◎セルピコ(Serpico 1973年 アメリカ、イタリア)
アル・パチーノが演じたフランク・セルピコっていう警官は実在してて、
ニューヨーク市警の麻薬課に所属する刑事だった。
当時のニューヨーク市警は汚職が蔓延して腐敗しきっていたみたいだけど、
なんだか、映画で描かれるニューヨーク市警はいつも両極端で描かれるよね。
ま、ともかく、
この頃のニューヨーク市警はことにひどかったみたいだ。
で、そうした腐敗に憤っていたのが正義感のセルピコだったんだけど、
1971年に同僚に撃たれるっていうとんでもない状況になった。
もっとも、
シドニー・ルメットはそこに至るまでのセルピコの内と外を描いてるわけで、
どちらかといえば、
政治的な糾弾に走るよりも、風変わりで一徹なこの刑事について、
いろんな側面から見つめてみたいって感じに見える。
でも、
世の中の不正や悪意を真正面から描くのは、
観客にとってみればけっこう重い。
それより、
どんな正義感でも人間なんだから清濁あわせもってるわけで、
そういう人間像をじっくり追いかける果てに、
社会の不条理や理不尽さをひしひしと感じるように仕立ててくのが、
監督や脚本家の力量なんだろね、たぶん。
もちろん、そこにはアル・パチーノの演技力もある。
賄賂を受け取らず、ひたすら正義を貫こうとすればするほど孤立し、
つぎつぎに分署をたらいまわしにされ、
どんどんと危険な環境に追い込まれるのを見てると、
ほんっとに警察ってところはどうしようもない組織だなっていう憤りが、
自分の中にこみ上げてくるようになるのは、
そうしたシドニー・ルメットやアル・パチーノのちからによるものだろう。
もちろん、そういう状況はどの世界にもあることで、
長いものには巻かれろといわれてもそうできない不器用な人間もたくさんいる。
セルピコは結局、アメリカ社会になじめず、やがてスイスに船出するけど、
故郷を愛するが故に戦ってきたのに、
その故郷から認めてもらえずに捨て去らなくちゃいけないときの気持ちは、
いったいどんなだったんだろう。