の1を占めることになり躍進しました。

****ルーマニア議会選 与党左派が第1党も極右が3分の1を得票 連立構図は不透明****
東ヨーロッパのルーマニアで議会選挙が実施されました。連立与党の左派政党が第1党になる見通しですが、複数の極右政党で得票の3分の1を占めるなど今後の連立の構図は不透明になりました。

ルーマニアの国営通信によりますと、1日に上下両院の議会選が実施され、開票率99%の時点で連立政権を率いる左派政党、社会民主党(PSD)が得票率約22%で第1党になる見通しですが、前回の2020年の選挙に比べて約7ポイント減っています。 社会民主党と連立を組む国民自由党も10ポイント程度減らし、約14%でした。

2位に付けたのはEU(ヨーロッパ連合)に懐疑的な姿勢を示す極右政党「ルーマニア人統一同盟」(AUR)で、約18%を獲得し、前回の選挙から約10ポイント増やしました。

現在の連立与党だけでは半数に届かず、また連立与党に批判的な極右系の政党などが両院で3分の1を獲得したと報じられていて、今後の連立の構図は不透明です。(後略)【12月2日 テレ朝news】
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“バベシュ・ボヨイ大学のセルジウ・ミシュコイウ教授(政治学)は、PSDが連立協議で中心的役割を果たす可能性が高いと指摘。一方で今回の結果は「1990年以降で政治的スペクトラムが最も分断されている」ことを示しており、欧州連合(EU)で最も貧しい地域のいくつかを抱えるルーマニアで社会的分裂が深まっていると分析した。”【12月2日 ロイター】とも。

ただ、極右政治家ジョルジェスク氏が大統領になった場合、極右勢力から首相を選ぶ可能性もあります。

大統領選挙第1回投票について再集計を命じていた憲法裁判所は12月2日、“大統領選第1回投票について結果は有効だと認め、今月8日に決選投票を行う日程を確定させた”との報道がありました。

****ルーマニア大統領選、8日決選投票へ 第1回投票は有効と憲法裁*****
ルーマニア憲法裁判所は2日、不正やロシアによる介入などの疑惑が浮上した11月24日の大統領選第1回投票について結果は有効だと認め、今月8日に決選投票を行う日程を確定させた。

第1回投票では、ほぼ無名だった親ロシア派の極右政治家ジョルジェスク氏の得票率が首位となった後、憲法裁判所が票の数え直しを要求。大統領選の行方に不透明感が漂っていた。

決選投票はジョルジェスク氏と、第1回で2位だった野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」のラスコニ党首が争うことになる。

1日に公表された世論調査によると、ジョルジェスク氏に投票すると答えた人の割合が57.8%と、ラスコニ氏の42.2%を上回っている。

大統領選の結果次第で、親欧州連合(EU)でウクライナ支援を続けてきたルーマニアの外交方針が大きく転換する恐れがある。

1日に行われたルーマニア上下両院選挙では、チョクラ首相が属する中道左派「社会民主党」が第1党の地位を確保したものの、極右の「ルーマニア人統一同盟」が第2党に躍進。首相指名権は大統領にあるため、現時点では誰が首相になるかは読めない。

ある専門家は「極右政治家が大統領になれば、議会で親欧州派が連携して抵抗するのは非常に難しくなる」と指摘した。【12月3日 ロイター】
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【憲法裁判所 第1回投票の無効判断 やり直し選挙に】
EUの欧州委員会は“SNSを駆使した情報操作が行われた疑いがあるとして、TikTok(ティックトック)に関連データの保全命令を出したと発表した”【下記読売】と、懸念を深めています。

****SNSで情報操作行われた疑い」ルーマニア大統領選めぐり欧州委が調査、TikTokにデータ保全命令****
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は5日、11月下旬のルーマニア大統領選の1回目投票を巡り、SNSを駆使した情報操作が行われた疑いがあるとして、TikTok(ティックトック)に関連データの保全命令を出したと発表した。EUは本格的にSNS上の不正行為に対する調査に乗り出す。

11月24日の1回目投票では、親露派で急進的な右派勢力のカリン・ジョルジェスク氏が首位となった。SNSを駆使した選挙戦で、劣勢だった情勢をひっくり返した。

欧州委は「(右派を勝利させたい)ロシアの干渉があったとの情報もある」と指摘している。得票は過半数に届かず、12月8日に上位2人による決選投票が行われる。(後略)【12月6日 読売】
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しかし、上記【ロイター】報道が誤報だったのか、憲法裁判所が考えを変えたのは知りませんが、一転、憲法裁判所は6日、大統領選の第1回投票の結果を無効と決定しました。これにより選挙はやり直しとなります。

****ルーマニア大統領選挙で憲法審が投票結果無効の決定…SNSによる情報操作やロシアの介入指摘で****
ルーマニアの憲法裁判所は6日、11月24日に行われた大統領選の1回目投票の結果を無効にするとの決定を下した。今月8日の決選投票は中止となり、選挙の全過程がやり直しとなる。

1回目投票で首位だった極右のカリン・ジョルジェスク氏に有利となるSNSの情報操作などがあり、選挙の公平性が損なわれたと判断した。

憲法裁は6日、落選した候補の無効申し立てを受け、審議した。ルーマニア情報当局などは4日、ジョルジェスク氏のTikTok(ティックトック)に関する不正やロシアの介入を指摘する機密文書を公開しており、憲法裁は文書に基づき決定した。

ジョルジェスク氏のSNSがアルゴリズム(計算方法)の悪用によって他候補より積極的に宣伝されたり、選挙運動資金をゼロと申告しながら実際には多額の資金が費やされたりしていたという。

ジョルジェスク氏は声明で、無効の決定は「クーデターだ」と反発した。

クラウス・ヨハニス大統領は声明を発表し、憲法の規定に基づき21日の任期満了後も次期大統領の就任まで職務を続ける意向を示した。再選挙の日程は、1日の議会選挙を受けて発足する新内閣の下で決める。

ルーマニア検察当局も6日、大統領選でのコンピューター関連の犯罪捜査を始めたと発表した。【12月6日 読売】
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【SNS使用における違法性、あるいはロシアの介入という問題にとどまらず、多くの有権者が無名だった極右候補ジョルジェスク氏に一票を投じたという事実も】
このルーマニア大統領選挙の問題は、二つの視点を提起しています。
ひとつは、選挙運動におけるSNSの使われかた、及び、その影響力の大きさです。
もうひとつは、SNS使用の適正性に問題があるにしても、多くの有権者が無名だった極右候補ジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だという点です。

****「泡沫」急浮上、TikTok不正か ロシアの影、政治不信鮮明 ルーマニア大統領選****
東欧ルーマニアで、8日に決選投票を控えていた大統領選挙が、憲法裁判所の判断で急きょ中止され、候補者の届け出からやり直す異例の事態となっている。  

中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が不正利用されたもようで、先月行われた第1回投票では泡沫(ほうまつ)扱いされていた無所属候補が首位に立った。有権者に広がる深刻な政治不信も鮮明になり、混乱が続いている。  

渦中の候補はカリン・ジョルジェスク氏(62)。国連機関や環境省でキャリアを積んだ学識者とされ、選挙戦では伝統重視や「ルーマニア第一」を掲げた。新型コロナウイルスの存在を否定し、人類による月面着陸を「でっち上げ」と主張したこともある。  

10月までは多くの世論調査でジョルジェスク氏の支持率は1%に満たなかった。しかし、11月24日の第1回投票で、有力候補とされていたチョラク首相らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出た。

現地メディアも「ジョルジェスク氏とは誰か」と報じるサプライズだった。  

実態を調査したルーマニア当局は、ジョルジェスク氏の情報をTikTokで拡散したインフルエンサーらに計38万1000ドル(約5700万円)が支払われていたことを把握。約2万5000のTikTokアカウントを利用した大規模な選挙運動が展開されたと報告した。  

資金源を調べたところ、暗号資産事業を手掛ける男が容疑者として浮上。検察は今月7日、選挙違反やマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いで、男の関係先を家宅捜索した。男はジョルジェスク氏と面識はなく、理念に共感したと主張している。  

ジョルジェスク氏はロシアのプーチン大統領を「愛国者」と呼び、ロシアの侵攻を受けるウクライナ支援の停止を訴えていた。こうした経緯から「ロシアの関与」(チョラク氏)を疑う見方もある。  

一方、投票データが改ざんされた形跡はなく、多くの有権者がジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だ。今回の事態は政治への潜在的な不満が表れたともいえる。

ジョルジェスク氏は選挙のやり直しについて、民主主義を攻撃する「クーデター」だと訴え、支持者に当初の予定通り投票所に足を運ぶよう呼び掛けた。【12月8日 時事】
******************

****ルーマニアの憲法裁判所、大統領選第1回投票を無効と判断 勝利候補への影響工作が明るみに****
(中略)

「外国国家」作成のTikTokアカウントが活性化
(中略)
無所属の急進派であるジョルジェスク氏は、主にTikTokで選挙活動を行っていた。TikTokはこの疑惑を断固として否定していた。

こうしたなか、ヨハニス大統領は4日、国家防衛最高評議会の情報文書を機密解除した。
この文書は、2016年に「外国国家」によって作成された約800件のTikTokアカウントが先月、突然フル稼働し、ジョルジェスク氏を支持していたことを示唆した。

さらに、第1回投票の2週間前には、別の2万5000件のTikTokアカウントが活発化していたという。
ルーマニアの対外情報機関は、数万件のサイバー攻撃やその他の妨害行為を含むハイブリッド攻撃を行っていた「敵対国家」はロシアだと指摘した。

国内情報機関は、ジョルジェスク氏の突然の人気急上昇について、同一のメッセージやインフルエンサーを含む「高度に組織化された」ゲリラ的なSNSキャンペーンに起因するとした。

ジョルジェスク氏を宣伝するTikTok動画には選挙コンテンツとしての表示がなく、ルーマニアの法律に違反していたとされる。

アカウントの中には、ジョルジェスク氏のために1カ月で38万1000ドル(約570万円)をユーザーに支払っていたが、ジョルジェスク氏は自身の選挙活動に一切の支出をしていないと主張するものもあった。

ジョルジェスク氏は今週、BBCの取材の中で、自分はロシア政府の手先などではないと主張。ルーマニアの政治体制が自分の成功に対応できず、妨害しようとしていると主張していた。【12月7日BBC】
*******************

選挙運動におけるSNSの影響は大きな注意を払うべき問題ですし、ましてやロシアから資金が・・・となれば、明らかな選挙介入です。

ただ、それだけで終わる話ではなく、多くの有権者が無名だった極右候補ジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だという点を無視することはできません。

冒頭の【Newsweek】にあるように、“ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。

投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。”とも。

上記主張は、アメリカでトランプ氏が訴え、躍進した背景と重なります。ここに対応しない限り、“ジョルジェスク氏の躍進”を止めることはできません。

これまで世界の政治は、基本的には西欧的リベラリズムが牽引してきましたが、いま、ジョルジェスク氏と同様の訴えが各地で提起されています。

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シリア  “死に体”との表現、出国勧告の話もでる崩壊目前のアサド政権 新たな力関係は?

