日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

経済格差が、医療格差を生むかもしれない「新薬」

2018-04-25 11:27:11 | アラカルト

昨日の日経新聞のWEBサイトに、製薬会社・ノバルティスファーマが新しい「がん治療薬」を申請する、という記事が掲載されていた。
日経新聞:ノバルティス、次世代がん治療薬を国内申請

2月に「医療にも経済性が求められるようになる」という内容のエントリをさせていただいたのだが、この時取り上げた「高額な治療薬」が、今回ノバルティスが国内申請をした「次世代がん治療薬」だ。
医療にも「コスト重視」の時代になってくる

ノバルティスが国内申請をしようとしている「キムリア」という、がん治療薬はゲノム(=遺伝子情報)分析をし、CAR細胞という特定の細胞に対する治療薬だ。
現在は小児の「急性白血病」患者さんで、既に骨髄移植をしたがその効果が得られない、という状況にある患者さんに対して、行われている治療でもある。

問題となるのは、その治療薬の薬価だ。
1回の治療に必要な薬価が、5100万円という並外れた高額治療薬なのだ。
1回の治療で家1軒分の価格、という薬価価格を聞くと、「簡単に一般的に使われる治療薬ではないな~」という気がする。
もちろんそれには理由はある。
ゲノムを活用した治療薬である、ということもあるが小児がんを現在対象としている、ということも高額になる理由だろう。
何故なら、子供の病気の中でも小児がんという病気は、とても患者数が少ない反面、小児がんそのものの種類が多いからだ。
圧倒的に患者数が少ない治療薬が、高額になってしまうというのは、市場の「需要と供給のバランス」と考えれば、分かることだろう。
まして、ゲノムを使った治療薬そのものが、研究が始まったばかりの新しい分野だ。
当然のことながら、研究費には膨大な費用が掛かっており、その費用を製薬企業は回収する必要がある。

何よりこのCAR-T細胞治療の凄さは、さまざまな「がん治療」に対する期待がある、ということだ。
これまで早期発見が難しく、治療薬なども少ない「難治がん」と呼ばれるがんへの応用への期待があると、言われているからだ。

おそらく、日本では保険適用+高額医療対象となるため、患者さんの負担はある程度軽減されるはずだが、元々並外れた高額な薬価である、ということを考えれば患者負担も相当額となるだろう。
何より保険適用になることで、社会保障としての医療費の上昇が考えられる。
患者数の増大が懸念されている中での、高額な新薬の申請というのは個人と社会保障という2つの面で、負担が大きい、ということになるのだ。

国内の製薬企業もノバルティスの「キムリア」に代わるCAR-T細胞治療薬の開発に躍起になっている、と言われている。
狙うのは、「誰もが使えるCAR-T細胞治療薬」だ。
「がん」という病気が、「遺伝子の病気(注意したいのは「遺伝の病気」ではないという点だ)」という点で、「がん治療薬の為のゲノム研究」が、これからの創薬の考えを変え、これまで治療が難しかった病気が治るような時代がやってくる、というプラスの面と、研究費の上昇により薬価が高額となり経済格差が医療格差を生む可能性がある、というマイナスの面がある、ということだろう。
そのことを、生活者も理解する時代がすぐそこに来ている、ということでもあると思う。