◎風花(1959年 日本)
生まれて初めて実物の風花を見たのは、小学生のときだった。
当時、ぼくらの小学校には用務員さんが棲んでいて、
かまどが土間に置かれてて、
給食の食パンをそこで焼いてもらって食べてる子もいたりした。
ぼくはそこまで出来なくて、
朝礼台のうしろ、ていうか、運動場へ下る端っこに立ってる用務員室は、
なんとなく入り辛いところだった。
ま、そんな用務員室が取り壊されて花壇になってしまったのは、
小学3年生だったか、その年の冬、ぼくは朝、花壇の脇に立ってた。
空は真っ青なのに、なんでか知らないけど、雪が真横に飛んでた。
ぼくの頭や肩にはまったく降ってこないで、空に浮かぶ川のように飛んでた。
風花だった。
まあ、そんな思い出話はさておき、
農村メロドラマなんていう括りがあるとは知らなんだ。
けど、たしかに農村メロドラマだ。
とはいえ、デビューまもない和泉雅子の可愛さもさることながら、
岸恵子がとっても好い。
彼女ために木下恵介が書き下ろしたって話だから、
当たり前といえば当たり前かもしれないけど、
信濃川の流れる信州善光寺平を舞台に、
土地の名家である名倉家が没落していく最後の20年間を、
きわめて斬新な編集でまとめてる。
普通、こういう手の作品は、堂々3時間あまりの超大作になって、
観るのも辛くなるような淡々さで描かれていくんじゃないかっておもうんだけど、
さすがに木下恵介はそうしただるさなんて微塵もない。
なんといっても凄いのは、
まったくおなじ構図で人物入れ込みのカットが続くんだけど、
それが20年の歳月をぴしゃんと感じさせる演出と作り込みだ。
これは、ほんとにたいしたもんだ。
それと、
セットはまあ上手に作り込んであるんだけど、
ちょっと目を奪われるのは、名倉家の全景だ。
どこでロケしたんだろうっておもわせるくらい、物語にマッチしてる。
信濃川にかかる半分壊れた下の橋はたぶんロケセットを組んだんだろうけど、
この全景も建て込んだものなんだろうか?
たしかに映されてるのは引きも寄りもおなじ方角からだから、
オープンセットとおもえばおもえないこともないこともないんだけど、
だとしたら、たいしたもんだ。
ちなみに、上の橋は、
千曲川にかかってる長野市若穂の関崎橋らしい。
でも、いまはあんな風情はなくて鉄骨橋梁になってるみたいだ。
残念でならん。