2024-12-07 23:04:08 | 中東情勢

(【12月6日 日経】)

【中部要衝ホムスに迫る反体制派HTS 東部ではクルド人勢力、南部でも地元武装勢力の攻勢も 更にISも】
シリア情勢に関する11月30日ブログで反体制派(HTS)がアレッポを制圧したことについて、“「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)にシリア全土に戦線を拡大する力があるとは思えませんが、北部拠点都市アレッポを失うというのはアサド政権にとっては大きな痛手でしょう。”と書きましたが大間違いでした。

反体制派はあっというまに中部ハマを制圧し、更に中部ホムスへと迫っています。

ウクライナとの戦いで手一杯のロシア、イスラエルとの戦闘で大打撃を受けているヒズボラ、ヒズボラ支援やイスラエルとの対峙で身動きが取れないイラン・・・とこれまでアサド政権を支えてきた各勢力が動けない「力の空白」を狙った反体制派の読みは見事に当たったようです。

というか、政府軍の空洞化、士気の低下が露呈しており、アフガニスタンでタリバンの攻勢に有効な反撃を行えず崩壊した政府軍の再現を見る感もあります。

この間、反体制派に対するロシアの空爆などは行われてはいますが、政府軍は反体制派の勢いを止められていません。

反体制派はホムスから首都ダマスカスをうかがう「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)の他に、東部デリゾールは少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が制圧。東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もあります。

更に、南部ダルアーも地元武装勢力が支配下に・・・と、シリア全土で各組織が政府軍を追いやって勢力を拡大しており、アサド政権は首都ダマスカス防衛に追い込まれています。

****シリア内戦激化 37万人避難、死傷者は数百人 反体制派が攻勢****
内戦が再び激化しているシリアで6〜7日、各地の反体制派勢力が東部デリゾールや南部ダルアーを制圧した。ロイター通信などが報じた。シリアでは11月下旬以降、反体制諸派の攻勢が強まり、情勢は一気に不安定さを増している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は6日、戦闘激化で少なくとも37万人が避難したと発表した。民間人にも数百人規模の死傷者が出ている模様だという。

ロイターなどによると、デリゾールでは6日、米国が支援するクルド人主体の反体制派組織「シリア民主軍」(SDF)が市内へ進攻。政府軍やアサド政権を支援する親イラン武装組織はほとんど交戦せずに撤退し、SDFが支配下に置いた。

SDFは、デリゾールから南東約120キロにあるイラクとの国境検問所も制圧したという。
イラクには、アサド政権を支えるイランの影響下にある武装組織が存在し、一部はシリア政府軍を支援するため越境している。SDFによる検問所の制圧で、こうした組織の増援に影響が及ぶ可能性もある。

また、シリアの別の反体制派組織は7日、南部ダルアーを制圧したと表明した。政府軍は首都ダマスカスへの安全な撤退を条件に、ダルアーを明け渡したという。この反体制派は6日にはダルアー近郊の政府軍基地やヨルダンとの国境検問所の一部を占領していた。

一方、米国がテロ組織に指定する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を主体とする反体制派は勢いづいている。シリア第2の都市・北部アレッポや中部ハマの制圧に続き、6日にはハマの南方約40キロに位置する第3の都市・中部ホムスへと迫った。ホムスでは5日夜から多くの住民が避難を始め、治安部隊の拠点は放棄されたとの報道もある。政府軍はこうした情報を否定している。

ホムスは主要各都市へ通じる交通路の要衝だ。反体制派が制圧すれば、首都を目指す攻勢が始まる可能性もある。その場合、近年はイランやロシアの軍事支援で確保されていたアサド政権の軍事的優位が大きく揺らぐことになる。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避させたという。

親イランの民兵組織をダマスカスに集結させているとの情報もあり、首都での攻防激化を見据えている可能性がある。【12月7日 毎日】
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クルド人勢力が制圧した東部デリゾールは油田地帯。

地元武装勢力が押さえた南部ダルアーは“「アラブの春」と呼ばれる民主化要求運動が中東で拡大した2011年、シリアで反体制デモが広がる震源地になったことで知られる。アサド政権側は当時、全土に拡大したデモを徹底的に弾圧して内戦に発展した。”【12月7日 産経】という因縁の地

「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)が進撃する中部ホムスは“国内交通の十字路に当たり、反体制派が制圧すれば南部ダルアーとの間にある首都ダマスカスを挟み撃ちにし、孤立を図ることも可能になる。また、ロシア軍の駐留基地などがある西部と首都の往来が遮断される恐れがある。”【同上】

いずれも、政権にとっては重要な地域ですが、次々と落ちています。
“東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もある。【同上】とIS復活の動きも。

【首都陥落も目前 関係国はダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動き】
“親イランの民兵組織をダマスカスに集結させている”とのことですが、“ほとんど交戦せずに撤退”“治安部隊の拠点は放棄”“イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避”・・・こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも。

関係国もダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動きを見せています。

****シリア首都陥落の可能性=イスラエルが米に懸念伝達―報道****
米ニュースサイト「アクシオス」は5日、反体制派が攻勢を強めているシリア情勢を巡り、イスラエル政府高官が、アサド政権軍が崩壊し首都ダマスカスが陥落することもあり得るとの見方を示したと報じた。

反体制派は既にほぼ掌握した北部アレッポに続き、5日には中部の要衝ハマ制圧を宣言した。アクシオスによれば、米当局者もアサド政権軍の防御線が急速に崩壊していると指摘。「政権にとって過去10年間で最大の試練」と見なしていると語った。

米当局者によると、イスラエル側は米国に対し、イスラム過激派勢力がシリアで権力を掌握することへの懸念を伝達。混乱に乗じてイランがシリアに兵士を追加派遣し、同国での影響力を強める事態も危惧しているという。12月6日 時事】 
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****トルコ大統領、国連総長と電話会談 「シリア紛争は新段階に」****
トルコのエルドアン大統領は5日、国連のグテレス事務総長と電話会談し、シリア紛争が「冷静に管理される」新たな段階に入ったとの見解を伝えた。トルコ大統領府が明らかにした。

シリア反政府勢力は5日、中部の要衝ハマを制圧し、同国のアサド政権およびその同盟国であるロシアとイランに新たな打撃を与えた。

エルドアン氏はグテレス氏に対し、シリア政府は政治的解決を達成するために、国民との対話を迅速に行う必要があると指摘。トルコは緊張緩和と民間人保護、政治的解決の下地を整えることに取り組んでいると語った。【12月6日 ロイター】
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もはや「死に体」との表現も出始めたアサド政権ですが、亡命の話も。

****シリア大統領に出国勧告か=中東諸国、支援に消極的―米紙****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は6日、エジプトやヨルダンの当局者が内戦下のシリアで反体制派の大規模攻勢にさらされているアサド大統領に対し、出国して亡命政府を樹立するよう勧告していたと報じた。シリア治安当局者らの話として伝えた。アサド氏の反応は伝えられていない。

同紙によると、アサド氏は、反体制派との関係が深いトルコに攻勢を止めるための働き掛けを要請。エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクには情報提供や武器供与を求めたが、いずれも拒否されたという。

アサド氏との関係が冷え込んでいるトルコのエルドアン大統領は6日、「アサド氏にはシリアの将来を話し合うため訪問を求めてきたが、前向きな回答が得られなかった」と指摘。反体制派の進攻については「問題なく続くことを願う」と述べ、容認する姿勢を示した。【12月7日 時事】 
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【かつてはアルカイダ系ヌスラ戦線とも呼ばれたHTS、クルド人勢力・・・・新たな力関係は?】
ここまで反体制派の攻勢が急激に進行している最大の理由は冒頭でも触れたロシア・イラン・ヒズボラがシリアに注力できない状況にあることですが、それ以外の要因を指摘する向きも。

****「米制裁がアサド政権崩壊の要因」 シリア人権監視団代表***
内戦が続くシリアで反体制派の武装勢力が攻勢を強める中、シリア人権監視団の代表がANNの取材に応じ、「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の要因となった」と明かしました。

「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」(シリア人権監視団ラミ・アブドルラフマン代表、以下同)

イギリスに拠点を置く反体制派NGOシリア人権監視団は、武装勢力の兵士たちが9月から訓練を受け、準備を進めてきたと明かしました。「アサド政権は事実上崩壊した」とし、要因として軍事支援を受けてきたヒズボラの弱体化のほかに次の点を指摘します。

「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の主な要因だ」「経済面では国家は崩壊し、電気が通っていないなどインフラも整っていない。なのに、政権内にはヨーロッパの富裕層よりも金を持つ腐敗した人々がいて政権の弱体化につながっている」

反体制派の勢力はアサド政権が支配していた要衝を次々と制圧していて、シリア第3の都市ホムスにも迫っています。

アブドルラフマン代表は、政府軍がすでにホムスの街の外まで退避しているとしたうえで将校らに戦闘の意欲はなく、軍の中でクーデターが起きる可能性があるとしています。【12月7日ABEMA Times】
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アメリカの制裁というよりは、アサド政権内部の問題のようにも。

反撃作戦の実行時期については、「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」とありますが、その背景については以下のようにも。パレスチナやレバノンの情勢と密接に関係していたようです。

****シリア反体制派のアレッポ制圧作戦、レバノン停戦を待って開始=幹部****
シリアの反体制派統一組織「シリア国民連合」のハディ・バフラ議長は2日、反体制派によるシリア北部の要衝アレッポ制圧に向けた軍事作戦について、レバノンにおける親イラン民兵組織ヒズボラとイスラエルの停戦を待って開始したと明かした。 

反体制派軍司令官らも、もっと早く作戦を始めていれば、ヒズボラと戦闘中だったイスラエルの味方をしていると見なされるのを懸念していたと語った。

 バフラ氏は、反体制派は1年前から作戦準備に入っていたと説明。「しかしパレスチナ自治区ガザとレバノンでの戦闘(発生)で作戦が先送りされた。レバノンで戦いが続いている時期にシリアで戦うのは得策ではないと考えた。その後レバノンで停戦が実現し、作戦開始のチャンスと受け止めた」と述べた。

 実際、反体制派が作戦を始めたのは、まさにヒズボラとイスラエルが停戦に合意した11月27日だった。 

一方でバフラ氏は、いざ作戦に乗り出すと、アサド政権を支援するヒズボラやその他の親イラン勢力がイスラエルへの対応にかかりきりだったこともあり、すぐに反体制派側がアレッポやその他の地域を掌握できたと指摘した。【12月3日 ロイター】
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こうした流れでいくと、おそらく首都ダマスカスを落とすのは「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シリア解放機構」)でしょう。

同組織はかつてヌスラ戦線とよばれていたアルカイダ系イスラム過激派の流れをくむ組織です。
アルカイダとは関係を断ったと主張はしていますが、ロシア・イランに支援されたアサド政権に変わってイスラム過激派がシリアで主要な勢力を持つという事態にも。

国際社会にとっては新たな問題です。

****シリア反体制派「アサド政権は“死に体” 難民帰還を」 CNN取材****
シリアで攻勢を強めている反体制派のリーダーがCNNテレビの独占インタビューに応じ、今の独裁的な政権を倒して難民らを帰還させると訴えました。

シャーム解放機構 ジャウラニ氏
「最も大事なことは制度を作ることだ。個人の気まぐれで統治されるのではなく、制度だった統治を我々は求めている」

インタビューに応じたシリア反体制派「シャーム解放機構」の指導者、ジャウラニ氏は、アサド政権について「すでに死に体だ」と述べる一方、依然、政権側との戦いは楽観していない姿勢を示しました。

また反体制派が過去に「イスラム国」や「アルカイダ」など過激派組織と関係していた点については、「いまはシリア再建だけが目的」とし、政権の支配から解放した地域には、国内外の難民を帰還させる考えを示しました。

「シャーム解放機構」は北部のシリア第2の都市アレッポや中部のハマなど主要都市を制圧し、アサド政権への攻勢を強めています。【12月7日 テレ朝news】
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「いまはシリア再建だけが目的」・・・・どういう統治を考えているのでしょうか。

他の勢力、特にアメリカの支援を受けるクルド人勢力との関係はどうなるのでしょうか?
クルド人勢力にすれば、この機に分離独立して「クルド人国家」建設・・・という思いはないのでしょうか?

