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サンローランの広告は、何を伝えようとしているのか?

2017-03-08 19:52:11 | CMウォッチ

サンローランの広告が、物議を呼んでいる。
Huffington Post:サンローランの広告に「レイプ扇動」などと非難殺到、当局が変更を求める

確かに、「一体何を言いたいのかわからない」という、印象を持つ。
なぜなら、肝心のファッションという部分が見えないからだ。
トップに掲載されている広告だけではなく、もう一つの広告も「なんだかな~」という、印象がぬぐえない。
扇動的かどうかは別にして、サンローランらしさは感じられない。
サンローラン側としては、「挑発的な広告を出したかった」ということなのかも知れないが、挑発的という印象でもない。

「挑発的な広告」というのは、これまでにもいろいろあった。
一番「挑発的な広告」と言えば、1980年代末~現在の、ベネトンの広告だろう。
クロ箱Index:オリビエロ・トスカーニによるベネトンの広告
HIV(エイズ)が社会的に問題になり始めた頃、エイズ患者とその家族を撮った広告は「まるで映画・家族の肖像のようだ」と言われた。
その後も、様々な社会問題を積極的に取り上げ、その時の権力や社会を挑発してきた。
この広告を作ったのは、写真家・オリビエ・トスカーニで、広告としては「ベネトン」という企業が社会についてどのように考えているのか?ということを打ち出している広告だった。

個人的に一番センセーショナルだと感じたのは、ボツニア・ヘルツゴビナの内戦で亡くなった青年が着ていた、血まみれのTシャツとパンツだった。
新聞の真ん中2面にわたる大きな広告で、「ファッション企業がなぜ、このような広告を打つのか?」と、考えさせられた広告でもあった。
その後も、黒人女性の胸に抱かれる白人の赤ん坊など、人種差別や社会的弱者にフォーカスした広告を出し続けた。

後付けの解釈になるのだが、「ファッションは、自由でなくてはならない」、「自由は平和な社会の中で生まれる」といったこと、「偏見や権力の中では、自由は失われていく」ということを、受け手に考えさせることを目的としていたように思うのだ。

それに対して、今回のサンローランの広告には「訴える」というモノが感じられない。
何より、サンローランの一番の魅力であるはずの、「エレガントさ」に欠けるような気がするのだ。
この広告を、イヴ・サンローラン自身が見たら、どのような感想を持つのだろう?
イヴ・サンローランが作り出した「ファッションの世界観」は、サンローランの「ブランドイメージ」とも重なっているはずだ。
それが、感じられないのがとても残念に思うのだ。