バス運転士のち仕分け作業員のち病院の黒子 by松井昌司

2001年に自分でも予想外だったバス運転士になり、2019年に某物流拠点の仕分け作業員に転職、2023年に病院の黒子に…

四十九歳の地図

2013年07月13日 21時17分10秒 | バス運転士

終点が近くなり、乗客も2~3人… 降車ブザーが鳴り、あるバス停に接近&減速… 一人のお婆さんが「そのバスには乗りません」と言うように少し離れた位置に立っていて、バスを見ても動きに変化がなかったので、私は「このバスは、あと2つで終点だし… きっと某地区巡回バスを待っているんだろう」と思った。

しかし、私は「どうせ止まって降車扱いをするんだから…」と、両方の扉を開けてみた。すると、そのお婆さんがジリジリと動き始め… 私が「まさか…」と思っていたら、お婆さんは前扉のところまでやって来て「このバスは○○病院へ行かない?」と言った…

私が「○○病院ですか? え~っと… どのあたりにあったっけかなぁ…」と返答に困っていると、お婆さんは「○○病院が何処にあるか分からないのに… こんなところで降ろされて…」と言ったのである。そんなバカな…

それが事実かどうかも含めて詳細は分からなかったけれど、とりあえず私は「えっ… そうなんですか!? 申し訳ございません…」と謝罪してから「とりあえず終点まで乗って行きませんか?」と言った。○○病院が何処にあったとしても、終点の某所からは複数の系統のバスが出ているので、何とか対応できるだろうと思ったのだ。

私はお婆さんを乗せて発車して「○○病院… 聞き覚えはあるんですけどねぇ… 何処だったっけなぁ…」などと言っていたら、次のバス停の直前で赤信号に引っ掛かった。そこで私は、今の営業所の路線教習時(一年ちょっと前)にもらった資料を元に作った“主な施設をチェックした地図”を取り出してみたところ… すぐに○○病院が見つかったのである。(その地図が初めて役に立った瞬間!)

そこで私が「○○病院ですよねぇ~ やっぱり、さっきのバス停が一番近いみたいですよ。まぁ、次のバス停からでも同じくらいの距離なので、そこから歩いてもらえれば…」と言うと、お婆さんは「どれくらい歩かなきゃいけない?」と言った。それに対して私が「え~っと… 500~600mくらいです」と答えると、お婆さんは「えぇ~!? そんなに??? この暑いのにぃ~!?」と言った…

信号が青になり、交差点を過ぎてすぐのバス停で止まり… 私は、手元の地図と200mくらい先の信号を指差しながら「あの信号を左へ曲がれば○○病院まで行けますよ」と教えたのだが… それまで「はい」「そう」と歯切れの良かったお婆さんが、すぐにバスを降りずに“妙な間”が空いた後… 「それで、そこまで行ってくれんの?」と言いながら、先の交差点を指差したのである。

さすがの私も「はい、できないんですよぉ… すいませんが…」と言うしかなく… お婆さんは薄笑いを浮かべながら降りて行った。これがちょっと昔だったら… 否、今でもちょっと田舎の方へ行けば… 「あぁ、いいですよ」と言って乗せて行くのかもしれないなぁ~ その方が好きだなぁ~ 法律なんて、人の心よりも下のはずなんだけどなぁ… あぁ~嫌だ嫌だ…