これまで、北東部の空軍基地などには露軍が駐留し、北部国境沿いはトルコが支配。東部には小規模ながら米軍も駐留する。HTSが支配する北西部に加え、北東部一帯は民兵組織を持つ少数民族クルド人の勢力下にある。・・・・という複雑な力関係にあったシリアですが、アサド政権が崩壊した場合、新たな力関係を模索して新たな対立・戦闘の懸念も。

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中国新疆の綿をめぐる米中対立で板挟みとなる企業 ユニクロも 

2024-12-06 22:50:42 | 中国

(新疆ウイグル自治区で 綿花を摘む労働者(ハミ市郊外、2010年11月3日)【21年4月12日 丸川知雄氏 Newsweek】)

【新疆ウイグル族対応をめぐる米中の対立 アメリカにとっては中国批判のカードにも】
中国新疆ウイグル自治区において、ウイグル族など少数民族への実質的収容所への大量移送などを含む中国当局の強権的同化政策が行われているとの批判はこれまでも取りあげてきたところです。

特にアメリカはこの人権侵害問題を対中国批判のカードとして利用していうる側面もあります。

****米、中国のウイグル弾圧非難 信教理由、1年間で1万人収監****
米国務省は26日、世界の信教の自由に関する2023年版報告書を発表した。中国政府がイスラム教徒の少数民族ウイグル族やチベット仏教徒らに対する弾圧を継続し、信教を理由に1年間で最大1万人以上を収監したと非難した。
 
ブリンケン国務長官は記者発表で、中国政府によるウイグル族への「ジェノサイド(民族大量虐殺)と人道に対する罪」を批判した。(後略)【6月27日 共同】
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また、新疆では徹底した監視が行われているとも報じられています。

****中国、ウイグル族の同化を加速 大規模暴動から15年、監視徹底****
中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市で少数民族ウイグル族による大規模暴動が起きてから5日で15年がたった。

習近平指導部は徹底した監視と取り締まりで治安を確保。脱イスラム教や中国語教育の強制でウイグル族の漢族社会への同化を加速させている。多くの住民は迫害を恐れ、不満を表すのも困難な状況だ。
 
指導部は経済振興が進んだと主張して統制を正当化。ただ欧米では人権抑圧を問題視する声が強い。ウイグル族に強制労働させているなどとの批判が絶えない。
 
2009年の暴動で激しい衝突があったウルムチ市の国際大バザールは、5日も武装警察などが厳重に警戒した。当局はモスク(イスラム教礼拝所)が共産党に不満を持つウイグル族の拠点になることを警戒。商店主は、10年代後半から「当局の圧力で大切な金曜日の集団礼拝に行けなくなった」と語った。
 
オーストラリアのシンクタンクは20年、ウイグル族など少数民族を収容する施設が自治区に380カ所以上あると報告。米国務省は21年、100万人以上が拘束されたと指摘した。【7月5日 共同】
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最近、取り上げられる機会が多いのがウイグル人への強制労働で、アメリカは22年6月に「ウイグル強制労働防止法」(UFLPA)を施行し、新疆での強制労働に関与しているとする企業への輸入禁止措置をとっています。

****米、新たに中国5社に輸入禁止措置 ウイグル強制労働関与で****
米政府は8日、新疆ウイグル自治区の少数民族の強制労働に関与し、人権を侵害しているとして、新たに中国企業5社からの輸入を禁止すると発表した。(中略)

指定企業はこれで70社を超え、綿衣料品や自動車部品、ビニール床材、太陽光パネルなど扱う企業が含まれる。

これに対し、在ワシントン中国大使館の報道官は「いわゆる『新疆での強制労働』は反中国勢力が拡散したひどい嘘であり、米国の政治家が新疆を不安定化し、中国の発展を阻止するための道具に過ぎない」と反発。「中国は中国企業の正当かつ合法的な権利と利益を今後もしっかりと保護する」と述べた。【8月9日 ロイター】
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上記記事にも中国側反論は下記のように。

****米国、新疆へのデマ製造に自国納税者の数百万ドル浪費****
中国北西部の新疆ウイグル自治区がまたにぎやかな観光シーズンを迎えている。(中略) 観光産業の活況は、新疆のエネルギッシュな社会・経済発展の一面にすぎない。

そんな新疆について荒唐無稽なデマをばらまいている国がある。米国だ。だが自国納税者の公金を使って激しい中傷キャンペーンを繰り広げても、その発展を止めることはできない。

コリン・パウエル元米国務長官の首席補佐官だったローレンス・ウィルカーソン氏は18年の講演で、新疆ウイグル自治区を利用して中国の不安定化を図ることを示唆した。これはワシントンの陰謀を暴露するものと広く受け止められている。

新疆の人々にとってはあまりにとっぴな計画だが、ワシントンは近年、中国封じ込めのための新疆利用に明らかに力を入れている。その最初の陰謀の一つが、この地区への狂ったような中傷キャンペーンだ。

強制労働、少数民族の弾圧、さらにはジェノサイド(民族大量虐殺)。根も葉もない告発は笑いぐさにすぎない。だがワシントンは見え透いた目的のため、これらの虚偽のストーリーに毎年途方もない額の税金を費やしてきた。

例えば、主に米議会から資金提供を受けている全米民主主義基金(NED)は、反中分離主義のウイグル族組織を支援するために毎年数百万ドル(1ドル=約146円)を提供している。(中略)
 
米国の人々が支払わされているのは、デマ製造装置にかかる費用だけではない。いわゆる「ウイグル強制労働防止法」(UFLPA)などに基づく米国の根拠のない制裁によって生じた多くの商品の価格上昇による代償も、米国人納税者が負っているのだ。
 
例えば、中国製ソーラーパネルは米国製より20〜40%安い。だが残念なことに、米国は中国のソーラーパネル企業からの輸入を妨害し、輸入業者のコスト上昇を招くと同時に、再生可能エネルギーの目標達成に向けた自国の努力をより複雑なものにしている。

UFLPA事業者リストに掲載された企業は、衣料品、農業、多結晶シリコン、プラスチック、化学、電池、家電など幅広い分野に及んでおり、米国の製造業者や消費者への全体的な影響は広範囲に及ぶとみられる。

その一方で、米国の制裁が新疆の社会・経済の発展に深刻な打撃を与えているという証拠はない。

21年末に制定されたUFLPAが22年6月に発効してから初の通年データとなる23年の同地区の域内総生産(GDP)は前年比6.8%増え、1人当たり可処分所得は前年比7%増の2万8947元に達した。
 
多くの外国人ビデオブロガーが新疆の各地を旅して発信している通り、現地社会は繁栄しており、安定的で調和が取れ、ウイグル族やその他の少数民族を含む人々はより良い生活を送れるようになっている。
 
制裁の対象になった企業は、輸出規制で多少の逆風にさらされたものの持ちこたえ、倒産はしていない。これらの企業の製品は中国の広大な国内市場で消費されるか、別の国に輸出されている。米国市場を失うことは残念かもしれないが、致命的ではない。

ワシントンが新疆に対する高くつく中傷キャンペーンを続けても、より多くの米国の税金が無駄な事業に浪費されるだけだろう。【8月31日 新華社】
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【コロナ禍以降は、かつてのウイグル族弾圧批判の急先鋒トルコも中国接近 その本音は・・・】
また、本来民族的に近いウイグル族に共感する立場にある中央アジアやトルコも、中国の立場を支持する方向に向かっています。

****中央アジアとトルコのメディア関係者、中国新疆の発展を称賛****
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルコのメディア関係者がこのほど、設立70周年を迎えた中国新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州を4日間の日程で訪問し、イリの社会と経済の発展、人々の生活の改善、生態系の保護、文化の継承、対外開放などの状況について理解を深めた。
 
現地で開かれた中国メディアと海外メディアの交流座談会では、カザフスタン紙「シルクロード・トゥデイ」のフセイン・ダウロフ社長が、今回の訪問を通じて、新疆の多民族地域に住む全ての人々、全ての民族を気に配慮し、その文化と伝統を守ろうとする中国政府の姿勢を目にしたと振り返った。(中略)
 
トルコ「アイドゥンルク(AYDINLIK)」紙対外連絡部のオズグル・オトバス部長は訪問中、「新疆に来たのもイリに来たのも初めてだ。ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た。これこそが本当の新疆だ。トルコに戻ったら、今回見聞きしたことを記事やドキュメンタリーにしてより多くの人に伝えたい」と語った。【9月19日 新華社】
******************

2009年の大規模暴動の際、当時首相だったトルコ・エルドアン氏は「ジェノサイド(大量虐殺)」と激しく非難し、トルコは中国のウイグル人弾圧批判の急先鋒でもありました。

しかし、コロナ禍で中国製ワクチンを受け入れるなど、中国批判は影をひそめるようにも。もっとも以下のようにも。

****************
新型コロナウイルス感染が拡大する中で、トルコが中国への依存を深めたことは確かである。

ただし、コロナ禍を契機にAKP政権のウイグル問題に対する姿勢が変わったわけではない。中国との関係構築を重視するAKP政権は、時には国内向けに中国批判をするものの、実際にはウイグル問題が中国との外交問題にならないよう以前から苦心していたのである。

コロナ禍で明らかになったのは、トルコの対ウイグル政策の転換ではなく、表向きはウイグル問題で中国を批判しつつも、本音では中国との関係を優先したいトルコ側のこれまでの姿勢だと言えよう。【2021年9月15日 柿崎正樹氏(テンプル大学ジャパンキャンパス上級准教授) 「コロナ禍とトルコ・中国関係:トルコの「変節」は本当か」 日本国際問題研究所】
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【新疆製の綿花をめぐる政治情勢で米中の板挟みとなる企業】
そうした状況で、最近問題になっているのは新疆製の綿花。

****カルバン・クラインも「敵対的」調査対象に...「罪状」は新疆ウイグル産の綿花ボイコット****
<新疆綿やその他の製品を独断でボイコットし、市場取引の原則に違反した「疑い」...有名ブランドが矢面に>

「罪状」は、新疆ウイグル自治区で生産される綿花のボイコット──。
中国商務省が9月24日、ファッションブランドのカルバン・クラインやトミー・ヒルフィガーを展開する米企業PVHに対して、調査を始めたと発表した。

調査の根拠は「信頼性を欠く事業体リスト」だ。2020年9月に発効した同リストは、中国の市場規則や契約上の義務に違反したとされる外国企業・外国人を指定し、貿易取引を禁止。場合によっては、中国への入国や投資も禁じられる。

PVHは「新疆綿やその他の製品を独断でボイコットし、市場取引の原則に違反した」疑いがあるという。

中国は「(新疆での政策に)そぐわない行動をする欧米企業を敵対的と見なす」と、英ロンドン大学東洋アフリカ学院・中国研究所のスティーブ・ツァン所長は本誌に語る。

中国では21年、新疆の少数民族ウイグル人の強制労働への懸念を表明したナイキやH&Mの不買運動が起きた。PVHの運命はどうなる?【9月30日 Newsweek】
******************

本当に綿花栽培で強制労働が行われているのかどうか・・・定かではありません。疑いがはれない理由の一つは外国人の調査を入れない中国側の秘密主義にもあります。
強制労働説に懐疑的な指摘としては、“新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?”【21年4月12日 丸川知雄氏 Newsweek】も。

いずれにしても新疆綿をめぐる政治情勢から、企業は中国新疆の綿花を使っていると言えば欧米の市場を失い、使っていないと言えば「新疆綿やその他の製品を独断でボイコットし、市場取引の原則に違反した」として中国の市場を失う・・・という板挟み。

