◇善魔(1951年 日本)
三國連太郎、デビュー。
作品中の新米記者三國連太郎の役を演じたことで、
そのまま芸名になったという記念すべき作品ながら、
ちょっと中途半端な印象の残る作品な気もするんだよね。
主人公の森雅之がなんとも消化不良な役回りで、
正義感はあるし、社会の矛盾を糾弾しようとしてるのに、
愛人なのか彼女なのかわかんないけど、
ともかくさほど愛しているともおもえない小林トシ子と、
つかずはなれず、粘着感ありありの関係を結び続け、
そのじめじめした性格のとおり、
大学時代に惚れていた淡島千景が官僚の妻になってるのに、
それでも忘れられずにいたところ、
疾走別居とかいうニュースを手にするや、
部下の三國連太郎を遣って取材させるんだけど、
それはなにも官僚のスキャンダルを暴こうとするんじゃなくて、
あくまでも自分のためで、あわよくばモノにしたいような感じが濃厚に漂う。
これが善魔っていうには、あまりにもしょぼいんだけど、
一方、三國連太郎の相手役になる淡島千景の妹役桂木洋子は、
黒澤明の『醜聞』とおんなじで清純無垢かつ病身薄幸の可憐な美少女なんだけど、
彼女が死ぬことがクライマックスにもってきてる以上、
どうしてもこのカップルに物語の比重が掛かってくる。
なんというのか、物語の構成がちょっとまずったんじゃないかって気もするわ。
ただ、岸田國士の原作を読んでないから、
脚本がよくなかったのかどうかってところはよくわからない。
まあ、森雅之が、正義を旗印にしてそのとおりに行動しながらも、
愛欲ばかりはどうにもならないっていう葛藤に苛まれるなら、
もうすこし惹かれるものがあったかもしれないんだけどね。