夕方の営業所前から某住宅地への回送… 否、誰も乗らない某住宅地行き… 車内にも周囲にも人影がないまま発車時刻を迎えた。その時! 左前方からスーツ姿の女性が歩いてきた。
私は「どうせ次のバスだろう」と思いながらも、一応「某住宅地です」と言ったところ… 彼女は乗ってきた。私が思わず「よろしいですか?」と確認すると、彼女は「はい、お願いします」と答えた。
“貸切バス”のまま終点の某住宅地に到着すると、彼女は「“○○13”の乗り場はそこですか?」と言った(○○13というのは系統番号で、○○には駅名が入るのだが… そういう聞き方は珍しい)。某住宅地発の路線はいくつかあるけれど、一つを除いてすべて同じ乗り場なので、私は「はい、そこでいいですよ」と答えた。
私がバスを降車停から待機場所へ移動させると、入れ替わるように乗り場へ△△11系統のバスが… そして、なぜか彼女はそのバスに乗ってしまったのである。私の頭の中では、様々な理由がグルグルと回り始めた。
時計を見ると、そのバスの発車まで1分ほどあったので、私は自分のバスを降りて乗り場へ… 車内後方の左側に座っている彼女を発見… すると、私に気付いた彼女は、少し慌てたように何か話し始めたのだが… 今のバスは窓が開かないのである。
私は「なるほど、分かりました」というように、片手を挙げてそのバスから離れた。実際に彼女が何を言っていたのか分からないけれど、「目的地が○○13でも△△11でも行ける場所だった」か「目的地へ向かうルートを変更した」か「目的地そのものを変更した」か… いずれにせよ、本人が承知の上で乗っていることが分かったので、私も安心した。