ユニクロもそういう板挟み状態にあって、これまで新疆産の綿花をめぐる問題について「政治的な質問にはノーコメント」としてきましたが、このほど「使っていない」と。

****「ユニクロは出ていけ」 柳井会長「新疆ウイグル自治区産の綿花使っていない」発言に中国で批判殺到****
イギリス公共放送・BBCは28日、ファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長がユニクロ製品に「中国・新疆ウイグル自治区の綿花は使っていない」と発言したと報じました。中国ではSNS上で不買運動を呼びかけるなど批判の声があがっています。

柳井会長はこれまで、新疆産の綿花をめぐる問題について「政治的な質問にはノーコメント」としていましたが、今回初めて新疆産の綿花を使っていないことを明言した形です。

この発言に対し、中国のSNS上では、「もう買わない」「ユニクロは倒産しろ」「中国市場から出ていけ」など、非難するコメントが殺到していて、関連記事の閲覧数はすでに1億回に達しています。(中略)

北京市民
「ユニクロの品質は良いと思いますが、新疆の綿花を使わない以上、これからはあまり選びません」
「(ユニクロが)新疆の綿花を使わないなら、もう着ません。国産ブランドを支持します」

新疆ウイグル自治区産の綿花をめぐっては、ウイグル族に対し、綿花畑や工場などで強制労働をさせるなどの人権侵害が行われていると指摘されており、アメリカ政府は2021年から新疆ウイグル自治区で生産されたすべての綿製品の輸入を禁止しています。【11月29日 TBS NEWS DIG】
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中国当局もユニクロの対応に言及。

****中国外交部「企業の独立した判断望む」 ユニクロの新疆綿不使用発言巡り****
中国外交部の毛寧(もう・ねい)報道官は29日の記者会見で、衣料品ブランドのユニクロを運営するファーストリテイリングの会長兼社長が同ブランドで新疆ウイグル自治区産の綿花を使用していないと述べたことに関し、新疆綿は世界最高品質の綿花の一つであるとした上で、関係企業が政治的な圧力や不当な干渉を排除し、自らの利益に合致する独立した商業判断を下すよう望むと表明した。【11月29日 新華社】
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【漢族の新疆・ウイグル族に対する感じ方・本音】
ただ、中国人の本音として“中国の北京や上海などの大都市に住む人々にとって、新疆ウイグル自治区は距離的、心理的に遠いところで、「海外の人からよくウイグルの人権問題について指摘されますが、正直にいえば、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません」との声もあるようです。

****<不買運動は本当か?>ユニクロ・柳井氏のウイグル綿「使っていない」発言の背景、見え隠れする中国人の本音*****
(中略)中国のSNS上では「もうユニクロには行かない」など不買運動ともいえる反発の声が上がっているが、実際はどうなのか。SNSを見ると、日本ではあまり報道されていない「意外な意見」も散見されている。

飛び交う辛辣なコメント
(中略)中国のウェイボーなどのSNSでは、早速ユニクロをボイコットする声が上がっている。また、この件に関して、中国国内でさまざまな議論が沸き上がっており、12月2日現在、ウェイボー上では「熱捜」(多くの人がさかんに検索している状況)のマークがついており、ユニクロ関連の検索センテンス、ハッシュタグには「人民網が報じるユニクロ事件」「ユニクロの業績は下降している」「中国はユニクロ最大の生産基地」「若者はユニクロを見捨て始めた」などが多数ある。
 
筆者もウェイボーを見てみたが、同様に、ユニクロが新疆綿を使用していないことを批判する声は多数あった。たとえば、以下のような辛辣なコメントだ。

「新疆綿を使わないなら、もうユニクロには行かない」「これからは買わない。中国(国内)ブランドの衣料品を買う」「(2020年に新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引を停止したことから不買運動が起こり、客離れが進んだスウェーデンの衣料品大手である)H&Mのあの一件を覚えているか」「若者はユニクロを見捨て始めた」「ユニクロは中国市場から出ていけ」

「実はユニクロの服を何枚か持っている」
だが、よく見ると、以下のようなコメントも少なくなかった。それは「どのような綿を使っていても構わない。消費者にとっては品質のよさ、安全性がいちばんだ」「関係ない。ただ安く売って、多くの人が買えるようにしてほしい」「ユニクロの商品はやはり品質がいいんだよね。実はユニクロの服を何枚か持っている」
 
具体的に新疆の少数民族問題に言及している意見は少なく、報道を見て、感情的に「もう買わない」とする短いコメントが多かったが、それに対しても「冷静になってみよう」といった呼びかけもあり、烈火のごとく怒っているといった感じではない。少なくとも、こうした声に端を発して、大規模な不買運動につながるような動きがあるようには感じられなかった。

というのも、筆者が見たところ、中国の北京や上海などの大都市に住む人々にとって、新疆ウイグル自治区は距離的、心理的に遠いところである。普段は、それほど深い関心を寄せている地域ではない、ということがある。

筆者が2022年に出版した『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)では、中国人が今の中国の体制や社会について、本音ではどう思っているのか、について取材している。その中で、中国の大都市に住む女性がウイグル問題について、次のようにコメントしていたのが印象的だった。

「海外の人からよくウイグルの人権問題について指摘されますが、正直にいえば、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません」(後略)【12月3日 WEDGE】
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関心はなくても欧米の中国批判に、中国ナショナリズムの反発に火が付くことはあるでしょう。

また、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません・・・・とりようによっては「ウイグル族がどのような境遇(例えば弾圧されるとか)にあろうと関心はありません」とも。

私は以前に新疆・ウルムチでパスポートもおカネも航空券も全てが入ったバッグを置き引きにあいましたが、その件を別機会に北京の漢族ガイドに話すと、「連中は教育も受けておらず、悪いことをするやつらだ」みたいな蔑視発言があり、漢族のウイグル族に対する本音をみたような感じでとても印象的でした。もちろん、単にこの漢族ガイド個人の発言であり、それ以上のものではありませんが。

綿花に続いてトマトも

****英国のイタリアトマト、新疆産か BBC報道、中国反発****
英BBC放送は5日までに、英国のスーパーで売られている複数のトマトピューレの商品が、イタリア産と称しながら実際には中国新疆ウイグル自治区産のトマトを使っている可能性があると報じた。新疆のトマトは強制労働によって生産されているとも伝えた。

これに対し、中国外務省の林剣副報道局長は5日の記者会見で「新疆に強制労働は存在しない」とし、報道は「事実確認を経ていない先入観による妄言だ」と強く否定した。新疆トマトは「世界に誇る優れた品質だ。現地を訪れてぜひ味わってほしい」とも述べた。【12月5日 共同】
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中国  ミャンマーの少数民族側に国軍と停戦するように圧力 軍事政権支持を明確化

2024-12-05 23:41:03 | ミャンマー

(ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官(左)と握手する中国の李強首相=6日、雲南省昆明(ミャンマー国軍提供)【11月12日 時事】)

【中国 少数民族武装勢力に国軍との和平交渉に入るように、介入を強める】
少数民族武装勢力及び民主派武装勢力と国軍との内戦が続くミャンマー。

そのミャンマーにあって中国は以前からの少数民族武装勢力とのつながりがある一方で、軍事政権とも一帯一路事業などでつながりがあるということで、中国の対応が注目されていました。

少数民族武装勢力の攻勢が強まり、国軍側が劣勢においやられているのは、昨年10月のシャン州における3つの武装勢力の共同蜂起が契機となっています。

この蜂起が実現した背景には、中国国境に近い地域で活動する詐欺グループの取締りに本腰を入れない軍事政権に業を煮やした中国が、取締りに応じることを約束する少数民族側の蜂起を黙認した・・・ということがあり、現在の状況に中国は深く関与しています。

その後は事態の安定化を求める以外、あまり目立った動きをみせていなかった中国ですが、ここにきて少数民族武装勢力に国軍との和平交渉に入るように、介入を強めているようです。

****中国がミャンマー情勢に本格介入か 少数民族“軍との和平交渉”に協力表明相次ぐ****
2021年のクーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、軍事政権の打倒を掲げ戦っていた少数民族武装勢力の一部が軍との和平交渉に応じる態度を相次いで表明しました。

ミャンマー北東部シャン州では去年10月以降、3つの少数民族武装勢力が共闘作戦を展開し、ミャンマー軍の拠点を次々と占拠するなど、攻勢を強めていました。

こうしたなか、共闘作戦に加わっていた武装勢力のMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍は3日、「ただちに戦闘を停止し、中国による和平の仲介に積極的に協力する」との声明を出しました。

先月、MNDAAの指導者が中国で拘束されたと、一部の独立系メディアなどで報道され、中国が停戦を迫っているとの観測が広がっていました。

また、MNDAAと共闘していたTNLA=タアン民族解放軍も先月25日、中国の仲介によるミャンマー軍との和平交渉に参加する意向を表明しています。

中国政府は投資や貿易といった利害関係を背景に、ミャンマー軍トップを中国に招待するなど、軍政支援を鮮明に打ち出していて、敵対勢力への圧力を本格化させているとみられます。

イギリスBBCなどによりますと、中国当局とミャンマー軍は、「共同警備会社」を設立する計画があるということで、中国から部隊が派遣されるような事態になれば、情勢のさらなる混乱が予想されます。【12月4日 TBS NEWS DIG】
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「共同警備会社」・・・・なんでしょうか。中国軍と国軍が共同でミャンマー国内の治安安定のための活動をするということでしょうか。

いずれにせよ、中国は軍事政権の支持する形で、少数民族側に停戦に応じるように強い圧力をかけているようです。
“地元メディアは11月、中国当局が雲南省を訪れていたMNDAAのリーダーを拘束し、戦闘をやめるよう圧力をかけているなどと伝えていました。”【12月4日 日テレNEWS】

軍政寄りの姿勢を強める中国に対しては、民主派勢力や市民から批判の声も上がっています。【同上】

上記の動きは11月中旬に旅行作家の下川裕治氏がすでに報じていました。

若い頃下川氏の旅行記は大好きでしたが、ジャーナリストの同氏の活動についてはよく知らず、下川氏の下記記事について、「本当だろうか? どうして他のメディアをそれを報じないのだろうか?」という思いから、当該記事をブログで取り上げるのをためらっていましたが、ほぼ同氏が報告したとおりのようです。

逆に言えば、なぜメディアは今までこの内容を報じてこなかったのか、なぜ急に報じることになったのか・・・やや不審に思うところも。

話の前段として、11月に行われたミャンマー軍事政権の最高指導者ミンアウンフライン総司令官の初の訪中があります。

****中国首相、ミャンマーとの関係強化を表明 軍政トップと会談****
中国の李強首相は6日、雲南省昆明でミャンマー軍事政権の最高指導者ミンアウンフライン総司令官と会談し、ミャンマーにおける政治的な和解と政権移行に向けた取り組みへの支援を表明した。国営の新華社が報じた。

ミャンマー軍事政権は、少数民族との内戦状態などで統治が揺らぐほか、国際社会は軍政を承認していない。李氏は周辺国を含めた多国間協議でもミャンマーとの連帯と協力を強化するとした上で、「中国・ミャンマー経済回廊」を一段と推進したいと述べた。

ミャンマーにおける中国国民などの安全を守るよう求めたほか、オンライン賭博や通信詐欺など国境を越えた犯罪に対して共同で取り組む必要があるとも強調した。

ミンアウンフライン氏は、2021年のクーデターで実権を掌握して以降、初めて中国を訪問した。軍政は、少数民族の民兵組織と連携した武装抵抗運動と争い、中国との国境沿いの地域を含めて混乱が続いている。【11月7日 ロイター】
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“ミャンマー軍の発表によりますと、総司令官は会談で、中国との政治的、経済的な協力を深めることを確認したうえで、「二国間だけでなく、国際的な舞台でも緊密に連携できると信じている」と強調しました。

また、民主派や少数民族との内戦状態が続いているミャンマーの治安状況をめぐっては、「中国政府の仲介で一部勢力との停戦に合意したが、反故にされた」としたうえで、「平和の扉は常に開かれている」と述べ、和平交渉の再開に意欲を示しました。”【11月7日 TBS NEWS DIG】

【軍事政権支持を明確化した中国に対し、ミャンマー国内では批難・悲鳴】
こうした動きを背景に、下川氏が指摘した記事が下。

****中国の裏切りで「もうミャンマーは終わりです」 軍政権を支援で国民からは絶望の声****
国軍のクーデターによって今も混乱が続くミャンマー。ここにきて中国が国軍支援を鮮明に打ち出したことで、ミャンマー国民からは絶望の声が聞こえてくる。旅行作家の下川裕治氏が取材した。
・・・・・・・・・
11月6日、ミャンマーの国軍トップであるミンアウンライン総司令官が中国雲南省の昆明市を訪問した。2021年2月のクーデター以来初の訪中である。メコン川流域6か国の首脳会議に中国から招待された形で、李強首相との会談も実現した。

ミンアウンラインは演説で、「国軍は和平を求めているが、少数民族軍が応じない」と発言。中国との蜜月を演出し、「これで国際社会から認められた」といった発言も国軍関係者から聞こえてくる。これまで国軍を支援していたのはロシアぐらいだった。中国のこの動きは、状況を大きく変える可能性がある。

ミャンマー国内では、国軍支援にまわった中国への非難の声が強い。「中国は間違った選択をした。さらなる混乱を生む」といった投稿がSNS上に溢れている。

当初は少数民族軍を黙認していた中国だが…
昨年の10月27日、ミャンマーの3つの少数民族軍が連携し、国軍に対する一斉攻撃を開始した。MNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、TNLA(タアン民族解放軍)、AA(アラカン軍)である。その際、中国との国境付近のミャンマー側に拠点を置く特殊詐欺グループの取り締まりも宣言した。

中国はこの詐欺グループに手を焼いていた。中国の高齢者を狙った「振り込め詐欺グループ」による被害は、日本の特殊詐欺グループとは桁違いだったからだ。

当初、中国は国軍に取り締まりを要求したが、詐欺グループから莫大な賄賂を受けとっていた国軍の反応は鈍く、国境付近には、何をしても捕まらない無法地帯ができあがっていった。

その取り締まりを少数民族軍は宣言したわけで、彼らの国軍への攻撃を、中国はほぼ黙認した。結果、士気に勝る少数民族軍は優位に地上戦を進め、国軍は多くの軍事基地を失っていく。少数民族軍はシャン州北部やラカイン州で彼らの支配エリアを広げていった。

この状況は、軍事政権に反対する多くの国民はもちろん、NUG(国民統一政府。クーデター後に発足した民主派政治組織。影の政府とも呼ばれる)、PDF(国民防衛軍。クーデター後、国軍に反発する人々の武装組織)などが歓迎した。

一方、国軍は中国を非難した。ミンアウンラインは「中国が少数民族軍を支援している」とまで語っていたのだ。

6月頃から雲行きが…
ところが今年の6月ごろから、両国の高官の往来が活発になる。まず、国軍ナンバー2のソーウィンが訪中し、武器の購入が目的だったという噂が流れた。8月に入ると中国の王毅外相がミャンマーでミンアウンラインと会談に臨んでいる。

その目的が明らかになってくるのは8月末だ。中国と少数民族軍との仲介役をはたしてきたのは、ワ区を事実上統治するUWSA(ワ州連合軍)だが、彼らと中国側関係者が雲南省で行った会議の議事録が流出。

そこで中国は少数民族軍に圧力をかけようとしていることが判明した。それを受けるかのように、国軍に一斉攻撃をした少数民族軍のひとつMNDAAは、「NUGとの協力否定」を表明した。

この報道を耳にしたとき、ヤンゴンで法律関係の仕事につくMさん(48)はフェイクニュースかと思ったという。
「しかしその後の情報をみると、どうも本当のよう。これはまずいと思いました。ミャンマーの国民は、クーデター以来、国際社会に国軍の弾圧について訴えてきました。しかしどの国も積極的に動いてはくれなかった。そして中国が国軍支援にまわると……」

「この国が嫌です」
日本に暮らすLさん(48)は、少数民族軍が支配する北部出身のシャン族だ。独自の情報ルートがあるらしい。
「問題は民主派政府のNUGにあるよう。NUGは欧米の支援を受けています。少数民族軍がNUGと手を結ぶということは、欧米側に近づくことになる。中国はそれを警戒して圧力をかけたようなんです」

現地の民主派メディアは「中国はミャンマーの軍事政権を中国の傀儡にしようとしている」という論調で、民主派と少数民族軍を分断させようとしていると主張している。中国はかねて「停戦」を呼びかけているものの、その背後にはさまざまな策動が見え隠れする。

10月18日にはマンダレーの中国領事館に手りゅう弾が投げ込まれた。反発する民主派の犯行という見立てだが、ミャンマー国民の間では国軍の自作自演という推測も流れてきた。

これらを経て、11月に国軍トップが訪中したわけである。中国が国軍の支援に動いたことは、多くのミャンマー国民に焦燥感を生んだ。厭世的な言葉を口にする人も少なくない。

ヤンゴンの会社で働く女性のCさん(22)はこういう。
「その話、もう訊かないでください。森のなかで私たちの代わりに戦っている若者を思うと息が詰まってしまって。中国が支援すれば、国軍はもっと強く出る。もうミャンマーは終わりです。この国が嫌です」

男性のMさん(26)は、
「僕は徴兵される可能性がある。田舎の友達の何人かは拉致されるように国軍に連れ去られて兵士にされた。僕らになにができるっていうんです?」

仲買業者のNさん(42)の声には覇気がない。
「私たちはもうなにもできない。猛烈な物価高で、生きていくのがやっとなんです。もう国軍のことを考える余裕もない」

「和平を求めている」と言いながら空爆
トップのミンアウンラインは「和平を求めている」と言いつつ、少数民族軍に支配権を奪われた街やエリアに、国軍は激しい空爆を加えている。

そんな地域に住む人の意識は違う。AA(アラカン軍)と国軍が衝突しているラカイン州。いま州内のほとんどのエリアはAAが支配している。国軍は地上戦では太刀打ちできないため、空爆でAAに対抗している。ある村の村長さんが話してくれた。

「私の村も空爆に遭い、娘が足を失いました。これだけ激しい戦争をしてきて、そこで中国から停戦を促されても、言うことは聞きませんよ。私たちはそんな状況じゃない」

国軍の空爆は激しさを増しつつある。最近では見境がなくなりつつある。ラカイン州では、戦闘が再び起きる可能性のある市街を避け、住民は郊外に仮設の避難村をつくって生活しているが、そこへの空爆も厭わなくなってきている。

10月21日、国軍は、1000人ほどが暮らすラカイン州の避難村のひとつへ空爆を行い、市民5人が死亡した。ラカイン州ではこの2ヵ月間の空爆で、民間人約400人が犠牲になっている。そこには約130人の女性と、18人の子供が含まれているという。【11月18日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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要するに中国は、欧米とのつながりがある民主派と手を切って、国軍と停戦するように少数民族武装勢力に圧力をかけており、実際“少数民族軍のひとつMNDAAは、「NUG(民主派政治祖組織)との協力否定」を表明した。”ということのようです。

中国がそういう形で介入を強め、国軍と少数民族武装勢力との停戦が実現すれば、強い軍事力を持たず、軍事的には少数民族武装勢力に大きく頼っていた民主派勢力は孤立し、国軍の鎮圧の対象となっていきます。

もとより少数民族武装勢力はミャンマー全土の民主化にさほど強い関心がある訳ではなく、かれらの目的は国境地帯での経済活動をを守ることにありますので、国軍がそのあたりを保障すれば停戦に向かうことになります。

中国がミャンマー民主化には僅かの関心もないことは言うまでもありません。

ですから、少数民族武装勢力に頼った民主派の国軍との戦いは、そもそも無理があり、仮に国軍を打倒したとしても少数民族側とミャンマー族の民主派の間で統一的なミャンマーの政治体制(連邦制が云々されていますが)を構築できるのか疑問もありました。

また、「裏切られた」というのは中国が少数民族及び民主派側を支援してくれているという思いが前提でしょうが、そもそも中国にはそんな意図はなく、中国への過剰な思い入れからくるものでしょう。中国が関心があるのは、国境での安定と全土における一帯一路事業の推進といった中国の権益維持だけです。

なお、“オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は、ミャンマーのミンアウンフライン国軍総司令官の逮捕状を請求する意向を明らかにした。ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャに対する迫害に関する人道上の犯罪が理由だ。”【11月28日 ロイター】といったことは、中国と国軍の接近の支障には全くならないでしょう。

ICCはプーチン大統領に続いて、ネタニヤフ首相、更にはミンアウンフライン国軍総司令官と逮捕状を連発する状況ですが、多くの関係国がこれを無視する形で実効性が伴っていないという問題があります。

【軍事政権との関係を強化するロシア 軍事政権は中ロ支援で総選挙を実施し正統性アピールの狙い】
下川氏の上記記事にある“これまで国軍を支援していたのはロシアぐらいだった”というロシアの動き。

****ロシア企業“ミャンマー人の労働者受け入れへ”国営紙  ウクライナ侵攻による労働力不足が背景か****
ウクライナ侵攻によりロシアで兵士や労働者が不足するなか、ロシアがミャンマーからの出稼ぎ労働者を受け入れる方針だとミャンマーの国営メディアが報じました。

ミャンマーの国営紙は25日、軍事政権との関わりがある「海外人材派遣企業協会」の関係者の話として、ロシア企業などが「ミャンマー人の出稼ぎ労働者の募集を始めた」と報じました。「製造業や農業、畜産業でミャンマーからの労働者を受け入れる方針だ」としています。

ロシアではウクライナ侵攻以降、多くの人々が戦地に動員されたり、国外に逃れたりしていて、ミャンマーの人材派遣業者はJNNの取材に対し、「ロシア国内での労働力不足を補うものだ」と話しています。

一方のミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、内戦状態が長期化しており、タイや日本などを目指す出稼ぎ労働者が急増していましたが、軍事政権は今年から海外での就労に制限をかける措置をとっています。【11月30日 TBBS NEWS DIG】
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****ロシア代表団がミャンマー訪問 軍トップらと会談“総選挙への支援”表明****
ロシアの代表団が3日、ミャンマーで軍事政権のトップらと会談し、軍が計画している総選挙に向け、ロシアが協力していくことで一致しました。

ロシア下院のショルバン・カラ・オール副議長が率いる代表団は3日、ミャンマーの首都ネピドーを訪問し、軍トップのミン・アウン・フライン総司令官らと会談しました。

ミャンマー国営メディアによりますと、ロシア側はミャンマー軍が来年2月に実施を予定している総選挙への支援を表明。ロシアから監視団を派遣するなど、総選挙に向けて協力していくことで一致したということです。

ミャンマー軍は、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主派政党が圧勝した2020年の総選挙で「不正があった」として軍事クーデターを強行し、国内各地で抵抗する反軍勢力との激しい戦闘を続けています。

総選挙には中国政府も協力する意思を示しており、ミャンマー軍としては、中国・ロシアの支援を得ることで、軍主導の総選挙を正当化する狙いがあるとみられます。【12月4日 TBBS NEWS DIG】
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中ロ支援のもとで、少数民族武装勢力の妨害を排し、民主派を排除した軍主導の総選挙・・・結果は見えています。
そうした形で軍事政権は国軍支配の正統性をアピールし、中国はその“正統な”軍事政権との関係強化で権益維持を目指すという構図です。
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韓国の「非常戒厳」騒動からの印象  「これが同じ分断国家アメリカで起きたら怖いな・・・」

2024-12-04 22:40:07 | 東アジア

(【12月4日 YouTube日テレNEWS】 兵士の銃に掴みかかる女性)

韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突然に「非常戒厳」を宣言したものの、6時間でこれを解除せざるを得ないことになった一連の動き、背景については、あまたの記事がありますので、そちらに任せます。

個人的な印象を少し書くと、革新勢力と保守派の分断が続き、相手側の執拗な攻勢に対し、ついに「非常戒厳」を宣言して一切の活動を停止に追い込もうとした・・・この韓国で起きた出来事が、同じような分断社会となっているアメリカで起きると怖いな・・・と感じた次第。

今回の韓国の動きを伝えるニュースで一番興味深かったのは、国会に配置された自動小銃をもって完全武装した兵士に対し、激しく抗議する女性が兵士の銃の銃身に掴みかかる動きに対し、兵士は後ずさって振りほどく・・・という場面。

これでは「非常戒厳」は実現しないでしょう。発砲しろとは言いませんが(おそらく今回配備された兵士は絶対に発砲しないように命じられているでしょう)、抗議の女性を押し返すぐらいの威圧感がないと・・・もし、やるのであれば。

これが銃社会アメリカ、不審な動きがあればすぐに射殺すべし、そうしないと自分がやられるというアメリカなら、全く違った話になるでしょう。

(韓国ドラマを観ていて思ったのですが、韓国では、日本同様に警官ですら発砲には規制があり、発砲した警官はいろいろ書類を書かないといけないようです。不確かですが、ドラマの会話では、そんな感じでした)

各州には州知事の指揮下にある州兵が存在しますが、分断された各知事がどのような判断をするのか。

分断した国民も、多くが、特に銃規制に反対する保守派の側は、銃を保有しています。直ちに武装自警団みたいな民兵組織がつくられるでしょう。

そうした韓国とアメリカの違いもあって、いったん「非常戒厳」に打って出たアメリカにあっては「内戦」も現実のものとなるかも。決して6時間でおわる茶番劇ではすまないでしょう。

そんなこんなの思いから「これが分断社会となっているトランプ政権下のアメリカで起きたらこわいな・・・でも、起きないとは言いきれいよね・・・」って感じました。

(なお、韓国も民主化以前、例えば朴(お父さんの方)政権の頃は、国内も、対北朝鮮もピリピリした緊張社会で、今回のような動きがあれば決して茶番では済まない社会でした)

ついでにトランプ政権下のアメリカに関して、もうひとつ怖いな・・・と感じたのはトランプ氏とカナダ・トルドー首相の会談。トランプ氏は不法移民の流入などへの対抗措置としてカナダからの輸入品に25%の関税を課すと宣言しています。

****トランプ氏「カナダは米国の51番目の州になるべきだ」 トルドー首相に会談で揺さぶり****
米FOXニュース(電子版)は2日、トランプ次期米大統領が11月29日に会談したカナダのトルドー首相に対し、米国の移民問題や貿易赤字にカナダが対応できないなら米国の新たな州になるべきだと述べたと報じた。

発言は同席者に冗談として受け止められたものの、カナダに揺さぶりをかけているのは明らかだ。トランプ氏は3日、自身の交流サイトにカナダ国旗が掲げられた崖に自身が立つイラストを掲載し「Oh Canada(オーカナダ)!」と書き込み、カナダを巡る世論を喚起した。

トランプ氏は米南部フロリダ州の私邸にトルドー氏を招き、次期政権の閣僚候補らと約3時間にわたる夕食会形式の会談に臨んだ。

トランプ氏は歓迎姿勢を示す一方で、大量の薬物や不法移民がカナダから流入していると指摘。国境問題や貿易赤字を解決できなければ、来年1月の就任初日にカナダからの輸入品に25%の関税を課すと述べた。

トルドー氏は、関税によってカナダ経済が完全に破綻すると再考を求めた。

これにトランプ氏は、米国から巨額の利益をむしり取らなければ生き残れないのかと反論。カナダが「米国の51番目の州」になるべきだと畳み掛けた。

苦笑いのトルドー氏に対し、新しい州の知事よりも「首相」という肩書の方がよいと持ち上げ、対応を促した。カナダ側の同席者はトランプ氏の発言について「冗談」と話している。

ただ、トランプ氏は日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収の阻止や中東問題などで強硬姿勢を示していて、カナダにも圧力を強めていくとみられる。【12月4日 産経】
****************

もちろん今は「冗談」でしょう。
ただ、いくら冗談にしても、一国の首相に対し、自国の新たな州になれなんて普通は言わないですけどね。
トランプ氏の「普通」ではない一面でしょう。

「取引」(ディール)とは言っていますが、弱い立場の相手は容赦なく力でねじふせるという交渉スタイルです。

でもって、今は「(悪い)冗談」ですが、前述の分断社会の末に「非常戒厳」を宣言し、反対派を力で一掃する・・・・という場面の関連で、もしそういう事態になれば外交面では、カナダようなアメリカに依存する国には本当に「51番目の州」になるように力の行使がなされるかも。

「(悪い)冗談」を楽しむトランプ氏の頭の片隅には、そんな将来の展開もあるのかも。

今回は、ミャンマーの話を書く予定でしたが、前置きの話が長くなってしまったので、今回はここまで。ミャンマーの話はまた明日にでも。

最近のSNS社会の基準からすれば、毎回異常に長い記事を書いていますので、たまには印象・感想だけの短い記事で。
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ウクライナ  厳しい現状のゼレンスキー大統領、領土回復よりNATO加盟を優先させる方針に

2024-12-03 23:47:53 | 欧州情勢

(11月27日時点でのウクライナの戦況【12月2日 NHK】)

【多大な戦死者、脱走兵の増加など苦しい状況のウクライナ】
ウクライナへの欧米の支援は続いています。
“米、ウクライナに7.25億ドルの追加軍事支援 地雷も供与へ”【12月3日 ロイター】
“独首相がウクライナ訪問 防空システムなど約1000億円の追加軍事支援【12月3日 ABEMA Times】

ただ、交渉による戦争終結の可能性への言及も出てきています。
“英首相、交渉によるウクライナ戦争終結の可能性認める【12月3日 ロイター】

軍事的にウクライナがロシアの攻勢に苦戦していることはこれまでも何度か取り上げています。東部戦線ではロシア軍が占領地を拡大し、ウクライナがロシアに侵攻した地域もロシア軍の反撃で多くが奪還されています。

“23年に465平方キロのウクライナ領しか制圧できなかった露軍が今年は2700平方キロを制圧した”(英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)【12月3日 産経】

ウクライナ軍の戦死者も8万人を超えているとも報じられています。

****侵攻開始以降、100万人が死傷 ロシアとウクライナ****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は17日、2年半にわたるロシアのウクライナ侵攻による死傷者が推定で100万人を超えたと報じた。ロシアとウクライナは軍の損耗状況を公表しておらず、正確な死傷者数の把握は困難だ。

WSJが関係筋の話として伝えたところによると、ウクライナ側が今年行った極秘調査では、同国軍の累計の死者は8万人、負傷者は40万人。

ウクライナ側情報なので、戦死傷者数は実際より少なく計上されている可能性がある。一方、西側の一部情報機関は、ロシア側の死者数を20万人近く、負傷者を40万人前後と見積もっている。【9月18日 時事】
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ゼレンスキー大統領はこれを否定しています。

****戦死「8万人より大幅に少ない」 ウクライナ大統領、米報道を否定****
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日の共同通信との単独会見で、侵攻開始後のウクライナ側戦死者数について「8万人死亡との米国の報道があるが、実際は大幅に少ない」と主張した。詳細は公表しなかった。(後略)【12月2日 時事】
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開戦当時はロシア側の脱走兵が話題にもなりましたが、戦闘が長引けばウクライナ軍側も疲弊して戦意が低下してきます。

脱走兵の増加は、ただでさえ兵員が不足しているウクライナ軍にとっては大きな打撃になります。ゼレンスキー堕哀悼量は、脱走兵が軍に復帰すれば刑事責任を免除するとの対応も明らかにしています。

****ウクライナ軍、脱走兵が深刻化 数万〜20万人試算も 戦局悪化など要因、苦戦を加速****
ロシアによるウクライナ侵略で、欧米メディアが最近、ウクライナ軍で兵士の脱走問題が深刻化し、戦局の悪化を加速させていると相次いで報じた。

ウクライナ軍では30万〜35万人が戦闘任務に就いていると推計されてきたが、少なくとも数万人規模の脱走が起きているという。同国のゼレンスキー大統領は11月末、脱走兵の帰還を促す法律に署名したが、効果がどの程度出るかは不透明だ。

脱走者急増で戦況悪化
AP通信は11月29日、露軍との火力差や戦勝への希望の薄れ、部隊交代が行われないことによる疲弊や士気の低下などを背景に、ウクライナ軍内で前線の持ち場を離れたり、治療休暇の取得後に部隊に戻らなかったりする脱走兵が少なくとも数万人に上っていると報じた。軍の内情を知るウクライナ最高会議(議会)議員が「脱走兵は20万人に達する可能性がある」と明かしたとも伝えた。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)も12月1日、ウクライナ検察当局が今年1〜10月に脱走罪で兵士を訴追した件数が6万件に上り、露軍との戦闘が始まった2022年と23年を合わせた件数の約2倍に達していると報道。

23年に465平方キロのウクライナ領しか制圧できなかった露軍が今年は2700平方キロを制圧したとし、「脱走者の急増はウクライナにとって厳しい戦況をさらに悪化させている」と指摘した。

初回のみ軍復帰で刑事責任免除の法律も
ウクライナは4月以降、軍への動員に関する一連の法改正を実施。動員可能年齢を27歳から25歳に引き下げるなどし、兵力増強を進めようとした。

だが、APは「政府や軍の高官は(制度改正が)ほとんど失敗していると認めている」と指摘。FTも、ウクライナは今後3カ月で16万人を動員する計画だとしつつ、予定通り達成されることに懐疑的な見方を示した。

こうした中、ゼレンスキー氏は11月28日、初めての脱走者に限り、軍に復帰すれば刑事責任を免除し、各種の社会保障なども再開する法律に署名した。ただ、この法律でどこまで脱走者が帰還するかは不透明だ。

バイデン米政権は現在、ウクライナに動員年齢を18歳まで引き下げ、人員不足を補うよう働きかけているとされる。しかし、ウクライナは「足りないのは兵士ではなく兵器と弾薬だ」とし、動員年齢のさらなる引き下げには否定的だ。

国連によると、ウクライナの人口はロシアの侵略後、国外避難や戦闘での犠牲などにより侵略前の4300万人から800万人減少した。ウクライナが動員年齢の引き下げに否定的な背景には、多くの若者が戦死すれば将来的な国家運営が困難になることや、国民の強い反発を招くことへの危惧もあるとみられる。【12月3日 産経】
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“国外避難や戦闘での犠牲などにより侵略前の4300万人から800万人減少”・・・深刻という以上の状況です。

当然に経済的には多大な影響が想像されますが、不思議に最近のGDPはプラス成長が続いています。開戦時の2022年にマイナス28.8%と大きく落ち込んだので、そこからやや回復する状態にあるようです。

****第2四半期GDP、前年同期比3.7%でプラス成長続く****
ウクライナ国家統計局の発表(9月25日)によると、2024年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は前年同期比3.7%だった。

5期連続のプラス成長となり、前期比(季節調整済み)では0.2%だった。インフラ復旧のための建設需要の増大のほか、貨物海上輸送の安定的な運営が農業や冶金(やきん)、鉱業、鉄道輸送など各セクターの経済活動の回復を促した。(後略)【10月3日 JETRO】
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財政は厳しそう。国防費が予算の6割を占める状況・・・ということは、国防以外の施策にはほとんど手が回らないということにも。歳入面では「戦争税」の導入も

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一方、ウクライナでも11月28日、25年の予算が成立した。ロイター通信によると、全体の歳出3兆6000億フリブニャのうち、国防関連予算は約6割を占める。対GDP比では26%に達する。
 
今月から「戦争税」を導入し、個人所得税を1・5%から5%に引き上げ、銀行の利益に50%の税を課すなど金融機関に負担を求める。それでも歳入は2兆500億フリブニャにとどまる見通しだ。不足分は外国の財政支援が前提の「綱渡り」の予算となっている。【12月2日 読売】
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【ゼレンスキー大統領 領土回復よりNATO加盟を優先させる方針に転換 NATO加盟の実現は難しい状況も】
領土回復まで戦うとしてきたウクライナ・ゼレンスキー大統領ですが、上記のような状況を鑑みると、そろそろ停戦を考えないと・・・という状況にも。

何より来年にはウクライナ支援に消極的なトランプ氏が復権します。「戦争を1日で終わらせる」と豪語していますが、ということは多くを占領されている現状を前提にして、ウクライナ側に支援停止の圧力をかけて停戦案を承諾させる・・・ということになると思われます。

こうした状況でゼレンスキー大統領も領土回復よりNATO加盟を優先させる方針に変更しています。

****ゼレンスキー大統領、ロシアの占領地を「外交手段で取り戻す」…NATO加盟を優先****
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、英スカイニュースが29日に公開したインタビューで、ロシアとの戦闘激化を止めるには「ウクライナの保有領土を早急にNATO(北大西洋条約機構)傘下に入れる必要がある」と述べた。

ロシアの占領地は「外交的手段で取り戻せる」とし、NATO加盟を優先させる姿勢を示した。

戦闘の早期終結を公言してきたトランプ次期米大統領の就任を来年1月に控える中、今回の発言がウクライナの和平交渉の基本方針となる可能性がある。ただ、米独などはNATO加盟手続きの即時開始に慎重な姿勢を崩していない。

ゼレンスキー氏はインタビューで「(ロシアの)プーチン大統領(による侵略)の再来がないように保証するため」停戦が必要だと説明した。NATOへの加盟招待は「国際的な国境を基に行われるべきで、国の一部だけの加盟はあり得ない」と述べ、領土奪還も諦めない姿勢を見せた。

プーチン氏は6月、和平交渉開始の条件として、一方的に併合したウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退とNATO加盟の断念を挙げた。トランプ氏がウクライナ特使として起用するキース・ケロッグ氏も、過去にNATO加盟の長期間延期を提言している。【11月30日 読売】
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ただ、“ゼレンスキー大統領は、領土の放棄は憲法違反にあたるなどとしていて、実現の可能性は不透明”という話もあります。【11月30日 ABEMA Times】

何より現状でのNATO加盟はNATO側が認めないでしょう。ウクライナのNATO加盟となれば、ロシアも手を出せない、もし手を出すと対ウクライナではなく対NATOの世界戦争になってしまうということになりますが、NATO側としてもそんなリスクのある状況にはしたくないところでしょう。

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加盟へのハードルは高い。北大西洋条約第5条は、加盟国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなし、集団的自衛権を行使して防衛すると規定している。

ウクライナがロシアとの交戦中に加盟すると、NATOは即座に戦争に巻き込まれることになる。これまで戦争状態にある国がNATOに加盟した例はなく、現在の戦争が終結しなければ道は開けない。

たとえ戦争が終結しても、加盟に必要な全32カ国の同意を得るのは困難だ。ロシアに近いハンガリーは既に反対を表明。それ以外にも戦争のリスクを高めるウクライナの加盟に反対する国が出る可能性はある。【7月12日 毎日】
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ウクライナの政治体制が、NATOが求める民主主義体制の基準を満たしていないという問題もあります。

ロシア・プーチン大統領にすれば、NATOの東方拡大・ウクライナのNATO加盟を阻止するために戦争をおこしたという事情がありますので、ウクライナのNATO加盟を認めては何のための戦争だったのか・・・という話にもなります。

ウクライナは、ウクライナが保有するソ連の核兵器を放棄する見返りに、米、英、ロシアがウクライナの「安全を保障」することとした30年前のブダペスト覚書を持ち出してその失敗を非難、改めて実効性のあるNATO加盟を訴えています。

****ウクライナ、NATO加盟改めて訴え ブダペスト覚書を非難****
ウクライナは3日、領土保全の保証を引き換えに核兵器を放棄した1994年締結の「ブダペスト覚書」を非難し、北大西洋条約機構(NATO)加盟の必要性を訴えた。

東部でロシアの激しい攻勢にあい、ウクライナ支援に消極的なトランプ氏の米大統領就任を控え、領土の保全が一段と重要かつ緊急性を増している。

ブダペスト覚書では、ウクライナが保有する核兵器を放棄する見返りに、米、英、ロシアがウクライナの「安全を保障」することとした。

ウクライナ外務省は、覚書締結から30年となる12月5日を前に出した声明で「ブダペスト覚書は、戦略的安全保障に関する近視眼的判断の記念碑」と指摘。覚書は「ウクライナの利益を考慮するのではなく、ウクライナの利益を犠牲にした欧州の安全保障体制構築は失敗に終わることを、北大西洋条約機構(NATO)の指導者らに思い起こさせるものであるべきだ」とした。

ウクライナは、東部で親ロシア派の分離独立派が蜂起し、ロシアがクリミアを一方的に併合した2014年以降、覚書を非難してきた。

東部紛争では、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスが「ミンスク合意」を締結したが、完全な和平は実現しなかった。ゼレンスキー大統領は「ブダペスト覚書はもうたくさんだ。ミンスク合意はもうたくさんだ。同じ罠に3度はまるわけにはいかない」と述べている。

ウクライナ外務省は、ブダペスト覚書の署名国の米英、フランス、中国に安全保障の提供を支持するよう求めた。

「われわれは、ウクライナNATO加盟こそが、ウクライナの安全保障に関する唯一の真の保証であり、ロシアのウクライナなどへのさらなる侵略に対する抑止となると確信している」と述べた。【12月3日 ロイター】
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【注目される「予測不可能性」のトランプ新大統領の対応】
現実問題としては、来年1月、トランプ新大統領がどのような判断をするのかが焦点になります。

****トランプ氏の出方に注目 ウクライナ情勢めぐり駆け引き活発化*****
ロシアとウクライナの早期停戦を目指すトランプ米次期政権の来年1月の発足を前に、当事者間の駆け引きが活発になっている。

ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟など、停戦後のロシアによる再度の侵攻を防ぐ方策が焦点の一つで、トランプ次期政権の出方に注目が集まっている。

「我々の支配下にあるウクライナの領土をNATOの傘の下に置く必要がある」。ウクライナのゼレンスキー大統領は、英民放スカイニューズ・テレビが11月29日に報じたインタビューで、停戦の条件を念頭にこう述べた。

自国領のうちロシアが実効支配する地域については、当面は返還されなくても、将来的に外交的な手段を通じて取り戻すとの考えも示した。

また、ウクライナメディアによると、ゼレンスキー氏は12月1日、NATO側がウクライナに対して加盟招請の手続きを行う場合には、あくまで「全土」を対象にすべきだと述べた。

ロシアとの停戦協議が始まるまでに、西側諸国の軍事支援で自国の立場を強化する重要性を強調した上で、停戦協議には欧州連合(EU)とNATOの代表者も参加するよう求めた。

ゼレンスキー氏は従来、戦闘による全領土の奪還にこだわってきた。だが、その実現の見通しが立たない中、ロシアによる一部領土の一時的な占領は受け入れた上で、安全の「保証」としてNATO加盟を重視する姿勢に転じた。

ただ、プーチン露大統領はウクライナのNATO入りを将来にわたって許容しない姿勢で、両者の隔たりは大きい。

こうした中、注目されるのがトランプ次期政権の対応だ。トランプ氏はこれまで大統領「就任前」や「就任後24時間以内」に戦争を終結させるなどと述べ、停戦の仲介に意欲を示してきた。

「トランプ氏は戦争を終わらせるという選挙公約にとても真剣だ。どうするのかは彼次第だ」。トランプ次期政権でウクライナ・ロシア担当特使として停戦協議を取り仕切るとみられているケロッグ氏は2日の米FOXニュースでこう述べた。

ケロッグ氏はかねて、トランプ氏の「予測不可能性」が、米国への敵対的な行動を抑制させてきたと主張していた経緯がある。2日も「彼が何を望んでいるのか言及するのは難しい」と強調した。

ただ、ケロッグ氏は今年4月に発表した提言で、プーチン氏を和平協議の席に着かせるために、ウクライナのNATO加盟の長期凍結を提案すべきだと指摘した。ウクライナに対しては、和平協議への参加を条件に、米国が軍事支援を継続するとの方針を訴えている。

米次期政権の動向を受けて、NATOのルッテ事務総長はロシアに有利な条件での和平合意実現への警戒感を示す。

2日報道の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、ルッテ氏は、ロシアの軍事産業を支援しているとされる中国や、兵士を派遣している北朝鮮、ミサイルを供給しているとされるイランに言及し、「(彼らが喜んで)ハイタッチするような状況は許されない。長期的には欧州だけでなく、米国にとっても深刻な脅威になる」と指摘した。ルッテ氏は11月22日に米南部フロリダ州でトランプ氏と会談した際、こうした考えを伝えたという。

ルッテ氏は、ロシアによるウクライナ領土の占領を容認した場合、中国が統一を目指す台湾の問題で、中国の習近平国家主席が武力の使用も検討する恐れがあるとの懸念を示している。【12月3日 毎日】
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“トランプ政権の和平案は、暫定的に休戦ラインを引く「朝鮮半島方式」に似た案になる可能性が指摘されている。”【11月29日 “トランプ政権のウクライナ和平案、暫定的に休戦ライン引く「朝鮮半島方式」に似た案浮上…双方に大幅な妥協が必要か” 読売】といった話もありますが、「予測不可能性」をウリにしているトランプ氏ですから・・・・どうでしょうか。

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中国  世論調査で中国側の日本への評価が劇的に悪化

2024-12-02 23:46:08 | 中国
(相手国に対する印書 【12月2日 産経】)

【日本側の中国評価ががわずかながらも改善傾向にあるのに対し、中国側の日本評価が劇的に悪化】
今日のニュースで驚いたのは、各メディアが報じている日中の世論調査結果。

“日本の印象を「良くない」とした人も同24・8ポイント増の87・7%と過去2番目に高かった”ということで、中国側の日本に対する評価が劇的に悪化しています。その他の日本に関する評価も大きく悪化しています。

これまでは、日本側の中国に対する印象は高止まりしているのに対し、中国側の日本に対する印象は(日本側に比べると)比較的良い・・・という状態でしたが、一変しました。

もちろん尖閣諸島に関する問題や歴史認識に対する問題で常日頃から日中が対立する事案はありますが、それは以前からのもので、ここ1年それらが劇的に悪化したという印象はありませんでしたので、今回調査結果には「どうして?本当?」と驚きました。

****中国側、日中関係「悪い」76%で増加 処理水放出影響か 世論調査****
非営利団体「言論NPO」(東京都)と中国国際伝播集団は2日、第20回日中共同世論調査結果を発表した。

中国側の回答で、現在の日中関係を「悪い」(「どちらかといえば」を含む、以下同)とした人は前年比34・8ポイント増の76・0%と大幅に増加して過去3番目に高く、「良い」は同21・1ポイント減の8・6%だった。

日本の印象を「良くない」とした人も同24・8ポイント増の87・7%と過去2番目に高かった。

日中関係の発展を阻害する問題(複数回答)に東京電力福島第1原発処理水の海洋放出問題を挙げる人が中国側で前年比29・7ポイント増の35・5%と最多となっており、放出問題が影響を与えた可能性がある。

中国の習近平国家主席と石破茂首相は11月の会談で海洋放出を巡る日本産水産物の輸入再開について今後着実に実施していくことを確認したが、中国側は難しいかじ取りを迫られそうだ。

相手国の重要度に差
また、中国側の回答で、日中関係を自国にとって「重要ではない」とした人の割合は前年比40・5ポイント増の59・6%となり過去最高を記録。「重要」とした人の割合も同33・8ポイント減の26・3%で過去最低となった。

一方、日本側の回答で、日中関係を「重要ではない」とした人は前年比2・5ポイント減の5・0%、「重要」は同2・0ポイント増の67・1%だった。相手国の重要度に関する認識に日中で大きく差が出ている。

現在の日中関係について日本側の回答では、「悪い」が前年比15・5ポイント減の52・9%、「良い」が同1・5ポイント増の2・3%。中国の印象を「良くない」とした人は同3・2ポイント減の89・0%、「良い」は同2・8ポイント増の10・6%で、いずれも改善傾向だった。

共同世論調査は2005年から毎年実施。今年は10月18日〜11月10日、日中両国で18歳以上の男女を対象に行った。日本は調査票を渡し回収する方式で1000人が、中国は調査員による面接方式で1500人がそれぞれ回答した。【12月2日 毎日】
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【福島第一原発の処理水放出や「スパイ」行為による中国での日本人拘束が影響】
日本側の中国評価ががわずかながらも改善傾向にあるのに対し、中国側の日本評価が劇的に悪化・・・“言論NPOは「ここまで中国の対日意識が全面的に悪化したのは過去20年の調査で初めて」と分析しています”【12月2日 テレ朝news】

いったい何があったのか?

****中国人の日本への印象、大幅に悪化 共同世論調査****
(中略)中国で「日本の印象について「良くない」などと答えた人の割合は、去年から25ポイント近くも増え87.7%にのぼりました。

理由については、尖閣諸島や台湾問題に関する日本側の対応が最も多くあげられています。
また、両国の関係発展を妨げる要因については「福島第一原発の処理水放出」と答えた人が最も多かったということです。

また、中国で、「日中関係について重要」などと答えた人の割合が、去年から半分以下にまで低下し「日本に行きたくない」などと答えた人の割合も大幅にふえています。

背景について調査団体の代表はSNSでの情報収集が増える中、日本に渡航経験がない人々が過激な書き込みなどにふれた影響がでているとの見方を示しています。

そのうえで日本に渡航できる経済力のある人とそうではない人との意識の差が鮮明になったと指摘しています。【12月2日 日テレNEWS】
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尖閣や台湾の問題は以前からのものですから、この1年で変化のあった事実関係としては「福島第一原発の処理水放出」があります。

正確には放出が始まったのは2023年8月で、前回調査は中国側では8月18日から9月1日に行われていますので、放出開始とほぼ同時期。

ですから前回調査にも「福島第一原発の処理水放出」に関する中国側の(放出前の中国政府のネガティブな情報による)反応が一応反映はされていますが、今回調査では、実際に放出がなされ、中国側の意識としては「魚が汚染されている」という不安が強く調査結果に反映していると思われます。

中国政府によるネガティブな情報提供というか世論誘導、更にその情報がSNSで増幅され、中国国内では今でも、不安がって魚を食べない人が多いという、日本側では想像できない状況があります。

相手国への良くない印象の理由としては、尖閣・台湾以外に「スパイ」行為による中国での日本人拘束が日中双方で理由に挙がっています。

日本側の印象は「スパイ」にでっち上げられるという不安ですが、中国側の印象は実際に多くの日本人が「スパイ」として動き回っている、日本人学校はスパイの養成所だというもの。

そうした反日的情報はSNSで増幅されますが、中国政府はこれらの多くを放置しています。いわゆる国民の抱える不満の「ガス抜き」に使っているとも。

****中国のSNSにあふれる反日投稿 蔑称や過激な文言、当局が黙認か****
中国の交流サイト(SNS)は反日感情をあらわにした投稿であふれている。

日本人の蔑称「日本鬼子」や、危害を加えることを宣言する過激な文言も。経済低迷で閉塞感が漂う中、中国当局が対日批判を黙認しガス抜きを図っている可能性がある。

広東省深センで9月18日、日本人学校に通う邦人男児(10)が中国人の男に刺殺される事件が発生。事件後、多くの住民らが学校に献花に訪れ、涙する姿も見られた。

一方でSNSでは日本人学校を「スパイ養成拠点」と見なし「日本の子どもは反中勢力になる」などと根拠のない主張をする書き込みが相次いだ。【12月2日 共同】
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【今回調査対象では最終学歴が「中学校以下」が急増 SNS情報の影響】
中国側で調査に答えた1500人は、75%が中国のニュースメディアから情報を得ており(複数回答可)、このうち「スマホ」経由が昨年の25.8%から55%に上昇、さらに、53.9%はTikTokの中国版「抖音(トウイン)」や微博などのSNSから情報を得ていたとのことで、SNSにおける情報が極めて大きな影響力を持ちます。

SNSでの情報拡散は、日本の兵庫県知事選挙や、ルーマニア大統領選挙第1回投票で、泡沫候補だった極右候補がSNS戦術を駆使して一躍トップに躍り出た・・・といった事案でも注目されています。

更に今回調査では、最終学歴が「中学校以下」が25%と、22年の8%、23年の14%から大幅に比率が上がっているということで、比較的SNS情報を無批判的に受け入れるような傾向があったのかも。

今回調査に限らず、中国ネットユーザーの学歴をみると、“中卒が40.5%、高卒(中等専門学校、技工学校を含む)が21.5%、大卒(短大を含む)以上が18.8%だった。小学校卒業以下も多く、19.2%に達した。”【2020年10月1日 人民網】ということで、SNSにおける情報の受け手は圧倒的に低学歴層が多く、その情報の受け止め方に懸念もあります。

****日中関係改善へ「関係在り方問われる」 世論調査実施のNPO代表****
日中共同世論調査の結果について言論NPOの工藤泰志代表に聞いた。【聞き手・畠山哲郎】
 
今回、中国側の対日意識は全面的に悪化したが、大きなショックを受けたのは、この20年間の調査で一度も6割台が崩れなかった、日中関係を「重要」と思う人が、今回初めて約2割まで落ち込んだことだ。

中国の調査手法は昨年までと全く変わらず、ここまでの意識の悪化は世論構造の修正を意味している。調査を分析すると、日本への渡航歴がある人とそうでない人との意識は断絶し、渡航経験のない人は年代を問わず日本に対する認識が総崩れしている。

中国は米国の大統領選を意識し、米中対立の原因を「米国」だとする人が昨年から倍増した。その米国と日本が連携し、経済安全保障を強め、独自に軍事力を強めているとみている中国国民に「日本が重要ではない」という人が膨らんでいる。SNS(ネット交流サービス)上でこうしたニュースが繰り返され、世論に影響を与えた可能性は高い。

ただ、日中平和友好条約を機能させるため状況を改善しようという声は中国に多く、日中が決裂に向かっているわけではない。

ロシアのウクライナ侵略に対する考え方が日中で大差がないことも調査で判明した。世界が分断に進む中、日中が連携してどのような外交を展開していくのか、日中関係の在り方が問われているのではないか。【10月2日 毎日】
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【渡航歴の有無で分断】
上記で言論NPO代表が指摘しているように、“SNS(ネット交流サービス)上で(日本軽視の)こうしたニュースが繰り返され、世論に影響を与えた可能性は高い”といったSNSによる情報増幅に加え、“渡航歴がある人とそうでない人との意識は断絶し、渡航経験のない人は年代を問わず日本に対する認識が総崩れしている。”という点もあります。

渡航歴の有無による相手国への印象の違いは日本でも同様でしょうが、日本側については、4年8カ月ぶりに短期ビザ免除が再開されることの効果が期待できます。

中国側の印象改善(それは中国当局の意思決定にも影響します)を促すためには、なんだかんだ言ってるより、航空会社・宿泊施設に補助金でも出して日中間の航空運賃、日本でお宿泊費を格安に設定し、どんどん日本に来てもらえばいい。来てもらったら、その多くの印象は大幅に改善し、帰国後にその情報が拡散される・・・と、個人的には考えていれうのですが。

多分、「日本人の血税を中国人の観光旅行のために使うのはけしからん」と怒られるのでしょう。

【今後については、政府間の関係改善の動きの反映に注目】
最近、中国当局もトランプ氏復権を意識して、日中関係改善の方向にあります。習近平国家主席と石破茂首相は11月の会談で海洋放出を巡る日本産水産物の輸入再開について今後着実に実施していくことを確認しています。

そうしたことの影響が注目されます。ただ、中国ではこれまでの政府による情報誘導によって「御鮮魚が怖い」といった放出批判が出来上がっていますので、中国当局の輸入再開に向けた対応は難しいものもあります。

【国際関係では国際協調重視の傾向】
日本関係以外で興味深いところでは、ロシアの侵略への批判も。

****ロシアの侵略に批判も****
一方、世界の紛争や緊張の原因について、中国人では「他国を侵略し核威嚇を行う国連安保理常任理事国を世界が止められないこと」が41%と1位。

ロシアのウクライナ侵略にも「どんな理由であれ他国の領土主権侵略に反対すべきだ」が同25ポイント増の41・3%となった。対日感情の悪化とともに、ロシアの侵略にも批判的な結果となった。【12月2日 産経】
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中国世論について、“国際協調重視に傾いている現状が浮かび上がった”とのこと。

****中国世論、ロシアや北朝鮮を警戒 国際協調に傾斜も日本は軽視****
ロシアや北朝鮮は危険で、日米連携は不快、国際秩序の安定化へ中国が指導力を発揮すべきだ―。日中共同世論調査の結果から、中国人の意識がロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核開発を警戒し、国際協調重視に傾いている現状が浮かび上がった。そうした中で日本の存在感は薄れている。

ロシアの侵攻は「国連憲章や国際法に反する」として反対する中国人は前年比25ポイント増の41.3%に上った。ロシアへの警戒感が日本より中国の方が高いことを示唆する回答もあった。

中国側で、東アジアで軍事紛争が起こり得る地域は南シナ海と朝鮮半島と答えた人がいずれも増えた。北朝鮮の核開発が核戦争のリスクを高めていると考える人は14.7%と微増。

中国政府はロシアや北朝鮮と友好関係を維持しているが、世論は両国に不信感を募らせているようだ。

また中国側回答では軍事的脅威を感じる国について日米を挙げた人が大幅に増えた。8割以上が米中対立の原因は米側にあるとし、6割近くが国際協調が必要とした。【12月2日 共同】
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